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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1216183
審判番号 不服2008-27661  
総通号数 126 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-06-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-10-30 
確定日 2010-05-07 
事件の表示 特願2003-514111「燃料圧力脈動抑制システム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月30日国際公開、WO03/08796〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2002年7月15日(優先権主張2001年7月16日、日本国)を国際出願日とする日本語でされた国際特許出願であって、平成16年1月15日付けで特許法第184条の5第1項に規定する書面が提出され、平成20年4月28日付けで拒絶理由が通知され、同年7月7日付けで意見書並びに明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書(当審注:本願における補正は、平成14年法律第24号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第1項が適用されるため、【手続補正1】は【補正対象書類名】「明細書」【補正対象項目名】「特許請求の範囲」の補正として取り扱い、【手続補正2】は【補正対象書類名】「明細書」【補正対象項目名】「発明の名称」、「発明の詳細な説明」及び「図面の簡単な説明」の補正として取り扱う。)が提出されたが、同年9月16日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、同年10月30日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同年11月28日付けで審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書(方式)並びに明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書(当審注:平成20年7月7日付けで提出された手続補正書と同様の理由により、【手続補正1】は【補正対象書類名】「明細書」【補正対象項目名】「特許請求の範囲」の補正として取り扱う。)がそれぞれ提出され、その後、当審において平成21年10月5日付けで書面による審尋がなされ、同年12月14日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成20年11月28日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成20年11月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
I.本件補正の内容
平成20年11月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲については、下記(b)に示す本件補正前の(すなわち、平成20年7月7日付けで手続補正された)請求項1ないし5を、下記(a)に示す本件補正後の請求項1ないし5に補正するものである。

(a)本件補正後の特許請求の範囲(なお、下線部は補正個所を示す。)
「 【請求項1】
複数の気筒がV字形又は水平対向形に配置されているMPI型ガソリンエンジンで、各気筒に燃料を分配するデリバリパイプが左右1対に配置され、左右のデリバリパイプ間が接続パイプで接続され、燃料タンクに燃料ポンプが内蔵され、燃料ポンプとデリバリパイプがサプライ配管で接続され、かつ各デリバリパイプに燃料タンクへの戻り回路が設けられていないリターンレスタイプのデリバリパイプを備えるガソリンエンジンに配置された燃料配管系の圧力脈動抑制システムであって、
前記デリバリパイプを構成する左右の連通管がそれぞれ長手方向に延伸し、これら連通管の長手方向の少なくとも1つの側面が可撓性のアブゾーブ面を形成しており、
少なくとも一方のデリバリパイプと前記サプライ配管又は前記接続パイプとの間の接続部付近に燃料噴射によって引き起こされる圧力脈動波を減衰させるオリフィスを有するオリフィス部分が設けられ、
前記オリフィス部分が前記アブゾーブ面上に取り付けられていることを特徴とする燃料配管系の圧力脈動抑制システム。
【請求項2】
複数の気筒が直列に配置されているMPI型ガソリンエンジンで、各気筒に燃料を分配するデリバリパイプが配置され、燃料タンクに燃料ポンプが内蔵され、燃料ポンプとデリバリパイプがサプライ配管で接続され、かつ各デリバリパイプに燃料タンクへの戻り回路が設けられていないリターンレスタイプのデリバリパイプを備えるガソリンエンジンに配置された燃料配管系の圧力脈動抑制システムであって、
前記デリバリパイプを構成する連通管が長手方向に延伸し、当該連通管の長手方向の少なくとも1つの側面が可撓性のアブゾーブ面を形成しており、
前記デリバリパイプと前記サプライ配管との間の接続部付近に燃料噴射によって引き起こされる圧力脈動波を減衰させるオリフィスを有するオリフィス部分が設けられ、
前記オリフィス部分が前記アブゾーブ面上に取り付けられていることを特徴とする燃料配管系の圧力脈動抑制システム。
【請求項3】
前記オリフィスの流路断面積が前記接続パイプの流路断面積の0.2倍以下である請求項1記載の圧力脈動抑制システム。
【請求項4】
前記オリフィスの流路断面積が前記サプライ配管の流路断面積の0.2倍以下である請求項1記載の圧力脈動抑制システム。
【請求項5】
前記オリフィスの流路断面積が前記サプライ配管の流路断面積の0.2倍以下である請求項2記載の圧力脈動抑制システム。」

(b)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
複数の気筒がV字形又は水平対向形に配置されているガソリンエンジンで、各気筒に燃料を分配するデリバリパイプが左右1対に配置され、左右のデリバリパイプ間が接続パイプで接続され、燃料タンクに燃料ポンプが内蔵され、燃料ポンプとデリバリパイプがサプライ配管で接続され、かつ各デリバリパイプに燃料タンクへの戻り回路が設けられていないリターンレスタイプのデリバリパイプを備えるガソリンエンジンに配置された燃料配管系の圧力脈動抑制システムであって、
前記デリバリパイプを構成する連通管の少なくとも1つの断面が可撓性のアブゾーブ面を形成しており、
少なくとも一方のデリバリパイプと前記サプライ配管又は前記接続パイプとの間の接続部付近に燃料噴射によって引き起こされる圧力脈動波を減衰させるオリフィスを有するオリフィス部分が設けられ、
前記オリフィス部分が前記アブゾーブ面上に取り付けられていることを特徴とする燃料配管系の圧力脈動抑制システム。
【請求項2】
複数の気筒が直列に配置されているガソリンエンジンで、各気筒に燃料を分配するデリバリパイプが配置され、燃料タンクに燃料ポンプが内蔵され、燃料ポンプとデリバリパイプがサプライ配管で接続され、かつ各デリバリパイプに燃料タンクへの戻り回路が設けられていないリターンレスタイプのデリバリパイプを備えるガソリンエンジンに配置された燃料配管系の圧力脈動抑制システムであって、
前記デリバリパイプを構成する連通管の少なくとも1つの断面が可撓性のアブゾーブ面を形成しており、
前記デリバリパイプと前記サプライ配管との間の接続部付近に燃料噴射によって引き起こされる圧力脈動波を減衰させるオリフィスを有するオリフィス部分が設けられ、
前記オリフィス部分が前記アブゾーブ面上に取り付けられていることを特徴とする燃料配管系の圧力脈動抑制システム。
【請求項3】
前記オリフィスの流路断面積が前記接続パイプの流路断面積の0.2倍以下である請求項1記載の脈動抑制システム。
【請求項4】
前記オリフィスの流路断面積が前記サプライ配管の流路断面積の0.2倍以下である請求項1記載の脈動抑制システム。
【請求項5】
前記オリフィスの流路断面積が前記サプライ配管の流路断面積の0.2倍以下である請求項2記載の脈動抑制システム。」

II.本件補正の適否の判断
1.新規事項の追加
本件補正は、本件補正前の請求項1における「デリバリパイプを構成する連通管の少なくとも1つの断面が可撓性のアブゾーブ面を形成しており」との発明特定事項を、本件補正後の請求項1における「デリバリパイプを構成する左右の連通管がそれぞれ長手方向に延伸し、これら連通管の長手方向の少なくとも1つの側面が可撓性のアブゾーブ面を形成しており」との発明特定事項に補正する事項を含むものである。よって、本件補正後の請求項1に係る発明における「オリフィス部分」が取り付けられる「前記アブゾーブ面」とは、「連通管の長手方向の少なくとも1つの側面」に形成された「アブゾーブ面」であると認められる(なお、下線は当審で付した。以下、同様。)。
一方、本願の国際出願日における明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載された事項についてみるに、当該明細書の第6ページ第25行ないし第7ページ第4行には、第2図A及び第2図Bとともに、「本発明の特徴に基づき、第2図に示すように、デリバリパイプ15,16を構成する連通管1,2の箱形断面の一部は可撓性のアブゾーブ面に形成されて振動を吸収するようになっている。第2図Aでは燃料噴射弁に接続されるソケット3に対向する上面5が薄板で作られてアブゾーブ面を提供しており、第2図Bでは側面6が薄板で作られてアブゾーブ面を提供している。」(以下、「記載事項A」という。)と記載されていることから、請求項1におけるアブゾーブ面が形成される「連通管の長手方向の少なくとも1つの側面」とは、当初明細書等における「側面6」であると認められる。
ところで、当該明細書の第8ページ第7ないし13行には、第4図Bを参照して、「第4図Bは第3図のオリフィス部分36の詳細を表しており、筒状部分の内部がオリフィス板40で遮られ、オリフィス板40の中心に小さな孔40aが穿孔されている。孔40aの内径は実験により最適な値を選定する。この例では、デリバリパイプ31を構成する連通管1の壁面の1つが薄板から成る可撓性のアブゾーブ面5を形成しており、オリフィス部分36はアブゾーブ面5に接続されているので、振動抑制効果が高められるようになっている。」(以下、「記載事項B」という。)と記載されている。ここで、「アブゾーブ面5」は、記載事項A並びに第3図及び第4図から、「側面6」ではなく「上面5」であると認められる。
当該明細書の第10ページ第5行ないし第11ページ第2行、第9図ないし第11図にも、記載事項Bと同様の「オリフィス部分」を「アブゾーブ面上」に取り付けた点が記載されている(以下、「記載事項C」という。)が、記載事項Cにおいても、「アブゾーブ面5」は、「側面6」ではなく「上面5」であると認められる。
したがって、当初明細書等においては、「オリフィス部分」を「連通管の長手方向の上面5のアブゾーブ面上」に取り付ける技術は記載事項B及びCとして記載されているものの、請求項1に係る発明にて特定される「オリフィス部分」を「連通管の長手方向の側面6のアブゾーブ面上」に取り付ける技術については明示的に開示されておらず、また、当初明細書等の記載から自明な事項とも認められない。
そして、請求項2についての本件補正も、実質的に上述の請求項1についての補正と同様であると認められる。
よって、請求項1及び2に係る本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲を超える内容を含む補正(以下、「新規事項を追加する補正」という。)である。

2.独立特許要件
(1)本件補正の目的
本件補正は、請求項1及び2については、「ガソリンエンジン」を「MPI型ガソリンエンジン」に限定するとともに、「デリバリパイプを構成する連通管」を「長手方向に延伸」する点で限定し、さらに、「可撓性のアブゾーブ面」が形成される「連通管の少なくとも1つの断面」を「連通管の長手方向の少なくとも1つの側面」に限定する事項を含むものであることから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定される「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
よって、本件補正後の請求項2に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

(2)本願補正発明
本願補正発明は、本件補正による特許請求の範囲の記載、平成20年7月7日付けで補正された明細書の記載、及び、国際出願日における図面の記載からみて、上記I.(a)の請求項2に記載された事項により特定されるものである。
なお、「各デリバリパイプに燃料タンクへの戻り回路が設けられていないリターンレスタイプのデリバリパイプ」との発明特定事項が認められるが、発明の詳細な説明の記載を参酌し、「各デリバリパイプ」は「デリバリパイプ」の誤記と認定する。

(3)刊行物に記載された発明
1)引用文献1に記載された発明
(A)本願の優先日前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-329030号公報(以下、「引用文献1」という。)には、次のア.ないしオ.の事項が図面とともに記載されている。
ア.「【請求項1】 直線状に延びる燃料通路を内部に有する金属製の連通管と、この連通管の端部又は側部に固定された燃料供給管と、前記連通管に交差して突設され一部が前記燃料通路に連通し開放端部が燃料噴射ノズル先端を受け入れる複数のソケットとを備えて成る内燃機関用のフユーエルデリバリパイプにおいて、
前記連通管の少なくとも1つの外壁面を可撓性のアブゾーブ面で構成し、連通管の軸線方向長さのほぼ中央付近に前記燃料供給管を開口させたことを特徴とするフユーエルデリバリパイプ。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

イ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電子制御燃料噴射式自動車用エンジンの燃料加圧ポンプから送給された燃料をエンジンの各吸気通路あるいは各気筒に燃料インジエクタ(噴射ノズル)を介して供給するためのフユーエルデリバリパイプの改良に関し、特に燃料供給通路を有する連通管と燃料インジエクタを受け入れるソケット(ホルダー)部分の接続構造に係るものである。
【0002】
【従来の技術】フユーエルデリバリパイプは、ガソリンエンジンの電子制御燃料噴射システムに広く使用されており、燃料通路を有する連通管から複数個の円筒状ソケットを介して燃料インジェクタに燃料を送った後、燃料タンク側へと戻るための戻り通路を有するタイプと、戻り通路を持たないタイプ(リターンレス)とがある。最近はコストダウンのため戻り通路を持たないタイプが増加してきたが、それに伴い、燃料ポンプ(プランジャポンプ)やインジェクタのスプールの相手部材との衝突に起因する反射波や脈動圧によって、フユーエルデリバリパイプや、関連部品としての燃料配管・そのクランプ・クランプの取り付けられた前面パネルなどが振動し耳ざわりな異音を発するという問題が発生するようになってきた。
【0003】この対策として、フユーエルデリバリパイプの直前に圧力ダンパを取り付けたり、自動車の前面パネル裏側の燃料配管を複数の防振クランプで支持するなどの方法も行われているが、部品点数の増大・設置スペースの確保・コスト高などの問題が新たに発生していた。
【0004】 …(中略)…
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、燃料の反射波や脈動圧に起因する衝撃を吸収(アブゾーブ・absorb)し、振動を緩衝(ダンピング・damping )抑制して異音の発生を防止することが可能なフユーエルデリバリパイプの構造を提供することにある。」(段落【0001】ないし【0005】)

ウ.「【0012】
【発明の実施の形態】図1,図2は、本発明によるフユーエルデリバリパイプ(トップフィードタイプ)10の好適な実施例による全体形状を一部を分解して表しており、略四角形断面の鋼管から成る連通管11がクランク軸方向に沿って延伸し、連通管11の側部に燃料供給(導入)管2がろう付けや溶接で固定されている。連通管の端部には燃料タンクに戻るための戻り管を設けることができるが、燃料の脈動圧が問題となるリターンレスタイプのフユーエルデリバリパイプでは、戻り管は設けられていない。
【0013】連通管11の底面には、噴射ノズルの先端を受け入れるためのソケット3a?3dが4気筒エンジンであれば4個が所定の角度で取り付けられている。連通管11には、さらにフユーエルデリバリパイプをエンジン本体に取り付けるための厚肉で堅固なブラケット4が2個横方向に架け渡されている。燃料は矢印の方向へと流れ、ソケット3a?3dの各燃料流入口13から燃料インジェクタ(図示せず)を介して各吸気通路あるいは各気筒へと噴射される。
【0014】図1に示すように、本発明に従い、連通管11の断面のうち、上面11aだけが可撓性のアブゾーブ面として作用するように薄肉の鋼板で形成され、側面及び底面11bは厚肉の堅固な部材で作られている。また、燃料供給管2は、本発明に従い、連通管11の軸線方向長さのほぼ中央付近に開口するようにろう付けや溶接により固着されている。これは、中央付近でアブゾーブ面の撓みが最大になることと、ソケットが偶数の場合には各ソケットから出る反射波18が中央付近で打ち消し合うからである。」(段落【0012】ないし【0014】)

エ.「【0017】図3A,Bは、燃料供給管を他の面に取り付けた実施例を表しており、図3Aは燃料供給管2をアブゾーブ面11aと対向する底面に取り付けた例、図3Bは、燃料供給管2をアブゾーブ面11aに取り付けた実施例を表している。燃料供給管2は実際のエンジンに対応して最適の配置をとることができる。」(段落【0017】)

オ.「【0019】図5はさらに他の実施例によるフユーエルデリバリパイプ30を表しており、楕円形断面の連通管31の全面31aがアブゾーブ面を構成している。本発明に従い、連通管31の側面を貫通して燃料供給管32が取り付けられ、その内端32aは連通管31の横断方向の中央付近に開口している。連通管の断面形状は、図示したもの以外に、T字形、受話器形、倒立アイマスク形状など各種の形状を採用することが可能であり、可撓性のアブゾーブ面は壁面の全部又は一部に設けることができる。」(段落【0019】)

(B)上記(A)ア.ないしオ.及び図面の記載から、引用文献1には次のカ.ないしサ.の事項が記載されていることがわかる。
カ.上記(A)イ.及びウ.並びに図1及び2の記載から、引用文献1に記載のフユーエルデリバリパイプは「複数の気筒が直列に配置されているMPI型ガソリンエンジン」に配置され、「各気筒に燃料を分配する」ものであることがわかる。

キ.上記(A)イ.の記載から、引用文献1に記載のフユーエルデリバリパイプが配置されるガソリンエンジンの燃料配管系は、「燃料タンクと燃料ポンプとを有し」ていることがわかる。

ク.上記(A)イ.ないしエ.並びに図1ないし3の記載から、引用文献1に記載のフユーエルデリバリパイプが配置されるガソリンエンジンは、「燃料ポンプとフユーエルデリバリパイプ10が燃料供給管2で接続され、かつフユーエルデリバリパイプ10に燃料タンクへの戻り管が設けられていないリターンレスタイプのフユーエルデリバリパイプ10を備えるガソリンエンジン」であることがわかる。

ケ.上記(A)イ.及びウ.の記載から、引用文献1には、「フユーエルデリバリパイプや燃料配管に発する燃料の反射波や脈動圧に起因する衝撃を吸収し、振動を緩衝抑制するシステム」が記載されていることがわかる。

コ.上記(A)ウ.及びエ.並びに図1ないし3の記載から、引用文献1には「フユーエルデリバリパイプ10を構成する連通管11がクランク軸方向に沿って延伸し、当該連通管11の長手方向の上面11aが可撓性のアブゾーブ面11aを形成して」いる点が記載されていることがわかる。

サ.上記(A)エ.及び図3の記載から、引用文献1には、「フユーエルデリバリパイプ10と燃料供給管2との間の接続部がアブゾーブ面11a上に設けられている」ことがわかる。

(C)引用文献1に記載された発明
上記(A)及び(B)から、引用文献1には次の発明が記載されているといえる。
「複数の気筒が直列に配置されているMPI型ガソリンエンジンで、各気筒に燃料を分配するフユーエルデリバリパイプ10が配置され、燃料タンクと燃料ポンプとを有し、燃料ポンプとフユーエルデリバリパイプ10が燃料供給管2で接続され、かつフユーエルデリバリパイプ10に燃料タンクへの戻り管が設けられていないリターンレスタイプのフユーエルデリバリパイプ10を備えるガソリンエンジンに配置されたフユーエルデリバリパイプや燃料配管に発する燃料の反射波や脈動圧に起因する衝撃を吸収し、振動を緩衝抑制するシステムであって、
前記フユーエルデリバリパイプ10を構成する連通管11がクランク軸方向に沿って延伸し、当該連通管11の上面11aが可撓性のアブゾーブ面11aを形成しており、
前記フユーエルデリバリパイプ10と前記燃料供給管2との間の接続部が前記アブゾーブ面11a上に設けられているフユーエルデリバリパイプや燃料配管に発する燃料の反射波や脈動圧に起因する衝撃を吸収し、振動を緩衝抑制するシステム。」(以下、「引用文献1に記載された発明」という。)

2)引用文献2に記載された発明
(A)本願の優先日前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開2000-192872号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次のア.ないしカ.の事項が図面とともに記載されている。
ア.「【0002】
【従来の技術】所謂「筒内直噴エンジン」、即ち、ガソリンのような揮発性の燃料を筒内へ直接に噴射して燃焼させる内燃機関が実用化されて自動車に搭載されるようになったが、筒内直噴エンジンにおいては、圧縮行程において高圧となった筒内へ燃料を噴射する場合があるから、低圧の吸気ポート内へ燃料を噴射する従来のエンジンに比べて、インジェクタへ供給する燃料の圧力が高く設定される。燃料は、燃料噴射ポンプのような燃料圧送ポンプにおいてカムによって駆動されて往復動をするプランジャにより共通の高圧燃料配管(高圧配管)へ間欠的に吐出されるために、カムの形状に応じて高圧配管内の燃料には高圧が脈動的に発生するのと、共通の高圧配管に接続された複数個のインジェクタがそれぞれ間欠的に開弁して燃料を噴射するので、その都度高圧配管の圧力が一時的に低下する結果、高圧配管内を流れる燃料には高圧と低圧の圧力脈動が発生し、それが圧力波となって高圧配管内を進行する。従って、1つのインジェクタが開弁する時期に、そのインジェクタの燃料供給ポートへ圧力波の高圧部分が来ているか、それとも低圧部分が来ているかという違いによって、インジェクタが同じ開弁時間をとっても噴射量が変化する。
【0003】このような高圧配管における圧力脈動による噴射量の変動は、複数個のインジェクタが共通の燃料配管に接続されて燃料の供給を受けるように構成されているものである限り、吸気ポート内へ燃料を噴射する従来のエンジンにおいても発生するので、その対策として、実開昭57-100693号公報には圧力ダンパという圧力緩和装置を設けることが記載されているが、筒内直噴エンジンの場合は圧縮行程において燃料を噴射する必要からインジェクタの噴射圧力、従って燃料配管内の燃圧が吸気ポート内噴射の場合よりも高いので、燃料配管内の圧力脈動の影響による各インジェクタの噴射量の変動がより大きく現れる恐れがある。
【0004】この場合、ダイヤフラムやベローズのような柔軟なダンピング部材からなる従来の圧力ダンパを筒内直噴エンジンの高圧の燃料配管(高圧配管)に用いると、筒内直噴エンジンにおいては高圧配管内を流れる燃料の圧力(燃圧)が高いためにダンピング部材が簡単に破損する恐れがあり、十分な耐久性や信頼性が得られないという問題がある。しかしながら、筒内直噴エンジンの高圧配管の圧力緩和装置として本格的なアキュームレータを用いるとすれば、アキュームレータそのものが大きくて高価であるために、全体の体格が大型化すると共にコスト上昇を招くので、これは現実的な対策とは言えない。
【0005】 …(中略)…
【0006】更に、特開平9-170514号公報には、ディーゼルエンジン用の蓄圧式燃料噴射装置において、高圧供給ポンプと各気筒の燃料噴射弁とを接続する燃料通路の一部に、各気筒に共通のコモンレールを設けると共に、コモンレールの入口又は出口にオリフィスを設けて燃料の圧力脈動を抑制するものが開示されているが、このシステムをガソリンを燃料とする直噴エンジンに適用した場合はオリフィスの径を非常に細くすることになるので、気泡の抜けが悪くなる結果、リーン燃焼時に減少する燃料噴射量に対応して正確に少量の燃料を供給することが難しいという問題が生じる。また、径の細いオリフィスには異物が詰まって閉塞しやすいので、これが機関の不調の原因になる恐れもある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、従来技術における前述のような問題に対処して、構成が簡単で嵩張らない手段を設けることによって、従来よりも高圧の燃料配管内における圧力脈動を効果的に緩和することができるような、しかも、高い耐久性及び信頼性が得られる改良された燃料供給システムを提供することを目的としている。」(段落【0002】ないし【0007】)

イ.「【0072】図16に本発明の第9実施例としての燃料供給システム54を示す。第9実施例が前述の第8実施例と異なる点は、第8実施例において上流側と下流側のデリバリパイプ40,41間を接続している連結管43の途中に設けられた容積拡大部52が、若干の可撓性を有するように、強靱で且つ耐油性がある合成ゴム等から製造された厚肉で剛性が高いが僅かに可撓性のある部材55によって置き換えられていることである。この場合の可撓性部材55は拡径部分を含んでいるから、第8実施例における容積拡大部52と同様に、第9実施例の燃料供給システム54の共振周波数を高めて、システム54内の圧力脈動との共振を防止する作用をするだけでなく、連結管43に可撓性を付与するのでエンジンの組み付けが容易になるのと、更に、エンジンの運転中の振動によって連結管43等の連結部が疲労して万一にも破損するような事態を未然に防止することができる。」(段落【0072】)

ウ.「【0076】ところで、図12に示したような構成の燃料供給システムの固有振動数である共振周波数を算出する場合は、まずシステムを構成する各部分のインピーダンスZ0 ?Z4 (表1参照)を個別に計算し、それらを数式(1)によって加え合わせてシステム全体のトータルインピーダンスZを計算することは先に説明した。図12に示したものよりも単純な構成の燃料供給システムとして、例えば直列型の多気筒エンジンに使用し得る図19のような構成の燃料供給システム39’が従来から知られている。この場合、単一のデリバリパイプ40’には図示しない複数個のインジェクタが取り付けられて、各気筒内へ燃料を直接に噴射するようになっている。燃料圧送ポンプ2に接続する連結管42の下流側端部は圧力脈動を抑制する目的で挿入された絞り49を介してデリバリパイプ40’へ高圧燃料を供給する。」(段落【0076】)

エ.「【0080】この性質を利用した第12実施例の燃料供給システムの構成を図21に示す。図21における58は連結部一体型のデリバリパイプであって、燃料圧送ポンプ2側への連結部58aは、デリバリパイプ58本体と一体成形された径の太いもので、それに接続する連結管42’もやはり径の太いものを用いる。但し、この場合は連結管42’や連結部58aが太くて剛性が高くなるため、それらの間に前述のような可撓性部材55を介在させて構造に僅かに柔軟性を与えると共に、組み付けを容易にしている。また、圧力脈動を低減させるための補助的な手段として、連結管42’と燃料圧送ポンプ2との間には絞り49’を設けている。
【0081】なお、前述のように、図12に示した従来の絞り49は非常に細径とする必要があることから、絞り49に異物が詰まり易いとか、所定の燃料噴射量を確保することができない恐れがあるとか、製造工程における表面処理の後で内部を乾燥させる時に支障を来すというような問題があるが、第12実施例の燃料供給システム59においては絞り49’は補助的な圧力脈動抑制手段であって、それのみによって圧力脈動を抑制する訳ではないから、絞り49’の有効径は比較的大きくしてもよいので、従来技術のような問題は発生しない。」(段落【0080】及び【0081】)

オ.「【0083】この性質を利用した第13実施例の燃料供給システムの構成を図22に示す。図22における60,61はいずれも連結部一体型のデリバリパイプであって、右デリバリパイプ60と左デリバリパイプ61を接続するために、デリバリパイプ60,61にはそれぞれ径の太い連結部60a,61aが一体成形される。そして前述の場合と同じ理由から、連結部60a,61aが可撓性部材55によって相互に接続される。なお、第13実施例の燃料供給システム62では、上流側のデリバリパイプ60を燃料圧送ポンプ2へ接続する連結管42に通常の太さのものを用いると共に、圧力脈動を低減させるための補助的な手段として、連結管42とデリバリパイプ60との間に大径の絞り49’を設けている。」(段落【0083】)

カ.「【0087】第15実施例と同様な考え方に立つものとして、図25に第16実施例の燃料供給システム71を示す。第16実施例においては、第1のデリバリパイプ68と第2のデリバリパイプ69が、相互に対向する端面の全面において可撓性部材70を介して直列に接続されている。また、第1のデリバリパイプ68は大径の絞り49’を介して燃料圧送ポンプ2と接続している。第16実施例の燃料供給システム71はこのような構成であるから、第15実施例の燃料供給システム67と概ね同様な作用効果を奏する。なお、この実施例のように大径の絞り49’を用いているものもあるが、本発明は絞りを設けることを必須の要件とするものではないから、それ以外の主要な構成によって圧力脈動の低減が十分に達成される場合には絞りを省略してもよい。」(段落【0087】)

(B)上記(A)ア.ないしカ.及び図面の記載から、引用文献2には次のキ.及びク.の事項が記載されていることがわかる。
キ.上記(A)ア.、ウ.及びカ.並びに図19及び図25の記載から、引用文献2には「複数の気筒が直列に配置されているガソリンエンジンで、各気筒に燃料を分配するデリバリパイプ40’,68,69が配置され、燃料圧送ポンプ2とデリバリパイプ40’,68が連結管42で接続され、かつデリバリパイプ40’,68,69に燃料タンクへの戻り回路が設けられていないリターンレスタイプのデリバリパイプ40’,68,69を備えるガソリンエンジンに配置された圧力脈動を緩和しうる燃料供給システム。」が記載されていることがわかる。

ク.上記(A)ア.及びウ.ないしカ.並びに図19及び図25の記載から、引用文献2に記載された圧力脈動を緩和しうる燃料供給システムは、「デリバリパイプ40’,68と連結管42との間の接続部付近に燃料噴射によって引き起こされる圧力脈動を抑制する絞り49,49’が設けられ」たものであることがわかる。

(C)引用文献2に記載された発明
上記(A)及び(B)から、引用文献2には次の発明が記載されているといえる。
「複数の気筒が直列に配置されている筒内直噴エンジンで、各気筒に燃料を分配するデリバリパイプ68,69が配置され、燃料圧送ポンプ2とデリバリパイプ68が連結管42で接続され、かつデリバリパイプ68,69に燃料タンクへの戻り回路が設けられていないリターンレスタイプのデリバリパイプ68,69を備える筒内直噴エンジンに配置された圧力脈動を緩和しうる燃料供給システムであって、
前記デリバリパイプ68と前記連結管42との間の接続部付近に燃料噴射によって引き起こされる圧力脈動を抑制する絞り49’が設けられた圧力脈動を緩和しうる燃料供給システム。」(以下、「引用文献2に記載された発明」という。)

(4)対比
本願補正発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、引用文献1に記載された発明における「フユーエルデリバリパイプ10」は、その機能や技術的意義からみて、本願補正発明における「デリバリパイプ」に相当し、以下、同様に、「燃料供給管2」は「サプライ配管」に相当し、「戻り管」は「戻り回路」に相当し、「フユーエルデリバリパイプや燃料配管に発する燃料の反射波や脈動圧に起因する衝撃を吸収し、振動を緩衝抑制するシステム」は「燃料配管系の圧力脈動抑制システム」に相当し、「連通管11」は「連通管」に相当し、「クランク軸方向に沿って延伸し」は「長手方向に延伸し」に相当し、「アブゾーブ面11a」は「アブゾーブ面」に相当する。
また、引用文献1に記載された発明における「燃料タンクと燃料ポンプとを有し」ている点は、「燃料タンクと燃料ポンプとを有し」ている限りにおいて、本願補正発明における「燃料タンクに燃料ポンプが内蔵され」ている点に相当し、引用文献1に記載された発明における「連通管11の上面11a」は、「連通管の長手方向の1つの壁面」である限りにおいて、本願補正発明における「連通管の長手方向の少なくとも1つの側面」に相当する。
さらに、引用文献1に記載された発明における「前記フユーエルデリバリパイプ10と前記燃料供給管2との間の接続部が前記アブゾーブ面11a上に設けられている」点は、「前記デリバリパイプと前記サプライ配管との間の接続部が前記アブゾーブ面上に取り付けられている」限りにおいて、本願補正発明における「前記デリバリパイプと前記サプライ配管との間の接続部付近に燃料噴射によって引き起こされる圧力脈動波を減衰させるオリフィスを有するオリフィス部分が設けられ、前記オリフィス部分が前記アブゾーブ面上に取り付けられている」に相当する。

してみると、本願補正発明と引用文献1に記載された発明とは、
「複数の気筒が直列に配置されているMPI型ガソリンエンジンで、各気筒に燃料を分配するデリバリパイプが配置され、燃料タンクと燃料ポンプとを有し、燃料ポンプとデリバリパイプがサプライ配管で接続され、かつ各デリバリパイプに燃料タンクへの戻り回路が設けられていないリターンレスタイプのデリバリパイプを備えるガソリンエンジンに配置された燃料配管系の圧力脈動抑制システムであって、
前記デリバリパイプを構成する連通管が長手方向に延伸し、当該連通管の長手方向の1つの壁面が可撓性のアブゾーブ面を形成しており、
前記デリバリパイプと前記サプライ配管との間の接続部が前記アブゾーブ面上に取り付けられている燃料配管系の圧力脈動抑制システム。」
の点で一致し、次の(A)ないし(C)の3点で相違している。

(A)本願補正発明においては「燃料タンクに燃料ポンプが内蔵され」ているのに対し、引用文献1に記載された発明においては「燃料タンクと燃料ポンプとを有し」ているものの、燃料タンクに燃料ポンプが内蔵されているかは不明である点(以下、「相違点A」という。)。

(B)本願補正発明においては「連通管の長手方向の少なくとも1つの側面」が可撓性のアブゾーブ面を形成しているのに対し、引用文献1に記載された発明においては、「連通管の長手方向の上面」が可撓性のアブゾーブ面11aを形成している点(以下、「相違点B」という。)。

(C)本願補正発明においては「前記デリバリパイプと前記サプライ配管との間の接続部付近に燃料噴射によって引き起こされる圧力脈動波を減衰させるオリフィスを有するオリフィス部分が設けられ、前記オリフィス部分が前記アブゾーブ面上に取り付けられている」のに対し、引用文献1に記載された発明においては、「前記フユーエルデリバリパイプ10と前記燃料供給管2との間の接続部が前記アブゾーブ面11a上に設けられている」ものの、「当該接続部付近に燃料噴射によって引き起こされる圧力脈動波を減衰させるオリフィスを有するオリフィス部分が設けられ」ているかは不明である点(以下、「相違点C」という。)。

(5)当審の判断
上記相違点AないしCについて検討する。
(A)相違点Aについて
「燃料タンクに燃料ポンプが内蔵され」たリターンレスタイプのデリバリパイプを備えるMPI型ガソリンエンジンは、例えば、原査定の拒絶の理由に引用された文献でもある特開平8-68369号公報(例えば段落【0007】、図5を参照のこと。)、同特開平9-195885号公報(例えば段落【0024】、図1を参照のこと。)に記載されているように、本願優先日前において周知の技術(以下、「周知技術」という。)であって、引用文献1に記載された発明に当該周知技術を適用し、引用文献1に記載された発明における燃料ポンプを燃料タンクに内蔵させることで、上記相違点Aに係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が適宜なし得る程度のことである。

(B)相違点Bについて
引用文献1には、引用文献1に記載された発明のほか、上記(3)1)(A)オ.の段落【0019】には、図5とともに、「…連通管31の全面31aがアブゾーブ面を構成し…、連通管31の側面を貫通して燃料供給管32が取り付けられ、…連通管の断面形状は…各種の形状を採用することが可能であり、可撓性のアブゾーブ面は壁面の全部又は一部に設けることができる。」という技術思想(以下、「引用文献1に記載された技術思想」という。)も開示されているといえる。
引用文献1に記載された発明と引用文献1に記載された技術思想とは、当然同じ技術分野に属することから、引用文献1に記載された発明に引用文献1に記載された技術思想を適用して、「連通管の長手方向の少なくとも1つの側面」が可撓性のアブゾーブ面を形成することで、上記相違点Bに係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

(C)相違点Cについて
本願補正発明と引用文献2に記載された発明とを対比すると、引用文献2に記載された発明における「デリバリパイプ68,69」は、その機能や技術的意義からみて、本願補正発明における「デリバリパイプ」に相当し、以下、同様に、「燃料圧送ポンプ2」は「燃料ポンプ」に相当し、「連結管42」は「サプライ配管」に相当し、「圧力脈動を緩和しうる燃料供給システム」は「燃料配管系の圧力脈動抑制システム」に相当し、「圧力脈動を抑制する絞り49’」は「圧力脈動波を減衰させるオリフィスを有するオリフィス部分」に相当する。
また、引用文献2に記載された発明における「筒内直噴エンジン」は、「ガソリンエンジン」である限りにおいて、本願補正発明における「MPI型ガソリンエンジン」に相当する。
したがって、引用文献2に記載された発明は、本願補正発明の用語を用いて、
「複数の気筒が直列に配置されているガソリンエンジンで、各気筒に燃料を分配するデリバリパイプが配置され、燃料ポンプとデリバリパイプがサプライ配管で接続され、かつデリバリパイプに燃料タンクへの戻り回路が設けられていないリターンレスタイプのデリバリパイプを備えるガソリンエンジンに配置された燃料配管系の圧力脈動抑制システムであって、
前記デリバリパイプと前記サプライ配管との間の接続部付近に燃料噴射によって引き起こされる圧力脈動波を減衰させるオリフィスを有するオリフィス部分が設けられた燃料配管系の圧力脈動抑制システム。」と表すことができる。
引用文献1に記載された発明と引用文献2に記載された発明とは、共に、ガソリンエンジンの燃料配管系の圧力脈動を抑制する技術であることから、引用文献1に記載された発明における、アブゾーブ面11a上に設けられているフユーエルデリバリパイプ10と前記燃料供給管2との間の接続部に、引用文献2に記載された発明の「オリフィス部分」を適用し、上記相違点Cに係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

なお、本件請求人は、平成21年12月14日付けで提出の回答書の(4)において、「引用文献7(当審注:本審決における「引用文献2」に対応する。以下、同様。)は高圧部品なのだから、低圧のフユーエルデリバリパイプに転用できるではないか、という発想は、直噴ディーゼルエンジンと直噴ガソリンエンジンの技術革新が、排出ガス規制をクリアするために噴射圧力をどんどん高めてきたという事実に逆行するものであって、当業者が容易に思い付くことではない。」と主張する。
当該主張について検討するに、例えば、上記(3)2)(A)ア.に摘記した引用文献2の段落【0006】には、直噴ガソリンエンジンの噴射圧力(審判請求書によれば、「10?20Mpa」。なお、「Mpa」は「MPa」の誤記であると認める。以下、同様。)よりも一桁大きな噴射圧力(審判請求書によれば「135?220Mpa」)が用いられる直噴ディーゼルエンジンの技術を、直噴ガソリンエンジンに適用する着想が記載されており、形式が異なることにより生じる課題を解決するために、例えば上記(3)2)(A)エ.に摘記した引用文献2の段落【0081】には、「絞り49’」を補助的な圧力脈動抑制手段として使用し、有効径を比較的大きくするといった技術思想が記載されている。したがって、高圧部品を低圧のフユーエルデリバリパイプに転用しようとする発想を、「当業者が容易に思い付くことではない。」という主張には首肯できない。
また、同回答書(4)において、「引用文献7の絞り部はアブゾーブ面を避けて設けられているのであって、アブゾーブ面に設けたのでは初期の目的を達成できないのであるから、引用文献…4(当審注:本審決における「引用文献1」に対応する。)の構成に引用文献7の構成を組み合わせることはあり得ない。」と主張する。
当該主張について検討するに、上述したように、高圧の噴射圧力における技術を低圧の噴射圧力の分野に適用するという着想は、当業者であれば普通に行われていることであって、適用するにあたって低圧の噴射圧力に適するように好適化することも、上述の例のように、当業者が通常発揮する創作能力にすぎない。また、引用文献2に記載の「絞り49’」を補助的な圧力脈動抑制手段として適用するという技術思想をもってすれば、引用文献1に記載された発明における「アブゾーブ面11a」による圧力脈動を抑制する手段に加えて、引用文献2に記載された発明における「絞り49’」を補助的に適用するという動機付けも充分備えているといえる。さらに、引用文献2に記載された発明における「絞り49’」が、例えば図25における可撓性部材70を避けて設けられているとしても、引用文献1に記載された発明が、「MPI型のガソリンエンジン」であって、「フユーエルデリバリパイプ10と燃料供給管2との間の接続部」が既に「アブゾーブ面11a上に設けられている」ものである以上、引用文献2に記載された発明における「絞り49’」を引用文献1に記載された発明の「接続部」に適用するにあたり、わざわざ当該「接続部」を「アブゾーブ面11a上」から異なる位置へと移動させる合理的理由も見受けられない。
よって、請求人の主張は採用できない。

また、本願補正発明を全体としてみても、その作用効果は、引用文献1及び2に記載された各発明、引用文献1に記載された技術思想及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
なお、明細書の段落【0013】ないし【0017】及び【0040】において、「アブゾーブ面にオリフィスを有するオリフィス部分を取り付けることにより、アブゾーブ面の撓みによる振動吸収効果と相まって、振動抑制効果が高められる」との効果が記載されているが、当初明細書等に記載された事項のみでは、アブゾーブ面にオリフィス部分を設けたことにより、アブゾーブ面とオリフィス部分とをそれぞれ独立に設けた場合に比して、振動抑制及び振動吸収の面で格別な相乗効果を奏するとも認められないことから、本願補正発明が奏する作用効果は、引用文献1に記載された発明における「アブゾーブ面11a」による振動吸収効果、引用文献2に記載された発明における「絞り49’」による振動抑制効果等から、当業者が予測できる範囲のものにすぎない。

したがって、本願補正発明は、引用文献1及び2に記載された各発明、引用文献1に記載された技術思想及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)小括
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

III.むすび
以上のとおり、本件補正は、上記II.1.に記すように、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、本件補正は、上記II.2.に記すように、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
1.本願発明
平成20年11月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成20年7月7日付けで補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、上記第2.[理由]I.(b)の【請求項2】に記載のとおりのものである。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2000-329030号公報)及び引用文献2(特開2000-192872号公報)の記載事項は、上記第2.[理由]II.2.(3)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願補正発明は、上記第2.[理由]II.2.(1)に記したように、本願発明を限定したものであって、上記第2.[理由]II.2.(2)ないし(5)にて指摘したとおり、引用文献1及び2に記載された各発明、引用文献1に記載された技術思想及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
そうすると、本願発明を特定する事項をすべて含み、さらに本願発明を減縮したものに相当する本願補正発明が引用文献1及び2に記載された各発明、引用文献1に記載された技術思想及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用文献1及び2に記載された各発明、引用文献1に記載された技術思想及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、付言すれば、本件請求人は、同回答書の(5)において、「米国特許第6901913号の請求項1と実質的に同一内容であり、…日米間で特許審査ハイウェイなるものが実用化されようとしている状況の下で、米国で特許されたものが日本で特許されないのは納得がいかない。」と主張するが、特許審査ハイウェイは、「出願人の海外での早期権利化を容易とする」ために、「第1庁で特許可能と判断された発明を有する出願について、出願人の申請により、第2庁において簡易な手続で早期審査が受けられるようにする枠組み」(必要であれば、次の特許庁ホームページ内ウェブサイトを参照のこと:http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/patent_highway.htm)であって、一方の国で特許になったからといって、他方の国で無条件で特許になる制度ではなく、パリ条約で規定される「各国特許独立の原則」自体は、従前と何ら変わらないものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1及び2に記載された各発明、引用文献1に記載された技術思想及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-24 
結審通知日 2010-03-02 
審決日 2010-03-15 
出願番号 特願2003-514111(P2003-514111)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (F02M)
P 1 8・ 575- Z (F02M)
P 1 8・ 121- Z (F02M)
P 1 8・ 572- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 芳枝八板 直人  
特許庁審判長 小谷 一郎
特許庁審判官 金澤 俊郎
鈴木 貴雄
発明の名称 燃料圧力脈動抑制システム  
代理人 二宮 正孝  

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