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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1208565
審判番号 不服2006-9903  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-05-15 
確定日 2009-12-09 
事件の表示 平成11年特許願第237788号「電子写真用トナー、トナー製造方法と製造装置、トナー容器及び画像形成方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月16日出願公開、特開2000-137351〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年 8月25日(優先権主張 平成10年8月27日)の出願であって、平成18年4月10日付けでなされた拒絶査定に対して、同年5月15日付けで審判請求がなされたもので、当審において、平成20年7月23日付けの拒絶理由通知に対して、同年9月24日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに、同年11月5日付けの拒絶理由通知に対して、平成21年1月6日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものであって、「電子写真用トナー、トナー製造方法と製造装置、トナー容器及び画像形成方法」に関するものと認める。


第2 当審の拒絶理由通知の概要
1.平成20年7月23日付けの拒絶理由通知
当審における平成20年7月23日付けの拒絶理由通知には、次の指摘事項が含まれている。なお、下線は審決で付した。

「理由A
この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備であると認められるため、特許法第36条第4項、及び同条第6項第1号並びに同項第2号に規定する要件を満たしていない。

1.「メッシュ残留物」の意味(定義)(略)
2.「メッシュ残留物」の円形度を測る対象 (略)
3.「メッシュ残留物」の円形度の測定方法 (略)
4.「円形度が0.94?0.96の範囲」の意味 (略)
5.流動性付与剤の使用 (略)
6.残留物を得るための篩い操作の条件
請求項1の「該トナーを500メッシュで篩ったあとのメッシュ残留物の円形度が0.94?0.96の範囲であり、なおかつ該トナー100gを500メッシュで篩った後の残留物の重量が10mg以下であること」では、「500メッシュで篩った後のメッシュ残留物」の円形度及び重量を測定するものであるところ、残留物を得るための篩い操作の条件が明確にされている必要があるが、請求項1では、篩い操作の条件は、500メッシュで篩った(なお、重量測定ではトナー100gを篩うとあるが、円形度測定では篩うトナー重量は不明である)というだけであり不明確である。
また、明細書の【0020】をみると、特定の超音波振動篩い器、特定の500メッシュを用い、振動周波数36kHzで振動させることにより、メッシュ上の残留物を捕集する旨が記載されているが、この記載には、振動強さ、篩い時間など、篩い操作の重要な条件が記載されておらず、それら条件によっては、「メッシュ残留物」(「トナー凝集物」「粗大粒子」等)の捕集量や捕集物の内容に違いが生じることは、トナー凝集物が「金網通過時に崩れてトナー粒子にもどる」(【0018】)性質のものであることからも、当然に予想されることである。
したがって、篩い操作の条件が不明確であるから、結局、請求項1の「該トナーを500メッシュで篩ったあとのメッシュ残留物の円形度が0.94?0.96の範囲であり、なおかつ該トナー100gを500メッシュで篩った後の残留物の重量が10mg以下であること」を特定することはできない。
7.(以下略)」

2.平成20年11月5日付けの拒絶理由通知
同じく当審における平成20年11月5日付けの拒絶理由通知には、次の指摘事項が含まれている。なお、下線は審決で付した。
「 理由1.
本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

・・・(中略)・・・
そして、本願の請求項1に係る発明は、上記のような事実に基づいて作成されたものと思われるが、「トナーを500メッシュで篩ったあとのメッシュ残留物の平均円形度が0.94?0.96の範囲」との発明特定事項は、『トナー母粒子(外添前)自体の平均円形度はかなり高いが、流動化付与剤がトナー粒子中へ埋没してないために、全体としての平均円形度が上記範囲に入っているもの』(これが本来、特定すべきトナーである)だけでなく、『トナー母粒子(外添前)自体の平均円形度が比較的小さく、流動化付与剤がトナー粒子中へ埋没しているために、全体としての平均円形度が上記範囲に入っているもの』(そのようなトナーについては効果が確認されていない)をも含む概念である。
また、請求項1には「トナー100gを500メッシュで篩った後の残留物の重量が10mg以下である」という凝集性の規定があるが、これにより、『トナー母粒子(外添前)自体の平均円形度はかなり高いが、流動化付与剤がトナー粒子中へ埋没してないために、全体としての平均円形度が上記範囲に入っているもの』だけに限定するものということもできない(そもそも、後でみるように、凝集性の測定条件が不明確で、凝集性の限定内容が明確でない。)。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張又は一般化することはできない。
請求項1を引用する他の請求項に係る発明についても、同様である。
よって、本件出願は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではない。

理由2.
本件出願の請求項1?11に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物:
1.特開平8-320591号公報(平成16年11月22日付け(受付日)の刊行物等提出書の刊行物5)
2.特開平8-227171号公報(同刊行物6)
3.特開平10-240040号公報(同刊行物7)
4.特開平6-118733号公報(同刊行物14)
5.特開平6-194950号公報(同刊行物15)
6.特開平6-214459号公報(同刊行物16)
7.特公昭63-62740号公報(同刊行物17)
8.特開平3-174164号公報(同刊行物18)
9.特開平6-186776号公報(同刊行物19)
10.特開平6-262095号公報(同刊行物20)
11.特開平6-262096号公報(同刊行物21)
12.特開平10-207164号公報(原審における引用例1)
なお、刊行物1?11は、先の当審の拒絶理由通知で示したものである。

(備考)
1.刊行物12記載の発明
刊行物12の特許請求の範囲、【0039】【0040】【0051】【実施例】などの記載によれば、刊行物12には、
「少なくとも結着樹脂と着色剤、帯電制御剤を主成分とする電子写真用トナーであって、流動性付与剤を外添してなり、
トナーの凝集度(パウダーテスター(ホソカワミクロン社製)を用い、目開き75μm、45μm及び22μmの篩をこの順に上から並べ、目開き75μmの篩に2gのトナーを投入して、振幅1mmで30秒間振動を与え、振動後各篩上のトナー重量を測定、それぞれに0.5、0.3及び0.1の重みをかけ、加算して百分率で算出する。)が5?25%であり、転写時のトナーのチリや虫食いの発生を防止するようにした、
フルカラー電子写真用トナー。」
の発明(以下、「刊行物12記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
・・・(中略)・・・
(相違点1について)
本願発明1では「トナー100gを500メッシュで篩った後の残留物の重量が10mg以下である」と規定するが、篩い操作の条件が不明確である。当審の先の拒絶理由通知に対し、請求人は意見書で反論するが、刊行物12記載の発明のように、篩いの振幅と振動時間が重要な要素であって、これらを明記していない本願では、篩い操作の条件が十分とはいえない。残留物といっても、堅く凝集しているものから緩やかに凝集しているものまで、凝集の程度は様々であるというべきであり、篩いの振幅と振動時間によっては、緩やかな凝集物は崩壊してしまうから、そうであっては、測定の対象物が特定されないことになってしまう。
・・・(中略)・・・
(相違点2について)(以下略)」


第3 手続補正書、意見書の内容
これに対し、請求人より提出された手続補正書及び意見書には、以下の内容が含まれる。なお、下線は審決で付した。

1.補正された請求項1の記載
平成21年1月6日付けの手続補正書により補正された請求項1の記載は 次のとおりである。
「【請求項1】少なくとも結着樹脂と着色剤、帯電制御剤を主成分とする電子写真用トナーであって、ジェット式粉砕機で粗粉砕トナー原料の1次粉砕を行ない、気流分級装置に連結したローター式粉砕機を使用して表面処理したトナー原料粒子に流動性付与剤を外添してなり、該トナーを500メッシュで篩ったあとのメッシュ残留物の平均円形度が0.94?0.96の範囲であり、なおかつ該トナー100gを500メッシュで篩った後の残留物の重量が10mg以下であることを特徴とするフルカラー電子写真用トナー。」

2.意見書の内容
(1)平成20年9月24日付けの意見書
平成20年9月24日付けの意見書には以下の記載がある。

「II.理由A(特許法36条4項、6項1号、6項2号の規定違背)について
1[「メッシュ残留物」の意味(定義)]について
本件発明でいう「メッシュ残留物」とは、文字通り、メッシュ上に残った全てのものであります。そして、その大部分をトナー凝集物が占めており、その他には粗大粒子(後述するが、一度200メッシュで異物除去工程を経たあとなので、粗大粒子の割合は少ないものとなっている)と流動性付与剤の粗大粒子や凝集物が若干含まれます。トナー凝集物と粗大粒子の意味するところは、審判長殿のご推察どおりでありますが、更に詳しく言うなら、トナー凝集物とは、トナーの凝集物であって、500メッシュの場合その凝集がとけずに(200メッシュの場合は凝集がとけることがある。)メッシュを通過しえないもの、粗大粒子とは、篩いかけによってもメッシュを通過しない程度の粗大なトナー粒子のことであります。
ご参考までに円型振動ふるいについての説明を参考資料1として提出します。
・・・(中略)・・・
6[残留物を得るための篩い操作の条件]について
円形度測定でも、篩うトナー重量は、重量測定のときと同様、トナー100gであります(変更する理由がありません)。篩の振動強さとは、超音波振動篩い器への供給電力のことでありましょうが、動力は0.4kWであります。篩時間は1分間以上の任意のところ(目視で変化がなくなるところ)で終了します。むしろ、篩い条件のポイントは、当該篩のスケールに対して100gというのは少量であることにあり、通常、1分間もかからずに、すぐに通過するものは通過してしまうことから、そのように設定しています。当業者も同様にしていると思います。・・・(中略)・・・
7[異物除去工程と本願発明の関係]について
・・・(中略)・・・
500メッシュのように厳しい条件の場合、それ自体の流動性の悪さから、凝集状態が崩れて金網を通過するということはなく、後々(保存時、画像形成時)凝集物を形成しやすいものを確実に特定することができるようになります。これが500メッシュに拘る理由であります。」

(2)平成21年1月6日付けの意見書
また、平成21年1月6日付けの意見書で、請求人は以下の主張をしている。
「(3)本件発明の目的(解決すべき課題)、及び、作用効果
そして、このような本件発明は、本願(本件)発明のトナーは、(I)「ジェットミル粉砕機で粉砕」のみ(円形度不足を齎し勝ち)でも、「ターボミル処理」のみ(過度の円形度を齎し勝ち)でもなく、かつ、「ターボミル処理」が先でその後「ジェットミル粉砕機処理」でなく、例えば「ジェットミル粉砕機で粉砕した」後にさらに「ターボミルで表面処理」を行なって平均円形度を調整したトナー原料粒子(母粒子)【0039】(つまり、本発明は、気流分級装置に連結したローター式粉砕機を使用して表面処理したトナー原料粒子(母粒子))を用い、さらに、(II)外添剤を特徴のある方法で混合しているため外添剤がトナーに接着し、かつトナー内にめり込まないため、「篩った後の残留物の平均円形度は0.93?0.97」であって、かつ、「該トナー100gを500メッシュで篩った後の残留物の重量が10mg以下」であることにより、転写時に発生する局所的な転写不良(虫喰い、ホタル)や、トナーのチリによる画像の再現性不良が発生しないものであります。
II.理由1(特許法36条4項、6項1号の規定違背)について
叙上のように、上記理由1の拒絶理由の要点は、[「トナーを500メッシュで篩ったあとのメッシュ残留物の平均円形度が0.94?0.96の範囲」との発明特定事項は、『トナー母粒子(外添前)自体の平均円形度はかなり高いが、流動化付与剤がトナー粒子中へ埋没してないために、全体としての平均円形度が上記範囲に入っているもの』(これが本来、特定すべきトナーである)だけでなく、『トナー母粒子(外添前)自体の平均円形度が比較的小さく、流動化付与剤がトナー粒子中へ埋没しているために、全体としての平均円形度が上記範囲に入っているもの』(そのようなトナーについては効果が確認されていない)をも含む概念である。]とのご指摘にあると思料されますが、請求人(出願人)は、上記理由1の特許法第36条関係の拒絶理由の内容の要点を勘案して、前記のような特許請求の範囲の補正を行いましたので、これにより、当該拒絶理由はもはや解消しているものと確信します。
III.理由2(特許法29条2項;「進歩性欠如」)について
(III-2)本件発明が新規性進歩性を有し特許さるべき理由の詳細
・・・(中略)・・・
(7)また第2に、・・・(中略)・・・拒絶理由では、『本願発明における「篩い操作」の条件が不明確』であるので、「残留物10mg以下」の意義不明確との旨のご指摘を受けておりますが、先の平成20年9月24日意見書で釈明申しあげましたとおり、残留物を得るための篩い操作の条件は、円形度測定でも、篩うトナー重量は、重量測定のときと同様、トナー100gであります(変更する理由がありません)。篩の振動強さとしての超音波振動篩い器への供給電力0.4kWであります。篩時間は1分間以上の任意のところ(目視で変化がなくなるところ)で終了します。変化がなくなるまで篩うのは当然であります。むしろ、篩い条件のポイントは、当該篩のスケールに対して100gというのは少量であることにあり、通常、1分間もかからずに、すぐに通過するものは通過してしまうことから、そのように設定しています。当業者も同様に篩い通過物がなくなるまで篩い掛けしていると思います。」


第4 当審の判断
「トナー100gを500メッシュで篩った後の残留物」(請求項1)を得るための篩い操作の条件について、篩いの振幅と振動時間が、篩上に残留するかどうかに関する重要な要素であることは明らかである。
例えば、平成20年11月5日付けの拒絶理由通知で示した刊行物12(特開平10-207164号公報)では、篩を用いてトナーの凝集度を測定する際に、「振幅1mmで30秒間振動を与え」と、篩いの振幅と振動時間を明記している。
つまり、残留物といっても、堅く凝集しているものから緩やかに凝集しているものまで、凝集の程度は様々であるというべきであり、篩い器と振動周波数が特定されたとしても、篩いの振幅と振動時間によっては、緩やかな凝集物は崩壊して篩を通過してしまうから、そうであっては、測定の対象物が特定されないことになってしまうのである。
この点で、本願は、明細書において、「【0020】・・・(中略)・・・ また、メッシュ上の残留物の捕集は、超音波振動篩い器(TMR-50-1S型、徳寿工作所製)を使用し、500メッシュ(目開き25μm、線径25μm、材質SUS316)を具備した該機器を振動周波数36kHzで振動させることによって行なう。 残留物とは、上述のトナー凝集物や粗大粒子等を意味する。」という記載があり、篩い器と振動周波数が特定されているが、篩いの振幅と振動時間が特定されていないから、篩い操作の条件が十分に明記されているとはいえない。
また、請求人は、上記「第3 2.(1)」の参考資料1(これは、超音波振動篩い器(TMR-50-1S型、徳寿工作所製)のカタログと思われる。)を提出しているが、これには、篩いの振幅と振動時間を含めた篩い条件が記載されていない。
しかも、篩いの振幅と振動時間を含めた篩い条件が、当業者にとって自明であるということもできない。

特に、本願の請求項1は、「トナー原料粒子に流動性付与剤を外添してなり、該トナーを500メッシュで篩ったあとのメッシュ残留物の平均円形度が0.94?0.96の範囲であり、なおかつ該トナー100gを500メッシュで篩った後の残留物の重量が10mg以下であること」と規定しており、トナーのわずか0.01%が通過するか残留するかの違いだけで、100g当たり10mgの差が出てくるものであり(また、有効数字を考慮すると、1mg、すなわち、0.001%レベルの差が問題になってくる。)、しかも、この残留物の重量及び平均円形度が、本願発明における最重要の発明特定事項であるから、当業者が発明を特定できる程度にまで、精確に篩い条件を特定しておく必要があるというべきであるが、この点が本願では十分とはいえない。

請求人は、「篩の振動強さとしての超音波振動篩い器への供給電力0.4kWであります。篩時間は1分間以上の任意のところ(目視で変化がなくなるところ)で終了します。変化がなくなるまで篩うのは当然であります。むしろ、篩い条件のポイントは、当該篩のスケールに対して100gというのは少量であることにあり、通常、1分間もかからずに、すぐに通過するものは通過してしまうことから、そのように設定しています。当業者も同様に篩い通過物がなくなるまで篩い掛けしていると思います。」(平成20年9月24日付け意見書、及び平成21年1月6日付け意見書)、「500メッシュのように厳しい条件の場合、それ自体の流動性の悪さから、凝集状態が崩れて金網を通過するということはなく、後々(保存時、画像形成時)凝集物を形成しやすいものを確実に特定することができるようになります。これが500メッシュに拘る理由であります。」(平成20年9月24日付け意見書)と主張するが、
本願明細書には、「円形度が高くなると凝集物が生成しやすい傾向がある」(【0018】)の記載や、「混合時に掛かるストレスが高すぎる場合、混合機内部の発熱によりトナー表面が溶融して、その結果球形化現象や流動性付与剤のトナー粒子中への埋没が起きてしまうことが判った。特にカラートナーの場合はイエロー、マゼンタ、シアンの基本色を重ね合わせて色調を再現させていることより、結着樹脂も低分子量成分が多く含まれる比較的低軟化タイプのものが使用されるのが一般的であるが、該樹脂を使用した場合に混合機内部における球形化現象はより顕著であり、すなわちトナーの円形度が高くなることが判った。」(【0021】)との記載があり、さらに、実施例1の平均円形度0.96、比較例1(ストレスが高すぎる場合)の平均円形度0.98が示されていることを考えると、
請求項1に規定する「メッシュ残留物の平均円形度が0.94?0.96の範囲」というのは、トナーの円形度の点で、ほぼ良好な範囲にあるものといえる。
そして、そのようなほぼ良好な円形度にあるトナーが500メッシュ(25μm)の篩に残留したということは、流動性付与剤のトナー原料粒子(母粒子)表面への付着には様々な程度のものがあって、その中には、付着が若干少ないために篩上に残留したものや、付着がぎりぎり足りたのでかろうじて残留せず通過したものもあろうことを考慮すると、篩いの条件を少し変えるだけで、残留したトナー粒子が少なからず篩を通過したり、通過したトナー粒子が残留したりする可能性が高いということでもある。
そうすると、篩い条件を精確に特定しておく必要があるというべきである。
請求人は、「篩い条件のポイントは、当該篩のスケールに対して100gというのは少量であることにあり、通常、1分間もかからずに、すぐに通過するものは通過してしまう」というが、例えば10分間、振動を与えたときに、1分超?10分の間では全く篩を通過するものがなかった等、具体的データを示していない以上、請求人の主張をそのまま信じることができない。

また、本願の実施例のもの(特定の条件で製造したもの)では「500メッシュのように厳しい条件の場合、それ自体の流動性の悪さから、凝集状態が崩れて金網を通過するということはなく」(請求人の上記主張)といえると仮にしても、本願の実施例以外のものでも、『本願の請求項1に係る発明に含まれる可能性がある、緩やかな凝集状態のもの』が当然にあり得るのであるから、篩い条件の違いによって、本願発明に含まれたり、含まれないという差が生じてはならず、篩い操作の条件が十分に把握される必要がある。
しかし、本願では、篩い操作の条件が十分に示されているとも、その条件が当業者に自明であるともいえず、本願発明を正確に特定することができないのである。

以上のとおり、本願の明細書等を参照しても、篩い操作の条件が不明確であるから、本願の請求項1の「トナー原料粒子に流動性付与剤を外添してなり、該トナーを500メッシュで篩ったあとのメッシュ残留物の平均円形度が0.94?0.96の範囲であり、なおかつ該トナー100gを500メッシュで篩った後の残留物の重量が10mg以下である」という規定における「残留物」を特定することができないので、請求項1に係る発明は不明確である。

よって、平成20年7月23日付けで通知した拒絶理由の「理由A」「6.残留物を得るための篩い操作の条件」で指摘した不備については、依然、解消していない。


第5 むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は明確でないから、特許法第36条第6号第2号に規定する要件を満たしていないので、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-09-28 
結審通知日 2009-10-09 
審決日 2009-10-21 
出願番号 特願平11-237788
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (G03G)
P 1 8・ 537- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 芳男  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 大森 伸一
伏見 隆夫
発明の名称 電子写真用トナー、トナー製造方法と製造装置、トナー容器及び画像形成方法  
代理人 武井 秀彦  

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