ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
不服200520859 | 審決 | 特許 |
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 A61K |
---|---|
管理番号 | 1209057 |
審判番号 | 不服2005-20524 |
総通号数 | 122 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2005-10-24 |
確定日 | 2009-12-24 |
事件の表示 | 特願2002-558977「少なくとも1つのヘテロポリマーと少なくとも1つのゲル化剤を含有する化粧品用組成物及びその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月 1日国際公開、WO02/58643、平成16年 6月17日国内公表、特表2004-517907〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成13年12月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2000年12月12日,国際事務局)を国際出願日とする出願であって、拒絶理由通知に応答して平成17年4月12日受付けで意見書が提出された(手続補正書の提出はなかった)が、平成17年7月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日受付けで手続補正がなされ、更に同年11月24日受付けで手続補正がなされたものであり、その後、前置報告書を用いた審尋がなされ、平成20年11月10日受付の回答書と平成20年11月11日受付け(平成20年11月10日付け)の手続補足書が提出されたものである。 2.平成17年11月24日受付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成17年11月24日受付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)平成17年10月24日受付けの手続補正と平成17年11月24日受付けの手続補正は、いずれも特許法第17条の2第1項第4号において準用する拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求の日から30日以内にするときになされたものであるところ、そのような場合において特許請求の範囲についてする補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下、単に「平成18年改正前」ともいう。)の特許法第17条の2第4項で同項第1号乃至第4号に掲げる事項(請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明)を目的とするものに限るとされているので、その規定を満たすか検討する。 ところで、ある補正が平成18年改正前特許法第17条の2第4項及び第5項の規定に適合するか否かについて判断する場合には、当該補正よりも前の時点での特許請求の範囲を基準にしなければならないところ、その基準となるのは最後に適法に補正された特許請求の範囲であり、上記判断をする場合において、それ以前にされた複数の補正ついてその適否がいまだ判断されていないときには、補正のされた順番に従って、補正の適否について順次判断すべきことになる(平成17年(行ケ)第10698号平成18年9月26日言渡しの判例を参照)。 そして、平成17年10月24日受付けの手続補正はいまだ判断されていない。 (2)そこで、先ず、平成17年10月24日受付け手続補正について検討する。 この手続補正により、補正前(平成14年8月12日受付けの国内書面(明細書)参照)の特許請求の範囲の範囲の請求項2?124は削除され、請求項1はそのまま補正後の特許請求の範囲の請求項1とされたものである。 してみると、該補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号の特許請求の範囲の削除を目的とするものに該当するから、適法になされたものである。 (3)次に、平成17年11月24日受付けの手続補正について検討する。 この手続補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 (a)補正前(適法になされた平成17年10月24日受付けの手続補正書を参照)の 「【請求項1】 (i)少なくとも1つのヘテロ原子を有する少なくとも1つの炭化水素ベースの繰り返し単位を含むポリマー骨格を有する少なくとも1つの構造化ポリマ-;及び (ii)少なくとも1つのゲル化剤、 を含む少なくとも1つの液状脂肪相を含有し、 但し、前記少なくとも1つのゲル化剤が、シリカ、12-ヒドロキシステアリン酸メチル、12-ヒドロキシステアリン酸、又はステアラルコニウムヘクトライトではない組成物。」から、 (b)補正後の 「【請求項1】 (i)次の式(I): [上式中: - nは、前記少なくとも1つのポリアミドポリマー中に存在するエステル基の数が、前記少なくとも1つのポリアミドポリマーに含有される全エステル基と全アミドの基の全数の10%?50%の範囲になる、アミド単位の数を示す整数であり; - R^(1)は同一又は異なっており、少なくとも4つの炭素原子を有するアルキル基及び少なくとも4つの炭素原子を有するアルケニル基からそれぞれ選択され; - R^(2)は同一又は異なっており、C_(4)?C_(42)アルキレン基からそれぞれ選択され、但し、全R^(2)の少なくとも50%はC_(30)?C_(42)アルキレン基から選択され; - R^(3)は同一又は異なっており、C_(2)?C_(36)脂肪族基、及びポリオキシアルキレン基からそれぞれ選択される;及び - R^(4)は同一又は異なっており、それぞれ、水素原子、C_(1)?C_(10)アルキル基、及びR^(3)と他のR^(4)から選択される少なくとも1つの基への直接結合であって、該少なくとも1つの基が他のR^(4)から選択される場合は、R^(3)とR^(4)の両方が結合する窒素原子がR^(4)-N-R^(3)により部分的に定義される複素環構造の一部を形成するものであり、但し全R^(4)の少なくとも50%が水素原子から選択される] のポリアミドポリマーから選択される少なくとも1つの構造化ポリマー;及び (ii)変性していてもよいクレー類、部分的又は全体的に架橋したエラストマー性ポリオルガノシロキサン、飽和又は不飽和のアルキル鎖で置換され、サッカライド当たり1?6のヒドロキシル基を有するガラクトマンナン、エチルセルロース、シリコーンガム及びブロックコポリマーから選択される少なくとも1つのゲル化剤、 を含む少なくとも1つの液状脂肪相を含有し、前記少なくとも1つのゲル化剤がステアラルコニウムヘクトライトではない無水化粧品組成物。」 と補正され、 更に、請求項2?50が新たに追加されたものである。 してみると、請求項数の増加を伴う平成17年11月24日受付けの手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号乃至第4号に掲げる事項(請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明)のいずれを目的とするものにも該当しない。 (4)むすび 以上のとおり、平成17年11月24日受付けの手続補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明について 平成17年11月24日受付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1にかかる発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成17年10月24日受付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(「前記2.(3)」の(a)の摘示を参照)。 (1)引用例 原査定の拒絶理由に引用される本願優先権主張日前の刊行物である特開昭64-90110号公報(以下、「引用例」という。)には、次の技術事項が記載されている。なお、下線は、当審が付したものである。 (i)「ポリアミド樹脂と、ペンタエリスリットロジン酸エステルと、ポリグリセリン側鎖脂肪酸部分エステルもしくはポリグリセリン不飽和脂肪酸部分エステルとを含有することを特徴とする透明固形化粧料。」(第1頁左下欄の特許請求の範囲参照) (ii)「[発明が解決しようとする問題点] しかしながら、特公昭45-41318号公報における樹脂口紅は、経日変化や温度変化により油のにじみが生じやすく外観安定性に劣るものであった。更に唇への付きが悪く、またスティックとして脆さがあり折れ易く、使用性に劣るものであった。特公昭52-7067号公報における樹脂口紅は、多少の改良は見られるものの、依然として外観安定性、使用性に劣るものであった。また染料溶解性にも劣り、着色力も不充分であり、その実用化を妨げていた。 [問題点を解決するための手段] 本発明者等は係る点に鑑み、樹脂を利用した、透明性が良好であって、外観安定性、使用性、染料溶解性に優れた透明固形化粧料を得べく鋭意研究の結果、ポリアミド樹脂と、ペンタエリスリットロジン酸エステルと、ポリグリセリン側鎖脂肪酸部分エステルもしくはポリグリセリン不飽和脂肪酸部分エステルとを配合することにより、上記欠点が解消された透明固形化粧料が得られることを見い出し、本発明を完成させた。」(第1頁右下欄5行?第2頁左上欄6行参照) (iii)「以下に本発明の構成について述べる。 本発明に使用するポリアミド樹脂は、ダイマー酸と、エチレンジアミン・ジエチレントリアミン・トリエチレンテトラミン等のアルキレンポリアミンとの熱可塑性縮合物であって、分子量が2,000?10,000の軟化点が70?200℃の範囲のものが特に好ましい。好適なポリアミド樹脂としては、バーサミド(ヘンケル社製)、トーマイド(富士化成株式会社製)、ポリマイド(三洋化成工業株式会社製)等の市販品を利用できる。 ポリアミド樹脂の配合量は5?30重量%が好ましく、透明固形化粧料に要求されるゲル強度、伸展性、付着性等により適宜決定される。」(第2頁左上欄7行?末行参照) (iv)「本発明に使用するペンタエリスリットロジン酸エステルは、ロジンもしくは水添ロジンのペンタエリスリットとのエステル化物であって、軟化点が90℃以上のものが好ましく用いられる。 ペンタエリスリットロジン酸エステルも透明固形化粧料の固形化剤であって、特にそのゲルは粘着感(べたつき)が少なく、広い温度範囲にわたってゲル形成性に優れ、またその硬度変化も少なく、かつねばりがあり、光沢性が優秀であり、また透明性も良好である。ペンタエリスリットロジン酸エステルの配合量は5?45重量%が好ましく、透明固形化粧料に要求されるゲル強度、光沢性、皮膜形成性等により適宜決定される。」(第2頁右上欄1?15行参照) (v)「なお、ポリグリセリン側鎖脂肪酸部分エステルならびにポリグリセリン不飽和脂肪酸部分エステルは、ポリアミド樹脂ならびにペンタエリスリットロジン酸エステルを透明に溶解する油剤であるので、良好な透明固形化粧料を生成する。また、本発明のポリグリセリン脂肪酸部分エステルはポリアミド樹脂との相溶性が特に優れているので、ポリアミド樹脂との相溶性が余り良くない油剤との配合も可能ならしめ、長期間にわたり安定な透明固形化粧料が得られる。 また、ポリグリセリン側鎖脂肪酸部分エステルならびにポリグリセリン不飽和脂肪酸部分エステルは、特に良好な染料溶解性を示すものであって、例えば油溶性のタール色素並びに天然色素を容易に溶解する。」(第2頁右下欄11行?第3頁左上欄5行参照) (vi)「油剤としては、ジグリセリルジイソステアレート、ジグリセリルジオレエート、デカグリセリルモノイソステアレート、2-オクチルドデカノール、2-へキシルデシルアルコールの5種を用い、・・・(後略)」(第3頁左上欄19行?同頁右上欄3行参照) (vii)「実施例[1] 透明口紅 (処方) (重量%) (1) ポリアミド樹脂(商品名:バーサミド930)13.0 (2) ペンタエリスリットロジン酸エステル 17.0 (3) スクワラン 10.0 (4) コレステロール 3.0 (5) 香料 0.3 (6) 酸化防止剤 0.1 (7) 赤色218号 0.5 (8) ジグリセリルジイソステアレート 残量 (製法) A (1)、(2)、(8)を加熱溶解する(120℃)。 B Aに(3)?(7)を加え均一に混合する。 C Bを脱泡後、カプセルに75℃にて流し込み充填する。 D 自然放冷し、成型して透明口紅を得る。 本発明の透明口紅は、美麗な外観を有し、豊かな発色を示すと共に、良好な使用感を示すものであった。また、発汗も見られず良好な外観安定性をも示すものであった。 本発明の透明口紅の外観安定性の良好性を確認する為に、実施例[1]の透明口紅につき、比較例[1]、[2]の透明口紅(A)、(B)(処方等は以下に示す)と共に、室温ならびに37℃における発汗状態を観察した。各試料は各5本用意し、1日後、1週間後、3週間後、1ケ月後、3ケ月後に総合的に観察した。結果は表2に示す。表2の結果より明らかな如く、本発明の実施例[1]の透明口紅は比較例の透明口紅(A)、(B)に比較して極めて優れた外観安定性を示すものであった。」(第4頁左上欄2行?同頁右上欄15行参照) (vii)表2は次のとおり (2)対比、判断 そこで、本願発明と引用例に記載された発明を対比する。 引用例には、前記「3.(1)」に摘示された記載からみて、次の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。 「ポリアミド樹脂と、ペンタエリスリットロジン酸エステルと、ポリグリセリン側鎖脂肪酸部分エステルもしくはポリグリセリン不飽和脂肪酸部分エステルとを含有する透明固形化粧料。」 そして、 (α)引用例発明の「ポリアミド樹脂」は、好適なものとしてバーサミド(ヘンケル社製)を例示し(摘示(iii)参照)、実施例で「バーサミド930」を使用している(摘示(vii)参照)ことから、同じヘンケル・コーポレーションからの「ヴェルサミド(Versamid)(ヴェルサミド930)」などを例示(本願明細書段落【0029】参照)している本願発明の「(i)少なくとも1つのヘテロ原子を有する少なくとも1つの炭化水素ベースの繰り返し単位を含むポリマー骨格を有する少なくとも1つの構造化ポリマ-」に対応し、少なくとも「ポリマー」で一致する。 (β)引用例発明の「ペンタエリスリットロジン酸エステル」は、固形化剤である(摘示(iv)参照)から、本願発明の「(ii)少なくとも1つのゲル化剤」に包含される。 (γ)引用例発明の「ポリグリセリン側鎖脂肪酸部分エステルもしくはポリグリセリン不飽和脂肪酸部分エステル」は、油剤である(摘示(v),(vi)参照)から、「グリセロールの脂肪酸エステル」などを例示(本願明細書段落【0052】参照)する本願発明の「少なくとも1つの液状脂肪相」に包含される。 (δ)引用例発明の「透明固形化粧料」は、本願発明の組成物として化粧料が想定されている(本願明細書段落【0007】や実施例1?3参照)ことから、本願発明の「組成物」に相当する。 そうすると、両発明は、 「(i)ポリマ-;及び (ii)少なくとも1つのゲル化剤(ペンタエリスリットロジン酸エステル)、 を含む少なくとも1つの液状脂肪相(ポリグリセリン側鎖脂肪酸部分エステルもしくはポリグリセリン不飽和脂肪酸部分エステル)を含有する組成物。」 で一致し、次の(A),(B)の相違点で一応相違する。 <相違点> (A)ポリマーに関し、本願発明では、「少なくとも1つのヘテロ原子を有する少なくとも1つの炭化水素ベースの繰り返し単位を含むポリマー骨格を有する少なくとも1つの構造化ポリマー」と特定しているのに対し、引用例発明ではそのように特定していない点 (B)本願発明では、「但し、前記少なくとも1つのゲル化剤が、シリカ、12-ヒドロキシステアリン酸メチル、12-ヒドロキシステアリン酸、又はステアラルコニウムヘクトライトではない」と特定しているのに対し、引用例発明ではそのように特定していない点 そこで、これらの相違点について検討する。 (A)の点について 構造化ポリマーとは何かについて本願明細書を検討すると、「構造化された、すなわちゲル化及び/又は堅牢化された液状脂肪相は一般的に見られるものである」(本願明細書段落【0002】参照)と説明され、「液状脂肪相を構造化することにより、特に暑く湿った地域における固体状組成物からの滲出(シネレシス)を制限し、・・」(同書段落【0004】参照)、「・・、液状脂肪相を構造化させるための、ポリアミド、・・」(同書段落【0005】参照)、「液状脂肪相の構造化は、ポリマーの2つの分子の間及び/又はポリマーと液状脂肪相の間の水素相互作用による。」(同書段落【0011】参照)などとの説明がされていることから、本願発明でいう「構造化ポリマー」とは、液状脂肪相をゲル化乃至は堅牢化する作用を有するポリマーであると解するのが相当といえる。 一方、引用例発明で用いられる「ポリアミド樹脂」は、「透明固形化粧料に要求されるゲル強度、伸展性、付着性等により適宜決定される」(摘示(iii)参照)ものであって、続く第2の成分である「ペンタエリスリットロジン酸エステル」に関し、「ペンタエリスリットロジン酸エステルも透明固形化粧料の固形化剤であって」、「透明固形化粧料に要求されるゲル強度、光沢性、皮膜形成性等により適宜決定される」と説明されていることも勘案すると、一種の固形化剤と認められる。 そして、引用例発明で用いられる「ポリアミド樹脂」は、「ダイマー酸と・・・等のアルキレンポリアミンとの熱可塑性縮合物」(摘示(iii)参照)とされているから、「「少なくとも1つのヘテロ原子を有する少なくとも1つの炭化水素ベースの繰り返し単位を含むポリマー骨格を有する」ものと認められる。 更に、引用例発明の実施例において「ポリアミド樹脂」として用いられていると認められる「バーサミド930」(摘示(vii)の実施例1,摘示(iii)の「バーサミド(ヘンケル社製)」参照)は、本願発明の「少なくとも1つのヘテロ原子を有する少なくとも1つの炭化水素ベースの繰り返し単位を含むポリマー骨格を有する少なくとも1つの構造化ポリマー」の具体例として、ポリアミドが説明され(本願明細書段落【0017】参照)、そのポリアミドポリマーの非限定的具体例として明示されたヘンケル・コーポレーションからのヴェルサミド930(Versamid)そのものと認められることから、本願発明で特定する構造化ポリマーそのものと言える。 そうすると、引用例には、「構造化ポリマー」との表現での記載はないけれども、引用例発明のポリアミド樹脂を、「少なくとも1つのヘテロ原子を有する少なくとも1つの炭化水素ベースの繰り返し単位を含むポリマー骨格を有する少なくとも1つの構造化ポリマー」と言う程度のことは、当業者が容易になし得たものということができる。 (B)の点について 引用例発明で用いられている「ポリアミド樹脂」と「ペンタエリスリットロジン酸エステル」は、いずれも、「シリカ、12-ヒドロキシステアリン酸メチル、12-ヒドロキシステアリン酸、又はステアラルコニウムヘクトライト」ではないし、また、ゲル化剤として、「シリカ、12-ヒドロキシステアリン酸メチル、12-ヒドロキシステアリン酸、又はステアラルコニウムヘクトライト」を用いることは言及されていない。 そうすると、(B)の相違点は、実質的な相違点ではない。 ところで、本願明細書には、「液状脂肪相を構造化することにより、特に暑く湿った地域における固体状組成物からの滲出(シネレシス)を制限し、・・」(段落【0004】参照)との作用効果が記載され、平成17年4月12日付け意見書並びに審判請求理由において、本願発明の組成物は滲出がない旨を請求人(出願人)は主張する。 しかし、引用例発明も、従来「経日変化や温度変化により油のにじみが生じやすく外観安定性に劣るものであった」(摘示(ii)参照)ものを改善しようとするものであって、「外観安定性、使用性、染料溶解性に優れ」(摘示(ii)参照)、「長期間にわたり安定」(摘示(v)参照)、発汗なし(この発汗とは、表2の記載からみて、滲出を意味するものと解される)とされていることから、同様な滲出がないとの作用効果が期待されるものといえる。 よって、本願発明は、引用例発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであり、格別予想外の作用効果を奏しているとも認められない。 なお、上記補正却下の決定がされた平成17年11月24日付け手続補正書では、「少なくとも1つのヘテロ原子を有する少なくとも1つの炭化水素ベースの繰り返し単位を含むポリマー骨格を有する少なくとも1つの構造化ポリマー」を、I式の構造式のポリアミドポリマーに特定しようとするものであるが、I式のポリアミドポリマーは、例えば、原審の拒絶の理由で提示された本願優先権主張日前の刊行物である国際公開第98/17705号(クレーム1など参照)や国際公開第98/17243号(クレーム12,55など参照)に、ゲル化剤として説明されているものであり、引用例発明のポリアミド樹脂としてそのようなゲル化剤(1式のポリアミドポリマー)を採用してみる程度のことは、当業者が容易に想到し得るものというべきである。そして、本願発明で主張する「液状脂肪相を構造化することにより、特に暑く湿った地域における固体状組成物からの滲出(シネレシス)を制限し、・・」(同書段落【0004】参照)との作用効果は、例えば前記国際公開第98/17705号には、離漿(シネレシス)やブリーディングを示さないとの説明が有り(第25頁19?26行参照)、ポリアミド樹脂としてI式のものを採用したことによっても、予測できる程度のものと言える。 更に、平成20年11月10日受付の回答書で提示された実験成績証明書のデータについては、特定する種々雑多な他のゲル化剤全てを担保するものではないし、そもそも、(a)本発明に係る組成物1とする組成は、本願明細書に記載された実施例1?3と異なるものである(実施例1,2で配合されている疎水性シリカが配合されていない点、実施例3で使用されているマクロメルト6212はユニクリア100とは異なるポリマーである点など)こと、(b)比較用組成物2,3は、引用例発明の組成物とは異なるものであること、(c)比較対象とされる「ベルサミド930」は、「少なくとも1つのヘテロ原子を有する少なくとも1つの炭化水素ベースの繰り返し単位を含むポリマー骨格を有する少なくとも1つの構造化ポリマー」の具体例として、「ユニクリア100」と同列に同じ作用効果を示すものとして説明されていたもの(本願明細書段落【0011】?【0034】、特に段落【0028】と【0029】参照)であり、本願明細書には他の成分を特定(他のゲル化剤の特定など)した場合との組合せで両者に格別に差異があることの説明もされていないことから、「ベルサミド930」と「ユニクリア100」とで作用効果に格別の差異があるとする実験成績証明書のデータは勘案することはできない。 (3)むすび 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用例発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-06-15 |
結審通知日 | 2009-07-07 |
審決日 | 2009-07-21 |
出願番号 | 特願2002-558977(P2002-558977) |
審決分類 |
P
1
8・
571-
Z
(A61K)
P 1 8・ 573- Z (A61K) P 1 8・ 572- Z (A61K) P 1 8・ 121- Z (A61K) P 1 8・ 574- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 内田 淳子、關 政立、福井 悟 |
特許庁審判長 |
川上 美秀 |
特許庁審判官 |
星野 紹英 弘實 謙二 |
発明の名称 | 少なくとも1つのヘテロポリマーと少なくとも1つのゲル化剤を含有する化粧品用組成物及びその使用方法 |
代理人 | 小林 義教 |
代理人 | 園田 吉隆 |