ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 A61K |
---|---|
管理番号 | 1209537 |
審判番号 | 不服2006-26301 |
総通号数 | 122 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-02-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-11-22 |
確定日 | 2010-01-04 |
事件の表示 | 特願2001-516553「イチョウ抽出物の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成13年2月22日国際公開,WO01/12208,平成15年2月25日国内公表,特表2003-507336〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は,平成12年8月11日(パリ条約による優先権主張1999年8月12日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成15年4月7日付けで手続補正がなされた後,平成18年6月9日付け拒絶理由通知書が通知されたのに対して,同年6月27日付け意見書が提出されたが,同年8月21日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年11月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同年12月22日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成18年12月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成18年12月22日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正の内容 平成18年12月22日付けの手続補正(以下,単に「本件補正」という)は,特許請求の範囲の記載を以下のように変更するものである。 ・補正前(平成15年4月7日付け手続補正書の特許請求の範囲)の記載 「【請求項1】 癌が腫瘍細胞を調節する役割を有するタンパク質の発現の脱調節によりひきおこされる場合に,そのような治療の必要性のある患者での癌を治療するために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む前記薬剤。 【請求項2】 増殖が腫瘍細胞を調節する役割を有するタンパク質の発現の脱調節によりひきおこされる場合に,そのような治療の必要性のある患者での癌細胞の増殖を抑えるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項3】 増殖が腫瘍細胞を調節する役割を有するタンパク質の過剰発現によりひきおこされる場合に,そのような治療の必要性のある患者での癌細胞の増殖を抑えるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項4】 増殖が末梢-型ベンゾジアゼピン受容体タンパク質の過剰発現によりひきおこされる場合に,そのような治療の必要性のある患者での侵襲性の表現型を有する癌細胞の増殖を抑えるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項5】 増殖が癌遺伝子の過剰発現によりひきおこされる場合に,そのような治療の必要性のある患者での前記癌遺伝子の発現を減少することにより癌細胞の増殖を抑えるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項6】 前記癌遺伝子が一またはそれ以上のAPC,PE-1,RhoAおよびc-Junである請求項5に記載の薬剤。 【請求項7】 癌細胞が標準的な癌細胞と比較して異常なレベルの末梢-型ベンゾジアゼピン受容体を発現する場合に,そのような減少の必要性のある患者での前記癌細胞内の末梢-型ベンゾジアゼピン受容体の発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項8】 前記癌細胞がヒト乳癌細胞である請求項7に記載の薬剤。 【請求項9】 前記癌細胞が膠芽細胞腫である請求項7に記載の薬剤。 【請求項10】 前記癌細胞がヒト脳腫瘍細胞である請求項7に記載の薬剤。 【請求項11】 前記癌細胞がヒト星状細胞腫細胞である請求項7に記載の薬剤。 【請求項12】前記癌細胞がヒト結腸癌細胞である請求項7に記載の薬剤。 【請求項13】前記癌細胞がヒト結腸腺癌細胞である請求項7に記載の薬剤。 【請求項14】前記癌細胞がヒト卵巣癌細胞である請求項7に記載の薬剤。 【請求項15】前記癌細胞がヒト肝細胞癌細胞である請求項7に記載の薬剤。 【請求項16】そのような減少の必要性のある患者での癌細胞内の末梢-型ベンゾジアゼピン受容体のmRNAの発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項17】そのような増加の必要性のある患者でのc-Myc癌原遺伝子の発現を増加させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項18】そのような減少の必要性のある患者での細胞周期調節因子であるプロチモシン-α,CDK2,p55CDC,ミエロブラスチンおよびp120増殖-細胞核抗原の発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項19】そのような減少の必要性のある患者での細胞内シグナル形質導入活性調節因子であるNET1およびERK2の発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項20】そのような減少の必要性のある患者でのアポトーシス-関連生成物であるアデノシンA2A受容体,Flt3リガンド,Grb2,クルステリン,RXR-β,グルタチオンS-トランスフェラーゼP,N-Myc,TRADD,SGP-2およびNIP-1の発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項21】そのような減少の必要性のある患者での転写因子であるId-2,ATF-4,ETR101およびETR-103の発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項22】そのような減少の必要性のある患者での成長因子であるマクロファージコロニー-刺激因子-1,ヘパリン-結合性EGF-様成長因子,肝細胞成長因子-様タンパク質およびインヒビンαの発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項23】そのような減少の必要性のある患者での接着分子であるCD19B-リンパ球抗原,L1CAM,β-カテニン,インテグリンサブユニットα3,α4,α6,β5,およびαMの発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項24】そのような減少の必要性のある患者での遺伝子であるAPC,PE-1,RhoA,c-Jun,プロチモシン-α,CDK2,p55CDC,ミエロブラスチン,p120増殖-細胞核抗原,NET1,ERK2,アデノシンA2A受容体,Flt3リガンド,Grb2,クルステリン,RXR-β,グルタチオンS-トランスフェラーゼP,N-Myc,TRADD,SGP-2,NIP-1,Id-2,ATF-4,ETR-101,ETR-103,マクロファージコロニー-刺激因子-1,ヘパリン-結合性EGF-様成長因子,肝細胞成長因子-様タンパク質,インヒビンα,CD19B-リンパ球抗原,L1CAM,β-カテニンならびにインテグリンサブユニットα3,α4,α6,β5,およびαMの発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項25】癌の治療のための有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBおよび薬剤的に受容可能な担体または希釈剤を含む薬剤組成物。」 ・補正後(本件補正に係る手続補正書の特許請求の範囲)の記載 「【請求項1】 治療の必要性のある患者での癌を治療するために投与する薬剤であって,前記患者の癌細胞が正常細胞と比較して末梢-型ベンゾジアゼピン受容体(PBR)タンパク質を異常レベルで発現しており,前記薬剤は有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含み,また前記薬剤は,癌細胞がPBRタンパク質の過剰発現を示しているかどうかを決定した後投与され,ここで過剰発現の決定は,腫瘍細胞でのPBRレベルが正常細胞内のPBRレベルの約2-3倍から,約10-100倍までであるときに行われる前記薬剤。 【請求項2】 癌が,腫瘍細胞を調節する役割を有するタンパク質の発現の脱調節と関連する請求項1記載の薬剤。 【請求項3】 投与が癌細胞の増殖を抑える請求項2記載の薬剤。 【請求項4】 増殖が腫瘍細胞を調節する役割を有するタンパク質の過剰発現と関連する請求項3記載の薬剤。 【請求項5】 増殖が末梢-型ベンゾジアゼピン受容体タンパク質の過剰発現と関連する請求項4記載の薬剤。 【請求項6】 増殖が癌遺伝子の過剰発現と関連し,また投与が患者における前記癌遺伝子の発現を減少する請求項4記載の薬剤。 【請求項7】 前記癌遺伝子がAPC,PE-1,RhoAおよびc-Junの一またはそれ以上である請求項6に記載の薬剤。 【請求項8】 減少の必要性のある患者での癌細胞内の末梢-型ベンゾジアゼピン受容体の発現を減少させるために投与する薬剤であって,前記患者の癌細胞が正常細胞と比較して末梢-型ベンゾジアゼピン受容体(PBR)タンパク質を異常レベルで発現しており,前記薬剤は有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含み,また前記薬剤は,癌細胞がPBRタンパク質の過剰発現を示しているかどうかを決定した後投与され,ここで過剰発現の決定は,腫瘍細胞でのPBRレベルが正常細胞内のPBRレベルの約2-3倍から,約10-100倍までであるときに行われる前記薬剤。 【請求項9】 前記癌細胞がヒト乳癌細胞である請求項8に記載の薬剤。 【請求項10】 前記癌細胞が膠芽細胞腫である請求項8に記載の薬剤。 【請求項11】 前記癌細胞がヒト脳腫瘍細胞である請求項8に記載の薬剤。 【請求項12】 前記癌細胞がヒト星状細胞腫細胞である請求項8に記載の薬剤。 【請求項13】前記癌細胞がヒト結腸癌細胞である請求項8に記載の薬剤。 【請求項14】前記癌細胞がヒト結腸腺癌細胞である請求項8に記載の薬剤。 【請求項15】前記癌細胞がヒト卵巣癌細胞である請求項8に記載の薬剤。 【請求項16】前記癌細胞がヒト肝細胞癌細胞である請求項8に記載の薬剤。 【請求項17】そのような減少の必要性のある患者での癌細胞内の末梢-型ベンゾジアゼピン受容体のmRNAの発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項18】そのような増加の必要性のある患者でのc-Myc癌原遺伝子の発現を増加させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項19】そのような減少の必要性のある患者での細胞周期調節因子であるプロチモシン-α,CDK2,p55CDC,ミエロブラスチンおよびp120増殖-細胞核抗原の発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項20】そのような減少の必要性のある患者での細胞内シグナル形質導入活性調節因子であるNET1およびERK2の発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項21】そのような減少の必要性のある患者でのアポトーシス-関連生成物であるアデノシンA2A受容体,Flt3リガンド,Grb2,クルステリン,RXR-β,グルタチオンS-トランスフェラーゼP,N-Myc,TRADD,SGP-2およびNIP-1の発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項22】そのような減少の必要性のある患者での転写因子であるId-2,ATF-4,ETR101およびETR-103の発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項23】そのような減少の必要性のある患者での成長因子であるマクロファージコロニー-刺激因子-1,ヘパリン-結合性EGF-様成長因子,肝細胞成長因子-様タンパク質およびインヒビンαの発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項24】そのような減少の必要性のある患者での接着分子であるCD19B-リンパ球抗原,L1CAM,β-カテニン,インテグリンサブユニットα3,α4,α6,β5,およびαMの発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項25】そのような減少の必要性のある患者での遺伝子であるAPC,PE-1,RhoA,c-Jun,プロチモシン-α,CDK2,p55CDC,ミエロブラスチン,p120増殖-細胞核抗原,NET1,ERK2,アデノシンA2A受容体,Flt3リガンド,Grb2,クルステリン,RXR-β,グルタチオンS-トランスフェラーゼP,N-Myc,TRADD,SGP-2,NIP-1,Id-2,ATF-4,ETR-101,ETR-103,マクロファージコロニー-刺激因子-1,ヘパリン-結合性EGF-様成長因子,肝細胞成長因子-様タンパク質,インヒビンα,CD19B-リンパ球抗原,L1CAM,β-カテニンならびにインテグリンサブユニットα3,α4,α6,β5,およびαMの発現を減少させるために投与する薬剤であって,有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBを含む上記薬剤。 【請求項26】癌の治療のための有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBおよび薬剤的に受容可能な担体または希釈剤を含む薬剤組成物であって,患者の癌細胞が正常細胞と比較して末梢-型ベンゾジアゼピン受容体(PBR)タンパク質を異常レベルで発現しており,また前記薬剤は,癌細胞がPBRタンパク質の過剰発現を示しているかどうかを決定した後投与され,ここで過剰発現の決定は,腫瘍細胞でのPBRレベルが正常細胞内のPBRレベルの約2-3倍から,約10-100倍までであるときに行われる前記薬剤組成物。 【請求項27】 治療の必要性のある患者での癌を治療するために投与する薬剤の製造のためのイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBの使用であって,前記患者の癌細胞が正常細胞と比較して末梢-型ベンゾジアゼピン受容体(PBR)タンパク質を異常レベルで発現しており,前記薬剤は,癌細胞がPBRタンパク質の過剰発現を示しているかどうかを決定した後投与され,ここで過剰発現の決定は,腫瘍細胞でのPBRレベルが正常細胞内のPBRレベルの約2-3倍から,約10-100倍までであるときに行われる前記使用。」 本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第6条によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下,単に「特許法」という)第17条の2第1項第4号に係る手続補正であって,同条第4項各号に規定する何れかの事項を目的とするものでなければならないので,以下検討する。 (3)補正の目的の検討 本件補正による補正後の各請求項と補正前の各請求項とを対比すると,補正後の請求項2?7は,それぞれ補正前の請求項1?6の記載を基にして,補正後の請求項1を引用して同項に従属させるものであり,補正後請求項8?16は,それぞれ補正前請求項7?15に対応して,これをさらに限定したものと解することができ,補正後請求項17?25は,それぞれ補正前請求項16?24をそのまま項番を1つずつ繰り下げたものであって,補正後請求項26は,補正前請求項25を限定したものと一応解することができるものである。 しかしながら,このように解した場合,補正後の請求項1及び27は,補正前の特許請求の範囲に新たな請求項を追加したものと解する他はなく,そのように新たな請求項を追加する補正は,改正前特許法第17条の2第4項各号の何れにも該当しないことは明らかである。また,そうすると,補正後請求項1を引用して同項に従属する形式となっている補正後請求項2?7についても,17条の2第4項第2号にいう「特許請求の範囲の減縮」にあたらないこととなるのは明らかであるし,これらの補正後請求項2?7の各項に係る補正の目的が17条の2第4項に規定する他の各号の何れにもあたらないことも明らかである。 もっとも,補正後請求項1は,内容的にみれば補正前請求項25を限定したものと解釈できないものではないが,仮にそのように解した場合には,補正後請求項1?7については,17条の2第4項第2号にいう「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正であると解し得ることになるが,その場合には,今度は補正後請求項26が本件補正により新たに追加されたものと解さざるを得なくなる上,補正後請求項27については依然として本件補正により新たに追加されたものであることに変わりないものである。そして,このように新たな請求項を追加する補正は,特許法17条の2第4項各号に規定した何れかの事項を目的とするものではないとされることとなる。 以上,要するに本件補正は,どのように解したとしても特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものとすることができないものである。 (4)小括 以上のとおりであるから,本件補正は,改正前特許法第17条の2第2項において準用する同法第17条第2項の規定に違反するので,特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.本願発明について (1)本願発明 平成18年12月22日付け手続補正は上記の通り却下されたので,本願請求項に係る発明は,平成15年4月7日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?25に記載された事項により特定されるとおりのものであって,その請求項25に係る発明(以下,「本願発明」という)は以下のとおりである。 「【請求項25】癌の治療のための有効量のイチョウの抽出物または単離されたギンコライドBおよび薬剤的に受容可能な担体または希釈剤を含む薬剤組成物。」 (2)引用刊行物 A.欧州特許出願公開359951号明細書(原査定の引用文献1) 原査定の拒絶の理由に引用され,この出願の優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな上記刊行物Aには以下のことが記載されている。 (A)刊行物Aの記載事項(独文のため翻訳文で記載する。) (A-1)第1欄第24?26行 「この発明は発病した転移性ガン腫の治療に対してイチョウ葉からの乾燥エキスの使用という点にある。」 (A-2)第1欄第32?48行 「イチョウ・フラボ配糖体と組み合わせた化学治療薬は,細胞分裂抑制剤のみを組み合わせて使用するよりも,より大きなガン腫成長抑制的な効果を見せることが明らかになった。細胞分裂抑制の化学治療薬の投与量は,化学治療薬が単独なものであっても組み合わせるものであっても,イチョウエキスの使用下では減少される。ガン腫成長抑制的効果のいっそうより高い有効性或いは相乗性は,イチョウエキスの数倍の先行注入を通してより少ない化学治療薬を適量用いることにより達成される。 そのためにイチョウエキスは細胞分裂抑制療法のガン腫成長抑制作用において相乗効果を惹き起こすという結論が導き出される。」 (A-3)第2欄第42?51行 「標準治療後すでに二つの細胞分裂抑制処置サイクルの適用を受けた患者は肺転移及び肝臓転移として処置されるだろう。例えば乳ガン患者において付加的或いは相乗的な効果はエピルビシン-シクロフォスファミドを使用する計画に対して適切であることが示された。結腸腫瘍においてリューコベリン+フルオロウラシルにイチョウ葉エキスを組み合わせた。 他の化学療法の記録との組み合わせにより同様な効果が期待できる。」 (A-4)第3欄請求の範囲 「1.転移性ガン発病における治療に利用するための薬品の製造に対するイチョウ葉からの乾燥エキスの使用。 … 4.溶剤中に溶解及び等張の食塩溶剤に混和された凍結乾燥品としてイチョウ葉エキス(GBE)の非経口の点滴における請求項1又は2に基づく使用。 5.一日の服用量GBE 200mgによって特徴づけられ,溶液12ml中に溶解され,又等張の食塩溶剤250mlに混和された請求項4に基づく使用。」 (3)本願発明と引用発明との対比 刊行物Aには,乳ガンを含む転移性ガン腫に対して,エピルビシン及びシクロフォスファミドといった化学治療薬と組み合わせて,イチョウ葉エキスを使用することにより,細胞分裂抑制効果が高まることが記載されている((A-1)?(A-3))。したがって,「イチョウ葉エキスと化学治療剤とを組み合わせた転移性ガン腫に対する薬剤」(以下「引用発明」という。)が記載されている。 そこで,本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明においても,薬剤的に受容可能な担体又は希釈剤を当然に含んでいると解せられるので,両者は「癌の治療のためのイチョウの抽出物及び薬剤的に受容可能な担体または希釈剤を含む薬剤組成物」の点で一致し,以下の点で一応相違するものである。 [相違点1]引用発明ではイチョウの抽出物が化学治療薬と組み合わされて使用されるのに対して,本願発明では他の薬剤と組み合わせて使用することが特定されていない点。 [相違点2]本願発明では「癌治療のための有効量の」イチョウ抽出物を含むとされているのに対して,引用発明ではそのような特定がなされていない点。 (4)検討 以下,一応の相違点とした上記相違点1及び2について検討する。 ・[相違点1]について 本願発明では,他の薬剤と組み合わせて使用することが特定されていないものの,一方単独で使用される旨の特定もなされていない。このことは,特許請求の範囲の記載のみならず,発明の詳細な説明においても同様であり,単独で使用されること或いは他の薬剤との併用は包含されない旨が明記されているものでもなく,また,他の薬剤と併用し得る旨の記載もなされていない。 ところで,本願発明の如き抗癌剤に関する技術分野においては,例えば,刊行物Aでもエピルビシンとシクロフォスファミドとが,またリューコベリンとフルオロウラシルとが組み合わされて使用されている(A-3)ように,複数の化学治療剤が組み合わされて使用されることはしばしば行われていることである。 このように薬剤の併用がしばしば行われているというこの分野の技術常識を踏まえて本願発明を解釈すると,イチョウ抽出物を単独で使用する旨の記載や他の治療剤との併用使用を積極的に排除する記載もなされていないのであるから,かかる技術常識に基づいて,例えば,引用発明で使用されているエピルビシンやシクロフォスファミド等の化学治療剤と組合せて使用するような,他の薬剤と併用することも本願発明の一態様として含まれるものと解するのがごく自然な解釈である。 すなわち,本願明細書には,イチョウ抽出物と他の薬剤との組合せについて,積極的に排除する記載も,また,許容する記載もなされていないものではあるが,この分野の技術常識を踏まえれば,本願発明においては,イチョウ抽出物を他の治療剤と併用することも含まれるものと解せられるので,上記相違点1については,本願発明と引用発明との実質的な相違点とすることができない。 ・[相違点2]について 刊行物Aにおけるイチョウ抽出物の投与量に関しては,「一日の服用量GBE 200mg」(例えば,(A-4)の請求項5等)とされている。 これに対して,本願発明における「癌治療のための有効量」が,具体的にどの程度の量かについては,他の請求項も含めて,明細書に具体的な数値範囲に関する記載は一切見あたらない。ただ,明細書【0059】?【0060】において,「治療を受ける患者に対し,前記患者の癌治療に十分な量で,」,「もしEGB761(登録商標)およびGKBの投与量,投与経路などがそのような反応に影響を与えるのに十分であれば,量は,癌治療にも十分であると言われている。」,「投与された量が生理的に意義があれば,そのような薬剤は"治療的有効量"で投与されたと言われている。」といった機能的でかつ漠然とした曖昧な記載がなされているに止まるものである。 このように本願発明の「癌治療のための有効量」に関してその内容が必ずしも明らかではないが,例えば,図1に結果が示されているインビトロ試験においては,イチョウ抽出物は2?200μg/mlといった幅の広い濃度で活性を示すものであることから,本願発明における「癌治療のための有効量」も相当広い範囲に亘るものと解される。 そうしてみると,引用発明における「一日の服用量GBE 200mg」といった量が本願発明の「癌治療のための有効量」に該当するものではないとすべき,明確な根拠は見出せず,したがって,本願発明において「癌治療のための有効量」と特定されていることによっては,引用発明と本願発明とが実質的に相違するものとすることができないものである。 (5)むすび 以上のとおりであるから,本願発明は,刊行物Aに記載の発明と実質的に差異があるものとすることができないので,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 なお,請求人は,当審における平成20年8月13日付け審尋に対して提出された同年11月14日付け回答書において補正案を提示しているが,そもそも明細書の補正ができる時期を徒過していることに加えて,その補正案を検討しても,以下の(1),(2)に示すとおり,上記した拒絶の理由が解消するものとすることができない。 (1)癌の種類を「乳癌」と特定することについては,上記刊行物Aにおいても,「例」として乳ガンに対する適用例が記載されていることから,このように特定されたとしても,刊行物A記載の発明と同一であることを否定する根拠とはならない。 (2)「前記患者の癌細胞が正常細胞と比較して…PBR…を異常レベルで発現しており,」等と特定することについては,本願明細書の記載(例えば【0009】?【0010】)から見て,転移性の癌細胞であれば,共通してPBRが異常発現するものであると解されるので,本願発明においてこのような特定がなされたとしても,「転移性ガン」と特定されている刊行物A記載の発明との差異が明確になるものではない。 以上 |
審理終結日 | 2009-07-29 |
結審通知日 | 2009-07-30 |
審決日 | 2009-08-20 |
出願番号 | 特願2001-516553(P2001-516553) |
審決分類 |
P
1
8・
574-
Z
(A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K) P 1 8・ 571- Z (A61K) P 1 8・ 572- Z (A61K) P 1 8・ 573- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松波 由美子 |
特許庁審判長 |
星野 紹英 |
特許庁審判官 |
穴吹 智子 井上 典之 |
発明の名称 | イチョウ抽出物の使用 |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 江尻 ひろ子 |
代理人 | 江尻 ひろ子 |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 小野 新次郎 |
代理人 | 社本 一夫 |