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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A63B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63B
管理番号 1211034
審判番号 不服2006-22527  
総通号数 123 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-03-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-10-05 
確定日 2010-02-04 
事件の表示 特願2002-235762「スリーピースソリッドゴルフボール」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月15日出願公開、特開2003-199845〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年8月13日(優先権主張 平成13年10月23日)の出願であって、平成18年8月31日付け(起案日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月5日に拒絶査定不服審判請求がなされるとともに、同年11月2日付けで明細書についての手続補正がされ、同年12月21日付けで審判請求についての手続補正がなされたものである。
これに対し、当審において、平成19年3月19日付けで審査官により作成された前置報告書について、平成20年4月22日付けで審尋を行ったところ、審判請求人は同年6月26日付けで回答書を提出した。

第2 平成18年11月2日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年11月2日付け手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容及びその目的について
(1)平成18年11月2日手続補正(以下「本件補正」という。)は明細書についてするもので、特許請求の範囲に関して、本件補正前(本願の願書に最初に添付された明細書によるもの)において、
「【請求項1】 センター(1)と該センター上に形成された中間層(2)と該中間層を被覆するカバー(3)とから成り、かつ該カバーの表面に多数のディンプルを形成したスリーピースソリッドゴルフボールにおいて、
該センター(1)が中心から表面までのショアD硬度による最大硬度差が7以下であり、かつ表面硬度(H_(S))36?50を有し、
該中間層(2)の基材樹脂が熱可塑性樹脂から形成され、かつショアD硬度による硬度(H_(M))36?50を有し、
該カバー(3)の基材樹脂が熱可塑性樹脂から形成され、ショアD硬度による硬度(H_(L))58?69を有し、
該センターの表面硬度(H_(S))が該中間層硬度(H_(M))より0?15だけ高く、かつ該カバー硬度(H_(L))が該中間層硬度(H_(M))より10?28だけ高く、
該ディンプルの輪郭長さの総合計をX(mm)で表し、該ディンプルのボール表面積占有率をYで表したとき、XとYとが以下の式(1):
X≦1930+3882Y (1)
で表される関係を満足し、かつYが0.70?0.90である
ことを特徴とするスリーピースソリッドゴルフボール。
【請求項2】 前記中間層(2)が厚さ1.0?1.8mmを有し、かつ前記カバー(3)が厚さ1.0?2.5mmを有する請求項1記載のスリーピースソリッドゴルフボール。
【請求項3】 前記カバー(3)が中間層(2)以上の厚さを有する請求項1または2記載のスリーピースソリッドゴルフボール。
【請求項4】 前記中間層(2)の基材樹脂が熱可塑性エラストマー/アイオノマー樹脂の重量比20/80?70/30を有する熱可塑性樹脂から形成され、かつ前記カバー(3)の基材樹脂がアイオノマー樹脂を主材として含有する熱可塑性樹脂から形成される請求項1?3のいずれか1項記載のスリーピースソリッドゴルフボール。
【請求項5】 前記中間層(2)の基材樹脂が熱可塑性エラストマー/アイオノマー樹脂の重量比20/80?50/50を有する熱可塑性樹脂から形成され、かつ前記カバー(3)の基材樹脂がアイオノマー樹脂を主材として含有する熱可塑性樹脂から形成される請求項1?3のいずれか1項記載のスリーピースソリッドゴルフボール。
【請求項6】 前記ディンプルの輪郭長さ10.5mm以上を有するディンプルの個数が、ディンプル総数の90%より多い請求項1?5のいずれか記載のスリーピースソリッドゴルフボール。」
とあったものを、
「【請求項1】 センター(1)と該センター上に形成された中間層(2)と該中間層を被覆するカバー(3)とから成り、かつ該カバーの表面に多数のディンプルを形成したスリーピースソリッドゴルフボールにおいて、
該センター(1)が中心から表面までのショアD硬度による最大硬度差が7以下であり、かつ表面硬度(H_(S))36?50を有し、
該中間層(2)の基材樹脂が熱可塑性樹脂から形成され、かつショアD硬度による硬度(H_(M))36?50を有し、
該カバー(3)の基材樹脂が熱可塑性樹脂から形成され、ショアD硬度による硬度(H_(L))58?69を有し、
該センターの表面硬度(H_(S))が該中間層硬度(H_(M))より0?15だけ高く、かつ該カバー硬度(H_(L))が該中間層硬度(H_(M))より10?28だけ高く、
該ディンプルの輪郭長さの総合計をX(mm)で表し、該ディンプルのボール表面積占有率をYで表したとき、XとYとが以下の式(1):
3882Y+1030≦X≦3882Y+1879 (1)
で表される関係を満足し、かつYが0.780?0.853である
ことを特徴とするスリーピースソリッドゴルフボール。
【請求項2】 前記中間層(2)が厚さ1.0?1.8mmを有し、かつ前記カバー(3)が厚さ1.0?2.5mmを有する請求項1記載のスリーピースソリッドゴルフボール。
【請求項3】 前記カバー(3)が中間層(2)以上の厚さを有する請求項1または2記載のスリーピースソリッドゴルフボール。
【請求項4】 前記中間層(2)の基材樹脂が熱可塑性エラストマー/アイオノマー樹脂の重量比20/80?70/30を有する熱可塑性樹脂から形成され、かつ前記カバー(3)の基材樹脂がアイオノマー樹脂を主材として含有する熱可塑性樹脂から形成される請求項1?3のいずれか1項記載のスリーピースソリッドゴルフボール。
【請求項5】 前記中間層(2)の基材樹脂が熱可塑性エラストマー/アイオ
ノマー樹脂の重量比20/80?50/50を有する熱可塑性樹脂から形成され、かつ前記カバー(3)の基材樹脂がアイオノマー樹脂を主材として含有する熱可塑性樹脂から形成される請求項1?3のいずれか1項記載のスリーピースソリッドゴルフボール。
【請求項6】 前記ディンプルの輪郭長さ10.5mm以上を有するディン
プルの個数が、ディンプル総数の90%より多い請求項1?5のいずれか記載のスリーピースソリッドゴルフボール。」と補正するものである。

(2)上記(1)で示した、本件補正のうち特許請求の範囲についてする補正は、独立請求項である請求項1について、以下ア及びイに示すとおり、その数値範囲を限定するとともに、従属請求項である他の請求項については記載を変更しないものである。
ア ディンプルの輪郭長さの総合計をX(mm)で表し、ディンプルのボール表面積占有率をYで表したときの両者の満たす関係式が、本件補正前に
「X≦1930+3882Y」
とあったものを、
「3882Y+1030≦X≦3882Y+1879」
とする。
イ ディンプルのボール表面積占有率Yの数値範囲について、本件補正前に「0.70?0.90」とあったものを、「0.780?0.853」とする。
(3)よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって、以下では、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けられるものであるか(旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)を検討する。

2 独立特許要件について
(1)特許法第36条第6項第1号違反
ア 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1には、
「該ディンプルの輪郭長さの総合計をX(mm)で表し、該ディンプルのボール表面積占有率をYで表したとき、XとYとが以下の式(1):XとYとが以下の式(1):
3882Y+1030≦X≦3882Y+1879 (1)
で表される関係を満足し、かつYが0.780?0.853である」
と記載されている。
イ 上記XとYの関係式及びYの数値範囲についての技術的意義に関して、本願明細書の発明の詳細な説明には、段落【0045】に
「XとYとが以下の式(1):
X≦1930+3882Y (1)
で表される関係を満足することを要件とする。上記Xが式(1)を満たすことによりディンプル輪郭長の大きいディンプル種類をできるだけ多く配置することが可能であり、バックスピンをかけて打出した直後のボールの抗力を小さくする事でボール速度の推移の軽減をはかり飛距離増大に繋がる。」
と記載されているとともに、段落【0047】に好適なXとYの関係式について記載されている。
また、段落【0048】には、Yの数値範囲に関して、
「本発明のゴルフボールにおいて、ディンプルのボール表面積占有率Yは、0.70?0.90であることを要件とするが、好ましくは0.75?0.90、より好ましくは0.75?0.88である。上記Y値が、0.70未満ではボールが上がりにくい(低弾道)ため飛距離が減少する。0.90より大きいとボールが吹き上がりすぎて飛距離が減少する。」と記載されている。
しかしながら、上記以外の箇所には、具体例の記載を除いて、上記XとYの関係式及びYの数値範囲についての技術的意義を示す記載はない。
ウ 上記アに示した本件補正後の請求項1の記載と、上記イに示した本件の発明の詳細な説明の記載とについてみるに、以下の(ア)及び(イ)がいえる。
(ア)上記発明の詳細な説明には、「ディンプル輪郭長の大きいディンプル種類をできるだけ多く配置すること」が「飛距離の増大」につながることが記載されており、そのようなディンプルを有するゴルフボールを得るために、ディンプルの輪郭長さの総合計をX(mm)で表し、該ディンプルのボール表面積占有率をYで表したときに所定の関係式を満たすと好適である旨記載されているが、どのようにして上記XとYの上記関係式を得たものであるのか、その因果関係及びメカニズムに関しては、上記記載を含む本願の発明の詳細な説明には、記載も示唆もされておらず、当業者にとって自明の事項であるとも認められない。
したがって、本願の発明の詳細な説明において、本件補正後の請求項1に記載された上記XとYの関係式を満たすディンプルを有するゴルフボールと、飛距離の増大という本願の課題との技術的意義が把握できる記載は、具体例として記載された実施例1?11及び比較例1?8のみである。
(イ)上記発明の詳細な説明には、ディンプルの表面積占有率Yが所定の範囲内にあるとき、弾道の高さとの関係において、飛距離の増大につながることが記載されているが、どのようにして上記ディンプルの表面積占有率Yの数値範囲を得たものであるのか、その因果関係及びメカニズムに関しては、上記記載を含む本願の発明の詳細な説明には、記載も示唆もされておらず、当業者にとって自明の事項であるとも認められない。
したがって、本願の発明の詳細な説明において、本件補正後の請求項1に記載された上記ディンプルの表面積占有率Yの数値範囲と、飛距離の増大という本願の課題との技術的意義が把握できる記載は、具体例として記載された実施例1?11及び比較例1?8のみである。
エ 本願の発明の詳細な説明には、スリーピースソリッドゴルフボールの具体例として実施例1?11及び比較例1?8が記載されている。これらの具体例の「X-3882Y」及び「Y」の値を以下に表で示す。なお、「X-3882Y」の値が1030?1879に入るものが、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の数値範囲に入る具体例である。
----------------------------------
X-3882Y Y
----------------------------------
実施例1?7 1642 0.780
実施例8 1879 0.796
実施例9 1444 0.786
実施例10 1444 0.853
実施例11 1030 0.817
比較例1?6 1642 0.780
比較例7 2143 0.793
比較例8 2218 0.758
----------------------------------
(審決注:XとYの関係式が請求項1の数値範囲を満たすもの、及び、Yの値が請求項1の数値範囲を満たすものについて、下線を付した。)
上記表から明らかなように、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されたXとYの関係式を満たすゴルフボールには、本願の発明の詳細な説明に記載された発明が解決しようとする課題を解決することができない比較例1ないし6が含まれている。また、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載されたディンプルの表面積占有率Yの数値範囲に含まれるゴルフボールには、本願の発明の詳細な説明に記載された発明が解決しようとする課題を解決することができない比較例1ないし7が含まれている。
したがって、本願の発明の詳細な説明に記載された発明が解決しようとする課題との関係において、課題を解決することができない比較例を含む数値範囲をXとYの関係式として採用すること、及び、課題を解決することができない比較例を含む数値範囲をYの数値範囲として採用することは、他のゴルフボールの物性に関する値が異なることを前提として解釈しても、本願の発明の詳細な説明に記載された発明の具体例である各実施例及び各比較例に基づいて、当業者が自明になし得たものとは認められない。
よって、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「該ディンプルの輪郭長さの総合計をX(mm)で表し、該ディンプルのボール表面積占有率をYで表したとき、XとYとが以下の式(1):XとYとが以下の式(1):
3882Y+1030≦X≦3882Y+1879 (1)
で表される関係を満足し、かつYが0.780?0.853である」
との技術事項は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものではなく、また、本願の発明の詳細な説明の記載事項から当業者が自明に把握できた事項であるとも認められない。
オ よって、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及びその従属請求項(請求項2ないし6)の記載は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6号第1項に規定された要件(サポート要件)を満たさない。

(2)特許法第29条第2項違反
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、上記アに示したように、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
しかしながら、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載からスリーピースソリッドゴルフボールの構成を把握することができるので、特許請求の範囲に記載された事項から把握される発明が本願の発明の詳細な説明の記載から理解できるものと善解し、以下では、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載の発明(以下「本件補正発明」という。)について、進歩性についても検討する。
ア 本件補正発明
本件補正発明は上記1(1)において、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1として記載したとおりのものと認める。

イ 引用刊行物
原査定に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2001-218871号公報(以下「引用例」という。)には、図面とともに以下の記載がある。なお、以下において下線は審決で付した。
(ア)「【請求項1】 コア(1)と該コア上に形成された中間層(2)と該中間層を被覆するカバー(3)とから成るスリーピースソリッドゴルフボールにおいて、該コア(1)が、ポリブタジエン100重量部に対して、有機硫黄化合物A重量部、有機過酸化物B重量部、共架橋剤C重量部を含有するゴム組成物から成る場合に、式:
F={(A×B)^(2)×C/(A+B)}
で表される配合変数Fが1?8であり、該コア(1)のJIS‐C硬度による表面硬度をK、該中間層(2)のJIS‐C硬度による硬度をL、該カバー(3)のJIS-C硬度による硬度をM、該中間層の厚さをW(mm)、該カバーの厚さをX(mm)で表したとき、式:
S=[{(K-L)×W}/{(M-K)×X}]
で表される衝撃吸収変数Sが0.4?1.0であり、かつ硬度差(K-L)が10?30であることを特徴とするスリーピースソリッドゴルフボール。
【請求項2】 前記コア(1)の表面硬度(K)と該コアのJIS-C硬度による中心硬度(J)との差(K-J)が2?8である請求項1記載のスリーピースソリッドゴルフボール。
【請求項3】 前記中間層(2)が、基材樹脂全体に対して10?100%のポリウレタン系熱可塑性エラストマーを含有する請求項1または2のいずれか1項記載のスリーピースソリッドゴルフボール。
【請求項4】 前記コア(1)の初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1274Nを負荷したときまでの圧縮変形量(D)と、前記中間層(2)の初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1274Nを負荷したときまでの圧縮変形量(E)との比(D/E)が0.8?1.2である請求項1?3のいずれか1項記載のスリーピースソリッドゴルフボール。
【請求項5】 前記中間層(2)の比重が前記コア(1)の比重より0.07以上だけ大きい請求項1?4のいずれか1項記載のスリーピースソリッドゴルフボール。」
(イ)「【0019】ゴルフボールの飛行性能を向上するためには、反発性能をすることおよび過度のスピン量の増大を抑制することが必要であり、そのためにはカバー硬度が大きいことが重要である。また、中間層の硬度を適度に低くすることにより打撃時のカバーの衝撃を吸収する効果を得ることができ、更にコアの表面硬度を適度に低くすることにより良好な打球感を得ることができる。しかしながら、コアはゴルフボール全体の反発性能のために最低限の硬度が必要であり、またカバーおよび中間層の厚さも反発性能や衝撃吸収性能に大きな影響を与える。
【0020】本発明者等は、まず、中間層の硬度を低く設定することにより打球感を向上することができることに着目し、かつ{(K-L)×W}と{(M-K)×X}との関係が重要であることを見出した。{(K-L)×W}はコアの剛性に対する中間層の剛性の小ささを表すものであり、打球感や反発性能に及ぼす効果を表す指数となるものであり、{(M-K)×X}はコアの剛性に対するカバーの剛性の大きさを表すものであり、カバーが打球感や反発性能に及ぼす効果を表す指数となるものである。そこで本発明では、上記2つの指数の比を衝撃吸収変数(S)として表し、特定範囲内、即ち、0.4?1.0に規定することにより、コア、中間層およびカバーの構造全体について最適な反発性能を実現しつつ、打撃時の衝撃を吸収し、良好な打球感が得られることを見出したものである。上記衝撃吸収変数(S)が、0.4より小さいとカバーの剛性の大きさの程度[即ち、{(M-K)×X}]に対する中間層の剛性の小ささの程度[即ち、{(K-L)×W}]が小さくなり、中間層による衝撃吸収効果が十分に得られなくなったり、カバーの剛性が高くなり過ぎて、打球感が悪くなる。上記衝撃吸収変数(S)が1.0より大きいと、中間層の剛性が低くなり過ぎたり、カバーの剛性が低くなり過ぎて、衝撃吸収効果が大きくなり過ぎて逆に反発性能が低下する。よって、上記衝撃吸収変数(S)は好ましくは0.5?0.9、より好ましくは0.6?0.9、更に好ましくは0.65?0.85である。
【0021】本発明では、更にコア(1)のJIS‐C硬度による表面硬度(K)と中間層(2)のJIS‐C硬度による硬度(L)との差(K-L)が10?30、好ましくは15?25、より好ましくは17?23であることを要件とする。上記硬度差(K-L)が10より小さいと衝撃吸収効果が十分に得られず打球感が悪くなり、30より大きいと衝撃吸収効果が大きくなり過ぎて逆に反発性能が低下する。
【0022】本発明では、コア(1)の硬度分布は、反発性能とコアの適度な変形が必要であることから、コア(1)のJIS‐C硬度による表面硬度(K)とコアのJIS‐C硬度による中心硬度(J)との差(K-J)が2?8、好ましくは3?7であることが望ましい。上記硬度差(K-J)が2より小さいと、コア内が平坦な硬度分布を有するようになり、反発性能は向上するが、打撃時のコアの変形量が小さくなって打出角が小さくなって飛行性能が低下し、また打球感も悪くなる。上記硬度差が8より大きくなると、コアの反発性能が低下し、またコアの表面硬度(K)が大きくなり、打球感が悪くなる。
【0023】本発明では、コア(1)の表面硬度(K)は、上記式で表される衝撃吸収変数(S)が上記範囲内であれば特に規定しないが、好ましくは50?90、より好ましくは60?85である。上記コア(1)の表面硬度(K)が50より小さいと軟らかくなり過ぎて反発性能が低下し、90より大きいと打球感が悪くなる。
【0024】本発明では、コア(1)の中心硬度(J)は、好ましくは42?88、より好ましくは52?83である。上記コア(1)の中心硬度(J)が42より小さいと軟らかくなり過ぎて反発性能が低下し、88より大きいと硬くなり過ぎて打球感が悪くなる。尚、本明細書で、コア(1)の中心硬度とは、通常コアを2等分切断して、その切断面の中心で測定した硬度を意味する。」
(ウ)「【0027】本発明の中間層(2)は、特に限定されるものではないが、アイオノマー樹脂または熱可塑性エラストマー、若しくはそれらの混合物を主体とする材料で構成される。・・・(後略)」
(エ)「【0030】また中間層(2)用の組成物は、上記のアイオノマー樹脂または熱可塑性エラストマー、若しくはそれらの混合物を主体とする材料に加えて、充填材、顔料、老化防止剤等の他の添加剤を含有してもよい。充填材としては、例えば無機充填材(具体的には、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム)、高比重金属粉末(例えば、タングステン粉末、モリブデン粉末等)およびそれらの混合物が挙げられる。・・・(後略)」
(オ)「【0032】本発明では、中間層(2)のJIS‐C硬度による硬度(L)は、上記式で表される衝撃吸収変数(S)が上記範囲内であれば特に規定しないが、好ましくは30?80、より好ましくは40?70であり、30より小さいと軟らかくなり過ぎて反発性能が低下し、80より大きいと衝撃吸収効果が十分に得られなくなり打球感が悪くなる。尚、本明細書中で中間層硬度とは、コア(1)上に中間層(2)を被覆して形成した球状成形体の外表面で測定した硬度を意味する。」
(カ)「【0038】本発明のゴルフボールに用いられるカバー(3)には、上記中間層(2)に用いたものと同様のアイオノマー樹脂、またはその混合物を用いることができる。更に、本発明のカバー(3)の好ましい材料の例としては、上記のようなアイオノマー樹脂のみであってもよいが、上記中間層(2)に用いたものと同様の熱可塑性エラストマーの1種以上とを組合せて用いてもよい。
【0039】また、本発明において、上記カバー用組成物には、主成分としての上記基材樹脂の他に必要に応じて、・・・(後略)」
(キ)「【0041】本発明では、カバー(3)のJIS‐C硬度による硬度(M)とコア(1)のJIS‐C硬度による表面硬度(K)との差(M-K)が10?35であることが好ましい。10以上とすることにより、打球感と反発性能を両立すること、およびカバー(3)の耐久性を向上することができ、よって更に上記硬度差(M-K)は15以上、更に16以上とすることが好ましい。上記硬度差(M-K)が35より大きくなると、カバーが硬くなり過ぎて打撃時の変形が中間層やコアに及びにくくなり、前述のようなコアによる反発性付与効果や中間層による打球感向上効果が不十分となる。よって上記硬度差(M-K)は、更に25以下、特に21以下とすることが好ましい。
【0042】本発明では、カバー(3)のJIS‐C硬度による硬度(M)は、上記式で表される衝撃吸収変数(S)が上記範囲内であれば特に規定しないが、好ましくは90以上、より好ましくは93?105であり、90より小さいと反発性能が低下し、またスピン量が大きくなり過ぎて、飛行性能が低下する。尚、本明細書中でカバー硬度とは、コア(1)上に中間層(2)、更にカバーを被覆形成して得られたゴルフボールの外表面で測定した硬度を意味する。」
【0043】カバー成形時、必要に応して、ディンプルと呼ばれるくぼみを多数表面上に形成する。本発明のゴルフボールは美観を高め、商品価値を上げるために、通常ペイント性上げ、マーキングスタンプ等を施されで市場に投入される。」
(ク)摘記(エ)及び(オ)には、「中間層(2)」が「アイオノマー樹脂または熱可塑性エラストマー、若しくはそれらの混合物を主体とする材料で構成される」ことが記載されている。ここで、アイオノマー樹脂が熱可塑性を有する樹脂であることは技術常識であることから、上記「中間層(2)」は、その基材樹脂が熱可塑性樹脂から形成されるものであるということができる。
(ケ)摘記(カ)の段落【0038】?【0039】及び上記(ク)より、「カバー(3)」が主成分として上記(ク)の基材樹脂で構成されて、前記基材樹脂が熱可塑性樹脂から形成されていることから、該「カバー(3)」の基材樹脂が熱可塑性樹脂から形成されていることは明らかである。
(コ)摘記(ア)?(カ)及び上記(ク),(ケ)より、引用例には、次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)と認められる。
「コア(1)と該コア上に形成された中間層(2)と該中間層を被覆するカバー(3)とから成り、かつ該カバーの表面に多数のディンプルを形成したスリーピースソリッドゴルフボールにおいて、
該コア(1)のJIS‐C硬度による表面硬度(K)とコアのJIS‐C硬度による中心硬度(J)との差(K-J)が2?8であり、かつ上記コア(1)の表面硬度(K)50?90を有し、
該中間層(2)の基材樹脂が熱可塑性樹脂から形成され、かつJIS-C硬度による硬度(L)30?80を有し、
該カバー(3)の基材樹脂が熱可塑性樹脂から形成され、JIS-C硬度による硬度(M)90以上を有し、
該コアの表面硬度(K)が該中間層硬度(L)より10?30だけ高い、スリーピースソリッドゴルフボール。」

ウ 対比
本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「コア(1)」、「中間層(2)」、「カバー(3)」はそれぞれ本件補正発明の「センター(1)」、「中間層(2)」、「カバー(3)」に相当する。
(イ)引用発明の「JIS‐C硬度による表面硬度(K)とコアのJIS‐C硬度による中心硬度(J)との差(K-J)が2?8」であり、かつJIS‐C硬度による「表面硬度(K)50?90を有」する「コア(1)」と、本件補正発明の「中心から表面までのショアD硬度による最大硬度差が7以下であり、かつ表面硬度(H_(S))36?50を有」する「センター(1)」とは、「センター(1)が中心から表面までの間に所定範囲の硬度差を有し、かつ表面硬度が所定の数値範囲に含まれる」ものである点で一致する。
(ウ)引用発明の「中間層(2)」は「JIS-C硬度による硬度(L)30?80を有」するものであるから、本件補正発明の「ショアD硬度による硬度(H_(M))36?50を有」する「中間層(2)」とは、「硬度が所定の数値範囲に含まれる」ものである点で一致する。
(エ)引用発明の「カバー(3)」は「JIS-C硬度による硬度(M)90以上を有」するものであるから、本件補正発明の「ショアD硬度による硬度(H_(L))58?69を有」する「カバー(3)」とは、「硬度が所定の数値範囲に含まれる」ものである点で一致する。
(オ)引用発明は「コアの表面硬度(K)が中間層硬度(L)より10?30だけ高い」構成を有するものであるから、本件補正発明の「センターの表面硬度(H_(S))が中間層硬度(H_(M))より0?15だけ高」い構成とは、「センターの表面硬度が中間層硬度よりも高い」構成である点で一致する。
(カ)引用発明の「カバー(3)」は「JIS-C硬度による硬度(M)90以上を有」し、「中間層(2)」は「JIS-C硬度による硬度(L)30?80を有」するものであるから、「カバー(3)」の硬度が「中間層(2)」の硬度よりもJIS-C硬度による硬度において10以上高いものであると認められる。したがって、本件補正発明の「カバー硬度(H_(L))が中間層硬度(H_(M))より10?28だけ高」い構成とは、「カバー硬度が中間層硬度より所定値以上高い」構成である点で一致する。
(キ)してみると、本件補正発明と引用発明とは、
「センター(1)と該センター上に形成された中間層(2)と該中間層を被覆するカバー(3)とから成り、かつ該カバーの表面に多数のディンプルを形成したスリーピースソリッドゴルフボールにおいて、
該センター(1)が中心から表面までの間に所定範囲の硬度差を有し、表面硬度が所定の数値範囲に含まれ、
該中間層(2)の基材樹脂が熱可塑性樹脂から形成され、かつ硬度が所定の数値範囲に含まれ、
該カバー(3)の基材樹脂が熱可塑性樹脂から形成され、硬度が所定の数値範囲に含まれ、
該センターの表面硬度が該中間層硬度よりも高く、かつ該カバー硬度が該中間層硬度より所定値以上高い、スリーピースソリッドゴルフボール。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:
本件補正発明は、センター(1)について、「中心から表面までのショアD硬度による最大硬度差が7以下」との特定を有するのに対し、引用発明は、「センター(1)[コア(1)]について、「センター(1)[コア(1)]のJIS‐C硬度による表面硬度(K)とセンター(1)[コア]のJIS‐C硬度による中心硬度(J)との差(K-J)が2?8」であるものの、上記特定を有するものか否か不明である点。
相違点2:
本件補正発明は、「センター(1)」の「ショアD硬度」による「表面硬度(H_(S))36?50」,「中間層(2)」の「ショアD硬度による硬度(H_(M))36?50」及び「カバー(3)」の「ショアD硬度による硬度(H_(L))58?69」との特定を有するのに対し、引用発明の「センター(1)[コア(1)]」,「中間層(2)」,「カバー(3)」はいずれもその硬度の数値範囲がJIS-C硬度で規定されており、上記数値範囲に入るものであるかどうか不明であるため、上記特定を有するものか否か不明である点。
相違点3:
本件補正発明は、ショアD硬度による「センターの表面硬度(H_(S))が中間層硬度(H_(M))より0?15だけ高く」、かつ「カバー硬度(H_(L))が中間層硬度(H_(M))より10?28だけ高」いものであるとの特定を有するのに対し、引用発明は、「センターの表面硬度が該中間層硬度よりも高く」、かつ「カバー硬度が該中間層硬度より所定値以上高い」ものではあるものの、これらの硬度差はいずれもJIS-C硬度に基づくものであり、上記数値範囲に入るものであるかどうか不明であるため、上記特定を有するものか否か不明である点。
相違点4:
本件補正発明では、ディンプル特性に関し、「該ディンプルの輪郭長さの総合計をX(mm)で表し、該ディンプルのボール表面積占有率をYで表したとき、XとYとが以下の式(1):
3882Y+1030≦X≦3882Y+1879 (1)
で表される関係を満足し、かつYが0.780?0.853である」と特定されているのに対し、引用発明では、そのような特定がされていない点。

エ 判断
(ア)相違点1について
a 引用発明において、「センター(1)[コア(1)]のJIS‐C硬度による表面硬度(K)とセンター(1)[コア]のJIS‐C硬度による中心硬度(J)との差(K-J)が2?8」とする技術的意義は、上記イ摘記(イ)の段落【0022】の記載からみて、反発性能を保つとともに、センター(1)を適正に変形させることにより、飛行性能を低下させつつ好適な打球感を得ることであると認められる。
そして、上記イ摘記(イ)の段落【0022】には、所定値以上にセンター(1)の表面硬度と中心硬度との差を大きくした場合には、反発性能も打球感も低下することが明記されていることから、引用発明に基づいて、実験的に好適な反発性能と打球感を実現するように、センター(1)の中心と表面の硬度差を所定値以下の数値範囲に適宜設定することは、当業者ならば自明に設計することができたものである。
ここで、JIS-C硬度もショアD硬度も、ともにゴルフボールという技術分野において、基材の硬度を示す指標としてごく一般的に使用されているものであることを考慮すれば、引用発明に基づいて、センター(1)の中心と表面の硬度差を所定値以下の数値範囲に適宜設定した場合に、その硬度としてJIS-C硬度を用いることも、ショアD硬度を用いることも、ともに当業者が適宜選択できた事項に過ぎない。
よって、引用発明に基づいて、センター(1)の中心と表面のショアD硬度による硬度差を所定値以下の数値範囲に適宜設定することは、当業者が適宜なし得た設計事項である。
b 引用発明は、上記aにも示したように、センター(1)の中心の硬度と表面の硬度に差を設けることにより、センター(1)を適正に変形させるものである。つまり、センター(1)の中心と表面の硬度差とセンター(1)の変形には密接な関係を有するものであるところ、ゴルフボールが任意の方向から打撃されるものであるという事実、並びに、引用発明がセンター(1)の中心と表面の硬度差によって適正な変形を得ようとするものであることを考慮すれば、引用発明において、センター(1)の中心と表面の間の硬度差が、センター(1)の中心から表面までの最大硬度差になるように設計することは、当業者ならば自明になし得たものである。
したがって、引用発明に基づいて、センター(1)の中心と表面の間の硬度差を、センターの中心から表面までの最大硬度差になるようにするとともに、該硬度差を所定値以下の数値範囲に適宜設定することは、当業者ならば容易に想到することができたものである。
c 本件補正発明は、センター(1)の中心から表面までの最大硬度差について「7以下」との数値範囲を有するものであるから、引用発明に基づいて、この数値範囲を選択することが当業者にとって容易になし得たものであるかどうか、念のため以下に検討する。
本願の発明の詳細な説明には、「7以下」という数値範囲について、該数値範囲を設定することにより、耐久性が低下せずかつ打球感を悪化させないものとなる(段落【0020】参照)ことが記載されているものの、どうして上記「7以下」という数値範囲が好適なものとなるかについては、因果関係やメカニズム等よりその技術的意義を開示しているものではなく、単に発明の詳細な説明に記載された具体例である実施例及び比較例から好適な数値範囲として、実験的に上記「7以下」という数値範囲を選択したものであると認められる。よって、上記「7以下」という数値範囲について、その臨界的な意義は認められるものではない。
したがって、センター(1)の中心から表面までの最大硬度差を「7以下」にするという数値範囲について、その臨界的な意義が認められないものである以上、引用発明において好適な反発性能と打球感を実現するために、センター(1)の中心と表面との間の適正な硬度差の数値範囲を、当業者が実験的に適宜設計することにより、もって上記相違点1とすることは、当業者ならば適宜なし得た事項と判断せざるを得ない。

(イ)相違点2及び相違点3について
a 引用発明において、「センター(1)[コア(1)]」,「中間層(2)」,「カバー(3)」それぞれの硬度を数値範囲によって規定する技術的意義は、上記イ摘記(イ)の段落【0021】及び上記イ摘記(キ)の段落【0041】の記載からみて、中間層(2)の硬度を最も低いものとし、センター(1)の硬度を前記中間層(2)の硬度よりも高くし、さらにカバー(3)の硬度をより高いものとすることによって、打球感と反発性能を両立するとともにカバー(3)の耐久性を向上することであると認められる。したがって、引用発明に基づいて、打球感と反発性能を両立するとともにカバー(3)の耐久性を向上するために、センター(1)、中間層(2)及びカバー(3)について、中間層(2)の硬度を最も低いものとし、センター(1)の硬度を前記中間層(2)の硬度よりも高くし、さらにカバー(3)の硬度をより高いものとするときの具体的なそれぞれの硬度の値を、実験的に好適なものとすることは、当業者ならば適宜なし得た設計事項である。
そして、上記(ア)にも示したように、JIS-C硬度もショアD硬度も、ともにゴルフボールという技術分野において、基材の硬度を示す指標としてごく一般的に使用されているものであることを考慮すれば、引用発明に基づいて、センター(1)、中間層(2)及びカバー(3)それぞれの硬度を、実験的に好適なものに適宜設定した場合に、その硬度としてJIS-C硬度を用いることも、ショアD硬度を用いることも、ともに当業者が適宜選択できた事項であると認められる。
よって、引用発明に基づいて、センター(1)、中間層(2)及びカバー(3)について、中間層(2)の硬度を最も低いものとし、センター(1)のショアD硬度による硬度を前記中間層(2)のショアD硬度による硬度よりも高くし、さらにカバー(3)のショアD硬度による硬度をより高いものとするときの具体的な硬度の値を、実験的に好適なものに適宜設定することは、当業者が適宜なし得た設計事項に過ぎない。
b 本件補正発明は、センター(1)、中間層(2)及びカバー(3)について、それぞれショアD硬度による硬度を数値範囲により規定するとともに、これらの間の硬度の差についても具体的に数値範囲により規定するものであるので、引用発明に基づいて、この数値範囲を選択することが当業者にとって容易になしえたものであるかどうか、念のため以下に検討する。
本願の発明の詳細な説明には、センター(1)、中間層(2)及びカバー(3)について、それぞれショアD硬度による硬度を数値範囲により規定することに関する技術的意義について、これらの数値範囲となるように設計されたスリーピースゴルフボールは低ヘッドスピードでの打撃時においても良好な打球感を維持したまま飛距離を向上させることができる旨記載されているものの、具体的にどのようにして好適な数値範囲を得たのかについては、因果関係やメカニズム等を開示しているものではないことから、単に発明の詳細な説明に記載された具体例である実施例及び比較例から好適な数値範囲として、実験的にこれらの数値範囲を選択したものであると認められる。
よって、本件補正発明におけるセンター(1)、中間層(2)及びカバー(3)それぞれのショアD硬度による硬度の数値範囲については、その臨界的な意義は認められるものではない。
引用発明は、打球感と反発性能を両立するとともにカバー(3)の耐久性を向上するために、中間層(2)の硬度を最も低いものとし、センター(1)のショアD硬度による硬度を前記中間層(2)のショアD硬度による硬度よりも高くし、さらにカバー(3)のショアD硬度による硬度をより高いものとしたものである。そして、上記(ア)にも示したように、ゴルフという競技が、プレイヤーによってヘッドスピードが大きく異なるものであること、及び、ゴルフボールという技術分野においては、これらの種々のレベルのプレイヤーに対応できるゴルフボールを製造する必要があることは、当業者ならば当然認識していた技術常識であることを考慮すれば、引用発明において、打球感と反発性能を両立するとともにカバー(3)の耐久性を向上するために、センター(1)、中間層(2)及びカバー(3)それぞれの硬度を、実験的に好適なものとする際に、上記プレイヤーのレベルも考慮して、その好適な数値範囲を実験的に適宜設計することは、当業者ならば容易になし得たものである。
したがって、上記相違点2及び相違点3は、いずれも、引用発明及び技術常識に基づいて、当業者が適宜設計することができた事項に過ぎないものである。

(ウ)相違点4について
表面に多数のディンプルを形成したゴルフボールであって、
該ディンプルの輪郭長さの総合計をX(mm)で表し、該ディンプルのボール表面積占有率をYで表したとき、XとYとが以下の式(1):
3882Y+1030≦X≦3882Y+1879 (1)
で表される関係を満足し、かつYが0.780?0.853であるゴルフボールは、例えば、特開平9-75477号公報の実施例3及び特開平3-80876号公報の第1実施例ないし第3実施例に記載の如く、本願の優先日前に周知である(以下「周知技術」という。)。
したがって、引用発明のディンプルとして、周知技術の「ディンプルの輪郭長さの総合計をX(mm)で表し、該ディンプルのボール表面積占有率をYで表したとき、XとYとが以下の式(1):
3882Y+1030≦X≦3882Y+1879 (1)
で表される関係を満足し、かつYが0.780?0.853である」ディンプルを採用し、もって相違点4とすることは、当業者なら容易に想到することができたものである。
よって、相違点4に係る本件補正発明の特定事項は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。

(ウ)効果について
本件補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、周知技術の奏する効果及び技術常識から、当業者が予測できた程度のものである。

(エ)まとめ
上記のとおりであるから、本件補正発明は、引用例に記載された発明、周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。

3 補正却下の決定のまとめ
上記2(1)のとおりであるから、本件補正後の特許請求の範囲の記載は、特許法36条第6項第1号に規定された要件を満たしていないものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
また、上記2(2)のとおりであるから、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正後の特許請求の範囲の記載から把握される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。
よって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件審判請求について
1 特許請求の範囲
本件補正は上記のとおり却下されたので、本件特許出願の特許請求の範囲の記載は、本願の願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲(上記「第2[理由]1(1)」で、本件補正前の特許請求の範囲として示したもの)に記載されたとおりのものである。

2 特許法第36条第6項第1号違反及び特許法第29条第2項違反について
(1)特許法第36条第6項第1号違反
本願の特許請求の範囲の請求項1には
「該ディンプルの輪郭長さの総合計をX(mm)で表し、該ディンプルのボール
表面積占有率をYで表したとき、XとYとが以下の式(1):
X≦1930+3882Y (1)
で表される関係を満足し、かつYが0.70?0.90である」
と記載されている。
しかしながら、上記「第2[理由]2(1)ウ」に示したように、本願の発明の詳細な説明には、上記XとYの関係式及びYの数値範囲に関して、因果関係・メカニズム等によりその技術的意義を示す記載はなく、かつ、本願の発明の詳細な説明に記載された各具体例(実施例及び比較例)に関する記載からみても、上記「第2[理由]2(1)エ」に示したように、上記XとYの関係式及びYの数値範囲が、当業者が自明に把握できたものであるとは認められない。
よって、本願の特許請求の範囲の請求項1及びその従属請求項(請求項2,3)の記載は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6号第1項に規定された要件(サポート要件)を満たさない。

(2)特許法第29条第2項違反
ア 本願発明
本願の特許請求の範囲の記載は、上記(1)に示したように、本願の発明の詳細な説明に記載されたものではないが、特許請求の範囲の記載から発明の構成を把握することができるので、特許請求の範囲に記載された事項から把握される発明が本願の発明の詳細な説明の記載から理解できるものと善解し、以下では、特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下本願発明という。)について進歩性を検討する。
本願発明は、上記「第2[理由]1(1)」で本件補正前の特許請求の範囲の請求項1として示した、本願の願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認める。

イ 引用刊行物
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された引用例及びその記載事項は上記「第2[理由]3(2)イ」に記載したとおりである。

ウ 対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本件補正発明において、
「該ディンプルの輪郭長さの総合計をX(mm)で表し、該ディンプルのボール表面積占有率をYで表したとき、XとYとが以下の式(1):
3882Y+1030≦X≦3882Y+1879 (1)
で表される関係を満足し、かつYが0.780?0.853である」
とあったものを、
「該ディンプルの輪郭長さの総合計をX(mm)で表し、該ディンプルのボール表面積占有率をYで表したとき、XとYとが以下の式(1):
X≦1930+3882Y (1)
で表される関係を満足し、かつYが0.70?0.90である」
として、その数値範囲を拡張したものに相当する。
そうすると、本願発明のXとYに関する数値範囲をさらに限定したものに相当する本件補正発明が、前記「第2[理由]3(2)エ」に記載したとおり、引用例に記載された発明、周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用例に記載された発明、周知技術及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ 小括
上記のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

3 本件審判請求についてのまとめ
上記2のとおり、本願明細書の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしておらず、特許を受けることができないものである。
また、本願発明は、引用例に記載された発明、周知技術及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶を免れない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-11-27 
結審通知日 2009-12-01 
審決日 2009-12-17 
出願番号 特願2002-235762(P2002-235762)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63B)
P 1 8・ 575- Z (A63B)
P 1 8・ 537- Z (A63B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小齊 信之  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 上田 正樹
菅野 芳男
発明の名称 スリーピースソリッドゴルフボール  
代理人 青山 葆  
代理人 山本 宗雄  

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