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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A45D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A45D
管理番号 1214796
審判番号 無効2007-800210  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-10-01 
確定日 2010-03-29 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3782813号「化粧用パッティング材」の特許無効審判事件についてされた平成20年 9月16日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10398号平成21年10月22日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I 手続の経緯
1 本件は、平成16年6月14日に出願され、平成18年3月17日に特許権の設定登録がなされたものである。
2 これに対し、請求人は、平成19年10月1日付けで本件特許無効審判を請求するとともに、証人尋問申出書及び尋問事項書を提出した。
3 被請求人は、平成20年1月10日付けで訂正請求書、答弁書、証人尋問申出書及び尋問事項書を提出し、一方、請求人は平成20年3月3日付けで弁駁書を提出した。
4 平成20年5月20日に証拠調べ及び口頭審理が行われた。
5 当審より、平成20年6月25日付けで無効理由を通知し、被請求人は、平成20年7月30日付けで意見書を提出した。
6 同年9月16日付けで、「訂正を認める。
特許第3782813号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」とする審決がされたところ、知的財産高等裁判所において、審決取消の判決(平成20年(行ケ)第10398号、平成21年10月22日判決言渡)がなされ、同判決は確定した(以下、上記「審決取消の判決」を「判決」という。)。

II 訂正の可否
1 訂正事項a
上記訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許請求の範囲を以下のとおり訂正するものである。
特許請求の範囲の請求項1の
「化粧用パック材であって、該パック材は」を
「化粧用パック材であって、該パック材はウォータジェット噴射によって表面加工されて成り、該パック材は」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す。)。

2 判断
訂正事項aは、訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「パック材」について、「ウォータジェット噴射によって表面加工されて成り」との限定を付加したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件特許明細書の段落【0011】、【0012】、【0017】、【0026】等には、コットンにて形成されるパック材をウォータジェット噴射によって表面加工する旨記載され、本件特許明細書の段落【0023】には、パック材を形成する材料として、コットン以外に、不織布、或いは不織布状物、又は織布、紙、繊維を積層して平らにしたものでも良い旨記載されており、コットン以外のこれら材料に対して、ウォータジェット噴射による表面加工が適用できない技術的理由もないことから、コットン以外の材料で形成されたパック材がウォータジェット噴射によって表面加工されることは、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内といえる。また、訂正事項aは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

請求人は、この点について、「本件特許の明細書及び請求項2には、コットンにて形成されたパック材の表面をウォータージェット加工する点が記載されているのに対して、訂正事項aは、コットン以外のパック材をウォータジェット加工したものも含んでいるので、この訂正は、本件特許の明細書に記載した事項の範囲内においてするものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものである。」と主張している(平成20年3月3日付けの弁駁書3頁)。
しかしながら、上記したとおり、訂正事項aは、訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項について限定を付加したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものであって、請求人の当該主張は理由がない。

よって、本件訂正は、特許法134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とし、また、同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

III 請求人の主張
請求人は、「特許第3782813号の特許は、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」(請求の趣旨)との審決を求め、証拠方法として以下の検甲第1号証、甲第1号証?甲第9号証、甲第10号証の1?6、甲第11号証を提出し、証人を提示して、証人尋問を求め、無効とすべき理由を次のように主張している。
1 無効理由1
本件特許の請求項1に係る発明は、その出願前に製造、販売した検甲第1号証に係る発明であるから、本件特許は、特許法第29条第1項第2号の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
2 無効理由2
本件特許の請求項1に係る発明は、検甲第1号証に係る発明、甲第1号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、本件の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
3 無効理由3
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証?甲第6号証に記載された発明に基づいて、本件の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
4 無効理由4
本件特許の請求項2に係る発明は、上記1?3の場合に加えて、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて、本件の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
5 無効理由5
本件特許の請求項3に係る発明は、検甲第1号証に係る発明であるから、本件特許は、特許法第29条第1項第2号の規定に違反してされたものであり、又は、上記2?4で示した発明に基づいて、本件の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
6 無効理由6
本件特許の請求項1は、物の発明の構成と、その使用方法及び作用効果とが混在して記載されているため、その発明の属するカテゴリーが不明であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、本件特許は、特許法第123条第1項第4号により無効とすべきである。

また、請求人は、平成20年3月3日付けの弁駁書においてつぎのとおり主張している。
仮に訂正が認められるとしても、本件特許の訂正後の請求項1に係る発明は、検甲第1号証に係る発明及び甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
また、本件特許の訂正後の請求項1に係る発明は、検甲第1号証、甲第1号証及び甲第5号証に加えて甲第7号証に記載された発明に基づいて、あるいは、甲第1号証乃至甲第6号証に加えて甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件特許の訂正後の請求項2に係る発明は、上記請求項1の場合に加えて、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第7号証及び甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件特許の訂正後の請求項3に係る発明は、上記請求項1又は2の場合に加えて、検甲第1号証に係る発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができもたのであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件特許の訂正後の請求項1は、依然として不明確であるから、特許法第36条6項2号に規定する要件を満たしていない。

[証拠方法]
(1)検証物
・検甲第1号証:スズラン株式会社が2003年(平成15年)1月21日に製造した商品名「リリアンパフ」という物品
(2)書証
・甲第1号証:佐伯チズ、佐伯チズのスキンケア・メイク入門、株式会社講談社、2003年11月13日第1刷発行、2004年1月15日第3刷発行
・甲第2号証:実公昭56-45538号公報
・甲第3号証:実公昭32-1089号公報
・甲第4号証:特開昭63-63457号公報
・甲第5号証:実公平1-41366号公報
・甲第6号証:特許第2683600号公報
・甲第7号証:実願昭54-151142号(実開昭56-69309号)のマイクロフィルム
・甲第8号証:特公平1-40140号公報
・甲第11号証:実公平1-22570号公報

また、検甲第1号証の物品が、本件特許の出願前に公然実施されたものであることを立証するために、
・甲第9号証:検甲第1号証を説明する資料
・甲第10号証の1?6:スズラン株式会社の物品受領書
(3)証人
スズラン株式会社が商品名「リリアンパフ」という物品(検甲第1号証)を平成15年1月21日に製造、販売した事実を立証するために、
・齋藤由司

IV 被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」(答弁の趣旨)との審決を求め、本件訂正の請求をするとともに、答弁書等において、検甲第1号証に係る発明、甲第1号証?甲第8号証に記載された発明をどのように組み合わせても、訂正後の請求項1?3に係る発明とはならず、その新規性進歩性を否定することはできない。また、訂正後の請求項1に係る発明は、物のカテゴリーであり、発明の属するカテゴリーが不明ではなく、記載要件を満たさないものではないから、本件特許は無効とされるべきものではない旨主張している。

V 当審において通知した無効理由の概要
訂正後の請求項1?3に係る発明は、以下の引用例に記載された発明及び周知の事項(例えば、甲第1号証、甲第2号証参照)に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は無効とすべきものである。

引用例:特開2000-335667号公報

VI 当審の判断
1 本件発明
上記「II 訂正の可否」で示したとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明3」という)は、本件訂正により訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
吸水性を有し、且つ、顔面の部分的パックに適する厚さ及びサイズに形成された化粧用パック材であって、該パック材はウォータジェット噴射によって表面加工されて成り、該パック材は複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成し、且つ、該化粧用パッティング材は側縁部近傍を圧着手段によってパック材が剥離可能に接合されて成り、該パッティング材に化粧水を浸潤させてパッティングし、該パッティング動作終了後、該パッティング材から前記パック材を一枚毎剥離し、該剥離したパック材を顔面の必要個所に所定時間装着させてパックできるように構成されたことを特徴とする化粧用パッティング材。
【請求項2】
上記パック材はコットンにて形成され、且つ、ウオータジェット噴射によって表面加工され、更に、スチーム処理と熱ロールをかけて柔軟性を増す処理が施されて成ることを特徴とする請求項1記載の化粧用パッティング材。
【請求項3】
上記パック材は方形に形成され、且つ、上記パッティング材はその長手方向側縁部近傍の表裏両面に線状の圧着凹部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の化粧用パッティング材。」

2 刊行物等
(1)引用例
引用例には、図面と共に次の事項が記載されている。
ア 「【0002】【従来の技術】…化粧用コットンはソフトな肌ざわりで、保水性・吸水性に優れた綿製品であり、多くの場合は天然綿100%の素材を織り上げて使用し、必要に応じて不織布等を積層する等して、平面四角形状を呈する板片状に形成されている。
【0003】この化粧用コットンは、…柔らかな板片状の単位コットンに仕上げられ、このような単位コットンを100枚前後をひとまとめにして箱や袋に詰めて販売製品としているのが実情である。」
イ 「【0004】【発明が解決しようとする課題】上記の化粧用コットンは、元来ふんわり感が出るように予め形成されているから、コットン素材は内部に多くの空気を含んで嵩張った状態となっており、このままの状態で単位コットンを包装した場合には、完成した販売製品も嵩張ったものとなってしまう。…
【0006】このため、本発明はコットンの使用性を落とすことなく、コットンの嵩を約半分に圧縮した圧縮包装コットンを提供して、上述の問題点を解消せんとするものである。」
ウ 「【0007】【課題を解決するための手段】本発明の課題を解決するための手段として、まず請求項1記載のものは、圧縮状にした単位コットンを、複数枚ごとにまとめて気密性包装袋で個別包装したことを特徴とする圧縮包装コットンである。
【0009】本発明によれば、圧縮状にした単位コットンを複数枚ごとに気密性包装袋で個別包装したので、保管・輸送や店頭展示中に、コットンが元来の嵩に復元することはなく、従来の製品と比較して約半分の嵩で販売製品が完成し、…気密性包装袋を破いて中の単位コットンを取り出した際には、圧縮されていた単位コットンが外の空気を吸収して元の厚みに復元し、本来の使用感の良い化粧用コットンが得られる。」
エ 「【0011】…単位コットン1は天然綿等を素材とし、ウオータージェット加工等の手法によりふっくらと仕上げられ、毛羽立ちが少ない肌にやさしい状態のものに仕上げられている。この単位コットンは、必要に応じて複数層の積層構造体に…しても良い。」

上記アの記載から、単位コットン1は使用形態によって、適宜の大きさ、厚さのものに仕上げられるといえるものである。
上記エの記載から、単位コットン1は天然綿等を素材とするから、吸水性を有することは明らかであり、複数層の積層構造体とした場合、複数層の各層も吸水性があることは明らかである。

これら記載事項を総合すると、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「平面四角形状を呈する板片状であり、吸水性を有し、使用形態によって、適宜の大きさ、厚さのものに仕上げられる単位コットン1であって、ウオータージェット加工によりふっくら仕上げられ、複数層の積層構造体である単位コットン1。」

(2)検甲第1号証
上記口頭審理において、請求人及び被請求人は、検甲第1号証の物品の構成が、次のとおりであることを確認した。

「天然コットン100%の約50mm×60mmサイズの方形シート状の中綿の両面に、ウォータージェット加工された不織布を積層してなり、長手方向の両側縁部近傍の表裏両面に線状の圧着凹部が形成され、長手方向の端部にそれぞれ2つの方形の圧着凹部が形成されて、剥離可能に接合されている化粧用コットン。」

(3)甲第1号証
甲第1号証には、つぎのとおり記載されている。
オ 口絵4?5頁の図面から、写真と共に、スキンケア・メイクの方法が窺える。特に5頁の左下の写真から、女性がシート状部材を頬に当てている様子が窺え、当該写真について「11 コットンに挟んだ白粉をつければ、長持ちファンデーションの完成。」と記載されている。
カ 「手のひらと指ほど素晴らしい美顔具はないと私は思います。ですから、私はメイクをするときも、コットンや綿棒以外の道具というものを一切使いません。」(15頁)
キ 72頁右上の図面から、シート状部材を手のひらにのせている様子が窺える。そして、当該図面について「湿らせたコットンに化粧水を含ませます。」と記載されている。
また、同頁右中央の図面から、5枚のシート状部材が上方部分がお互いにやや離された状態で積層されている様子が窺える。そして、当該図面について「そして、コットンを縦に割いて使います。」と記載されている。
さらに、同頁左の図面から、額部分、鼻部分、両頬部分及び顎部分(合計5カ所)に四角状の枠が図示された、女性の正面像が窺える。
そして、同頁下側には、「化粧水は「整肌」といって肌の状態を整えてくれるもの。月1本を目安にたっぷりと。そのままつけずに、水で湿らせて絞ったコットンに500円玉大を目安に含ませ、肌に湿布のようにのせます。肌への刺激を抑えるためです。この「ローション・パック」は美容液に匹敵する美容効果があります。パックの時間は3分程度。それ以上は水分が逆に吸い取られてしまうので注意が必要です。」と記載されている。
ク 84頁の図面から、女性がシート状部材を頬に当てている様子が窺え、当該図面の下側には「私は、コットンに白粉を挟んだ名付けて「粉コットン」をつくり、使い捨てにします。つけ方のコツは、白粉をたっぷりとたたき、コットンで押さえる。この繰り返しです。」と記載されている。
ケ 85頁左上の図面から、二つ折りのシート状部材を開いてその上に粉体をのせている様子が窺え、当該図面について、「1 コットンを使う 私はいつも脱脂綿を8センチメートル四方くらいのサイズにカットして使います。それを真ん中から開いて、間に白粉を適量入れます。」と記載されている。
また、同頁右上の図面から、上記シート状部材を両手で持っている様子が窺え、当該図面について、「2 コットンを揉む 間に挟んだ白粉がコットン全体に行き渡るように揉みます。でき上がった「粉コットン」で軽く顔全体をはたいて白粉をきれいにつけます」と記載されている。

(4)甲第2号証
甲第2号証には、つぎのとおり記載されている。
コ 「通気性を有する2枚の多孔質シート素材間に介在された化粧料と、前記多孔質シート素材の周縁に設けられた剥離自在な接合縁部と、からなる化粧用塗布具。」(1欄20?23行)
サ 「シート1,1’はコツトン単体または若干のホツトメルト性を有する繊維を配合したものか、あるいは発泡ウレタン、発泡ゴム等の合成樹脂の連続発泡体や織布・不織布等で成形した適度の弾性と通気性を有する所望暑さの積層材を2枚重合して適当な形状に打抜いたものであり、該加工時における打抜き金型の衝撃により周辺が圧縮密着して接合縁部2を形成している。」(2欄19?27行)
シ 「液体化粧料はシート1,1’間において化粧料3を適当に溶解するとと共に、接合縁部2にも浸みこんで膨張せしめ、該部の縮着効果を削除してシート1,1’の剥離を容易にするため、第3図に示す如く液体化粧料の溶解せる化粧料3が各々に分離付着せる1枚宛のシート1または1’に分離されて塗布が2度可能となり効率的に使用できる。」(2欄34行?3欄4行)

(5)甲第3号証
甲第3号証には、つぎのとおり記載されている。
ス 「本案は薄い脱脂綿2,2を加圧して繊維の隆起を抑圧成形したもの、要すれば従来剥離展延するのに困難な程度の薄綿(1mm程度)を多数重合積層し之を一定の大きさに截切してなる積層截断綿1の構造に係り、使用に当つて加圧された脱脂綿の上述した薄い1枚或は数枚を必要に応じ束にして使用するものである。」(1頁左欄5?11行)
セ 「本案品は予め加圧し、繊維の隆起を抑圧整形したものを重合し、一定の大さに截切してあるから使用時引●る(審決注:●はてへんに劣)必要なく所望の厚さに従つて1枚或は数枚を同時に使用すればよく且重合積層された各1枚は繊維が加圧されているので夫夫各1枚宛の剥離は極めて容易であるから使用に便利なるの効果がある。」(1頁右欄6?12行)

(6)甲第4号証
甲第4号証には、つぎのとおり記載されている。
ソ 「同一形状・同一大きさの短繊維製不織布が複数枚積層され、且つその周縁が圧密着されてなることを特徴とする吸収帯。」(特許請求の範囲)
タ 「本発明吸収帯の適用は医療用の吸収帯としてはもちろん、その他調理分野や服飾分野等への応用も可能である。」(2頁右下欄1?3行)

(7)甲第5号証
甲第5号証には、つぎのとおり記載されている。
チ 「液体を作用させて塗布する化粧料からなる化粧料層を、該液体に対して不透過性のシートと、前記化粧料層に作用する液体を含浸させ且つ液体が作用した化粧料を浮き出させる多孔質シートとの間に挟持し、両シートの外縁を互いに接合したことを特徴とする化粧料を含んだ使い捨て化粧用具。」(実用新案登録請求の範囲)
ツ 「以上の如く本校案は構成されているため、その使用にあつては、多孔質表面から水、化粧水等の液体を注ぎ適度な水分を含浸させれば、内部の化粧料が多孔質材の表面に浮き出してくるので、そのまま目的箇所に塗布したりパツテイングしたりすることができ、簡便に使用することができる。」(4欄18?23行)
テ 「単に夏季用の消炎化粧用具として使用するのみならず、保水分状態が長時間得られることを利用して、美容パツク用具、または医薬用の冷シツプ用具としても十分に応用することができる。」(4欄35?39行)

(8)甲第6号証
甲第6号証には、つぎのとおり記載されている。
ト 「化粧綿は、これに化粧水を含浸させ、顔面やその他の所用肌面をパッティングし、その含浸された化粧水をその顔面や肌面に移行させること等のために一般に使用されるものである。
従来一般に使用されている化粧綿は、綿シートを積層した積層コットンや、積層コットンをコットン系不織布で包み込んだものである。」(2欄8?14行)

(9)甲第7号証
甲第7号証には、つぎのとおり記載されている。
ナ 「 従来使用されている化粧用綿体は、天然繊維、再生繊維又はポリオレフイン系の繊維から成っているが、これらの綿体は使用時に繊維が若干離脱してこれが顔に付着する欠点がある。又この繊維離脱を防止するために接着剤で固定したものもあるが、化粧水が揮発性を有するものであるから、化粧水含水時に接着剤が溶解されその溶出液が顔面を汚す欠点がある。本考案は斯る欠点を解消するものであって、要旨とするところは吸収綿体を異質の不織布で挟んだ点にあり、…液体を吸収保持する綿体1が、ウオータージエツト加工等による繊維の絡み合いにて成型された短繊維スパンボンド方式の不織布2と、多孔質のアクリル繊維からなる不織布3とに挟まれ、一対の対向する側縁部4,4′が熱圧着された構成となっている。」(1頁13行?2頁13行)
ニ 「綿体が異質の不織布で挟まれているために綿体を構成する繊維の両面からの離脱が押えられると共に特にパツテイング面として使用する面が絡み構成となった短繊維スパンボンド方式の不織布であるから、湿潤時の強度に優れ、離脱繊維防止のために接着剤を使用する必要がないと共に離脱繊維或いは溶出液の顔面への付着が無く、優れたパツテイング機能が発揮できる。」(3頁2?10行)
ヌ 第1及び2図の記載から、化粧用綿は、略同じ大きさの長方形からなる不織布2、綿体1及び不織布3がその順に積層されたものであること、及び、これらの不織布2と不織布3とは、側縁部4において直接当接していることが窺える。

(10)甲第8号証
甲第8号証には、つぎのとおり記載されている。
ネ 「1 脱脂綿帯をスチーム噴射手段で加熱するスチーム噴射行程と、上記スチーム噴射行程の直後に上下一対の圧接ロールにより、押圧力1000?20000kg/cm2高圧力下で上記脱脂綿帯を扁平な布状に押圧加工するエンボス加工工程とを含み、上記一対の圧接ロールの少なくとも1方を点状又は線状の突起を有するエンボスロールに形成して、これにより上記脱脂綿帯にスチーム加熱しつつエンボス加工して微小な点状又は繊細な線状の凹部を多数形成する様に構成した事を特徴とする不織布の製造方法。」(特許請求の範囲)
ノ 「上記脱脂綿帯1は、上記スチーム噴射行程2に於いて加湿加熱された後、上記エンボス加工工程3を経て不織布4に加工されるが、エンボスによる圧縮効果を高めるため、本発明方法では、上記圧接ロール31,32として、例えばスチールロールを使用する共にこのスチールロールに所望により加熱手段を設けて、例えば温度30℃乃至180℃、望ましくは温度80℃乃至120℃に、上記圧接ロール31,32を加熱し、これにより上記脱脂綿帯1を加熱しつつエンボス加工する様に構成しても良い。」(4欄33?43行)

(11)甲第9号証
甲第9号証は、説明が付された写真が印刷されたものであり、つぎの事項が窺える。
(11-1)
側面に「LILIAN PUFF」、「リリアンパフ」、「cotton100%」と印刷された、2つの略同型の箱が上下方向に重ねた状態であること。
そして、その写真について「(1)スズラン株式会社が2003年1月21日に製造した商品名「リリアンパフ」とする天然コットン100%からなる化粧用コットンのパッケージである。」と記載されている。
(11-2)
上記した、上下方向に重ねた状態の2つの略同型の箱のうち、上方の箱の側面の中央下部付近に「LOT 3A21Y」と印刷されていること。
そして、その写真について「(2)各パッケージには、製造年月日が刻印してある。「LOT 3A21Y」の「3」は「2003年」を、「A」は「1月」を、「21」は「日付」を、「Y」は「製造工場」をそれぞれ表している。」と記載されている。
(11-3)
側面に「LILIAN PUFF」と印刷された、2つの略同型の箱が並べた状態であること。
そして、その写真について「(3)2つのパッケージを示す。」と記載されている。
(11-4)
上記した、並べた状態の2つの略同型の箱の一方が開封された状態であること。
そして、その写真について「(4)一方のパッケージの蓋を開ける。」と記載されている。
(11-5)
上記した、2つの箱の手前に長方形形状をしたシート状部材が2つ並べられていること。
そして、その写真について「(5)パッケージ内の化粧用コットンを取出す。化粧用コットンは、約50mm×60mmのサイズを有し、両側縁部近傍及び両端部2箇所に圧着、接合部が形成されている。」と記載されている。
(11-6)
上記した、2つ並べられたシート状部材を近接撮影したものであること。
そして、その写真について「(6)化粧用コットンを拡大して示す。化粧用コットンは、厚手の中綿の両面に薄手の不織布を積層した構造となっている。中綿は、薄いコットン繊維を多数積層、交絡させて製造されたものであり、積層構造を成している。」と記載されている。
(11-7)
上記した、2つ並べられたシート状部材のうちの1つに対してより近接撮影したものであること。
そして、その写真について「(7)化粧用コットンをさらに拡大して示す。」と記載されている。
(11-8)
上記した、2つ並べられたシート状部材のうちの1つに対して、液体の入ったボールが上から添えられていること。
そして、その写真について「(8)化粧用コットンに水を滴下する。」と記載されている。
(11-9)
上記した、液体の入ったボールが上から添えられていたシート状部材が濡れていること。
そして、その写真について「(9)化粧用コットンに水が浸透した状態を示す。」と記載されている。
(11-10)
上記した、濡れているシート状部材を一部解体していること。
そして、その写真について「(10)水が浸透して膨潤した化粧用コットンを軽く絞り、厚さ方向に裂いて4枚に剥離する。」と記載されている。
(11-11)
上記した、一部解体していたシート状部材を完全に解体し、4枚の薄いシート状部材として並べられていること。
そして、その写真について「(11)化粧用コットンを両側表面の2枚の不織布と、ほぼ中央で2枚に剥離した中綿との4枚に分離した状態を示す。」と記載されている。

(12)甲第10号証の1?6
甲第10号証の1?6は、いずれも表題を「5.物品受領書」とし、「スズラン株式会社 名古屋 名古屋市北区安井4丁目1番29号」と記載されているものであり、「お届先名」、「年月日」、「商品コード/品名」、「入数」、「ケース」、「数量」及び「納品数量」の欄には、それぞれつぎのとおり記載されている。
(12-1)甲第10号証の1
「お届先名」、「年月日」、「商品コード/品名」、「入数」、「ケース」、「数量」及び「納品数量」の順に、それぞれ、「ピップフジモト(株)中部物流センター様」、「030318」、「リリアンパフ 2P ¥360」、「30」、「16」、「480」及び「480」と記載されている。
そして、「受領 03.3.18 ピップフジモト 名古屋支店」と押印されている。
(12-2)甲第10号証の2
同様に、「ピップフジモト(株)中部物流センター様」、「030421」、「リリアンパフ 2P ¥360」、「30」、「16」、「480」及び「480」と記載されている。
そして、「受領 03.4.21 ピップフジモト 名古屋支店」と押印されている。
(12-3)甲第10号証の3
同様に、「ピップフジモト(株)中部物流センター様」、「030507」、「リリアンパフ 2P ¥360」、「30」、「32」、「960」及び「960」と記載されている。
そして、「受領 03.5.07 ピップフジモト 名古屋支店」と押印されている。
(12-4)甲第10号証の4
同様に、「ピップフジモト(株)中部物流センター様」、「030609」、「リリアンパフ 2P ¥360」、「30」、「16」、「480」及び「480」と記載されている。
そして、「受領 03.6.09 ピップフジモト 名古屋支店」と押印されている。
(12-5)甲第10号証の5
同様に、「(株)ピース会中部様」、「030401」、「リリアンパフ 5×6 90枚 2P」、「30」、「30」、「900」及び「900」と記載されている。
そして、「(株)ピース会中部 15.4.1 領収済」と押印されている。
(12-6)甲第10号証の6
同様に、「(株)ピース会中部様」、「030607」、「リリアンパフ 5×6 90枚 2P」、「30」、「20」、「600」及び「600」と記載されている。
そして、「(株)ピース会中部 15.6.9 領収済」と押印されている。

(13)甲第11号証
甲第11号証にはつぎのとおり記載されている。
ハ 「従来の化粧綿は、繊維ウエブのみからなり、実用に供されてきたが、使用中繊維の一部が肌に残るいわゆる繊維残りが顕著であり、これが大きな欠点となつていた。前述のような繊維残りを解消するために、繊維ウエブに不織布を重ね合わせて一体化したものも提案されている。しかし、このような化粧綿は、不織布の柔軟性が不足するために、…硬い感触となり肌ざわりが悪くなつてしまう。そこで最近では高圧水を噴射することにより柔軟性を付与した、いわゆるウオータージエツト加工不織布を表面材に使用した化粧綿が多数見受けられるようになつた。例えば、レーヨン長繊維スパンボンド不織布やレーヨン短繊維スパンボンド不織布のウオータージエツト加工品が使用されている。ところが、前者は、…こする等の動作を加えた際、形くずれを起こすので優れた化粧綿表面材とはいえない。また後者は、…柔軟性が不十分であり、肌ざわりにおいては触感が優れたものとは言い難い。従つてウオータージエツト不織布といえども、化粧綿表面材に使用した場合には、形くずれ又は肌ざわりの点で不十分であり、使用者が満足できるような化粧綿は得られていない。本考案は、以上のような欠点を排し、繊維残り及び形くずれが少なく、柔軟で肌ざわりの良い化粧綿を提供するものである。即ち本考案は、内層を表面材で被覆してなる化粧綿において、表面材が、疎水性繊維を10?50重量%混抄したレーヨン短繊維スパンボンド不織布に高圧水を噴射して得られたものであることを特徴とする化粧綿に係るものである。」(1頁1欄10行?2欄15行)
ヒ 「表面材2は…疎水性繊維5が混抄されていることにより、レーヨン繊維4同志の結合がやや弱められたものである。レーヨン短繊維の繊維長は…20mmを越えると結合がしにくくなり横方向の強度が低下する。前記不織布に混抄される疎水性繊維の例としては…肌ざわりの点からポリエステルが最適である。…疎水性繊維の表面材に占める割合は、重量比率で10%?50%であることが必要である。これよりも少なければ、柔軟性及び肌ざわりの点で不十分である…」(1頁2欄27行?2頁3欄17行)
フ 「 本考案に於ける表面材の性質は、噴射される高圧水の水圧に大きく影響される。即ち、水圧が30kg/cm 以下では、…柔軟性及び肌ざわりの点で十分なものとはならない。」(2頁3欄21行?4欄3行)

3 当審において通知した無効理由について
(1)本件発明1について
(1-1)対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、その構造または機能からみて、引用発明の「ウオータージェット加工により」「仕上げられ」は、本件発明1の「ウォータジェット噴射によって表面加工されて成り」に相当し、引用発明の「単位コットン1」は、上記2(1)アの記載から、化粧用コットンを構成するものであるから、本件発明1の「化粧用パッティング材」に相当する。
引用発明の「複数層」の各層と本件発明1の「化粧用パック材」とは、化粧用シート部材という点で共通している。

そこで、本件発明1の用語を用いて表現すると、両者は次の点で一致する。
(一致点)
「吸水性を有する化粧用シート部材であって、該シート部材は複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成するようになっている化粧用パッティング材。」

そして、両者は次の相違点1で相違する。
(相違点1)
本件発明1は、化粧用シート部材が、顔面の部分的パックに適する厚さ及びサイズに形成された化粧用パック材であって、該パック材はウォータジェット噴射によって表面加工されて成り、化粧用パッティング材は側縁部近傍を圧着手段によってパック材が剥離可能に接合されて成り、該パッティング材に化粧水を浸潤させてパッティングし、該パッティング動作終了後、該パッティング材から化粧用シート部材を一枚毎剥離し、該剥離した化粧用シート部材を顔面の必要個所に所定時間装着させてパックできるように構成されているのに対し、
引用発明は、少なくとも単位コットン1(化粧用パッティング材)は、ウォータジェット噴射によって表面加工されて成っているが、各層(化粧用シート部材)がウォータジェット噴射によって表面加工されて成っているか不明であり、単位コットン1(化粧用パッティング材)は積層した各層(化粧用シート部材)がどのように接合されているのか不明であり、単位コットン1(化粧用パッティング材)に化粧水を浸潤させてパッティングし、該パッティング動作終了後、単位コットン1(化粧用パッティング材)から各層(化粧用シート部材)を一枚毎剥離し、該剥離した化粧用シート部材を顔面の必要個所に所定時間装着させてパックできるように構成されているか不明である点。

(1-2)判断
(1-2-1)まず、相違点1に係る、本件発明1の「該パック材はウォータージェット噴射によって表面加工されて成り、」についてみる(判決22頁19行?25頁4行も参照。)。
ア 本件明細書には、上記構成に関し、つぎのとおり記載されている。
「【背景技術】
【0003】…汎用のパッティング材は、夫々化粧水を含浸させて用いられるのであるが、化粧水をパッティング材に含浸させ、そして、このパッティング材を用いてパッティング動作を施した後には、該汎用のパッティング材は廃棄される。然るに、廃棄されるパッティング材には未だ多量の化粧水が残存しているのが通例であり、極めて不経済であった。
【0004】更に又、単に繊維を積繊して塊状に形成した…パッティング材では、該塊状のパッティング材を引き剥がし、そして、該引き剥がしたものを顔面に装着してパックと同様の使い方を為すことも考えられる。…
【0005】然し乍ら、単に繊維を積繊して塊状に形成したパッティング材の場合に於いては、引き剥がす際に繊維が毛羽立つためパック材としての使用には適しない。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】上記汎用品…のパッティング材の有する欠陥に鑑み、この欠陥を克服すべくパッティング材に化粧水を含浸させてパッティングし、そして、このパッティング動作が終了後、該パッティング材に残存している化粧水をパックとしての再利用ができるようにするために解決せられるべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明は該課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は…化粧用パック材であって、該パック材は複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成し、且つ、該化粧用パッティング材は…パック材が剥離可能に接合されて成り、該パッティング材に化粧水を浸潤させてパッティングし、該パッティング動作終了後、該パッティング材から前記パック材を一枚毎剥離し、該剥離したパック材を顔面…に…装着させてパックできるように構成されたことを特徴とする化粧用パッティング材を提供するものである。
【0010】…パッティング動作が終了したときには、このパッティング材を廃棄することなく一枚毎に剥離し、そして、剥離した各パック材を顔面…に…装着して該パック材に残存している化粧水を用いてパックすることができる。
【0011】次に、請求項2記載の発明は、上記パック材はコットンにて形成され、且つ、ウオータジェット噴射によって表面加工され…て成ることを特徴とする請求項1記載の化粧用パッティング材を提供するものである。
【0012】この構成によれば、パック材はコットンをウォータジェット製法によって製造されるので、各パック材は、繊維が交絡し表面が平滑化される。すなわち、平滑化とはコットンの短い繊維が交絡し縞状の微細な凹凸模様が形成されている状態であって、パック材として使用するとき、或いはパッティング材として使用するときにも毛羽立たず、強度が保たれるため型崩れしにくいものとなる。」

イ 上記本件明細書の記載及び本件訂正後の請求項1の記載によると、本件発明1は、化粧水を含浸させてパッティングに用いる従来のパッティング材につき、パッティング動作の終了後もパッティング材に残存する化粧水をパック用に再利用するため、複数枚の化粧用パック材を剥離可能に接合して化粧用パッティング材を形成し、これをパッティングに使用した後、化粧用パック材を1枚ごとに剥離し、これをパック材として使用することができるようにしたものであるところ、従来のパッティング材のように単に繊維を積繊してパッティング材を形成した場合には、剥離の際に繊維が毛羽立ち、パック材としての使用に適さないことから、個々の化粧用パック材にウォータージェット噴射によって表面加工を施すことにより、その表面を平滑化し、パッティング材として使用する際はもちろんのこと、剥離してパック材として使用する際にも、表面が毛羽立たないようにするなどしたものである。
ウ したがって、本件発明1の「該パック材はウォータージェット噴射によって表面加工されて成り、」により解決すべき主たる課題は、化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止である。

(1-2-2)つぎに、引用例、検甲第1号証、甲第1号証?甲第11号証の記載をみる(判決25頁5行?29頁6行も参照。)。

ア 引用例
上記2の摘記事項ア?エの記載から、引用例におけるウォータージェット噴射による加工は、ふっくらと仕上げられ、内部に空気を含んでかさ張った状態となる単位コットンを圧縮包装するとの構成を採用した発明において、単位コットンをふっくらとした、毛羽立ちが少なく、肌に優しい状態のものに仕上げるための手法の一例として挙げられているにすぎず、その他、引用例には、積層構造体として形成された単位コットンから各層を剥離した際に生じる毛羽立ちを防止するため、各層にウォータージェット噴射によって表面加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆がされているとすることはできない。

イ 甲第1号証?甲第6号証
上記2の摘記事項コ?シ、及び摘記事項ソ?トの記載から、甲第1号証?甲第2号証、及び、甲第4号証?甲第6号証にはウォータージェット噴射について記載されているとはいえない。
したがって、それらの詳細をみるまでもなく、化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちを防止するための「該パック材はウォータージェット噴射によって表面加工されて成り、」について、記載あるいは示唆がされているとすることはできない。
上記2の摘記事項ス?セの記載から、甲第3号証には、薄い脱脂綿を加圧して繊維の隆起を抑圧成形したものを多数重合し積層することにより、当該脱脂綿の薄い1枚或は数枚を必要に応じ束にして使用するにあたり、夫夫各1枚宛の剥離を極めて容易とする技術が記載されている。
しかしながら、甲第3号証には、ウォータージェット噴射に関することと、薄い脱脂綿が化粧用パッティング材あるいは化粧用パック材として使用されるものであることとのいずれについても、記載も示唆もされていない。
したがって、甲第3号証にも、化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちを防止するための「該パック材はウォータージェット噴射によって表面加工されて成り、」について記載あるいは示唆がされているとすることはできない。
請求人は「甲第3号証は、化粧用パッティング材から剥離される各層に、その一枚毎の剥離を容易にする加工としてWJ加工(審決注:ウォータージェット噴射による表面加工)を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆のある刊行物であると認定するのが相当である。」(平成21年11月24日付け上申書)と主張しているが、上記したとおりであるから、当該主張は理由がない。

ウ 甲第7号証
上記2の摘記事項ナ?ヌの記載から、甲第7号証に記載されたもののウォータージェット噴射による加工は、綿体の繊維離脱を防止するために綿体を2枚の不織布で挟むとの構成を採用した考案において、パッティングに使用する側の不織布につき、その繊維を絡み合わせて成型し、湿潤時における強度を上げるなどするための手法の一例として挙げられているにすぎず、その他、甲第7号証には、パッティング材からシート部材を剥離した際に生じる毛羽立ちを防止するため、各シート部材にウォータージェット噴射によって表面加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆がされているとすることはできない。

エ 甲第8号証
上記2の摘記事項ネ?ノの記載から、甲第8号証にはウォータージェット噴射について記載されているとはいえない。
したがって、その詳細をみるまでもなく、化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちを防止するための「該パック材はウォータージェット噴射によって表面加工されて成り、」について、記載あるいは示唆がされているとすることはできない。

オ 甲第11号証
上記2の摘記事項ハ?フの記載から、甲第11号証に係る考案は、従来の化粧綿(繊維残りを解消するため繊維ウェブ(内層)に不織布(表面材)を重ね合わせて一体化した上、柔軟性を付与するため不織布(表面材)にウォータージェット噴射による加工を施したもの)がなお有する課題(形崩れを起こすこと又は柔軟性が不十分で触感に優れないこと)を解決することを目的とし、形崩れが少なく、かつ、柔軟で肌触りの良い化粧綿とするため、所定の量の疎水性繊維を混抄したレーヨン短繊維スパンボンド不織布(表面材)に高圧水を噴射するとの加工を施すというものにすぎず、その他、甲第11号証には、化粧綿からシート部材を剥離した際に生じる毛羽立ちを防止するため、各シート部材にウォータージェット噴射による加工ないし高圧水を噴射するとの加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆がされているとすることはできない。

カ 検甲第1号証
請求人と被請求人との争いのない事実によれば、検甲第1号証は「天然コットン100%の約50mm×60mmサイズの方形シート状の中綿の両面に、ウォータージェット加工された不織布を積層してなり、長手方向の両側縁部近傍の表裏両面に線状の圧着凹部が形成され、長手方向の端部にそれぞれ2つの方形の圧着凹部が形成されて、剥離可能に接合されている化粧用コットン。」であるところ、甲第9号証、甲第10号証の1?6及び証人齋藤由司の証言から、前記中綿がウォータージェット加工されたものであるとすることはできない。
さらに、証人齋藤由司の証言から、検甲第1号証の化粧用コットンは前記不織布と前記中綿とが剥離可能であるものの、当該化粧用コットンは化粧用パッティング及び化粧用パック材として使用するものであるとはいえない。
したがって、検甲第1号証の化粧用コットンは、甲第9号証、甲第10号証の1?6及び証人齋藤由司の証言を併せてみても、化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちを防止するための「該パック材はウォータージェット噴射によって表面加工されて成り、」についての構造を有しているとも、また当該構造が示唆されているともいえない。

(1-2-3)小括
以上のとおり、引用例、甲第1号証?甲第11号証及び検甲第1号証のいずれにも、化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちを防止するための「該パック材はウォータージェット噴射によって表面加工されて成り、」について記載も示唆もない。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本件発明1の構成とすることが当業者にとって容易であるとはいえない。

以上のとおりであるから、本件発明1は甲第1号証?甲第11号証及び検甲第1号証に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の構成をその構成の一部とするものであるから、上記と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、当審において通知した無効理由により本件発明1?3についての本件特許を無効にすることはできない。

4 請求人の主張する無効理由について
(1)無効理由1?3について
ア 最初に無効理由2について判断する。
上記3(1)(1-2)(1-2-1)イに記載したとおり、本件発明1の本件発明1の「該パック材はウォータージェット噴射によって表面加工されて成り、」により解決すべき主たる課題は、化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止である。
一方、上記3(1)(1-2)(1-2-3)に記載したとおり、甲第1号証?甲第11号証及び検甲第1号証のいずれにも、化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止するための「該パック材はウォータージェット噴射によって表面加工されて成り、」について記載も示唆もない。
したがって、本件発明1は、検甲第1号証、甲第1号証、甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとすることはできない。

イ 無効理由1について
無効理由1の証拠は、無効理由2の証拠から甲第1及び5号証を除くものである。
したがって、無効理由1の詳細を検討するまでもなく、本件発明1は、検甲第1号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとすることはできない。

ウ 無効理由3について
上記3(1)(1-2)(1-2-3)に記載したとおり、甲第1号証?甲第11号証及び検甲第1号証のいずれにも、化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止するための「該パック材はウォータージェット噴射によって表面加工されて成り、」について記載も示唆もない。
したがって、上記アに記載した理由と同様の理由により、本件発明1は、甲第1号証?甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

エ 小括
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1?3によって本件発明1についての本件特許を無効にすることはできない。

(2)無効理由4について
本件発明2は、本件発明1の構成をその構成の一部とするものである。
一方、上記3(1)(1-2)(1-2-3)に記載したとおり、甲第1号証?甲第11号証及び検甲第1号証のいずれにも、化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止するための「該パック材はウォータージェット噴射によって表面加工されて成り、」について、記載も示唆もない。
したがって、上記(1)アに記載した理由と同様の理由により、本件発明2は、検甲第1号証及び甲第1号証?甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由4によって本件発明2についての本件特許を無効にすることはできない。

(3)無効理由5について
本件発明3は、本件発明1の構成をその構成の一部とするものである。
一方、上記3(1)(1-2)(1-2-3)に記載したとおり、甲第1号証?甲第11号証及び検甲第1号証のいずれにも、化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止するための「該パック材はウォータージェット噴射によって表面加工されて成り、」について、記載も示唆もない。
したがって、上記(1)アに記載した理由と同様の理由により、本件発明3は、検甲第1号証及び甲第1号証?甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由5によって本件発明3についての本件特許を無効にすることはできない。

(4)無効理由6について
上記3(1)(1-2)(1-2-1)に記載したとおり、本件発明1は化粧水を含浸させてパッティングに用いる従来のパッティング材につき、パッティング動作の終了後もパッティング材に残存する化粧水をパック用に再利用するため、複数枚の化粧用パック材を剥離可能に接合して化粧用パッティング材を形成し、これをパッティングに使用した後、化粧用パック材を1枚ごとに剥離し、これをパック材として使用することができるようにしたものである。
また、請求項1の記載をみると、その末尾には「パッティング材」と記載されている。
以上を総合してみると、本件発明1は物の発明であって、請求項1の「該パッティング材に化粧水を浸潤させてパッティングし、該パッティング動作終了後、該パッティング材から前記パック材を一枚毎剥離し、該剥離したパック材を顔面の必要個所に所定時間装着させてパックできるように」との記載は、「吸水性を有し、且つ、顔面の部分的パックに適する厚さ及びサイズに形成された化粧用パック材であって、該パック材はウォータジェット噴射によって表面加工されて成り、該パック材は複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成し、且つ、該化粧用パッティング材は側縁部近傍を圧着手段によってパック材が剥離可能に接合されて成(る)」パッティング材の上記作用効果を記載したものであることは明らかである。
したがって、本件発明1の属するカテゴリーが不明であるとはいえないから、請求人の主張する無効理由6によって本件発明1についての本件特許を無効とすることはできない。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由により本件発明1?3についての本件特許を無効にすることはできない。

V むすび
以上のとおりであるから、当審において通知した無効理由とその証拠方法及び請求人の主張する理由とその証拠方法によっては本件発明1?3についての本件特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
化粧用パッティング材
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性を有し、且つ、顔面の部分的パックに適する厚さ及びサイズに形成された化粧用パック材であって、該パック材はウォータジェット噴射によって表面加工されて成り、該パック材は複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成し、且つ、該化粧用パッティング材は側縁部近傍を圧着手段によってパック材が剥離可能に接合されて成り、該パッティング材に化粧水を浸潤させてパッティングし、該パッティング動作終了後、該パッティング材から前記パック材を一枚毎剥離し、該剥離したパック材を顔面の必要個所に所定時間装着させてパックできるように構成されたことを特徴とする化粧用パッティング材。
【請求項2】
上記パック材はコットンにて形成され、且つ、ウォータジェット噴射によって表面加工され、更に、スチーム処理と熱ロールをかけて柔軟性を増す処理が施されて成ることを特徴とする請求項1記載の化粧用パッティング材。
【請求項3】
上記パック材は方形に形成され、且つ、上記パッティング材はその長手方向側縁部近傍の表裏両面に線状の圧着凹部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の化粧用パッティング材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-08-19 
結審通知日 2008-08-26 
審決日 2008-09-16 
出願番号 特願2004-176202(P2004-176202)
審決分類 P 1 113・ 537- YA (A45D)
P 1 113・ 121- YA (A45D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村山 睦  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 鈴木 洋昭
蓮井 雅之
登録日 2006-03-17 
登録番号 特許第3782813号(P3782813)
発明の名称 化粧用パッティング材  
代理人 小野塚 薫  
代理人 高城 貞晶  
代理人 高城 貞晶  
代理人 井上 正  
代理人 萼 経夫  
代理人 牛久 健司  
代理人 牛久 健司  
代理人 田上 明夫  
代理人 宮崎 嘉夫  
代理人 井上 正  

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