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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1212751
審判番号 不服2006-14614  
総通号数 124 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-04-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-07-06 
確定日 2010-03-04 
事件の表示 特願2001-236155「皮膚美白作用剤」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月21日出願公開、特開2003- 48821〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成13年8月3日の出願であって、平成18年5月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し同年7月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年7月12日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成18年7月12日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成18年7月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「バカスを基材とする固体培地上に、椎茸菌を接種し、次いで菌糸体を増殖して得られる菌糸体を含む固体培地を解束し、この解束された固体培地に、水およびセルラーゼ、グルコシダーゼまたはプロテアーゼから選ばれる酵素の1種またはそれ以上を、前記固体培地を30?50℃に保ちながら添加し、そして前記固体培地を酵素の存在下に粉砕および擂潰して椎茸菌糸体抽出物を抽出し、次いで95℃までの温度に加熱することにより酵素を失活させ、かつ滅菌してなる椎茸菌糸体抽出物を含み、該椎茸菌糸体抽出物は、糖質を20?40%(w/w)、タンパク質を13?30%(w/w)、ポリフェノールを2.5?3.5%(w/w)含有しており、活性酸素、フリーラジカルが引き起こしたしみ、しわの皮膚障害、または皮膚疾患の治療用および/または予防用組成物であることを特徴とする皮膚美白作用剤。」と補正された。

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「椎茸菌糸体抽出物」の組成を「糖質を20?40%(w/w)、タンパク質を13?30%(w/w)、ポリフェノールを2.5?3.5%(w/w)含有」するものに限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項1に記載した発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)引用例の主な記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布されたことが明らかな特開昭61-103815号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
(i)「椎茸菌糸体エキスをメラニン生成抑制成分およびメラニン淡色化促進成分として含有することを特徴とする化粧水組成物。」(特許請求の範囲)
(ii)「発明の技術分野
本発明は、化粧水組成物に関し、さらに詳しくは、皮膚に各種の栄養成分を与えて皮膚の新陳代謝を促進し、皮膚表面に滑らかさおよび潤いを与えるという化粧水の本来の目的に加えて、メラニンの生成を抑制するとともに既に沈着したメラニンの淡色化を行いうる化粧水組成物に関する。」(公報1頁左下欄8行?14行)
(iii)「発明の目的およびその概要
本発明者は、・・・・とともに、メラニンの生成を抑制するとともに既に沈着したメラニンの淡色化に作用しうる化粧水を開発すべく鋭意研究した結果、椎茸菌糸体エキスを化粧水組成物中に含有せしめることによって得られる化粧水組成物を皮膚に適用すると、・・・・とともにメラニンの生成が抑制されかつすでに沈着したメラニンの淡色化が促進されることを見出して本発明を完成するに至った。」(公報2頁左上欄3行?14行)
(iv)「この椎茸菌糸体エキスは、たとえばバカスを基材とする固体培地に椎茸菌を摂取し、次いで菌糸体を増殖して得られる菌糸体を含む固体培地を解束し、これに水ならびに必要に応じてセルラーゼ、プロテアーゼまたグリコシダーゼなどの酵素を添加した後、この固体培地を粉砕および擂潰しながら有効成分を抽出し、次いで95℃までの温度に加熱して酵素の失活ならびに滅菌することによって得られる。」(公報2頁左下欄3行?11行)
(v)「発明の効果
本発明に係る化粧水組成物は、椎茸菌糸体エキスを含んでいるので、以下のような効果が認めにれる。
(a)メラニン生成抑制ならびにメラニン淡色化がみ認められる化粧水組成物が得られる。
(b)・・・
(c)肌あれ、肌の乾燥などに対して優れた回復効果を有する化粧水組成物が得られる。」(公報3頁左上欄、1行?10行)
(vi)「例 1
以下の各成分を含有する化粧水組成物を調製した。
グリセリン 5 重量部
・・・
椎茸菌糸体エキス+精製水 80 重量部
・・・
この化粧水組成物を、1日朝夕2回、ヒトの皮膚(肩部)にできた日焼けによるシミ部分に4週間にわたって塗布した。」(公報3頁左上欄14行?右上欄11行)
(vii)「皮膚の色は、色素沈着がなく紫外線による日焼けがほとんど認められない胸部と、紫外線による色素沈着が認められる肩部とで測定し、胸部と肩部との皮膚色の明度差で示す。この胸部および肩部に、本発明に係る化粧水組成物を塗布した場合と、対照区として従来優れたメラニン淡色化効果を有することが証明されているアスコルビン酸を含む化粧水組成物を同様に塗布した場合とで比較した。
その結果を表1に示す。」(公報3頁左下欄7行?最下行)
(viii)「この結果より、本発明に係る化粧水組成物の美白効果は、アスコルビン酸(ビタミンC)を含有する化粧水組成物とほぼ同様であることがわかった。」(公報3頁右下欄10?13行)

(3)対比
引用例には、「椎茸菌糸体エキスをメラニン生成抑制成分およびメラニン淡色化促進成分として含有することを特徴とする化粧水組成物。」(上記(i))(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

本願補正発明と引用発明とを対比すると、前者の「椎茸菌糸体抽出物」は、後者の「椎茸菌糸体エキス」に相当し、前者の「皮膚美白作用剤」は皮膚に適用する組成物であり、後者の「化粧水組成物」も同じく皮膚に適用する組成物であるから、両者は、「椎茸菌糸体抽出物を含む、皮膚に適用するための組成物」である点で一致し、一方、以下の点で相違する。
(相違点1)
椎茸菌糸体抽出物の製法が、前者は「バカスを基材とする固体培地上に、椎茸菌を接種し、次いで菌糸体を増殖して得られる菌糸体を含む固体培地を解束し、この解束された固体培地に、水およびセルラーゼ、グルコシダーゼまたはプロテアーゼから選ばれる酵素の1種またはそれ以上を、前記固体培地を30?50℃に保ちながら添加し、そして前記固体培地を酵素の存在下に粉砕および擂潰して椎茸菌糸体抽出物を抽出し、次いで95℃までの温度に加熱することにより酵素を失活させ、かつ滅菌してなる」製法であるのに対して、後者には製法が特定されていない点。
(相違点2)
菌糸体抽出物の成分が、前者は「糖質を20?40%(w/w)、タンパク質を13?30%(w/w)、ポリフェノールを2.5?3.5%(w/w)含有して」いるものであるが、後者にはこのような特定がない点。
(相違点3)
皮膚に適用する組成物が、前者は「活性酸素、フリーラジカルが引き起こしたしみ、しわの皮膚障害、または皮膚疾患の治療用および/または予防用組成物であることを特徴とする皮膚美白作用剤」であるのに対して、後者は「メラニン生成抑制成分およびメラニン淡色化促進成分を含有することを特徴とする化粧水組成物」である点。

(4)当審の判断
そこで、これらの相違点について以下に検討する。
(相違点1について)
引用例には、椎茸菌糸体エキスの製法について、「この椎茸菌糸体エキスは、たとえばバカスを基材とする固体培地に椎茸菌を摂取し、次いで菌糸体を増殖して得られる菌糸体を含む固体培地を解束し、これに水ならびに必要に応じてセルラーゼ、プロテアーゼまたグリコシダーゼなどの酵素を添加した後、この固体培地を粉砕および擂潰しながら有効成分を抽出し、次いで95℃までの温度に加熱して酵素の失活ならびに滅菌することによって得られる。」(上記(iv))と、水および酵素を加える時の固体培地の温度が30?50℃に保たれている点を除き、引用発明の椎茸菌糸体エキスが、本願補正発明の椎茸菌糸体抽出物と同じ製法により製造されることが記載されている。
そして、例えば、本願明細書において従来技術として引用されている特公昭60-23826号において酵素の添加時の温度として30?50℃という温度条件が採用されているように、30?50℃という温度条件は、セルラーゼ、プロテアーゼまたグリコシダーゼなどの酵素の添加時の温度としては通常採用されるものである。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(相違点2について)
相違点1について示したように、本願補正発明の椎茸菌糸体抽出物と引用発明の椎茸菌糸体エキスは、その製法が実質的に同じであり、得られる抽出物もその組成において実質的に相違しないものである。
したがって、得られる抽出物の成分比率を規定しても、規定していない抽出物と別異のものになるわけではないので、この点は実質的な相違点ではない。
なお、この点については、請求人も平成20年12月11日付けの上申書において、「元来、上記製法限定により、得られる椎茸菌糸体抽出物中の含有主要成分や量比も決まる」と述べている。

(相違点3について)
例えば、引用例(上記(ii)、(vi)及び(vii))にも記載されているとおり、日光など紫外線を含む光線により、皮膚に日焼けによるシミ部分や色素沈着が生じること、及びこれらの現象はメラニンの生成に起因するものであることは周知の事項である。
してみると、引用発明はメラニン生成抑制およびメラニン淡色化促進を行いうる化粧水組成物であるから、メラニンの生成を抑制し日焼けによるシミや色素沈着を防ぎ、また、メラミンの淡色化促進により皮膚を白くするものであり、皮膚の美白を目的とするものである。
そして、日光などの紫外線によるシミなどの色素沈着は、紫外線により生ずる活性酸素、フリーラジカルによるものであることは、本願出願前に周知の事項(必要なら、特開平6-100428号公報、特開平7-196466号公報、特開平6-256152号公報参照)である。
一方、本願補正発明における「しみ、しわの皮膚障害」とは、本願明細書には「メラニン色素沈着の抑制によるしみ、そばかすの防止」という記載がなされており(段落番号[0013])、実施例で行われているのは、モルモットの背部皮膚に紫外線を照射し、その引き起こす色素沈着を抑制する度合いを、各種の濃度の椎茸菌糸体抽出物について調べていることから見て、色素沈着を、しみ、しわの皮膚障害の一態様とするものである。
したがって、引用発明における「メラニン生成抑制成分およびメラニン淡色化促進成分を含有することを特徴とする化粧水組成物」とは、本願出願日前の技術常識を参酌すれば、紫外線により生ずる活性酸素、フリーラジカルが引き起こすシミや色素沈着を防ぎ、また、メラミンの淡色化促進により皮膚を白くする化粧水組成物であり、本願補正発明が、皮膚に適用する組成物を「活性酸素、フリーラジカルが引き起こしたしみ、しわの皮膚障害、または皮膚疾患の治療用および/または予防用組成物であることを特徴とする皮膚美白作用剤」と特定した点に格別の困難性は認められない。

そして、本願補正発明の奏する効果は、引用例に記載の色素沈着防止、あるいは淡色化効果と比べて格別顕著な効果を奏するものとは認められない。

したがって、本願補正発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、請求人は、平成20年12月11日付けで提出した上申書において補正案として、「第1案」、「第2案」及び「(5)案」を示しているが、補正の機会は審判請求時に限定されおり、そもそも補正をすることはできないのであるが、仮に補正をしても、以下の通り、拒絶の理由は解消しない。
「第1案」は、「色素沈着の治療用および/または予防用に限定しようとするものであるが、引用例には椎茸菌糸体抽出物が色素沈着の淡色化、色素沈着の予防に効果があることが実質的に記載されている。
「第2案」は、椎茸菌糸体抽出物の含有主要成分の量比の規定を削除するものであるが、このことにより椎茸菌糸体抽出物が実質的に変更するものでないことは、上述したとおりである。
「(5)案」は第1案または第2案において、「色素沈着の治療用および/または予防用組成物」を「色素沈着の抑制・阻害用組成物」に限定しようとするものであるが、引用例には、椎茸菌糸体抽出物が、色素沈着の抑制に効果があることが実質的に記載されている。

(5)むすび
以上のとおり、本願補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前特許法第17条の2第5項で準用する同第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成18年7月12日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成18年5月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるものと認める。
「バカスを基材とする固体培地上に、椎茸菌を接種し、次いで菌糸体を増殖して得られる菌糸体を含む固体培地を解束し、この解束された固体培地に、水およびセルラーゼ、グルコシダーゼまたはプロテアーゼから選ばれる酵素の1種またはそれ以上を、前記固体培地を30?50℃に保ちながら添加し、そして前記固体培地を酵素の存在下に粉砕および擂潰して椎茸菌糸体抽出物を抽出し、次いで95℃までの温度に加熱することにより酵素を失活させ、かつ滅菌してなる椎茸菌糸体抽出物を含み、活性酸素、フリーラジカルが引き起こしたしみ、しわの皮膚障害、または皮膚疾患の治療用および/または予防用組成物であることを特徴とする皮膚美白作用剤。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例(原査定では引用文献A2と表示されている。)及びその記載事項は、前記2.(2)に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明から、「椎茸菌糸体抽出物」の限定事項である「糖質を20?40%(w/w)、タンパク質を13?30%(w/w)、ポリフェノールを2.5?3.5%(w/w)含有しており」との事項を除いたものである。
そうすると、本願発明を特定する事項をすべて含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(4)」に記載したとおり、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-12-22 
結審通知日 2010-01-05 
審決日 2010-01-19 
出願番号 特願2001-236155(P2001-236155)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岩下 直人  
特許庁審判長 塚中 哲雄
特許庁審判官 星野 紹英
弘實 謙二
発明の名称 皮膚美白作用剤  
代理人 牧村 浩次  

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