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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  E03B
管理番号 1208514
審判番号 無効2008-800039  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-02-29 
確定日 2009-12-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第3301860号発明「中高層建物用増圧給水システム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3301860号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3301860号に係る主な手続の経緯は、以下のとおりである。

平成 6年 6月14日 特許出願(特願平6-132265号)、出願 人(株式会社日立製作所)
平成14年 4月26日 特許権の設定登録(特許第3301860号)
平成15年 2月26日 特許権が株式会社日立製作所から株式会社日立 産機システムに移転登録
平成20年 2月29日 特許無効審判請求(無効2008-8000 39)(請求人)
平成20年 6月23日 答弁書提出(被請求人)
平成20年11月28日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成20年11月28日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成20年11月28日 第1回口頭審理実施

第2 請求人の主張の概要及び証拠方法
特許第3301860号(以下、「本件特許」という)の請求項1および請求項2に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証の記載から当業者が容易に想到し得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
また、同様に、本件特許の請求項1および請求項2に係る発明は、甲第2号証及び甲第4号証の記載から当業者が容易に想到し得た発明であるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件の請求項1及び請求項2に係る特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

[証拠方法]
平成20年2月29日付け特許無効審判の審判請求書に添付した証拠方法は以下のとおりである。

(1)甲第1号証 特許第3301860号公報
(2)甲第2号証 実願昭58-1506号(実開昭59-107072 号)のマイクロフィルム
(3)甲第3号証 水道協会雑誌、平成4年2月第61巻第2号(第68 9号)
(4)甲第4号証 特開平5-263444号公報
(5)甲第5号証 特開平2-9957号公報
(6)甲第6号証 特開平6-136794号公報
(7)甲第7号証 特開昭54-132801号公報
(8)甲第8号証 特開平5-240186号公報
(9)甲第9号証 特許第3301860号特許登録原簿の写し

平成20年11月28日付け口頭審理陳述要領書に添付した証拠方法は以下のとおりである。
(10)甲第10号証 給水装置工事施行基準 神戸市水道局(平成4年 4月)
(12)甲第11号証 特開平4-362295号公報

第3 被請求人の主張の概要
本件特許第3301860号の請求項1及び請求項2に係る特許は特許法第123条第1項第2号の規定に該当するものではなく、また取り消し理由もないものである。よって、速やかに、答弁の趣旨どおり、本件審判請求は成り立たないとする審決を求めるものである。

第4 本件特許発明
本件の請求項1及び請求項2に係る発明は、本件特許に係る特許明細書の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載されたとおりの以下のものと認める(以下「本件発明1、本件発明2」という。)。

「【請求項1】 中高層建物の各階床に対する給水を、低階床では水道用配水管に直結された低階床側給水管により行ない、中高階床では増圧ポンプの吐出側に接続された中高階床側給水管により行なうようにした給水システムにおいて、上記増圧ポンプの吸込側を上記低階床側給水管に接続して給水を行なうように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム。
【請求項2】 中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも3群の階床群に分割し、下階床群に属する階床に対する給水は水道用配水管に直結された下階床群用給水管により行ない、下階床群以外の階床群に属する階床に対する給水は、各階床群毎に、夫々専用の増圧ポンプの吐出側に接続された夫々の高階床群用給水管により行なうようにした給水システムにおいて、上記専用の増圧ポンプの吸込側を、順次、その階床群の下階床群側の給水管に夫々接続して給水を行なうように構成したことを特徴とする中高層建物用増圧給水システム。」

第5 甲号各証の記載事項
1 甲第2号証【実願昭58-1506号(実開昭59-107072号)のマイクロフィルム】
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下に示す(1-1)?(1-6)の事項が記載されている。

(1-1)
「実用新案登録請求の範囲
ビル等の高所への給水システムであって、下部に水を貯める受水槽と下部あるいは任意の階に水を収容する圧力タンクと受水槽から配管を介して前記圧力タンクへ揚水するポンプとを有し、前記圧力タンクは、剛性のある気密構造の中空の本体と、この本体内に柔軟弾性材によりなる袋体を有しこの袋体内へ水を収納するようになし、かつ、前記本体と袋体間の液体を収納する側と反対側に気体が密封してある給水装置において数階毎にポンプと圧力容器を逆止弁を介して配置し、数階毎の前記ポンプ逆止弁、圧力容器を送水管により直列に複数配置したことを特徴とする圧力容器。」(明細書第1ページ第3?15行)

(1-2)
「考案の詳細な説明
本考案は、ビル等の高所への給水装置に関するものである。
従来ビル等の高所への給水装置として下部に受水槽とポンプを設け、ビルの屋上に開放形の高過水槽を設置したもの、中空気密構造で剛性容器からなる本体内に柔軟弾性部材よりなる変形自在の袋体又は隔膜を有し、袋体又は隔膜と本体間に気体を加圧封入してある給水圧力タンクを地上あるいは任意の階に設置し、前記袋体内又は隔膜を介しての一方の側にポンプから揚水した水を一時収納するようにした給水装置、さらにはバリアブルポンプによる給水システムがある。これらいずれの装置又はシステムも下部のポンプについては、ほぼ同様に、最上階高さよりも10m程高い揚程を必要とし、さらに吐出量も時間平均使用量の2?3倍のポンプ又はバリアブルポンプが使用され、設備費、運転費等も高価であり、またポンプ吐出口にかかるウォータハンマー等も大きく故障の原因ともなる。」(明細書第1ページ第16行?第2ページ第15行)

(1-3)
「本考案の目的は、従来の下部ポンプのみで揚水するかわりに数階毎にポンプ逆止弁及び内部に液体を収納する圧力容器とを配置し、低い揚程のポンプを使用し、揚水管を介して直列に接続することによりポンプの設備費を下げるとともに、運転費をも少なくできる給水装置を提供するものである。」(明細書第2ページ第16行?第3ページ第2行)

(1-4)
「本考案の要旨とするところは、ビル等の高所への給水装置において、数階毎に低楊程のポンプ逆止弁と内部に液体を収納する袋体を有した圧力容器とを送水管を介し直列に配置した給水装置であって以下実施例を図面により説明する。」(明細書第3ページ第3?7行)

(1-5)
「第3図は、下部受水槽より下部ポンプ12により下部圧力タンク11と連通する下部送水管13を介して上部ポンプ22の吸込側へ揚水するようにし、さらに上部ポンプ22により上部圧力タンク21と連通する上部送水管23を介して各階へ揚水する給水装置であり各ポンプ吐出側と圧力タンクとの間には逆止弁15を設けてある。この場合下部で水を使用した場合、一旦下部圧力タンク11内に収容された水は排出され、ある設定圧力以下になると下部ポンプ12が起動し、揚水を開始する。水の使用が止まった後も下部ポンプ12は、揚水を継続し、下部圧力タンク11内へ送水し、設定最高圧力になると、下部ポンプは停止する。この状態で上部において水の使用が開始されると、一旦上部圧力タンク21内に収容された水が排出され、その圧力タンク21位置での低圧側設定圧力以下になると上部ポンプ22が起動する。上部ポンプ22の起動後は、下部圧力タンク11より水が加圧供給され、さらに水の使用が継続されると、下部圧力タンク11の位置での低圧側設定圧力以下となり下部ポンプ12が起動し上部へ給水する。
下部ポンプ12は下部圧力タンク11近くに取付けた圧力スイッチ17により起動、停止を制御し、上部ポンプ22は、上部圧力タンク21近くに取付けた圧力スイッチ27により起動、停止を制御する。」(明細書第3ページ第8行?第4ページ第12行)

(1-6)
「以上のように本考案の効果は、ポンプと圧力タンクを数階毎に設置することにより、各々のポンプの運転時間を少なくし、下部にポンプ1台を設置したのに比べて、設備費、運転費供安くすることができ、さらに従来の給水装置の場合に生じる最上階と、一階の給水圧力差をほとんどなくすことができ、長い揚水管を持つ給水装置において発生するウォータハンマー等もなくすことができる等、すぐれた効果を奏するものである。」(明細書第4ページ第13行?第5ページ第1行)

2 甲第3号証【水道協会雑誌、平成4年2月第61巻第2号(第689号)】
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下に示す(2-1)?(2-5)の事項が記載されている。

(2-1)
「1. はじめに
近年,受水槽の管理不徹底による公衆衛生の問題や,受水槽空間の有効利用から,3階建て以上の建物への直接給水が検討されている。5階直結を行なうには0.3MPa(3.1kgf/cm^(2))以上の圧力が必要である。しかし,給水区域内での地盤高等により既存の配水管圧力で直結給水できない地域や6階以上の集合住宅で直結給水を実施する場合, これを解決するために給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置が必要となる。」(第34頁左欄第1行?同右欄第2行)

(2-2)
「2.ブースタ装置外観
図-1にブースタ装置外形図を示す。
800×800mmのべース上に2台のステンレスプレス製の陸上ポンプと吸込,吐出配管,吐出側圧力タンク,制御盤,バルブ類が搭載されている。
2台のポンプ吸込側と吐出配管の合計3箇所にメンテナンス用のバタフライ弁がある。各ポンプの吐出側はフロースイッチ,逆止弁を介して吐出し曲管へ配管される。
吸込管は逆止弁を介して吐出管へポンプをバイパスするように配管され,十分な入口圧力がある場合はこの経路でポンプを必要とせずに給水できる。圧力センサは配管の吸込側と吐出側にそれぞれ1個づつ付いている。」(第35頁左欄第3行?第36頁右欄第3行)

(2-3)
「3.ブースタ装置運転フロー
ブースタ装置の運転フローを図-2に示す。
2台のポンプがそれぞれ独立してインバータに接続され可変速運転するようになっている。同時に2台が並列運転することはなく,停止するたびに始動ポンプを切り替える単独交互方式である。」(第36頁右欄第8?13行)

(2-4)
「3.1 基本動作
装置を起動すると,1号又は2号のいずれか一方のポンプが起動する。水量が減少しポンプを停止させた後運転ポンプを切り替える。
流量が増大すると回転速度が上昇し,流量が減少すると回転速度を下げて吐出圧力を末端圧力一定制御する(推定方式)。また,入口圧力が増大すると回転速度が減少し,入口圧力が減少すると回転速度を上昇させて吐出圧力を末端圧力一定制御する(推定方式)。流量の増減,入口圧力の増減により前記動作をくり返す。
また,入口圧力が増大し吐出設定圧力以上になると,ポンプは自然停止し,バイパス配管を通って給水する。」(第36頁右欄第14行?第37頁左欄第6行)

(2-5)
「4. 検証試験
1991年10月より,上記ブースタ装置を実際の住宅に据え付けて検証試験を行った。
試験現場として選定したのは,横須賀市内の5階建て40戸の集合住宅で,現在41m^(3)の受水槽を持ち,圧力タンク方式の給水装置で給水している。住宅は高台に位置しているため,水道本管圧力は0.3MPa(3.1kgf/cm^(2))以下であり,給水区域内では数少ない,ブースタ装置が必要な地域である。」(第37頁右欄第7?16行)

第6 当審の判断
1 本件発明1について
(1)本件発明1
本件発明1は、「第4 本件特許発明」の項に記載したとおりである。

(2)甲第2号証に記載された発明

ア 記載事項(1-1)から「ビル等の高所への給水システム」を読み取ることができる。そして、第3図には、6階の各階に給水することが図示されているから、ビルの各階に対して給水する給水システムを読み取ることができる。

イ 第3図は、数階毎にポンプを設置した、ビル等の高所への給水システムの実施例を示す図であり、具体的には、上記ポンプが3階毎に設置された給水システムが第3図に図示されており、第3図の記載から、1階から3階では下部送水管13により給水を行なうこと、及び4階から6階では上部送水管23により給水を行なうことを読み取ることができる。

ウ 第3図の記載から、下部受水槽の水が下部ポンプ12を用いて供給される下部送水管13を読み取ることができる。

エ 第3図の記載から、上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23を読み取ることができる。

オ したがって、上記アないしエから、ビル等の各階に対する給水を、1階から3階では、下部受水槽の水が下部ポンプ12を用いて供給される下部送水管13により行ない、4階から6階では上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23により行なう給水システムを読み取ることができる。

カ また、第3図の記載から、上部ポンプ22の吸込側を下部送水管13に接続して給水を行なうように構成したことを読み取ることができる。

よって、記載事項(1-1)ないし記載事項(1-6)及び図面からみて、甲第2号証には、
「ビル等の各階に対する給水を、1階から3階では下部受水槽の水が下部ポンプ12を用いて供給される下部送水管13により行ない、4階から6階では上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23により行なう給水システムにおいて、上記上部ポンプ22の吸込側を上記下部送水管13に接続して給水を行なうように構成したビル等の高所への給水システム。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

(3) 対比
本件発明1と引用発明1とを比較すると、
ア 引用発明1の「ビル等」、「各階」は、本件発明1の「中高層建物」、「各階床」に、それぞれ相当する。

イ 引用発明1の「1階から3階」は、本件発明1の「低階床」に相当し、また、引用発明1の「下部送水管13」は、本件発明1の「低階床」に相当する1階から3階に給水を行なう配管であるから、「低階床側給水管」に相当する。
したがって、引用発明1の「給水を、1階から3階では下部受水槽の水が下部ポンプ12を用いて供給される下部送水管13により行ない」と本件発明1の「給水を、低階床では水道用配水管に直結された低階床側給水管により行ない」とは、給水を、低階床では低階床側給水管により行なう点で共通する。

ウ 引用発明1の「4階から6階」、「上部ポンプ22」、「行なう」は、本件発明1の「中高階床」、「増圧ポンプ」、「行なうようにした」に、それぞれ相当する。
また、引用発明1の「上部送水管23」は、本件発明1の「中高階床」に相当する4階から6階に給水を行なう配管であるから、本件発明1の「中高階床側給水管」に相当する。
したがって、引用発明1の給水を「4階から6階では上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23により行なう」は、本件発明1の給水を「中高階床では増圧ポンプの吐出側に接続された中高階床側給水管により行なうようにした」に相当する。

エ 引用発明1の対象である「ビル等の高所への給水システム」は、上部ポンプ22、下部ポンプ12によって給水圧力を増圧させていることが明らかであるから、本件発明1の対象である「中高層建物用増圧給水システム」に相当する。

したがって、本件発明1と引用発明1の両者は、
「中高層建物の各階床に対する給水を、低階床では低階床側給水管により行ない、中高階床では増圧ポンプの吐出側に接続された中高階床側給水管により行なうようにした給水システムにおいて、上記増圧ポンプの吸込側を上記低階床側給水管に接続して給水を行なうように構成した中高層建物用増圧給水システム。」の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1?1]
低階床に対する給水について、本件発明1は、水道用配水管に直結された低階床側給水管により行なうのに対して、引用発明1は、下部受水槽の水が下部ポンプ12を用いて供給される下部送水管13により行なう点。

(4) 判断
甲第2号証の記載事項(1-2)に、「下部のポンプについては、ほぼ同様に、最上階高さよりも10m程高い揚程を必要とし」と記載されていることを踏まえ、また、建物の1階分の高さを概ね3mと見積もると、引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力は、建物が例えば6階建てであれ、7階建て以上であれ、1階から3階までの揚水能力である、概ね20m程度で十分であることは甲第2号証の記載から自明である。
すなわち、引用発明1において、1階から3階まで給水するために必要とされる下部ポンプ12の揚水能力は、概ね20(約3×3(3階の天井までの高さ)+10)m程度の揚水能力で済む。また、引用発明1において、上部ポンプ22等のポンプによって更に給水が増圧されるから、建物が例えば6階建てであれ、7階建て以上であれ、各階に給水するために必要な下部ポンプ12の揚水能力は、1階から3階までの揚水能力である概ね20m程度で十分である。このことは、甲第2号証の記載事項(1-3)の「低い揚程のポンプを使用し」という記載からも明らかである。

一方、甲第3号証の記載事項(2-1)には、
「1. はじめに
近年,受水槽の管理不徹底による公衆衛生の問題や,受水槽空間の有効利用から,3階建て以上の建物への直接給水が検討されている。5階直結を行なうには0.3MPa(3.1kgf/cm^(2))以上の圧力が必要である。しかし,給水区域内での地盤高等により既存の配水管圧力で直結給水できない地域や6階以上の集合住宅で直結給水を実施する場合, これを解決するために給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置が必要となる。」と記載され、
また、同号証の記載事項(2-5)には、
「住宅は高台に位置しているため,水道本管圧力は0.3MPa(3.1kgf/cm^(2))以下であり,給水区域内では数少ない,ブースタ装置が必要な地域である。」と記載されている。

甲第3号証のこれらの記載からみて、水道本管圧力は、約3kgf/cm^(2))(揚水能力として、約30m程度)であり、既存の配水管圧力で直結給水できる地域に建てられた建物の3階程度までは、水道本管圧力を利用すれば、給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置を必要とすることなく、水道管から各階に直結給水が常時可能であること、及び受水槽式の給水方式には、衛生面等の問題があることや、受水槽空間を有効利用すべく、受水槽式の給水方式を直結給水方式に変更することが給水技術の流れであることは、本件特許の出願前において当業者の技術常識というべきである。
そして、この項の冒頭で述べたように、引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力は、建物が例えば6階建てであれ、7階建て以上であれ、1階から3階までの揚水能力である、概ね20m程度であり、水道本管圧力(約30m程度)の揚水能力は、引用発明1における「下部ポンプ12」のものと同等以上である。

してみると、上記引用発明1が記載された甲第2号証に上記技術常識を有する当業者が接したとき、引用発明1の下部受水槽と下部ポンプ12による給水に代えて、常時水道本管の給水圧力のみを利用した給水に変更することは当業者が容易に想到し得る事項である。
換言すると、1階から3階(低階床)に対する給水手段として、下部受水槽の水が下部ポンプ12を用いて供給される下部送水管13により行なう方式に代えて、本件発明1のように、水道用配水管に直結された低階床側給水管により行なう方式に変更することは甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得る事項である。

したがって、相違点1?1に係る本件発明1の構成要件は、甲第2号証に記載された発明及び甲第第3号証に記載された技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
また、本件発明1によってもたらされる効果は、甲第2、3号証の記載から当業者が予測し得る程度のものである。
よって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件発明1の検討のまとめ
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 本件発明2について
(1)本件発明2
本件発明2は、「第4 本件特許発明」の項に記載したとおりである。

(2)甲第2号証に記載された発明
ア 記載事項(1-1)から「ビル等の高所への給水システム」を読み取ることができる。
そして、第3図には、6階分の各階床に給水することが図示されているが、記載事項(1-3)の「数階毎にポンプ逆止弁及び内部に液体を収納する圧力容器とを配置し」等の記載からみて、図示はされていないが、上記給水システムが対象とするビルが7階建て以上のビルも想定していることは明らかである。


(ア)第3図は、数階毎にポンプを設置した、ビル等の高所への給水システムの実施例を示す図であり、具体的には、上記ポンプが3階毎に設置された給水システムが第3図に図示されており、第3図の記載から、1階から3階では下部送水管13により給水を行なうこと、及び4階から6階では上部送水管23により給水を行なうことを読み取ることができる。
(イ)第3図の記載から、下部受水槽の水が下部ポンプ12を用いて供給される下部送水管13、及び上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23を読み取ることができる。
(ウ)「ア」の項で述べたように、上記給水システムが対象とするビルが7階建て以上のビルも想定しており、7階建て、8階建て、9階建て以上の階数に応じて、7階では、7階から8階では、7階から9階では、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吐出側に接続された送水管により給水を行なうことを読み取ることができる。なお、上記「7階では、7階から8階では、7階から9階では」を、これ以降、7階から所定の階ではと呼称する。
(エ) したがって、ビル等の各階に対する給水を、1階から3階では下部受水槽の水が下部ポンブ12を用いて供給される下部送水管13により行ない、4階から6階では上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23により行ない、7階から所定の階では上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吐出側に接続された送水管により給水を行なう給水システムを読み取ることができる。

ウ また、第3図の記載から、上部ポンプ22の吸込側を下部送水管13に接続して給水を行なうように構成したことを読み取ることができる。

エ 第3図の記載から、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吸込側を上部送水管23に接続して給水を行なうように構成したことを読み取ることができる。

よって、記載事項(1-1)ないし記載事項(1-6)及び図面からみて、甲第2号証には、
「ビル等の各階に対する給水を、1階から3階では下部受水槽の水が下部ポンブ12を用いて供給される下部送水管13により行ない、4階から6階では上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23により行ない、7階から所定の階では上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吐出側に接続された送水管により行なう給水システムにおいて、上記上部ポンプ22の吸込側を上記下部送水管13に接続して給水を行ない、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吸込側を上記上部送水管23に接続して給水を行なうように構成したビル等の高所への給水システム。」の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。

(3) 対比
本件発明2と引用発明2とを比較すると、
ア 引用発明2の「ビル等」、「各階」は、本件発明2の「中高層建物」、「各階床」に、それぞれ相当する。

イ 引用発明2は、ビル等の各階に対する給水を、1階から3階では下部送水管13により行ない、4階から6階では上部送水管23により行ない、7階から所定の階では上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吐出側に接続された送水管により行なうから、ビル等の各階は、本件発明2のように、「下側から順次、少なくとも3群の階床群に分割」されているといえる。

ウ 引用発明2の「1階から3階」は本件発明2の「下階床群に属する階床」に相当し、以下同様に、「4階から6階」及び「7階から所定の階」は「下階床群以外の階床群に属する階床」に、「行なう」は「行なうようにした」に、それぞれ相当する。

エ 引用発明2の「下部送水管13」は、本件発明2の「下階床群に属する階床」に相当する1階から3階に給水を行なう配管であるから、「下階床群用給水管」に相当する。引用発明2の「上部送水管23」、「送水管」は、本件発明2の「下階床群以外の階床群に属する階床」に相当する4階から6階、7階から所定の階に給水を行なう配管であるから、いずれも本件発明2の「高階床群用給水管」に相当する。

オ 引用発明2の「給水を、1階から3階では、下部受水槽の水が下部ポンブ12を用いて供給される下部送水管13により行ない」と本件発明2の「下階床群に属する階床に対する給水は水道用配水管に直結された下階床用給水管により行ない」とは、下階床群に属する階床に対する給水は下階床用給水管により行なう点で共通する。

カ 引用発明2の「上部ポンプ22」は4階から6階に給水し、「ポンプ」は7階から所定の階に給水するから、引用発明2の「上部ポンプ22」及び「ポンプ」は、本件発明2の「各階床群毎に、夫々専用の増圧ポンプ」に相当する。
したがって、引用発明2の「4階から6階では上部ポンプ22の吐出側に接続された上部送水管23により行ない、7階から所定の階では上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吐出側に接続された送水管により行なう」は、本件発明2の「下階床群以外の階床群に属する階床に対する給水は、各階床群毎に、夫々専用の増圧ポンプの吐出側に接続された夫々の高階床群用給水管により行なうようにした」に相当する。

キ 引用発明2の「上記上部ポンプ22の吸込側を上記下部送水管13に接続して給水を行ない、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプの吸込側を上記上部送水管23に接続して給水を行なうように構成した」は、本件発明2の「上記専用の増圧ポンプの吸込側を、順次、その階床群の下階床群側の給水管に夫々接続して給水を行なうように構成したこと」に相当する。

ク 引用発明2の対象である「ビル等の高所への給水システム」は、上部ポンプ22、下部ポンプ12、上部ポンプ22より上方に設置されるポンプによって給水圧力を増圧させていることが明らかであるから、本件発明2の対象である「中高層建物用増圧給水システム」に相当する。

したがって、本件発明2と引用発明2の両者は、
「中高層建物の各階床を、下側から順次、少なくとも3群の階床群に分割し、下階床群に属する階床に対する給水は下階床群用給水管により行ない、下階床群以外の階床群に属する階床に対する給水は、各階床群毎に、夫々専用の増圧ポンプの吐出側に接続された夫々の高階床群用給水管により行なうようにした給水システムにおいて、上記専用の増圧ポンプの吸込側を、順次、その階床群の下階床群側の給水管に夫々接続して給水を行なうように構成した中高層建物用増圧給水システム。」の点で一致し、次の点で相違する。
[相違点2-1]
下階床群に属する階床に対する給水について、本件発明2は、水道用配水管に直結された下階床群用給水管により行なうのに対して、引用発明2は、下部受水槽の水が下部ポンブ12を用いて供給される下部送水管13により行なう点。

(4) 判断
甲第2号証の記載事項(1-2)に、「下部のポンプについては、ほぼ同様に、最上階高さよりも10m程高い揚程を必要とし」と記載されていることを踏まえ、また、建物の1階分の高さを概ね3mと見積もると、引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力は、建物が例えば6階建てであれ、7階建て以上であれ、1階から3階までの揚水能力である、概ね20m程度で十分であることは甲第2号証の記載から自明である。
すなわち、引用発明2において、1階から3階まで給水するために必要とされる下部ポンプ12の揚水能力は、概ね20(約3×3(3階の天井までの高さ)+10)m程度の揚水能力で済む。また、引用発明2において、上部ポンプ22等のポンプによって更に給水が増圧されるから、建物が例えば6階建てであれ、7階建て以上であれ、各階に給水するために必要な下部ポンプ12の揚水能力は、1階から3階までの揚水能力である概ね20m程度で十分である。このことは、甲第2号証の記載事項(1-3)の「低い揚程のポンプを使用し」という記載からも明らかである。

一方、甲第3号証の記載事項(2-1)には、
「1. はじめに
近年,受水槽の管理不徹底による公衆衛生の問題や,受水槽空間の有効利用から,3階建て以上の建物への直接給水が検討されている。5階直結を行なうには0.3MPa(3.1kgf/cm^(2))以上の圧力が必要である。しかし,給水区域内での地盤高等により既存の配水管圧力で直結給水できない地域や6階以上の集合住宅で直結給水を実施する場合, これを解決するために給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置が必要となる。」と記載され、
また、同号証の記載事項(2-5)には、
「住宅は高台に位置しているため,水道本管圧力は0.3MPa(3.1kgf/cm^(2))以下であり,給水区域内では数少ない,ブースタ装置が必要な地域である。」と記載されている。

甲第3号証のこれらの記載からみて、水道本管圧力は、約3kgf/cm^(2))(揚水能力として、約30m程度)であり、既存の配水管圧力で直結給水できる地域に建てられた建物の3階程度までは、水道本管圧力を利用すれば、給水管内圧力を加圧,給水するブースタ装置を必要とすることなく、水道管から各階に直結給水が常時可能であること、及び受水槽式の給水方式には、衛生面等の問題があることや、受水槽空間を有効利用すべく、受水槽式の給水方式を直結給水方式に変更することが給水技術の流れであることは、本件特許の出願前において当業者の技術常識というべきである。
そして、この項の冒頭で述べたように、引用発明1の下部ポンプ12の揚水能力は、建物が例えば6階建てであれ、7階建て以上であれ、1階から3階までの揚水能力である、概ね20m程度であり、水道本管圧力(約30m程度)の揚水能力は、引用発明2における「下部ポンプ12」のものと同等以上である。

してみると、上記引用発明2が記載された甲第2号証に上記技術常識を有する当業者が接したとき、引用発明2の下部受水槽と下部ポンプ12による給水に代えて、常時水道本管の給水圧力のみを利用した給水に変更することは当業者が容易に想到し得る事項である。
換言すると、1階から3階(下階床群に属する階床)に対する給水手段として、下部受水槽の水が下部ポンブ12を用いて供給される下部送水管13により行なう方式に代えて、本件発明2のように、水道用配水管に直結された下階床群用給水管により行なう方式に変更することは甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得る事項である。

したがって、相違点2-1に係る本件発明2の構成要件は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術常識に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
また、本件発明2によってもたらされる効果は、甲第2、3号証の記載から当業者が予測し得る程度のものである。
よって、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)本件発明2の検討のまとめ
したがって、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1及び本件発明2についての特許は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2008-12-17 
結審通知日 2008-12-19 
審決日 2009-01-15 
出願番号 特願平6-132265
審決分類 P 1 113・ 121- Z (E03B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 河本 明彦  
特許庁審判長 江塚 政弘
特許庁審判官 森口 正治
飯野 茂
登録日 2002-04-26 
登録番号 特許第3301860号(P3301860)
発明の名称 中高層建物用増圧給水システム  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  
代理人 松村 貴司  

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