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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61M 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 A61M |
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管理番号 | 1215714 |
審判番号 | 不服2004-23901 |
総通号数 | 126 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-06-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-11-22 |
確定日 | 2010-04-26 |
事件の表示 | 平成 8年特許願第517203号「ガス供給マスク」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 6月13日国際公開、WO96/17643、平成10年 9月29日国内公表、特表平10-509887号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成7年12月8日(パリ条約による優先権主張1994年12月9日、オーストラリア)を国際出願日とする出願であって、平成16年8月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年11月22日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされ、さらに、同年12月15日付け及び同年12月22日付けで手続補正がなされ、その後、平成19年5月1日付けで、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決がなされたところ、知的財産高等裁判所において、審決取消の判決(平成19年(行ケ)第10332号、平成20年8月6日判決言渡)がなされ、同判決は確定した。 2.平成16年11月22日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成16年11月22日付けの手続補正(以下、「本件第1補正」という。)を却下する。 [理由1] 本件第1補正により、特許請求の範囲の記載が補正前には、 「1. 使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって、 チャンバ室を形成する形状に作られ、該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部と、 チャンバ室の壁と一体に形成され、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、チャンバ室との接続部となるガス供給ポートと、 マスクを使用者に固定させる手段を具えており、 壁のガス供給ポートを含む部分の厚さが、当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域の厚さよりも薄く形成され、それによって大きな可撓性を有するように作られており、接続されたガス供給ラインからの作用によるマスクのいかなる動きも、少なくともその一部は、ガス供給ポートを含む壁部分が撓むことによって吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。 2. 壁のガス供給ポートを含む部分は、その部分を所定幅の環状部(35)が取り囲んでおり、該環状部の壁の厚さは、その隣接部分よりも薄い厚さである請求項1に記載のマスク。 3. マスクを使用者に固定させる手段は、チャンバ室を取り囲む壁と一体に形成された固定手段を具えており、該固定手段は、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される請求項1又は2の何れかに記載のマスク。 4. 固定手段は、径方向に突出する可撓性突片を具えており、該突片は、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される請求項3に記載のマスク。 5. マスクが着用者に装着されたとき、突片が着用者の顔に接触して屈曲できるような厚さに形成され配置されている請求項4に記載のマスク。 6. 使用者へガスを送り込むのに使用されるマスクであって、弾性材料からなり、チャンバ室を形成する形状に作られた顔面接触部を具え、該チャンバ室は、凸状端部領域を有し、該領域は、マスクの使用時、使用者の顔面に押しつけられて顔面の輪郭に倣うようになっており、端部領域には孔が開設され、該孔を通じてガスが使用者の気道へ送られるようになっており、チャンバ室の壁と一体に形成されたガス供給ポートを具えており、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、前記ポートはチャンバ室との接続部となっており、マスクを使用者に固定させる手段を具え、該手段によって、チャンバ室の端部領域が使用者の顔面の一部分を覆い、チャンバ室へ送り込まれたガスの作用を受けて被覆領域の輪郭を3次元的に密封できるようにしており、マスクの特徴とするところは、壁のガス供給ポートを含む部分の厚さが、当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域よりも薄く形成され、それによって大きな可撓性を有するように作られており、ガス供給ラインからの作用によるマスクのいかなる動きも、ガス供給ポートを含む壁部が撓むことによって、その動きの少なくとも一部が吸収されるようにしていることにあるマスク。 7. 壁のガス供給ポートを含む部分は、その部分を取り囲む所定幅の環状部(35)が形成されており、該環状部には、マスクの隣接部分よりも薄い肉厚の壁部が形成されている請求項6に記載のマスク。 8. ガス供給ポートは、チャンバ室の凸状端部領域に向かってガスが送られるように配置される請求項6又は7の何れかに記載のマスク。 9. マスクは、前部がチャンバ室の凸状端部領域を有し、後部がガス供給ポートを含む壁部を有しており、後部の壁の平均厚さは、前部の壁の平均厚さよりも大きい請求項6乃至8の何れかに記載のマスク。 10. 後部の壁の厚さは、前部から離れるにつれて大きくなっている請求項9に記載のマスク。 11. マスクを使用者に固定させる手段は、チャンバ室を取り囲む壁と一体に形成された固定手段を具えており、該固定手段は、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される請求項6乃至10の何れかに記載のマスク。 12. 固定手段は、径方向に突出する可撓性突片を具えており、該突片は、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される請求項11に記載のマスク。 13. 固定手段は、マスクの前部と後部の境界部に隣接する周縁部から径方向外向きに突出するように配置される請求項11又は12の何れかに記載のマスク。 14. マスクが着用者に装着されたとき、突片は、着用者の顔面に接触して屈曲できるような厚さに形成されている請求項13に記載のマスク。 15. チャンバ室は、断面が略円形である請求項1乃至14の何れかに記載のマスク。 16. チャンバ室は、断面が略楕円形である請求項1乃至14の何れかに記載のマスク。」 であったものが、補正後には 「【請求項1】 使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって、 チャンバ室を形成する形状に作られ、該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部と、 チャンバ室の壁と一体に形成され、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、チャンバ室との接続部となるガス供給ポートと、 ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部に連結している環状壁部分(20)(35)と、 マスクを使用者に固定させる手段を具えており、 環状壁部分(20)(35)の厚さは、顔面接触部と同じオーダで、且つ顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され、それによって、ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用によりマスクへ及ぶ動きは、少なくともその一部は、環状壁部分が撓むことによって吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。 【請求項2】 使用者へガスを送り込むのに使用されるマスクであって、弾性材料からなり、チャンバ室を形成する形状に作られた顔面接触部を具え、該チャンバ室は、凸状端部領域を有し、該領域は、マスクの使用時、使用者の顔面に押しつけられて顔面の輪郭に倣うようになっており、端部領域には孔が開設され、該孔を通じてガスが使用者の気道へ送られるようになっており、チャンバ室の壁と一体に形成されたガス供給ポートを具えており、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、前記ポートはチャンバ室との接続部となっており、ガス供給ポートを囲んで含み周縁はチャンバ室の壁に連結している環状壁部分(20)(35)と、マスクを使用者に固定させる手段を具え、該手段によって、チャンバ室の端部領域が使用者の顔面の一部分を覆い、チャンバ室へ送り込まれたガスの作用を受けて被覆領域の輪郭を3次元的に密封できるようにしており、マスクの特徴とするところは、環状壁部分(20)(35)の厚さは、顔面接触部と同じオーダで且つ顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され、それによってガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用によりマスクへ及ぶ動きは、少なくともその一部は、環状壁部分が撓むことによって吸収されるようにしていることにあるマスク。 【請求項3】 マスクを使用者に固定させる手段は、半径方向に突出した可撓性リムを具えており、該リムは、チャンバ室を取り囲む壁と一体に形成され、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される請求項1又は2の何れかに記載のマスク。 【請求項4】 マスクが着用者に装着されたとき、突片が着用者の顔に接触して屈曲できるような厚さに形成され配置されている請求項3に記載のマスク。 【請求項5】 ガス供給ポートは、チャンバ室の凸状端部領域に向かってガスが送られるように配置される請求項2に記載のマスク。 【請求項6】 マスクは、前部がチャンバ室の凸状端部領域を有し、後部がガス供給ポートを含む壁部を有しており、後部の壁の平均厚さは、前部の壁の平均厚さよりも大きい請求項5に記載のマスク。 【請求項7】 後部の壁の厚さは、前部から離れるにつれて大きくなっている請求項6に記載のマスク。 【請求項8】固定手段は、マスクの前部と後部の境界部に隣接する周縁部から径方向外向きに突出するように配置される請求項6又は7の何れかに記載のマスク。 【請求項9】 チャンバ室は、断面が略円形又は略卵形である請求項1乃至8の何れかに記載のマスク。」 と補正された。 本件第1補正により補正された請求項8は、補正前の請求項13に対応しているものと考えられるが、補正前の請求項13は補正前の請求項11又は12を引用しているから、補正前の請求項13は少なくとも補正前の請求項11に記載されている「マスクを使用者に固定させる手段は、チャンバ室を取り囲む壁と一体に形成された固定手段を具えており、該固定手段は、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される」という発明特定事項を備えていることになる。しかし、本件第1補正により補正された請求項8、請求項8が引用する請求項6又は7、請求項6が引用する請求項5及び請求項5が引用する請求項2の何れにも上記発明特定事項が記載されていない。そうすると、補正後の請求項8が補正前の請求項13に対応しているとすると、上記補正前の請求項11に記載されていた発明特定事項が削除されたことになり、このような補正前に記載されていた発明特定事項を削除する補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、あるいは明りょうでない記載の釈明の何れを目的としたものにも該当しないことは明らかである。また、補正後の請求項8が補正前の請求項13に対応していないとすると、補正前の他の請求項には、補正後の請求項8に記載されている発明特定事項を備えた請求項が見当たらないし、補正後の請求項8に記載されている発明特定事項が補正前の他の請求項の何れかを減縮したものともいえないから、補正後の請求項8は補正前の各請求項と対応していない請求項を追加したことになり、このような補正前の請求項と対応していない新たな請求項を追加する補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、あるいは明りょうでない記載の釈明の何れを目的としたものにも該当しないことは明らかである。 したがって、何れにしても本件第1補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 [理由2] 本件第1補正は上述したように[理由1]により却下すべきものであるが、本件第1補正では、請求項1についても補正がされているので、請求項1の補正についても以下に検討しておくこととする。 (1)補正後の請求項1に係る発明 本件第1補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって、 チャンバ室を形成する形状に作られ、該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部と、 チャンバ室の壁と一体に形成され、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、チャンバ室との接続部となるガス供給ポートと、 ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部に連結している環状壁部分(20)(35)と、 マスクを使用者に固定させる手段を具えており、 環状壁部分(20)(35)の厚さは、顔面接触部と同じオーダで、且つ顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され、それによって、ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用によりマスクへ及ぶ動きは、少なくともその一部は、環状壁部分が撓むことによって吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。」 と補正された。(下線は補正箇所を示す。) 上記補正は、本件第1補正前の請求項1(平成16年3月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1)に記載した発明を特定するために必要と認める事項である「壁のガス供給ポートを含む部分」について「ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部に連結している環状壁部分(20)(35)」と限定し、また、補正前の「壁のガス供給ポートを含む部分の厚さが、当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域の厚さよりも薄く形成され」を「環状壁部分(20)(35)の厚さは、顔面接触部と同じオーダで、且つ顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され」と限定し、補正前の「ガス供給ライン」の接続相手を「ガス供給ポート」と限定し、さらに、「マスクのいかなる動き」を「マスクへ及ぶ動き」と言い換えたものであり、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 なお、本件第1補正においては、本件第1補正前の請求項1に記載されていた「大きな可撓性を有するように作られており」という発明特定事項が削除されているが、これは「環状壁部分(20)(35)の厚さは、」「顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され、」「環状壁部分が撓む」と記載することによって言い換えたものと認められる。仮に、言い換えたものでないとすると、本件第1補正は、上記発明特定事項が削除されたことになるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえないことになり、しかも、上記削除する補正が、請求項の削除、誤記の訂正、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかであるから、本件第1補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反してなされたものということになる。 そこで、上記のとおり、本件第1補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件第1補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について以下に検討する。 (2)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された特開昭50-689号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。 (a)「(5)マスクの中央部分は、吸入管に近接する部分を薄く形成して、吸入管を接顔枠の内方に押入することを許容するようにした特許請求の範囲(4)に記載の呼吸用マスク。」(特許請求の範囲第5項) (b)「(9)リボンを受け入れる係止部材を含み、前記リボンは人体頭部にマスクを保持せしめるようにした上記の特許請求の範囲に記載された呼吸用マスク。 (10)係止部材はマスクの中央に形成されている特許請求の範囲(9)に記載の呼吸用マスク。 (11)係止部材は中央部分と一体に形成されたT型部材である特許請求の範囲(9)又は(10)に記載の呼吸用マスク。」(特許請求の範囲第9?11項) (c)「本発明は、呼吸用マスクに関し、特に装着が容易な呼吸用マスクに係る。前述の目的と麻酔用の目的のために、マスクは膨出した接顔枠を有していることは周知である。空気を充填することによつて、この枠に弾力性を付与し、正確に顔面に適用することができる。この方法により、マスクの所望の密接が達成される。」(2ページ左上欄7?13行) (d)「本発明によれば、中央部分と、空洞にしてプラスチツク吹込成型の接顔枠が顔面に接触するようにした呼吸用マスクを提案するもので、前記枠の内側は、外界から密封され、圧縮ガスが充填されている。」(2ページ左下欄6?10行) (e)「吹込用のチユーブに空気圧力を加えることにより、マスクの作動状態において、ドーム状に膨出し、比較的大きいスペースを必要とするが」(3ページ右上欄4?7行) (f)「図面において、合成樹脂の吹込成型によつて形成された接顔枠1を有する呼吸用マスクが示してあり、該枠1は空気を充填し、外部から緊密に且つ恒久的に遮断されている。枠1は、例えばその中央部分3に固く接着することもできる。」(3ページ左下欄8?12行) (g)「第1図乃至第3図に示された実施例は、マスクの中に押し込め得るようにしたチユーブ6を有し、この際マスクの中央部も共に内方に押入される(第2図参照)。このことは、チユーブ6に近接した中央部分の壁厚が、他の部分より薄いことによつて達成される。この部分7における壁厚の減少によつて、柔軟な区域が形成され、他の部分の比較的硬い構造にも拘らず、チユーブ6を押圧し、中央部分を内方に凹ませることが可能となる。」(3ページ右下欄15行?4ページ左上欄4行) (h)「第9図に示すマスクにおいては、好ましくはプラスチツクからなるT型の係止部材が外面に設けられ、即ち中央部分3において、その表面から離れるようにT型の係止部材・・・(中略)・・・が設けられる。屈曲頭部を有するコード14を、フラツプ9′、9″とマスクの中央表面との間に挿入して引き下げ、所望の位置に係することができる。」(4ページ右上欄9?16行) (i)第3図には、中央部分3がドーム状に膨出しているマスクが図示されており、接顔枠1と中央部分3がドーム状の空間であるマスク室を形成する形状に作られている点が図示されている。 (j)第1図乃至第3図には、チユーブ6の外側の周囲に環状の薄い部分7が形成され、その薄い部分7の壁厚は、中央部分3の隣接部分よりも薄く形成され、薄い部分7の周縁は中央部分3の隣接部分に連結している点が図示されている。 (k)第3図には、チユーブ6と薄い部分7と中央部分3とに亘って同じハッチングが連続して施されている断面図が図示されている。 引用例に記載された呼吸用マスクは麻酔用のマスクであること(前記(c)参照)、吹込用のチユーブに空気圧力を加えることにより、マスクがドーム状に膨出すること(前記(e)参照)などからみて、引用例に記載されたチユーブ6は、ガス供給ラインに接続され、接顔枠1と中央部分3とによって形成されるマスク室の内部にガスを供給するためのマスク室との接続部となっていること、及び、マスク室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれることは明らかである。 また、前記(a)及び(k)の記載事項からみて、マスク室の壁を構成する中央部分3にはチユーブ6が一体に形成されていることは明らかである。 さらに、前記(b)及び(h)の記載事項からみて、引用例に記載された呼吸用マスクが、マスクを使用者の人体頭部に保持せしめる保持手段を具えていることは明らかである。 これらの記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には、 「使用者へガスを送り込むのに用いられる呼吸用マスクであって、 マスク室を形成する形状に作られ、該マスク室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした接顔枠1と中央部分3と、 マスク室の壁を構成する中央部分3と一体に形成され、ガスをマスク室の内部へ供給するために、マスク室との接続部となるチユーブ6と、 チユーブ6の外側の周囲に形成され周縁は中央部分3に連結している環状の薄い部分7と、 マスクを使用者の人体頭部に保持せしめる保持手段を具えており、 薄い部分7の壁厚は、中央部分3の隣接部分よりも薄く形成され、チユーブ6にはガス供給ラインが接続され、薄い部分7によつて柔軟な区域が形成されている呼吸用マスク。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 (3)対比 そこで、本願補正発明1と引用発明1とを対比すると、後者における「呼吸用マスク」は、その構造又は機能からみて、前者における「マスク」に相当し、以下同様に、「マスク室」が「チャンバ室」に、「接顔枠1と中央部分3」が「顔面接触部」に、「ガス」が「ガス」又は「加圧ガス」に、「マスク室の壁を構成する中央部分3と一体に形成され」が「チャンバ室の壁と一体に形成され」に、「チユーブ6」が「ガス供給ポート」に、「環状の薄い部分7」が「環状壁部分(20)(35)」に、「マスクを使用者の人体頭部に保持せしめる保持手段」が「マスクを使用者に固定させる手段」に、「壁厚」が「厚さ」に、「中央部分3の隣接部分」が「顔面接触部の隣接部分」に、それぞれ相当する。 また、後者における「薄い部分7」が「チユーブ6の外側の周囲に形成され」ている態様は、前者における「環状壁部分(20)(35)」が「ガス供給ポートを囲んで含」んでいる態様に相当する。 してみると、両者は、本願補正発明1の用語を用いて表現すると、 「使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって、 チャンバ室を形成する形状に作られ、該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部と、 チャンバ室の壁と一体に形成され、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、チャンバ室との接続部となるガス供給ポートと、 ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部に連結している環状壁部分(20)(35)と、 マスクを使用者に固定させる手段を具えており、 環状壁部分(20)(35)の厚さは、顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成されているマスク。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:本願補正発明1においては、環状壁部分(20)(35)の厚さは、顔面接触部と同じオーダであるのに対して、引用発明1においては、環状壁部分(20)(35)(環状の薄い部分7)の厚さ(壁厚)は顔面接触部(接顔枠1と中央部分3)と同じオーダであるか否かが明らかでない点。 相違点2:本願補正発明1においては、ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用によりマスクへ及ぶ動きは、少なくともその一部は、環状壁部分が撓むことによって吸収されるようにしているのに対して、引用発明1においては、その点が明らかでない点。 (4)判断 次に、上記相違点について検討する。 (a)相違点1について 本願補正発明1の「環状壁部分(20)(35)の厚さは顔面接触部と同じオーダ」とは、「環状壁部分(20)(35)の厚さは、端部領域(15)(30)と後部領域(16)(31)を有する顔面接触部の厚さと同単位程度の厚さ」との趣旨であるといえるものである(平成19年(行ケ)第10332号審決取消請求事件判決51ページ4?11行参照)。そこで、「顔面接触部の厚さと同単位程度の厚さ」が具体的にどのような厚さであるかについて以下に検討する。 まず、本願補正発明1の「顔面接触部」とは、「顔面に当接する部分から環状壁部分に隣接し、又はフランジを介して隣接する部分までの部材全体(1つの部材)を指し」、「後部領域は顔面接触部の後部(第1実施例においては略円筒状の部分)、端部領域は顔面接触部の前部(同実施例においては略円錐台状の部分)をそれぞれ指すものと認めるのが相当である」(平成19年(行ケ)第10332号審決取消請求事件判決47ページ8?14行参照)。 そうすると、「顔面接触部の厚さ」とは「後部領域」や「端部領域」の厚さを指すものといえるが、本願補正発明1では顔面接触部の厚さや後部領域や端部領域の厚さなどの具体的な数値や単位は発明特定事項となっていないから、本願の発明の詳細な説明の記載を参酌することにする。 本願の発明の詳細な説明には、「マスクの凸状端部領域の厚さは、0.8mm以下が望ましく、0.2mm以下のオーダが最も望ましい。」(明細書8ページ15?17行参照)、「後部領域(16)は、凸状端部から離間するにつれて厚さを増しており、平均厚さは2.0mmのオーダである。」(明細書8ページ17?19行参照)、「凸状端部領域(30)の厚さは0.2?0.8mmの範囲であり、後部領域(31)の平均厚さは1.5?3.5mmのオーダである。」(明細書10ページ18?20行参照)と記載されており、これらの記載を総合すると顔面接触部の厚さは約0.2mm?3.5mm程度であるということができる。そして、顔面接触部の一番厚い部分は一番薄い部分の数十倍程度となっているから、顔面接触部と同単位程度の厚さには、一番薄い部分を基準とすると少なくとも数十倍程度の厚さまでは含まれるということができる。 一方、引用例の第3図の記載を参酌すると、顔面接触部(接顔枠1と中央部分3)の厚さは環状壁部分(環状の薄い部分7)の厚さの数十倍程度以内の厚さ、すなわち同じオーダとなっているものと思われるが、引用例の第3図の記載を参酌しても環状壁部分(環状の薄い部分7)の厚さが顔面接触部(接顔枠1と中央部分3)と同じオーダであるといえないとしても、そもそも、本願補正発明1において、ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用によりマスクへ及ぶ動きの少なくともその一部を吸収するのは、環状壁部分の厚さを顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成し、環状壁部分が撓むことによるものであり、環状壁部分と顔面接触部とが同じオーダであるか否かは、本願補正発明1の作用効果とは関係のない事項であるから、何れにしても環状壁部分の厚さを顔面接触部と同じオーダとするか否かは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないことである。 したがって、上記相違点1に係る本願補正発明1の発明特定事項とすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。 (b)相違点2について 引用発明1においても、マスクの使用時にはガス供給ポート(チユーブ6)にガス供給ラインが接続されているから、ガス供給ラインが動いたときにガス供給ラインからの作用により顔面接触部(接顔枠1と中央部分3)へその動きが及ぶ可能性があるが、引用発明1においても、環状壁部分(薄い部分7)は顔面接触部の隣接部分(中央部分3の隣接部分)よりも薄く形成され、環状壁部分(薄い部分7)によつて柔軟な区域が形成されているのであるから、ガス供給ポート(チユーブ6)に何らかの力が作用すれば、その力の作用方向を問わず、柔軟な区域である環状壁部分(薄い部分7)が多少とも撓むことにより顔面接触部(接顔枠1と中央部分3)へ及ぶ動きの少なくとも一部はその環状壁部分(薄い部分7)で吸収されることは明らかである。したがって、相違点2は実質的には相違点とはいえない。 そして、本願補正発明1の効果も、引用発明1から当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない。 したがって、本願補正発明1は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)むすび 以上のとおり、本件第1補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.平成16年12月15日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成16年12月15日付けの手続補正(以下、「本件第2補正」という。)を却下する。 なお、本件第1補正は上記「2.」に記載したとおり却下されたので、本件第2補正の適否は、本件第1補正前の明細書及び図面を基準に判断することになる(平成17年(行ケ)第10698号判決、平成18年9月26日言渡参照)。 [理由1] 本件第2補正により、特許請求の範囲の記載が補正前には、 「1. 使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって、 チャンバ室を形成する形状に作られ、該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部と、 チャンバ室の壁と一体に形成され、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、チャンバ室との接続部となるガス供給ポートと、 マスクを使用者に固定させる手段を具えており、 壁のガス供給ポートを含む部分の厚さが、当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域の厚さよりも薄く形成され、それによって大きな可撓性を有するように作られており、接続されたガス供給ラインからの作用によるマスクのいかなる動きも、少なくともその一部は、ガス供給ポートを含む壁部分が撓むことによって吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。 2. 壁のガス供給ポートを含む部分は、その部分を所定幅の環状部(35)が取り囲んでおり、該環状部の壁の厚さは、その隣接部分よりも薄い厚さである請求項1に記載のマスク。 3. マスクを使用者に固定させる手段は、チャンバ室を取り囲む壁と一体に形成された固定手段を具えており、該固定手段は、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される請求項1又は2の何れかに記載のマスク。 4. 固定手段は、径方向に突出する可撓性突片を具えており、該突片は、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される請求項3に記載のマスク。 5. マスクが着用者に装着されたとき、突片が着用者の顔に接触して屈曲できるような厚さに形成され配置されている請求項4に記載のマスク。 6. 使用者へガスを送り込むのに使用されるマスクであって、弾性材料からなり、チャンバ室を形成する形状に作られた顔面接触部を具え、該チャンバ室は、凸状端部領域を有し、該領域は、マスクの使用時、使用者の顔面に押しつけられて顔面の輪郭に倣うようになっており、端部領域には孔が開設され、該孔を通じてガスが使用者の気道へ送られるようになっており、チャンバ室の壁と一体に形成されたガス供給ポートを具えており、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、前記ポートはチャンバ室との接続部となっており、マスクを使用者に固定させる手段を具え、該手段によって、チャンバ室の端部領域が使用者の顔面の一部分を覆い、チャンバ室へ送り込まれたガスの作用を受けて被覆領域の輪郭を3次元的に密封できるようにしており、マスクの特徴とするところは、壁のガス供給ポートを含む部分の厚さが、当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域よりも薄く形成され、それによって大きな可撓性を有するように作られており、ガス供給ラインからの作用によるマスクのいかなる動きも、ガス供給ポートを含む壁部が撓むことによって、その動きの少なくとも一部が吸収されるようにしていることにあるマスク。 7. 壁のガス供給ポートを含む部分は、その部分を取り囲む所定幅の環状部(35)が形成されており、該環状部には、マスクの隣接部分よりも薄い肉厚の壁部が形成されている請求項6に記載のマスク。 8. ガス供給ポートは、チャンバ室の凸状端部領域に向かってガスが送られるように配置される請求項6又は7の何れかに記載のマスク。 9. マスクは、前部がチャンバ室の凸状端部領域を有し、後部がガス供給ポートを含む壁部を有しており、後部の壁の平均厚さは、前部の壁の平均厚さよりも大きい請求項6乃至8の何れかに記載のマスク。 10. 後部の壁の厚さは、前部から離れるにつれて大きくなっている請求項9に記載のマスク。 11. マスクを使用者に固定させる手段は、チャンバ室を取り囲む壁と一体に形成された固定手段を具えており、該固定手段は、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される請求項6乃至10の何れかに記載のマスク。 12. 固定手段は、径方向に突出する可撓性突片を具えており、該突片は、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される請求項11に記載のマスク。 13. 固定手段は、マスクの前部と後部の境界部に隣接する周縁部から径方向外向きに突出するように配置される請求項11又は12の何れかに記載のマスク。 14. マスクが着用者に装着されたとき、突片は、着用者の顔面に接触して屈曲できるような厚さに形成されている請求項13に記載のマスク。 15. チャンバ室は、断面が略円形である請求項1乃至14の何れかに記載のマスク。 16. チャンバ室は、断面が略楕円形である請求項1乃至14の何れかに記載のマスク。」 であったものが、補正後には 「【請求項1】 使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって、 チャンバ室を形成する形状に作られ、該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部(13)(28)と、 チャンバ室の壁と一体に形成され、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、チャンバ室との接続部となるガス供給ポート(21)(27)と、 ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部の近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)と、 マスクを使用者に固定させる手段を具えており、 環状壁部分(20)(35)の厚さは、顔面接触部の近傍領域よりも薄く形成され、顔面接触部の近傍領域は、環状壁部分を取り囲み且つ顔面接触部及び環状壁部分よりも大きな厚さであって、 ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用により顔面接触部へ及ぶ動きは、少なくともその一部は、環状壁部分が撓むことにより吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。 【請求項2】 使用者へガスを送り込むのに使用されるマスクであって、弾性材料からなり、チャンバ室を形成する形状に作られた顔面接触部を具え、該チャンバ室は、凸状端部領域を有し、該領域は、マスクの使用時、使用者の顔面に押しつけられて顔面の輪郭に倣うようになっており、端部領域には孔が開設され、該孔を通じてガスが使用者の気道へ送られるようになっており、チャンバ室の壁と一体に形成されたガス供給ポートを具えており、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、前記ポートはチャンバ室との接続部となっており、ガス供給ポートを囲んで含み周縁はチャンバ室の壁に連結している環状壁部分(20)(35)と、マスクを使用者に固定させる手段を具え、該手段によって、チャンバ室の端部領域が使用者の顔面の一部分を覆い、チャンバ室へ送り込まれたガスの作用を受けて被覆領域の輪郭を3次元的に密封できるようにしており、マスクの特徴とするところは、 環状壁部分(20)(35)の厚さは、顔面接触部と同じオーダで且つ顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され、顔面接触部の近傍領域は、環状壁部分を取り囲み且つ顔面接触部及び環状壁部分よりも大きな厚さであって、それによってガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用により顔面接触部へ及ぶ動きは、少なくともその一部は、環状壁部分が撓むことによって吸収されるようにしていることにあるマスク。 【請求項3】 マスクを使用者に固定させる手段は、半径方向に突出した可撓性リムを具えており、該リムは、チャンバ室を取り囲む壁と一体に形成され、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される請求項1又は2の何れかに記載のマスク。 【請求項4】 マスクが着用者に装着されたとき、突片が着用者の顔に接触して屈曲できるような厚さに形成され配置されている請求項3に記載のマスク。 【請求項5】 ガス供給ポートは、チャンバ室の凸状端部領域に向かってガスが送られるように配置される請求項2に記載のマスク。 【請求項6】 マスクは、前部がチャンバ室の凸状端部領域を有し、後部がガス供給ポートを含む壁部を有しており、後部の壁の平均厚さは、前部の壁の平均厚さよりも大きい請求項5に記載のマスク。 【請求項7】 後部の壁の厚さは、前部から離れるにつれて大きくなっている請求項6に記載のマスク。 【請求項8】固定手段は、マスクの前部と後部の境界部に隣接する周縁部から径方向外向きに突出するように配置される請求項6又は7の何れかに記載のマスク。 【請求項9】 チャンバ室は、断面が略円形又は略卵形である請求項1乃至8の何れかに記載のマスク。」 と補正された。 本件第2補正により補正された請求項8は、補正前の請求項13に対応しているものと考えられるが、補正前の請求項13は補正前の請求項11又は12を引用しているから、補正前の請求項13は少なくとも補正前の請求項11に記載されている「マスクを使用者に固定させる手段は、チャンバ室を取り囲む壁と一体に形成された固定手段を具えており、該固定手段は、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される」という発明特定事項を備えていることになる。しかし、本件第2補正により補正された請求項8、請求項8が引用する請求項6又は7、請求項6が引用する請求項5及び請求項5が引用する請求項2の何れにも上記発明特定事項が記載されていない。そうすると、補正後の請求項8が補正前の請求項13に対応しているとすると、上記補正前の請求項11に記載されていた発明特定事項が削除されたことになり、このような補正前に記載されていた発明特定事項を削除する補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、あるいは明りょうでない記載の釈明の何れを目的としたものにも該当しないことは明らかである。また、補正後の請求項8が補正前の請求項13に対応していないとすると、補正前の他の請求項には、補正後の請求項8に記載されている発明特定事項を備えた請求項が見当たらないし、補正後の請求項8に記載されている発明特定事項が補正前の他の請求項の何れかを減縮したものともいえないから、補正後の請求項8は補正前の各請求項と対応していない請求項を追加したことになり、このような補正前の請求項と対応していない新たな請求項を追加する補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、あるいは明りょうでない記載の釈明の何れを目的としたものにも該当しないことは明らかである。 したがって、何れにしても本件第2補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 [理由2] 本件第2補正は上記[理由1]により却下すべきものであるが、本件第2補正では、請求項1についても補正がされているので、請求項1の補正についても以下に検討しておくこととする。 (1)補正後の本願発明 本件第2補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって、 チャンバ室を形成する形状に作られ、該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部(13)(28)と、 チャンバ室の壁と一体に形成され、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、チャンバ室との接続部となるガス供給ポート(21)(27)と、 ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部の近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)と、 マスクを使用者に固定させる手段を具えており、 環状壁部分(20)(35)の厚さは、顔面接触部の近傍領域よりも薄く形成され、顔面接触部の近傍領域は、環状壁部分を取り囲み且つ顔面接触部及び環状壁部分よりも大きな厚さであって、 ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用により顔面接触部へ及ぶ動きは、少なくともその一部は、環状壁部分が撓むことにより吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。」 と補正された。(下線は補正箇所を示す。) しかしながら、本願の発明の詳細な説明には、「顔面接触部」の「端部領域」や「後部領域」は記載されているが、「顔面接触部の近傍領域」は記載されておらず「顔面接触部の近傍領域」がどのような領域を意味するのかが明確でない。 すなわち、「顔面接触部」とは、「顔面に当接する部分から環状壁部分に隣接し、又はフランジを介して隣接する部分までの部材全体(1つの部材)を指し」、「後部領域は顔面接触部の後部(第1実施例においては略円筒状の部分)、端部領域は顔面接触部の前部(同実施例においては略円錐台状の部分)をそれぞれ指すものと認めるのが相当である」(平成19年(行ケ)第10332号審決取消請求事件判決47ページ8?14行参照)から、「端部領域」や「後部領域」は「顔面接触部」自体の一部の領域を指すものといえるが、「近傍領域」の「近傍」には、「近所。近辺。」(広辞苑第五版)の意味があり、顔面接触部の近所又は近辺という場合には顔面接触部自体を含まないと考えるのが自然であるから、「顔面接触部の近傍領域」には、「顔面接触部」自体は含まれず、例えば、本願の図5に図示された「フランジ17」や「リム22」のような「顔面接触部」以外の領域を意味するものとも考えられる。 しかし、本件第2補正では「顔面接触部(13)(28)」「ガス供給ポート(21)(27)」「環状壁部分(20)(35)」のように「フランジ17」や「リム22」を有しない本願の図10の図番(28)(27)(35)も記載されていることを考慮すると、本件第2補正により補正された請求項1には、本願の図10に図示された態様のものも含まれると考えられる。そうすると、「顔面接触部の近傍領域」が、本願の図5に図示された「フランジ17」や「リム22」を意味するとは考えにくい。 また、「顔面接触部の近傍領域」が「顔面接触部」自体の一部の「領域」を意味するとしても、「顔面接触部」のどの領域であるのかが明確でないし、本件第2補正では、「顔面接触部の近傍領域」は「顔面接触部」「よりも大きな厚さ」であるとする補正もされているから、「顔面接触部」自体の一部の「領域」が「顔面接触部」よりも大きな厚さであるとはどのようなことを意味するのかが明確でない。 したがって、何れにしてもこのような明確でない補正を含む本件第2補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明の何れを目的とするものにも該当しないことは明らかである。 よって、本件第2補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反してなされたものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 [理由3] 本件第2補正は上記[理由1]又は[理由2]により却下すべきものであるが、本件第2補正後の請求項1に記載された「顔面接触部の近傍領域」が特許請求の範囲の減縮を目的としている可能性も考えられるので、仮に本件第2補正後の請求項1に記載された「顔面接触部の近傍領域」が特許請求の範囲の減縮を目的としているとして以下に検討する。 (1)補正後の本願発明 本件第2補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって、 チャンバ室を形成する形状に作られ、該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部(13)(28)と、 チャンバ室の壁と一体に形成され、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、チャンバ室との接続部となるガス供給ポート(21)(27)と、 ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部の近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)と、 マスクを使用者に固定させる手段を具えており、 環状壁部分(20)(35)の厚さは、顔面接触部の近傍領域よりも薄く形成され、顔面接触部の近傍領域は、環状壁部分を取り囲み且つ顔面接触部及び環状壁部分よりも大きな厚さであって、 ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用により顔面接触部へ及ぶ動きは、少なくともその一部は、環状壁部分が撓むことにより吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。」 と補正された。(下線は補正箇所を示す。) 上記補正は、本件第2補正前の請求項1(平成16年3月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1)に記載した発明を特定するために必要と認める事項である「壁のガス供給ポートを含む部分」について「ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部の近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)」と限定し、補正前の「当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域」を「顔面接触部の近傍領域」と限定するとともに「顔面接触部の近傍領域は、環状壁部分を取り囲み且つ顔面接触部及び環状壁部分よりも大きな厚さであって」との限定を付加し、また、「ガス供給ライン」の接続相手を「ガス供給ポート」と限定し、さらに、「マスクのいかなる動き」を「顔面接触部へ及ぶ動き」に限定したものであって、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 なお、本件第2補正においては、本件第1補正前の請求項1に記載されていた「それによって大きな可撓性を有するように作られており」という発明特定事項が削除されているが、これは「環状壁部分(20)(35)の厚さは、顔面接触部の近傍領域よりも薄く形成され、」「環状壁部分が撓む」と記載することによって言い換えたものと認められる。仮に、言い換えたものでないとすると、本件第2補正は、上記発明特定事項が削除されたことになるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえないことになり、しかも、上記削除する補正が、請求項の削除、誤記の訂正、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかであるから、本件第2補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反してなされたものということになる。 そこで、上記のとおり、本件第2補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件第2補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明2」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について以下に検討する。 しかし、本件第2補正後の請求項1に記載された「顔面接触部の近傍領域」については、上記[理由2]で述べたように、どのような領域を意味するのかが明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができないということになる。 なお、本件第2補正における「顔面接触部の近傍領域」が、補正の経緯も考慮すると、本件第1補正の「顔面接触部の隣接部分」と同じ意味である可能性も考えられるので、仮に「顔面接触部の近接領域」が本件第1補正の「顔面接触部の隣接部分」と同じ意味であるとして以下に検討する。また、「顔面接触部の近接領域」が本件第1補正の「顔面接触部の隣接部分」と同じ意味であるとしても、上記[理由2]で述べたように「顔面接触部」自体の一部の領域である「隣接部分」が「顔面接触部」よりも大きな厚さであるとはどのようなことを意味するのかが明確でないが、本願の図5、図10を参酌すると、顔面接触部全体の平均の厚さと顔面接触部の隣接部分の厚さを比較した場合には、顔面接触部の隣接部分の厚さは顔面接触部全体の平均の厚さよりも厚いといえるから、仮に、本件第2補正の「顔面接触部の近傍領域は顔面接触部よりも大きな厚さである」とは、顔面接触部の隣接部分の厚さは顔面接触部全体の平均の厚さよりも厚いことを意味するとして検討する。 (2)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項等は、前記「2.[理由2](2)」に記載したとおりであり、該記載事項等を総合すると、引用例には、 「使用者へガスを送り込むのに用いられる呼吸用マスクであって、 マスク室を形成する形状に作られ、該マスク室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした接顔枠1と中央部分3と、 マスク室の壁を構成する中央部分3と一体に形成され、ガスをマスク室の内部へ供給するために、マスク室との接続部となるチユーブ6と、 チユーブ6の外側の周囲に形成され周縁は中央部分3の隣接部分に連結している環状の薄い部分7と、 マスクを使用者の人体頭部に保持せしめる保持手段を具えており、 薄い部分7の壁厚は、中央部分3の隣接部分よりも薄く形成され、中央部分3の隣接部分は、薄い部分7を取り囲み且つ薄い部分7よりも大きな壁厚であり、チユーブ6にはガス供給ラインが接続され、薄い部分7によつて柔軟な区域が形成されている呼吸用マスク。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 (3)対比 そこで、本願補正発明2と引用発明2とを対比すると、後者における「呼吸用マスク」は、その構造又は機能からみて、前者における「マスク」に相当し、以下同様に、「マスク室」が「チャンバ室」に、「接顔枠1と中央部分3」が「顔面接触部(13)(28)」に、「ガス」が「ガス」又は「加圧ガス」に、「マスク室の壁を構成する中央部分3と一体に形成され」が「チャンバ室の壁と一体に形成され」に、「チユーブ6」が「ガス供給ポート(21)(27)」に、「中央部分3の隣接部分」が「顔面接触部の近傍領域」に、「連結している」が「つながっている」に、「環状の薄い部分7」が「環状壁部分(20)(35)」に、「マスクを使用者の人体頭部に保持せしめる保持手段」が「マスクを使用者に固定させる手段」に、「壁厚」が「厚さ」に、それぞれ相当する。 また、後者における「薄い部分7」が「チユーブ6の外側の周囲に形成され」ている態様は、前者における「環状壁部分(20)(35)」が「ガス供給ポートを囲んで含」んでいる態様に相当する。 してみると、両者は、本願補正発明2の用語を用いて表現すると、 「使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって、 チャンバ室を形成する形状に作られ、該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部(13)(28)と、 チャンバ室の壁と一体に形成され、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、チャンバ室との接続部となるガス供給ポート(21)(27)と、 ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部の近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)と、 マスクを使用者に固定させる手段を具えており、 環状壁部分(20)(35)の厚さは、顔面接触部の近傍領域よりも薄く形成され、顔面接触部の近傍領域は、環状壁部分を取り囲み且つ環状壁部分よりも大きな厚さであるマスク。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:本願補正発明2においては、顔面接触部の近傍領域は顔面接触部よりも大きな厚さであるのに対して、引用発明2においては、顔面接触部の近傍領域(中央部分3の隣接部分)は顔面接触部(接顔枠1と中央部分3)よりも大きな厚さといえるか否かが明らかでない点。 相違点2:本願補正発明2においては、ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用により顔面接触部へ及ぶ動きは、少なくともその一部は、環状壁部分が撓むことにより吸収されるのに対して、引用発明2においては、その点が明らかでない点。 (4)判断 次に、上記相違点について検討する。 (a)相違点1について 引用例の第3図の記載を参酌すると、顔面接触部の近傍領域(中央部分3の隣接部分)の厚さ(壁厚)は、顔面接触部(接顔枠1と中央部分3)の全体の平均の壁厚よりも大きな厚さとなっているものと思われるが、引用例の第3図の記載を参酌しても、顔面接触部の近傍領域(中央部分3の隣接部分)の厚さ(壁厚)は、顔面接触部(接顔枠1と中央部分3)の全体の平均の壁厚よりも大きな厚さとなっているといえないとしても、そもそも、本願補正発明2において、ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用によりマスクへ及ぶ動きの少なくともその一部を吸収するのは、環状壁部分の厚さを顔面接触部の近傍領域よりも薄く形成し、環状壁部分が撓むことによるものであり、顔面接触部の近傍領域が顔面接触部よりも大きな厚さであるか否かは、本願補正発明2の作用効果とは関係のない事項であるから、何れにしても顔面接触部の近傍領域を顔面接触部よりも大きな厚さとするか否かは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないことである。 したがって、上記相違点1に係る本願補正発明2の発明特定事項とすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。 (b)相違点2について 引用発明2においても、マスクの使用時にはガス供給ポート(チユーブ6)にガス供給ラインが接続されているから、ガス供給ラインが動いたときにガス供給ラインからの作用により顔面接触部(接顔枠1と中央部分3)へその動きが及ぶ可能性があるが、引用発明2においても、環状壁部分(薄い部分7)は顔面接触部の近傍領域(中央部分3の隣接部分)よりも薄く形成され、環状壁部分(薄い部分7)によつて柔軟な区域が形成されているのであるから、ガス供給ポート(チユーブ6)に何らかの力が作用すれば、その力の作用方向を問わず、柔軟な区域である環状壁部分(薄い部分7)が多少とも撓むことにより顔面接触部(接顔枠1と中央部分3)へ及ぶ動きの少なくとも一部はその環状壁部分(薄い部分7)で吸収されることは明らかである。したがって、相違点2は実質的には相違点とはいえない。 そして、本願補正発明2の効果も、引用発明2から当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない。 したがって、本願補正発明2は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)むすび 以上のとおり、本件第2補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 4.平成16年12月22日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成16年12月22日付けの手続補正(以下、「本件第3補正」という。)を却下する。 なお、本件第1補正は上記「2.」に記載したとおり、本件第2補正は上記「3.」に記載したとおり、それぞれ却下されたので、本件第3補正の適否は、本件第1補正前の明細書及び図面を基準に判断することになる(平成17年(行ケ)第10698号判決、平成18年9月26日言渡参照)。 [理由1] 本件第3補正により、特許請求の範囲の記載が補正前には、 「1. 使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって、 チャンバ室を形成する形状に作られ、該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部と、 チャンバ室の壁と一体に形成され、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、チャンバ室との接続部となるガス供給ポートと、 マスクを使用者に固定させる手段を具えており、 壁のガス供給ポートを含む部分の厚さが、当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域の厚さよりも薄く形成され、それによって大きな可撓性を有するように作られており、接続されたガス供給ラインからの作用によるマスクのいかなる動きも、少なくともその一部は、ガス供給ポートを含む壁部分が撓むことによって吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。 2. 壁のガス供給ポートを含む部分は、その部分を所定幅の環状部(35)が取り囲んでおり、該環状部の壁の厚さは、その隣接部分よりも薄い厚さである請求項1に記載のマスク。 3. マスクを使用者に固定させる手段は、チャンバ室を取り囲む壁と一体に形成された固定手段を具えており、該固定手段は、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される請求項1又は2の何れかに記載のマスク。 4. 固定手段は、径方向に突出する可撓性突片を具えており、該突片は、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される請求項3に記載のマスク。 5. マスクが着用者に装着されたとき、突片が着用者の顔に接触して屈曲できるような厚さに形成され配置されている請求項4に記載のマスク。 6. 使用者へガスを送り込むのに使用されるマスクであって、弾性材料からなり、チャンバ室を形成する形状に作られた顔面接触部を具え、該チャンバ室は、凸状端部領域を有し、該領域は、マスクの使用時、使用者の顔面に押しつけられて顔面の輪郭に倣うようになっており、端部領域には孔が開設され、該孔を通じてガスが使用者の気道へ送られるようになっており、チャンバ室の壁と一体に形成されたガス供給ポートを具えており、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、前記ポートはチャンバ室との接続部となっており、マスクを使用者に固定させる手段を具え、該手段によって、チャンバ室の端部領域が使用者の顔面の一部分を覆い、チャンバ室へ送り込まれたガスの作用を受けて被覆領域の輪郭を3次元的に密封できるようにしており、マスクの特徴とするところは、壁のガス供給ポートを含む部分の厚さが、当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域よりも薄く形成され、それによって大きな可撓性を有するように作られており、ガス供給ラインからの作用によるマスクのいかなる動きも、ガス供給ポートを含む壁部が撓むことによって、その動きの少なくとも一部が吸収されるようにしていることにあるマスク。 7. 壁のガス供給ポートを含む部分は、その部分を取り囲む所定幅の環状部(35)が形成されており、該環状部には、マスクの隣接部分よりも薄い肉厚の壁部が形成されている請求項6に記載のマスク。 8. ガス供給ポートは、チャンバ室の凸状端部領域に向かってガスが送られるように配置される請求項6又は7の何れかに記載のマスク。 9. マスクは、前部がチャンバ室の凸状端部領域を有し、後部がガス供給ポートを含む壁部を有しており、後部の壁の平均厚さは、前部の壁の平均厚さよりも大きい請求項6乃至8の何れかに記載のマスク。 10. 後部の壁の厚さは、前部から離れるにつれて大きくなっている請求項9に記載のマスク。 11. マスクを使用者に固定させる手段は、チャンバ室を取り囲む壁と一体に形成された固定手段を具えており、該固定手段は、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される請求項6乃至10の何れかに記載のマスク。 12. 固定手段は、径方向に突出する可撓性突片を具えており、該突片は、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される請求項11に記載のマスク。 13. 固定手段は、マスクの前部と後部の境界部に隣接する周縁部から径方向外向きに突出するように配置される請求項11又は12の何れかに記載のマスク。 14. マスクが着用者に装着されたとき、突片は、着用者の顔面に接触して屈曲できるような厚さに形成されている請求項13に記載のマスク。 15. チャンバ室は、断面が略円形である請求項1乃至14の何れかに記載のマスク。 16. チャンバ室は、断面が略楕円形である請求項1乃至14の何れかに記載のマスク。」 であったものが、補正後には 「【請求項1】 使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって、 チャンバ室を形成する形状に作られ、該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部(13)(28)と、 チャンバ室の壁と一体に形成され、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、チャンバ室との接続部となるガス供給ポート(21)(27)と、 ガス供給ポートを囲んで含み周縁はチャンバ室近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)と、 マスクを使用者に固定させる手段を具えており、 環状壁部分(20)(35)の厚さは、チャンバ室近傍領域よりも薄く形成され、チャンバ室近傍領域は、環状壁部分を取り囲み、略均一厚さであって、 ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用により顔面接触部へ及ぶ動きは、少なくともその一部は、環状壁部分が撓むことにより吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。 【請求項2】 使用者へガスを送り込むのに使用されるマスクであって、弾性材料からなり、チャンバ室を形成する形状に作られた顔面接触部を具え、該チャンバ室は、凸状端部領域を有し、該領域は、マスクの使用時、使用者の顔面に押しつけられて顔面の輪郭に倣うようになっており、端部領域には孔が開設され、該孔を通じてガスが使用者の気道へ送られるようになっており、チャンバ室の壁と一体に形成されたガス供給ポートを具えており、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、前記ポートはチャンバ室との接続部となっており、ガス供給ポートを囲んで含み周縁はチャンバ室の壁に連結している環状壁部分(20)(35)と、マスクを使用者に固定させる手段を具え、該手段によって、チャンバ室の端部領域が使用者の顔面の一部分を覆い、チャンバ室へ送り込まれたガスの作用を受けて被覆領域の輪郭を3次元的に密封できるようにしており、マスクの特徴とするところは、 環状壁部分(20)(35)の厚さは、顔面接触部と同じオーダで且つ顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され、チャンバ室近傍領域は、環状壁部分を取り囲み、略均一厚さであって、それによってガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用により顔面接触部へ及ぶ動きは、少なくともその一部は、環状壁部分が撓むことによって吸収されるようにしていることにあるマスク。 【請求項3】 マスクを使用者に固定させる手段は、半径方向に突出した可撓性リムを具えており、該リムは、チャンバ室を取り囲む壁と一体に形成され、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される請求項1又は2の何れかに記載のマスク。 【請求項4】 マスクが着用者に装着されたとき、突片が着用者の顔に接触して屈曲できるような厚さに形成され配置されている請求項3に記載のマスク。 【請求項5】 ガス供給ポートは、チャンバ室の凸状端部領域に向かってガスが送られるように配置される請求項2に記載のマスク。 【請求項6】 マスクは、前部がチャンバ室の凸状端部領域を有し、後部がガス供給ポートを含む壁部を有しており、後部の壁の平均厚さは、前部の壁の平均厚さよりも大きい請求項5に記載のマスク。 【請求項7】 後部の壁の厚さは、前部から離れるにつれて大きくなっている請求項6に記載のマスク。 【請求項8】固定手段は、マスクの前部と後部の境界部に隣接する周縁部から径方向外向きに突出するように配置される請求項6又は7の何れかに記載のマスク。 【請求項9】 チャンバ室は、断面が略円形又は略卵形である請求項1乃至8の何れかに記載のマスク。」 と補正された。 本件第3補正により補正された請求項8は、補正前の請求項13に対応しているものと考えられるが、補正前の請求項13は補正前の請求項11又は12を引用しているから、補正前の請求項13は少なくとも補正前の請求項11に記載されている「マスクを使用者に固定させる手段は、チャンバ室を取り囲む壁と一体に形成された固定手段を具えており、該固定手段は、マスクの使用時、マスクを着用者に固定するのに用いられるハーネスと接続するために配置される」という発明特定事項を備えていることになる。しかし、本件第3補正により補正された請求項8、請求項8が引用する請求項6又は7、請求項6が引用する請求項5及び請求項5が引用する請求項2の何れにも上記発明特定事項が記載されていない。そうすると、補正後の請求項8が補正前の請求項13に対応しているとすると、上記補正前の請求項11に記載されていた発明特定事項が削除されたことになり、このような補正前に記載されていた発明特定事項を削除する補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、あるいは明りょうでない記載の釈明の何れを目的としたものにも該当しないことは明らかである。また、補正後の請求項8が補正前の請求項13に対応していないとすると、補正前の他の請求項には、補正後の請求項8に記載されている発明特定事項を備えた請求項が見当たらないし、補正後の請求項8に記載されている発明特定事項が補正前の他の請求項の何れかを減縮したものともいえないから、補正後の請求項8は補正前の各請求項と対応していない請求項を追加したことになり、このような補正前の請求項と対応していない新たな請求項を追加する補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、あるいは明りょうでない記載の釈明の何れを目的としたものにも該当しないことは明らかである。 したがって、何れにしても本件第3補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 [理由2] 本件第3補正は上述したように[理由1]により却下すべきものであるが、本件第3補正では、請求項1についても補正がされているので、請求項1の補正についても以下に検討しておくこととする。 (1)補正後の本願発明 本件第3補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって、 チャンバ室を形成する形状に作られ、該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部(13)(28)と、 チャンバ室の壁と一体に形成され、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、チャンバ室との接続部となるガス供給ポート(21)(27)と、 ガス供給ポートを囲んで含み周縁はチャンバ室近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)と、 マスクを使用者に固定させる手段を具えており、 環状壁部分(20)(35)の厚さは、チャンバ室近傍領域よりも薄く形成され、チャンバ室近傍領域は、環状壁部分を取り囲み、略均一厚さであって、 ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用により顔面接触部へ及ぶ動きは、少なくともその一部は、環状壁部分が撓むことにより吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。」 と補正された。(下線は補正箇所を示す。) しかしながら、本願の発明の詳細な説明には、「チャンバ室近傍領域」は、記載されておらず、「チャンバ室近傍領域」がどのような領域を意味するのかが明確でない。 すなわち、「近傍領域」の「近傍」には、「近所。近辺。」(広辞苑第五版)の意味があり、チャンバ室の近所又は近辺という場合にはチャンバ室自体を含まないと考えるのが自然である。そうすると、チャンバ室以外の場所であるチャンバ室近傍領域とは、どこを指すのかが明確でない。 また、仮に「チャンバ室近傍領域」がチャンバ室自体の一部の領域を意味するとしても、「チャンバ室」のどの領域であるのかが明確でない。 したがって、何れにしてもこのような明確でない補正を含む本件第3補正は、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。 よって、本件第3補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反してなされたものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 なお、仮に本件第3補正後の請求項1に記載された「チャンバ室近傍領域」が特許請求の範囲の減縮を目的としているとしても、上述したように、「チャンバ室近傍領域」がどのような領域を意味するのかが明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができないということになる。 [理由3] 本件第3補正は、上記[理由1]又は[理由2]により却下すべきものであるが、本件第3補正によって補正された「チャンバ室近傍領域」は、補正の経緯も考慮すると、本件第1補正の「顔面接触部の隣接部分」と同じ意味である可能性も考えられる。しかし、「チャンバ室近傍領域」が本件第1補正の「顔面接触部の隣接部分」と同じ意味であると解するとしても、「顔面接触部の隣接部分」を「略均一厚さ」とすることについては、出願当初の明細書又は図面の何れにも記載されておらず、また、その記載から自明な事項ともいえないから、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しているといえ、本件第3補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえない(当初明細書には、「顔面接触部の隣接部分」を含む「後部領域」については、「壁の厚さが相対的に厚い後部領域(16)は、凸状端部から離間するにつれて厚さを増しており」(明細書8ページ17?18行)、「後部領域(31)の壁の厚さは、凸状端部領域(30)の方に向かって大きくなっている。」(明細書10ページ17?18行)などと記載され、図5及び図10の断面図においても、後部領域(16)(31)は端部領域(15)(30)に向かって薄くなっており、むしろ「略均一厚さ」とはいえないものが図示されている。)。 したがって、仮に、本件第3補正によって補正された「チャンバ室近傍領域」が「顔面接触部の隣接部分」と同じ意味であると解するとしても、本件第3補正は、新規事項を追加するものであり、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 [理由4] 本件第3補正は、上記[理由1]、[理由2]又は[理由3]により却下すべきものであるが、仮に、本件第3補正によって補正された「チャンバ室近傍領域」が「顔面接触部の隣接部分」と同じ意味であり、本件第3補正によって補正された「略均一厚さ」とすることが、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、且つ、本件第3補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるものとして以下に検討しておく。 (1)補正後の本願発明 本件第3補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって、 チャンバ室を形成する形状に作られ、該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部(13)(28)と、 チャンバ室の壁と一体に形成され、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、チャンバ室との接続部となるガス供給ポート(21)(27)と、 ガス供給ポートを囲んで含み周縁はチャンバ室近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)と、 マスクを使用者に固定させる手段を具えており、 環状壁部分(20)(35)の厚さは、チャンバ室近傍領域よりも薄く形成され、チャンバ室近傍領域は、環状壁部分を取り囲み、略均一厚さであって、 ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用により顔面接触部へ及ぶ動きは、少なくともその一部は、環状壁部分が撓むことにより吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。」 と補正された。(下線は補正箇所を示す。) 上記補正は、本件第3補正前の請求項1(平成16年3月23日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1)に記載した発明を特定するために必要と認める事項である「壁のガス供給ポートを含む部分」について「ガス供給ポートを囲んで含み周縁はチャンバ室近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)」と限定し、補正前の「当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域」を「チャンバ室近傍領域」と限定するとともに「チャンバ室近傍領域は、環状壁部分を取り囲み、略均一厚さであって」との限定を付加し、また、「ガス供給ライン」の接続相手を「ガス供給ポート」と限定し、さらに、「マスクのいかなる動き」を「顔面接触部へ及ぶ動き」に限定したものであって、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 なお、本件第3補正においては、本件第3補正前の請求項1に記載されていた「それによって大きな可撓性を有するように作られており」という発明特定事項が削除されているが、これは「環状壁部分(20)(35)の厚さは、チャンバ室近傍領域よりも薄く形成され、」「環状壁部分が撓む」と記載することによって言い換えたものと認められる。仮に、言い換えたものでないとすると、本件第3補正は、上記発明特定事項が削除されたことになるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえないことになり、しかも、上記削除する補正が、請求項の削除、誤記の訂正、拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかであるから、本件第3補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反してなされたものということになる。 そこで、上記のとおり、本件第3補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件第3補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明3」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか)について以下に検討する。 (2)引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項等は、前記「2.[理由2](2)」に記載したとおりであり、引用例には前記「3.[理由3](2)」に記載したとおり引用発明2が記載されていると認められる。 (3)対比 そこで、本願補正発明3と引用発明2とを対比すると、後者における「呼吸用マスク」は、その構造又は機能からみて、前者における「マスク」に相当し、以下同様に、「マスク室」が「チャンバ室」に、「接顔枠1と中央部分3」が「顔面接触部(13)(28)」に、「ガス」が「ガス」又は「加圧ガス」に、「マスク室の壁を構成する中央部分3と一体に形成され」が「チャンバ室の壁と一体に形成され」に、「チユーブ6」が「ガス供給ポート(21)(27)」に、「中央部分3の隣接部分」が「チャンバ室近傍領域」に、「連結している」が「つながっている」に、「環状の薄い部分7」が「環状壁部分(20)(35)」に、「マスクを使用者の人体頭部に保持せしめる保持手段」が「マスクを使用者に固定させる手段」に、「壁厚」が「厚さ」に、それぞれ相当する。 また、後者における「薄い部分7」が「チユーブ6の外側の周囲に形成され」ている態様は、前者における「環状壁部分(20)(35)」が「ガス供給ポートを囲んで含」んでいる態様に相当する。 してみると、両者は、本願補正発明3の用語を用いて表現すると、 「使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって、 チャンバ室を形成する形状に作られ、該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部(13)(28)と、 チャンバ室の壁と一体に形成され、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、チャンバ室との接続部となるガス供給ポート(21)(27)と、 ガス供給ポートを囲んで含み周縁はチャンバ室近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)と、 マスクを使用者に固定させる手段を具えており、 環状壁部分(20)(35)の厚さは、チャンバ室近傍領域よりも薄く形成され、チャンバ室近傍領域は、環状壁部分を取り囲んでいるマスク。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:本願補正発明3においては、チャンバ室近傍領域は略均一厚さであるのに対して、引用発明2においては、チャンバ室近傍領域(中央部分3の隣接部分)は略均一厚さとはいえない点。 相違点2:本願補正発明3においては、ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用により顔面接触部へ及ぶ動きは、少なくともその一部は、環状壁部分が撓むことにより吸収されるのに対して、引用発明2においては、その点が明らかでない点。 (4)判断 次に、上記相違点について検討する。 (a)相違点1について 本願補正発明3において、ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用によりマスクへ及ぶ動きの少なくともその一部を吸収するのは、環状壁部分の厚さを顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成し、環状壁部分が撓むことによるものであり、チャンバ室近傍領域を略均一にするか否かは、本願補正発明3の作用効果とは関係のない事項であるから、顔面接触部の近傍領域を顔面接触部よりも大きな厚さとするか否かは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないことである。 したがって、上記相違点1に係る本願補正発明3の発明特定事項とすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。 (b)相違点2について 引用発明2においても、マスクの使用時にはガス供給ポート(チユーブ6)にガス供給ラインが接続されているから、ガス供給ラインが動いたときにガス供給ラインからの作用により顔面接触部(接顔枠1と中央部分3)へその動きが及ぶ可能性があるが、引用発明2においても、環状壁部分(薄い部分7)はチャンバ室近傍領域(中央部分3の隣接部分)よりも薄く形成され、環状壁部分(薄い部分7)によつて柔軟な区域が形成されているのであるから、ガス供給ポート(チユーブ6)に何らかの力が作用すれば、その力の作用方向を問わず、柔軟な区域である環状壁部分(薄い部分7)が多少とも撓むことにより顔面接触部(接顔枠1と中央部分3)へ及ぶ動きの少なくとも一部はその環状壁部分(薄い部分7)で吸収されることは明らかである。したがって、相違点2は実質的には相違点とはいえない。 そして、本願補正発明3の効果も、引用発明2から当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない。 したがって、本願補正発明3は、引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (5)むすび 以上のとおり、本件第3補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 5.本願発明 本件第1補正、本件第2補正及び本件第3補正は何れも上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成16年3月23日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって、 チャンバ室を形成する形状に作られ、該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部と、 チャンバ室の壁と一体に形成され、加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために、チャンバ室との接続部となるガス供給ポートと、 マスクを使用者に固定させる手段を具えており、 壁のガス供給ポートを含む部分の厚さが、当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域の厚さよりも薄く形成され、それによって大きな可撓性を有するように作られており、接続されたガス供給ラインからの作用によるマスクのいかなる動きも、少なくともその一部は、ガス供給ポートを含む壁部分が撓むことによって吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。」 6.引用例 原査定の拒絶の理由に引用された引用例、および、その記載事項等は、前記「2.[理由2](2)」及び「3.[理由3](2)」に記載したとおりである。 7.対比・判断 本願発明は、前記「2.[理由2](1)」で検討した本願補正発明1の「ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部に連結している環状壁部分(20)(35)」から限定を省いて「壁のガス供給ポートを含む部分」とし、「環状壁部分(20)(35)の厚さは、顔面接触部と同じオーダで、且つ顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され」から限定を省いて「壁のガス供給ポートを含む部分の厚さが、当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域の厚さよりも薄く形成され」とし、また、「ガス供給ライン」の接続相手が「ガス供給ポート」であるとの限定を省き、さらに、「マスクへ及ぶ動き」を「マスクのいかなる動き」と言い換えたものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明1が、前記「2.[理由2](3)、(4)」に記載したとおり、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、本願発明は、前記「3.[理由3](1)」で検討した本願補正発明2の「ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部の近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)」から限定を省いて「壁のガス供給ポートを含む部分」とし、「顔面接触部の近傍領域」から限定を省いて「当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域」とするとともに「顔面接触部の近傍領域は、環状壁部分を取り囲み且つ顔面接触部及び環状壁部分よりも大きな厚さであって」との限定も省き、また、「ガス供給ライン」の接続相手が「ガス供給ポート」であるとの限定を省き、さらに、「顔面接触部へ及ぶ動き」から限定を省いて「マスクのいかなる動き」とするものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明2が、前記「3.[理由3](3)、(4)」に記載したとおり、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 また、本願発明は、前記「4.[理由4](1)」で検討した本願補正発明3の「ガス供給ポートを囲んで含み周縁はチャンバ室近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)」から限定を省いて「壁のガス供給ポートを含む部分」とし、「チャンバ室近傍領域」から限定を省いて「当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域」とするとともに「チャンバ室近傍領域は、環状壁部分を取り囲み、略均一厚さであって」との限定も省き、また、「ガス供給ライン」の接続相手が「ガス供給ポート」であるとの限定を省き、さらに、「顔面接触部へ及ぶ動き」から限定を省いて「マスクのいかなる動き」とするものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明3が、前記「4.[理由4](3)、(4)」に記載したとおり、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 8.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明1又は引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-03-22 |
結審通知日 | 2007-04-17 |
審決日 | 2009-01-19 |
出願番号 | 特願平8-517203 |
審決分類 |
P
1
8・
572-
Z
(A61M)
P 1 8・ 575- Z (A61M) P 1 8・ 561- Z (A61M) P 1 8・ 121- Z (A61M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松永 謙一、門前 浩一 |
特許庁審判長 |
北川 清伸 |
特許庁審判官 |
増沢 誠一 中島 成 |
発明の名称 | ガス供給マスク |
代理人 | 丸山 敏之 |
代理人 | 宮野 孝雄 |