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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H02K
管理番号 1218547
審判番号 無効2008-800154  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-08-18 
確定日 2010-05-31 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2134716号「振動型軸方向空隙型電動機」の特許無効審判事件についてされた平成21年 7月28日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成21年(行ケ)第10265号、平成22年1月28日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2134716号の特許請求に範囲に記載された発明についての出願は、昭和62年5月21日に出願され、平成10年2月6日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。
これに対し、請求人は、平成20年8月18日に特許請求の範囲の請求項1に記載された発明の特許について無効審判を請求し、平成20年12月24日付けで、特許を無効とする審決がなされたところ、平成21年1月23日に該審決に対する訴えが提起され、平成21年2月20日に訂正審判(訂正2009-390018号、その後特許法第134条の3第4項の規定により取り下げ。)が請求され、知的財産高等裁判所において、特許法第181条第2項の規定による審決の取消しの決定(平成21年(行ケ)第10017号、平成21年3月3日決定)がなされ確定した。
審理再開にあたり、平成21年3月11日付けで、被請求人に対し、特許法第134条の3第2項に規定する訂正を請求するための期間を指定する通知をしたが、指定された期間内に訂正の請求がされなかったため、同法同条第5項の規定により、上記訂正審判の請求書に添付された訂正した明細書を援用した訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求がされたものとみなすこととなった。
これに対し、平成21年7月28日付けで、「訂正を認める。特許第2134716号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第二次審決」という。)がなされたところ、平成21年9月3日に当該審決を取り消すことを求めて訴訟が提起(平成21年(行ケ)第10265号)され、知的財産高等裁判所において、平成22年1月28日付けで、平成21年7月28日にした審決の取消しの判決がなされ確定した。
なお、本件訂正のうち、請求項2ないし10を削除する訂正は、第二次審決の謄本が送達された平成21年8月7日に確定している。


2.本件訂正の可否
(1)訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである。なお、本件特許の明細書を、以下、「特許明細書」という。

特許明細書の請求項1に、「且つ回動自在に支持した、振動型軸方向空隙型電動機。」 とあるのを、「且つ回動自在に支持してあり、各電機子コイルは環状を成しており、複数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの環の内側に錘が入れられている、振動型軸方向空隙型電動機。」と訂正する。

(2)訂正に関する当審の判断
上記訂正事項の可否について検討する。
上記訂正事項は、「各電機子コイル」について「各電機子コイルは環状を成しており、複数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの環の内側に錘が入れられている」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としている。
また、第7図及び第8図の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。
そして、「回転軸に旋回板を取り付けることなく振動する振動型軸方向空隙型電動機を安価且つ軸方向に厚みが薄く小型軽量に構成できるようにする」という発明の目的に変更を及ぼすものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、本件訂正は、平成6年改正前特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合し、かつ、特許法第134条の2条第5項の規定によって準用する平成6年改正前特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


3.審判請求人の主張
請求人は、特許請求の範囲に記載された発明についての特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、特許請求の範囲に記載された発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物(甲第1号証ないし甲第3号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許請求の範囲に記載された発明についての特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである旨主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。

(証拠方法)
甲第1号証:実願昭47-43639号(実開昭49-4108号)のマイクロフィルム
甲第2号証:特開昭50-100510号公報
甲第3号証:特開昭55-122467号公報
甲第4号証:「JIS用語辞典 電気編」,財団法人日本規格協会,昭和49年9月5日,p.655
甲第5号証:「新版電気術語事典」,株式会社オーム社,昭和51年12月20日,p.236
(根拠条文及び甲第1号証については、平成20年12月18日に実施された口頭審理の「第1回口頭審理調書」参照。)


4.被請求人の主張
被請求人は、特許請求の範囲に記載された発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に想到できるものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当しないので、本件無効審判の請求は、成り立たない旨主張している。


5.本件特許発明
訂正後の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。) は、訂正された特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁マグネットを固定子として備え、偏心且つ振動して回転するように複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置することで平面において円板状を形成しないように変形形成したコアレス偏平電機子を上記界磁マグネットと軸方向の空隙を介して面対向し且つ回動自在に支持してあり、各電機子コイルは環状を成しており、複数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの環の内側に錘が入れられている、振動型軸方向空隙型電動機。」


6.甲号証について
甲第1号証には、図面と共に以下の事項が記載されている。

1-a「第1図に従来の振動発生用電動機の構成を説明する。・・・不平衡重りを3aのように軸受5の内側に配置した場合は,軸受間隔が長くなり,電動機の軸方向長さが長く,自重も大きくなる。また不平衡重りを3bのように軸受5の外側に配置する場合は,軸受ハウジングの外側で不平衡重りが回転するために安全カバー6をもうける必要があり,電動機全体の寸法が大きく自重も大きくなる。」(明細書第1頁第15行?第2頁第8行)

1-b「本考案は自重を小さくし,また寸法もきわめて小さくして振動力を有効に利用し,せまいスペース内でも使用しうるようにしたもので,以下,本発明の構成を図面を参照しながら説明する。
第2図および第3図において,1は回転軸,2は回転子,21は回転子鉄心,22は回転子巻線,23は回転子鉄心21に設けた切り欠ぎ部,4は固定子,5は軸受である。
軸受5に支承された回転軸1に回転子2を固着し,この回転子2の積層鉄心21の一部に,軸心線に対し,非対称の切り欠ぎ部23を設けてある。したがって,固定子4を励磁することにより,回転子2が回転するが,この回転子鉄心21は切り欠ぎ部23によって不平衡になっているから,不平衡な遠心力によりその回転数に比例した周波数の振動を生ずる。」(明細書第2頁第13行?第3頁第8行)

1-c「第4図の実施例は,積層板の切り欠ぎ部23を打ち抜いた残屑あるいは他の部材7を,切り欠ぎ部23と対称の位置に取りつけるようにしたもので,不平衡荷重効果を増大させることができ,とくに小形の回転子に大きな振動力を生じさせ,取付位置によって振動力調整を行うようにすることもできる。
第5図に示す実施例は,回転子巻線22を含めて回転子外周に開口する切り欠ぎ部23を形成したもので,重量的に不平衡を生ぜしめるとともに鉄心を切り欠いだ部分の磁気的吸引力が小さくなり,振動が助長される。」(明細書第3頁第18行?第4頁第9行)

1-d「不平衡荷重が回転子鉄心部分以外の空間を占めることがないので,従来の不平衡重りを回転子とは別に回転軸に取りつけてある構造のものよりも,電動機全体の寸法を小さく,自重も小さくすることができるとともに,構造を簡単ならしめ」(明細書第4頁第14?19行)

また、第2図には、固定子巻線を固定子4に備え、偏平の回転子2が固定子巻線と径方向の空隙を介して面対向している径方向空隙型電動機の構成が、第5図には、回転子鉄心21に複数の回転子巻線22を回転中心を基準に片寄らせて配置することで、回転軸方向から平面視した際に略扇形となるように切り欠ぎ部23を形成した鉄心に複数の回転子巻線を配置した回転子の構成が、それぞれ示されている。

上記記載事項及び図面によれば、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「固定子巻線を固定子に備え、重量的に不平衡を生ぜしめるとともに回転数に比例した周波数の振動を生ずるように回転子鉄心に複数の回転子巻線を回転中心を基準に片寄らせて配置することで回転軸方向から平面視した際に略扇形となるように切り欠ぎ部を形成した鉄心を有する偏平の回転子を上記固定子巻線と径方向の空隙を介して面対向し且つ軸受に支承された回転軸に固着してあり、各回転子巻線は回転子鉄心の切り欠ぎ部以外の部分に配置されており、切り欠ぎ部と対称の位置に不平衡荷重効果を増大させるための部材が取り付けられている、振動発生用径方向空隙型電動機。」

甲第3号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

3-a「第1図は、円板状の電機子を設けた整流子電動機の構成の説明図である。」(第2頁左下欄第1?2行)

3-b「筐体3にはN,S磁極が回転軸方向に磁化された円環状の界磁磁極6が貼着して固定されている。回転軸1には一体にモールドされた電機子7及び整流子8が固定されている。電機子7は筐体2と界磁磁極6との空隙磁界内に介在するように構成されている。」(第2頁左下欄第8?13行)

3-c「第1図示の界磁磁極6に相当するものは、第2図示より第6図示においては、第7図(a)に示すように90度の開角でN,S極に回転軸方向に磁化された磁極12-1、12-2、12-3、12-4よりなる界磁磁極12であり、」(第2頁左下欄第18行?右下欄第3行)

3-d「電機子13は、電機子巻線13-3、13-4、13-5、13-6が第7図(b)に示すように配設され、一体にモールドされて構成している。即ち、電機子巻線13-3と13-4、13-4と13-5、13-5と13-6はそれぞれ約51.4度の開角(磁極幅の4/7)で、電機子巻線13-6と13-3は約205.7度の開角(磁極幅の16/7)で一部分が重畳して配設されている。」(第2頁右下欄第16行?第3頁左上欄第4行)

3-e「電機子17は、電機子巻線17-1、17-2、17-4、17-5、17-7、17-8が第7図(c)に示すように配設され、一体にモールドされて構成している。即ち、電機子巻線17-1、17-4、17-7は円板状電機子の上面にそれぞれ120度の開角(磁極幅の4/3)の等しいピッチで並設されている。」(第3頁左下欄第6?12行)

3-f「電機子19は、電機子巻線19-2、19-5、19-8が第7図(d)に示すように配設され、一体にモールドされて構成している。即ち、各電機子巻線はそれぞれ120度の開角(磁極幅の4/3)の等しいピッチで重畳せずに配設されて構成している。」(第4頁左上欄19行?右上欄4行)

3-g「上述した全ての実施例は、円板状の無鉄心電機子を設けた整流子電動機に本発明を適用したものである」(第14頁左下欄第3?5行)

また、第1図には、偏平電機子を、固定子である界磁磁極と軸方向の空隙を介して面対向させた電動機が、第7図(a)には円環状の界磁磁極である界磁マグネットが、第7図(b)?(f)には環状をなしている無鉄心電機子巻線を配置した無鉄心電機子が、それぞれ示されている。

上記記載事項及び図面によれば、甲第3号証には、以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「界磁マグネットを固定子として備え、環状をなしている無鉄心電機子巻線を配置した無鉄心偏平電機子を、円環状の界磁磁極と軸方向の空隙を介して面対向させた軸方向空隙型電動機。」


7.対比
本件特許発明と甲1発明を比較すると、甲1発明において、電動機の運転時には、固定子側に交播磁界が発生するように、N,Sの磁極を交互に複数個有することとなるように固定子の固定子巻線に電流を流すことは自明といえるから、甲1発明の「固定子巻線を固定子に備え」る態様は、本件特許発明の「N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁マグネットを固定子として備え」る態様とは、「N,Sの磁極を交互に複数個有する磁場発生部材を固定子として備え」るとの概念で共通する。
甲1発明の「重量的に不平衡を生ぜしめるとともに回転数に比例した周波数の振動を生ずる」態様は、本件特許発明の「偏心且つ振動して回転する」態様に相当しており、甲1発明の「回転子巻線」は本件特許発明の「電機子コイル」に相当している。
本件特許発明の「平面において円板状を形成しない」とは、本件の第2図のコアレス偏平電機子21の形状を参照すれば、「回転軸方向から平面視した際に円形状を形成しない」と解されるところであり、これについては被請求人も認めている(「第1回口頭審理調書」参照)。したがって、甲1発明の「回転軸方向から平面視した際に略扇形となるように切り欠ぎ部を形成した」「偏平の回転子」は、本件特許発明の「平面において円板状を形成しないように変形形成した」「偏平電機子」に相当している。
甲1発明の「径方向の空隙」と本件特許発明の「軸方向の空隙」とは、「所定方向の空隙」との概念で共通する。
甲1発明の「軸受に支承された回転軸に固着」した態様は、本件特許発明の「回動自在に支持」した態様に相当している。
甲1発明の「回転子鉄心の切り欠ぎ部以外の部分に配置され」ている態様と、本件特許発明の「環状を成し」ている態様とは、「所定の態様をなし」との概念で共通する。
甲1発明の「不平衡荷重効果を増大させるための部材」が本件特許発明の「錘」に相当しているから、甲1発明の「切り欠ぎ部と対称の位置に不平衡荷重効果を増大させるための部材が取り付けられている」態様と、本件特許発明の「複数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの環の内側に錘が入れられている」態様とは、「変形形成した偏平電機子の中心から離れた位置に錘が取り付けられている」との概念で共通する。
甲1発明の「振動発生用径方向空隙型電動機」と本件特許発明の「振動型軸方向空隙型電動機」とは、「振動型所定方向空隙型電動機」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「N,Sの磁極を交互に複数個有する磁場発生部材を固定子として備え、偏心且つ振動して回転するように複数の電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置することで平面において円板状を形成しないように変形形成した偏平電機子を上記磁場発生部材と所定方向の空隙を介して面対向し且つ回動自在に支持してあり、各電機子コイルは所定の態様をなしており、変形形成した偏平電機子の中心から離れた位置に錘が取り付けられている、振動型所定方向空隙型電動機。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
磁場発生部材に関し、本件特許発明では、「界磁マグネット」としているのに対し、甲1発明では、「固定子巻線」である点。
〔相違点2〕
所定の態様をなしている電機子コイルに関し、本件特許発明では、「コアレス」電機子コイルであって「環状を成して」いるのに対し、甲1発明では、「回転子鉄心に」回転子巻線が配置されているところから「有鉄心」電機子コイルと解されるとともに、形状は特定されていない点。
〔相違点3〕
偏平電機子に関し、本件特許発明では、「コアレス」偏平電機子としているのに対し、甲1発明では、「鉄心を有する」偏平電機子である点。
〔相違点4〕
空隙の存在する所定方向に関し、本件特許発明では、「軸」方向としているのに対し、甲1発明では、「径」方向である点。
〔相違点5〕
変形形成した偏平電機子の中心から離れた位置に錘が取り付けられている構成に関し、本件特許発明では「複数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの環の内側に」錘が「入れ」られているのに対し、甲1発明では「切り欠ぎ部と対称の位置に」錘が「取り付け」られている点。


8.判断
上記〔相違点1〕ないし〔相違点4〕について以下検討する。
甲3発明は、界磁マグネットを固定子として備え、環状をなしているコアレス電機子コイル(「無鉄心電機子巻線」が相当、以下同様)を配置したコアレス偏平電機子(「無鉄心偏平電機子」)を上記界磁マグネットと軸方向の空隙を介して面対向させた構成からなる軸方向空隙型電動機である。
また、一般に、電動機の磁場発生部材として、「マグネット」と「コイル」の2つのタイプが存在すること、電動機の電機子コイルとして、「コアレス」型と「コア(有鉄心)」型の2つのタイプが存在すること、さらに、電動機の空隙のタイプに、軸方向空隙型と径方向空隙型の2つのタイプが存在することは、電動機の技術分野において技術常識といえるところであり、これら電動機を構成する要素の各タイプのうちの何れを採用するかは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る事項にすぎない。
ところで、甲1発明は回転子に切り欠ぎ部を設けると共に、切り欠ぎ部と対称の位置に不平衡荷重効果を増大させるための部材を取り付け、回転子自体を不平衡にして振動を発生させていることで、従来設けていた振動発生のための不平衡重りを省略するという課題及びその解決手段において本件発明と軌を一にするものである。
そうすると、甲1発明において、上記課題及び解決手段の下に、電動機を構成する要素のタイプとして、〔相違点1〕ないし〔相違点4〕に係る構成を全て兼ね備えている甲3発明の上記構成のものに改変することで、〔相違点1〕ないし〔相違点4〕に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきであり、かかる採用を阻害する要因も何等認められない。
なお、〔相違点1〕ないし〔相違点4〕に係る構成が容易想到であるとした点については、先の訴訟(平成21年(行ケ)第10265号)においても、両当事者に争いはない。

〔相違点5〕について
相違点5に対する判断に関し、平成21年(行ケ)第10265号判決において次のような判示がなされている。
『2 相違点5の構成の容易想到性に関する判断
(1)刊行物1の第4図によれば,切り欠ぎ部と対称の位置にあり電機子の軸方向における両側面に他の部材7(錘)を取り付けることが開示されているのみであり,環状のコアレス電機子コイルの内側に錘を入れることについては記載も示唆もないし,コイルの内側に錘を配置することが本件発明を含む軸方向空隙型電動機の技術分野で周知の技術的事項であると認めるに足りる証拠はない。また,径方向空隙型電動機である甲1発明から軸方向空隙型電動機である本件発明を想到するに当たって,甲1発明において径方向空隙型を軸方向空隙型に変更したことに伴い,甲1発明における錘の配置位置を軸方向から径方向に変更した場合は,電機子の軸方向の側面に代えて電機子の径方向の側面に錘を配置することとなり,これは電機子の外周に錘を設けることとなるから,当業者において電機子コイルの環の内側に錘を入れることを想到させるものではない。
さらに,前記刊行物2の記載によれば,軸方向空隙型電動機である甲3発明において,その電機子に対して厚みのある部材を付加することは排除されるべき技術的事項であって,たとえ甲1発明に不平衡荷重効果を増大させるための部材を取り付けることが開示されているとしても,不平衡荷重効果を増大させるような部材は,一般に密度が高く所定の厚みを有するものであるし,また,電機子巻線の近傍にこのような部材を配置することは,従来行われてきた加圧成形等の妨げにもなり得る。したがって,甲1発明の電動機の各構成要素を,軸方向空隙型電動機である甲3発明の構成のものに改変したものにおいて,電機子に錘となる部材を取り付けることを想到することは困難であるというべきである。
(2)被告は,甲3発明の電機子コイルでは,電機子コイルの外周部分とコイルの環の内側に空間があるから,その空間に錘を取り付けることは容易に想到し得ると主張する。
しかし,被告の主張は失当である。すなわち,前記刊行物2の記載によれば,第7図(b),第17図(b)及び第20図(b)において複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置されているところ,かかるコイルを重ねて偏らせて配置した場合には,環状の電機子コイルの環の内側に他のコイルの半径方向の部分が位置することとなる。電機子コイルの環の内側に空間が存在するとしても,その空間は平面視で他のコイルの半径方向の部分で狭められたり区切られたりすることとなるので,かかる空間に不平衡荷重の効果を増大するための質量の大きい部材を配置することは容易には想到し得ないというべきである。被告の主張は理由がない。
(3)したがって,甲1発明の電動機の各構成要素を,軸方向空隙型電動機である甲3発明の構成のものに改変した場合において,不平衡荷重効果を増大するための手段として,複数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの環の内側に錘が入れられている構成を採用することは,前記のとおりコアレス電機子コイルの内側に錘を取り付けることについて刊行物1に記載も示唆もなく,また本願の出願時において周知の技術的事項であるとも認められない以上,当業者において容易に想到し得るものということはできない。審決の相違点5に対する容易想到性の判断は誤りである。』

相違点5は上記判示事項で検討されている点と同一であるから、相違点5に関する判断は、上記判示事項に拘束されるものである。
そうすると、本件特許発明は、甲1発明及び甲3発明に基づいて当業者が容易に考えることができたものとはいえない。


9.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては本件特許発明を無効にすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(参考)平成21年7月28日付け審決(第二次審決)

審決

無効2008-800154

東京都墨田区両国3?19?3
請求人 レキシンジャパン 株式会社

東京都新宿区市谷船河原町11番地 飯田橋レインボービル6階
代理人弁護士 佐藤 治隆

東京都千代田区丸の内2-2-2 丸の内三井ビル シティユーワ法律事務所
代理人弁理士 鷹見 雅和

東京都千代田区麹町4丁目5番地 橘ビル2階 古澤特許事務所
代理人弁理士 古澤 俊明

神奈川県大和市下鶴間3854番地1
被請求人 シコー株式会社

東京都目黒区東山1-16-15 イーストヒル4階 佐野特許事務所
代理人弁理士 佐野 惣一郎

群馬県伊勢崎市日乃出町236番地
被請求人 東京パーツ工業 株式会社

東京都目黒区東山1-16-15 イーストヒル4階 佐野特許事務所
代理人弁理士 佐野 惣一郎


上記当事者間の特許第2134716号「振動型軸方向空隙型電動機」の特許無効審判事件についてされた平成20年12月24日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決の取消しの決定(平成21年(行ケ)第10017号、平成21年3月3日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。

結 論
訂正を認める。
特許第2134716号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。

理 由
1.手続の経緯
(1)本件特許第2134716号の特許請求に範囲に記載された発明についての出願は、昭和62年5月21日に出願され、平成10年2月6日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。

(2)これに対し、請求人は、平成20年8月18日に特許請求の範囲に記載された発明の特許について無効審判を請求し、平成20年12月24日付けで、特許を無効とする審決がなされたところ、平成21年1月23日に該審決に対する訴えが提起され、同年2月20日に訂正審判(訂正2009-390018号、その後特許法第134条の3第4項の規定により取り下げ。)が請求され、知的財産高等裁判所において、特許法第181条第2項の規定による審決の取消しの決定(平成21年(行ケ)第10017号、平成21年3月3日決定)がなされ確定した。

(3)審理再開にあたり、平成21年3月13日付けで、被請求人に対し、特許法第134条の3第2項に規定する訂正を請求するための期間を指定する通知をしたが、指定された期間内に訂正の請求がされなかったため、同法同条第5項の規定により、上記訂正審判の請求書に添付された訂正した明細書を援用した訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求がされたものとみなすこととなった。

2.本件訂正の可否に対する判断
(1)訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである。なお、本件特許の明細書を、以下、「特許明細書」という。

・訂正事項1
特許明細書の請求項1に、
「且つ回動自在に支持した、振動形軸方向空隙形電動機。」
とあるのを、
「且つ回動自在に支持してあり、各電機子コイルは環状を成しており、複数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの環の内側に錘が入れられている、振動形軸方向空隙形電動機。」と訂正する。

・訂正事項2
特許明細書の請求項2から請求項10を削除する。

(2)訂正に関する当審の判断
上記訂正事項1及び2の訂正の可否について検討する。

訂正事項1は、「各電機子コイル」について「各電機子コイルは環状を成しており、複数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの環の内側に錘が入れられている」との限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としている。
また、図7及び図8の記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当しない。
そして、「回転軸に旋回板を取り付けることなく振動する振動形軸方向空隙形電動機を安価且つ軸方向に厚みが薄く小型軽量に構成できるようにする」という発明の目的に変更を及ぼすものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項2は、請求項2から請求項10を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当しないものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(3)訂正についてのまとめ
したがって、本件訂正は、平成6年改正前の特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合し、かつ、同条第5項の規定によって準用する同法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.請求人の主張する無効理由
請求人は、特許請求の範囲に記載された発明についての特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、特許請求の範囲に記載された発明は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物(甲第1号証ないし甲第3号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許請求の範囲に記載された発明についての特許は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきものである旨主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第5号証を提出している。

(証拠方法)
甲第1号証:実願昭47-43639号(実開昭49-4108号)のマイクロフィルム
甲第2号証:特開昭50-100510号公報
甲第3号証:特開昭55-122467号公報
甲第4号証:「JIS用語辞典 電機編」,財団法人日本規格協会,昭和49年9月5日,p.655
甲第5号証:「新版電気術語事典」,株式会社オーム社,昭和51年12月20日,p.236
(根拠条文及び甲第1号証については、平成20年12月18日に実施された口頭審理の「第1回口頭審理調書」参照。)

4.無効理由に対する被請求人の主張
一方、被請求人は、特許請求の範囲に記載された発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に想到できるようなものではないから、特許法第29条第2項の規定に該当しないので、本件無効審判の請求は、成り立たない旨主張している。

5.無効理由に関する当審の判断
(1)訂正後の請求項1に係る発明
訂正後の請求項1に係る発明は、訂正された特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁マグネットを固定子として備え,偏心且つ振動して回転するように複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置することで平面において円板状を形成しないように変形形成したコアレス偏平電機子を上記界磁マグネットと軸方向の空隙を介して面対向し且つ回動自在に支持してあり、各電機子コイルは環状を成しており、複数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの環の内側に錘が入れられている、振動型軸方向空隙型電動機。」(以下、「本件発明」という。)

(2)甲号証
(2-1)甲第1号証
甲第1号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「第1図に従来の振動発生用電動機の構成を説明する。・・・不平衡重りを3aのように軸受5の内側に配置した場合は,軸受間隔が長くなり,電動機の軸方向長さが長く,自重も大きくなる。また不平衡重りを3bのように軸受5の外側に配置する場合は,軸受ハウジングの外側で不平衡重りが回転するために安全カバー6をもうける必要があり,電動機全体の寸法が大きく自重も大きくなる。」(明細書1頁15行?2頁8行)

・「本考案は自重を小さくし,また寸法もきわめて小さくして振動力を有効に利用し,せまいスペース内でも使用しうるようにしたもので,以下,本発明の構成を図面を参照しながら説明する。
第2図および第3図において,1は回転軸,2は回転子,21は回転子鉄心,22は回転子巻線,23は回転子鉄心21に設けた切り欠ぎ部,4は固定子,5は軸受である。
軸受5に支承された回転軸1に回転子2を固着し,この回転子2の積層鉄心21の一部に,軸心線に対し,非対称の切り欠ぎ部23を設けてある。したがって,固定子4を励磁することにより,回転子2が回転するが,この回転子鉄心21は切り欠ぎ部23によって不平衡になっているから,不平衡な遠心力によりその回転数に比例した周波数の振動を生ずる。」(明細書2頁13行?3頁8行)

・「第4図の実施例は,積層板の切り欠ぎ部23を打ち抜いた残屑あるいは他の部材7を,切り欠ぎ部23と対称の位置に取りつけるようにしたもので,不平衡荷重効果を増大させることができ,とくに小形の回転子に大きな振動力を生じさせ,取付位置によって振動力調整を行うようにすることもできる。
第5図に示す実施例は,回転子巻線22を含めて回転子外周に開口する切り欠ぎ部23を形成したもので,重量的に不平衡を生ぜしめるとともに鉄心を切り欠いだ部分の磁気的吸引力が小さくなり,振動が助長される。」(明細書3頁18行?4頁9行)

・「不平衡荷重が回転子鉄心部分以外の空間を占めることがないので,従来の不平衡重りを回転子とは別に回転軸に取りつけてある構造のものよりも,電動機全体の寸法を小さく,自重も小さくすることができるとともに,構造を簡単ならしめ」(明細書4頁14行?19行)

また、第2図には、界磁コイルを固定子4に備え、偏平の回転子2が界磁コイルと径方向の空隙を介して面対向している径方向空隙型電動機の構成が、第5図には、回転子鉄心21に複数の回転子巻線22を回転中心を基準に片寄らせて配置することで、回転軸方向から平面視した際に略扇形となるように切り欠ぎ部23を形成した鉄心に複数の回転子巻線を配置した回転子の構成が、それぞれ示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「界磁コイルを固定子に備え、重量的に不平衡を生ぜしめるとともに回転数に比例した周波数の振動を生ずるように回転子鉄心に複数の回転子巻線を回転中心を基準に片寄らせて配置することで回転軸方向から平面視した際に略扇形となるように切り欠ぎ部を形成した鉄心を有する偏平の回転子を上記界磁コイルと径方向の空隙を介して面対向し且つ軸受に支承された回転軸に固着してあり、各回転子巻線は回転子鉄心の切り欠ぎ部以外の部分に配置されており、切り欠ぎ部と対称の位置に不平衡荷重効果を増大させるための部材が取り付けられている、振動発生用径方向空隙型電動機。」

(2-2)甲第3号証
甲第3号証には、図面と共に次の事項が記載されている。

・「第1図は、円板状の電機子を設けた整流子電動機の構成の説明図である。」(公報2頁左下欄1行?2行)

・「筐体3にはN,S磁極が回転軸方向に磁化された円環状の界磁磁極6が貼着して固定されている。回転軸1には一体にモールドされた電機子7及び整流子8が固定されている。電機子7は筐体2と界磁磁極6との空隙磁界内に介在するように構成されている。」(公報2頁左下欄8行?13行)

・「第1図示の界磁磁極6に相当するものは、第2図示より第6図示においては、第7図(a)に示すように90度の開角でN,S極に回転軸方向に磁化された磁極12-1、12-2、12-3、12-4よりなる界磁磁極12であり、」(公報2頁左下欄18行?右下欄3行)

・「電気子13は、電機子巻線13-3、13-4、13-5、13-6が第7図(b)に示すように配設され、一体にモールドされて構成している。即ち、電機子巻線13-3と13-4、13-4と13-5、13-5と13-6はそれぞれ約51.4度の開角(磁極幅の4/7)で、電機子巻線13-6と13-3は約205.7度の開角(磁極幅の16/7)で一部分が重畳して配設されている。」(公報2頁右下欄16行?3頁左上欄4行)

・「電機子17は、電機子巻線17-1、17-2、17-4、17-5、17-7、17-8が第7図(c)に示すように配設され、一体にモールドされて構成している。即ち、電機子巻線17-1、17-4、17-7は円板状電機子の上面にそれぞれ120度の開角(磁極幅の4/3)の等しいピッチで並設されている。」(公報3頁左下欄6行?12行)

・「電機子19は、電機子巻線19-2、19-5、19-8が第7図(d)に示すように配設され、一体にモールドされて構成している。即ち、各電機子巻線はそれぞれ120度の開角(磁極幅の4/3)の等しいピッチで重畳せずに配設されて構成している。」(公報4頁左上欄19行?右上欄4行)

・「上述した全ての実施例は、円板状の無鉄心電機子を設けた整流子電動機に本発明を適用したものである」(公報14頁左下欄3行?5行)

また、第1図には、偏平電機子を、固定子である界磁磁極と軸方向の空隙を介して面対向させた電動機が、第7図(a)には円環状の界磁磁極である界磁マグネットが、第7図(b)?(f)には環状をなしている無鉄心電機子巻線を配置した無鉄心電機子が、それぞれ示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「界磁マグネットを固定子として備え、環状をなしている無鉄心電機子巻線を配置した無鉄心偏平電機子を、円環状の界磁磁極と軸方向の空隙を介して面対向させた軸方向空隙型電動機。」

(3)対比
本件発明と甲1発明とを対比すると、後者において電動機の運転時には、N,Sの磁極を交互に複数個有することとなるように固定子の界磁コイルに電流を流すことは自明といえるから、後者の「界磁コイルを固定子に備え」る態様と前者の「N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁マグネットを固定子として備え」る態様とは、「N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁発生部材を固定子として備え」るとの概念で共通する。
また、後者の「重量的に不平衡を生ぜしめるとともに回転数に比例した周波数の振動を生ずる」態様は、前者の「偏心且つ振動して回転する」態様に相当しており、後者の「回転子巻線」は前者の「電機子コイル」に相当している。
次に、前者の「平面において円板状を形成しない」とは、本件の第2図のコアレス偏平電機子21の形状を参照すれば、「回転軸方向から平面視した際に円形状を形成しない」と解されるところであり、これについては被請求人も認めている(「第1回口頭審理調書」参照)。したがって、後者の「回転軸方向から平面視した際に略扇形となるように切り欠ぎ部を形成した」「偏平の回転子」は前者の「平面において円板状を形成しないように変形形成した」「偏平電機子」に相当している。
続いて、後者の「径方向の空隙」と前者の「軸方向の空隙」とは、「所定方向の空隙」との概念で共通する。
加えて、後者の「軸受に支承された回転軸に固着」した態様は前者の「回動自在に支持」した態様に相当している。
また、後者の「回転子鉄心の切り欠ぎ部以外の部分に配置され」ている態様と、前者の「環状を成し」ている態様とは、「所定の態様をなし」との概念で共通する。
そして、後者の「不平衡荷重効果を増大させるための部材」が前者の「錘」に相当しているから、後者の「切り欠ぎ部と対称の位置に不平衡荷重効果を増大させるための部材が取り付けられている」態様と前者の「複数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの環の内側に錘が入れられている」態様とは、「変形形成した偏平電機子の中心から離れた位置に錘が取り付けられている」との概念で共通する。
さらに、後者の「振動発生用径方向空隙型電動機」と前者の「振動型軸方向空隙型電動機」とは、「振動型所定方向空隙型電動機」との概念で共通する。

したがって、両者は、
「N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁発生部材を固定子として備え、偏心且つ振動して回転するように複数の電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置することで平面において円板状を形成しないように変形形成した偏平電機子を上記界磁発生部材と所定方向の空隙を介して面対向し且つ回動自在に支持してあり、各電機子コイルは所定の態様をなしており、変形形成した偏平電機子の中心から離れた位置に錘が取り付けられている、振動型所定方向空隙型電動機。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
界磁発生部材に関し、本件発明では、「界磁マグネット」としているのに対し、甲1発明では、「界磁コイル」である点。
[相違点2]
所定の態様をなしている電機子コイルに関し、本件発明では、「コアレス」電機子コイルであって「環状を成して」いるのに対し、甲1発明では、「回転子鉄心に」回転子巻線が配置されているところから「有鉄心」電機子コイルと解されるとともに、形状は特定されていない点。
[相違点3]
偏平電機子に関し、本件発明では、「コアレス」偏平電機子としているのに対し、甲1発明では、「鉄心を有する」偏平電機子である点。
[相違点4]
空隙の存在する所定方向に関し、本件発明では、「軸」方向としているのに対し、甲1発明では、「径」方向である点。
[相違点5]
変形形成した偏平電機子の中心から離れた位置に錘が取り付けられている構成に関し、本件発明では「複数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの環の内側に」錘が「入れ」られているのに対し、甲1発明では「切り欠ぎ部と対称の位置に」錘が「取り付け」られている点。

(4)判断
上記相違点について以下検討する。
甲3発明は、界磁マグネットを固定子として備え、環状をなしているコアレス電機子コイル(「無鉄心電機子巻線」が相当、以下同様)を配置したコアレス偏平電機子(「無鉄心偏平電機子」)を上記界磁マグネットと軸方向の空隙を介して面対向させた構成からなる軸方向空隙型電動機である。
また一般に、電動機の界磁発生部材として、「界磁マグネット」と「界磁コイル」の2つのタイプが存在すること、電動機の電機子コイルとして、「コアレス」型と「コア(有鉄心)」型の2つのタイプが存在すること、さらに、電動機の空隙のタイプに、軸方向空隙型と径方向空隙型の2つのタイプが存在することは、電動機の技術分野において技術常識といえるところであり、これら電動機を構成する要素の各タイプのうちの何れを採用するかは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る事項にすぎない。

ところで、甲1発明は回転子に切り欠ぎ部を設けると共に、切り欠ぎ部と対称の位置に不平衡荷重効果を増大させるための部材を取り付け、回転子自体を不平衡にして振動を発生させていることで、従来設けていた振動発生のための不平衡重りを省略するという課題及びその解決手段において本件発明と軌を一にするものである。
そうすると、甲1発明において、上記課題及び解決手段の下に、電動機を構成する要素のタイプとして、相違点1ないし4に係る構成を全て兼ね備えている甲3発明の上記構成のものに改変することで、相違点1ないし4に係る本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものというべきであり、かかる採用を阻害する要因も何等認められない。

また、上記改変に伴い、錘を取り付ける位置は必然的に電機子コイルの近傍となるから、当該電機子コイルの近傍から具体的な位置を選択することは、当業者が適宜行う任意選択事項と認められ、電動機の形状を大きくすることなく配置することのできる位置として、コイル環の内側の空間を利用することは当業者の通常の創作能力のもとに為し得ることといえる。そこで、「複数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの環の内側に」錘が「入れ」られている位置を選択し、相違点5に係る本件発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たものというべきである。

そして、本件発明の全体構成により奏される効果も、甲1発明及び甲3発明から当業者が予測し得る範囲内のものである。

なお、被請求人は、平成20年12月18日に実施した口頭審理において、「甲1発明の電動機のタイプを、甲3発明のタイプに置き換えることは想定できない。その根拠は、コイルやマグネットの配置及びトルクの大きさが違うからである。」と主張している。
しかしながら、電動機のタイプは、上述したように限られた数のものしか存在せず、これらのタイプのうち何れを採用するべきかは当業者が必要に応じて適宜選択し得る事項といわざるを得ない。そして、電動機のタイプが異なれば、電動機を構成する部材の配置が異なるのは当然のことである。
一方、トルクの大きさは電動機のタイプによって決まるものではなく電動機の仕様によって決まるものであるが、甲1発明の電動機のタイプを甲3発明のタイプに置き換える際に、振動発生用電動機としての必要なトルクが得られる仕様とすることは当業者であれば当然に考慮すべき事項である。
したがって、コイルやマグネットの配置及びトルクの大きさが違うからという理由で、電動機のタイプを置き換えることは想定できないとする、被請求人の上記主張を採用することはできない。

また、同じく口頭審理において、本件発明には鉄心がない点が最重要ポイントであり、当業者からしてみれば出願時の技術水準でコアレス偏平電機子に切欠きを形成しても十分な振動が得られない旨主張している。
しかし、本件発明において振動を発生させるための本質的構成は、電機子を不平衡にすることであり、鉄心が無くとも振動することは当業者に明らかであって、出願時の技術水準を引合いに出すまでもない。そして、本件発明では振動レベルについて何等特定しておらず、また、「十分な振動」とするための格別の構成を備えているともいえない。
したがって、被請求人の上記主張は、本件発明の容易想到性の判断に実質的な影響を及ぼすものではない。

更に、被請求人は答弁書の「(3)効果について」において、本件発明について次のような効果を主張している。
・同じ外径寸法の偏平型の電動機で比較すると、径方向空隙型の振動電動機より軸方向空隙型の振動電動機の方が回転子半径が大きい。
・本件発明は鉄心を持たないから小型・軽量化ができ、回転子に対して固定子(マグネット)の磁気吸着力が作用せず、回転子の鉄損がない。
しかし、これらの効果はいずれも、有鉄心径方向空隙型電動機とコアレス軸方向空隙型電動機とを比較した場合に、コアレス軸方向空隙型電動機が奏する一般的な効果であり、甲3発明の電動機も同様の効果を奏するから、被請求人の当該主張を考慮しても、当業者が本件発明に容易に想到できなかったとはいえない。

したがって、本件発明は、甲1発明及び甲3発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというべきであるから、請求人の主張する無効理由には理由がある。

6.むすび
以上のとおりであって、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。

平成21年 7月28日

審判長 特許庁審判官 大河原 裕
特許庁審判官 小川 恭司
特許庁審判官 田良島 潔

(行政事件訴訟法第46条に基づく教示)
の審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。

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〔審決分類〕P1113.121-ZA (H02K)
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
振動型軸方向空隙型電動機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁マグネットを固定子として備え,偏心且つ振動して回転するように複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置することで平面において円板状を形成しないように変形形成したコアレス偏平電機子を上記界磁マグネットと軸方向の空隙を介して面対向し且つ回動自在に支持してあり、各電機子コイルは環状を成しており、複数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの環の内側に錘が入れられている、振動型軸方向空隙型電動機。
【発明の詳細な説明】
[発明の産業上の利用分野]
本発明は視聴覚障害者用の信号受信器において,所定の信号を伝達する目的や,軽いバイブレータを人体等に与えることができマッサージ効果あるいは軽い振動を必要とするマッサージ装置,または無線電話呼び出し装置(ページャ。商標名としてはポケットベルが知られている)等に内蔵され,駆動することで上記ページャ等に振動を与え,その振動を人体等に与えることで,当該ページャ等が作動していることを知らせる目的等に使用できる装置等,振動を起こさせることができる振動型軸方向空隙型(直流)電動機に関し,特に電機子コイルが2相分しか無く,この2相分の電機子コイルを3相構造に構成した電動機に用いてより有用なものである。
【従来技術とその問題点】
振動を人体に伝える目的の装置としては,マッサージ機,視聴覚障害者用の信号受信器等種々のものが知られている。
本発明の振動型軸方向空隙型電動機は,上記装置に用いて有用なものであるが,例えば,ページャについて以下に示すと,従来では下記の欠点があった。
昨今の情報化社会においてページャは,ビジネスマンに多用され,その販売台数も増加している。
ここに,ページャは,場所を問わず大きな音を発して鳴りだし,その音は周囲の人に迷惑をかけたり,あるいはその音はページャを持つ人の精神面にも良くない影響を与えるに至っている。
このような現状下おいて,昨今では音を出す変わりにページャに振動を起こさせることにより,電話の呼び出しを伝えることができるようにする試みがなされている。
ページャに振動を起こさせる手段としては,種々のものが考えられるが,小型のページャに振動を与えるには,安価な小型直流モータが有望視されている。特に直流モータは,安価であり,また小型でありながら効率良好で,高速回転に適することから尚更である。
ここに従来の,ページャ5等に用いられている軸方向空隙型電動機4としては,例えば第10図及び第11図に示すように偏平な軸方向空隙型電動機1の回転軸2に旋回板3を取り付けた構造となっている。
このように軸方向空隙型電動機1の回転軸2に旋回板3を取り付けて構成した振動型軸方向空隙型電動機4をページャ5に内蔵し,これを駆動すればページャ5が振動することになる。
第12図は,軸方向に偏平な振動型軸方向空隙型電動機4に用いた軸方向空隙型電動機1の縦断面図で,6,7は磁性体でできたモータケーシングで,モータケーシング6,7はステータヨークを兼ねている。
モータケーシング6,7の中心部には軸受8,9が装着され,該軸受8,9によって回転子を構成するコアレス偏平電機子10の回転軸2が回動自在に支持されている。
コアレス偏平電機子10は,例えば,効率良好な3相の軸方向空隙型直流電動機1とするために,第13図に示すように3個の空心型の電機子コイル12-1,12-2,12-3を120度の等間隔ピッチで互いに重ならないようにその外周部をプラスチック23でモールドして一体化して円板状に形成している。
電機子コイル12-1,・・・,12-3は,半径方向の有効導体部12a,12a′が発生トルクに寄与し,周方向の導体部12b,12cは発生トルクに寄与しないものとなっている。
また各電機子コイル12-1,・・・,12-3は,効率良好な電動機1を形成するために,有効導体部12aと12a′との開角を,後記にて第15図で示す界磁マグネット14(4極となっている)の一磁極の幅と等しい幅,すなわち90度の扇枠状のものに形成している。
コアレス偏平電機子10の下面部には,回転軸2と同心状に整流子片11-1,・・・,11-6群から成る整流子11が設けられている。整流子11については,後記する。
整流子11と同心状に,コアレス偏平電機子10の下面には,第14図に示すようにプリント配電板13が配設され,電機子コイル12-1,・・・,12-3と整流子11がプリント配電板13を介して究極的に第17図乃至第20図に示すように電気的な結線がなされている。第17図及び第18図の場合は,Y型結線で,第19図及び第20図の場合は,Δ結線となっている。
コアレス偏平電機子10と軸方向の空隙37を介して対向するモータハウジング7面には,第15図に示すようにN極,S極の磁極を交互に90度の開角で有するフラットな円環状の界磁マグネット(界磁)14が固定されている。
界磁マグネット14の内面には,プラスチックで形成された円環状のブラシホルダ15によって支持された2個のブラシ16,17が第16図に示すように90度の開角で摺接している。
コアレス偏平電機子10は,第13図,第14図,第17図乃至第20図から明らかなように3個の電機子コイル12-1,・・・,12-3を120度のピッチで配設し,第15図に示す4極のフラットで円環状をなしている界磁マグネット14と第16図に示すように軸方向の空隙37を介して面対向している。界磁マグネット14は,第15図から明らかなように,90度の開角幅でN極,S極の磁極が交互に4極に着磁されたものとなっている。
第17図は界磁マグネット14とY型結線した場合におけるコアレス電機子コイル12-1,・・・,12-3との展開図で,第18図は,3個の電機子コイル12-1,・・・,12-3群と6個の整流子片11-1,・・・,11-6群からなる整流子11とをY型結線した場合の結線図で,第19図は界磁マグネット14とΔ結線した場合におけるコアレス偏平電機子10との展開図を示し,第20図は3個の電機子コイル12-1,・・・,12-3と6個の整流子片11-1,・・・,11-6からなる整流子11とをΔ結線した場合の結線図を示す。
第17図及び第18図を参照して,電機子コイル12-1,・・・,12-3は,それぞれの一方の有効導体部12aの端子を整流子片11-1,11-3,11-5に接続し,他方の端子はそれぞれ共通接続し,整流子片11-1と11-4を,11-2と11-5を,11-3と11-6を電気的に結線している。
第17図を参照して,ブラシ16と17及び電気子コイル12-1,・・・,12-3は,整流子片11-1,・・・,11-6が60度のピッチで等間隔に形成しているので,上記電機子コイル12-1,・・・,12-3に電気角で180度ずつ正逆方向の電流を流すことができるように当該2個のブラシ16,17を互いに電気角で180度(機械角90度)をずらして摺動接触させている。
ブラシ16,17は,それぞれ図示しない駆動回路の正側電源端子18,負側電源端子19に接続している。
第19図及び第20図は,Δ結線を示すもので,電機子コイル12-1,・・・,12-3の一方の有効導体部12bの端子は,それぞれ整流子片11-1,11-3,11-5に接続し,他方の端子は,それぞれ整流子片11-2,11-4,11-6に接続している。
また電機子コイル12-1の他方の有効導体部12bと電機子コイル12-3の一方の有効導体部12aとを電気的に結線し,電機子コイル12-2の一方の有効導体部12aと電機子コイル12-3の他方の有効導体部12bとを電気的に結線し,電機子コイル12-1の一方の有効導体部12aと電機子コイル12-2の他方の有効導体部12bとを電気的に結線している。
従って,ブラシ16,17及び整流子11を介して電機子コイル12-1,・・・,12-3群に通電すると,ブラシ16,17と接触摺動しつつ,整流子11が回転すると,例えば,第17図及び第19図の状態では,電機子コイル12-2,12-3に矢印方向の電流を流すことができ,記号fの大きさの回転トルクを得て,矢印F方向に電機子コイル12-1,・・・,12-3群からなるコアレス偏平電機子10を回転させることになる。
従って,このような振動型軸方向空隙型電動機4を有するページャ5を身に付けていれば,ページャ5が振動して,当該ページャ5の振動で,電話の呼び出しがあったことを知ることができる。
上記ページャ5に採用されている軸方向空隙型電動機1は,確かに有用なものであるが,これを単に,旋回板3を取り付けてページャ5用に用いるとなると,回転軸2に旋回板3を取り付けなければならないことから,量産面において優れず,ページャ5を高価にする欠点があるほか,また旋回板3があるため,当該電動機1が軸方向に長くなり,ページャ5のより一層の小型化・かつコストダウン化に支障があるものとなっていた。
[発明の課題]
本発明は,従来の欠点を解消するためになされたもので,回転軸に旋回板を取り付けることなく振動するページャ等に適する振動型軸方向空隙型電動機を安価且つ軸方向に厚みが薄く小型軽量に構成できるようにすることを課題としてなされたものである。
[発明の課題達成手段]
かかる発明の課題は,N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁マグネットを固定子として備え,偏心且つ振動して回転するように複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置することで平面において円板状を形成しないように変形形成したコアレス偏平電機子を上記界磁マグネットと軸方向の空隙を介して面対向し且つ回動自在に支持した振動型軸方向空隙型電動機を提供することで達成できる。
また別の課題は,上記コアレス偏平電機子を,コアレス電機子コイル群を等間隔に有する円板状に形成されたコアレス偏平電機子の所定箇所の電機子コイルを1以上削除することで平面において円板状を形成しないように変形形成することで達成できる。
また別の課題は,上記界磁マグネットを,N,Sの磁極を交互に4個備え,上記コアレス偏平電機子を3個のコアレス電機子コイル群を等間隔に有するコアレス偏平電機子の所定箇所のコアレス電機子コイルを1個削除して2個の電機子コイルにて形成することで達成できる。
また別の課題は,上記コアレス偏平電機子を,3n(nは1以上の整数)個の整流子片を有する整流子と,この整流子にほぼ界磁マグネットの一磁極の幅のm(mは1以上の奇数)倍の開角で配設された2個のそれぞれ正側電源端子,負側電源端子に接続されたブラシを備ることで達成できる。
また別の課題は,上記コアレス偏平電機子を,6個の整流子片を有し,この6個の整流子片と上記2個の電機子コイルとをY型状結線し,残りの削除した電機子コイルの端子が接続されるべき整流子片と上記2個の電機子コイルのそれぞれの一端を共通接続した接続点とをショートすることで達成できる。
また別の課題は,上記複数個の電機子コイルの少なくとも1個の電機子コイルの中に,錘が入れて,プラスチック等により一体化してコアレス偏平電機子を形成することで達成できる。
また別の課題は,上記電機子コイルが2個ある場合に,そのうちの何れか1個のみの電機子コイルの中に錘を配設することで達成できる。
また別の課題は,上記コアレス偏平電機子の外周部に錘を配設することで達成できる。また別の課題は,上記錘を,電機子コイルの比重よりも重い材質で形成し,コアレス電機子コイル群を上記電機子コイルより比重の軽い材質を用いてコアレス偏平電機子を円板状に形成することで達成できる。
更にまた別の課題は,上記比重の軽い材質を,プラスチックとし,該プラスチックのモールドにより電機子コイル群を有するコアレス偏平電機子を平板状に形成することで達成できる。
その他の目的は以下の説明で明らかにする。
[発明の実施例]
以下本発明の実施例である,N,Sの磁極を交互に複数個有する界磁マグネットを固定子として備え,偏心且つ振動して回転するように複数のコアレス電機子コイルを回転中心を基準に片寄らせて配置することで平面において円板状を形成しないように変形形成したコアレス偏平電機子を上記界磁マグネットと軸方向の空隙を介して面対向し且つ回動自在に支持した振動型軸方向空隙型電動機について説明するが,カードタイプのページャに用いる振動型軸方向空隙型電動機の場合,厚みが3mm程度以下で,外径が20mm以下のものに形成することが望ましいので,用いる電機子コイルの数は2乃至3個で,効率の良い2乃至3相通電構造とすることが望ましい。そこで,以下に示す実施例では,従来の3相通電構造の軸方向空隙型電動機1を僅かに変えるだけの構造で得られる振動型軸方向空隙型電動機について説明する。
[発明の第1実施例]
第1図乃至第6図を参照して,本発明の第1実施例としての振動型軸方向空隙型電動機について説明する。
第1図は,軸方向に偏平な振動型軸方向空隙型電動機20の縦断面図で,第12図と同一部材には,同一符号を用いて,その説明を省略する。第2図は,第1図のものを具体化した振動型軸方向空隙型電動機20の分解斜視図で,第1図及び第2図に示す振動型軸方向空隙型電動機20と,第10図乃至第12図の振動型軸方向空隙型電動機4とが異なるのは,主に電動機20では旋回板3を不要にできる点と,この構造の電動機20では,旋回板3を取り付ける必要が無いことから,回転軸2′を電動機20の上方に突出させなくて良いので,その分だけ軸方向に短い振動型軸方向空隙型(直流)電動機20を形成できること及び電機子コイル12-3がなく且つ電機子コイル12-3のプラスチックモールド部をも削除してコアレス偏平電機子21そのものが平面において円板状を形成しないように変形形成して偏心する形状に構成しているので,コアレス偏平電機子21が軽くなると共に偏心振動し易くなる等の点において,電動機20の外観上において差異が見られる。その他については,以下に詳細に説明していく。
この電動機20では,軸受8,9によって,コアレス偏平電機子21が回動自在に支持されているが,このコアレス偏平電機子21が上記コアレス偏平電機子10と異なるのは,主にコアレス偏平電機子10の電機子コイル12-3の1個分をそのまま削除して,電機子コイル12-3が存在していた部分を切欠部にしている点と回転軸2′が電動機20の上方に突出させなくても済むため,回転軸2よりも長さが短くなっている点である。
尚,このままでも良いが,本発明の第1実施例では,このコアレス偏平電機子21を比重が軽いプラスチック23等によってモールドされた電機子コイル12-1と12-2との間の部分に,比重の重い非磁性体,例えば鉛,タングステン等で形成した偏心用金属錘24を設けている。
尚,この偏心用金属錘24をコアレス偏平電機子21に配設するに当たっては,電機子コイル12-1,12-2をプラスチック23で平板状にモールドする際に同時に一体化するのが好ましい。ここで,プラスチック23は,電機子コイル12-1,12-2よりも比重が軽い材質のものを選択することが好ましく,また偏心用金属錘24は,電機子コイル12-1,12-2よりも比重の重い金属,例えばタングステンを用いると好ましい結果が得られる。
尚,第2図において,符号25,26は,それぞれ正側電源端子18,負側電源端子19に接続されたリード線を示す。
このように形成したコアレス偏平電機子21を有する振動型軸方向空隙型電動機20によれば,電機子コイル12-1,12-2が銅材であるため,偏心用錘として機能するほか,偏心用金属錘24がある為,当該電動機20を駆動すると,コアレス偏平電機子21は,偏心しながら回転するので,軸方向並びに回転方向に振動を発生するので,この電動機20を内蔵したポケットベル5が振動することになる。
この電動機20においては,上記電動機1同様に6個の整流子片11-1,・・・,11-6からなる整流子11及び2個のブラシ16,17があり,ブラシ16,17の配設については上記電動機1の場合と同じであるが,整流子11については,第3図乃至第6図に示すように電気的結線を行っている。
第3図乃び第4図は,Δ結線の場合を示し,電機子コイル12-1,12-2の一方の有効導体部12aは,それぞれ整流子片11-1,11-3に接続し,他方の有効導体部12bは,それぞれ整流子片11-2,11-4に接続している。
整流子片11-3と11-6を,11-4と11-1を,11-5と11-2を電気的に結線している。
このように,Δ結線の場合には,電機子コイル12-3を省くだけで,従来(第19図及び第20図の場合)とほとんど同じ電気的結線方法で足りるが,Y型結線の場合には,そのままでは駄目で,第5図及び第6図に示すように工夫する必要がある。
以下にその場合のY型結線について説明していく。
第5図及び第6図は,Y型結線の場合を示し,整流子片11-1,・・・,11-6群からなる整流子11とブラシ16,17との対応関係は,上記実施例と同じであるが,電機子コイル12-1,12-2は次のように電気的結線がされている。
電機子コイル12-1,12-2の一方の有効導体部12aは,それぞれ整流子片11-1,11-3に接続されている。また電機子コイル12-1と12-2の他方の有効導体部12bは,互いに共通接続している。
整流子片11-1と11-4を,11-2と11-5を,11-3と11-6とを電気的に結線している。
電機子コイル11-1と11-2との他方の有効導体部12b同士の接続点36を整流子片11-2に接続してショートさせている。
このように電気的なショートを行っている点が,上記Δ結線の場合と異なっている。
このようにショートしないと,Y型結線の場合には,回転トルクが発生しない点が出てきて,滑らかな回転が行えなくなるためである。
[本発明の第2実施例]
第7図は,第2図の場合において,電機子コイル12-1,12-2それぞれの枠内空胴部の中にも,上記偏心用金属錘24同様の偏心用金属錘27,28を埋設してなるコアレス偏平電機子30を有する振動型軸方向空隙型電動機29の分解斜視図を示す。
この実施例の電動機29によると,電機子30に2個の錘27,28を配設したため,コアレス偏平電機子21よりも大きな振動が得られるように思われるが,実際にはそのようにならない。
その理由は,電機子コイル12-1,12-2も偏心用錘として作用するためであるが,電機子コイル12-1,12-2が電機子30の180度の範囲以上に渡って位置するため,錘27と28とで回転バランスがとれてしまうことによる。
従って,電機子コイル12-1,12-2,錘24,27,28,プラスチック23の材質の選定並びに配設を設計時により工夫する必要がある。
尚,プラスチック23としては,例えば,発砲プラスチック,海面金属を用いても良い。このようなことは,他の実施例においても同様である。
[発明の第3実施例]
第8図は,本発明の第3実施例の下面斜視図を示すもので,第7図のコアレス偏平電機子30において,電機子コイル12-2の枠内空胴部から偏心用金属錘28を除去したコアレス偏平電機子31となっている。
このコアレス偏平電機子31によると,コアレス偏平電機子21,30よりも振動効率の良い結果が得られている。
[発明の第4実施例]
第9図は本発明の第4実施例のコアレス偏平電機子32の下面斜視図を示し,このコアレス偏平電機子32は,第8図のコアレス偏平電機子31から偏心用金属錘24,27を除去し,該除去した部分をもプラスチック23で埋設してなる。
[本発明の効果]
本発明は,従来公知の軸方向空隙型電動機を僅かに改良するだけで,視聴覚障害者のための信号伝達用,バイブレータ用,ページャ用等に有効に機能でき,しかも,従来に於いてページャに採用されている振動型軸方向空隙型電動機に比較して,軸方向に厚みを薄く形成できる利点がある。このため上記装置に採用すれば,当該装置を小型且つ安価に製作できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明第1実施例の振動型軸方向空隙型電動機の縦縦断面図,第2図は同分解下面斜視図,第3図及び第4図は電機子コイル群をΔ結線する場合の説明図,第5図及び第6図は電機子コイル群をY型結線する場合の説明図,第7図は同第2実施例の下面分解斜視図,第8図は同第3実施例を示すコアレス偏平電機子の下面斜視図,第9図は同第4実施例を示すコアレス偏平電機子の下面斜視図,第10図は従来の振動型軸方向空隙型電動機を用いたページャの説明図,第11図は旋回板を用いた振動型軸方向空隙型電動機の説明図,第12図は同軸方向空隙型電動機の縦縦断面図,第13図は同軸方向空隙型電動機のコアレス偏平電機子の上面斜視図,第14図は同コアレス偏平電機子の下面図,第15図は同軸方向空隙型電動機に用いた一例としての界磁マグネットの平面図,第16図は整流子とブラシとの関係の説明図,第17図及び第18図は電機子コイル群と整流子片群をΔ結線した場合の説明図,第19図及び第20図は電機子コイル群と整流子片群をY型結線した場合の説明図である。
[符号の説明]
1……軸方向空隙型電動機,2,2′……回転軸,3……旋回板,4……振動型軸方向空隙型電動機,5……ページャ,6,7……モータケーシング,8,9……軸受,10,10′……コアレス偏平電機子,11……整流子,11-1,・・・,11-6……整流子片,12-1,・・・,12-3,12′-1,12′-2……電機子コイル,12a,12a′……有効導体部,12b,12c……発生トルクに寄与しない導体部,13……プリント配電板,14……界磁マグネット,15……ブラシホルダ,16,17……ブラシ,18……正側電源端子,19……負側電源端子,20……振動型軸方向空隙型電動機,21……コアレス偏平電機子,23……プラスチック,24……偏心用金属錘,25,26……リード線,27,28……偏心用金属錘,29……コアレス偏平電機子,30……振動型軸方向空隙型電動機,31,・・・,32……コアレス偏平電機子,36……接続点,37……空隙。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-07-13 
結審通知日 2009-07-15 
審決日 2008-12-24 
出願番号 特願昭62-124640
審決分類 P 1 113・ 121- YA (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 栗林 敏彦  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 仁木 浩
冨江 耕太郎
登録日 1998-02-06 
登録番号 特許第2134716号(P2134716)
発明の名称 振動型軸方向空隙型電動機  
代理人 佐野 惣一郎  
代理人 佐野 惣一郎  
代理人 鷹見 雅和  
代理人 佐野 惣一郎  
代理人 佐藤 治隆  
代理人 古澤 俊明  

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