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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G21H
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  G21H
管理番号 1208483
審判番号 無効2006-80209  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-10-17 
確定日 2009-11-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2951477号「物体の電位を変化させる方法、および所定帯電物体の除電方法」の特許無効審判事件についてされた平成19年6月15日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成19年(行ケ)第10275号 平成19年12月26日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2951477号の請求項1及び請求項2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
1.本件特許第2951477号は、平成4年5月13日に出願した特願平4-120507号に係り、平成11年7月9日に特許権の設定登録がなされた。
2.請求人 スンチェ・ハイテック・カンパニー・リミテッドは、平成18年10月17日付けで「審判請求書」を提出し、特許無効審判を請求した。
3.被請求人 浜松ホトニクス株式会社は、平成19年1月18日付けで「審判事件答弁書」を提出した。
4.請求人は、平成19年4月10日付けで「口頭審理陳述要領書」を提出した。
5.被請求人は、平成19年4月10日付けで「口頭審理陳述要領書」を提出した。
6.平成19年4月10日に口頭審理が行われた。
7.請求人は、平成19年5月10日付けで「上申書」を提出した。
8.被請求人は、平成19年5月31日付けで「上申書」を提出した。
9.当審は、平成19年6月15日付けで「特許第2951477号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第一次審決」という。)をした。
10.被請求人は、第一次審決に対する訴えを提起(平成19年(行ケ)第10275号)するとともに、平成19年10月18日に訂正審判の請求をした。
11.知的財産高等裁判所は、平成19年12月26日に、特許法181条2項の規定により、第一次審決の取消しの決定をした。
12.被請求人は、平成20年1月25日付けで「訂正請求書」を提出するとともに、同日付けで「審判事件答弁書(第2回)」を提出した。
13.請求人は、平成20年4月21日付けで「意見書」ならびに「弁駁書」を提出した。

II.訂正請求
特許法第134条の3第2項の規定により指定された期間内に訂正の請求がなされたので、同条第4項の規定により、平成19年10月18日にした訂正審判の請求は取り下げられたものとみなす。
II-1.訂正の内容
被請求人の請求した訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許発明の明細書(以下「特許明細書」という。)の全文を、平成20年1月25日付け「訂正請求書」に添付した「全文訂正明細書」のとおりに訂正しようとするものであり、その内容は以下のとおりである。

(訂正事項1)
特許明細書の特許請求の範囲の請求項1について、
「所定物体が配置された雰囲気に対してX線を照射する位置に、所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管を配置し、
前記ベリリウム窓から主要波長が2オングストローム以上、20オングストローム以下の範囲の前記X線が照射される領域の前記雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより、
前記イオンを含む前記雰囲気中にある前記所定物体の電位を当該雰囲気の電位に近づけることを特徴とする物体の電位を変化させる方法。」とある記載を、
「所定物体が配置された大気雰囲気に対して軟X線を照射する、当該所定物体から1m未満の位置に、所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管を配置し、
前記ベリリウム窓から主要波長が2オングストローム以上、20オングストローム以下の範囲の前記軟X線が照射される領域の前記大気雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより、
前記イオンを含む前記大気雰囲気中にある前記所定物体の電位を当該大気雰囲気の電位に近づけることを特徴とする物体の電位を変化させる方法。」(下線は訂正箇所を示す)と訂正する。

(訂正事項2)
特許明細書の特許請求の範囲の請求項2について、
「除電すべき所定帯電物体が配置された雰囲気に対してX線を照射する位置に、所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管を配置し、
前記ベリリウム窓から主要波長が2オングストローム以上、20オングストローム以下の範囲の前記X線が照射される領域の前記雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより、
前記イオンを含む前記雰囲気中にある前記所定帯電物体を除電することを特徴とする所定帯電物体の除電方法。」とある記載を、
「除電すべき所定帯電物体が配置された大気雰囲気に対して軟X線を照射する、当該所定物体から1m未満の位置に、所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管を配置し、
前記ベリリウム窓から主要波長が2オングストローム以上、20オングストローム以下の範囲の前記軟X線が照射される領域の前記大気雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより、
前記イオンを含む前記大気雰囲気中にある前記所定帯電物体を除電することを特徴とする所定帯電物体の除電方法。」(下線は訂正箇所を示す)と訂正する。

(訂正事項3)
特許明細書の段落【0004】?【0006】に記載されている「X線」(「X線管」を除く。)を「軟X線」と訂正する。

(訂正事項4)
特許明細書の段落【0005】?【0006】に記載されている「雰囲気」を「大気雰囲気」と訂正する。

(訂正事項5)
特許明細書の段落【0005】ならびに【0006】に記載されている「照射する位置」のそれぞれを「照射する、当該所定物体から1m未満の位置」(段落【0005】について)ならびに「照射する、当該所定帯電物体から1m未満の位置」(段落【0006】について)と訂正する。

II-2.訂正の適否
(II-2-1)訂正事項1について
訂正事項1は、「雰囲気」、「X線」、「照射する位置」と記載された発明特定事項を、それぞれ「大気雰囲気」、「軟X線」、「照射する、当該所定物体から1m未満の位置」とする訂正(下線は訂正箇所を示す)であって、それぞれの事項について限定を付すものであり、前記限定事項は、それぞれ、特許明細書の段落【0012】、【0023】(「大気(雰囲気)」について)、段落【0007】、【0008】、【0012】、【0017】?【0019】、【0022】、【0023】(「軟(X線)」について)、段落【0009】((照射する位置が)「所定物体から1m未満(の位置)」について)に記載されている、もしくは、記載されている事項から自明な事項である。
そうすると、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、特許明細書に記載した事項の範囲内でするものであって、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(II-2-2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1について検討した訂正と実質的に同じであるので、訂正事項2も、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、特許明細書に記載した事項の範囲内でするものであって、さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(II-2-3)訂正事項3ないし5について
訂正事項3ないし5は、発明の詳細な説明の記載を、訂正事項1、2の訂正と整合させるための訂正であって、訂正事項3ないし5の訂正事項が特許明細書に記載した事項の範囲内でするものであることは前記(2-1)で述べたとおりである。
そうすると、訂正事項3ないし5は、明りょうでない記載の釈明に該当し、特許明細書に記載した事項の範囲内でするものである。

II-3.訂正請求に関するむすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書に適合し、同法同条第5項において準用する特許法第126条第3項ならびに第4項の規定に適合する。また、訂正後の請求項1、2に係る発明は、いずれも本件無効審判において特許無効の請求がされている請求項に係る発明である。
よって、本件訂正を認め、以下に当事者の主張を検討する。

III.当事者の主張の概要
III-1.請求人の主張
請求人は、本件特許第2951477号の訂正後の請求項1及び2に係る発明は、知的財産高等裁判所が第一次審決の取消しの決定の根拠とした訂正事項を含まない発明であって、本件特許の請求項1及び2に係る発明と実質的に何ら相違しないので、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、訂正後の請求項1及び2に係る発明についての特許は同法123条第1項第2号の規定により無効とすべきである、本件審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める旨主張し、証拠方法として、以下の甲第1号証ないし甲第17号証を提出している。

甲第1号証:米国特許第第3,862,427号明細書及びその部分翻訳文
甲第2号証:特開平1-274396号公報
甲第3号証:「マグローヒル科学技術用語大辞典」(昭和54年4月30日 第1版第2刷発行、株式会社日刊工業新聞社)第118、119頁
甲第4号証:「Collins Dictionary Science」(2003)第645頁及びその部分翻訳文
甲第5号証:「放射線のはなし」(野口正安著、2000年2月15日初版9刷発行、日刊工業新聞社)第1?3頁
甲第6号証:「岩波 理化学辞典 第4版」(1987年10月12日発行、株式会社岩波書店)第130?133頁
甲第7号証:「Modern X-Ray Analysis on single Crystals」(1980、Walter de Gruyter & Co.)80、85?91頁及びその部分翻訳文
甲第8号証:「ENERGY DISPERSIVE X-RAY FLUORESCENCE ANALYSIS」(1989、PWN-POLISH SCIENTIFIC PUBLISHERS WARSZAWA)39頁、70頁及びその部分翻訳文
甲第9号証:「電子管製作用各種材料(箔、線、棒、粉末、網及び管)研究用化学薬品及特殊金属加工」No.15(昭和57年12月20日改訂15号発行、日本電球工業株式会社)
甲第10号証:「研究用基礎材料カタログNo.23 1992?1993」
甲第11号証:「APPLIED X-RAYS」(1995、McGRAW-HILL BOOK COMPANY)第161?170頁
甲第12号証:特開昭58-32200号公報
甲第13号証:平成19年10月18日付け訂正審判請求書
甲第14号証:第1次審決取消請求事件(平成19年(行ケ)第10275号)において提出された平成19年11月17日付け意見書
甲第15号証:第1次審決取消請求事件(平成19年(行ケ)第10275号)に関する知的財産高等裁判所の審決取消決定書
甲第16号証:X線の到達距離と吸収断面積との関係の説明図面
甲第17号証:特許第2749202号無効審判事件(無効2006-80208)において提出された平成19年6月8日付け答弁書

III-2.被請求人の主張
被請求人は、訂正後の本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明することができたものではないので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、本件審判の請求は成り立たない、本件審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める旨主張し、証拠方法として、以下の乙第1号証ないし乙第8号証を提出している。

乙第1号証:「岩波 理化学辞典 第5版」(1998年2月20日発行、株式会社岩波書店)第138、139、988頁
乙第2号証:「大気におけるX線の吸収率と波長との関係についての計算報告書」(平成19年1月11日 浜松ホトニクス株式会社電子管事業部設計第2グループ 藤田澄)
乙第3号証:「光子減弱係数データブック」(1995年3月31日 社団法人日本放射線技術学会出版委員会発行)第6、7、25、127頁
乙第4号証:「Company Profile 2003.04 Sun Je Hi-Tek Co.,LTD」及びその翻訳文
乙第5号証:「X線イオナイザーによる帯電物体の除電特性に関する研究」(イ・ドンフン、韓国産業安全学会誌、第13巻第3号、1998年9月)及びその翻訳文
乙第6号証:「革新善導企業事例発表(静電気除去装置) 2005.9. SUNJE Hi-Tek Co.,Ltd」及びその翻訳文
乙第7号証:「軟X線照射による静電気除去」(高砂熱学工業総合研究所報 No.8 1994)第27?36頁
乙第8号証:「軟X線と硬X線の除電時間についての実験結果報告」(平成19年10月16日実験 浜松ホトニクス株式会社電子管事業部第4製造部 鈴木智之)

IV.請求人ならびに被請求人の主張に関する検討
上記請求人ならびに被請求人の主張について、以下に検討する。
IV-1.本件特許発明
訂正後の請求項1及び2に係る特許発明(以下、訂正後の各請求項に係る特許発明を「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されている以下のとおりのものである。
「【請求項1】所定物体が配置された大気雰囲気に対して軟X線を照射する、当該所定物体から1m未満の位置に、所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管を配置し、
前記ベリリウム窓から主要波長が2オングストローム以上、20オングストローム以下の範囲の前記軟X線が照射される領域の前記大気雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより、
前記イオンを含む前記大気雰囲気中にある前記所定物体の電位を当該大気雰囲気の電位に近づけることを特徴とする物体の電位を変化させる方法。
【請求項2】除電すべき所定帯電物体が配置された大気雰囲気に対して軟X線を照射する、当該所定物体から1m未満の位置に、所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管を配置し、
前記ベリリウム窓から主要波長が2オングストローム以上、20オングストローム以下の範囲の前記軟X線が照射される領域の前記大気雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより、
前記イオンを含む前記大気雰囲気中にある前記所定帯電物体を除電することを特徴とする所定帯電物体の除電方法。」

IV-2.刊行物の記載事項
IV-2-1.甲第1号証
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、図面とともに以下の記載がある。(邦訳は、請求人の提示した翻訳文についてはそれに基づき、その他は当審で行った。)
(1-1) 第1頁右欄第5行から第16行
「要約書
可燃性液体のコンテナの上部表面にX線源のアレイが配置されている。各X線源は、高電圧発生器、電子加速管及びX線ターゲットを備えている。また、各X線源は、防水及び防ガスの方法で当該X線源を維持する金属製封入容器内に収納されている。広角ビームとして形成されたX線は、上記コンテナ内のガス領域内で自由イオンを生成し、これらのイオンが、コンテナ内のガス充満領域内に形成された望ましくない静電場を中和させる。」
(1-2)第1頁第1欄第6行から第10行
「本発明は、可燃流体およびガスの大きなコンテナの気体空間内の、静電的に発生した望ましくない静電場強度を火花発火のないレベルまで減ずる装置ならびに方法に関する。」
(1-3)第1頁第1欄第19行から第29行
「荷電の分離と引き続く潜在的に危険な静電場の蓄積は、大量の物体が動いている、特に速く、激しい動きの時、常に生じている。これは、すべての物体は物理的もしくは電気的力による電子の剥離に抗するもしくは付活する活性に差があるという原理的事実に基づく。このようにして2つの物体が摩擦接触していると、一方は電子を必要として負に帯電し、他方は電子を失って正に帯電する。」
(1-4)第3頁第3欄第29行から第35行
「好ましくは、X線は300keV未満のエネルギーを有する電子によって生成される。電力源(不図示)は高電圧発生器24を動作させる。動作中、X線源10は、図1の30及び図3の32に示されるようにコンテナ内の領域へ放射されるX線の広角ビームを生成する。」

したがって、上記記載事項及び図面の記載からみて、甲第1号証には次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。) が記載されている。
「可燃性液体のコンテナの上部表面にX線源のアレイが配置され、前記X線源は、高電圧発生器、電子加速管及びX線ターゲットを備え、また、防水及び防ガスの方法で当該X線源を維持する金属製封入容器内に収納されて、前記X線源の高電圧発生器を動作させ、動作中、X線は300keV未満のエネルギーを有する電子によって生成され、広角ビームとして形成されてコンテナ内の領域へ放射され、上記コンテナ内のガス領域内で自由イオンを生成し、これらのイオンが、コンテナ内のガス充満領域内に形成された望ましくない静電場を中和させる方法。」

IV-2-2.甲第2号証
同じく本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、図面とともに以下の記載がある。
(2-1)第1頁左下欄第4行から第17行
「1.所定の領域でイオン化されたガス環境を与える方法において、
囲まれた流路に沿って前記領域へ加圧されたガスの流れを導くこと、
前記所定の領域から隔離された位置で前記囲まれた流路の所定の部分へ電離放射線を導くことにより前記ガスの流れをイオン化すること、
前記流路の前記所定の部分の外へ伝播する放射線の漏洩を抑制すること、及び
前記所定の領域で前記囲まれた流路から前記イオン化されたガスの流れを放出すること、の工程を含むことを特徴とするガスイオン化方法。」
(2-2)第2頁右上欄第9行から同頁左下欄第2行
「11.所定の領域へ置かれる工業的生産物その他への静電荷の累積を抑制する方法において、
囲まれた流路に沿って前記生産領域へ加圧されたガスの流れを導くこと、
前記生産領域から隔離された位置で前記囲まれた流路の所定の部分へ電離放射線を導くことにより前記ガスの流れをイオン化すること、
前記流路の前記所定の部分の外へ伝播する放射線の漏洩を抑制すること、及び
前記生産領域で前記囲まれた流路から前記イオン化されたガスの流れを放出すること、の工程を含むことを特徴とする静電荷の累積抑制方法。」
(2-3)第4頁右上欄第2行から第7行
「(技術分野)
本発明は所定の領域における大気のイオン含有量の制御に関するものである。更に詳細には、この領域内の物体への静電荷の累積を抑制するために所定の領域においてイオン化された大気を維持する方法及び装置に関するものである。」
(2-4)第7頁左上欄第15行から同頁右上欄第9行
「放射線の源泉は好適に、内部室の一端で薄い窓31を通して内部室19内へX線21を導くように位置決めされたX線管29である。紫外線が幾つかのガスを効果的にイオン化できるけれども、窒素はそれらのガスの中には含まれない。多量の放射性物質のような他の放射線の源泉も使用され得るが、そのような潜在的に危険な材料の使用は装置の製作,取り扱い,動作及び処分に複雑化を加える。
本発明の好適な形では、遮蔽する必要を最小化するために比較的低エネルギーのX線を与えるように選択され調節される。15keVのエネルギーを有すX線は、例えば、プラスチック,アルミニューム又はベリリウム製の薄い窓31を貫通することが可能であり、従って内部室19内で窒素を能率的にイオン化する。」
(2-5)第7頁右下欄第10行から第8頁左上欄第6行
「第2図はより詳細に本発明の一特別例の電離室ハウジング18及び遮蔽覆い51の構造を表示する。…(中略)…
この特別例の電離室ハウジング18は、3インチの直径と4.5インチの高さである内部室19を有する直立したプレキシグラスの円筒である。ハウジング18の上端部被覆は、内部室19へ近付くことができるために螺旋ねじ56によってハウジングの本体54へ噛み合わされたプレキシグラスの蓋53である。
X線管29の突出した、丸いX線出力窓58は、蓋53の外側面の中心で丸い竪穴59内に置かれる。本発明のこの例では、竪穴59のすぐ下の蓋の材料の薄い部分が、内部室19へX線が通って入る薄い窓31を定義する。」

IV-2-3.甲第6号証
同じく本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、図面とともに以下の記載がある。
(6-1)(第130頁左欄第21行から第39行)
「X線管の熱陰極から出る電子を高圧で加速し、水冷した対陰極(陽極)に衝突させて発生するX線には、対陰極物質に関係なく、制動放射で生じる連続スペクトルのいわゆる白色X線(連続X線^(*))と、対陰極物質に固有な線スペクトルを持つ特性X線^(*)とがある。…中略…
(1)X線の吸収(absorption of X-rays)。強さI_(0)のX線を厚さxの箔に通すとI=I_(0)exp(-μx)に弱まる。μ(次元[L-1])は線吸収係数で、入射X線の波長λできまる定数である。」
(6-2)(第131頁右欄第32行から第41行)
「X線管[…(中略)…]電子線を高電圧で加速し、陽極(対陰極ともいう)に衝突させてX線を発生する真空管。電子源に真空放電を用いるガスX線管(冷陰極X線管)が使われたこともあるが、現在は図のような熱電子X線管(クーリッジ管^(*))がもっぱら使われる。熱陰極から出た電子線はウェーネルト電極^(*)で集束されて陽極面に焦点を結び、X線を発生させる。X線をとり出す窓にはベリリウム板などがよく使われる。」

IV-2-4.甲第8号証
(8-1)第39頁のTABLE1.5
表1.5には、さまざまなエネルギーのX線に対する、さまざま物質の質量吸収係数が示されている。
(8-2)第70頁第2行から第11行およびFig.2.19.
「X線管は、加速粒子源及び陽極部という2つの本質的要素で構成される。陽極の厚さ及びX線管窓に対する陽極の位置が異なる2つのいずれかの構造が採用可能である。このように、透過(薄い)陽極を有するX線管又は散乱(厚い)陽極を有するX線管に区別することができる。
透過陽極は、厚さが約0.1mmの金属箔を用いて製作することができる。
生成されたX線の実用的な光子ビームは、電子の入射ビームと同じ方向に放出される。このことが図2.19に示され、透過陽極を有する小型X線管の構成例が図2.20に示されている。」
そして、図2.19には、電子銃から放出された電子ビームが陽極に当たり、そこでX線が発生し、ベリリウム窓を通して外部へ放出する透過(薄い)陽極を備えたX線管の原理が図示されている。

IV-3.当審の判断
そこで、請求人ならびに被請求人の主張(前記「III.当事者の主張の概要」参照)について検討するため、本件特許発明1及び本件特許発明2と甲第1号証発明とを対比の上、検討する。
IV-3-1.本件特許発明1について
(1)本件特許発明1と甲第1号証発明との対比
甲第1号証発明の(ア)「可燃性液体」が物体であること、また、(イ)「コンテナ内の領域」、「コンテナ内のガス領域」及び「コンテナ内のガス充満領域」が前記可燃性液体を収納する領域であることは明らかであるので、それらは、それぞれ本件特許発明1の(ア’)「所定物体」、(イ’)「(所定物体が)配置された雰囲気」に相当する。
甲第1号証発明の(ウ)「X線源」と本件特許発明1の(ウ’)「X線管」は、共にX線を発生するものであるので、両者は「X線源」である点で一致する。
また、甲第1号証発明の(エ)「X線ターゲット」が、本件特許発明1の(エ’)「ターゲット」に相当することは明らかである。
そして、X線発生のためのターゲットを具備するX線源は、X線を放射(照射)する際には、通常、ターゲットに所定のターゲット電圧及びターゲット電流が与えられるものであるので、甲第1号証発明の「X線源」と本件特許発明1の「X線管」は共に、「所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを具備するX線源」である点で一致する。
そうすると、甲第1号証発明の(オ)「可燃性液体のコンテナの上部表面にX線源のアレイが配置され」、「前記X線源は、高電圧発生器、電子加速管及びX線ターゲットを備える」ことと、本件特許発明1の(オ’)「所定物体が配置された大気雰囲気に対して軟X線を照射する、当該所定物体から1m未満の位置に、所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管を配置」することとは、「所定物体が配置された雰囲気に対してX線を照射する位置に、所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを具備するX線源を配置」する点で一致する。
さらに、甲第1号証発明の「自由イオン」は、コンテナ内のガス領域内のガス分子がX線によりイオン化されて生成されたものであることは明らかであるので、甲第1号証発明の(カ)「X線は」「コンテナ内の領域へ放射され、上記コンテナ内のガス領域内で自由イオンを生成」することと、本件特許発明1の(カ’)「軟X線が照射される領域の前記大気雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化する」こととは、「X線が照射される領域の前記雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化する」点で一致することも明らかである。
そして、前記摘記(1-2)、(1-3)の事項からして、「コンテナ内のガス充満領域内に形成された望ましくない静電場」は、可燃性液体とその上部空間との間に生じていることは明らかであるので、「静電場を中和」することにより、電位の均一化がなされて可燃性液体の電位が変化することは明らかである。そうすると、甲第1号証発明の(キ)「これらのイオンが、コンテナ内のガス充満領域内に形成された望ましくない静電場を中和させる方法」と、本件特許発明1の(キ’)「前記イオンを含む前記大気雰囲気中にある前記所定物体の電位を当該大気雰囲気の電位に近づける」「物体の電位を変化させる方法」とは、「前記イオンを含む前記雰囲気中にある前記所定物体の電位を当該雰囲気の電位に近づける、物体の電位を変化させる方法」である点で一致する。

したがって、両者は
「所定物体が配置された雰囲気に対してX線を照射する位置に、所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵するX線源を配置し、
前記X線が照射される領域の前記雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより、
前記イオンを含む前記雰囲気中にある前記所定物体の電位を当該雰囲気の電位に近づけることを特徴とする物体の電位を変化させる方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「(所定物体が配置された)雰囲気」が、本件特許発明1は、「大気雰囲気」であるのに対して、甲第1号証発明は大気雰囲気であるか否か明確でない点。
(相違点2)
「X線源」が、本件特許発明1は、「当該所定物体から1m未満の位置」配置されるのに対して、甲第1号証発明は所定物体との距離が明記されていない点。
(相違点3)
「X線源」が、本件特許発明1は、「ターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管」であるのに対して、甲第1号証発明はそのようなX線管でない点。
(相違点4)
X線源から照射される「X線」が、本件特許発明1は「主要波長が2オングストローム以上、20オングストローム以下の範囲の軟X線」であるのに対して、甲第1号証発明は波長について明記していない点。

(2)相違点についての検討・判断
(2-1)相違点3について
甲第2号証には、上記摘記(2-1)から(2-5)からみて、所定の領域でイオン化されたガスを用いて物体の静電荷の累積を抑制する方法において、出力窓を備えたX線管を用いて前記イオン化を行うことが記載されている。そして、上記方法は、甲第1号証発明と同様に、イオン化されたガスにより物体の電位を変化させる方法や帯電物体の除電方法に関する技術に属するものである。
したがって、物体の電位を変化させる方法や帯電物体の除電方法に用いるX線源として、窓を備えるX線管を用いること自体は従来から知られている技術である。
そして、窓を有するX線管では、X線管内部に陽極、すなわち、ターゲットを内蔵させることや、窓部材としてベリリウムを用いることは、例えば、甲第6号証、甲第8号証にも記載されているように従来周知の技術であるし、X線の減衰は原子番号が大きいほど減衰率が大きくなるという一般的な法則を勘案すれば、X線の効率的利用を図るために原子番号の小さいベリリウムを窓部材として採用する点に格別の困難性は見いだせない。
よって、甲第1号証発明のX線源として、「ターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管」を採用することは、甲第2号証に記載された技術的事項や周知技術に基づいて当業者が容易になし得る事項にすぎない。

(2-2)相違点1、2、4について
上記相違点1、2、4は互いに関連する事項であるので、まとめて検討する。
(2-2-a)主要波長について
本件特許発明1の発明特定事項に「主要波長」なる技術用語があり、この用語について請求人は、平成19年4月10日付けで提出された口答陳述要領書において、「一方、本件特許発明では、主要波長が2Å以上20Å以下の範囲の以下の範囲のX線に限定しているが、X線の主要波長が2Å以上20Å以下であることが、技術的に何を意味しているか明確ではない。例えば、生成されたX線の波長分布から2?20Åの波長範囲のみを選択して使用するということを意味するのか、最短波長が2?20Åの範囲内にあることを意味するのか、あるいは、強度ピークが2?20Åの範囲内にあることを意味するのか明確でない。」(請求人提出の口答陳述要領書第6頁第8行から第13行)と主張している。
そこで、まず「X線の主要波長が2Å以上20Å以下」の意味を検討する。
最初に、「生成されたX線の波長分布から2?20Åの波長範囲のみを選択し」た波長であると解することができるかについて検討する。
そもそも、X線の波長の範囲を選択するのであれば、特に主要波長と規定する必要もなく、単に「波長」という表現すればよいから、生成されたX線の波長分布中のある代表する波長を意味すると解するのが自然であるので、「生成されたX線の波長分布から2?20Åの波長範囲のみを選択し」て使用することを意味すると解するのは妥当でない。
次に、主要波長が「強度ピーク」の波長の意味、あるいは、最短波長の意味で用いられているかどうかについて検討する。
本件特許発明1の目的は、X線管から出射されたX線により大気中のガスをイオン化し、前記イオン化したガスにより、近傍にある物体の電位を変化させたり除電することであり、本件特許発明1は、前記目的を実現するのに適したX線の波長を特定している。
そして、X線管から照射されるX線の波長と強度は、ターゲットに印加される電圧から求められる波長を最短波長とし、前記最短波長から立ち上がって波長が長くなるについて強度が増大して、ある波長で強度ピークを有する波長分布を示す関係にある。
そうすると、最短波長をもって大気のイオン化する波長を議論するのは不自然であるので、X線の主要波長とは、X線の波長分布のうち強度ピークを示すX線の波長を意味していると解するのが相当である。

(2-2-b)判断
甲第1号証に記載のX線源から生成されるX線は、300keV未満のエネルギーを有する電子によって生成されたもの(前記摘記(1-4)参照)であり、前記300keV未満のエネルギーを波長に換算すると約0.041Åより大きい波長範囲となる。
一方、ターゲットを具備するX線源から放射されるX線は、X線源に備えられたターゲットに印加される電圧から求められる波長を最短波長とし、X線の強度は、前記最短波長から立ち上がって波長が長くなるについて増大してある波長でピークに達し、前記ピークとなる波長からさらに波長が長くなるにつれて減衰して長い裾を引く連続スペクトルとして放射されることは当業者に周知の事項である。
また、前記ピークとなる波長は、最短波長の3/2倍程度の値であることも、当業者に周知の事項である。
そうすると、甲第1号証に記載のX線源から生成されるX線は、約0.041Å×3/2、即ち、約0.061Åに強度ピークを有する連続スペクトルのX線であるということができる。
また、前記(2-4)の摘記事項からみて、甲第2号証に記載されたX線管から照射されるX線は15keVのエネルギーを有するものであり、波長に換算すると、約0.83Åとなる。
してみると、X線による雰囲気ガスのイオン化を利用して物体の電位を変化させる方法や帯電物体の除電方法に用いるX線には、種々の波長のX線を採用し得るということができる。
そして、物体の電位を変化させる方法や帯電物体の除電方法に用いる雰囲気ガスのイオン化は、放射されたX線のエネルギーが雰囲気ガスに与えられて、すなわち、雰囲気中におけるX線の吸収によって生ずることは当業者にとって自明な事項であって、前記X線の吸収はX線が照射される媒体の線吸収係数によって定まることは、甲第6号証について前記(6-1)に摘記(「強さI_(0)のX線を厚さxの箔に通すとI=I_(0)exp(-μx)に弱まる。μ(次元[L-1])は線吸収係数で、入射X線の波長λできまる定数である。」)したとおり、当業者に周知の事項である。
ここで、X線の吸収に関しては、X線のエネルギーが大きいほど線吸収係数μは小さくなることが一般的法則として周知であるし、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証の第39頁のTABLE1.5には、窒素N、酸素Oを含むさまざまな物質について、X線のエネルギーと質量吸収係数との関係を表にしたものが記載されて(なお、質量吸収係数(以下、「μ_(m)」と表記する。)は、μ_(m)=μ/ρ(ρは物質の密度)と表されるもので、甲第6号証に記載された線吸収係数μを物質の密度ρで除したものに相当する)おり、上記表から、窒素N、酸素Oのμ_(m)はX線のエネルギーが小さくなる、すなわち、X線の波長が長くなるほど大きくなる事項が記載されている(なお、X線のエネルギーがEのときのX線の波長λは、E=hc/λ(hはプランク定数、cは光速度)と表されることは技術常識である。)。そして、物質の密度ρは、気体の場合、圧力、温度等によって変化するものの、物質によって定まる定数と考えて差し支えないので、大気の主要成分である窒素N、酸素Oの線吸収係数μはX線の波長λが長くなるほど大きくなるということができ、結局、窒素N、酸素Oの線吸収係数μは、X線の波長λが長くなるほど大きくなるという事項は窒素Nや酸素Oが有する物性として本願出願前に周知であったといえる。
そうすると、窒素や酸素等のガスのイオン化の程度はX線の波長に依存するX線の線吸収率によって定まるという技術的事項は、本出願前に当業者によく知られた事項であるということができるので、X線の波長をどの程度とするかは、ガスが充填された雰囲気中のうち、特にイオン化したい領域までの距離、すなわち、雰囲気中のガスの厚みに応じて当業者が適宜決定する事項にすぎない。
してみると、イオン化したガスの近傍に物体を配置し、該物体の電位を変化させたり除電を行う場合に、イオン化を行うガス雰囲気として「大気雰囲気」を選択するとともに、その大気雰囲気におけるX線の線吸収率を勘案して、X線源と物体との距離ならびにX線の波長を定めること、すなわち、X線源を「当該所定物体から1m未満の位置」配置し、その範囲内においてイオン化が十分になされるよう、X線の波長を「主要波長が2オングストローム以上、20オングストローム以下の範囲の軟X線」とすることは、当業者が適宜決定する事項にすぎないものであり、また、本願の発明の詳細な説明の記載内容を参酌しても、前記X線源の配置位置やX線の波長に格別の臨界的な意義があるということもできない。

したがって、上記相違点1、2、4に係る発明特定事項を採用することは甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明及び従来周知の技術により当業者が容易になし得た事項であって、上記相違点による本件特許発明1の効果も、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証、甲第8号証に記載の技術事項から当業者であれば予測し得る効果にすぎない。

(3)本件特許発明1のまとめ
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明、ならびに、従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

IV-3-2.本件特許発明2について
(1)本件特許発明2と甲第1号証発明との対比
本件特許発明2は、本件特許発明1の発明特定事項の「所定物体」、「前記所定物体の電位を当該雰囲気の電位に近づける」及び「物体の電位を変化させる方法」をそれぞれ「除電すべき所定帯電物体」、「前記所定帯電物体を除電する」及び「所定帯電物体の除電方法」と限定するものである。
そうすると、本件特許発明2と甲第1号証発明とは、前記「IV-3-1.本件特許発明1について」の「(1)本件特許発明1と甲第1号証発明との対比」で行った対比のうち、(ア)「可燃性液体」と(ア’)「所定物体」との関係、ならびに、(キ)「これらのイオンが、コンテナ内のガス充満領域内に形成された望ましくない静電場を中和させる方法」と(キ’)「前記イオンを含む前記大気雰囲気中にある前記所定物体の電位を当該大気雰囲気の電位に近づける」「物体の電位を変化させる方法」との関係を除いて、前記「(1)本件特許発明1と甲第1号証発明との対比」で行った対比のとおりであるので、実質的に本件特許発明2における前記限定内容に対応する「除電すべき所定帯電物体」と「所定帯電物体を除電する」との事項について検討する。

甲第1号証発明の「可燃性液体」が本件特許発明2の「除電すべき所定帯電物体」に相当することは、前記摘記(1-2)、(1-3)の事項からして明らかである。
また、前記摘記事項を踏まえれば、甲第1号証発明の「これらのイオンが、コンテナ内のガス充満領域内に形成された望ましくない静電場を中和させる方法」と、本件特許発明2の「前記イオンを含む前記大気雰囲気中にある前記所定帯電物体を除電する」「所定帯電物体の除電方法」とが、「前記イオンを含む前記雰囲気中にある前記所定帯電物体を除電する、所定帯電物体の除電方法」である点で一致することも明らかである。

そうすると、両者は
「除電すべき所定帯電物体が配置された雰囲気に対してX線を照射する位置に、所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵するX線源を配置し、
前記X線が照射される領域の前記雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより、
前記イオンを含む前記雰囲気中にある前記所定帯電物体を除電することを特徴とする所定帯電物体の除電方法。」の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
「(所定物体が配置された)雰囲気」が、本件特許発明2は、「大気雰囲気」であるのに対して、甲第1号証発明は大気雰囲気であるか否か明確でない点。
(相違点2)
「X線源」が、本件特許発明2は、「当該所定物体から1m未満の位置」配置されるのに対して、甲第1号証発明は所定物体との距離が明記されていない点。
(相違点3)
「X線源」が、本件特許発明2は、「ターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管」であるのに対して、甲第1号証発明はそのようなX線管でない点。
(相違点4)
X線源から照射される「X線」が、本件特許発明2は「主要波長が2オングストローム以上、20オングストローム以下の範囲の軟X線」であるのに対して、甲第1号証発明は波長について明記していない点。

(2)相違点についての検討・判断
上記相違点1ないし相違点4は、本件特許発明1と甲第1号証発明との相違点と同一であり、それらの相違点に関する判断は本件特許発明1と甲第1号証発明の相違点の判断と同様である。

(3)本件特許発明2のまとめ
したがって、本件特許発明2は、甲第1号証および甲第2号証に記載された発明、ならびに、従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

V.被請求人の主張についての検討
被請求人は、平成19年1月18日付け「審判事件答弁書」、平成19年4月10日付け「口頭審理陳述要領書」、平成19年5月31日付け「上申書」、ならびに、平成20年1月25日付け「審判事件答弁書(第2回)」において、概略、以下の主張をしているので、それらの主張について検討する。
V-1.軟X線を除電等に用いることは本願出願前公知でないことについて
被請求人は、「軟X線は本出願前には工業的にほとんど利用されておらず、除電等に用いることは本願出願前公知ではなく、本件特許発明が、軟X線を除電等に用いるパイオニア発明である。」旨、主張する。
しかしながら、X線によるガスのイオン化を利用して除電等を行うことは、甲第1号証や甲第2号証に記載されているように従来公知の事項であり、周知の技術的事項に基づけば、そのイオン化が軟X線を用いて可能であって、その際、X線源と物体との距離や波長範囲は当業者が適宜選定し得る事項であることは、前記「IV-3-1.本件特許発明1について」の「(2-2)相違点1、2、4について」で述べたとおりである。
また、軟X線を利用した除電装置を被請求人が初めて開発したとしても、その開発行為の新規性進歩性が、特許出願に係る発明である技術的思想の新規性進歩性とは異なるものであることは、特許法第29条の規定から明らかである。
したがって、被請求人の前記主張は採用できない。

V-2.X線波長範囲とベリリウム製X線窓材、雰囲気中での吸収等の関連性について
被請求人は、「本件特許は、効果的除電が、軟X線を用いることにより可能であるとの知見に基づき、窓材にベリリウムを用いるとともに、その窓材による吸収と雰囲気での吸収を考慮して波長範囲を選択している。」旨、主張する。
しかしながら、X線管の窓部材としてベリリウムを用いることは、前記「IV-3-1.本件特許発明1について」の「(2-1)相違点3について」で述べたとおりであるし、その際、X線の波長が長くなれば(X線のエネルギーが小さくなれば)、窓部材でのX線の吸収が大きくなって除電等に十分に寄与できず、逆にX線の波長が短くなれば、前記「(2-2)相違点1、2、4について」で述べたとおり、X線の線吸収係数からして、雰囲気中の所望のガス厚みの範囲内において十分なイオン化が行われないことは明らかである。
そうすると、窓部材にベリリウムを用いるとともに、出射X線の使用目的に応じてX線の波長を選択することに格別の困難性は見いだせない。
よって、被請求人の前記主張を採用することはできない。

V-3.動機付けについて
被請求人は、「甲第1号証、甲第2号証には、除電に軟X線を用いること、所定の距離範囲と波長範囲を選択すること、X線管の窓部材にベリリウムを採用することに関する動機付けが存在しないとともに、甲第2号証は実施不可能なものである上、除電対象物体周辺でのイオン化を行うものではなく、除電対象物体と離れた位置でガスのイオン化を行って配送する点で、組み合わせに阻害要因が存在する。」旨、主張する。
しかしながら、前記「IV-3-1.本件特許発明1について」の「(2-1)相違点3について」で述べたとおり、甲第2号証は、本件特許発明1や甲第1号証発明と同様に、イオン化されたガスにより物体の電位を変化させる方法や帯電物体の除電方法に関する技術に属するものであるので、甲第1号証発明に甲第2号証に記載された技術的事項を組み合わせる阻害要因が存在するとは認められず、また、その適用に際して如何なるX線の波長範囲を採用するか、X線管の窓部材に何を選択すべきかについては、前記「(2-1)相違点3について」ならびに「(2-2)相違点1、2、4について」で述べたとおりである。
したがって、被請求人の前記主張についても採用することはできない。

VI.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び本件特許発明2は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明、ならびに、従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正後の本件請求項1および2に係る発明は特許法第29条第2項の規定に該当し特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、訂正後の請求項1および2に係る発明についての特許は、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
物体の電位を変化させる方法、および所定帯電物体の除電方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】所定物体が配置された大気雰囲気に対して軟X線を照射する、当該所定物体から1m未満の位置に、所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管を配置し、
前記ベリリウム窓から主要波長が2オングストローム以上、20オングストローム以下の範囲の前記軟X線が照射される領域の前記大気雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより、
前記イオンを含む前記大気雰囲気中にある前記所定物体の電位を当該大気雰囲気の電位に近づけることを特徴とする物体の電位を変化させる方法。
【請求項2】除電すべき所定帯電物体が配置された大気雰囲気に対して軟X線を照射する、当該所定帯電物体から1m未満の位置に、所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管を配置し、
前記ベリリウム窓から主要波長が2オングストローム以上、20オングストローム以下の範囲の前記軟X線が照射される領域の前記大気雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより、
前記イオンを含む前記大気雰囲気中にある前記所定帯電物体を除電することを特徴とする所定帯電物体の除電方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は物体の電位を変化させる方法、および所定帯電物体の除電方法に関するものである。特に、例えば大気圧ないしその程度のガス雰囲気中において、当該雰囲気をイオン化して物体の電位を変化させ、あるいは帯電物体を除電するための方法に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
従来のイオン発生装置は、その目的によって種々のタイプの装置が使用されるが、イオンを発生させるエネルギー源としては、紫外線やX線マイクロ波が利用される。従来、この種の目的には、例えば紫外線が使用されていたが、雰囲気中のガス分子のイオン電圧は8ないし15エレクトロンボルトの範囲にあるものが多く、紫外線では充分の目的を果たすことができず、その効果は著しくなかった。
【0003】
同様の目的に、SOR(シンクロトロン放射光)によるX線を利用することが試みられている。しかし、SORは巨大な装置で到底工業的に成立するものではなく、本発明とは波長域は類似であっても比較できるものではない。一方、従来のイオン源の他の例では、マイクロ波放電などが用いられていたが、大きな設備が必要になり、エネルギーの均一性などの点で問題を有していた。本発明は、このような問題点を解決することを課題としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る物体の電位を変化させる方法、および所定帯電物体の除電方法に適用されるイオン発生装置は、軟X線の主要波長を2ないし20オングストロームの範囲に有し、ベリリウム(Be)窓を有するX線管を備え、このBe窓から軟X線が照射される領域にイオン化すべき元素を含ませることを特徴とする。
【0005】
請求項1に係る物体の電位を変化させる方法の発明は、所定物体が配置された大気雰囲気に対して軟X線を照射する、当該所定物体から1m未満の位置に、所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管を配置し、ベリリウム窓から主要波長が2オングストローム以上、20オングストローム以下の範囲の軟X線が照射される領域の大気雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより、イオンを含む前記大気雰囲気中にある前記所定物体の電位を当該大気雰囲気の電位に近づけることを特徴とする物体の電位を変化させる方法である。
【0006】
請求項2に係る除電方法の発明は、除電すべき所定帯電物体が配置された大気雰囲気に対して軟X線を照射する、当該所定帯電物体から1m未満の位置に、所定のターゲット電圧およびターゲット電流が与えられるターゲットを内蔵すると共にベリリウム窓を有するX線管を配置し、ベリリウム窓から主要波長が2オングストローム以上、20オングストローム以下の範囲の軟X線が照射される領域の大気雰囲気に含まれる元素ないし物質をイオン化することにより、イオンを含む大気雰囲気中にある所定帯電物体を除電することを特徴とする所定帯電物体の除電方法である。
【0007】
【作用】
イオン発生のためのエネルギー源として、軟X線を利用すること自体は、従来から試みられている。しかし軟X線の波長のうち、どの程度の波長が有効であるかは従来明確でなかった。最近、Be(ベリリウム)窓を有するX線管の技術が確立したので、これを使用する場合について考察すると、軟X線の波長が長いときには、Beによる吸収損失がN_(2),O_(2)など(大気圧雰囲気での代表として示す)による吸収に比べて増加するようになり、波長が約20オングストローム以上のX線は損失割合が急増するため不利であることがわかった。
【0008】
一方、軟X線の波長が短くなり、2オングストローム以下になると、雰囲気などを含む目的の物質による吸収が小さくなり、目的のイオン化に適しないことがわかった。従って、イオン化のエネルギー源として使用するのに適当な波長は、2ないし20オングストロームの範囲が有効である。
【0009】
この範囲の波長では、Be窓での吸収損失は比較的少なく、かつ大気圧程度の雰囲気中では比較的短距離(例えば10cm)を走行中にイオンを発生して消失するため、少し離れれば人体に対する影響も全くなく、安全である。すなわち、請求項2に言う限られた領域とは、通常は10?20cm程度以下を指し、1m以上のような長い距離範囲は、後述の工業的用途からして考えない。
【0010】
この物体の電位を変化させる方法、および所定帯電物体の除電方法に使用されるX線管は、例えばターゲット電圧5kV、ターゲット電流20μA程度でよく、電源容量も小さくてすみ、小型で扱い易く、雑音を発生しない利点がある。
【0011】
【実施例】
以下、本発明を更に具体的に説明する。本発明の物体の電位を変化させる方法、および所定帯電物体の除電方法に適用されるイオン発生装置は、Be窓を有するX線管を備えており、このBe窓から出射されたX線をイオン化すべ元素に照射する構成になっている。ここで、X線の波長は2?15オングストロームであり、これにより、良好な物体の電位を変化させる方法、および所定帯電物体の除電方法を提供できる。
【0012】
例えば、大気中でイオンを発生させるための健康装置においては、軟X線程度の波長のものを発射してイオンを発生させることは、従来のイオナイザーなどの放電機器が、雑音や高圧端子の露出などの点で不利があったのに比べ、操作簡易で清潔であり、効率も高いことがわかった。
【0013】
この物体の電位を変化させる方法、および所定帯電物体の除電方法の具体的な応用としては、例えば静電式コピー機において、近傍にある物体に帯電させるために、特定の限られた空間にイオンを発生させるために有効に使用することができる。すなわち、上記の限られた空間にBe窓からX線を照射することで、当該空間の物質ないし雰囲気をイオン化できる。このようにイオンを発生させて、所定空間内にある所定物体を帯電または除電する(つまり、所定物体の電位をイオン化した雰囲気の電位に近づける)ことができる。
【0014】
また、ガス入り放電管の放電スタートの際に、近傍にイオン発生装置を付設することによって、放電スタートを容易にすることができる。更に、これを内蔵することは、イオン化を限定範囲にとどめたりする点で有利であり、余分の窓を介することのない有利さ、更に安全の面でも有利である。この場合は、イオン発生空間は必ずしも大気圧ではないこともあるが、ガス圧が大気圧より低い場合でも、この波長はイオン化効率が高いので、有効に同様の効果を期待することができる。
【0015】
更に、種々の化学反応を、イオン化装置によって促進制御することができる。例えば、シリコン基板上に化学反応によってエピタキシャル膜ないし酸化膜を生成・成長させるCVD法ないし、反応しやすくして除去するドライエッチング法においても、近傍に上部イオン発生装置を設置することによって、当該反応ガスをイオン化して反応を促進することができる。
【0016】
上記化学反応ガス圧力は、大気圧の場合と、減圧状態の場合とがあるが、この区別はどちらでも本質ではないので、本発明の場合も大気圧程度に限定されることなく、使用目的に従って減圧下の場合も含む。
【0017】
また上記の気相化学反応のほか、薄膜表面反応にも応用できる。その一例は、プラスチックの表面改質である。例えばポリビニリデン(PVF)膜の表面に、上部X線イオン化装置により軟X線を照射することによって表面層に雰囲気からイオンを供給することにより、表面の不安定不飽和結合を酸化し、安定被膜層に変えることができる。この処理は大気圧中で行えるので簡便有利である。あるいは、アルミニウム鋳造物表面を、上記の処理により安定な保護膜層に変えることができる。従来は電解めっき法によって保護膜を生成せしめていたのに比べ、極めて簡便な方法となる。
【0018】
また、半導体加工においてはイオンビームによる不純物注入、スパッタリング法などにおいてイオンが用いられるが、これらのイオン発生源として効果的である。即ち加工装置中において、イオン源となるべき部分に本発明のイオン化装置を設置し、原料ガスを軟X線で照射する。そして、生成したイオンをスリット等を通して適当な電圧により加速し、真空室内に導入すればイオンビームが得られる。本発明によれば、マイクロ波放電を利用していた従来例に比べて、小型有効にイオンを発生させることができる。また、軟X線の吸収長や照射方向などによって、必要とする限定された範囲内でイオンを発生することができる。
【0019】
また、更に半導体加工に用いられるいわゆるホトレジストに例示されるような光化学反応を薄膜固相内で起こさせる場合でも、本発明による波長の軟X線は、薄膜固相内でイオンを発生させるので、光照射によりホトエッチングを起こさせる代わりに、軟X線の照射によって同様の効果を起こさせることができる。もちろん、この場合には、雰囲気は真空とする必要がある。この方法は、最近の光露光法において分解の関係で使用波長が短くなり、適当な強力紫外光源がないため困難を生じている現状に対して、有力な解決策を提示するものである。
【0020】
上記の露光は、いわゆるX線露光法と本質は類似するが、その手段および装置において異なるものである。すなわち本発明は、その波長がBe板との吸収差によって選ばれているので、この場合も、更に別のBe板を設け、これを介して照射するのである。
【0021】
このBe板は、従来、X線露光で試みられたホトマスクと役割が類似しているが、使われた例はない。従来のマスク(支持膜)としてはBN膜,SiN膜やポリイミド等が使用されているが、それらよりもX線吸収が少し、かつマスクとして使用しうる程度の薄膜を得ることもできるので、これと組合わせた本発明のX線誘導イオンによる化学反応法は有効である。もちろん、該Be薄膜上にマスク材料パターンを載置してホトリソグラフィに応用することもできる。
【0022】
Be膜は、照射系と反応系とを仕切るもの、あるいは仕切り窓としても有用であって、軟X線装置において、Beを使用することが本発明に係るイオン化装置の特徴の一つである。
【0023】
次に、軟X線の波長の選択基準について述べる。例えば大気をイオン化する場合には、Be板における吸収損失に比べ、大気ガス(例えば窒素N)における吸収を大きくすることが必要で、この点から波長の上限が定まり、この場合にはNの特性波長端が上限となり、約30オングストロームである。しかし、NとBeとの損失比は、波長3.5オングストローム付近において最小となり、短波長に向かって緩やかに低下する。短波長に進むに従い、Nに対する吸収係数も低下するので、イオン化の効率も低下する。長波長に進むに従い、Beにおける吸収によって効率は低下する。
【0024】
ガスをイオン化するための吸収長から考えて、あまり小さな吸収長は適用できないので、実用的な長さ(例えば10cm)においてイオン化吸収率が20%以下になる波長を下限とすれば、約2.5オングストローム波長になる。従って、30ないし2.5オングストロームの範囲が適当であるが、X線管ターゲット材料として選択しうる材料の点から、上限は12オングストロームとされる。すなわち、この範囲で選択しうる材料は、Na(ナトリウム),Mg(マグネシウム),Al(アルミニウム),Si(シリコン),K(カリウム),Ca(カルシウム),Ti(チタン),V(バナジウム)などである。
【0025】
X線によるCVDエピタキシャル反応の場合の例について述べれば、この場合の反応主成分はSiH4のようなガスなので、BeとSiとの吸収比較が問題となる。すなわち、Siの特性端が7.1オングストロームにあるので、これが上限となる。下限はSi吸収長できまり、同様にして2.5オングストロームである。この間において、最小値は2.5オングストロームの付近に存在する。最も好ましい波長は、上限が7オングストローム、下限が2.5オングストロームである。従って、範囲は7?2オングストローム程度と表現される。
【0026】
X線による固相反応の例として、X線露光ホトリソグラフィの例を述べれば、この場合の反応物はSi主体のホトレジストであれば上記と同じである。有機高分子主体のホトレジストであれば、C(カーボン)とBeとの比較であり、波長は上限、下限ともに、既述の15ないし2.5オングストロームでよいことがわかる。AlのCVDについても、同じ値でよい。
【0027】
イオンビームソースとして考える場合、Mg,Al,Si,P(リン),Ar(アルゴン)などのイオン源ならばSiと同様でよい。有機金属CVDなどの場合も、Siについて同様でよい。Ga(ガリウム)などの比較的原子量の大きなものについては、波長の下限は2オングストローム程度でも、まだ効率はそれほど低下しないが、やはり長波長ほど効率はなお高いので、本発明の範囲としてはSiなどと同様である。
【0028】
【発明の効果】
本発明によれば、Be窓を有するX線管を利用するという簡便な手法により、極めて効率よくイオン化して所定物体の電位を雰囲気に近付ける。例えば帯電物体を除電できる効果がある。このため、各種の工業分野において、極めて幅広く活用することが可能である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2007-05-25 
結審通知日 2007-05-29 
審決日 2007-06-15 
出願番号 特願平4-120507
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (G21H)
P 1 113・ 851- ZA (G21H)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山口 敦司田邉 英治  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 末政 清滋
安田 明央
登録日 1999-07-09 
登録番号 特許第2951477号(P2951477)
発明の名称 物体の電位を変化させる方法、および所定帯電物体の除電方法  
代理人 城戸 博兒  
代理人 柴田 昌聰  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 野田 雅一  
代理人 柴田 昌聰  
代理人 野田 雅一  
代理人 大槻 聡  
代理人 城戸 博兒  
代理人 長谷川 芳樹  

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