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審決分類 審判 全部無効 特29条の2  B32B
管理番号 1210392
審判番号 無効2009-800092  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-05-08 
確定日 2010-01-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第4147162号発明「自己粘着性気泡性緩衝シート」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許4147162号は、平成15年8月11日に出願され、平成20年6月27日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対し、請求人から本件無効審判の請求がなされた。審判における手続の経緯は以下のとおりである。
平成21年 5月 8日 審判請求(請求人)
甲第1ないし4号証提出
平成21年 7月27日 答弁書(被請求人)
乙第1ないし3号証提出
平成21年10月22日 口頭審理陳述要領書(請求人)
甲第5ないし7号証提出
平成21年10月22日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
乙第4ないし7号証提出
平成21年10月22日 口頭審理

第2 本件特許発明について
本件特許4147162号の請求項1ないし9に係る発明は、本件特許明細書の特許請求の範囲に記載された以下のとおりのものである。(以下、請求項の番号に応じて「本件発明1」などといい、これらをまとめて単に「本件発明」ということがある。)

「【請求項1】
ベースフィルムの片面に、多数の独立気泡を備えたキャップフィルムを貼り合わせてなる気泡性緩衝シートの片面の少なくとも一部に、粘着剤層が配設されてなる自己粘着性気泡性緩衝シートであって、
前記ベースフィルムが、幅方向に横裂き可能な熱可塑性フィルムから構成されてなり、かつ、凹部を有し、当該凹部は、前記ベースフィルムの前記粘着剤層が配設されている面とは反対側の表面で前記独立気泡に対向する位置に存在する自己粘着性気泡性緩衝シート。
【請求項2】
ベースフィルムの片面に、多数の独立気泡を備えたキャップフィルムを貼り合わせてなる気泡性緩衝シートの片面の少なくとも一部に、粘着剤層が配設されてなる自己粘着性気泡性緩衝シートであって、
前記ベースフィルムには幅方向に横裂き可能な熱可塑性フィルムが積層され、
さらに、前記ベースフィルムは凹部を有し、当該凹部は、前記ベースフィルムの前記粘着剤層が配設されている面とは反対側の表面で前記独立気泡に対向する位置に存在する自己粘着性気泡性緩衝シート。
【請求項3】
ベースフィルムの片面に、多数の独立気泡を備えたキャップフィルムを貼り合わせてなる気泡性緩衝シートの片面の少なくとも一部に、粘着剤層が配設されてなる自己粘着性気泡性緩衝シートであって、
前記キャップフィルムに、幅方向に横裂き可能な熱可塑性フィルムが積層されてなり、
さらに、前記ベースフィルムは凹部を有し、当該凹部は、前記ベースフィルムの前記粘着剤層が配設されている面とは反対側の表面で前記独立気泡に対向する位置に存在する自己粘着性気泡性緩衝シート。
【請求項4】
前記ベースフィルムが、幅方向に横裂き可能な熱可塑性フィルムから構成されてなる請求項3記載の自己粘着性気泡性緩衝シート。
【請求項5】
前記ベースフィルムに、幅方向に横裂き可能な熱可塑性フィルムが積層されてなる請求項3記載の自己粘着性気泡性緩衝シート。
【請求項6】
前記熱可塑性フィルムが、インフレーション成形により成形されてなる請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の自己粘着性気泡性緩衝シート。
【請求項7】
前記熱可塑性フィルムが、ブロー比4以上で成形した高密度ポリエチレンフィルムからなる請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の自己粘着性気泡性緩衝シート。
【請求項8】
前記熱可塑性フィルムが、ブロー比3以下で成形した低密度ポリエチレンフィルムからなる請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の自己粘着性気泡性緩衝シート。
【請求項9】
前記凹部の面積は、前記ベースフィルムの10000mm^(2)あたり7000mm^(2)?8500mm^(2)である、請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の自己粘着性気泡性緩衝シート。」

第3 請求人の主張の要点
1 請求人は、本件発明1ないし9についての特許を無効にする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として、審判請求書に添付して甲第1ないし4号証及び平成21年10月22日付け口頭審理陳述要領書に添付して甲第5ないし7号証を提出し、概略、以下の無効理由1の主張をしているものと認められる。
(1) 無効理由1
本件発明1ないし9は、先願である特願2002-241501号の願書に最初に添付した明細書(甲第1号証参照。以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であり、しかも本件発明1ないし9の発明者が先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また本願の出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一であるとも認められないから、本件発明1ないし9は特許法29条の2の規定により特許を受けることができないので、本件発明1ないし9に係る特許は、同法123条1項2号に該当し、無効とされるべきものである。
(なお、無効理由2は、平成21年10月22日に行われた口頭審理により取り下げられた(第1回口頭審理調書参照)。)

2 請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。
甲第1号証 特願2002-241501号(特開2004-74725号公報)
甲第2号証 特開平10-315363号公報
甲第3号証 特開平1-299831号公報
甲第4号証 特開平11-129366号公報
甲第5号証 特開昭56-62871号公報
甲第6号証 実願昭63-135061号(実開平2-57937号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム
甲第7号証 実願昭61-95387号(実開昭63-1759号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム

第4 被請求人の反論の要点
1 被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として、答弁書に添付して乙第1ないし3号証及び平成21年10月22日付け口頭審理陳述要領書に添付して乙第4ないし7号証を提出を提出した。

2 被請求人の提出した証拠方法は以下のとおりである。
乙第1号証 実用新案登録第3098008号公報
乙第2号証 特開2004-190215号公報
乙第3号証 特開2004-196376号公報
乙第4号証 日本粘着テープ工業会 粘着ハンドブック編集委員会編集「粘着ハンドブック(第3版)」(2005年10月1日、日本粘着テープ工業会発行)、表紙、目次、20?23頁及び後付け
乙第5号証 「モノづくり解体新書[六の巻]」(平成6年8月20日、株式会社日刊工業新聞社発行)、表紙、目次、30?33頁、142?143頁及び後付け
乙第6号証 「かんきょうプチシリーズ」と題する資料(川上産業株式会社製造)
乙第7号証 平成17年11月4日付け「刊行物等提出書」

第5 甲各号証の記載内容
甲各号証には、以下の事項が記載されている。
1 甲第1号証 特願2002-241501号(特開2004-74725号公報)
(1-a) 「【請求項1】
プラスチックフィルムの熱成形により多数のキャップを成形したキャップフィルムのキャップの底面に、平坦なプラスチックのバックフィルムを貼り合わせ、さらに、キャップの頂を連ねて、もう1枚の平坦なプラスチックのライナーフィルムを貼り合わせて三層構成とした長尺のプラスチック気泡シートにおいて、キャップフィルム、バックフィルムおよびライナーフィルムの少なくともひとつに、長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムを使用した、引き裂きやすいプラスチック気泡シート。
・・・
【請求項7】
キャップフィルム、バックフィルムおよびライナーフィルムの少なくとも1種、またはキャップフィルムおよびバックフィルムの少なくとも1種が2層以上の多層フィルムであって、その多層の少なくとも1層が、長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムである請求項1または2の引き裂きやすいプラスチック気泡シート。」(特許請求の範囲、請求項1及び請求項7)
(1-b) 「【発明の属する技術分野】
本発明は、引き裂きやすく、人の手でも容易に切ることのできるプラスチック気泡シート(以下「気泡シート」と略称する)に関する。」(段落【0001】)
(1-c) 「長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムの、いまひとつの態様は、低分子量の高密度ポリエチレン(HDPE)をリング-ダイから低速で押し出し、高いブロー比をもってインフレーションを行ない、幅方向に延伸を加えて製造したフィルムである。」(段落【0012】)
(1-d) 「【実施例2】
密度0.94g/cm^(3)、数平均分子量80,000のHDPEをリングダイから線速度40cm/secで押し出し、ブロー比7のインフレーションを行ない、周方向の線に沿って裂けやすいポリエチレンフィルムを用意した。これをバックフィルムとし、同じHDPEのT-ダイ押し出しと熱成形ロールによる成形により用意したキャップフィルムと貼り合わせ、さらに、同じHDPEをT-ダイから押し出したライナーフィルムとの貼り合わせにより、下記の仕様の三層構成の気泡シートを製造した。
キャップフィルム:厚さ50μm
バックフィルム:厚さ35μm
ライナーフィルム:厚さ15μm
キャップ:直径10.0mm、高さ4.0mm、ピッチ11.5mm、千鳥配置
この気泡シートも、幅方向に引き裂きやすいものであった。」(段落【0018】)
(1-e) 「【発明の効果】
本発明の引き裂きやすい気泡シートは、長尺の製品の巻き取りから必要な量を切り取るに当り、手で引き裂くことができるから、ハサミやカッターナイフを使用する必要がなく、それらの使用に伴うわずらわしさや危険を避けて、所望の切り取りを行なうことができる。したがって本発明の気泡シートは、不定量の切り取り使用を必要とする用途、たとえば引っ越し荷物の包装、室内の模様替えや工事に際しての養生といった場合に、好適に使用することができる。」(段落【0019】)

2 甲第2号証 特開平10-315363号公報
(2-a) 「【0003】在来のプラスチック気泡シートは、全体として、必ずしも平坦性が高いとはいえない。 その理由は、バックフィルム(2B)のキャップの下にある部分と、キャップフィルムと融着した部分とが同じ平面上にないからである。 同じ平面にのらないのは、キャップフィルム(1A)にバックフィルムとなるフィルム(2A)が融着する瞬間において、フィルム(2A)は成形ロール上で張力を受けるためと、キャップフィルム成形時の真空吸引の影響で引き寄せられるために、図2に見るように、成形ロールの凹み(31)に乗った部分はちょうど太鼓の皮のように張ってしまい、成形ロールの周面上にある部分つまりキャップフィルムとの融着部分とは異なる面を形成してしまうからである。 加えて、一般に気泡シートのキャップは、頂部があまり張っていない、少ししぼんだ感じのものである。その理由は、ひとつは、加熱可塑化されたキャップフィルムおよびバックフィルムの温度とほぼ同じ温度に熱せられた空気が、成形後冷えて体積が収縮することであり、いまひとつは、上記のようにバックフィルムがキャップ内部に落ち込んだ形で成形されて、キャップ内部の容積を若干小さくしていることである。 製造された気泡シートは、誇張して描けば、図3Aのような断面を有し、図3Bの符号(21)の部分がキャップ内に落ち込んでいる。」(段落【0003】)
(2-b) 「【図3】

」(5頁左上)
(甲第3号証以下の摘記は省略する。)

第6 無効理由1に対する当審の判断
1 本件発明1について
(1) 先願明細書に記載された発明
先願明細書には
「【請求項1】
プラスチックフィルムの熱成形により多数のキャップを成形したキャップフィルムのキャップの底面に、平坦なプラスチックのバックフィルムを貼り合わせ、さらに、キャップの頂を連ねて、もう1枚の平坦なプラスチックのライナーフィルムを貼り合わせて三層構成とした長尺のプラスチック気泡シートにおいて、キャップフィルム、バックフィルムおよびライナーフィルムの少なくともひとつに、長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムを使用した、引き裂きやすいプラスチック気泡シート。」(摘示1-a)
に関する発明が記載されている。そして、この発明には、バックフィルムに「長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムを使用した」態様が包含されているので、先願明細書には、
「プラスチックフィルムの熱成形により多数のキャップを成形したキャップフィルムのキャップの底面に、平坦なプラスチックのバックフィルムを貼り合わせ、さらに、キャップの頂を連ねて、もう1枚の平坦なプラスチックのライナーフィルムを貼り合わせて三層構成とした長尺のプラスチック気泡シートにおいて、バックフィルムに、長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムを使用した、プラスチック気泡シート。」
の発明が記載されている。
したがって、この発明を本件発明1の記載ぶりに合わせると、先願明細書には、
「平坦なプラスチックのバックフィルムの片面に、プラスチックフィルムの熱成形により多数のキャップを成形したキャップフィルムを貼り合わせてなる二層シート体のキャップの頂を連ねて、もう1枚の平坦なプラスチックのライナーフィルムを貼り合わせて三層構成とした長尺のプラスチック気泡シートであって、
前記バックフィルムが、長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムを使用した、プラスチック気泡シート。」
の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2) 本件発明1と甲1-1発明との対比
甲1-1発明における「平坦なプラスチックのバックフィルム」、「プラスチックフィルムの熱成形により多数のキャップを成形したキャップフィルム」、「長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルム」、「を使用した」及び「二層シート体」は、それぞれ、本件発明1における「ベースフィルム」、「多数の独立気泡を備えたキャップフィルム」、「幅方向に横裂き可能な熱可塑性フィルム」、「から構成されてなり」及び「気泡性緩衝シート」に対応する。
以上を考慮して、本件発明1と甲1-1発明とを対比すると、両者は、
「ベースフィルムの片面に、多数の独立気泡を備えたキャップフィルムを貼り合わせてなる気泡性緩衝シートであって、前記ベースフィルムが、幅方向に横裂き可能な熱可塑性フィルムから構成されてなる気泡性緩衝シート。」
の点で一致するが、以下のア及びイの点で一応相違すると認められる。

ア 本件発明1が、気泡性緩衝シートの「片面の少なくとも一部に、粘着剤層が配設されてなる自己粘着性気泡性緩衝シート」であるのに対し、甲1-1発明では、二層シート体の「キャップの頂を連ねて、もう1枚の平坦なプラスチックのライナーフィルムを貼り合わせて三層構成とした長尺のプラスチック気泡シート」である点
イ ベースフィルムについて、本件発明1が「凹部を有し、当該凹部は、前記ベースフィルムの前記粘着剤層が配設されている面とは反対側の表面で前記独立気泡に対向する位置に存在する」と規定するのに対し、甲1-1発明はそのような規定がなされていない点
(以下、これらの相違点をそれぞれ「相違点ア」及び「相違点イ」という。)

(3) 相違点についての判断
ア 相違点アについて
先願明細書には、そもそも粘着剤層に関する記載ないし示唆は一切なされておらず、当然、甲1-1発明の「ライナーフィルム」が本件発明の「粘着剤層」に対応する旨の記載ないし示唆は皆無である。
そして、本件特許の出願時における技術常識を参酌しても、甲1-1発明における「ライナーフィルム」が「粘着剤層」と記載されているに等しいとは認められない。
むしろ、先願明細書の実施例2には、粘着性がないことが明らかなHDPE(審決注.高密度ポリエチレンのこと。)を、バックフィルムとキャップフィルムと同様に、ライナーフィルムの素材として用いている(摘示1-d参照)ことからみて、甲1-1発明のライナーフィルムは、粘着剤層として機能するものと解することはできないから、粘着剤層に対応するものとは認められない。
してみると、相違点アは実質的な相違点であると認められる。

イ 相違点イについて
まず、ベースフィルムからみて粘着剤層は独立気泡と同じ側に配設されていることを考慮すると、「当該凹部は、前記ベースフィルムの前記粘着剤層が配設されている面とは反対側の表面で」という文言は、凹部が独立気泡に対向する位置に存在することを、それとは別の表現で規定しているものであるから、「(ベースフィルムが・・・凹部を有し、)当該凹部は、・・・独立気泡に対向する位置に存在する」ことを、重ねて別の観点から規定したものと認められる。
そこで、甲1-1発明におけるバックフィルムが「凹部を有し、当該凹部は、・・・独立気泡に対向する位置に存在する」ものであるか否かについて検討する。
気泡性緩衝シート(プラスチック気泡シート)について、甲第2号証には、
「在来のプラスチック気泡シートは、全体として、必ずしも平坦性が高いとはいえない。・・・製造された気泡シートは、誇張して描けば、図3Aのような断面を有し、図3Bの符号(21)の部分がキャップ内に落ち込んでいる。」(摘示2-a)
と記載されているとともに、図3Aにはバックフィルム(本件発明のベースフィルム)の気泡に対向する位置に凹部が形成されることが示されている(摘示2-b)から、本件発明においても、ベースフィルムは「凹部を有し、当該凹部は、・・・独立気泡に対向する位置に存在する」ものと解される。
このことは、「キャップフィルム(1A)にバックフィルムとなるフィルム(2A)が融着する瞬間において、・・・キャップフィルム成形時の真空吸引の影響で引き寄せられるため」(摘示2-a)や「加熱可塑化されたキャップフィルムおよびバックフィルムの温度とほぼ同じ温度に熱せられた空気が、成形後冷えて体積が収縮する」(摘示2-a)ため、などの理由により、気泡性緩衝シートのベースフィルムが「凹部を有し、当該凹部は、・・・独立気泡に対向する位置に存在する」と考えることが技術的にみて合理的な解釈であることからも確認できる。
(なお、平成21年10月22日に行われた口頭審理において、被請求人も、気泡性緩衝シートでは「ベースフィルムの気泡と対向する位置に凹部が形成されることは必然的に起こる」と認めている(第1回口頭審理調書参照)。)
してみると、甲1-1発明においても、バックフィルムが「凹部を有し、当該凹部は、・・・独立気泡に対向する位置に存在する」ものであると認められるので、相違点イが実質的な相違点であるとは認められない。

ウ 請求人の主張について
請求人は、平成21年10月22日付け口頭審理陳述要領書において、以下のような主張をしている。
(i) 甲第5号証に記載されているように、自己粘着性の気泡シートにおいては、ライナーフィルムに粘着剤を塗布して粘着層として機能させていたことが一般的であった旨(3頁6?23行)、
(ii) 甲第6号証に記載されているように、ライナーフィルムに粘着剤層を形成することは、少なくとも気泡シートの技術分野においては本件特許の出願時には慣用技術となっていた旨(4頁2?16行)、
(iii) 本件特許発明おける「粘着剤層」が、基礎となるフィルム材に粘着剤を塗布等したものではなく、一層からなっているとしても、これらの粘着剤層は、本件特許の出願時には慣用技術となっていた(甲第5号証?甲第7号証参照)から、「ベースフィルムの片面に、多数の独立気泡を備えたキャップフィルムを貼り合わせてなる気泡性緩衝シートの片面の一部に、粘着剤層が配設されてなる気泡性緩衝シート」は、昭和時代から知られている慣用技術に過ぎず、甲第1号証に記載されていた事項と等しいものである旨(4頁下から3行?5頁8行)。

しかしながら、上記(i)の主張については、先願明細書には粘着剤層に関する記載ないし示唆は一切なされておらず、また、本件特許の出願時における技術常識を参酌しても、甲1-1発明における「ライナーフィルム」が「粘着剤層」と記載されているに等しいとは認められないから、自己粘着性の気泡シートにおいてライナーフィルムに粘着剤を塗布して粘着層として機能させていたことが一般的であったとしても、そのことが先に「ア 相違点アについて」で述べた結論に影響を及ぼすものではない。
また、上記(ii)及び(iii)の主張については、本件特許の出願時において、気泡性緩衝シートにおいて粘着剤層を設けないことは広く行われる通常の使用の態様であったのであるから、先願明細書には粘着剤層に関する記載ないし示唆は一切なされておらず、当然、ライナーフィルムが粘着剤層に対応する旨の記載ないし示唆は皆無であり、そして、本件特許の出願時における技術常識を参酌しても、甲1-1発明における「ライナーフィルム」が「粘着剤層」と記載されているに等しいと認められない以上、甲第5号証?甲第7号証を参酌しても、甲1-1発明のライナーフィルムは粘着剤層として機能するものと解することはできないし、また、「ベースフィルムの片面に、多数の独立気泡を備えたキャップフィルムを貼り合わせてなる気泡性緩衝シートの片面の一部に、粘着剤層が配設されてなる気泡性緩衝シート」が甲第1号証に記載されていた事項と等しいものであると認めることもできない。
よって、請求人の上記(i)?(iii)の主張は、先の「ア 相違点アについて」の判断を左右するものではない。

(4) 本件発明1についてのまとめ
したがって、本件発明1は、甲1-1発明と相違点アの点で実質的に相違するので、先願明細書に記載された発明(甲1-1発明)と同一であるとはいえない。

2 本件発明2について
(1) 先願明細書に記載された発明
先願明細書には
「【請求項1】
プラスチックフィルムの熱成形により多数のキャップを成形したキャップフィルムのキャップの底面に、平坦なプラスチックのバックフィルムを貼り合わせ、さらに、キャップの頂を連ねて、もう1枚の平坦なプラスチックのライナーフィルムを貼り合わせて三層構成とした長尺のプラスチック気泡シートにおいて、キャップフィルム、バックフィルムおよびライナーフィルムの少なくともひとつに、長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムを使用した、引き裂きやすいプラスチック気泡シート。
・・・
【請求項7】
キャップフィルム、バックフィルムおよびライナーフィルムの少なくとも1種、またはキャップフィルムおよびバックフィルムの少なくとも1種が2層以上の多層フィルムであって、その多層の少なくとも1層が、長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムである請求項1または2の引き裂きやすいプラスチック気泡シート。」(摘示1-a)
に関する発明が記載されている。そして、この請求項7に係る発明には、バックフィルムに「長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルム」が積層された態様が包含されているので、先願明細書には、
「プラスチックフィルムの熱成形により多数のキャップを成形したキャップフィルムのキャップの底面に、平坦なプラスチックのバックフィルムを貼り合わせ、さらに、キャップの頂を連ねて、もう1枚の平坦なプラスチックのライナーフィルムを貼り合わせて三層構成とした長尺のプラスチック気泡シートにおいて、バックフィルムに長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムが積層された、引き裂きやすいプラスチック気泡シート。」
の発明が記載されている。
したがって、この発明を本件発明2の記載ぶりに合わせると、先願明細書には、
「平坦なプラスチックのバックフィルムの片面に、プラスチックフィルムの熱成形により多数のキャップを成形したキャップフィルムを貼り合わせてなる二層シート体の、キャップの頂を連ねて、もう1枚の平坦なプラスチックのライナーフィルムを貼り合わせて三層構成とした長尺のプラスチック気泡シートであって、
前記バックフィルムには長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムが積層された、プラスチック気泡シート。」
の発明(以下、「甲1-2発明」という。)が記載されていると認められる。

(2) 本件発明2と甲1-2発明との対比
甲1-2発明における「平坦なプラスチックのバックフィルム」、「プラスチックフィルムの熱成形により多数のキャップを成形したキャップフィルム」、「長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルム」及び「二層シート体」は、それぞれ、本件発明2における「ベースフィルム」、「多数の独立気泡を備えたキャップフィルム」、「幅方向に横裂き可能な熱可塑性フィルム」及び「気泡性緩衝シート」に対応する。
以上を考慮して、本件発明2と甲1-2発明とを対比すると、両者は、
「ベースフィルムの片面に、多数の独立気泡を備えたキャップフィルムを貼り合わせてなる気泡性緩衝シートであって、
前記ベースフィルムには幅方向に横裂き可能な熱可塑性フィルムが積層されてなる気泡性緩衝シート。」
の点で一致するが、以下のア’及びイ’の点で一応相違すると認められる。

ア’ 本件発明2が、気泡性緩衝シートの「片面の少なくとも一部に、粘着剤層が配設されてなる自己粘着性気泡性緩衝シート」であるのに対し、甲1-2発明では、二層シート体の「キャップの頂を連ねて、もう1枚の平坦なプラスチックのライナーフィルムを貼り合わせて三層構成とした長尺のプラスチック気泡シート」である点
イ’ ベースフィルムについて、本件発明2が「凹部を有し、当該凹部は、前記ベースフィルムの前記粘着剤層が配設されている面とは反対側の表面で前記独立気泡に対向する位置に存在する」と規定するのに対し、甲1-2発明はそのような規定がなされていない点
(以下、これらの相違点をそれぞれ「相違点ア’」及び「相違点イ’」という。)

(3) 相違点についての判断
ア 相違点ア’について
先に第6の1(3)アで述べたのと同様の理由により、相違点ア’は実質的な相違点であると認められる。

イ 相違点イ’について
先に第6の1(3)イで述べたのと同様の理由により、相違点イ’が実質的な相違点であるとは認められない。

(4) 本件発明2についてのまとめ
したがって、本件発明2は、甲1-2発明と相違点ア’の点で実質的に相違するので、先願明細書に記載された発明(甲1-2発明)と同一であるとはいえない。

3 本件発明3について
(1) 先願明細書に記載された発明
先願明細書には
「【請求項1】
プラスチックフィルムの熱成形により多数のキャップを成形したキャップフィルムのキャップの底面に、平坦なプラスチックのバックフィルムを貼り合わせ、さらに、キャップの頂を連ねて、もう1枚の平坦なプラスチックのライナーフィルムを貼り合わせて三層構成とした長尺のプラスチック気泡シートにおいて、キャップフィルム、バックフィルムおよびライナーフィルムの少なくともひとつに、長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムを使用した、引き裂きやすいプラスチック気泡シート。
・・・
【請求項7】
キャップフィルム、バックフィルムおよびライナーフィルムの少なくとも1種、またはキャップフィルムおよびバックフィルムの少なくとも1種が2層以上の多層フィルムであって、その多層の少なくとも1層が、長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムである請求項1または2の引き裂きやすいプラスチック気泡シート。」(摘示1-a)
に関する発明が記載されている。そして、この請求項7に係る発明には、キャップフィルムに「長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルム」が積層された態様が包含されているので、先願明細書には、
「プラスチックフィルムの熱成形により多数のキャップを成形したキャップフィルムのキャップの底面に、平坦なプラスチックのバックフィルムを貼り合わせ、さらに、キャップの頂を連ねて、もう1枚の平坦なプラスチックのライナーフィルムを貼り合わせて三層構成とした長尺のプラスチック気泡シートにおいて、キャップフィルムに長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムが積層された、引き裂きやすいプラスチック気泡シート。」
の発明が記載されている。
したがって、この発明を本件発明3の記載ぶりに合わせると、先願明細書には、
「平坦なプラスチックのバックフィルムの片面に、プラスチックフィルムの熱成形により多数のキャップを成形したキャップフィルムを貼り合わせてなる二層シート体の、キャップの頂を連ねて、もう1枚の平坦なプラスチックのライナーフィルムを貼り合わせて三層構成とした長尺のプラスチック気泡シートであって、
前記キャップフィルムに、長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルムが積層された、プラスチック気泡シート。」
の発明(以下、「甲1-3発明」という。)が記載されていると認められる。

(2) 本件発明3と甲1-3発明との対比
甲1-3発明における「平坦なプラスチックのバックフィルム」、「プラスチックフィルムの熱成形により多数のキャップを成形したキャップフィルム」、「長手方向に対して直角の線に沿って裂けやすいフィルム」及び「二層シート体」は、それぞれ、本件発明3における「ベースフィルム」、「多数の独立気泡を備えたキャップフィルム」、「幅方向に横裂き可能な熱可塑性フィルム」及び「気泡性緩衝シート」に対応する。
以上を考慮して、本件発明3と甲1-3発明とを対比すると、両者は、
「ベースフィルムの片面に、多数の独立気泡を備えたキャップフィルムを貼り合わせてなる気泡性緩衝シートであって、
前記キャップフィルムに、幅方向に横裂き可能な熱可塑性フィルムが積層されてなる気泡性緩衝シート。」
の点で一致するが、以下のア”及びイ”の点で一応相違すると認められる。

ア” 本件発明3が、気泡性緩衝シートの「片面の少なくとも一部に、粘着剤層が配設されてなる自己粘着性気泡性緩衝シート」であるのに対し、甲1-3発明では、二層シート体の「キャップの頂を連ねて、もう1枚の平坦なプラスチックのライナーフィルムを貼り合わせて三層構成とした長尺のプラスチック気泡シート」である点
イ” ベースフィルムについて、本件発明3が「凹部を有し、当該凹部は、前記ベースフィルムの前記粘着剤層が配設されている面とは反対側の表面で前記独立気泡に対向する位置に存在する」と規定するのに対し、甲1-3発明はそのような規定がなされていない点
(以下、これらの相違点をそれぞれ「相違点ア”」及び「相違点イ”」という。)

(3) 相違点についての判断
ア 相違点ア”について
先に第6の1(3)アで述べたのと同様の理由により、相違点ア”は実質的な相違点であると認められる。

イ 相違点イ”について
先に第6の1(3)イで述べたのと同様の理由により、相違点イ”が実質的な相違点であるとは認められない。

(4) 本件発明3についてのまとめ
したがって、本件発明3は、甲1-3発明と相違点ア”の点で実質的に相違するので、先願明細書に記載された発明(甲1-3発明)と同一であるとはいえない。

4 本件発明4及び本件発明5について
本件発明4及び本件発明5は、本件発明3を引用して更にその内容を限定するものであるから、本件発明3と同様の理由で、先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。

5 本件発明6ないし本件発明9について
本件発明6ないし本件発明9は、本件発明1ないし本件発明3を引用して更にその内容を限定する態様を含むから、本件発明1ないし本件発明3と同様の理由で、先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。

6 したがって、無効理由1は理由がない。

第7 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由1は理由がないから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1ないし9の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-09 
結審通知日 2009-11-11 
審決日 2009-12-02 
出願番号 特願2003-291738(P2003-291738)
審決分類 P 1 113・ 16- Y (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 唐木 以知良
特許庁審判官 橋本 栄和
松本 直子
登録日 2008-06-27 
登録番号 特許第4147162号(P4147162)
発明の名称 自己粘着性気泡性緩衝シート  
代理人 森崎 博之  
代理人 渡辺 喜平  
代理人 中山 真一  
代理人 岡野 功  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  

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