• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1213268
審判番号 不服2007-2585  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-01-19 
確定日 2010-03-11 
事件の表示 特願2002- 84122「ポリウレタンエラストマー・アクチュエータ」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月 3日出願公開、特開2003-282982〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成14年3月25日の出願であって,平成18年8月30日付けの拒絶理由通知に対して,同年11月6日に手続補正書及び意見書が提出されたが,同年12月4日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成19年1月19日に審判請求がされるとともに,同年2月13日付けで手続補正書が提出されたものである。

第2 平成19年2月13日に提出された手続補正書による補正(以下,「本件補正」という。)についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明を補正するものであり,このうち,特許請求の範囲については,以下のとおりである。

〈補正事項a〉
・補正前の請求項1の「0.1?0.5重量%の割合」を,補正後の請求項1の「0.15?0.3重量%の割合」と補正する。

2 補正目的の適否
補正事項aは,補正前の請求項1の「0.1?0.5重量%の割合」という数値範囲を,補正後の請求項1の「0.15?0.3重量%の割合」に限定的に減縮したものであるから,補正事項aは,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
したがって,特許請求の範囲についての本件補正は,平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号に規定する要件を満たす。

そこで,以下,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法17条の2第5項で準用する同法126条5項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかを,請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について検討する。

3 独立特許要件を満たすかどうかの検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(本願補正発明)は,次のとおりである。

【請求項1】
「電場配向により変形し得るポリウレタンエラストマー層を具備するポリウレタンエラストマー・アクチュエータであって,前記ポリウレタンエラストマー層を構成するポリウレタンエラストマーに,フラレノールが該フラレノールをウレタンプレポリマー全量(固形分)に対して0.15?0.3重量%の割合で反応させることにより導入されていることを特徴とするポリウレタンエラストマー・アクチュエータ。」

(2)引用例の表示
引用例1:徳木健太郎外4名,“G7-11 ポリウレタンエラストマーにおける圧電効果に関する基礎研究”,平成13年電気関係学会関西支部連合大会講演論文集,平成13年電気関係学会関西支部連合大会実行委員会,2001年10月15日,G170

(3)引用例1の記載と引用発明
(3-1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,徳木健太郎外4名,“G7-11 ポリウレタンエラストマーにおける圧電効果に関する基礎研究”,平成13年電気関係学会関西支部連合大会講演論文集,平成13年電気関係学会関西支部連合大会実行委員会,2001年10月15日,G170(以下「引用例1」という。)には,次の記載がある。

ア 発明の背景等
・「高分子ゲル材料は,その特異な性質のため各種の応用を目的とした基礎研究が積極的に行われている。本研究はこれまでイオン性溶媒置換によるPVA系ゲル材料に代わる無溶媒性のゲル様ポリマー物質として,極性基を主鎖に持つポリエステル系ポリウレタンエラストマー(PUE)をとりあげ,電歪効果を利用した大気中駆動アクチュエータの開発を行ってきた。
本研究により我々が開発したアクチュエータは1kV以上でのみ顕著な駆動を示すため,実用的な観点から低電圧駆動を目指してフラーレン誘導体であるフラーレノールを用いて分子構造制御を行い,その結果,PUEアクチュエーターの低電圧駆動化が行えるようになった。さらに電歪効果とアクチュエータ機構の解析を進めていく課程で,新たにフラーレノール添加PUEフィルムが圧電効果を示すことが明らかとなったので,今回は圧電効果について報告を行う。」(本文左欄2?16行)

(3-2)引用発明
上記アによれば,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。

「ポリウレタンエラストマーを有する電歪効果を利用したアクチュエータであって,前記ポリウレタンエラストマーに,フラーレノールを用いて分子構造制御を行うことを特徴とするアクチュエータ。」

(4)対比
(4-1)次に,本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「ポリウレタンエラストマーを有する」ことは,本願補正発明の「ポリウレタンエラストマー層を具備する」ことに対応し,引用発明の「電歪効果を利用した」ことは,本願補正発明の「電場配向により変形し得る」ことに対応し,引用発明の「アクチュエータ」は,本願補正発明の「ポリウレタンエラストマー・アクチュエータ」に対応するから,引用発明の「ポリウレタンエラストマーを有する電歪効果を利用したアクチュエータ」は,本願補正発明の「電場配向により変形し得るポリウレタンエラストマー層を具備するポリウレタンエラストマー・アクチュエータ」に相当する。
イ 引用発明の「前記ポリウレタンエラストマーに,フラーレノールを用いて分子構造制御を行うこと」において,引用発明の「前記ポリウレタンエラストマーに」は,本願補正発明の「前記ポリウレタンエラストマー層を構成するポリウレタンエラストマーに」に対応し,また,引用発明の「フラーレノールを用いて分子構造制御を行うこと」は,ポリウレタンエラストマーにフラーレノールを導入することであることは,明らかであるから,引用発明の「前記ポリウレタンエラストマーにフラーレノールを用いて分子構造制御を行うこと」は,本願補正発明の「前記ポリウレタンエラストマー層を構成するポリウレタンエラストマーに,フラレノールが」「導入されていること」に相当する。

(4-2)そうすると,本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は,次のとおりとなる。

《一致点》
「電場配向により変形し得るポリウレタンエラストマー層を具備するポリウレタンエラストマー・アクチュエータであって,前記ポリウレタンエラストマー層を構成するポリウレタンエラストマーに,フラレノールが導入されていることを特徴とするポリウレタンエラストマー・アクチュエータ。」

《相違点》
本願補正発明は,「ポリウレタンエラストマーに,フラレノールが該フラレノールをウレタンプレポリマー全量(固形分)に対して0.15?0.3重量%の割合で反応させることにより導入されている」のに対して,引用発明は,「前記ポリウレタンエラストマーにフラーレノールを用いて分子構造制御を行う」が,本願補正発明の「フラレノールをウレタンプレポリマー全量(固形分)に対して0.15?0.3重量%の割合で反応させること」についての構成がない点。

(5)相違点についての判断
ア 引用発明の「前記ポリウレタンエラストマーに,フラーレノールを用いて分子構造制御を行うこと」は,「ポリウレタンエラストマー」と「フラーレノール」とが,反応することであることは,明らかである。
イ また,本願補正発明の「フラレノールをウレタンプレポリマー全量(固形分)に対して0.15?0.3重量%の割合で反応させること」における,「0.15?0.3重量%の割合」は,図2のグラフに基づくものであるが,図2のグラフは,本願の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0040】の「(フラレノールの調製例1)フラーレン3gと,発煙硫酸45mlとを混合して67℃で1?4週間攪拌して,スルホン化反応を行い,さらに,蒸留水を加え,85℃で3日間攪拌して,加水分解反応を行うことにより,分子内に導入されている水酸基数が異なる2種のフラレノールを調製した。すなわち,水酸基数が多いフラレノール(「OHrichフラレノール」と称する場合がある)と,水酸基数が少ないフラレノール(「OHpoorフラレノール」と称する場合がある)とを調製した。」,段落【0041】の「平均分子量が2,945のポリ-3メチル-1,5-ペンタンアジペートポリオール(PMPA,クラレ株式会社製,商品名「クラポールP3010」)100重量部に,パラフェニレンジイソシアネート(PPDI,デュポン社製,商品名「ハイレン」)10.8重量部を加え,窒素気流下において,85℃で2時間反応させて末端イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得た。」,段落【0042】の「前記ウレタンプレポリマーに,前記フラレノールの調製例1により得られたOHrichフラレノールを,ウレタンプレポリマー(固形分)全量に対して0.1?0.5重量%(具体的には,0.1重量%,0.15重量%,0.2重量%,0.25重量%,0.3重量%,0.4重量%,0.5重量%の7種類)の割合で変化させて,加えて混合し,予め110℃に保温しておいた厚み0.2mmの金型に注ぎ込んで,110℃で24時間オーブン中に放置して,硬化反応を行うことにより,OHrichフラレノールの導入量が異なる7種類のフラレノール導入ポリウレタンエラストマーを調製した。なお,該フラレノール導入ポリウレタンエラストマーを,「フラレノール導入ポリウレタンエラストマーA」と総称する場合がある。」という記載から理解できるように,段落【0041】に記載の特定のウレタンプレポリマーに,段落【0040】に記載の特定のOHrichフラレノールを反応させた際のグラフであり,発明の詳細な説明に記載されている,他の材料によるウレタンプレポリマーに,「OHpoorフラレノール」を反応させた際には,図2とは異なるグラフとなる蓋然性が高いから,「0.15?0.3重量%の割合」という数値範囲は,ウレタンプレポリマーの材料と,フラレノールの水酸基数を特定していない,一般化したポリウレタンエラストマー・アクチュエータの数値範囲として,意味のあるものとは認められない。
ウ また,フラレノールを反応させたポリウレタンエラストマー・アクチュエータにおいて,フラレノールの濃度を,本願補正発明の「0.15?0.3重量%の割合」の数値範囲と重なる,0.25%近傍とすることは,本願と一部の発明者が共通する以下の周知例1?3に記載されているように,本願の出願前に周知の技術である。
なお,本願の願書に最初に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0052】の「フラレノールの濃度(重量%)」という記載から明らかなように,「フラレノールの濃度」は,「フラレノールの重量%」と同等である。
エ 周知例1. 京兼 純,浦西大裕,平井利博,上田敦,吉野勝美,“フラレノール添加ポリウレタンエラストマ(PUE)の電歪効果を用いたアクチュエータへの応用研究”,第17回「センサ・マイクロマシンと応用システム」シンポジウム講演概要集,(社)電気学会,平成12年5月31日,A2-6,P.13(本文左欄1?36行の記載を参照)には,次の記載がある。
・「そこで本研究ではフラーレン(C_(60))誘導体であるフラレノールをPUE中に導入し,構造制御を行って低電界・高電歪のフィルムを形成させることを試みた。今回は濃度と水酸基数の異なるフラレノールを用い,電場応答性および発生応力の相違等について,無添加PUEとの比較検討を行ったので,その報告を行う。」(本文左欄8?13行)
・「フラレノール添加PUEアクチュエータの屈曲変位は,導入するフラレノール濃度の増加と共に大きくなり,濃度が0.25%のとき最大変位を示し,また屈曲変位はフラレノールの水酸基数によっても影響を受けることが分かった。」(本文左欄24?27行)
・「一定電界下におけるフラレノール濃度によるアクチュエータの屈曲は,0.25%で最大の変位を示し,無添加PUEアクチュエータの約8倍程度の変位が確認された。」(本文左欄33?36行)
オ 周知例2. J.Kyokane,H.Ishimoto,H.Yugen,T.Hirai,T.Ueda,K.Yoshino,ERECTORO-STRICTION EFFECT OF PORYURETHANE ERASTOMER(PUE) AND ITS APPLICATION TO ACTUATORS Synthetic Metals, Elsevier Science, 103(1999), pp.2366-2367(2367頁右欄1?17行の記載を参照)
・「PUEアクチュエータの動作電圧は,1KVであり,この電圧はとても高い。実用的に使用することは,非常に難しい。そこで,モノモルフアクチュエータが,低電圧で大きな屈曲を得るために,PUEへフラーレンの誘導体を導入することを試みた。図6は,普通のPUEフィルムと,0.05%と0.1%と0.25%の異なるフラレノール濃度をドープしたフィルムと,0.1%のフラーレンをドープしたフィルムの屈曲を示す。フラレノールを導入したフィルムの屈曲は,PUEの中のフラレノール濃度の増加とともに増大する。0.25%のフラレノール濃度をドープしたPUEフィルムは,図6に示されるように,300Vで普通のフィルムよりも約3倍屈曲することが見いだされた。その上,すべてのPUE試料は,供給電圧によりカソード電極の方向に曲がる。ドープしたエラストマーの屈曲は,フラレノール濃度に比例して大きくなるので,フラレノールの星形をしたヒドロキシル基の結合により,PUEフィルム内で交差結合の密度が増大するためと考えられる。」(2367頁右欄1?17行の訳文)
カ 周知例3. 京兼 純,浦西大裕,平井利博,上田敦,“フラレノール添加PUEの電歪効果を用いたユニモルフ型アクチュエータへの応用研究”電気化学会 技術・教育研究論文誌,第9巻,第1号,電気化学会 技術・教育研究懇談会,平成12年4月,P.23?28 には,次の記載がある。
・「本ユニモルフ型PUEアクチュエーは,上記したように安定的に駆動する電界が50KV/cm以上の高電界となるため,実用化に対しては不備となり低電界駆動が必要不可欠となる。その手段として本研究では,フラーレン(C_(60))誘導体であるスター状のフラレノールを合成し,これをPUE中に導入して構造制御を行ってきた。ここでは,PUEのフラレノール構造制御によって,低電界下で大きい屈曲変位と発生力を持つアクチュエーが得られたので,これらに関する報告を行う。」(24ページ右欄9?19行)
・「フラレノール導入PUEが,より低電圧で駆動が可能となるよう,さらに導入フラレノール濃度を変化させて変位量を求めた。
Fig.9は印加電圧を1KV一定とし,フラレノール濃度の相違による変位量を比較したものである。Fig.9よりフラレノール濃度の増加と共に変位量は増加傾向にあり,フラレノール濃度を0.25%導入した試料が最も大きい屈曲変位を示しており,逆にそれ以上増やしても大きな変位につながらなかった。」(26ページ右欄26行?27ページ左欄4行)
キ 上記のア?カに記載したとおり,本願補正発明の「0.15?0.3重量%の割合」は,格別な意味を有しておらず,かつ,周知の数値範囲であるから,引用発明の「ポリウレタンエラストマーに,フラーレノールを用いて分子構造制御を行う」際に,本願補正発明のように,「フラレノールをウレタンプレポリマー全量(固形分)に対して0.15?0.3重量%の割合で反応させる」ようになすことは,当業者が適宜なし得たことと認められる。

(6)以上のとおり,引用発明において,相違点に係る構成を備えたものとすることは,当業者が容易に想到できたものである。

したがって,本願補正発明は,引用発明の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 以上の次第で,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により,却下すべきものである。

第3 本願発明
1 以上のとおり,本件補正(平成19年2月13日に提出された手続補正書による補正)は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,本件補正前の請求項1(平成18年11月6日に提出された手続補正書により補正された請求項1)に記載された,次のとおりのものである。

【請求項1】
「電場配向により変形し得るポリウレタンエラストマー層を具備するポリウレタンエラストマー・アクチュエータであって,前記ポリウレタンエラストマー層を構成するポリウレタンエラストマーに,フラレノールが該フラレノールをウレタンプレポリマー全量(固形分)に対して0.1?0.5重量%の割合で反応させることにより導入されていることを特徴とするポリウレタンエラストマー・アクチュエータ。」

2 引用例1の記載と引用発明については,前記第2,3,(3-1),(3-2)において認定したとおりである。

3 対比・判断
前記第2,1〈補正事項a〉,2で検討したように,本願補正発明は,本件補正前の発明の「0.1?0.5重量%の割合」について,「0.15?0.3重量%の割合」と,数値範囲を限定したものである。逆に言えば,本件補正前の発明(本願発明)は,本願補正発明から,このような数値範囲の限定をなくしたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定したものである本願補正発明が,前記第2,3において検討したとおり,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 結言
以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-01-07 
結審通知日 2010-01-12 
審決日 2010-01-26 
出願番号 特願2002-84122(P2002-84122)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河合 俊英  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 市川 篤
近藤 幸浩
発明の名称 ポリウレタンエラストマー・アクチュエータ  
代理人 後藤 幸久  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ