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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B60H
管理番号 1206908
審判番号 無効2007-800035  
総通号数 121 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-01-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-02-22 
確定日 2009-10-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3521351号「自動車用空調装置」の特許無効審判事件についてされた平成19年10月31日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成20年(行ケ)第10080号平成20年7月2日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3521351号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3521351号の請求項1に係る発明についての出願は、平成5年7月9日(パリ条約による優先権主張1992年7月9日、フランス国)に特許出願され、平成16年2月20日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。
これに対して、平成19年2月22日に、株式会社デンソー(請求人)から、請求項1に係る発明についての特許に対して特許無効審判が請求され、特許権者たるヴァレオ システム テルミク エス・ア・エス(被請求人)に審判請求書副本を送達して答弁書提出の機会を与えたところ、平成19年7月2日に、答弁書が提出された。
上記答弁書の副本は、平成19年8月6日付け(発送日:平成19年8月8日)で請求人に送付した。
そして、平成19年10月16日に特許庁審判廷において口頭審理が行われ、両当事者より、それぞれ口頭審理陳述要領書が提出され、平成19年10月31日付けで本件請求項1に係る発明についての特許を無効とする旨の審決がなされた。
被請求人は、これを不服として知的財産高等裁判所に当該審決の取消を求める訴え(平成20年(行ケ)第10080号)を提起した後、本件特許第3521351号につき訂正審判(訂正2008-390059号)の請求をし、平成20年7月2日付けで前記審決を取り消す旨の決定がなされ、特許法第134条の3第5項の規定により、上記訂正審判の請求書に添付された訂正明細書を援用する訂正請求がなされたものとみなされることとなった。
上記訂正請求の訂正請求書の副本を、平成20年8月18日付け(発送日:平成20年8月20日)で請求人に送付して弁駁の機会を与えたところ、請求人は、平成20年9月19日に、弁駁書を提出した。
そして、平成20年12月1日付けで請求理由の補正許可決定をし、上記弁駁書の副本を、平成20年12月1日付け(発送日:平成20年12月3日)で被請求人に送付し、期間を指定して答弁及び訂正請求の機会を与えたところ、被請求人は、何ら応答しなかった。


第2 当事者の主張
1.請求人の主張の概要
請求人は、審判請求時に甲第1号証?甲第7号証を提示し、訂正請求に対し、弁駁書において更に甲第8号証?甲第16号証を提示して、以下のように主張する。

訂正事項は、何れも当初(願書に最初に添付した)明細書及び図面の範囲を逸脱したものであり、結果として特許請求の範囲を変更するものであるから、特許法第134条の2第5項で準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に違反するものであり、認められるべきではない。したがって、本件の請求項1に係る特許発明は、甲第1?3号証に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
仮に、当該訂正が認められたとしても、訂正後の本件の請求項1に係る特許発明は、甲第1?3号証に記載された発明及び甲第8?13、15、16号証に記載された事項に基づいて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、その特許は無効とすべきものである。

[証拠方法]
(1)甲第1号証 : 発明協会公開技報 公技番号85-655 1985年1月21日発行
(2)甲第2号証 : 実願昭59-57605号(実開昭60-169013号)のマイクロフィルム
(3)甲第3号証 : 特開平1-269609号公報
(4)甲第4号証 : 平成16年(行ケ)第141号 審決取消請求事件の判決文
(5)甲第5号証 : 特許第3137189号公報
(6)甲第6号証 : 英国特許第1490336号明細書
(7)甲第7号証 : 平成15年7月22日付提出の拒絶査定不服審判請求書
(8)甲第8号証 : 特開昭59-77918号公報
(9)甲第9号証 : 実願昭63-66951号(実開平1-169415号)のマイクロフィルム
(10)甲第10号証: 実願昭51-135872号(実開昭53-53743号)のマイクロフィルム
(11)甲第11号証: 実願昭60-108606号(実開昭62-16506号)のマイクロフィルム
(12)甲第12号証: 特開平2-227317号公報
(13)甲第13号証: 実願昭60-190891号(実開昭62-97813号)のマイクロフィルム
(14)甲第14号証: 被告準備書面(第1回)
(15)甲第15号証: 実願昭57-114860号(実開昭59-19416号)のマイクロフィルム
(16)甲第16号証: 実願昭55-44495号(実開昭56-146820号)のマイクロフィルム

2.被請求人の主張の概要
被請求人は、答弁書とともに乙第1号証?乙第5号証を提示し、更に、訂正請求において参考甲第1号証?参考甲第5号証(便宜上、以下「乙第6号証」?「乙第10号証」という。)を提示して、訂正は適法であり、訂正後の本件の請求項1に係る特許発明は、甲第1号証?甲第3号証の発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、無効理由はない旨主張する。

[証拠方法]
(1)乙第1号証 : 実願昭57-113219号(実開昭59-18007号)のマイクロフィルム
(2)乙第2号証 : 実願昭54-167381号(実開昭56-83515号)のマイクロフィルム
(3)乙第3号証 : 実願昭58-110907号(実開昭60-18812号)のマイクロフィルム
(4)乙第4号証 : 実願昭55-174745号(実開昭57-96019号)のマイクロフィルム
(5)乙第5号証 : 実願昭58-83093号(実開昭60-222号)のマイクロフィルム
(6)乙第6号証(参考甲第1号証): 実願昭51-85176号(実開昭53-4561号)のマイクロフィルム
(7)乙第7号証(参考甲第2号証): 実願昭55-152644号(実開昭57-74811号)のマイクロフィルム
(8)乙第8号証(参考甲第3号証) : 実公昭57-54414号公報
(9)乙第9号証(参考甲第4号証) : 特開昭56-116510号公報
(10)乙第10号証(参考甲第5号証) : 特開平1-269607号公報


第3 訂正の適否
1.訂正の内容
被請求人が求めた訂正の内容は以下のとおりである。

訂正事項1
特許第3521351号の明細書における特許請求の範囲の請求項1の「分離隔壁(14)の車室側に取り付けられている」とあるのを「分離隔壁(14)の車室側に、この隔壁に沿うようにハウジング(64)を設けて取り付けられている」と訂正(訂正事項1-イ)し、「空気を送風するブロワ(18)と、」とあるのを「空気を送風するブロワであってこのブロワの前方かつ上方の車体外から吸い込んだ空気を送風するブロワ(18)と、」と訂正(訂正事項1-ロ)し、「水分を排出する」とあるのを「水分を開口(70)からエンジン室下方に排出する」と訂正(訂正事項1-ハ)する。

訂正事項2
発明の詳細な説明の【0008】中に、「分離隔壁(14)の車室側に取り付けられている」(特許公報第2頁第3欄第24行)とあるのを「分離隔壁(14)の車室側に、この隔壁に沿うようにハウジング(64)を設けて取り付けられている」と訂正(訂正事項2-イ)し、「空気を送風するブロワ(18)と、」(特許公報第2頁第3欄第25?26行)とあるのを「空気を送風するブロワであってこのブロワの前方かつ上方の車体外から吸い込んだ空気を送風するブロワ(18)と、」と訂正(訂正事項2-ロ)し、「水分を排出する」(特許公報第2頁第3欄第35?36行)とあるのを「水分を開口(70)からエンジン室下方に排出する」と訂正(訂正事項2-ハ)する。

訂正事項3
発明の詳細な説明の【0010】中に、「分離隔壁(14)の車室側に取り付けられている」(特許公報第2頁第3欄第44?45行)とあるのを「分離隔壁(14)の車室側に、この隔壁に沿うようにハウジング(64)を設けて取り付けられている」と訂正する。

訂正事項4
発明の詳細な説明の【0011】中に、「空気ブロワ(18)は、」(特許公報第2頁第3欄第50行)とあるのを「空気ブロワ(18)は、このブロワの前方かつ上方の車体外から吸い込んだ空気を送風するものであって、」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張変更の存否
(1)訂正事項1について
(1-1)訂正事項1-イは、分離隔壁(14)の車室側に取り付けられる空調装置の取り付け態様を特定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、特許明細書の段落【0020】の「空調装置(10)の全体は、自動車の計器板(66)に、ほぼ垂直な姿勢で取付けられたハウジング(64)の中に装着されている。」との記載及び図1の記載、さらに「沿う」は「線条的なものに近い距離を保って離れずにいる意」(広辞苑第6版、1614頁)であることによれば、空調装置が、分離隔壁(14)の車室側に、この隔壁に沿うようにハウジング(64)を設けて取り付けられていることが看取できることから、上記訂正事項1-イは、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(1-2)訂正事項1-ロは、ブロワ(18)が送風する空気を、ブロアの前方かつ上方の車体外から吸い込んだ空気に特定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、特許明細書の段落【0012】の「空気ブロワ(18)のケース(23)は、渦巻形に形成され、分離隔壁(14)斜め上方を向く空気吸入口(24)」の記載、段落【0013】の「分離隔壁(14)と分配器(22)との間に、ほぼ垂直方向を向く外気吸入管(32)が設けられている。外気吸入管(32)は、分配器(22)の全高を超えて、ブロワ(18)より高い位置まで延びている。外気吸入管(32)の上端は外気吸入孔(34)に、下端はブロワ(18)の吸入口(24)に接続されている。」の記載、段落【0014】の「外気吸入孔(34)は、「水分離器」としても作用する。フロントガラス(36)とフード(38)との接続部の近くに設けられていることにより、外部からの新鮮な空気は、外気吸入管(32)を通ってブロワ(18)に吸入され、」との記載及び図1の記載によれば、空気ブロワが、このブロワの前方かつ上方の車体外から吸い込んだ空気を送風するものであることが看取できることから、上記訂正事項1-ロは、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(1-3)訂正事項1-ハは、蒸発器に凝集した水分の排出先を特定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、特許明細書の段落【0022】の「排出管(68)の下端には、凝縮液を自動車の下に排出するための開口(70)が設けられている。」との記載及び図1の記載によれば、水分を開口(70)からエンジン室下方に排出していることが看取できることから、上記訂正事項1-ハは、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、特許請求の範囲請求項1の訂正である訂正事項1に伴い、発明の詳細な説明を整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項2は、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、特許請求の範囲請求項1の訂正である訂正事項1(訂正事項1-イ)に伴い、発明の詳細な説明を整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項3は、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、特許請求の範囲請求項1の訂正である訂正事項1(訂正事項1-ロ)に伴い、発明の詳細な説明を整合させるものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記訂正事項4は、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

なお、請求人は、弁駁書において、訂正事項1の訂正事項1-イ、訂正事項1-ロ、訂正事項1-ハについて、これらの訂正事項は、図面に依拠したものであるが、その技術的意義及び本件発明の効果の「車両の幅方向のみならず前後方向の占有容積を小さくすることが出来る」との関係等の説明については、当初(願書に最初に添付した)明細書及び図面には開示がなく、各訂正事項は、当初明細書及び図面の範囲を逸脱したものであるから、この訂正は、特許法第134条の2第5項で準用する特許法第126条第3項の規定に違反する旨主張する。
さらに、本件発明の効果の「車両の幅方向のみならず前後方向の占有容積を小さくすることが出来る」と何ら関係しない各訂正事項を強引に結びつけることは、発明の内容を変更するものであり、結果として特許請求の範囲を変更するものであるから、この訂正は、特許法第134条の2第5項で準用する特許法第126条第4項の規定に違反する旨主張する。
しかしながら、訂正の要件の適否の判断の基準となるのは願書に添付された明細書又は図面、すなわち、特許明細書又は図面であるところ、訂正事項1?4は、特許明細書には明記されていないものの、図面の記載から自明な事項であって、特許明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるから、特許明細書又は図面に記載されている事項の範囲内において訂正するものと認められる。
また、訂正事項1?4は、特許明細書の段落【0030】に記載された「車両の幅方向のみならず前後方向の占有容積を小さくすることが出来る」及び「蒸発器に凝集した水分の排出が容易となる」という効果を変更するものではないから、訂正事項1?4は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないものと認められる。
したがって、請求人の前記主張は何れも採用できない。
しかも、訂正事項1?4は、特許明細書又は図面だけでなく、当初(願書に最初に添付した)明細書又は図面に記載されていた事項の範囲内でもあると認められるので、当初明細書又は図面の範囲を逸脱したものであるとの請求人の主張も採用できない。

3.むすび
してみると、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明を目的とし、いずれも、願書に添付した明細書又は図面に記載されている事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書に適合し、特許法134条の2第5項において準用する平成6年改正前第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


第4 当審の判断
1.本件特許発明
訂正後の特許第3521351号の請求項1に係る発明は、訂正後の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下「本件特許発明」という。)。

「自動車の車室(12)とエンジン室(16)とを隔てる垂直な分離隔壁(14)の車室側に、この隔壁に沿うようにハウジング(64)を設けて取り付けられている自動車用空調装置において、
空気を送風するブロワであってこのブロワの前方かつ上方の車体外から吸い込んだ空気を送風するブロワ(18)と、装置内に略水平に配置され、前記ブロワからの空気が下方から導入され、この導入空気を冷却して上方へ送り出す蒸発器(28)と、
この蒸発器(28)の上方において、略水平に配置され、前記空気を加熱する加熱用熱交換器(46)と、この加熱用熱交換器(46)の空気下流側に配置され、加熱用熱交換器(46)で加熱され温度調整された空気の吹出方向を切り替える吹出モード切替部(52)(56)(62)とを備え、
前記蒸発器は、装置の水平方向に対し下降傾斜して配置され、前記蒸発器の傾斜端部に、この蒸発器に凝集した水分を開口(70)からエンジン室下方に排出する排出管(68)が配置されていることを特徴とする自動車用空調装置。 」

2.甲第1?3、8?13、15、16号証に記載された事項
(1)甲第1号証に記載された事項
請求人の提出した甲第1号証(発明協会公開技報 公技番号85-655)には、次の事項が図面と共に記載されている。

ア.「本技術は、自動車空調装置のブロアノイズ低減機構に関するものである。」(左欄第1行?第2行)

イ.「従来、空調装置の車室内空気循環方式に於て、空気取入口に取付けられているブロアと車室内を仕切る壁はなく、空気取入口はブロア騒音が侵入する入口となる問題点がある。
本技術は、ブロアノイズを低減させることを目的とするものである。」(左欄第3行?第8行)

ウ.「以下、本技術を図に示す実施例に基づいて説明する。第1図に示す如く、ブロア2と車室を仕切ることが可能な仕切板3を設け、該仕切板3を室内モードのとき下降させる構成である。次に作用を説明する。空気取入口1に設けられた仕切板3は、空気取入必要量すなわちブロア2に印加される電圧に応じ、サーボモータ4により開閉され、開口面積を必要最小限にしつつ、ブロア2のノイズの車室内への侵入が低減される。」(左欄第9行?右欄第4行)

エ.「尚、ブロア2以下のエバポレータ5、エアミックスダンパ6、ヒータコア7、エアミックス室8、モード切換ダンパ9、エアミックス室と吹出口を結ぶダクト10は従来の空調装置と同一である。」(右欄第4行?第8行)

(2)甲第2号証に記載された事項
同じく甲第2号証〔実願昭59-57605号(実開昭60-169013号)のマイクロフィルム〕には、次の事項が図面と共に記載されている。

ア.「[分野]
本考案は、自動車に搭載される暖房用の空気調和装置に関する。」(明細書第2頁第1行?第3行)

イ.「[従来技術]
自動車の車室内を冷暖房するための空気調和装置は、普通、車室内外の空気を切換導入するための内外気切換箱と導入空気を空気調和装置(以後空調装置という)に圧送するためのブロワとからなる被調和空気の取入れ圧送部分と、被調和空気を冷却するための空気の入口と出口を備えたハウジング内に蒸発器を納めたクーリングユニットと、被調和空気出入口を備えたハウジング内に加熱器と調和済みの空気を、車室内に設けられた複数個の吹出口のいずれかに選択的に吹出させるための通風路切換用ダンパを納めたヒーティングユニットとを組合せて構成されているのが一般である。そしてこのような空調装置はエンジンルームに接した車室内に設置されるのが通例であるので、蒸発器から生ずる冷空気の凝縮水を車外に排出するための対策がクーリングユニットに関しては採られている。」(明細書第2頁第4行?第3頁第2行)

ウ.「[実施例]
つぎに本考案の車両用空気調和装置を図に示す実施例に基づいて説明する。
始めに、従来の車両用空気調和装置の構成と取付状況を自動車の運転席計器盤近辺の斜視図としての第1図、ならびに一部側断面を含む正面図としての第2図によって説明すると、Aは計器盤上のクラッシュパッド部分、Bは車室内空気と車室外空気を選択的に導入するための内外気切換箱、Cは導入空気を空調装置に圧送するためのブロワ、DはブロワCに連なり蒸発器を内蔵するクーリングユニット、Eは加熱器を内蔵するヒーティングユニットであり、FとGはそれぞれ運転席と後部座席に空調済み空気を供給するための吹出口、Hはフロントガラス用デフロスターである。」(明細書第5頁第10行?第6頁第5行)

エ.「第3図は上述のような水漏れを防止するための対策の講じられた本考案の車両用空気調和装置の側断面図であり、第4図はその分解図、そして第5図は正面図であって、第3図においてPはエンジンルームと運転席との区割壁、Qはボンネット、RはボンネットQに設けられた外気導入口、Sはフロントガラスである。この実施例においては、蒸発器7と加熱器6とを一つのハウジング内に納めてクーリングユニットとヒーティングユニットとを合体させた構成をとっており、空調機ハウジングは、車体外への排水管5を接続させた排水口4を備えた無継目の受器状の下方部分1と、ハウジングに内蔵されるダンパの回転軸方向に分割可能な、継目を有する上方部分2および3との結合によって形成されている。したがって空調機のハウジング内に侵入した吹雪の雪解け水や蒸発器の凝縮水などが底面に溜まった場合にも、第3図から容易に理解されるように車体床Tを貫いて車外に伸び出た排水管5を通って車外に排出され、」(明細書第7頁第1行?第19行)

オ.「7は冷房のための蒸発器、8はエアミックスダンパでこのダンパ8位置の如何によって暖房の際にヒーターを通って温められる空調空気と、ヒーターを通らずに直接吹出口に送出される冷風との比率を変化させることができる。9は補助ダンパ、10は運転席への吹出し量調節用ダンパ、11はフロントガラスデフロスターの作動または停止用ダンパ、12は冷風通路、13はブロワのファンである。」(明細書第8頁第11行?第18行)

(3)甲第3号証に記載された事項
同じく甲第3号証(特開平1-269609号公報)には、次の事項が図面と共に記載されている。

ア.「本発明は自動車の車室内天井下面に取り付けられる自動車用空気調和装置に関する。」(第1頁右下欄第19行?第20行)

イ.「本発明は、排水口の数を減らすことを目的とし、少ない排水口でも確実な結露水の処理を行なえる自動車用空気調和装置を提供することを目的とする。」(第2頁左上欄第19行?右上欄第2行)

ウ.「上記目的を達成するために本発明は、車室内天井下面に取り付けられる上ケースと、この上ケースに取り付けられる下ケースとより室内ユニット本体を形成し、前記室内ユニット本体内にクロスフローファンおよびエバポレータを設けるとともに、前記室内ユニット本体の相対向する面に吸込口と吹出口を設け、前記下ケースの前記吸込口側に、前記吸込口に沿った排水用通路を形成し、前記排水用通路の両端にそれぞれ排水口を連接し、下端を前記排水用通路内に配設するとともに上端が前記吸込口から遠ざかるように前記エバポレータを傾斜させて設け、前記エバポレータの両側部を下方からそれぞれ支持する支持台の上端部を、前記エバポレータの両側部より外方向に延出させて水受部を形成したものである。」(第2頁右上欄第4行?第18行)

エ.「第1図は上ケースを取りはずしたときの自動車空気調和装置の上面図である。同図においてエバポレータ1は、平行に並べられた多数のフィンと、このフィンに垂直に挿入された蒸発管2とより構成されている。・・・(中略)・・・6はエバポレータ1が配設された吸込口側から吹出口側へ空気を流すクロスフローファン・・・(中略)・・・9は下ケースであり、この下ケース9の上面には吸込口側のコーナー立上り部10と支切板11によって排水用通路12が形成されている。13,14はこの下ケース9に一体に形成され、排水用通路12の両端に連接する排水口である。」(第3頁左上欄第1行?第20行)

オ.「第2図は同装置の横断面図である。同図に示すようにエバポレータ1は、その下端を排水用通路12内に配設するとともに上端が吸込口から遠ざかるように傾斜させて設けている。15は車室内天井下面に取り付けられる上ケース、16は下ケース9に形成されるスタビライザ、17はエバポレータ1を支持固定する支持台である。」(第3頁右上欄第1行?第7行)

カ.「圧縮機が駆動され蒸発管2内に冷媒が流れると、エバポレータ1は冷却される。従って空気との間で温度差が生じるためにフィン及び蒸発管2の表面に結露を生じる。
このときフィン面上に生じた結露水はエバポレータ1が傾斜しているため、エバポレータ1の下端部に向けてフィン面上をつたって降下し、排水用通路12へ導かれる。」(第3頁右上欄第15行?左下欄第2行)

(4)甲第8号証に記載された事項
同じく甲第8号証(特開昭59-77918号公報)には、次の事項が図面と共に記載されている。

ア.「第2図は本発明の一実施例の概略図であり、車両計器盤内側の中央付近に設けられた空調用ケース10内を上下二段に分離し、その下段にエンジン冷却水を熱源とするヒータコア11、上段にエバポレータ12を設置してある。」(第2頁右上欄第20行?同頁左下欄第4行)

イ.「第3図は、本発明ユニットの車室内取付場所を具体的に示した概念図であり、車両計器盤15の中央部内側に、上記空調用ケース10内にエバポレータ12とヒータコア11を上下2段に収納した空調用ユニットAが取り付けられていることを示している。」(第2頁左下欄第12行?第17行)

ウ.「第9図および第10図は本発明による空調用ユニットAの車両計器盤15部への具体的な架装状態を示すもので、空調用ケース10は第9図に示すように上下2箇所でボルト32、33にて車両のダッシュボード34に取付けられている。」(第3頁左下欄第16行?第20行)

エ.「第11図は本発明の他の実施例を示すもので、ブロワ14の取付位置を変更したものであり、車室52とエンジンルーム53とを仕切るダッシュボード43を介在して、ブロワ14をエンジンルーム57内にて空調用ユニットAと隣接設置してある。」(第4頁左上欄第5行?第10行)

(5)甲第9号証に記載された事項
同じく甲第9号証〔実願昭63-66951号(実開平1-169415号)のマイクロフィルム〕には、次の事項が図面と共に記載されている。

ア.「〔従来の技術〕自動車などの車両には、車室内に冷風などを送出するためのクーリングユニットが設けられるが、このクーリングユニットは、ダッシュパネルを境にして形成されたエンジンルーム側と車室内側のうち、車室内側の助手席側に設けられいる。また、クーリングユニットは、その冷却運転時において結露を伴うため、この結露による水を車外に排出すべくドレンホースを備えている。具体的には、第5図に示すように、ドレンホース21の排水側開口端21aが、ダッシュパネル22を貫通してエンジンルーム23内に導入されており、このエンジンルーム23を介して上記の水が車外に排水されるようになっている。」(明細書第1頁第16行?第2頁第10行)

イ.「本考案に係る車両用ドレンホース配設構造において、第2図に示すように、補機としてのクーリングユニット1やブロアモータ2などは、ダッシュパネル3を境にして形成されるエンジンルーム4側と車室5側とのうち、車室5側の助手席側に設けられ、且つ、この車室5側の前部に配設されているインストルメントパネル6に覆われるようにして取り付けられている。」(明細書第5頁第3行?第10行)

(6)甲第10号証に記載された事項
同じく甲第10号証〔実願昭51-135872号(実開昭53-53743号)のマイクロフィルム〕には、次の事項が図面と共に記載されている。

ア.「まず、空気調和装置は第1図に示すように、ケース3の始端に空気取入口4を設け、内部に送風機5、冷媒蒸発器6、加熱器7を順次配置し、終端に下方吹出口10を、また途中に図示していない上方吹出口を有するダクトの接続口9を設けてなり、前記加熱器7をケース3の側方に配置して側路20を設け、この側路20と加熱器7の入口との分岐点に支軸21をもつて温度制御ドア8を支持し、これを感温式負圧アクチユエータ14によつて駆動し、開度θを調節するようになつている。」(明細書第3頁第16行?第4頁第6行)

(7)甲第11号証に記載された事項
同じく甲第11号証〔実願昭60-108606号(実開昭62-16506号)のマイクロフィルム〕には、次の事項が図面と共に記載されている。

ア.「第1図ないし第3図は本考案に係る車両用空調装置の一実施例を示している。
この場合空調装置の本体は車室の前方に設置されており、符号1はダツシユパネル、符号2はカウルパネル、符号3はフロントガラスであつて、該空調装置の外気導入ダクト4が上記ダツシユパネル1等に沿つて設置され、また外気を該ダクト4内に取り入れるための外気導入口5がダクト4上部のカウルパネル2の外気取入ルーバ(図示せず)と対向する所定箇所に設けられている。」(明細書第4頁第6行?第16行)

イ.「第3図における符号16は、ブロア6に送結する空気を外気Aと内気Bとの間で切り換え、又は外気Aと内気Bとの混合気とするためのダンパ」(明細書第6頁第11行?第14行)

(8)甲第12号証に記載された事項
同じく甲第12号証(特開平2-227317号公報)には、次の事項が図面と共に記載されている。

ア.「第2図に示すように、前記膨脹弁12が嵌入する嵌入口17が形成されており、また、当該ケース4の側壁4aの最下端には、ケース4底壁に貯溜した凝縮水を車室l(第3図)外に排出するための水抜き管11が前記ケース4と一体的に形成されている。」(第5頁左上欄第11行?第16行)

イ.「第2図に示すシール材15は、前記膨張弁12の一部を収容保持する膨張弁収容部13と、前記水抜き管11と連通し当該水抜き管11から排出される水をエンジンルーム2に案内する下方に屈曲した連通配管部14とを有する」(第5頁右下欄第6行?第10行)

(9)甲第13号証に記載された事項
同じく甲第13号証〔実願昭60-190891号(実開昭62-97813号)のマイクロフィルム〕には、次の事項が図面と共に記載されている。

ア.「4はクーリングユニツトケース2の底部2aにおけるドレーン孔3配設部まわりから外側に突設したホース取付パイプ、5は基端がホース取付パイプ4に外接嵌合されかつ先端部がダツシュパネル6にグロメツト7を介して貫設されてエンジンルーム8内に突出されたドレーンホースである。」(明細書第2頁第3行?第9行)

イ.「エバポレータで冷却した空気から出てクーリングユニツトケース2の底部2aに滴下した減湿水を、ドレーン孔3に集流し、このドレーン孔3からホース取付パイプ4を経由してドレーンホース5に流下し、このドレーンホースの先口5aからエンジンルーム8を通して路上に順次滴下,排水する構成であり、」(明細書第2頁第11行?第17行)

(10)甲第15号証に記載された事項
同じく甲第15号証〔実願昭57-114860号(実開昭59-19416号)のマイクロフィルム〕には、次の事項が図面と共に記載されている。

ア.「車室内循環流が流入する内気循環口6と、外気が流入する外気流入口7と、内気循環口6からの空気もしくは外気流入口7の両方からの空気をフアン5によつて送り出すための流出口8が設けられている。インテークユニツト1内へ内気循環口6を通つて流入する空気と、外気流入口7を通つて流入する空気とを切り替え制御するため、インテークユニツト1内にはインテークドア9が取付けられている。このインテークドア9は内気循環口6を閉じるA位置、外気流入口7を閉じるC位置、そしてこれらの中間のB位置に移動することができる。」(明細書第2頁第6行?第18行)

(11)甲第16号証に記載された事項
同じく甲第16号証〔実願昭55-44495号(実開昭56-146820号)のマイクロフィルム〕には、次の事項が図面と共に記載されている。

ア.「従来上記タイプの空気調和装置として第1図に示すタイプのものが公知である。同図においてケース1の内部には上部方向に沿つて順次吸気口2、エバポレータ3、ヒータコア4,エヤ吹出口5及び送風機6が設けられ、上記吸気口2には、フィルタ7が固定され、このフィルタ7に対応する個所に送風機6のファン8が位置される。上記送風機6、エバポレータ3、ヒータコア4は一体にほぼ全体がドリップパン9で被われ、このパン9の下端からはドレーンパイプ13が突出する。パン9の送風機6が対向する下部はドレーンパイプ13の方向に傾斜して傾斜面14となつている。
以上の構成において、ファン8の回転により導入される空気は上部方向に吹上げられ、エバポレータ3、ヒータコア4で冷却又は加熱されて上部の吹出口5から吹出される。
このような空気調和装置は例えばマイクロバスの窓側の床面上に縦方向に設置して使用できる。」(明細書第1頁第20行?第2頁第17行)

イ.「しかしながら、以上の構成の空気調和装置によればエバポレータ3からの除湿水の落下方向とは反対側より送風機6からの空気が送出されるので、除湿水が吹上げられて吹出口5より吹出されるおそれもあり、また除湿水がドレーンパイプ13より排出されることなく、ドリップパン9の送風機6とは反対側の傾斜面14の途中で瞬時に堆積し、ドリップパン9の劣化した接合部を介して外部に漏れてしまう場合もある。」(明細書第2頁第18行?第3頁第6行)

3.甲第1号証?甲第3号証に記載された発明
(1)甲第1号証に記載された発明
(1-1) 甲第1号証は、自動車空調装置のブロアノイズ低減機構に関するものである。
そして、その第1図が自動車空調装置のブロアノイズ低減機構の概要を示すものであることは明らかであり、かかる図は、そのために自動車の車体前部の断面を模式的に表したものと理解できる。
この第1図は、自動車の車体の上下関係をそのまま図面の上下の関係で表現したものと理解するのが自然であって、特にそれ以外の表現であるとする根拠も見当たらない。
「第4 2.(1)」で摘記した記載事項「ウ.」に「第1図に示す如く、ブロア2と車室を仕切ることが可能な仕切板3を設け、該仕切板3を室内モードのとき下降させる構成である。」とあることもこの第1図の上下関係と符合するものである。

自動車の車体前部には、ブレーキ、アクセル、クラッチといった自動車が当然備える機器が存在するが、第1図では、そういった自動車用空調装置と直接関係のない機器までは明記されていない。
しかしながら、自動車空調装置に通常必要とされる最低限の機器は記載されていると理解できる。換言すると、細かい寸法関係や形態は置くとしても、自動車空調装置に必要とされる機器の存在、そしてそれらの相互の位置関係を含んだ大まかな配置は示されていると理解できる。
特に甲第1号証が公開技報であるからといっても、この程度のことを理解することができないとする理由は見当たらない。

したがって、第1図からは、ブロア2、エバポレータ5、エアミックスダンパ6、ヒータコア7がその順に車体の内部で上下方向に並んでいることが見て取れる。
甲第1号証には、第1図と同じ自動車の車体についての車体の幅方向での断面図は掲載されていないため、立体的な位置関係として、ブロア2、エバポレータ5、エアミックスダンパ6、ヒータコア7がその順に車体の上下方向或いは垂直方向に配置されたものと直ちに断定できるものではないが、そうであるからといって、そのような立体的な配置ではないといえるものでもない。また、ブロア2、エバポレータ5、エアミックスダンパ6、ヒータコア7が、立体的な位置関係として、車体の上下方向或いは垂直方向に配置されることがありえないというような、当業者にとっての技術常識が存在するものでもない。
そうしてみると、甲第1号証の第1図に接した当業者は、ブロア2、エバポレータ5、エアミックスダンパ6、ヒータコア7が記載されており、それらが車体の上下方向或いは垂直方向に配置されていることを、ごく普通に認識することができるし、また、そのように認識することについて、それが特に技術的に不合理なものであるとする理由も見当たらないから、当業者は、図面の記載内容をブロア2、エバポレータ5、エアミックスダンパ6、ヒータコア7が単にその順に車体の内部で上下方向に並んで見えるように配置されているというのではなく、それらがその順に車体の上下方向或いは垂直方向に配置されているものとして理解するものである。

(1-2) 被請求人は、甲第1号証に記載されたものについて、答弁書、口頭陳要領書及び訂正請求書において縷々主張をしているので、以下検討する。

ア.甲第1号証の自動車の前後関係について
被請求人は、甲第1号証に、自動車の前後関係を明確に確定するハンドル、ブレーキ、アクセルといった装備を窺わせる記載はなく、乙第6号証の第2図及び第3図や、乙第7号証の第3図、並びに、乙第8号証の第6図に車体後部に取り付けられる空調装置が周知技術として開示され、甲第1号証の第1図と酷似しているとして、甲第1号証の空調装置が車体の前部に取り付けられているか後部に取り付けられているかも不明である旨主張する。(訂正請求書第7頁第21行?第8頁第13行、第10頁第10行?第12行)
しかし、甲第1号証の第1図に示される3つのダクト10はそれぞれ、自動車の窓ガラス、乗員上半身及び乗員足元に向けて空気を吹き出すものと判断するのが妥当である。
そして、自動車の窓ガラス、乗員上半身及び乗員足元の3箇所に空気を吹き出す空調装置は、甲第8号証や甲第15号証及び乙第10号証に示されるように、自動車前部に設けられるものであり、甲第1号証の第1図は自動車の前部を記載していると解釈するのが当業者の一般的な理解である。
これに対し、被請求人の提出した、乙第6号証?乙第8号証の当該図に記載された車体後部に取り付けられる空調装置は、このような自動車の窓ガラス、乗員上半身及び乗員足元の3箇所に空気を吹き出す空調装置ではなく、甲第1号証とは全く異なる構成であり、被請求人の主張は失当である。
以上のことから、甲第1号証の第1図は自動車前部を示しているものと認められる。

イ.甲第1号証の空調装置の配置方向について
(ア)「従来と同一」の意味
被請求人は、この第1図の記載内容について、甲第1号証が示唆する「従来と同一の空調装置」(甲第1号証の摘記事項「エ.」参照)という点を捉えて、乙第1?2号証を提出し、ブロア、エバポレータ、ヒータコアが車両幅方向に配置されているものを意味する旨主張する。(答弁書第6頁第18行?第20行)
しかし、甲第1号証において、ブロア、エバポレータ、ヒータコアの配置について、乙第1?2号証に記載されたもののように、車両幅方向に配置されているものと理解しなければならない理由はない。「従来と同一」という表現は、用いられるブロア、エバポレータ、ヒータコアの各々の構成、あるいはそれらをどのような順で接続していくのか、といったことについて言うものと解するのが妥当である。

(イ)ブロアの配置
被請求人は、甲第1号証の第1図においては、エバポレータ5の下方にブロア2が位置している点を捉え、提出した乙第3?5号証よりエバポレータ5の真下にブロア2が配置されていることは空調装置として不都合が生じてしまうことになることを指摘しつつ、請求人が主張するように垂直方向に配置されているものだとすると、エバポレータ5で発生した凝縮水がブロア2に滴下してしまうこととなり、自動車用空調装置として好適でない旨主張する。(答弁書第5頁第21行?第6頁第21行)
しかし、甲第1号証において、エバポレータ5で発生した凝縮水の処理の問題があり得るとしても、それをもって、エバポレータ5の下方にブロア2を配置することで自動車用空調装置として機能し得ないというものではない。すなわち、当業者がエバポレータ5の下方にブロア2が配置されていると認識することを妨げるものではない。

ウ.甲第1号証の断面図について
(ア)同一垂直断面図
さらに、被請求人は、甲第1号証の第1図に記載される3つのダクト10は、自動車幅方向の異なる位置に設けられているのが通常であり、同図のように同一垂直断面で到底表されるものではない旨主張する。(口頭陳述要領書第3頁第13行?第15行)
そこで、甲第1号証の第1図におけるダクトの配置について検討する。
自動車空調装置からの空気は、エアミックスダンパ6、ヒータコア7の下流側に設けたダクトを介して、車室内の空調空気を供給すべき場所に供給されるものであるが、通常、この車室内の空調空気を供給すべき場所とは、フロントガラス、乗員上半身、乗員足元といったものであり、車体の上下方向のみならず幅方向にも亘るものである。
被請求人の主張は、ダクトは、当然、車体の幅方向にも亘って配置されるものであるという点を捉えて、甲第1号証の第1図が単純な垂直断面図ではありえないというものであるが、これは、次の2点を考えれば、失当と言わざるを得ない。
まず、第1点として、甲第1号証の第1図における3つのダクト10が、実際に垂直方向に位置している場合は、当然、第1図のような垂直断面に表現できるものである。これは、本件特許明細書の第1図においても、実際に垂直方向に位置する空気吹出し口50、60が共に明りょうに表現されていることと同じ意味である。また、そのような配置と理解した場合に、不合理な点があるものでもない。
次に、第2点として、甲第1号証の第1図において、自動車空調装置からの空気が車体の幅方向で異なる場所に供給されるべきものであるとしても、そのためのダクトは、第1図に表現されているダクト10から車体の幅方向に分岐されるものであって、単純な同一垂直断面図では当然明りょうに表現し得ないものであるから、同図に車体の幅方向で異なる場所への空調空気の供給手段が明示されていないからと言って、不合理な点があるものでもない。
そうしてみると、甲第1号証の第1図は、ダクトの配置を参酌しても、同一垂直断面を示したものと解するのが妥当であり、被請求人の主張は、採用し得るものではない。

(イ)異なる方向の図面の混在と空調装置の配列の関係
被請求人は、甲第1号証の図の記載は、本来車両を少なくとも2方向から見て図示すべきであったところ1方向の図にまとめてしまったため、あたかも垂直方向に配置されているようにも見られるが、乙第1?5号証から例証されるように、ブロワ、エバポレータ、ヒータコアが車両幅方向に配置されているとすることが妥当であるとも主張する(答弁書第6頁第26行?第29行)。
また、被請求人は、甲第1号証の図1は、模式図であるから、上下方向と車幅方向とを混合した図面と理解することも難くないとして、乙第9号証の第2図や、乙第10号証の第1図、第2図、並びに、乙第8号証の第3図のように、複数の断面を混在させ同一平面に表現した手法が一般的に採用されていたとして、甲第1号証の図1も複数の断面を含むものと見ることは、決して当業者において不自然なことではなく、むしろ、当時の技術手段としては空調装置の従来の各構成部材は車幅方向に順次連結されるのが技術常識で垂直載置の構成は皆無であるから、当業者は甲1発明の空調装置の各構成部材が、上下方向に順次配列しているとは見ないと理解するのが自然であることを指摘し、車幅方向に並ぶ空調装置の構成部材を模式的に記載したと判断するのが極めて正当である旨主張する。(訂正請求書第8頁28行?第9頁第14行)

しかし、被請求人のこの主張は誤ったものであるので、以下に説明する。
複数の断面を混在させ同一平面に表現した手法が記載されていると、被請求人が主張する乙第8号証?乙第10号証の当該図において、左右にあるべきものを上下に表現しているのは、車幅方向にほぼ左右対称構造となっている、乙第9号証の吹出口(A)と、乙第10号証のセンタルーバ吹出口20a、20b、及びサイドルーバ32a、32bである。そして、乙第8号証?乙第10号証の当該図において、車幅方向あるいは前後方向に左右対称構造でない送風機(ブロワ)、冷房用蒸発器(冷房用熱交換器、エバポレータ)、暖房用熱交換器(ヒータコア)の空調装置の各構成部材は上下方向ではなく左右方向に表現されている。もし、甲第1号証の空調装置が、被請求人の主張するような車幅方向ならば、左右方向に表現されるのが自然である。
このことからも、甲第1号証の第1図において空調装置の各構成部材は、車幅方向ではなく、上下方向に順次配列していると解するのが自然であり、被請求人の「甲1発明の空調装置の各構成部材が、上下方向に順次配列しているとは見ないと理解するのが自然である」との主張は失当である。
また、被請求人は、甲第1号証発行日以前に空調装置の構成部材を上下方向に配置したものは皆無であった、と主張するが、そのような構成は、甲第8号証(第2頁右上欄第20行?同頁左下欄第4行、同欄第12行?同欄第17行、第2図、第3図)、甲第10号証(第3頁第16行?第4頁第6行、第1図)及び甲第16号証(第1頁第20行?第2頁第11行、第1図)に示されているように、甲第1号証発行日以前において周知の技術的事項であり、被請求人の「上下方向配置は皆無である」との主張は、事実と乖離したものであり、失当である。

以上のように、被請求人の甲第1号証についての主張は何れも採用することができない。

(1-3) してみれば、甲第1号証には、特に第1図の記載内容もふまえると、次の事項も記載されていると認めることができる。

オ.「ブロア2、エバポレータ5、ヒータコア7が、車体の上下方向に配置されていること。」

カ.「エバポレータ5が、装置内に略水平に配置され、ブロア2からの空気が下方から導入され、この導入空気を冷却して上方へ送り出すものであること。」

キ.「ヒータコア7が、エバポレータ5の上方において、略水平に配置されるものであること。」

さらに、次の事項は、当業者にとって自明である。

ク.「自動車空調装置が車室側に取り付けられていること。」

(1-4) 「第4 2.(1)」で摘記した記載事項「ア.」?「エ.」並びに上記事項「オ.」?「ク.」をふまえると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認めることができる。

「車室側に取り付けられている自動車空調装置において、
空気を送風するブロア2と、装置内に略水平に配置され、前記ブロア2からの空気が下方から導入され、この導入空気を冷却して上方へ送り出すエバポレータ5と、
このエバポレータ5の上方において、略水平に配置され、前記空気を加熱するヒータコア7と、
このヒータコア7の空気下流側に配置され、ヒータコア7で加熱され温度調整された空気の吹出方向を切り替えるモード切換ダンパ9とを備えている自動車空調装置。」

(2)甲第2号証に記載された発明
特に第1図の記載内容を考慮すると、次の事項も甲第2号証に記載されていると認めることができる。

カ.「蒸発器7と加熱器6は、それぞれブロワの下流側に設けられている点。」

被請求人は、甲第2号証はブロワがカウル部(車室外)に配置されているにも拘わらず、ブロワを含む空調装置全体が車室側に配置されているとすることは誤りである旨主張する。(訂正請求書の第18頁第27行?第19頁第8行)
しかし、甲第2号証の摘記事項「エ.」「オ.」及び第3図の記載によれば、甲第2号証の第3図の区割壁Pがエンジンルームと運転席(車室)とを隔てる分離隔壁であり、ブロワを含めた空調装置全体が当該区割壁Pの運転席側(車室側)に配置されていることは明らかであり、また、被請求人が車室外であると主張するカウル部なる用語はそもそも甲第2号証には用いられていないのでどの部位を指すかは不明確であるが、仮に甲第2号証の第3図の、フロントガラスSの下方に位置する、区画壁Pとは別個の板状部材とボンネットQとで挟まれる部位をカウル部とすれば、当該部位は区割壁Pの運転席側(車室側)に配置されているので、被請求人の主張は失当である。

「第4 2.(2)」で摘記した記載事項「ア.」?「オ.」、上記事項「カ.」並びに図面の記載内容をふまえると、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認めることができる。

「外気導入口Rと、ブロワと、ブロワの下流側に設けられてブロワからの空気を冷却する蒸発器7と、ブロワの下流側に設けられて蒸発器7からの冷風を加熱する加熱器6を備え、運転席とエンジンルームとを区割りする区割壁Pの運転席側にハウジング1,2,3を設けて配置されている自動車用空調装置。」

(3)甲第3号証に記載された発明
「第4 2.(3)」で摘記した記載事項「ア.」?「カ.」並びに図面の記載内容をふまえると、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認めることができる。

「自動車の車室内天井下面に取り付けられる自動車用空気調和装置であって、エバポレータ1を装置の水平方向に対し下降傾斜して配置し、さらにエバポレータ1の傾斜下端を排水用通路12内に配設し、この排水用通路12の両端に排水口13,14を連接し、エバポレータ1に生じた結露水がエバポレータ1をつたって降下し、排水用通路12へ導かれるようにした自動車用空調装置。」

4.本件特許発明と甲1発明の対比
甲1発明の「自動車空調装置」、「ブロア2」、「エバポレータ5」、「ヒータコア7」、「モード切換ダンパ9」は、本件特許発明の「自動車用空調装置」、「ブロワ」、「蒸発器」、「加熱用熱交換器」、「吹出モード切替部」にそれぞれ相当する。
したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
「車室側に取り付けられている自動車用空調装置において、
空気を送風するブロワと、装置内に略水平に配置され、前記ブロワからの空気が下方から導入され、この導入空気を冷却して上方へ送り出す蒸発器と、
この蒸発器の上方において、略水平に配置され、前記空気を加熱する加熱用熱交換器と、
この加熱用熱交換器の空気下流側に配置され、加熱用熱交換器で加熱され温度調整された空気の吹出方向を切り替える吹出モード切替部とを備えている自動車用空調装置。」

[相違点1]
自動車用空調装置が取り付けられる部位について、本件特許発明では「自動車の車室とエンジン室とを隔てる垂直な分離隔壁の車室側に、この隔壁に沿うようにハウジングを設けて取り付けられている」のに対して、甲1発明では分離隔壁、ハウジングとの関係が明らかでない点。

[相違点2]
空気を送風するブロワが、本件特許発明では、ブロワの前方かつ上方の車体外から吸い込んだ空気を送風するのに対して、甲1発明では車体外から吸い込む空気を送風するかどうかは明らかでない点。

[相違点3]
蒸発器が、本件特許発明では、装置の水平方向に対し下降傾斜して配置され、前記蒸発器の傾斜端部に、この蒸発器に凝集した水分を開口からエンジン室下方に排出する排出管が配置されているのに対して、甲1発明ではそのような構成を備えていない点。

5.判断
上記相違点1?3につき検討する。
(1)相違点1について
被請求人自らも、答弁書の第7頁第28行?第8頁第1行で「空調装置は、冷却などの効果を示すことが必要であるため、運転中に高熱となるエンジン室とは、断熱するために分離隔壁をもって隔離され、かつケーシングにより囲まれているのが通常であり」と説明しているように、一般に、自動車の車室は、エンジン室と隔てられていること、かつ空調装置はケーシング(すなわち、ハウジング)の中に設けることが通常であり、甲1発明においても、車室とエンジン室は何等かの手段により隔てられ、かつ空調装置はハウジングの中に設けられているものと解するのが自然である。
ところで、甲2発明は、本件特許発明及び甲1発明と同様に、自動車用空調装置に関するものであって、その「ブロワ」、「蒸発器7」、「加熱器6」、「エンジンルーム」、「区割壁P」、「ハウジング1、2、3」は、本件特許発明の「ブロワ」、「蒸発器」、「加熱用熱交換器」、「エンジン室」、「分離隔壁」、「ハウジング」にそれぞれ相当する。
この甲2発明は、甲1発明と基本的に同じ機器から構成される基本的に同じ原理で車室内の空調を行う自動車用空調装置に関するものであるから、甲1発明において、甲2発明、特にその分離隔壁によりエンジン室とブロワ、蒸発器及び加熱用熱交換器を隔てる構成を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、分離隔壁は、空調装置とエンジン室を区画するためのものであって、その形態として甲第2号証の第3図に示すように必ずしも途中で折れ曲がった形態でなくてもよいことは当業者にとって自明な事項であり、それを甲1発明の送風手段、冷却手段、加熱手段の配置に整合するような、特に途中で折れ曲がったものでない垂直なものとして構成することも、当業者が適宜なし得たことというべきである。
また、ハウジングを分離隔壁に沿うように設けることは、本件出願の優先日前周知(例えば、甲第8号証の第9図、甲第9号証の第2図を参照。)の技術的事項であり、当業者が容易になし得たことである。

被請求人は、「甲1発明は、第1図及び第2図に示されるように、空気取入口1に設けられた仕切板3,11は、甲1発明の必須構成要件である(相違点8)。第1図では、仕切板3は空気取入口1を上下に移動し、また、第2図では、仕切板11は空気取入口1に対し回動するように設けられている。甲1発明は、第1図では、仕切板3はその左方にサーボモータ4が存在し、また、第2図では、仕切板11が空気取入口1に対し回動するものであり、更に、仕切板3,11の取付け箇所から左方にハッチングの施されたブロック状の部材が存在するので、コンパクト化に資するような技術的な意義が教示もなく、黙示的な示唆すらない(相違点9)。」(訂正請求書第10頁第18行?第26行)と主張する。
しかし、「第4 3.(1)(1-1)」でも「細かい寸法関係や形態は置くとしても、自動車空調装置に必要とされる機器の存在、そしてそれらの相互の位置関係を含んだ大まかな配置は示されていると理解できる。」と述べたように、甲第1号証の第1図は模式図であり、寸法は必ずしも正確ではないものであるから、「ハッチングの施されたブロック状の部材が存在する」ということはできない。
そもそも、車内スペースをできるだけ広く確保しようとすることは、自動車において、自明の課題であり、空調装置の小形化は当業者が可能な限り行う設計的事項というべきことであるから、仮に、甲1発明において「ハッチングの施されたブロック状の部材が存在する」としても、それは、あえて空調装置が車室内に突出するように前後方向の占有長さを大きくするようなものではない。
そして、前後方向の占有長さを小さくするという作用効果は、ブロワ、蒸発器及び加熱用熱交換器を、前後方向ではなく、上下方向に配置した構成に基づく作用効果といえる(なお、車幅方向に配置したものを上下方向に配置したときは車幅方向の占有長さは変わるが、前後方向の占有長さは変わらないものといえる。)ところ、この上下方向に配置した構成の点は甲1発明と本件特許発明とは一致している。
しかも、本件特許発明には、「隔壁に沿うようにハウジングを設けて取り付けられている」とあるものの、前後方向の占有長さをどの程度とするかを特定する構成はないことからみても、甲1発明と本件特許発明とコンパクト化についての格別な差異は認められないので、被請求人の前記主張は採用できない。

また、被請求人は、甲第2号証はブロワがカウル部(車室外)に配置されているにも拘わらず、ブロワを含む空調装置全体が車室側に配置されているとすることは誤りである(訂正請求書の第18頁第30行?第19頁第8行)として、ブロワを含めた空調装置全体を分離隔壁の車室側に配置することについて明示的にも黙示的にも一切教示も示唆も無い甲第2号証の発明を、分離隔壁と空調装置との関係に一切言及していない甲第1号証の発明に組み合わせて本件特許発明がなされたとすることは誤りである旨主張する。(訂正請求書の第19頁第9行?第20頁第1行)
しかし、「第4 3.(2)」で述べたように、被請求人のいうカウル部は区割壁Pの運転席側(車室側)にあり、甲2発明ではブロワを含む空調装置全体が区画壁Pの運転席側(車室側)に配置されているので、被請求人の主張は失当である。

したがって、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明の構成を採用することは、当業者が通常の創作能力を発揮してなし得たことである。

(2)相違点2について
甲第1号証においては、車室内空気循環方式が記載されていて、車室外の空気を吸入することは記載されていないが、空調用の空気として車内循環と車室外の空気の両方を用いることは、本件出願の優先日前周知・慣用〔例えば、甲第2号証(明細書第5頁17行?第18行、第2図)、甲第11号証(明細書第6頁第11行?第14行、第3図)、甲第15号証(明細書第2頁第6行?第18行、第1図、第4図)、乙第8号証(第2頁第3欄第6行?第9行、第3図)、乙第9号証(第2頁右上欄第5行?第11行、第2図)、乙第10号証(第3頁左上欄第12行?第17行、第1図)を参照〕の技術的事項であるから、自動車の空調装置に関する甲1発明において、車室外の空気を吸入することは自明のことと言える。
そして、ブロワの前方かつ上方の車体外から空気を吸い込む構成も、甲第10号証の摘記事項「ア.」及び第1図に、空気取入口4が送風機5の前方でかつ上方の車体外から空気を吸い込む構成が記載されており、また、甲第11号証の摘記事項「ア.」「イ.」及び第1図?第3図に、外気導入口5がブロア6の前方かつ上方の車体外から空気を吸い込む構成が記載されているように、本件出願の優先日前周知の技術的事項である。

なお、被請求人は、で本件特許発明の作用効果として、「隔壁に沿うようにハウジングを設けて取り付けられた空調装置であって、ブロワの前方かつ上方の車室外から吸い込んだ空気を略水平に配置した蒸発器の下方から導入させ、更に蒸発器の上方の加熱用熱交換器で加熱するものであるから、限られた車室内空間において車両前後方向寸法を狭めて外気を吸入することができる」(訂正請求書第12頁第27行?第13頁第2行)と、「車両の幅方向のみならず前後方向の占有容積を小さくすることが出来る」の効果と繋げて、この「ブロワの前方かつ上方の車体外から吸い込んだ空気」の作用効果を主張する。
しかし、「車両前後方向寸法を狭め」ることについては、「ア(2)相違点1について」で述べたように、甲1発明のように、ブロワ、蒸発器及び加熱用熱交換器を上下方向に配置したことに基づく作用効果であり、これにブロワの前方かつ上方の車体外から空気を吸い込む点を組合せても、「ブロワの前方かつ上方の車体外から吸い込んだ空気」と「車両の幅方向のみならず前後方向の占有容積を小さくすることが出来る」とは、技術的に何らの相関もない事項であるから、ブロワの前方かつ上方の車体外から空気を吸い込む点に、空気として外気を吸入するという自動車の空調用空気装置として自明の作用効果以外の格別な作用効果を奏するものとは認められない。

したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件特許発明の構成を採用することは、当業者が通常の創作能力を発揮してなし得たことである。

(3)相違点3について
甲3発明に係る自動車用空調装置は、自動車車室内天井下面に取り付けられるものであるものの、特にエバポレータ(蒸発器)の機能に関して、同じく自動車用空調装置に係る本件特許発明及び甲1発明と基本的に異なるものではない。
そうすると、甲1発明において、甲3発明、特にエバポレータ(蒸発器)を装置の水平方向に対し下降傾斜して配置して、当該蒸発器の傾斜端部にこの蒸発器に凝集した水分を排出する構成を適用すること自体は、当業者が容易に想到し得たことである。そして、蒸発器に凝集した水分を排出するための手段として、管を用いる程度のことは、甲第2号証で蒸発器の凝縮水を排出するための手段として「排水管5」を用いているように、当業者が適宜採用し得たことである(ちなみに、乙第4号証にあっても、エバポレータ3の凝縮水をドレン受け6を介して「ドレンパイプ15」に通して排出することが記載されている。)。
また、凝集した水分をエンジン室下方に排出することは本件出願の優先日前周知〔例えば、甲第9号証(甲第9号証の摘記事項「ア.」参照)、甲第12号証(甲第12号証の摘記事項「ア.」「イ.」参照)、甲第13号証(甲第13号証の摘記事項「ア.」「イ.」参照)〕の技術的事項であり、車室内の空調装置から凝集した水分を排出する場合、車室下方から排出するかエンジン室下方に排出するしか選択肢はなく、これらの選択肢からエンジン室下方を選択したとしても、そこには何ら困難性も伴わないものであり、当業者が適宜選択する設計的事項である。
したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明の構成を採用することも、当業者が通常の創作能力を発揮してなし得たことである。

なお、被請求人は、訂正請求書第13頁第3行?第10行で本件特許発明2の作用効果として、凝縮水の排出について、甲2発明においては空調ユニットが車両の前後方向に長い上、隔壁と空調装置が一定の距離で離れているためエンジン室に凝縮水を排出するのが困難であるのに対し、本件特許発明においては、空調装置が分離隔壁の車室側に取り付けられ、ハウジングを設けて取り付けられているので、隔壁を貫通させてエンジン室に容易に凝縮水を排出することが可能となるという効果を主張する。
しかし、本件特許発明も、図1の実施例では、蒸発器の傾斜端部に排出管が隔壁から一定の距離で離れて配置されており、甲第2号証記載の排水構造と差異はなく、周知の甲第12号証、甲第13号証に記載の排水構造からみても、格別な作用効果は認められない。

(4)以上を踏まえると、上記相違点1?3は、いずれも格別なものではなく、本件特許発明の構成は、甲1発明?甲3発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

しかも、本件特許発明の構成により、甲1発明?甲3発明及び周知の技術的事項から当業者が予測できる以上の格別顕著な効果が奏されるということもできない。

よって、本件特許発明は、甲1発明?甲3発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明し得たものである。

6.まとめ
したがって、本件特許発明は、甲1発明?甲3発明、すなわち、請求人が提出した甲第1号証に記載された発明?甲第3号証に記載された発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第5 むすび
以上のとおり、本件特許発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
自動車用空調装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】自動車の車室(12)とエンジン室(16)とを隔てる垂直な分離隔壁(14)の車室側に、この隔壁に沿うようにハウジング(64)を設けて取り付けられている自動車用空調装置において、
空気を送風するブロワであってこのブロワの前方かつ上方の車体外から吸い込んだ空気を送風するブロワ(18)と、装置内に略水平に配置され、前記ブロワからの空気が下方から導入され、この導入空気を冷却して上方へ送り出す蒸発器(28)と、
この蒸発器(28)の上方において、略水平に配置され、前記空気を加熱する加熱用熱交換器(46)と、この加熱用熱交換器(46)の空気下流側に配置され、加熱用熱交換器(46)で加熱され温度調整された空気の吹出方向を切り替える吹出モード切替部(52)(56)(62)とを備え、
前記蒸発器は、装置の水平方向に対し下降傾斜して配置され、前記蒸発器の傾斜端部に、この蒸発器に凝集した水分を開口(70)からエンジン室下方に排出する排出管(68)が配置されていることを特徴とする自動車用空調装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車用空調装置に関する。
【0002】
【従来の技術】この種の装置としては、空気の吸入口及び吐出口を有するブロワ、吸入空気を冷却する蒸発器、冷却された空気を必要に応じて分配する分配器、この分配器に吸入された空気を加熱する加熱用熱交換器、冷却又は加熱された空気を自動車の車室の各部に送風する空気吹出し口を、車両幅方向に順次配置した装置が知られている。
【0003】このような公知のものでは、車室の外から吸入された空気を、ブロワによって圧縮して分配器に送りこみ、必要に応じて加熱した後、適宜の制御用フラップ弁により調節して、吹出し口から車室内に送風する。
【0004】この種の公知の装置では、ブロワの空気吸入口は、一般に、エンジン室を覆うフードの上部でフロントガラスの下端部に配置された、空気吸入口又は空気取入れ孔に近接した位置に設けられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記公知の装置は、ブロワ、蒸発器、分配器、加熱用熱交換器、空気吹出口を車両幅方向に順次配置した構成であるために、計器板の車室側の下方、あるいはエンジン室の中のいずれに設置しても、車両幅方向の占有容積が大きくなってしまうという問題点がある。
【0006】本発明の第1の目的は、自動車の車室内における車両幅方向の占有容積が小さい自動車用空調装置を提供することにある。
【0007】本発明の第2の目的は、蒸発器からの凝集水分の排出を容易にすることである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明によれば、自動車の車室(12)とエンジン室(16)とを隔てる垂直な分離隔壁(14)の車室側に、この隔壁に沿うようにハウジング(64)を設けて取り付けられている自動車用空調装置において、空気を送風するブロワであってこのブロワの前方かつ上方の車体外から吸い込んだ空気を送風するブロワ(18)と、装置内に略水平に配置され、前記ブロワからの空気が下方から導入され、この導入空気を冷却して上方へ送り出す蒸発器(28)と、この蒸発器(28)の上方において、略水平に配置され、前記空気を加熱する加熱用熱交換器(46)と、この加熱用熱交換器(46)の空気下流側に配置され、加熱用熱交換器(46)で加熱され温度調整された空気の吹出方向を切り替える吹出モード切替部(52)(56)(62)とを備え、前記蒸発器は、装置の水平方向に対し下降傾斜して配置され、前記蒸発器の傾斜端部に、この蒸発器に凝集した水分を開口(70)からエンジン室下方に排出する排出管が配置されていることを特徴とする自動車用空調装置が提供される。
【0009】
【発明の実施の形態】図1は、自動車に取付けた本発明による空調装置を、自動車の前後方向に切断した概略断面図、図2は、図1のII-II線における断面図である。
【0010】図1は、自動車の車室(12)用の空調装置(10)を示す。この空調装置(10)は、自動車の車室(12)とエンジン室(16)とを隔てる垂直な分離隔壁(14)の車室側に、この隔壁に沿うようにハウジング(64)を設けて取り付けられている。防火壁を兼ねる分離隔壁(14)は、自動車の前後方向に対して直交する方向に設けられている。
【0011】空調装置(10)は、分離隔壁(14)に垂直方向に取り付けられ、自動車の床(20)の近くに空気ブロワ(18)を備えている。空気ブロワ(18)は、このブロワの前方かつ上方の車体外から吸い込んだ空気を送風するものであって、空気分配器(22)の直下方に位置している。
【0012】空気ブロワ(18)のケース(23)は、渦巻形に形成され、分離隔壁(14)斜め上方を向く空気吸入口(24)と、蒸発器(28)を取付けた上向きの空気吐出口(26)とを有している。ケース(23)の中には、モータにより駆動される、後述するファンユニット(30)が設置されている。
【0013】また、分離隔壁(14)と分配器(22)との間に、ほぼ垂直方向を向く外気吸入管(32)が設けられている。外気吸入管(32)は、分配器(22)の全高を超えて、ブロワ(18)より高い位置まで延びている。外気吸入管(32)の上端は外気吸入孔(34)に、下端はブロワ(18)の吸入口(24)に接続されている。
【0014】外気吸入孔(34)は、「水分離器」としても作用する。フロントガラス(36)とフード(38)との接続部の近くに設けられていることにより、外部からの新鮮な空気は、外気吸入管(32)を通ってブロワ(18)に吸入され、蒸発器(28)を介して、分配器(22)に送られる。
【0015】分配器(22)には、ブロワ(18)の空気吐出口(26)に連通する下向きの空気取入れ口(40)がある。空気取入れ口(40)は、外気導通分岐管(42)と、加熱用の熱交換器(46)を取付けた加熱空気分岐管(44)とに連通している。
【0016】制御弁(48)は、2つの分岐管(42)と(44)に流れる空気を分配して、各部の吹出し口を通して車室(12)内に送られる空気の温度を調節する。
【0017】この実施例では、分配器(22)は、フロントガラス(36)の下端部に、少なくとも1個の空気吹出し口(50)を有し、フロントガラス(36)の氷結や曇りを防ぐようになっている。空気吹出し口(50)の風量は、枢動するフラップ弁(52)によって制御される。
【0018】また、分配器(22)は、車室(12)の低所に向けて開口する少なくとも1個の吹出し口(54)を備え、図示しない適宜の管路を経て、搭乗者の足付近に送風するようにしてある。空気吹出し口(54)の風量は、別のフラップ弁(56)によって制御される。
【0019】さらに分配器(22)は、側面に位置する少なくとも1個の空気吹出し口(58)と、中央に位置する1個の空気吹出し口(60)とを備えている。空気吹出し口(58)及び(60)の風量は、別の1個の枢動するフラップ弁(62)によって制御される。
【0020】空調装置(10)の全体は、自動車の計器板(66)に、ほぼ垂直な姿勢で取付けられたハウジング(64)の中に装着されている。
【0021】ファンユニット(30)により送られた空気は、蒸発器(28)を通って、必要に応じて冷却及び除湿された後、あるいは熱交換器(46)で加熱された後、各制御弁(52)(56)(62)の設定に基づいて、各吹出し口(50)(54)(58)(60)から車室(12)内に送り出される。
【0022】さらに空調装置(10)は、蒸発器(28)で凝集した水分を排出する排出管(68)を備えている。この排出管(68)は、蒸発器(28)に連通し、ブロワ(18)のケース(23)に沿って下方に延びている。排出管(68)の下端には、凝縮液を自動車の下に排出するための開口(70)が設けられている。蒸発器(28)は、水平面より傾斜しており、その傾斜下方に排出管(68)が設けられているので、排水が容易となる。
【0023】外気吸入管(32)は、横方向に細長い断面形状を有している。この実施例では、この断面形を、自動車の上下方向を短辺とし、幅方向を長辺とする長方形としてある。
【0024】外気吸入管(32)は、分離隔壁(14)側の前面壁(72)と、それに平行な後面壁(74)とで仕切られている。前後の壁(72)及び(74)の横幅は、分配器(22)の全幅よりも広く、たとえば約300mmである。
【0025】さらに外気吸入管(32)は、対向して設置した2個の側壁(76)(図2参照)で仕切ってある。これらの幅は狭くて、たとえば30mm程度である。
【0026】各側壁(76)は、車室(12)の内部に連通する循環空気吸入口(78)を備え、この吸入口(78)には、それぞれ制御用フラップ弁(80)を付設してある。各フラップ弁(80)は、図2に実線で示す循環空気吸入口(78)を閉止する位置と、破線で示す開放位置とに回動可能に、枢支されている。
【0027】各循環空気吸入口(78)を閉止する位置とすると、ファンユニット(30)は、図2に矢印F1で示すように、車体外からの空気のみを吸引する。一方、循環空気吸入口(78)を開放し、2個のフラップ弁が共通のストッパ(82)に当接する位置とすると、ファンユニット(30)は、図2に矢印F2で示すように、車室からの循環空気のみを吸引する。フラップ弁(80)を中間位置に設定することができることは、云うまでもない。
【0028】なお、図2に示すように、ブロワ(18)のファンユニット(30)は、2個のファン(84)を1本の水平軸(86)の両端に装着して、1個のモータ(88)によって駆動されるようになっている。2個のファン(84)には、2か所の空気吸入口(90)(92)から、空気が供給される。循環空気制御用フラップ弁(80)がどの位置にあっても、空気吸入口(90)(92)を塞ぐことがないようになっている。
【0029】この装置(10)は、分離隔壁(14)に対してほぼ垂直な姿勢で取付けられているため、車室内に占める容積が小さく、かつ、エンジン室には全くはみださない。
【0030】
【発明の効果】請求項1に記載の自動車用空調装置によれば、ブロワからの空気が蒸発器に下方から導入され、上方から排出されるように、各部材が配置されているので、車両の幅方向のみならず前後方向の占有容積を小さくすることが出来る。また、蒸発器を、水平面に対して傾斜させて配置し、その傾斜端部に排出管を配置したので、蒸発器に凝集した水分の排出が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】自動車に取付けた本発明による空調装置の概略縦断面図である。
【図2】図1のII-II線における断面図である。
【符号の説明】
(10)空調装置 (12)車室
(14)分離隔壁 (16)エンジン室
(18)ブロワ (20)床
(22)分配器 (23)ケース
(24)吸入口 (26)吐出口
(28)蒸発器 (30)ファンユニット
(32)外気吸入管 (34)外気吸入孔
(36)フロントガラス (38)フード
(40)空気取入れ口 (42)外気導通分岐管
(44)加熱空気分岐管 (46)熱交換器
(48)フラップ弁 (50)(54)(58)(60)空気吹出し口
(52)(56)(62)フラップ弁 (64)ハウジング
(66)計器板 (68)排出管
(70)開口 (72)前面壁
(74)後面壁 (76)側壁
(78)循環空気吸入口 (80)フラップ弁
(82)ストッパ (84)ファン
(86)回転軸 (88)モータ
(90)(92)空気吸入口 (F1)外気
(F2)循環空気
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-05-21 
結審通知日 2009-05-25 
審決日 2009-06-08 
出願番号 特願平5-170069
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (B60H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 谷口 耕之助  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 佐野 遵
長浜 義憲
登録日 2004-02-20 
登録番号 特許第3521351号(P3521351)
発明の名称 自動車用空調装置  
代理人 森田 政明  
代理人 伊藤 高順  
代理人 森 正澄  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 森 正澄  
代理人 森田 政明  

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