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審決分類 |
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 D06N 審判 全部無効 2項進歩性 D06N 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 D06N 審判 全部無効 特29条の2 D06N |
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管理番号 | 1204008 |
審判番号 | 無効2008-800287 |
総通号数 | 119 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2009-11-27 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2008-12-18 |
確定日 | 2009-08-13 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3975716号発明「繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物及びそれを用いた人工皮革」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許3975716号の発明は、平成13年10月11日に出願され、平成19年6月29日に特許権の設定登録がなされたものである。 これに対し、請求人から本件無効審判の請求がなされた。審判における手続の経緯は以下のとおりである。 平成20年12月18日 審判請求(請求人) 甲第1ないし10号証提出 平成21年 3月16日 答弁書・訂正請求書(被請求人) 乙第1ないし2号証提出 平成21年 4月27日 弁駁書(請求人) 甲第11ないし13号証提出 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 平成21年3月16日付けの訂正請求は、願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)を訂正請求書に添付された訂正明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるもので、その訂正内容は以下のとおりである。 (以下、平成21年3月16日付けの訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。なお、以下に付した下線は、上記訂正請求により訂正された箇所を示す。) (1) 訂正事項A:本件特許明細書の請求項1に「酸価が5?40であるポリウレタン樹脂」 とあるのを、 「酸価が5?40であるポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオールを用いたポリウレタン樹脂」 と訂正する。 (2) 訂正事項B:本件特許明細書の請求項1に「前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の粒子径が200nm以下であり」 とあるのを、 「前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の動的光散乱法で測定しMARQUADT法で解析した平均粒径が150nm以下であり」 と訂正する。 (3) 訂正事項C:本件特許明細書の請求項1に 「繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物」 とあるのを、 「離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物」 と訂正する。 (4) 訂正事項D:本件特許明細書の請求項2に 「繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物」 とあるのを、 「離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物」 と訂正する。 (5) 訂正事項E:本件特許明細書の請求項3に 「繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物」 とあるのを、 「離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物」 と訂正する。 (6) 訂正事項F:本件特許明細書の請求項4に 「繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物」 とあるのを、 「離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物」 と訂正する。 (7) 訂正事項G:本件特許明細書の請求項5に 「繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物」 とあるのを、 「離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物」 と訂正する。 (8) 訂正事項H:本件特許明細書の請求項6に 「請求項1?5のいずれかに記載の繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を用いた人工皮革。」 とあるのを、 「請求項1?5のいずれかに記載の繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を離型紙に塗布し、水分を蒸発させることにより表皮層を形成し、更にその上に接着剤を塗布し、そのまま繊維基材と貼り合せて水分を蒸発、あるいは水分蒸発後に基材と貼り合せて得られた人工皮革。」 と訂正する。 (9) 訂正事項I:本件特許明細書の段落【0006】に 「即ち、本発明は酸価が5?40であるポリウレタン樹脂で、且つ乳化剤を含有しない水性ポリウレタン樹脂分散体(A)及び該分散体(A)と反応する架橋剤(B)を含有してなり、前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の粒子径が200nm以下であり、かつ前記架橋剤(B)が、ポリイソシアネート化合物(B-1)またはポリカルボジイミド化合物(B-2)であることを特徴とする繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物及びそれを用いた人工皮革を提供するものである。」 とあるのを、 「即ち、本発明は酸価が5?40であるポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオールを用いたポリウレタン樹脂で、且つ乳化剤を含有しない水性ポリウレタン樹脂分散体(A)及び該分散体(A)と反応する架橋剤(B)を含有してなり、前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の動的光散乱法で測定しMARQUADT法で解析した平均粒径が150nm以下であり、かつ前記架橋剤(B)が、ポリイソシアネート化合物(B-1)またはポリカルボジイミド化合物(B-2)である離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物及びそれを用いた人工皮革を提供するものである。」 と訂正する。 (10) 訂正事項J:本件特許明細書の段落【0015】に 「(C)のポリオ-ル化合物」 とあるのを、 「(A-3)のポリオ-ル化合物」 と訂正する。 (11) 訂正事項K:本件特許明細書の段落【0020】に 「(D)の低分子量ポリヒドロキシル化合物」 とあるのを、 「(A-4)の低分子量ポリヒドロキシル化合物」 と訂正する。 (12) 訂正事項L:本件特許明細書の段落【0052】に 「酸価が5?40のポリウレタン樹脂であり、好ましくは粒子径が200nm以下である乳化剤非含有の水性ポリウレタン樹脂分散体(A)」 とあるのを、 「酸価が5?40のポリウレタン樹脂であり、動的光散乱法で測定しMARQUADT法で解析した平均粒径が150nm以下である乳化剤非含有の水性ポリウレタン樹脂分散体(A)」 と訂正する。 (13) 訂正事項M:本件特許明細書の段落【0075】に記載の【表1】、【表2】及び【表3】の粒子径の単位が「粒子径(μm)」とあるのを、「粒子径(nm)」と訂正する。 2 訂正の適否についての判断 (1) 訂正事項Aは、本件特許明細書の段落【0019】における「以上のポリオ-ル化合物のうち、ポリエーテル系ポリオ-ルまたはポリカーボネート系ポリオ-ルが表皮層形成後の耐水性及び耐久性の点で好ましい。」という記載並びに合成例1?2(段落【0059】?【0060】)及び実施例1?8(段落【0063】?【0070】)の記載に基づいて、本件訂正前の請求項1に記載されていた「ポリウレタン樹脂」を「ポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオールを用いたポリウレタン樹脂」に限定するものであるから、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、特許法134条の2で準用する同法126条3項の規定を満たすとともに、同法134条の2第1項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (2) 訂正事項Bは、本件特許明細書の段落【0011】における「本発明にて使用される水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の粒子径は、200nm以下にすることが好ましく、特に好ましくは150nm以下である。・・・ここで言う粒子径とは、レーザー粒径解析システム PAR III(大塚電子株式会社製)により、動的光散乱法で測定し、MARQUADT法で解析した平均粒径:d(nm)の値をいう。」という記載に基づいて、本件訂正前の請求項1に記載されていた「前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の粒子径が200nm以下であり」を「前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の動的光散乱法で測定しMARQUADT法で解析した平均粒径が150nm以下であり」に限定するものであって、特許法134条の2で準用する同法126条3項の規定を満たすとともに、同法134条の2第1項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (3) 訂正事項C?Gは、本件特許明細書の段落【0048】における「本発明の繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物の表皮層形成方法は、従来公知のいずれの方法でもよい。例えば▲1▼離型紙に塗布し、水分を蒸発させることにより表皮層を形成し、更にその上に接着剤を塗布し、そのまま繊維基材と貼り合わせて水分を蒸発、あるいは水分蒸発後に繊維基材と貼り合わせる離型紙転写法・・・等が挙げられるが、表皮層の性能面より離型紙転写法が最も好ましい。」という記載及び実施例1?8の記載に基づいて、本件訂正前の請求項1に記載されていた「繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物」を「離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物」に限定するものであって、特許法134条の2で準用する同法126条3項の規定を満たすとともに、同法134条の2第1項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (4) 訂正事項Hは、本件特許明細書の段落【0048】における「本発明の繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物の表皮層形成方法は、従来公知のいずれの方法でもよい。例えば▲1▼離型紙に塗布し、水分を蒸発させることにより表皮層を形成し、更にその上に接着剤を塗布し、そのまま繊維基材と貼り合わせて水分を蒸発、あるいは水分蒸発後に繊維基材と貼り合わせる離型紙転写法・・・等が挙げられるが、表皮層の性能面より離型紙転写法が最も好ましい。」という記載及び実施例1?8(段落【0063】?【0070】)の記載に基づいて、本件訂正前の請求項6に記載されていた「繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を用いた人工皮革」を「繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を離型紙に塗布し、水分を蒸発させることにより表皮層を形成し、更にその上に接着剤を塗布し、そのまま繊維基材と貼り合せて水分を蒸発、あるいは水分蒸発後に基材と貼り合せて得られた人工皮革」に限定するものであって、特許法134条の2で準用する同法126条3項の規定を満たすとともに、同法134条の2第1項ただし書1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 (5) 訂正事項Iは、前記訂正事項A及びBによる訂正に伴い、その訂正と関連する本件特許明細書の段落【0006】の記載を、訂正された特許請求の範囲の記載に整合させるもので、本件特許明細書の記載を明りょうにしたものであって、特許法134条の2で準用する同法126条3項の規定を満たすとともに、同法134条の2第1項ただし書3号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 (6) 訂正事項Jは、願書に最初に添付した明細書及び本件特許明細書の段落【0012】における「数平均分子量が300?10000のポリオ-ル化合物(A-3)」という記載に基づいて、本件特許明細書の段落【0015】の「(C)のポリオ-ル化合物」を「(A-3)のポリオ-ル化合物」に補正するもので、本件特許明細書の誤記を訂正したものであって、特許法134条の2で準用する同法126条3項の規定を満たすとともに、同法134条の2第1項ただし書2号に規定する誤記の訂正を目的とするものに該当する。 (7) 訂正事項Kは、願書に最初に添付した明細書及び本件特許明細書の段落【0012】における「低分子量ポリヒドロキシル化合物(A-4)」という記載に基づいて、本件特許明細書の段落【0020】の「(D)の低分子量ポリヒドロキシル化合物」を「(A-4)の低分子量ポリヒドロキシル化合物」に補正するもので、本件特許明細書の誤記を訂正したものであって、特許法134条の2で準用する同法126条3項の規定を満たすとともに、同法134条の2第1項ただし書2号に規定する誤記の訂正を目的とするものに該当する。 (8) 訂正事項Lは、前記訂正事項Bによる訂正に伴い、その訂正と関連する本件特許明細書の段落【0052】の記載を、訂正された特許請求の範囲の記載に整合させるもので、本件特許明細書の記載を明りょうにしたものであるから、特許法134条の2第1項ただし書3号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 (9) 訂正事項Mは、粒子系の単位をnmで表記している特許請求の範囲の請求項1及び実施例1?8(段落【0063】?【0070】)等の記載に基づいて、本件特許明細書の段落【0075】に記載の【表1】、【表2】及び【表3】の粒子径の単位が「粒子径(μm)」とあるのを「粒子径(nm)」と訂正したものであって、特許法134条の2で準用する同法126条3項の規定を満たすとともに、同法134条の2第1項ただし書2号に規定する誤記の訂正を目的とするものに該当する。 (10) そして、訂正事項A?Mに係る訂正は、何れも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (11) 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法134条の2第1項1号ないし3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条5項で準用する同法126条3項及び4項の規定を満たすものである。 よって、本件訂正を認める。 第3 本件発明 平成21年3月16日付けの訂正請求は以上のとおり適法と認められるから、本件請求項1ないし請求項6に係る発明は、本件訂正明細書の特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。(以下、請求項の番号に応じて「本件訂正発明1」などといい、これらをまとめて単に「本件訂正発明」ということがある。) 「【請求項1】 酸価が5?40であるポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオールを用いたポリウレタン樹脂で、且つ乳化剤を含有しない水性ポリウレタン樹脂分散体(A)及び該分散体(A)と反応する架橋剤(B)を含有してなり、前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の動的光散乱法で測定しMARQUADT法で解析した平均粒径が150nm以下であり、かつ前記架橋剤(B)が、ポリイソシアネート化合物(B-1)またはポリカルボジイミド化合物(B-2)である離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物。 【請求項2】 水性ポリウレタン樹脂分散体(A)と架橋剤(B)が反応してなる樹脂の流動開始温度が140℃以上である請求項1に記載の離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物。 【請求項3】 会合型増粘剤(C)を含有する請求項1または2に記載の離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物。 【請求項4】 レベリング剤(D)を含有する請求項1?3のいずれかに記載の離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物。 【請求項5】 架橋剤(B)が有機溶剤を含有せず、水性ポリウレタン樹脂分散体(A)に分散性を有する化合物あるいはその水分散体からなる請求項1?4のいずれかに記載の離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物。 【請求項6】 請求項1?5のいずれかに記載の繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を離型紙に塗布し、水分を蒸発させることにより表皮層を形成し、更にその上に接着剤を塗布し、そのまま繊維基材と貼り合せて水分を蒸発、あるいは水分蒸発後に繊維基材と貼り合せて得られた人工皮革。」 第4 請求人の主張の要点 1 請求人は、本件訂正発明1ないし6についての特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として、審判請求書に添付して甲第1ないし10号証及び平成21年4月27日付け弁駁書に添付して甲第11ないし13号証を提出し、概略、以下の無効理由1ないし4の主張をしているものと認められる。 (1) 無効理由1 本件訂正発明1ないし6は、先願である特願2001-35425号の願書に最初に添付した明細書(甲第1号証参照。以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であり、しかも本件訂正発明1ないし6の発明者が先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また本願の出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一であるとも認められないから、本件訂正発明1ないし6は特許法29条の2の規定により特許を受けることができないので、本件訂正発明1ないし6に係る特許は、同法123条1項2号に該当し、無効とされるべきものである。 (2) 無効理由2 本件訂正発明1ないし6は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開平6-16997号公報(甲第2号証)に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないので、本件訂正発明1ないし6に係る特許は、同法123条1項2号に該当し、無効とされるべきものである。 (3) 無効理由3 本件訂正発明1ないし6は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第2号証(審決注.主引例)に記載された発明及び甲第3?13号証(審決注.副引例)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本件訂正発明1ないし6に係る特許は、同法123条1項2号に該当し、無効とされるべきものである。 (4) 無効理由4 本件訂正発明1ないし6に係る特許に関する特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」とはいえないから、特許法36条6項1号の規定に適合しないので、本件訂正発明1ないし6に係る特許は、同法123条1項4号に該当し、無効とされるべきものである。 2 請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。 甲第1号証 特願2001-35425号(特開2002-235027号公報) 甲第2号証 特開平6-16997号公報 甲第3号証 「セミナーテキスト」(平成12年9月20日(水)13:00?17:00、[東京・御茶の水]中央大学駿河台記念館3F350号室)、表紙、表題、目次、1頁、18?19頁、28?31頁及び34?37頁 甲第4号証 特開平9-31861号公報 甲第5号証 「水性塗料用架橋剤」と題する資料(日清紡のホームページより引用。URL:http://www.nisshinbo.co.jp/field/chemical/carbodilite/water.html) 甲第6号証 特開昭63-15816号公報 甲第7号証 特開昭63-154720号公報 甲第8号証 特開昭63-256651号公報 甲第9号証 特開平9-158056号公報 甲第10号証 特開平10-204782号公報 甲第11号証 「加工技術 2001年6月号」(株式会社繊維社,2001年6月10日発行),Vol.36,No.6(2001),350?354頁 甲第12号証 「加工技術 2001年6月号」(株式会社繊維社,2001年6月10日発行),Vol.36,No.6(2001),358?361頁 甲第13号証 「日本接着学会誌」Vol.26,No.11(1990),430?438頁 第5 被請求人の反論の要点 1 請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として、答弁書に添付して乙第1ないし2号証を提出した。 2 被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。 乙第1号証 「平成12年9月のセミナーについて」と題する、DIC株式会社 某に対する、株式会社技術情報協会 某からの文書 乙第2号証 「実験成績証明書」(平成21年3月9日付け、作成者:DIC株式会社 堺工場 樹脂第2技術本部 ウレタン技術1G 千代延一彦) 第6 甲各号証の記載内容 甲各号証には、以下の事項が記載されている。 1 甲第1号証 特願2001-35425号(特開2002-235027号公報) (1-a) 「【請求項1】オレフィン系樹脂(A)及び/またはウレタン系樹脂(B)と、アミノ樹脂(C)、尿素系化合物(D)及びカルボジイミド系樹脂(E)から選ばれる少なくとも1種の改質剤とを含有する水性塗工材。」(特許請求の範囲、請求項1) (1-b) 「【発明の属する技術分野】本発明はオレフィン系樹脂及び/またはウレタン系樹脂と、アミノ樹脂、尿素系化合物及びカルボジイミド系樹脂から選ばれる少なくとも1種の改質剤を含む水性塗工材に関する。更に詳しくは、耐擦過性、柔軟性、非タック性、耐水性、耐寒性、無臭性、難燃性、塗工性、軽量性等の性能に優れた皮膜を提供する事が可能な水性塗工材に関する。また、本発明は、建築現場で用いられるネット、メッシュ、シート、地盤補強用ネット、テント倉庫やパイプテント等の屋外テント、トラックやジャバラ等の幌、帆布、手袋、旗、垂れ幕、衣類、履き物、家具、鞄、生理用品、圧着再剥離性シート等に代表される、繊維、皮革、紙、合成樹脂等の基材の風合い、表面保護向上を目的とした皮膜形成物を提供する事を目的とし、かつ焼却時に有害なハロゲン化合物を発生しない樹脂の水分散体からなる水性塗工材に関する。また、本発明は、上記本発明の水性塗工材から形成された皮膜を有する塗工品に関する。更に詳しくは、本発明の水性塗工材から形成された皮膜を有するネット、メッシュ、シート、帆布、幌、手袋、旗、垂れ幕、衣類等の塗工品に関する。」(段落【0001】) (1-c) 「本発明に改質剤として使用されるカルボジイミド系樹脂(E)は、特に制限されるものではないが、ジイソシアナートの炭酸縮合反応によって合成される線状ポリカルボジイミドであることが好ましい。」(段落【0021】) (1-d) 「本発明に使用されるウレタン系樹脂(B)を構成する成分である、多官能イソシアネート化合物としては、例えばエチレンジイソシアネート、・・・等が挙げられる。」(段落【0066】) (1-e) 「多官能イソシアネート化合物と反応し得る活性水素基を、1分子中に、少なくとも2個有する活性水素化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。 ポリオール化合物:・・・ポリエステルポリオール、・・・、ポリエーテルポリオール、・・・、ポリカーボネートポリオール、・・・等が挙げられる。」(段落【0069】?【0070】) (1-f) 「上記のカルボキシル基および/またはスルホニル基含有化合物を用いる際の好ましい量は、水性ポリウレタン樹脂の固形分換算における酸価が3?30KOHmg/g、より好ましくは3?25KOHmg/g、さらに好ましくは5?20KOHmg/gの範囲内である。上記酸価の範囲未満であると、樹脂の機械的安定性、水性オレフィン系樹脂成分との混和安定性に劣る傾向がある。また、酸価が30KOHmg/gを超えると得られた皮膜の風合いが低下する傾向がある。ここで、酸価の測定方法は例えば日本工業規格JIS K5400等に開示されている。」(段落【0075】) (1-g) 「更に本発明では、水性塗工材の溶液粘度を上記範囲に調整するために、粘弾性調整剤を使用することができる。粘弾性調整剤は、特に制限されるものではないが、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、等のアクリル樹脂系粘弾性調整剤、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキサイド等のポリエーテル系粘弾性調整剤、ポリエステル系粘弾性調整剤、ポリウレタン系粘弾性調整剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系粘弾性調整剤、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(N-ビニルアセトアミド)等の有機粘弾性調整剤、二酸化ケイ素、活性白土、ベントナイト、炭酸カルシウム等の無機粘弾性調整剤を使用することができる。」(段落【0091】) (1-h) 「本発明の水性塗工材を塗布する基体としては特に制限されるものではないが、例えば木綿などに代表される天然繊維、更にポリエステル、ナイロン等に代表される合成繊維、皮革、合成皮革、合成樹脂、紙、フィルム等が挙げられるが、この他にも例えば特定の型に塗工材を塗布、乾燥後得られたフィルムを再度型から脱着し得る用途にも用いる事が可能である。」(段落【0094】) (1-i) 「前記化合物以外にも、必要に応じて、滑性付与剤(合成ワックス、天然ワックス等)、防錆剤、防かび剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、発泡剤、消泡剤、染料、補助バインダー、レベリング剤、チクソトロピー付与剤、消泡剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、減粘剤、顔料(たとえばチタン白、ベンガラ、フタロシアニン、カーボンブラック、パーマネントイエロー等)、充填剤(たとえば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、タルク、水酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、カオリン、雲母、アスベスト、マイカ、ケイ酸カルシウム等)などの添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で添加することができる。」(段落【0097】) (1-j) 「(製造例) (A)水性オレフィン系樹脂の製造例 1.エチレン-極性モノマー共重合体、及び脂肪酸化合物からなる水性分散体の製造 ・・・得られた水性分散体の平均粒径は、マイクロトラックで測定したところ、0.6μmであった。」(段落【0103】) (1-k) 「2.オレフィン系エラストマー樹脂及び脂肪酸化合物からなる水性分散体の製造 ・・・得られた水性分散体の分散粒子の平均粒径は、マイクロトラックで測定したところ、0.6μmであった。」(段落【0104】?【0105】) (1-l) 「(B)水性ウレタン系樹脂の製造例 温度計、撹拌機、窒素導入管、冷却管を備えた3000mlの4つ口フラスコに、PTG 2000SN(保土ヶ谷化学工業株式会社製、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、分子量2000)を399.5g、2,2-ジメチロールブタン酸21.0g、1,4-ブタンジオール12.4g、ヘキサメチレンジイソシアネート96.3g、およびメチルエチルケトン374.0gを仕込み、窒素ガス雰囲気下90℃で6時間反応させた。その後、60℃迄冷却し、トリエチルアミン13.3gを添加し、この温度下で30分混合させた。得られたプレポリマーを0.86%ヘキサメチレンジアミン水溶液1275.7gと混合攪拌し、その後60℃で減圧下メチルエチルケトンを脱溶剤することにより、固形分30%、固形分酸価15KOHmg/g、pH7.8、平均粒径0.2μmの水性ウレタン系樹脂(B-1)を得た。」(段落【0106】) (1-m) 「(E)水性カルボジイミド系樹脂 水性カルボジイミド系樹脂(E-1)として、カルボジライトE-01(日清紡製、固形分濃度40%、カルボジイミド当量425)を使用した。」(段落【0109】) (1-n) 「繊維加工物の製造 前記方法で製造した各水性塗工材を、ポリエステル繊維で構成された基布に、乾燥後の膜厚が平均120μmとなるようにアプリケーターで塗布し、その後120℃で3分間乾燥させ皮膜形成物を製造した。」(段落【0111】) 2 甲第2号証 特開平6-16997号公報 (2-a) 「【請求項1】2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分としてラジカル重合させて得られる片末端ポリヒドロキシマクロモノマー(A)と、ポリイソシアネート(B)とを必須成分として反応せしめたポリウレタン樹脂を水性媒体中に分散したことを特徴とする水性コーティング剤。」(特許請求の範囲、請求項1) (2-b) 「【産業上の利用分野】本発明は、水性コーティング剤に関する。更に詳しくは、表面滑性、耐摩耗性、耐ブロッキング性に優れる水性コーティング剤に関する。 【従来の技術】従来ポリエステルフィルムの表面機能を改質する目的で各種水性コーティング剤が使用されており、その中で表面滑性を付与する目的でポリウレタン樹脂等の水性樹脂と、コロイダルシリカ等の無機粒子あるいはシリコーンエマルジョンをブレンドしてコーティングすることが知られている。 【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記したコーティング剤は、皮膜の透明性が悪かったり、経時でシリコーンオイルが塗膜の表面にブリードしてきたり、そのため表面滑性や耐摩耗性の持続性が極めて悪く、また基材に対する接着性も悪くなるという欠点があった。」(段落【0001】?【0003】) (2-c) 「【課題を解決するための手段】本発明者等は上記実状に鑑みて鋭意検討したところ、側鎖にポリオルガノシロキシル基を有するポリウレタン樹脂水性分散液をコーティング剤として用いれば、単純に混合したエマルジョンから得られる皮膜に比べて、格段に透明性に優れ、シリコーンのブリードもなく、その皮膜は表面滑性や耐摩耗性の持続性に優れ、なおかつ基材に対する密着性にも優れていることを見いだし、本発明を完成するに至った。」(段落【0004】) (2-d) 「本発明のシリコーン鎖含有マクロモノマー(A)の製造方法としては、従来公知の方法が適用でき、例えば、前記2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下で、前記(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分とするラジカル重合性不飽和単量体を、必要に応じて重合触媒を使用してラジカル重合させて得られる。」(段落【0013】) (2-e) 「本発明で用いられるポリイソシアネート(B)としては、例えば2,4-トリレンジイソシアネート、・・・等が挙げられる。」(段落【0015】) (2-f) 「本発明のポリウレタン水性分散体の製造において用いられるイソシアネート基と反応し得るその他の活性水素含有化合物は、便宜上平均分子量300?10,000好ましくは500?5,000の高分子量化合物と、分子量300以下の低分子量化合物に分けられる。 上記高分子量化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール等が挙げられる。」(段落【0016】?【0017】) (2-g) 「本発明のポリウレタン樹脂あるいは末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーに親水性基を導入するために用いられる原料としては、例えば、分子内に少なくとも1個以上の活性水素原子を有し、かつカルボン酸の塩、スルホン酸の塩、カルボン酸基、スルホン酸基、からなる群から選ばれる少なくとも一つの官能基を含有する基本的にイオン性を有する化合物、あるいは分子内に少なくとも1個以上の活性水素原子を有し、かつエチレンオキシドの繰り返し単位からなる基、エチレンオキシドの繰り返し単位とその他のアルキレンオキシドの繰り返し単位からなる基を含有するノニオン性の化合物が挙げられる。これらの親水性基の内で、特にカルボン酸基及びカルボン酸の塩からなるアニオン性基及び/またはエチレンオキサイドの繰り返し単位を含有するノニオン性基が好ましい。」(段落【0023】) (2-h) 「本発明で用いられる水性ポリウレタン樹脂を製造するに際しての、分子内に結合した親水性基の含有量は、親水性基がカルボキシル基、スルホン酸基等のイオン性基の場合は、最終的に得られるポリウレタン樹脂固形分100重量部当り少なくとも0.005?0.2当量好ましくは0.01?0.1当量必要であるが、特にカルボキシル基の親水性基が好ましい。」(段落【0025】) (2-i) 「かくして得られた本発明の水性ポリウレタン樹脂は、そのまま単独で、あるいは他の水分散体、例えば・・・系の水分散体と任意の割合で配合して本発明の水性コーティング剤として使用することができる。また上記水分散体に加えて、・・・塗工適性を改善する目的でフッ素系のレベリング剤、ジアルキルスルホサクシネート系等の乳化剤、アセチレングリコール誘導体等の各種レベリング剤を配合しても構わない。・・・また上記水分散体の耐光性、耐熱性、耐水性、耐溶剤性等の各種耐久性を改善する目的で酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤等の安定剤をポリウレタン樹脂水性分散体の製造工程中か、その製造後に添加し、或いはまたエポキシ樹脂、メラミン樹脂、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、ポリカルボジイミド化合物等の架橋剤をそれに配合して使用することもできる。」(段落【0035】) (2-j) 「実施例1 分子量 1,000のポリブチレンアジペートジオール1017部、平均分子量5,000の本発明のマクロモノマー[チオグリセリンの存在下にメチルメタクリレートとメタクリロキシプロピルポリジメチルシロキサン(チッソ株式会社製のサイラプレーンFM-0721、分子量5000)を6/4(重量比)で共重合した片末端ジオール基を有するオリゴマー]302.5部、ジメチロールプロピオン酸144部、ネオペンチルグリコール36.2部、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート917部、オクチル酸第一スズ0.6部、メチルエチルケトン1007部、N-メチルピロリドン604部を混合して75℃において8時間反応してイソシアネート末端のプレポリマーを得た。このプレポリマー溶液中にトリエチルアミン108.5部を加えて中和し、水7166部を撹拌下徐々に滴下して乳化させた後、イソホロンジアミン85部を含む水溶液425部を投入し、IRにてイソシアネート基の吸収が見られなくなるまで攪拌して反応を完結させる。更に減圧下メチルエチルケトンを蒸留して除き、固形分濃度30%の水性ポリウレタン樹脂を得た。この水性ポリウレタン樹脂を125μのPETフィルム上に乾燥時の膜厚が50μになるように塗布して80℃で乾燥してウレタンフィルムを得た。この皮膜は透明でヘイズ90%であり、摩擦係数は0.11で、500回以上の摩耗に耐えることができた。 比較例1 実施例1のマクロマーを除いた以外は同様にしてシリコーン鎖を含有しない水性ウレタン樹脂を合成した。 分子量 1,000のポリブチレンアジペートジオール1348部、ジメチロールプロピオン酸144部、ネオペンチルグリコール8.1部、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート917部、オクチル酸第一スズ0.6部、メチルエチルケトン1007部、N-メチルピロリドン604部を混合して75℃において8時間反応してイソシアネート末端のプレポリマーを得た。このプレポリマー溶液中にトリエチルアミン108.5部を加えて中和し、水7166部を撹拌下徐々に滴下して乳化させた後、イソホロンジアミン85部を含む水溶液425部を投入し、IRにてイソシアネート基の吸収が見られなくなるまで攪拌して反応を完結させる。更に減圧下メチルエチルケトンを蒸留して除き、固形分濃度30%の水性ポリウレタン樹脂を得た。この水性ポリウレタン樹脂100部に対して市販のポリジチルシロキサンのシリコーンエマルジョン(固形分30%)を5部配合して実施例1と同様に125μのPETフィルム上に乾燥時の膜厚が50μになるように塗布して80℃で乾燥してウレタンフィルムを得た。この皮膜は透明でヘイズ65%であり、摩擦係数は0.56で、100回の摩耗で皮膜に亀裂がはいってしまった。」(段落【0036】?【0037】) (2-k) 「実施例2 分子量 2,000のポリエステル(エチレングリコール/ネオペンチルグリコール/イソフタル酸/アジピン酸)1149部、分子量2,000の本発明のマクロモノマー[チオグリセリンの存在下にメチルメタクリレートとメタクリロキシプロピルポリジメチルシロキサン(チッソ株式会社製のサイラプレーンFM-0711、分子量1000)を7/3(重量比)で共重合した片末端ジオール基を有するオリゴマー]244.5部、ジメチロールプロピオン酸98.3部、3-メチルペンタンジオール8.3部、イソホロンジイソシアネート333部、メチルエチルケトン1833部、ジブチルチンジラウレート0.9部を混合して75℃において18時間反応してウレタン化を行った後、25%安水16.6部を加えて中和し、水5483部を攪拌下徐々に滴下して乳化させた後、更に減圧下メチルエチルケトンを蒸留して除き、固形分濃度30%の水性ポリウレタン樹脂を得た。この水性ポリウレタン樹脂を125μのPETフィルム上に乾燥時の膜厚が50μになるように塗布して80℃で乾燥してウレタンフィルムを得た。この皮膜は透明でヘイズ92%であり、摩擦係数は0.12で、500回以上の摩耗に耐えることができた。 実施例3 分子量 2,000のポリカプロラクトンジオール921部、分子量6,000の本発明のマクロモノマー[チオグリセリンの存在下にメチルメタクリレートとメタクリロキシプロピルポリジメチルシロキサン(チッソ株式会社製のサイラプレーンFM-0721)を6/4(重量比)で共重合した片末端ジオール基を有するオリゴマー]296.4部、ジメチロールプロピオン酸147.3部、1,4-ブタンジオール35.2部、イソホロンジイソシアネート578部、オクチル酸第一スズ0.4部、メチルエチルケトン1318部を混合して75℃において6時間反応してイソシアネート基末端のプレポリマーを合成した後、トリエチルアミン110.9部、100%水和ヒドラジン24部を溶解した水溶液6114部中に撹拌下滴下し、IRにてイソシアネート基の吸収が見られなくなるまで攪拌して反応を完結させる。引続き減圧下メチルエチルケトンを蒸留して除き、固形分濃度30%の水性ポリウレタン樹脂を得た。この水性ポリウレタン樹脂を125μのPETフィルム上に乾燥時の膜厚が50μになるように塗布して80℃で乾燥してウレタンフィルムを得た。この皮膜は透明でヘイズ90%であり、摩擦係数は0.10で、500回以上の摩耗に耐えることができた。」(段落【0037】) (2-l) 「【発明の効果】本発明により得られる水性コーティング剤は、従来のシリコーンエマルジョンをポリウレタンエマルジョンにブレンドしていたものに比べ、シリコーン鎖を直接ポリウレタン骨格に共重合しているため、経時的にシリコーン成分がブリードすることもなく、耐久性、持続性に優れた表面滑性、耐摩耗性、耐ブロッキング性を付与することができる。 また本発明の水性コーティング剤は、シリコーン鎖をポリウレタン骨格の側鎖に局在下させているため、シリコーンを後添加する場合に比べて、固形分に換算しても、従来より少量の共重合で充分な表面機能性を付与でき、ポリウレタン樹脂本来の持っている特性、例えば各種基材に対する密着性、透明性、皮膜強度、耐水性、耐溶剤性を損なう事なくバランスよく兼ね備えた水性コーティング剤を提供できる。」(段落【0038】?【0039】) (2-m) 「かくして得られた本発明の水性コーティング剤は、ポリエステル、ナイロン、塩ビ、ABS、OPP、CPP等の各種プラスチックのフィルムやシートのプライマーコート剤、トップコート剤あるいは水性グラビアインキのベースポリマーとして、鉄板、鋼板、アルミニウム板等の各種金属板の表面被覆剤として、感熱紙等の各種機能紙のトップコート剤として、あるいは各種織物、天然皮革、人工皮革、合成皮革、木材等の塗料、表面被覆剤、水性グラビアインキ等に有用である。」(段落【0040】) (甲第3号証以下の摘記は省略する。) 第7 当審の判断 1 無効理由1について (1) 先願明細書に記載された発明 先願明細書には「オレフィン系樹脂(A)及び/またはウレタン系樹脂(B)と、アミノ樹脂(C)、尿素系化合物(D)及びカルボジイミド系樹脂(E)から選ばれる少なくとも1種の改質剤とを含有する水性塗工材。」(摘示(1-a))に関する発明が記載されており、また、「本発明に使用されるウレタン系樹脂(B)を構成する成分である、多官能イソシアネート化合物としては、例えばエチレンジイソシアネート、・・・等が挙げられる。」(摘示(1-d))こと、「多官能イソシアネート化合物と反応し得る活性水素基を、1分子中に、少なくとも2個有する活性水素化合物としては、例えば、以下のものが挙げられる。ポリオール化合物:・・・ポリエステルポリオール、・・・、ポリエーテルポリオール、・・・、ポリカーボネートポリオール、・・・等が挙げられる。」(摘示(1-e))こと、「上記のカルボキシル基および/またはスルホニル基含有化合物を用いる際の好ましい量は、水性ポリウレタン樹脂の固形分換算における酸価が3?30KOHmg/g・・・の範囲内である。」(摘示(1-f))こと、「(B)水性ウレタン系樹脂の製造例」の項では、ポリテトラメチレンエーテルグリコール及び2,2-ジメチロールブタン酸を含む製造原料を用いて「平均粒径0.2μmの水性ウレタン系樹脂(B-1)を得た。」(摘示(1-l))こと、「水性カルボジイミド系樹脂(E-1)として、カルボジライトE-01(日清紡製、固形分濃度40%、カルボジイミド当量425)を使用した。」(摘示(1-m))こと、及び「前記方法で製造した各水性塗工材を、ポリエステル繊維で構成された基布に、乾燥後の膜厚が平均120μmとなるようにアプリケーターで塗布し、その後120℃で3分間乾燥させ皮膜形成物を製造した。」(摘示(1-n))こと、が記載されている。 してみると、先願明細書には、 「酸価が3?30KOHmg/gであるポリテトラメチレンエーテルグリコールを用いたウレタン系樹脂で、且つ水性ウレタン系樹脂分散体及び改質剤を含有してなり、前記水性ウレタン系樹脂分散体の平均粒径が0.2μmであり、かつ前記改質剤が、カルボジイミド系樹脂である、ポリエステル繊維で構成された基布にアプリケーターで塗布する皮膜形成用水性塗工材。」 の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 (2) 本件訂正発明1と甲1発明との対比 甲1発明における「ウレタン系樹脂」、「水性ウレタン系樹脂分散体」、「0.2μm」、「カルボジイミド系樹脂」、「ポリエステル繊維で構成された基布にアプリケーターで塗布する皮膜形成用」は、それぞれ、本件訂正発明1における「ポリウレタン系樹脂」、「水性ポリウレタン系樹脂分散体(A)」、「200nm」、「ポリカルボジイミド化合物(B-2)」、「繊維積層体表皮層形成用」に対応する。 また、「カルボジイミド系樹脂」は、周知の架橋剤であって、カルボキシル基(カルボン酸)と反応することも周知である(例えば、甲第3号証29頁の表、下から2欄)ところ、先願明細書の「(B)水性ウレタン系樹脂の製造例」の項では、2,2-ジメチロールブタン酸を含む製造原料を用いて水性ウレタン系樹脂を製造しているので、甲1発明における水性ウレタン系樹脂分散体はカルボキシル基(カルボン酸)を含むことが明らかであるから、甲1発明における改質剤である「カルボジイミド系樹脂」はウレタン系樹脂と反応する架橋剤(本件訂正発明1にいう「架橋剤(B)」)として用いられているものと認められる。 さらに、先願明細書の「(B)水性ウレタン系樹脂の製造例」(摘示(1-l))の項では、乳化剤を用いていないので、得られた水性ウレタン系樹脂は乳化剤を含有しないものであることは明らかである。 以上を考慮して、本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、 「酸価が5?30であるポリエーテル系ポリオールを用いたポリウレタン樹脂で、且つ乳化剤を含有しない水性ポリウレタン樹脂分散体(A)及び該分散体(A)と反応する架橋剤(B)を含有してなり、かつ前記架橋剤(B)が、ポリカルボジイミド化合物(B-2)である繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物。」 の点で一致するが、以下のア及びイの点で一応相違すると認められる。 ア 水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の平均粒径について、本件訂正発明1が「動的光散乱法で測定しMARQUADT法で解析した平均粒径が150nm以下」であるのに対し、甲1発明は「平均粒径が200nm」である点 イ 繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物について、本件訂正発明1が「離型紙転写法に用いる」と規定しているのに対し、甲1発明では特にそのような規定がなされていない点 (以下、これらの相違点をそれぞれ「相違点ア」及び「相違点イ」という。) (3) 相違点についての判断 ア 相違点アについて 先願明細書には「(B)水性ウレタン系樹脂の製造例」の項において「平均粒径0.2μmの水性ウレタン系樹脂(B-1)を得た。」(摘示(1-l))こと、すなわち水性ウレタン系樹脂(水性ポリウレタン樹脂分散体(A))の「平均粒径が200nm」であること、が記載されているが、水性ウレタン系樹脂(水性ポリウレタン樹脂分散体(A))の平均粒径に関しては、先願明細書にはこれ以外の記載ないし示唆は全く存在しない。 そして、「平均粒径が200nm」と「平均粒径が150nm以下」とは明らかに相違しているとともに、本件特許の出願時における技術常識を参酌しても、甲1発明に関する「平均粒径が200nm」との記載が「平均粒径が150nm以下」と記載されているに等しいと認め得るに足る証拠は存在しない。 してみると、相違点アは実質的な相違点であると認められる。 (なお、平均粒子径(平均粒径)を動的光散乱法で測定しマルカット(MARQUADT)法で解析することは周知慣用の技術手段である(必要なら、例えば、国際公開第97/41894号パンフレット12?13頁及び特開平11-240836号公報11頁参照。)し、しかも本件訂正発明1が「動的光散乱法で測定しMARQUADT法で解析した」ことで、他の測定法や解析法を用いた場合とは異なる結果を得たものとも認められないので、本件訂正発明1における「動的光散乱法で測定しMARQUADT法で解析した」と規定する部分が実質的な相違点であるとは認められない。) イ 相違点イについて (ア) まず、本件訂正明細書には,以下の記載がある。 「本発明の繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物の表皮層形成方法は、従来公知のいずれの方法でもよい。例えば▲1▼離型紙に塗布し、水分を蒸発させることにより表皮層を形成し、更にその上に接着剤を塗布し、そのまま繊維基材と貼り合わせて水分を蒸発、あるいは水分蒸発後に繊維基材と貼り合わせる離型紙転写法・・・」(【0048】) してみると、本件訂正明細書の記載からみて、「離型紙転写法」とは、「離型紙に塗布し、水分を蒸発させることにより表皮層を形成し、更にその上に接着剤を塗布し、そのまま繊維基材と貼り合わせて水分を蒸発、あるいは水分蒸発後に繊維基材と貼り合わせる」方法をいうものと認められる。 (イ) 次に、本願出願前に発行された業界専門誌(「加工技術」)において、「特集 人工皮革(合成皮革)の新展開」という特集のうちの一つとして掲載された甲第11号証は、「人工皮革・合成皮革用ポリウレタン樹脂」と題する報文で、その354頁には「(1)水系ポリウレタン樹脂による人工皮革処理例」の項目のもと、「マル1不織布への含浸加工」(審決注.「マル1」は丸印が付された数字の1を示す。以下同様。)として、ハイドランWLI-602等を含む組成物、及び当該組成物の下に「・基材:ポリエステル不織布」との記載がある。 またその下に「マル2乾式ラミネート加工」として、「表皮層」たるハイドランWLS-202及びハイドランアシスターC1(架橋剤)等を含む組成物、並びに当該組成物に関する「・塗工:離型紙上120μm」、「・乾燥:70℃→120℃(1?2分)」との記載がある。 さらにその下に、「接着層」たるハイドランWLA-301等を含む組成物、並びに当該組成物に関する「・塗工:離型紙上150μm」、「・乾燥:70℃?100℃(30?60秒)」、「基剤:上記含浸加工不織布と貼り合わせ」、「・熱処理:120℃」、「・熟成:50℃」、「・剥離:離型紙から剥離」との記載がある。 (審決注.ここで、上記「・塗工:離型紙上150μm」との記載は、仮に接着層を離型紙上に塗工して「上記含浸加工不織布と貼り合わせ」ると表皮層は接着層となるところ、これは冒頭の「(1)水系ポリウレタン樹脂による人工皮革処理例」との記載と矛盾するから、上記「・塗工:離型紙上150μm」との記載は、常識的に判断して、「・塗工:離型紙上の表皮層上150μm」の誤記であると認める。) そして、「〔第2表〕 水系ポリウレタン樹脂「ハイドランWLシリーズ」代表品番一覧」には、「ハイドランWLS-202」について、使用用途が「表皮」であること、及びタイプが「エーテル系無黄変」であることが記載されている。 以上の記載を総合的に判断すると、甲第11号証には、水系ポリウレタン樹脂による人工皮革処理例として、 (a) まず不織布への含浸加工を施し、次いで (b) エーテル系(すなわち、ポリエーテル系)の水系ポリウレタン樹脂を含有する配合液を離型紙上に塗工した後、70℃から120℃に1?2分昇温させることにより乾燥させ、次いで (c) 接着層の配合液を離型紙上の表皮層上に塗工した後、70℃ないし100℃で30?60秒乾燥させ、その後、基剤(審決注.「基材」の誤記と認める。)である前記含浸加工を施した不織布と貼り合わせ、120℃で熱処理し、50℃で熟成させた後、 (d) 剥離紙から、製品である人工皮革を剥離する。 という処方例が記載されていると認められる。 してみると、甲第11号証には、ポリエーテル系の水系ポリウレタン樹脂を含有する配合液を「離型紙に塗工し、水分を蒸発させることにより表皮層を形成し、更にその上に接着剤を塗布し、水分蒸発後に繊維基材と貼り合わせる」方法、すなわちポリエーテル系の水系ポリウレタン樹脂の「離型紙転写法」が記載されていると認められる。 (ウ) 次に、同じく本願出願前に発行された業界専門誌(「加工技術」)において、「特集 人工皮革(合成皮革)の新展開」という特集のうちの一つとして掲載された甲第12号証は、「水系ウレタンによる人工/合成皮革の加工」と題する報文で、359頁には「3.コーティング/ラミネート用ポリウレタン『エバファノールHAシリーズ』」の項目のもと、「『エバファノールHAシリーズ』は,無黄変タイプのエーテル,カーボネート系ポリウレタン樹脂で,乳化剤を使用していない自己乳化タイプとし,さらに独自の合成技術により,上記の課題をクリアしたものである.成膜性が良く,透明感があり,かつタックのないフィルムを形成するため,各種不織布や編織物へのコーティング加工または,ラミネート加工に適している。」と記載されている。また、「〔第1表〕」には、「エバファノールHA-11」及び「エバファノールHA-15」が「エーテル系」(審決注.「ポリエーテル系(のポリウレタン樹脂)」の意味。)と記載されている。 そして、361頁には、加工処方例として、以下の記載がある。 「(4)ラミネート加工 ・試料:ナイロン織物 ・加工手順: 表皮層,接着層をコーティングした離型紙と,ナイロン織物とを貼り合わせる. →プレス(温度95℃,圧力10?20/cm^(2)) →45?65℃で,1?2日間熟成 →離形紙を剥がし,加工物を得る ・表皮層処方: エバファノールHA-11 60(重量部) エバファノールHA-15 40 NKアシストCI(架橋剤) 5 ・・・ 離形紙上へコーティング(120μm) →乾燥(110℃×2分) ・接着層処方: ・・・ 表皮層上へコーティング(100μm) →乾燥(110℃×2分)」 以上の記載によれば、甲第12号証には、水系(ポリ)ウレタン樹脂による人工/合成皮革の加工例として、 (a) ポリエーテル系のポリウレタン樹脂である「エバファノールHA-11」及び「エバファノールHA-15」を含有する配合液を離型紙上へコーティングした後、110℃で2分乾燥させ、次いで (b) 接着層を形成する配合液を離型紙上の表皮層上へコーティングした後、110℃で2分乾燥させ、次いで (c) 表皮層及び接着層をコーティングした離型紙とナイロン織物とを貼り合わせ、次いで (d) 温度95℃、圧力10?20/cm^(2)でプレスした後、45?65℃で1?2日間熟成し、その後、離型紙を剥がし、加工物を得る という処方例が記載されていると認められる。 してみると、甲第12号証にも、ポリエーテル系の水系ポリウレタン樹脂を含有する配合液を「離型紙に塗工し、水分を蒸発させることにより表皮層を形成し、更にその上に接着剤を塗布し、水分蒸発後に繊維基材と貼り合わせる」方法、すなわちポリエーテル系の水系ポリウレタン樹脂の「離型紙転写法」が記載されていると認められる。 (エ) 以上のことから、(ポリエーテル系の水系ポリウレタン樹脂を含む)繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を離型紙転写法に用いることは技術常識であると認められる。 (オ) さらに、先願明細書には以下の記載がある。 「本発明の水性塗工材を塗布する基体としては特に制限されるものではないが、例えば木綿などに代表される天然繊維、更にポリエステル、ナイロン等に代表される合成繊維、皮革、合成皮革、合成樹脂、紙、フィルム等が挙げられるが、この他にも例えば特定の型に塗工材を塗布、乾燥後得られたフィルムを再度型から脱着し得る用途にも用いる事が可能である。」(摘示(1-h)) そして、前述のように、(ポリエーテル系の水系ポリウレタン樹脂を含む)繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を離型紙転写法に用いることは技術常識であることを考え合わせると、上記摘示部における「特定の型に塗工材を塗布、乾燥後得られたフィルムを再度型から脱着し得る用途」とは、かかる用途の一態様として、「離型紙転写法」を示唆していると解するのが自然である。 (カ) よって、繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を「離型紙転写法に用いる」ことは先願明細書に記載されているに等しい事項であると認められるから、相違点イは実質的な相違点であるとは認められない。 ウ 請求人の主張について 請求人は、平成21年4月27日付け弁駁書において、相違点アに関し、以下のように主張している。 「e.構成5について 甲1の[0076]のマル1?マル4、[0106]には、プレポリマー・ミキシング法により、水性ウレタン系樹脂を製造することが記載され、甲3、甲13には、プレポリマー・ミキシング法により粒径0.01?0.05μm(10?50nm)の水性ポリウレタン樹脂分散体が得られることが記載されているから、甲1に記載された水性ウレタン系樹脂の平均粒径は150nm以下であることが明らかであり、よって構成5は甲1に実質的に記載されている。」(4頁下から8?末行) しかしながら、原告の主張を考慮しても、先願明細書に記載された水性ウレタン系樹脂の平均粒径が150nm以下であることが明らかであるとはいえない。理由は以下のとおりである。 確かに先願明細書の段落【0076】のマル1?マル4及び段落【0106】にはプレポリマー・ミキシング法により水性ウレタン系樹脂を製造することが記載されており、また甲第3号証19頁の表3及び甲第13号証433頁の表3の「プレポリマー・ミキシング法」の欄には、いずれも、プレポリマー・ミキシング法により粒子径が0.01-0.05μmの粒子径を有する最終ポリマーが得られることが記載されている。 しかしながら、先願明細書には甲第3号証19頁の表3及び甲第13号証433頁の表3に記載されている「プレポリマー・ミキシング法」により最終ポリマーを得た旨の記載はなされていない。 むしろ、甲第3号証19頁の表3及び甲第13号証433頁の表3には、「最終ポリマー」中に残存溶剤として「NMP 5-15」、すなわち有機溶剤であるn-メチルピロリドンが5-15(%)含まれているとされているのに対し、甲1発明は、「水性塗工材」(摘示(1-a)及び摘示(1-b))に関する技術であり、しかも先願明細書には、唯一の水性ウレタン系樹脂の製造例である実施例の「(B)水性ウレタン系樹脂の製造例」において、「60℃で減圧下メチルエチルケトンを脱溶剤することにより・・・水性ウレタン系樹脂(B-1)を得た。」(摘示(1-l))と記載され、有機溶剤であるメチルエチルケトンは脱溶剤により除去していることから明らかなように、「最終ポリマー」中に有機溶剤、特にn-メチルピロリドン、は含まれていないことから判断して、甲1発明は甲第3号証19頁の表3及び甲第13号証433頁の表3に記載されている「プレポリマー・ミキシング法」を用いたものではないと認められる。 しかも、そもそも先願明細書には「平均粒径0.2μmの水性ウレタン系樹脂(B-1)を得た。」(摘示(1-l))と明記されているのであるから、甲第3号証及び甲第13号証の記載内容にかかわらず、先願明細書で得られた水性ウレタン系樹脂の平均粒径は0.2μmであることが明らかである。 したがって、甲第3号証及び甲第13号証の記載に基いて、先願明細書に記載された水性ポリウレタン系樹脂の平均粒径が「0.01?0.05μm(10?50nm)」であるとは認められないので、請求人の主張は上記アの判断を左右するものではない。 (4) 無効理由1についてのまとめ 先願明細書には、水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の平均粒径について、「平均粒径が150nm以下」であることが記載されているとも、記載されているに等しい事項であるとも認められないから、本件訂正発明1は、甲1発明と相違点アで実質的に相違するので、先願明細書に記載された発明(甲1発明)と同一であるとはいえない。 また、本件訂正発明2ないし6は、本件訂正発明1を引用して更にその内容を限定するものであるから、同様の理由で、先願明細書に記載された発明(甲1発明)と同一であるとはいえない。 以上のとおりであるから、無効理由1は理由がない。 2 無効理由2について (1) 甲第2号証に記載された発明 甲第2号証には「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分としてラジカル重合させて得られる片末端ポリヒドロキシマクロモノマー(A)と、ポリイソシアネート(B)とを必須成分として反応せしめたポリウレタン樹脂を水性媒体中に分散したことを特徴とする水性コーティング剤。」(摘示(2-a))に関する発明が記載されており、また、「本発明で用いられる水性ポリウレタン樹脂を製造するに際しての、分子内に結合した親水性基の含有量は、親水性基がカルボキシル基、スルホン酸基等のイオン性基の場合は、最終的に得られるポリウレタン樹脂固形分100重量部当り少なくとも0.005?0.2当量好ましくは0.01?0.1当量必要であるが、特にカルボキシル基の親水性基が好ましい。」(摘示(2-h))こと、「本発明のポリウレタン水性分散体の製造において用いられるイソシアネート基と反応し得るその他の活性水素含有化合物は、便宜上平均分子量300?10,000好ましくは500?5,000の高分子量化合物と、分子量300以下の低分子量化合物に分けられる。上記高分子量化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール等が挙げられる。」(摘示(2-f))こと、「かくして得られた本発明の水性ポリウレタン樹脂は、そのまま単独で、あるいは他の水分散体、例えば・・・系の水分散体と任意の割合で配合して本発明の水性コーティング剤として使用することができる。・・・また上記水分散体の耐光性、耐熱性、耐水性、耐溶剤性等の各種耐久性を改善する目的で酸化防止剤、紫外線吸収剤、加水分解防止剤等の安定剤をポリウレタン樹脂水性分散体の製造工程中か、その製造後に添加し、或いはまたエポキシ樹脂、メラミン樹脂、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、ポリカルボジイミド化合物等の架橋剤をそれに配合して使用することもできる。」(摘示(2-i))こと、「かくして得られた本発明の水性コーティング剤は、・・・各種織物、天然皮革、人工皮革、合成皮革、木材等の塗料、表面被覆剤・・・等に有用である。」(摘示(2-m))こと、が記載されている。 そして、甲第2号証の実施例1には以下の記載がある。 「実施例1 分子量 1,000のポリブチレンアジペートジオール1017部、平均分子量5,000の本発明のマクロモノマー[チオグリセリンの存在下にメチルメタクリレートとメタクリロキシプロピルポリジメチルシロキサン(チッソ株式会社製のサイラプレーンFM-0721、分子量5000)を6/4(重量比)で共重合した片末端ジオール基を有するオリゴマー]302.5部、ジメチロールプロピオン酸144部、ネオペンチルグリコール36.2部、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート917部、オクチル酸第一スズ0.6部、メチルエチルケトン1007部、N-メチルピロリドン604部を混合して75℃において8時間反応してイソシアネート末端のプレポリマーを得た。このプレポリマー溶液中にトリエチルアミン108.5部を加えて中和し、水7166部を撹拌下徐々に滴下して乳化させた後、イソホロンジアミン85部を含む水溶液425部を投入し、IRにてイソシアネート基の吸収が見られなくなるまで攪拌して反応を完結させる。更に減圧下メチルエチルケトンを蒸留して除き、固形分濃度30%の水性ポリウレタン樹脂を得た。」(摘示(2-j)) ここで、上記実施例1では、乳化剤を用いずに水性ポリウレタン樹脂を製造しているので、上記実施例1により得られた水性ポリウレタン樹脂は乳化剤を含有しないものであることが明らかである。 してみると、甲第2号証には、 「分子内に結合した親水性基の含有量が、最終的に得られるポリウレタン樹脂固形分100重量部当り少なくとも0.005?0.2当量である、2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分とし、それとともに、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール等の高分子量化合物であるその他の活性水素含有化合物を含む混合物を用いて、ラジカル重合させて得られる片末端ポリヒドロキシマクロモノマー(A)と、ポリイソシアネート(B)とを必須成分として反応せしめたポリウレタン樹脂を水性媒体中に分散した、乳化剤を含有しない水性ポリウレタン樹脂及び架橋剤をそれに配合してなり、かつ前記架橋剤が、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、ポリカルボジイミド化合物等である各種織物、天然皮革、人工皮革、合成皮革、木材等の塗料、表面被覆剤に有用である水性コーティング剤。」 の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 (2) 本件訂正発明1と甲2発明との対比 甲2発明における「分子内に結合した親水性基の含有量が、最終的に得られるポリウレタン樹脂固形分100重量部当り少なくとも0.005?0.2当量である」は、酸価に換算すると、「酸価が2.8?112である」に対応する。 また、甲2発明における「片末端ポリヒドロキシマクロモノマー(A)と、ポリイソシアネート(B)とを必須成分として反応せしめたポリウレタン樹脂を水性媒体中に分散した・・・水性ポリウレタン樹脂」、「架橋剤」、「イソシアネート化合物」、「ポリカルボジイミド化合物」及び「各種織物、天然皮革、人工皮革、合成皮革、木材等の塗料、表面被覆剤に有用である水性コーティング剤」は、それぞれ、本件訂正発明1における「水性ポリウレタン樹脂分散体(A)」、「架橋剤(B)」、「ポリイソシアネート化合物(B-1)」、「ポリカルボジイミド化合物(B-2)」及び「繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物」に対応する。 以上を考慮して、本件訂正発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、 「酸価が5?40であるポリウレタン樹脂で、且つ乳化剤を含有しない水性ポリウレタン樹脂分散体(A)及び該分散体(A)と反応する架橋剤(B)を含有してなり、かつ前記架橋剤(B)が、ポリイソシアネート化合物(B-1)またはポリカルボジイミド化合物(B-2)である繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物。」 の点で一致するが、以下のアないしエの点で一応相違すると認められる。 ア ポリオールの種類について、本件訂正発明1が「ポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオール」を用いると規定するのに対し、甲2発明は「ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール等」を用いると規定する点 イ 水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の平均粒径について、本件訂正発明1が「動的光散乱法で測定しMARQUADT法で解析した平均粒径が150nm以下」であると規定しているのに対し、甲2発明にはかかる規定がなされていない点 ウ 繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物について、本件訂正発明1が「離型紙転写法に用いる」と規定しているのに対し、甲2発明にはかかる規定がなされていない点 エ 水性ポリウレタン樹脂の成分について、本件訂正発明1が「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とすると規定されていないのに対し、甲2発明は「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」と規定している点 (以下、これらの相違点を、各項目の符号に対応して、それぞれ「相違点ア」ないし「相違点エ」という。) (3) 相違点についての判断 ア 相違点アについて 本件訂正発明1が「ポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオール」を用いるのに対し、甲2発明は「ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール等」を用いるところ、甲2発明における「ポリエーテルポリオール」及び「ポリカーボネートポリオール」は、それぞれ、本件訂正発明1における「ポリエーテル系ポリオール」及び「ポリカーボネート系ポリオール」に対応するから、一見すると、甲2発明は本件訂正発明1と重複しているので、両者の差異は実質的な相違点ではないかのようにみえる。 しかしながら、本件訂正発明1は、相違点アについて、甲2発明に対し選択発明にあたると認められるので、相違点アは実質的な相違点であると認められる。理由は以下のとおりである。 甲第2号証には、例えば「上記高分子量化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール等が挙げられる。」(摘示(2-f))と記載されているように、「ポリエステルポリオール」と「ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール」とを同等に扱っているし、しかも、甲第2号証の実施例で用いているポリオールは何れもポリエステルポリオールである[審決注.実施例1が「ポリブチレンアジペートジオール」(摘示(2-j))、実施例2が「ポリエステル(エチレングリコール/ネオペンチルグリコール/イソフタル酸/アジピン酸)」(摘示(2-k))及び実施例3が「ポリカプロラクトンジオール」(摘示(2-k))である。]。また、本件特許の出願時における技術常識を参酌しても、ポリエーテル系ポリオ-ルを用いて水性ポリウレタン分散体を製造した場合に、ポリエステルポリオールを用いた場合に比べ耐水性及び耐久性が良くなることは予想できない。 これに対し、本件訂正明細書の段落【0019】には「以上のポリオ-ル化合物のうち、ポリエーテル系ポリオ-ルまたはポリカーボネート系ポリオ-ルが表皮層形成後の耐水性及び耐久性の点で好ましい。」と記載されており、また実際、乙第2号証によれば、本件訂正発明の合成例1で使用するポリエーテル系ポリオ-ル(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)に替えてポリエステルポリオール(ポリブチレンアジペートジオール)を用いて水性ポリウレタン分散体を製造した場合には、ポリエーテル系ポリオ-ルを用いた場合に比べ、耐熱水性(審決注.「耐水性」の一種である。)及び耐摩耗性(審決注.「耐久性」の一種である。)が悪くなる、言い換えるとポリエーテル系ポリオ-ルを用いて水性ポリウレタン分散体を製造した場合には、ポリエステルポリオールを用いた場合に比べ、耐熱水性及び耐摩耗性が良くなるものと認められる。 そして、本件訂正明細書の表1(段落【0075】)には「ポリカーボネート系ポリオ-ル」を用いて水性ポリウレタン分散体を製造した場合(実施例4)にも、ポリエーテル系ポリオ-ルを用いた場合(実施例1?3及び5?8)と同様に、耐熱水性及び耐摩耗性が良くなることが示されている。 してみると、本件訂正発明1は「ポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオール」を用いて水性ポリウレタン分散体を製造した場合には、ポリエステルポリオールを用いた場合に比べ、耐熱水性及び耐摩耗性が良くなるという予想外の効果を奏するものと認められるから、本件訂正発明1は、相違点アについて、甲2発明に対し選択発明にあたると認められるので、相違点アは実質的な相違点であると認められる。 イ 相違点イについて 甲第2号証には、水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の平均粒径に関する記載ないし示唆は全く存在しない。 また、甲第3号証ないし甲第13号証の記載及び本件特許の出願時における技術常識を参酌しても、甲2発明の水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の平均粒径について、「平均粒径が150nm以下」であると記載されているに等しいと認め得るに足る証拠は存在しない。 してみると、相違点イは実質的な相違点であると認められる。 (なお、先に第7 1(3)アのなお書きで指摘した理由により、本件訂正発明1における「動的光散乱法で測定しMARQUADT法で解析した」と規定する部分が実質的な相違点であるとは認められない。) ウ 相違点ウについて 先に第7 1(3)イの(ア)ないし(ウ)で述べた理由により、(ポリエーテル系の水系ポリウレタン樹脂を含む)繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を離型紙転写法に用いることは技術常識であると認められる。 してみると、繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を「離型紙転写法に用いる」ことは甲第2号証に記載されているに等しい事項であると認められるから、相違点ウは実質的な相違点であるとは認められない。 エ 相違点エについて 本件訂正明細書には、水性ポリウレタン樹脂の成分について、「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とする点についての記載も示唆もない。 そして、水性ポリウレタン樹脂の成分として、「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とすることは、通常行われておらず、技術常識であるとも認められない。 してみると、水性ポリウレタン樹脂の成分について、「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とする点は、本件訂正明細書に記載されているとはいえず、また本件訂正明細書に記載されているに等しい事項であるともいえないので、相違点エは実質的な相違点であると認められる。 (なお、本件訂正明細書の段落【0015】には以下の記載 「(A-3)のポリオ-ル化合物としては、数平均分子量が300?10000、好ましくは500?5000の高分子ポリオ-ルであり、例えば、ポリエステルポリオ-ル、ポリエ-テルポリオ-ル、ポリカ-ボネ-トポリオ-ル、ポリアセタ-ルポリオ-ル、ポリアクリレ-トポリオ-ル、ポリエステルアミドポリオ-ル、ポリチオエ-テルポリオ-ル、ポリブタジエン系等のポリオレフィンポリオ-ル等が挙げられる。」 があるところ、ここにいう「ポリアクリレ-トポリオ-ル」は、一見すると、水性ポリウレタン樹脂の成分として、「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とするものを包含しているかのようにみえなくもない。 しかしながら、上記の「ポリアクリレ-トポリオ-ル」は、甲第2号証における「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とする生成物に対応するのではなく、甲第2号証における「その他の活性水素含有化合物」(摘示(2-f))の例として挙げられている「例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール等」(摘示(2-f))に含まれる「ポリアクリレ-トポリオ-ル」に対応するから、本件訂正明細書の段落【0015】に「ポリアクリレ-トポリオ-ル」と記載されていることを根拠として、当該「ポリアクリレ-トポリオ-ル」は、「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とするものを包含すると解することはできない。 また、本件訂正明細書の段落【0015】に具体的に例示されている各種のポリオレフィンポリオ-ルは、特殊なポリオレフィンポリオ-ルではなく、普通のポリオレフィンポリオ-ルであることからみて、本件訂正明細書の段落【0015】にいう「ポリアクリレ-トポリオ-ル」は特殊な「ポリアクリレ-トポリオ-ル」は包含しないと解するのが自然な解釈であるところ、水性ポリウレタン樹脂の成分として「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とするものは極めて特殊なものであるから、この点でも、本件訂正明細書の段落【0015】に「ポリアクリレ-トポリオ-ル」が挙げられていることをもって、水性ポリウレタン樹脂の成分について、「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とするものを包含すると解することはできない。 したがって、本件訂正明細書の段落【0015】の記載に基づいて、水性ポリウレタン樹脂の成分について、「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とする点は、本件訂正明細書に記載されているとはいえないのはもちろんのこと、本件訂正明細書に記載されているに等しい事項であるとも認められない。) オ 請求人の主張について 請求人は、平成21年4月27日付け弁駁書において、相違点イに関し、以下のように主張している。 「e.構成5について 甲2の[0036]の実施例1には、プレポリマー・ミキシング法により、水性ポリウレタン樹脂を製造することが記載され、前記第1で述べた通り、甲3、甲13には、プレポリマー・ミキシング法により粒径0.01?0.05μm(10?50nm)の水性ポリウレタン樹脂分散体が得られることが記載されているから、甲2に記載されたプレポリマー・ミキシング法による水性ポリウレタン樹脂の平均粒径は150nm以下であることが明らかであり、よって構成5は甲2に実質的に記載されている。」(4頁下から8?末行) しかしながら、甲第2号証に記載された水性ウレタン系樹脂の平均粒径が150nm以下であることが明らかであるとはいえない。理由は以下のとおりである。 確かに甲第2号証の段落【0036】の実施例1にはプレポリマー・ミキシング法により水性ウレタン系樹脂を製造することが記載されており、また甲第3号証19頁の表3及び甲第13号証433頁の表3の「プレポリマー・ミキシング法」の欄には、いずれも、プレポリマー・ミキシング法により粒子径が0.01-0.05μmの最終ポリマーが得られることが記載されている。 しかしながら、甲第2号証には甲第3号証19頁の表3及び甲第13号証433頁の表3に記載されている「プレポリマー・ミキシング法」により最終ポリマーを得た旨の記載はなされていない。 むしろ、甲第3号証19頁の表3及び甲第13号証433頁の表3には、「最終ポリマー」中に残存溶剤として「NMP 5-15」、すなわち有機溶剤であるn-メチルピロリドンが5-15(%)含まれているとされているのに対し、甲第2号証については、「水性コーティング材」(摘示(2-a)及び摘示(2-b))に関する技術であること、及び「水性コーティング材」の製造例である実施例1?3の水性ポリウレタン樹脂の製造方法をみても、「更に減圧下メチルエチルケトンを蒸留して除き、固形分濃度30%の水性ポリウレタン樹脂を得た。」(摘示(2-j)及び摘示(2-k))と記載されており、有機溶剤であるメチルエチルケトンは蒸留して除いていること、から明らかなように、「最終ポリマー」中に有機溶剤、特にn-メチルピロリドン、は含まれていないこと、から判断して、甲2発明は甲第3号証19頁の表3及び甲第13号証433頁の表3に記載されている「プレポリマー・ミキシング法」を用いたものではないと認められる。 したがって、甲第3号証及び甲第13号証の記載を根拠にして、甲第2号証に記載された水性ポリウレタン系樹脂の平均粒径が「0.01?0.05μm(10?50nm)」であるとは認められないので、請求人の主張は上記アの判断を左右するものではない。 (4) 無効理由2についてのまとめ 本件訂正発明1と甲2発明とは、相違点ア、相違点イ及び相違点エにおいて実質的に相違するから、本件訂正発明1は特開平6-16997号公報(甲第2号証)に記載された発明(甲2発明)であるとはいえない。 また、本件訂正発明2ないし6は、本件訂正発明1を引用して更にその内容を限定するものであるから、同様の理由で、特開平6-16997号公報(甲第2号証)に記載された発明(甲2発明)であるとはいえない。 以上のとおりであるから、無効理由2は理由がない。 3 無効理由3について (1) 甲第2号証に記載された発明 先に第7 2(1)で指摘したのと同様の理由で、甲第2号証には、 「分子内に結合した親水性基の含有量が、最終的に得られるポリウレタン樹脂固形分100重量部当り少なくとも0.005?0.2当量である、2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分とし、それとともに、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール等の高分子量化合物であるその他の活性水素含有化合物を含む混合物を用いて、ラジカル重合させて得られる片末端ポリヒドロキシマクロモノマー(A)と、ポリイソシアネート(B)とを必須成分として反応せしめたポリウレタン樹脂を水性媒体中に分散した、乳化剤を含有しない水性ポリウレタン樹脂及び架橋剤をそれに配合してなり、かつ前記架橋剤が、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、ポリカルボジイミド化合物等である各種織物、天然皮革、人工皮革、合成皮革、木材等の塗料、表面被覆剤に有用である水性コーティング剤。」 の発明(以下、無効理由2と同様に、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 (2) 本件訂正発明1と甲2発明との対比 先に第7 2(2)で指摘したのと同様の理由で、本件訂正発明1と甲2発明とを対比すると、両者は、 「酸価が5?40であるポリウレタン樹脂で、且つ乳化剤を含有しない水性ポリウレタン樹脂分散体(A)及び該分散体(A)と反応する架橋剤(B)を含有してなり、かつ前記架橋剤(B)が、ポリイソシアネート化合物(B-1)またはポリカルボジイミド化合物(B-2)である繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物。」 の点で一致するが、以下のアないしエの点で一応相違すると認められる。 ア ポリオールの種類について、本件訂正発明1が「ポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオール」を用いると規定するのに対し、甲2発明は「ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール等」を用いると規定する点 イ 水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の平均粒径について、本件訂正発明1が「動的光散乱法で測定しMARQUADT法で解析した平均粒径が150nm以下」であると規定しているのに対し、甲2発明にはかかる規定がなされていない点 ウ 繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物について、本件訂正発明1が「離型紙転写法に用いる」と規定しているのに対し、甲2発明にはかかる規定がなされていない点 エ 水性ポリウレタン樹脂の成分について、本件訂正発明1が「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とすると規定されていないのに対し、甲2発明は「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」と規定している点 (以下、これらの相違点を、各項目の符号に対応して、無効理由2と同様に、それぞれ「相違点ア」ないし「相違点エ」という。) (3) 相違点についての判断 ア 相違点アについて 本件訂正発明1が「ポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオール」を用いるところ、甲2発明は「ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール等」を用い、そして甲2発明における「ポリエーテルポリオール」及び「ポリカーボネートポリオール」は、それぞれ本件訂正発明1における「ポリエーテル系ポリオール」及び「ポリカーボネート系ポリオール」に対応するから、一見すると、甲2発明は本件訂正発明1と重複しているので、「ポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオール」を用いることは当業者が容易に想到し得ることであるかのようにみえる。 しかしながら、本件訂正発明1は、相違点アについて、甲2発明に対し選択発明にあたると認められる。理由は以下のとおりである。 甲第2号証には、例えば「上記高分子量化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリアセタールポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルアミドポリオール、ポリチオエーテルポリオール等が挙げられる。」(摘示(2-f))と記載されているように、「ポリエステルポリオール」と「ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール」とを同等に扱っているし、また、甲第2号証の実施例で用いているポリオールは何れもポリエステルポリオールである[審決注.実施例1が「ポリブチレンアジペートジオール」(摘示(2-j))、実施例2が「ポリエステル(エチレングリコール/ネオペンチルグリコール/イソフタル酸/アジピン酸)」(摘示(2-k))及び実施例3が「ポリカプロラクトンジオール」(摘示(2-k))である。]。 また、甲第2号証ないし甲第13号証及び周知技術を併せて検討しても、「ポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオール」を用いて水性ポリウレタン分散体を製造した場合に、ポリエステルポリオールを用いた場合に比べ、耐水性及び耐久性が良くなることは予想できない。 これに対し、本件訂正明細書の段落【0019】には「以上のポリオ-ル化合物のうち、ポリエーテル系ポリオ-ルまたはポリカーボネート系ポリオ-ルが表皮層形成後の耐水性及び耐久性の点で好ましい。」と記載されており、また実際、乙第2号証によれば、本件訂正発明の合成例1で使用するポリエーテル系ポリオ-ル(ポリテトラメチレンエーテルグリコール)に替えてポリエステルポリオール(ポリブチレンアジペートジオール)を用いて水性ポリウレタン分散体を製造した場合には、ポリエーテル系ポリオ-ルを用いた場合に比べ、耐熱水性(審決注.「耐水性」の一種である。)及び耐摩耗性(審決注.「耐久性」の一種である。)が悪くなる、言い換えるとポリエーテル系ポリオ-ルを用いて水性ポリウレタン分散体を製造した場合には、ポリエステルポリオールを用いた場合に比べ、耐熱水性及び耐摩耗性が良くなるものと認められる。 そして、本件訂正明細書の表1(段落【0075】)には「ポリカーボネート系ポリオ-ル」を用いて水性ポリウレタン分散体を製造した場合(実施例4)にも、ポリエーテル系ポリオ-ルを用いた場合(実施例1?3及び5?8)と同様に、耐熱水性及び耐摩耗性が良くなることが示されている。 してみると、本件訂正発明1は「ポリエーテルポリオール又はポリカーボネートポリオール」を選択することにより、耐水性及び耐久性が良くなるという甲第2号証ないし甲第13号証の記載事項及び周知技術からは予想できない効果を奏するものと認められるので、本件訂正発明1は、相違点アについて、甲2発明に対し選択発明にあたると認められる。 したがって、本件訂正発明1が、ポリオールの種類について、「ポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオール」を用いると規定することを当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 イ 相違点イについて 甲第2号証には、水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の平均粒径に関する記載ないし示唆は全く存在しない。 ただ、甲第2号証の段落【0036】の実施例1にはプレポリマー・ミキシング法により水性ウレタン系樹脂を製造することが記載されており、また甲第3号証19頁の表3及び甲第13号証433頁の表3の「プレポリマー・ミキシング法」の欄には、いずれも、プレポリマー・ミキシング法により粒子径が0.01-0.05μm(10?50nm)の最終ポリマーが得られることが記載されているが、甲第2号証の水性ウレタン系樹脂を製造する方法において、水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の平均粒径について「平均粒径が150nm以下」とすることが容易であるというためには、それなりの動機付けを必要とするところ、甲第3号証及び甲第13号証には、これらの最終ポリマーの粒子径を0.01-0.05μm(10?50nm)とした目的や効果などの動機付けとなり得る記載は存在せず、また、甲第4号証ないし甲第12号証及び周知技術を併せて検討しても、甲第3号証19頁の表3及び甲第13号証433頁の表3において、プレポリマー・ミキシング法により得られる最終ポリマーの粒子径を0.01-0.05μm(10?50nm)とした目的や効果は不明であるから、甲第2号証ないし甲第13号証の記載及び周知技術に基づいて、甲第2号証の水性ウレタン系樹脂を製造する方法において、水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の平均粒径について「平均粒径が150nm以下」とすることが容易であるというための動機付けは存在しない。 そして、本件訂正発明1は、水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の平均粒径について「平均粒径が150nm以下」とすることにより、「表皮層形成時の造膜性が良好で、加工時のクラックが発生しない。」(段落【0011】)という、甲第2号証ないし甲第13号証の記載及び周知技術からは予想できない効果を奏するものである。 してみると、甲第3号証19頁の表3及び甲第13号証433頁の表3の「プレポリマー・ミキシング法」の欄には、いずれも、プレポリマー・ミキシング法により粒子径が0.01-0.05μm(10?50nm)の最終ポリマーが得られることが記載されているとしても、かかる記載事項を甲第2号証の水性ウレタン系樹脂を製造する方法に適用して、甲第2号証の水性ウレタン系樹脂を製造する方法において、水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の平均粒径について「平均粒径が150nm以下」とすることが容易であるというための動機付けが存在せず、しかも、甲2発明は水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の平均粒径を150nm以下とすることにより、「表皮層形成時の造膜性が良好で、加工時のクラックが発生しない。」という、甲第2号証ないし甲第13号証の記載及び周知技術からは予想できない効果を奏するものと認められるので、水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の平均粒径について、本件訂正発明1のように「平均粒径が150nm以下」と規定することは当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 (なお、先に第7 1(3)アのなお書きで指摘した理由により、本件訂正発明1における「動的光散乱法で測定しMARQUADT法で解析した」と規定する部分が実質的な相違点であるとは認められない。) ウ 相違点ウについて 先に第7 1(3)イの(ア)ないし(ウ)で述べた理由により、(ポリエーテル系の水系ポリウレタン樹脂を含む)繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を離型紙転写法に用いることは技術常識であると認められる。 してみると、繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を「離型紙転写法に用いる」ことは甲第2号証に記載されているに等しい事項であると認められるから、相違点ウは実質的な相違点であるとは認められないし、しかも当該技術常識に基づいて甲第2号証の繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を「離型紙転写法に用いる」と規定することは当業者が容易に想到し得ることである。 エ 相違点エについて (ア) 本件訂正明細書には、水性ポリウレタン樹脂の成分について、「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とする点についての記載も示唆もない。 そして、水性ポリウレタン樹脂の成分として、「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とすることは、通常行われておらず、技術常識であるとも認められない。 してみると、水性ポリウレタン樹脂の成分について、「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とする点は、本件訂正明細書に記載されているとはいえず、また本件訂正明細書に記載されているに等しい事項であるともいえないので、本件訂正発明1は、水性ポリウレタン樹脂の成分について、「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とする態様を包含するものとは認められない。 (なお、先に第7 2(3)エのなお書きで指摘した理由により、本件訂正明細書の段落【0015】の記載に基づいて、水性ポリウレタン樹脂の成分について、「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とする点が、本件訂正明細書に記載されているとはいえないのはもちろんのこと、本件訂正明細書に記載されているに等しい事項であるとも認められない。) (イ) そして、甲2発明は、水性ポリウレタン樹脂の成分について、「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とすることにより、「シリコーン鎖を直接ポリウレタン骨格に共重合しているため、経時的にシリコーン成分がブリードすることもなく、耐久性、持続性に優れた表面滑性、耐摩耗性、耐ブロッキング性を付与することができる。」(摘示(2-l))という発明であるから、甲2発明においては、水性ポリウレタン樹脂の成分について、「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とすることは必要不可欠な技術事項であるので、甲2発明から、水性ポリウレタン樹脂の成分について、「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」という発明特定事項を除外することは、当業者が想起し得ないことである。 (ウ) してみると、相違点エに関して、甲2発明から本件訂正発明1を導き出すことはできないものと認められるから、水性ポリウレタン樹脂の成分について、本件訂正発明1が「2つ以上の水酸基及び1つのメルカプト基を有するメルカプタン系連鎖移動剤の存在下に(メタ)アクリロイル基含有シリコーン単量体を必須成分」とすると規定することは当業者が容易に想到し得るものとはいえない。 (4) 無効理由3についてのまとめ 以上のとおり、本件訂正発明1は、相違点ア、相違点イ及び相違点エに関して、甲第2号証に記載された発明(甲2発明)及び甲第3?13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。 また、本件訂正発明2ないし6は、本件訂正発明1を引用して更にその内容を限定するものであるから、同様の理由で、甲第2号証に記載された発明(甲2発明)及び甲第3?13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。 以上のとおりであるから、無効理由3は理由がない。 4 無効理由4について (1) 請求人は、平成21年4月27日付け弁駁書において、以下のように述べている。 「a.請求項1の発明は、本件訂正請求により『酸価が5?40であるポリウレタン樹脂』が、『酸価が5?40であるポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオールを用いたポリウレタン樹脂』と訂正された。 b.しかしながら、本件特許明細書の何れにおいても『酸価が5?40であるポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオール』を用いた『ポリウレタン樹脂』は記載されていない。よって訂正後の請求項1および請求項1に従属する請求項2?6の発明は、発明の詳細な説明に記載したものということはできない。」(16頁下から6行?17頁3行) (2) そこで検討すると、先に第2 1(1)の訂正Aに示したように、平成21年3月16日付けの訂正請求により、訂正前に、請求項1に「酸価が5?40であるポリウレタン樹脂」とあったものが、「酸価が5?40であるポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオールを用いたポリウレタン樹脂」と訂正されたのは事実である。 (3) ところで、訂正後の請求項1で「酸価が5?40である」と規定した技術的意義については、本件訂正明細書に以下の記載がある。 「本発明において使用される水性ポリウレタン樹脂分散体(A)は、乳化剤を使用せずにポリウレタン樹脂の分子中に遊離カルボキシル基を導入することにより該樹脂が親水性を有し水中に分散しているものである。このウレタン樹脂に遊離カルボキシル基を導入した場合、酸価が5未満であると、ポリウレタン分散体の粒子径が大きくなり、安定な分散体が得られず、40を超えると、造膜性が低下して、皮膜強度が低下する。このため、カルボキシル基は酸価が5?40になるように導入することが好ましく、特に好ましくは酸価が10?30である。 尚、酸価とはウレタン樹脂1g中に含まれる酸分(酸基)を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数をいう。」(段落【0010】) (上記の「水性ポリウレタン樹脂分散体(A)」、「ポリウレタン樹脂」及び「ウレタン樹脂」は全て同義であるので、以下、これらを統一して「ポリウレタン樹脂」という。) 上記記載によれば、酸価とはポリウレタン樹脂1g中に含まれる酸分(酸基)を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数をいうところ、ポリウレタン樹脂の分子中には遊離カルボキシル基が導入されているので、安定なポリウレタン樹脂の分散体を得るとともに、造膜性や皮膜強度を低下させないためには、ポリウレタン樹脂の酸価が5?40になるように導入することが好ましいので、訂正後の請求項1において「酸価が5?40である」と規定したものと理解できる。 (4) してみると、訂正後の請求項1で「酸価が5?40である」と規定したのは、ポリウレタン樹脂の酸価を規定するためのものであるから、訂正後の請求項1における「酸価が5?40である」という文言は「ポリウレタン樹脂」に係るものと認められる。 また、「ポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオール」には遊離カルボキシル基が含まれていないので、訂正後の請求項1における「酸価が5?40である」という文言が「ポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオール」に係るとは考えられない。 さらに、平成21年3月16日付けの訂正請求により、訂正前に、請求項1に「酸価が5?40であるポリウレタン樹脂」とあったものが、「酸価が5?40であるポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオールを用いたポリウレタン樹脂」と訂正されたという経緯を考えても、訂正後の請求項1における「酸価が5?40である」という文言が「ポリウレタン樹脂」に係ることは明らかである。 (5) したがって、「本件特許明細書の何れにおいても『酸価が5?40であるポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオール』を用いた『ポリウレタン樹脂』は記載されていない。」と、「酸価が5?40である」という文言が「ポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオール」に係ると解して、訂正後の請求項1および請求項1に従属する請求項2?6の発明は、発明の詳細な説明に記載したものということはできないとする原告の主張は採用できず、本件訂正発明1ないし6に係る特許に関する特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許法36条6項1号の規定に適合する。 以上のとおりであるから、無効理由4は理由がない。 第8 むすび 以上のとおり、請求人の主張する無効理由1ないし4は、いずれも理由がないから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1ないし6の特許を無効とすることができない。 審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物及びそれを用いた人工皮革 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 酸価が5?40であるポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオールを用いたポリウレタン樹脂で、且つ乳化剤を含有しない水性ポリウレタン樹脂分散体(A)及び該分散体(A)と反応する架橋剤(B)を含有してなり、前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の動的光散乱法で測定しMARQUADT法で解析した平均粒径が150nm以下であり、かつ前記架橋剤(B)が、ポリイソシアネート化合物(B-1)またはポリカルボジイミド化合物(B-2)である離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物。 【請求項2】 水性ポリウレタン樹脂分散体(A)と架橋剤(B)が反応してなる樹脂の流動開始温度が140℃以上である請求項1に記載の離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物。 【請求項3】 会合型増粘剤(C)を含有する請求項1または2に記載の離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物。 【請求項4】 レベリング剤(D)を含有する請求項1?3のいずれかに記載の離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物。 【請求項5】 架橋剤(B)が有機溶剤を含有せず、水性ポリウレタン樹脂分散体(A)に分散性を有する化合物あるいはその水分散体からなる請求項1?4のいずれかに記載の離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物。 【請求項6】 請求項1?5のいずれかに記載の繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を離型紙に塗布し、水分を蒸発させることにより表皮層を形成し、更にその上に接着剤を塗布し、そのまま繊維基材と貼り合せて水分を蒸発、あるいは水分蒸発後に繊維基材と貼り合せて得られた人工皮革。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物に関するものである。更に詳しくは、造膜性が良好で、耐熱水性、耐摩耗性、耐ブリードアウト性に優れる表皮層を形成する繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物及びそれを用いた人工皮革を提供することにある。 【0002】 【従来の技術】 従来の繊維積層体の表皮層形成方法は、▲1▼ポリウレタン樹脂の有機溶剤溶液を離型紙に塗布し、有機溶剤を揮発することにより表皮層を形成し、更にその上にポリウレタン樹脂の有機溶剤溶液である接着剤を塗布し、そのまま繊維基材と貼り合わせて有機溶剤を揮発、あるいは有機溶剤揮発後に繊維基材と貼り合わせる離型紙転写法、▲2▼ポリウレタン樹脂の有機溶剤溶液を離型紙に塗布し、有機溶剤を揮発することにより表皮層を形成し、表皮層を熱により繊維基材と貼り合わせる熱転写法、▲3▼繊維基材の表面にポリウレタン樹脂の有機溶剤溶液を直接スプレーするスプレー法、▲4▼ポリウレタン樹脂の有機溶剤溶液をグラビアコーター、ナイフコーター、コンマコーター、エアナイフコーター等にて繊維基材に塗布するダイレクトコート法などが知られている。しかし、この際使用される有機溶剤は、通常数種類混合して用いられるため、乾燥工程で揮散した有機溶剤の回収は極めて困難であり、ほとんど大気中に放出されてきたのが現状であり、有機溶剤が揮散するため作業環境も良好ではなく、作業者の健康が懸念される。加工装置も防爆仕様が要求されるため、装置の価格が高くなるという問題もある。さらに沸点の高い有機溶剤、例えばDMF(N,N-ジメチルフォルムアミド)が用いられることもあるが、この場合は沸点の高い有機溶剤が乾燥後も一部繊維積層体中に残留し、その毒性が問題となっている。これらの問題を解決するために、繊維積層体表皮層形成用ポリウレタン樹脂を有機溶剤タイプから水性タイプに移行すべく検討がなされているが、満足すべき物性を有した繊維積層体は得られていない。 【0003】 この大きな理由としては、水性ポリウレタン樹脂をそのまま表皮層に用いた場合、造膜性が不良で、耐摩耗性測定時に水性ポリウレタン樹脂が脱落することが挙げられる。また耐水試験を行うと透明な樹脂が白化し、樹脂の機械的強度及び耐摩耗性が大幅に低下する問題がある。更に乳化剤を用いた水性ポリウレタン樹脂は、経時で粉状あるいは液状の乳化剤が繊維積層体表面にブリードアウトし商品価値が無かった。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は、有機溶剤を極力あるいは全く含まず、造膜性が良好で、耐水性、耐摩耗性、耐ブリードアウト性に優れる表皮層を形成する繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物及びそれを用いた人工皮革を提供することにある。 【0005】 【課題を解決する手段】 本発明は上記課題を解決する表皮層を形成する繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物及びそれを用いた人工皮革について鋭意研究の結果、本発明を完成するに至ったものである。 【0006】 即ち、本発明は酸価が5?40であるポリエーテル系ポリオール又はポリカーボネート系ポリオールを用いたポリウレタン樹脂で、且つ乳化剤を含有しない水性ポリウレタン樹脂分散体(A)及び該分散体(A)と反応する架橋剤(B)を含有してなり、前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の動的光散乱法で測定しMARQUADT法で解析した平均粒径が150nm以下であり、かつ前記架橋剤(B)が、ポリイソシアネート化合物(B-1)またはポリカルボジイミド化合物(B-2)である離型紙転写法に用いる繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物及びそれを用いた人工皮革を提供するものである。 【0007】 【発明の実施の形態】 本発明における繊維積層体とは、ポリウレタン樹脂からなる表皮層が繊維基材と接合された状態のものをいう。また、本発明における表皮層とは、繊維積層体における表面強度・意匠性を向上させるために着色、光沢調整、凹凸模様などを施したポリウレタン樹脂、即ち本発明の樹脂組成物からなる層のことを言う。かかる表皮層は、表面強度・意匠性向上のため数層から構成される場合も含まれる。 【0008】 本発明における繊維基材とは、一般に用いられる繊維基材であれば特に制限はなく公知公用のものを使用することができる。その材質は、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリルなどの合成繊維およびこれらの改良繊維;羊毛、絹、木綿、麻などの天然繊維;アセテート、レーヨンなどの半合成繊維など、あるいはこれらの混用繊維からなる織編布、不織布等の繊維シート状物が挙げられる。更に、これら繊維シート状物に有機溶剤系、水性あるいは無溶剤系ポリウレタン樹脂がコーティング加工(発泡コーティングも含む)あるいは含浸加工されてマイクロポーラスを形成したものも挙げられ、本発明においては特に好ましくはマイクロポーラスを有する繊維シート状物である。 本発明におけるマイクロポーラスとは、付着した樹脂中に均一な多数の孔が分散している状態を示す。尚、繊維の太さおよび形状は特に限定されず、極細繊維を用いることも可能である。例えば、極細繊維化に際して海島型、分割または剥離型、直紡型、オレンジピール型いずれの繊維を用いても良く、海島繊維を使用する場合、極細化方法としては海成分又は島成分をトルエン等の有機溶剤処理による溶解溶出法、アルカリ等による分解溶出法、高圧水流によるウォータージェット法などが挙げられるが、極細化方法について特に限定されるものではない。更に床革等の天然皮革素材も繊維基材に含む。 【0009】 本発明における人工皮革とは、上記繊維積層体の内、繊維シート状物に有機溶剤系、水性あるいは無溶剤系ポリウレタン樹脂がコーティング加工(発泡コーティングも含む)あるいは含浸加工されてマイクロポーラスを形成した基材からなるものである。 【0010】 本発明において使用される水性ポリウレタン樹脂分散体(A)は、乳化剤を使用せずにポリウレタン樹脂の分子中に遊離カルボキシル基を導入することにより該樹脂が親水性を有し水中に分散しているものである。このウレタン樹脂に遊離カルボキシル基を導入した場合、酸価が5未満であると、ポリウレタン分散体の粒子径が大きくなり、安定な分散体が得られず、40を超えると、造膜性が低下して、皮膜強度が低下する。このため、カルボキシル基は酸価が5?40になるように導入することが好ましく、特に好ましくは酸価が10?30である。 尚、酸価とはウレタン樹脂1g中に含まれる酸分(酸基)を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数をいう。また、樹脂にカルボキシル基を有するものにするにはカルボキシル基含有親水性化合物をジイソシアネ-トと反応させることにより行えばよい。 【0011】 また、本発明にて使用される水性ポリウレタン樹脂分散体(A)の粒子径は、200nm以下にすることが好ましく、特に好ましくは150nm以下である。かかる粒子径が上記範囲であれば、表皮層形成時の造膜性が良好で、加工時のクラックが発生しない。ここで言う粒子径とは、レーザー粒径解析システム PAR III(大塚電子株式会社製)により、動的光散乱法で測定し、MARQUADT法で解析した平均粒径:d(nm)の値をいう。 【0012】 本発明のような特性を備えたカルボキシル基含有ウレタン樹脂の具体例としては、分子内に少なくとも1個以上の活性水素を有し、かつ、カルボン酸塩あるいはカルボキシル基を少なくとも1個有する親水性化合物(A-1)、有機ポリイソシアネ-ト化合物(A-2)、数平均分子量が300?10000のポリオ-ル化合物(A-3)、低分子量ポリヒドロキシル化合物(A-4)および/またはポリアミン系鎖伸長剤(A-5)、必要に応じて、親水性化合物(A-1)のカルボキシル基を中和するための中和剤(A-6)を反応させることにより得られるものである。 【0013】 ここで、親水性化合物(A-1)としては、分子内に少なくとも1個以上の活性水素を有し、かつ、カルボン酸塩あるいはカルボキシル基を少なくとも1個有する親水性化合物であれば公知公用の化合物が使用でき、特に次の具体例に限定されるものではない。具体的化合物としては、2,2-ジメチロ-ルプロピオン酸、2,2-ジメチロ-ルブタン酸、2,2-ジメチロ-ル酪酸、2,2-ジメチロ-ル吉草酸、ジオキシマレイン酸、2,6-ジオキシ安息香酸、3,4-ジアミノ安息香酸等のカルボン酸含有化合物およびこれらの誘導体またはこれらを共重合させて得られるポリエステルポリオ-ル及びポリエーテルポリオール等が挙げられ、これらは単独でも、併用でもよい。さらに、これらの親水性化合物に加えて、本発明の効果を低減させない範囲で、分子量が300?20000のポリオキシエチレングリコ-ル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体グリコ-ルまたはそのモノアルキルエ-テル等のノニオン基含有化合物、あるいはスルホン酸基、リン酸基含有の親水性化合物を併用しても差し支えない。 【0014】 また、有機ポリイソシアネ-ト化合物(A-2)の具体例としては、フェニレンジイソシアネ-ト、トリレンジイソシアネ-ト、ジフェニルメタンジイソシアネ-ト、ナフタレンジイソシアネ-ト等の芳香族ジイソシアネ-トやヘキサメチレンジイソシアネ-ト、リジンジイソシアネ-ト、シクロヘキサンジイソシアネ-ト、イソホロンジイソシアネ-ト、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネ-ト、キシリレンジイソシアネ-ト、テトラメチルキシリレンジイソシアネ-ト等の脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネ-トが挙げられるが、これらの具体例によって何等限定されるものではない。また、これらは単独で使用しても構わないし、2種以上を同時に使用しても何等問題はない。 【0015】 (A-3)のポリオ-ル化合物としては、数平均分子量が300?10000、好ましくは500?5000の高分子ポリオ-ルであり、例えば、ポリエステルポリオ-ル、ポリエ-テルポリオ-ル、ポリカ-ボネ-トポリオ-ル、ポリアセタ-ルポリオ-ル、ポリアクリレ-トポリオ-ル、ポリエステルアミドポリオ-ル、ポリチオエ-テルポリオ-ル、ポリブタジエン系等のポリオレフィンポリオ-ル等が挙げられる。 【0016】 ここで、前記ポリエステルポリオ-ルとしては、エチレングリコ-ル、プロピレングリコ-ル、1,3-プロパンジオ-ル、1,4-ブタンジオ-ル、1,5-ペンタンジオ-ル、1,6-ヘキサンジオ-ル、ネオペンチルグリコ-ル、1,8-オクタンジオ-ル、ジエチレングリコ-ル、トリエチレングリコ-ル、テトラエチレングリコ-ル、ポリエチレングリコ-ル(分子量300?6000)、ジプロピレングリコ-ル、トリプロピレングリコ-ル、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4-シクロヘキサンジオ-ル、1,4-シクロヘキサンジメタノ-ル、ビスフェノ-ルA、水素添加ビスフェノ-ルA、ハイドロキノンおよびそれらのアルキレンオキシド付加体等のグリコ-ル成分と、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-p,p′-ジカルボン酸、およびこれらのジカルボン酸無水物あるいはエステル形成性誘導体、p-ヒドロキシ安息香酸、p-(2-ヒドロキシエトキシ)安息香酸およびこれらのヒドロキシ安息香酸のエステル形成性誘導体等の酸成分とから脱水縮合反応によって得られるポリエステルの他にε-カプロラクトン等の環状エステル化合物開環重合反応によって得られるポリエステルおよびこれらの共重合ポリエステル等が挙げられる。 【0017】 また、前記ポリエ-テルポリオ-ルとしては、エチレングリコ-ル、ジエチレングリコ-ル、トリエチレングリコ-ル、プロピレングリコ-ル、トリメチレングリコ-ル、1,3-ブタンジオ-ル、1,4-ブタンジオ-ル、1,6-ヘキサンジオ-ル、ネオペンチルグリコ-ル、グリセリン、トリメチロ-ルエタン、トリメチロ-ルプロパン、ソルビト-ル、蔗糖、アコニット糖、トリメリット酸、ヘミメリット酸、リン酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリイソプロパノ-ルアミン、ピロガロ-ル、ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタル酸、1,2,3-プロパントリチオ-ル等の活性水素原子を少なくとも2個以上有する化合物の1種または2種以上を開始剤としてエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレン等のモノマ-の1種または2種以上を常法により付加重合させたものが挙げられる。 【0018】 さらに、ポリカ-ボネ-トポリオ-ルとしては、1,4-ブタンジオ-ル、1,6-ヘキサンジオ-ル、ジエチレングリコ-ル等のグリコ-ルとジフェニルカ-ボネ-ト、ホスゲンとの反応によって得られる化合物が挙げられる。尚、上述のポリオール化合物に関する具体例によって本発明が何等限定されるものではない。また、これらは単独で使用しても構わないし、2種以上を同時に使用しても何等問題はない。 【0019】 以上のポリオ-ル化合物のうち、ポリエーテル系ポリオ-ルまたはポリカーボネート系ポリオ-ルが表皮層形成後の耐水性及び耐久性の点で好ましい。 【0020】 (A-4)の低分子量ポリヒドロキシル化合物の具体例としては、分子量300以下の分子内に少なくとも2個以上の水酸基を含有する化合物で、例えば、ポリエステルポリオ-ルの原料として用いたグリコ-ル成分、グリセリン、トリメチロ-ルエタン、トリメチロ-ルプロパン、ソルビト-ル、ペンタエリスリト-ル等が挙げられるが、これらの具体例によって何等限定されるものではない。また、これらは単独で使用しても構わないし、2種以上を同時に使用しても何等問題はない。 【0021】 ポリアミン系鎖伸長剤(A-5)としては、エチレンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、イソホロンジアミン、4,4′-ジシクロヘキシルメタンジアミン、3,3′-ジメチル-4,4′-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、トリエチレンテトラアミン等が挙げられるが、これらの具体例によって何等限定されるものではない。また、これらは単独で使用しても構わないし、2種以上を同時に使用しても何等問題はない。 【0022】 更に、中和剤(A-6)としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の不揮発性塩基や、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノ-ルアミン、ジイソプロピルアミノエタノ-ル、トリエタノ-ルアミン等の三級アミン類、アンモニア等の揮発性塩基が挙げられ、これらは単独でも構わないし、2種以上を同時に使用しても構わない。尚、この中で特に揮発性塩基が好ましい。また、中和期としてはカルボキシル基含有親水化合物(A-1)がウレタン化反応を起こす反応前、反応中、反応後のいずれでも差し支えない。 【0023】 ポリウレタン水性分散体の合成方法は、特に制限がなく、本発明の効果を損なわない限り公知慣用の方法でよく、反応途中で有機溶剤を使用した場合には、ウレタン化反応終了後に減圧下除去する。また、水性ウレタン樹脂は造膜性改善のために例えばアルキレングリコ-ル誘導体、あるいは脂肪族ジカルボン酸のジアルキルエステル、N-メチル-2-ピロリドン等のような造膜助剤を含有させてもよいが、その使用量は必要最低限に留めるべきである。 【0024】 本発明において使用される架橋剤(B)は、水性ポリウレタン樹脂分散体(A)と反応するものであれば公知公用の化合物を使用することができ、ポリイソシアネート化合物(B-1)あるいはポリカルボジイミド化合物(B-2)が好適である。その中、無溶剤であるものがより好ましい。更に水性ポリウレタン樹脂分散体(A)への分散性を有するものが最も好ましく、水に分散性を有する化合物あるいはその水分散体からなる架橋剤、或いは水性ポリウレタン樹脂分散体(A)のポリウレタン樹脂が分散媒として作用する場合には、水に対して非分散性である架橋剤も用いることが出来る。 【0025】 本発明で架橋剤として使用し得るポリイソシアネート化合物(B-1)としては、水に対して非分散性である化合物及び水分散性を有する化合物があげられ、例えばポリイソシアネート単独、あるいはこれらのイソシアヌレート型あるいはビューレット型、アロファネート型の少なくとも3官能以上のポリイソシアネート化合物、2官能以上のポリオール等の活性水素含有化合物との反応により得られる末端イソアネート基含有ウレタンプレポリマー等の実質的に疎水性のポリイソシアネート類;カルボキシル基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、あるいはノニオン性親水基含有化合物をポリイソシアネート類に反応して得られる水分散性ポリイソシアネート類;並びにこれらの混合物が挙げられる。この内、耐水性向上の面からは脂肪族或いは脂環族ポリイソシアネートからなり、水に対して非分散性で水性ポリウレタン樹脂分散体(A)には分散するポリイソシアネートが好ましい。また水性ポリウレタン樹脂分散性体(A)への分散性の面からはノニオン性親水基含有化合物を反応して得られる脂肪族或いは脂環族ポリイソシアネートからなる水分散性ポリイソシアネートが好ましい。 【0026】 また、ポリカルボジイミド化合物(B-2)としては、水に対して非分散性である化合物及び分散性を有する化合物があげられ、例えば1種または2種以上のイソシアネートからなる疎水性ポリカルボジイミド類;スルホン酸基含有化合物、あるいはノニオン性親水基含有化合物をカルボジイミド類に反応して得られる水分散性のポリカルボジイミド類;並びにこれらの混合物が挙げられる。この内、耐水性向上の面からはジシクロヘキシルメタンジイソシアネート或いはテトラメチルキシリレンジイソシアネートからなり、水に対して非分散性で水性ポリウレタン樹脂分散体(A)には分散するポリカルボジイミドが好ましい。また水性ポリウレタン樹脂分散性体(A)への分散性の面からはノニオン性親水基含有化合物を反応して得られるジシクロヘキシルメタンジイソシアネート或いはテトラメチルキシリレンジイソシアネートからなる水分散性ポリカルボジイミドが好ましい。尚、上記ポリイソシアネート化合物、及びポリカルボジイミド化合物は同種、異種を問わず、2種以上を併用しても構わない。 【0027】 本発明での架橋剤(B)は、最終的に得られる繊維積層体表皮層、特に耐水性、耐摩耗性等の表皮耐久性を発現するために、前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)と反応することにより得られる樹脂の流動開始温度が140℃以上になるように配合することが望ましい。特に好ましくは耐水性の点で160℃以上であることが望ましい。ここで言う流動開始温度とは、樹脂が溶融し流動を開始する温度であり、島津フロ-テスタ-(島津製作所製、CFT-500A)で、口径1mm、長さ1mmのダイスを用いて、荷重98N、昇温速度=3℃/分で測定した値を言う。 【0028】 かかる流動開始温度にするための前記水性ポリウレタン樹脂分散体(A)と、架橋剤(B)との配合比は、100/0.1?100/50(固形分重量比)が好ましく、更には100/1?100/25(固形分重量比)が特に好ましい。 【0029】 本発明の水性樹脂組成物には会合型増粘剤(C)を併用するのが好ましい。かかる会合型増粘剤(C)は、繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を増粘し、加工適性を付与するために使用される。このような会合型増粘剤は公知であり、例えば特開昭54-80349号公報、特開昭58-213074号公報、特開昭60-49022号公報、特公昭52-25840号公報、特開平9-67563号公報、特開平9-71766号公報等に記載されたウレタン系の会合型増粘剤や、特開昭62-292879号公報、特開平10-121030号公報記載のノニオン性ウレタンモノマーを会合性モノマーとして他のアクリルモノマーと共重合して得られる会合性増粘剤、あるいはWO9640815記載のアミノプラスト骨格を有する会合型増粘剤等が挙げられる。 【0030】 これら会合型増粘剤の市販品の例としては、例えばRHEOX社のRHEOLATE 216,266、Bernd Schwegmann社製のSchwego Pur8020,Pur8050、MUNZINGCHEMIE GMBH社製のTafigel PUR40,PUR45,PUR60、BASF社製のCollacral PU85、ヘキスト社製のBORCHIGEL L75N、ローム・アンド・ハース社製のプライマル QR-708,RM-825,RM-870,RM-1020,RM-2020NPR,SCT-200,SCT-270,RM-8W,RM-4,TT-935、第一工業製薬社製のDKシックナーSCT-275、旭電化社製のアデカノールUH-420,UH540,UH-550,UH-750、サンノプコ社製のSNシックナー603,612,A-803,A-812,A-814、三洋化成社製のエレミノールN62、ビスライザーAP-2、Sud-Chemie社製のOPTIFLO L150,M210,H400等が挙げられる。 【0031】 これらの会合型増粘剤の中でも、特に末端に疎水基を含有し、分子鎖中にウレタン結合を含有するウレタン系の会合型増粘剤が好ましく、具体的には下記構造式(1)?(6)を有する会合型増粘剤、あるいはこれらの反応混合物が挙げられる。 【0032】 (1)R1-X-(PEG-X-R2-X)m-PEG-X-R1’ (R1,R1’:炭素数8?36のアルキル基あるいは芳香環を有する炭化水素基でR1とR1’は同一でも異なっていても良い、R2:NCO基を除く炭素数6?36のジイソシアネート残基、X:ウレタン結合、PEG:分子量1,500?33,000のポリエチレングリコール残基、m:0以上の整数) 【0033】 (2)R1-Y-R2-(X-PEG-X-R3)m-X-PEG-X-R2-Y-R1’ (R1,R1’:炭素数8?36のアルキル基あるいは芳香環を有する炭化水素基でR1とR1’は同一でも異なっていても良い、R2,R3:NCO基を除く炭素数6?36のジイソシアネート残基でR2とR3は同一でも異なっていても良い、X:ウレタン結合、Y:ウレタン結合あるいはウレア結合、PEG:分子量1,500?33,000のポリエチレングリコール残基、m:0以上の整数) 【0034】 (3) R1-(OA)p-X-R2-(X-PEG-X-R3)m-X-(AO)q-R1’ (R1,R1’:炭素数8?36のアルキル基あるいは芳香環を有する炭化水素基でR1とR1’は同一でも異なっていても良い、R2,R3:NCO基を除く炭素数6?36のジイソシアネート残基でR2とR3は同一でも異なっていても良い、X:ウレタン結合、A:炭素数2?4の炭化水素で少なくともエチレンを含む炭化水素残基、m:0以上の整数、p,q:1?200の整数でpとqは同一でも異なっていても良い) 【0035】 (4) 【化1】 【0036】 (R1,R1’,R1”:炭素数8?36のアルキル基あるいは芳香環を有する炭化水素基で、R1、R1’とR1”は同一でも異なっていても良い、R4:NCO基を除く多官能ポリイソシアネート残基、A:炭素数2?4の炭化水素で少なくともエチレンを含む炭化水素残基、X:ウレタン結合、i,j,k:0以上の整数でかつ(i+j+k)が3以上の整数、p,q,r:1?200の整数で、p、qとrは同一でも異なっていても良い) 【0037】 (5) 【化2】 【0038】 (R1,R1’,R1”:炭素数8?36のアルキル基あるいは芳香環を有する炭化水素基で、R1、R1’とR1”は同一でも異なっていても良い、R4:NCO基を除く多官能ポリイソシアネート残基、A:炭素数2?4の炭化水素で少なくともエチレンを含む炭化水素残基、X:ウレタン結合、Y:ウレタン結合あるいはウレア結合、i,j,k:0以上の整数でかつ(i+j+k)が3以上の整数、p,q:1?200の整数で、pとqは同一でも異なっていても良い) 【0039】 (6) 【化3】 【0040】 (R1,R1’,R1”:炭素数8?36のアルキル基あるいは芳香環を有する炭化水素基で、R1、R1’とR1”は同一でも異なっていても良い、R5:活性水素を除く多官能ポリオールあるいはポリアミン残基、A:炭素数2?4の炭化水素で少なくともエチレンを含む炭化水素残基、X:ウレタン結合、i,j,k:0以上の整数でかつ(i+j+k)が3以上の整数、p,q,r:1?200の整数:で、p、qとrは同一でも異なっていても良い) 【0041】 更に本発明の水系ウレタン樹脂組成物の効果的な増粘性を得るためには、会合型増粘剤の末端の疎水基が、特に下記構造式(X)で表される骨格を有する事が好ましい。 Ra-Ph- (X) (R:炭素数1?9のアルキル基、アリール基あるいはアルキルアリール基 a:1?3の整数 Ph:フェニル環残基) 具体的には、ノニルフェニル、ジノニルフェニル、オクチルフェニル、ジオクチルフェニル等のアルキルフェニル基;モノスチレン化フェニル、ジスチレン化フェニル、トリスチレン化フェニル、モノスチレン化メチルフェニル、ジスチレン化メチルフェニル、及びこらの混合物を含むスチレン化フェニル基;トリベンジルフェニル等のベンジルフェニル基;p-(α-クミル)フェニル基等が挙げられ、これら単独で使用されるか、あるいは併用しても差し支えない。 【0042】 本発明の会合型増粘剤(C)は、増粘性と水分散性の両立を図る為、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル等の有機溶剤を含有するものもある。しかし好ましくは有機溶剤を極力少なく或いは全く含まず、水分散性のものが良好で、且つ少量の添加で増粘効果が高いものである。 【0043】 またこれらの会合型増粘剤(C)の使用量は、固形分比で水系ウレタン樹脂100重量部に対して0?10重量部である。会合型増粘剤の使用量が10重量部を越えると、耐水性が低下し不適当である。 【0044】 本発明の水性樹脂組成物にはレベリング剤(D)を併用するのが好ましい。かかるレベリング剤(D)としては特に限定はなく公知慣用のものが使用出来、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル系、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル系、ソルビタン脂肪酸エステル系、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル系、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル系、脂肪酸ジエタノールアミド系、ショ糖エステル系等のノニオン型炭化水素系界面活性剤、ジアルキルスルホコハク酸エステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート系、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等のアニオン型炭化水素系界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩系等のカチオン型炭化水素系界面活性剤、ジメチルアルキルラウリルベタイン、アルキルグリシン、アミドベタイン型等の両性炭化水素系界面活性剤、イミダゾリン型ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等の高分子型炭化水素系界面活性剤、アセチレングリコール系の特殊界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等を挙げることが出来、これらは単独で使用してもよく2種以上を同時に用いても構わないが、酸価が5?40である乳化剤非含有のポリウレタン水性ポリウレタン樹脂分散体(A)及び/又は該水性ポリウレタン樹脂分散体(A)と反応する架橋剤(B)の配合物に添加することにより効果的に表面張力を低下させるものが好ましく、特に表面張力を30mN/m以下と出来るものが好ましい。 【0045】 かかる表面張力にするための前記レベリング剤(D)の配合比は0.001?1%(見かけ重量比)が好ましく、効果の発現する範囲内においてブリードアウトを避ける為、可能な限り少量とすることが好ましい。 【0046】 本発明の繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、水に加えてその他の水性分散体や水分散液、例えば酢ビ系、エチレン酢ビ系、アクリル系、アクリルスチレン系等のエマルジョン;スチレン・ブタジエン系、アクリロニトリル・ブタジエン系、アクリル・ブタジエン系等のラテックス;ポリエチレン系、ポリオレフィン系等のアイオノマー;ポリエステル、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリアミド、エポキシ樹脂等の各種水性分散体、水分散液を併用してもよい。 【0047】 また加工適性付与或いは表皮層性能向上の為、各種添加剤を添加することもでき、例えば、ウレタン化触媒;酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線防止剤等の各種安定剤;鉱物油系、シリコーン系等の消泡剤、可塑剤、顔料等の着色剤、可使時間延長剤等を配合して使用することも出来る。 【0048】 本発明の繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物の表皮層形成方法は、従来公知のいずれの方法でもよい。例えば▲1▼離型紙に塗布し、水分を蒸発させることにより表皮層を形成し、更にその上に接着剤を塗布し、そのまま繊維基材と貼り合わせて水分を蒸発、あるいは水分蒸発後に繊維基材と貼り合わせる離型紙転写法▲2▼離型紙に塗布し、水分を蒸発させることにより表皮層を形成し、熱により表皮層を繊維基材と貼り合わせる熱転写法▲3▼繊維基材の表面に直接スプレーするスプレー法▲4▼グラビアコーター、ナイフコーター、コンマコーター、エアナイフコーター等にて繊維基材に塗布するダイレクトコート法等が挙げられるが、表皮層の性能面より離型紙転写法が最も好ましい。塗布厚みは、乾燥後で5?100μmとなればよく、好ましくは5?50μmである。 【0049】 上記表皮層形成方法に於ける離型紙転写法において使用される接着剤は表皮層と繊維基材を貼り合わせることの出来るものであればいずれでも良いが、特に性能面よりポリウレタン接着剤が好ましい。例えば一液型熱転写ポリウレタン樹脂、二液型ポリウレタン樹脂とポリイソシアネート系架橋剤、反応性ホットメルト型ポリウレタン樹脂、湿気硬化型ポリウレタン樹脂等が挙げられる。また本発明の主旨から上記のポリウレタン接着剤は水性あるいは無溶剤とすることが望ましい。 【0050】 本発明の繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物の乾燥方法は、従来公知の乾燥方法であれば広く使用することができる。例えば、熱風乾燥機、赤外線照射式乾燥機、マイクロ波照射式乾燥機、あるいは、これらのうち少なくとも2種類以上を併用した乾燥装置等を挙げることができる。乾燥条件は、該繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物の水分が蒸発し、架橋が起きるのに必要な条件であれば特に限定はなく、一般に80?150℃で10秒?2分間程度乾燥される。ただし過乾燥は、表皮層、接着層、繊維基材の熱劣化、変質を起こす。また乾燥不足の場合は水分が十分に蒸発せず、表皮層の離型紙からの浮き等の外観不良、架橋不足による強度低下等の問題を引き起こす。100?130℃で30秒?1分間程度の乾燥が好ましい。 【0051】 また本発明により得られた繊維積層体は、更に、表面処理、揉み加工等の後加工を施しても構わない。 【0052】 本発明の繊維積層体表皮形成用水性樹脂組成物は、酸価が5?40のポリウレタン樹脂であり、動的光散乱法で測定しMARQUADT法で解析した平均粒径が150nm以下である乳化剤非含有の水性ポリウレタン樹脂分散体(A)と該水性ポリウレタン樹脂分散体(A)と反応する架橋剤(B)を基本成分とし、好適には(A)と(B)が反応してなる樹脂の流動開始温度が140℃以上であり、これに会合型増粘剤(C)を加えることができ、更に会合型増粘剤(C)の有無に関わらずレベリング剤(D)を加えることができ、特に、架橋剤(B)の成分が無溶剤で水分散体(A)に分散性を有するポリイソシアネート化合物(B-1)あるいはポリカルボジイミド化合物(B-2)からなるものを用いた場合には、DMFなどの有機溶剤を極力あるいは全く含まないことによるメリットがあり、しかも有機溶剤系と同等の性能の繊維積層体表皮層、特に人工皮革を得る為に適したものである。 【0053】 而して、得られる人工皮革は、車両、家具、衣料、靴、鞄、袋物、サンダル、雑貨等に使用することができる。 【0054】 【実施例】 以下に本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。実施例中の「部」は、「重量部」を示す。 【0055】 繊維基材(以下基材という)の作成例 【0056】 (基材1)市販のナイロントリコット起毛布 【0057】 (基材2)目付100g/m^(2)のポリエステル不織布にハイドラン WLI-602(水分散性ポリウレタン樹脂 大日本インキ化学工業(株)製)/ハイドランアシスター T2(増粘剤 大日本インキ化学工業(株)製)/ダイラック HP-9451(水分散性黒顔料 大日本インキ化学工業(株)製)/水=62.5/0.5/2/35(部)で配合した配合液を含浸し、マングルロールでウエットピックアップ 150%になるように絞った。絞り後直ちに95℃のスチーム下に1分間暴露しポリウレタン樹脂を凝固させた。次いで100℃の乾燥機で30分間乾燥した。 【0058】 (基材3)市販のテトロン/レーヨン起毛布を10%DMF水溶液に浸漬し、ウエットピックアップが80%となるように絞り前処理を行った。その起毛布上にクリスボン 8006HV(有機溶剤系ポリウレタン樹脂 大日本インキ化学工業(株)製)/クリスボン MP-870(有機溶剤系ポリウレタン樹脂 大日本インキ化学工業(株)製)/クリスボン アシスター SD-7(湿式加工用成膜助剤 大日本インキ化学工業(株)製)/クリスボンアシスター SD-11(湿式加工用成膜助剤)/ダイラック L-5442(黒顔料 大日本インキ化学工業(株)製)/DMF=70/30/1/1/1/100(部)で配合した配合液を1,000g/m^(2)塗布した。塗布後、直ちに30℃に調整した10%DMF水溶液中に5分間浸漬し、ポリウレタン樹脂を成膜させた。次いで60℃の温水中で、DMFが完全に抽出されるまで20分間洗浄した。その後マングルロールで絞り、120℃の乾燥機で20分間乾燥した。 【0059】 (合成例1) ポリテトラメチレンエーテルグリコール(分子量2000)500部、2,2-ジメチロ-ルプロピオン酸36部、ネオペンチルグリコール18部、イソホロンジイソシアネ-ト206部、80%水加ヒドラジン13部、トリエチルアミン27部を反応させることにより、不揮発分(%)=35、酸価=20、粒子径=50nm、流動開始温度=100℃の水性ポリウレタン分散体を得た。 【0060】 (合成例2) ポリカーボネートジオール(分子量2000)500部、2,2-ジメチロ-ルプロピオン酸32部、イソホロンジイソシアネ-ト147部、80%水加ヒドラジン9部、トリエチルアミン25部を反応させることにより、不揮発分(%)=35、酸価=20、粒子径=50nm、流動開始温度=100℃の水性ポリウレタン分散体を得た。 【0061】 (合成例3) ポリテトラメチレンエーテルグリコール(分子量2000)500部、ネオペンチルグリコール45部、イソホロンジイソシアネ-ト203部、80%水加ヒドラジン13部からなるポリウレタンをノニルフェノール型乳化剤10部により分散させることにより、不揮発分(%)=35、酸価=0、粒子径=320nm、流動開始温度=100℃の水性ポリウレタン分散体を得た。 【0062】 (合成例4) ポリテトラメチレンエーテルグリコール(分子量2000)500部、2,2-ジメチロ-ルプロピオン酸112部、イソホロンジイソシアネ-ト323部、80%水加ヒドラジン21部、トリエチルアミン84部を反応させることにより、不揮発分(%)=30、酸価=50、粒子径=30nm、流動開始温度=120℃の水性ポリウレタン分散体を得た。 【0063】 (実施例1) 合成例1の水性ポリウレタン分散体/DILAC HS-7210(水分散性白顔料 大日本インキ化学工業(株)製)/ハイドラン アシスター C1(水分散性ポリイソシアネート系架橋剤 大日本インキ化学工業(株)製)/ハイドラン アシスター T1(会合型増粘剤 大日本インキ化学工業(株)製)=100/10/4/0.5(部)で配合した繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物を離型紙(DN-AT-AP-Tフラット 大日本印刷。味の素製)上に塗布厚100μm (wet)で塗布した。直ちにワーナーマチス(乾燥機)を用い70℃で1分間予備乾燥し、その後120℃で2分間乾燥を行い、水分を完全に蒸発させ、ポリウレタン樹脂フィルム(以下表皮層という)を得た。その上にハイドラン WLA-311(水分散性ポリウレタン樹脂 大日本インキ化学工業(株)製)/ハイドラン アシスター C1/ハイドラン アシスター T1=100/10/1(部)で配合したポリウレタン接着剤配合液を塗布厚120μm(wet)で塗布した。塗布後ワーナーマチスを用い70℃で1分間乾燥を行い、乾燥直後に基材1の貼り合わせを行った。その後120℃で2分間キュアリングを行い、更に40℃で2日間エージングを行い、離型紙から剥離し、繊維積層体を得た。尚、本繊維積層体表皮形成用水性樹脂組成物反応後の皮膜流動開始温度を測定したところ、190℃であった。 【0064】 (実施例2) 貼り合わせに基材2を使用した以外は、実施例1と同様に加工を行った。 【0065】 (実施例3) 貼り合わせに基材3を使用した以外は、実施例1と同様に加工を行った。 【0066】 (実施例4) 繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物のポリウレタン水性分散体に合成例2を用いた以外は、実施例1と同様に加工を行った。尚、本繊維積層体表皮形成用水性樹脂組成物反応後の皮膜流動開始温度を測定したところ、195℃であった。 【0067】 (実施例5) 繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物のハイドラン アシスター C1配合量を2部とした以外は、実施例1と同様に加工を行った。尚、本繊維積層体表皮形成用水性樹脂組成物反応後の皮膜流動開始温度を測定したところ、160℃であった。 【0068】 (実施例6) 繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物にハイドラン アシスター W1(レベリング剤)を0.2部追加した以外は、実施例1と同様に加工を行った。尚、本繊維積層体表皮形成用水性樹脂組成物反応後の皮膜流動開始温度を測定したところ、190℃であった。 【0069】 (実施例7) 繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物のハイドラン アシスター C1をバーノックDN-980-S(無溶剤ポリイソシアネート 大日本インキ化学工業(株)製)に変えた以外は、実施例1と同様に加工を行った。尚、本繊維積層体表皮形成用水性樹脂組成物反応後の皮膜流動開始温度を測定したところ、190℃であった。 【0070】 (実施例8) 繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物のハイドラン アシスター C1 4部をハイドラン アシスター C4(水分散体ポリカルボジイミド大日本インキ化学工業(株)製)8部に変えた以外は、実施例1と同様に加工を行った。尚、本繊維積層体表皮形成用水性樹脂組成物反応後の皮膜流動開始温度を測定したところ、220℃であった。 【0071】 (比較例1) 繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物の水性ポリウレタン分散体に合成例3を用いた以外は、実施例1と同様に加工を行った。尚、本繊維積層体表皮形成用水性樹脂組成物反応後の皮膜流動開始温度を測定したところ、187℃であった。 【0072】 (比較例2) 繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物の水性ポリウレタン分散体に合成例4を用いた以外は、実施例1と同様に加工を行った。尚、本繊維積層体表皮形成用水性樹脂組成物反応後の皮膜流動開始温度を測定したところ、191℃であった。 【0073】 (比較例3) 繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物のハイドラン アシスター C1を無添加とした以外は、実施例1と同様に加工を行った。尚、本繊維積層体表皮形成用水性樹脂組成物反応後の皮膜流動開始温度を測定したところ、98℃であった。 【0074】 これらの評価結果を以下の表に示す。 【0075】 【表1】 【表2】 【表3】 【0076】 〈評価方法〉 造膜性: 離型紙上に配合液を100g/m^(2)塗布し、ワーナーマチスにて70℃・2分、120℃・2分加熱し、水分蒸発後のフィルムの状態を観察した。 〈判定〉○:クラック無し ×:クラック有り 【0077】 耐熱水性: 離型紙上に配合液を100g/m^(2)塗布し、ワーナーマチスにて70℃・2分、120℃・2分加熱し、水分蒸発後のフィルムを得た。 そのフィルムを95℃の熱水に30分間浸漬し、浸漬後のフィルムの状態を観察した。 〈判定〉○:溶解せず ×:溶解 【0078】 耐摩耗性: 実施例・比較例で得られた加工布の表面を、染色堅牢度試験(JIS L-0823)で学振型摩耗試験を行い、目視にて表面の摩耗状態を観察した。荷重は500gである。 〈判定〉○:摩耗せず ×:摩耗 【0079】 耐ブリードアウト性: 実施例・比較例で得られた加工布を、100℃の乾燥機中に1週間静置し、表面のブリード物を観察した。 〈判定〉○:ブリードなし ×:ブリードあり 【0080】 以上の実施例・比較例より、本発明の繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物は、造膜性が良好で、耐熱水性、耐摩耗性、耐ブリードアウト性に優れることを確認した。 【0081】 【発明の効果】 本発明は、有機溶剤を極力あるいは全く含まず、造膜性が良好で、耐水性、耐摩耗性、耐ブリードアウト性に優れる表皮層を形成する繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物及びそれを用いた人工皮革を提供することができる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2009-06-15 |
結審通知日 | 2009-06-18 |
審決日 | 2009-07-02 |
出願番号 | 特願2001-313863(P2001-313863) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
YA
(D06N)
P 1 113・ 113- YA (D06N) P 1 113・ 537- YA (D06N) P 1 113・ 16- YA (D06N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐野 健治 |
特許庁審判長 |
唐木 以知良 |
特許庁審判官 |
坂崎 恵美子 橋本 栄和 |
登録日 | 2007-06-29 |
登録番号 | 特許第3975716号(P3975716) |
発明の名称 | 繊維積層体表皮層形成用水性樹脂組成物及びそれを用いた人工皮革 |
代理人 | 吉田 勝廣 |
代理人 | 河野 通洋 |
代理人 | 梶原 克哲 |
代理人 | 近藤 利英子 |
代理人 | 河野 通洋 |