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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1204821
審判番号 不服2008-6928  
総通号数 119 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-11-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-03-21 
確定日 2009-10-09 
事件の表示 特願2003- 49280「有機感光体、画像形成装置、画像形成方法及び画像形成ユニット」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月16日出願公開、特開2004-258347〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1.手続の経緯
本願は、平成15年2月26日に出願したものであって、平成20年2月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年3月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同年4月4日付けで手続補正がなされた。
さらに平成20年7月23日付けで原審審査官により作成された前置報告書に基づいて、平成21年3月6日付けで審尋がなされたところ、これに対する回答書が同年4月14日に提出されたものである。


第2.平成20年4月4日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年4月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の概要
平成20年4月4日付けの手続補正は、特許請求の範囲の請求項1を以下のとおりとする補正事項を含むものである。
「 導電性基体上に膜厚が3.0μm以上で、アナターゼ形酸化チタンを含有した中間層と、電荷発生層及び該電荷発生層上に電荷輸送層を有しており、該電荷輸送層の膜厚が20?15μm間で、帯電電位を600Vから100Vに減衰させるのに要する露光エネルギー(E_(600/100))の変化率が0.01(μJ/cm^(2)・μm)以下であることを特徴とする有機感光体。」

2.補正の適否の判断
上記補正事項は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である有機感光体の層構成に関して、電荷発生層と電荷輸送層とに加えて、「膜厚が3.0μm以上で、アナターゼ形酸化チタンを含有した中間層」を有することを限定するものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)以下に検討する。

(1)引用刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布されたことが明らかな特開2002-116580号公報(刊行物1)、及び、特開2002-268241号公報(刊行物2)には、以下の事項が記載されている。(下線は、当審において付与した。)

<刊行物1>
(1a)「【0201】以下、実施例及び比較例用の感光体を作製するが、カラー画像評価用(膜厚減耗量測定を兼ねる)として13種類の感光体(1?13)を4本づつ(K、Y、M、Cの各色用)作製した。
【0202】〈感光体1の作製〉
(中間層(UCL)の形成)4本の洗浄済み円筒状アルミニウム基体上に下記塗布液を浸漬塗布法により塗布し、乾燥膜厚が0.3μmのUCLを形成した。
【0203】
UCL塗布液:
ポリアミド樹脂(アミランCM-8000「東レ社製」) 60g
メタノール 1600ml
(CGLの形成)下記塗布液を混合し、サンドミルを用いて10時間分散し、CGMを含有するCGL塗布液を調製した。この塗布液を上記UCL上に浸漬塗布法で塗布し、膜厚0.2μmのCGLを形成した。
【0204】
CGL塗布液:
CGM(Y型チタニルフタロシアニン(Cu-Kα特性X線によるX線回折の最大ピーク角度が2θで27.3)) 60g
シリコーン樹脂溶液(KR5240、15%キシレン-ブタノール溶液、「信越化学社製」) 700g
2-ブタノン 2000ml
(CTLの形成)下記塗布液を混合し、溶解してCTMを含有するCTL塗布液を調製した。この塗布液を前記CGLの上に浸漬塗布法で塗布し、100℃、60分の加熱乾燥を行い、膜厚20μmのCTLを形成した。
【0205】
CTL塗布液:
CTM(4-メトキシ-4′-(4-メチル-α-フェニルスチリル)-トリフェニルアミン) 200g
ビスフェノールZ型ポリカーボネート(ユーピロンZ300:
三菱ガス化学社製) 300g
1,2-ジクロロエタン 2000ml
ヒンダードアミン(例示化合物1) 10g
〈感光体2?8の作製〉CTLのヒンダードアミンを下記の如く変化させた他は感光体1と同様にして感光体2?8をそれぞれ4本づつ作製した。
【0206】
感光体2 例示化合物2
感光体3 例示化合物13
感光体4 例示化合物14
感光体5 例示化合物22
感光体6 例示化合物23
感光体7 例示化合物25
感光体8 例示化合物27
〈感光体9の作製〉5本の洗浄済み円筒状アルミニウム基体上に下記塗布液を浸漬塗布法により塗布し、乾燥膜厚が0.3μmのUCLを形成した。
【0207】
(UCLの塗布液)
ジルコニウムキレート化合物ZC-540(松本製薬(株)) 200g
シランカップリング剤KBM-903(信越化学(株)) 100g
メタノール 700ml
エタノール 300ml
次に、下記CGMを含む塗布液を混合し、サンドミルを用いて10時間分散し、CGL塗布液を調製した。この塗布液を浸漬塗布法により上記UCL上に塗布し、膜厚0.2μmのCGLを形成した。
【0208】
(CGLの塗布液)
CGM(塩化ガリウムフタロシアニン) 60g
シリコーン樹脂溶液(KR5240、15%キシレン-ブタノール溶液:
信越化学社製) 700g
2-ブタノン 2000ml
次に、下記CTMを含む塗布液を混合し、溶解してCTL塗布液を調製し、この塗布液を前記CTLの上に浸漬塗布法で塗布し、100℃、60分の加熱乾燥を行い、膜厚20μmのCTLを形成した。
【0209】
(CTL塗布液)
CTM(4-メトキシ-4′-(4-メチル-α-フェニルスチリル)トリフェニルアミン) 200g
ビスフェノールZ型ポリカーボネート(ユーピロンZ300:
三菱ガス化学社製) 300g
1,2-ジクロロエタン 2000ml
ヒンダードアミン(例示化合物26)
・・・(略)・・・ 」

(1b)「【0209】
・・・・(略)・・・
〈感光体10の作製〉引き抜き加工により得られた4本の円筒状アルミニウム基体上に、下記分散物を作製、塗布し、乾燥膜厚15μmの導電層を形成した。
【0210】
(導電層(PCL)塗布液)
フェノール樹脂 160g
導電性酸化チタン 200g
メチルセロソルブ 100ml
下記中間層塗布液を調製し、この塗布液を上記PCL上に浸漬塗布法で塗布し、乾燥膜厚1.0μmの中間層(UCL)を形成した。
【0211】
(UCL塗布液)
ポリアミド樹脂(アミランCM-8000:東レ社製) 60g
メタノール 1600ml
1-ブタノール 400ml
下記塗布液を混合し、サンドミルを用いて10時間分散し、下記CGMを含有するCGL塗布液を調製し、この塗布液を前記中間層の上に浸漬塗布法で塗布し、乾燥膜厚0.2μmのCGLを形成した。
【0212】
(CGL塗布液)
CGM(Y型チタニルフタロシアニン) 60g
シリコーン樹脂溶液(KR5240、15%キシレン-ブタノール溶液:
信越化学社製) 700g
2-ブタノン 2000ml
下記塗布液を混合し、溶解して下記CTMを含有するCTL塗布液を調製した。この塗布液を前記CGL上に浸漬塗布法で塗布し、膜厚20μmのCTLを形成した。
【0213】
(CTL塗布液)
CTM(4-メトキシ-4′-(4-メチル-α-フェニルスチリル)トリフェニルアミン) 200g
ビスフェノールZ型ポリカーボネート(ユーピロンZ300:
三菱ガス化学社製) 300g
1,2-ジクロロエタン 2000ml
ヒンダードアミン(例示化合物22) 20g
〈感光体11の作製〉感光体1と同様の感光体の作製過程で、CTLまで作製し、該CTL上に市販の硬化性シロキサン樹脂KP-854(信越化学工業社製)60質量部、イソプロパノール60質量部を加えて、均一に溶解し、これにジヒドロキシメチルトリフェニルアミン6質量部、ヒンダードアミン(例示化合物1)0.3質量部を加えて混合し、この溶液を乾燥膜厚1μmの表面層となるように塗布し、120℃・1時間の乾燥を行い感光体11を作製した。」

(1c)「【0245】〈評価〉各実施例、比較例において、表1及び表2に示すトナー(現像剤)及び感光体(各実施例(実施例1?14)、比較例(比較例1?3)のそれぞれに同一処方の感光体を4本づつ使用)を、Y、M、C、Kの4色画像形成ユニットを有する図6記載のタンデム型デジタル複写機に搭載して画像形成テストを行った。使用原稿は、白地部、べた黒部、及びレッド、グリーン、ブルーのソリッド画像部、文字画像部を有するA4サイズの原稿であり、30℃、80%RHの高温高湿下、中性紙を用いて10万回の画像出しを行った。評価は初期、及び10万回目の画像で行った。結果を表2に示した。
【0246】(画像形成ユニットのプロセス条件)
帯電手段:スコロトロン帯電器
像露光手段:半導体レーザー
現像手段:感光体と現像剤が接触する2成分接触反転現像
クリーニング条件:感光体に対して硬度70°、反発弾性34%、厚さ2(mm)、自由長7mmのクリーニングブレードをカウンター方向に線圧20(g/cm)となるように重り荷重方式で当接した。
【0247】(1)画像評価
画像濃度、カブリの測定は、10万回転目の画像の白地部、べた黒部を濃度計「RD-918」(マクベス社製)を使用し、画像濃度については絶対濃度で、カブリについては紙をゼロとした相対濃度で測定した。画像ボケはその有無を目視で評価した。
【0248】a.画像濃度
◎・・・1.4以上/良好
○・・・1.0以上?1.4未満/実用上問題ないレベル
×・・・1.0未満/実用上問題あり
b.カブリ
◎・・・0.001未満/良好
○・・・0.001以上?0.003未満/実用上問題がないレベル
×・・・0.003以上/実用上問題あり
c.画像ボケ(文字部の画像で画像ボケを評価)
◎・・・10万枚中5枚以下の発生/良好
○・・・10万枚中6枚?20枚の発生/実用上問題がないレベル
×・・・10万枚中21枚以上の発生/実用上問題あり
d.クリーニング性
10万プリント後にA3の反面黒地原稿(反面は白地)を用い、連続10プリントの画像出しを行った。スリヌケは白地部の目視観察により判定した。
【0249】
◎・・・スリヌケ発生なし/良好
△・・・ブレードのバウンディングによる軽微な黒スジ発生/実用上問題がないレベル
×・・・顕著な黒スジの場合/実用上問題あり
e.黒ポチ評価
黒ポチの評価は、画像解析装置「オムニコン3000形」(島津製作所社製)を用いて黒ポチの粒径と個数を測定し、黒ポチの粒径と個数を測定し、0.1mm以上の黒ポチが100cm^(2)当たり何個あるかで判定した。その他切り傷等の大きなものは目視判定した。黒ポチ評価の判定基準は、下記に示す通りである。
【0250】黒ポチ(100万回転目の形成画像)
◎・・・1個以下/A4紙1枚/良好
○・・・2?3個/A4紙1枚/実用上問題がないレベル
×・・・4個以上/A4紙1枚/実用上問題あり
(2)各感光体の膜厚減耗量の測定
10万回転目の絵だし終了後、各感光体の初期に対する膜厚減耗量Δd1、Δd2、Δd3、Δd4(μm)を測定し、それらの平均値Δd(μm)を求めた。
【0251】感光体膜厚測定法:感光層の膜厚は均一膜厚部分をランダムに10ケ所測定し、その平均値を感光層の膜厚とする。膜厚測定器は渦電流方式の膜厚測定器EDDY560C(HELMUT FISCHER GMBTE CO社製)を用いて行った。」

(1d)「【0252】
【表2】



上記の摘記事項をまとめると、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。(以下、「刊行物1発明」という。)
「円筒状アルミニウム基体上に、乾燥膜厚0.3μmの中間層、電荷発生層、及び、乾燥膜厚が20μmの電荷輸送層を順次積層してなる有機感光体であって、10万回の画像出しの後においても、感光層の膜厚減耗量が、2.0?4.0μmに過ぎず、画像濃度が高く維持され、カブリ、画像ボケがなく、クリーニング性が良好に保持され、100万枚の画像出しの後においても黒ポチの発生がない、有機感光体。」

<刊行物2>
(2a)「【0133】中間層について
導電性支持体上に中間層を設けることができる。中間層は導電性支持体と感光層との接着性を向上する、モワレなどを防止する、上層の塗工性を改良する、残留電位を低減するなどの目的で設けられる。中間層は一般に樹脂を主成分とするが、これらの樹脂はその上に感光層を溶剤でもって塗布することを考えると、一般の有機溶剤に対して耐溶解性の高い樹脂であることが望ましい。このような樹脂としては、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性樹脂、共重合ナイロン、メトキシメチル化ナイロン、等のアルコール可溶性樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、アルキッド-メラミン樹脂、エポキシ樹脂等、三次元網目構造を形成する硬化型樹脂などが挙げられる。また、モアレ防止、抵抗値の最適化等のために酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化インジウム等で例示できる金属酸化物、あるいは金属硫化物、金属窒化物などの微粉末を加えてもよい。これらの中間層は、適当な溶媒、塗工法を用いて形成することができる。更にシランカップリング剤、チタンカップリング剤、クロムカップリング剤等を使用することもできる。」(「中間層について」の下線は原文のまま。 )

(2b)「【0149】<実施例1>
中間層の形成
オイルフリーアルキッド樹脂 1.5部
(大日本インキ化学製:ベッコライトM6401)
メラミン樹脂 1部
(大日本インキ化学製:スーパーベッカミンG-821)
二酸化チタン 5部
(石原産業(株)製:タイペークCR-EL)
2-ブタノン 22.5部
上記成分の混合物をボールミルポットに取り、φ10mmのアルミナボールを使用し、48時間ボールミリングして中間層塗工液を調製した。この塗工液をアルミニウム・シリンダー上に塗工し、厚さ約4μmの中間層を形成した。」

(2c)「【0154】<実施例3> 実施例1と同様にアルミニウム・シリンダー上に中間層を形成した。次に下記構造式(c)で示されるビスアゾ化合物7.5部およびポリエステル樹脂[(株)東洋紡績製バイロン200]2.5部の0.5%テトラヒドロフラン溶液500部をボールミル中で粉砕混合し、得られた分散液を前記中間層上に塗工し、膜厚0.3μmの電荷発生層を形成した。次に電荷輸送材料として前記構造式(a)で示されるアミノビフェニル化合物7部と前記例示化合物(p6)で表される樹脂10部をテトラヒドロフランに溶解し、この電荷輸送層塗工液を前記電荷発生層上に塗工し、膜厚15μmの電荷輸送層を形成し感光体ドラムを作成した。」

(2d)「【0183】
【発明の効果】本発明によれば、高解像度であり、かつ表面エネルギーも低くその効果が長期にわたって持続されることで、優れた画質を長期にわたって維持し、繰り返し使用しても電位変動のない、機械的かつ化学的耐久性を有する電子写真感光体、この電子写真感光体を用いた画像形成方法、この電子写真感光体を有する画像形成装置及び画像形成装置用プロセスカートリッジが提供される。そして本発明は電子写真プリンター、電子写真複写機等の電子写真プロセスに使用される機械、機器等の設計、製作分野において多大の寄与をなすものである。」

上記摘記事項をまとめると、刊行物2には、以下の事項が記載されていると認められる。
「電荷輸送層が15μmという、感光層が薄層化された積層型有機感光体であって、感光層との接着性を向上する、モワレなどを防止する、上層の塗工性を改良する、残留電位を低減するなどの目的で、導電性支持体上に、厚さ約4μmの中間層を設けるとともに、該中間層の抵抗値の最適化等のために酸化チタンを含有させた、積層型有機感光体。」

(2)対比
本願補正発明と、刊行物1発明とを対比する。
まず、刊行物1発明における「円筒状アルミニウム基体」は、本願補正発明における「導電性基体」に相当し、刊行物1発明における「中間層、電荷発生層、及び、・・・電荷輸送層を順次積層してなる」構成は、本願補正発明における「導電性基体上に・・・中間層と、電荷発生層及び該電荷発生層上に電荷輸送層を有」する構成に相当する。
そして、刊行物1発明における「乾燥膜厚0.3μmの中間層」と、本願補正発明における「膜厚が3.0μm以上で、アナターゼ形酸化チタンを含有した中間層」とは、「中間層」で共通する。
また、刊行物1発明における「乾燥膜厚が20μmの電荷輸送層」と、本願補正発明における「(膜厚が20?15μm間で、・・・である)電荷輸送層」とは、「該電荷輸送層の膜厚が20μm」である点で一致する。

したがって、本願補正発明と、刊行物1発明とは、
「導電性基体上に中間層と、電荷発生層及び該電荷発生層上に電荷輸送層を有しており、該電荷輸送層の膜厚が20μmである、有機感光体。」
である点で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:「中間層」に関して、本願補正発明は、「膜厚が3.0μm以上で、アナターゼ形酸化チタンを含有」するのに対して、刊行物1発明は、「膜厚が0.3μm」で、「アナターゼ形酸化チタンを含有」するとの特定がない点。

相違点2:本願補正発明は、「電荷輸送層の膜厚が20?15μm間で、帯電電位を600Vから100Vに減衰させるのに要する露光エネルギー(E600/100)の変化率が0.01(μJ/cm^(2)・μm)以下である」のに対して、刊行物1発明には、そのような特定がない点。

(3)判断
上記相違点について検討する。
(相違点1について)
刊行物2には、積層型有機感光体の中間層として、酸化チタンを含有し、約4μmの厚さを有する中間層を設けること、その酸化チタンにより、中間層の抵抗値の最適化が行われること、その効果として、高解像度であり、かつ表面エネルギーも低くその効果が長期にわたって持続されることで、優れた画質を長期にわたって維持し、繰り返し使用しても電位変動のない、機械的かつ化学的耐久性を有する電子写真感光体が記載されている。
そして、刊行物1発明と、刊行物2に記載のものとは、中間層を備えた積層型の有機感光体において、画像の改善を図るという同一の技術課題を有するものである。
よって、刊行物1に記載された有機感光体において、本願明細書にも記載された「長時間使用し、膜厚減耗が進んでも、画像濃度の低下やカブリの発生が少なく、且つ黒ポチ等の画像欠陥を発生しない、鮮鋭性が良好な有機感光体を提供する」(段落【0011】)ために、刊行物2に記載の「酸化チタンを含有し、約4μmの厚さを有する中間層」の適用を試みることは当業者であれば容易に想起しうることであるから、「膜厚が3.0μm以上」とすることは容易に想到し得たことである。
ところで、刊行物2における酸化チタン「タイペークCR-EL」は、アナターゼ型ではなく、ルチル型のものではあるが、中間層に用いる酸化チタンとして、アナターゼ型のものを用いることは、例えば、特開平9-90661号公報(請求項2、実施例3等)、特開昭61-204642号公報(特許請求の範囲、実施例1)、特開昭63-131147号公報(実施例1:帝国化工製JA-1)、特開昭63-298251号公報(実施例1、2:富士チタン製TA300)等にも記載されているとおり、本願出願日前に周知であり、特開平9-90661号公報(【0009】)に記載されているように、ルチル型酸化チタンよりもアナターゼ型酸化チタンが電気特性に優れる点もよく知られたことであるから、中間層として期待される電気的性質の検討において、アナターゼ型酸化チタンを採用することは、当業者が適宜なし得た設計的事項である。
したがって、相違点1に係る構成の変更は、刊行物1及び2に記載された発明、並びに、周知の事項に基づいて当業者が容易に為し得たことである。

(相違点2について)
刊行物1には、10万枚の画像出しの間に減耗する有機感光体の膜厚減耗量は、2.0?4.0μmであることが示されており、初期の電荷輸送層の膜厚が20μmであることから、刊行物1に記載の有機感光体において、減耗後の電荷輸送層の膜厚は、18?16μm程度の範囲となる。
また、10万枚目の評価成績が、1枚目に比べて、画像濃度が高く維持され、カブリ、画像ボケがなく、クリーニング性が良好に保持されること、100万枚の画像出しの後においても黒ポチの発生がないこと、からすれば、1枚目と、10万枚目とで、露光エネルギーの変化に関しても、それらの評価項目に影響を与えるほどの大きな差がないことは当然である。
そして、「電荷輸送層の膜厚が20?15μm間で、帯電電位を600Vから100Vに減衰させるのに要する露光エネルギー(E_(600/100))の変化率が0.01(μJ/cm^(2)・μm)以下である」との条件は、有機感光体において膜厚依存性が小さく、電荷輸送層の膜厚が減耗しても、感度が大きく変わらないことを意味するものである。
してみると、刊行物1発明の有機感光体は、本願補正発明で規定する、「電荷輸送層の膜厚が20?15μm間で、帯電電位を600Vから100Vに減衰させるのに要する露光エネルギー(E_(600/100))の変化率が0.01(μJ/cm^(2)・μm)以下である」という条件を満たしている蓋然性が極めて高いものである。
また、仮に、刊行物1発明の有機感光体が、「電荷輸送層の膜厚が20?15μm間で、帯電電位を600Vから100Vに減衰させるのに要する露光エネルギー(E_(600/100))の変化率が0.01(μJ/cm^(2)・μm)以下である」という条件を満たさなかったとしても、「膜厚が3.0μm以上で、アナターゼ形酸化チタンを含有」する構成を採用することによって、帯電特性の改善が期待できるから、相違点1によって当然達成できる自明の構成といえる。
したがって、相違点2は、実質的な相違点ではない。

(請求人の主張について)
請求人は、請求の理由において、刊行物1の実施例に記載された感光体を追試、試作してその露光エネルギー変化率E_(600/100)を測定したところ、0.01μJ/cm^(2)・μm以下にはならなかったとして、刊行物1の感光体が、露光エネルギー変化率E_(600/100)、0.01μJ/cm^(2)・μm以下である蓋然性はない旨主張しているので、これについて検討しておく。
本願明細書の記載において、露光エネルギー変化率の測定に使用する試料は、いずれも、表面がアルミニウム蒸着処理されたPET(ポリエチレンテレフタレート)シート上に、各感光体群と同じ中間層、電荷発生層、電荷輸送層を形成し、電荷輸送層の膜厚を20μm、15μmに変化させたシート状感光体を作製して使用している。
すなわち、画像形成に実際に使用するドラム状感光体とは別個に、シート状感光体を作製して測定に供しており、このことは、ドラム状感光体を用いる測定においては、何らかの理由で不都合があることを意味するものと推定される。
一方、請求人が行った、刊行物1の実施例の追試においては、初期と10万回画出し後のドラム状感光体そのものの露光エネルギー変化率を測定したとしており、10万回画出し後においては、膜厚減耗だけでなく、感光層が劣化しているから、本願明細書に記載する測定条件を正確に適用したものとは認められず、この測定結果を採用することはできない。

(まとめ)
したがって、本願補正発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、刊行物1及び2に記載された発明、並びに、周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、出願の際、独立して特許を受けることができない。

3.補正却下の決定についてのむすび
以上のとおり、平成20年4月4日付けの手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願の請求項に係る発明
平成20年4月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至7に係る発明は、平成20年1月22日付けの手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至7に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は次のとおりのものと認める。
「 導電性基体上に電荷発生層及び該電荷発生層上に電荷輸送層を有し、
該電荷輸送層の膜厚が20?15μm間で、帯電電位を600Vから100Vに減衰させるのに要する露光エネルギー(E_(600/100))の変化率が0.01(μJ/cm^(2)・μm)以下であることを特徴とする有機感光体。」

2.刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物1及び6には、上記「第2.2.(1)」欄に摘示したとおりの事項が記載されている。

3.判断
本願発明は、上記「第2.1.」欄に示した本願補正発明における、中間層に関する、「膜厚が3.0μm以上で、アナターゼ形酸化チタンを含有した中間層を有する」との規定を欠くものである。
そうすると、中間層に関する該規定以外の構成おいて、本願発明の特定事項すべてに一致する本願補正発明が、上記「第2.2.(3)」欄に記載したとおり、刊行物1及び6に記載の発明、並びに、周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、全く同様の理由により、刊行物1及び2に記載の発明、並びに、周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、刊行物1及び2に記載の発明、並びに、周知の事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-07-28 
結審通知日 2009-08-04 
審決日 2009-08-18 
出願番号 特願2003-49280(P2003-49280)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 阿久津 弘菅野 芳男  
特許庁審判長 赤木 啓二
特許庁審判官 中田 とし子
伊藤 裕美
発明の名称 有機感光体、画像形成装置、画像形成方法及び画像形成ユニット  

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