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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A63F
管理番号 1216768
審判番号 不服2008-17488  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-09 
確定日 2010-05-13 
事件の表示 特願2003- 5319「カードゲーム不正検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月 5日出願公開、特開2004-215806〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は平成15年1月14日に出願されたものであって,平成20年6月5日付けで拒絶の査定がされたため,これを不服として同年7月9日付けで本件審判請求がされるとともに,同年8月4日付けで明細書についての手続補正書が提出されたものである。
当審においてこれを審理した結果,平成21年9月30日付けで,上記平成20年8月4日付け手続補正を却下するとともに新たな拒絶の理由を通知したところ,請求人は平成21年12月3日付けで,意見書及び手続補正書を提出した。


第2 当審の判断

1.本願発明の認定

本願の請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成21年12月3日付けで補正された明細書における,特許請求の範囲の【請求項4】に記載された事項によって特定されるべきものであり,その記載は次のとおりである。

「連続して行われるカードゲームでの不正行為を検出するための判定コンピュータによる情報処理方法であって,
各回のゲームに登場するカードである登場カードを特定するための登場カード情報を読み取り,判定コンピュータに送るステップと,
ゲームが行われている間,前記登場カード情報を前記判定コンピュータの記憶手段に記憶させるステップと,
を含み,
前記登場カード情報を読み取るステップは,
前記登場カードをレールに沿ってスライドさせる際,前記レールに沿って前記登場カードがスライドされる方向に間隔を設けて配置された複数のカードセンサからカードの存在を示す信号を受け取ったときに,読取センサにより前記登場カードに設けたコードを読むステップと,
前記複数のカードセンサにより,前記登場カードが前記レールに沿ってスライドしたときの姿勢が適正であったか否かを判定する姿勢判定ステップと,
を含み,
前記姿勢判定ステップは,前記複数のカードセンサによって,前記登場カードがスライドされる方向に上流側から下流側に順に前記登場カードが検出されたか否かを判定するステップを備え,さらに前記姿勢判定部の判定結果は,前記登場カードの一辺が前記レールに接触した状態でコードが読み取られたか否かを示すものである,情報処理方法。」


2.引用刊行物の記載事項

当審の拒絶理由に引用した特開2002-165916号公報(以下「引用例1」という。)には,以下の記載が図示とともにある。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,トランプカードや花札等の遊技カードを使用するカードゲーム機に関する。
・・・・・・・・・
【0004】
【発明が解決しようとする課題】ディスプレイ上にカードの絵柄を表示する形態のカードゲーム機は,カードを映像として表示するだけであるので,カードを手に持つことができず,興趣に欠ける。トランプカードをゲーム装置で配って,ゲームの迫真性を向上することは不可能ではない。しかし,配ったカードをプレイヤーの手に渡してしまうと,様々の不正が行われる可能性が多々あり,カードゲームを適正に行うことが困難となる。例えば,複数のプレイヤー間でカードを受け渡して,高額のチップを賭けたプレイヤーが勝つ確率を高めることができる。ゲーム装置で用いられるカードと同じ柄の不正カードを用いて,低い確率でしか成立し得ない役を意図的にしかも繰り返し成立させることができるからである。
【0005】本発明の目的は,適数枚の遊技カードをプレイヤーに対して配り,配られたカードの組み合わせによって,ゲームの勝ち負けを競う,興趣と迫真性に富むカードゲーム機を提供することにある。本発明の目的は,カードの配布と配布されたカードの内容および行先の認識,賭けられたチップの量の認識,不要カードおよび再配布したカードの認識,役の判定,勝ち負け判定,チップの取り込みあるいは払い出しなど,カードゲームに不可欠な一連の動作とゲーム管理とが完全に自動的に行えるカードゲーム機を提供することにある。本発明の目的は,複数のプレイヤーが結託して不正行為を行ったり,一見真正なカードと同じ絵柄の不正カードを用いて不正行為を行うことなどを確実に阻止でき,不正遊技が発覚した時点でゲームを中断し,あるいは没収できるカードゲーム機を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明のカードゲーム機は,賭けられたチップPの数量を計量する賭量認識手段7と,シャッフルされた遊技カードCを所定の手順で所定枚数ずつプレイヤーに配布するカード配布手段5と,配布された遊技カードCと,捨てられた遊技カードCと,再配布された遊技カードCの配布先および内容を認識し,プレイヤーの役を判定する役判定手段41と,役判定手段41で得られたデータを比較して,勝ち負けを判定する結果判定手段42と,上記の各手段5・7・41・42で得られるゲーム経過データ,および結果でデータを表示する表示手段3と,結果判定手段42の判定結果に応じて,チップPを取り込み,あるいは払い出す清算手段43とを備えていることを特徴とする。
【0007】遊技カードCは,図3に示すごとくカード内容を表示する絵柄と,データ化され,あるいはコード化されたカード内容を保持する記録部16とが設けられていて,遊技カードCの真贋,プレイヤー役の判定,勝ち負け判定が,前記記録部16のデータに基づいて行われる。
・・・・・・・・・・・
【0014】遊技カードCに例えば磁気信号を記録する記録部16を設けてあると,カードの真贋判定が簡単に行える。各プレイヤーが手許に持っている遊技カードCの組み合わせをゲーム機の側で認識できるので,複数のプレイヤー間でカードを受け渡したことも容易に判定できる。従って,故意に不正遊技が行われたとしても,その事実を直ちに指摘し,ゲームを中断し,あるいは没収することができる。記録部16はバーコードで形成し,あるいは非接触読取りが可能なICチップなどで構成できる。
・・・・・・・・・・・・
【0017】
【実施例】図1ないし図8は本発明に係るカードゲーム機の実施例を示す。図1において,カードゲーム機は半円状のテーブル1を有する本体部2と,本体部2の後ろ側の直線辺部に沿って立設されたディスプレー(表示手段)3とを有し,本体部2の内部にカードゲームを自動的に運営し管理するための機器が収容してある。ディスプレイ3の基端中央には,ディーラー区画4が後方に,カード配布手段5が前方にそれぞれ隣接配置してあり,カード配布手段5を中心にして,これの前方には4個のプレイヤー区画6が放射状に区分配置してある。各プレイヤー区画6には,図2に示すように賭けられたチップPの数量を計量する賭量認識手段7と,捨てられた遊技カードCを回収するカード回収口8と,カードスキャニング窓9と,コントロールパネル10とが設けられている。さらに,本体部2の前側壁の周面には,各プレイヤー区画6ごとにチップ払出口11とホッパー12が設けてある。カード回収口8を含むテーブル表面には透明な窓板13が設けてある。この窓板13の内部はカード回収エリア14になっており,回収した遊技カードCがシャッフルされる状態を窓板13越しに見ることができる。
【0018】図3において遊技カードCは,基本的に市販のトランプカードと同じ形態をとるが,その片面にカードの内容,つまりスーツの種類と数字を記録するための記録部16を付加した点が市販品と異なる。具体的には,遊技カードCの裏面に長辺部と平行な磁気ストライプを設け,そこにスーツの種類と数字,さらにカードが真正であることを表わす文字コード等の磁気信号が記録されている。記録部16は磁気ストライプ以外に,バーコードや非接触読取りが可能なICチップで構成してもよい。
【0019】ディスプレイ3はプロジェクター型のディスプレイであって,カードゲームの進行状況を表示し,ゲームの勝ち負けや,チップPの払い出し量等を表示する。不正行為があった場合には,警告を表示し,あるいはゲームが成立しない旨の表示を行う。
・・・・・・・
【0021】図5においてカード配布手段5は,53枚を一組とするカード群を収容するマガジン25と,マガジン25の上端に位置する遊技カードCを1枚だけ送り出す初段ローラ26と,初段ローラ26から送り出されてきた遊技カードCを高速度で弾き出す上下一対の配布ローラ27と,これらの機器全体を縦軸まわりに回転させて,配布ローラ27の送出方向を各プレイヤー区画6とディーラー区画4とに変向操作する旋回機構(図示していない)とからなる。マガジン25へのカード群の装填は,別途設けられたカード装填機構で行う。両ローラ26・27間には,送り出されて来る遊技カードCの内容を読み取る磁気ヘッドH1が設けてある。
・・・・・・・
【0023】図7においてカード回収口8は,カード回収エリア14に連通しており,その通口の上下に,捨てられる遊技カードCの内容を読み込む二つの磁気ヘッドH2・H3が設けてある。磁気ヘッドH2・H3を上下に設けるのは,遊技カードCの挿入姿勢が表裏いずれであっても対応できるようにするためである。
・・・・・・・・
【0026】上記の各機器を制御し,ゲームの進行と勝ち負け判定,および清算等を行うために制御回路を設ける。図8において制御回路は,各機器の動作を制御する機器制御部40と,役判定手段41と,結果判定手段42とを含む。役判定手段41は,ディーラーおよびプレイヤーに対して当初配布された遊技カードCと,捨てられた遊技カードCと,再配布された遊技カードCの配布先および内容を認識しており,再配布が終了した時点で,ディーラーおよびプレイヤーの役の成否,および役の優劣を判定し認識する。この役判定データを結果判定手段42で判定して,ゲームの勝ち負けと,誰が勝ったかを決定する。この決定に基づいて,賭けられたチップPを取り込み,あるいは清算手段43を作動させて,所定数のチップPをチップ払出口11から払い出す。これらの判定結果は,ディスプレイ上に順次表示される。
【0027】ゲームが終了したら,手許にあるカードの全てをカード回収口8からカード回収エリア14へ投入する。投入された一組(53枚)のカードは,ブロワーで噴き上げられてシャッフルされる。この状態をプレイヤーに見せて,ゲームの迫真性を増すために,カード回収エリア14の上面が透明の窓板13で覆われている。次に,全てのカードを整列してカード裏面が表になる状態で積層し,カード装填機構へ渡す。カード装填機構には,カードの裏面の絵柄が異なる複数組のカード群がストックされている。以後は上記の手順を繰り返すことにより,ポーカーゲームを自動的に継続できる。
【0028】上記の実施例では,1個のカード配布手段5で遊技カードCを配布したが,複数個のカード配布手段5で遊技カードCを配布できる。ディーラー区画4,カード配布手段5,賭量認識手段7等は,実施例で説明した構造である必要はなく,機能的に同一処理が行えるだけでよい。本発明のカードゲーム機は,ポーカー以外のトランプゲーム,あるいは花札ゲームを行うことができる。」


3.引用例1記載の発明の認定

上記した抜記事項の全体から,引用例1には,「カードゲーム機」に関する発明事項が開示されており,「方法」の観点からすれば,段落【0018】の記載から明らかなとおり,「遊技カードC」に記録された「磁気情報」を扱う方法に関する発明事項が開示されている。段落【0026】の記載によれば,カードゲーム機は「制御回路」部分を有しており,「遊技カードC」の「磁気情報」はここで扱われることが明らかである。
段落【0004】?【0005】及び段落【0014】の記載から,「カードゲーム」としては実際に「遊技カードC」が各プレイヤーの手元に配布される「カードゲーム」が前提とされている。また,段落【0027】?【0028】によれば,「ポーカーゲーム」あるいは「ポーカー以外のトランプゲーム」を,継続して行うことも予定されている。
段落【0005】及び【0014】の記載からすれば,「遊技カードC」の「磁気情報」を扱う目的の一つは,不正行為が行われたとしても直ちに指摘することである。
段落【0021】によれば,ゲーム中に配布される「遊技カードC」の内容は配布時に読み取られる。配布時に読み取られた「遊技カードC」の内容は,段落【0026】によれば,カードゲーム機の「制御回路」部分に認識される。また,同段落【0026】によると,カードゲーム機の「制御回路」部分は,配布された遊技カードCの内容と併せて,捨てられた遊技カードCの内容も認識し,ゲーム中の役の成否や優劣を認識する。
段落【0018】及び【0021】によると,配布時の遊技カードCの内容の読み取りは,遊技カードCの長辺部と平行な磁気ストライプ上の,スーツの種類と文字,及びカードが真正であることを示す文字コード等を読み取ることで行われる。

以上を整理すると,引用例1には,

「継続して行われる,各プレイヤーの手元に遊技カードCが配布されるポーカーゲームあるいはポーカー以外のトランプゲームにおいて,
不正行為が行われたとしても直ちに指摘することを目的の一つとする,カードゲーム機の制御回路部分によって,遊技カードCに記録された磁気情報を扱う方法であって,
ゲーム中に配布される遊技カードCの内容は,配布時に読み取られて,カードゲーム機の制御回路部分で認識され,
カードゲーム機の制御回路部分では,配布された遊技カードCの内容と併せて捨てられた遊技カードCの内容も認識し,役の成否や優劣を判定し,
配布時の遊技カードCの内容の読み取りは,遊技カードCの長辺部と平行な磁気ストライプ上の,スーツの種類と文字,及びカードが真正であることを示す文字コード等を読み取ることで行われる,
遊技カードCに記録された磁気情報を扱う方法。」

なる発明(以下,「引用発明1」という。)が開示されていると認めることができる。


4.本願発明と引用発明1の一致点及び相違点の認定

引用発明1を本願発明と対比する。
引用発明1における「継続して行われる,各プレイヤーの手元に遊技カードCが配布されるポーカーゲームあるいはポーカー以外のトランプゲーム」は,本願発明における「連続して行われるカードゲーム」に相当する。
また,引用発明1における「カードゲーム機の制御回路部分」は,遊技カードCの磁気情報を取り扱って各種の処理を行っていることから,コンピュータを備えることが明らかであるとともに,役の成否や優劣の判定も行っているから,本願発明における「判定コンピュータ」に相当する。そして,引用発明1の当該「制御回路部分」は,「不正行為が行われたとしても直ちに指摘する」という目的のための処理も行っていることが明らかであるとともに,当該目的のための処理を行う場合の「制御回路部分」は,本願発明における「不正行為を検出するための判定コンピュータ」に相当する。
すなわち,本願発明に「連続して行われるカードゲームでの不正行為を検出するための判定コンピュータによる情報処理方法であって,」とある点は,引用発明1と本願発明との一致点である。
次に,引用発明1における「ゲーム中に配布される遊技カードC」は,本願発明における「各回のゲームに登場するカードである登場カード」に相当する。また,引用発明1における「遊技カードCに記録された磁気情報」は,遊技カードCの「スーツの種類と文字,及びカードが真正であること」を示すものであるから,配布時に読み取られる「遊技カードCの内容」は,本願発明における「登場カードを特定するための登場カード情報」に相当する。そして,引用発明1において,配布時に読み取られた「遊技カードCの内容」は,「カードゲーム機の制御回路部分で認識」される以上,該「制御回路部分」まで送られることが明らかである。
そのため,本願発明が「各回のゲームに登場するカードである登場カードを特定するための登場カード情報を読み取り,判定コンピュータに送るステップ」を有する点は,引用発明1と本願発明との一致点である。
さらに,引用発明1では,「カードゲーム機の制御回路部分」において,「配布された遊技カードCの内容」は,ゲーム中に「捨てられた遊技カードCの内容」との比較において「役の成否や優劣を判定」するために用いられ,また「不正行為が行われたとしても直ちに指摘」するためにも用いられることが明らかである。そのためには,引用発明1においても,「カードゲーム機の制御回路部分」に記憶手段を有し,ゲームが行われている間は配布された遊技カードCの内容を記憶させておくことは,実際上明らかである。なお,引用発明1においては,ゲームの種類に応じては,配布された遊技カードCの内容をゲームの途中で記憶手段から消去しても,「役の成否や優劣判定」という目的に限っては差し支えない場合もあり得ると考えられる。しかしながら,仮にそのような場合があり得るとしても,引用発明1ではゲーム中において,「配布される遊技カードCの内容」を,少なくとも不要となるまでは記憶させていることが明らかである。
そのため,本願発明と引用発明1とは,「ゲームが行われている間,少なくとも不要となるまでは,前記登場カード情報を前記判定コンピュータの記憶手段に記憶させるステップ」が存在する点では一致すると言い得る。ゲームが行われている間ずっと記憶させるか否かは,一応の相違点として,後に改めて検討することとする。
引用発明1における「配布時の遊技カードCの内容の読み取り」は,「遊技カードCの長辺部と平行な磁気ストライプ上」の「文字コード等」を読み取るものであるから,センサによって本願発明にいう「前記登場カードに設けたコード」を読むものであることが明らかである。
したがって,引用発明1と本願発明とは,「前記登場カードを読み取るステップは,読取センサにより前記登場カードに設けたコードを読むステップ」を有する点で,一致する。

以上を整理すると,本願発明と引用発明1の一致点は次のとおりである。

<一致点>
「連続して行われるカードゲームでの不正行為を検出するための判定コンピュータによる情報処理方法であって,
各回のゲームに登場するカードである登場カードを特定するための登場カード情報を読み取り,判定コンピュータに送るステップと,
ゲームが行われている間,少なくとも不要となるまでは,前記登場カード情報を前記判定コンピュータの記憶手段に記憶させるステップと,
を含み,
前記登場カード情報を読み取るステップは,
読取センサにより前記登場カードに設けたコードを読むステップを含む, 情報処理方法。」

そして,本願発明と引用発明1との相違点,及び一応の相違点は,以下のとおりとなる。

<相違点1>
本願発明では「ゲームが行われている間,前記登場カード情報を前記判定コンピュータの記憶手段に記憶させるステップ」を有し,ゲーム終了まで登場カード情報が記憶され続けていると解されるのに対し,引用発明1では,必ずしもゲーム中の全期間において,配布時に読み取った遊技カードCの内容を記憶させ続けるか否かは,明らかでない点。
なお,当該相違点1については,対比の点で述べたとおり,引用発明1が想定する「トランプゲーム」の種類に応じては実際上の相違点にならないとも解されるところ,一応の相違点として検討するものである。

<相違点2>
本願発明では,登場カードのコードの読み取りが,「前記登場カードをレールに沿ってスライドさせる際,前記レールに沿って前記登場カードがスライドされる方向に間隔を設けて配置された複数のカードセンサからカードの存在を示す信号を受け取ったときに」行われるのに対して,引用発明1ではそうなっていない点。

<相違点3>
本願発明では,登場カードの読み取りに,「前記複数のカードセンサにより,前記登場カードが前記レールに沿ってスライドしたときの姿勢が適正であったか否かを判定する姿勢判定ステップ」が存在するのに対して,引用発明1ではそうなっていない点。

<相違点4>
本願発明では,「前記姿勢判定ステップ」が「前記複数のカードセンサによって,前記登場カードがスライドされる方向に上流側から下流側に順に前記登場カードが検出されたか否かを判定するステップ」を備えるのに対して,引用発明1ではそうなっていない点。

<相違点5>
本願発明では,「前記姿勢判定部の判定結果は,前記登場カードの一辺が前記レールに接触した状態でコードが読み取られたか否かを示すものである」のに対して,引用発明1ではそうなっていない点。なお,「前記姿勢判定部」は,「前記姿勢判定ステップ」の誤記と解する。


5.判断

(1)相違点1について
引用発明1においても,ゲーム中の不正行為を直ちに指摘することを目的の一つとしており,そのために配布した遊技カードCの内容を,同じカードが2度登場する等の不正の有無も確認できるように,ゲームが終了するまで必ず記憶させておくことは,設計事項程度と言わざるを得ない。
そのため,一応の相違点1は,相違点と扱っても,設計事項程度である。

(2)相違点2及び相違点3について
相違点2と相違点3は密接に関連しているので,まとめて検討する。
当審の拒絶の理由に引用した,特開平11-267264号公報(以下,「引用例2」という。)には,「定置式バーコードスキャナーを設置する場所は・・・つまり,カードを配るディーラーが座る位置に合わせて設置すると良い。」(段落【0008】),及び,「不正カードの混入やゲーム中におけるカードのすり替え等の不正行為を防止することができる。」(段落【0028】)との記載がある。すなわち,カードゲームにおける不正防止策として,ディーラーが人手によりカードを配布する場合であっても,ゲームに登場するカードの情報を機械に読み取らせて,不正を防止することは知られている。
そうであれば,引用発明1を出発点としても,トランプゲームの種類に応じては,ディーラーが人手でカードを配布しながら,カードの内容を機械に読み取らせて不正防止を図るという選択肢もあり得ることを認識し,引用発明1における「遊技カードC」の「磁気情報」を,引用例2を参酌して,ディーラーが人手でカードを配布する際に読み取らせるようにして,カードゲームにおける不正防止方法とすることは,当業者であれば想到容易というべきである。
その際,引用発明1の「遊技カードCの長辺部と平行な磁気ストライプ」の情報を,ディーラーが人手でカードを配布する際に読み取らせるうえで,カードをレール部に沿ってスライドさせる型の読み取り器は,たとえば当審の拒絶理由でも示した特開昭63-311656号公報(以下,「周知文献1」という。特には第4頁を参照。),実願昭54-84678号(実開昭56-5248号公報)のマイクロフィルム(以下,「周知文献2」という。特には第3図を参照。),実願平1-130667号(実開平3-71450号公報)のマイクロフィルム(以下,「周知文献3」という。特には第2図を参照)にも示されるとおり,手動のカード読み取り器として汎用される周知技術(以下,「周知技術1」という。)である。そのため,このような手動スライド型の読み取り器を採用することは,当業者であれば適宜なし得た程度の事項と言わざるを得ない。
また,上述したような手動スライド型の読み取り器では,カードのスライド方向とスライド姿勢,及び磁気ストライプ上の情報を読み取る読み取り用センサの動作期間が適切でなければ,情報の適切な読み取りができないことは,技術常識である。そうであるところ,当該技術常識ともいうべき読み取り動作の調整のために,レール部に沿ってカードがスライドされる方向に間隔をあけて配置した複数のカードセンサを設けることは,上述した周知文献1?3のいずれにおいても採用されている(上述の各指摘箇所を参照)ように,やはり汎用される周知技術(以下,「周知技術2」という。)である。そのため,前述した周知技術1の如く,カードをレール部に沿って手動でスライドさせる型の読み取り器を用いるのに併せて,前述した周知技術2の如く,複数のカードセンサを設けてこれを用いることは,設計事項程度と言わざるを得ない。
さらに,複数のカードセンサの配置と用法に関してみると,前記周知文献1には,次の記載がある。
「上記実施例においては磁気カード1の走査状態を検出するための検出器Sが1箇所のみに設けられている。この配置構成では,磁気カード1の先端部または後端部が検出器Sの位置にあるときに,磁気カード1が多少傾いていても検出器Sがオンとなることがある。磁気カード1の走査姿勢をより高精度に検出するために第5a図および第5b図に示すように,ガイド溝11の底面12に磁気カード1の走査方向に3つの検出器S1,S2およびS3を設けることが好ましい。中央の検出器S2は磁気ヘッド14の位置に,他の検出器S1,S3は検出器S2を挟んで磁気カードの走査方向の前後の位置に設けられる。検出器S1とS2との間の距離,および検出器S2とS3との間の距離は磁気カード1の辺3の長さよりもそれぞれ短く設定されている。このような検出器の配置によって,磁気カード1の先端部が磁気ヘッド14の位置に進入したときに両検出器S1,S2がともにオンであれば,また磁気カード1の後端部が磁気ヘッド14の位置を通過するときに両検出器S2,S3がともにオンであれば,磁気カード1は正しい姿勢で走査されていることになる。」(第3頁右下欄15行?第4頁左上欄16行。)
すなわち,走査姿勢の正確な検知のために,カードの先端部が読み取りセンサたる磁気ヘッド14に達したときと,カードの後端部が磁気ヘッド14を通過するときとで,特定の検出器対から出力が得られるようにすること,走査方向の前の検出器対であるS1とS2が同時にカードを検出し,その後で走査方向の後の検出器対であるS2とS3とが同時にカードを検出すれば,カードは正しい姿勢で走査されたと言い得るようにすることが示されている。
そうであれば,遊技カードCの磁気ストライプ情報を,前述した周知技術1の如く,ありふれた手動スライド型の読み取り装置で読み取らせるとともに,手動スライド型の読み取り器における適切な動作調整のために,前述した周知技術2の如く,スライド方向に配置した複数のカードセンサを用いるに際して,前記周知文献1の具体的なセンサ配置を参考にして,読み取り用センサを動作させるべき起点付近で特定のセンサ対がカードを検知するようにして,当該センサ対の信号により読み取りを開始させること,及び,読み取り開始時と終了時にそれぞれ特定のセンサ対がカードを検出するか否かで,カードのスライド姿勢が適切であったか否かを判定させることも,当業者であれば適宜なし得たであろう程度の事項というべきである。
なお,この点につき請求人は,周知文献1?3はいずれもゲーム用カードに関する文献ではないから,ゲーム用カードには適用できない旨を主張している。しかしながら,遊技カードCの磁気ストライプ上の情報を読み取るのに,一般的な磁気カードの読み取り技術が適用できないものではなく,請求人の主張は採用できない。
したがって,相違点2及び3に係る本願発明の構成を得ることは,引用例2に記載された発明及び前述した各周知技術に基づいて,当業者であれば想到容易である。

(3)相違点4について
磁気ストライプを備えるカードを手動でスライドさせて読み取らせるうえでは,一般に走査方向も考慮されることが通常である。そして,前述した周知技術2の如く,手動スライド型の読み取り器においてスライド方向に沿って複数のカードセンサを設けた場合には,手動によるスライド方向が適切であれば,複数のカードセンサによる検出順序も,上流側から下流側の順番となることが明らかである。
また,たとえば前記周知文献1にも,先に抜記したように「・・・磁気カード1の先端部が磁気ヘッド14の位置に進入したときに両検出器S1,S2がともにオンであれば,また磁気カード1の後端部が磁気ヘッド14の位置を通過するときに両検出器S2,S3がともにオンであれば,磁気カード1は正しい姿勢で走査されていることになる。」(第4頁左上欄11?16行)と記載があり,適切なスライド方向が存在することを前提として,「正しい姿勢で走査」の場合には検出器による検出順序も適切となることが示唆されている。
そうであれば,相違点2及び3の構成をとるに際して,併せて,複数のカードセンサが上流側から下流側に順にカードを検出したかによって,スライド方向の面からも適切なスライド姿勢を判定するようにすることは,設計事項程度というべきである。
すなわち,相違点4は設計事項程度である。

(4)相違点5について
汎用される手動スライド型のカード情報読み取り器において,複数のカードセンサを用いるという,前述した周知技術2の目的には,カードが傾いた姿勢でスライドされたのではないことを確認することも含まれていた。そのことは,たとえば前記周知文献1の「磁気カード1の走査状態を検出するための検出器Sが1箇所のみに設けられている。この配置構成では,・・・・,磁気カード1が多少傾いていても検出器Sがオンとなることがある。」なる記載(第3頁右下欄15行?20行),また前記周知文献2の「例えば,第2図に示すように,一端側が案内部材3に沿うことなく,カード2が円弧を描いて手動により移動された場合」なる記載(明細書第2頁8行?10行),あるいは前記周知文献3の「磁気カード2の情報記録部分2aに沿った一辺が磁気カード挿入溝1aの底面に当接していない状態であると」(明細書第5頁17行から19行)なる記載からも,明らかである。
そうであれば,上記(2)及び(3)で検討した如く,相違点2?4の構成を採る場合にも,そのようにして複数のカードセンサを用いてカードのスライド姿勢が適切か否か判定した結果が,カードの一辺がレール部に接触した状態でコードが読み取られたか否かを示すものであることは,当然である。
すなわち,相違点5は,相違点2?4に係る構成を採用する場合には,付随的に達成される事項が説明的に記載されただけに過ぎず,相違点2?4と独立した実際上の相違点というべき事項ではない。
なお,請求項4における「コードが読み取られたか否か」という記載は,仮にスライド姿勢が不適切であっても,読み取り自体はなされたうえで姿勢判定が行われる場合があり得る趣旨とも解される。しかしながら,前記周知文献1の具体例の如く,カードの後端部が読み取りセンサの位置を通過する時点まで姿勢が適切であったか否かを判定する態様をとる場合,最終的な姿勢判定の後に読み取りを開始することはできないから,ひとまず読み取り自体は行ったたうえで,姿勢が適切であったか否かをあらためて判定するようにすることは,設計事項程度というべきである。
すなわち,相違点5は,仮に読み取り自体は行ったうえで姿勢が不適切であったと判定される場合が存在する趣旨と解したとしても,設計事項程度というべきである。
したがって,相違点5は,相違点2?4に係る構成を採るうえでは自動的に達成される事項であるか,そうでなくとも設計事項程度である。

(5)相違点5に関する請求人の主張について
請求人は相違点5について,「判定結果を表示等する」旨であるかのような主張をするとともに,もって本願発明は進歩性を肯定されるべき旨を主張している。
しかしながら,請求項4における記載は,「判定結果は,・・・・示すものである」というものである。すなわち,「判定結果」が「示すものである」という性質を有することを特定したものであって,「判定結果を表示する」という記載,あるいは「判定結果を示す」という記載ではない。
したがって,請求人の上記主張は,特許請求の範囲における記載を離れたものであって,採用できない。
なお,仮に請求人の主張に配慮して,判定結果をさらに表示する場合であれば進歩性を有するのかを予備的に検討したとしても,手動スライド型の読み取り器においてカードのスライド姿勢が適切でなかった場合に,操作者に再度のスライドを促すべく表示や音によってその旨を報知することは,たとえば前記周知文献2にも「ブザー又はランプ等の警報機又は表示器16を作動させ,カード操作誤りを操作者に感知させるように動作する。」(明細書第5頁13行?16行)と記載されているように,きわめて当たり前の事項に過ぎない。そのため,仮に本願発明が,「判定結果」を「表示」するものであると仮定しても,そうすることは単なる設計事項に過ぎない。
また,請求人は,前記周知文献1?3には,カードのスライド姿勢が不適切であった場合には読み取りを禁止することしか開示されていないから,ゲームの流れが中断されては不便なカードゲームには,適用できない旨も主張する。そして,本願発明ではゲームの流れを中断することはないから,周知技術には適用について阻害要因がある一方,本願発明はその点で顕著な効果を奏する旨も主張する。
しかしながら,先に述べたとおり,請求項4の記載は「判定結果」の性質を特定するだけのものである。すなわち,姿勢判定結果がどうであったかによらず,誤ったスライド姿勢による読み取り値をそのまま用いて,あるいは読み取り値が得られないままに,ゲームを中断させずに続行させる方法であることは,請求項に記載された事項ではない。また,本願の明細書をみても,段落【0108】に「姿勢が適正でないときは,LED素子58が点灯しない。この場合,ディーラーは,再度,カードをレール18に沿ってスライドさせる。」と記載があるとおり,カードの再スライド期間はゲームを中断させる前提である。そして,それに反する記載は存在しない。
したがって,上記請求人の主張のうち,ゲームの流れの中断に関する本願発明の特徴及び効果に関する主張は,特許請求の範囲の記載を離れ,かつ,本願明細書の記載にも反する主張であるから,失当であって採用することはできない。
また,上記請求人の主張のうち,周知技術の適用に阻害要因があると主張する部分についても,カードのスライド姿勢が適切でなかった場合に,ディーラーがカードを再スライドさせる程度の中断が生じることは,不正防止策を講じつつカードゲームを行ううえでは妥当に容認される範囲というべきであるから,請求人の主張は採用することができない。
以上より,請求人の主張をどのように勘案しても,上記(4)における相異点5についての判断を覆すべき事情は,見いだすことができない。

(5)進歩性のまとめ
以上のとおり,相違点1?5に係る本願発明の構成を採用することは,設計事項程度であるかまたは当業者にとって想到容易であり,当該構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって,本願発明は,引用発明1及び引用例2に記載された技術並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。


第3 むすび

本願発明が特許を受けることができない以上,その他の請求項に係る発明について検討することを要さず,本願は拒絶せざるを得ない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-03 
結審通知日 2010-03-16 
審決日 2010-03-29 
出願番号 特願2003-5319(P2003-5319)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤田 年彦  
特許庁審判長 立川 功
特許庁審判官 吉村 尚
有家 秀郎
発明の名称 カードゲーム不正検出装置  
代理人 津田 理  
代理人 森田 耕司  
代理人 大野 聖二  

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