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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q
管理番号 1214456
審判番号 不服2005-10496  
総通号数 125 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-05-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-05-12 
確定日 2010-04-07 
事件の表示 特願2003- 27127「電子証券発行システム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年10月24日出願公開、特開2003-303280〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,平成15年2月4日(優先権主張 平成14年2月5日)の出願であって,平成17年4月1日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年5月12日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに,同年6月13日付けで手続補正書が提出されたものである。そして,当審における審理の結果,平成21年1月16日付けで拒絶理由通知がなされ,これに対して,同年3月23日付けで手続補正がなされた。

2.本件発明
本件の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成21年3月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである。

「【請求項1】 電子証券発行コンピュータと投資者コンピュータとを有し,前記電子証券発行コンピュータと前記投資者コンピュータとがネットワークを介して相互に通信可能に接続されていると共に,前記投資者コンピュータにプリンタが接続され,
前記電子証券は,事業者が調達した資金と引き換えに交付する資金調達用の電子証券である旨の文言画像と,前記事業者が,前記電子証券を所有する者に,前記事業者の事業活動の結果得た利益を分配する旨の文言画像と,前記事業者が,前記電子証券を所有する者に,利息を定期的に支払う旨の文言画像と,前記事業者が,倒産,経営不振などの理由により,前記利息を定期的に支払う旨の文言画像が示す利息の支払を履行することができなくなった場合に,調達した前記資金の返済または調達した前記資金および前記利息の返済を,国,地方公共団体またはその他の公法人が,あらかじめ決定された限度で保証する旨の文言画像とを画像形成するためのデータと証券の正当性を保証するための証券発行者の電子署名が含まれた電子データからなり,
前記電子証券を,電子証券発行コンピュータから前記投資者コンピュータに対して前記ネットワークを介して電子的に発行するための電子証券発行システムであって,
前記電子証券発行コンピュータは,
前記電子証券の電子データの入力を受け付ける入力手段と,
前記入力手段より入力された前記電子証券の電子データに対してコピー・プロテクトを電子的に施すと共に,1回のみの印刷を可能とするプロテクトを電子的に施しハードディスクに記録する記録手段と,
前記投資者コンピュータに前記ネットワークを介して前記ハードディスクに記録されているコピー・プロテクト及び1回のみの印刷を可能とするプロテクトが施された電子証券の電子データを送信する送信手段とを有し,
前記投資者コンピュータは,
前記電子証券発行コンピュータの送信手段から前記ネットワークを介して送信された前記電子証券の電子データを受信する受信手段と,
前記受信手段で受信した前記電子証券の電子データをハードディスクに記録する記録手段と,
前記記録手段で記録した電子証券の電子データの画像を形成する画像形成手段と,
前記画像形成手段が形成した電子証券の電子データの画像を表示する表示手段と,
印字命令があったとき,電子証券の電子データの1回のみの印刷を可能とするプロテクトに従って,前記ハードディスクに記録された前記電子証券の電子データの内容についてのプリントジョブを作成し,このプリントジョブを前記プリンタに送信する印字命令送信手段とを有し,
前記投資者コンピュータに接続されたプリンタは,
前記投資者コンピュータから出力された前記プリントジョブに従って電子証券の電子データの画像を原本として印刷する印字手段を有し,
前記事業者が,前記電子証券を利用して資金を調達することができると共に,証券を購入することがなかった者が,前記電子証券を購入し,必要に応じて,印刷された証券を原本として流通させ,新たな市場を形成することができるようにする電子証券発行システム。」

3.引用例
(1)引用例1
当審で通知した拒絶理由で引用した特開2001-306811号公報(平成13年11月2日出願公開)(以下、「引用例1」という。)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(A)【特許請求の範囲】の記載
「【請求項1】 ネットワークを通じて利用者との間で保険契約を行う保険契約システムにおいて,
入力フォームを提示して利用者に必要事項の入力を要求する第1要求手段と,
入力された前記必要事項を含む契約内容確認データを作成し,利用者に提示して電子署名の付与を要求する第2要求手段と,
保険料の支払い方法の指定を要求する第3要求手段と,
利用者が電子署名を付した前記内容確認データ,及び前記支払い方法の指定に基づいて保険契約を成立させる契約手段と,
前記保険契約が成立した場合に契約内容データを作成し,電子署名を付して利用者へ送信することにより契約完了を通知する完了通知手段と,
前記第1要求手段,前記第2要求手段,前記第3要求手段,前記契約手段及び前記完了通知手段が行った処理の内容及び処理の時刻をログデータとして記録するログ記録手段と,を備えることを特徴とする保険契約システム。
【請求項2】 成立した前記保険契約についての証券データを作成する証券作成手段と, 前記証券データ及び前記ログデータを利用者へ送信する送信手段と,を備えることを特徴とする請求項1に記載の保険契約システム。
【請求項3】 前記送信手段による送信前に,前記証券データ及び前記ログデータに電子署名を付す署名手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の保険契約システム。
【請求項4】?【請求項10】 (略)」

(B)【0006】?【0010】段落の記載
「【0006】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の発明は,ネットワークを通じて利用者との間で保険契約を行う保険契約システムにおいて,入力フォームを提示して利用者に必要事項の入力を要求する第1要求手段と,入力された前記必要事項を含む契約内容確認データを作成し,利用者に提示して電子署名の付与を要求する第2要求手段と,保険料の支払い方法の指定を要求する第3要求手段と,利用者が電子署名を付した前記内容確認データ,及び前記支払い方法の指定に基づいて保険契約を成立させる契約手段と,前記保険契約が成立した場合に契約内容データを作成し,電子署名を付して利用者へ送信することにより契約完了を通知する完了通知手段と,前記第1要求手段,前記第2要求手段,前記第3要求手段,前記契約手段及び前記完了通知手段が行った処理の内容及び処理の時刻をログデータとして記録するログ記録手段と,を備えることを特徴とする。
【0007】上記のように構成された保険契約システムによれば,ネットワークを通じて利用者との間でデータの送受信を行うことにより保険契約が行われる。即ち,まず利用者は提示された入力フォームに必要事項を入力する。次に,入力した事項を含む契約内容確認データが利用者に提示され,利用者は内容を確認し,同意の意味で電子署名を付す。また,利用者は保険料の支払い方法を指定する。電子署名が付された契約内容確認データ及び保険料の支払い方法の指定に基づいて保険契約がなされ,その旨が利用者に通知される。また,この一連の処理の内容及び処理時刻がログデータとして記録されている。
【0008】よって,ネットワークを通じて容易に保険契約が結ばれるとともに,そのために行われた処理についてのログデータが記録され,後の証明などに利用することができる。
【0009】請求項2に記載の発明は,請求項1に記載の保険契約システムにおいて,成立した前記保険契約についての証券データを作成する証券作成手段と,前記証券データ及び前記ログデータを利用者へ送信する送信手段と,を備えることを特徴とする。これにより,利用者は証券をデータの形で保持することができる。また,利用者はログデータも保持するので,自ら行った保険契約手続きの記録を保存しておくことができる。
【0010】請求項3に記載の発明は,請求項2に記載の保険契約システムにおいて,前記送信手段による送信前に,前記証券データ及び前記ログデータに電子署名を付す署名手段を備えることを特徴とする。これにより,利用者へ送られる証券データ及びログデータが真正なものであるか否かを利用者が判断することができる。」

(C)【0018】?【0048】段落の記載
「【0018】
【発明の実施の形態】以下,図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0019】図1に,本発明の実施形態にかかる保険契約システムの概略構成を示す。なお,以下の実施形態では,契約者が海外旅行の傷害保険に加入する場合を例にとって説明する。
【0020】図示のように,保険契約システムは,ネットワーク1を介してクライアント端末2,A社サーバ3,B旅行代理店のサーバ10,及びC保険会社のサーバ12が接続されて構成される。ネットワーク1の最も好適な例はインターネットである。
【0021】クライアント端末2は,保険の契約を希望する利用者が使用する端末であり,利用者の自宅や勤務先に設置されたものとすることができる。クライアント端末2はICカードリーダを備え,ICカード5との間で後述のように種々のデータを入出力することができる。また,クライアント端末2にはプリンタ6が接続され,必要な場合に記入書類などをプリントアウトすることができる。
【0022】図1において,B旅行代理店はC保険会社の海外旅行傷害保険の取扱代理店となっている。保険の契約上,利用者はB旅行代理店との間で保険契約を行うことになる。A社は,利用者とB旅行代理店の間で行われる保険契約のための手続きをB旅行代理店に代わって代行する会社であり,ネットワーク1を介して利用者との間で種々の手続きを行う。そして,契約が成立した後で必要なデータなどをB旅行代理店及びC保険会社へ送る。
【0023】A社サーバ3は,A社が管理するデータベース4を有している。データベース4には,保険契約手続きに必要な情報を利用者に入力してもらうための入力フォームのデータが記憶されている。契約の際に利用者が選択・入力すべき事項は多数存在するが,それらは関連するまとまり毎に1つの構成モジュールとして用意され,データベース4に記憶されている。例えば,住所・氏名,旅行内容に関する事項,保険料の支払い情報,などが個別の構成モジュールとして用意される。それら構成モジュールをデータベース4から読み出し,組み合わされることにより入力フォームが構成され,利用者に提示される。
【0024】また,A社サーバ3は,利用者の保険加入手続きの進行中に何らかの処理が行われる毎にその処理内容及び時刻をログ情報として記録する。このログ情報は,後に契約内容などが問題となった場合の証明として利用することができる。なお,ログ情報の記録については後に詳しく説明する。
【0025】次に,ある利用者が契約を行う際の手続きの流れについて,図2及び3を参照して説明する。図2は,1つの傷害保険契約手続きにおいて利用者,A社サーバ,B旅行代理店及びC保険会社が実行する処理を示した図である。図3は,図2に示した手続きの進行中にクライアント端末2上で利用者に提示される画面例を示す。
【0026】?【0030】 (略)
【0031】A社サーバ3はこのデータを受け取り,復号化してその利用者からのデータであることを確認する。その後,申し込み内容及び支払い情報の内容を審査し,契約の成否を判定する。内容に問題が無い場合,契約を成立させ,契約完了通知データを作成する(画面7)。契約完了通知データは,契約番号の他,契約内容を含む。そして,契約完了通知データにA社サーバの電子署名を付し,契約原本データとして一時的に保存するとともに,その複写データをクライアント端末2へ送信する(ステップS20)。
【0032】利用者は電子署名付きの契約完了通知データを受け取る(ステップS20)。A社の電子署名は,A社がその保険契約を確かに行ったことを示し,利用者はこれをA社の公開鍵で復号化することにより,その保険契約の成立を確認することができる。
【0033】その後,A社サーバ3は契約が成立したこと及び契約内容などを確認のための電子メールで利用者へ送信する(ステップS22)。利用者は確認メールによっても契約の成立及び契約内容を確認することができる(ステップS24)。
【0034】以上の処理において,A社サーバ3はA社サーバ自身及び利用者が行った手続き・処理の内容及び時刻を逐次ログ記録している。即ち,A社サーバ3が申し込み内容1を利用者に提示した時刻,利用者が必要事項を入力して返信した時刻,利用者が契約内容確認データに電子署名を付して送信した時刻,などが記録,保持される。そして,A社サーバ3はこのログ情報を,その契約内容データと共にデータベース4などに記憶,保存する。また,契約内容に基づいて証券データを作成し,これに上記のログデータを添付し,A社の電子署名を付して利用者へ送信する(ステップS28)。
【0035】利用者は,証券データ及びログデータを受け取る(ステップS28)。付与されている電子署名により,A社からの送信後に第3者が不正に内容を改竄することが防止できる。このログデータは,上述の保険加入手続きにおいてA社サーバ及び利用者が行った手続き・処理のログ記録であり,各手続き・処理の内容及び時刻が含まれている。このログデータは,その保険契約が有効に存在することの1つの証明手段として機能しうる。利用者は受け取ったログデータを自己のICカード5に保存して手続きの記録を残すことができる。さらに,契約手続きにおいて利用者が入力した事項(住所・氏名などの利用者情報や支払い情報など)をICカード5へ記憶しておくことにより,類似の契約を次回行う場合にICカード5から利用者情報や支払い情報などを読み出して使用し,再入力を省略することができる。
【0036】?【0045】 (略)
【0046】また,B旅行代理店やC保険会社の代行業務を行うA社サーバがB旅行代理店やC保険会社の電子署名を預かり,契約内容データに付して利用者へ送信することもできる。
【0047】また,代行業務を行うA社サーバは,契約後に種々の形態でデータの管理を行うことができる。例えば,A社サーバは契約内容データの原本を保管することができる。別の方法として,バックアップデータのみを保管し,原本を保険会社へ送ることもできる。また,原本及びバックアップデータは保管せず,付与された電子署名データのみを保管することもできる。さらには,それら全て又はいずれかの組み合わせを保管することもできる。A社サーバは,こうして保管したデータについて後に利用者や保険会社などから請求があった場合に証明を行うことができる。
【0048】
【発明の効果】以上説明したように,本発明によれば,ウェブ上で容易かつ迅速に保険契約を行うことができる。また,重要な内容やアクションに対しては電子署名が付されるので,安全かつ確実に契約を行うことができる。さらに,A社は契約の手続きにおいて自社,利用者及び他の機関が行ったアクション及びその時刻などの情報をログデータとして記録,保持しており,後に契約の有無や契約内容などについて疑義が生じた場合にログデータをによる証明を行うことができる。」

(a)上記【0020】?【0022】段落の記載より,引用例1記載の保険契約システムは,ネットワーク1を介してクライアント端末2,A社サーバ3,B旅行代理店のサーバ10,及びC保険会社のサーバ12が接続されており,A社は,利用者とB旅行代理店の間で行われる保険契約のための手続きをB旅行代理店に代わって代行する会社であり,ネットワーク1を介して利用者との間で種々の手続きを行っているのであるから,A社サーバが保険契約を代行して行っていることは明かである。さらに,【請求項2】や【0009】の記載からA社のサーバ3が,保険契約証券を作成することは明かである。よって,引用例1には,保険契約証券を作成するA社サーバ(以下,「保険契約代行会社サーバ」という。)とクライアント端末とを有し,前記保険契約代行会社サーバと前記クライアント端末とがネットワークを介して相互に通信可能に接続されていると共に,前記クライアント端末にプリンタが接続されている保険契約システムが開示されている。
(b)上記【請求項2】,【請求項3】,【0009】,【0010】,【0034】段落の記載より,前記「保険契約代行会社サーバ」は,契約内容データをデータベース4に記憶,保存し,契約内容に基づいて証券データを作成し,これにA社の電子署名を付して利用者へ送信しており,これにより,利用者へ送られる証券データが真正なものであるか否かを利用者が判断できるとされている。A社が保険証券を発行する者であることは明かであるので,引用例1の保険契約証券は,契約内容データに基づいて作成された証券データ(以下,「保険契約証券データ」という。)と証券データが真正なものであるか否かを判断可能とするための証券発行者の電子署名が含まれた電子データであることが開示されている。さらに,上記【0021】段落に記載されているように,利用者が使用する端末は,クライアント端末であり,前記「利用者へ送信する」とは,ネットワークを介してクライアント端末へ送信することであることは明かである。また,作成した証券データを利用者へ送信することは,証券を電子的に発行することと同意である。よって,引用例1には,保険契約証券データを,保険契約代行会社サーバから前記クライアント端末に対して前記ネットワークを介して電子的に発行することが開示されている。
(c)上記【0031】?【0035】段落の記載より,前記「保険契約代行会社サーバ」は,利用者からのデータであることを確認し,内容の審査をし,契約成立後に,契約内容データをデータベースなどに記憶,保存し,契約内容に基づいて証券データを作成し,A社の電子署名を付して利用者に送信している。そして,使用者は,証券データを受け取っており,前記「保険契約代行会社サーバ」の利用者への送受信がネットワークを介してクライアント端末へ送受信されることは明かである。よって,引用例1には,前記「保険契約代行会社サーバ」は,前記保険契約証券の電子データを作成するための契約内容データの入力を受け付ける入力手段と,前記入力手段より入力された前記契約内容データをデータベースなどに記憶保存する記憶保存手段と,前記クライアント端末に前記ネットワークを介して前記データベースに記憶されている契約内容データに基づいて作成された証券データに電子署名を付した保険契約証券の電子データを送信する送信手段が開示されている。また,前記「クライアント端末」は,前記保険契約代行会社サーバの送信手段から前記ネットワークを介して送信された前記保険契約証券の電子データを受信する受信手段が開示されている。

そうしてみると,引用例1には,以下の発明(以下,「引用例1記載の発明」という。)が開示されていると認められる。
「保険契約証券を作成する保険契約代行会社サーバとクライアント端末とを有し,前記保険契約代行会社サーバと前記クライアント端末とがネットワークを介して相互に通信可能に接続されていると共に,前記クライアント端末にプリンタが接続され,
前記保険契約証券は,契約内容データに基づいて作成された証券データと証券データが真正なものであるか否かを判断可能とするための証券発行者の電子署名が含まれた電子データからなり,
前記保険契約証券を,保険契約代行会社サーバから前記クライアント端末に対して前記ネットワークを介して電子的に発行するための保険契約システムであって,
前記保険契約代行会社サーバは,
前記保険契約証券の電子データを作成するための契約内容データの入力を受け付ける入力手段と,
前記入力手段より入力された前記契約内容データをデータベースなどに記憶保存する記憶保存手段と,
前記クライアント端末に前記ネットワークを介して前記データベースに記憶されている契約内容データに基づいて作成された証券データに電子署名を付した保険契約証券の電子データを送信する送信手段とを有し,
前記クライアント端末は,
前記保険契約代行会社サーバの送信手段から前記ネットワークを介して送信された前記保険契約証券の電子データを受信する受信手段を有する
ことを特徴とする保険契約システム。」

(2)引用例2
同じく,当審で通知した拒絶理由で引用した特開2001-338130号公報(平成13年12月7日出願公開)(以下、「引用例2」という。)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(D)【0001】?【0013】段落の記載
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,公共施設等,たとえば公営住宅,公民館,公的福祉ないし介護施設,公立図書館,公営体育館,道路,橋,空港,地下鉄等の建設,管理に適用するためのシステムに関する。
【0002】
【従来の技術】一般に,この種の公共施設等を,国,都道府県,市区町村,あるいはそれに準ずる公社,公団,営団等の各種公共団体が建設,管理する場合,その公共施設等の企画,建設,維持をはじめ,管理,運営に至るまで公共団体自体が行うのが通常であった。
【0003】ところが,公共施設の建設,管理等には,莫大な資金等を必要とする場合も多く,また事業の効率的実施等の要請もあり,民間の資金,経営能力,技術的能力等を有効に活用する方が有利である,という考え方が提案されるようになって来た。
【0004】そこで,従来は国,地方公共団体等が行って来た公共施設等の企画,建設,維持,管理,運営等を民間に委ねる方式として,いわゆるPFI(Private Finance Initiative:民間資金等活用)事業を推進するため,PFI法が制定され,施行されている。
【0005】PFI法に基づく事業の実施プロセスは図6に示す通りであるが,ここでは詳細な説明は省略するが,「基本方針の決定」,「事業の選定」,「事業者の選定」,「契約」,「事業の実施」のプロセスを経て事業が完了するように策定されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで,PFI法が制定,施行されても,その実施事業が実際に活用されなければ,実効は挙げられないので,民間事業者が合目的的にいわゆるSPC法によるSPC(Special Purpose Company :特定目的会社)を設立し,PFIの活用を推進することが考えられている。
【0007】いわゆるSPC法によるSPC(特定目的会社)は,一つの事業,業務についての目的で設立され,特定(目的)資産の流動化に係わる業務の運営を行うためのものである。
【0008】そして,特定(目的)資産とは,指名金銭債権(貸付け債権,リースクレジット債権,売掛債権)・不動産(土地,建物)・これらを信託する信託の受益権を指す。
【0009】また,特定(目的)資産の流動化とは,資産対応証券(優先出資証券・特定社債権・特定約束手形)の発行によって得られた金銭で,特定資産を取得し,資産の管理・処分によって得られた金銭で資産対応証券の元本や利回り配当等の支払いをするものである。
【0010】しかし,単にPFI法とSPC法によるSPCとを組み合わせると言っても,単にそれだけでは有効に機能せず,実効は挙がらない。
【0011】そこで,本発明者らが検討したところ,従来のように公共施設等の所有権を施設建設会社等の民間業者等が有している方式では十分な実効を図れないことが判明した。
【0012】したがって,本発明の1つの目的は,PFI事業に対してSPC法によるSPCの有効利用を図ることのできる公共施設等の建設・管理システムを提供することにある。
【0013】また,本発明の他の1つの目的は,機関投資家等の保護を図ることのできる公共施設等の建設・管理システムを提供することにある。」

(E)【0043】?【0054】段落の記載
「【0043】(実施の形態3)図3は本発明のさらに他の実施の形態によるシステムを示す図である。
【0044】図3のシステムはたとえば高速道路の建設・管理のための例があり,このシステムにおけるスキームの流れのステップは図1および図2の例とは異なる。
【0045】すなわち,図3のシステムでは,SPC4はたとえば資産対応証券の如き証券を発行して投資家6から代金を回収し,PFI事業主体に事業資金を提供する。
【0046】一方,施設完成後の所有権移転時に,たとえば東京都等の地方公共団体である公共団体等3には,国9からたとえば50%の補助金が支給される。また,残額のうち,25%は国9からPFI事業主体2に対して無利子で融資され,他の25%は公共団体等3の負担分で,たとえば簡易保険金等の公的資金または民間資金を30年割賦返済する。
【0047】図3のシステムにより,莫大な資金を必要とする高速道路建設がPFI事業とSPC方式で実行可能となる。
【0048】(実施の形態3)図4は本発明のさらに他の実施の形態によるシステムを示す図である。
【0049】本システムは,たとえば公営住宅の建設,管理をPFI事業で行う例であり,SPCが建設時のSPCすなわち第1のSPC4aと,建設後のSPCすなわち第2のSPC4bとの2つ設立されているものである。したがって,図4のシステムにおけるスキームの流れのステップは図1および2のものや図3のものとも異なる。
【0050】すなわち,第1のSPC4aは施設建設時に指名金銭債権を特定資産として設立され,第2のSPC4bは施設建設後に指名金銭債権を特定資産として設立され,それぞれ日本開発銀行や金融機関等の投資家6a,あるいは日本開発銀行や乞うて来資金(郵便貯金,簡易保険金等)により債権購入される。
【0051】図4のシステムの場合,建設時に第1のSPC4aで投資家6aから債権購入が行われるが,施設建設後の所有権移転に対応して公共団体等3からPFI事業主体2に建築工事費の50%が支払われ,さらにPFI事業主体2から第1のSPC4aに建築工事費の50%が支払われる。
【0052】一方,建設後の指名金銭債権を特定資産として設立された第2のSPC4bは第2の投資家6bからの債権購入により建築工事費の残りの50%をステップの如く第1のSPC4aに送金する。
【0053】そして,第1のSPC4aから施設建設会社5に建築工事費が支払われるが,施設建設会社5への工事発注はPFI事業主体2から行われている。
【0054】また,第1のSPC4aおよび第2のSPC4bからそれぞれの投資家6a,6bへの元利償還も行われる。」

(3)引用例3
同じく,当審で通知した拒絶理由で引用した特開2000-148875号公報(平成12年5月30日出願公開)(以下、「引用例3」という。)には,図面と共に,以下の事項が記載されている。
(F)【0001】?【0023】段落の記載
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,個人または複数の投資家と,担保不足を保証する第三者の投資保証機関と,企業評価・調査・金融業務実行機関とをシステムの構成因子とし,前記企業評価・調査・金融業務実行機関は,融資元本と利息を保証し,借り手側の担保力の不足を第三者の投資による保証債券で補い,借り手側の融資を受けやすくし,金融システムの活性化を促すものである。
【0002】また,借り手側の企業評価やベンチャーの内容,社会ニーズ等を調査し,融資債券,保証債券の発行体が,このシステムを実行するものであり,企業の資金調達が間接金融の落ち込みに引きづられて,深刻になっても,直接金融のメリットを導入して経済環境を活性化しょうとするシステムである。
【0003】また,借り手側に債務不履行(デフォルト)が発生した時には,担保処分と保証債券の活用で得た利息収入で貸し手側に対する債務を弁済するもので,保証債券元本は保証されて年利9%にも達するようになっている。
【0004】さらに,借り手側の企業経営の成功,企業の発展に伴って,保証債券には転換社債,ワラント債,その他特別配当などのプレミアムを付加することを目的とするようになっている。
【0005】
【従来の技術】従来,金融機関を経由する預貯金から貸付に至る,いわゆる間接金融システムでは,近年,預貯金は超低利息であり,公定歩合も極低率でありながら貸付金利は従前通り高利息となっている。このような預かり利息と貸付利息の格差や,金融機関の貸付条件の種々の設定はもはや市場経済と整合性を欠いたものとなっている。
【0006】現行の銀行法や,貸金法などの規制は相当厳しいが,グローバリゼーション(国際市場の一体化)によって,ディリバティブ(金融波及商品)や,スワップオプションなどを使った賭博性や不透明性による投資の弊害も,取り沙汰されており,今後は金融の証券化(セキュリタリゼーション)は大きく進められていくものと思われる。
【0007】一般企業が金融機関から融資を受ける場合,先ず担保の評価が第1条件,即ち担保を基準にした貸付スキームである。
【0008】こうした従来の金融システムは,預貯金の利息率の取り決めや,担保評価の自裁,連帯保証人の設定等,一方的に間接金融の弊害にさらされている。
【0009】
【発明が解決しようとする問題点】本発明は,銀行の貸し渋りや貸付回収によって,運転資金の調達が難しくなって,健全経営の企業まで行き詰まっているから,早急に十分な手当をしないと,日本産業全体が雪崩現象を起こして崩壊してしまう。借り手側がいつも悩む担保力の不足は第三者の投資による保証債券で補い,貸し手側の融資(債券)によって生まれた資金は有効適切に活用されて元金が保証され,十分な利息収入が得られるように,直接金融のメリットを導入しようというものである。
【0010】また,銀行の預貯金の利息が史上最低の超低利息が続いており,資金の調達や資産運用の点からも,老後の生活安定のためにも深刻な事態となって,新しい社会不安が予想されるようになってきた。超低公定歩合,超低預貯金金利と,一般の貸付金利の甚だしい利息格差が,金融機関を経由しているために預貯金者に正当に還元されていない。銀行の貸付原資は預貯金であり,本源的には預貯金の対価であるものを収奪しているものとみてもよく,預貯金の対価を守るために直接金融のメリットを導入しようというものである。
【0011】金融機関の貸付条件の種々の設定は,もはや市場経済と整合性を欠いたものとなっており,徒に金融システムの安定策や金融機関の保護策に時間を費やしても貸し渋りや,貸付回収に改善がみられないし,また,預貯金者の超低利問題が一顧もされないようでは,内需拡大も景気回復もない。借り手側が融資を受ける際に,融資条件の担保能力等が満たされない場合に,第三者の投資する保証債券の保証をもって,借り手側が必要な資金を調達しやすくする必要がある。
【0012】また,銀行の貸し渋り等にともなって,健全な経営企業まで運営資金の手当ができないから経営が行き詰まっているのが多く,これに充分な手当をしないと,日本の産業全体が雪崩現象を起こして崩壊に向かってしまう。そのために融資の調査は,確実性を主眼とするものばかりではなく,企業の将来性,ベンチャービジネスの中身,ベンチャービジネスの社会的ニーズを中心として調査することが重要である。
【0013】なお,借り手側の返済の遅れ(モラトリアム)や,債務返済不履行(デフォルト)が発生した時には,保証債券が本来受け取るべき利息と,第一段階で据置きになっている保証債券の資金を,第二段階で融資資金として再活用する利息と,借り手側の担保の処分をもって,容易に弁済できる見通しを持ったシステムとする必要がある。
【0014】貸し手側の融資に対して,安定した十分な利息が得られることは,国外投資などで国際金融市場の狂乱にさらされる事もなく,国内預貯金の国外流出が阻止されて,国内金融市場の安定化にもつながるものであり,大手企業による第三者の保証債券の投資が得られるようになれば,産業の活性化にも大いに役立つものである。
【0015】また,借り手側が不正,非合法でないやむを得ない事情で債務返済不履行(デフォルト)になったときには担保の処分で終わり,以降の債務追求はしないもので,事業の失敗が,即人生の破局という不幸な悲劇は避けたいものである。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明は,従来の問題点を解決するために,個人または複数の貸し手側の口座に設けられる融資債券1と,借り手側の担保能力不足を保証をする第三者の投資保証機関の口座に設けられる保証債券2と,借り手側発行の債務証券4と,企業の将来性,ベンチャービジネスの中身,ベンチャービジネスの社会的ニーズを中心として調査する企業評価・調査・金融業務実行機関の口座3を本システムの構成因子とし,積極的なキャピタルゲインを図るとともに,借り手側が合法的ながら止むなく債務不履行になったときは,提出された担保以上の債務責任を追求しないこととし,債務保証をすることを特徴とする新金融活性化システムである。
【0017】融資の対価として発行する融資債券1の元金と利息は,債券発行体である金融業務実行機関が保証し,借り手側の債務不履行が発生した時は,第三者の保証債券2の資金活用で得た利息をもって弁済するものである。もちろん貸し手側の融資債券1及び保証債券2の利息,及びシステム実行機関の諸費用は借り手が融資を受けた利息として負担するものである。
【0018】第三者の投資による保証債券2の元金は,債券発行体である金融業務実行機関が保証するが,保証債券2の活用で得た利息収入は,借り手側の債務不履行(デフォルト)が発生した時に,貸し手側への債務を弁済に充当するが,このシステムの実行によって得た収入を利息として保証債券2に配分する。だから変動利息であり,借り手側の債務不履行のないときは年利9%にもなるものである。
【0019】借り手側の企業経営の成功,企業の発展に伴って,保証債券2には転換社債,ワラント債,その他特別配当などのプレミアムをが付加されることにもなっているが,借り手側が合法的な理由で止むなく債務不履行になった時には,提出した担保以上の債務の責任が追求されないものである。
【0020】
【作 用】本発明による新金融活性化システムの手順を詳細に説明すると,融資債券1は下記条件とシステムの仕組みを明示して貸し手側の登録を受け付けて資金を募集する。
例 1口金額 ;仮 1,000万円
年 利 ;固 定 3%
期 間 ;期間明示
募集口数 ;仮 1,000口
保 証 ;金融業務実行機関
【0021】借り手側の債務証券4は,下記の条件とシステムの仕組みを明示して借り手側の登録を受付ける。
例 1口金額 ;仮 1000万円
年 利 ;固 定 8%
期 間 ;期間明示
募集口数 ;仮 1000口
条 件 ;担保不足は第三者保証
【0022】第三者の投資による保証債券2は,融資債券1に対して債務証券4の担保不足を保証するもので,下記の条件とシステムの仕組みを明示して資金を募集する。
例 (担保不足50%として試算)
1口金額 ; 仮 1000万円
金 利 ; システム収入の配分-変動金利
期 間 ; 期間明示
募集口数 ; 仮 1000口,
保 証 ; 金融業務実行機関
【0023】本システムの金融業務実行機関は口座3を持ち,融資債券1,保証債券2,債務証券4の募集業務と,融資債券1,保証債券2の発行,債務証券4に対する融資契約業務の実行の責任基本体である。」

(4)引用例4
同じく,当審で通知した拒絶理由で引用した特開2000-196786号公報(平成12年7月14日出願公開)(以下、「引用例4」という。)には,以下の事項が記載されている。
(G)【0001】?【0002】段落の記載
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,著作権を有する著作物の情報をプリントアウト等する画像処理装置,画像処理方法及びこの画像処理方法を記録した記憶媒体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】著作権保護を想定した場合,例えばデジタルデータ化された電子ファイルについては,電子ファイルからの印刷を禁止し,又は印刷回数を制限することが想定され,また,ファイル自体の電子データとしての複写を禁止することが想定される。」

4.対比
(a)引用例1記載の発明の「保険契約証券」と本願発明の「電子証券」は,証券の契約内容が相違するものの,共に電子化された証券であることから,両者は「電子化証券」で共通し,このことから,引用例1記載の発明の「保険契約証券を作成する保険契約代行会社サーバ」と本願発明の「電子証券発行コンピュータ」は,「電子化証券発行コンピュータ」で共通していると認められる。
(b)引用例1記載の発明の「クライアント端末」と本願発明の「投資者コンピュータ」は,受け取る証券の契約内容が相違するものの,共に電子化証券の受取者が使用するコンピュータであることから,両者は「受取者コンピュータ」で共通していると認められる。
(c)引用例1記載の発明の「契約内容データに基づいて作成された証券データ」と本願発明の「事業者が調達した資金と引き換えに交付する資金調達用の電子証券である旨の文言画像と,前記事業者が,前記電子証券を所有する者に,前記事業者の事業活動の結果得た利益を分配する旨の文言画像と,前記事業者が,前記電子証券を所有する者に,利息を定期的に支払う旨の文言画像と,前記事業者が,倒産,経営不振などの理由により,前記利息を定期的に支払う旨の文言画像が示す利息の支払を履行することができなくなった場合に,調達した前記資金の返済または調達した前記資金および前記利息の返済を,国,地方公共団体またはその他の公法人が,あらかじめ決定された限度で保証する旨の文言画像とを画像形成するためのデータ」は,「契約内容を示すデータ」で共通し,引用例1記載の発明の「証券データが真正なものであるか否かを判断可能とするための証券発行者の電子署名」は,本願発明の「証券の正当性を保証するための証券発行者の電子署名」に対応していると認められる。
(d)引用例1記載の発明の「前記保険契約証券の電子データを作成するための契約内容データの入力を受け付ける入力手段」と本願発明の「前記電子証券の電子データの入力を受け付ける入力手段」は,「前記電子化証券の電子データの入力を受け付ける入力手段」で共通し,引用例1記載の発明の「前記入力手段より入力された前記契約内容データをデータベースなどに記憶保存する記憶保存手段」と本願発明の「前記入力手段より入力された前記電子証券の電子データに対してコピー・プロテクトを電子的に施すと共に,1回のみの印刷を可能とするプロテクトを電子的に施しハードディスクに記録する記録手段」は,「前記入力手段より入力された前記電子化証券の電子データを記憶手段に記録する記録手段」で共通し,引用例1記載の発明の「前記クライアント端末に前記ネットワークを介して前記データベースに記憶されている契約内容データに基づいて作成された証券データに電子署名を付した保険契約証券の電子データを送信する送信手段」と本願発明の「前記投資者コンピュータに前記ネットワークを介して前記ハードディスクに記録されているコピー・プロテクト及び1回のみの印刷を可能とするプロテクトが施された電子証券の電子データを送信する送信手段」は,「前記受取者コンピュータに前記ネットワークを介して前記記憶手段に記録されている電子化証券の電子データを送信する送信手段」で共通していると認められる。
(e)引用例1記載の発明の「前記保険契約代行会社サーバの送信手段から前記ネットワークを介して送信された前記保険契約証券の電子データを受信する受信手段」と,本願発明の「前記電子証券発行コンピュータの送信手段から前記ネットワークを介して送信された前記電子証券の電子データを受信する受信手段」は,「前記電子化証券発行コンピュータの送信手段から前記ネットワークを介して送信された前記電子化証券の電子データを受信する受信手段」で共通していると認められる。
(f)引用例1記載の発明の「保険契約行システム」と,本願発明の「電子証券発行システム」は,以下の相違点で相違するものの,「電子化証券発行システム」で共通していると認められる。

してみれば,本願発明と引用例1記載の発明は,
「電子化証券発行コンピュータと受取者コンピュータとを有し,前記電子化証券発行コンピュータと前記受取者コンピュータとがネットワークを介して相互に通信可能に接続されていると共に,前記受取者コンピュータにプリンタが接続され,
前記電子化証券は,契約内容を示すデータと証券の正当性を保証するための証券発行者の電子署名が含まれた電子データからなり,
前記電子化証券を,電子化証券発行コンピュータから前記受取者コンピュータに対して前記ネットワークを介して電子的に発行するための電子化証券発行システムであって,
前記電子化証券発行コンピュータは,
前記電子化証券の電子データの入力を受け付ける入力手段と,
前記入力手段より入力された前記電子化証券の電子データを記憶手段に記録する記録手段と,
前記受取者コンピュータに前記ネットワークを介して前記記憶手段に記録されている電子化証券の電子データを送信する送信手段とを有し,
前記受取者コンピュータは,
前記電子化証券発行コンピュータの送信手段から前記ネットワークを介して送信された前記電子化証券の電子データを受信する受信手段とを有する
ことを特徴とする電子化証券発行システム」
である点で一致し,以下の点で相違するものと認められる。

(相違点1)
電子化証券の電子データに含まれる「契約内容を示すデータ」が,本願発明では,「事業者が調達した資金と引き換えに交付する資金調達用の電子証券である旨の文言画像と,前記事業者が,前記電子証券を所有する者に,前記事業者の事業活動の結果得た利益を分配する旨の文言画像と,前記事業者が,前記電子証券を所有する者に,利息を定期的に支払う旨の文言画像と,前記事業者が,倒産,経営不振などの理由により,前記利息を定期的に支払う旨の文言画像が示す利息の支払を履行することができなくなった場合に,調達した前記資金の返済または調達した前記資金および前記利息の返済を,国,地方公共団体またはその他の公法人が,あらかじめ決定された限度で保証する旨の文言画像とを画像形成するためのデータ」であるのに対し,引用例1記載の発明では,「保険契約の契約内容データに基づいて作成されたデータ」である点。

(相違点2)
本願発明では,電子化証券発行コンピュータが,「入力された電子化証券の電子データに対してコピー・プロテクトを電子的に施すと共に,1回のみの印刷を可能とするプロテクトを電子的に施しハードディスクに記録する記録手段」と,「受取者コンピュータにネットワークを介して前記ハードディスクに記録されているコピー・プロテクト及び1回のみの印刷を可能とするプロテクトが施された電子証券の電子データを送信する送信手段」とを有し,受取者コンピュータが,「印字命令があったとき,電子証券の電子データの1回のみの印刷を可能とするプロテクトに従って,前記ハードディスクに記録された前記電子証券の電子データの内容についてのプリントジョブを作成し,このプリントジョブを前記プリンタに送信する印字命令送信手段」を有し,受取者コンピュータに接続されたプリンタが,「前記投資者コンピュータから出力された前記プリントジョブに従って電子証券の電子データの画像を原本として印刷する印字手段」を有しているのに対し,引用例1記載の発明では,電子化証券発行コンピュータ,受取者コンピュータ及びプリンタが,コピー・プロテクト及び1回のみの印刷を可能とするプロテクトが施された電子化証券の電子データを処理するための機能手段を有していない点。

(相違点3)
本願発明では,受取者コンピュータが,「受信した電子化証券の電子データをハードディスクに記録する記録手段」と,「前記記録手段で記録した電子化証券の電子データの画像を形成する画像形成手段」と,「前記画像形成手段が形成した電子化証券の電子データの画像を表示する表示手段」を有するのに対し,引用例1記載の発明では,受取者コンピュータが,このような機能手段を有しているかどうか明確でない点。

(相違点4)
本願発明では,電子化証券発行システムが「前記事業者が,前記電子証券を利用して資金を調達することができると共に,証券を購入することがなかった者が,前記電子証券を購入し,必要に応じて,印刷された証券を原本として流通させ,新たな市場を形成することができるようにする」のに対し,引用例1記載の発明では,そのような記載がない点。

5.請求人の主張
請求人は,平成21年3月23日付けの意見書において以下の通り主張している。
[相違点1に関して]
「審判官は,拒絶理由通知書の中で,(相違点1)として,(略)
しかしながら,そもそも,審判官は,本願発明が対象とする証券を導き出すために,互いに独立した引用例2の発明と引用例3の発明とを組み合わせ,この引用例2,3を組み合わせた発明を,引用例1に組み合わせているものである。これは,本願発明を実現するに当たって,先ず引用例2の発明と引用例3の発明を組み合わせる創作活動と,更に引用例2,3を組み合わせて創作した発明を引用例1に組み合わせる創作活動を必要とするものであって,引用例2の発明と引用例3の発明を組み合わせた発明を引用例1の発明に組み合わせる動機付けも見出すことはできず,もはや,本願発明を,当業者が引用例1-3に基づいて容易に発明できるものではない。
まして,引用例1は,保険契約システムに係る発明であり,本願発明や引用例2,3を組み合わせた証券を取引対象とするものではなく,ソフトウエア関連の分野で共通すると言っても,保険契約と証券売買とでは利用分野が全く異なる。このように,保険契約と証券売買とで産業上の利用分野が異なるのであれば,引用例1に引用例2,3を組み合わせるに当たって,保険契約と証券売買とを結びつけるそれなりの動機付けが必要となるが,引用例1-3からは,引用例1に引用例2,3を組み合わせる動機付けを見つけることもできず,この点からも,本願発明は,引用例1-3に基づいて当業者が容易に発明できるものではない。
そして,引用例1-3て,本願発明の電子証券発行システムのような,投資者は,新たな金融商品となる,電子証券を購入することによって,従来なかった新たな金融市場を利用して利益を追求することができ,事業者は,電子証券を利用して資金を調達することができ,更に,1回のみの印刷を可能とすることで,事業者等の証券発行者ではなく投資者によって印刷された証券を原本として流通させ,新たな市場を形成する,という作用効果を実現することはできない。」

[相違点2に関して]
「審判官は,拒絶理由通知書の中で,(相違点2)として,(略)
審判官は,この相違点2について,引用例4を引用されている。しかしながら,引用例4には,本願発明の投資者コンピュータのように,「印字命令があったとき,電子証券の電子データの1回のみの印刷を可能とするプロテクトに従って,前記ハードディスクに記録された前記電子証券の電子データの内容についてのプリントジョブを作成し,このプリントジョブを前記プリンタに送信する」具体的考え方は示唆されていない。引用例4には,「例えばデジタルデータ化された電子ファイルについては,電子ファイルからの印刷を禁止し,又は印刷回数を制限することが想定され,また,ファイル自体の電子データとしての複写を禁止することが想定される。」と記載されているだけである。
また,本願発明は,投資者コンピュータに接続されたプリンタで,市場流通用として,原本となる印刷物の証券を印刷できるようにするものである。しかしながら,引用例4を見ても,市場流通用の原本となる証券を,事業者等の証券発行者ではなく投資者が投資者コンピュータを用いて印刷する考え方は示唆されていない。また,この点は,保険契約システムが記載された引用例1にも示唆はなく,更に,PFI事業に対して,資金対応証券(優先出資証券・特定社債権・特定約束手形)の発行により得られた金銭で,特定資産を取得し,資産の管理・処分によって得られた金銭で資産対応証券の元本や利回り配当等の支払いをすることが記載された引用例2や,融資債券に条件として保証する機関名を明示して資金を募集すること,債務不履行時に第三者の投資による保証債券で債務証券の担保不足を補うことが記載された引用例3にも示唆されていない。
そして,上述したような本願発明の各構成要件をひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握し,電子証券の電子データの1回のみの印刷を可能とするプロテクトに従って,前記ハードディスクに記録された前記電子証券の電子データの内容についてのプリントジョブを作成し,このプリントジョブを前記プリンタに送信し,プリンタでプリントジョブに従って電子証券の電子データの画像(投資者によって印刷された印刷物)を原本として市場流通用として印刷する考え方は,引用例4や引用例2,3や引用例1を組み合わせても,実現することはできない。そして,本願発明の市場流通用の原本となる証券を投資者が投資者コンピュータを用いて印刷する考え方は,出願時において,周知慣用技術に該当するものではない。更に,この点は,人為的取り決めに該当する部分でもない。
以上のように,本願発明は,投資者コンピュータに接続されたプリンタで,市場流通用として,原本となる印刷物の証券を印刷できるようにすると言う特有の考え方を有するものであるが,このような本願発明特有の構成作用効果は,引用例1-3に全く示唆のない考え方であり,従って,引用例1-3に基づいて当業者が容易に発明できるものではない。」

6.当審の判断
[相違点1について]
前記引用例2の摘記事項(D)の【0009】段落には,PFI事業に対して,資金対応証券(優先出資証券・特定社債権・特定約束手形)の発行により得られた金銭で,特定資産を取得し,資産の管理・処分によって得られた金銭で資産対応証券の元本や利回り配当等の支払いをすること(以下「引用例2記載事項A」という。)が記載されている。
資産の管理によって得られた金銭で利回り配当の支払いをするためには,PFI事業者が,証券を所有する者に,当該事業者の事業活動の結果得た利益を分配し,かつ,利息を定期的に支払うというルールが決められており,証券は,PFI事業者が調達した資金と引き換えに交付する資金調達用のものであると考えることが自然である。
前記引用例3の摘記事項(F)の【0020】,【0022】段落には,融資債券に条件として保証する機関名を明示して資金を募集すること,債務不履行時に第三者の投資による保証債券で債務証券の担保不足を補うことが記載されていること(以下「引用例3記載事項A」という。)が記載されている。
融資債券により資金を募集するものであるから,当該債権は,事業者が調達した資金と引き換えに交付する資金調達用のものであると考えることが自然である。
引用例1記載の発明は,保険契約の証券の電子化証券発券システムであって,保険会社と利用者との間でなされる契約の内容をネットワークで相互に通信するシステムであり,契約の内容として,引用例2記載事項Aや引用例3記載事項Aに記載されたことが公知であるのであるから,必要な証券を形成するために,「事業者が,証券を所有する者に,当該事業者の事業活動の結果得た利益を分配する旨の文言」と,「事業者が,証券を所有する者に,利息を定期的に支払う旨の文言」と,「事業者が,倒産,経営不振などの理由により,前記利息を定期的に支払う旨の文言が示す利息の支払を履行することができなくなった場合に,調達した資金の返済または調達した前記資金および前記利息の返済を,国,地方公共団体またはその他の公法人が,あらかじめ決定された限度で保証する旨の文言」と,「事業者が調達した資金と引き換えに交付する資金調達用の電子証券である旨の文言」のそれぞれの契約の内容を示す記載を,適宜取捨選択して証券に記載することには何ら技術的困難性がない。
さらに,技術的な変更を要するものかどうかを検討しても,引用例1記載の発明で発行する「電子化証券」を「保険契約の証券」に代えて,上記のような「資金調達用の証券」を処理するために,上記「電子化証券発行システム」が備える「電子化証券発行コンピュータ」,「受取者コンピュータ」,「プリンタ」について,それぞれの処理機能に格別の技術的変更が必要であるとは認められない。
なお,請求人の引用例1-3の組み合わせの動機付けに関する主張を検討したが,上述したとおり,引用例1記載の発明は,保険契約の証券の電子化証券発券システムであって,保険会社と利用者との間でなされる契約の内容をネットワークで相互に通信するシステムであり,契約の内容として,公知である引用例2記載事項Aや引用例3記載事項Aを選択するのであるから,相違点1は,保険契約と証券売買といった用途に関する相違点ではなく,契約の内容の取捨選択に関する相違点であって,証券記載のための契約の内容のデータ交換の技術としてはいずれも同一技術分野に属するものであり,当業者が容易に組み合わせ得るものである。よって,当該主張を採用することはできない。なお,本願発明の「投資者は,新たな金融商品となる,電子証券を購入することによって,従来なかった新たな金融市場を利用して利益を追求することができ,事業者は,電子証券を利用して資金を調達することができ,更に,1回のみの印刷を可能とすることで,事業者等の証券発行者ではなく投資者によって印刷された証券を原本として流通させ,新たな市場を形成する」という作用効果についての主張については,相違点4として抽出しているため,以下の[相違点4について]で検討する。
してみれば,引用例1記載の発明における電子化証券の電子データに含まれる「契約内容を示すデータ」を,「事業者が調達した資金と引き換えに交付する資金調達用の電子証券である旨の文言画像と,前記事業者が,前記電子証券を所有する者に,前記事業者の事業活動の結果得た利益を分配する旨の文言画像と,前記事業者が,前記電子証券を所有する者に,利息を定期的に支払う旨の文言画像と,前記事業者が,倒産,経営不振などの理由により,前記利息を定期的に支払う旨の文言画像が示す利息の支払を履行することができなくなった場合に,調達した前記資金の返済または調達した前記資金および前記利息の返済を,国,地方公共団体またはその他の公法人が,あらかじめ決定された限度で保証する旨の文言画像とを画像形成するためのデータ」とすることは,電子化証券の券面の記載内容(人為的な取り決めに過ぎない契約事項)に変更があるものの,この変更に対応して格別の技術的変更を必要とするものでもなく,当業者であれば,適宜成し得たものと認められる。
したがって,上記相違点1に係る本願発明の構成は,引用例1記載の発明及び引用例2-3に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たものと認められる。

[相違点2について]
前記引用例4の摘記事項(G)には,著作権を有する著作物の情報をプリントアウト等する画像処理装置等に関して,著作権保護を想定した場合,例えばデジタルデータ化された電子ファイルについては,電子ファイルからの印刷を禁止し,又は印刷回数を制限することが想定され,また,ファイル自体の電子データとしての複写を禁止することが想定されることが,従来技術として記載されている(以下「引用例4記載事項A」という。)。また,大村 岳雄,オンライン証券取引,ネットバンキング 日米最新事例とシステム構築法,日本,日経BP社 Nikkei Business Publications,Inc.,1998年12月,p.101-102(以下,「周知例1」という。)に「日本においてインターネット取引を浸透させるうえでの課題を述べる。(略)証券関係の書類の電子化も必要だ。顧客サイドからみると,口座開設における押印箇所の多さ,記入項目の多さ,書類の多さは,一度口座開設をした人にはおわかりだと思うがとても煩雑だ。オンラインで口座開設申し込みを行った際にも,ウェブ上で自分の個人情報を打ち込みながら,送付されてきた書類に再度記入しなければならない。このような不便な点は改善していくべきだろう。証券会社サイドから見ても,取引報告書や月次報告書の顧客への送付が義務づけられているために,人件費や郵送費などの負担が重くのしかかっている。各個人がオンラインで確認,印刷して保管すればよいという風になれば,証券会社としてもかなりの経費節減になる。さらに種々の法定関係書類においても電子化が進めば,かなりの事務量の軽減が可能になる。」と記載されているように,有価証券に関する書類をオンラインで送達し,受け取り側が印刷する技術思想は当業者が通常有していた周知の技術思想であり,さらに,印刷に際してプリントジョブが送受信されることは当業者に自明のことである。また,著作物の不正複写を禁止する著作権保護に関する技術と有価証券の複製防止に関する技術とは,互いに関連する技術分野であり,著作物の不正複写を禁止するための技術手段を有価証券の複製防止のために置換あるいは付加して適用することは,当業者の通常の創作能力の発揮にあたる。
してみれば,引用例1記載の発明において,電子化証券の電子データに対して,コピー・プロテクト(ファイル自体の電子データとしての複写を禁止する)及び1回のみの印刷を可能とするプロテクト(印刷回数を制限する)を施して不正な複製を防止するために,電子化証券発行コンピュータが,「入力された電子化証券の電子データに対してコピー・プロテクトを電子的に施すと共に,1回のみの印刷を可能とするプロテクトを電子的に施しハードディスクに記録する記録手段」と,「受取者コンピュータにネットワークを介して前記ハードディスクに記録されているコピー・プロテクト及び1回のみの印刷を可能とするプロテクトが施された電子証券の電子データを送信する送信手段」とを有するようにし,受取者コンピュータが,「印字命令があったとき,電子化証券の電子データの1回のみの印刷を可能とするプロテクトに従って,前記ハードディスクに記録された前記電子化証券の電子データの内容についてのプリントジョブを作成し,このプリントジョブを前記プリンタに送信する印字命令送信手段」を有するようにし,受取者コンピュータに接続されたプリンタに,「前記プリントジョブに従って電子証券の電子データの画像を原本として印刷する印字手段」を有するようにすることは,当業者が容易に成し得たものと認められる。
なお,請求人の相違点についての主張を検討する。まず,本願発明による電子証券は,一旦印刷されてしまえば,証券自体には原本性を担保する技術的な仕組みはなされていない。そこで,原本であるためには,印刷されたものが唯一無二でなければならないが,1回しか印刷できない仕組みに技術的特徴があるかどうかを更に検討する。1回しか印刷できない仕組みについて,平成17年6月13日付けの審判請求書理由補充書2.(5)にて請求人が例示した手法を検討すると,まず,一回しか印刷できなくするために必要となるヘッダを解釈するためのプリンタの機能が,明細書のいずれにも開示されていない。そして,仮に当該プリンターの機能が周知のものだとしても,そもそも当該例示の方法では,例えば,特開平9-93561号公報(以下,「周知例2」という。)【0002】-【0028】段落等に開示されているように,データヘッダのコピー防止制御ビットを用いる手段のセキュリティーが低いことが当業者に知られており,有価証券の原本に強く求められる,唯一無二の存在であることが担保されない。よって,請求人の主張する周知技術を参酌しても本願の明細書には,原本性を担保する技術的な仕組みが何ら記載されておらず,当業者にとって自明でもない。よって,原本となる印刷物の証券を印刷する考え方について,本願発明は,印刷された電子証券の原本性を担保する技術的な裏付けがなく,印刷物を証券の原本と人為的に定義しているにすぎず,印刷された証券を原本として流通させることが,技術的な事項に基づくものではなく人為的な取り決めに基づくものであり,当業者が適宜決定できる事項と認められる。よって,本願発明の効果は,引用例4に開示されている電子ファイルからの印刷回数を制限する技術が奏する効果と相違はない。さらに,出願人が特に主張する「投資者コンピュータに接続されたプリンタで,市場流通用として,原本となる印刷物の証券を印刷できるようにすると言う特有の考え方」は,そもそもプリンタの印刷物に原本性が担保されないのであるから,人為的取り決めにすぎないものと認められる。よって,請求人の主張は採用することができない。
したがって,上記相違点2に係る本願発明の構成は,引用例1記載の発明,引用例4に記載された事項及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものと認められる。

[相違点3について]
「受信したデータをハードディスクなどの記憶手段に記録する」こと,「記憶手段に記録したデータの画像を形成して当該データの画像を表示する」ことは,コンピュータの備える周知な構成であるので,受信した電子化証券の電子データを表示するために,引用例1記載の発明において,受取者コンピュータが,「受信した電子化証券の電子データをハードディスクに記録する記録手段」と,「前記記録手段で記録した電子化証券の電子データの画像を形成する画像形成手段」と,「前記画像形成手段が形成した電子化証券の電子データの画像を表示する表示手段」を有するようにすることに,格別の困難性は認められない。
したがって,上記相違点3に係る本願発明の構成は,引用例1記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものと認められる。

[相違点4について]
相違点4は,電子化証券発行システムの作用効果についてのものであり,請求人が5.請求人の主張[相違点1に関して]で主張しているとおりのものであるので,この作用効果について検討すると,上記[相違点2について]で述べたとおり,本願発明は,印刷された電子証券の原本性を担保する技術的な裏付けがなく,印刷物を証券の原本と人為的に定義しているにすぎず,印刷された証券を原本として流通させることが,技術的な事項に基づくものではなく人為的な取り決めに基づくものであり,当業者が適宜決定できる事項と認められる。よって,請求人の作用効果についての主張は採用することができない。
したがって,上記相違点4に係る本願発明の構成は,当業者が適宜決定すべき社会的な取り決めに基づくものに過ぎず,引用例1記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものと認められる。

以上判断したとおり,本願発明における上記相違点1-4に係る構成は当業者が容易に想到し得たものであり,また,各相違点を総合しても本願発明は当業者が想到することが困難なものとはいえない。
そして,本願発明の作用効果も,引用例1に記載された発明及び引用例2-4に記載された技術,並びに周知の事項から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって,本願発明は,引用例1に記載された発明及び引用例2-4に記載された技術,並びに周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

7.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用例1に記載された発明及び引用例2-4に記載された技術,並びに周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-06-04 
結審通知日 2009-06-09 
審決日 2009-06-22 
出願番号 特願2003-27127(P2003-27127)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 正二須田 勝巳  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 齋藤 哲
山本 穂積
発明の名称 電子証券発行システム  
代理人 山口 茂  
代理人 新井 由紀  
代理人 小池 晃  
代理人 藤井 稔也  
代理人 三宅 能生  

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