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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1209670
審判番号 不服2007-5111  
総通号数 122 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-02-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-02-16 
確定日 2010-01-07 
事件の表示 特願2002- 36568「インクジェット記録ヘッドのフレキシブルケーブル接続用回路基板」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 3月12日出願公開、特開2003- 72073〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯

本願は、平成14年2月14日(優先権主張 平成13年6月22日)の出願であって、平成18年7月31日付けで通知した拒絶理由に対して、同年9月29日付けで手続補正書が提出されたが、同年12月21日付けで拒絶査定がなされたものであって、これに対し、平成19年2月16日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年3月19日付けで手続補正書が提出され、その後、平成21年4月15日付けで、当審の審尋に対する回答書が提出されたものである。

上記平成19年3月19日付けの手続補正は、補正前の請求項1を削除し、補正前の請求項2?5を、補正後の新たな請求項1?4とするものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1号によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号に規定する「請求項の削除」に該当し、適法な補正と認める。
そして、本願の請求項1に係る発明は、上記手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のものと認められる。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)

「ノズル開口に連通しかつ加圧手段によりインクが加圧される圧力発生室、該圧力発生室にインクを供給するインク供給口を備えたインクジェット記録ヘッドと、フレキシブルケーブルとを接続する回路基板において、
前記回路基板の前記フレキシブルケーブルとの接続端子は、前記フレキシブルケーブルと非対向な位置にスルーホールを有し、かつ半田クリームを塗布してリフローにより半田層が形成され、
前記フレキシブルケーブルを接続する前記半田層は、電子部品を半田接続する半田クリームよりも薄く塗布された半田クリームにより形成されているインクジェット記録ヘッドのフレキシブルケーブル接続用回路基板。」


2.引用例に記載された発明

(1)引用例1
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された特開2001-138510号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審で付した。

(1a)「【0001】
【発明の属する技術の分野】本発明は、圧力発生室の内圧を軸方向に伸縮する圧電振動子により変化させてノズル開口からインク滴を発生させるインクジェット記録ヘッド、より詳細には各圧力発生室を加圧する圧電振動子の取付け構造に関する。」

(1b)「【0006】
【発明の実施の形態】図1、図2は本発明のインクジェット記録ヘッドの一実施例を示すものであって、流路ユニット1は、ノズル開口2を一定ピッチで穿設したノズルプレート3と、ノズル開口2に連通する圧力発生室4、これにインク供給口5を介してインクを供給するリザーバ6を備えた流路形成基板7と、圧電振動ユニット8の縦振動モードの各圧電振動子9の先端に当接して圧力発生室4の容積を膨張、縮小させる弾性板10とを一体に積層して構成されている。
【0007】流路ユニット1は、高分子材料の射出成形等により構成されたヘッドケース11の開口面12に、また圧電振動ユニット8は外部からの駆動信号を伝達するフレキシブルケーブル13に接続された上で収容室14に収容され、それぞれのヘッドケース11との当接面を接着剤により固定されノズルプレート側にシールド材を兼ねる枠体15を挿入して記録ヘッドに構成されている。このヘッドケース11には、外部のインクタンクに連通するインク誘導路16が形成されていて、その先端が流路ユニット1のインク導入口17に接続されている。
【0008】振動子ユニット8を構成する縦振動モードの圧電振動子9は、この実施例では図2に示したように一方の極となる内部電極20と、他方の極となる内部電極21とを圧電材料22を介してサンドイッチ状に積層し、一方の内部電極20を先端側に、また他方の内部電極21を後端側に露出させて、各端面でセグメント電極23、及び共通電極24に接続した圧電定数d31のものとして構成され、圧力発生室5の配列ピッチに一致させて固定基板25に固定されて図3に示したようにユニット8に纏められ、固定基板25が接着剤層26を介してヘッドケース11に固定されている。
【0009】またこの実施例においては、回路基板27にはホスト等外部から印刷信号を受けて駆動信号に変換する図示しない半導体装置が実装されいる。半導体装置からの駆動信号は、フレキシブルケーブル13に実装されたトランスミッションゲート等のスイッチング手段28を介して各圧電振動子9に供給されている。スイッチング回路28は、露出面を高い熱伝導性を備えたモールド剤や接着剤29により固定基板25と熱伝導関係を形成するように配置、固定されている。なお、図3において符号9’、9’は、それぞれ圧電振動子ユニット8を流路ユニット1の所定の位置に位置決めするためのダミーの圧電振動子を示す。
【0010】これら圧電振動子9は、熱伝導率の高い接着材により固定基板25に固定されていて、インク滴吐出時の誘電体損等による熱を速やかに固定基板25に吸収される。一方、固定基板25は、少なくとヘッドケース11を構成している材料や圧電材料22よりも熱伝導率の高い材料、例えば金属により構成されて、その熱容量が圧電振動子9、9、9、‥‥全体の熱容量よりも大きくなるようにその体積が選択され、接着剤によりヘッドケース11に固定されている。
【0011】この実施例によれば、外部駆動回路から印刷信号が入力すると、回路基板26の半導体装置により駆動信号に変換されてフレキシブルケーブル13により各圧電振動子9、9、9、…に出力される。駆動信号の充電信号を受けた圧電振動子9、9、9、…は、収縮して圧力発生室を膨張させる。これにより圧力発生室4が膨張し、リザーバ6のインクがインク供給口5を介して圧力発生室4に流入する。所定時間が経過した段階で、駆動信号の放電信号により圧電振動子9を放電させると、圧電振動子9が元の状態に伸長、復元して圧力発生室4を収縮させてノズル開口2からインク滴を吐出させる。」

(1c)上記(1b)において参照する【図2】は、以下のとおりである。



(1d)上記(1b)において摘記した段落【0009】、及び上記【図2】から、フレキシブルテーブルと回路基板が何らかの形で接続されていることは明らかである。

上記(1a)?(1d)の摘記事項等を総合して勘案すると、引用例1には以下の発明(以下、「引用例1記載の発明」という。)が実質的に記載されている。
「ノズル開口に連通しかつ圧電振動子により加圧される圧力発生室、該圧力発生室にインクを供給するインク供給口を備えたインクジェット記録ヘッドと、フレキシブルケーブルとを接続する回路基板。」

(2)引用例2
また、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された特開平10-135611号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(2a)「【0013】その後、図2に示すように、予備半田2の平坦面2aに対してフレキシブルケーブルのリード端子4を位置合わせして接合させた後に、パルスツールヘッド5を用いて前記接合部分を上方から熱加圧することによって、プリント基板1の銅箔ランド3とフレキシブルケーブルのリード端子4とを半田接続する。
【0014】図3は半田接続終了後のプリント基板1の銅箔ランド3とフレキシブルケーブルのリード端子4との状態を示しており、前記のように予備半田2におけるフレキシブルケーブルのリード端子4と接合する上部に平坦面2aを形成して平らにしてあるため、パルスツールヘッド5による上方から加わる熱加圧に際して、フレキシブルケーブルのリード端子4が予備半田2の平坦面2aを横移動することがなくなる。」

上記(2a)の摘記事項を総合して勘案すると、引用例2には以下の技術的事項(以下、「引用例2記載の技術的事項」という。)が実質的に記載されている。
「プリント基板のフレキシブルケーブルとのリード端子は、半田クリームを塗布してリフローにより半田層が形成されている」


3.本願発明1と引用例1記載の発明の対比

引用例1記載の発明の「圧電振動子」は、本願発明1の「加圧手段」に相当する。
そして、引用例1記載の「圧電振動子により加圧される圧力発生室」には、インクが供給されることから、引用例1記載の「圧電振動子により加圧される圧力発生室」は、本願発明1の「加圧手段によりインクが加圧される圧力発生室」に相当する。

したがって、両者は、
「ノズル開口に連通しかつ加圧手段によりインクが加圧される圧力発生室、該圧力発生室にインクを供給するインク供給口を備えたインクジェット記録ヘッドと、フレキシブルケーブルとを接続する回路基板。」
で一致し、以下の点で相違する。

(1)相違点1
本願発明1は、「回路基板のフレキシブルケーブルとの接続端子は、前記フレキシブルケーブルと非対向な位置にスルーホールを有し、かつ半田クリームを塗布してリフローにより半田層が形成され、前記フレキシブルケーブルを接続する前記半田層は、電子部品を半田接続する半田クリームよりも薄く塗布された半田クリームにより形成されている」のに対して、引用例1記載の発明は、回路基板のフレキシブルケーブルとの接続が、どのようになされているのか不明である点。


4.判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
プリント基板のフレキシブルケーブルとのリード端子は、半田クリームを塗布してリフローにより半田層が形成されている点が、上記「2.(2)」に示したように、引用例2に記載されている。
そして、引用例1記載の発明に、電子部品の接続という同じ技術分野に属する、引用例2記載の上記技術的事項を採用することは、当業者なら容易に想到しうるものである。
さらに、半田付けに関する技術において、半田クリームを塗布する厚さを、半田付けする各対象物に応じて適宜設定すること(半田層を薄くして、半田の供給過剰、半田のブリッジの発生防止すること)は、周知の技術的事項であり(例えば、特開平4-48689号公報(2頁左下欄14?18行等)、特開平2-29396号公報(2頁右上欄6?14行等)及び特開平5-318696号公報(段落【0014】)等参照。)、接続領域のみに半田が広がるよう、半田を逃がすスルーホールを設けることも、周知の技術的事項である(例えば、特開平3-132092号公報及び特開平4-37191号公報等参照。)。
よって、引用例1記載の回路基板とフレキシブルケーブルとの接続において、同じ技術分野に属する回路基板とフレキシブルケーブルとの接続に関する引用例2記載の技術的事項を適用し、かつ当該適用に当たって、半田付け技術として周知の技術的事項を採用して、本願発明1に係る構成となすことは、当業者なら容易に想到しうるものである。

なお、出願人は、審判請求書において、回路基板のフレキシブルケーブルとの接続領域の半田クリームを、電子部品を半田接続する領域よりも薄くすること、及び回路基板とフレキシブルケーブルとの接続端子の、フレキシブルケーブルと非対向な位置にスルーホールを形成することを示唆する記載が引用例には存在しない旨主張している。
また、回答書においても、「(b)前記回路基板の前記フレキシブルケーブルとの接続端子は、前記フレキシブルケーブルと非対向な位置にスルーホールを有し、かつ半田クリームを塗布してリフローにより半田層が形成され
」及び「(c)前記フレキシブルケーブルを接続する前記半田層は、電子部品を半田接続する半田クリームよりも薄く塗布された半田クリームにより形成されている」について、何れの引用例にも開示または示唆がないと主張し、特に、上記(c)の構成にあるような半田クリームの塗布厚みを電子部品の領域とフレキシブルケーブルとの接続端子の領域との関係を示した下位概念の構成を有し、当該下位概念に特有の作用効果を奏する旨主張している。

しかしながら、本願の発明の詳細な説明には、本願発明1に関して、スルーホールを形成する理由として、接続領域のみに半田が広がるようにするためとあり、また、半田クリームの塗布厚を薄くする理由として、接続端子の間隔等を考慮したため、及び、過剰な半田が付着してブリッジを形成するのを防止するため、と記載されており、これら理由は、従来周知の上記技術的事項の形成理由と何ら差異はない。
よって、回路基板とフレキシブルケーブルとの接続にあたって、これら周知技術を採用する動機付けは充分であり、かつ採用を阻害する要因もなく、さらに、周知技術を採用したことによる特有の作用効果もない。
したがって、出願人の主張は認められない。

(2)効果について
そして、全体として、本願発明1によってもたらされる効果は、引用例1記載の発明、引用例2記載の技術的事項及び周知の技術的事項から、当業者なら予測しうる程度のことであって、格別なものではない。


5.むすび

以上のとおりであり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1記載の発明、引用例2記載の技術的事項および周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により、特許を受けることができず、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-04 
結審通知日 2009-11-10 
審決日 2009-11-24 
出願番号 特願2002-36568(P2002-36568)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 桐畑 幸▲廣▼  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 赤木 啓二
大森 伸一
発明の名称 インクジェット記録ヘッドのフレキシブルケーブル接続用回路基板  
代理人 宮坂 一彦  
代理人 須澤 修  
代理人 上柳 雅誉  

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