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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1212662
審判番号 不服2009-21457  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-05 
確定日 2010-03-04 
事件の表示 特願2005-313001「インクジェット記録用シート」拒絶査定不服審判事件〔平成19年5月17日出願公開、特開2007-118358〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.出願の経緯・本願発明
・本願は、平成17年10月27日の出願であって、平成21年5月29日付拒絶理由通知に対し、同年7月24日付で意見書、手続補正書が提出され、同年8月14日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月5日付で拒絶査定に対する審判請求がなされたものであり、その請求項1に係る発明は、特許請求の範囲・請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)

「【請求項1】
支持体の表面にインク受理層を設け、該インク受理層の最上層に無機微粒子として平均粒子径が5?500nmの有機カチオン処理されたコロイダルシリカを主体とする光沢発現層を設けてなるインクジェット記録用シートであって、
前記無機微粒子を主体とする光沢発現層の絶乾塗工量が5?20g/m^(2)であり、且つ、前記インク受理層は、インク受理層下層とインク受理層上層の2層からなり、前記インク受理層下層は、平均粒子径が11?20μmの合成非晶質シリカを主体とし、絶乾塗工量が8?16g/m^(2)であり、且つ、前記インク受理層上層は、平均粒子径が3?11μmの合成非晶質シリカを主体とし、絶乾塗工量が10?25g/m^(2)であり、且つ、前記インク受理層の全体の絶乾塗工量が25?35g/m^(2)であることを特徴とするインクジェット記録用シート。」

2.引用刊行物記載の発明
2-1.刊行物1
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2003-285541号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。(本文中のアンダーラインは当審にて付与した。)

(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】支持体表面にインク受理層を設けてなるインクジェット記録用シートにおいて、該記録シートの最上層に無機微粒子を主体とする光沢発現層を設け、且つ該光沢発現層の下に少なくとも2層からなる合成非晶質シリカ含有インク受理層を形成し、該各インク受理層の下層から上層に合成非晶質シリカの平均粒子径が順次小さくなることを特徴とする、インクジェット記録用シート。
【請求項2】 インク受理層の最下層における合成非晶質シリカの平均粒子径が10?20μmであり、インク受理層の最上層における平均粒子径が1?10μmである、請求項1に記載のインクジェット記録用シート。
【請求項3】 無機微粒子がコロイダルシリカまたはアルミナゾルまたはアルミナドープシリカであり、該無機微粒子の平均粒子径が5?500nmである、請求項1または2に記載のインクジェット記録用シート。
【請求項4】 無機微粒子を主体とする光沢発現層の絶乾塗工量が5?25g/m^(2)、インク受理層の絶乾塗工量が5?25g/m^(2)である、請求項1?3のいずれか一つに記載のインクジェット記録用シート。
【請求項5】 JIS P8142に規定される75度鏡面光沢度が20?90%である、請求項1?4のいずれか一つに記載のインクジェット記録用シート。
【請求項6】 無機微粒子が有機カチオン処理されたコロイダルシリカであり、該無機微粒子の平均粒子径が5?500nmである、請求項1?5のいずれか一つに記載のインクジェット記録用シート。」

(1b)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、インクジェット記録シート及びその製造方法に関するものであり、更に詳しくは染料インクと顔料インクのどちらを用いても、インクジェット記録シート上に記録された画像濃度が高く、適度な光沢を持ったインクジェット記録シートに関するものである。」

(1c)「【0015】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、インクジェット記録用シートについて、鋭意検討を重ねた結果、上記の課題を解決したインクジェット記録用シートを発明するに至った。即ち、本発明は、支持体表面にインク受理層を設けてなるインクジェット記録用シートにおいて、該記録シートの最上層に無機微粒子を主体とする光沢発現層を設け、且つ該光沢発現層の下に少なくとも2層からなる合成非晶質シリカ含有インク受理層を形成し、該各インク受理層の下層から上層に合成非晶質シリカの平均粒子径が順次小さくなることを特徴とする、インクジェット記録用シートに関する。
【0016】本発明の一つの実施態様は、インク受理層の最下層における合成非晶質シリカの平均粒子径が10?20μmであり、インク受理層の最上層における平均粒子径が1?10μmであることを含むものである。別の実施態様は、無機微粒子がコロイダルシリカまたはアルミナゾルまたはアルミナドープシリカであり、該無機微粒子の平均粒子径が5?500nmであることを含むものである。更に、別の実施態様は、無機微粒子を主体とする光沢発現層の絶乾塗工量が5?25g/m^(2)、インク受理層の絶乾塗工量が5?25g/m^(2)であることを含むものである。また、別の一つの実施態様は、JIS P8142に規定される75度鏡面光沢度が20?90%であることを含むものである。無機微粒子が有機カチオン処理されたコロイダルシリカであり、該無機微粒子の平均粒子径が5?500nmであるインクジェット記録用シートも本発明の実施態様である。」

(1d)「【0018】本発明のインクジェット記録シートでは、最上層に無機微粒子を主体とする光沢発現層を設け、且つ光沢発現層の下に少なくとも2層からなるインク受理層を形成し、該インク受理層の下層から上層に合成非晶質シリカの平均粒子径を順次小さくなるように積層することにより、光沢性の向上とインク吸収性確保という相反する特性をバランス良くさせることができる。このように、インク受理層の最下層から最上層において、インク吸収性の向上を計りながら、インク受理層の最上層において、その表面の平滑性を保ち、光沢発現層の光沢性向上を補完する作用がある。」

(1e)「【0020】光沢発現層における無機微粒子としては、コロイダルシリカまたはアルミナゾルまたはアルミナドープシリカが好ましい。さらに好ましくは、有機カチオン処理されたコロイダルシリカが好ましい。有機カチオン処理されたコロイダルシリカとは、一般的にはシリカに第1?3級アミン基、4級アンモニウム塩基等の有機カチオン性基を有する有機カチオン性化合物等を反応させて得たもので、少なくともシリカ表面がカチオン性に荷電したものである。
・・・
【0022】無機微粒子の平均粒子径は、5?500nmが好ましく、さらに好ましくは20?300nmである。平均粒子径が5nmより小さいと、光沢度は高いものの、インク吸収性が劣り、平均粒子径が500nmより大きいと、インク吸収性は良いものの、光沢度が出にくいという問題がある。」

(1f)「【0023】無機微粒子を主体とする光沢発現層の絶乾塗工量としては、5?25g/m^(2)が好ましく、さらに好ましくは7?18g/m^(2)である。光沢発現層の絶乾塗工量が5g/m^(2)より少ないと、充分な光沢度が得ることができない問題がある。絶乾塗工量が25g/m^(2)より多いと、良好な光沢度が得られるものの、光沢発現層のひび割れが生じやすくなり、画像鮮明性に問題が生じたり、必要以上の絶乾塗工量ではコストの問題も生ずる。
【0024】インク受理層の絶乾塗工量は、5?25g/m^(2)が好ましく、さらに好ましくは10?20g/m^(2)である。インク受理層の絶乾塗工量が5g/m^(2)より少ないと、インクの吸収性が劣る問題がある。インク受理層の絶乾塗工量が25g/m^(2)より多いと、インク吸収性の効果が飽和し、光沢発現層と同様に必要以上の絶乾塗工量ではコストの問題がある。」

(1g)「【0027】光沢性を向上させるために、無機微粒子を主体とする光沢発現層の形成は、キャスト処理によって得られてもよい。キャスト処理とは、光沢発現層を膨潤状態で加熱された鏡面ロールに圧着して鏡面仕上げにする加工方法である。本発明でのキャスト処理には、直接法、ゲル化法、リウェット法等が挙げられる。
【0028】また光沢性を向上させるため、本発明の無機微粒子を主体とする光沢発現層の形成は、光沢発現層を膨潤状態で、平滑なフィルムを密着させ剥離除去して鏡面仕上げする製造方法によって得られてもよい。」

(1h)「【0040】本発明に使用する支持体としては、紙、フィルム、不織布または、それらの複合体が一般に使用できるが、特にそれらに限定するものではない。
【0041】
【実施例】以下に実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また実施例に於いて示す「部」及び「%」は特に明示しない限り絶乾重量部及び絶乾重量%を示す。
【0042】以下に示す実施例及び比較例において、支持体は市販品の上質紙を使用し、すべて共通とした。又、本発明で得られたインクジェット記録シートは、すべてスーパーカレンダー(線圧:100Kg/cm)によって処理した後、評価した。」

(1i)「【0043】実施例1インク受理層の最下層を形成:インク受理層の最下層を支持体の表面に塗工した。該インク受理層の塗工組成物は、平均粒子径12μmの合成非晶質シリカ(ミズカシルP-78D:水澤化学工業社製)100部、ポリビニルアルコール(PVA?117:クラレ社製)35部を用い、水の添加により固形分15%として、これらを調液した。この液を絶乾塗工量6g/m^(2)となるように塗工した。
インク受理層の最上層を形成:インク受理層の最上層は、インク受理層の最下層の表面に塗工した。該インク受理層の塗工組成物は、平均粒子径6μmの合成非晶質シリカ(ミズカシルP-78A:水澤化学工業社製)100部、ポリビニルアルコール(PVA?117:クラレ社製)35部を用い、水の添加により固形分15%として、これらを調液した。この液を絶乾塗工量6g/m^(2)となるように塗工した。
光沢発現層を形成:無機微粒子である有機カチオン処理されたコロイダルシリカ(Cab-O-Sperse PG022:キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク社製)100部、ポリビニルアルコール(PVA-117:クラレ社製)5部、カチオン性染料定着剤(スミレッズレジン1001:住友化学社製)5部を用い、水の添加により固形分15%としてこれらを調液し、絶乾塗工量10g/m^(2)となるように塗工した。該光沢発現層塗被面がチルドロールに接するように、線圧100Kg/cmの条件でカレンダー処理を行い、本発明のインクジェット記録シートを得た。」

(1j)「【0050】実施例8インク受理層の最下層(絶乾塗工量:10g/m^(2)及びインク受理層の最上層の絶乾塗工量を8g/m^(2)、光沢発現層の絶乾塗工量を15g/m^(2)とした以外は実施例1と同様にして本発明のインクジェット記録シートを得た。」

(1k)転記を省略した【表1】の「実施例8欄」には、インク受理層下層(平均粒子径12μmの合成非晶質シリカを主体とする、絶乾塗工量10g/m^(2))、インク受理層上層(平均粒子径6μmの合成非晶質シリカを主体とする、絶乾塗工量8g/m^(2))、光沢発現層(有機カチオン処理されたコロイダルシリカ無機微粒子を主体とする、絶乾塗工量15g/m^(2))としたインクジェット記録シートは、入射角75度の鏡面光沢度が40と高く、塗工面の粉落ちが少なく、指にもあまり付着せず、染料インクでも顔料インクでも印字画像鮮明性、インク吸収性、印字濃度がいずれも高く優れていることが示されている。

・上記の事項から、刊行物1には、実施例8を中心に、下記のようなインクジェット記録シートの発明が開示されていると認められる。
(以下、「刊行物1発明」という。)
「上質紙の支持体の表面に、順次、平均粒子径12μmの合成非晶質シリカを100部、ポリビニルアルコール樹脂(以下「PVA」と略記。)バインダー35部の水系塗工液を絶乾塗工量10g/m^(2)で塗工したインク受理層下層、平均粒子径6μmの合成非晶質シリカを100部、PVAバインダー35部の水系塗工液を絶乾塗工量8g/m^(2)で塗工したインク受理層上層、有機カチオン処理されたコロイダルシリカ無機微粒子(平均粒子径5?500nm)を100部、PVAバインダー5部、カチオン性染料定着剤5部の水系塗工液を絶乾塗工量15g/m^(2)で塗工した光沢発現層を形成した後、線圧100Kg/cmでカレンダー処理して調製したインクジェット記録シート。」

2-2.周知引例1
・原査定に周知引例1として引用された特開2005-280338号公報には、次の事項が記載されている。
「染料インクおよび顔料インクのいずれに対しても発色性に優れ、白色度および白紙部の保存性に優れたインクジェット記録用紙」(【課題】欄参照)に関して、紙基材中には、パルプのほかに、インク吸収性を高めるために無機顔料の填料を配合すること(【0012】?【0017】)、インク受容層の下に、白色無機顔料を含む下塗り層を設けて白色度を高めるのが望ましいこと(【0018】?【0029】)、インク受容層の塗工量は2?30g/m^(2)が目安で特に限定されず、インク吸収性、画像の鮮明性などのため或る程度必要であるが、多すぎると塗膜強度の低下などをもたらすので加減量を注意すべきこと(【0030】?【0042】)などが記載されている。

2-3.周知引例2
・原査定に周知引例2として引用された特開2005-280150号公報には、次の事項が記載されている。
「染料インクと同様に顔料インクに対しても上記の特性(インク吸収性、画像濃度など;当審注)が十分に満足できるインクジェット記録材料」(【0007】)に関して、紙支持体には、パルプのほかに、多孔性無機顔料などの填料や、澱粉などのサイズ剤が配合され、抄紙直後にカレンダー処理することで顔料インクの画像濃度を高められること(【0010】?【0030】)、インク受容層の塗工量は2.5?40g/m^(2)が目安で特に限定されず、インク吸収性や印字性能のため或る程度必要であるが、多すぎると支持体との接着強度不足により粉落ち減少をもたらすので加減量を注意すべきこと(【0017】?【0031】)などが記載されている。

3.対比
・本願発明と刊行物1発明とを対比するに、
刊行物1発明の
「平均粒子径12μmの合成非晶質シリカを100部、
PVAバインダー35部なる組成のインク受理層下層」、
「平均粒子径6μmの合成非晶質シリカを100部、
PVAバインダー35部なる組成のインク受理層上層」、
「有機カチオン処理されたコロイダルシリカ無機微粒子(平均粒子径5?500nm)を100部、PVAバインダー5部、カチオン性染料定着剤5部なる組成の光沢発現層」は、
それぞれ、本願発明の
「平均粒子径が11?20μmの合成非晶質シリカを主体とするインク受理層下層」、
「平均粒子径が3?11μmの合成非晶質シリカを主体とするインク受理層上層」、
「平均粒子径が5?500nmの有機カチオン処理されたコロイダルシリカを主体とする光沢発現層」に相当する。
また、刊行物1発明のインク受理層下層の絶乾塗工量10g/m^(2)は、本願発明のインク受理層下層の絶乾塗工量「8?16g/m^(2)」の範囲内であるし、刊行物1発明の光沢発現層の絶乾塗工量15g/m^(2)は、本願発明の光沢発現層の絶乾塗工量「5?20g/m^(2)」の範囲内である。
・よって、本願発明と刊行物1発明とは、
「支持体の表面にインク受理層を設け、該インク受理層の最上層に無機微粒子として平均粒子径が5?500nmの有機カチオン処理されたコロイダルシリカを主体とする光沢発現層を設けてなるインクジェット記録用シートであって、
前記無機微粒子を主体とする光沢発現層の絶乾塗工量が5?20g/m^(2)であり、且つ、前記インク受理層は、インク受理層下層とインク受理層上層の2層からなり、前記インク受理層下層は、平均粒子径が11?20μmの合成非晶質シリカを主体とし、絶乾塗工量が8?16g/m^(2)であり、且つ、前記インク受理層上層は、平均粒子径が3?11μmの合成非晶質シリカを主体とするインクジェット記録用シート。」である点で一致し、以下の点で相違している。
・[相違点]インク受理層上層、インク受理層全体の各絶乾塗工量について、本願発明は、「10?25g/m^(2)」、「25?35g/m^(2)」と規定しているのに対し、刊行物1発明では、「8g/m^(2)」、「18g/m^(2)」としている点。
(刊行物1では、実施例レベルでのみ、インク受理層下層とインク受理層上層の各々の絶乾塗工量が記されているので、本願発明と対比する刊行物1発明の要旨認定は、刊行物1中の実施例8に依っている。したがって、「刊行物1発明のインク受理層全体の各絶乾塗工量」は、刊行物1本文中の「25g/m^(2)」を取り上げて一致点とするのではなく、実施例8の各層の合計の算出値「18g/m^(2)」(=8+10)として[相違点]にしている。)

4.判断
4-1.相違点についての検討・判断
上記相違点について検討する。
刊行物1発明で、インク受理層全体の絶乾塗工量「18g/m^(2)」としている背景を刊行物1の記載内容からみると、その23?24段落で、インク受理層全体の絶乾塗工量の好適範囲について「5?25g/m^(2)」と記載され、その理由について、インク吸収性や光沢性発現のため絶乾塗工量は或る程度必要であること、但し、必要以上に塗工すると塗工層全体のひび割れリスクやコスト増の問題があるのでインク吸収性の効果が飽和するところで止めるべきことが説明されている。
ところで、インクジェット記録用シートのインク吸収性が、インク受理層のインク吸収性のみならず支持体のインク吸収性にも依存することや、塗工する支持体の諸特性(インク吸収性、コシ、白色度、平滑度)などに応じて、インク受理層各層の絶乾塗工量を増減させることは、先の周知引例1?2(前掲2-2.、2-3.参照)にも明らかな様に斯界の周知技術であるから、発明の実施に当たり、当業者が当然に検討し実行する事に過ぎない。
・してみると、例えば、白色ポリエチレン樹脂被覆紙(白色度大でコシ強く高性能だがインク吸収性が乏しい)のごとき斯界で多用される写真印画紙タイプ支持体を上質紙に替えて採用した場合、コシが強くひび割れリスクは小さいしコスト制約も緩い(∵高性能で価格転嫁が容易)から、インク受理層全体でインク吸収性を充分確保するため刊行物1発明でインク受理層全体の絶乾塗工量を「18g/m^(2)」から刊行物1で好適範囲の上限とする「25g/m^(2)」とすべくインク受理層上層の絶乾塗工量を「8g/m^(2)」よりも数g/m^(2)厚く塗工して相違点に係る本願発明の構成を具備したものとすることは、引用文献1に接した当業者であれば適宜なし得ることと認められる。
・しかも、本願発明でインク受理層上層、インク受理層全体のそれぞれの絶乾塗工量をそれぞれ「10?25g/m^(2)」、「25?35g/m^(2)」と規定する根拠・作用効果について、本願明細書では、インク吸収性や光沢度を確保するために所定の塗工量が必要であり、多すぎるとインク吸収性効果は飽和しコスト増となる旨説明しているのみであるから(46?47段落)、規定数値自体の臨界的な意義は説明されておらず、実施例・比較例欄で確認されている訳でも無い。
よって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと言わざるを得ない。

4-2.請求人の作用効果に係る主張について
・請求人は、意見書及び審判請求書に於いて、「顔料インク印字部の光沢度の良好性」が本願発明の特徴的な作用効果であり、刊行物1発明では全く考慮されていないものである旨強調する。
そこで、検討するに、確かに、本願発明の明細書では、各色顔料インクのベタ印字部の光沢度が計測・評価されている。
しかし、現実のカラー画像出力では、顔料インクのベタ打ち出力領域は限定的で、カラー画像の多くの領域が、記録用シートの地肌白色と、出力の絞られたインク滴との混色で中間色的に表現されるものであるから、顔料インク印字画像の鮮明性、顔料インク吸収性、地肌白色の光沢度(刊行物1発明の確認項目)が良好であれば、出力されたカラー画像の光沢度も、記録用シートの地肌白色の良好な光沢度をかなり反映して、良好なものとなることは明らかである。
・してみると、「顔料インク印字部の光沢度の良好性」をうたう本願発明のインクジェット記録用シートが、「顔料インク印字画像の鮮明性、顔料インク吸収性、地肌白色の光沢度の良好性」をうたう刊行物1発明のインクジェット記録用シートと「顔料インク印字部の光沢度」の点で明確に別異のものと言えるほどに相違しているとは到底認められないので、該作用効果により本願発明に進歩性有りとする主張は受け入れられない。

4-3.請求人の構成と効果の結び付きに係る主張について
・請求人は、「インク受容層の塗工量を多めに規定する構成で、顔料インク印字部の光沢度の良好性の効果を達成している」との構成と効果の結び付きから、本願発明に進歩性有りと主張しているので、この点についても、当審での検討内容を子細に説明しておく。
・インクジェット記録用シートの光沢度は、印字の前後にかかわらず、シート表面の平滑性に大きく依存するから、インク受理層の平滑性や光沢発現層の平滑性が重要でそれら塗工層の塗工直後の平滑化処理(スーパーカレンダー処理やキャスト処理)が強く推奨されることは刊行物1にも詳細に説明されているとおりである。(上掲(1d)(1g)参照。)
塗工層の塗工直後の平滑化処理を何ら規定せず、単に塗工量を支持体を覆い尽くす量以上に多少多めに規定しても、平滑性は上がらず、地肌部でも印字部でも光沢度が向上しないことは明白である。
してみると、「インク受容層の塗工量を多めに規定する構成で、顔料インク印字部の光沢度の良好性の効果を達成している」旨の主張は片手落ちで論理的に無理が有るから、該主張は受け入れられず、やはり、本願発明に進歩性有りとは認められない。
よって、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-24 
結審通知日 2010-01-05 
審決日 2010-01-18 
出願番号 特願2005-313001(P2005-313001)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 靖記  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 一宮 誠
伏見 隆夫
発明の名称 インクジェット記録用シート  
代理人 今下 勝博  
代理人 岡田 賢治  

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