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審決分類 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1214282
審判番号 不服2008-26193  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-10 
確定日 2010-04-02 
事件の表示 特願2002-331428「低分子物質に対する被分析物中特異的抗体の酵素免疫的な測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月10日出願公開、特開2004-163332〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・請求人の主張
1 本願は、平成14年11月14日の出願であって、平成19年6月19日付けで最初の拒絶理由が通知され(発送日:同年6月21日)、その指定期間内である同年8月8日に意見書及び手続補正書が提出され、次いで、平成20年2月29日付けで最後の拒絶理由が通知され(発送日:同年3月5日)、その指定期間内である同年5月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月3日付けで補正却下の決定がなされる(発送日:同月11日)とともに、同日付けで拒絶査定され、これに対し、同年10月10日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2 請求人は拒絶査定不服審判の審判請求書の請求の理由において、「原審は本願補正発明を第1刊行物及び第2刊行物の記載に基づいて当業者が容易に発明し得たものであると誤って認定し、その結果独立して特許を受けることができないものであるとして補正却下の決定をしたものであり、かかる補正却下は誤りであり、取り消されなければならない。」旨の主張をしている。

第2 補正却下の決定の適否に対する当審の判断
1 結論
補正却下の決定は以下の理由により適法である。

2 理由
(1)平成20年5月2日付けの手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)の内容
本件補正は、平成19年8月8日付け手続補正書により補正された本件出願明細書の特許請求の範囲の各請求項を以下のとおり補正することを含むものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし3
「【請求項1】 低分子物質に対する特異的抗体を含む試料と、低分子物質に対する特異的抗体と低分子物質を固体担体に固定化させた固定化抗原とを反応させる第1工程、第1工程で生じた固定化低分子物質-低分子物質に対する特異的抗体結合物を、低分子物質に対する特異的抗体を含む試料と分離し、該結合物を洗浄する第2工程、第2工程で洗浄された特異的抗体結合物を、特異的抗体と特異的に反応する標識化抗体と反応させる第3工程、および、固定化担体に固定された結合物を、結合物中に含まれる標識を利用して検出する第4工程、を含むことを特徴とする免疫測定法。

【請求項2】 固定化抗原として低分子物質(分子量1000未満)を用いることを特徴とする請求項1記載の免疫測定法。

【請求項3】 β-Dガラクトシダーゼ等を用い、検出に際しエンハンサーとして4-メチルウンベリフェニル-β-ガラクトピラノキシド等を用いた化学発色法であることを特徴とする請求項1記載の免疫測定法。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし2
「【請求項1】 低分子物質に対する特異的抗体を含む試料と、低分子物質に対する特異的抗体と低分子物質を固体担体に固定化させた固定化抗原とを反応させる第1工程、第1工程で生じた固定化低分子物質-低分子物質に対する特異的抗体結合物を、低分子物質に対する特異的抗体を含む試料と分離し、該結合物を洗浄する第2工程、第2工程で洗浄された特異的抗体結合物を、特異的抗体と特異的に反応する標識化抗体と反応させる第3工程、および、固定化担体に固定された結合物を、結合物中に含まれる標識を利用して検出する第4工程を含む、低分子物質としてナファモスタットを使用することを特徴とする免疫測定法。

【請求項2】 標識としてβ-Dガラクトシダーゼを用い、検出に際しエンハンサーとして4-メチルウンベリフェニル-β-ガラクトピラノキシドを用いた化学発色法であることを特徴とする請求項1記載の免疫測定法。」

(2) 本件補正の適否について
本件補正は、平成20年2月29日付けの最後の拒絶理由通知(以下「最後拒理通知」という。)に対する補正であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第1項第3号適用の対象に該当し、本件補正による特許請求の範囲についてする補正は、同条第4項の規定により同項第1号から第4号に掲げる事項を目的とするものに限られる。

そこで、本件補正の内容について検討すると、本件補正は、
ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項のうち、「低分子物質」について、「低分子物質としてナファモスタットを使用する」と限定を付加し、
イ 本件補正前の特許請求の範囲の請求項2を削除し、
ウ さらに、本件補正前の特許請求の範囲の請求項3に係る発明を特定するために必要な事項のうち、「β-Dガラクトシダーゼ等」について、「等」を削除するとともに、「標識としてβ-Dガラクトシダーゼ」と補正し、「4-メチルウンベリフェニル-β-ガラクトピラノキシド等」について、「等」を削除し「4-メチルウンベリフェニル-β-ガラクトピラノキシド」とする補正は、最後拒理通知の(理由3)「(1)請求項3には、標識とエンハンサーについて「等」との記載があり、その範囲が曖昧なため、発明が不明確である。(請求項3にはβ-Dガラクトシダーゼが標識であるとは明記されていないが、請求項1に記載の標識のことであるとみなした。β-Dガラクトシダーゼが標識であるなら、標識であることを明示されたい。)」に対する補正であるので、明りようでない記載の釈明であるといえる。
そうすると、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号、第2号及び第4号の、第36条第5項に規定する請求項の削除、特許請求の範囲の減縮及び明りようでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(3)独立特許要件について
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

ア 引用刊行物の記載事項
補正却下の決定で引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭58-80558号公報(以下「刊行物1」という。)及び「臨床検査,2002年 7月15日,Vol.46, No.7,Page.799-803」(以下「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

<刊行物1>
(1-ア)
「しかし、均一な溶液として抗原抗体反応を行った場合には、B/F分離が極めて繁雑となる。そこで、B/F分離を容易にするため、抗原または抗体を固体状の担体に結合させ、こうして得られる固相化抗原または固相化抗体を用いることが提案された。このような固相化抗原または固相化抗体としては、セルロースまたはセファロースを担体とし、そのヒドロキシル基をブロムシアンを用いて活性化し、抗原または抗体と結合させたもの、および、ポリスチレンのビーズを担体とし、抗原または抗体を物理的に吸着させたものが知られている。しかし、これらは、担体と抗原または抗体との結合率が悪いという欠点があった。
この発明者は、上記の欠点を改善しようと考えた。そして、セルロースまたはその誘導体にメルカプト基を導入し、メルカプト基を利用して抗原または抗体を化学的に結合させると、結合率がよくなることを実験により確認した。この発明は、このような確認に基づいてなされたものである。
すなわち、この発明は、メルカプト基を含むセルロースまたはセルロース誘導体におけるメルカプト基に、抗原または抗体を化学的に結合させてなる、免疫化学的測定試薬である。」(2頁右上欄10行?左下欄14行)

(1-イ)
「この発明における抗原としては、各種ポリペプチド系ホルモン、ステロイド系ホルモン、ビタミンB_(12)、葉酸、サイロキシン、トリヨードサイロニン、補体、α-フエトプロテイン、カルシノエンプリオニックアンチゲン、臓器および血液中の各種酵素および蛋白質、HB_(6)抗原等の各種微生物抗原、植物ホルモン、抗生物質、抗てんかん剤等の薬物等が用いられる。」(3頁右下欄2?9行)

(1-ウ)
「上記のメルカプト基に抗原または抗体を化学的に結合させるには、これらを直接結合させる方法と、架橋基を介して結合させる方法とがある。」(3頁右下欄16?18行)

(1-エ)
「架橋基を介して結合させる方法では、メルカプト基を含むセルロースまたはセルロース誘導体と、架橋剤と抗原または抗体とを逐次または同時に反応させる。ここで用いる架橋剤としては、一端にメルカプト基と結合し得る基をもち、他端にメルカプト基またはアミノ基と結合し得る基をもつものが用いられる。具体的には、抗原または抗体がメルカプト基を有する場合には、例えば、N、N’-オルトフェニレンジマレイミドが用いられる。この場合には、抗原または抗体のメルカプト基と、セルロースまたはセルロース誘導体上のメルカプト基とが、下式

で示される架橋基を介して結合するに至る。
また、抗原または抗体がアミノ基を有する場合には、例えばN-(m-マレイミドベンゾイルオキシ)サクシンイミドが架橋剤として用いられる。この場合には、抗原または抗体のアミノ基と、セルロースまたはセルロース誘導体上のメルカプト基とが、下式

(但し、左側に抗原または抗体のアミノ基が結合し、右側にセルロースまたはセルロース誘導体上のメルカプト基が結合する)で示される架橋基を介して結合するに至る。
ここで、抗原または抗体にメルカプト基を導入するには、抗原または抗体がアミノ基をもつ場合は、例えばメルカプトアルキルイミデート、イミノチオシラン等のような化合物を用いることができる。また抗原が水酸基をもつ場合は、例えば2-イミノチオシランのような化合物を用いることができる。また、カルボキシル基を導入するには、抗原がアミノ基や水酸基をもつ場合には、例えば無水こはく酸を用いてこれらの基をサクシニル化することにより行うことができる。
この発明の測定試薬は、メルカプト基を含むセルロースまたはセルロース誘導体を用いたので、セルロースにブロムシアンを用いて結合させる場合およびポリスチレンの物理吸着による場合に比較して、抗原または抗体の結合率が高い。したがって、この発明の測定試薬を用いると、精度の高い測定を行うことができる。これが、この発明のもたらす大きな利点である。
また、メルカプト基という反応性の高い基を用いて結合させるので、抗原または抗体との結合方法として、色々な方法を用いることができ、その結果、結合できる抗原または抗体の範囲が拡大されている。しなわち、抗原または抗体が、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基のうち少なくとも何れか1つの基をもっていると、その基をセルロースまたはセルロース誘導体上のメルカプト基と結合させることができる。さらに、メルカプト基をセルロースまたはセルロース誘導体のグルコース単位以外の部分に導入するか、またはメルカプト基と抗原または抗体との間に架橋基を介在させることにより、抗原または抗体をグルコース単位から離すことができ、それによって、抗原抗体反応を行う際の立体障害を避けることができる。」(4頁右上欄12行?5頁右上欄2行)

(1-オ)
「2-ヒドロキシ-3-メルカプトプロピル酢酸セルロース(部分加水分解物)(以下、担体Aという)を得た。」(5頁左下欄11?14行)

(1-カ)
「実施例2
(A)測定試薬(固相化セフアレキシン)の製造。
抗原として、セフアレキシン(化学名7-フェニルグリシルアミノ-3-メチル-3-セフエム-4-カルボン酸)1.3×10^(-4)モルを用い、これとN-(m-マレイミドベンゾイルオキシ)サクシンイミド1.3×10^(-8)モルとを、0.02M燐酸緩衝液(pH7.0)5ml中30℃で40分間反応させた。反応液に、0.02M燐酸緩衝液20mlを加えた後、実施例1(A)で製造した担体Aを50個加え、室温で2時間反応させ、さらに4℃で16時間放置し、水洗して測定試薬を得た。本品は、緩衝液A中の牛血清アルブミンを卵白アルブミンに置きかえたもの(以下、緩衝液A(EWA)と略称する)中4℃で保存した。
(B)抗セフアレキシン血清の製造。
抗セフアレキシン血清は、セフアレキシンをハプテンとして牛血清アルブミンに結合させたものを、フロイント完全アジュバントとともにうさぎに投与して生産させた。
(C)抗セフアレキシン抗体の酵素免疫測定法による測定。
抗セフアレキシン血清を緩衝液A(EWA)により10^(3)?10^(5)倍に稀釈したもの100μlと、緩衝液A(EWA)100μlと、実施例2(A)で製造した測定試薬1個とを、30℃で2時間反応させた後、測定試薬を緩衝液A(EWA)1mlで2回洗浄した。これに、実施例1(C)で製造した酵素標識抗体を酵素活性が200μ単位になるように緩衝液Aで稀釈したもの200μlを加え、30℃で2時間反応させた。測定試薬を緩衝液A1mlで2回洗浄し、新しい試験管に移し、10^(-4)Mの4MUG200μlを加え、30℃で30分間反応させた。次に、0.2Mグリシン緩衝液(pH10.6)2mlを加えて反応を停止させた。生成した4MUの蛍光強度を測定し、測定試薬に結合した酵素活性を求めた。」(6頁右下欄下から3行?7頁右上欄下から4行)

(1-キ)
「第2図において、曲線の傾きは充分大きく、したがって精度の高い測定をできることがわかった。また、正常うさぎ血清について上記(C)と同様に操作した場合に得られた酵素活性が、4.53±0.848(μ単位)で極めて低いことから、この測定試薬は妨害物質の吸着が極めて少ないことがわかった。これらの結果から、セフアレキシンのような低分子物質を抗原として用いても、この発明によると、充分使用できる測定試薬が得られることがわかった。」(7頁左下欄2?11行)

特に(1-カ)の実施例の記載とその他の記載事項を総合すると、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「抗セフアレキシン血清と、抗原としてセフアレキシン(化学名7-フェニルグリシルアミノ-3-メチル-3-セフエム-4-カルボン酸)を用い、2-ヒドロキシ-3-メルカプトプロピル酢酸セルロース(担体A)と反応させた測定試薬とを、反応させた後、測定試薬を緩衝液A(EWA)1mlで2回洗浄し、
これに、酵素標識抗体を加え反応させ、
測定試薬を緩衝液A1mlで2回洗浄し、新しい試験管に移し、10^(-4)Mの4MUG200μlを加え、30℃で30分間反応させた。次に、0.2Mグリシン緩衝液(pH10.6)2mlを加えて反応を停止させた。生成した4MUの蛍光強度を測定し、測定試薬に結合した酵素活性を求める抗セフアレキシン抗体の酵素免疫測定法。」(以下「引用発明」という。)

<刊行物2>
(2-ア)
「薬物の副作用の中で薬物アレルギーが占める割合は10%前後と報告されており、まれな副作用ではない。薬物アレルギーは接触過敏症タイプと即時型に大別され、即時型の薬物アレルギーの発症にはIgE抗体が関与していると考えられている。すなわち、肥満細胞または好塩基球に結合した薬物特異的IgE抗体が、再度生体内に進入した薬物と結合し、これらの細胞の脱顆粒によりヒスタミン、ロイコトリエンなどの化学伝達物質が放出されることにより引き起こされるものが即時型の薬物アレルギーであり、重篤な症状としてアナフィラキシーショックがある。これら薬物アレルギーによると思われる有害事象が発現した場合、原因となる薬物を確定する試験方法として、薬剤によるリンパ球刺激試験(DLST)、薬物特異的IgE抗体の測定、ヒスタミン遊離試験および皮内テストなどが実施される。しかし、皮内テストは簡便に行うことができ、短時間で結果が得られる点で優れているが、逆にアレルギー反応の誘発や感作を助長する危険性がある。皮内テスト以外はいずれも体外診断法でありこのような危険はないが、測定結果を得るまでに数日を要する。これらのことから、ベッドサイドで簡便に測定できる体外診断法があれば、臨床上有用と考えられた。
われわれは、蛋白分解酵素阻害剤フサン(鳥居薬品)において、まれにアレルギー様の副作用が発現することから、確定の一助として、フサンの有効成分であるメシル酸ナファモスタット(NM)特異的IgE抗体のELISAを確立し測定してきた。しかし、この測定法は感度に優れるものの最終判定までに数日を要し、迅速性に欠ける。そこでわれわれは薬物特異的なIgE抗体を通常のELISAと同様に感度よく、ELISAと比較してごく短時間で検出できるイムノクロマトキットの開発を行ったのでその結果を報告する。」(799頁左欄下から11行?右欄22行)

(2-イ)
「テストラインには検出対象となる抗原を結合させた。今回検出対象としたNMは低分子化合物であるため、ヒト血清アルブミンに結合させて使用した。」(801頁左欄8?11行)

イ 対比
引用発明と本願補正発明とを対比すると、
(ア)上記(1-キ)の記載からみて、引用発明の「セフアレキシン」が、本願補正発明の「低分子物質」に相当することは明らかである。また、その機能・構造からみて、引用発明の「抗セフアレキシン抗体」、「血清」、「2-ヒドロキシ-3-メルカプトプロピル酢酸セルロース(担体A)」が、それぞれ、本願補正発明の「低分子物質に対する特異的抗体」、「試料」、「固体担体」に相当することは明らかである。一方、本願明細書の「【0008】【課題を解決するための手段】前記の目的は、以下の本発明により達成できる。すなわち本発明は、抗体量を測定する非競合法の酵素免疫測定法において、低分子物質に対する特異的抗体を低分子物質が直接結合した固相を利用して固定化した後に、(以下略。)」との記載及び「【0015】・・・固相化抗原を作製し、これを患者血清との反応に使用する200μL容量の円筒状容器(以下、反応容器)に充填する。以後、体外診断用医薬品 ユニキャップ特異IgE(ファルマシア株式会社)の試薬を用いて、ナファモスタット特異的IgE抗体価の測定を行う。すなわち、反応容器をモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン-リン酸二カリウム混合溶液(以下、洗浄液)で洗浄したのち、患者血清40μLを反応容器に加え、37℃で30分間インキュベートし、その後、反応容器を洗浄液で洗浄し、β-Dガラクトシダーゼ標識マウス抗ヒトIgEモノクロナール抗体(1μg/mL)50μLを反応容器に加えて、37℃で24分間インキュベートする。(以下略)」との記載からみて、本願補正発明の「低分子物質に対する特異的抗体を含む試料と、低分子物質に対する特異的抗体と低分子物質を固体担体に固定化させた固定化抗原とを反応させる第1工程」という事項は明確ではないものの、「低分子物質に対する特異的抗体を含む試料と、低分子物質を固体担体に固定化させた固定化抗原とを反応させる第1工程」という発明を含むといえる。そうすると、引用発明の「抗セフアレキシン血清と、抗原としてセフアレキシン(化学名7-フェニルグリシルアミノ-3-メチル-3-セフエム-4-カルボン酸)を用い、2-ヒドロキシ-3-メルカプトプロピル酢酸セルロース(担体A)と反応させた測定試薬とを、反応させた」は、本願補正発明の「低分子物質に対する特異的抗体を含む試料と、低分子物質に対する特異的抗体と低分子物質を固体担体に固定化させた固定化抗原とを反応させる第1工程」に相当する。
(イ)引用発明の「測定試薬を緩衝液A(EWA)1mlで2回洗浄し」が、本願補正発明の「第1工程で生じた固定化低分子物質-低分子物質に対する特異的抗体結合物を、低分子物質に対する特異的抗体を含む試料と分離し、該結合物を洗浄する第2工程」に相当することは明らかである。
(ウ)引用発明の「酵素標識抗体」が、本願補正発明の「標識化抗体」に相当することは明らかである。そうすると、引用発明の「これに、酵素標識抗体を加え反応させ」は、本願補正発明の「第2工程で洗浄された特異的抗体結合物を、特異的抗体と特異的に反応する標識化抗体と反応させる第3工程」に相当する。
(エ)引用発明の「測定試薬を緩衝液A1mlで2回洗浄し、新しい試験管に移し、10^(-4)Mの4MUG200μlを加え、30℃で30分間反応させた。次に、0.2Mグリシン緩衝液(pH10.6)2mlを加えて反応を停止させた。生成した4MUの蛍光強度を測定し、測定試薬に結合した酵素活性を求めた。」が、本願補正発明の「固定化担体に固定された結合物を、結合物中に含まれる標識を利用して検出する第4工程」に相当することは明らかである。
(オ)引用発明の「酵素免疫測定法」が、本願補正発明の「免疫測定法」に相当することは明らかである。

そうすると、両者は、
(一致点)
「低分子物質に対する特異的抗体を含む試料と、低分子物質に対する特異的抗体と低分子物質を固体担体に固定化させた固定化抗原とを反応させる第1工程、第1工程で生じた固定化低分子物質-低分子物質に対する特異的抗体結合物を、低分子物質に対する特異的抗体を含む試料と分離し、該結合物を洗浄する第2工程、第2工程で洗浄された特異的抗体結合物を、特異的抗体と特異的に反応する標識化抗体と反応させる第3工程、および、固定化担体に固定された結合物を、結合物中に含まれる標識を利用して検出する第4工程を含む、免疫測定法。」
である点で一致し、以下の点で相違するといえる。

(相違点)
低分子物質として、本願補正発明は「ナファモスタット」を使用しているのに対して、引用発明は「セフアレキシン(化学名7-フェニルグリシルアミノ-3-メチル-3-セフエム-4-カルボン酸)」を使用している点。

ウ 上記相違点についての当審の判断
上記(2-ア)及び(2-イ)によると、刊行物2には、メシル酸ナファモスタットはアレルギー様の副作用が発現することから、メシル酸ナファモスタット(NM)特異的IgE抗体を体外で検出する必要があること、及び、NMは低分子化合物であるためヒト血清アルブミンに結合させてテストラインに結合させることが示されている。
一方、上記(1-ア)及び(1-キ)によると、刊行物1には、メルカプト基を含むセルロースまたはセルロース誘導体におけるメルカプト基に、抗原または抗体を化学的に結合させると、セフアレキシンのような低分子物質を抗原としても充分使用できることが示されており、また、上記(1-イ)、(1-ウ)及び(1-エ)によると、抗原としては、セフアレキシン以外にも、葉酸、サイロキシン等の低分子物資を用いることができ、そして、用いる抗原が有する基によって、固体担体のメルカプト基に直接結合したり、あるいは架橋基を介して結合させることが示されている。
さらに、ナファモスタットの末端基であるアミジンは縮合環化反応によって、β-ジカルボニル化合物とはピリミジン誘導体を、α-ハロケトンとはイミダゾール誘導体を、α-ヒドロキシケトンとはオキサゾール誘導体を生成する等、アミジンが他の基と反応することは本願出願時には技術常識である。(必要であれば,「化学大辞典」,第1版 第5刷,株式会社東京化学同人,1998年6月1日,p.68参照。)
そうすると、刊行物1及び刊行物2は、低分子物質を抗原とした免疫測定法である点で共通するので、引用発明の抗原であるセフアレキシンに換えて、ナファモスタットを抗原として用い、そして、一端がナファモスタットと結合し得る基をもち、他端がメルカプト基と結合し得る基をもった架橋基を介して、ナファモスタットを固体担体に結合させるとともに、特異的抗体としてナファモスタットに対する特異的抗体を、標識化抗体として、ナファモスタットに対する特異的抗体に反応する標識化抗体を用いることは、当業者であれば容易に想到し得るというべきである。

また、本願補正発明に係る効果も、引用発明及び刊行物2に記載されている事項から予測しうる範囲内であり、格別顕著なものであるとはいえない。

なお、本願補正発明に係る効果について、請求人は審判請求書において「(6)なお、原審においては、その効果も当業者の予測の域を出るものではないと認定しているが、かかる認定は後付の認定(hindsightの認定)でしかない。
本願補正発明は、前記したように、低分子物質であるナファモスタットについて、事前にアナフィラキシーショックの誘発を予測する免疫学的な測定方法である。
患者に対して薬物の投与前に、当該薬物のアナフィラキシーショックの誘発を予測することは、安全な医薬品の使用という観点から、極めて重要なことであり、特にアナフィラキシーショックは急激な血圧低下を来すものであり、放置しておけば死に至る極めて危険な症状の一つになっている。
この点を踏まえ、第2刊行物に記載の発明も、メシル酸ナファモスタットによるアレルギーの確定診断の一助としてメシル酸ナファモスタット特異的IgE抗体簡易測定法を提供しているものであることから、この点の要求は極めて高いものである。
したがって、より効果的な診断方法の確立は極めて急務な課題であり、本願補正発明もかかる課題を解決する、第2刊行物に記載の発明とは異なる、簡便な方法として、極めて特異的なものである。
そうであるとすると、そのような点が第2刊行物に記載されているからといって、第1刊行物に記載の発明から容易に想到し得ない本願補正発明の効果について、当業者の予測に域を出るものではないとする認定は、本願補正発明が第1刊行物の記載の発明から容易に想到し得るものであるならば是認し得るものといえるが、本願補正発明を容易に想到し得ない段階では、単に第2刊行物に記載の事実をもって、後付的に当業者の予測に域を出るものではないとしているに過ぎない。
結局とところ、本願補正発明における危険なアナフィラキシーショックの誘発を事前に予測することは、極めて重要なことであり、その点で本願補正発明は格別顕著な効果を発揮するものである。
そしてかかる効果は、第1刊行物には一切記載も示唆もない第1刊行物に記載の発明からは予測されない本願補正発明の特別顕著な効果であると確信する。」と主張している。

しかしながら、上記したとおり、引用発明の抗原として、刊行物2に記載されているナファモスタットを用いることは当業者であれば容易に想到し得るといえることから、本願補正発明の「アナフィラキシーショックの誘発を事前に予測する」という効果については、引用発明及び刊行物2に記載されている事項から予測し得るというべきである。

請求人のいう格別顕著な効果について、本願明細書の「【0015】【実施例】以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。[試験例]カルボキシル基を有するポリスチレン系親水性ポリマーとナファモスタットを、スミロンELISAカルボタイプ(住友ベークライト株式会社)の試薬、すなわち水溶性カルボジイミドとビオチンヒドラジドを用いて結合させるために37℃で2時間反応させ、固相化抗原を作製し・・・従前のEIA法の変法に対して10倍以上の高感度の良好な結果を得ることができる。さらに、以上の操作は、血清入手後3時間以内にナファモスタット特異的IgE抗体価の測定が可能となり、EIA法の変法での測定時間(2日)と比較して迅速で、医療現場においてアナフィラキシーショック誘発性を適時に予測するのに有用な手段となり得ることが明らかである。」との記載について検討すると、
(a)従前のEIA法の変法に対して10倍以上の高感度の良好な結果を得ることができる。
(b)血清入手後3時間以内にナファモスタット特異的IgE抗体価の測定が可能となる。
という効果を奏すると記載されている。
しかしながら、
(a)について検討すると、従前のEIA法の変法がどのようなものであるのか明らかではないが、上記(1-ア)及び(1-キ)の記載からみて、引用発明の抗原であるセフアレキシンに換えて、ナファモスタットを抗原として用いた発明は、抗原を固体担体に化学的に結合することから、精度の高い測定ができることは明らかである。しかも、上記本願明細書の【0015】の【実施例】で記載されている材料・方法で実施した場合には10倍以上の高感度の良好な結果を得ることができるかもしれないが、本願補正発明では、低分子物質としてナファモスタットを使用することは特定されているものの、固体担体の材質、固定化方法等は特定されていないことから、本願補正発明に包含される全ての発明が10倍以上の高感度の良好な結果を得ることができるのか明らかではない。したがって、本願補正発明が奏する効果として、「従前のEIA法の変法に対して10倍以上の高感度の良好な結果を得ることができる」ということはできない。
次に(b)について検討すると、引用発明の抗原であるセフアレキシンに換えて、ナファモスタットを抗原として用いた発明も、ナファモスタットを固体担体と反応させた後の工程は、本願補正発明と同じであることから、本願発明と同様の効果が奏されるといえる。
そうすると、本願明細書に記載されている効果は、本願補正発明の構成に対応したものでなく、引用発明及び刊行物2に記載されている事項から、当業者が予測しうる範囲を超えるものであるということはできない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された事項及び刊行物2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正却下の決定の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第53条の規定により却下しなければならないものであるとした平成20年9月3日付け補正却下の決定は、適法である。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成20年9月3日付け補正却下の決定に誤りはなく、平成20年5月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、本件補正前の、平成19年8月8日付け手続補正書で補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明は次のとおりである。(以下「本願発明」という。)

「【請求項1】 低分子物質に対する特異的抗体を含む試料と、低分子物質に対する特異的抗体と低分子物質を固体担体に固定化させた固定化抗原とを反応させる第1工程、第1工程で生じた固定化低分子物質-低分子物質に対する特異的抗体結合物を、低分子物質に対する特異的抗体を含む試料と分離し、該結合物を洗浄する第2工程、第2工程で洗浄された特異的抗体結合物を、特異的抗体と特異的に反応する標識化抗体と反応させる第3工程、および、固定化担体に固定された結合物を、結合物中に含まれる標識を利用して検出する第4工程、を含むことを特徴とする免疫測定法。」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用した刊行物1の記載事項は、上記「第2 2 (3) ア」に記載したとおりである。

3 本願発明と引用発明との対比・判断
本願発明は、上記「第2 2 (3) イ」で検討した本願補正発明の「低分子物質」について、「低分子物質としてナファモスタットを使用する」との限定を解除したものに相当する。
そうすると、本願発明と引用発明の構成に差異はないことから、本願発明は、刊行物1に記載された発明である。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号の規定に該当し特許を受けることができない。
したがって、本願は、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-04 
結審通知日 2010-02-05 
審決日 2010-02-17 
出願番号 特願2002-331428(P2002-331428)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (G01N)
P 1 8・ 56- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三木 隆  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 松本 征二
郡山 順
発明の名称 低分子物質に対する被分析物中特異的抗体の酵素免疫的な測定方法  
代理人 草間 攻  

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