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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C02F
審判 全部無効 特174条1項  C02F
管理番号 1214778
審判番号 無効2009-800057  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-03-11 
確定日 2010-03-03 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4165634号発明「活性水素水製造装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4165634号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
出願 平成13年5月19日
特願2001-188888
審査請求書 平成17年6月8日
手続補正書 平成17年6月8日
特許査定(発送日) 平成20年7月16日
設定登録 平成20年8月8日
特許第4165634号
無効審判請求書 平成21年3月11日
答弁書 平成21年5月14日
無効理由通知書(発送日) 平成21年9月14日
職権審理通知書(発送日) 平成21年9月14日
訂正請求書 平成21年10月1日
意見書(被請求人) 平成21年10月1日
職権審理結果通知についての意見書(請求人)平成21年10月6日
意見書(2回目)(被請求人) 平成21年10月14日
手続補正書 平成21年10月15日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成21年10月26日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成21年11月18日
口頭審理 平成21年11月27日
口頭審理調書(発送日) 平成21年12月1日

II.訂正請求について
II-1.訂正事項
平成21年10月1日付け訂正請求は以下の訂正事項を内容としている。
「(3)訂正事項
「【請求項1】容器を設け、該容器に水が出入りするための窓を設け、内容物としてマグネシュウム金属を封じ込め、前記容器を水中に入れる事により、前記マグネシュウム金属と水との化学反応により水素を発生させることを特徴とする活性水素水製造装置。
【請求項2】容器を設け、該容器に水が出入りするための窓を設け、内容物としてマグネシュウム金属を封じ込め、前記容器をマグネシュウム金属で構成し、内容物として前記マグネシュウム金属に加えて、トルマリン鉱石を封じ込め、前記容器を水中に入れる事により、前記マグネシュウム金属と水との化学反応により水素を発生させ、トルマリン鉱石で水のクラスターを小さくすることを特徴とする活性水素水製造装置。」
と訂正する。
訂正事項は、登録時の請求項1、2を削除し、引用形式で記載された請求項3、4をそれぞれ引用する請求項1、2を取り込んだ独立形式としており、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、この訂正事項は、願書に添付した明細書等の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
したがって、訂正事項は、特許法第134条の2第1項及び第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項乃至第5項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
II-2.平成21年10月15日付け手続補正
平成21年10月15日付け手続補正は以下の訂正請求に係る手続補正を内容としている。
『(3)訂正事項
特許第4165634号における特許請求の範囲を
「【請求項1】容器を設け、該容器に水が出入りするための窓を設け、内容物としてマグネシュウム金属を封じ込め、前記容器を水中に入れる事により、前記マグネシュウム金属と水との化学反応により水素を発生させることを特徴とする活性水素水製造装置。」と訂正する。』と補正する。
この補正事項は、訂正事項である請求項2を削除するもので、請求項を削除する訂正事項が記載されていた訂正請求書についてさらに請求項を削除する訂正事項を追加する補正を行うことは、独立した訂正事項を追加する変更とはならず、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正請求書の要旨を変更するものには当たらない。(必要であれば、「平成15年改正法における無効審判等の運用指針について」の第3章 無効審判の審理 第3節 訂正請求についての審理 4.訂正要件の職権審理(3)(b)訂正請求書等の補正の内容的制限<3>減縮的変更(訂正事項の削除)の項を参照)
そして、この補正事項は、願書に添付した明細書等の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。
さらに、当該補正事項については、審理を遅延するものでなく、請求人も補正を認めているので(口頭審理調書参照)、当該補正を認める。

III.本件特許発明及び本件補正発明
III-1.本件特許の請求項1乃至4に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された次のとおりのものである(以下、「本件特許発明1」乃至「本件特許発明4」とし、これらを総称して「本件特許発明」いう。)。
「【請求項1】
容器を設け、該容器に水が出入りするための窓を設け、内容物としてマグネシュウム金属を封じ込めたことを特徴とする活性水素水製造装置。
【請求項2】
前記容器をマグネシュウム金属で構成し、内容物として前記マグネシュウム金属に加えて、トルマリン鉱石を封じ込めたことを特徴とする請求項1に記載の活性水素水製造装置。
【請求項3】
前記容器を水中に入れる事により、前記マグネシュウム金属と水との化学反応により水素を発生させることを特徴とする請求項1に記載の活性水素水製造装置。
【請求項4】
前記容器を水中に入れる事により、前記マグネシュウム金属と水との化学反応により水素を発生させ、トルマリン鉱石で水のクラスターを小さくすることを特徴とする請求項2に記載の活性水素水製造装置。」
III-2.訂正後の本件特許の請求項1に係る発明は、平成21年10月1日付け訂正請求書により訂正された特許明細書及び図面並びに平成21年10月15日付け手続補正書により補正された訂正請求書の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下、「本件補正発明」いう。)。
「【請求項1】容器を設け、該容器に水が出入りするための窓を設け、内容物としてマグネシュウム金属を封じ込め、前記容器を水中に入れる事により、前記マグネシュウム金属と水との化学反応により水素を発生させることを特徴とする活性水素水製造装置。」

IV.請求人の主張
IV-1.審判請求書における主張の概要
IV-1-1.特許無効理由の説明
IV-1-1-1.(A)特許法第29条第2項(特許法第123条第1項第2号)について
本件特許発明1は、甲第3号証乃至甲第5号証に記載された発明を甲第2号証に記載された発明に適用することで当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明2は、甲第3号証乃至甲第5号証に記載された発明を甲第2号証に記載された発明に適用することで当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明3は、甲第3号証、甲第6号証に記載された発明を甲第2号証に記載された発明に適用することで当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明4は、甲第3号証、甲第5号証に記載された発明を甲第2号証に記載された発明に適用することで当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件特許発明1乃至本件特許発明4は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号により、本件特許を無効とすべきものである。
IV-1-1-2.証拠方法
本件特許発明1乃至本件特許発明4が、その出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることを、甲第2号証乃至甲第6号証により立証する。
甲第2号証:特開平11-319810号公報
甲第3号証:実登3059233号公報
甲第4号証:実登3027668号公報
甲第5号証:特開平10-314751号公報
甲第6号証:特開昭61-167443号公報
IV-1-2-1.(B)特許法第17条の2第3項(特許法第123条第1項第1号)について
出願当初の特許請求の範囲では「容器」について、「マグネシウム金属容器」と発明特定事項が付加して記載されている(甲第7号証)。その後、補正によって単に「容器」とした(甲第1号証)。しかし、甲第7号証である出願当初の明細書等には、「容器」に関する記載は全て「マグネシウム金属容器」と記載されている。
したがって、「マグネシウム金属容器」を単に「容器」とする補正は、新規事項の追加に該当し、認められない。
以上から、本件特許発明は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第1号により、本件特許を無効とすべきものである。
IV-1-2-2.証拠方法
本件特許発明1及び本件特許発明3が、補正によっていわゆる新規事項が追加されたにもかかわらず特許されたものであることを、甲第1号証、甲第7号証乃至甲第12号証により立証する。
甲第1号証:特登4165634号公報
甲第7号証:特開2002-336877号公報
甲第8号証:「特許・実用新案審査基準」の「第I節 新規事項」の複写物
甲第9号証:「特許・実用新案審査基準」の「新規事項の判断に関する事例7」
甲第10号証:「特許・実用新案審査基準」の「新規事項の判断に関する事例9」
甲第11号証:「工業所有権用語辞典」の「上位概念・下位概念の発明」の複写物
甲第12号証:「平成19年(ワ)第6565号事件」の判決理由の該当部分
IV-2.職権審理結果通知についての意見書の概要
平成21年10月6日付け職権審理結果通知についての意見書は、「通知書の1.乃至6.については、もっともであるとして、請求人としては、とくに通知書と相違する意見はない。」とし、「本件特許発明1は、引用刊行物1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、たとえそうでないとしても、引用刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、本件特許発明2乃至4は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、本件特許は、同法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものであると考える。」と主張する。
IV-3.口頭審理陳述要領書における主張の概要
平成21年11月18日付け口頭審理陳述要領書において、請求人は、被請求人が平成21年10月1日付けで提出した意見書に対して以下のように反論する。
IV-3-1.本件発明と引用刊行物1の発明は「容器を設け、該容器に水が出入りするための窓を設け、内容物としてマグネシュウム金属を封じ込めたことを特徴とする水製造装置。」で一致し、本件発明が「活性水」を製造するのに対して、引用刊行物1の発明では、「アルカリ水」を作成する点において相違するが、この点に関しては、職権審理結果通知書の「5.当審の判断」(審決注:VI-5.と同内容)の「5-1.本件特許発明1について」で『金属マグネシウムを原料とする引用発明1の「アルカリ水」も「活性水」とみることができる。』と記載されており、引用刊行物1は、本件発明の進歩性を否定する根拠たり得るため、被請求人の引用刊行物1と本件発明は全くの別物という主張は当たらない。
IV-3-2.被請求人は、金属マグネシウムと水の反応によって水素が発生することは公知であるが、引用文献2は、二酸化炭素溶存還元水及びその製造装置に関するものであり、「活性水を豊富に含む水」を生成する装置が開示されていないと主張する。しかし、引用刊行物2の【0013】に「還元性ガスの一例として、水素があり、・・・水素源としては、・・・金属マグネシウムと水の反応等の化学反応を利用する方法等もある。」と記載されており、この記載から、マグネシウムが水と反応して、水素が発生してアルカリ水が発生していることは明らかである。
以上より、引用刊行物2も本件発明の進歩性を否定する根拠たり得る。
IV-3-3.被請求人は、本件発明の「活性水素」という言葉は、原子水素(H)のことを意味し、本件発明の「活性水素水」とは、「原子水素を豊富に含む水」とも表現することが可能であるが、引用文献3には、「原子水素を豊富に含む水の製造装置」が開示されていないと主張する。
引用文献3の実用新案登録請求の範囲や【0005】の記載からトルマリンが活性水生成器に用いられ、水のクラスターを小さくすることは周知である。
以上より、引用刊行物3も本件発明の進歩性を否定する根拠たり得る。
IV-3-4.被請求人は、本件発明は、「万病の原因は活性酸素であり、活性酸素を抑制、消去する理想的な手段は、水素(活性水素)に相違ない」という発想を基本としていると主張する。
しかし、「活性酸素を抑制、消去する理想的な手段は、水素(活性水素)」という記述は明細書にないと思われるため、本件発明がいかなるものを基本としているかについては、不知。

V.被請求人の主張
V-1.答弁書における主張の概要
V-1-1.本件特許発明の要旨について
本件特許発明は「容器を設け、該容器に水が出入りするための窓を設け、内容物としてマグネシュウム金属を封じ込めて活性水素水製造装置を構成した」ことを要旨としている。
(A)進歩性について
本件特許発明は、飲料水を入れたボトルの水中に活性水素水製造装置を入れるだけで、普通の水を水素を豊富に含む活性水素水とすることができるものである。マグネシウムの金属(Mg)が水と反応し、原子水素(H)(活性水素)さらには、分子水素(H_(2))を生成する化学式は以下の通りである。
Mg+2H_(2)O→Mg(OH)_(2)+2H→Mg(OH)_(2)+H_(2) これに対して、甲第2号証には、ミネラル成分であるマグネシウムをケースに封入した水質改善具が開示されている。
また、甲第3号証には、マグネシウムを含むトルマリンの微粉末を布袋に封入した活性水生成器が開示されている。
また、甲第4証には、容器にトルマリン原石を入れた簡易携帯型の活水化及び浄化装置が開示されている。
また、甲第5号証には、合成樹脂製のパイプの内周にトルマリン製のパイプを配設した水活性装置が開示されている。
上記甲第2号証乃至甲第5号証に示すマグネシウムは、いずれも天然のミネラルやトルマリンなどの鉱物に含まれるものであり、このように鉱物に含まれるマグネシウムは、酸化されたマグネシウム(MgO)であって、このような鉱物の酸化されたマグネシウムは、水と反応して水素を発生しない。水と反応して水素を発生するのは、本件特許発明の構成要件である金属のマグネシウム即ちマグネシウム金属である。甲第2号証乃至甲第5号証には、水と反応して水素を発生するマグネシウム金属の開示がなく、また、明細書中に、水素の文字が一語も見あたらない。甲第2号証乃至甲第5号証に開示されているマグネシウム(MgO)は、水と反応すると、
MgO+2H_(2)O→Mg(OH)_(2)+H_(2)O
となり、水酸化マグネシウムと水となって水素を生成しない。
以上のように、甲第2号証乃至甲第5号証には、マグネシウム金属を必須要件とする水素水製造装置の開示がなく、本件特許発明1、2とは構成上及び作用効果上著差が存する。
また、甲第6号証には、「容器を設け、該容器に水が出入りするための窓を設け、内容物としてマグネシウム金属を封じ込めて活性水素水製造装置」が開示されていない。
本件特許発明は水が出入り自在な窓を有し、内部にマグネシウム金属を封じ込めた容器を、飲用水を入れたペットボトルなどのボトルに入れることで、このボトル内の飲料水を簡単に水素豊富水に変えることができ、健康によい水とすることができることを特徴とするものである。
金属マグネシウムと水を反応させて水素豊富水を作ったとしても、その水を健康によい飲料水として一般の人に提供する場合、重要なことは、水素豊富水をボトルに入れて保管した場合、開栓と同時に水素は速やかに失われてしまうという事実です。水の中の水素の抜け出すことだけは防ぐことができない。
しかるに、ボトル内の水中に本件特許である活性水素水製造装置の容器を入れておけば、水素は刻一刻と新しく水中に供給され、ボトルを開栓しても、水中の水素が失われることがない。
この点に関し、甲第6号証には、上記したように「容器を設け、該容器に水が出入りするための窓を設け、内容物としてマグネシュウム金属を封じ込めたことを特徴とする活性水素水製造装置」が開示されておらず、しかも、甲第6号証には、普通の水を、体内の有害な活性酸素に働く活性水素豊富水とし、健康によい水とする発想はなんら開示がなく、また、示唆もされていない。
以上のように、甲第2号証乃至甲第6号証に記載された発明と、本件特許発明3とは、構成上及び作用効果上著差が存し、当業者がこれら甲第2、3、4、5、6の各号証に記載の発明に基づいて容易に発明し得たものする審判請求の主張は認められない。
本件特許発明4も、上記した理由により、甲第2号証、甲第3号証、及び甲第6号証に記載された発明と、本件特許発明3とは、構成上及び作用効果上著差が存し、当業者がこれら甲第2、3、6の各号証に記載の発明に基づいて容易に発明し得たものする審判請求の主張は認められない。
(B)新規事項の追加について
本件の特許請求の範囲の補正は、「マグネシウム金属容器」という記載の中の「マグネシウム金属」という不要の限定要件の削除であり、新規事項の追加ではない。
V-2.意見書における主張の概要
V-2-1.引用刊行物1はアルカリ水作製器に関するものであり、この引用刊行物は、活性水素水製造装置が開示されていない。本件発明は、「アルカリ水作製」を目的としたものではなく、一に係って「活性水素を豊富に含む水」を作成することが唯一無二の目的である。引用刊行物1の発明と本件発明とは、まったく相違する別異の発明である。
V-2-1-2.引用刊行物2も、二酸化炭素溶存還元水およびその製造装置に関するものであり、これにも、活性水素水製造装置が開示されていない。
引用刊行物2に、「・・・更には、金属マグネシウムと水の反応等の化学反応を利用する方法等もある。・・・」の記述があるとのご指摘であるが、「金属マグネシウムと水との反応により水素が発生する」ことは高校化学で習得する公知公用に属する知識であると考えます。言い換えますと、「金属マグネシウムと水との反応によって水素が発生する」の事実を利用して、いかなる「水」を作るかが、引用刊行物2の発明の目的と本件発明の目的とする水との最大の相違点である。引用刊行物2には、「活性水素を豊富に含む水」を作成する「活性水素製造装置」がまったく開示されていない。
V-2-1-3.引用刊行物3の発明は、活性水生成器であり、これにも、活性水素製造装置が開示されていない。
即ち、いわゆる「活性水」とは活性する水或いは活性化されたといった程度の科学的に曖昧な名称に過ぎない。これに対して、本件発明のいう「活性水素」という言葉は、物理化学的に「原子水素」を意味しております。
言い換えますと、分子水素H_(2)に対して原子水素Hを意味しておりますから、本件発明の言う「活性水素水」とは、「原子水素を豊富に含む水」とも表現することが可能であると考えます。
即ち、引用刊行物3には、「原子水素水を豊富に含む水の製造装置」が開示されていない。
V-2-2.本件発明の唯一無二の目的は、「水素(活性水)を豊富に含む水の製造装置」をいかに簡単、確実、低価格で生成し消費者の便宜に供するかにあります。その最大の根拠は1990年に入り極めて急速かつ大々的に「万病の原因は活性酸素である・・・」との概念が世の中に認められるようになってきたからであります。新聞、ラジオ、テレビ等によってもこの言葉が頻繁に流布されるようになってきたことは周知のことであると考えます。本件発明は、「活性酸素を抑制、消去する理想的な手段は水素(活性水素)に相違ない」という発想を基本としています。水素は活性酸素と結合してこれを消去した後はおとなしく「水」になってしまうからである。
上記引用刊行物1にある「アルカリ水作製器」、引用刊行物2にある「二酸化炭素溶存還元水およびその製造法」、引用刊行物3にある「活性水生成器」には、「活性酸素を抑制消去する理想的な手段は水素に相違ない」という発想が何ら開示されておらず、この発想なくしては、本件発明は、想到し得ないものである。本件発明は、このような発想の開示のない引用刊行物1,2,3から当業者が容易に想到し得たものでない。
V-2-3.「水の中には、水素ガスは含まれていない」というのが高校化学の常識として教えられています。これは事実その通りであって通常の水には水素ガスは含まれておりません。と言いますのも宇宙で最小最軽量の水素ガスは水の中に留まることができないからであります。水中の水素は瞬間的に抜け、水の中の水素が残るということはない。そのため、引用刊行物1,2,3のいずれにおいても水素豊富水の概念はまったく記述されておりません。この常識に対して本件発明は「水素を豊富に含む水」の概念を構築しその生成を目指したものです。ボトル内の水の中に、本件発明である活性水素水発生装置を入れておけば、水素は刻一刻と新しく水中に供給され、ボトルを開栓しても、水中の水素が失われることはない。
本件発明の出願前、「容器を設け、該容器に水が出入りするための窓を設け、内容物としてマグネシウム金属を封じ込め、前記容器を水中に入れる事により、前記マグネシウム金属と水との化学反応により水素を発生させるようにして」活性水素水製造装置を構成し、水素の豊富な飲料水二着目した発明は存在せず、引用刊行物1,2,3に示す「アルカリ水作製器」、「二酸化炭素溶存還元水及びその製造装置」、「活性水生成器」から当業者が容易に発明し得たものとは、認めることができない。

V-3.意見書(2回目)における主張の概要
平成21年10月1日付けで提出した意見書の理由中、3.むすびにおいて、「水中の水素は瞬間的に抜け、水の中の水素が残るということはない。」と述べましたがこれは本件特許出願前の従来の常識ではそのように考えられているということであって、現在では、水素は数時間、水の中に留まることが確認されております。従ってこの点に関する不正確な表現を訂正します。

V-4.口頭審理陳述要領書における主張の概要
活性水素測定器について:
被請求人の代理人は、当日審判廷内に活性水素測定器を参考品として持参し、審判官の面前で実際にペットボトル内の飲料水に含まれる活性水素の量を測定します。
持参する活性水素測定器は、半導体水素センサと、電子回路と、表示器とから構成され、半導体水素センサに水素ガスが接触すると、電気抵抗値が変化し水素を検出する。この抵抗値の変化は電子回路によって電子的に処理されて水中の水素量を示すものとして表示器にmg/lの単位でディジタルに表示される構成となっている。この活性水素測定器は、本件特許のすでに故人となった発明者が生前に作成したものである。
クラスター測定器について
・・・省略・・・

VI.特許法第153条第2項の規定に基づく当審の無効理由通知について
VI-1.手続の経緯・本件特許発明
本件特許第4165634号(平成13年5月19日出願、平成20年8月8日設定登録。)の請求項1乃至4に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載される以下のとおりのものである(以下、それぞれ、「本件特許発明1」乃至「本件特許発明4」という。)。
・・・中略・・・
VI-2.引用刊行物及び記載事項について
VI-2-1.本件出願前に頒布された特開昭61-97099号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、アルカリ水作製器に関し、以下の事項が記載されている。
VI-2-1-1.「(1)マグネシウムもしくは酸化マグネシウムを含有する固形塩基性物質を充填したフィルターを、滞留槽に隙間を設けて格納したアルカリ水作製器。」(特許請求の範囲)
VI-2-1-2.「第3図はフィルター7の解体図であり、繊維体14を貼布した枠体13bおよび13aの間に固形塩基性物質6が充填されている。なお、フィルター7の構成主要素部品である繊維体14は、上部のみに微細孔14′を有している。」(第2頁右上欄第3?7行)
VI-2-1-3.「実施例の効果について説明する。1lの滞留槽容器(φ100×120mm)をもつABS樹脂からなるアルカリ水作製器(構成は第1図の通り)に、固形塩基性物質200gを充填したフィルターを設け市水(pH7)を流入した。6時間後に滞留槽に滞留した水の液性を測定した結果を表に示す。なお、固形塩基性物質は4×4×4mmの粒状品を用い、ABS樹脂からなる枠体にナイロン繊維製不織布を貼布したフィルター90×90×30mmの内部に充填している。」(第2頁左下欄第3?12行)
VI-2-1-4.「 表
固形塩基性物質 6時間滞留後
の液のpH
マグネシウム 10.5
マグネシウム合金(Mg96%-Al3%-Zn1%) 9.8
酸化マグネシウム 10.2
珪酸マグネシウム 9.5
・・・」(第2頁左下欄、表)
VI-2-1-5.「発明の効果
以上の様に本発明のアルカリ水作製器は、マグネシウムもしくは酸化マグネシウムを含有する固形塩基性物質を充填したフィルターを、滞留槽に隙間を設けて格納した構成であるので、
(1)水の汚れがなく、pHも最大10と弱アルカリ水が電圧を負荷することなく簡単に得られる。
(2)化学反応がまろやかなので日々の溶解量もごくわずかで長時間使用可能である。また、水酸化マグネシウム等の残渣生成も少なく取扱いが容易である。
(3)固形塩基性物質が消耗してもフィルターを交換するだけで再びアルカリ水が簡単に得られる。
(4)アルカリ水は医療効果があり、消化不良・胃酸過多・慢性下痢・胃腸内異常発酵等に効果を発揮する。また、ご飯が腐らない・野菜の鮮度が落ちない・レバーの臭い抜き・野菜のアク抜き・水割やコーヒー等がおいしい等の利点がある。」(第2頁右下欄第1?18行)
VI-2-2.本件出願前に頒布された特開2000-308891号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、還元水に関し、以下の事項が記載されている。
VI-2-2-1.「水に還元性を付与するには、ORPを下げる還元性ガスまたは還元性物質を溶解させる方法、あるいは電解する方法がある。還元性ガスの一例として、水素があり、・・・水素源としては、水の電気分解、酸化チタン等の光触媒による水の分解、更には金属マグネシウムと水の反応等の化学反応を利用する方法等もある。」(【0013】)
VI-2-3.本件出願前に頒布された登録実用公報第3059233号(以下、「引用刊行物3」という。)には、活性水生成器に関し、以下の事項が記載されている。
VI-2-3-1.「偏平6方体ステンレスメッシュ容器に、アラゴナイト、千枚岩、トルマリン、角閃石の微粉末を混和し布袋に入れ封入した、活性水生成器。」(実用新案登録請求の範囲)
VI-2-3-2.「トルマリンに含まれているマグネシウム、ナトリウム等々が水に溶けると 、水がミネラル化され植物の成長を促進させる作用がある。
また、トルマリンは、別名電気石ともいわれ2eVI?10eVIの電位電極を持ち続ける鉱石で、水の電気分解は勿論、空気中の水分に対しても電気分解を起こし、周囲にマイナスイオンを発生させる。」(【0005】)
VI-2-3-3.「【考案の効果】
本考案は、以上のような構造であるから、これを使用するときは生成槽に沈めるだけでよい。容器に入っている複数の鉱物の養分がじょじょに溶け出し、農業用水、井水、上水を活性水に生成する。
500lの活性水を作るには、2kgのものを4時間沈めていれば出来上がるので、大量生産が可能になり、連続使用しても6ヶ月は使用できる。
本考案を使用することによって、次のような作用、効果が得られる。
(1)生成された水は、弱アルカリ性でカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム等々のミネラルを多種多量に含んでいるため、植物や土壌に散布することによって、植物の活性化、土壌の微生物相の改善が図れる。
(2)植物の健全な成長を促進し、耐病性を著しく増強するので農薬の使用量が減少出来る。
(3)土壌の微生物相が改善されるので、毛根が元気になり肥料の吸収率が向上するので、肥料の施用量が減少する。
(4)植物の成長が早く、早期取り入れが可能になる。
(5)酸性雨から守る。
(6)長期間栽培が出来るので、増産が可能になる。
(7)甘味が増す。
(8)クラスターが小さいことと、マイナスイオン化されたミネラルが多いため、防腐効果があり、カビ等の発生を防ぐ。
(9)水道水がまろやかでミネラル豊富な飲料水になる。」(【0006】)
VI-3.引用発明の認定
VI-3-1.引用刊行物1における記載事項VI-2-1-1.には「マグネシウムもしくは酸化マグネシウムを含有する固形塩基性物質を充填したフィルターを、滞留槽に隙間を設けて格納したアルカリ水作製器。」が記載され、同VI-2-1-2.には、このフィルターについて「繊維体14を貼布した枠体13bおよび13aの間に固形塩基性物質6が充填されている。なお、フィルター7の構成主要素部品である繊維体14は、上部のみに微細孔14′を有している」ことが記載され、同VI-2-1-3.には「固形塩基性物質200gを充填したフィルターを設け市水(pH7)を流入した」ことが記載され、同VI-2-1-4.には「固形塩基性物質」が「マグネシウム、マグネシウム合金又は酸化マグネシウム」であることが記載されている。これらを本件特許発明1の記載ぶりに整理すると、「繊維体14を貼布した枠体13bおよび13aの間にマグネシウムを固形塩基性物質6として充填し、繊維体14は、微細孔14′を有し、アルカリ水作製器の滞留槽に隙間を設けて格納して、市水を流入してアルカリ水を作製するフィルター。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
VI-3-2.記載事項VI-2-1-5.には「化学反応がまろやかなので日々の溶解量もごくわずかで長時間使用可能である。また、水酸化マグネシウム等の残渣生成も少なく取扱いが容易である。」と記載されてから、引用発明1において「化学反応がまろやかなので日々の溶解量もごくわずかで長時間使用可能で、水酸化マグネシウム等の残渣生成も少な」いアルカリ水を作製するフィルターの発明(以下、「引用発明1’」という。)も記載されていると認められる。

VI-4.対比
VI-4-1.本件特許発明1と引用発明1を対比すると、引用発明1の「繊維体14を貼布した枠体13bおよび13a」が本件特許発明1の「容器」に相当し、引用発明1の「繊維体14は、微細孔14′を有し」ており、ここから「市水を流入」することは明らかであるので、該「繊維体14」の「微細孔14′」は本件特許発明1の「水が出入りするための窓」に相当するといえる。そして、引用発明1の「マグネシウム」は、本件特許発明1の「マグネシュウム金属」に相当し、引用発明1の「充填」することが本件特許発明1の「封じ込め」に相当するから、引用発明1の「マグネシウムを固形塩基性物質6として充填し」が本件特許発明1の「内容物としてマグネシュウム金属を封じ込めたこと」に相当し、引用発明1のアルカリ水作製器の「フィルター」が、本件特許発明1の「活性水製造装置」と「水製造装置」である点で共通するものと認められる。
したがって、両発明は、「容器を設け、該容器に水が出入りするための窓を設け、内容物としてマグネシュウム金属を封じ込めたことを特徴とする水製造装置」で一致し、本件特許発明1は、「活性水」を製造するのに対して、引用発明1では、「アルカリ水」を作製する点において相違するものと認められる(以下、「発明1相違点」という。)。
VI-4-2.本件特許発明2と引用発明1を対比すると、本件特許発明2は発明1相違点に加え、「容器をマグネシュウム金属で構成し」た点(以下、「発明2相違点1」という。)及び内容物として前記マグネシュウム金属に加えて、「トルマリン鉱石」を封じ込めた点(以下、「発明2相違点2」という。)において相違するものと認められる。
VI-4-3.本件特許発明3と引用発明1を対比すると、本件特許発明3は、発明1相違点に加え、「前記容器を水中に入れる事により、前記マグネシュウム金属と水との化学反応により水素を発生させること」を特定する点において引用発明1と一応相違するものと認められる(以下、「発明3相違点」という。)。
VI-4-4.本件特許発明4と引用発明1を対比すると、本件特許発明4は、発明3相違点と同じ相違点である「前記容器を水中に入れる事により、前記マグネシュウム金属と水との化学反応により水素を発生させること」(以下、「発明4相違点1」という。)に加えて「トルマリン鉱石で水のクラスターを小さくすること」を特定する点(以下、「発明4相違点2」という。)において引用発明1と相違するものと認められる。
VI-5.当審無効理由通知における判断
VI-5-1.本件特許発明1について
発明1相違点について検討すると、本件特許発明1の「活性水」は、本件明細書の段落【0006】によると「マグネシュウム金属(3)とが水と化学反応して活性水素を発生し水中に溶けて、水を活性水素水となす。」とあるのに対して、引用文献1の記載事項VI-2-1-5.には「化学反応がまろやかなので日々の溶解量もごくわずかで長時間使用可能である。また、水酸化マグネシウム等の残渣生成も少なく取扱いが容易である。」と記載されており化学反応がどのようなものか明記されていない。しかし、引用刊行物2に「水に還元性を付与するには、ORPを下げる還元性ガス・・・を溶解させる方法・・・がある。還元性ガスの一例として、水素があり、・・・水素源としては、・・・金属マグネシウムと水の反応等の化学反応を利用する方法等もある。」と記載されるように、マグネシウムが水と反応して、水素が発生してアルカリ水が生成していることは明らかで、結局、発明1相違点の本質的な相違は、引用発明1の「アルカリ水」が「活性水」であるか否かである。この点については、例えば、引用刊行物3には活性水生成器に関し、「トルマリンに含まれているマグネシウム、ナトリウム等々が水に溶けると 、水がミネラル化され植物の成長を促進させる作用がある。」(記載事項VI-2-3-2.)及び「本考案は、以上のような構造であるから、これを使用するときは生成槽に沈めるだけでよい。容器に入っている複数の鉱物の養分がじょじょに溶け出し、農業用水、井水、上水を活性水に生成する。」(VI-2-3-3.)と記載され、引用発明1の「固形塩基性物質6」に包含されるマグネシウム等の鉱物が溶け出し活性水を生成することが知られ、引用文献1から金属マグネシウムも酸化マグネシウムも固形塩基性物質に包含されてほぼ等価であるといえるから、金属マグネシウムを原料とする引用発明1の「アルカリ水」も「活性水」とみることができる。
したがって、本件特許発明1は、引用刊行物1に記載された発明1であり、たとえそうでないとしても、引用刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
VI-5-2.本件特許発明2について
発明2相違点1については、引用発明1におけるマグネシウムが市水と反応することから、マグネシウムの反応をより進めるために、反応物質であるマグネシウムの表面積を増大しようとすることは当業者であれば格別の困難なく想起し得る一般的な動機にすぎないということができる。そして、そのためにフィルターの枠すなわち容器自体をマグネシウムで形成して反応に供することは当業者であれば任意に選択しうる設計事項にすぎないものと認められる。
また、発明2相違点2については、トルマリンが活性水生成器に用いられ、水のクラスターを小さくすることは、引用刊行物3の記載事項VI-2-3-3.にも記載されるように周知であるので、内容物としてマグネシュウム金属に加えて、トルマリン鉱石を封じ込めることは、引用刊行物3に記載された技術事項を参考にすることにより、当業者であれば適宜採用しうる程度の周知技術の付加にすぎない。
したがって、本件特許発明2は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
VI-5-3.本件特許発明3について
発明3相違点については、引用発明1においても「アルカリ水作製器の滞留槽に隙間を設けて格納して、市水を流入してアルカリ水を作製するフィルター」と特定されるように、容器を水中に入れる事により、水素を発生させることは、VI-5-1.に記載したように引用発明1において用いられている手段であるから、実質的な相違点ではない。
したがって、本件特許発明3は、引用刊行物1に記載された発明と引用刊行物3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
VI-5-4.本件特許発明4について
発明4相違点1については、発明3相違点と同じであるから、VI-5-3.に記載したのと同じ理由により当業者が容易に発明することができたものである。そして、発明4相違点2については、発明2相違点2において検討したように、引用刊行物3に記載された技術事項を参考にすることにより、当業者であれば適宜採用しうる程度の周知技術の付加にすぎない。
したがって、本件特許発明4は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
VI-6.まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、引用刊行物1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、たとえそうでないとしても、引用刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、本件特許発明2乃至4は、引用刊行物1に記載された発明及び引用刊行物3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、本件特許は、同法123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

VII.当審の判断
VII-1.無効理由(A)について
本件補正発明は、上記訂正請求書及び補正書の記載から、引用形式で記載された登録時の請求項3において引用する請求項1を取り込み独立形式としたものであるから、審判請求書において本件特許発明3に対して申し立てられた、甲第3号証、甲第6号証に記載された発明を甲第2号証に記載された発明に適用することで当業者が容易に発明をすることができたか否か、について検討する。
VII-1-1.甲各号証の記載事項について
VII-1-1-1.甲第2号証の記載事項について
VII-1-1-1-1.「【請求項1】気孔率20?50%の酸化物系セラミックスから成るケース内部に、カルシウム、カリウム、マグネシウムから選択した少なくとも1種以上のミネラル成分を含有する粉粒体と炭とを封入したことを特徴とする水質改善具。」(【特許請求の範囲】)
VII-1-1-1-2.「この手段によれば、容器内や炊飯器内に投入すると、水道水がケースであるセラミックスの気孔から内部に浸入し、水道水中のカルキ、塩素等の不純物がセラミックスの気孔とケース内部の炭の気孔によって吸着される。また、ケースと、その内部に封入した炭とミネラル成分含有粉粒体とから人体に有益なミネラル成分が容器内や機器内に溶出分散される。よって、水道水が簡単に改善される。」(段落【0005】)
VII-1-1-2.甲第3号証の記載事項について
VII-1-1-2-1.「【請求項1】偏平6方体ステンレスメッシュ容器に、アラゴナイト、千枚岩、トルマリン、角閃石の微粉末を混和し布袋に入れ封入した、活性水生成器。」(【実用新案登録請求の範囲】)
VII-1-1-2-2.「【考案の効果】
本考案は、以上のような構造であるから、これを使用するときは生成槽に沈めるだけでよい。容器に入っている複数の鉱物の養分がじょじょに溶け出し、農業用水、井水、上水を活性水に生成する。」(段落【0006】)
VII-1-1-3.甲第6号証の記載事項について
VII-1-1-3-1.「水素発生用に加工した金属マグネシウムに塩化ナトリウムのような中性塩あるいは、電解質を含む水溶液を接触させることによって水素を発生させる。
これに有機物質あるいは無機物質を加え、この発生機の水素と共存させることにより、其の有機無機物質の還元を開放溶器でも、簡易に新な物質を成生させることが出来る。
水溶液には別の触媒を加える場合もある。マグネシウムによる水素の還元」(【特許請求の範囲】)
VII-1-1-3-2.「本発明はマグネシウムと水から発生する水素を有機無機物質の還元反応に応用したものである。マグネシウムと水なら水素を発生する反応は次式のごとく
Mg+2H_(2)O=Mg(OH)_(2)+H_(2)+83.8kca1
発熱反応であるが、通常の水とマグネシウムを接触させてもほとんど反応はおこらない。しかるに、マグネシウムの表面にニッケル鉄のような触媒を加えると、マグネシウムは水ないしは塩を含む水中で水とはげしく反応し、水素を生成することが本発明者により明らかになった。」(第1頁左下欄下から3行?同右下欄第8行)
VII-1-2.甲第2号証から認定される引用発明
VII-1-1-1-1.には「ケース内部に、カルシウム、カリウム、マグネシウムから選択した少なくとも1種以上のミネラル成分を含有する粉粒体を封入した水質改善具。」が記載され、VII-1-1-1-2.には「水道水がケースであるセラミックスの気孔から内部に浸入し、ミネラル成分含有粉粒体とから人体に有益なミネラル成分が容器内や機器内に溶出分散される」と記載されており、これらから、甲第2号証には、「ケース内部に、カルシウム、カリウム、マグネシウムから選択した少なくとも1種以上のミネラル成分を含有する粉粒体を封入し水道水がケースの気孔から内部に浸入し、ミネラル成分含有粉粒体から人体に有益なミネラル成分が容器内や機器内に溶出分散される水質改善具。」(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
VII-1-3.対比・判断
そこで、本件補正発明と甲2発明とを比較すると、甲2発明の「ケース」、「水道水」、「浸入」及び「気孔」は、それぞれ、本件補正発明の「容器」、「水」、「出入り」及び「窓」に相当するといえるから、両発明は、「容器を設け、該容器に水が出入りするための窓を設け、内容物を封じ込め、前記容器を水中に入れる装置。」で一致し、
本件補正発明は、内容物として「マグネシュウム金属」を封じ込めるのに対して、甲2発明は「カルシウム、カリウム、マグネシウムから選択した少なくとも1種以上のミネラル成分を含有する粉粒体」を封入する点(以下、「甲2発明相違点1」という。)、
本件補正発明は「マグネシュウム金属と水との化学反応により水素を発生させる」のに対して、甲2発明は「ミネラル成分含有粉粒体から人体に有益なミネラル成分が容器内や機器内に溶出分散される」点(以下、「甲2発明相違点2」という。)、
本件補正発明の装置は「活性水素水」を「製造」するのに対して、甲2発明は「水質改善具」である点(以下、「甲2発明相違点3」という。)で相違する。
これら相違点について検討すると、甲2発明相違点1の内容物については、ミネラル成分とは鉱物中に含有される金属の酸化物を意味し、甲第2号証全体の記載からみても金属単体と解釈する余地はない。甲2発明相違点2の水との反応については、本件補正発明は、内容物の化学反応により水素を発生させるものであり、甲2発明は、粉粒体からミネラル成分を溶出分散させており、基本的に異なる相互作用を利用するものである。さらに、本件補正発明の水に水素を発生させることは、甲2発明でいうところの「水質改善」からは想到し得ないものといわざるを得ない。
請求人は、審判請求書において、マグネシウムのミネラル成分をマグネシュウム金属と一致していると主張するが、「活性水生成器」に関する甲第3号証にも「トルマリンに含まれているマグネシウム、ナトリウム等々が水に溶けると 、水がミネラル化され」ることや「生成された水は、弱アルカリ性でカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム等々のミネラルを多種多量に含んでいる」ことが記載されるものの、ミネラル成分として単体のマグネシウム金属が含まれることが説明されておらず、さらに、甲第6号証は、「水素発生用に加工した金属マグネシウムに塩化ナトリウムのような中性塩あるいは、電解質を含む水溶液を接触させることによって水素を発生させる。」ことに関するものであるが、「これに有機物質あるいは無機物質を加え、この発生機の水素と共存させることにより、其の有機無機物質の還元を」行うという一般的な反応を開示するに留まるので、本件補正発明との関連は見いだせず、請求人の甲第2号証に記載された発明に甲第6号証に記載された発明を適用する動機がないので、その組合せに関する主張も採用することはできない。
したがって、本件補正発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明を甲第2号証に記載された発明に適用することで当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
VII-2.当審の通知した無効理由について
当審の通知した無効理由の内容は、「VI.平成21年9月10日に起案された特許法第153条第2項の規定に基づく当審の無効理由通知について」に記載したとおりであって、これに対する被請求人の意見は、「V-2.意見書における主張の概要」及び「V-3.意見書(2回目)における主張の概要」のとおりである。
そこで、被請求人の当審の通知した無効理由に対する意見を検討する。
被請求人は、「引用刊行物1はアルカリ水作製器に関するものであり、この引用刊行物は、活性水素水製造装置が開示されていない。本件発明は、「アルカリ水作製」を目的としたものではなく、一に係って「活性水素を豊富に含む水」を生成することが唯一無二の目的である。引用刊行物1の発明と本件発明とは、まったく相違する別異の発明である。」と主張する。
しかしながら、「VI-5-1.本件特許発明1について」で既に検討したように金属マグネシウムを原料とする引用刊行物1の「アルカリ水」も「活性水」とみることができる上に、被請求人の提出した意見書(2回目)には「水素は数時間、水の中に留まることが確認されて」いるので、この意見を援用すれば、引用刊行物1においてマグネシウムと水の化学反応により発生した水素は数時間、水の中に留まり、水素イオンと同義である(口頭審理調書参照)活性水素も当然存在すると推認されるので、まったく相違する別異の発明であるとする主張は当を得ておらず、本件特許発明3である本件補正発明も無効理由通知で記載した引用刊行物1に記載された発明と引用刊行物3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当審の通知した無効理由を撤回することができない。
VII-2-1.当審の通知した無効理由のまとめ
以上のとおり、当審の通知した無効理由は本件補正発明についても妥当なものであり、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第1号及び同第2号に該当し、無効とすべきものである。
VII-3.無効理由(B)について
VII-3-1.本件出願の願書に最初に添付した明細書等(以下、「当初明細書等」という。)は以下のとおりである(甲第7号証)。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 マグネシュウム金属容器を設け、内容物の大きさ以下の窓を設け、内容物としてマグネシュウム金属と、トルマリン鉱石を封じ込めた構造。
【請求項2】 内容物に、マグネシュウム金属と、トルマリン鉱石を設け、水中に入れる事により、マグネシュウムと水との化学反応により水素を発生させ、トルマリン鉱石で水のクラスターを小さくすることを特徴とする組合せ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は活性水素水を外部に電源を設ける事なく活性水素水を発生を発生し、水のクラスターを小いさくするもので、マグネシュウム金属(1)内にマグネシュウム金属とトルマリン鉱石をいれ、マグネシュウム金属容器の窓を通して、水と反応させ活性水素水を製造する活性水素水製造装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来の技術は、水中に活性水素を発生させ、かつ水のクラスターを小さくするする技術が確定されていなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】これには次の様な欠点があった。
これは水中の活性水素を測定する技術が無かった。
水中のクラスターを数値化する技術が無かった。
本発明はこれらの技術を解決した上で、可能になった。
医学博士 林 秀光先生によれば活性水素水が、アトピー疾患、ガン細胞の消滅に有効で有るとの多くの臨床例がその著書で、患者よ、ガンで死ぬには及ばない。その他多数の著書では発表されています。本発明は、これらの欠点を解決するためになされたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】マグネシュウム金属容器(1)に窓(2)を設け、中にマグネシュウム金属(3)、トルマリン鉱石(4)を入れ封じた、活水素水発生器を水中に投入すると、水中に活性水素を発生し、水のクラスターが小さくなり健康に良い活性水素水ができる。
【0005】
【発明の実施の形態】活性水素水製造装置のマグネシュウム金属容器と内のマグネシュウム金属とが水と反応し活性水素を発生し、トルマリン鉱石のもつ永久電極の作用により、水のクラスターを小さくする。
【0006】
【実施例】以下、本発明の実施例にいて説明する。
(イ)マグネシュウム金属容器(1)に窓(2)を設ける。
(ロ)マグネシュウム金属(3)とトルマリン鉱石(4)をマグネシュウム金属容器に設ける。
本発明は以上のような構成で、これを使用するときは、水中に入れるだけで水とマグネシュウム金属容器(1)の内外面、マグネシュウム金属(3)とが水と化学反応して活性水素を発生し水中に溶けて、水を活性水素水となす。これは水中の活性水素測定器で証明する事ができる。トルマリン鉱石の持つ電気石の不思議な永久電極の作用により、水のクラスターを小さくする事が出来る。これもクラスター測定器で証明する事が出来る。水中の活性水素測定器と水中のネラスター測定器はいずれも本特許発明者の考案になるものである。
【0007】
【発明の効果】水中に、この活性水素水製造装置を入れるだけで活性水素水となす事が出来、健康に良い水に成るものである。またクラスターを小さくすることで水中に溶けている有害ガス、例えば塩素ガス等を取り除くことが出来、水道水などが美味しい水になり、誰でも実感できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の断面図
【符号の説明】
1 マグネシュウム金属容器
2 窓
3 マグネシュウム金属
4 トルマリン鉱石
【図1】
VII-3-2.平成17年6月8日付け手続補正書による補正
上記手続補正は特許請求の範囲を以下のように補正するものである。
「【請求項1】
容器を設け、該容器に水が出入りするための窓を設け、内容物としてマグネシュウム金属を封じ込めたことを特徴とする活性水素水製造装置。
【請求項2】
前記容器をマグネシュウム金属で構成し、内容物として前記マグネシュウム金属に加えて、トルマリン鉱石を封じ込めたことを特徴とする請求項1に記載の活性水素水製造装置。
【請求項3】
前記容器を水中に入れる事により、前記マグネシュウム金属と水との化学反応により水素を発生させることを特徴とする請求項1に記載の活性水素水製造装置。
【請求項4】
前記容器を水中に入れる事により、前記マグネシュウム金属と水との化学反応により水素を発生させ、トルマリン鉱石で水のクラスターを小さくすることを特徴とする請求項2に記載の活性水素水製造装置。」
VII-3-3.検討
VII-3-3-1.当初明細書等における容器関連記載を列挙する。
VII-3-3-1-1.「マグネシュウム金属容器を設け、」(【請求項1】)
VII-3-3-1-2.「マグネシュウム金属(1)内に(審決注:マグネシュウム金属容器(1)の誤記と推認される)マグネシュウム金属とトルマリン鉱石をいれ」(段落【0001】)
VII-3-3-1-3.「マグネシュウム金属容器の窓を通して、」(段落【0001】)
VII-3-3-1-4.「マグネシュウム金属容器(1)に窓(2)を設け、」(段落【0004】)
VII-3-3-1-5.「マグネシュウム金属容器と内のマグネシュウム金属とが水と反応し活性水素を発生し、」(段落【0005】)
VII-3-3-1-6.「マグネシュウム金属容器(1)に窓(2)を設ける。」(段落【0006】)
VII-3-3-1-7.「マグネシュウム金属(3)とトルマリン鉱石(4)をマグネシュウム金属容器に設ける。」(段落【0006】)
VII-3-3-1-8.「水中に入れるだけで水とマグネシュウム金属容器(1)の内外面、マグネシュウム金属(3)とが水と化学反応して活性水素を発生し水中に溶けて、水を活性水素水となす。」(段落【0006】)
VII-3-3-1-9.「1 マグネシュウム金属容器」(【図面の簡単な説明】)
VII-3-3-1-10.「1」(【図1】)
VII-3-3-2.判断
上記手続補正は、当初明細書等では全て「マグネシュウム金属容器」であったものを特許請求の範囲の「マグネシュウム金属容器」から「マグネシュウム金属」という限定を省き、単に「容器」とするもので、発明特定事項を削除する補正に該当する。
「特許・実用新案審査基準」の「第III部明細書、特許請求の範囲又は図面の補正 第I節新規事項 4.特許請求の範囲の補正 4.2各論(1)上位概念化、下位概念化等」には、「<1>請求項の発明特定事項を概念的に上位の事項に補正する(発明特定事項を削除する場合を含む)ことにより当初明細書等に記載した事項以外の事項が追加されることになったり、概念的に下位の事項に補正する(発明特定事項を付加する場合を含む)ことにより当初明細書等に記載した事項以外のものが個別化されることになる場合は、当初明細書等に記載した事項の範囲内でする補正とはいえない。」とされ、特許請求の範囲の「マグネシュウム金属容器」を「容器」とすることで、当初明細書等に記載した事項以外の事項が追加される場合は、当初明細書等に記載した事項の範囲内でする補正とはいえず、この補正は認められないことになる。
この観点から当初明細書等の記載をみると、上記容器関連記載の内でVII-3-3-1-5.の「マグネシュウム金属容器と内のマグネシュウム金属とが水と反応し活性水素を発生し、」(段落【0005】)及びVII-3-3-1-8.「水中に入れるだけで水とマグネシュウム金属容器(1)の内外面、マグネシュウム金属(3)とが水と化学反応して活性水素を発生し水中に溶けて、水を活性水素水となす。」(段落【0006】)に記載されるように、本件特許発明の「活性水素」は、「マグネシュウム金属容器」と「マグネシュウム金属」とで発生することが記載されるだけで、「容器」を「マグネシュウム金属」以外のもので活性水素を生成することは記載されておらず、そのことを示唆する記載もない。
被請求人は、新規事項追加違反の無効理由(B)に対して、答弁書で単に「本件の特許請求の範囲の補正は、「マグネシウム金属容器」という記載の中の「マグネシウム金属」という不要の限定要件の削除であり、新規事項の追加ではない。」と述べるだけであって、なぜ不要の限定要件であったのか理由も明らかにしていない以上、その主張を採用することはできない。
したがって、当初明細書等の特許請求の範囲の「マグネシュウム金属容器」を「容器」と「マグネシュウム金属」を削除する補正は、当初明細書等に明示の記載もなく、また、当初明細書等から自明でもないから、この発明特定事項を削除する補正によって当初明細書等に記載した事項以外の事項が追加されているということができ、当初明細書等に記載した事項の範囲内でする補正とはいえない。
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。

VIII.むすび
以上のとおり、本件補正発明は、特許法第17条の2第3項及び同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号及び同第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器を設け、該容器に水が出入りするための窓を設け、内容物としてマグネシュウム金属を封じ込め、前記容器を水中に入れる事により、前記マグネシュウム金属と水との化学反応により水素を発生させることを特徴とする活性水素水製造装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2010-01-04 
結審通知日 2010-01-07 
審決日 2010-01-20 
出願番号 特願2001-188888(P2001-188888)
審決分類 P 1 113・ 121- ZA (C02F)
P 1 113・ 55- ZA (C02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 富永 正史  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 斉藤 信人
大黒 浩之
登録日 2008-08-08 
登録番号 特許第4165634号(P4165634)
発明の名称 活性水素水製造装置  
代理人 西島 綾雄  
代理人 竹中 一宣  
代理人 大矢 広文  
代理人 西島 綾雄  
代理人 西島 綾雄  

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