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審決分類 審判 全部無効 特29条の2  H02K
管理番号 1209517
審判番号 無効2009-800026  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-02-16 
確定日 2010-01-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第3753699号発明「ステータコアへの巻線方法及び同方法によって巻線されたコイル付きステータコア」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第3753699号に係る発明(以下「本件特許発明」という。)についての出願は,平成15年3月7日に出願され,平成17年12月22日にその請求項1ないし4に係る発明について特許権の設定登録がされたものである。
(2)これに対して,請求人は,本件特許発明は,本件特許の出願の日前に出願され,その出願後に出願公開された甲第1号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明(以下「先願発明」という。)と同一であり,したがって,本件特許発明は,特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである旨主張し,被請求人は,本件特許発明は,先願発明と同一ではなく,特許法第29条の2の規定に違反するものではなく,無効とすべきものではない旨主張している。

2.本件特許発明
本件特許発明は,特許明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ステータコアの中心に同軸的に配置され、所定角度で揺動すると共に、軸方向に往復移動する導線導入筒と、この導線導入筒の先端に装着され、導線を前記導線導入筒に対してほぼ直交する方向に繰り出す巻線ノズルとを備えた巻線装置を用いて、前記巻線ノズルを前記ステータコアの所定の内歯を周回するように移動させて巻線を行うステータコアへの巻線方法において、前記巻線ノズルを前記導線導入筒に対して放射状に前記ステータコアのスロット数分だけ取付け、前記巻線ノズルを前記ステータコアの全スロットに同時に挿入しながら対応する内歯に対して同時に巻線を行い、前記スロット内における前記巻線ノズルが挿入される通路幅に前記導線が進入する直前まで巻線した後は、前記導線を2段状に重ねながらスロットの奥方から順次巻線を施すことにより、前記スロット内における前記巻線ノズルが挿入される通路幅内にまで導線が配置されるように巻線を施すことを特徴とするステータコアへの巻線方法。
【請求項2】
前記導線が前記通路幅に進入する直前までは、前記内歯の突出方向に沿って前記巻線ノズルを往復移動させながら巻線を行う請求項1記載のステータコアへの巻線方法。
【請求項3】
スロット数が12以上であるステータコアに対して適用される請求項1又は2記載のステータコアへの巻線方法。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかの方法で巻線して得られるコイル付きステータコアであって、前記ステータコアは、周方向に連続した環状をなしており、前記スロットの前記巻線ノズルの通路幅内にも導線が配置されるように巻線されていることを特徴とするコイル付きステータコア。」

3.請求人の主張
これに対して,請求人は,本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は,本件特許の出願の日前に出願され,本件特許出願の後に出願公開がされた特許出願である特願2001-340653号(特開2003-143819号公報(甲第1号証))の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許発明の発明者が先願明細書等に記載された発明の発明者と同一であるとも,また本件特許の出願の時にその出願人が先願の出願人と同一であるとも認められないので,特許法第29条の2の規定に該当し,本件特許は同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである旨主張する。
なお,本件発明3については,特開昭62-138037号公報(甲第2号証)を提示して,「スロット数が12以上であるステータコアは,甲第2号証に示されるように周知である」から,本件発明3は先願明細書等に記載された発明と同一であると主張している。

4.甲第1号証
甲第1号証には,次の事項が図面とともに記載されている。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 ワイヤを供給するニードルがモータのステータコアの軸線方向、円周方向及び半径方向に相対往復運動して複数のスロットにそれぞれコイルを巻線するステータコアの巻線方法において、
前記スロットの全部にそれぞれニードルを挿入し、同時巻線により前記スロットの全部に前記ニードルの挿通用の隙間を残して1層目の巻線を行った後に、前記ニードルを前記スロットの奥側から入口側に移動させながら、前記隙間を埋めるように2層目の巻線を行うことを特徴とするステータコアの巻線方法。」

・「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、家庭用電気製品や自動車等に用いられるブラシレスモータのステータコアの巻線方法に関する。」

・「【0005】
【課題を解決するための手段】この発明は上記の目的を達成するため、ワイヤを供給するニードルがモータのステータコアの軸線方向、円周方向及び半径方向に相対往復運動して各スロットにコイルを巻線するステータコアの巻線方法において、上記スロットの全部にそれぞれニードルを挿入し、同時巻線により上記スロットの全部に上記ニードルの挿通用の隙間を残して1層目の巻線を行った後に、上記ニードルを上記スロットの奥側から入口側に移動させながら、上記隙間を埋めるように2層目の巻線を行うステータコアの巻線方法を提供するものである。そして、このようなステータコアの巻線方法において、上記ステータコアがインナロータ形であるときは、上記ニードルを上記スロットの外径側から内径側へ移動させながら2層目の巻線を行い、上記ステータコアがアウタロータ形であるときは、上記ニードルを上記スロットの内径側から外径側へ移動させながら2層目の巻線を行う。この発明によるステータコアの巻線方法は上記のように巻線することにより、ステータコアを回転させることなく1工程でニードル挿通用の隙間にも巻線することが可能になり、簡単な方法でコイルの占積率を向上させて銅損を減少させることができる。
【0006】
【発明の実施の形態】以下、この発明の実施形態を図面に基づいて具体的に説明する。図1乃至図3は、この発明による巻線方法をインナロータ形モータ3相6スロットのコアの巻線に実施した場合の各巻線工程を示す説明図であり、図8に対応する部分には同一の符号を付して示してある。図1を参照して、巻線しようとするコア1の中心Aから放射状にU相,V相,W相のコイルを巻線する6本のニードル2a,2b,2c,2d,2e,2fを、それぞれスロット1a,1b,1c,1d,1e,1f内に配設する。これらの各ニードル2a?2fを相隣るスロット1a-1b,1b-1c,1c-1d,1d-1e,1e-1f,1f-1a間を60度往復旋回させ、それぞれの旋回端で紙面に垂直に各スロット1a?1fを挿通して所定長往復直進運動させるとともに、コア1の半径方向に所定長複数回往復搖動させて従来の巻線完了状態と同様の1層目の巻線U1a,V1a,W1a,U2a,V2a,W2aを形成する。この時点では上記の各巻線U1a?W2aの間にはニードル2a?2fが挿通可能な隙間3が存在し、各ニードル2a?2fは最大に突出した状態にある。
【0007】次に、図1に示す状態から各ニードル2a?2fを引っ込めながらコイル巻線を行っていくと、各スロット1a?1fの奥側(外径側)から各巻線U1a?W2a間の隙間3が埋められて図2に示す2層目の巻線U1b,V1b,W1b,U2b,V2b,W2bが外径側から内径側に向かって形成される。図2に示す状態からさらに各ニードル2a?2fを引っ込めながらコイル巻線を行っていくと、ニードル2a?2fをもっとも引っ込めた状態で各コイルU1?W2間の隙間3が埋められて1層目の巻線U1a?W2aの外周側に2層目の巻線U1b?W2bが巻線された図3に示すコイルU1?W2が形成される。このような方法で巻線されたステータコアは、全スロットを同時巻線することにより、少ない巻線工数で各コイル間に隙間がなく、その分だけ多くのコイルを巻線することができ、銅損を減少させてモータの効率を向上させることが可能になる。
【0008】次に、上記のようなステータコアの巻線方法に用いられる巻線装置の概略構成を図4乃至図6を参照して簡単に説明する。図4は、巻線装置の全体構成を示す正面図、図5は、そのニードル装着部を示す平面図、図6は、その縦断面図である。この巻線装置10は、図4に示すように、ワイヤ4を下方から上方へ挿通する軸11を有し、この軸11はそれぞれ互いに相対回転不能で軸線方向にのみ相対変位可能な第1軸11a,第2軸11b,第3軸11cとからなっている。そして、第2軸11bを矢示A方向に往復運動させる直線駆動手段12と、第3軸11cを軸線の回りに往復搖動回転させる搖動駆動手段13と、第1軸11aの上端部に装着された6本のニードル2a?2f(図ではニードル2a,2dのみを示している)を矢示C方向に横ずらしさせるトラバース手段14とを備えている。
【0009】直線駆動手段12は、モータ15からタイミングベルトを介して回転駆動されるホイール16と、ホイール16からクランク17を介して第2軸11bを上下に移動させる昇降スライダ18とを有している。搖動駆動手段13は、ホイール16の回転軸からタイミングベルトを介して回転駆動される回転運動を直線運動に変換する運動方向変換部19を有し、その直線運動部であるスライドブロック20はガイドロッド21,21に案内されて紙面に垂直な方向に移動する。このスライドブロック20はラック22を一体とし、このラック22がセクタギヤ23を介して第3軸11cを矢示B方向に搖動回転させる。トラバース手段14は、モータ24に回転駆動され中心部にワイヤ4を挿通する軸11と同芯のトラバース軸25を有し、このトラバース軸25が正逆両方向に回動することにより、その上端部に螺合する昇降スライダ18を介して第1軸11aを矢示A方向に上下動させ、後述する方向変換機構を介して6本のニードル2a?2fをそれぞれ軸11の半径方向に所定長搖動させる。
【0010】第1軸11aの上端部には、図5及び図6にその詳細を示すようにフランジ26が一体に固定され、第2軸11bの上端部にはニードルベース27が一体的に固設されている。このニードルベース27には、中心から60度間隔に6個のスリット27aが形成され、これらのスリット27aにはそれぞれ6個のニードル2a?2fを放射状に突設した6個のニードルホルダ28が半径方向に摺動自在に装着されている。各スリット27aにはそれぞれ軸29によりクランクレバー30が回動自在に設けてあり、その円形の先端部30a,30bはそれぞれフランジ26の外周部に形成した円周溝26a及びニードルホルダ28の直線溝28aに係合している。また、ニードルベース27の上部には有底円筒状のワイヤガイド31が固設され、その底面及び側面にはワイヤ挿通用の透孔31a,31bが形成されている。このような構成で、図4に示した直線駆動手段12により第2軸11bを昇降スライダ18を介して矢示A方向に往復運動させ、それに連動して搖動駆動手段13により第3軸11cを矢示B方向に往復回動させるとともに、トラバース手段14によりニードル2a?2fを矢示C方向に往復運動させることにより、コア1の各磁極歯にコイルU1,V1,W1,U2,V2,W2を同時に巻線することが可能になる。」

・「【0013】
【発明の効果】以上述べたように、この発明によるステータコアの巻線方法は、従来の巻線方法と同様の1層目の巻線を行った後に、ニードルをスロットの奥側から入口側へ移動させながら2層目の巻線を行って各コイル間の隙間を埋めるようにしたので、きわめて簡単な方法で銅損を減少させてモータの効率を向上させることが可能になる。また、上記の巻線方法をインナロータ形のステータコアに適用した場合は、ニードルをスロットの外径側から内径側へ移動させながら2層目の巻線を行えばよいので、巻線装置の小型化が可能になり、アウタロータ形のステータモータに適用した場合は、各巻線装置の構成の簡略化が可能になる。」

・図4?6等には,巻線装置10において,第1軸11a,第2軸11b,第3軸11cからなる軸11が,ステータコア1の中心に同軸的に配置され,所定角度で揺動すると共に,軸方向に往復移動する態様が示されている。

・図4?6及び段落【0010】の記載によれば,巻線装置10が,直線駆動手段12,揺動駆動手段13及びトラバース手段14によりニードル2a?2fを所定の磁極歯を周回するように移動させて巻線を行う態様が示されているといえる。
・図5,6には,第2軸11cの上端部にニードルベース27が一体的に固設され,ニードルベース27に,6個のニードル2a?2fを放射状に突設した6個のニードルホルダ28が半径方向に摺動自在に装着された態様が示されている。すなわち,同図には,巻線装置10が,軸11の先端に装着され,ワイヤを軸11に対してほぼ直交する方向に繰り出すニードル2a?2fを備えた態様が示されているといえる。

・図1?3等には,ステータコアの磁極歯の周囲にワイヤを巻いた態様が示されている。

・図1には1層目の全巻線終了状態が,図2には2層目の巻線途中状態が,図3には2層目の全巻線完了状態が,それぞれ示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると,甲第1号証には,先願発明として,次の事項からなる発明が記載されているといえる。
「ステータコア1の中心に同軸的に配置され,所定角度で揺動すると共に,軸方向に往復移動する軸11と,この軸11を構成する第2軸11bの先端に固設されたニードルベース27にスリット27aを形成し,スリット27aに,ニードル2a?2fを放射状に突設したニードルホルダ28が半径方向に摺動自在に装着され,ワイヤを軸11に対してほぼ直交する方向に繰り出すニードルとを備えた巻線装置を用いて,前記ニードルを前記ステータコアの所定の磁極歯を周回するように移動させて巻線を行うステータコアへの巻線方法において,前記ニードルを前記軸に対して放射状に前記ステータコアのスロット数分だけ取付け,前記ニードルを前記ステータコアのスロット1a?1fの全部にそれぞれ挿入し,対応する磁極歯に対して同時に巻線を行い,同時巻線により前記スロットの全部にニードルの挿通用隙間3を残して1層目の巻線を行った後に,前記ニードルを前記スロットの奥側から入口側に移動させながら,前記隙間3を埋めるように2層目の巻線を行い,前記スロット内における前記ニードルが挿通可能な隙間3にまで2層目の巻線が形成されるように巻線を施すステータコアへの巻線方法。」

5.本件発明1と先願発明との対比・判断
(1)本件発明1と先願発明とを対比すると,その機能・作用からみて,後者における「軸11」は前者における「導線導入筒」に相当し,以下同様に,「ニードル2a?2f」は「巻線ノズル」に,「軸11を構成する第2軸11bの先端に固設されたニードルベース27にスリット27aを形成し,スリット27aに,ニードル2a?2fを放射状に突設したニードルホルダ28が半径方向に摺動自在に装着され,ワイヤを軸11に対してほぼ直交する方向に繰り出すニードル」は「導線導入筒の先端に装着され、導線を前記導線導入筒に対してほぼ直交する方向に繰り出す巻線ノズル」に,「磁極歯」は「内歯」に,それぞれ相当している。
また,後者の「ニードルをステータコアのスロット1a?1fの全部にそれぞれ挿入し,対応する磁極歯に対して同時に巻線を行」う態様は,前者の「巻線ノズルをステータコアの全スロットに同時に挿入しながら対応する内歯に対して同時に巻線を行」う態様に,「同時巻線によりスロットの全部にニードルの挿通用隙間3を残して1層目の巻線を行った後」は「スロット内における巻線ノズルが挿入される通路幅に導線が進入する直前まで巻線した後」に相当する。
さらに,後者の「ニードルをスロットの奥側から入口側に移動させながら,隙間3を埋めるように2層目の巻線を行」う態様と,前者の「導線を2段状に重ねながらスロットの奥方から順次巻線を施す」態様とは,「スロットの奥方から所定の態様で順次巻線を施す」との概念で共通する。
加えて,後者の「スロット内におけるニードルが挿通可能な隙間3にまで2層目の巻線が形成されるように巻線を施す」態様は,前者の「スロット内における前記巻線ノズルが挿入される通路幅内にまで導線が配置されるように巻線を施す」態様に相当する。

したがって,両者は,
「ステータコアの中心に同軸的に配置され、所定角度で揺動すると共に、軸方向に往復移動する導線導入筒と、この導線導入筒の先端に装着され、導線を前記導線導入筒に対してほぼ直交する方向に繰り出す巻線ノズルとを備えた巻線装置を用いて、前記巻線ノズルを前記ステータコアの所定の内歯を周回するように移動させて巻線を行うステータコアへの巻線方法において、前記巻線ノズルを前記導線導入筒に対して放射状に前記ステータコアのスロット数分だけ取付け、前記巻線ノズルを前記ステータコアの全スロットに同時に挿入しながら対応する内歯に対して同時に巻線を行い、前記スロット内における前記巻線ノズルが挿入される通路幅に前記導線が進入する直前まで巻線した後は、スロットの奥方から所定の態様で順次巻線を施すことにより、前記スロット内における前記巻線ノズルが挿入される通路幅内にまで導線が配置されるように巻線を施すステータコアへの巻線方法。」である点で一致し,以下の点で一応相違する。
[相違点]
「スロットの奥方から所定の態様で順次巻線を施す」態様に関し,本件発明1では,「導線を2段状に重ねながらスロットの奥方から順次巻線を施す」のに対し,先願発明では「ニードルをスロットの奥側から入口側に移動させながら,隙間3を埋めるように2層目の巻線を行」う点。

(2)上記相違点が実質的な相違点といえるかについて,以下検討する。
まず,本件発明1において「導線を2段状に重ねながらスロットの奥方から順次巻線を施す」とはどのような巻線方法をいうのかについて検討する。
本件特許明細書には,この点に関して,「こうして,多層に重ねられた導線50が,巻線ノズル23の通路幅W内に入る直前まで巻線を行った後,図8における巻線順序20?35に示すように,導線50を2段状に重ねながらスロット43の奥方から順次巻線を施す。このように,スロット43の奥方から巻線を行うのは,巻き付いた導線50が通路幅W内に入るように重なっていくため,巻線ノズル23を再びスロット43の奥方に挿入することはできなくなるためである。」(段落【0039】)と記載されている。
上記の記載事項及び図8等から判断すると,「導線を2段状に重ねながらスロットの奥方から順次巻線を施す」とは,「巻線ノズルの通路幅内に少なくとも1組以上の導線が2段状に重なる状態となるよう,ノズルを半径方向に小さく揺動させながら,スロットの奥方から順次巻線を施す」ことを意味すると解される。
なお,平成21年7月31日に実施した口頭審理において,被請求人は,「『スロット内における巻線ノズルが挿入される通路幅に導線が進入する直前まで巻線した』状態とは,図8において,19番まで巻いた状態をいい,『「導線を2段状に重ねながらスロットの奥方から順次巻線を施す』とは,20?35番のように巻くことをいう。 あるいは,『スロット内における巻線ノズルが挿入される通路幅に導線が進入する直前まで巻線した』状態とは,図8において,19番の後,20,21,23番を巻いた状態をいい,『導線を2段状に重ねながらスロットの奥方から順次巻線を施す』とは,25?30番のように巻くことをいう。」(第1回口頭審理調書の「1.本件発明1について」参照)と陳述している。

一方,甲第1号証における,2層目の巻線方法に関する記載である【請求項1】,【0006】,【0007】段落及び図1ないし図3の記載事項及び図示内容から判断すると,甲第1号証には,スロットに挿入したニードルをコアの半径方向に複数回往復揺動させて1層目の巻線を形成した時点では,各巻線の間にはニードルが挿通可能な隙間が存在し,さらにニードルを半径方向に最大に突出した状態から引っ込めながら隙間3に2層目の巻線を外径側から内径側に向かって形成することが記載されているといえる。そして,2層目が2段状に重ねながら巻線を施されることは何ら記載されていないとともに,「ニードルをスロットの奥側から入口側に移動させながら,隙間を埋めるように2層目の巻線を行う」(【請求項1】)との記載,図2に記載された2層目の巻線途中状態及び図3の2層目の全巻線完了状態等から判断すると,2層目が2段状に重ねながら巻線を施されることは,開示も示唆もされていないといわざるを得ない。
また,上記相違点に係る構成が,課題解決のための具体化手段における微差ということもできない。

そうすると,上記相違点は実質的な相違点であり,本件発明1と先願発明とが同一であるとはいえない。

(3)請求人の主張について
請求人は,審判請求書において,甲第1号証の請求項1に記載されている「前記ニードルを前記スロットの奥側から入口側に移動させながら,前記隙間を埋めるように2層目の巻線を行う」は,本件発明1の「前記導線を2段状に重ねながらスロットの奥方から順次巻線を施すことにより,前記スロット内における前記巻線ノズルが挿入される通路幅内にまで導線が配置されるように巻線を施す」と同等である旨主張し(審判請求書,第9頁第23?28行),平成21年7月21日付けの口頭審理陳述要領書において,「甲第1号証においても,『前記ニードルを前記スロットの奥側から入口側に移動させながら,前記隙間を埋めるように2層目の巻線を行う』際には,段落【0007】に記載され図2に示されているように,1層目の巻線U1a?W2aの外周側に2層目の巻線U1b?W2bを2段状に重ねながらスロットの奥方から順次巻線を施しています。」(同書第4頁第3?7行)と主張し,さらに,前記口頭審理において,「甲第1号証には,2層目を2段状に巻くことは記載されていないが,1層目の次に2層目を巻いたものは,本件発明1の『2段状』に巻いたものに相当する。」(第1回口頭審理調書の「2.本件発明1と甲1発明との対比について」参照)と主張している。
しかし,甲第1号証には,2層目の巻線が2段状である旨の記載はないし,図2においてもそのような態様は示されていないから,甲第1号証の「2層目の巻線を行う」ことが,本件発明1の「導線を2段状に重ねながらスロットの奥方から順次巻線を施す」ことと同一であるということはできない。
また,先願発明の1層目と2層目を合わせたものが2段状を形成していても,1層目は「巻線ノズルが挿入される通路幅に導線が進入する直前まで巻線した後」に巻いたものではないから,本件発明1の「2段状」に相当するものではない。
したがって,請求人の上記主張は採用できない。

(4)以上のとおり,本件発明1は,先願発明と同一ではないから,特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものでなく,本件発明1の特許は,同法第123条第1項第2号に該当して無効とすべきものではない。

6.本件発明2ないし4について
本件発明2及び3は,いずれも本件発明1の発明特定事項を含み,これを更に限定するものであるから,本件発明1が先願発明と同一とはいえない以上,本件発明2及び3も同様に先願発明と同一とはいえない。
また,本件発明4は,本件発明1の巻線方法を用いて得られるコイル付きステータコアの発明であるが,本件発明1の発明特定事項を含むものであるから,それによって得られるステータコアは,「スロット内における巻線ノズルが挿入される通路幅に導線が進入する直前まで巻線した後は,導線を2段状に重ねながらスロットの奥方から順次巻線を施すことにより,スロット内における巻線ノズルが挿入される通路幅内にまで導線が配置され」た構成を有することとなり,先願発明はこのような構成を有していないことは上記のとおりであるから,本件発明4も先願発明と同一であるとはいえない。

7.むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠によっては,本件特許発明の特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-12 
結審通知日 2009-11-16 
審決日 2009-11-27 
出願番号 特願2003-61835(P2003-61835)
審決分類 P 1 113・ 16- Y (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天坂 康種  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 小川 恭司
田良島 潔
登録日 2005-12-22 
登録番号 特許第3753699号(P3753699)
発明の名称 ステータコアへの巻線方法及び同方法によって巻線されたコイル付きステータコア  
代理人 大澤 敬  
代理人 松井 茂  
代理人 大澤 豊  
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