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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1206287
審判番号 不服2007-24358  
総通号数 120 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-12-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-09-05 
確定日 2009-10-29 
事件の表示 平成10年特許願第 72953号「内燃機関の燃料噴射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年10月 5日出願公開、特開平11-270385〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成10年3月23日に出願され、平成18年10月30日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成18年12月22日付けで意見書及び手続補正書が提出され、また、平成19年1月4日付け手続補正指令書に対して平成19年1月11日付けで手続補正書が提出されたが、平成19年8月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成19年9月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成19年10月4日付けで明細書について手続補正がなされるとともに、同日付けで審判請求書の請求の理由についての手続補正がなされ、その後、平成21年3月30日付けで書面による審尋がなされ、これに対して平成21年5月28日付けで回答書が提出されたものである。

第2 平成19年10月4日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成19年10月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]
[1]本件補正の内容
平成19年10月4日付けの明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成18年12月22日付けで提出された手続補正書により補正された)下記の(a)に示す請求項1ないし3を下記の(b)に示す請求項1と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「【請求項1】 高圧ポンプにより燃料を高圧にして筒内噴射用の燃料噴射弁に供給し、この燃料噴射弁から燃料を筒内噴射する内燃機関の燃料噴射装置において、
前記筒内噴射のみにより内燃機関に燃料を噴射すると共に、始動初期の所定期間に前記燃料噴射弁による筒内噴射を禁止する始動制御手段を備えていることを特徴とする内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項2】 高圧ポンプにより燃料を高圧にして筒内噴射用の燃料噴射弁に供給し、この燃料噴射弁から燃料を筒内噴射する内燃機関の燃料噴射装置において、
前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力(以下「燃圧」という)を検出する燃圧検出手段と、
前記筒内噴射のみにより内燃機関に燃料を噴射すると共に、始動時に前記燃圧検出手段で検出された燃圧が所定圧力以下の時に前記燃料噴射弁による筒内噴射を禁止する始動制御手段と
を備えていることを特徴とする内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項3】 請求項2に記載の内燃機関の燃料噴射装置において、
前記始動制御手段は、筒内噴射禁止の状態が所定期間継続した時に筒内噴射禁止を解除して筒内噴射を開始することを特徴とする内燃機関の燃料噴射装置。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「【請求項1】 高圧ポンプにより燃料を目標燃圧となるように高圧にして筒内噴射用の燃料噴射弁に供給し、この燃料噴射弁から燃料を筒内噴射する内燃機関の燃料噴射装置において、
前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力(以下「燃圧」という)を検出する燃圧検出手段と、
前記筒内噴射のみにより内燃機関に燃料を噴射すると共に、始動時に前記燃圧検出手段で検出された燃圧が、始動時に適した燃圧であり、且つ前記目標燃圧よりも低い圧力に設定された所定圧力以下の時に前記燃料噴射弁による筒内噴射を禁止する始動制御手段と
を備えていることを特徴とする内燃機関の燃料噴射装置。」(下線は、補正箇所を明示するためのものである。)

[2]本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び3を削除するとともに、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2において燃料を「目標燃圧となるように」高圧にし、また、所定圧力について「始動時に適した燃圧であり、且つ前記目標燃圧よりも低い圧力に設定された」ものであることを限定したものを請求項1とする補正であり、平成18年法律第55号改正附則第3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

[3]本件補正の適否
上記[2]で検討したように、本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するので、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

1.刊行物に記載された発明
(1)刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願以前に頒布された刊行物である特開平2-23250号公報(以下、「刊行物」という。)には、第2図、第3図とともに、次の事項が記載されている。
a)「蓄圧室内の高圧燃料を燃焼室内に噴射する高圧燃料噴射系と、吸気通路内に燃料を噴射する低圧燃料噴射系と、前記高圧燃料噴射系の燃料圧が予め定められた目標圧力以上か否か判定する判定手段と、該判定手段により前記高圧燃料噴射系の燃料圧が前記目標圧力未満と判定された場合前記低圧燃料噴射系から燃料を噴射し、前記判定手段により前記高圧燃料噴射系の燃料圧が前記目標圧力以上と判定されたとき以後に前記高圧燃料噴射系からのみ燃料を噴射するよう制御する制御手段とを備えた内燃機関の燃料噴射装置。」(第1頁左欄第5?15行)
b)「第2図は本考案の一実施例を採用した4気筒ガソリン機関の構成図を示す。同図において、1は機関本体、2はサージタンク、3はエアクリーナ、4はサージタンク2とエアクリーナ3とを連結する吸気管、5から8は各気筒内に燃料噴射する電歪式の高圧燃料噴射弁、9はサージタンク2内に燃料噴射するスワール弁型低圧燃料噴射弁、10は高圧用リザーバタンク、11は高圧導管12を介して高圧燃料をリザーバタンク10に圧送する高圧燃料ポンプ、13は燃料タンク、14は導管15を介して燃料タンク13から高圧燃料ポンプ11に燃料を供給する低圧燃料ポンプ、16は低圧リザーバタンク、17は低圧リザーバタンク16から圧送される燃料圧を一定に保つ低圧レギュレータを夫々示す。」(第2頁右上欄第16行?同頁左下欄第12行)
c)「圧力センサ38は高圧用リザーバタンク10に取付けられ、高圧用リザーバタンク10内の燃料圧を検出する。」(第2頁右下欄第19行?第3頁左上欄第1行)
d)「次に第3図を参照して本実施例の動作を説明する。(イ)の時点でイグニッションスイッチ46がオンされると、電動ポンプである低圧燃料ポンプ14が駆動され低圧用リザーバタンク16内圧力が昇圧される。低圧用リザーバタンク16は小容量であり、かつ目標圧力が2.5kg/cm^(2)と低いため、低圧用リザーバタンク11内圧力は短時間で、(ロ)の時点で目標圧力まで昇圧される。次に(ハ)の時点でスタータスイッチ40がオンされ、スタータモータにより機関が強制的に回転せしめられる。これと同時に低圧燃料噴射弁9からサージタンク2内に燃料噴射が開始される。この低圧燃料噴射は(ニ)時点まで継続される。低圧燃料噴射弁9はスワール弁型の噴射弁であるため、サージタンク2内に比較的均一に燃料を噴射することができ、また燃料の微粒化を促進することができる。このように機関始動開始と同時に適正に燃料を供給することができるので、機関の始動を円滑にすることができ、始動時間を短縮することができる。(ハ)時点で機関始動と同時に、機関の回転により高圧燃料ポンプ11が駆動される。これにより高圧用リザーバタンク10内圧力が昇圧し始める。高圧用リザーバタンク10は大容量であり、かつ目標圧力が200kg/cm^(2)と高いため、高圧用リザーバタンク10内圧力が200kg/cm^(2)に達するまで時間を要し、(ニ)時点で200kg/cm^(2)に達する。一方、この間においても低圧燃料噴射弁9から継続的に燃料が噴射され、機関は円滑に回転している。高圧リザーバタンク10内圧力は(ニ)時点以後も昇圧され、250kg/cm^(2)に制御される。高圧用リザーバタンク10内圧力が目標圧力に達した時点(ニ)の後、最初の高圧燃料噴射時期(ホ)において、低圧燃料噴射弁9からの低圧燃料噴射が停止される。これと同時に高圧燃料噴射弁5が作動せしめられ、気筒内に高圧燃料が噴射される。この(ホ)時点で、サージタンク2内への低圧燃料噴射から各燃焼室内への高圧燃料噴射に切換えられる。」(第3頁左上欄第9行?同頁左下欄第5行、なお、文中の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)は原文ではそれぞれ丸にカタカナである。)

(2)刊行物に記載された発明
上記(1)a)ないしd)を総合すると、刊行物には次の発明(以下、「刊行物に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。
「高圧燃料ポンプ11により燃料を250kg/cm^(2)となるように高圧にして高圧燃料噴射弁5?8に供給し、この高圧燃料噴射弁5?8から燃料を筒内噴射する内燃機関の燃料噴射装置において、
前記高圧燃料噴射弁5?8に供給される燃料圧を検出する圧力センサ38と、
前記筒内噴射により内燃機関に燃料を噴射すると共に、始動時に圧力センサ38で検出された燃圧が、始動時に適した燃圧であり、且つ250kg/cm^(2)よりも低い圧力に設定された200kg/cm^(2)以下の時に低圧燃料噴射弁9によりサージタンク2内に燃料を噴射するとともに、前記高圧燃料噴射弁5?8による筒内噴射を禁止する制御手段と
を備えた内燃機関の燃料噴射装置。」

2.周知の技術
(1)特開平9-222037号公報(以下、「周知例1」という。)
周知例1には、図面とともに以下の事項が記載されている。
a)「【0002】
【従来の技術】筒内直接噴射式内燃機関では、始動時に機関が確実に始動するように、燃料の微粒化を考えて、燃料圧力(以下、燃圧という)が高くなってから供給することが望ましい。このため、従来、燃費や効率をも考慮して、機械駆動式の高圧燃料ポンプを用いて高い燃圧を発生している。
【0003】しかし、機関始動時にはこの高圧燃料ポンプが負荷となり、機関回転数の上昇が遅れ、ひいては燃圧の上昇も遅れてしまうため、燃圧が十分に上昇するのを待ってから燃料供給を行うのでは、結果的に機関の始動が遅くなってしまう場合がある。」(段落【0002】及び【0003】)
b)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来の筒内直接噴射式内燃機関の制御装置にあっては、機関始動時の回転数にのみ着目しており、燃料供給量や燃圧の状態は考慮されておらず、始動時最初の燃料供給は常に所定のサイクルで開始されている。このため、燃料供給開始のサイクルを早めに設定してある場合、燃圧が低いと供給量が不足し、燃焼不良や失火により排気を悪化させる可能性があり、逆に、燃料供給開始のサイクルを遅めに設定している場合には、温度が高く素早い始動が可能であるような良い条件の場合でも機関の始動に必要以上の時間がかかってしまうという問題点があった。
【0006】本発明は、このような従来の問題点に鑑み、機関始動時の回転数、燃料供給量、燃料ポンプの燃圧上昇特性、燃圧検出値、燃温検出値等に基づき、そのときの運転状態に応じて燃料供給開始のサイクルを可変に制御し、最適なサイクルから燃料の供給を開始することのできる筒内直接噴射式内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。」(段落【0005】及び【0006】)
c)「【0031】高温で燃料供給量が相対的に少ないTi1の場合は、図7に示すように最初に吸気行程をむかえる気筒(#1気筒)から燃料噴射パルスを出力しても、燃圧Pfuelはそれほど大きく低下せず、#1気筒が初爆を生じる前でも燃圧下限値P1 を下回ることはなく、以降の気筒(#3?)への燃料供給も順調に行われるため、回転数Nは速やかに上昇し目標回転数へ到達する。
【0032】これに対し、低温で燃料供給量が比較的多いTi2の場合には、図8に示すように、最初に吸気行程をむかえる気筒(#1気筒)に燃料供給を行うと燃圧が低下して燃圧下限値P2 を下回ってしまい、#1気筒が初爆を生じるまでの各気筒(#3、#4気筒)の燃料供給量が不足してしまう場合がある。その結果、初爆が生じてもそれらの気筒(#1、#3、#4気筒)の燃料供給量が不足しているため燃焼は悪化し、回転数の上昇も遅く、始動性が悪くなり、同時に排気も悪化する。
【0033】しかし、このような場合、#1気筒に燃料供給を行う前に、燃料供給による燃圧変化を高圧燃料ポンプの特性、燃圧センサの出力、燃温センサの出力等からあらかじめ推定し、燃料供給の可否を判断することで、前述のような不都合を回避することができる。すなわち、図9に示すように、燃圧下限値P2 を下回ると推定された場合、#1気筒への燃料供給を行わずに燃圧の上昇を待つようにする。そして、つぎの#3気筒への供給前に再度燃料供給の可否の判断を行い、#3気筒に燃料供給を行っても燃圧が燃圧下限値P2 を下回らないと判断したら#3気筒から燃料供給を開始する。このようにすれば、燃焼の悪化、あるいは失火による排気の悪化を防止することができ、結果的に、低い燃圧で最初の気筒から燃料供給を行った場合よりも速やかに目標回転数へ到達することも可能となる。」(段落【0031】ないし【0033】)

(2)特開平9-222038号公報(以下、「周知例2」という。)
周知例2には、図面とともに以下の事項が記載されている。
a)「【請求項1】 内燃機関に備えられた少なくとも1つの燃焼室内にそれぞれ燃料を直接噴射する少なくとも1つのインジェクタにそれぞれの配管を通して燃料を供給する筒内噴射エンジンの始動方法において、
前記配管内の圧力がアキュームレータの予圧に達したことを検出し、
燃料圧力と噴射期間との関係をもとに、前記予圧以上の圧力時での燃料の噴射量を噴射適正圧力時での適正噴射量と同一に保つように、噴射期間を算出し、
噴射適正圧力より低い圧力で噴射してエンジンを始動することを特徴とする筒内噴射エンジンの始動方法。」(特許請求の範囲の【請求項1】)
b)「【0002】
【従来の技術】内燃機関のうち、燃焼室に直接燃料が噴射される筒内燃料噴射エンジンにおいて、エンジンの始動の条件として、燃料の微粒化のため噴射管内の燃料圧力が噴射適正圧に達していることが挙げられる。従来、スタ-トの信号から実際に始動されるまでに必要な、噴射管内の圧力が噴射適正圧に到るまでの時間は、噴射管の容積等の影響により比較的長く必要としていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】以上のように、筒内直接噴射方式の火花点火内燃機関においては、噴射管内の圧力が噴射適正圧であるレギュレ-タの設定圧に達するまで始動されないため始動に時間がかかった。」(段落【0002】及び【0003】)
c)「【0019】始動時の高圧配管102内の圧力は、図3に示すように変化する。図3において、aはアキュムレ-タ8の予圧、bはレギュレ-タ12の設定圧力、つまり噴射適正圧である。このように、始動後すぐに圧力がbに達するわけでなく、アキュムレ-タ8の予圧aまで比較的すみやかに上昇したのち、緩やかに噴射適正圧bまで移行する。
【0020】この理由は燃料圧力が予圧a以上になるとアキュムレ-タ8に圧力が吸収されるためである。従来、圧力がbに達しなければ始動されていなかったが、本発明においては、このaからbまでの圧力が緩やかに上昇する期間を有効に使い、始動時間を短縮することを目的としている。
【0021】本実施形態の動作を説明する。高圧配管102上の圧力センサ20により、高圧配管内の燃料圧力を測定し、そのデ-タをECU16に送る。ECU16は、送られてくる圧力がアキュムレ-タ8の予圧aに達すると、これを前提条件として噴射開始の信号をインジェクタ9に送る。しかし、例えば、アキュムレ-タ8の予圧が4MPa、レギュレ-タ12の設定圧力が5.5MPaの場合、アキュムレ-タ8の予圧4MPaで噴射すると、適切な噴射圧力である5.5MPaには、1.5MPa不足している。
【0022】この状態で燃焼室内に定常時と同量の空気が入るとすると、圧力不足により燃料噴射量が不足し、形成される混合気は希薄になり正常な燃焼が行われない可能性がある。よって、本実施形態では不足する分の噴射量を噴射期間を延長することで補う。例えば、噴射圧力を変化させたとき、噴射量を一定に保つために必要な噴射期間が、図4のようであるとする。図4より、噴射圧力がdだけ不足すると、噴射期間をeだけ延ばして噴射すれば正常な燃焼に必要な噴射量が得られることがわかる。
【0023】つまり、図5に示すように、噴射適正圧で噴射するときの噴射量を領域Fとすると、dだけ圧力が低く、噴射期間をe延ばしたときの噴射量は領域Gで表される。よって、圧力の変化にあわせて、この噴射量を表す面積が変化しないように噴射期間を設定する。
【0024】そして、前記予圧aに達した後、前記予圧aと前記適正圧bとの間の適宜の圧力において、他のエンジンセンサからの信号を勘案して、噴射時期が決定されるのである。
【0025】この機構をECUに組み込むことで、高圧配管内の燃料圧力がアキュムレ-タ8の予圧に達した段階で始動することが可能になる。これは、図3におけるcだけ従来より早くエンジンの始動を行うことができることを示している。
【0026】次に、本発明の第二実施形態を説明する。第二実施形態の特徴は、第一実施形態のような圧力センサを用いること無く、前記予圧aと前記適正圧bとの略中間圧力を想定して、この想定圧に適切な噴射期間を決定し、この条件で噴射するものである。この際、噴射時期は、例えばクランク角を検知することにより前記略中間圧力に達したタイミングに対応することができる。」(段落【0019】ないし【0026】)

(3)周知の技術
上記(1)及び(2)からみて、「吸気ポート側に燃料を噴射する低圧燃料噴射弁を備えず、筒内噴射のみにより内燃機関に燃料を噴射する内燃機関の燃料噴射装置において、始動時に適した燃圧であり、且つ前記目標燃圧よりも低い圧力に設定された所定圧力以下の時に燃料噴射を禁止する制御」は周知の技術であるといえる。

3.対比・判断
本件補正発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、機能・構造からみて、刊行物に記載された発明における「高圧燃料ポンプ11」は本件補正発明における「高圧ポンプ」に相当する。以下、同様に、刊行物に記載された発明における「250kg/cm^(2)」は本件補正発明における「目標燃圧」に、「高圧燃料噴射弁」は「筒内噴射用の燃料噴射弁」に、「燃料圧」は「燃料の圧力」に、「圧力センサ38」は「燃圧検出手段」に、「200kg/cm^(2)」は「所定圧力」に、「制御手段」は「始動制御手段」に、それぞれ相当する。
したがって、刊行物に記載された発明における「前記筒内噴射により内燃機関に燃料を噴射すると共に、始動時に圧力センサ38で検出された燃圧が、始動時に適した燃圧であり、且つ250kg/cm^(2)よりも低い圧力に設定された200kg/cm^(2)以下の時に低圧燃料噴射弁9によりサージタンク2内に燃料を噴射するとともに、前記高圧燃料噴射弁5?8による筒内噴射を禁止する制御手段」は、「前記筒内噴射により内燃機関に燃料を噴射すると共に、始動時に前記燃圧検出手段で検出された燃圧が、始動時に適した燃圧であり、且つ目標燃圧よりも低い所定圧力以下の時に前記燃料噴射弁による筒内噴射を禁止する始動制御手段」という限りにおいて、本件補正発明における「前記筒内噴射のみにより内燃機関に燃料を噴射すると共に、始動時に前記燃圧検出手段で検出された燃圧が、始動時に適した燃圧であり、且つ前記目標燃圧よりも低い圧力に設定された所定圧力以下の時に前記燃料噴射弁による筒内噴射を禁止する始動制御手段」に相当する。
してみると、本件補正発明と刊行物に記載された発明とは、
「高圧ポンプにより燃料を目標燃圧となるように高圧にして筒内噴射用の燃料噴射弁に供給し、この燃料噴射弁から燃料を筒内噴射する内燃機関の燃料噴射装置において、
前記燃料噴射弁に供給される燃料の圧力(以下「燃圧」という)を検出する燃圧検出手段と、
前記筒内噴射により内燃機関に燃料を噴射すると共に、始動時に前記燃圧検出手段で検出された燃圧が、始動時に適した燃圧であり、且つ目標燃圧よりも低い所定圧力以下の時に前記燃料噴射弁による筒内噴射を禁止する始動制御手段と
を備えている内燃機関の燃料噴射装置。」
である点で一致し、次の点でのみ相違する。
<相違点>
本件補正発明では、吸気ポート側に燃料を噴射する低圧燃料噴射弁を備えず、筒内噴射のみにより内燃機関に燃料を噴射し、所定圧力以下の時に筒内噴射を禁止するものであるのに対し、刊行物に記載された発明では、吸気ポート側であるサージタンク2内に燃料を噴射する低圧燃料噴射弁を備え、所定圧力以下の時に筒内噴射を禁止するものの、筒内噴射を禁止している所定圧力以下の時には前記低圧燃料噴射弁により燃料を噴射している点(以下、「相違点」という。)。

上記相違点について検討する。
まず、刊行物に記載された発明のように、吸気ポート側に燃料を噴射する低圧燃料噴射弁を備え、「所定圧力以下の時に筒内噴射を禁止するものの、筒内噴射を禁止している所定圧力以下の時には前記低圧燃料噴射弁により燃料を噴射している」ものは、本願においても、出願時には実施形態(4)として記載され、その後の補正により参考例(3)として段落【0030】ないし【0036】及び図7ないし9に記載されている。そして、上記のように、吸気ポート側に燃料を噴射する低圧燃料噴射弁を備え、「所定圧力以下の時に筒内噴射を禁止するものの、筒内噴射を禁止している所定圧力以下の時には前記低圧燃料噴射弁により燃料を噴射している」する理由は、「始動時に燃圧が所定圧力を越えるまで、低い燃圧でも始動可能な吸気ポート噴射を行って、始動を早める」(本願の段落【0035】)からである。
そういうことであれば、内燃機関の始動をそれ程早める必要がない場合には、本件補正発明のように、吸気ポート側に燃料を噴射する低圧燃料噴射弁を採用せずに、筒内噴射のみにより内燃機関に燃料を噴射し、所定圧力以下の時に筒内噴射を禁止するものとすることは、当業者であれば容易に想到することができたといえる。
しかも、上記2.(3)周知の技術の項で検討したように、
「吸気ポート側に燃料を噴射する低圧燃料噴射弁を備えず、筒内噴射のみにより内燃機関に燃料を噴射する内燃機関の燃料噴射装置において、始動時に適した燃圧であり、且つ前記目標燃圧よりも低い圧力に設定された所定圧力以下の時に燃料噴射を禁止する制御」
は周知の技術である。
そして、刊行物に記載された発明と上記周知の技術は、ともに内燃機関の燃料噴射装置の始動に関する制御である点で同一の技術分野に属する。また、両者はともに、筒内噴射を開始するにあたって定常運転時の圧力に達する前の時点で噴射を開始させようとする点で解決しようとする課題にも共通性がある。
してみると、刊行物に記載された発明において、吸気ポート側に燃料を噴射する低圧燃料噴射弁を取り除き、かつ、所定圧力を筒内噴射のみによる始動に適した値に適宜設定することは、上記周知の技術の存在下では当業者にとって格別の困難があったものとは認められない。
ゆえに、刊行物に記載された発明及び上記周知の技術に基づいて上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たものである。
そして、本件補正発明を全体としてみても、刊行物に記載された発明及び上記周知の技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物に記載された発明及び上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

第3 本件発明について
1.本件発明
平成19年10月4日付けの明細書についての手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明は、平成18年12月22日付けで提出された手続補正書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められ、そのうち、請求項2に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記第2[理由][1](a)に示した請求項2に記載されたとおりのものである。

2.刊行物及び周知の技術
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である刊行物(特開平2-23250号公報)には、上記第2[理由][3]1.(1)及び(2)のとおりのものが記載されている。
また、周知の技術として、上記第2[理由][3]2.(3)のとおりのものがある。

3.対比・判断
本件発明は、上記第2[理由][3]で検討した本件補正発明から、燃料を「目標燃圧となるように」高圧にし、また、所定圧力について「始動時に適した燃圧であり、且つ前記目標燃圧よりも低い圧力に設定された」ものであることを限定する発明特定事項を省いたものに相当する。
そうすると、本件発明の発明特定事項全てを含む本件補正発明が、上記第2[理由][3]に記載したとおり、刊行物に記載された発明及び上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も、同様の理由により、刊行物に記載された発明及び上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、本件補正発明を全体としてみても、刊行物に記載された発明及び上記周知の技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.むすび
以上のとおり、本件発明は、刊行物に記載された発明及び上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-08-27 
結審通知日 2009-09-01 
審決日 2009-09-14 
出願番号 特願平10-72953
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 達之  
特許庁審判長 深澤 幹朗
特許庁審判官 八板 直人
金澤 俊郎
発明の名称 内燃機関の燃料噴射装置  
代理人 久保 貴則  
代理人 永井 聡  
代理人 伊藤 高順  
代理人 碓氷 裕彦  

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