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審決分類 審判 査定不服 特37条出願の単一性 特許、登録しない。 H01M
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01M
管理番号 1217949
審判番号 不服2008-12521  
総通号数 127 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-07-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-05-15 
確定日 2010-06-10 
事件の表示 特願2002-199068「非水電解質電池」拒絶査定不服審判事件〔平成16年2月12日出願公開、特開2004-47131〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判に係る出願は、平成14年7月8日の出願であって、平成19年12月14日付け拒絶理由通知書が送付されたものの、出願人から何らの応答もなかったため平成20年4月7日付けで拒絶査定されたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として平成20年5月15日に請求され、同年6月16日付けで願書に添付された明細書についての手続補正書が提出され、平成21年10月27日付け審尋が送付され、平成22年1月4日付け回答書が提出されたものである。

第2 原査定
原査定の拒絶理由の1つは、概略、以下のとおりのものと認める。

「 本願請求項1に係る発明と、請求項9に係る発明とは、主要部が同一ではないし、本願出願時までに未解決な解決しようとする課題が同一とも認められない。
よって、本願請求項1?8,9?12は出願の単一性の要件を満たさない2つの発明を含んでおり、特許法第37条に規定する要件を満たしていない。」
そして、この審決における「特許法第37条」は、平成15年改正前の特許法第37条のことである。

第3 補正の却下の決定

平成20年6月16日付け手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
その理由を以下に詳述する。

1 本件補正の内容
本件補正は、以下の補正事項aを有するものと認める。

補正事項a;特許請求の範囲の請求項1の記載につき、以下の「A」を「B」と補正する。

A;「【請求項1】 正極活物質を有する正極と、
リチウムと化合可能な金属、合金、元素、及びこれらの化合物からなる負極活物質を有する負極と、
電解質塩と非水溶媒とを有する非水電解質とを備え、
上記非水電解質は、上記非水溶媒に炭酸エチレン、炭酸フッ化エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、γ-ブチルラクトン、エチレンサルファイトのうちの何れか一種以上からなる第1の溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸メチルエチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルプロピル、炭酸ジプロピル、炭酸ジイソプロピル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドのうちの何れか一種以上からなる第2の溶媒とを含有し、上記電解質塩にリチウムイオンを含有していることを特徴とする非水電解質電池。」

B;「【請求項1】
正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
電解質塩と非水溶媒とを有する非水電解質とを備え、
上記負極活物質は、化学式M_(x)M’_(y)Li_(z)(Mはリチウムと化合可能な元素、M’はLi元素及びM元素以外の金属元素、xは0より大きな数値、y及びzは0以上の数値である。)で表され、
上記非水電解質は、上記非水溶媒に炭酸エチレン、炭酸フッ化エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、γ-ブチルラクトン、エチレンサルファイトのうちの何れか一種以上からなり且つ炭酸フッ化エチレンを含む第1の溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸メチルエチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルプロピル、炭酸ジプロピル、炭酸ジイソプロピル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドのうちの何れか一種以上からなる第2の溶媒とを含有し、上記電解質塩にリチウムイオンを含有していることを特徴とする非水電解質電池。」

なお、ここ「第3」においては、本件補正前の請求項1を旧請求項1と、本件補正後の請求項1を新請求項1という。

2 補正の適否
ア 補正の目的について
補正事項aは、炭酸フッ化エチレンが、旧請求項1において第1の溶媒の選択成分であったものを、新請求項1において第1の溶媒の必須成分とする補正を含むから、請求項1に記載された「第1の溶媒」を限定するものといえ、平成14年改正特許法第17条の2第4項第2号に規定される「特許請求の範囲の減縮(第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」(以下、「限定的減縮」という。)を目的にしているといえる。

イ 独立特許要件について
新請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
その理由を以下に詳述する。

(1)補正発明
補正発明は、先に「第3 1」において、「B」として示したとおりのものであると認める。

(2)引用文献5(特開2001-68096号公報)の記載
原査定の拒絶理由で引用された引用文献5には、以下の記載が認められる。

(5a)「【請求項1】 構成元素として少なくともSnを含むリチウムを吸蔵する相およびリチウムを吸蔵しない相からなる活物質粒子と前記活物質粒子の表面の一部または全面を被覆している導電性材料との複合粒子からなることを特徴とする非水電解質二次電池用負極。
・・・(審決注;「・・・」は記載の省略を示す。以下、同様。)
【請求項9】 リチウムイオンの可逆的な電気化学反応が可能な正極、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解質、および請求項1?6のいずれかに記載の負極を具備する非水電解質二次電池。」

(5b)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、高容量のSn元素を含む活物質粒子を用い、電気化学的なリチウムの吸蔵・放出に伴う膨張・収縮を繰り返しても、微細化が起こりにくく、活物質粒子と導電剤との接触を維持し、充放電サイクル寿命特性を向上する非水電解質二次電池用負極負極材料を提供することを目的とする。」

(5c)「【0023】本発明の非水電解質二次電池に用いられる正極は、リチウムイオンを電気化学的かつ可逆的に挿入・放出できる正極材料に導電剤、結着剤等を含む合剤層を集電体の表面に塗着して作製することができる。本発明に用いられる正極材料には、リチウム含有または非含有の化合物を用いることができる。特に、リチウム含有遷移金属酸化物として、例えば、Li_(x)CoO_(2) 、Li_(x)NiO_(2)・・・があげられる。」

(5d)「【0028】上記非水電解質二次電池用の非水電解質は、溶媒と、その溶媒に溶解するリチウム塩とから構成される。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネ-ト、プロピレンカ-ボネ-ト、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル類・・・などの非プロトン性有機溶媒を挙げることができ、これらの一種または二種以上を混合して使用する。なかでも環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合系または環状カーボネートと鎖状カーボネートおよび脂肪族カルボン酸エステルとの混合系が好ましい。」

(5e)「【0034】《実施例1》表2に、本実施例で用いた負極材料(材料A?C)のリチウム吸蔵相とリチウム非吸蔵相および仕込み時の元素比率を示す。所定の元素比率で準備した負極材料を構成する各元素の粉体またはブロックを、溶解槽に投入し溶融させた。その溶融物をロール急冷法で急冷凝固させ、凝固物を得た。この凝固物をボールミルで粉砕し、篩で分級することにより45μm以下の粒子とした材料A?Cを得た。これらの活物質材料は、断面を電子顕微鏡で観察することにより、表2で示したリチウム吸蔵相とリチウム非吸蔵相を含んでいることが確認された。
【0035】
【表2】

【0036】本実施例で用いた活物質粒子を構成する元素は、Sn元素に対して、2族元素としてMg、遷移元素としてCoおよびNiを用いたが、これ以外の12族元素、13族元素、14族元素を含む各族の元素を用いても同様な効果が得られた。・・・
【0039】・・・有機電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの等体積混合溶媒に溶質の六フッ化リン酸リチウムを1mol/l溶解させたものを用いた。」

(3)引用文献5に記載された発明
上記(5a)によれば、引用文献5には、「リチウムイオンの可逆的な電気化学反応が可能な正極、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解質、および構成元素として少なくともSnを含むリチウムを吸蔵する相およびリチウムを吸蔵しない相からなる活物質粒子と前記活物質粒子の表面の一部または全面を被覆している導電性材料との複合粒子からなる負極を具備する非水電解質二次電池。」の発明が記載されていると認められる。
そして、上記(5c)によれば、この発明の「リチウムイオンの可逆的な電気化学反応が可能な正極」は、「リチウムイオンを電気化学的かつ可逆的に挿入・放出できる正極材料に導電剤、結着剤等を含む合剤層を集電体の表面に塗着して作製」されたものといえ、上記(5d)によれば、この発明の「リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解質」は、「環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合系」非水溶媒にリチウム塩を溶解させたものといえる。
さらに、この発明の実施例に関する上記(5e)によれば、この発明の「活物質粒子」は、Mg_(2)Sn相とMg相からなりSn:Mgが原子%で25:75である粒子であるものを含み、「リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解質」は、「エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの等体積混合溶媒に溶質の六フッ化リン酸リチウムを1mol/l溶解させたもの」を含むといえる。

そうすると、引用文献5には、以下の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されていると認められる。
「リチウムイオンを電気化学的かつ可逆的に挿入・放出できる正極材料に導電剤、結着剤等を含む合剤層を集電体の表面に塗着して作製された正極、リチウム塩を環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合系非水溶媒に溶解させた非水電解質、およびMg_(2)Sn相とMg相からなりSn:Mgが原子%で25:75である活物質粒子と前記活物質粒子の表面の一部または全面を被覆している導電性材料との複合粒子からなる負極を具備する非水電解質二次電池であって、前記非水電解質が、環状カーボネートとしてのエチレンカーボネートと鎖状カーボネートとしてのジエチルカーボネートとの等体積混合溶媒にリチウム塩としての六フッ化リン酸リチウムを1mol/l溶解させた非水電解質二次電池。」

(4)対比・判断
(ア)補正発明と引用発明5を対比する。
引用発明5における「リチウムイオンを電気化学的かつ可逆的に挿入・放出できる正極材料」は、補正発明の「正極活物質」に相当する。
そして、引用発明5における「リチウム塩を環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合系非水溶媒に溶解させた非水電解質」は、補正発明の「電解質塩と非水溶媒とを有する非水電解質」に相当する。
また、引用発明5における「Mg_(2)Sn相とMg相からなりSn:Mgが原子%で25:75である活物質粒子」は、補正発明の化学式M_(x)M’_(y)Li_(z)(Mはリチウムと化合可能な元素、M’はLi元素及びM元素以外の金属元素、xは0より大きな数値、y及びzは0以上の数値である。)で表される負極活物質のうちの、MがSnであってxが25、M’がMgであってyが75、zが0である(正確には、完全放電状態ではzが0であるが、充電状態ではzが0より大きな数値である)場合の負極活物質に相当する。
さらに、引用発明5における「環状カーボネートとしてのエチレンカーボネート」、「鎖状カーボネートとしてのジエチルカーボネート」、「リチウム塩としての六フッ化リン酸リチウム」は、エチレンカーボネートとは炭酸エチレンのことであり、ジエチルカーボネートとは炭酸ジエチルのことであるから、それぞれ補正発明の「炭酸エチレン、炭酸フッ化エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、γ-ブチルラクトン、エチレンサルファイトのうちの何れか一種以上からなる第1の溶媒」、「炭酸ジメチル、炭酸メチルエチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルプロピル、炭酸ジプロピル、炭酸ジイソプロピル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドのうちの何れか一種以上からなる第2の溶媒」、「電解質塩にリチウムイオンを含有している」に相当する。

そうすると、補正発明は引用発明5とは、
「正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
電解質塩と非水溶媒とを有する非水電解質とを備え、
上記負極活物質は、化学式M_(x)M’_(y)Li_(z)(Mはリチウムと化合可能な元素、M’はLi元素及びM元素以外の金属元素、xは0より大きな数値、y及びzは0以上の数値である。)で表され、
上記非水電解質は、上記非水溶媒に炭酸エチレン、炭酸フッ化エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、γ-ブチルラクトン、エチレンサルファイトのうちの何れか一種以上からなる第1の溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸メチルエチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルプロピル、炭酸ジプロピル、炭酸ジイソプロピル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドのうちの何れか一種以上からなる第2の溶媒とを含有し、上記電解質塩にリチウムイオンを含有している、非水電解質電池。」
である点で一致し、
以下の点で相違していると認められる。

相違点1;補正発明は、第1の溶媒が炭酸フッ化エチレンを必須の成分として含むのに対し、引用発明5は、第1の溶媒が炭酸フッ化エチレンを必須の成分としていない点

(イ)そこで、相違点1について検討する。
リチウム合金を負極活物質とする電池の電解質溶媒とした場合に、フッ素置換炭酸エチレンにサイクル特性向上効果があることは周知である(要すれば、例えば特開平7-240232号公報の【請求項1】、【0004】?【0006】、【0015】、【0023】?【0024】、特開昭62-290072号公報の特許請求の範囲、実施例1、3頁左下欄8?19行等参照)上に、低温特性が悪いエチレンカーボネートに代わり、フッ素置換炭酸エチレンが低温時を含めたサイクル特性を向上させ得ることも知られている(上記、特開平7-240232号公報)から、充電によりリチウム合金となる負極活物質を備える非水電解質二次電池に係る引用発明5において、サイクル特性を向上させるという非水電解質二次電池の技術分野における通常の課題を解決するために、エチレンカーボネートの一部又は全部を前記周知のフッ素置換炭酸エチレンに代えることは、当業者が容易に成し得たことといえる。
よって、引用発明5において、特開平7-240232号公報や特開昭62-290072号公報記載の周知技術を採用することにより、相違点1を解消することは、当業者が容易に成し得たことである。
また、引用文献5の(5b)によれば、「高容量のSn元素を含む活物質粒子を用い」たのであるから電池のエネルギー密度は高いといえるし、フッ素置換炭酸エチレンにサイクル特性向上効果があることは上記のとおりであるから、補正発明により奏される格別顕著な効果も見い出せない。

(5)まとめ
以上のとおり、補正発明は、引用文献5に記載された発明と上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

ウ 補足
補正の目的については、以下の目的違背の理由も成り立つ。
すなわち、補正事項aにおける新請求項1とする補正は、旧請求項1において、負極活物質が「リチウムと化合可能な金属、合金、元素、及びこれらの化合物からなる」とされ、「金属」と「合金」と「元素」と「化合物」を必須の成分とする混合物であったものを、「化学式M_(x)M’_(y)Li_(z)(Mはリチウムと化合可能な元素、M’はLi元素及びM元素以外の金属元素、xは0より大きな数値、y及びzは0以上の数値である。)で表され」とする補正、すなわち、負極活物質を「金属」と「合金」と「元素」と「化合物」を必須の成分とする混合物ではないものに変更する補正を含むから、特許請求の範囲を拡張又は変更するものであって、限定的減縮を目的にしているということはできない。
また、旧請求項1における、負極活物質が「リチウムと化合可能な金属、合金、元素、及びこれらの化合物からなる」との記載は、負極活物質が「金属」と「合金」と「元素」と「化合物」を必須の成分とする混合物であることを意味することが明確に把握できるから、新請求項1とする補正が「明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」を目的にしているということもできない。
さらに、新請求項1とする補正が、「第36条第5項に規定する請求項の削除」及び「誤記の訂正」のいずれかの事項を目的にしているということもできない。

第4 原査定の拒絶理由(特許法第37条)に対する当審の判断

1 本件審判に係る出願の請求項に記載された発明
本件補正は、先に「第3」で述べたように却下すべきものであるから、本件審判に係る出願の請求項に記載された発明は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであって、そのうち他の請求項を引用することなく記載された独立形式の請求項1及び9の記載は、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】 正極活物質を有する正極と、
リチウムと化合可能な金属、合金、元素、及びこれらの化合物からなる負極活物質を有する負極と、
電解質塩と非水溶媒とを有する非水電解質とを備え、
上記非水電解質は、上記非水溶媒に炭酸エチレン、炭酸フッ化エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、γ-ブチルラクトン、エチレンサルファイトのうちの何れか一種以上からなる第1の溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸メチルエチル、炭酸ジエチル、炭酸メチルプロピル、炭酸ジプロピル、炭酸ジイソプロピル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドのうちの何れか一種以上からなる第2の溶媒とを含有し、上記電解質塩にリチウムイオンを含有していることを特徴とする非水電解質電池。」

「【請求項9】 正極活物質を有する正極と、
リチウムと化合可能な金属、合金、元素、及びこれらの化合物からなる負極活物質を有する負極と、
化学式(1)及び化学式(2)で示されるオキサチオラン-2,2-ジオキシド骨格を持つ化合物を少なくとも一種以上含有する非水電解質と
を備えていることを特徴とする非水電解質電池。



2 特許法第37条の規定

二以上の発明については、これらの発明が一の請求項に記載される発明(以下「特定発明」という。)とその特定発明に対し次に掲げる関係を有する発明であるときは、一の願書で特許出願をすることができる。
一 その特定発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である発明
二 その特定発明と産業上の利用分野及び請求項に記載する事項の主要部が同一である発明
三 その特定発明が物の発明である場合において、その物を生産する方法の発明、その物を使用する方法の発明、その物を取り扱う方法の発明、その物を生産する機械、器具、装置その他の物の発明、その物の特定の性質を専ら利用する物の発明又はその物を取り扱う物の発明
四 その特定発明が方法の発明である場合において、その方法の発明の実施に直接使用する機械、器具、装置その他の物の発明
五 その他政令で定める関係を有する発明

3 第1号?第5号の関係について

ア 第1号の関係について
本願請求項1に記載される発明の解決しようとする課題は、リチウムイオンの存在度を高くし、リチウムイオンの移動度を向上させた非水電解質電池を提供すること(【0014】参照)であると認められ、本願請求項9に記載される発明の解決しようとする課題は、負極表面にさらなる被膜が形成されることを抑制した非水電解質電池を提供すること(【0018】参照)であると認められるから、請求項1に記載される発明と請求項9に記載される発明との解決しようとする課題は同一でない。
よって、請求項1と請求項9のいずれを特定発明としても、第1号に掲げる関係を有していない。
なお、第1号における「解決しようとする課題」とは、本願出願前に未解決であったものをいうところ、本願明細書【0012】には発明の課題として「エネルギー密度が高く、充放電サイクル特性に優れた非水電解質電池を提供すること」が記載されているが、電圧が高くエネルギー密度が高く、優れたサイクル寿命性能の有機電解液二次電池は、例えば特開平4-196066号公報や特開平4-196067号公報に記載されているから、前記発明の課題は本願出願前に未解決であったものではなく、第1号における「解決しようとする課題」には当たらない。

イ 第2号の関係について
請求項に記載する事項の主要部、すなわち、解決しようとする課題に対応した新規な発明特定事項は、本願請求項1は所定の第1の溶媒及び第2の溶媒を非水電解質に含有することであり、本願請求項9は所定のオキサチオラン-2,2-ジオキシド骨格を持つ化合物を非水電解質に含有することであるから、請求項1に記載される発明と請求項9に記載される発明との請求項に記載する事項の主要部は同一でない。
よって、請求項1と請求項9のいずれを特定発明としても、第2号に掲げる関係を有していない。

ウ 第3号の関係について
非水電解質電池に係る物の発明である請求項1を特定発明としたとき、請求項9は、その物を生産する方法の発明、その物を使用する方法の発明、その物を取り扱う方法の発明、その物を生産する機械、器具、装置その他の物の発明、その物の特定の性質を専ら利用する物の発明又はその物を取り扱う物の発明のいずれにも該当しない。
また、請求項9を特定発明とした場合にも、請求項1はこれら発明のいずれにも該当しない。
よって、請求項1と請求項9のいずれを特定発明としても、第3号に掲げる関係を有していない。

エ 第4号及び第5号の関係について
請求項1と請求項9のいずれも方法の発明ではない。
また、請求項1と請求項9とは第1号又は第2号に掲げる関係を有していない。
よって、請求項1と請求項9のいずれを特定発明としても、第4号及び第5号に掲げる関係を有していない。

4 まとめ
以上のとおり、請求項1に記載される発明と請求項9に記載される発明とは、いずれを特定発明としても第1号から第5号に掲げる関係を有していないから、この特許出願は特許法第37条に規定する要件を満たしていない。
よって、原査定は妥当である。

5 補足
本願請求項1には、「リチウムと化合可能な金属、合金、元素、『及び』これらの化合物からなる負極活物質」と記載されているが、この負極活物質は発明の詳細な説明に記載されていない。そこで、これが「リチウムと化合可能な金属、合金、元素、『又は』これらの化合物『から選択される少なくとも一種』からなる負極活物質」の誤記と解すると、負極活物質は炭素等であってよいことになり、特許法第29条第1項第3号及び第2項を理由とする原審の拒絶査定もまた妥当であるといえる。

第5 請求人の回答書における主張に対する補足
請求人は、回答書において、「しかしながら、引用文献1?6の何れにも、負極が、銅箔からなる負極集電体上に、上記化学式で表される負極活物質と結合剤とを含有する負極合剤層が形成されてなる点、又は、負極が、銅箔からなる負極集電体上に、リチウムをドープ/脱ドープ可能な金属が成膜されてなる点について何ら記載も示唆もされていません。」(5頁)と主張し、このような特徴を明確化する補正をする機会を設けることを希望する。
しかしながら、このような特徴を明確化する補正をする機会は、最初の拒絶理由通知後に設けられていたのであるから、回答書における主張は時機に遅れた対応である。

また、仮にこのような補正をしたとしても、以下の理由により補正後の発明には進歩性がなく特許を受けることができないものである。

引用文献5には、負極集電体としては「特に、銅あるいは銅合金が好ましい」、「形状は、フォイルの他・・・などが用いられる。」(【0026】)、「電極合剤には、導電剤や結着剤の他フィラー・・・その他の各種添加剤を用いることができる」(【0027】)と記載されているから、負極集電体が銅箔からなり負極が結合剤を含有する点を明確化する補正をしたところで、進歩性がない。

第6 結び
原査定は、妥当である。
したがって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-03-31 
結審通知日 2010-04-06 
審決日 2010-04-20 
出願番号 特願2002-199068(P2002-199068)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01M)
P 1 8・ 64- Z (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松岡 徹新居田 知生  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 山本 一正
青木 千歌子
発明の名称 非水電解質電池  
代理人 小池 晃  
代理人 祐成 篤哉  
代理人 野口 信博  
代理人 藤井 稔也  
代理人 伊賀 誠司  

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