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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2009800126 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1217269
審判番号 無効2009-800129  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-06-18 
確定日 2010-05-24 
事件の表示 上記当事者間の特許第3771347号発明「真空処理装置及び真空処理方法」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 特許第3771347号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は,被請求人の負担とする。 
理由
1 手続の経緯
本件特許第3771347号の請求項1?3に係る発明についての手続の経緯は,以下のとおりである。
・平成 9年 3月19日 出願
・平成18年 1月18日 特許をすべき旨の審決
・平成18年 2月17日 特許の設定登録
・平成21年 6月18日 無効審判請求(請求人)
・平成21年 9月 7日 答弁書提出(被請求人)
・平成21年11月24日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
・平成21年11月26日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
・平成21年12月 7日 口頭審理
・平成21年12月16日 無効理由通知
・平成22年 1月18日 訂正請求(被請求人)
・平成22年 1月18日 意見書提出(被請求人)
・平成22年 2月 8日 訂正拒絶理由通知
・平成22年 3月 8日 訂正請求の取下げ(被請求人)
・平成22年 3月15日 意見書提出(請求人)
・平成22年 3月23日 上申書提出(被請求人)

2 当事者の主張及び無効理由通知の概要
(1)請求人の主張
本件特許の請求項1に係る発明は,甲第1号証および/または甲第2号証,本件特許の請求項2に係る発明は,甲第1号証および/または甲第2号証,本件特許の請求項3に係る発明は,甲第1号証および/または甲第2号証および甲第3号証に記載された発明に基づいて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきである。
(2)各甲号証
請求人の提出した各甲号証は,次のとおりである。
甲第1号証:特開平5-226453号公報
甲第2号証:特開平5-55148号公報
甲第3号証:特開平7-50333号公報
(3)被請求人の主張
本件特許の請求項1ないし請求項3に係る発明は,各甲号証及び各引用例の存在に拘わらず,特許法第29条第2項の規定に該当するおそれはなく,したがって,請求人の主張及び無効理由通知は誤りであり,本件特許が特許法第123条第1項第2号の規定により無効にされることはない。
(4)無効理由通知
本件特許の請求項1?3に係る発明は,引用例1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであるから,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
(5)各引用例
無効理由通知で引用された各引用例は,次のとおりである。
引用例1:特開平5-226453号公報(甲第1号証)
引用例2:特開平5-55148号公報(甲第2号証)
引用例3:特開平3-274746号公報
引用例4:特開平6-314729号公報
引用例5:特開昭63-133532号公報

3 本件特許の請求項1?3に係る発明
上記1に示した手続の経緯のとおり,平成22年1月18日付けで訂正請求がされたが,当該訂正請求は平成22年3月8日に取下げられたから,本件特許の請求項1?3に係る発明(以下「本件特許発明1」?「本件特許発明3」という。)は,本件特許の願書に添付した明細書の特許請求の範囲に記載された,次のとおりのものである。

【請求項1】
「プロセス処理を行う複数のプロセス処理装置,該プロセス処理装置にウェハを搬送する搬送処理装置,該搬送処理装置内に設置されウェハの搬送を行う搬送装置及びウェハを複数枚収納できる複数のカセットを大気中で載置する大気搬送装置と,前記大気搬送装置のいずれかのカセット内からも前記ウェハを抜き取れるように構成された他の搬送装置,前記搬送処理装置と他の搬送装置との間に配設されたロック室とを備え,前記カセットと前記他の搬送装置,ロック室,搬送処理装置及びプロセス処理装置との間でウェハを搬送するための搬送制御を行う制御装置で構成され,前記搬送処理装置に接続された複数のプロセス処理装置を使用してウェハ処理を行う真空処理装置において,
少なくとも2つのカセットを使用し,各カセット毎に収納されたウエハを他の搬送装置,ロードロック室及び前記搬送装置を介して前記いずれかのプロセス処理装置へ搬送し,搬送したウエハに前記カセット毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理,及び各カセットに収納されたウエハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理の何れかを選択的に施すとともに並列処理を施した後のウエハをアンロードロック室を介してもとのカセットに戻すことを特徴とする真空処理装置。」
【請求項2】
「大気中で大気搬送装置に載置された各カセット内のウェハを他の搬送装置からロック室,更に搬送処理装置を介してプロセス処理装置に搬送し,少なくとも2つ以上のプロセス処理装置でウェハのプロセス処理を行う真空処理方法において,
少なくとも2つのカセットを使用し,各カセット毎に収納されたウエハを抜き取れるように構成された他の搬送装置,ロードロック室及び搬送装置を介して搬送し,搬送したウエハに前記カセット毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理,及び各カセットに収納されたウエハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理の何れかを選択的に施すとともに並列処理を施した後のウエハをアンロードロック室を介してもとのカセットに戻すことを特徴とする真空処理方法。」
【請求項3】
「請求項2において,ウェハは2つのカセットから交互に抜き出してそれぞれ並列処理することを特徴とする真空処理方法。」

4 引用例の記載内容と引用発明
(1)引用例1(甲第1号証):特開平5-226453号公報
(1-1)請求人により甲第1号証として提出されるとともに,平成21年12月16日付けの無効理由通知書(以下「無効理由通知書」という。)において引用され,本件特許に係る出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平5-226453号公報(以下「引用例1」という。)には,図1?8とともに,次の記載がある。(下線は当合議体で付加したものである。以下同じ。)
「【0002】
【従来の技術】従来の真空処理装置は,例えば,特開昭63-252439号公報のように,種々のプロセスを実行するにあたって,(a)別々のプロセスを別々の処理室で同時に実行する。及び/又は,(b)別々のプロセスを同じ処理室で順次実行することのできる真空処理装置であったり,また例えば,特開昭63-133532号公報のように,複数のプラズマ反応器で,(c)同時に同一単一工程処理,(d)同時に異なる単一工程処理,(e)複数のプラズマ反応器で連続する複数工程処理のいずれかの処理を行なうような装置であった。」
「【0006】ところで,近年では,DRAM,SRAMといった各デバイス内での品種の多様化に伴い試料の処理工程も多様化してきている。よって,種々の処理工程を1台の真空処理装置で行ない,工程間のウエハの移動時間を短縮することで,試料の処理効率を上げることが望まれている。しかるに,これらの従来技術では,複数の処理室で構成された真空処理装置において,上記のような種々の処理工程(ここでは,特に少なくとも2つ以上の処理室で順次処理する処理工程を2工程以上同時に行なう処理工程)を同時に1台の真空処理装置で行えるものではなかった。
【0007】以下に1枚のウエハを2つの処理室で順次処理する処理工程を1工程のみ行なう場合と,2工程同時に行なう場合の違いについて述べる。図7は,ウエハを処理室1で処理した後,処理室2で処理する場合のタイムチャ-トを示す。図8は,ウエハを処理室1で処理した後,処理室2で処理する工程と,ウエハを処理室4で処理した後,処理室3で処理する工程との2つの工程を同時に行なう場合のタイムチャ-トを示す。この場合は,処理室1,2,3,4の処理内容が同じであっても,異なっていても良い。本タイムチャ-トでは,各処理室の処理時間が,同じ場合について示した。ここで,図7,図8に示した○印内の数字は,ロードロック室から順次搬送室内へ搬入されるウエハ番号を示す。
【0008】1)真空処理装置内で同じ順次処理工程を行なう場合(処理室1と処理室4,及び処理室2と処理室3とが同じ処理の場合),図7のものは,2枚目のウエハは,1枚目のウエハが処理室1で処理終了し,処理室2に搬入された後に,処理室1に搬入され処理されるに対し,図8のものは,2枚目のウエハは,1枚目のウエハが処理室1に搬入された後,処理室2(合議体注:「処理室2」は「処理室4」の誤記である。)に搬入され処理されるため,図8での処理は,図7での処理の約2倍の処理効率を持つ。
2)真空処理装置内で異なる順次処理工程を行なう場合(処理室1と処理室2と処理室3と処理室4とが異なる処理の場合),図7のものは,真空処理装置に試料を1枚搬入して処理し,真空処理装置から搬出された後,他方の処理工程の試料を搬入して処理するか,又は,一方の処理工程を先に終了させ,そのあとで,他方の処理工程を行なうことしかできず,試料の処理効率は低い。図8のものは,異なる順次処理工程を同時に処理することができる。よって,試料の処理効率は高い。
3)1つ以上の処理室を異なる試料上で共用する処理の場合は,上記2)と同様である。
以上のように,上記従来技術は試料の種々の順次処理工程を効率良く処理することについて対応できていなかった。
【0009】本発明は,3つ以上の処理室を搬送室に接続した真空処理装置において,少なくとも2つ以上の処理室で順次処理する同じ又は,異なる処理工程を2工程以上同時に実行することで,工程間のウエハの移動時間を短縮し,試料の処理効率を向上することができる真空処理装置を提供することを目的とする。」
「【0012】
【実施例】以下,本発明の一実施例を図1?図3により説明する。本実施例は,真空処理室を4室配置したものであるが,該真空処理室は1室でも2室でも3室でも,あるいは5室以上あっても良い。
【0013】図1で,1,2,3,4は真空処理室,5はロードロック室,6はアンロードロック室,10は搬送室である。ロードロック室5,6は試料を大気中から真空処理雰囲気にもってゆき,また,真空処理雰囲気から大気にもってゆくものであり,ウエハ(図示しない)を大気搬送装置(図示しない)と真空処理装置とで受渡しを行なうものである。ロードロック室5,6,真空処理室1,2,3,4及び搬送室10には,各々独立した排気装置11,16,12,13,14,15,17が設けられており,搬送室10と真空処理室1,2,3,4との間は,ゲートバルブ8で仕切られ,搬送装置9-1,9-2で試料が搬送される。また,ロードロック室5,6には,ゲートバルブ7が設けられ大気と連通することができ,(図示しない)大気カセット(図示しない)から大気搬送装置によって試料の取出及び収納が行なわれる。
【0014】真空処理室1内に設けられた試料台32には,高周波電源(図示しない)が接続されており,その上部には,この場合マイクロ波電界と磁界との相乗作用によりプラズマを発生するプラズマ発生部が設けられている。真空処理室1内での処理としては,例えば試料台32に搬送装置9-1により試料が載せられると試料温度を検出し,所定温度に達したのち図示しないガス供給装置からエッチングガスが真空処理室1に導入されプラズマを利用してエッチング処理される。真空処理室1で処理が終了した試料は,例えば真空処理室2に搬送され,真空処理室2で引続きエッチング処理される。尚,真空処理室2,3,4でのエッチング処理プロセスは,真空処理室1でのエッチング処理プロセスと同じであっても,異なっていても良い。又,搬送室10の排気制御,搬送装置9-1,9-2によるウエハの搬送制御を行なう搬送制御装置19及び,真空処理室へのウエハの搬入搬出,排気制御,プロセス制御を行なうプロセス制御装置20-1,20-2,20-3,20-4が,それぞれの真空処理室に対して設けられる。
【0015】処理順序の1例としては,下記の2つの順次処理工程を1つの真空処理装置内で同時に行なう。i)ロ-ドロック室5→真空処理室1→真空処理室2→アンロ-ドロック室6ii)ロ-ドロック室5→真空処理室4→真空処理室3→アンロ-ドロック室6図2は,図1に示した装置を制御するため制御ブロック図を示したものである。本実施例では,搬送順序とそれぞれの真空処理室で行なうプロセスのプロセス処理データを設定し,そのデータを用いて装置内で搬送処理実行可能な搬送処理順序情報を作成する入力制御部 300と,入力制御部 300で作成した搬送処理順序情報と真空処理室状態情報とを参照し,搬送処理あるいはプロセス処理を実行する搬送制御部 400と,真空処理室2,3及び4の排気,搬送,プロセス処理の制御を単独で実行しうる制御手段を有した処理室制御部 500で構成され,各制御部300,400,500は通信手段 308と405及び408と501を介して接続されている。
【0016】入力制御部 300には,オペレータが処理順序とそれぞれの真空処理室で行なうプロセスのプロセス処理データを入力するための入力手段 306,例えばキーボードがあり,上記にて設定したデータを格納しておくための処理データ格納手段 302,例えばRAMがある。また,入力した処理順序とプロセス処理データを表示するための表示手段 305,例えばCRTがある。
【0017】入力方法としては,まず,試料を装置内に搬入して真空処理室で処理を行ない,装置外に搬送するまでのロードロック室と真空処理室の番号を用いて設定する。図1に示した処理室番号を用いて,第1工程として試料をロードロック室5から真空処理室1に搬送し,真空処理室1でプロセスレシピNO.3の処理をした後,真空処理室2に試料を搬送し,真空処理室2でプロセスレシピNo.8の処理をした後,アンロードロック室6に搬送してプロセス処理を行ない,第2工程として試料をロードロック室5から真空処理室4に搬送し,真空処理室4でプロセスレシピNo.7の処理をした後,真空処理室3に試料を搬送し,真空処理室3でプロセスレシピNo.2の処理をした後,アンロードロック室6に搬送してプロセス処理を行なう場合の設定例を表1に示す。これは搬送順に,そのロードロック室,真空処理室の番号とプロセスレシピNo.を対応付けて設定する。
【0018】
【表1】
第 1 工 程 第 2 工 程
No. 搬送順序 レシピNo. 搬送順序 レシピNo.
1 5 0 5 0
2 1 3 4 7
3 2 8 3 2
4 6 0 6 0 」

(1-2)引用例1の記載内容を整理すると,次のとおりである。
ア 引用例1の段落【0013】の下線部の記載によれば,「1,2,3,4は真空処理室,5はロードロック室,6はアンロードロック室,10は搬送室であ」り,「ロードロック室5,6は試料を大気中から真空処理雰囲気にもってゆき,また,真空処理雰囲気から大気にもってゆくものであり,ウエハ(図示しない)を大気搬送装置(図示しない)と真空処理装置とで受渡しを行なうものであ」り,「搬送室10と真空処理室1,2,3,4との間は,ゲートバルブ8で仕切られ,搬送装置9-1,9-2で試料が搬送され」,「ロードロック室5,6には,ゲートバルブ7が設けられ大気と連通することができ,(図示しない)大気カセット(図示しない)から大気搬送装置によって試料の取出及び収納が行なわれる」ものである。
ここで,「搬送装置9-1,9-2」が「搬送室10」内に設置されていること,「ロードロック室5,6」が「ロードロック室5」と「アンロードロック室6」とをまとめて称したものであること,及び,「ロードロック室5,6」が「搬送室10」と「大気搬送装置」との間に配設されていることは,図1及び段落【0013】の「ロードロック室5,6は試料を大気中から真空処理雰囲気にもってゆき,また,真空処理雰囲気から大気にもってゆく」との記載から明らかである。また,「大気カセット」及び「大気搬送装置」は図示されておらず具体的な構造や配置は特定されていないものの,全体としては,「ロードロック室5,6」と「連通する」「大気」中において「大気カセット」「から大気搬送装置によって試料の取出及び収納が行なわれる」機能を有するものであるといえる。
さらに,段落【0014】の下線部の記載によると,「真空処理室」でプロセス処理(「エッチング処理」)を行うこと,及び,「ウエハ」が「試料」として扱われていることは明らかであり,また,一般的に「大気カセット」は通常「ウエハ」を複数枚収納できるものである。
よって,引用例1には,プロセス処理を行う真空処理室1,2,3,4と,真空処理室1,2,3,4との間で試料(ウエハ)を搬送する搬送室10と,搬送室10内に設置されて試料(ウエハ)の搬送を行う搬送装置9-1,9-2と,試料(ウエハ)を複数枚収納できる大気カセットと,大気カセットから試料(ウエハ)の取出及び収納を行う大気搬送装置と,搬送室10と大気搬送装置との間に配設されたロードロック室5,6が開示されている。
イ 引用例1の段落【0014】,【0015】の下線部の記載によれば,「搬送装置9-1,9-2によるウエハの搬送制御を行なう搬送制御装置19」,「真空処理室へのウエハの搬入搬出」「を行なうプロセス制御装置20-1,20-2,20-3,20-4」,「搬送順序とそれぞれの真空処理室で行なうプロセスのプロセス処理データを設定し,そのデータを用いて装置内で搬送処理実行可能な搬送処理順序情報を作成する入力制御部 300」,「入力制御部 300で作成した搬送処理順序情報と真空処理室状態情報とを参照し,搬送処理あるいはプロセス処理を実行する搬送制御部 400」,「真空処理室2,3及び4の排気,搬送,プロセス処理の制御を単独で実行しうる制御手段を有した処理室制御部 500」はすべてウエハの搬送制御を行うものであるから,全体として「制御装置」を構成していることは明らかである。また,「i)ロ-ドロック室5→真空処理室1→真空処理室2→アンロ-ドロック室6」及び「ii)ロ-ドロック室5→真空処理室4→真空処理室3→アンロ-ドロック室6」の「2つの順次処理工程」における搬送制御であること,及び,上記アで示したとおり「搬送装置9-1,9-2」が「搬送室10」内に設置されているために,「搬送室10」と「真空処理室1,2,3,4」との間を搬送する際には「搬送室10」を経由することを併せれば,少なくとも「ロードロック室5,6」(「ロードロック室5」及び「アンロードロック室6」),「搬送室10」,「真空処理室1,2,3,4」との間でウエハの搬送制御を行っていることも明らかである。
よって,引用例1には,ロードロック室5,6と,搬送室10と,真空処理室1,2,3,4との間でウエハの搬送制御を行う制御装置が開示されている。
ウ 引用例1の段落【0009】の下線部には,「3つ以上の処理室を搬送室に接続した真空処理装置において,少なくとも2つ以上の処理室で順次処理する同じ又は,異なる処理工程を2工程以上同時に実行する」ことが記載されており,ここで段落【0013】の下線部等に記載された用語との対応をとると,「処理室」と「真空処理室1,2,3,4」が対応し,「搬送室」と「搬送室10」が対応する。
また,試料(ウエハ)に対する処理を行うための「処理室」(真空処理室)の数については,段落【0009】の下線部の記載によると「3つ以上の処理室」であり,図1,8の実施例に関する段落【0013】?【0017】の下線部の記載によると「真空処理室1,2,3,4」の4個であるが,段落【0012】の下線部には,「本実施例は,真空処理室を4室配置したものであるが,該真空処理室は1室でも2室でも3室でも,あるいは5室以上あっても良い。」と記載されているから,一般的に複数である場合を含んでいる。
よって,引用例1には,搬送室10に接続された複数の真空処理室1,2,3,4を使用して試料(ウエハ)に対する処理を行う真空処理装置が開示されている。
エ 引用例1の段落【0013】?【0015】の下線部の記載によれば,「ロードロック室5,6には」「(図示しない)大気カセット(図示しない)から大気搬送装置によって試料の取出及び収納が行なわれ」ており(「大気カセット」←→「大気搬送装置」←→「ロードロック室5,6」の間の搬送),また,上記イで示した「i)ロ-ドロック室5→真空処理室1→真空処理室2→アンロ-ドロック室6」及び「ii)ロ-ドロック室5→真空処理室4→真空処理室3→アンロ-ドロック室6」の「2つの順次処理工程」における搬送は「搬送室10」内の「搬送装置9-1,9-2」を経由している(「ロードロック室5,6」←→「搬送室10」内の「搬送装置9-1,9-2」←→「真空処理室1,2,3,4」の間の搬送)。そして,試料(ウエハ)に対する処理は当然「真空処理室1,2,3,4」で行われるから,引用例1には,大気カセットから(収納されていた)試料(ウエハ)の取出を大気搬送装置により行い,ロードロック室5,搬送室10内の搬送装置9-1,9-2を介して,真空処理室1,2,3,4に搬送し,試料(ウエハ)の処理を施した後,アンロードロック室6から大気搬送装置により大気カセットへの試料(ウエハ)の収納を行うことが開示されている。
オ 引用例1の段落【0007】?【0009】の下線部の記載によれば,「真空処理装置において,少なくとも2つ以上の処理室で順次処理する同じ又は,異なる処理工程を2工程以上同時に実行する」ものであって,具体例として図8を示しつつ,「ウエハを処理室1で処理した後,処理室2で処理する工程と,ウエハを処理室4で処理した後,処理室3で処理する工程との2つの工程を同時に行なう場合」を挙げているから,上記「真空処理装置」は,「少なくとも2つ以上の処理室で順次処理する」「異なる処理工程を2工程以上同時に実行する」処理,及び,「少なくとも2つ以上の処理室で順次処理する」「同じ」「処理工程を2工程以上同時に実行する」処理のうち,いずれかを施していることになる。
また,引用例1の段落【0017】の下線部の記載を図1及び表1を参照しつつ整理すると,「第1工程として試料をロードロック室5から真空処理室1に搬送し,真空処理室1でプロセスレシピNO.3の処理をした後,真空処理室2に試料を搬送し,真空処理室2でプロセスレシピNo.8の処理をした後,アンロードロック室6に搬送してプロセス処理を行ない,第2工程として試料をロードロック室5から真空処理室4に搬送し,真空処理室4でプロセスレシピNo.7の処理をした後,真空処理室3に試料を搬送し,真空処理室3でプロセスレシピNo.2の処理をした後,アンロードロック室6に搬送してプロセス処理を行なう場合の設定例」が挙げられており,これによると,「工程」と「真空処理室」の組み合わせごとに「プロセスレシピ」が割り当てられているが,その際に,異なる処理に対しては異なる「プロセスレシピ」が適用され,同じ(すなわち共通の)処理に対しては同じ(共通の)「プロセスレシピ」が適用されることは明らかである。
よって,引用例1には,上記エの「試料(ウエハ)に対する処理」に関して,真空処理室1及び真空処理室2の経路で搬送される第1工程と,真空処理室4及び真空処理室3の経路で搬送される第2工程を有し,ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理,及び,ウエハに対して同じ(共通の)プロセスレシピを適用して同じ(共通の)処理工程を同時に実行する処理のうち,いずれかを施すことが開示されている。
(引用例1では,「工程」という用語が,「第1工程」,「第2工程」の意味と「処理工程」の意味との2通りの意味で用いられているが,上記「工程ごと」における「工程」は,前者の意味であり,換言すれば,「ロードロック室5」から各「真空処理室」を経て「アンロードロック室6」までの,「ロードロック室5,6」よりも真空側で行われる一連の搬送・処理手順のまとまりを示している。以下においても同様である。)

(1-3)上記(1-2)のア?オによれば,引用例1には,次の発明(以下「引用発明1」という。)が開示されているといえる。

「プロセス処理を行う真空処理室1,2,3,4と,真空処理室1,2,3,4との間でウエハを搬送する搬送室10と,搬送室10内に設置されてウエハの搬送を行う搬送装置9-1,9-2と,ウエハを複数枚収納できる大気カセットと,大気カセットからウエハの取出及び収納を行う大気搬送装置と,搬送室10と大気搬送装置との間に配設されたロードロック室5,6とを備え,
ロードロック室5,6と,搬送室10と,真空処理室1,2,3,4との間でウエハの搬送制御を行う制御装置で構成され,搬送室10に接続された複数の真空処理室1,2,3,4を使用してウエハに対する処理を行う真空処理装置において,
大気カセットから収納されていたウエハの取出を大気搬送装置により行い,ロードロック室5,搬送室10内の搬送装置9-1,9-2を介して,真空処理室1,2,3,4に搬送し,
真空処理室1及び真空処理室2の経路で搬送される第1工程と,真空処理室4及び真空処理室3の経路で搬送される第2工程を有し,ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理,及び,ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理のうち,いずれかを施した後,アンロードロック室6から大気搬送装置により大気カセットへのウエハの収納を行うことを特徴とする真空処理装置。」

(1-4)また,上記(1-2)のア?オを,ウエハの処理方法の観点からみれば,引用例1には,次の発明(以下「引用発明2」という。)が開示されているといえる。

「プロセス処理を行う真空処理室1,2,3,4と,真空処理室1,2,3,4との間でウエハを搬送する搬送室10と,搬送室10内に設置されてウエハの搬送を行う搬送装置9-1,9-2と,ウエハを複数枚収納できる大気カセットと,大気カセットからウエハの取出及び収納を行う大気搬送装置と,搬送室10と大気搬送装置との間に配設されたロードロック室5,6とを備えた真空処理装置を用い,
ロードロック室5,6と,搬送室10と,真空処理室1,2,3,4との間でウエハの搬送制御を行い,搬送室10に接続された複数の真空処理室1,2,3,4を使用してウエハに対する処理を行う真空処理方法において,
大気カセットから収納されていたウエハの取出を大気搬送装置により行い,ロードロック室5,搬送室10内の搬送装置9-1,9-2を介して,真空処理室1,2,3,4に搬送し,
真空処理室1及び真空処理室2の経路で搬送される第1工程と,真空処理室4及び真空処理室3の経路で搬送される第2工程を有し,ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理,及び,ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理のうち,いずれかを施した後,アンロードロック室6から大気搬送装置により大気カセットへのウエハの収納を行うことを特徴とする真空処理方法。」

(2)引用例2(甲第2号証):特開平5-55148号公報
(2-1)請求人により甲第2号証として提出されるとともに,無効理由通知書において引用され,本件特許に係る出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平5-55148号公報(以下「引用例2」という。)には,図1?8とともに,次の記載がある。
「【0019】図1乃至図6は,被処理材として半導体ウェハを使用し,半導体ウェハの表面に減圧エピタキシャル気相成長を行わせるのに適したマルチチャンバ型枚葉処理装置の一例を示すものである。
【0020】即ち,本処理装置は,図1に示すように,カセットステーション10,出入口ポート20,プラットフォーム30および複数(図示では2個)の処理チャンバ50a,50bとから主に構成され,前記出入口ポート20のカセットステーション10側の側面には第1ゲートバルブ21が,出入口ポート20とプラットフォーム30との間には第2ゲートバルブ31が,プラットフォーム30と各処理チャンバ50a,50bとの間には,第3ゲートバルブ51a,51bが夫々配置されている。
【0021】これにより,出入口ポート20は,第1ゲートバルブ21を開くことによって大気側であるカセットステーション10側に開放でき,第1ゲートバルブ21および第2ゲートバルブ31を閉じることによって密閉される。プラットフォーム30は,第2ゲートバルブ31を開くことによって出入口ポート20内に連通でき,第2ゲートバルブ31および2個の第3ゲートバルブ51a,51bを閉じることによって密閉される。また,各処理チャンバ50aまたは50bは,これに対応する第3ゲートバルブ51aまたは51bを開くことによってプラットフォーム30内に連通でき,この第3ゲートバルブ51aまたは51bを閉じることによって密閉されるよう構成されている。
【0022】前記カセットステーション10には,処理チャンバ50a,50bの数に対応した数,即ち図示では2個の内部に複数の半導体ウェハ(被処理材)Wを多段に収容するカセット11a,11bを移動不能に設置するカセット設置部が設けられているとともに,ウェハセンタリング機構を備えた回転位置合せ装置12が備えられている。この回転位置合せ装置12は,例えば公知のオリフラ合せ装置であり,半導体ウェハWの側部に形成されている直線状のオリエンテーションフラット(オリフラ)Waに対応した位置に,2つのセンサ12a,12bが設けられ,このセンサ12a,12bを介して半導体ウェハWの回転位置合せを行うようにしたものである。
【0023】更に,上記回転位置合せ装置12と出入口ポート20とを直線状に結ぶ位置には,カセットステーション10側と出入口ポート20の内部との間での半導体ウェハWの受渡しを行う搬出入手段として外部ロボット13が備えられている。」
「【0026】そして,この外部ロボット13は,ハンド14のR,θおよびZの各移動により,未処理の半導体ウェハWを一方のカセット11aまたは11bから1枚取出して回転位置合せ装置12まで搬送してこの上に載置し,この位置合せ終了後の半導体ウェハWを第1ゲートバルブ21を通過させて出入口ポート20内に搬入させる。そして,出入口ポート20内に収容されている処理済の半導体ウェハWを取出してこれを対応するカセット11aまたは11b内に収容する半導体ウェハWの受渡しを行うようなされている。」
「【0031】前記プラットホーム30の内部には,上記外部ロボット13と同様に,R,θおよびZの各動作を行う真空用ロボット32が配置されている。即ち,この真空用ロボット32には,出入口ポート20内に固定して配置された各支持部22a,22bに干渉しないように,例えば石英製でフォーク状となして半導体ウェハWの下面を支持するハンド33が備えられ,このハンド33の上面には,半導体ウェハWの形状に沿った凹部33aが設けられて半導体ウェハWの位置決めを行うようになされている。」
「【0041】即ち,前記プラットフォーム30と処理チャンバ50aまたは50bとの間での半導体ウェハWの真空用ロボット32による受渡しは,以下のようにして行われる。ここに,一方の処理チャンバ50aでの処理が終了した後に該処置チャンバ50aとプラットフォーム30との間に設けられた第3ゲートバルブ51aを開き,この処理チャンバ50aとプラットフォーム30との間で半導体ウェハWの受渡しを行う場合について説明する(なお,他の処理チャンバ50bも同様である)。」
「【0048】次に,上記枚葉処理装置による処理方法の一例を図7および図8を参照して説明する。ここに,図7は,カセットステーション10(なお,同図以下においてCSと略称す)上に設置されたカセット11aまたは11bから半導体ウェハWを取出して,回転位置合せ装置12(同じくOF),出入口ポート20(同じくI/O),プラットフォーム30(同じくPF)を順次通過させて一方の処理チャンバ50aまたは50b(同じく,R1またはR2)に搬送し,ここで処理を施した後,処理済の半導体ウェハWを再びカセット11aまたは11b内に戻すウェハ処理シーケンスを示すものであり,図8は,その時の各チャンバI/O,PR,R1およびR2における圧力シーケンスを示すものである。
【0049】なお,同図以下において,H_(2 )は出入口ポート20(I/O)におけるH_(2 )パージを,N_(2 )は同じくN_(2 )パージを,Vは同じく真空引きを夫々示している。
【0050】ここでは,1つの半導体ウェハW_(1 )の処理を中心に,各半導体ウェハWに対する処理の手順を説明する。なお,この半導体ウェハW_(1 )は,カセット11aから取出されて処理チャンバ50a(R1)で処置された後,再びカセット11aに収容されるものとする。
【0051】先ず,カセットステーション10(CS)に設置された一方のカセット11a内に収容されていた半導体ウェハW_(1)_( )を外部ロボット13により取出して,これを回転位置合せ装置12(OF)上に載置する(時間t_(1 ))。一方,出入口ポート20(I/O)内にN_(2 )ガスを導入して,これが大気圧になった時に第1ゲートバルブ21を開いてこれを大気側に開放し(時間t_(2 )),この開放と相俟って,回転位置合せ装置12(OF)上に載置されていた半導体ウェハW_(1 )を外部ロボット13により出入口ポート20(I/O)内に搬入する。
【0052】この搬入後,出入口ポート20(I/O)内に収納されていた処理済の半導体ウェハW_(2 )を外部ロボット13により取出して,これをカセットステーション10(CS)上の所定のカセット11b内に収容する。この搬出に相俟って,第1ゲートバルブ21を閉じ(時間t_(3 )),真空引きを行って,この内部の真空度を高め(時間t_(3 )?t_(4 )),次にH_(2 )ガスを導入してこの内部がプラットフォーム30(RF)内の圧力および雰囲気と同じになったところで,第2ゲートバルブ31を開く(時間t_(5 ))。一方,処理チャンバ50a(R1)内で半導体ウェハW_(3 )に対する処理を終了した時点で第3ゲートバルブ51aを開く(時間t_(6 ))。
【0053】この状態では,プラットフォーム30(RF)を介して出入口ポート20(I/O)と処理チャンバ50a(R1)とが連通している状態となり,前記処理チャンバ50aの開放と相俟って,処理チャンバ50a(R1)内での処理が終了した半導体ウェハW_(3 )を真空ロボット32によりプラットフォーム30(RF)から出入口ポート20(I/O)内に導き,ここに載置収容する。この収容後,出入口ポート20(I/O)内に収容されていた未処理の半導体ウェハW_(1 )を真空ロボット32により処理チャンバ50a(R1)内に搬入し,この搬入に相俟って,第2ゲートバルブ31を閉じる(時間t_(7 ))とともに,搬入後に第3ゲートバルブ51aを閉じる(時間t_(8 ))。
【0054】これによって,この半導体ウェハW_(1 )に対する処理チャンバ50a(R1)内での処理,即ち加熱,エピタキシャル成長および冷却を行うのであるが,この間に出入口ポート20(I/O)では,他方の処理チャンバ50b(R2)に対する搬送処理を行う。
【0055】即ち,上記のようにして第2ゲートバルブ31を閉じた後,出入口ポート20(I/O)内を真空引きしてこの内部を高真空になし(時間t_(7 )?t_(9 )),しかる後にN_(2 )ガスを導入(時間t_(9 ))することにより,出入口ポート20(I/O)内に存在するパーティクルを排出しつつ大気圧に戻して第1ゲートバルブ21を開く(時間t_(10))。この開放に相俟って,回転位置合せ装置12(OF)上に載置されていた未処理の半導体ウェハW_(4 )を出入口ポート20(I/O)内に搬入し,上記処理チャンバ50a(R1)で処理済の半導体ウェハW_(3 )をここから搬出してカセットステーション10(CS)のカセット11a内に収容する。
【0056】この搬出に相俟って,第1ゲートバルブ21を閉じ(時間t_(11)),上記と同様にして第2ゲートバルブ31および第3ゲートバルブ50bを開いた後,この未処理の半導体ウェハW_(4 )と他方の処理チャンバ50b(R2)で処理された半導体ウェハW_(5 )との受渡し行う(時間t_(12)?t_(13))。しかる後,第3ゲートバルブ50bを閉じて(時間t_(14)),この処理チャンバ50b(R2)内に搬入された半導体ウェハW_(4 )に対する処理を開始し,一方,処理済の半導体ウェハW_(5 )を上記と同様にしてカセットステーション10(CS)のカセット11b内に収容するとともに,未処理の半導体ウェハW_(6 )を出入口ポート20(I/O)内に収容する。
【0057】そして,上記と同様にしてプラットフォーム30(PF)と同じ圧力および雰囲気になったところで第2ゲートバルブ31を開き(時間t_(15)),一方,上記半導体ウェハW_(1 )に対する処理チャンバ50a(R1)内での処理が終了した後,第3ゲートバルブ51aを開き(時間t_(16)),処理チャンバ50a(R1)と出入口ポート20(I/O)とをプラットフォーム30(PF)を介して連通させる。この状態で,処理チャンバ50a(R1)内にある処理済の半導体ウェハW_(1 )を真空ロボット32により出入口ポート20(I/O)内に搬入した後,出入口ポート20(I/O)内に収容されている未処理の半導体ウェハW_(6 )を処理チャンバ50a(R1)内に導き,第2ゲートバルブ31および第3ゲートバルブ51aを順次閉じる(時間t_(17)およびt_(18))。
【0058】そして,この処理チャンバ50a(R1)内に搬入された半導体ウェハW_(6 )に対して,第3ゲートバルブ51aを閉じた後,上記と同様に処理チャンバ50a(R1)内における処理を施し,出入口ポート20(I/O)内は,真空引きを行ってこの内部を高真空にした後にN_(2 )ガスを導入し(時間t_(19)),この内部が大気圧に戻った後に,第1ゲートバルブ21を開いて(時間t_(20)),出入口ポート20(I/O)内に未処理の半導体ウェハW_(7 )を導入するとともに,処理済の半導体ウェハW_(1 )をカセットステーション10のカセット11a内に収容して,この半導体ウェハW_(1)に対する処理を終了する。」

(2-2)引用例2の記載内容を整理すると,次のとおりである。
ア 引用例2の段落【0020】?【0023】,【0031】,【0041】の下線部の記載を図1を参照しつつ整理すると,「本処理装置は,図1に示すように,カセットステーション10,出入口ポート20,プラットフォーム30および複数(図示では2個)の処理チャンバ50a,50bとから主に構成され」ており,「出入口ポート20は,第1ゲートバルブ21を開くことによって大気側であるカセットステーション10側に開放でき」,「前記カセットステーション10には,処理チャンバ50a,50bの数に対応した数,即ち図示では2個の内部に複数の半導体ウェハ(被処理材)Wを多段に収容するカセット11a,11bを移動不能に設置するカセット設置部が設けられて」おり,「カセットステーション10側と出入口ポート20の内部との間での半導体ウェハWの受渡しを行う搬出入手段として外部ロボット13が備えられて」おり,「前記プラットホーム30の内部には,上記外部ロボット13と同様に,R,θおよびZの各動作を行う真空用ロボット32が配置されて」「前記プラットフォーム30と処理チャンバ50aまたは50bとの間での半導体ウェハWの真空用ロボット32による受渡し」をしている。
よって,引用例2には,カセットステーション10,出入口ポート20,プラットフォーム30及び2個の処理チャンバ50a,50b,カセットステーション10に設けられて2個の内部に複数の半導体ウェハを多段に収容するカセット11a,11bを設置するカセット設置部,カセットステーション10側と出入口ポート20の内部との間での半導体ウェハの受渡しを行う搬出入手段としての外部ロボット13,プラットホーム30の内部でプラットフォーム30と処理チャンバ50aまたは50bとの間での半導体ウェハの受渡しを行う真空用ロボット32を備えた処理装置が開示されている。
イ 引用例2の段落【0020】,【0023】,【0026】の下線部の記載によれば,「カセットステーション10側と出入口ポート20の内部との間での半導体ウェハWの受渡しを行う搬出入手段として」備えられた「外部ロボット13」は,「未処理の半導体ウェハWを一方のカセット11aまたは11bから1枚取出して」「半導体ウェハWを第1ゲートバルブ21を通過させて出入口ポート20内に搬入させ」,「出入口ポート20内に収容されている処理済の半導体ウェハWを取出してこれを対応するカセット11aまたは11b内に収容する半導体ウェハWの受渡しを行う」ものであり,「出入口ポート20」が「外部ロボット13」よりも「プラットフォーム30」側にあることも図1より明らかである。
また,引用例2の段落【0048】,【0050】の下線部の記載によれば,「カセット11aまたは11bから半導体ウェハWを取出して」「一方の処理チャンバ50aまたは50b(同じく,R1またはR2)に搬送し,ここで処理を施した後,処理済の半導体ウェハWを再びカセット11aまたは11b内に戻」しており,例として挙げられた「半導体ウェハW_(1)」は「カセット11aから取出されて処理チャンバ50a(R1)で処置された後,再びカセット11aに収容され」ている。
よって,引用例2には,カセット11aまたは11b内に収容する半導体ウェハをプラットフォーム30側(出入口ポート20内)に搬入させ,プラットフォーム30側(出入口ポート20内)に収容されている処理チャンバ50aまたは処理チャンバ50bで処理を施した処理済の半導体ウェハを取出して再び(もとの)カセット11aまたは11b内に収容する外部ロボット13が開示されている。
ウ 引用例2の段落【0048】の下線部の記載によれば,図7は,「カセット11aまたは11bから半導体ウェハWを取出して」「一方の処理チャンバ50aまたは50b(同じく,R1またはR2)に搬送し,ここで処理を施した後,処理済の半導体ウェハWを再びカセット11aまたは11b内に戻すウェハ処理シーケンスを示す」ものである。そして,引用例2に記載の処理装置が,このようなウェハ処理シーケンスの制御を行うための制御装置を備えていることは,技術常識である。
また,引用例2の段落【0021】,【0051】,【0052】,【0058】の下線部の記載によれば,「出入口ポート20は,第1ゲートバルブ21を開くことによって大気側であるカセットステーション10側に開放でき」,「出入口ポート20」が「大気圧になった時に第1ゲートバルブ21を開いてこれを大気側に開放し」,「処理済の半導体ウェハW_(2)(W_(1))を」「カセット11b(11a)内に収容」するから,処理済の半導体ウェハを大気側のカセット11a,11bに収容している。
よって,引用例2には,カセット11aまたはカセット11bから取出した半導体ウェハを処理チャンバ50aまたは処理チャンバ50bに搬送し,前記処理チャンバ50aまたは処理チャンバ50bで処理を施した処理済の半導体ウェハを再び大気側のカセット11aまたは11b内に戻すようにウェハ処理シーケンスの制御を行う制御装置が開示されている。
エ 引用例2の段落【0050】?【0058】の下線部の記載を図7を参照しつつ整理すると,処理される半導体ウェハW_(1)?半導体ウェハW_(7)の搬送の流れは,以下のようになる。
半導体ウェハ 搬出カセット 処理チャンバ 搬入カセット
W_(2) 不明 → 不明 → 11b
W_(3) 不明 → 50a → 11a
W_(5) 不明 → 50b → 11b
W_(1) 11a → 50a → 11a
W_(4) 不明 → 50b → 不明
W_(6) 不明 → 50a → 不明
W_(7) 不明 → 不明 → 不明
段落【0050】?【0058】の記載は,「1つの半導体ウェハW_(1)の処理を中心に,各半導体ウェハWに対する処理の手順を説明」したものであるから,すべての「半導体ウェハ」について,「搬出カセット」,「処理チャンバ」,「搬入カセット」が明示されているわけではないものの,少なくとも以下の(ア)?(ウ)については開示されているものと認められる。
(ア)「半導体ウェハW_(1)」に関しては,「カセット11a」から搬出され,「処理チャンバ50a」での処理を経て,もとの「カセット11a」に再び搬入されている。
(イ)処理チャンバは,「処理チャンバ50a」と「処理チャンバ50b」とが交互に使用され,カセットへの搬入は,「カセット11a」と「カセット11b」とに交互に行われている。
(ウ)「処理チャンバ50a」で処理された半導体ウェハは「カセット11a」に搬入され,「処理チャンバ50b」で処理された半導体ウェハは「カセット11b」に搬入されている。
よって,上記(ア)?(ウ)の点と,段落【0048】の「カセット11aまたは11bから半導体ウェハWを取出して,・・・一方の処理チャンバ50aまたは50b(同じく,R1またはR2)に搬送し,ここで処理を施した後,処理済の半導体ウェハWを再びカセット11aまたは11b内に戻すウェハ処理シーケンス」との記載,及び,段落【0050】の「この半導体ウェハW_(1 )は,カセット11aから取出されて処理チャンバ50a(R1)で処置された後,再びカセット11aに収容されるものとする。」との記載を総合すると,段落【0050】?【0058】及び図7に記載されたウェハ処理シーケンスは,カセット11aから取出した半導体ウェハのいずれをも,処理チャンバ50aに搬送し,ここ(処理チャンバ50a)で処理を施した処理済の半導体ウェハを再び(もとの)カセット11aに戻し,カセット11bから取出した半導体ウェハのいずれをも,処理チャンバ50bに搬送し,ここ(処理チャンバ50b)で処理を施した処理済の半導体ウェハを再び(もとの)カセット11bに戻すものであると解するのが自然であり,合理的であるから,引用例2には,そのようなウェハ処理シーケンスが実質的に開示されているものと認められる。

(3)引用例3:特開平3-274746号公報
(3-1)無効理由通知書において引用され,本件特許に係る出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平3-274746号公報(以下「引用例3」という。)には,第6,13図とともに,次の記載がある。
ア 「第13図(A),(B)はそのようなマルチチャンバ装置の一例を示すもので,同図(A)は平面図,同図(B)は断面図である。
図面において,1はロードロックチャンバで,これから処理を施そうとする半導体ウエハ3を待機させるチャンバである。2は半導体ウエハ3を収納するウエハカセットである。」(2頁左下欄10?16行)
イ 「また,一般にマルチチャンバ装置には必ず最低一つの搬送チャンバ5が必要であるが,マルチチャンバ装置に占める搬送チャンバ5の占有面積の割合が無視できない程大きい。従って,マルチチャンバ装置の為し得る仕事の量に対するマルチチャンバ装置の占有面積の比(これは工場の面積を有効に利用する利用率に拘わってくる)を大きくすることが難しかった。」(2頁右下欄19行?3頁左上欄7行)
ウ 「本発明はこのような問題点を解決すべく為されたものであり,マルチチャンバ装置の占有面積を徒らに広くすることなく多くの種類,量の処理を為し得るようにし,また,スループットの向上を図ることを目的とする。」(3頁左下欄19行?右上欄3行)
エ 「本発明マルチチャンバ装置の第2のものによれば,一連の処理を行う複数のチャンバの組を複数組設けるので,複数組分で1つの搬送チャンバを共有することができる。従って,マルチチャンバ装置全体で為し得る仕事に対するマルチチャンバ装置の占有面積の比を小さくすることができる。これは,無駄にすることを許されないIC製造工場の有効利用につながる。」(4頁左上欄12?19行)
オ 「(c.第3の実施例)[第6図]
第6図は本発明マルチチャンバ装置の第3の実施例を示す平面断面図である。本図においてはゲートバルブ等を本マルチチャンバ装置の特徴と関係しない部分を省略し,特徴的部分だけを模式的に示した。
本マルチチャンバ装置は,三つの処理A,B,Cからなる一連の工程を順次行うプロセスチャンバ8A,8B,8Cの組み合せを2組有し,この2組6個のチャンバ8A,8B,8C,8A,8B,8Cが1つの搬送チャンバ5及び1つのロードアンドロード室17を共有していることを特徴としている。破線は半導体ウエハ3の流れを示している。
8A,8Aは共にTiスパッタを行うプロセスチャンバ,8B,8BはTiNスパッタを行うプロセスチャンバ,8C,8CはAlSiスパッタを行うプロセスチャンバである。そして,三つの処理A,B,Cからなる工程は破線で示した2つの経路で同時に行うことができる。即ち,本マルチチャンバ装置は3つのプロセスチャンバ8からなるマルチチャンバ装置の2台分の働きを行う。それでいて搬送チャンバ5,その内部のウエハ搬送機構及びロードアンドロード室17は1つずつで済む。
従って,マルチチャンバ装置の為し得る仕事の量に比して占有面積を狭くすることができ,また,所要エネルギーの低減も図ることができるのである。
また,1つのプロセスチャンバ,例えば第6図における左側の方のプロセスチャンバ8Aに例えばターゲット交換等のメンテナンスを施す場合には,残りのプロセスチャンバ8Aを過渡的に上記2つの経路のAlSiスパッタ処理に共用して成膜することができる。従って,トラブルに対して対応の自由度が高まり,トラブルが起きてもマルチチャンバ装置のスループットを著しく下げなくて済む。
尚,複数の処理からなる一連の工程を順次行うプロセスチャンバの組み合せを複数組有するようにするという技術的思想は,スパッタリングを行うマルチチャンバ装置に限らずCVD,ドライエッチング等の他の一連の処理を行うマルチチャンバ装置にも適用することができることはいうまでもない。」(6頁右下欄1行?7頁右上欄6行)

(3-2)引用例3の記載内容を整理すると,次のとおりである。
ア 引用例3の上記(3-1)のア,エ,オで摘示した下線部の記載を第6及び13図を参照しつつ整理すると,第6図では,「ウエハカセット2」が2個設けられており,「破線で示した2つの経路」(「三つの処理A,B,Cからなる工程」)の各々が「ウエハカセット2」の各々と1対1で対応付けられていることが示されているから,引用例3には,三つの処理A,B,Cからなる一連の工程を順次行うプロセスチャンバ8A,8B,8Cの組み合せを2組有するとともに,ウエハカセット2を2個有し,三つの処理A,B,Cからなる工程の各々が,ウエハカセット2の各々と1対1で対応付けられて2つの経路で同時に行うことができる,マルチチャンバ装置が開示されている。
イ 引用例3の上記(3-1)のイ?オで摘示した下線部の記載を整理すると,引用例3には,一連の処理を行う複数のチャンバの組を複数組設け,複数組分で1つの搬送チャンバを共有したマルチチャンバ装置により,マルチチャンバ装置全体で為し得る仕事に対するマルチチャンバ装置の占有面積の比を小さくすることが開示されている。

(4)引用例4:特開平6-314729号公報
(4-1)無効理由通知書において引用され,本件特許に係る出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平6-314729号公報(以下「引用例4」という。)には,図1?8とともに,次の記載がある。
「【0013】
【実施例】図1及び図2は,夫々本発明の実施例を示す平面図及び概観斜視図である。図中1は第1の移載室であり,この移載室1の両側には夫々ゲートバルブG1,G2を介して第1のカセット室2A及び第2のカセット室2Bが接続されている。これらカセット室2A,2Bは本実施例の真空処理装置の搬出入ポートに相当するものであり,昇降自在なカセットステージ21を備えている。このカセットステージ2A,2Bは,この例では半導体ウエハ(以下ウエハという)Wを収納するための容器例えばウエハカセット(以下カセットという)22を載置するための容器載置部に相当するものである。」
「【0018】前記第2の移載室4には,夫々ゲートバルブG9?G11を介して左右及び後方の三方に3つの真空処理室5A?5Cが接続されている。真空処理室5Aは例えば微細パターンが形成されたウエハ上に400?500℃の温度下でチタン膜をスパッタリングにより成膜するためのものであり,真空処理室5Bは例えば微細パターンにタングステン層をCVDにより形成するためのものであり,また真空処理室5Cは,タングステン層をエッチバックするためのものである。即ちこの例は真空処理室5A?5CによりウエハW上に連続処理を行う場合であるが,各真空処理室5A?5Cは同一の処理例えばCVDを行うように構成してもよい。
【0019】更に本実施例の真空処理装置は,図2に模式的に示すようにウエハの搬送経路を選択するモード選択手段6を備えている。このモード選択手段6は,第1のカセット室2A,2B内のカセット22と真空処理室5A?5Cとの間のウエハの搬送経路に対応する種々のモード,例えばモード1?モードnの中からモードを選択できる機能を有しているものであり,具体的には例えば各モードのプログラムを格納したメモリや中央処理装置を含む制御部と,前記プログラムの選択や条件設定などを行う操作パネルとを含むユニットにより構成される。」
「【0020】ここで前記モードの一例を図3?図8に示す。図3は,第1のカセット室2Aのカセット22(一方のカセット22)に収納されているウエハWが回転ステージ12(図3?図8では図示の都合上符号を省略してある),第1の予備真空室3Aを経た後,真空処理室5A,5B,5Cに順次搬送されて連続処理が行われ,その後第2の予備真空室3Bを経て,第2のカセット室2Bのカセット22(他方のカセット22)に収納されるモードを示している。
【0021】図4は,図3のモードにおいて処理後のウエハWが他方のカセット22ではなく一方のカセット22(元のカセット22)に戻るモードを示している。図5は,図3のモードにおいて搬入時及び搬出時のいずれの場合も,ウエハWが第1の予備真空室3Aを通る経路と第2の予備真空室3Bを通る経路との両方を使用しているモード,つまり2つの予備真空室3A,3B内を例えば交互に搬送されるモードである。
【0022】そして図5のモードでは一方のカセット22から取り出されたウエハWが処理後に他方のカセット22に収納されるが,これに対し図6のモードは,一方のカセット22内のウエハW及び他方のカセット22内のウエハWが交互に取り出されると共に第1及び第2の予備真空室3A,3B内を交互に搬送され,夫々元のカセット22内に戻されるモードである。
【0023】図7のモードは,搬入時にはウエハWが第1及び第2の予備真空室3A,3Bを交互に搬送され,搬出時には一方の予備真空室3B(あるいは3A)を通るモードである。更にまた図8は,ウエハWを連続処理する代りに,例えば各真空処理室5A?5Cを同一の処理を行うようにセッティングしておき,一方のカセット22内のウエハWを真空処理室5A?5Cのいずれかに搬入し,処理後に例えば他方のカセット22に収納するモードである。
【0024】以上のモードは一例にすぎず,図8に示すように各真空処理室5A?5Cで同一処理を行う場合に図3?図7に示すモードを組み合わせたモードを作成してもよいし,上述以外のモードを作成してもよい。そしてこれらモードを選択するにあたっては,オペレータが各モードを指定してもよいが,例えば各真空処理室5A?5Cの処理の種類や,当該真空処理装置と外部ステーションとのインターフェイスの状況などに応じてコンピュータが最適のモードを選択するようにしてもよい。」
「【0030】そしてウエハWを搬送するモードについては,真空処理の種類により,あるいは連続処理か一つの真空処理室のみを用いた処理(例えば同一の真空処理)かにより,更にはその他の事情例えば搬出入ロボットの故障などにより,モード選択手段6にメモリされているモードの中から例えばオペレータがあるいは上位のホストコンピュータが適切なモードを選択する。」
「【0033】更に真空処理室5A?5Cにより連続処理を行うモード,及び真空処理室5A?5Cを並行して同一の処理を行うモードのうちの一方を選択できるので用途が広く,高い汎用性が得られる。」

(4-2)引用例4の記載内容を整理すると,次のとおりである。
ア 引用例4の上記(4-1)の段落【0019】,【0030】,【0033】の下線部の記載を図2を参照しつつ整理すると,引用例4には,ウエハの搬送経路を選択するモード選択手段6を備え,真空処理室5A?5Cにより連続処理を行うモード,及び真空処理室5A?5Cを並行して同一の処理を行うモードのうちの一方を,モード選択手段6にメモリされているモードの中からオペレータが選択できるようにした真空処理装置が開示されている。
イ 引用例4の上記(4-1)の段落【0022】,【0024】の下線部の記載を図6,8を参照しつつ整理すると,引用例4には,各真空処理室5A?5Cで同一処理を行う場合に,一方のカセット22内のウエハW及び他方のカセット22内のウエハWが交互に取り出されると共に,夫々元のカセット22内に戻されるモードが開示されている。

(5)引用例5:特開昭63-133532号公報
(5-1)無効理由通知書において引用され,本件特許に係る出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭63-133532号公報(以下「引用例5」という。)には,第1図とともに,次の記載がある。
ア 「複数のプラズマ反応器は両実施例のおいて作動可能で同一又は異なるプロセスを実施し,R,TT可動ウェーハアーム装置と協働して,複数のプラズマ反応器で同時に同一単一工程処理,複数のプラズマ反応器で同時に異なる単一工程処理,及び複数のプラズマ反応器で連続する複数工程処理のうちの1つを提供する。」(4頁右上欄14?20行)
イ 「第1図を参照すると,本発明による多処理用非汚染型プラズマエッチングシステムを示す概念図が参照番号10で全体的に示されている。システム10は,全体的に12で示した後述する複数の単一ウェーハプラズマ反応器と,全体的に14で示した後述するウェーハ整列ステーションとを備え,これらは点線16によって図示したような閉鎖領域のまわりに配列されている。」(4頁右下欄2?9行)
ウ 「入れ出しモジュール,整列ステーション及び複数の反応器は,3つの基本モード,すなわち各プラズマ反応器が同時に同一のプラズマ反応を実行する場合,各プラズマ反応器が同時に2つ以上の異なるプラズマプロセスを行う場合,プラズマ反応器を別々に操作しウェーハが整列ステーションに戻るまでに単一ウェーハの多工程処理をする場合のモードで操作することができる。各ケースにおいて,ウェーハは制御真空環境下で移動及び処理され,その結果外気にさらされること及び取り扱いにより引き起こされる汚染が,完全に解消される。」(9頁右下欄4?15行)

(5-2)引用例5の記載内容を整理すると,次のとおりである。
ア 引用例5の上記(5-1)のア?ウで摘示した下線部の記載を第1図を参照しつつ整理すると,引用例5には,複数の単一ウェーハプラズマ反応器12を有するプラズマエッチングシステムにおいて,3つの基本モードとして,複数のプラズマ反応器で同時に同一単一工程処理をする場合のモード,複数のプラズマ反応器で同時に異なる単一工程処理をする場合のモード,及び複数のプラズマ反応器で連続する複数工程処理をする場合のモードで操作できることが開示されている。

5 本件特許発明1について
(1)本件特許発明1と引用発明1との対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「真空処理室1,2,3,4」,「搬送室10」,「搬送装置9-1,9-2」,「大気カセット」,「大気搬送装置」,「ロードロック室5,6」,「ロードロック室5」,「プロセスレシピ」,「処理工程を同時に実行する処理」,「アンロードロック室6」は,それぞれ,本件特許発明1の「プロセス処理装置」,「搬送処理装置」,「搬送装置」,「カセット」,「他の搬送装置」,「ロック室」,「ロードロック室」,「レシピ」,「処理を施す並列処理」,「アンロードロック室」に相当する。
イ 引用発明1の「プロセス処理を行う真空処理室1,2,3,4と,真空処理室1,2,3,4との間でウエハを搬送する搬送室10と,搬送室10内に設置されてウエハの搬送を行う搬送装置9-1,9-2」は,本件特許発明1の「プロセス処理を行う複数のプロセス処理装置,該プロセス処理装置にウェハを搬送する搬送処理装置,該搬送処理装置内に設置されウェハの搬送を行う搬送装置」に相当する。
ウ 本件特許発明1の「ウェハを複数枚収納できる複数のカセットを大気中で載置する大気搬送装置」と,引用発明1の「ウエハを複数枚収納できる大気カセット」とは,「ウェハを複数枚収納できる」「カセット」を有する点で共通する。
(なお,上記アのとおり,引用発明1の「大気搬送装置」は,本件特許発明1の「他の搬送装置」に相当するから,本件特許発明1の「大気搬送装置」と,引用発明1の「大気搬送装置」とは,互いに異なるものを示している。)
エ 本件特許発明1の「前記大気搬送装置のいずれかのカセット内からも前記ウェハを抜き取れるように構成された他の搬送装置」と,引用発明1の「大気カセットからウエハの取出及び収納を行う大気搬送装置」とは,「カセット内から」「前記ウェハを抜き取れるように構成された他の搬送装置」である点で共通する。
オ 引用発明1の「搬送室10と大気搬送装置との間に配設されたロードロック室5,6」は,本件特許発明1の「前記搬送処理装置と他の搬送装置との間に配設されたロック室」に相当する。
カ 引用発明1の「ロードロック室5,6と,搬送室10と,真空処理室1,2,3,4との間でウエハの搬送制御を行う制御装置」は,「大気カセットから収納されていたウエハの取出を大気搬送装置により行い,」「大気搬送装置により大気カセットへのウエハの収納を行う」点も参酌すると,「ロードロック室5,6と,搬送室10と,真空処理室1,2,3,4との間」だけでなく「大気搬送装置」及び「大気カセット」も含めてウエハの搬送制御を行うものであることは明らかであるから,本件特許発明1の「前記カセットと前記他の搬送装置,ロック室,搬送処理装置及びプロセス処理装置との間でウェハを搬送するための搬送制御を行う制御装置」に相当する。
キ 引用発明1の「搬送室10に接続された複数の真空処理室1,2,3,4を使用してウエハに対する処理を行う」は,本件特許発明1の「前記搬送処理装置に接続された複数のプロセス処理装置を使用してウェハ処理を行う」に相当する。
ク 本件特許発明1の「少なくとも2つのカセットを使用し,各カセット毎に収納されたウエハを他の搬送装置,ロードロック室及び前記搬送装置を介して前記いずれかのプロセス処理装置へ搬送し,搬送したウエハに前記カセット毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理,及び各カセットに収納されたウエハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理の何れかを選択的に施すとともに並列処理を施した後のウエハをアンロードロック室を介してもとのカセットに戻す」と,引用発明1の「大気カセットから収納されていたウエハの取出を大気搬送装置により行い,ロードロック室5,搬送室10内の搬送装置9-1,9-2を介して,真空処理室1,2,3,4に搬送し, 真空処理室1及び真空処理室2の経路で搬送される第1工程と,真空処理室4及び真空処理室3の経路で搬送される第2工程を有し,ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理,及び,ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理のうち,いずれかを施した後,アンロードロック室6から大気搬送装置により大気カセットへのウエハの収納を行う」において,両者はいずれも「ウエハ」が少なくとも「カセット」→「他の搬送装置」→「ロードロック室」→「搬送装置」→「プロセス処理装置」(処理)→「アンロードロック室」→「カセット」という経路で搬送される点では同じであり,また,本件特許発明1の「前記カセット毎に異なるレシピ」は,工程ごとに「異なるレシピ」の一種であるから,両者は,「カセットを使用し,」「カセット」「に収納されたウエハを他の搬送装置,ロードロック室及び前記搬送装置を介して前記いずれかのプロセス処理装置へ搬送し,搬送したウエハに」工程ごとに「異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理,及び」「カセットに収納されたウエハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理の何れかを」「施すとともに並列処理を施した後のウエハをアンロードロック室を介して」「カセットに戻す」点で共通する。
ケ そうすると,本件特許発明1と引用発明1の一致点及び相違点は,次のとおりとなる。

《一致点》
「プロセス処理を行う複数のプロセス処理装置,該プロセス処理装置にウェハを搬送する搬送処理装置,該搬送処理装置内に設置されウェハの搬送を行う搬送装置及びウェハを複数枚収納できるカセットと,カセット内から前記ウェハを抜き取れるように構成された他の搬送装置,前記搬送処理装置と他の搬送装置との間に配設されたロック室とを備え,前記カセットと前記他の搬送装置,ロック室,搬送処理装置及びプロセス処理装置との間でウェハを搬送するための搬送制御を行う制御装置で構成され,前記搬送処理装置に接続された複数のプロセス処理装置を使用してウェハ処理を行う真空処理装置において,
カセットを使用し,カセットに収納されたウエハを他の搬送装置,ロードロック室及び前記搬送装置を介して前記いずれかのプロセス処理装置へ搬送し,搬送したウエハに工程ごとに異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理,及びカセットに収納されたウエハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理の何れかを施すとともに並列処理を施した後のウエハをアンロードロック室を介してカセットに戻すことを特徴とする真空処理装置。」
《相違点》
《相違点1》
本件特許発明1は,「ウェハを複数枚収納できる複数のカセットを大気中で載置する大気搬送装置と,前記大気搬送装置のいずれかのカセット内からも前記ウェハを抜き取れるように構成された他の搬送装置」であり,「少なくとも2つのカセットを使用し,各カセット毎に収納されたウエハを他の搬送装置,ロードロック室及び前記搬送装置を介して前記いずれかのプロセス処理装置へ搬送し,」「並列処理を施した後のウエハをアンロードロック室を介してもとのカセットに戻す」ものであるのに対し,引用発明1は,「ウエハを複数枚収納できる大気カセットと,大気カセットからウエハの取出及び収納を行う大気搬送装置」であり,「大気カセットから収納されていたウエハの取出を大気搬送装置により行い,ロードロック室5,搬送室10内の搬送装置9-1,9-2を介して,真空処理室1,2,3,4に搬送し,」「アンロードロック室6から大気搬送装置により大気カセットへのウエハの収納を行う」ものではあるが,本件特許発明1の「大気搬送装置」に相当する構成の存在,本件特許発明1の「カセット」に相当する「大気カセット」の個数,「他の搬送装置」と「ウェハを抜き取」る「カセット」との対応関係,「ウエハ」が搬送される経路と「大気カセット」との対応関係について,いずれも明示されていない点。
《相違点2》
本件特許発明1は,「搬送したウエハに前記カセット毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理,及び各カセットに収納されたウエハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理の何れかを選択的に施す」ものであるのに対し,引用発明1は,「真空処理室1及び真空処理室2の経路で搬送される第1工程と,真空処理室4及び真空処理室3の経路で搬送される第2工程を有し,ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理,及び,ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理のうち,いずれかを施」すものである点。

(2)本件特許発明1と引用発明1との相違点の判断
上記(1)で認定した相違点1及び2についてそれぞれ検討する。
(2-1)相違点1について
ア 引用例1には,「ロードロック室5,6」よりも大気側の具体的な構成については実質的に明らかにされていないが,上記4(1-2)アにおいて検討したとおり,図示されてはいないものの,「ロードロック室5,6」と連通する大気中において「大気カセット」及び「大気搬送装置」を備えている点は段落【0013】に示唆されているのであるから,引用発明1を実施するにあたり,「ロードロック室5,6」よりも大気側の「大気カセット」及び「大気搬送装置」に関する構成,並びに,それに伴うウェハの搬送経路に関する構成を,搬送処理やプロセス処理ができるように具体化する必要があることは,当然である。
イ そして,上記4(2-2)ア及びイで摘示したとおり,引用例2には,「処理装置」の「出入口ポート20」(引用発明1の「ロードロック室5,6」に相当)よりも大気側の具体的な構成が開示されている。
また,上記4(2-2)ウ及びエで摘示したとおり,引用例2には「処理チャンバ50a」と「処理チャンバ50b」とで並列処理を行うことが開示されているところ,引用発明1も,「第1工程」と「第2工程」とで並列処理を行うものであり,両者は並列処理を行う点で共通するから,引用例2に開示された具体的な構成を引用発明1に適用することは,当業者に普通に期待できることである。
ウ ここで,引用例2に開示された「処理装置」の「出入口ポート20」よりも大気側の構成についてみてみると,上記4(2-2)アに摘示したとおり,「カセット11a,11b」(引用発明1の「大気カセット」に相当)は,「2個」であるとともに「カセットステーション10」に設けられており,また,上記4(2-2)イに摘示したとおり,「外部ロボット13」(引用発明1の「大気搬送装置」に相当)は,「カセット11aまたは11b」との間で「半導体ウェハ」の「搬入」及び「収容」を行っているから,これらの構成を引用発明1に適用すると,引用発明1の「大気カセット」は,個数が2個になるとともに,「カセットステーション」に設けられるものとなり,引用発明1の「大気搬送装置」は,当該2個の「大気カセット」との間で「ウエハの取出及び収納」ができるものとなる。
よって,引用発明1において,引用例2に開示された処理装置の上記構成を採用した場合には,「カセットステーション」が本件特許発明1の「大気搬送装置」に相当することになるから,本件特許発明1の「ウェハを複数枚収納できる複数のカセットを大気中で載置する大気搬送装置と,前記大気搬送装置のいずれかのカセット内からも前記ウェハを抜き取れるように構成された他の搬送装置」との構成を備えたものとなる。
エ また,引用例2に開示された並列処理における半導体ウェハの経路の具体的な構成についてみてみると,上記4(2-2)エに摘示したとおり,「カセット11aから取出した半導体ウェハ」については,いずれも「カセット11a」→「処理チャンバ50a」→「カセット11a」の経路で搬送及び処理を行って再びもとの「カセット11a」に戻し,「カセット11bから取出した半導体ウェハ」については,いずれも「カセット11b」→「処理チャンバ50b」→「カセット11b」の経路で搬送及び処理を行って再びもとの「カセット11b」に戻しているから,これらの構成を引用発明1に適用すると,上記ウのとおり個数が2個になった引用発明1の「大気カセット」のうち,一方の「大気カセット」から取出した「ウエハ」については,いずれも「一方の大気カセット」→「第1工程」→「一方の大気カセット」の経路で搬送及び処理を行って再びもとの「一方の大気カセット」に戻し,他方の「大気カセット」から取出した「ウエハ」については,いずれも「他方の大気カセット」→「第2工程」→「他方の大気カセット」の経路で搬送及び処理を行って再びもとの「他方の大気カセット」に戻すこととなる。
よって,引用発明1において,引用例2に開示された並列処理における半導体ウェハの経路の上記構成を採用した場合には,本件特許発明1の「少なくとも2つのカセットを使用し,各カセット毎に収納されたウエハを他の搬送装置,ロードロック室及び前記搬送装置を介して前記いずれかのプロセス処理装置へ搬送し,」「並列処理を施した後のウエハをアンロードロック室を介してもとのカセットに戻す」との構成を備えたものとなる。
オ なお,カセットの個数を複数とすることは,上記4(3-2)ア及び上記4(4-2)イで摘示したとおり引用例3及び引用例4にも開示されており,当業者における周知技術である。
また,2つの工程を並列処理させるに際して,2つのカセットを用いて各々の工程に各々のカセットを対応付け,互いに実質的に独立したウェハ搬送経路とすることは,上記4(3-2)アで摘示したとおり引用例3にも開示されている。
カ したがって,引用発明1において,相違点1に係る構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

(2-2)相違点2について
(2-2-1)まず,引用発明1の「ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理,及び,ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理のうち,いずれかを施した」における,「ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理」及び「ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理」のそれぞれについて検討する。
ア 上記(2-1)イで検討したとおり,引用例2に開示された具体的な構成を引用発明1に適用することは,当業者に普通に期待できることであり,並列処理における半導体ウェハの経路の具体的な構成については,上記(2-1)エで検討したとおりである。
イ ここで,引用発明1の「ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理」の場合に,引用例2に開示された並列処理における半導体ウェハの経路の構成を採用すると,各々の工程に各々の「大気カセット」が対応付けられることになるから,結局,「ウエハに対して」「大気カセット」「ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理」となり,本件特許発明1の「搬送したウエハに前記カセット毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理」との構成を備えたものとなることは明らかである。
ウ 引用発明1の「ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理」の場合についても同様であって,引用例2に開示された並列処理における半導体ウェハの経路の構成を採用すると,本件特許発明1の「各カセットに収納されたウエハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理」との構成を備えたものとなることは明らかである。

(2-2-2)次に,引用発明1の「ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理,及び,ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理のうち,いずれかを施した」における「いずれかを施した」について検討する。
ア 引用発明1は,「ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理」を行うことも,「ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理」を行うことも,いずれも可能な「真空処理装置」であるが,実際の処理が行われるまでのいずれかの時点において,そのうちの一方を選択する行為がなされる必要があるから,当該行為が「いずれかを選択的に施した」ものであることは明らかである。(例えば,引用例1の段落【0017】に記載された,表1を入力する行為も,これによって「異なる処理工程」であるか「共通の処理工程」であるかが決定されるのであるから,上記「そのうちの一方を選択する行為」を同時に行っているといえる。)
よって,引用発明1の「いずれかを施した」も,実質的に「いずれかを選択的に施した」ものに該当するものである。
イ なお,本件特許の願書に添付した明細書及び図面(以下「本件特許明細書等」という。)において,本件特許発明1の「何れかを選択的に施す」ことを説明している唯一の箇所は,段落【0048】?【0049】の,
「【0048】
1)ウエハの運転モードを選択する。
【0049】
「1カセット1レシピ並列」,「2カセット1レシピ並列」,
「2カセット2レシピ並列」,「1カセット1レシピ直列」のいずれかを選択
2)ウエハの搬送経路を設定する。」
との記載である。そこで,本件特許発明1の「何れかを選択的に施す」が,ウエハの運転モードを選択する行為を意味するものであると仮定して,更に検討を進める。
上記4(5-2)アで摘示したとおり,引用例5(引用例1の発明の詳細な説明中(段落【0002】)で従来の技術として挙げられた先行技術文献)には,同時に同一(単一)工程処理,同時に異なる(単一)工程処理,連続する複数工程処理を3つの基本モードとして扱うことが開示されており,また,上記4(4-2)アで摘示したとおり,引用例4には,メモリされている複数のモードの中からオペレータがモード選択手段を用いて1つのモードを選択することが開示されている。
よって,引用発明1においても,「ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理」及び「ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理」のそれぞれを,引用例5に記載されたように基本モード(運転モード)として扱うとともに,そのいずれかを選択する手段として引用例4に開示された技術を採用し,メモリされている2つの基本モード(運転モード)からオペレータがモード選択手段を用いて1つのモードを選択するようにすることは,当業者が適宜なし得た技術的な設計事項である。

(2-2-3)上記(2-2-2)で検討したとおり,引用発明1の「いずれかを施した」は実質的に「いずれかを選択的に施した」ものに該当し,仮にそうでないとしても,当業者が適宜なし得たことであるが,これは,上記(2-2-1)で検討したように,引用発明1において,引用例2に開示された並列処理における半導体ウェハの経路の構成を採用した場合においても同様にあてはまることは明らかである。
よって,引用発明1において,引用例2に開示された並列処理における半導体ウェハの経路の構成を採用した場合には,本件特許発明1の「搬送したウエハに前記カセット毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理,及び各カセットに収納されたウエハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理の何れかを選択的に施す」との構成を満たすものとなるか,仮にそうでないとしても,当業者が適宜なし得たことである。
したがって,引用発明1において,相違点2に係る構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

(3)被請求人の主張についての検討
(3-1)被請求人の主張内容
被請求人は,平成21年9月7日付け答弁書,平成21年11月26日付け口頭審理陳述要領書,平成22年1月18日付け意見書,平成22年3月23日付け上申書において,本件特許発明1?3が進歩性を有する旨の主張をしており,その主な内容を整理すると,次のとおりである。
ア 引用例1と引用例2の組み合わせの論理付けについての主張
引用例1記載の発明と引用例2記載の発明とでは,ウエハの搬送方式に共通性はなく,搬送されたウエハに処理室で施す同一レシピの並列処理として一部共通性があるのみである。このため,両者は並列処理を行う点で共通するとの認識を得ることは困難である。例えば,引用例1に用いるカセットとして2つを配置したとしても,1つのカセットを使用することも考えられ,2つのカセットを使用する必然性を引用例1および引用例2の組み合わせから導出すること,及び,本件発明の構成を導出することは困難である。
したがって,両者は並列処理を行うことで共通するから,引用例2に開示された具体的な構成を引用発明1に適用することは当業者に普通に期待できることであると判断することは早計である。
無効理由通知書の合議体の判断は,容易推考性の判断を引用例1,2の記載内容から導き出すのではなく,組み合わせることへの動機の乏しい引用例1と引用例2との組み合わせた結果得られる具体的構成の中に本件発明の構成が含まれていることをもとに判断するものである。

イ 本件発明の構成に伴う作用効果についての主張
(ア)本件発明では,2カセット1レシピ並列処理と2カセット2レシピ並列処理のいずれかを選択することができる。このため,少品種多ロット生産(2カセット1レシピ並列処理),多品種少ロット生産(2カセット2レシピ並列処理)の混流生産を安定かつ確実に行うことができ,生産性の効率向上が可能である。
(イ)本件発明の2カセット2レシピ並列処理では,各カセット毎に収納されたウエハに異なるレシピを適用して異なる処理を施し,更に処理後のウエハをもとのカセットに戻すため,運転モードに切り替えは不要となる。このためプロセス処理装置を連続運転することが可能となり,装置の稼働率を向上させることができる。
(ウ)本件発明では,共通のロードロック室及びアンロードロック室を介しての「混流生産」を一台の真空処理装置を用いて汚染を受けることなく,確実に実現することができる。このため,装置台数を低減することができるため,クリーンルームへの設置面積を小さくすることができ,これに伴い設備導入のための費用を軽減することができる。また,多品種小ロット生産及び小品種多ロット生産の運転モード切替のための運転用プログラム書き換えのために装置電源を遮断する必要もないため,装置稼働率を向上することができる。
(エ)本発明では2カセット2レシピ並列処理と2カセット1レシピ並列処理の2つの処理方式に限定しているため,2つ以上の処理室を処理経路として使って運転中に,処理室の内どれかが故障等で使用できなくなった場合でも運転続行でき,又,修復する必要のあるプロセス処理装置がある場合は,正常な処理室のみを処理経路として使って運転できる。
(オ)本件発明の多品種小ロット生産(2カセット2レシピ並列処理)においては,カセット毎にそれぞれ異なる処理が施され,かつ,各カセット内の全てのウエハは同一の処理が施された状態とすることができるため,他工程の処理装置のカセット単位処理に整合させることが可能となり,生産ラインのTAT(turn around time)あるいはリードタイム向上に寄与できる。

(3-2)被請求人の主張の検討
ア 引用例1と引用例2の組み合わせの論理付けについて
確かに,2カセット2レシピ並列そのものは,いずれの引用例にも開示されていないが,本件特許発明1の構成想到容易性を判断するにあたっては,引用発明1(引用例1に記載された発明)と引用例2に記載された発明とを組み合わせることができる程度の契機が存在すれば十分であって,「搬送したウエハに前記カセット毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理」という構成全体がまとまった形で引用例1または引用例2に記載されている必要はない。そして,上記(2-1)イで検討したとおり,引用発明1と引用例2に記載された発明とは,いずれも並列処理を行う点で共通するから,引用例2に開示された具体的な構成を引用発明1に適用することは,当業者に普通に期待できることである。
ここで,引用発明1及び引用例2に記載された発明の並列処理についてさらに検討すると,まず引用発明1は,「ロードロック室5,6」よりも真空側の実際に処理が行われる部分において,「第1工程」及び「第2工程」という2通りの搬送経路を有している。
これに対し,引用例2に記載された発明は,「出入口ポート20」よりも真空側の実際に処理が行われる部分において「処理チャンバ50a」及び「処理チャンバ50b」という2通りの搬送経路を有するのに加えて,「出入口ポート20」よりも大気側の部分においても,「処理チャンバ50a」で処理されるウエハに対して「カセット11a」が,「処理チャンバ50b」で処理されるウエハに対して「カセット11b」が,それぞれ対応付けられている。よって,カセットからの搬出から,処理チャンバでの処理を経て,カセットへの搬入に至るまで,「カセット11a」→「処理チャンバ50a」→「カセット11a」及び「カセット11b」→「処理チャンバ50b」→「カセット11b」という2通りの搬送経路を有することになる。
そうすると,引用発明1と引用例2に記載された発明とは,「ロードロック室5,6」(「出入口ポート20」)よりも真空側の実際に処理が行われる部分において,2通りの搬送経路を有しつつこれを並列処理するという点で共通しているのであるから,引用発明1において,「ロードロック室5,6」よりも真空側についてしか開示されていない搬送経路を,「ロードロック室5,6」よりも大気側の搬送経路まで延長して具体化するに際して,引用例2に記載された発明の構成をまず最初に適用しようと試みること,すなわち,「第1工程」及び「第2工程」という2通りの搬送経路に対して,2つのカセットを用意し,一方のカセットを「第1工程」を行うウエハに割り当て,他方のカセットを「第2工程」を行うウエハに割り当てることにより,各々の搬送経路をそのまま延長することは,当業者にとって自然な発想であり,十分な動機付けが存在するといえる。
(「例えば,引用例1に用いるカセットとして2つを配置したとしても,1つのカセットを使用することも考えられ」るというのは事実であるが,構成容易想到性の検討においては,「2つのカセットを使用する必然性」まで要求されるわけではない。)
さらに,引用発明1と引用例2に記載された発明とのウエハの搬送方式の共通性について検討する。引用発明1は,「ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理」(換言すれば「2工程1レシピ並列処理」)及び「ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理」(換言すれば「2工程2レシピ並列処理」)を有しているが,「2工程1レシピ並列処理」と「2工程2レシピ並列処理」とは,真空処理装置内でなされるレシピに差異があるのみであって,「第1工程」及び「第2工程」という2通りの搬送経路からなる並列処理であることにかわりはなく,両者は特に区別されずに同列に扱われている。これに対して,引用例2には,「2カセット1レシピ並列処理」が開示されているから,必然的に「2工程1レシピ並列処理」も開示されている。
そうすると,引用発明1の「2工程1レシピ並列処理」が,ウエハの搬送方式に関して,引用例2に記載された発明を組み合わせるための動機付けとして十分な共通性を有していることは当然であるが,引用発明1の「2工程2レシピ並列処理」も,真空処理装置内(この時はウエハは搬送されない)でなされるレシピの差異を除き,2通りの搬送経路からなる並列処理として「2工程1レシピ並列処理」と同列に扱われるものであることを参酌すれば,ウエハの搬送方式に関して,引用例2に記載された発明を組み合わせるための動機付けとしては,同様に十分な共通性を有しているといえる。
(本件特許明細書等においても,「2カセット2レシピ並列運転」に関する記載は,段落【0027】の「3)2カセット2レシピ並列運転 この運転では,C1カセットとC2カセットとのウエハ処理レシピが異なる事以外は前記「2カセット1レシピ並列運転」と同じある。」のみであって,具体的な構成については「2カセット1レシピ並列運転」をそのまま援用しており,両者は特に区別されずに同列に扱われている。)

イ 本件発明の構成に伴う作用効果について
(ア)本件特許明細書等の表1には,「2カセット2レシピ並列」運転が「多品種対応に有効」であることが記載されているものの,本件特許明細書等には,「多品種少ロット生産」,「少品種多ロット生産」,「混流生産」について言及する記載はいずれもない。
「多品種対応に有効」であるという作用効果自体は,本質的には異なる複数の品種を同時に並列処理できる点に基づくのであるから,例えば引用発明1の「2工程2レシピ並列処理」であっても奏するものであるが,上記(3-1)イ(ア)の被請求人の主張は,「少ロット」であることを前提としており,上記表1に開示されたものとはいえない。
よって,「多品種少ロット生産」,「少品種多ロット生産」,「混流生産」を行うことを前提とした作用効果に関する被請求人の主張は,本件特許明細書等の記載に基づかないものであり,また,本件特許発明1の構成にも基づかないものである。
(イ)本件特許明細書等に「多品種少ロット生産」(カセットに装填するウエハが少数であることを含む)について言及する記載がないことは,上記(ア)のとおりである。また,「2カセット1レシピ並列」及び「2カセット2レシピ並列」の場合に,「カセット毎にそれぞれ異なる処理が施される」こと,及び,「各カセット内の全てのウエハは同一の処理が施された状態とする」ことについては,一実施例である段落【0014】?【0030】及び図1に開示されてはいるとしても,被請求人が主張するような技術的意義や作用効果については,本件特許明細書等に記載がない。
よって,「多品種少ロット生産」を行うことを前提とした作用効果は,本件特許明細書等の記載にも本件特許発明1の構成にも基づかないものであり,それ以外の作用効果も,本件特許明細書等に記載されていないものである。
また,「前記並列処理(2カセット2レシピ並列処理)では,各カセット毎に収納されたウエハに異なるレシピを適用して異なる処理を施し,更に処理後のウエハをもとのカセットに戻す」という構成と「運転モードに切り替えは不要となる」という作用効果との因果関係が不明確であるが,異なる複数の品種を同時に並列処理できる点に基づくものであれば,例えば引用例1に記載された「2工程2レシピ並列処理」であっても同様のことがいえる。
(ウ)本件特許明細書等には,「多品種少ロット生産」,「少品種多ロット生産」,「混流生産」,「クリーンルームの設置面積及び設備導入のための費用」,「装置電源を遮断せずに「2カセット1レシピ並列」と「2カセット2レシピ並列」とを切り替えること」について言及する記載はいずれもない。また,「2カセット2レシピ並列運転」については,開示されてはいるとしても,被請求人が主張するような技術的意義や作用効果については,本件特許明細書等に記載がない。
よって,「多品種少ロット生産」,「少品種多ロット生産」,「混流生産」,「クリーンルームの設置面積及び設備導入のための費用」,「装置電源を遮断せずに「2カセット1レシピ並列」と「2カセット2レシピ並列」とを切り替えること」を前提とした作用効果は,本件特許発明1の構成に基づかないか,本件特許明細書等の記載に基づかないものである。
また,「装置台数を低減することができるため,クリーンルームへの設置面積を小さくすることができ,これに伴い設備導入のための費用を軽減することができる。」という作用効果については,上記4(3-2)イで摘示した引用例3の記載にもあるように,本質的には一連の処理を行う複数のチャンバの組を複数組設け,複数組分で1つの搬送チャンバを共有したマルチチャンバ装置であることに基づくといえるから,引用例1,2に記載されたマルチチャンバ装置であっても同様のことがいえる。
(エ)異常発生時(故障・修復等)に運転続行を可能とする作用効果は,異常発生に対応してどのように運転を切り替えるかという,動的に運転を続行させるための具体的な構成(例えば,本件特許明細書等の段落【0052】?【0060】及び図7?9に記載されたような構成)を備えてはじめて奏するものであるが,本件特許発明1は,そのような動的に運転を続行させるための具体的な構成を有さないから,本件特許発明1の「2カセット1レシピ並列処理」及び「2カセット2レシピ並列処理」という構成のみでは,異常発生時の問題と結びつかず,上記作用効果を奏するとはいえない。
よって,上記動的に運転を続行させるための構成の存在を前提とした作用効果は,本件特許発明1の構成に基づかないものである。
また,本件特許明細書等において,上記動的に運転を続行させるための構成に関する記載がなされているのは,段落【0052】?【0063】及び図7?10であるが,異常発生後の自動運転再開処理(図8),自動運転中の処理装置運転切り離し処理(図9),パイロットカセット処理(図10)は,いずれも,本件特許発明1に対応しない「1カセット1レシピ並列運転」の運転モード」を例としたものであり,これらの記載のみから,「2カセット1レシピ並列運転」や「2カセット2レシピ並列運転」の場合の具体的な動作を導き出すには,自明でない構成も存在する。(例えば,段落【0058】に記載された「ところで,E2とA2は運転停止状態となっている為(N+1)枚目以降のウエハは,E1とA1とを使って運転が続行される。」が,2カセット運転に適用した場合にどのように運転されるのか,自明ではない。)
(オ)本件特許明細書等には,「他工程の処理装置のカセット単位処理に整合させる」ことについて言及する記載はない。また,「カセット毎にそれぞれ異なる処理が施される」こと,及び,「各カセット内の全てのウエハは同一の処理が施された状態とする」ことについては,開示されてはいるとしても,被請求人が主張するような技術的意義や作用効果についての記載がないことは,上記(イ)のとおりである。
よって,「他工程の処理装置のカセット単位処理に整合させる」ことを前提とした作用効果は,本件特許明細書等の記載にも本件特許発明1の構成にも基づかないものであり,それ以外の作用効果も,本件特許明細書等に記載されていないものである。

以上のとおり,被請求人が主張する(ア)?(オ)の作用効果は,いずれも,本件特許発明1の構成に基づかないか,本件特許明細書等の記載に基づかないものである。
また,上記作用効果が,本件特許発明1の構成から自明に導き出せるような副次的なものであるとしても,引用発明1に引用例2に記載された発明を組み合わせた構成(以下,単に「引用例1,2を組み合わせた構成」という。)からも自明に導き出せる程度のものであることは明らかである。

(3-3)被請求人の主張についての検討のまとめ
上記(3-2)アで検討したとおりであるから,上記(3-1)アの論理付けに関する被請求人の主張では,引用発明1と引用例2に記載された発明とを組み合わせるための動機付けの存在を否定することはできない。
また,上記(3-2)イで検討したとおり,上記(3-1)イの作用効果に関する被請求人の主張は,本件特許発明1の構成に基づかないか,本件特許明細書等の記載に基づかないものであり,また,これらの作用効果が本件特許明細書等の開示及び本件特許発明1の構成から自明なものであるとしても,同様の理由で引用例1,2を組み合わせた構成からも自明であるから,本件特許発明1に特有の作用効果ではない。
よって,被請求人の主張はいずれも採用できず,上記(2)の判断の妥当性を否定する根拠とはならない。

(4)本件特許発明1のまとめ
したがって,上記(2)で検討したとおり,引用発明1において,相違点1及び2に係る構成を採用することは,当業者が容易になし得たことであるから,本件特許発明1は,引用例1?5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 本件特許発明2について
(1)本件特許発明2と引用発明2との対比
本件特許発明2と引用発明2とを対比する。
ア 引用発明2の「大気カセット」,「大気搬送装置」,「ロードロック室5,6」,「搬送室10」,「真空処理室1,2,3,4」,「ロードロック室5」,「搬送装置9-1,9-2」,「プロセスレシピ」,「処理工程を同時に実行する処理」,「アンロードロック室6」は,それぞれ,本件特許発明2の「カセット」,「他の搬送装置」,「ロック室」,「搬送処理装置」,「プロセス処理装置」,「ロードロック室」,「搬送装置」,「レシピ」,「処理を施す並列処理」,「アンロードロック室」に相当する。
イ 本件特許発明2の「大気中で大気搬送装置に載置された各カセット内のウェハを他の搬送装置からロック室,更に搬送処理装置を介してプロセス処理装置に搬送し,少なくとも2つ以上のプロセス処理装置でウェハのプロセス処理を行う真空処理方法」と,引用発明2の「ロードロック室5,6と,搬送室10と,真空処理室1,2,3,4との間でウエハの搬送制御を行い,搬送室10に接続された複数の真空処理室1,2,3,4を使用してウエハに対する処理を行う真空処理方法」とは,引用発明2の「大気カセットから収納されていたウエハの取出を大気搬送装置により行い,ロードロック室5,搬送室10内の搬送装置9-1,9-2を介して,真空処理室1,2,3,4に搬送し,」「アンロードロック室6から大気搬送装置により大気カセットへのウエハの収納を行う」構成を参酌すれば,両者は「カセット内のウェハを他の搬送装置からロック室,更に搬送処理装置を介してプロセス処理装置に搬送し,少なくとも2つ以上のプロセス処理装置でウェハのプロセス処理を行う真空処理方法」である点で共通する。
ウ 本件特許発明2の「少なくとも2つのカセットを使用し,各カセット毎に収納されたウエハを抜き取れるように構成された他の搬送装置,ロードロック室及び搬送装置を介して搬送し,搬送したウエハに前記カセット毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理,及び各カセットに収納されたウエハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理の何れかを選択的に施すとともに並列処理を施した後のウエハをアンロードロック室を介してもとのカセットに戻す」と,引用発明2の「大気カセットから収納されていたウエハの取出を大気搬送装置により行い,ロードロック室5,搬送室10内の搬送装置9-1,9-2を介して,真空処理室1,2,3,4に搬送し, 真空処理室1及び真空処理室2の経路で搬送される第1工程と,真空処理室4及び真空処理室3の経路で搬送される第2工程を有し,ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理,及び,ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理のうち,いずれかを施した後,アンロードロック室6から大気搬送装置により大気カセットへのウエハの収納を行う」において,両者はいずれも「ウエハ」が少なくとも「カセット」→「他の搬送装置」→「ロードロック室」→「搬送装置」→「プロセス処理装置」(処理)→「アンロードロック室」→「カセット」という経路で搬送される点では同じであり,また,本件特許発明2の「前記カセット毎に異なるレシピ」は,工程ごとに「異なるレシピ」の一種であるから,両者は,「カセットを使用し,」「カセット」「に収納されたウエハを抜き取れるように構成された他の搬送装置,ロードロック室及び搬送装置を介して搬送し,搬送したウエハに」工程ごとに「異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理,及び」「カセットに収納されたウエハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理の何れかを」「施すとともに並列処理を施した後のウエハをアンロードロック室を介して」「カセットに戻す」点で共通する。
エ そうすると,本件特許発明2と引用発明2の一致点及び相違点は,次のとおりとなる。

《一致点》
「カセット内のウェハを他の搬送装置からロック室,更に搬送処理装置を介してプロセス処理装置に搬送し,少なくとも2つ以上のプロセス処理装置でウェハのプロセス処理を行う真空処理方法において,
カセットを使用し,カセットに収納されたウエハを抜き取れるように構成された他の搬送装置,ロードロック室及び搬送装置を介して搬送し,搬送したウエハに工程ごとに異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理,及びカセットに収納されたウエハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理の何れかを施すとともに並列処理を施した後のウエハをアンロードロック室を介してカセットに戻すことを特徴とする真空処理方法。」
《相違点》
《相違点3》
本件特許発明2は,「大気中で大気搬送装置に載置された各カセット」及び「各カセット毎に収納されたウエハを抜き取れるように構成された他の搬送装置」であり,「少なくとも2つのカセットを使用し,各カセット毎に収納されたウエハを抜き取れるように構成された他の搬送装置,ロードロック室及び搬送装置を介して搬送し,」「並列処理を施した後のウエハをアンロードロック室を介してもとのカセットに戻す」ものであるのに対し,引用発明2は,「ウエハを複数枚収納できる大気カセットと,大気カセットからウエハの取出及び収納を行う大気搬送装置」であり,「大気カセットから収納されていたウエハの取出を大気搬送装置により行い,ロードロック室5,搬送室10内の搬送装置9-1,9-2を介して,真空処理室1,2,3,4に搬送し,」「アンロードロック室6から大気搬送装置により大気カセットへのウエハの収納を行う」ものではあるが,本件特許発明2の「大気搬送装置」に相当する構成の存在,本件特許発明2の「カセット」に相当する「大気カセット」の個数,「他の搬送装置」と「ウェハを抜き取」る「カセット」との対応関係,「ウエハ」が搬送される経路と「大気カセット」との対応関係について,いずれも明示されていない点。
《相違点4》
本件特許発明2は,「搬送したウエハに前記カセット毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理,及び各カセットに収納されたウエハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理の何れかを選択的に施す」ものであるのに対し,引用発明2は,「真空処理室1及び真空処理室2の経路で搬送される第1工程と,真空処理室4及び真空処理室3の経路で搬送される第2工程を有し,ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理,及び,ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理のうち,いずれかを施」すものである点。

(2)本件特許発明2と引用発明2との相違点の判断
上記(1)で認定した相違点3及び4についてそれぞれ検討する。
(2-1)相違点3について
ア 引用例1には,「ロードロック室5,6」よりも大気側の具体的な構成については実質的に明らかにされていないが,上記4(1-2)アにおいて検討したとおり,図示されてはいないものの,「ロードロック室5,6」と連通する大気中において「大気カセット」及び「大気搬送装置」を備えている点は段落【0013】に示唆されているのであるから,引用発明2を実施するにあたり,「ロードロック室5,6」よりも大気側の「大気カセット」及び「大気搬送装置」に関する構成,並びに,それに伴うウェハの搬送経路に関する構成を,搬送処理やプロセス処理ができるように具体化する必要があることは,当然である。
イ そして,上記4(2-2)ア及びイで摘示したとおり,引用例2には,「処理装置」の「出入口ポート20」(引用発明2の「ロードロック室5,6」に相当)よりも大気側の具体的な構成が開示されている。
また,上記4(2-2)ウ及びエで摘示したとおり,引用例2には「処理チャンバ50a」と「処理チャンバ50b」とで並列処理を行うことが開示されているところ,引用発明2も,「第1工程」と「第2工程」とで並列処理を行うものであり,両者は並列処理を行う点で共通するから,引用例2に開示された具体的な構成を引用発明2に適用することは,当業者に普通に期待できることである。
ウ ここで,引用例2に開示された「処理装置」の「出入口ポート20」よりも大気側の構成についてみてみると,上記4(2-2)アに摘示したとおり,「カセット11a,11b」(引用発明2の「大気カセット」に相当)は,「2個」であるとともに「カセットステーション10」に設けられており,また,上記4(2-2)イに摘示したとおり,「外部ロボット13」(引用発明2の「大気搬送装置」に相当)は,「カセット11aまたは11b」との間で「半導体ウェハ」の「搬入」及び「収容」を行っているから,これらの構成を引用発明2に適用すると,引用発明2の「大気カセット」は,個数が2個になるとともに,「カセットステーション」に設けられるものとなり,引用発明2の「大気搬送装置」は,当該2個の「大気カセット」との間で「ウエハの取出及び収納」ができるものとなる。
よって,引用発明2において,引用例2に開示された処理装置の上記構成を採用した場合には,「カセットステーション」が本件特許発明2の「大気搬送装置」に相当することになるから,本件特許発明2の「大気中で大気搬送装置に載置された各カセット」及び「各カセット毎に収納されたウエハを抜き取れるように構成された他の搬送装置」との構成を備えたものとなる。
エ また,引用例2に開示された並列処理における半導体ウェハの経路の具体的な構成についてみてみると,上記4(2-2)エに摘示したとおり,「カセット11aから取出した半導体ウェハ」については,いずれも「カセット11a」→「処理チャンバ50a」→「カセット11a」の経路で搬送及び処理を行って再びもとの「カセット11a」に戻し,「カセット11bから取出した半導体ウェハ」については,いずれも「カセット11b」→「処理チャンバ50b」→「カセット11b」の経路で搬送及び処理を行って再びもとの「カセット11b」に戻しているから,これらの構成を引用発明2に適用すると,上記ウのとおり個数が2個になった引用発明2の「大気カセット」のうち,一方の「大気カセット」から取出した「ウエハ」については,いずれも「一方の大気カセット」→「第1工程」→「一方の大気カセット」の経路で搬送及び処理を行って再びもとの「一方の大気カセット」に戻し,他方の「大気カセット」から取出した「ウエハ」については,いずれも「他方の大気カセット」→「第2工程」→「他方の大気カセット」の経路で搬送及び処理を行って再びもとの「他方の大気カセット」に戻すこととなる。
よって,引用発明2において,引用例2に開示された並列処理における半導体ウェハの経路の上記構成を採用した場合には,本件特許発明2の「少なくとも2つのカセットを使用し,各カセット毎に収納されたウエハを抜き取れるように構成された他の搬送装置,ロードロック室及び搬送装置を介して搬送し,」「並列処理を施した後のウエハをアンロードロック室を介してもとのカセットに戻す」との構成を備えたものとなる。
オ なお,カセットの個数を複数とすることは,上記4(3-2)ア及び上記4(4-2)イで摘示したとおり引用例3及び引用例4にも開示されており,当業者における周知技術である。
また,2つの工程を並列処理させるに際して,2つのカセットを用いて各々の工程に各々のカセットを対応付け,互いに実質的に独立したウェハ搬送経路とすることは,上記4(3-2)アで摘示したとおり引用例3にも開示されている。
カ したがって,引用発明2において,相違点3に係る構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

(2-2)相違点4について
(2-2-1)まず,引用発明2の「ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理,及び,ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理のうち,いずれかを施した」における,「ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理」及び「ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理」のそれぞれについて検討する。
ア 上記(2-1)イで検討したとおり,引用例2に開示された具体的な構成を引用発明2に適用することは,当業者に普通に期待できることであり,並列処理における半導体ウェハの経路の具体的な構成については,上記(2-1)エで検討したとおりである。
イ ここで,引用発明2の「ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理」の場合に,引用例2に開示された並列処理における半導体ウェハの経路の構成を採用すると,各々の工程に各々の「大気カセット」が対応付けられることになるから,結局,「ウエハに対して」「大気カセット」「ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理」となり,本件特許発明2の「搬送したウエハに前記カセット毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理」との構成を備えたものとなることは明らかである。
ウ 引用発明2の「ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理」の場合についても同様であって,引用例2に開示された並列処理における半導体ウェハの経路の構成を採用すると,本件特許発明2の「各カセットに収納されたウエハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理」との構成を備えたものとなることは明らかである。

(2-2-2)次に,引用発明2の「ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理,及び,ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理のうち,いずれかを施した」における「いずれかを施した」について検討する。
ア 引用発明2は,「ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理」を行うことも,「ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理」を行うことも,いずれも可能な「真空処理装置」を用いて行う「真空処理方法」であるが,実際の処理が行われるまでのいずれかの時点において,そのうちの一方を選択する行為がなされる必要があるから,当該行為が「いずれかを選択的に施した」ものであることは明らかである。
よって,引用発明2の「いずれかを施した」も,実質的に「いずれかを選択的に施した」ものに該当するものである。
イ 本件特許明細書等の段落【0048】?【0049】の記載に基づき,本件特許発明2の「何れかを選択的に施す」が,ウエハの運転モードを選択する行為を意味するものであると仮定して,更に検討を進める。
上記4(5-2)アで摘示したとおり,引用例5には,同時に同一(単一)工程処理,同時に異なる(単一)工程処理,連続する複数工程処理を3つの基本モードとして扱うことが開示されており,また,上記4(4-2)アで摘示したとおり,引用例4には,メモリされている複数のモードの中からオペレータがモード選択手段を用いて1つのモードを選択することが開示されている。
よって,引用発明2においても,「ウエハに対して工程ごとに異なるプロセスレシピを適用して異なる処理工程を同時に実行する処理」及び「ウエハに対して共通のプロセスレシピを適用して共通の処理工程を同時に実行する処理」のそれぞれを,引用例5に記載されたように基本モード(運転モード)として扱うとともに,そのいずれかを選択する手段として引用例4に開示された技術を採用し,メモリされている2つの基本モード(運転モード)からオペレータがモード選択手段を用いて1つのモードを選択するようにすることは,当業者が適宜なし得た技術的な設計事項である。

(2-2-3)上記(2-2-2)で検討したとおり,引用発明2の「いずれかを施した」は実質的に「いずれかを選択的に施した」ものに該当し,仮にそうでないとしても,当業者が適宜なし得たことであるが,これは,上記(2-2-1)で検討したように,引用発明2において,引用例2に開示された並列処理における半導体ウェハの経路の構成を採用した場合においても同様にあてはまることは明らかである。
よって,引用発明2において,引用例2に開示された並列処理における半導体ウェハの経路の構成を採用した場合には,本件特許発明2の「搬送したウエハに前記カセット毎に異なるレシピを適用して異なる処理を施す並列処理,及び各カセットに収納されたウエハに共通のレシピを適用して共通の処理を施す並列処理の何れかを選択的に施す」との構成を満たすものとなるか,仮にそうでないとしても,当業者が適宜なし得たことである。
したがって,引用発明2において,相違点4に係る構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

(3)本件特許発明2のまとめ
したがって,上記(2)で検討したとおり,引用発明2において,相違点3及び4に係る構成を採用することは,当業者が容易になし得たことであるから,本件特許発明2は,引用例1?5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 本件特許発明3について
(1)本件特許発明3と引用発明2との対比
本件特許発明3は,本件特許発明2に「ウェハは2つのカセットから交互に抜き出してそれぞれ並列処理する」との構成を追加したものであるから,本件特許発明3と引用発明2とを対比すると,両者は,上記6(1)で認定した一致点で一致し,上記6(1)で認定した相違点3及び4に加え,さらに以下の相違点5で相違する。
《相違点5》
本件特許発明3は,「ウェハは2つのカセットから交互に抜き出してそれぞれ並列処理する」のに対して,引用発明2は,このような構成を有していない点。

(2)本件特許発明3と引用発明2との相違点の判断
上記(1)で認定した相違点3?5についてそれぞれ検討する。
(2-1)相違点3について
上記6(2-1)で検討したとおり,引用発明2において,相違点3に係る構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。
(2-2)相違点4について
上記6(2-2)で検討したとおり,引用発明2において,相違点4に係る構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。
(2-3)相違点5について
上記4(2-2)エのとおり,引用例2には,「処理チャンバ50a」と「処理チャンバ50b」とが交互に使用されることが開示されているから,それに対応した「カセット11a」と「カセット11b」から交互にウエハが抜き取られることは明らかである。
よって,引用発明2において,引用例2に開示された発明を適用すれば,本件特許発明3の「ウェハは2つのカセットから交互に抜き出してそれぞれ並列処理する」との構成を備えることは明らかである。
なお,2つのカセットから交互にウエハを取り出すことは,引用例2のほかにも,上記4(4-2)イで摘示したとおり引用例4にも開示されており,当業者における周知技術である。
したがって,引用発明2において,相違点5に係る構成を採用することは,当業者が容易になし得たことである。

(3)本件特許発明3のまとめ
上記(2)で検討したとおり,引用発明2において,相違点3?5に係る構成を採用することは,当業者が容易になし得たことであるから,本件特許発明3は,引用例1?5に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

8 結言
以上の次第で,本件特許の請求項1?3に係る発明は,引用例1?5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本件特許の請求項1?3に係る発明は,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであるから,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。

審判に関する費用については,特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。

よって,結論のとおり審決する。

 
審理終結日 2010-03-29 
結審通知日 2010-03-31 
審決日 2010-04-14 
出願番号 特願平9-66097
審決分類 P 1 113・ 121- Z (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 柴沼 雅樹  
特許庁審判長 相田 義明
特許庁審判官 安田 雅彦
廣瀬 文雄
登録日 2006-02-17 
登録番号 特許第3771347号(P3771347)
発明の名称 真空処理装置及び真空処理方法  
代理人 石塚 利博  
代理人 飯島 大輔  
代理人 飯島 大輔  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  
代理人 アイアット国際特許業務法人  
代理人 石塚 利博  
代理人 特許業務法人 武和国際特許事務所  

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