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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 H05K |
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管理番号 | 1216551 |
審判番号 | 無効2008-800275 |
総通号数 | 127 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-07-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2008-12-05 |
確定日 | 2010-05-20 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2995176号発明「冷却システム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2995176号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第2995176号は、平成10年5月28日に出願された特願平10-166296号の願書に添付した明細書の特許請求の範囲に記載された請求項1?3に係る発明(以下。「本件発明1?3」という。)について、平成11年10月22日に特許権の設定登録がなされたものである。 本件審判は、本件発明1?3についての特許の無効を請求するものであり、その手続の経緯は、次のとおりである。 平成20年12月 5日:審判請求書提出(請求人) 平成21年 2月20日:答弁書及び訂正請求書提出(被請求人) 3月 3日(起案日):訂正拒絶理由通知(当審合議体) 4月 3日:意見書及び補正書提出(被請求人) 意見書提出(請求人) 5月12日:口頭陳述要領書提出(請求人) 19日:口頭陳述要領書提出(被請求人) 26日:口頭陳述要領書2及び証拠説明書提出(請求人) 口頭審理及び口頭審理調書作成(当審合議体) 6月 9日:上申書提出(請求人) 23日:上申書提出(被請求人) 2.訂正請求について 2-1.訂正の内容 被請求人が、訂正請求書により求めた本件特許明細書についての訂正(以下、「本件訂正」という。)は、請求項1,2について、特許権設定登録時の記載を次の「訂正A」とする訂正事項を含む。 (特許権設定登録時) 【請求項1】 バーリング加工孔を複数個設けたフィンからなるフィン群と、上記フィン群のバーリング加工孔を貫通してプレス挿入された複数の実棒と、上記実棒の少なくとも一方の端部にプレス挿入した受熱プレートからなるヒートシンクを有する冷却システム。 【請求項2】 バーリング加工孔を複数個設けたフィンからなるフィン群と、上記フィン群のバーリング加工孔を貫通してプレス挿入された複数の実棒をアッセンブリした後、上記実棒の少なくとも一方の端部に受熱プレートをプレス挿入する加工方法のヒートシンクを用いた冷却システム。 (訂正A:下線部は訂正箇所) 【請求項1】 バーリング加工孔を複数個設けたフィンからなるフィン群と、上記フィン群のバーリング加工孔を貫通し、プレス工法のみでプレス挿入された複数の実棒と、上記実棒の少なくとも一方の端部にプレス挿入した受熱プレートからなるヒートシンクを有する冷却システム。 【請求項2】 バーリング加工孔を複数個設けたフィンからなるフィン群と、上記フィン群のバーリング加工孔を貫通し、プレス工法のみでプレス挿入された複数の実棒をアッセンブリした後、上記実棒の少なくとも一方の端部に受熱プレートをプレス挿入する加工方法のヒートシンクを用いた冷却システム。 そして、補正書による訂正請求書についての補正(以下、「本件補正」という。)は、「訂正A」を次の「訂正B」とする補正事項を含む。 (訂正B:下線部は訂正箇所) 【請求項1】 バーリング加工孔を複数個設けたフィンからなるフィン群と、上記フィン群のバーリング加工孔を貫通し、プレス工法のみでプレス挿入されて前記バーリング加工孔に取付けられた複数の実棒と、上記実棒の少なくとも一方の端部にプレス工法のみでプレス挿入した受熱プレートからなるヒートシンクを有する冷却システム。 【請求項2】 バーリング加工孔を複数個設けたフィンからなるフィン群と、上記フィン群のバーリング加工孔を貫通し、プレス工法のみでプレス挿入されて前記バーリング加工孔に取付けられた複数の実棒をアッセンブリした後、上記実棒の少なくとも一方の端部に受熱プレートをプレス工法のみでプレス挿入する加工方法のヒートシンクを用いた冷却システム。 2-2.訂正の適否 特許権設定登録時の本件特許明細書及び図面の記載によれば、その請求項1,2に記載された「プレス挿入」とは、プレス機を用いた挿入、すなわち、プレス工法による挿入を意味し、他の意味をもつとは認められない。 これに対し、「訂正A」における「プレス工法のみでプレス挿入」との記載によれば、「プレス挿入」には、「プレス工法のみでない挿入」の意味があったことになるから矛盾する。 したがって、訂正拒絶理由通知で述べたように、上記訂正事項を含む本件訂正は、特許法134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項、すなわち、特許請求の範囲の減縮、明りょうでない記載の釈明、誤記の訂正のいずれを目的としたものでもない。 次に、上記補正事項について検討するに、「訂正B」における「前記バーリング加工孔に取付けられた複数の実棒」「プレス工法のみでプレス挿入した受熱プレート」は、「訂正A」に記載されたものでなく、訂正箇所の追加に該当する。 してみると、上記補正事項は、訂正請求書の要旨を変更するものである。 したがって、上記補正事項を含む本件補正は、特許法134条の2第5項で準用する同法131条の2第1項規定の要件を満たしていない。 以上のとおりであるから、本件補正、本件訂正いずれも認容できない。 なお、被請求人は訂正請求書及び意見書で、上記訂正事項及びその補正について、実棒とフィン群をロウ付けや溶接しないことを明りょうにしたものである旨主張しているが、挿入や取付けをプレス工法のみに特定しても、その後にロウ付けや溶接による接合をしないことを必ずしも特定したことにならないから、当該主張は採用できない。ただし、下記「7.」において述べるように、本件発明1?3において、実棒とフィン群がロウ付けや溶接をせずに固定されていることは、本件特許明細書の記載から自明なものと解される。 3.本件発明 本件訂正は認容できないから、本件発明1?3は、特許権設定登録時の本件特許明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 【請求項1】バーリング加工孔を複数個設けたフィンからなるフィン群と、上記フィン群のバーリング加工孔を貫通してプレス挿入された複数の実棒と、上記実棒の少なくとも一方の端部にプレス挿入した受熱プレートからなるヒートシンクを有する冷却システム。 【請求項2】バーリング加工孔を複数個設けたフィンからなるフィン群と、上記フィン群のバーリング加工孔を貫通してプレス挿入された複数の実棒をアッセンブリした後、上記実棒の少なくとも一方の端部に受熱プレートをプレス挿入する加工方法のヒートシンクを用いた冷却システム。 【請求項3】受熱プレートの一部にヒートパイプを接合した請求項1に記載の冷却システム。 4.当事者の主張 4-1.請求人 請求人は審判請求書において、「特許2995176号はこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、以下に示す甲第1?5号証を提出し、「本件発明1?3は、甲第1?5号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効」であると主張する。 その後、口頭陳述要領書、口頭陳述要領書2及び証拠説明書、上申書を提出し、周知技術を示す証拠として、以下に示す甲第6?9号証を提出した。 甲第1号証:特開平10-32288号公報 甲第2号証:特開平10-107192号公報 甲第3号証:特開平9-186275号公報 甲第4号証:特開平7-106479号公報 甲第5号証:特開平7-161883号公報 甲第6号証:実開昭60-937号公報 甲第7号証:特開平3-39894号公報 甲第8号証:実開平4-59194号公報 甲第9号証:特開平5-283571号公報 4-2.被請求人 被請求人は答弁書において、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、その後、口頭陳述要領書及び上申書を提出した。 5.甲各号証の記載事項 本件特許についての特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1?3,8号証には、以下の摘記事項がそれぞれ記載されている。 5-1.甲第1号証(特開平10-32288号公報) 摘記1-1(特許請求の範囲) 【請求項1】金属基板の片面に複数のピンフィンを備えたヒートシンクにおいて、金属基板のピンフィンが設けられた面と対面し、かつその面と平行でピンフィンが貫通した1枚以上の放熱金属平板と、必要により各ピンフィンの先端面と接合されてピンフィンが貫通していない放熱金属平板を備え、放熱金属平板は金属基板と所定の間隔をおいて設けられており、ピンフィンの貫通部においてピンフィン周面と放熱金属平板とが接合されていることを特徴とする放熱性能に優れたヒートシンク。 【請求項2】放熱金属平板に設けた円筒状の側壁を有する貫通孔にピンフィンが嵌合されて接合されていることを特徴とする請求項1記載のヒートシンク。 摘記1-2(段落0025) 【0025】本発明のヒートシンクをこのような構成に限定する理由を、以下に説明する。 1)片面にピンフィンを設けた金属基板 基板には、片面にピンフィンが設けられており、基板のもう1面にはLSIのような発熱体が取付けられる。発熱体で発生した熱は、放熱基板1を伝ってピンフィン2に伝わり、熱の一部は冷却用空気流中に放熱され、残りの熱は放熱金属平板3に伝わり、やはり冷却用空流気中に放出される。 摘記1-3(段落0036) 【0036】なお、側壁部を有する孔17の加工は、プレス加工等で簡単に加工できる。さらに、ピンフィン2と放熱金属平板3との接合部の接触熱抵抗の低減が、本発明の放熱フィンの性能向上には必要不可欠である。この部分に空気の層ができると、その部分の熱抵抗が大きくなり、全体の放熱性能が低下する。そのために、この間は一体化していることが望ましい。最も確実なのは金属接合であるが、工業的に生産することを考えると現実的ではない。鑞付であれば組み立てた後ある一定の温度で処理すればよく、予め鑞材を塗布した金属板を加工して組み立てれば作業工程の省略ができる。 5-2.甲第2号証(特開平10-107192号公報) 摘記2-1(段落0008?0009) 【0008】 【発明が解決しようとする課題】図8(イ)(ロ)はヒートパイプを使ったヒートシンクの形態の一例である。図8(イ)は正面図、図8(ロ)は側面図である。このヒートシンクは、伝熱ブロック20で被冷却部品(図示しない)の熱を受けて、その熱をヒートパイプ12を経由して運び、フィン32から放熱させるものである。フィン32は熱伝導に優れ、軽量なAl板等が好適に用いられる。この例ではヒートパイプ12を3本取り付けた場合を図示しているが、この数は任意である。さてこのヒートシンクの場合、各々のヒートパイプ12をU字状に形成することで、1本のヒートパイプ12に対し2箇所で1枚のフィンに取り付けられるようになっている。 【0009】フィンとヒートパイプの取り付け方法は、特に限定はないが、フィンにバーリング加工等によって孔を設け、その孔にヒートパイプを差し込む形態が実用的である。もちろんヒートパイプとフィンとの熱抵抗は小さいことが望ましいので、コスト面で許されれば、単に差し込むだけでなく、例えば溶接法を併用して、より熱抵抗を小さくさせることは有効である。溶接法の他、ろう接合、半田接合等もある。またフィンの取り付け強度を高める意味でヒートパイプの差し込み部を接着剤等で接着しても構わない。 5-3.甲第3号証(特開平9-186275号公報) 摘記3-1(段落0002?0004) 【0002】 【従来の技術】従来、電子部品を発熱による損傷から保護するために、ヒートシンクと呼ばれる放熱板が使用されてきた。ヒートシンクの構成は、電子部品を取り付けるための取付け部と、電子部品に生じた熱を放散させるための放熱部とからなっている。一般には取付け部と放熱部とはアルミダイキャストによって一体に製作されており、プレート状に形成された取付け部に対し、放熱部はフィン形状をなすものもあるが、その他ピンを多数本突き立てたものも多く使用されている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】ところで、最近ではヒートシンクに対してより高い放熱能力が求められるようになってきている。これに対処するためには、放熱面積を増大させることが一つの手段として考えられ、放熱部にピンを使用するものの場合には、ピンの寸法を長くすることが有効な対策となりうる。 【0004】しかし、単純にピンを長尺化しようとすると、次のような問題点がある。すなわち、前記したように、立体形状をしたヒートシンクをアルミによる一体成形品とする場合には、ピンが長尺化すると先端まで湯が回りにくくなる、という成形上の問題点がある。そこで、ピンを基板と別体に形成しピンを基板に圧入することが考えられる。こうすれば、ピンはいわゆる押し出し法によって、長尺の線材がきわめて容易に作成することができ、できあがった線材を所望とする長さに切断すればよい。 5-4.甲第8号証(実開平4-59194号公報) 摘記8-1(実用新案登録請求の範囲) 上端縁をガイドフレームに差し込んで起立状態に保持される基板の表面に電子素子が装着されるとともに、下端部をその電子素子に接触させかつ上端部を前記基板の上端縁近傍に延ばした第1ヒートパプが基板の表面に沿つて配置され、また前記ガイドフレームに差し込まれる基板の上端縁には第2ヒートパイプが該上端縁に沿つて取付けられるとともに前記第1ヒートパイプの上端部と第2ヒートパイプとを熱伝達可能に連結する伝熱板が設けられ、さらにガイドフレームに気中放熱用ヒートパイプが取付けられていることを特徴とする電子素子の冷却構造。 (審決注:下線部「ヒートハプ」は「ヒートパイプ」の誤記と認められる。) 6.引用発明 甲第1号証の請求項2の記述を、請求項1の引用部分を合成して書き改めると次のとおりになる(摘記1-1参照)。 「放熱金属平板に設けた円筒状の側壁を有する貫通孔にピンフィンが嵌合されて接合されていることを特徴とする、金属基板の片面に複数のピンフィンを備えたヒートシンクにおいて、金属基板のピンフィンが設けられた面と対面し、かつその面と平行でピンフィンが貫通した1枚以上の放熱金属平板と、必要により各ピンフィンの先端面と接合されてピンフィンが貫通していない放熱金属平板を備え、放熱金属平板は金属基板と所定の間隔をおいて設けられており、ピンフィンの貫通部においてピンフィン周面と放熱金属平板とが接合されていることを特徴とする放熱性能に優れたヒートシンク。」 ここで、「必要により・・・(を備え)」と記載された「ピンフィンが貫通していない放熱金属平板」をもたない場合について、引用による重複記載を整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「金属基板の片面に複数のピンフィンを備えたヒートシンクにおいて、金属基板のピンフィンが設けられた面と対面し、かつその面と平行でピンフィンが貫通した1枚以上の放熱金属平板を備え、放熱金属平板は金属基板と所定の間隔をおいて設けられており、放熱金属平板に設けた円筒状の側壁を有する貫通孔にピンフィンが嵌合されて接合されていることを特徴とする放熱性能に優れたヒートシンク。」 7.当審の判断 7-1.本件発明1について 本件発明1と引用発明を対比すると、引用発明における「1枚以上の放熱金属平板」「貫通孔に嵌合」「複数のピンフィン」「金属基板」が、その機能・構造上それぞれ、本件発明1における「フィン群」「貫通して・・・挿入」「複数の実棒」「受熱プレート」に相当する。さらに、甲第1号証(摘記1-3参照)には、引用発明における「円筒状の側壁を有する貫通孔」をプレス加工により成型すると記載され、これに対し、本件発明1における「バーリング加工孔」とは、平板に下穴をあけた後、円筒状にストレッチしたプレス加工孔であるから、口頭審理にて被請求人も認めたように、両者は同一のものと認められる(口頭審理調書参照)。また、「放熱性能に優れたヒートシンク」により冷却システムが構成されることは、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)にとって自明なことである。 そうすると、本件発明1は、「バーリング加工孔を複数個設けたフィンからなるフィン群と、上記フィン群のバーリング加工孔を貫通して挿入された複数の実棒と、受熱プレートからなるヒートシンクを有する冷却システム。」の点で、引用発明と一致し、次の点で相違する。 相違点1: 本件発明1では、実棒がフィン群に「プレス挿入された」ものであるのに対し、引用発明では、ピンフィンが放熱金属平板に「嵌合されて接合された」ものである点。 相違点2: 本件発明1では、受熱プレートが「実棒の少なくとも一方の端部にプレス挿入した」ものであるの対し、引用発明では、金属基板が「片面に複数のピンフィンを備えた」ものである点。 そこで、これらの相違点について検討する。 相違点1について: 本件特許明細書(段落0013)には、本発明の第1の実施例について「フィン12の最初の一枚をプレス挿入することにより、フィンのバーリング壁に支えられ実棒20の径方向の位置と軸方向の位置が固定される。」と記載されているから、物の発明である本件発明1において、「プレス挿入された」との製法限定は、フィンのバーリング壁に実棒の位置が固定されている状態を特定したものと認められる。 これに対し、甲第1号証(摘記1-3参照)には、ピンフィンと放熱金属平板との接合部について、鑞付であれば組み立てた後ある一定の温度で処理すればよく、予め鑞材を塗布した金属板を加工して組み立てれば作業工程の省略ができることが記載されているから、引用発明において、「嵌合されて」とは、鑞材を塗布した放熱金属平板を加工してピンフィンと組み立てた状態、「接合された」とは、熱処理して鑞付された状態をそれぞれ意味する。そして、組み立てた後に熱処理するだけで鑞付されるということは、組み立てた状態で、放熱金属平板がピンフィンに位置決めされ、放熱金属平板の側壁部にピンフィンの位置が固定されていると認められる。 すなわち、引用発明における「嵌合されて」と、本件発明1における「プレス挿入された」は、実質的に同意になる。 そして、甲第2号証(摘記2-1参照)には、ヒートパイプを使ったヒートシンクについて、フィンにバーリング加工等によって孔を設け、その孔にヒートパイプを差し込む形態が実用的であることに加え、コスト面で許されれば、熱抵抗を小さくするため、ろう接合する旨が記載され、ここに記載された、フィンにヒートパイプを差し込んでろう接合するという製造工程は、放熱金属平板にピンフィンを嵌合して接合するという、引用発明についての製造工程と対応している。 してみると、引用発明において、コスト面を考慮して、鑞材塗布と鑞付による接合を省略すること、すなわち、相違点1を解消することは、甲第1,2号証の記載から当業者が容易に想到し得たことである。 なお、被請求人は、中実状のピンフィンについて記載した甲第1号証に、管状のヒートパイプについて記載した甲第2号証を組み合わせても、「プレス挿入された実棒」という構成を導くことはできない旨主張しているが、上述したように、当該構成は、引用発明における中途製造物として、既に甲第1号証に開示されたものと認められるから、当該主張は採用できない。 相違点2について: 甲第3号証(摘記3-1参照)には、放熱部である長尺のピンを、取付け部である基板に多数突き立てたヒートシンクを成形するために、別体に形成したピンを基板に圧入することが記載されており、この「ピンが圧入された基板」は、本件発明1における「実棒の少なくとも一方の端部にプレス挿入した受熱プレート」に相当し、さらに、引用発明における「片面に複数のピンフィンを備えた金属基板」にも相当する。 してみると、引用発明において、「片面に複数のピンフィンを備えた金属基板」として「ピンが圧入された基板」を採用すること、すなわち、相違点2を解消することは、甲第1,3号証の記載から当業者が容易に想到し得たことである。 さらに、引用発明において、相違点1,2を共に解消することにも格別の困難性はなく、本件発明1において、相違点1,2による予期し得ない効果を見いだすこともできない。 したがって、本件発明1は、甲第1?3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 7-2.本件発明2について 本件発明2は、本件発明1において、フィン群と実棒をアッセンブリした後に受熱プレートをプレス挿入するという、ヒートシンクの加工方法を特定したものに相当する。 そこで検討するに、この加工方法について、本件特許明細書(段落0018?0019)には、後からフィンをプレス挿入するという、逆工程の加工方法と比べ、成型金型に位置ズレが生じた場合の弊害が少ないことが記載されている。 してみると、前記加工方法の特定は、単に製法上の効果をもたらすのみであって、本件発明2におけるヒートシンクの機能や構造が、本件発明1におけるヒートシンクのそれと異なるものになるとは認められから、両者は、実質的に同一の発明である。 したがって、本件発明1について判断したとおり、本件発明2も、甲第1?3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 7-3.本件発明3について 本件発明3は、本件発明1において、受熱プレートの一部にヒートパイプを接合したことを特定するものであるから、本件発明3は、引用発明と比較して、上記相違点1,2に加え、次の点で相違する。 相違点3: 本件発明3は、「受熱プレートの一部にヒートパイプを接合した」ものであるが、引用発明は、金属基板にヒートパイプを接合したものでない点。 そこで、相違点について検討するに、相違点1,2については、既に「7-1.」で述べたとおりである。 相違点3について: 甲第1号証(摘記1-2参照)には、引用発明における金属基板にLSI等の発熱体を取り付けることが記載されている。 一方、甲第8号証(摘記8-1参照)には、下端部を電子素子に接触させた第1ヒートパイプの上端部と第2ヒートパイプとを熱伝達可能に連結する伝熱板を有する電子素子の冷却構造が記載されており、電子素子の冷却構造として、電子素子をヒートパイプを介し伝熱板に連結することは周知であると認められる。そして、この「伝熱板」は、本件発明3における「受熱プレート」、引用発明における「金属基板」に相当する。 してみると、引用発明における金属基板に、電子素子であるLSI等を直接取り付けずに、ヒートパイプを介して連結するため、金属基板の一部にヒートパイプを接合すること、すなわち、相違点3を解消することは、当業者が容易になし得た周知技術の転用である。 さらに、引用発明において、相違点1?3を共に解消することにも格別の困難性はなく、本件発明3において、相違点1?3による予期し得ない効果を見いだすこともできない。 したがって、本件発明3は、甲第1?3号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 8.むすび 以上のとおり、本件発明1?3についての特許は、請求人が主張するように、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当する。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担するものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2009-07-14 |
結審通知日 | 2009-07-22 |
審決日 | 2009-08-04 |
出願番号 | 特願平10-166296 |
審決分類 |
P
1
113・
121-
ZB
(H05K)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 千葉 成就 |
特許庁審判長 |
長者 義久 |
特許庁審判官 |
大橋 賢一 守安 太郎 |
登録日 | 1999-10-22 |
登録番号 | 特許第2995176号(P2995176) |
発明の名称 | 冷却システム |
代理人 | 松下 亮 |
代理人 | 村山 靖彦 |
代理人 | 水野 浩司 |
代理人 | 志賀 正武 |
代理人 | 渡邊 隆 |