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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  C25D
管理番号 1212086
審判番号 無効2008-800137  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-07-31 
確定日 2010-03-05 
事件の表示 上記当事者間の特許第2943070号発明「均一メッキ処理を可能にした電気メッキ処理システム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2943070号の請求項1及び3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 本件特許発明と当事者の主張
1 手続の経緯
本件特許第2943070号の請求項1?4に係る発明は、平成10年7月30日に特許出願され、平成11年6月25日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対し、平成20年7月31日にアルメックスPE株式会社(以下「請求人」という)より、その請求項1及び3に係る発明の特許について無効審判の請求がなされた。そして、その後、同年10月21日付けで被請求人より答弁書が提出され、同年12月4日及び10日付けで、それぞれ請求人及び被請求人から口頭審理陳述要領書が提出され、同年12月17日に口頭審理がなされた。

2 本件特許発明
本件特許2943070号の請求項1及び3に係る発明(以下「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」という)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び3に記載された事項により特定される次のとおりのものである(本件特許発明1については、両当事者に争いのない範囲で、特徴事項を(あ)?(か)に分節した)。
「【請求項1】
(あ)陰極バーとして機能するメッキ処理部用レール軌道(1)に横移動自在に支持された治具(2)によってメッキ処理されるプリント基板などのシート状短冊製品(W)の製品上部を懸垂状態に挟持し、前記メッキ処理部用レール軌道から治具を介して製品上部で給電しながらメッキ処理タンク(3)内の処理液中に複数の製品を横向きで直列にした搬送状態で搬送させながら電気メッキするメッキ処理工程(A)をもつ電気メッキ処理システムにおいて、
(い)前記治具(2)に係合爪(25)を、該係合爪の係合部(26)として機能する下端部を前記治具の搬送方向に枢動可能となるように該係合爪の上端部を前記治具に軸支(27)することによってそれぞれ取付けると共に、
(う)複数の係合歯(32)を等間隔に設けた等速度で駆動されるエンドレス状のメッキ処理部用歯付きベルト(30)を該エンドレス状のメッキ処理部用歯付きベルトの搬送軌道部(33)を前記メッキ処理工程(A)のメッキ処理タンク上に前記メッキ処理部用レール軌道(1)に沿って配設し、
(え)この搬送軌道部にある前記メッキ処理部用歯付きベルトに対して、前処理工程(C)からメッキ処理工程へ前記治具に懸垂状態に挟持されたシート状短冊製品の横向き間隔を該製品の側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間隙幅となるような所定の送りピッチで間欠的に順次送られてくる前記治具に取付けられた前記係合爪(25)の枢動する係合部(26)を該係合爪の上端軸支部に対して後退した傾斜位置となるように前記メッキ処理部用歯付きベルト(30)の搬送軌道部(33)上に載せて前記メッキ処理部用歯付きベルトの係合歯(32)と係合されるように構成し、
(お)前記係合爪と係合された前記メッキ処理部用歯付きベルトの搬送駆動によって前記治具に懸垂状態に挟持された前記製品を該製品の横向き間隔を該製品の側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間隙幅を維持しながら前記メッキ処理部用レール軌道(1)に沿って横向きで直列にした搬送状態で搬送させながら電気メッキするように構成した
(か)ことを特徴とする均一メッキ処理を可能にした電気メッキ処理システム。」
「【請求項3】 前記係合爪(25)を、前記治具(2)に該治具の搬送方向に向けて所定の間隔をおいて複数取付けたことを特徴とする請求項1又は2記載の均一メッキ処理を可能にした電気メッキ処理システム。」

3 請求人の主張及び証拠方法
これに対して請求人は、本件特許発明1及び2の特許を無効とするとの審決を求め、その理由として次の無効理由1及び2を挙げて、本件特許は特許法第123条第1項第2号に該当するので無効であると主張し、証拠方法として甲第1?第8号証を提出している。
[無効理由1]
本件特許発明1及び2は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1?8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[無効理由2]
本件発明1の発明特定事項である「シート状短冊製品の横向き間隔を該製品の側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間隙幅」及び「製品を該製品の横向き間隔を該製品の側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間隙幅」について、発明の詳細な説明に記載されていないのでサポート要件を満たしておらず、当業者が容易に実施できる程度に記載されていないので実施可能要件を満たしていないから、特許法第36条4項及び同条第6項1号に違反してなされたものである。

4 被請求人の反論
被請求人は、本件特許発明1及び2は、甲第1?甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、特許法第36条第4項及び同条第6項1号に規定する要件を満足するものであるので、本件特許無効の審判請求は成り立たない旨を反論する。

第2 無効理由1について
1 刊行物の記載事項
(1)甲第1号証
請求人が提出した甲第1号証(特開平10-168600号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「【発明の属する技術分野】本発明は、電気めっき処理装置において、めっき処理されるワークを支持するジグと通称されるワーク支持具の改良に関する。
【従来の技術】電気めっき処理装置において、ジグと通称されているワーク支持具は、めっき処理されるワークを支持する機能と、電流を陰極バーからワークに通電する機能をもつものである。このワーク支持具は、陰極バーに吊り下げられる断面略コ字状の極棒接続部をもつハンガー部と、このハンガー部の下方に設けられたワーク取付け部とから構成されている。」(【0001】【0002】段落)
(イ)「なお、前記ハンガー部4の極棒接続部3の上部には、ワーク支持具1を陰極バー2に沿って移送するため送り爪(図示せず)に係合される係止体17を突設してある。なお、図1において符号Aは液面を示している。」(【0010】段落)
(ウ)「【発明の効果】本発明のワーク支持具は、シート形状のワークを確実に支持でき、且つ電流を陰極バーからワークへ確実に通電できる。・・・めっき処理の全工程が終了するまで振動や移動によっても、ワークの外れ、ワークの破れ、ワークの歪み、ワークに対する通電不良等がなく、めっき製品の品質安定化を期待できる。・・・本発明のワーク支持具は、めっき液中にワークを支持するための必要以上の支持具物品を投入する必要がないため、ワーク支持具へのめっき液の付着を大幅に改善でき、めっき液の他槽からの持込みや他槽への持出しによる処理液の混入を大幅に防止できる。」(【0017】段落)

(2)同じく甲第2号証(特開平10-158896号公報)には図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「図1は、本発明に係るプッシャタイプのメッキ処理装置1の平面図である。このメッキ処理装置1は、被メッキ物10(図3)にメッキ前の処理を施す前処理手段11と、例えば硫酸銅などのメッキ液42が所定量だけ貯液されたメッキ槽12と、被メッキ物10にメッキ処理を施す互いに平行な第1メッキ手段13及び第2メッキ手段14とを備えている。また、このメッキ処理装置1は、被メッキ物10を保持した状態で第1メッキ手段13内又は第2メッキ手段14内で移動可能な複数の保持手段15と、これらの保持手段15を押圧して所定の距離だけ移動させる第1プッシャ手段16及び第2プッシャ手段17と、・・・を備えている。」(【0011】、【0012】段落)

(3)同じく甲第3号証(特開平5-311496号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「12は、めっきゾーンである連続したU字形のめっきタンクで、めっきタンク12に沿ってワークレール13が配設され、・・・。めっきタンク12上には無端チェーン14が連続走行可能に設けられ、この無端チェーン14にワークレール13上のワークキャリヤ2に係合するプッシャ15の基部が一定ピッチで枢着され、プッシャ15は上下方向に揺動自在となっている。」(【0009】段落)
(イ)図1の移送サイクル説明図である図2及び図3より、次の事項が明らかである。
すなわち、図2において、左下の前処理ゾーン1を右方向に進んできたワークキャリア2のA、B、Cのうちの先頭のAは、めっきタンク12に移送されるに際し、プッシャ15による駆動を受け、図3において前処理ゾーン1での間隔より狭い間隔で先行するワークキャリアに続いている。これは、前処理ゾーンでは各ワークキャリアは各種槽に浸漬されつつ進んでくるが、めっき処理タンクに至ると連続的に処理されるために間隔を狭められるからであり、図2及び図3に明確に表現されている。

(4)同じく甲第4号証(実願昭55-70374号(実開昭56-173668号)マイクロフィルム)には図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「一般にメッキ処理作業では、各処理槽に製品(ラック)を治具のあるワークキャリアに取付けレールに懸吊して搬送処理することが行われている」(第4頁第6?9行)
(イ)「キャリアBは頭部に突片8のあるフック部9にアーム16を介して支軸10を昇降自在で且つ回転可能に設け、この支軸10に製品が取付けられる治具11を懸吊されるようになっていて前記レールAに摺動可能に架装されると共に、前記コンベア機構Cの移送チェン3にアタッチメント12を介して設けた摺動ブロック13がフック部9に嵌挿されてキャリアBをレールA上に沿って移動できるようになっている。」(第6頁第12行?第7頁第1行)

(5) 同じく甲第5号証(米国特許第5,558,757号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている(原文は英語)。
(ア)「本発明は、第1に、浴(bath)内で陰極レールまたは陰極フレームにおいて間隔をあけて一列に配列されたワークピース上になされる電解コーティングを向上させるプロセスに関する。これにより、陰極処理電流はワークピースの上記列の方向に平行にある上記レールまたは上記フレーム内を流れる。・・・このプロセスにおいて、ワークピースの列は、製品の区分毎に調整されて水平方向に移動する。」(第1欄第6?16行)
(イ)「上述の3’及び3”は各々a1、a2、a3という距離を有して離れている。実際には、a1等の距離は、比較的小さく保つべきである。そうしなければある距離をおいて互いに向かい合わせになるワークピース端部3’及び3”の”K”と”A”と書かれたエリアは金属が沈積(deposit)するための、いわゆる「ドッグ・ボーン効果」と呼ばれる厚肉部分を有してしまうからである。」(第3欄第46?51行)

(6)同じく甲第6号証(実願昭46-42322号(実開昭48-1480号)マイクロフィルム)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「この考案はパレット等の被搬送物体の搬送中にスリップを生ずることなく正確な搬送がされ、・・・るようにした搬送装置の改良構造に関するものである。」(第1頁第12?16行)
(イ)「図において、(1)は矢印(10)方向へ動くチエンコンベア、(2)はパレット滑送面、(3)はパレットである。(4)は一端が上記パレット(2)に軸(5)で枢着され、他の一端が上記チエンコンベア(1)のチエンローラ(8)に係合する爪」(第2頁第14?18行)
(ウ)「チエンコンベア(1)にパレット(3)を積層すれば、爪(4)は重力により軸(5)を中心に図で時計方向に回転し、矢印(10)方向に移動してくるチエンコンベア(1)のチエンローラ(8)に係合し、チエン(1)の移動速度と全く同一速度でパレット(3)は搬送される。」(第3頁第2?6行)
(エ)第2図には、搬送装置の正面断面図が記載されている。

(7)同じく甲第7号証(特開平9-328212号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「【課題を解決するための手段】・・・本発明は、複数のタイミングベルトを直列に近接して配置し、該タイミングベルトの歯部に歯合する係合凹部と、案内用のローラとを有する複数の連結プレートを該複数のタイミングベルトの全長に渡ってループ状に連続して配置する・・・搬送装置を基本とする。」(【0007】段落)

(8)同じく甲第8号証(特開昭63-202519号公報)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「・・・リニアモータ式搬送装置の昇降機構において、前記搬送台車の側部に係合部を設け、・・・昇降用レールの略全長に旦って同レールと平行に移動する駆動体を配設し、・・・前記台車の係合部に係合して前記台車を支持する被係合部を設けたことを特徴とする・・。」【特許請求の範囲】

2 当審の判断
請求人は、本件特許発明1及び2は、甲第1?甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると主張しているので、以下に検討する。
(1)甲第1号証の記載内容
甲第1号証の記載に関する(ア)の摘記事項より、甲第1号証には電気めっき装置が記載されており、これは陰極バー、めっき処理されるワーク、陰極バーに吊り下げられ当該ワークを支持するワーク支持具からなるものである。そして、(イ)の摘記事項より、当該ワーク支持具は、ワークを支持しつつ陰極バーに沿って移送されるように移送手段を備えており、これは、ワーク支持具に突出して設けられた係止体を送り爪に係合して移送するものである。また、(ウ)より、ワーク支持具は、めっき槽中にワークを支持してめっき処理しつつ、陰極バーに沿って移送されることことが明らかである。
したがって、甲第1号証には、次の発明(以下「甲第1号証発明」という)が記載されている。
「ワーク支持具により保持されたワークを、ワーク支持具に突出して設けられた係止体と送り爪とを係合させて陰極バーに沿って移送させ、めっき槽中でめっき処理する電気めっき処理装置。」

(2)甲第6号証の記載内容
甲第6号証には「チエンコンベア」と「爪」からなる搬送装置が記載されているが、以下に詳細に検討するように、本件特許発明で採用する搬送システムが記載されているとすることができる。
(i)「爪」(特徴事項(い)の関連)
甲第6号証の図2から明かなように、「爪」は上端部と下端部を有し、その上端部は軸(5)により枢着され、下端部はチエンコンベアに係合して係合部として機能する(摘記事項(イ))。また、当該「爪」は、下端部は重力により軸(5)を中心に時計方向に回転するようになっている(摘記事項(ウ))ため、軸(5)を中心として水平方向から時計回り下方にかけて搬送方向に枢動可能なように軸支されているとすることができる。
したがって、当該「爪」は、本件特許発明の係合爪と同一の機能・構造を有するものである。
(ii)「チエンコンベア」(特徴事項(う)の関連)
「チエンコンベア」は、第2図から明らかなように、複数の係合部分である「チエンローラ」を等間隔に有して等速度で駆動されている。そして、「爪」の一端は「チエンコンベア」の「チエンローラ」に係合して移送される(摘記事項(イ))。このため、この「チエンローラ」は、機能的・構造的に見て、本件特許発明における「係合歯」に該当するといえ、結局「チエンコンベア」は、本件特許発明における「歯付きベルト」に対応する。
(iii)「爪」と「チエンコンベア」の係合(特徴事項(え)の関連)
「爪」と「チエンコンベア」の係合構造は、本件特許発明において「係合部(26)を該係合爪の上端軸支部に対して後退した傾斜位置となるように前記メッキ処理部用歯付きベルト(30)の搬送軌道部(33)上に載せて係合」ことに対し、次のとおり同等の係合構造であるといえる。
まず、上記(i)で認定したとおり、「爪」の上端部は軸支され下端部は係合部として機能しているし、軸5を中心として水平方向から時計回り下方にかけて搬送方向に枢動可能なように軸支されている。このため、「爪」の下端部は、その上端軸支部に対して後退した傾斜位置となっているといえる。そして、その状態でチエンコンベア上に載せて係合しているので、結局、本件特許発明の係合構造となっている。
なお、この点については、第1回口頭弁論調書の被請求人の陳述項目6に記載されているように、被請求人は本件特許発明で採用する係合構造は甲第6号証に記載されていることを口頭審理において認めている。これを事実に反し錯誤に基づく自白であるとして上申書を提出して撤回を申し出ているが、事実に反する点についての具体的な指摘がなく、不当な主張である。
(iv)甲第6号証の記載事項
以上のとおりであるから、本件特許発明における特徴事項(い)?(え)に関連する次の事項は、甲第6号証に記載されているとすることができる。
「(い)前記治具(2)に係合爪(25)を、該係合爪の係合部(26)として機能する下端部を前記治具の搬送方向に枢動可能となるように該係合爪の上端部を前記治具に軸支(27)することによってそれぞれ取付けると共に、
(う)複数の係合歯(32)を等間隔に設けた等速度で駆動されるエンドレス状のメッキ処理部用歯付きベルト(30)を配設し、
(え)前記治具に取付けられた前記係合爪(25)の枢動する係合部(26)を該係合爪の上端軸支部に対して後退した傾斜位置となるように前記メッキ処理部用歯付きベルト(30)の搬送軌道部(33)上に載せて前記メッキ処理部用歯付きベルトの係合歯(32)と係合されるように構成」した搬送システム。」

(3)対比・判断
甲第1号証発明における「ワーク」「ワーク支持具」は、本件特許発明1における「シート状短冊製品」「治具」に対応する。また、甲第1号証発明1においても、陰極バーを介してワークに通電して電気メッキを行っているし、メッキ処理槽上に搬送手段を有するので、結局、両発明の一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「 陰極バーとして機能するメッキ処理部用レール軌道に横移動自在に支持された治具によってメッキ処理されるプリント基板などのシート状短冊製品の製品上部を懸垂状態に挟持し、前記メッキ処理部用レール軌道から治具を介して製品上部で給電しながらメッキ処理タンク内の処理液中に搬送させながら電気メッキするメッキ処理工程(A)をもつ電気メッキ処理システム。」
<相違点>
1 本件特許発明1においては、メッキ処理タンク内の処理液中に複数の製品を横向きで直列にした搬送状態で搬送させながら電気メッキするのに対し、甲第1号証発明では、複数の製品を搬送させながら電気メッキする点については明記されていない点。
2 本件特許発明1においては、シート状短冊製品の「横向き間隔を該製品の側端部に電流が過度に集中されない所定の狭い間隙幅となるような所定の送りピッチ」で移送するのに対し、甲第1号証発明では具体的に明記していない点。
3 シート状短冊製品を挟持した治具の搬送駆動方法として、本件特許発明1は請求項1の記載を分節した(い)?(お)により特定される、係合爪、歯付きベルト及びこれらを係合するシステムを採用するのに対し、甲第1号証発明では、治具上部に突出して設けられた係止体を送り爪に係合して移送している点。

(4)相違点の検討
相違点1について
甲第1号証では、複数の製品を搬送させながら電気メッキすることは明らかではないが、この点は甲第2号証、甲第3号証に記載されているように明らかである。なお、甲第3号証では、前処理領域からメッキ領域に至り、供給されるシート状短冊製品の間隔が狭められて移送されることも明らかである。

相違点2について
甲第5号証に関する摘記事項(イ)から明らかなように、被めっき物であるワークシートを電気メッキするに際し、ドッグボーン効果と呼ばれるシート端部での厚肉化現象を避けるために、ワークシートの間隔を小さく保つことは、本件特許出願前に当業者には公知の技術事項である。そして、摘記事項(ア)に示されるように、甲第5号証に記載された発明では、ワークピースを水平方向に移動させつつメッキ処理することも従来技術としている以上、この公知の技術事項を甲第1?3号証に記載されるような連続メッキ処理に適用することも示唆されているとすることができる。

相違点3について
結局、甲第1号証に記載された発明に対し、甲第6号証に記載された搬送システムを採用することが容易であるといえるかが問題となる。
この点に関しては、相違点1に関する検討で示したように、甲第3号証に記載された発明では、前処理領域からメッキ領域に入るに至りシート状短冊製品の間隔を狭くして搬送しているが、これを端部の厚肉化を避けることができる程度にすることは、当業者であれば当然考慮することである。なぜなら、均一なメッキ膜の形成のために、所定の狭い間隔を保って移送すべきことは公知の技術事項(甲第5号証)であったからである。
とすれば、シート状短冊製品の適切な間隔を確保するために、物品の正確な搬送システムとして一般技術分野に属する甲第6号証に記載された技術を採用してみようとすることは、当業者であれば容易に想到するところであると認める。その効果も、甲第5号証発明で達成される「ドッグボーン効果」の防止を、連続メッキ装置において達成したという以上の格別のものとすることはできない。
このため、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

(5)本件特許発明2について
本件特許発明2は、係合爪を治具の搬送方向に向けて所定の間隔をおいて複数取付けることを特徴事項とするものである。
しかし、歯付きベルトと爪を用いて被搬送体を搬送する際に、被搬送体に複数の爪を設けることは、甲第7号証や甲第8号証に記載されている事項である。したがって、甲第6号証に記載された発明において、複数の爪を設けることは、当業者が必要に応じて適宜なしうるところに過ぎないと認める。
このため、本件特許発明2は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び2に係る特許は、無効理由2を検討するまでもなく、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-01-13 
結審通知日 2009-01-16 
審決日 2009-02-04 
出願番号 特願平10-228566
審決分類 P 1 123・ 121- Z (C25D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 稲積 義登  
特許庁審判長 真々田 忠博
特許庁審判官 徳永 英男
國方 康伸
登録日 1999-06-25 
登録番号 特許第2943070号(P2943070)
発明の名称 均一メッキ処理を可能にした電気メッキ処理システム  
代理人 永井 義久  
代理人 井上 一  
代理人 石川 幸吉  

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