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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1218646
審判番号 不服2008-24396  
総通号数 128 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-08-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-24 
確定日 2010-06-17 
事件の表示 特願2001-381776「体内脂肪計」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月 2日出願公開、特開2003-180647〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成13年12月14日の出願であって、平成19年9月10日付け拒絶理由通知に対し、同年11月15日付けで手続補正され、同年12月10日付け最後の拒絶理由通知に対し、平成20年2月15日付けで手続補正されたが、同年7月31日付けで同年2月15日付けの手続補正が却下され、同日付けで拒絶査定され、これに対し、同年9月24日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同年10月23日付けで手続補正(以下、「本件補正」という。)されたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年10月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正後の本願発明
本件補正により特許請求の範囲の請求項1は、次のとおり補正された。

「【請求項1】被検者の皮膚面に複数組の電極対を接触させ、それぞれの電極対から定電流制御用増幅器を介して被検者の身体内に定電流を供給するとともに、前記複数対の電極対の中に含まれる電圧測定用電極に発生した電圧を測定することによって身体内インピーダンスを測定するようにした体内脂肪計において、
前記各電極対の間には、被検者の身体表面と電極対との間に存在する接触抵抗を含むように電流路が形成され、
前記各電極対の間に前記定電流制御用増幅器による電流を印加したときの前記定電流制御用増幅器の飽和電圧未満の電圧であって、前記電圧測定用電極の接触抵抗の上限を規定するために定めた最大電圧値以下であることを判定することによって、前記定電流制御用増幅器の出力電圧の適切性を判定することにより、被検者の前記電極対への接触状態が身体内インピーダンスの測定に適切か否かを判定する測定可否判定手段を備えることを特徴とする体内脂肪計。」(下線は補正された箇所である。)

すると、本件補正は、
本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項に関し、体内脂肪計において、身体内インピーダンスを測定するための条件として、「前記複数対の電極対の中に含まれる電圧測定用電極に発生した電圧を測定すること」を付加・限定し、
測定可否判定手段において、定電流制御用増幅器の出力電圧の適切性を判定のための条件として、「前記各電極対の間に前記定電流制御用増幅器による電流を印加したときの前記定電流制御用増幅器の飽和電圧に基づ」くことから、「前記各電極対の間に前記定電流制御用増幅器による電流を印加したときの前記定電流制御用増幅器の飽和電圧未満の電圧であって、前記電圧測定用電極の接触抵抗の上限を規定するために定めた最大電圧値以下であることを判定すること」と限定したものを含むものである。

したがって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下、「平成18年法改正前」とする。)の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)否かを、請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)について以下に検討する。

2.引用例
(1)原査定の最後の拒絶理由通知で引用され、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2001-340313号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1-ア)「【特許請求の範囲】【請求項1】 身体皮膚面上に接触するように設けられる複数の電極と、これら電極間の電圧を測定する測定手段とを備えるインピーダンス測定装置において、
各電極と身体皮膚面との接触部にその接触部に生じる電位降下の測定が可能な電流が流れるように、各電極相互間を常に測定可能な電気伝導度に保ちつつ、前記測定手段にて各電極間電圧を測定することにより、前記接触部のインピーダンスと身体内インピーダンスとを独立して求めることを特徴とするインピーダンス測定装置。
【請求項2】 各電極間に抵抗体を接続することにより各電極相互間が常に測定可能な電気伝導度に保たれる請求項1に記載のインピーダンス測定装置。
【請求項3】 前記測定手段は、各電極間の電気伝導度を測定して既知化する手段を備えている請求項1または2に記載のインピーダンス測定装置。
【請求項4】 さらに、前記測定手段により測定された前記接触部のインピーダンス値を表示するとともに、このインピーダンス値の大小により測定の適否の判定結果を表示する表示手段が設けられる請求項1?3のうちのいずれかに記載のインピーダンス測定装置。
【請求項5】 前記測定手段は、前記接触部のインピーダンスの変化量を求めるとともに、この変化量の値から測定者の精神的発汗量を求めるものである請求項1?4のうちのいずれかに記載のインピーダンス測定装置。
【請求項6】 さらに、前記測定手段による測定値に基づき、体脂肪量および体脂肪率が演算される請求項1?5のうちのいずれかに記載のインピーダンス測定装置。
【請求項7】 少なくとも一組の電極間に複数個の抵抗体が接続されてそれら抵抗体の抵抗値と前記接触部のインピーダンス値とが平衡ブリッジ回路をなすようにされ、この平衡ブリッジ回路の両端に電源を印加すると同時にその平衡ブリッジ回路の他端に発生する電圧を測定することで、前記接触部のインピーダンス値の変化量が求められる請求項2に記載のインピーダンス測定装置。」

(1-イ)「【0032】【発明の実施の形態】次に、本発明によるインピーダンス測定装置の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0033】図1(a)(b)には、本発明の一実施例に係るインピーダンス測定装置における測定原理が示されている。
【0034】本実施例においては、測定者の身体皮膚と接触する4つの電極E1,E2,E3,E4が設けられている。ここで、各電極E1?E4とその電極に接触した皮膚表面との間の接触インピーダンスがそれぞれX,Y,Z,Uとされ、身体内インピーダンスがMとされる。
【0035】電極E1-E2間および電極E3-E4間には、例えば接触インピーダンスと同等の大きさの抵抗r1,r3が接続され、また電極E2-E3間には、測定者が電極から完全に離脱した状態にあってもr1+r2+r3の値が定電流回路の電流制御の最大負荷抵抗Zm以下になるように、言い換えればZm≧r1+r2+r3が成り立つように値を選んで、抵抗r2が接続される。
【0036】前記各電極E1?E4はそれぞれ端子p1,p2,p3,p4に接続され、これら端子p1?p4を介して定電流回路1の出力端子o1および入力端子o2に接続できるようにされ、また電圧測定回路2の端子s1,s2に接続できるようにされている。ここで、定電流回路1は、非反転入力端子から電圧信号V0(既知)が入力されて定電流Iを出力する演算増幅器AMP1と、この演算増幅器AMP1から定電流Iが出力されるように回路を制御する参照抵抗Rs(既知)を備えてなり、I=V0/Rsの一定電流を身体内および付属抵抗に流し込むように構成されている。また、電圧測定回路2は、端子s1,s2間に発生する電圧を出力する演算増幅器AMP2と、この演算増幅器AMP2の入力抵抗R1,R2を備えて構成されている。なお、これら入力抵抗R1,R2としては前記インピーダンスおよび付属抵抗に比べて十分に大きい値が選ばれる。
【0037】このような構成において、測定に際しては、まず図1(a)に示されるように、定電流回路1の入力端子o2と端子p4とを接続した状態で、出力端子o1と端子p1とをアナログスイッチにて接続する。そうすると、電流Iは、平衡ブリッジ回路をなす身体内インピーダンスM、それぞれの接触インピーダンスX,Y,Z,Uおよび全ての付属抵抗r1,r2,r3に分流して流れる。この状態で、端子p1,p2、端子p1,p4、端子p3,p4と電圧測定回路2の入力端子s1,s2とのそれぞれの接続を順次切り替えて、平衡ブリッジ回路の他端に発生する電圧V1,V2,V3を測定する。
【0038】続いて、図1(b)に示されるように、定電流回路1の出力端子o1を端子p2に切り替え、この状態で、端子p2,p3、端子p2,p4と電圧測定回路2の入力端子s1,s2とのそれぞれの接続を順次切り替えて電圧V4,V5,V6を測定する。
【0039】図1(a)に示される接続状態において、端子p1,p2、端子p3,p4、端子p1,p4と電圧測定回路2の入力端子s1,s2とのそれぞれの接続を順次切り替えると、各インピーダンス部には次式が成立する。
[1]X・i1+Y・(i1-i2)=V1
[2]X・i1+M・i2+U・(i2-i3)=V3
[3]Z・i3+U・(i2-i3)=V3-(V2+V3) ……(1)
【0040】また、電圧測定値とi1,i2,i3との間には次式が成立する。
r1・(I-i1)=V1
r2・(I-i2)=V2
(r1+r2+r3)・(3I-i2-2i2+i3)=V3
I=V0/Rs ……(2)
【0041】こうして、V1,V2,V3を測定すると、r1,r2,r3として既知の抵抗値のものを接続していれば、(2)式より(1)式の[1]?[3]の係数は全て既知となる。
【0042】次に、図1(b)に示される接続状態において、端子p2,p3、端子p2,p4と電圧測定回路2の入力端子s1,s2とのそれぞれの接続を順次切り替えると、各インピーダンス部には次式が成立する。
[4]Y・j2+M・(I-j1)+Z・(I-j1-j3)=V5
[5]Y・j2+M・(I-j1)+U・j3=V6 ……(3)
【0043】また、電圧測定値とj1,j2,j3との間には次式が成立する。
r1・(I-j1-j2)=V4
r2・j1=V5
r3・(I-j3)=V6-V5 ……(4)
【0044】こうして、同様に、V4,V5,V6を測定すると、(4)式より(3)式の[4][5]の係数は全て既知となる。
【0045】故に、[1]?[5]式による連立方程式を解くことができて、インピーダンスX,Y,Z,U,Mの各値を求めることができる。言い換えれば全てのインピーダンスは測定されるV1?V6の電圧値を代入することで求めることができる。
【0046】なお、本実施例の測定原理において、電極と接触させる身体皮膚が例えば異なる指のような場合には、インピーダンスX,Y,Z,Uの値の中には接触部のインピーダンスに身体末端組織部(例えば指先)のインピーダンスが含まれることになる。しかし、身体末端組織部における、測定に使用するような短い時間内のインピーダンス値は、腹部など身体内部に比べて安定していると考えられ、接触インピーダンスの変化量を知る用途に適用する場合には問題とはならない。
【0047】また、測定状態の適否判定に関しては、接触状態が不適であれば接触インピーダンスの絶対値が増加することから、予め判定境界値として例えば2つの境界値(不適切、やや不適切)を設定しておき、測定値をそれら判定境界値と比較して測定者に対してどの接触部が測定にとって適切であるか否かを表示器に表示するようにすれば良い。
【0048】こうして求められた身体内インピーダンスMは体脂肪量・率の計算に供することができ、接触インピーダンスX,Y,Z,Uはそれらの値によって測定状態の適否判定に使用することができる。」(当審注:[1]?[5]は、各々○の中に1?5の数字を記したものを表す。)

上記摘記事項(1-ア)及び(1-イ)からみて、次のことが読み取れる。
(a)電極E1とE2、E3とE4は、各々が対をなす電極といえる。
(b)測定時における電極と定電流回路とは、E1とE4またはE2とE3に対して定電流回路が接続して定電流Iを出力する。
(c)インピーダンス測定装置は、接触インピーダンスの値を求め、判定境界値と比較して、接触部が測定にとって適切であるか否かを表示する手段を有している。

これらの記載事項によると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「測定者の身体皮膚と接触し、対をなす電極E1、E2及び電極E3、E4を有し、E1とE4またはE2とE3に対して各電極に定電流Iを出力する演算増幅器AMP1を含む定電流回路1を接続し、これら電極圧を測定することにより身体内インピーダンスを測定するとともに体脂肪量および体脂肪率が演算されるインピーダンス測定装置において、
各電極E1?E4とその電極に接触した皮膚表面との間の接触インピーダンスが存在し、
接触インピーダンスの値を求め、判定境界値と比較して、接触部が測定にとって適切であるか否かを表示する手段を有するインピーダンス測定装置。」

(2)原査定の最後の拒絶理由通知で引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平11-113872号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(2-ア)「【0011】一方、体脂肪計は、持ち運びを前提に作られている場合が多く、主に電池で回路を駆動している。そのため回路電圧は、±5V程度に限られている。定電流源に使用されるOPアンプの出力端子の電圧も、その範囲内であり、前記の様に靴下を着用しているとき(接触インピーダンスが10KΩ)は、OPアンプが飽和してしまい、定電流は流すことができなくなる。従って、ri は既知の定電流ではなくなり、また、波形が歪み、正弦波ではなくなってしまう。しかし、交流電圧計は、その歪んで不正確な電圧出力vi を検出しその値を以て、演算装置は体内脂肪量を計算し、表示装置に出力してしまっていた。」

(2-イ)「【0017】【実施例】以下本発明の実施例の詳細を図面に基づき詳細に述べる。定電流源用OPアンプの飽和検出器の具体例1として、B1、B2端子と、A1、A2端子を、選択的に差動増幅器に接続するSW1を設け、SW1の制御端子を、制御装置に接続し、定電流源が確実に正常に動作している場合の、A1、A2端子間の電圧がAD変換されたデジタル値の最大をNMAXとして記憶しておく。また、R3にSW2により並列に接続できるように、抵抗R4を接続する。SW2の制御端子は、制御装置に接続する。(図6)
【0018】制御装置は、まず、SW3で、R2を、R1と並列に接続する。R1=5kΩ R2=1.25kΩ とすると、並列抵抗値R' は、
R'=1/(1/R1 + 1/R2 )=1kΩ
前記交流定電圧源のピーク電圧を0.8Vとすれば、体内流入電流値は、iR=0.8V/1kΩ=800μA となる。制御装置は、SW1により、A1、A2 端子を差動増幅器に接続し、その出力を半波整流、ローパスフィルタにより直流電圧に変換して、AD変換器に入力する。
【0019】iRを流したとき、A1、A2端子間電圧から得られたデジタル値が、NMAXより小さければ、SW1によりB1、B2 端子を差動増幅器に接続し、半波整流、ローパスフィルタを介して、AD変換器によって得た生体インピーダンスri に比例したデジタル値と、被測定者の身体データを元に、演算装置は、体内脂肪量を算出し、表示装置に出力する。(図8)
【0020】定電流源の電圧、すなわちA1、A2端子間電圧から得られたデジタル値が、NMAX より大きければ、定電流源は飽和していると判断できる。NMAXより大きいときは、制御装置は、SW3をOFFし、R2を切り離す。定電流を生成する抵抗はR1のみとなるので、体内流入電流iR' は、iR'=0.8V/5kΩ=160μA = iR/5 となる。靴下を履き各接触インピーダンスが10kΩの時の例を計算すると、
Vo=160μA×(10kΩ+500Ω+10kΩ)=3.28V
となり、定電流源電源電圧を±5Vとすれば、飽和は防がれているのが分かる。iR'を流したとき、A1、A2端子間電圧から得られたデジタル値が、NMAX より小さければ、SW1によりB1、B2 端子を差動増幅器に接続する。得られたデジタル値は、体内流入電流に比例するので、1/5の値が得られる。従って、演算器により、得られたデジタル値×5 を計算し、その値と、被測定者の身体データを元に、演算装置は、体内脂肪量を算出し、表示装置に出力すればよい。
【0021】靴下が厚手であり、接触インピーダンスが25kΩの場合には
Vo=160μA×(25kΩ+500Ω+25kΩ)=8.8V
となりVoはNMAXより大きくなる。この場合はOPアンプが飽和状態であり、定電流源が確実に正常に動作してはいないと判断し、即ち、VoがNMAX以上の場合は「Error」を表示して正常に測定されていないこと、被測定体と生体インピーダンス測定用電極との接触インピーダンスが大きすぎる事を報知する。
【0022】OPアンプの飽和検出器は、OPアンプの出力電圧を、直接監視するものでも良い。(図7)
端子A2 を、コンパレータの+端子に接続し、-端子を電源OPアンプが確実に動作する上限の電圧VMAX に設定する。コンパレータの出力を制御装置に入力する。コンパレータは、端子A2の電圧がVMAXを越えるとHiを出力し、VMAX より低い場合はLoを出力する。制御装置は、コンパレータの出力がHiになったかを監視し、Hiになった時は、SW3をOFFしてR2を切り離し、定電流を生成する抵抗をR1のみとする。この状態でもHiであれば、OPアンプが飽和している判断し、「Error」を出力し、Loのままであれば、又はLoに変わったときは正常な測定が可能であるとみなし、算出された体内脂肪量を表示する。
【0023】差動増幅器の後に、更に増幅器2を設け、通常は、差動増幅器の電圧を1倍に、接触インピーダンスが高く、インピーダンス測定電流を通常の1/5にした場合は、差動増幅器の電圧を5倍にして出力するようにすれば、得られるデジタル値を計算上で5倍する必要がなく、また実際にAD変換により計測されるデジタル値が1/5になり、分解能が低下することを避けることができる。具体的には、差動増幅器の出力にR3 の一端を接続し、他端をOPアンプの-端子に接続する。またOPアンプの-端子と出力端子をR5で接続し、更に、R3に、SW2により並列に接続できるように、R4を接続する。SW2 の制御端子は、制御装置に接続する。R3=5kΩ R4=1.25kΩ R5=5kΩ とする。最初、SW2をOFFし、R4を切り離しておく。増幅器2の増幅率は、R5/R3 で表され、1倍となる。接触インピーダンスが高く、測定電流を少なくした場合は、SW2 をONする。R3とR4の並列抵抗値R''は、
R''=1/(1/R3 + 1/R4 )=1kΩ
で表され、増幅率は、R5/R''=5倍 となる。上記の例は、簡単のため、定電流の段階を2段階として説明したが、3段階以上でも同様に実現可能であることは明白である。
【0024】高接触インピーダンスモードでは、体内流入電流が小さくなるため、誤差の割合が増え、若干の精度の低下がみられることがある。上記では、自動で定電流を切り換える例を示したが、被測定者が変わる度に精度が変化する事が煩わしい場合も考えられる。よって、入力装置に「高接触インピーダンスモード」キーを付加し、「高接触インピーダンスモード」キーを押すことにより、「高接触インピーダンスモード」を記憶装置が記憶し、SW3 をOFFにしてその状態を維持し、低い定電流を保つようにすることにより、被測定者が変わっても精度は変化しないようにする事ができる。靴下着用者が多い場合の計測時にも、安心して使用が可能となる。」

3.対比・判断
本願補正発明と引用例1発明とを対比する。

(1)引用例1発明の「定電流Iを出力する演算増幅器AMP1」は、機能からみて、本願補正発明の「定電流制御用増幅器」に相当する。

(2)引用例1発明の「測定者の身体皮膚と接触し、対をなす電極E1、E2及び電極E3、E4を有し、E1とE4またはE2とE3に対して各電極に定電流Iを出力する演算増幅器AMP1を含む定電流回路1を接続し」は、電極と演算増幅器AMP1との接続関係、及び、機能・構成からみて、本願補正発明の「被検者の皮膚面に複数組の電極対を接触させ、それぞれの電極対から定電流制御用増幅器を介して被検者の身体内に定電流を供給する」ことに相当する。

(3)引用例1発明の「これら電極圧を測定することにより身体内インピーダンスを測定する」ことは、機能・構成からみて、本願補正発明の「前記複数対の電極対の中に含まれる電圧測定用電極に発生した電圧を測定することによって身体内インピーダンスを測定する」ことに相当する。

(4)引用例1発明の「各電極E1?E4とその電極に接触した皮膚表面との間の接触インピーダンスが存在する」ことは、接触インピーダンスの位置関係からみて、本願補正発明の「前記各電極対の間には、被検者の身体表面と電極対との間に存在する接触抵抗を含むように電流路が形成され」ることに相当する。

(5)引用例1発明の「接触インピーダンスの値を求め、判定境界値と比較して、接触部が測定にとって適切であるか否かを表示する手段」と、本願補正発明の「前記各電極対の間に前記定電流制御用増幅器による電流を印加したときの前記定電流制御用増幅器の飽和電圧未満の電圧であって、前記電圧測定用電極の接触抵抗の上限を規定するために定めた最大電圧値以下であることを判定することによって、前記定電流制御用増幅器の出力電圧の適切性を判定することにより、被検者の前記電極対への接触状態が身体内インピーダンスの測定に適切か否かを判定する測定可否判定手段」とは、「被検者の前記電極対への接触状態が身体内インピーダンスの測定に適切か否かを判定する測定可否判定手段」という点で共通する。

(6)引用例1発明の「体脂肪量および体脂肪率が演算されるインピーダンス測定装置」は、機能・構成からみて本願補正発明の「体内脂肪計」に相当する。

以上、(1)?(6)の考察から、両者は、

(一致点)
「被検者の皮膚面に複数組の電極対を接触させ、それぞれの電極対から定電流制御用増幅器を介して被検者の身体内に定電流を供給するとともに、前記複数対の電極対の中に含まれる電圧測定用電極に発生した電圧を測定することによって身体内インピーダンスを測定するようにした体内脂肪計において、
前記各電極対の間には、被検者の身体表面と電極対との間に存在する接触抵抗を含むように電流路が形成され、
被検者の前記電極対への接触状態が身体内インピーダンスの測定に適切か否かを判定する測定可否判定手段を備えた体内脂肪計。」

である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
測定可否判定手段が、本願補正発明では、「前記各電極対の間に前記定電流制御用増幅器による電流を印加したときの前記定電流制御用増幅器の飽和電圧未満の電圧であって、前記電圧測定用電極の接触抵抗の上限を規定するために定めた最大電圧値以下であることを判定することによって、前記定電流制御用増幅器の出力電圧の適切性を判定することにより、被検者の前記電極対への接触状態が身体内インピーダンスの測定に適切か否かを判定する」ものであるのに対し、引用例1発明では、「接触インピーダンスの値を求め、判定境界値と比較して、接触部が測定にとって適切であるか否かを表示する」ものである点。

4.当審の判断
上記(相違点)について検討する。

(1)上記2.(1)の摘記事項(2-ア)の記載事項、及び、摘記事項(2-イ)の「定電流源用OPアンプの飽和検出器の具体例1として、B1、B2端子と、A1、A2端子を、選択的に差動増幅器に接続するSW1を設け、SW1の制御端子を、制御装置に接続し、定電流源が確実に正常に動作している場合の、A1、A2端子間の電圧がAD変換されたデジタル値の最大をNMAXとして記憶しておく。」からみて、定電流源が確実に正常に動作している場合の具体例として、想定する接触インピーダンスの範囲で確実に正常に動作する場合を設定することは、引用例2に記載された装置全体の構成・目的からみて当然のことといえ、同時に、設定されるNMAXもOPアンプの飽和電圧以下とすることも当然のことといえる。
したがって、引用例2には、「飽和電圧以下であって、想定する接触インピーダンスの範囲で確実に正常に動作するように求めた最大の電圧値NMAXと、定電流源の電圧とを比較して、NMAX より大きければ、定電流源は飽和していると判断し、制御装置は電流値を変更するようにし、更に、定電流源の電圧がNMAX より大きければ被測定体と生体インピーダンス測定用電極との接触インピーダンスが大きすぎる事を報知する」ことが記載されているといえる。
ここで、引用例2のものは、NMAXと定電流源の電圧との比較・判定を2段階で行うものであるが機能・構成からみて、本願補正発明の「前記各電極対の間に前記定電流制御用増幅器による電流を印加したときの前記定電流制御用増幅器の飽和電圧未満の電圧であって、前記電圧測定用電極の接触抵抗の上限を規定するために定めた最大電圧値以下であることを判定することによって、前記定電流制御用増幅器の出力電圧の適切性を判定することにより、被検者の前記電極対への接触状態が身体内インピーダンスの測定に適切か否かを判定する」ものに相当するものを含むものといえる。

よって、引用例1発明も機能からみてOPアンプに相当する演算増幅器AMP1を有する定電流源を有していることから、引用例1発明の「接触部が測定にとって適切であるか否かを表示する手段」に換えて、引用例2に記載されたような定電流制御用増幅器の電圧値で判定するものを採用して、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば、容易になし得たことである。

(2)上記(1)では、本願補正発明の「被検者の前記電極対への接触状態が身体内インピーダンスの測定に適切か否かを判定する測定可否判定手段」において、「測定可否判定手段」として記載された以外の各種条件における「判定」機能を含むものとしたが、仮に、本願補正発明に記載された条件のみを有するものとして上記(相違点)について検討する。

上記(1)と同様に引用例2には、「飽和電圧以下であって、想定する接触インピーダンスの範囲で確実に正常に動作するように求めた最大の電圧値NMAXと、定電流源の電圧とを比較して、NMAX より大きければ、定電流源は飽和していると判断し、制御装置は電流値を変更するようにし、更に、定電流源の電圧がNMAX より大きければ被測定体と生体インピーダンス測定用電極との接触インピーダンスが大きすぎる事を報知する」ことが記載されている。

一方、上記摘記事項(2-イ)には、「高接触インピーダンスモードでは、体内流入電流が小さくなるため、誤差の割合が増え、若干の精度の低下がみられることがある。上記では、自動で定電流を切り換える例を示したが、被測定者が変わる度に精度が変化する事が煩わしい場合も考えられる。よって、入力装置に『高接触インピーダンスモード』キーを付加し、『高接触インピーダンスモード』キーを押すことにより、『高接触インピーダンスモード』を記憶装置が記憶し、SW3 をOFFにしてその状態を維持し、低い定電流を保つようにすることにより、被測定者が変わっても精度は変化しないようにする事ができる。」との記載があり、NMAXと定電流源の電圧との比較・判定を1段階で行う機能を有しており、かつ、本願補正発明や引用例1発明と電気的に等価な対象を測定する抵抗測定装置の技術分野において、出力電圧を監視して、OPアンプを有する定電流装置の電流接続に係る異常の有無を1段階で判定すること本願の出願前に周知の技術である。
例えば、特開平11-295363号公報には、「【0016】飽和検出回路11aは、交流定電流源3の出力飽和を検出するための回路であって、図2に示すように、交流定電流源3の出力電圧V11の正の飽和電圧よりも若干低電圧の基準電圧VREF1を生成する基準電圧源12aと、出力電圧V11と基準電圧VREF1とを比較するコンパレータ13aと、コンパレータ13aの出力電圧がハイレベル電圧になったときに1.2msecのパルス幅の飽和検出信号S1 を出力するリトリガ可能なワンショットタイマ14aとを備えている。飽和検出回路11bは、飽和検出回路11cと相俟って本発明におけるプローブ断線・未接続検出回路を構成し、交流定電流源9の出力飽和を検出する。この飽和検出回路11bは、同図に示すように、交流定電流源9の出力電圧V12の正の飽和電圧よりも若干低電圧の基準電圧VREF2を生成する基準電圧源12bと、出力電圧V12と基準電圧VREF2とを比較するコンパレータ13bと、コンパレータ13bの出力電圧がハイレベル電圧になったときに0.6msecのパルス幅の飽和検出信号S2 を出力するリトリガ可能なワンショットタイマ14bとを備えている。・・・(中略)・・・【0018】CPU22は、A/D変換器21を介して入力されたディジタルデータに基づいて測定対象抵抗体2の抵抗値を演算すると共に、その演算した抵抗値を表示部23に表示させる。また、CPU22は、後述するように、飽和検出回路11a?11dから飽和検出信号S1 ?S4 が出力されたときには、測定不能である旨などを表示部23に表示させる。」と記載され、
実願平3-92204号(実開平5-34583号)のCD-ROMには、「【0020】この考案は、上述したようにして構成されているので、定電流発生回路11における定電流端子13,14を介して被測定物Rxに定電流iを流した際、電圧測定表示回路21は電圧検出端子22,23を介して測定される電圧Vxを電圧測定表示部24における電圧計で読み取り、その状態を表示器に表示することができる。
【0021】この場合、定電流発生回路11における定電流端子13,14の少なくともいずれか一方が被測定物Rxから外れていたり、断線していたりする場合には、前記開放電圧監視回路16により開放端子電圧が検出され、電圧測定表示部24における表示器に定電流iに異常がある旨の表示、例えば「NG」の表示がなされ、これを確認することで定電流端子13,14の断線状態をチェックすることができる。」と記載されている。

よって、引用例1発明も機能からみてOPアンプに相当する演算増幅器AMP1を有する定電流源を有していることから、引用例1発明の「接触部が測定にとって適切であるか否かを表示する手段」に換えて、引用例2に記載されたような定電流制御用増幅器の電圧値で判定するものを採用し、その際に最大電圧値と定電流源の電圧との比較・判定条件として、周知の技術のように1段階で行うものを付加することで、本願補正発明のように構成することは、当業者であれば、容易になし得たことである。

したがって、上記(1)、(2)の何れにおいても、本願補正発明は、引用例1発明、引用例2に記載された事項、及び、上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができない。

そして、本願補正発明の奏する効果についても、引用例1、2及び上記周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものである。

5.本件補正についての結び
以上のとおり、本件補正は、平成18年法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1乃至3に係る発明は、平成19年11月15日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定されたとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】被検者の皮膚面に複数組の電極対を接触させ、それぞれの電極対から定電流制御用増幅器を介して被検者の身体内に定電流を供給して身体内インピーダンスを測定するようにした体内脂肪計において、
前記各電極対の間には、被検者の身体表面と電極対との間に存在する接触抵抗を含むように電流路が形成され、
前記各電極対の間に前記定電流制御用増幅器による電流を印加したときの前記定電流制御用増幅器の飽和電圧に基づいて、前記定電流制御用増幅器の出力電圧の適切性を判定することにより、被検者の前記電極対への接触状態が身体内インピーダンスの測定に適切か否かを判定する測定可否判定手段を備えることを特徴とする体内脂肪計。」

2.引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1及び2は、前記「第2[理由]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]」で検討した本願補正発明から、

本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項に関し、体内脂肪計において、身体内インピーダンスを測定するための条件として、「前記複数対の電極対の中に含まれる電圧測定用電極に発生した電圧を測定すること」との限定を除き、
測定可否判定手段において、定電流制御用増幅器の出力電圧の適切性を判定のための条件として、「前記各電極対の間に前記定電流制御用増幅器による電流を印加したときの前記定電流制御用増幅器の飽和電圧未満の電圧であって、前記電圧測定用電極の接触抵抗の上限を規定するために定めた最大電圧値以下であることを判定すること」から、「前記各電極対の間に前記定電流制御用増幅器による電流を印加したときの前記定電流制御用増幅器の飽和電圧に基づ」くこととの限定を除いたものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の限定的な発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]3.」に記載したとおり,引用例1発明、引用例2に記載された事項、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである以上、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-14 
結審通知日 2010-04-20 
審決日 2010-05-06 
出願番号 特願2001-381776(P2001-381776)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷垣 圭二  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 居島 一仁
信田 昌男
発明の名称 体内脂肪計  
代理人 井上 勉  

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