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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B65D
審判 全部無効 2項進歩性  B65D
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  B65D
管理番号 1216535
審判番号 無効2006-80163  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-08-29 
確定日 2010-04-05 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2943048号「合成樹脂製ピルファープルーフキャップ」の特許無効審判事件についてされた、「訂正を認める。特許第2943048号の請求項1から5に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」とした平成20年10月16日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において、平成21年4月14日に「特許庁が無効2006-80163号事件について平成20年10月16日にした審決を取り消す。訴訟費用は原告の負担とする。」との決定(平成20年(行ケ)第10450号)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2943048号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 特許第2943048号の請求項2ないし5に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2943048号は、平成6年8月6日に出願(特願平6-204354号)されたものであって、平成11年6月25日に、その特許権の設定登録がされ、その後、平成13年9月7日付けで、「訂正を認める。特許第2943048号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。」との異議の決定(異議2000-70854号)がなされた後、請求人日本クラウンコルク株式会社から本件無効審判が請求されたものである。なお、上記決定は、確定している。
以下に、この請求以後の経緯の概要を示す。

平成18年 8月29日付け 審判請求書の提出
平成18年11月 9日付け 訂正請求書の提出
同日付け 答弁書の提出
平成19年 5月30日付け 審決
平成20年 4月23日言渡 平成19年5月30日にした審決を取り消 す旨の判決(平成19年(行ケ)第102 48号)
平成20年 6月12日付け 訂正請求書の提出
平成20年10月16日付け 審決
平成21年 4月14日付け 決定(平成20年(行ケ)第10450号 )
平成21年 5月18日付け 訂正請求書の提出
平成21年 6月22日付け 審判事件上申書の提出(被請求人より)
平成21年 8月10日付け 弁駁書の提出
平成21年 9月11日付け 訂正拒絶理由通知書の送付
平成21年 9月28日付け 審判事件上申書の提出(被請求人より)
平成21年10月15日付け 意見書の提出(被請求人より)
同日付け 手続補正書(補正対象;訂正請求書及び訂 正明細書)の提出
平成21年10月28日付け 証拠説明書の提出(被請求人より)
平成21年11月13日付け 審判事件上申書の提出(被請求人より)
平成21年12月24日付け 弁駁書の提出

なお、平成18年11月9日付け及び平成20年6月12日付け訂正請求書による訂正請求は、特許法第134条の2第4項の規定により、取り下げられたものとみなされる。

2.請求人の主張

1)請求人は、審判請求書によれば、「本件特許である、特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、以下の甲第1?6号証を証拠方法として提出しているものと認める。

甲第1号証;欧州特許庁出願公開公報0261047A1号
甲第2号証;米国特許第5031787号特許公報
甲第3号証;実願昭63-170205号(実開平2-93250号)のマイクロフィルム
甲第4号証;国際公開第92/15495号パンフレット
甲第5号証;実願昭60-115118号(実開昭62-25655号)のマイクロフィルム
甲第6号証;特開昭60-58344号公報

2)そして、請求人は、審判請求書によれば、以下の無効理由A及びBを主張しているものと認められ、他の無効理由の主張は、見当たらない。

A;本件特許の請求項1?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当するから、又は、甲第1号証に記載された上記発明に基いて当業者がその出願前に容易に発明することができたものであるから、請求項1?5に係る上記発明の本件特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
B;本件特許の請求項1?5に係る発明は、甲第4号証に記載された発明と甲第5号証に記載された発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?5に係る上記発明の本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、上記本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

3)また、請求人は、審理の全趣旨によれば、平成21年10月15日付け手続補正書により補正された同年5月18日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)が認められた場合にも、引き続き、無効理由A及びBを維持し、同趣旨の無効理由(引き続き、以下、「無効理由A」及び「無効理由B」という。)を主張しているものと認める。
なお、請求人は、平成20年6月12日付け訂正請求書の提出後、平成20年10月16日付け審決がなされるまでの間に、該訂正請求書による訂正が認められても、該訂正後における請求項1?5に係る発明は、甲第1号証又は甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨を要旨とした無効理由を主張するが、本件訂正後においては、同様の主張が見当たらず、そして、平成20年6月12日付け訂正請求書による訂正請求が、先に「1」の「1)」で述べたように、取り下げられたものとみなされることから、上記主張は、実質的に、なくなったものと認める。そもそも、該無効理由は、先に「2)」で述べたことから明らかなように、審判請求書に記載がなかったものであり、審判請求書の適法な補正無しに、主張することは許されないものであるが、いずれにしても、該無効理由についての主張は、実質的に、なくなったものと認める。

3.被請求人の主張
被請求人は、答弁書によれば、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、審理の全趣旨によれば、平成21年10月15日付け手続補正書による補正及び本件訂正は認められるものであり、そして、無効理由A及びBに理由はないと主張し、以下の乙第1?2号証を証拠方法として提出していると認める。

乙第1号証;平成13年8月6日付け訂正請求書(異議2000-70854号の異議手続きの中で提出されたもの)
乙第2号証;平成13年8月6日付け訂正請求書に添付した明細書

4.本件訂正について

4-1.平成21年10月15日付け手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)について
本件補正は、概要、平成21年5月18日付け訂正請求書に、訂正事項b、c及びiとして記載されていた、訂正事項を削除すると共に、これに合わせて、同書に添付した全文訂正明細書を補正するものと認められる。
そして、本件補正は、訂正請求書の要旨を変更するとの理由は見当たらず、また、無効審判請求人は、これに対する主張をしてはいない。
以上のことから、本件補正は、特許法第134条の2第5項の規定により準用する同法第131条の2第1項の規定を満たし、認められるものである。

4-2.本件訂正の内容
本件補正は、先に「4-1」で述べたように認められるものであって、本件訂正は、本件補正により補正された平成21年5月18日付け訂正請求書及びこれに添付した全文訂正明細書並びに乙第1?2号証の記載から見て、以下の訂正事項A?Bからなるものと認める。

訂正事項A;特許請求の範囲の記載につき、以下の旧特許請求の範囲を新特許請求の範囲と訂正する。

(旧特許請求の範囲)
【請求項1】蓋天板およびこの蓋天板の周縁から垂下する周壁から構成され、該周壁の内周面に、容器口部の外周面に形成された容器ねじ部と螺合するキャップねじ部を有する蓋本体と、複数のブリッジを介して前記蓋本体と一体的に連接されたピルファープルーフバンドと、閉栓時に、前記容器口部を密封するよう設けられた密封用パッキンとからなり、開栓時に、前記ブリッジが切れるまでは前記密封用パッキンによる前記容器口部の密封を保持し、前記ブリッジが切れると前記密封用パッキンの周縁部に当接して、これを前記容器口部上方に持上げうるパッキン案内部を前記周壁の内周面に有するとともに、前記密封用パッキンが前記容器口部の開口内に密封可能に嵌入される中足を有し、更に、前記密封用パッキンの上面又はこの上面に対向する前記蓋天板の下面に形成された空気溜り部を有することを特徴とする合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。
【請求項2】パッキン案内部が、蓋本体と一体に、又は別体に形成された環状突条からなる請求項1に記載の合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。
【請求項3】パッキン案内部が、キャップねじ部の一部である請求項1に記載の合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。
【請求項4】閉栓時に、内容物を密封した密封容器内が容器外部に対して減圧状態となる請求項1に記載の合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。
【請求項5】閉栓時に、内容物を密封した密封容器内が容器外部に対して加圧状態あるいは密封容器内の内圧が容器外部と同圧の状態となる請求項1に記載の合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。
(新特許請求の範囲)
【請求項1】蓋天板およびこの蓋天板の周縁から垂下する周壁から構成され、該周壁の内周面に、容器口部の外周面に形成された容器ねじ部と螺合するキャップねじ部を有する蓋本体と、複数のブリッジを介して前記蓋本体と一体的に連接されたピルファープルーフバンドと、閉栓時に、外周部分が蓋天板と容器口部の上面との間で挟持され、且つ下面が前記容器口部の上面全面と当接して該口部を密封するよう設けられた密封用パッキンとからなり、開栓時に、前記ブリッジが切れるまでは前記密封用パッキンによる前記容器口部の密封を保持し、前記ブリッジが切れると前記密封用パッキンの周縁部に当接して、これを前記容器口部上方に持上げうるパッキン案内部を前記周壁の内周面に有するとともに、前記密封用パッキンが前記容器口部の開口内に密封可能に嵌入される中足を有し、更に、前記密封用パッキンの上面又はこの上面に対向する前記蓋天板の下面に形成された空気溜り部を有することを特徴とする合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。
【請求項2】パッキン案内部が、蓋本体と一体に、又は別体に形成された環状突条からなり、前記空気溜り部が、前記密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の溝とからなる請求項1に記載の合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。
【請求項3】パッキン案内部が、キャップねじ部の一部であり、前記空気溜り部が、前記密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の溝とからなる請求項1に記載の合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。
【請求項4】前記空気溜り部が、前記密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の粗面とからなり、しかも、閉栓時に、内容物を密封した密封容器内が容器外部に対して減圧状態となる請求項1に記載の合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。
【請求項5】前記空気溜り部が、前記密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の粗面とからなり、しかも、閉栓時に、内容物を密封した密封容器内が容器外部に対して加圧状態あるいは密封容器内の内圧が容器外部と同圧の状態となる請求項1に記載の合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。

訂正事項B;明細書の段落【0005】の記載につき、
「【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、この発明の合成樹脂製ピルファープルーフキャップは、・・・(審決注;「・・・」は、記載の省略を示す。以下、同様。)、閉栓時に、前記容器口部を密封するよう設けられた密封用パッキンとからなり、・・・」とあるのを、
「【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、この発明の合成樹脂製ピルファープルーフキャップは、・・・、閉栓時に、外周部分が蓋天板と容器口部の上面との間で挟持され、且つ下面が前記容器口部の上面全面と当接して該口部を密封するよう設けられた密封用パッキンとからなり、・・・」と訂正する。

4-3.本件訂正の適否
ここでは、訂正前の特許請求の範囲請求項1については「旧請求項1」と、訂正後については「新請求項1」といい、他の請求項についても同様とする。

4-3-1.訂正事項Aの目的と記載根拠について

(1)新請求項1とする訂正について

1)新請求項1は、合成樹脂製ピルファープルーフキャップに係る発明に関する旧請求項1を由来とするものであって、旧請求項1に記載されていた、閉栓時に容器口部を密封するよう設けられた密封用パッキンにつき、これの外周部分が蓋天板と容器口部の上面との間で挟持され、且つその下面が前記容器口部の上面全面と当接して該口部を密封するよう設けられたものと、その設けられている態様を技術的に限定するものといえる。

2)また、願書に添付した明細書又は図面(以下、「訂正前明細書等」という。)の「【図面の簡単な説明】には「【図1】この発明に係る合成樹脂製ピルファープルーフキャップの一実施例における閉栓状態を示す構成説明図である。・・・【図4】上記実施例における閉栓状態を示す構成説明図である。」の記載と共に、【図1】及び【図4】の記載が認められ、これらの記載によれば、これら図面は、容器口部が合成樹脂製ピルファープルーフキャップにより閉栓されている時、すなわち、閉栓時、の前記容器口部と合成樹脂製ピルファープルーフキャップの関係を図示していると認められ、更に、密封用パッキンについて見れば、これが容器口部を密封するよう設けられている状態を図示しているものと認められる。
そこで、上記図面を詳しく見ると、密封用パッキン9の外周部分は、蓋本体6の蓋天板1と容器口部3の上面との間に位置していることが見て取れる。そして、キャップねじ部5を有する蓋本体6は、容器ねじ部4を有する容器口部3に螺合して、これら図面でいえば、その下方方向に移動して容器口部3を閉栓するものであることは明らかであるから、上記外周部分が蓋天板1と容器口部3の上面との間で挟持されていることは、当業者によって普通に理解されるものである。更に、【図1】に接した当業者にしてみれば、密封用パッキン9の下面が容器口部3の上面全面と当接していると解するのも、自然のことといえる。
以上の検討を踏まえると、閉栓時に容器口部を密封するよう設けられた密封用パッキンにつき、これの外周部分が蓋天板と容器口部の上面との間で挟持され、且つその下面が前記容器口部の上面全面と当接して該口部を密封するよう設けられてたものは、訂正前明細書等に記載されていた事項ということでできる。

3)してみると、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

(2)新請求項2及び3とする訂正について

1)新請求項2は、旧請求項1を引用して記載する旧請求項2を由来とするもので、また、新請求項3は、旧請求項1を引用して記載する旧請求項3を由来とするものであって、これら訂正は、共に、旧請求項1に記載されていた空気溜り部につき、これが密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の溝とからなるものと、その技術的内容を限定するものといえる。

2)また、訂正前明細書等の段落【0013】には、「例えば、図2に示されているように、パッキン9の上面には、分割片14上で、その円周方向(H方向)に同心円状に形成されたそれぞれ複数の溝13と、各分割片14により囲まれた円形の凹部15と、分割片14,14間の隙間Nとからなる空気溜り部12が形成されている。」、また、段落【0027】には、「また、空気溜り部の変形例として、図6および図7に示すものがある。図6において、パッキンの上面には、径方向(R方向)にそれぞれ複数の溝13を有する分割片14と、各分割片14により囲まれた円形の凹部15が形成されている。図7においては、パッキンの上面に形成された円形の凹部15が、それぞれ粗面を有する分割片14により囲まれている。」の記載が認められ、空気溜り部につき、これが密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の溝とからなるものは、訂正前明細書等に記載されていた事項ということでできる。

3)してみると、共に旧請求項1を引用して記載する旧請求項2と3を由来とする、これら訂正は、旧請求項1を由来とする新請求項1とする訂正についての先の「(1)」での検討を踏まえても、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

(3)新請求項4及び5とする訂正について

1)新請求項4は、旧請求項1を引用して記載する旧請求項4を由来とするもので、また、新請求項5は、旧請求項1を引用して記載する旧請求項5を由来とするものであって、これら訂正は、共に、旧請求項1に記載されていた空気溜り部につき、これが密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の粗面とからなるものと、その技術的内容を限定するものといえる。

2)また、訂正前明細書等の段落【0027】には、先に「(2)」の「2)」で摘示したとおりの記載が認められ、同じく「2)」で摘示した段落【0013】の記載等を併せ見れば、空気溜り部につき、これが密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の粗面とからなるものは、訂正前明細書等に記載されていた事項ということでできる。

3)してみると、共に旧請求項1を引用して記載する旧請求項4と5を由来とする、これら訂正は、旧請求項1を由来とする新請求項1とする訂正についての先の「(1)」での検討を踏まえても、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

4-3-2.訂正事項Bの目的と記載根拠について
訂正前明細書等の段落【0005】は、実質的には、旧請求項1の記載の事項を書き写す段落で、訂正事項Bは、訂正事項Aで請求項1に記載の事項が訂正されたのに伴い、同段落の記載を訂正するもので、先に「4-3-1」の「(1)」で検討したことから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、また、訂正前明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。

4-3-3.本件訂正の実質変更・拡張について
本件訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見当たらない。

4-3-4.まとめ
本件訂正は、特許法第134条の2第1項の規定を満たし、また、同条第5項において準用する特許法第126条第3?5項の規定に適合するので、これを認める。
なお、請求人は、上述した、第1項の規定を満たしていることや、第3?5項の規定に適合することに対し、実質的に、主張をしてはいない。

5.無効理由の判断
無効理由A及びBについて、見ていくことにする。

5-1.本件に係る発明
本件訂正は、先に「4」で述べたように、認められるものであって、本件特許の請求項1?5に係る発明(以下、「本件訂正発明1?5」という。)は、本件訂正後の、願書に添付した明細書又は図面(以下、「訂正後明細書等」という。)によれば、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載のとおりのものと認める。(審決注;先に「4-2」において、訂正事項Aで認定した新特許請求の範囲の記載を参照。)

5-2.無効理由Aについて

5-2-1.甲第1号証に記載の発明

1)甲第1号証には、以下の記載ア及びイが認められる。

ア;「The multi-use screw-on cap?(省略)?a helical filleting(2)」(2頁右欄61?63行)
(訳文)「多用途ねじキャップは、その内面上にねじ(2)が形成された鉛直な壁(1)を有する筒形状の本体から構成されており、」
イ;「Said screwthreads?(省略)?with the cap.」(3頁左欄3?42行)
(訳文)「先のねじは、キャップの底部を構成する基壁(4)と共に、室(5)を形成し、この中に、ストッパが移動自在に収容されている。
キャップの底部の中央部には、ストッパを瓶のネックに密封するのに寄与する凸状隆起部(6)が存在する。
キャップは、更に、その先端に、容易に破断され得るポイント(8)によって本体に接続された密封フラップ(7)を有する。
キャップ内に収容されているストッパは、フランジ形態の平坦部(9)と、その片面から延在する円錐形状ネック(10)から構成されている。このネックの中間部には同様に円錐形状ステッパ(11)が形成されている。
ストッパは、キャップの室(5)内に移動自在に収容され、キャップのねじに保持され、キャップが鉛直方向に移動する際にフランジ(9)に当接する。
いったんストッパがキャップ内に収容されると、あとの方ではっきりされるように、瓶のネックへのストッパの保持が維持され、瓶のネックの外側の口部に近いところに、帯(13)と共に周辺リブ(14)がある。
このために、キャップは、瓶のネックの外側螺条に螺合され、同時にストッパの円錐形状ネック(10)が瓶のネック内の内側に密封嵌入するまで鉛直方向に進入する。
円錐形状ネック(10)が瓶のネック内に完全に進入すると、ストッパの円錐形状ステッパ(10)が瓶のネックの上端に位置し、これによって密封が補強される。
他方、キャップの螺合が解除される時には、キャップのねじ(2)の内側部がストッパのフランジ(9)に当接してストッパを引っ張り、瓶のネックからストッパを緩め、キャップと共に離脱させる。」

2)甲第1号証には、FIG.-1(図1)及びFIG.-2(図2)が記載され、記載ア及びイが、これら図面を参照しつつ記載されていることは明らかで、これら図面を見ると、記載ア及びイに記載の事項につき、特に、以下に箇条書きで示す技術的事項を見ることができる。

・閉栓時において、ストッパの上面と基壁(4)の下面との間であって、凸状隆起部(6)の周囲に空間が存在している点。
・フランジ(9)は、円錐形状ネック(10)と段部を介して形成されている点。
・記載イの「the conical stepper(10)」(3欄34行)(円錐形状ステッパ(10))が「the conical stepper(11)」(円錐形状ステッパ(11))の誤記であることは明らかであって、閉栓時には、円錐形状ネック(10)が瓶のネックの内に挿入され、円錐形状ステッパ(11)が瓶のネックの上面内周縁と当接して、瓶の口部を密封するよう設けられている点。

また、開栓時に、すなわち、図2の状態から多用途ねじキャップを上昇させる際に、密封フラップ(7)は、本体と共に上昇するのであって、その際に、密封フラップ(7)は、その上端が周辺リブ14の下端に当接することにより、その上昇が阻止され、そのために、複数のポイント(8)が破断されることは明らかであるが、図2をみると、壁(1)の内周面に設けられたねじ(2)の最上部と、ストッパのフランジ(9)の下面との間隔は、密封フラップ(7)の上端と、周辺リブ14の下端との間隔より明らかに大きく記載されているから、開栓時には、まず、複数のポイント(8)が破断され、続いて、上記最上部がフランジ(9)に当接し、ストッパを瓶の口部の上方に持上げるものと認められる。また、複数のポイント(8)が破断されるまでは、ストッパによる前記口部の密封が保持されていることは明らかである。

以上の検討を踏まえると、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「基壁4およびこの基壁4の周縁から垂下する壁1から構成され、壁1の内周面に、瓶の口部を形作るネックの外周面に形成された外側螺条と螺合するねじ部2を有するキャップと、複数のポイント8を介してキャップと一体的に連接された密封フラップ7と、
その上下方向中間部に円錐形状ステッパ11が形成された円錐形状ネック10と、該円錐形状ネック10と段部を介して形成されたフランジ9を有するストッパであって、閉栓時に、円錐形状ネック10が瓶のネックの内に挿入され、円錐形状ステッパ11が瓶のネックの上面内周縁と当接して上記口部を密封するよう設けられたストッパとからなり、
開栓時に、複数のポイント8が切れるまではストッパによる前記口部の密封を保持し、複数のポイント8が切れると、ストッパの周縁を構成するフランジ9に当接して、これを前記口部の上方に持上げうる、ねじ部2の最上部を壁1の内周面に有すると共に、
前記ストッパが前記口部内に密封可能に嵌入される円錐形状ネック10を有し、
更に、ストッパの上面に対向する基壁4の下面に形成されている凸状隆起部6の周囲であって、ストッパの上面と基壁4の下面との間に存在する空間を有する、密封フラップ7とキャップから成る多用途ねじキャップ。」に係る発明

5-2-2.対比判断

1)甲1発明が、ピルファープルーフキャップに係るものであることは明らかであって、本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「基壁4」、「瓶」、「キャップ」、「ポイント8」、「密封フラップ7」、「ストッパ」、「フランジ9」、「ねじ部2の最上部」、「円錐形状ネック10」及び「空間」は、「蓋天板」、「容器」、「蓋本体」、「ブリッジ」、「ピルファープルーフバンド」、「密封用パッキン」、「密封用パッキンの周縁部」、「パッキン案内部」、「中足」及び「空気溜り部」に、それぞれ、相当し、両者発明は、以下の点で一致し、

「蓋天板およびこの蓋天板の周縁から垂下する周壁から構成され、該周壁の内周面に、容器口部の外周面に形成された容器ねじ部と螺合するキャップねじ部を有する蓋本体と、複数のブリッジを介して前記蓋本体と一体的に連接されたピルファープルーフバンドと、閉栓時に、容器口部を密封するよう設けられた密封用パッキンとからなり、開栓時に、前記ブリッジが切れるまでは前記密封用パッキンによる前記容器口部の密封を保持し、前記ブリッジが切れると前記密封用パッキンの周縁部に当接して、これを前記容器口部上方に持上げうるパッキン案内部を前記周壁の内周面に有するとともに、前記密封用パッキンが前記容器口部の開口内に密封可能に嵌入される中足を有し、更に、前記密封用パッキンの上面又はこの上面に対向する前記蓋天板の下面に形成された空気溜り部を有する、ピルファープルーフキャップ。」

少なくとも、以下の相違点Aで相違しているものと認められる。

相違点A;本件訂正発明1は、密封用パッキンが、「閉栓時に、該密封用パッキンの外周部分が蓋天板と容器口部の上面との間で挟持され、且つ下面が前記容器口部の上面全面と当接して該口部を密封するよう設けられた」ものである点。

そして、本件訂正発明1は、甲1発明と相違する相違点Aを有するのであるから、甲1発明であるということはできない。

2)次に、相違点Aが容易に想到し得るかについて検討する。
甲1発明におけるストッパは、先に「1)」で述べたように、本件訂正発明1の密封用パッキンに相当するものであるが、該ストッパは、その上下方向中間部に円錐形状ステッパ11が形成された円錐形状ネック10と、該円錐形状ネック10と段部を介して形成されたフランジ9を有するストッパであって、閉栓時に、円錐形状ネック10が瓶のネックの内に挿入され、円錐形状ステッパ11が瓶のネックの上面内周縁と当接して瓶の口部を密封するよう設けられたものであり、瓶のネックの上面に対しては、その内周縁でのみ、接しているのである。そして、該ストッパは、円錐形状ステッパ11が瓶のネックの上面内周縁と当接するようにし、そのことにより、瓶の口部の密封を強固なものとしているものと認められ、このことは、記載イからも明らかである。
更に、甲1発明における「空間」は、先に「1)」で述べたように、本件訂正発明1の「空気溜り部」に相当するものであるが、その周囲に上記「空間」を有する凸状隆起部6も、記載イ及び図2によれば、上記閉栓時に、ストッパを下方に押圧しすることにより、該ストッパの円錐形状ネック10と協働して、瓶の口部の密封を強固なものとしているものと認められ、甲1発明における「空間」は、要するに、凸状隆起部6を形成することにより、付随的に、構成された空間ということができる。
してみると、上述したような瓶の口部の密封を強固なものにするとの技術的意義を顧みることなく、甲1発明に変更を加え、少なくとも、甲1発明のストッパを、閉栓時に、その外周部分が基壁4と瓶の口部の上面との間で挟持されるように構成したり、ましてや、該外周部分の下面が前記口部の上面全面と当接するよう構成すること、すなわち、相違点Bは、容易に想到し得たとはいえない。

3)この点に関し、請求人は、要するに、甲1発明におけるストッパに相当する部品において、閉栓時に、その外周部分が蓋天板と容器口部の上面との間で挟持され、且つ下面が前記容器口部の上面全面と当接して該口部を密封するよう設けられた上記部品は、この出願前の周知技術であって、該周知技術を甲1発明に適用することは容易になし得るもので、相違点Aは、容易に想到し得ると主張するが、以下に述べるように、該主張に理由はない。
甲1発明は、先に「2)」で述べたことから明らかなように、上下方向中間部に円錐形状ステッパ11が形成された円錐形状ネック10と、該円錐形状ネック10と段部を介して形成されたフランジ9を有するストッパとし、すなわち、ストッパの外周部分の下面が容器口部の上面全面と当接しない構造を採ることにより、瓶の口部の密封を強固なものとしているのであるし、また、その周囲に空間を有する凸状隆起部6を設け、すなわち、ストッパの外周部分の上面と基壁4の下面との間に空間をもたせる構造を採ることにより、やはり、瓶の口部の密封を強固なものとしているのであるから、請求人の周知技術である旨の主張が、仮に、妥当であるとしても、該周知技術を甲1発明に適用することが容易になし得るとはいえない。

4)よって、本件訂正発明1は、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明から容易に発明することができたものともいえない。

5)本件訂正発明2?5は、本件訂正発明1の、いわゆる、発明特定事項を、より技術的に限定したものであることは、訂正後明細書等の特許請求の範囲の記載から明らかであって、本件訂正発明1が、これまで述べたように、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明から容易に発明することができたといえない以上、本件訂正発明2?5も、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明から容易に発明することができたとはいえない。
本件訂正発明2?5については、上述したとおりであるが、以下に簡単に補足する。
本件訂正発明2?5は、甲1発明とは、以下の相違点Bにおいても、相違していると認められる。

相違点B;本件訂正発明2?5は、空気溜り部が、密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の溝とからなるか、或いは、密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の粗面とからなる点。

甲1発明における空間は、先に「1)」で述べたように、本件訂正発明1の空気溜り部に相当するものであるが、上記空間は、先に「2)」で述べたように、凸状隆起部6を形成することにより、付随的に、構成された空間ということができるものであって、該空間をストッパ上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の溝とからなるように構成したり、或いは、ストッパ上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の粗面とからなるように構成することは、到底、容易に想到し得たとはいえない。
よって、相違点Bは、容易に想到し得たとはいえないから、やはり、本件訂正発明2?5は、甲1発明であるとはいえず、また、甲1発明から容易に発明することができたものともいえない。

5-2-3.まとめ
本件訂正発明1?5は、甲1発明であるとはいえず、甲1発明から容易に発明することができたともいえず、本件訂正発明1?5が甲第1号証に記載された発明であるとか、該発明から容易に発明することができたとする根拠は、見当たらない。
よって、本件訂正発明1?5の本件特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、無効理由Aに理由はない。

5-3.無効理由Bについて

5-3-1.甲第4、5号証に記載の発明

1)甲第4、5号証には、以下の記載ウ?エが認められる。

(甲第4号証)
ウ;「The container shown?(省略)?the retaining ring 30.」(6頁19行?8頁23行)
(訳文)「図示の容器はPETの如きプラスチック材料から形成された瓶であり、ネック12を有している。ネック12には内壁13、外壁14及び両者間のリム15(図2)が配設されている。外壁にはねじ16及び周縁カラー17が配設されている。この容器は通常の構成である。
図示のキャップ20は天板21及び周縁スカート22を有する。スカートの外壁には、キャップを手で把持し易くするための、交互に位置する軸線方向溝23と軸線方向リブ24が配設されている。タンパーエビデントバンド25も配設されている。図2に示す如く、バンド25は、間隔をおいて配置された破断可能なウエブ26によって周知の様式で、スカート22に接続されており、バンドはカラー17によって瓶11のネック12上に拘束されている。スカートは、瓶のねじ16に螺合する雌ねじ28を有する。バンド及びカラーは、キャップが螺着されるとバンドがカラーを通過し、キャップを瓶から離脱する時にはバンドがカラーに係合し破断可能なウエブが破壊される、ように構成されている。
スカートのねじ28とキャップの天板21との間には、環状保持リング30が配設されている。リングは全体として細長い三角形状の断面を有し、スカートから遠ざかるに従って先細になっている。リングは半径方向に延出して瓶の口部の外壁14に弾性的に係合する。リングは弾性的に変形されて外壁14に加圧密封30aを生成する。
密封用パッキン31が配設されており、保持リング30によってキャップの天板に隣接して保持されている。パッキンはキャップよりも柔軟性が優れ且つ化学的バリア性に優れた材料から形成されている。パッキン及びキャップの材料はグレードが異なったポリエチレンでよい。
パッキンには、天板21から延出する半径方向内側突条33と半径方向外側突条34とが配設されている。内側突条33は外側突条34よりも長く、瓶の口部の内壁13に弾性的に密封係合する凸状外側面33aを有する。外側突条34は天板21に対して鋭角をなして外方に延びており、瓶の口部のリム15の外側縁15aに弾性的に密封係合される内壁34aを有する。双方の突条共図2では成形された状態で図示されているが、図3は口部に係合して変形された突条を図示している。
上述した構成は3点加圧密封を提供し、これらは製造における公差を許容する。全ての密封は先端縁密封であり、容器の開封及び閉栓に過度の力が要求されることが回避されている。
キャップへのパッキンの装着を容易化するために、外側突条34はキャップ軸線に対して鋭角をなす外壁を有する。これによって傾斜面が提供され、突条の柔軟性と共に、パッキンが保持リング30を通過することを可能にする。」

(甲第5号証)
エ;「従来の中栓付キャップとしては、例えば、第7図及び第8図に示すようなものがある。斯かる従来例にあっては、ボトル100から中栓101を取り出す手間を省くため、中栓101がキャップ102の奥に装着され取れないようになっており、キャップ102を開方向へ回動すれば中栓101もキャップ102と同時にノズル部100aから外れてボトル100の開口操作を容易にできるものである。従って、このキャップ構造においては、中栓101が外れないようにするために、キャップ102のネジ奥に環状のアンダーカット102aが設けられていて、このアンダーカット102aに中栓101の基部101aが係合せしめられている。」(明細書1頁末行?2頁13行)

2)甲第4号証には、FIG.1(図1)?FIG.3(図3)が記載され、記載ウが、これら図面を参照しつつ記載されていることは明らかであって、記載ウによれば、密封用パッキン31が保持リング30によってキャップの天板21に隣接して保持されているのであり、また、図3を見ると、開栓時における保持リング30は、その上昇によって、密封用パッキン31の半径方向外側突条34に当接することが見て取れるから、上記キャップの開栓時に、保持リング30は、密封用パッキン31の半径方向外側突条34に当接して、これを瓶の口部を形作るネックの上方に持上げうるものと認められる。また、同じく、図3を見ると、半径方向外側突条34を含むその外周部分が、全体としてみれば、天板21とリム15の上面との間で挟持されていることが見て取れる。
そして、甲第4号証には、記載ウによれば、以下の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。

「天板21およびこの天板21の周縁から垂下する周縁スカート22から構成され、該周縁スカート22の内周面に、瓶11の口部を形作るネックの外壁14に形成されたねじ16と螺合するねじ28を有するキャップ20と、間隔をおいて配置された破断可能なウエブ26を介してキャップ20に配設されたタンパーエビデントバンド25と、閉栓時に、上記口部を密封するよう設けられた密封用パッキン31とからなり、開栓時には、タンパーエビデントバンド25がカラー17に係合しウエブ26が破壊されるもので、同じく、開栓時に、密封用パッキン31の半径方向外側突条34に当接して、これを前記口部の上方に持上げうる保持リング30を周縁スカート22の内周面に有し、密封用パッキン31が前記口部の開口内に密封可能に嵌入される内側突条33を有する、ポリエチレン製ピルファープルーフキャップであって、
上記ネックには、内壁13と前記外壁14、及びこれらの間のリム15が配設され、また、密封用パッキン31は、上記閉栓時に、半径方向外側突条34を含むその外周部分が、全体として、天板21とリム15の上面との間で挟持された、ポリエチレン製ピルファープルーフキャップ。」

甲第5号証の記載エは、従来の中栓付キャップとしての記載であって、第7図を参照しつつ記載されており、また、第2図は、該中栓付キャップについてのものではないものの、甲第5号証の記載からして、上記中栓付キャップについての理解を助けるものと認められる。
そこで、第7図を見ると、ここには、中栓101の上面とこれに対向する天板部分の下面との境の箇所に、その左右方向に平行な三本の線が描かれ、この部分が、上記上面と上記下面との間に設けられた空気溜り部であることは、第2図において、第7図の上述した天板部分の下面に相当する箇所が凹部として記載されていることから、当業者が普通に理解できるものと認められる。また、第7図は、閉栓時を図示したものであることが明らかであって、該図からは、中栓101の外周部分が、キャップ102の天板部分と容器口部の上面との間で挟持されていることが見て取れ、更に、前記外周部分の挟持されている部分について見ると、該部分には下方へ突出する凸部が形成され、容器口部の上面に対しては、該凸部で部分的に接していることも見て取れる。
そして、開栓時に、上記中栓付キャップは、キャップ102の周壁の内周面に形成されたアンダーカット102aが中栓101の基部101aに係合して、これを容器口部の上方に持上げよう構成されていることは、記載エの記載から明らかである。
してみると、甲第5号証には、以下の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。

「開栓時に、キャップ102の周壁の内周面に形成されたアンダーカット102aが中栓101の基部101aに係合して、これを容器口部の上方に持上げよう構成されている中栓付キャップにおいて、
閉栓時に、外周部分がキャップ102の天板部分と容器口部の上面との間で挟持され、且つ下面が前記容器口部の上面と部分的に当接して容器口部を密封するよう設けられた中栓101であって、その上面と、この上面に対向する上記天板部分の下面とで形成された空気溜り部を有する中栓付キャップ」についての発明

5-3-2.対比判断

(1)本件訂正発明1について

1)本件訂正発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「天板21」、「周縁スカート22」、「瓶11」、「キャップ20」、「ウエブ26」、「半径方向外側突条34」、「保持リング30」及び「内側突条33」は、「蓋天板」、「周壁」、「容器」、「蓋本体」、「ブリッジ」、「密封用パッキンの周縁部」、「パッキン案内部」及び「中足」に、それぞれ、相当し、両者発明は、以下の点で一致し、

「蓋天板およびこの蓋天板の周縁から垂下する周壁から構成され、該周壁の内周面に、容器口部の外周面に形成された容器ねじ部と螺合するキャップねじ部を有する蓋本体と、複数のブリッジを介して前記蓋本体と一体的に連接されたピルファープルーフバンドと、閉栓時に、上記容器口部を密封するよう設けられた密封用パッキンとからなり、開栓時に、前記密封用パッキンの周縁部に当接して、これを前記容器口部上方に持上げうるパッキン案内部を前記周壁の内周面に有するとともに、前記密封用パッキンが前記容器口部の開口内に密封可能に嵌入される中足を有する、合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。」

以下の相違点C及びDで相違しているものと認められる。

相違点C;本件訂正発明1は、密封用パッキンが、「閉栓時に、該密封用パッキンの外周部分が蓋天板と容器口部の上面との間で挟持され、且つ下面が前記容器口部の上面全面と当接して該口部を密封するよう設けられた」ものであって、「密封用パッキンの上面又はこの上面に対向する蓋天板の下面に形成された空気溜り部を有する」点。
相違点D;本件訂正発明1は、「開栓時に、ブリッジが切れるまでは密封用パッキンによる容器口部の密封を保持し、前記ブリッジが切れると前記密封用パッキンの周縁部に当接して、これを前記容器口部上方に持上げうるパッキン案内部を蓋本体の周壁の内周面に有する」点

2)相違点Cについて検討する。
容器口部を密封する、内蓋である中栓と外蓋であるキャップとからなる蓋構造物において、閉栓時に、中栓の下面が、容器口部の上面全面と当接して容器口部を密封するよう構成することは、この出願当時における周知技術と認められる(甲第3号証、特開昭59-4447号公報、米国特許第3788510号特許公報、参照)。
そして、甲4発明と甲5発明とを比べると、前者発明がタンパーエビデントバンド25を有するピルファープルーフキャップであって、後者発明はタンパーエビデントバンドを有さない蓋構造物であるものの、甲4発明の密封用パッキン31と甲5発明の中栓101とは、共に、内蓋といえるもので、しかも、開栓時に、外蓋に形成された係合部が内蓋である中栓に係合して、これを容器口部の上方に持上げよう構成されているものであるから、密封用パッキン31に代えて、甲5発明の中栓101を甲4発明の内蓋に用い、併せて、甲4発明の天板21に、中栓101と共に空気溜り部を形成する甲5発明の天板部分の技術を適用することは容易に想到し得るもので、また、その際に、上述した周知技術を適用し、中栓101の外周部分下面が容器口部の上面全面と当接して該口部を密封するよう設計することは容易に想到し得るものといえる。
以上のことから、相違点Cは、甲5発明に基づいて容易になし得たものといえる。

3)相違点Dについて検討すると、この点も、以下に詳述するように、容易になし得たものといえる。

3-1)この出願前に頒布された刊行物であることが明らかな甲第2号証は、以下の記載が認められる。

オ;「The package 10?(省略)?of container11.」(3欄3?17行)
(訳文)「図1に示されているパッケージ10は、容器11と蓋12とから構成されている。容器11は雄ねじ16と上端の密封リム17を備えた上部即ち口部15を有する。ねじ16の下方には下方に向いたロッキング面19を備えた環状ロッキングリブ18が形成されている。(後に明らかになるとおり、ロッキングリム18の機能は、蓋が開封される時にタンパーエビデント手段を破断させることである。)蓋12は別個に形成された上部即ち挿入ディスク25を有する複合蓋であり、ディスク25は包囲シェル26内に収容され保持されている。シェル26は挿入ディスク25の周縁を覆う天板27と、容器11の雄ねじと協働する1条或いは数条の雌ねじ29が有する円筒形状のスカート28とからを構成されている。」
カ;「In the embodiment?(省略)?by small bridges 38.」(3欄24?26行)
(訳文)「具体的には、タンパーエビデントバンド34は、複数の小さいなブリッジ38で、スカート28と連結している。」
キ;「Skirt 28 has?(省略)?inside surface.」(3欄60行)
(訳文)「スカート28はその内周面上にデスク持ち上げビード48を有する。」
ク;「It is desirable?(省略)?to be separated.」(4欄57?68行)
(訳文)「タンパーエビデントバンド34は、ビード48がディスク25に係合してこれを持ち上げて真空を破壊する前に破断されるのが好ましい。このためには、ビード48がディスク25に係合してこれを持ち上げる前に、蓋が充分に開方向に回転されて、バンド保持部42がロッキングリブ18の面19に係合し、易破壊手段38を破壊することが必要である。タンパーエビデントバンド48が破断され完全に或いは部分的に蓋11から分離されると、密封が実際に破壊されなくともタンパリング(いたずら)が明示される。かくして、最初にタンパーエビデントバンドが分離されることなく、ディスク25が持ち上げられることは不可能である。」

甲第2号証には、容器口部を密封する蓋12についての発明が記載され、FIG.1?3を参照し、これら記載オ?クによれば、蓋12は、挿入ディスク25と、タンパーエビデントバンド34とブリッジ38を介して連結しているスカート28を有するシェル26とからなり、その開栓時に、ブリッジ38が切れるまでは挿入ディスク25による容器口部の密封を保持し、ブリッジ38が切れると挿入ディスク25の周縁部に当接して、これを前記容器口部上方に持上げうるビード48をスカート28の内周面に有していることが窺える。

3-2)また、甲1発明は、先に「5-2-1」で認定したとおりの、密封フラップ7と、これとポイント8を介して連結しているキャップと、容器口部を密封するストッパとからなる多用途ねじキャップであって、その開栓時に、ポイント8が切れるまではストッパによる容器口部の密封を保持し、ポイント8が切れると、ストッパの周縁を構成するフランジ9に当接して、これを前記容器口部の上方に持上げうる、ねじ部2の最上部を壁1の内周面に有するものである。

3-3)そして、先に「3-1)」で述べた、甲第2号証に記載の発明における「挿入ディスク25」、「タンパーエビデントバンド34」、「ブリッジ38」及び「ビード48」や、甲1発明の「ストッパ」、「密封フラップ7」、「ポイント8」及び「ねじ部2の最上部」は、それぞれ、甲4発明の「密封用パッキン31」、「タンパーエビデントバンド25」、「ウエブ26」及び「保持リング30」に対応するものであるが、以上の検討を踏まえると、甲4発明において、その開栓時に、ウエブ26が切れるまでは密封用パッキン31による容器口部の密封を保持し、ウエブ26が切れると密封用パッキン31の周縁部に当接して、これを前記容器口部上方に持上げうる保持リング30を持つ構成とすることは、容易になし得る設計的な事項といえる。
以上のことから、相違点Dも容易になし得たものといえる。

4)以上述べたとおり、相違点C及びDは、容易になし得たもので、本件訂正発明1は、甲4発明と甲5発明に基いて、当業者がその出願前に容易に発明をすることができたものといえる。

(2)本件訂正発明2?5について
本件訂正発明2?5は、先に「5-2-2」の「5)」で述べたように、本件訂正発明1の発明特定事項を、より技術的に限定したものであって、甲4発明とは、先に「(1)」の「1)」で相違点Cとして認定した、「密封用パッキンの上面又はこの上面に対向する蓋天板の下面に形成された空気溜り部を有する」点における空気溜り部につき、これが、更に、以下の相違点Eとしても、相違していると認められる。

相違点E;本件訂正発明2?5は、空気溜り部が、密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の溝とからなるか、或いは、密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の粗面とからなる点。

そこで、相違点Eについて検討すると、「密封用パッキンの上面又はこの上面に対向する蓋天板の下面に形成された空気溜り部を有する」とすることは、先に「(1)」の「2)」で述べたように、空気溜り部を有する中栓付キャップについての甲5発明に基づいて容易になし得たものといえるのであるが、甲5発明における該空気溜り部については、先に「5-3-1」の「2)」で述べたことから明らかなように、甲第5号証の第7図に三本の線として描かれた部分を当業者が見れば、該部分が空気溜り部であると普通に理解できると認定できるのであって、甲第5号証からは、それ以上の技術的内容を窺い知ることはできず、ましてや、この三本の線として描かれた部分を中栓101上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の溝とからなる空気溜り部に構成したり、或いは、中栓101上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の粗面とからなる空気溜り部に構成した上で、甲5発明を甲4発明に適用することは、到底、容易に想到し得たとはいえない。
よって、相違点Eは、容易に想到し得たとはいえない。

5-3-3.まとめ
無効理由Bは、本件訂正発明1については理由があり、本件訂正発明2?5については理由があるとはいえない。

5-3-4.備考
本件に係る発明は、甲第1号証又は甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない旨を要旨とした無効理由の主張は、先に「2」の「3)」で述べたように、実質的に、なくなったものであるが、本件訂正発明2?5について該無効理由と同趣旨の無効理由を検討しても、甲第1号証には、先に「5-2-2」の「5)」で述べたことから明らかなように、本件訂正発明2?5の空気溜り部が記載されておらず、また、甲第6号証にも該空気溜り部が記載されていないのは明らかで、少なくとも、本件訂正発明2?5が、甲第1号証又は甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえないものである。

6.むすび
本件訂正発明1についての本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであり、また、本件訂正発明2?5についての本件特許を無効とすべき理由は見当たらない。
審判に関する費用については、特許請求の範囲の請求項全てに対した訂正が為されたことに鑑み、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第64条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
合成樹脂製ピルファープルーフキャップ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】蓋天板およびこの蓋天板の周縁から垂下する周壁から構成され、該周壁の内周面に、容器口部の外周面に形成された容器ねじ部と螺合するキャップねじ部を有する蓋本体と、複数のブリッジを介して前記蓋本体と一体的に連接されたピルファープルーフバンドと、閉栓時に、外周部分が蓋天板と容器口部の上面との間で挟持され、且つ下面が前記容器口部の上面全面と当接して該口部を密封するよう設けられた密封用パッキンとからなり、開栓時に、前記ブリッジが切れるまでは前記密封用パッキンによる前記容器口部の密封を保持し、前記ブリッジが切れると前記密封用パッキンの周縁部に当接して、これを前記容器口部上方に持上げうるパッキン案内部を前記周壁の内周面に有するとともに、前記密封用パッキンが前記容器口部の開口内に密封可能に嵌入される中足を有し、更に、前記密封用パッキンの上面又はこの上面に対向する前記蓋天板の下面に形成された空気溜り部を有することを特徴とする合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。
【請求項2】パッキン案内部が、蓋本体と一体に、又は別体に形成された環状突条からなり、前記空気溜り部が、前記密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の溝とからなる請求項1に記載の合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。
【請求項3】パッキン案内部が、キャップねじ部の一部であり、前記空気溜り部が、前記密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の溝とからなる請求項1に記載の合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。
【請求項4】前記空気溜り部が、前記密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の粗面とからなり、しかも、閉栓時に、内容物を密封した密封容器内が容器外部に対して減圧状態となる請求項1に記載の合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。
【請求項5】前記空気溜り部が、前記密封用パッキン上面に形成された分割片により囲まれた円形の凹部と、該分割片間の隙間と、該分割片上の粗面とからなり、しかも、閉栓時に、内容物を密封した密封容器内が容器外部に対して加圧状態あるいは密封容器内の内圧が容器外部と同圧の状態となる請求項1に記載の合成樹脂製ピルファープルーフキャップ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、飲料用瓶等の容器の口部に被せられる合成樹脂製ピルファープルーフキャップに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、容器の密封用パッキン(以下パッキンという)を有するピルファープルーフキャップとして、パッキンが蓋本体の蓋天板の内面の所定位置に保持されており、キャップの開栓時には、パッキンが蓋本体と同時に持ち上げられてパッキンによる容器の密封を解除するようにしたものが提案されている(特公昭62-18421号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このような構成では、キャップが全開しないまでも、いたずら等により開栓動作が行われる、いわゆる、ちょい回しがなされると、キャップを容器口部に機械的に係止するためのバンドを保持するブリッジが切れてもいないのにパッキンがキャップと共に持上ったり、もしくは、持上がらないまでもパッキンの共回りにより、容器の密封が解除されて気密漏れが生じてしまうおそれがある。
そして、この種キャップは、(1)内容物を密封した密封容器内が容器外部に対して加圧状態となったり、(2)密封容器内の内圧が容器外部と同じ状態となって、パッキンを容器口部に密着させ続けたりする場合に使用されたり、また、この種キャップが、(3)高温液体を充填した容器や、液体充填後高温処理が付される容器の密封に使用され、室温まで冷却された際、その密封容器内が減圧状態となって容器内部に発生した真空によってパッキンを容器口部に密着させ続ける場合には容器充填物の保護の観点からして好ましくない。例えば、上記(1)の場合は、ガス漏れが生じたり、上記(2)及び(3)の場合には、外気と共に雑菌が入り易く、そのために、上記上記(1)、(2)及び(3)共、内容物の変質や腐敗を生じ易い。
【0004】
この発明は、上記問題に鑑みてなしたもので、その目的は、簡単な構成で、開栓時に、少なくともパッキンの共回りを防止でき、かつブリッジが切れるまでは容器の密封を保持できる合成樹脂製ピルファープルーフキャップを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、この発明の合成樹脂製ピルファープルーフキャップは、蓋天板およびこの蓋天板の周縁から垂下する周壁から構成され、該周壁の内周面に、容器口部の外周面に形成された容器ねじ部と螺合するキャップねじ部を有する蓋本体と、複数のブリッジを介して前記蓋本体と一体的に連接されたピルファープルーフバンドと、閉栓時に、外周部分が蓋天板と容器口部の上面との間で挟持され、且つ下面が前記容器口部の上面全面と当接して該口部を密封するよう設けられた密封用パッキンとからなり、開栓時に、前記ブリッジが切れるまでは前記密封用パッキンによる前記容器口部の密封を保持し、前記ブリッジが切れると前記密封用パッキンの周縁部に当接して、これを前記容器口部上方に持上げうるパッキン案内部を前記周壁の内周面に有するとともに、前記密封用パッキンが前記容器口部の開口内に密封可能に嵌入される中足を有し、更に、前記密封用パッキンの上面又はこの上面に対向する前記蓋天板の下面に形成された空気溜り部を有することを特徴とする。
【0006】
【0007】
【0008】
この発明におけるパッキン案内部としては、蓋本体の周壁の内周面に設けられ、密封用パッキンの周縁部に当接する環状突条からなるものを挙げることができる。すなわち、この環状突条は、閉栓時に、密封用パッキンを蓋本体の蓋天板下面側に保持した状態で容器口部に蓋本体を装着できるように機能するものであって、蓋本体を閉栓方向に回転させ、キャップねじ部が容器ねじ部に沿って移動することで蓋天板下面と環状突条間で、かつ該環状突条に保持されている前記密封用パッキンにより容器口部を密封できる。また、この環状突条は、開栓時に、キャップねじ部が容器ねじ部に沿って移動しても、少なくともブリッジが切れるまでは密封用パッキンによる容器口部の密封を保持し、前記ブリッジが切れると密封用パッキンを前記容器口部上方に持上げうるように機能するものであって、例えば、図1、図4に示すように、キャップねじ部5と蓋天板1との間に蓋天板1の下面から所定距離D離れた位置に蓋本体1と一体に設けたり、また、同じ位置に蓋本体と別体に形成してもよい。すなわち、このパッキン案内部としての環状突条は、ブリッジが切れるまでは密封用パッキンにより容器の密封を保持できる様にし、前記ブリッジが切れると、この密封用パッキンを持上げて開封することができる。
【0009】
さらに、既存のキャップねじ部の最上位部分を上記した所定距離Dを考慮して環状突条に代用することも可能である。
【0010】
この発明における密封用パッキンとしては、紙、合成樹脂材等の通常使用されるものからなるものを挙げることができる。
【0011】
そして、この密封用パッキン(以下、単にパッキンという)は、
▲1▼高温液体を充填し、または、液体充填後高温処理が付され、その後室温まで冷却した際に密封容器が減圧状態となる場合、
【0012】
▲2▼内容物を密封した密封容器内が容器外部に対して加圧状態となる場合、
▲3▼密封容器内の内圧が容器外部と同圧の状態となる場合、
に使用される。
【0013】
この発明において、
(A)まず、上記▲1▼で述べたように減圧状態で内容物を保持する場合は、開栓時に、少なくともパッキンの共回りを防止するために、パッキンの上面又はこの上面に対向する蓋天板の下面に空気溜り部12を形成する。例えば、図2に示されているように、パッキン9の上面には、分割片14上で、その円周方向(H方向)に同心円状に形成されたそれぞれ複数の溝13と、各分割片14により囲まれた円形の凹部15と、分割片14,14間の隙間Nとからなる空気溜り部12が形成されている。そして、閉栓時に元々蓋天板1の下面とパッキン9間には空気層が存在しているけれども、この発明では、図2に示すように、容器口部3の外周面の容器ねじ部4に隙間Mを形成し、この隙間Mを通った空気aが分割片14,14間の隙間Nからこの凹部15および分割片14の溝13に流入することにより、閉栓時に積極的に蓋天板1の下面およびパッキン9の上面間に空気層を形成するのが好ましい。また、この空気層への空気aを、容器ねじ部4に形成されている隙間Mを通して凹部15および分割片14の溝13に流入させる代わりに、キャップねじ部5に隙間を形成することで流入させるようにしてもよい。併せて、パッキン9は、気密性の向上と共回り防止のために環状の中足11を備えている。
【0014】
(B)次に、上記▲2▼で述べたように加圧状態で内容物を保持する場合は、開栓時に、パッキンの共回りを防止するために、容器口部の開口内に密封可能に嵌入される中足11を備えたパッキン9を用いる。例えば、図1、図2に示されているように、パッキン9の下面には、環状の中足11が形成されている。この中足11の嵌入長Lは、気密性を向上させるために以下のように形成するのが好ましい。
【0015】
すなわち、この発明においては、中足の嵌入長Lは、蓋天板1の下面から環状突条10の上端までの長さD以上(L≧D)に設定するのが気密性の向上と共回り防止の点で好ましい。このように、中足の嵌入長Lを長さDと同じか、または、これより長くすることにより、開栓時、蓋本体6の上方移動に伴い、パッキン9も一体的に上方移動するけれども、ブリッジが切れるまでの間は、その位置で気密を保持している。
【0016】
なお、この発明においては、密封容器内の内圧が容器外部と同圧の状態となる場合は、上記(B)で述べたような中足を備えたパッキンを用い、上記(A)で述べたように、パッキンの上面又はこの上面に対向する蓋天板の下面に空気溜り部を形成して少なくともパッキンの共回りを防止する。
【0017】
【作用】
減圧状態で内容物を保持する容器の密封に使用される合成樹脂製ピルファープルーフキャップの場合には、高温液体を充填したり、または、液体充填後高温処理を付した後、室温まで冷却した際に減圧状態となり、容器内部にバキュームが発生し、これによりパッキンは特にこれを持上げる力が生じない限り、容器口部を密封し続けることになる。従って、いたずら等によりキャップが全開しない程度に開栓動作が行われても、ブリッジの伸びを考慮して少なくともこれが切れるまでの間はパッキンの上面又はこの上面に対向する蓋天板の下面に設けた空気溜り部により蓋天板の下面およびパッキンの上面間に空気層が形成され、併せて中足が備わっているので、少なくともパッキンの共回りを防止でき、これにより容器内部の気密性を保持できる。そして、少なくともブリッジが確実に切れた後に、パッキン案内部によって、上記のバキュームシール中のパッキンを蓋本体と共に持上げ、容器を開封できる。
【0018】
加圧状態で内容物を保持する場合には、容器口部の開口内に密封可能に嵌入される中足を備えたパッキンを用いているので、いたずら等によりキャップを全開しない程度に開栓動作が行われても、少なくともパッキンの共回りを防止でき、これにより容器内部の気密性を保持できる。そして、少なくともブリッジが確実に切れた後に、パッキン案内部によって、シール中のパッキンを蓋本体と共に持上げ、容器を開封できる。
【0019】
【実施例】
以下、この発明に係る合成樹脂製ピルファープルーフキャップの一実施例を図面に基づいて説明する。なお、それによってこの発明は限定を受けるものではない。
図1?図3において、合成樹脂製ピルファープルーフキャップ(以下、キャップという)Cは、平面視円形状の蓋天板1およびこの蓋天板1の周縁から垂下する周壁2から構成され、周壁2の内周面2aに、容器口部3の外周面3aに形成された容器ねじ部4と螺合するキャップねじ部5を有する蓋本体6と、複数のブリッジ7,7を介して蓋本体6と一体的に連接されたピルファープルーフバンド(以下、PPバンドという)8,8と、閉栓時に、容器口部3を密封するよう設けられた密封用パッキン9と、周壁2の内周面2aにおけるキャップねじ部5と蓋天板1との間に設けられ、それによって、開栓時に、ブリッジ7が切れるまではパッキン9を該パッキン9による容器口部3の密封を保持し、ブリッジ7が切れると該パッキン9を容器口部3の上方に持上げうるパッキン案内部10を有するとともに、密封用パッキン9が容器口部3の開口3b内に密封可能に嵌入される環状の中足11を有し、更に、密封用パッキン9の上面9aに形成され、閉栓時に、容器口部3の外周面3aから空気aが流入する空気溜り部12を有する。
【0020】
図2において、パッキン9の上面に形成された空気溜り部12は、分割片14,14,14上に円周方向(H方向)に同心円状にそれぞれ形成された複数の溝13と、各分割片14により囲まれた円形の凹部15と、分割片14,14間の隙間Nとからなる。そして、閉栓時に、容器口部3の外周面3aの容器ねじ部4,4間に形成されている隙間Mを通った空気aが分割片14,14間の隙間Nからこの円形の凹部15および分割片14の溝13に流入することにより、蓋天板1の下面1aおよびパッキン9の上面9a間に空気層Sが形成される。
【0021】
また、パッキン9の下面に形成された環状の中足11は、気密性の向上と共回り防止のためのものであって、この中足11の嵌入長Lは、蓋天板1の下面からパッキン案内部10の上端までの長さD以上(L≧D)に設定されている。
【0022】
更に、パッキン案内部10は、蓋天板1の周壁2の内周面2aに沿って蓋本体6と一体に形成された環状突条からなる。この環状突条10は、上述したように、蓋天板1の下面から距離D離れた位置に設けられている。また、このキャップCは、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレン等の熱可塑性合成樹脂を用いて、例えば、射出成形等適宜の方法によって成形されるキャップであり、複数のブリッジ7…が周壁2の下端部20から適宜の間隔をおいて下方に垂設され、PPバンド8がこれらブリッジ7…によって保持されている。そして、PPバンド8の下端は、適度に弾性を有するように内方に折り返されて、かつ間隔をおいて複数の突起21に形成されている。これら突起21は、キャップCが容器口部3に完全に装着された状態において、容器口部3に周設された肩部22の下方係止部22aにその遊端側を当接させることにより、PPバンド8を容器口部3に機械的に係止するものである。また、周壁2の外周面2bには適宜のセレーションが形成してある。なお、図1において、容器ねじ部4およびキャップねじ部5はそれぞれ連続した一連のものであるが、開栓動作の説明上、便宜的に複数記載している。
【0023】
この実施例のものは上記構成を有するから、図4に示すような、(A)減圧状態で内容物を保持する容器の密封に使用される合成樹脂製ピルファープルーフキャップCの場合には、閉栓状態から、図5に示すように、蓋本体6に開栓回転方向に回転力を加え開栓を行うと、ブリッジ7の伸びを考慮して少なくともこれが切れるまでの間はパッキン9の上面9aに容器口部3の外周面3a(図2参照)から空気aが流入する空気溜り部12により蓋天板1の下面1aおよびパッキン9の上面9a間に空気層Sが形成されている上に、パッキン9が容器口部3の開口3b内に密封可能に嵌入される環状の中足11を有するので、いたずら等によりキャップCを全開しない程度の開栓動作が行われても、パッキン9の共回りを確実に防止でき、これにより容器内部の気密性を保持できる。そして、少なくともブリッジ7が確実に切れた後に、パッキン9の周縁部に当接するパッキン案内部10によって、上記のバキュームシール中のパッキン9を蓋本体6と共に持上げ、容器口部3を開封できる。
【0024】
このように本実施例では、開栓時に、ブリッジ7…が切れるまではパッキン9を容器口部3に対して密封を保持するように構成したので、ちょい回しがなされても、ブリッジ7…が切れない限りパッキン9が蓋本体1と共回りせず持上がることは無くなる。
【0025】
なお、図4に示すような、(A)減圧状態で内容物を保持する容器の密封に使用される合成樹脂製ピルファープルーフキャップの場合に代えて、(B)加圧状態で内容物を保持する容器の密封に使用される合成樹脂製ピルファープルーフキャップの場合でも、上記実施例と同様の構成、あるいは、パッキンが容器口部の開口内に密封可能に嵌入される所定長の中足を有する構成にすると、上記実施例と同様の効果を奏する。
【0026】
なお、上述の実施例は蓋本体とPPバンドとがブリッジ等によって一体的に連結された所謂ワンピースタイプのPPキャップであったが、この発明は蓋本体とPPバンドとが別々に成形され、容器口部に装着する前に一体化して使用される所謂ツーピースタイプのPPキャップにも適用することができる。
【0027】
また、空気溜り部の変形例として、図6および図7に示すものがある。図6において、パッキンの上面には、径方向(R方向)にそれぞれ複数の溝13を有する分割片14と、各分割片14により囲まれた円形の凹部15が形成されている。図7においては、パッキンの上面に形成された円形の凹部15が、それぞれ粗面を有する分割片14により囲まれている。
【0028】
勿論、この発明の空気溜り部として、蓋天板の下面にも、図2、図6および図7に示したものと同様のものを形成してもよい。
【0029】
また、分割片として、上述したような、円周方向(H方向)に同心円状に溝を形成したものや、径方向(R方向)に溝を形成したもの、あるいは、粗面であるものの他に、碁盤状の溝(いわゆる、ローレット状の溝)を備えたものであってもよく、要は、パッキンの共回りを防止できるものであればよい。
【0030】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明の合成樹脂製ピルファープルーフキャップは、減圧状態で内容物を保持する容器の密封に使用される合成樹脂製ピルファープルーフキャップの場合には、高温液体を充填したり、または、液体充填後高温処理を付した後、室温まで冷却した際に減圧状態となり、容器内部にバキュームが発生し、これによりパッキンは特にこれを持上げる力が生じない限り、容器口部を密封し続けることになる。従って、いたずら等によりキャップを全開しない程度に開栓動作が行われても、ブリッジの伸びを考慮して少なくともこれが切れるまでの間はパッキンの上面又はこの上面に対向する蓋天板の下面に形成された空気溜り部により蓋天板の下面およびパッキンの上面間に空気層が形成され、併せて中足が備わっているので、少なくともパッキンの共回りを防止でき、これにより容器内部の気密性を保持できる。そして、少なくともブリッジが確実に切れた後に、蓋天板の周縁から垂下する周壁の内周面に形成されたパッキン案内部によって、上記のバキュームシール中のパッキンを蓋本体と共に持上げ、容器を開封できる。
【0031】
加圧状態で内容物を保持する場合には、容器口部の開口内に密封可能に嵌入される中足を備えたパッキンを用いているので、いたずら等によりキャップを全開しない程度に開栓動作が行われても、パッキンの共回りを防止でき、これにより容器内部の気密性を保持できる。そして、少なくともブリッジが確実に切れた後に、パッキンの周縁部に当接するパッキン案内部によって、シール中のパッキンを蓋本体と共に持上げ、容器を開封できる。
【0032】
したがって、簡単な構成で、ちょい回しがなされても容器の密封を維持でき、内容物を確実に保護できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】
この発明に係る合成樹脂製ピルファープルーフキャップの一実施例における閉栓状態を示す構成説明図である。
【図2】
上記実施例における分解斜視図である。
【図3】
上記実施例における閉栓状態を示す一部切欠き斜視図である。
【図4】
上記実施例における閉栓状態を示す構成説明図である。
【図5】
上記実施例における開栓途中の状態を示す構成説明図である。
【図6】
上記実施例におけるパッキンの変形例を示す斜視図である。
【図7】
上記実施例におけるパッキンの他の変形例を示す斜視図である。
【符号の説明】
1…蓋天板、2…蓋天板の周壁、2a…周壁の内周面、3…容器口部、3a…容器口部の外周面、4…容器ねじ部、5…キャップねじ部、6…蓋本体、7…ブリッジ、8…ピルファープルーフバンド、9…密封用パッキン、10…環状突条、11…中足、12…空気溜り部、13…溝、14…分割片、15…凹部、a…空気、M,N…隙間、S…空気層。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2008-09-05 
結審通知日 2008-09-10 
審決日 2008-10-16 
出願番号 特願平6-204354
審決分類 P 1 113・ 113- ZD (B65D)
P 1 113・ 121- ZD (B65D)
P 1 113・ 832- ZD (B65D)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 森林 克郎渡邊 豊英  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 熊倉 強
豊島 ひろみ
登録日 1999-06-25 
登録番号 特許第2943048号(P2943048)
発明の名称 合成樹脂製ピルファープルーフキャップ  
代理人 小野 尚純  
代理人 中谷 寛昭  
代理人 岩田 徳哉  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 岩田 徳哉  
代理人 藤本 昇  
代理人 中谷 寛昭  
代理人 島田 康男  
代理人 藤本 昇  

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