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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  H05F
審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H05F
管理番号 1205427
審判番号 無効2006-80208  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-10-17 
確定日 2009-10-01 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2749202号「帯電物体の中和構造、クリーンルーム、搬送装置、居住室、植物栽培室、正負の電荷発生方法、帯電物体の中和方法」の特許無効審判事件についてされた平成19年9月7日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において、審決取消の決定(平成19年(行ケ)第10357号平成20年2月19日)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2749202号の請求項13に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許第2749202号の請求項13?15に係る発明についての出願は、1993年8月13日(優先権主張1992年8月14日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成10年2月20日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
2.その特許について、特許異議申立人中澤佳樹、同恒本昌美より特許異議の申立て(平成10年異議第75481号)がされ、平成11年5月17日に訂正請求がされ、平成11年7月15日に訂正請求の手続補正がされ、平成11年7月30日付けで「訂正を認める。特許第2749202号の請求項1ないし7,14ないし15、17ないし20に係る特許を維持する。」との決定がなされ、確定した。
3.請求人 スンチェ・ハイテック・カンパニー・リミテッドは、平成18年10月17日に本件特許無効審判を請求した。
4.被請求人 大見忠弘、高砂熱学工業株式会社及び浜松ホトニクス株式会社は、平成19年2月1日に答弁書を提出するとともに、同日付けで明細書の訂正を請求した。
5.請求人は平成19年4月20日に弁駁書を提出し、請求の理由を補正した。
6.当審は、上記弁駁書による請求の理由の補正を許可した。
7.被請求人は、平成19年6月8日に答弁書を提出した。
8.当審は、平成19年9月7日付けで「訂正を認める。特許第2749202号の請求項13ないし15に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第一次審決」という。)した。
9.被請求人は、第一次審決に対する訴えを提起(平成19年(行ケ)第10357号)するとともに、平成20年1月4日に訂正審判の請求をした。
10.知的財産高等裁判所は、平成20年2月19日に、特許法181条2項の規定により、第一次審決の取消しの決定をした。
11.被請求人は、平成20年3月10日に答弁書を提出した。
12.請求人は、平成20年5月2日に弁駁書を提出した。
13.当審は、さらに職権により審理した結果、両当事者に、平成20年6月6日付けで無効の理由を通知した。
14.被請求人は、平成20年7月10日に意見書を提出した

第2 訂正請求
特許法第134条の3第2項の規定により指定された期間内に訂正の請求がなされなかったので、同条第5項の規定により、平成20年1月4日にした訂正審判の請求書に添付された訂正した明細書を援用した、訂正の請求がされたものとみなす。特許法第134条の2第4項の規定により、平成19年2月1日付けの訂正の請求は取り下げられたものとみなす。

1.訂正の内容
被請求人により請求された訂正の内容は、本件特許発明の明細書(平成11年7月15日に補正された平成11年5月17日付け訂正明細書。以下「特許明細書等」という。)を上記援用された訂正した明細書(以下「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正しようとするものである。すなわち、以下のとおりである。

(訂正事項1)
特許明細書等の特許請求の範囲の請求項14について、「ターゲット電圧6kV以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を帯電物体の周辺の雰囲気空気に直接照射することにより、該雰囲気空気をイオン化させて正イオンと、負イオン及び/又は電子とを生成し、この生成された正イオンにより負電荷を、負イオン及び/又は電子により正電荷を中和することを特徴とする帯電物体の中和方法。」とある記載を、
「透過型のX線ユニットによりターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流を60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を、搬送系における帯電物体としての液晶基板の周辺の雰囲気空気に直接照射することにより、該雰囲気空気をイオン化させて正イオンと、負イオン及び/又は電子とを生成し、この生成された正イオンにより負電荷を、負イオン及び/又は電子により正電荷を中和することを特徴とする帯電物体の中和方法。」と訂正する。
(訂正事項2)
特許明細書の特許請求の範囲の請求項13及び15を削除し、請求項14以降の項番を繰り上げ、繰り上げた後の請求項16の引用する請求項の項番を15とする。
(訂正事項3)
特許明細書等の第6頁第6?10行(特許決定公報第10頁第30?33行、「発明の開示」の欄の第6段落)の「本発明の帯電中和方法は、ターゲット電圧6kV以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を帯電物体の周辺の雰囲気空気に直接照射することにより、該雰囲気空気をイオン化させて正イオンと、負イオン及び/又は電子とを生成し、この生成された正イオンにより負電荷を、負イオン及び/又は電子により正電荷を中和することを特徴とする。」とある記載を、「本発明の帯電中和方法は、透過型のX線ユニットによりターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流を60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を、搬送系における帯電物体としての液晶基板の周辺の雰囲気空気に直接照射することにより、該雰囲気空気をイオン化させて正イオンと、負イオン及び/又は電子とを生成し、この生成された正イオンにより負電荷を、負イオン及び/又は電子により正電荷を中和することを特徴とする。」と訂正する。
(訂正事項4)
特許明細書等の第5頁第7?9行(特許決定公報第10頁第9?10行、「図面の簡単な説明」の欄)の「図14は、請求項15に係る実施例を示す居住室の概念図である。図15は、請求項16に係る実施例を示す植物栽培室の概念図である。」とある記載を、「図14は、本実施例に係る居住室の概念図である。図15は、本実施例に係る植物栽培室の概念図である。」と訂正する。

2.訂正の適否について
(1)(訂正事項1)について
訂正事項1の内、「透過型のX線ユニットにより」「ターゲット電流を60μA以上」との記載を追加する訂正は、軟X線について限定を付すものであり、訂正事項1の内、「帯電物体」との記載を「搬送系における帯電物体としての液晶基板」とする訂正は帯電物体について限定を付すものであり、当該記載事項については、特許明細書等の第6頁第11?21行(特許決定公報第10頁第34?40行)、特許明細書等の第11頁第17?18行(特許決定公報第13頁第4?5行)、特許明細書等の第15頁第15?19行(特許決定公報第14頁第49行?第15頁第1行)、及び特許明細書等の第15頁第19?24行(特許決定公報第15頁第46?49行)に記載されている。
そうすると、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
また、訂正事項1は特許明細書等に記載した事項の範囲内でするものと認められる。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)(訂正事項2)について
訂正事項2の内、請求項13及び15を削除する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当する。
訂正事項2の内、請求項14以降の項番を繰り上げ、繰り上げた後の請求項16の引用する請求項の項番を15とする訂正は、上記請求項13及び15を削除する訂正に付随して、項番を整え、引用する項番を整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。
また、訂正事項2は特許明細書等に記載した事項の範囲内でするものと認められ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)(訂正事項3)について
訂正事項3は、新たな請求項13に対応して発明の詳細な説明の記載を整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、特許明細書等に記載した事項の範囲内でするものと認められ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)(訂正事項4)について
訂正事項4は、請求項と対応させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、特許明細書等に記載した事項の範囲内でするものと認められ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされる、同法による改正前の特許法第134条第2項ただし書の規定に適合し、特許法第134条の2第5項において準用する特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法第126条第2項に規定する要件に適合するので、当該訂正を認める。

第3 請求人の主張
1.無効理由1
請求項13?15に係る特許発明は、本件の優先権主張日前の他の特許出願であって、その出願後に出願公開された甲第1号証(特開平5-312998号公報)に係る特許出願(特願平4-120507号)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件出願の発明者がその出願前の他の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件出願の時において、その出願人が他の特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
2.無効理由2
請求項13?15に係る特許発明は、本件の優先権主張日前に頒布された刊行物である甲第2号証(米国特許第3,862,427号明細書)に記載された発明であるから、持許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
3.無効理由3
(1)請求項13?15に係る特許発明は、甲第2号証、甲第7号証(特開平2-297850号公報)及び甲第8号証(特開昭63-110541号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(2)請求項13?15に係る特許発明は、甲第5号証(特開平1-274396号公報)、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
4.訂正後の発明について
訂正後の請求項13に係る発明についても、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
5.請求の理由の補正の許可の決定について
平成19年4月20日の弁駁書による請求の理由の補正は、特許法第131条の2第2項第1号の規定に基づいて審判長が許可したものであり、手続上の違法はなく、当該決定の違法性を争うことは当該規定の趣旨を逸脱するものであり、さらに同条第4項にはこの決定に対して不服を申し立てることができないと規定されていて、被請求人の補正の許可が違法とする主張は失当である。
しかも被請求人は審決後に訂正審判を請求し、差し戻し決定を得たのであるから、そのような被請求人が審決前の上記手続の違法性を争うことは許されないというべきである。

第4 被請求人の各答弁書における(「第3 請求人の主張」に対する)主張
1.無効理由1について
甲第1号証に記載された発明は、主要波長として2?20Åまたは2?15Åの波長範囲の軟X線を利用するものであって、主要波長2Å未満の波長の軟X線を利用せず、不適切であるとして排除しており、発明として記載されていないことは明らかである。
ターゲット電圧5kV、ターゲット電流20μAが挙げられるが、あくまでも例示にすぎない。
したがって、特許法第29条の2の規定に特許を受けることができないとはいえない。
2.無効理由2について
甲第2号証には、好ましくは、X線は、300keV未満のエネルギーを有する電子によって生成される旨の記載があるのみで、ターゲットで発生するX線の最短波長が0.041Å以上ということである。
これは一般のX線波長帯域の下限値0.1Åを下回りX線波長の下限値を特定するものではない。また、上限値も特定されていない。
300keV未満のエネルギーを有するとの記載があるとしても、具体的なターゲット電圧を把握することはできない。
甲第2号証に示されたX線源の構造を考えると軟X線を利用することはあり得ない。
したがって、請求項13?15に係る特許発明は、甲第2号証に記載された発明ではない。
3.無効理由3について
(1)に対して
ア.ターゲット電流について
X線強度がターゲット電流に比例するとしても、軟X線による除電効果がターゲット電流に比例するとは限らない。
本件明細書の図6のように除電時間が短くなるものの反比例とはなっていない。
ターゲット電流が60μA以下では、除電速度とターゲット電流は比例するものの、60μA以上では除電速度の向上は飽和するから、飽和した除電時間短縮化の効果が得られ臨界的意義を有する。
除電時間は条件によって多少異なるものの、通常の条件の範囲内において、ターゲット電流に対して略同様の傾向を示す。上記本件明細書の図6には4通りの条件について示されている。
したがって、ターゲット電流60μA以上は臨界的意義を有している。
イ.ターゲット電圧について
本件発明の「波長」は強度が大きい主要なピーク波長であることは明らかである。
本件明細書の図5に示すように、ターゲット電圧6kV以上のときに除電時間短縮に関して格別の効果があるから、ターゲット電圧を6kV以上で発生させた軟X線を用いることにより特に除電効果が高いという効果を奏し、ターゲット電圧6kV以上は不要限定であるとはいえない。
よって、ターゲット電圧とターゲット電流に技術的意義がある。
ウ.1Å以上2Å未満のX線波長について
(ア)甲第2号証のX線スペクトルについて
甲第2号証の発明は、ターゲット電圧が300keVであるものの、一般にX線管は甲第4号証に記載される図2.20のようにターゲット電圧を大きくするとターゲット電流が大きくなってしまうものではなく、ターゲット電圧とターゲット電流とは互いに独立に設定されうるものであるから、ターゲット電圧が300keVとし、最短波長を0.041ÅのX線としても、そのX線スペクトルが、9keVのターゲット電圧のX線スペクトルより大きくなっているとはいえない。甲第4号証の図2.20は信用もできない。
さらに、ターゲットで発生するX線の波長分布とターゲット電圧の関係を述べてはいるものの、X線管の外部の雰囲気へ照射されるX線の波長ではない。
甲第2号証は、ターゲット電圧が300keVであるように硬X線を利用するものであり、X線源の構造を考えると軟X線を利用するものではない。
(イ)本件発明の効果、甲第2号証との差異
したがって、本願発明は照射距離を特定するまでもなく硬X線を利用する場合に比して波長1Å以上の軟X線を利用することで格別の効果を有し、照射距離を限定する必要はない。
よって、甲第2号証に記載された発明は軟X線の利用について記載しておらず、利用することもない。
エ.甲第7及び8号証にはターゲット電流を60μA以上の或る値とするX線管が記載されているとしても、ターゲット電流60μA以上で発生させた軟X線を用いて雰囲気をイオン化する発明については記載がない。
したがって、本件発明は甲第2,7及び8号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)に対して
ア.甲第5号証について
甲第5号証に記載された15keVのエネルギーを有するX線とは、ターゲット電圧が15keVを意味するのではなく、X線のエネルギーが15keV、波長0.83Åの1点のみを意味している。
甲第5号証の15keVというX線エネルギーは遮蔽の容易さを考慮した上で、比較的低エネルギーのX線として示されたものであるから、遮蔽の容易さを考慮したときに比較的低エネルギーが好ましいとの観点の下に、利用を想定しているX線波長域のうちでもっとも低いエネルギーとして選んでいることから、利用を想定しているX線波長域が0.83Å以下であることは明らかであり、軟X線の利用を想定していない。遮蔽を考慮するならばさらに長波長を挙げればいいのであるから、寧ろ軟X線の利用を排除している。
また、甲第5号証には、ターゲット電圧やターゲット電流について何ら言及がない。
イ.甲第7及び8号証について
甲第7及び8号証にはターゲット電流を60μA以上の或る値とするX線管が記載されているとしても、ターゲット電流60μA以上で発生させた軟X線を用いて雰囲気をイオン化する発明については記載がない。
ウ.ターゲット電流、ターゲット電圧について
(1)ア.及びイ.の主張と同じく、ターゲット電圧とターゲット電流に技術的意義がある。
エ.甲第5号証に記載された発明は軟X線の利用を考慮せず、利用を排除している。また、甲第7及び8号証においても軟X線の利用を記載していない。このように雰囲気に照射するX線の波長の点のみを採り上げても甲第5,7及び8号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたとものではない。
オ.本件発明の商業的成功について
本件出願当時、硬X線が工業用途に利用され、軟X線は利用されず、硬X線を利用の際には邪魔者とされていたものを、本件発明は波長1Å以上の軟X線(特に1Å以上2Å未満の軟X線)を利用することで、雰囲気のイオン化や除電を効率的に行うことができ、しかも、硬X線と比べて遮蔽が容易であり安全性の点でも有利であるとして本発明者により想到されたものである。
乙第5号証(稲葉仁、「LCD製造における静電気対策 静電気対策の基本フローと除電対策」、クリーンテクノロジー、2004.4、p.26-32)及び乙第6号証(山本稔、「液晶製造工程における静電気対策とその管理手法」、クリーンテクノロジー、2004.7、p.13-19)に紹介されているように、本件発明は、例えば半導体製品や液晶パネル等の製造工程において必須の技術となっており、商業的成功を成し遂げている。
この商業的成功は、半導体製品や液晶パネル等の製造工程におけるような限られた空間にX線管や除電対象物を配置せざるを得ない条件において、主要なピーク波長1Å以上の軟X線(特に1Å以上2Å未満の軟X線)を利用するという本件発明の特徴に基づく。
甲第2及び5号証記載の発明のような硬X線の利用は不適切である。
4.訂正後の発明について
訂正後の請求項13に係る発明である本件訂正発明は、ターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流を60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を用い、その軟X線を液晶基板の周辺の雰囲気空気に直接照射することで、雰囲気空気を効率的にイオン化して液晶基板を効率的に除電することができる。
加えて、透過型のX線ユニットを用いることで、照射範囲を広くすることができるとともに、ターゲットで発生した軟X線を外部へ効率的に出力することができるので、雰囲気空気を効率的にイオン化して、液晶基板を効率的に除電することができ、さらに、透過型のX線ユニットが小型化可能であるので、配置スペースが限られる液晶基板の搬送系においてもX線ユニットの配置の自由度が高い。
このようにすることで、クリーンルーム内で空気の流れを作ることなく除電が可能となり、液晶基板の製造工程において最適な除電をすることが可能となる。
(1)無効理由1?3(1)について
甲第1、2、7及び8号証に記載された発明は、上記本件訂正発明の特徴的な各要件を有しておらず、本件訂正発明はこれら特徴的な各要件を有することにより格別の効果を有するから、無効理由1?3(1)を有していないことは明らかである。
(2)無効理由3(2)について
上記第4の3.の「(2)に対して」で述べたことに加え、本件訂正発明でさらに加えられた特徴的な要件も記載されていないから、無効理由3(2)も有していない。
5.請求の理由の補正の許可の決定について
特許法第131条の2第2項は、請求の理由の要旨を変更する補正について、同条第2項第1号及び第2号の何れにも該当しないとき、審判長の許可は為されてはならないとしているから、新たに甲第5号証を追加し、無効理由3(2)を主張する補正についてした許可処分は違法である。

第4 当審が通知した無効の理由の概要
本件特許の請求項13?15に係る発明(以下「本件特許発明13?15」という。)は、本件の優先権主張日前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明13?15に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。



刊行物1 特開平1-274396号公報(甲第5号証)
刊行物2 米国特許第3,862,427号明細書(甲第2号証、300KeV未満の電子によるX線をコンテナ内に放射して自由イオンを生成し、静電場を中和することが示される。)
刊行物3 特公昭39-1701号公報(放射線を繊維布に放射し、空気をイオン化して繊維布の静電気を中和させることが示される。)
刊行物4 特開昭58-197697号公報(紫外線を帯電物体に照射し、ガスの電離作用で除電することが示される。)
刊行物5 特開平1-281190号公報(搬送中の液晶用のガラス板に対向して設けた除電バーで静電気を除去することが示される。)
刊行物6 特開平2-61613号公報(搬送機構上の液晶表示器用の透明電極基板に電離空気を吹き付けて静電気を中和することが示される。)
刊行物7 特開平1-107497号公報(ICパッケージ搬送工程においてイオン流を吹き付けて静電気を除去することが示される。周知例として。)

第5 請求人の意見書における(「第4 当審が通知した無効の理由の概要」に対する)主張
1.刊行物1について
(1)内部室19で0.83Åの硬X線が吸収される割合は1.8%程度であって、刊行物1に記載の発明は実施不可能なものである。
また、気体をイオン化するために必要なX線波長及びイオン化の効率向上のためのターゲット電圧やターゲット電流について何ら想定されていない。
(2)刊行物1には「内部室の大きさ及びX線管29のフィラメント電流と陽極電圧とを含むその他の試験された変数は、非常に少ししか動作に影響しなかった。」と記載されてターゲット電圧及びターゲット電流の何れも除電効率に影響を与えないことが明言され、X線波長、ターゲット電圧及びターゲット電流の何れについても放電時間との関係が示されていない。
(3)すなわち、刊行物1は本件訂正発明を想到する際に示唆となり得ないだけでなく、引用発明を認定する刊行物として不適切なものであり、本件訂正発明を想到することの妨げとなるから、引用発明としての適格性を欠く。X線波長、ターゲット電圧及びターゲット電流が除電効果に与える影響を否定するものであるから、対比判断の資料に供し得ない。
2.本件訂正発明の効果および進歩性について
(1)本件訂正発明は、ターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流を60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を用い、その軟X線を液晶基板の周辺の雰囲気空気に直接照射することで、雰囲気空気を効率的にイオン化して、液晶基板を効率的に除電することができる。
加えて、透過型のX線ユニットを用いることにより、照射範囲を広くすることができるとともに、ターゲットで発生した軟X線を外部へ効率的に出力することができるので、雰囲気空気を効率的にイオン化して、液晶基板を効率的に除電することができ、さらに、透過型のX線ユニットが小型化可能であるので、配置スペースが限られる液晶基板の搬送系においてもX線ユニットの配置の自由度が高い。
本件訂正発明では、硬X線を用いる場合に比較して、比較的短い距離の範囲において高密度のイオンを生成することができる一方、イオンが生成される範囲が限られる。
拡がり角が大きい透過型のX線ユニットを用いることにより、反射型のX線ユニットを用いる場合に比較して、イオンが生成される範囲を広くでき、X線ユニットの必要数を少なくでき、低コスト化を図ることができる。
すなわち、搬送系における液晶基板を高効率かつ低コストで除電することができる。
(2)本件訂正発明では、刊行物1,5?7に記載された発明のごとくクリーンルーム内で空気の流れを作る必要がなく、空気の流れによる粉塵を巻き上げることがなく、液晶基板の液晶基板の製造工程において最適な除電をすることが可能となる。
(3)刊行物2に記載された発明はX線源10の構造を考えると、軟X線を利用することはあり得ず、短波長の硬X線を利用するに留まる。
刊行物2に記載された発明で利用する短波長の硬X線は、本件訂正発明の1Å以上2Å未満の波長の軟X線に近接するとはいえない。
刊行物2に記載された発明で利用する短波長の硬X線は除電効率が悪い。
(4)刊行物3は原子炉で発生させた中性子をβ線標識物に当ててβ線を発生させ、雰囲気空気をイオン化して除電することが記載されており、原子炉や被爆防止の設備が大掛かりで非現実的である。
(5)刊行物4は紫外線を用いて雰囲気空気をイオン化して除電することが記載されており、オゾンが発生する。
(6)特に、X線波長、ターゲット電圧及びターゲット電流の何れもが除電効果に影響を与えないとする刊行物1の記載内容から本件訂正発明の効果は予測し得ない。

第6 本件特許発明
前述のとおり、訂正請求は認められるから、本件特許の請求項13に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項13に記載された次のとおりのものである。
「透過型のX線ユニットによりターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流を60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を、搬送系における帯電物体としての液晶基板の周辺の雰囲気空気に直接照射することにより、該雰囲気空気をイオン化させて正イオンと、負イオン及び/又は電子とを生成し、この生成された正イオンにより負電荷を、負イオン及び/又は電子により正電荷を中和することを特徴とする帯電物体の中和方法。」

第7 無効理由の検討
まず、当審が通知した無効の理由について検討する。
1.引用刊行物
(1)引用刊行物1(刊行物1、甲第5号証)
引用刊行物1には、図1?6とともに以下の事項が記載されている。
ア.「所定の領域でイオン化されたガス環境を与える方法において、
囲まれた流路に沿って前記領域へ加圧されたガスの流れを導くこと、
前記所定の領域から隔離された位置で前記囲まれた流路の所定の部分へ電離放射線を導くことにより前記ガスの流れをイオン化すること、
前記流路の前記所定の部分の外へ伝播する放射線の漏洩を抑制すること、及び
前記所定の領域で前記囲まれた流路から前記イオン化されたガスの流れを放出すること、
の工程を含むことを特徴とするガスイオン化方法。」(特許請求の範囲の請求項1)
イ.「本発明は所定の領域における大気のイオン含有量の制御に関するものである。更に詳細には、この領域内の物体への静電荷の累積を抑制するために所定の領域においてイオン化された大気を維持する方法及び装置に関するものである。」(第4頁右上欄第3?7行)
ウ.「静電気の蓄積の究極的な放電は望ましくない結果を生じ得て、ある種の環境では一定の工業的生産品のような物品に痛烈な損傷を起こし得る。小型化された半導体電子素子の製造では顕著な例が起こる。静電放電は集積回路ウェーハ,マイクロチップ及びその他同様のもの内の導電路を破壊し得て、製造工程の間のそのように生産品の高い廃棄率の重要な原因となる。静電荷はまた、製品に不利に影響し得る塵埃粒子及びその他の汚染物の付着を誘引し引き起こす。
そのような生産品の製造は、潜在的な汚染物を除去するため及びまた生産品上への静電荷の形成を抑制するために、クリーンルームと名付けられた範囲で実行される。製品を取り囲む空気中の自由イオンの高水準の維持は、そのような電荷の形成を抑制するために大変有効な技術の一つである。空気中の成分ガスの正及び負のイオンが反対極性の電荷累積へ静電的に誘引され、それで電荷の交換によってそのような累積を中和する。」(第4頁右上欄第15行?左下欄第13行)
エ.「特定の例では酸素を含まない不活性のガスを使用する必要はなく、その場合に装置11は前述の目的とは異なる目的用に用いられる。例えば特定の領域で空気から微粒子の物質を除去するのが目的の場合には、内部室19を通る空気が用いられ得る。
放射線の源泉は好適に、内部室の一端で薄い窓31を通して内部室19内へX線21を導くように位置決めされたX線管29である。」(第7頁左上欄第10?17行)
オ.「本発明の好適な形では、遮蔽する必要を最小化するために比較的低エネルギーのX線を与えるように選択され調節される。15keV のエネルギーを有するX線は、例えば、プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓31を貫通することが可能であり、従って内部室19内で窒素を能率的にイオン化する。
X線管29を付勢するための電気的な要素は、管のフィラメント33及び制御グリット34用の低電圧電力源32と管の陽極37用の高電圧発生器36とを含み、これらの要素は普通の設計のものでよい。」(第7頁右上欄第3?13行)
カ.「電離室ハウジング18及びX線管29は、装置からの放射線の漏洩を防止するために、少なくとも一部がX線吸収材で形成された遮蔽覆い51内に配列される。例えば、1ミリメートル厚さの鉛が15keVのエネルギーのX線の放出を防止する。」(第7頁左下欄第18行?右下欄第2行)
キ.「この特別例の電離室ハウジング18は、3インチの直径と4.5 インチの高さである内部室19を有する直立したプレキシグラスの円筒である。」(第7頁右下欄第15?17行)
ク.「配管中の湾曲が可能な量に回避された場合及び出口取付部品62を含む配管を通る流路の直径の変化も可能な限り回避された場合に、反対極性のイオンの電荷交換による、又流体送達配管28の内壁との接触によるイオンの中和は低減される。」(第8頁左上欄第16行?末行)
ケ.「イオン化されたガスが流体送達配管のような導管内の封入された流れとして使用される点へ配送されることにおいて、この装置11は電荷抑制用の従来のイオン化システムとは異なる。使用される点に近い位置で周囲の空気を単純にイオン化する従来の方法に対抗するから、自由イオンのこのような配管は、最初に考えると不適当な手段であるように見える。外見上は、隣接する壁面との及び相互間での電荷交換からイオン損失の問題が非常に悪化させられる。我我は、このシステムの一定のキー助変数が適当に相互に関係付けられた場合には、イオンの充分高い濃度が数フィート以上の距離に対して制限されたガスの流れの中に維持され得ることを見出した。
特に、前述の動作に本質的に似た電荷抑制装置11の動作は、その装置が10インチ角の平板(67pfのキャパシタンス)を1000ボルトから100 ボルト迄放電するのに必要な時間を秒で測定する充電平板モニターから18インチ離れて流体送達配管28の出口を置くことによって評価された。この測定された放電時間は流体送達配管28からのイオン出力に反比例する。イオン出力の増加はより低い放電時間に帰着する。
イオン出力に最も明確な影響を伴う変数はガスの流量,流体送達配管28の直径及び流体送達配管の長さであることを試験が示した。内部室の大きさ及びX線管29のフィラメント電流と陽極電圧とを含むその他の試験された変数は、非常に少ししか動作に影響しなかった。他の変数を一定に保持した流体送達配管材料及び内部室19の材料の異なる形式を用いた試験は、同様の結果を生じた。」(第8頁左下欄第9行?右下欄第19行)
コ.「管の長さは装置の配置と作業位置での作業空間とによって一般的に指令されるが、可能な限り短くなければならず、前述のように約6フィートをなるべく超えてはならない。」(第10頁右上欄第3?6行)

イ.及びウ.の記載から、物体への静電荷の累積を抑制するために、イオン化された大気を維持する方法であって、
半導体電子素子の製造において、集積回路ウェーハ,マイクロチップ及びその他同様のものである生産品上への静電荷の形成を抑制するために、上記生産品である製品を取り囲む空気中の自由イオンの高水準の維持により、そのような電荷の形成を抑制するものであって、空気中の成分ガスの正及び負のイオンが反対極性の電荷累積へ静電的に誘引され、それで電荷の交換によってそのような累積を中和する方法が記載されているといえる。
そして、製品を取り囲む空気中の自由イオンは、空気中の成分ガスの正及び負のイオンであり、このような正及び負のイオンが製品上の反対極性の電荷累積へ静電的に誘引され、それで電荷の交換によって、そのような製品上の静電荷の累積を中和するのであるから、空気中の正のイオンは製品上の負の静電荷に、また、空気中の負のイオンは製品上の正の静電荷と電荷の交換によって静電荷を中和するものである。
ア.及びエ.の記載から、X線管29からのX線によりイオン化するガスに空気を含むものであり、このイオン化された空気を用いるといえる。
オ.の「遮蔽する必要を最小化するために比較的低エネルギーのX線を与えるように選択され調節される」との記載から、遮蔽する必要を最小化するため、比較的低エネルギーのX線を選択する、つまり、遮蔽する必要を最小化するためにX線のエネルギーは低いものにしようとする旨の示唆があるといえる。また、オ.の「15keV のエネルギーを有するX線は、例えば、プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓31を貫通することが可能であり、従って内部室19内で窒素を能率的にイオン化する。」との記載は、「15keV のエネルギーを有するX線」を例示し、例示のX線は、プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓31を貫通することが可能であるから、内部室19内で能率的にイオン化するというものと解される。そうすると、上記オ.の記載は、遮蔽する必要を最小化するためにX線のエネルギーは低くしようとするものの、同時に、薄い窓31を貫通することが可能で、能率的にイオン化することが必要で、その例として15keVのエネルギーを有するX線が示されていると解される。
ク.及びケ.の記載は、従来、使用される点に近い位置で周囲の空気を単純にイオン化する方法があること、この従来の方法に対し、流体送達配管28を用いると、不適当な手段に見えるが、流体送達配管28内での反対極性のイオンの電荷交換による、又流体送達配管28の内壁との接触によるイオンの中和は、配管の湾曲や流路の直径の変化が回避され、さらに、一定のキー助変数である、ガスの流量,流体送達配管28の直径及び流体送達配管の長さが適当に相互に関係付けられた場合、低減されて、イオンの充分高い濃度が数フィート以上の距離に対して維持されること、及びそのイオンの出力は出口におかれた平板を放電する放電時間で評価され、イオン出力の増加はより低い放電時間に帰着することを意味するものと認められる。
さらにコ.の記載は、それでも可能な限り、管の長さは、短くすべきであると述べるものである。

上記の事項を総合すると、上記引用刊行物1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「15keV のエネルギーを有するX線を例とする、X線管29からのX線を、プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓31を貫通させて、空気に照射することにより、該空気をイオン化させて、該空気中の成分ガスの正及び負のイオンを生成させ、
さらに流体送達配管28によりこのイオン化された空気の流れを導き、その出口から放出して集積回路ウェーハ,マイクロチップ及びその他同様のものである製品を取り囲む空気中の上記正及び負のイオンである自由イオンを高水準に維持し、空気中の正のイオンは製品上の負の静電荷に、また、空気中の負のイオンは製品上の正の静電荷と電荷の交換によって静電荷を中和することによる製品上の静電荷の累積を中和する方法。」

(2)引用刊行物2(刊行物2、甲第2号証)
引用刊行物2には、第1?5図とともに以下の事項が記載されていると認められる。
ア.「An array of X-ray sources is mounted on the upper surface of a container of flammable fluids. Each X-ray source includes a high voltage generator, an electron accelerating tube and an X-ray target. Each X-ray source is also housed in a metallic enclosure which maintains the source in a water and gas tight manner. The X-rays which are formed as wide angle beams produce free ions within the gaseous region within the container, and these ions neutralize any undesirable electrostatic fields which form within the gas-filled regions inside the container.」(ABSTRACT、請求人による和訳:可燃性流体のコンテナの上部表面にX線源のアレイが配置されている。各X線源は、高電圧発生器、電子加速管及びX線ターゲットを備えている。また、各X線源は、防水及び防ガスの方法で当該X線源を維持する金属製封入容器内に収容されている。広角ビームとして形成されたX線は、上記コンテナ内のガス領域内で自由イオンを生成し、これらのイオンが、コンテナ内のガス充満領域内に形成された望ましくない静電場を中和させる。)
イ.「Preferably, the X-rays are produced by electrons with energies less than 300 kiloelectron volts. A source of electrical power (not shown) operates the high voltage generator 24. In operation, the X-ray source 10 develops wide angle beams of X-rays which radiate into the region within the container as shown at 30 in FIG. 1 and 32 in FIG. 3.」(第3欄第29?35行、請求人による和訳:好ましくは、X線は300KeV未満のエネルギーを有する電子によって生成される。電力源(図示せず)は高電圧発生器24を動作させる。動作中、X線源10は、図1の30及び図3の32に示されたようにコンテナ内の領域へ放射されるX線の広角ビームを生成する。)
(3)引用刊行物3(刊行物3)
引用刊行物3には、第1?7図とともに以下の事項が記載されている。
ア.「静電気を発生している箇所に放射線を照射することにより静電気を発生している箇所の空気をイオン化してこの空気を導電媒体として静電気を中和させることがすでに行われている。・・・(中略)・・・例えば第1図に示すように繊維の作業工程にあつては種々の装置との摩擦または繊維自体の摩擦によつて静電気を発生するが特にガイドローラーAによつて移送される際に帯電している繊維布Bに対して例えばラジウムを線源とする放射性物質Cよりα線を該繊維布Bに照射するかあるいはβ線を照射するかして繊維布Bの帯電を除去するものがある。」(第1頁右欄第1?13行)
(4)引用刊行物4(刊行物4)
引用刊行物4には、第1?5図とともに以下の事項が記載されている。
ア.「本発明は、光照射によるガスの電離作用を利用して帯電物体を除電する除電方法に関する。」(第1頁左下欄第13?14行)
イ.「第1図に示すように、一定のガス雰囲気中において帯電物体1を絶縁材製の支持台2に支持しておき、その上方より水銀ランプ3によつて紫外線を照射する。
本発明者は、この第1実施例について次のような条件で実験を行い、帯電物体2の電位を電位測定器4で測定した。
ガス……1気圧、通常の空気
水銀ランプ……低圧石英ランプ
紫外線の最短波長及びそのエネルギー……1850Å、6.7eV
(あるいは2537Å、4.9eV)
電位測定器……エレクトロメータ
水銀ランプと帯電物体間の距離……150mm
帯電物体と電位測定器間の距離……20mm
帯電物体の長さ及び厚さ………85mm、0.5mm
この測定データを第4図に示す。この図より明らかなように、帯電物体1が正帯電をしている場合もまた負帯電をしている場合も、実線で示すように、その電位が紫外線照射により時間の推移に従つて減衰している。これは、水銀ランプ3よりの紫外線の光のエネルギー(6.7eV)が空気の電離電圧(約12.5eV)より小さいにもかかわらず、空気がイオン化され、それによつて帯電物体1が除電されていることを示している。」(第2頁左上欄末行?左下欄第5行)
(5)引用刊行物5(刊行物5)
ア.「(1)ガラス板を順次繰出す供給部とガラス板清掃室を備え、清掃室には供給されるガラス板を搬送する搬送コンベアと、このコンベアの下方に設けた昇降台及びコンベア上方に走行可能に設けられる吸引ノズルを備え、昇降台を上昇しコンベア上のガラス板を載置し吸引ノズルの移行によりガラス板上面に付着する微細物を吸引除去すると共に、昇降台上面には吸引口を開口しガラス板を吸着保持し、少なくとも吸引ノズルによる吸気はフィルタにより除塵し清浄空気として清掃室に供給することを特徴とする液晶板用ガラス板清掃装置。
(2)搬送コンベアによるガラス板搬入路適所に除電バーを対設し、走行するガラス板に帯電する静電気を除去することを特徴とする請求項1記載の液晶板用ガラス板清掃装置。」(特許請求の範囲)
イ.「搬送コンベアによるガラス板搬入路適所に除電バーを対設し、走行するガラス板に帯電する静電気を除去することが除塵を効果的に行うのに有効である。」(第2頁右上欄第5?8行)
ウ.「図中47は除電バーであり、搬送中のガラス板Aに対向して設けたもので、ガラス板Aに帯電する静電気を除去するようにしたものであり、必要により設ける。」(第3頁左上欄第16?19行)
(6)引用刊行物6(刊行物6)
ア.「第1図において、11は板状の電子部品、例えば液晶表示器用の透明電極基板で、前述のように、ガラス板等による基板上に複数の透明電極を所定形状に配置し、かつその表面を配向膜によって被覆している。この透明電極基板11は導電性材料によるステージ12上に設置され、ラビング処理用の布等を巻いたローラ13により表面がこすられ、ラビング処理される。」(第2頁右下欄第11?18行)
イ.「前記導電体15の搬送路14aとの対向面15aは、ステージ12から離れるに従って搬送路14aとの間隔が開くように設定されているので、透明電極基板11の図示右方への移動に伴い、透明電極基板11の電圧は徐々に上昇しようとする。しかし、搬送路14a上には除電器17が設けられており、搬送路14aを通る透明電極基板11に対して電離空気を吹き付け、静電気を中和させるので、透明電極基板11での電圧上昇はほとんど生じない。」(第3頁左下欄第1?9行)
(7)引用刊行物7(刊行物7)
ア.「第3図において、ゴムローラ1によってICパッケージ2を搬送する工程において、ICパッケージ2は絶縁物であり、静電気が帯電する。この静電気を、イオン発生器3で生成したイオン流4を吹きつけて除去するように取付けたものが静電気除去装置4である。」(第1頁左下欄第15行?右下欄第1行)

2.対比、判断
本件特許発明と引用発明とを対比すると、後者の「X線管29」は前者の「X線ユニット」に対応し、後者はX線管29からのX線を照射するのであるから、当然、そのX線管は何らかのターゲット電圧及びターゲット電流が設定され、それに応じた波長のX線が発生されるものである。
また、後者は、X線を空気に照射することにより、該空気を含むガスをイオン化させて、該空気中の成分ガスの正及び負のイオンを生成させるものであるから、前者と同様に、空気をイオン化させて正イオンと、負イオン及び/又は電子とを生成するものである。
後者の「集積回路ウェーハ,マイクロチップ及びその他同様のものである製品」及び「製品を取り囲む空気」は前者の「帯電物体」及び「帯電物体の周辺の雰囲気空気」に相当し、後者の、イオン化された空気の流れを導き、その出口から放出して集積回路ウェーハ、マイクロチップ及びその他同様のものである製品を取り囲む空気中の上記正及び負のイオンである自由イオンを高水準に維持し、空気中の正のイオンは製品上の負の静電荷に、また、空気中の負のイオンは製品上の正の静電荷と電荷の交換によって静電荷を中和することによる製品上の静電荷の累積を中和する方法は、前者の、この生成された正イオンにより負電荷を、負イオン及び/又は電子により正電荷を中和する帯電物体の中和方法に対応する。
したがって、本件特許発明と引用発明とは、
「X線ユニットにより発生させたX線を、空気に照射することにより、該空気をイオン化させて正イオンと、負イオン及び/又は電子とを生成し、この生成された正イオンにより負電荷を、負イオン及び/又は電子により正電荷を中和する帯電物体の中和方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。
A:X線ユニット(X線管)について、本件特許発明が透過型としているのに対して引用発明は透過型でない点。
B:X線について、本件特許発明は、ターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流を60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線であるのに対して、引用発明はX線管29からのX線であって、15keV のエネルギーを有するX線である点。
C:本件特許発明は、X線を空気に直接照射するものであるのに対して引用発明は直接照射するのか否か明確でない点。
D:本件特許発明は「搬送系における帯電物体としての液晶基板の周辺の雰囲気空気に」「照射することにより、該雰囲気空気をイオン化」するものであるのに対して、引用発明はそうでない点。

そこで、上記相違点について検討する。
ア.相違点Aについて
透過型のX線ユニットは例えば特開平2-297850号公報(甲第7号証)や刊行物2等にも示されるように、周知のものである。そして刊行物2に記載のものは除電のために用いるものでもある。そうすると、引用発明のX線ユニットとして透過型のものを用いることは当業者が適宜なし得る選択的事項といえ、その効果についても、その構成に付随するものであって、格別であるとはいえない。

イ.相違点Bについて
(ア)1Å以上2Å未満の波長の軟X線について
引用発明の15keVのエネルギーを有するX線は、0.827Åの波長である。そして、引用刊行物1の1.(1)オ.の記載は、遮蔽する必要を最小化するためにX線のエネルギーは低くしようとすることを示唆しており、同時に薄い窓31を貫通することが可能な例として0.827Åの波長のX線が示されているといえるのであるから、上記示唆に基づいてより遮蔽を容易にするために、例示のX線のエネルギーはより低く、つまり0.827Åの波長をより長いX線を用いようと考えることに困難性は認められない。
一方、薄い窓31について、引用発明でも、プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製のものを例示しているように、各種の材質が知られており、材質や厚み等によりこれを貫通する際の吸収も大きく異なること〔必要あれば、「岩波 理化学辞典 第4版」1987年10月12日発行、岩波書店(甲第3号証)及び「ENERGY DISPERSIVE X-RAY FLUORESCENCE ANALYSIS」1989年発行、POLISH SCIENTIFIC PUBLISHERS(甲第13号証)等参照〕も当業者にとって周知の事項である。例えば、アルミニュームとベリリュームでは貫通のしやすさは大きく異なると考えられ、引用発明はこれらを一括して薄い窓31とし、これを貫通するX線として、0.827Åの波長のX線を例示するのであるから、薄い窓31の具体的構成やイオン化の能率等の各種の条件を考慮・変更しつつ、より貫通しやすい薄い窓を採用する等して、X線の波長をより長く設定することは、当業者が格別の困難性を要することなくなし得ることである。そして、そのようにより長い波長を選択しようとするに際し、上記例示の長波長側の近傍に着目し、1Å以上2Å未満の波長を選択することは当業者にとって適宜なし得る設計的事項であるといえる。例えば、特開昭58-32200号公報(甲第6号証)の第5図にも示されるように、15kVのターゲット電圧で1?2Åの波長を含む(ピーク波長でもある)X線を発生するX線管は周知であり、このような周知のX線管を用いるように、当該範囲を選択することに困難性はない。
また、1及び2Åの具体的数値の技術的意義について、本件明細書には「発生するX線の波長は、電子が照射されるターゲットによって異なるが、1オングストローム?数百オングストロームの波長範囲の軟X線を用いることが好ましい。特に、1オングストローム?数十オングストロームの軟X線が好ましい。」(本件訂正明細書の第6頁第24?26行)と記載されているのみであって、軟X線を用いることが好ましいとするものの、具体的に1及び2Åという値がいかなる臨界的意義を有するのか記載されていないだけでなく、硬X線に対して軟X線がどう良いのかも記載されていない。そうすると、上記のように、1Å以上2Å未満の波長を選択することは、当業者が適宜なし得ることといえる。上記特開昭58-32200号公報に示されるような周知の1Å以上2Å未満の波長のX線を発生するX線管を用いることに困難性はない。
なお、軟X線、通常のX線及び硬X線の区別は、X線の波長によってのみなされるものであるから、上記のような周知の1Å以上2Å未満の波長のX線は、当然、本件特許発明における軟X線であるといえ、軟X線という用語とすることも格別ではない。

(イ)ターゲット電圧6kV以上とすることについて
(i)本件特許発明は、X線の発生源として、本件明細書及び図面に図3として示されるようなX線ユニット(本件訂正明細書の第6頁第11?21行)から、つまりX線管から発生させるものであって、ターゲット電圧を変化させるものである。そして、通常このようなX線管の場合、最短波長から長波長側へ広く波長が分布するものである。そうすると、1Å以上2Å未満の波長のX線は、被請求人も平成19年6月8日付け答弁書第15頁第11?13行で述べるように、ピーク波長が1Å以上2Å未満の波長のX線を含むものと解される。
上記ターゲット電圧6kVという値は、最短波長2.067ÅのX線に対応するものであるから、1Å以上2Å未満の波長のX線を得るには、そもそもターゲット電圧6kVを越えなければならないのであって、そのようなターゲット電圧とすることは容易である。
(ii)また、引用発明は遮蔽する必要を最小化するためにX線のエネルギーを低くしようとするものの、薄い窓31を貫通することが可能で能率的にイオン化することが必要であるというのであるから、低すぎると窓を貫通できず能率的にイオン化できず、より高いエネルギーのX線は窓をより貫通し効率的にイオン化できるというものでもあることは当業者に明らかである。また、装置の薄い窓のみならず、X線管自身も発生するX線に係る特性を個別に有するものであり、例えばターゲットやそれを支持する基板、X線管の外囲器の窓等は、ターゲットにおけるX線発生後において影響を有する部材である。さらに、装置のその他の構成もX線のスペクトルに影響を与えるものと考えられる。
そうすると、ターゲット電圧を上げるとイオンが増え、それに従って除電時間が短くなるということは当業者が普通に想到することであるから、より短い除電時間、大きいイオン出力を求めて、要求される除電時間となるように電圧を設定することは容易であり、さらに、上記のようにターゲット電圧は各条件に応じて設定するものであって、上記の各条件が限定されないのであるから、ターゲット電圧を6kV以上とすることは当業者が容易に設定できたことといえる。
(iii)その上、本件明細書及び図面において、ターゲット電圧を限定するの根拠となる図5については、図4の実験装置による実験結果であるところ、除電時間やイオン出力は電圧のみならず、引用刊行物1に示されるような窓の構造による影響、さらにその他、X線管の構成や特性、その電流、チャンバの構造、ガスの種類や湿度、流速などにも関連することことは、当業者に明らかである。そうすると、図4の実験装置以外の装置にも共通する値とはいえず、それぞれの装置や要求に応じて当業者が適宜設定し得る値であるといえる。さらに本件の図3のX線ユニットも、発生した基体やさらにX線ユニットの外囲器を通過しており、これらの影響も当然に受けるものである。
そうすると、6kVという値に、格別の臨界的、技術的意義は認められず、当業者が適宜採用しうる値であるともいえる。

(ウ)ターゲット電流を60μA以上とすることについて
(i)X線管の出力がターゲット電流と相関があることは当業者に自明である。
引用刊行物1でも上記1.(1)のケ.で摘示したように「電荷抑制装置11の動作は、・・・放電するのに必要な時間を・・・測定する・・・ことによって評価され」「この測定された放電時間は・・・イオン出力に反比例する。イオン出力の増加はより低い放電時間に帰着する。」と記載されており、本件特許発明と同様に除電時間でイオン出力を計測している。
当業者が求める出力や除電時間に応じて出力を設定することは当業者が普通になす設計事項である。
そしてそれを達成するよう、その限界値より大きな電流と限定することに格別の意義は認められない。
(ii)ところで、ターゲット電流とイオン出力、除電時間の関係についても上記(イ)(iii)で述べたと同様に、各条件で変わるものである。例えば、X線管の特性、ガスの種類や流速、チャンバの構造などにも関連することことは、請求人の平成19年4月20日付け弁駁書第20頁第1?8行にも記載されるように当業者に明らかである。
したがって、そのターゲット電流は各条件に応じて設定されるものであって、60μAという値を装置や要求に応じて設定することは当業者が適宜設定することといえる。そして、それより短くなるように60μA以上とすることも設計事項である。
特開平2-297850号公報(甲第7号証)及び特開昭63-110541号公報(甲第8号証)等に示されるように、60μA以上のターゲット電流を流すX線管は周知であって、60μA以上という値を選択することに困難性はない。
(iii)さらに、本件の図面、図6についても検討を進める。図6において、ターゲット電流が60μAまでは電流の増加に応じて除電時間が減少しており、60μA以上ではそれに比べて減少が少なくなっている。つまりターゲット電流の増加に対する効果が飽和しているといえる。
装置や条件により特性が異なることは上記したとおりであるが、図6において、飽和するその電流を限定するのであれば、もっとも効率的な電流といえるものの、これを越える飽和する電流とすると、電流を増加してもイオンがあまり増加せず、結局効率等とは関係なく、単により大きな出力となるように、電流を設定するというにすぎない。本件明細書でも「電流依存性は、電圧依存性に比べて小さいが、短時間の中和を行うためには、ターゲット電流を60μA以上とすることが好ましい。」(本件訂正明細書第11頁第17?18行)と記載するのみであって、この値以上とすることについての格別の効果も認められない。この点からも、上記数値限定が格別のものとはいえない。

(エ)以上のように、ターゲット電圧6kV以上、ターゲット電流を60μA以上及び1Å以上2Å未満の波長の軟X線とすることは、それぞれ、上記(ア)?(ウ)で検討したとおりであり、かつ、これらの限定が合わされた、ターゲット電圧6kV以上、ターゲット電流を60μA以上として発生させた、1Å以上2Å未満の波長の軟X線であることについて検討しても、そのことによる予期し得ない、格別の作用・効果が生じるものとは認められない。
したがって、上記相違点Bに係る本件特許発明の構成とすることは当業者が容易になし得たことといえる。

ウ.相違点Cについて
本件特許発明の「空気に直接照射する」とは、X線を照射することとどう異なるのか、X線源が限定されるものでも、そのX線源から出たX線からの具体的な照射のための構成が限定されるものでもないため、その技術的意味が必ずしも明確でない。
そこで、本件明細書及び図面を参照すると、特許請求の範囲の請求項6?9において「6. プロセス装置へ被処理物体を搬送するための搬送室を有する搬送装置において、前記搬送室内の雰囲気ガスに1Å?数百Åの波長の軟X線を直接照射しえるようにして軟X線ユニットを配設した搬送装置であり、
前記搬送室を、1Å?数百Åの波長の軟X線に対して透明な材質により形成したことを特徴とする搬送装置。
7. 前記1Å?数百Åの波長の軟X線に対して透明な材質としてポリイミドを用いることを特徴とする請求項6記載の搬送装置。
8. プロセス装置へ被処理物体を搬送するための搬送室を有する搬送装置において、前記搬送室内の雰囲気ガスに1Å?数百Åの波長の軟X線を直接照射しえるようにして軟X線ユニットを配設した搬送装置であり、
前記搬送室を、Cr/Fe(原子比)が1以上の熱酸化不動態膜を表面に有するステンレス鋼により形成するとともに、搬送室の適宜の位置に1Å?数百Åの波長の軟X線を直接照射するための入射口を設け、該入射口を介して1Å?数百Åの波長の軟X線を搬送室内の雰囲気ガスに直接照射するようにしたことを特徴とする搬送装置。
9. 前記入射口に、外部側に突出するポート部を設け、該ポート部の長さを、ポート部の先端開口から搬送室内の被処理物体を見込むことができないような長さに設定し、該ポート部の先端開口に1Å?数百Åの波長の軟X線に対して透明な材質からなるフィルタを設けたことを特徴とする請求項8記載の搬送装置。」と記載されるように、軟X線に対して透明な材質からなる部材を通して、軟X線を照射する場合も「直接照射」するとしている。
また、本件明細書及び図面において、透過型のX線ユニットの実施例とされる図3のX線ユニットも、本件訂正明細書第6頁第11?19行に「軟X線領域の電磁波を発生させるためのX線ユニットとしては、例えば、図3に示すようなX線ユニットを用いることが好ましい。すなわち、このX線ユニットは、X線透過性の基体34上に電子を受けてX線を放射する材料よりなる薄いターゲット膜33が形成されているターゲット35を用い、また、電子源(フィラメント31)とターゲット35との間にグリッド電極32が設けられているもの(例えば、特開平2-297850号公報)を用いることが好ましい。このX線ユニット30は、ターゲット膜33が薄いため電子源とは反対側からX線37が放射される、いわゆる透過型であるため小型化が可能であり、従って、任意の場所に配設することができるという利点を有している。」と記載され、図3に図示されるように、ターゲット35で生じたX線は、X線透過性の基体34を貫通し、かつX線ユニット30の外囲を構成する基体に面する部材を貫通してX線が出てくるものであり、フィルタや壁を通らない場合においても、これらの部材を通過するものである。
そうすると、フィルタや壁等を通過しても「直接照射」するとするものであり、また、透過型のX線ユニットの具体的構成やX線の具体的スペクトル分布が限定されるものではなく、さらに透過型のX線ユニットの実施例においても、ターゲットで発生したX線は部材を通過してから空気をイオン化するものであることから、X線自身が直接空気をイオン化するように照射される、或いは、X線管からのX線が軟X線に対して透明な材質から以外の部材を通過することなく照射されるという意味と解される。
したがって、引用発明もX線をプラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓31を貫通させて、空気に照射するするものであって、引用刊行物1の図1を参照しても薄い窓31以外には何も介さないでX線管29から照射するものであるから、薄い窓を貫通したX線は直接、空気に照射されるものであるといえる。
また、薄い窓31の材質として例示される、ベリリュームやプラスチックは、X線を良く貫通させる材質として周知のものであり、さらに、薄い窓31の材質がX線を良く通過するものの方が良いことも明らかであるから、これを軟X線に対して透明な材質として、X線を直接照射するようなすことも当業者に容易である。
さらに、たとえ、X線管から出たX線が何も通過しないで、空気に照射されるとの意味であるとしても、例えば、引用刊行物2に窓を介さずに直接空気をイオン化するものが記載されているように、引用発明の薄い窓31での損失をなくすべく、これを除外することも容易である。引用発明は内部室とX線管を別に設けるものであるが、これを一体として薄い窓をなくすことに格別の困難性は認められない。
したがって、相違点Cに係る本件特許発明の構成とすることは当業者にとって容易である。

エ.相違点Dについて
(ア)引用刊行物1の第8頁左下欄第13?14行に「使用される点に近い位置で周囲の空気を単純にイオン化する従来の方法」が記載され、引用発明についても、「管の長さ」は「可能な限り短くなければならず」〔1.(1)オ.〕と、より近い場所にしようとすることが示唆されている。
また、引用刊行物2?4には、軟X線ではないものの、帯電物体の周辺雰囲気、つまり帯電物体を含めてその周辺の雰囲気に電離のためのX線、放射線、紫外線等の電離線を照射し、帯電物体の周辺の雰囲気をイオン化し除電するものが示されていて従来周知といえ、さらに引用刊行物2と4は軟X線に上下に近接する波長の硬X線及び紫外線でもある。
そうすると、引用発明において、より近くでイオン化するように、上記引用刊行物2?4に記載の周知の事項に倣って、帯電物体の周辺の雰囲気空気に照射することにより、該雰囲気空気をイオン化するようなすことは、当業者が容易になし得たことである。
なお、引用発明は、X線により生成された正及び負のイオンを流体送達配管28によりこのイオン化された空気の流れを導くものであるものの、従来の方法に対して不適当と思われる、流体送達配管28によりイオン化された空気を導く方法が、ある条件では欠点にならないというにすぎないのであって、帯電物体の周辺の雰囲気空気に照射してイオン化することができないというものではない。
さらに、引用発明は、上記イ.(ア)で摘示したように、遮蔽する必要を最小化するためにX線のエネルギーは低くしようとすることの示唆とともに、15keVのエネルギーを有するX線を例示するものであるから、帯電物体の周辺の雰囲気空気に照射する場合においても、引用発明と同様に、遮蔽する必要を最小化するためにX線のエネルギーは低くしようとすることは当業者が通常考慮することであって、この場合においても、1Å以上2Å未満の波長の軟X線とすることは、上記イ.(ア)で述べたとおり、当業者にとって容易である。

(イ)引用発明は、集積回路ウェーハ,マイクロチップ及びその他同様のものである製品を取り囲む空気中の上記正及び負のイオンである自由イオンを高水準に維持し、製品上の静電荷の累積を中和するものである。そして生産品はクリーンルームで製造され、当該場所の製品を取り囲む空気中の自由イオンの高水準を維持するものである〔1.(1)ウ.〕。
一般に、引用刊行物7に示されるように、半導体等の製造における搬送時に静電気を除去することは、半導体の製造において常套手段である。また、クリーンルーム等で製造される半導体装置の1つとして液晶基板も周知のものであって、液晶基板の製造において、その搬送時、静電気を除去することも、例えば引用刊行物5や6等に示されているように、周知である。
そうすると、除電される帯電物体を、搬送系における液晶基板とすることは、当業者が適宜なし得たことであるといえ、その場合に照射されるのは、上記(ア)で述べたように帯電物体の周辺の雰囲気空気であるから、搬送系における帯電物体としての液晶基板の周辺の雰囲気空気となる。

(ウ)ここで、「周辺の雰囲気空気」という記載では、「周辺」という用語が、どの範囲まで指すのか明確でなく、且つ雰囲気空気が流れている場合の上流を含むのか否かも規定しておらずこれを含んでいるのか否かも明確でない(クリーンルーム内の上方に設けられるものも含んでいるとも解され得る。)。
そこで、本件明細書及び図面を参照すると、特許請求の範囲の請求項1及び2に、「1. 帯電物体の周辺の雰囲気空気に向けてターゲット電圧6kV以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を直接照射しえる適宜の位置に軟X線ユニットが配設されていることを特徴とする帯電物体の中和構造。
2. 前記雰囲気空気は帯電物体方向に向かう気流空気であり、該帯電物体よりも上流側における空気に向けて軟X線領域の電磁波を直接照射しえるように、前記軟X線ユニットが配設されていることを特徴とする請求項1記載の帯電物体の中和構造。」と記載されており、請求項2の「前記雰囲気空気」は請求項1の「帯電物体の周辺の雰囲気空気」を指すものであるから、ここでいう「周辺」とは、「帯電物体方向に向かう気流空気であり、該帯電物体よりも上流側における空気」を含む範囲であるといえる。そうすると、明細書の記載からみて、周辺が、まさにその至近のみを指すとまではいえない。なお、「直接」との用語が付加されたとしても、特許請求の範囲の請求項1の記載が上記のようであるから、「帯電物体方向に向かう気流空気であり、該帯電物体よりも上流側における空気」を含む範囲であるといえる。
一方、本件明細書には「コロナ放電法では、・・・残留電位をさげるためにイオン生成器を除電物体から遠ざけざるを得なかった。それに対して、本発明では、除電物体周辺では常に同数の正負電荷が生成されていることから、・・・所望の位置までX線ユニットを除電物体に近づけることができ、高い除電性能を達成することができる。」(本件訂正明細書第8頁第11?18行)と記載されており、上記記載では、コロナ放電法によるものに比してX線ユニットを除電物体に近づけることができ、「除電物体周辺」で常に同数の正負電荷が生成できるとするものであって、「除電物体周辺」とはコロナ放電法に比して除電物に近く、正負電荷が除電物体を除電できる程度の距離とも解し得る。
しかしながら、空気に流れが無い場合のみならず、上記のように気流空気を含めると解しうるものであるから、その範囲はまさに至近のみならず、ある程度の範囲をもっている(正負電荷が消失しない範囲)ともいえる。
なお、液晶基板の搬送系に関する実施例が図10及び17であるとしても、特許請求の範囲の記載について、以上のように解されるものであるから、上記実施例の位置関係、流れがないもののみを指しているとはいえない。
そうすると、本件特許発明が空気を流さなくてもよいものであるとすることはできない。

また、たとえ流さなくてもよい程の範囲を指すとしても、引用刊行物2?4に、空気の流れを用いなくいてもよいほどの帯電物体至近の雰囲気を電離するものが示されているのであるから(引用刊行物2?4のものは雰囲気ガスを流していない。)、その効果が格別であるとはいえない。

したがって、相違点Dに係る本件特許発明の構成とすることも、当業者が容易になし得たことといえる。

オ.まとめ
そして上記相違点A?Dを合わせ考えても、本件特許発明の効果が格別であるとはいえない。
以上のように、本件特許発明については、引用発明、引用刊行物2?7に記載の発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.被請求人の主張(第5の意見書における主張)に対して
当審が通知した無効の理由に対して、被請求人は、意見書において「第5 請求人の意見書における主張」のように主張するので、これについて検討する。
(1)引用刊行物1について(第5の1.について)
ア.引用刊行物1に記載の発明は実施不可能であるとの主張について、内部室19で0.83Åの硬X線が吸収される割合は1.8%程度であるとしても、その限りにおいて電離可能なことは明らかであり、効率が悪いとしても、実施不可能であるとはいえない。除電についての実験結果も示されている。そして、引用刊行物1の記載から1.(1)の引用発明を当業者が認定できるものである。
イ.ターゲット電圧及びターゲット電流の何れも除電効率に影響を与えないことが明言され、X線波長、ターゲット電圧及びターゲット電流の何れについても放電時間との関係が示されていないとの主張について
引用刊行物1の「イオン出力に最も明確な影響を伴う変数はガスの流量,流体送達配管28の直径及び流体送達配管の長さであることを試験が示した。内部室の大きさ及びX線管29のフィラメント電流と陽極電圧とを含むその他の試験された変数は、非常に少ししか動作に影響しなかった。他の変数を一定に保持した流体送達配管材料及び内部室19の材料の異なる形式を用いた試験は、同様の結果を生じた。」〔1.(1)ケ.〕との記載は、ガスの流量,流体送達配管28の直径及び流体送達配管の長さがイオン出力に最も明確な影響を及ぼし、フィラメント電流と陽極電圧は非常に少ししか動作に影響しなかったとするものの、全く影響がないというものではない。
X線管の出力がターゲット電流と相関があり、より大きな出力がより多くのイオンを発生することは、当業者にとって自明の事項であるから、たとえ少ししか影響しないとしても、その値を決めるに当たって最適な値を求めるべく、実験等を行うことは当業者が通常行うことといえる。そして、より効率的にイオン化すること、より多くの出力を得ようとするために、ターゲット電流の値を一定値以上に設定することが当業者に格別のこととはいえない。
また、引用発明は流体送達配管28によりこのイオン化された空気の流れを導くものであるから、上記引用刊行物1の〔1.(1)ケ.〕の記載は、この流体送達配管28に係る変数の影響が大きいというものとも解される。
そして、上記2.エ.(ア)で述べたように、引用発明において、より近くでイオン化するように、上記引用刊行物2?4に倣って、帯電物体の周辺の雰囲気空気に照射することにより、該雰囲気空気をイオン化するようなすことは、当業者が容易になし得たことといえるから、その際、流体送達配管28が関係しなくなるので、当業者が通常、イオンの出力に影響が大きいと考える、ターゲット電流について、その値を実験等により設定しようとすることは、当業者が容易になすことともいえる。
X線波長、ターゲット電圧及びターゲット電流を、本件特許発明のように設定なすことは、上記2.イ.で述べたとおりである。
ウ.本件特許発明は従来のコロナ放電法や紫外線照射に変えて、1Å以上2Å未満の波長の軟X線を用いたのであって、本件明細書には硬X線に対していかに良いのかも記載されていないのであるから、15keVのエネルギーを有するX線を照射してイオン化する引用刊行物1から引用発明を認定することが不適切であるとはいえない。

(2)本件特許発明の効果および進歩性について(第5の2.について)
ア.ターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流を60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を用い、その軟X線を液晶基板の周辺の雰囲気空気に直接照射することは上記2.イ.?エ.で述べたとおりであり、その効果も格別であるとはいえない。
イ.透過型のX線ユニットを用いることは、上記2.ア.で述べたとおりであり、照射範囲を広くすることができることや、ターゲットで発生した軟X線を外部へ効率的に出力することができ、小型化可能である等の効果は、透過型のX線ユニットを用いたことに付随する効果にすぎず、雰囲気空気を効率的にイオン化して、液晶基板を効率的に除電することができ、配置スペースが限られる液晶基板の搬送系においてもX線ユニットの配置の自由度が高い等の効果についても、上記2.ア.?エ.で述べたようになすに際して、上記透過型のX線ユニットを用いたことに付随する効果に関連して、当業者が容易に予測できたことといえる。照射範囲を広くすることができるのであるから、イオンが生成される範囲を広くでき、X線ユニットの必要数を少なくでき、低コスト化を図るとの効果についても同様である。
硬X線を用いる場合に比較して、比較的短い距離の範囲において高密度のイオンを生成することができ、イオンが生成される範囲が限られることについても、当該効果は明細書に記載されるものではなく、かつ、軟X線は吸収されやすいことから、当業者が普通に想到し得る効果であるともいえる。
ウ.空気の流れを作る必要がないことについては、上記2.エ.(ウ)で述べたように、本件特許発明の効果とはいえず、かつ、当業者が容易に想到し得ることでもある。
エ.引用刊行物2?4については、帯電物体の周辺雰囲気、つまり帯電物体を含めてその周辺の雰囲気に電離のためのX線、放射線、紫外線等の電離線を照射し、帯電物体の周辺の雰囲気をイオン化し除電するものの周知例として引用するものであって、当該引用刊行物2?4に記載の周知の事項に倣って、帯電物体の周辺の雰囲気空気にX線を照射することが当業者にとって容易であるとすることに不都合はない。
本件特許発明の1Å以上2Å未満の波長は、その値に格別の臨界的意義を有するものではなく、軟X線は、硬X線と紫外線とに隣接する波長の範囲であるから、2.イ.(ア)で述べたように、1Å以上2Å未満の波長の軟X線とすることは当業者が容易になし得たことである。そもそも本願明細書には1Å以上2Å未満の波長についての臨界的意義が記載されておらず、かつ出願時の明細書には、2Åという値についての記載もない。
なお、引用刊行物3は放射性物質を用いることが示されていて、原子炉を必須とするとはいえない。
引用刊行物1の記載内容から本件特許発明の効果が予測し得ないとの主張〔第5の2.の(6)〕についても、上記(1)で述べたようであるから、採用できない。

よって、本件特許発明は、引用発明、引用刊行物2?7に記載の発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものというべきである。

第8 むすび
以上のとおり、本件特許発明は引用刊行物1?7に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の無効理由1、無効理由2並びに無効理由3の(1)及び(2)について検討するまでもなく、本件特許発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
帯電物体の中和構造、クリーンルーム、搬送装置、居住室、植物栽培室、正負の電荷発生方法、帯電物体の中和方法
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、第一義的には、気体中に正負の電荷を発生させる方法に関し、さらに、それによる帯電物体の中和方法並びに中和構造及びそれを用いた搬送装置、ウェットベンチ、クリーンルーム等の各種装置・構造物に関する。
背景技術
例えば、LSI及び液晶製造プロセスにおいて、シリコンウエハ及び液晶基板の帯電が大きな問題になっており、帯電防止技術の確立が急がれている。本装置は、この様な背景から、ガス分子イオンまたは電子を生成し、これによって帯電物体の電荷を中和するために開発されたものである。本装置を用いれば、シリコンウエハ及び液晶基板はもちろん、正あるいは負に帯電した全ての物体の表面電荷を短時間で中和することができ、静電気による各種の障害を防止することが可能となる。以下では、一つの例として、ウエハの帯電の実態及びそれによる障害について説明し、次に現在の帯電防止技術の問題点をあげ、本発明に至った経緯を説明する。
(ウエハの帯電)
ウエハは、不純物汚染防止及び耐薬品性の必要性から、通常絶縁性のふっ素樹脂や石英でハンドリングされている。このため、ウエハは非常に高い電位に帯電しやすくなっている。実測例として、フォトリソ工程でのウエハ帯電電位測定結果を表として図16に示す。この結果から分かるように、ウエハはKVのレベルで帯電していることが分かる。
(ウエハの帯電による障害)
ウエハ帯電は、製造プロセスに重大な障害を与える。静電気力による浮遊粒子付着、静電気放電によるデバイス破損及び電子ビーム露光時等に問題となる電子軌道障害がその主なものである。以下、この障害について簡単に説明を加える。
・静電気力による粒子付着
ウエハへの浮遊粒子付着には、重力、慣性力、静電気力、ブラウン拡散、熱泳動力という5つの因子が関係し、その影響の大きさは粒径によって異なる。0.1μm以下の粒子では後者の3因子が支配的となり、中でも静電気力の影響は極めて大きくなる。
図1は、ウエハ電位と浮遊粒子付着速度の関係を実測した結果である。この場合の粒子径は、0.5μm以上である。粒子付着速度が静電気力の影響により大きくなって行っていることが明らかである。
次に、さらに粒子が小さくなった場合の静電気力の影響を調べるために、理論計算結果を図2に示す。計算比較粒径は、2μm、0.5μm、0.1μmの3通り、ウエハ電位は1000Vとしている。ここでは、付着力として、重力と静電気力のみを考慮し、付着粒子の浮遊範囲を計算した。2μm粒子の付着範囲は非常に狭く、ウエハにはほとんど付着しないことを示している。
しかし、粒径が0.5μm、0.1μmと小さくなるに伴い、ウエハへの付着範囲は急激に増加していっており、帯電粒子の粒径が小さくなった場合、その付着において静電気力の影響が非常に大きくなることを示している。以上のように、クリーンルームにおける制御対象粒径が益々小さくなってきている環境においては、粒子発生防止は勿論であるが、同時に付着を最小限に抑えるため静電気対策が非常に重要になる。
・帯電によるデバイス破壊
帯電によるデバイス破壊は、絶縁膜の薄膜化及び回路パターンの微細化に伴い益々大きな問題になってきている。デバイス破壊には、電圧に依存するものと電流に依存するものがあることから、その防止においては帯電電位の低減のみではなく、静電エネルギーを低減することも考えなくてはならない。
デバイス破壊で電圧が支配的となるのは、主に酸化絶縁膜などの絶縁破壊である。この場合、酸化膜厚が薄くなれば当然破壊電圧も低くなる。一般に、酸化膜の絶縁破壊強度は10MV/cm程度である。
一方、電流が支配的となるのは、配線の断線障害である。これはジュール熱による回路の溶融が原因となっている。このウエハ帯電によるデバイス破壊は、静電気力による浮遊粒子付着障害以上に、低い帯電電位で顕著に発生する。装置でのウエハ処理時の帯電防止と同様、ウエハ搬送時の帯電防止も大変重要となる。
(従来のウエハ帯電防止技術)
従来のウエハ帯電防止技術としては、以下に示すような方法がある。
▲1▼コロナ放電法によりイオンを発生させ、このイオンにより帯電ウエハの電荷を中和する。
▲2▼接地された導電性材料(金属や導電性樹脂)でウエハをハンドリングすることにより、ウエハの電荷の中和をする。
しかし、これらの中和方法にはいくつかの欠点があり、これを改善しない限り帯電ウエハの中和対策として将来にわたって使っていくことが出来ない。
まず、▲1▼のコロナ放電法にはおもに4つの欠点がある。
1)放電電極からの微粒子発生
2)イオン極性の偏りに起因する残留電位の発生
3)高圧放電電極による誘導電圧の発生
4)オゾンの発生
1)には、放電電極先端の放電時の電子及びイオンのスパツタ作用等の摩耗による電極材自身の発塵と、放電時に空気中不純物が化学反応などにより固形化し電極表面に付着堆積したものが発塵するものとがある。前者の発塵については、近年開発された石英ガラスで放電電極を保護したことにより解決された。しかし、後者の問題はまだ解決されていない。
2)は、放電電極印加電圧の極性が正負交互に変化するために生じる問題である。放電電極の極性が正の時は、正イオンが除電物体に供給され、放電電極が負の場合は、負イオンまたは電子が除電物体に供給される。除電後も、この様に偏った極性の電荷が供給されるために残留電位が発生する。この残留電位は、イオン生成器が除電物体に近いほど高くなることから、この障害を低減するためには、ある程度距離をとって、イオンは気流によって搬送するようにする必要がある。
近年、イオン生成部近傍に直流電位を印加することにより、残留電位を低減する方法が開発されたが、それでも除電物体近傍ではこの後に説明する誘導電圧が問題となるために使用出来ない。このように距離をとらなければならないことは、除電速度を遅くしてしまう大きな原因となっている。コロナ放電法ではこの問題を完全に解決することは、原理的に不可能である。
3)の誘導電圧の発生は、放電電極が除電物体に近い場合に問題となる。この障害を防止するためには、放電部と除電物体間の距離をとるしかない。2)の残留電位の場合と同様、距離をとる分、除電時間が遅くなってしまう。
4)オゾン発生では、酸素分子が解離して出来た酸素原子ラジカルが主な生成源になっている。この様な解離現象は、10eV以下の低エネルギ電子との衝突や光子吸収により促進される。コロナ放電法では、コロナ域でこの現象が見られ、その結果オゾンが発生する。オゾン濃度は、放電電極の構造や印加電圧及び風量によって異なるが、例えば、ほとんど滞留状態の空間では、最高数十ppmに達する。このオゾンは、酸化力が非常に強いために、ウエハ表面の自然酸化膜生成を促進するばかりでなく、周辺の高分子材の劣化を促進させる。
次に、▲2▼では、ウエハ帯電はほぼ完全に防止することが出来るが、不純物汚染という重大な障害を伴う危険性が高くなる。金属はもちろん導電性をもたせるためにフッ素樹脂等に混入されている不純物は、ウエハとの接触摩耗によりウエハを汚染し、電気特性劣化の大きな原因になる。この障害は、静電気以上に重大な問題で、これを防止するために、絶縁性の樹脂材でウエハがハンドリングされているというのが現状なのである。
本発明は、どの様な雰囲気下でも帯電物体の電荷を短時間で中和することが可能な正及び負の電荷を同時に発生する装置に関し、また、前述した全ての欠点を伴わずに静電気の発生を完全に防止できる帯電物体の中和方法並びに中和構造及びそれを用いた各種装置に関する。
図面の簡単な説明
図1は、ウエハ電位と付着粒子との関係を示すグラフである。図2は、静電気力による粒子付着の粒径依存性を示すグラフである。図3は、本発明において用いられるX線ユニットの例を示す側面図である。図4は、中和実験に用いた装置の概念図である。図5は、除電性能のターゲット電圧依存性を示すグラフである。図6は、除電性能のターゲット電流依存性を示すグラフである。図7は、除電性能の雰囲気圧力依存性を示すグラフである。図8は、本実施例に係るクリーンルームの斜視図である。図9は、本実施例に係るウェットベンチの斜視図である。図10は、本実施例に係るウエハ及び液晶基板の搬送系を示す概念図である。図11は、本実施例に係るウェットベンチの斜視図である。図12は、本実施例に係るスピンドライヤ装置の斜視図である。図13は、本実施例に係るclosed搬送系及び製造装置内を示す斜視図である。図14は、本実施例に係る居住室の概念図である。図15は、本実施例に係る植物栽培室の概念図である。図16は、フォトリソ工程でのウエハ帯電電位の測定結果を示す表である。図17は、ガラス基板搬送時の除電方法を示す概念図である。図18は、ガラス基板の表面電位の変化を示すグラフである。図19は、ガラス基板引き上げ時の除電方法を示す概念図である。図20は、ガラス基板の表面電位の変化を示すグラフである。
発明の開示
本発明の帯電中和構造は、帯電物体の周辺の雰囲気空気に向けてターゲット電圧6kV以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を直接照射しえる適宜の位置に軟X線ユニットが配設されていることを特徴とする。
本発明のクリーンルームは、清浄な空気が、天井から床に向かいダウンフローしているクリーンルームにおいて、天井面に対し略平行にターゲット電圧6kV以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を直接照射しえるようにして軟X線ユニットが配設されていることを特徴とする。
本発明の搬送装置は、プロセス装置へ被処理物体を搬送するための搬送室を有する搬送装置において、前記搬送室内の雰囲気ガスにターゲット電圧6kV以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を直接照射しえるようにして軟X線ユニットを配設したことを特徴とする。
本発明の植物栽培室は、外部から植物栽培室の内部に空気を供給するための空気導入手段を有する植物栽培室において、前記空気に1Å?数百Åの波長の軟X線を直接照射することにより、該空気中に正イオンと負イオン及び/又は電子を生成する手段を設けたことを特徴とする。
本発明の軟X線を用いた正負の電荷発生方法は、ターゲット電圧6kV以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を、加圧、大気圧又は減圧下にある空気に照射することにより、該空気中に正イオンと負イオン及び/又は電子を生成させることを特徴とする。
本発明の帯電中和方法は、透過型のX線ユニットによりターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を、搬送系における帯電物体としての液晶基板の周辺の雰囲気空気に直接照射することにより、該雰囲気空気をイオン化させて正イオンと、負イオン及び/又は電子とを生成し、この生成された正イオンにより負電荷を、負イオン及び/又は電子により正電荷を中和することを特徴とする。
軟X線領域の電磁波を発生させるためのX線ユニットとしては、例えば、図3に示すようなX線ユニットを用いることが好ましい。すなわち、このX線ユニットは、X線透過性の基体34上に電子を受けてX線を放射する材料よりなる薄いターゲット膜33が形成されているターゲット35を用い、また、電子源(フィラメント31)とターゲット35との間にグリッド電極32が設けられているもの(例えば、特開平2-297850号公報)を用いることが好ましい。このX線ユニット30は、ターゲット膜33が薄いため電子源とは反対側からX線37が放射される、いわゆる透過型であるため小型化が可能であり、従って、任意の場所に配設することができるという利点を有している。また、電子源とターゲット35との間にグリッド電極32が設けられているためターゲット電流の制御が可能である。
軟X線領域の電磁波は、ある特定の物質(例えば、W:タングステン)に所定のエネルギーの電子線を照射することにより簡単に得られる。
発生するX線の波長は、電子が照射されるターゲットによって異なるが、1オングストローム?数百オングストロームの波長範囲の軟X線を用いることが好ましい。特に、1オングストローム?数十オングストロームの軟X線が好ましい。
また、軟X線領域の電磁波としては、ターゲット電圧(加速電圧)を4kV以上とすることにより電子ビームを4kV以上に加速してターゲットに衝突させて発生させた電磁波を用いることが好ましい。さらに、ターゲット電流を60μA以上とすることにより発生させた電磁波を用いることが好ましい。
なお、軟X線領域の電磁波が照射されるガス(帯電中和構造の場合は帯電物体の雰囲気ガス)は、空気の他に、例えば、窒素ガス、アルゴンガスであっても本発明は適用可能である。このガスは、気流ガスでなくともよい。例えば、帯電物体の中和の場合、気流ガスでなくとも帯電物体の十分な中和作用を行えることが本発明の一つの特徴である。もちろんX線ユニットからのX線領域の電磁波はの照射を帯電物体から離れた位置において行う場合には、雰囲気ガスを帯電物体に向かう気流ガスとすることが好ましい。なお、不純物濃度が数ppb以下である純窒素ガス雰囲気の場合、特に顕著な効果が得られる。 また、雰囲気空気の圧力は、1000Torr?1Torrとすることが好ましく、1000Torr?20Torrとすることがより好ましい。
本発明に係る気体イオン発生装置は、例えば、帯電物体の中和を目的とする場合に好適に適用される。また、中和以外の目的とする場合にも適用される。中和を目的とする場合は、例えば、クリーンルーム、ウエハ・液晶基体等、搬送装置、ウェット処理装置、イオン注入装置、プラズマ装置、イオンエッチング装置、電子ビーム装置、フィルム製造装置その他の帯電物体を取り扱う装置等に好適に適用できる。一方、各種目的をもって、例えば、建物、乗物(例えば、自動車、飛行機、電車等)等の居住室、あるいは植物栽培室等にも適用される。
なお、本発明者は、生成されるイオン対の濃度を10^(4)?10^(8)イオン対/cm^(3)・secとすることが好ましく、10^(5)?10^(8)イオン対/cm^(3)・secとすることがより好ましいことを見いだした。かかる濃度の場合、イオンの寿命が10?1000秒であることも見いだした。従って、イオン濃度を10^(3)?10^(4)(イオン対/cm^(3))なるイオン濃度でイオンを生成せしめ、軟X線領域の電磁波が照射される気流ガスの位置と帯電物体との距離Lを、次の関係をもたせて設定すれば帯電物体の中和を十分に行なうことができる。
L/v<10?1000
L:照射位置と帯電物体との距離(m)
V:気流ガスの速度(m/sec)
なお、本発明は、前述したものも、例えば、搬送装置、イオン注入装置、プラズマ反応装置、イオンエッチング装置、電子ビーム装置、フィルム製造装置、その他の帯電物体の中和を必要とする装置に好適に適用できることはいうまでもない。
作用
本発明においては、軟X線領域の電磁波の照射によるガス分子及び原子のイオン化を利用して、正イオン及び負イオンまたは電子を生成させるものである。
このイオン化法によれば、前述したコロナ放電イオン化法や紫外線照射イオン化法が有している問題点がすべて解決される。
コロナ放電法では放電電極先端部で放電時のスパッタ作用などにより発塵を生じていたが、本発明では発塵を伴うことなく正負の電荷の発生が可能である。
また、コロナ放電法では、正負の電荷は、放電電極に印加される極性に同調して周辺に供給されるために、正負の空間電位が発生し、その結果、除電物体(帯電物体)には残留電位が発生する。そして、残留電位をさげるためにイオン生成器を除電物体から遠ざけざるを得なかった。それに対して、本発明では、除電物体周辺では常に同数の正負電荷が生成されていることから、除電後は、空間電位の片寄りがなく、除電物体には残留電位が発生しない。従って、所望の位置までX線ユニットを除電物体に近づけることができ、高い除電性能を達成することができる。
なお、X線ユニット内部では高圧電圧が印加されているが、ケーシングで静電遮蔽されているために外部には電界は出てこない。そのため、コロナ放電法で問題となる放電電極からの誘導電圧はまったく生じない。従って、X線ユニットを所望の位置まで除電物体に近づけることに問題はない。
本発明の大きな特徴は、空気等酸素を含むガスを用いてもオゾンの発生を伴わずにガスをイオン化できることにある。従って、半導体ウエハの酸化や高分子材の劣化等の従来法の問題点を解決することができる。
オゾン発生については、光子のエネルギが数百eV?数keVオーダーで非常に高いために、効率よくガス分子及び原子はイオン化することができ、その結果、オゾン生成に最も寄与すると考えられる中性の酸素原子ラジカル数は少なくなり、オゾンの発生は抑制される。
ガス分子及び原子は、軟X線領域の電磁波を吸収して直接イオン化に至る。ガス分子及び原子のイオン化エネルギーはせいぜい十?二十数eV程度で、軟X線領域の光子エネルギーの数十?数百分の一である。従って、1光子により複数の原子分子のイオン化または2価以上のイオン生成が可能である。
帯電物体の周辺のガス雰囲気に向けて軟X線を照射することにより、高濃度のイオン及び電子を生成し、帯電物体の電荷の中和を行う。この場合、帯電物体周辺のガスの種類に関係なく、どのようなガスでもほぼ同等の除電性能が得られる。また、コロナ放電イオン化法による中和と違って、ガスのイオン化が帯電物体近傍で可能なことから、生成されたイオン及び電子を効率よく中和に使うことができ、その結果、除電性能が飛躍的に高くなる。また、イオン化したガスを配管等で搬送する場合に比べて、除電性能は100?1000倍向上する。
発明を実施するための最良の形態
以下に本発明の実施例を説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、当業者が容易に行うことができる設計変更、数値変更、迂回等も当然に本発明の範囲に含まれることはいうまでもない。
(実施例1)
本発明による帯電ウエハの中和実験について、得られたデータを示しながら説明する。
実験装置を図4に示す。SUS製チャンバ41に、外部から軟X線が照射できるように、側壁に入射口42が設けられ、その入射口42にはさらに直径50mm、長さl_(2)のポート43が取り付けられている。ポート43の長さl_(2)は、ポート43の先端の開口から帯電物体(ウエハ)44が見込めない(すなわち、先端開口からウエハが見えない)ような長さに設定しておけばウエハ44へのX線の直射を防止することができる。なお、本例ではこのポート43を二重筒構造とし、外筒45が摺動可能となっている。従って、仮にウエハ44の大きさが変わる等により、ウエハ44と入射口42との距離l_(1)が変化しても外筒45をスライドさせることによりボート43の長さl_(2)を自在に変化させれば、ポート先端の開口からウエハ44が見込めないようにすることができる。
また、このポート43の先端開口にはチャンバ41内と外部を隔離するためのフィルタ46を取付られるようになっている。雰囲気ガス(例えば、N_(2),Air,Ar)は、チャンバ41の一端(図面上右側)に設けられたガス入口47から入れられる。なお、本例では、ガス入口47に3方弁48aを設け、導入ガスの切り替えが可能となっている。また、チャンバー41の他端(図面上左)にはガス出口49が設けられ、ガス出口49にも3方弁48bが設けられ、3方弁48bの一つはオゾンメータ50に接続されている。オゾン濃度は、このオゾンメータ50により排気側でモニターされる。
評価実験を行うために、ウエハ44の近傍に電極51を設け、直流電源によりウエハ44にある所定の初期電位を印加し得るようにしてある。そして、ウエハ44には表面電位計が接続されている。ウエハ44の表面電位の減衰時間を表面電位計でモニターすることによって除電性能を評価した。
実験に使用したX線ユニット52の仕様を以下の通りである。
ターゲット材:W
ターゲット電圧:2?9.7kV
ターゲット電流:0?180μA
図4に示す装置を用い、次の項目について実験を行った。
1)除電性能のターゲット電圧・電流の依存性
まず、次の実験条件でターゲット電圧の依存性を調べた。
ウエハ静電容量:10pF
雰囲気ガス :空気、純窒素(不純物濃度が数ppb以下の窒素)
ターゲット電圧:4?9.7kV
ターゲット電流:120μA一定
l_(1) :11cm
l_(2) : 9cm
初期ウエハ電位を±3kVとし、上記条件で発生させた軟X線を雰囲気ガスに照射し、ウエハ電位が±0.3kVになるまでの時間を測定した。
その結果を図5に示す。
次に、次の実験条件でターゲット電流の依存性を調べた。
ウエハ静電容量:10pF
雰囲気ガス :空気、純窒素(不純物濃度が数ppb以下の窒素)
ターゲット電圧:8kV
ターゲット電流:30?180μAの範囲で変化
l_(1) :11cm
l_(2) : 9cm
なお、除電性能は、初期ウエハ電位を±3kVとし、上記条件で発生させた軟X線を雰囲気ガスに照射し、ウエハ電位が±0.3kVになるまでの時間を測定することにより評価した。
その結果を図6に示す。
図5、図6に示すように、帯電物体の除電時間はターゲット電圧及びターゲット電流に大きく依存することが分かる。特に前者の依存性は非常に大きい。ターゲット電圧が4kV以下では、ほとんど除電能力がなく、ガスのイオン化率が非常に低いことが分かる。この場合、ターゲット電圧が6?7kV以上であれば、帯電物体の除電を極めて短時間で行うことができる。
電流依存性は、電圧依存性に比べて小さいが、短時間の中和を行うためには、ターゲット電流を60μA以上とすることが好ましい。
ところで、図5、図6ともに、空気中と純窒素(不純物濃度数ppb以下の窒素)中とでは少し除電傾向が異なっている。空気中では、正負とも同じ除電性能であるが、純窒素中では正電荷の除電性能が高くなっている。この違いは、負イオン源の存在率の差にある。つまり、空気中では、酸素やCO_(2)、NO_(X)、SO_(X)等が、ガス分子より電離された電子と結合して比較的安定な負イオンを生成する。従って、帯電電荷を中和するのは、移動度がほぼ同等な正及び負のイオンである。
一方、純窒素中では、この様な負イオン源はほとんど存在せず(ppbレベル以下)、そのためガス分子から電離された電子の多くは負イオンを形成することなく直接正電荷の中和に寄与する。この電子の電界中での移動度は、イオンに比べて数桁大きい。従って、生成された電子は帯電物体まで非常に短時間で達することができ、正イオンとの再結合による中和及び拡散による消滅が抑えられ、効率よく帯電物体の中和に寄与する。この結果、正電荷の除電速度が速くなっているのである。
2)除電性能の照射窓材質依存性
軟X線は、硬X線とは違って、物質に非常に吸収され易い。従って、ある特殊雰囲気内での除電において、フィルタ窓を介して内部に軟X線が照射された場合、除電性能の低下が考えられる。
これを次の条件で実験を行い確認した。フィルター無しの場合、放射線に対して比較的安定で透過率の高いポリイミドフィルム、厚さ2mmの合成石英の場合について除電性能を比較した。
ウエハ静電容量:10pF
雰囲気ガス :空気
ウエハ電位 :±300V→±30V
ターゲット電圧:8kV
ターゲット電流:120μA
l_(1) :11cm
l_(2) : 9cm
ポートの先端開口:▲1▼フィルタ無し
▲2▼0.12mmのポリイミドフイルム設置、
▲3▼2mmの合成石英設置
測定結果は次の通りであった。

(単位はsec/10pF 括弧内はフィルター無しを1とした場合の除電時間比)ポリイミドフィルムからなるフィルタの場合除電性能は比較的よく、フィルタ無しに比べて82%の除電性能が得られた。一方、合成石英窓では、除電効果は完全になくなってしまい、軟X線がほぼ100%吸収されてしまっていることが分かる。
この結果から、この様な特殊雰囲気(例えば、雰囲気ガスを気密化した閉鎖系(closed system))中で、フィルタを介して軟X線を照射する場合、放射線に対して比較的透明なポリイミドのような材質からなるフィルタを使用することが好ましい。
3)除電性能の雰囲気ガス圧力依存性
次に、除電性能の雰囲気圧力依存性について調べた。実験条件は以下の通りである。
ウエハ静電容量:10pF
雰囲気ガス :空気
ターゲット電圧:8kV
ターゲット電流:120μA
l_(1) :11cm
l_(2) : 9cm
なお、除電性能は、初期ウエハ電位を±300Vとし、上記条件で発生させた軟X線を雰囲気ガスに照射し、ウエハ電位が±30Vになるまでの時間を測定することにより評価した。
結果を図7に示す。
除電性能は明らかに雰囲気圧力に依存して変化していることがわかる。100torrぐらいまでは、徐々に性能は良くなっており、最高で約2倍速く除電が出来ている。しかし、それ以降はどんどん遅くなっており、約20torrにおいて大気圧時とほぼ同じとなり、1torrでは10倍遅くなっている。この結果から、1torr程度までの減圧下では、除電が可能であるが、それ以下では除電時間が非常に長くなり、あまり有効でない。
4)除電雰囲気のオゾン濃度
空気中における除電でしばしば問題になるオゾン発生について実験を行った。
実験条件は下記の通りとした。
雰囲気ガス :空気
ターゲット電圧:9.7kV
ターゲット電流:190μA
l_(2) : 9cm
図4のオゾンメータ50でオゾンの発生量を測定した。オゾン濃度は、図4に示したようにチャンバ41内のガスを2l/minの吸引量で引きオゾンメータ50により測定した。なお、測定は、X線領域の電磁波照射30分後に行った。
結果を次に示す。なお、比較のためにバックグランド(B.G)の濃度、及び紫外線照射(UV照射)の場合におけるオゾン量も併せて示す。
実施例 :8?10ppb
B.G. :8?10ppb
UV照射 :20ppm(30分後)
測定の結果、軟X線照射時であってもオゾン濃度上昇はまったくなく、これにより発生濃度はppbレベル以下であることが実証された。
一方、比較のために行った紫外線照射の場合では、オゾン濃度は20ppm(B.G.値の約2000倍)まで上昇した。
以上のように、軟X線による静電気中和性能は非常に優れている。オゾンの発生を伴わずに、高濃度のイオン対の生成が可能で、その結果、短時間で帯電物体の電荷を中和することが出来る。また、この軟X線は、減衰が速いために、人体に照射されないような遮蔽対策も非常に容易である。
なお、軟X線ランプの放射光をより集光させ平行光に近づけるために、放射部には遮蔽板(好ましくはX線を全反射し得る遮蔽板)を設けることが有効となる。
(実施例2)
図8に、クリーンルーム80の室内にX線ユニット81を設置した場合の実施例を示す。
本例では、クリーンルーム80の天井面に略平行に軟X線が照射されるようにX線ユニット81を天井82に取付て配設してある。軟X線を天井面に略平行に照射するのは、クリーンルーム80内の人間、あるはウエハ(あるいは液晶基板等)85へのX線の照射を防止するためのである。
なお、天井82には除塵のためのフィルター83が設けられており、また、天井82から床84に向かういわゆるダウンフローの空気流Aを生ぜしめてある。そして、X線ユニット81から放射されるX線は、空気流の上流部に照射されるため、X線照射により生成したイオン、電子は、空気流により下流にあるウエハ85に運ばれ、ウエハを85中和する。
なお、本例では、X線ユニット81は天井82に取り付けたが、クリーンルーム80内の人間あるいは、ウエハ85への照射を避けることができる位置ならば天井82に限ることはない。
(実施例3)
図9は、ウェットベンチ90へX線ユニット91を配設した例を示している。
一方、図10は、ウエハあるいは液晶基板101の開放系(open)搬送装置にX線ユニット102を配設した例を示している。図10に示す搬送装置103においては、X線ユニット102を可能な限りウエハ101に近づけるとともに、人体への被爆を避けるためにX線を遮蔽するための遮蔽板104を設けてある。
(実施例4)
また、図11はウェット工程での除電への適用例を、図12はスピンドライヤ乾燥での除電への適用例をそれぞれ示している。
一方、図13は、閉じた系(closed)の搬送系に適用した例を示している。この例では、搬送室の下方から窒素ガス(ウエハの表面酸化を防止する場合は不純物濃度数ppb以下の窒素ガス)あるいは水分濃度数ppb以下の空気を噴射させることによりウエハの浮上搬送を行っている。ウエハは搬送室からロードロックチャンバー(ロードロック室)を介してプロセス装置に搬入される。X線ユニットは、搬送室の搬送方向の側面とロードロック室の側面に設けてある。なお、搬送室は、軟X線に対し透明な材質、例えば、ポリイミドにより形成し、ポリイミドを通して、軟X線を搬送室内の雰囲気ガスに照射してもよい。
ただ、ウエハの表面酸化を防止するために、搬送室は、表面に熱酸化により形成した不動態膜を有するステンレス鋼により構成し、搬送用のガスとして、不純物濃度が数ppb以下の窒素ガスを用いることが試みられている。なお、表面におけるCr/Fe(原子比)が1以上である不動態膜を形成したステンレス鋼を用いれば、表面からの水分放出を防止することができより好ましい。
また、搬送室の側面に図4に示したようなポートを形成し、該ポートの開口を介して軟X線を搬送室内の雰囲気ガス(搬送用窒素ガスが雰囲気ガスとなる)に照射すれば搬送室内の搬送ガスに軟X線を照射することができる。なお、ポート長さ(図4のl_(2))は、ポートの先端開口から搬送室内のウエハが見込めない(すなわち、先端開口からウエハが見えない)寸法としてある。この寸法は、ウエハの径、X線照射口とウエハとの距離(図4のl_(1))等により変わるので、ポート長さを変え得る構造としてある。
本例の搬送装置は、閉鎖系(closed)であるので、ポートの先端開口にはポリイミドを形成してある。
(実施例5)
図14に建物の居住室に係る実施例を示す。すなわち、図14には建物の居住室が示してある。
本例では、居住室の天井に空気導入管が設けられており、この空気供給管を通じて外部から送られる空気が、空気供給管の供給口を介して居住室の内部に導入される。
そして、空気供給管には、X線ユニットが設けられており、空気供給管に開口が設けられており、その開口を介して、X線ユニットからの軟X線を空気供給管内を流れる空気に照射される。なお、開口を設けずに、空気供給管を、ポリイミド等の軟X線に対して透明な材質により構成してもよいことはいうまでもない。
軟X線が照射されると、空気中には、正イオンと負イオン及び/又は電子が生成し、正イオンと負イオン及び/又は電子を含む空気は、空気流に乗って居住室の内部にもたらされる。
約5坪の居住室を作り、図14に示す構成でX線ユニットを配設し、軟X線を照射した場合(実施例)と照射しない場合(比較例)とにつきテストを行った。
パネラーの数は20人とし、体感により評価した。
X線を照射した場合、X線を照射しない場合よりも、室内が爽やかであると答えた人数は15名であった。X線を照射した場合とX線を照射しない場合とで変わりはないと答えた人は5名であった。
図14のテーブル上にガイガーカウンターを設けておき、X線の被爆量を測定したところ、X線を照射した場合と照射しない場合とでカウンター数は同じであった。
(実施例6)
図15に植物栽培室に係る実施例を示す。すなわち、図15には、植物(花、野菜等)の栽培室が示してある。
図15の構成で軟X線の照射を日夜を通し1週間行った。1週間後に花の葉の色を観察したところ、軟X線を照射しない場合よりも鮮やかな緑色を呈していた。
なお、X線ユニットの配設は、図14に示すように行ってもよいこともいうまでもない。
(実施例7)
本実施例においては、液晶製造装置におけるガラス基板搬送時及び洗浄時に生じる帯電を、本発明及び従来の除電装置を用いて除電しその結果を比較した。
ガラス基板の搬送系で行った除電の様子を図17に示す。ガラス基板は、ゴムリングにより、左方から搬送され円形ステージ上で一度位置合わせをした後、右側のキャリアに収納される。本実施例では位置合わせ部で除電を行い、基板への照射角度を図に示すようにして除電特性を測定した。尚、従来の除電装置として、コロナ放電法を用いたブロアー式イオナイザーについても同様の条件で測定を行った。測定結果を図18に示す。
図18において、縦軸は帯電電位、横軸は経過時間である。点線は軟X線、実線はイオナイザによる除電特性を示す。除電しないときの帯電電位は、表面電位計の限界-3.3kVを常に越えた値を示した。本実施例の軟X線により除電した場合、除電開始後は、ピーク電位は最大時でも-0.4kVであり、0Vまでの除電時間はたかだか2秒程度であった。また、照射角度による除電性能の変化は全く認められないことが分かった。一方従来のイオナイザを用いた場合には、除電性能は照射角度に大きく依存し、しかも本実施例に比べ除電性能は大きく劣ることが分かった。例えば、ピーク電位は-3kVに達する場合があり、時間も少なくとも5秒以上かかった。
次にガラス基板洗浄時の除電の様子を図19に示す。超純水でオーバーフロー洗浄した後、槽内から基板を引き上げる際、基板の電位は-3.3kV以上に達した。図20に引き上げと同時に除電を行った場合の除電特性の測定結果を示す。軟X線照射により、最高帯電電位は0.1kV以下に抑えられ、しかも0Vになるまでの時間も1秒程度であり、帯電を効果的に防止できることが分かる。一方、イオナイザーを用いた場合は、最大で1.7KVに達し、除電時間も4?5秒かかった。
以上述べたように、本発明によりガラス基板であっても帯電した電荷を短時間で完全に除電でき、且つ帯電を防止することも可能である。
産業上の利用可能性
本発明による、軟X線照射によるイオン発生装置を用いれば、発塵を伴うことなく、正負のイオンを生成せしめることが可能となる。
また、帯電物体を中和する際には、どの様な雰囲気下でも帯電物体の電荷を短時間で中和することが可能となり、帯電箇所にこの装置を適用することにより静電気の発生を完全に防止できる。
このことは、半導体や液晶製造における、静電気障害による欠陥の発生や製品の信頼性低下の防止につながり、製造歩留まりを上昇させるものである。特に、今までこの静電気の問題で純粋なフッ素樹脂系のウエハキャリヤの採用が問題になっていたが、この除電法の適用によりそのような心配が完全になくなった。
(57)【特許請求の範囲】
1.帯電物体の周辺の雰囲気空気に向けてターゲット電圧6kV以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を直接照射しえる適宜の位置に軟X線ユニットが配設されていることを特徴とする帯電物体の中和構造。
2.前記雰囲気空気は帯電物体方向に向かう気流空気であり、該帯電物体よりも上流側における空気に向けて軟X線領域の電磁波を直接照射しえるように、前記軟X線ユニットが配設されていることを特徴とする請求項1記載の帯電物体の中和構造。
3.清浄な空気が、天井から床に向かいダウンフローしているクリーンルームにおいて、天井面に対し略平行にターゲット電圧6kV以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を直接照射しえるようにして軟X線ユニットが配設されていることを特徴とするクリーンルーム。
4.プロセス装置へ被処理物体を搬送するための搬送室を有する搬送装置において、前記搬送室内の雰囲気ガスにターゲット電圧6kV以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を直接照射しえるようにしてX線ユニットを配設したことを特徴とする搬送装置。
5.プロセス装置へ被処理物体を搬送するための搬送室を有する搬送装置において、前記搬送室内の雰囲気ガスに1Å?数百Åの波長の軟X線を直接照射しえるようにして軟X線ユニットを配設した搬送装置であり、
前記搬送室とプロセス装置との間にロードロック室を介在せしめ該ロードロック室内の雰囲気ガスに1Å?数百Åの波長の軟X線を直接照射しえるようにして軟X線ユニットを配設したことを特徴とする搬送装置。
6.プロセス装置へ被処理物体を搬送するための搬送室を有する搬送装置において、前記搬送室内の雰囲気ガスに1Å?数百Åの波長の軟X線を直接照射しえるようにして軟X線ユニットを配設した搬送装置であり、
前記搬送室を、1Å?数百Åの波長の軟X線に対して透明な材質により形成したことを特徴とする搬送装置。
7.前記1Å?数百Åの波長の軟X線に対して透明な材質としてポリイミドを用いることを特徴とする請求項6記載の搬送装置。
8.プロセス装置へ被処理物体を搬送するための搬送室を有する搬送装置において、前記搬送室内の雰囲気ガスに1Å?数百Åの波長の軟X線を直接照射しえるようにして軟X線ユニットを配設した搬送装置であり、
前記搬送室を、Cr/Fe(原子比)が1以上の熱酸化不動態膜を表面に有するステンレス鋼により形成するとともに、搬送室の適宜の位置に1Å?数百Åの波長の軟X線を直接照射するための入射口を設け、該入射口を介して1Å?数百Åの波長の軟X線を搬送室内の雰囲気ガスに直接照射するようにしたことを特徴とする搬送装置。
9.前記入射口に、外部側に突出するポート部を設け、該ポート部の長さを、ポート部の先端開口から搬送室内の被処理物体を見込むことができないような長さに設定し、該ポート部の先端開口に1Å?数百Åの波長の軟X線に対して透明な材質からなるフィルタを設けたことを特徴とする請求項8記載の搬送装置。
10.プロセス装置へ被処理物体を搬送するための搬送室を有する搬送装置において、前記搬送室内の雰囲気ガスに1Å?数百Åの波長の軟X線を直接照射しえるようにして軟X線ユニットを配設した搬送装置であり、
前記搬送装置は、搬送室の下方からガスを噴出させることにより被搬送物を浮上搬送させる搬送装置であることを特徴とする搬送装置。
11.搬送室の下方から噴出するガスは不純物濃度が数ppb以下の窒素ガス又は水分濃度が数ppb以下の空気であることを特徴とする請求項10記載の搬送装置。
12.外部から植物栽培室の内部に空気を供給するための空気導入手段を有する植物栽培室において、前記空気に1Å?数百Åの波長の軟X線を直接照射することにより、該空気中に正イオンと負イオン及び/又は電子を生成する手段を設けたことを特徴とする植物栽培室。
13.透過型のX線ユニットによりターゲット電圧6kV以上かつターゲット電流60μA以上で発生させた1Å以上2Å未満の波長の軟X線を、搬送系における帯電物体としての液晶基板の周辺の雰囲気空気に直接照射することにより、該雰囲気空気をイオン化させて正イオンと、負イオン及び/又は電子とを生成し、この生成された正イオンにより負電荷を、負イオン及び/又は電子により正電荷を中和することを特徴とする帯電物体の中和方法。
14.1Å?数百Åの波長の軟X線を、加圧、大気圧又は減圧下にある空気に直接照射することにより、該空気中に正イオンと負イオン及び/又は電子を生成させる軟X線照射を用いた正負の電荷発生方法であって、前記雰囲気空気は、水分濃度が数ppb以下であることを特徴とする帯電物体の中和方法。
15.1Å?数百Åの波長の軟X線を、加圧、大気圧又は減圧下にある空気に直接照射することにより、該空気中に正イオンと負イオン及び/又は電子を生成させる軟X線照射を用いた正負の電荷発生方法であって、前記雰囲気空気の圧力は、1000Torr?1Torrであることを特徴とする帯電物体の中和方法。
16.前記雰囲気空気の圧力は、1000Torr?20Torrであることを特徴とする請求項15記載の帯電物体の中和方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-08-15 
結審通知日 2008-08-07 
審決日 2008-08-19 
出願番号 特願平6-506104
審決分類 P 1 123・ 851- ZA (H05F)
P 1 123・ 121- ZA (H05F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 秀夫河合 弘明  
特許庁審判長 寺本 光生
特許庁審判官 平上 悦司
岸 智章
登録日 1998-02-20 
登録番号 特許第2749202号(P2749202)
発明の名称 帯電物体の中和構造、クリーンルーム、搬送装置、居住室、植物栽培室、正負の電荷発生方法、帯電物体の中和方法  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 石田 悟  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 城戸 博兒  
代理人 寺崎 史朗  
代理人 石田 悟  
代理人 城戸 博兒  
代理人 柴田 昌聰  
代理人 城戸 博兒  
代理人 石田 悟  
代理人 大槻 聡  
代理人 寺崎 史朗  
代理人 城戸 博兒  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 寺崎 史朗  
代理人 石田 悟  
代理人 柴田 昌聰  
代理人 柴田 昌聰  
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代理人 寺崎 史朗  

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