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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1220279
審判番号 不服2008-22644  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-09-04 
確定日 2010-07-15 
事件の表示 特願2003-174673「表面プラズモン共鳴現象型光ファイバセンサおよびこれを用いた測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月13日出願公開、特開2005- 10025〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成15年6月19日の出願であって,平成20年7月28日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年9月4日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同年10月6日付けで手続補正がされたものである。

第2 平成20年10月6日付けの手続補正についての補正却下の決定

1 補正却下の決定の結論

平成20年10月6日付けの手続補正を却下する。

2 理由

(1)本願補正発明

本件補正は,特許請求の範囲の請求項1を,
「一端が光源に接続される第1の光ファイバ線路と,一端が測定装置に接続される第2の光ファイバ線路と,前記第1の光ファイバ線路の他端と前記第2の光ファイバ線路の他端との間に設けられたセンサ素子と,センサヘッドとを具備し,前記第1および第2の光ファイバ線路はそれぞれ,第1のコアと,該第1のコアの外周に形成された第1のクラッドと,該第1のクラッドの外周に形成されたカバー部材とを有し,前記センサ素子は,前記第1のコアより直径が小さい第2のコアと,該第2のコアの外周に形成され前記第1のクラッドと直径が等しい第2のクラッドと,表面プラズモン共鳴現象を励起する金属薄膜とを有し,前記センサ素子の一方の端部の前記第2のコアおよび前記第2のクラッドが,第1の接続面において,前記第1の光ファイバ線路の他端の前記第1のコアおよび前記第1のクラッドに接続されており,前記センサ素子の他方の端部の前記第2のコアおよび前記第2のクラッドが,第2の接続面において,前記第2の光ファイバ線路の他端の前記第1のコアおよび前記第1のクラッドに接続されており,前記金属薄膜が,前記第1の接続面の近傍の前記第1の光ファイバ線路の他端の前記第1のクラッドの外周から,前記センサ素子の前記第2のクラッドの外周を越え,前記第2の接続面の近傍の前記第2の光ファイバ線路の他端の前記第1のクラッドの外周に設けられており,前記センサヘッドは,ベース部材と,フィルタ部材とを有し,前記ベース部材は長手方向に沿って2つに分割されており,該2つに分割されたベース部材には,前記センサ素子を収容し,該収容されたセンサ素子の前記金属薄膜に被測定溶液を導入する前記導入部を規定する,開口部が形成されており,前記2つに分割された一方のベース部材の長手方向に,前記センサ素子の両側に位置する前記第1および第2の光ファイバ線路を固定する溝が形成されており,前記溝に前記第1および第2の光ファイバ線路を固定して,前記2つに分割された前記ベース部材が締結されており,前記開口部に前記導入部に導入される前記被測定溶液を濾過するフィルタ部材が設けられている,表面プラズモン共鳴現象型光ファイバセンサ。」とする補正,
および,特許請求の範囲の請求項2を,
「請求項1に記載の表面プラズモン共鳴現象型光ファイバセンサを用いて被測定溶液の屈折率を測定する方法であって,前記フィルタ部材を介して前記導入部内の前記センサ素子に被測定溶液を提供し,前記光源から前記第1の光ファイバ線路に光を導入し,前記測定装置を用いて前記第2の光ファイバ線路から出射された光の各波長の光強度を測定し,前記被測定溶液の屈折率を測定する,測定方法。」とする補正を含むものである。

そして,上記請求項1についての補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「本線体」を「一端が光源に接続される第1の光ファイバ線路と,一端が測定装置に接続される第2の光ファイバ線路と」と限定し,さらに「前記第1および第2の光ファイバ線路はそれぞれ,第1のコアと,該第1のコアの外周に形成された第1のクラッドと,該第1のクラッドの外周に形成されたカバー部材とを有し」と限定する補正と,「センサ素子」について「前記第1の光ファイバ線路の他端と前記第2の光ファイバ線路の他端との間に設けられた」との限定を付加し,さらに「前記第1のコアより直径が小さい第2のコアと,該第2のコアの外周に形成され前記第1のクラッドと直径が等しい第2のクラッドと,表面プラズモン共鳴現象を励起する金属薄膜とを有し,前記センサ素子の一方の端部の前記第2のコアおよび前記第2のクラッドが,第1の接続面において,前記第1の光ファイバ線路の他端の前記第1のコアおよび前記第1のクラッドに接続されており,前記センサ素子の他方の端部の前記第2のコアおよび前記第2のクラッドが,第2の接続面において,前記第2の光ファイバ線路の他端の前記第1のコアおよび前記第1のクラッドに接続されており,前記金属薄膜が,前記第1の接続面の近傍の前記第1の光ファイバ線路の他端の前記第1のクラッドの外周から,前記センサ素子の前記第2のクラッドの外周を越え,前記第2の接続面の近傍の前記第2の光ファイバ線路の他端の前記第1のクラッドの外周に設けられており」との限定を付加する補正と,「センサヘッド」について「ベース部材と,フィルタ部材とを有し,前記ベース部材は長手方向に沿って2つに分割されており,該2つに分割されたベース部材には,前記センサ素子を収容し,該収容されたセンサ素子の前記金属薄膜に被測定溶液を導入する前記導入部を規定する,開口部が形成されており,前記2つに分割された一方のベース部材の長手方向に,前記センサ素子の両側に位置する前記第1および第2の光ファイバ線路を固定する溝が形成されており,前記溝に前記第1および第2の光ファイバ線路を固定して,前記2つに分割された前記ベース部材が締結されており,前記開口部に前記導入部に導入される前記被測定溶液を濾過するフィルタ部材が設けられている」との限定を付加するものである。

したがって,上記請求項1についての補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

また,上記請求項2についての補正は,補正前の請求項4に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記溶液の濃度を測定する」を,「前記測定装置を用いて前記第2の光ファイバ線路から出射された光の各波長の光強度を測定し,前記被測定溶液の屈折率を測定する」とする補正を含むものである。ここで,「溶液の屈折率」と「溶液の濃度」とは一義的に対応するものではなく,「溶液の屈折率」に基づいて様々な溶液の特性,例えば,濃度,密度,液体の種類が得られることは例えば,本願出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開2002-350335号公報の【0038】にも記載されるように,本願出願前における技術常識であるから,上記請求項2についての補正は,「溶液の濃度を測定する」を,これを含むより広い概念である「溶液の屈折率を測定する」へと拡張する補正を含むものである。

したがって,上記請求項2についての補正は,平成18年改正前の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当せず,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項の他の号に規定されるいずれの事項を目的とするものでもない。

そこで,上記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用例およびその記載事項

ア 本願出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開2002-357538号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(ア-1)
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,気体や液体の屈折率を測定するための光学部品としてのプラズモンセンサ装置に関する。」

(ア-2)
「【0017】第一実施形態のプラズモンセンサ装置10は,入射用の光ファイバ11と出射用の光ファイバ12との間にセンサプレート13が接続され,センサプレート13の対向する一対の両面に表面プラズモン励起用の薄膜13A,13Bが設けられ,表面プラズモン励起用の光Pが光ファイバ11から入射しセンサプレート13を通って光ファイバ12から出射するものである。また,センサプレート13が透明な板材からなり,光ファイバ11,12がマルチモード光ファイバであり,光ファイバ11とセンサプレート13との間に偏光フィルム14が設けられている。」

(ア-3)
「【0018】センサプレート13は,透明なガラス板からなる。センサプレート13の矢印A,Bから見た面には,金(又は銀)からなる膜厚約50[nm]の薄膜13A,13Bが形成されている。このとき,ガラスと金薄膜との間には,密着力を上げるためにCrからなる膜厚約1nmの薄膜を設けてもよい。また,光ファイバ11,12,センサプレート13及び偏光フィルム14は,ホルダ15A,15Bによって保持されている。」

(ア-4)
「【0019】プラズモンセンサ装置10は,屈折率を測定するための光学部品であり,センサプレート13に表面プラズモン励起用の光Pを入射させ,その透過光量に基づきセンサプレート13と接するサンプルの屈折率を求める。そして,光ファイバ11,12,センサブレート13及び偏光板フィルタ14が,ホルダ15A,15Bを介して一体となっている。」

(ア-5)
「【0021】表面プラズモン励起用の光Pは,光ファイバ11から導かれ,偏光フィルタ14によってTMモードの光となり,センサプレート13内を全反射を繰り返しながら伝搬し,光ファイバ12から放射される。光Pがセンサプレート13内を伝搬する際に,薄膜13A,13B上に表面プラズモンと呼ばれる電子の疎密波を励起するため,光Pのエネルギ一が減衰する。このときの減衰量は,薄膜13A,13Bと接するサンプルの屈析率と相関を持っている。したがって,光Pの透過光量を測定することにより,サンプルの屈折率を知ることができる。」

(ア-6)
「【0024】投光ユニット20は,表面プラズモン励起用の光Pを出力する発光素子21と,発光素子21の出力をモニタする受光素子22と,発光素子21及び受光素子22を収容するとともに光フアイバ11と接続するホルダ23とを備えている。受光ユニット24は,光Pを受光する受光素子25と,受光素子25を収容するとともに光フアイバ12と接続するホルダ26とを備えている。」

(ア-7)
「【0040】【第一応用例】エンジンの強制循環式水冷装置に用いられる冷却水には,厳寒時の凍結を防ぐため不凍液が混合されている。」

(ア-8)
「【0042】また,冷却水Wの体積膨張を緩衝するためのリザーブタンク55が取り付けられている。リザーブタンク55内には,SPRセンサ10と,冷却水Wの温度を測定するための温度センサ57とが取り付けられている。」

(ア-9)
「【0043】SPRセンサ10の金からなる薄膜上には,浮遊粒子の付着を防止するためアルカンチオールなどの高分子薄膜が設けられている。」

(ア-10)
図1〔2〕は,プラズモンセンサ装置の分解斜視図であり,ここには,長手方向に沿って二つに分割されたホルダ15A,15Bと,ホルダ15A,15Bに形成された光ファイバ11,12を保持するため溝が記載されている。

(ア-11)
図1〔2〕および図2には,プラズモンセンサ装置のセンサヘッド部を形成するホルダ15A,15Bと,プラズモンセンサ装置のホルダ15A,15B内部に保持されたセンサプレート13と,プラズモンセンサ装置のホルダ15A,15Bに形成された開口部が記載されている。

(ア-12)
図2は,プラズモンセンサ装置の横断面図であり,ここには,光ファイバ11,12のコアとクラッドの境界部分で反射しながら伝播する光Pが記載されている。

以上の記載事項(ア-1)から(ア-12)を総合すると,引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。

「一端が発光素子21を収容したホルダ23に接続される光ファイバ11と,一端が受光素子25を収容したホルダ26に接続される光ファイバ12と,光ファイバ11の他端と光ファイバ12の他端との間に接続されたセンサ部と,センサヘッド部とを具備し,光ファイバ11,12はコアとクラッドとを有し,センサ部は,センサプレート13と,センサプレートの対向する一対の両面に表面プラズモン励起用の薄膜13A,13Bを有し,センサヘッド部は,ホルダ15A,15Bを有し,ホルダ15A,15Bは,長手方向に沿って二つに分割されており,センサプレート13を内部に保持するものであり,ホルダ15A,15Bのそれぞれが開口部と光ファイバ11,12を保持するため溝を有したプラズモンセンサ装置。」(以下,「引用例1記載の発明」という。)

イ また,上記刊行物である特開2002-350335号公報(以下「引用例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(イ-1)
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,所望の試料の屈折率を容易に検出することのできる屈折率センサー,その屈折率センサーを用いて所望の試料に関わる任意の物理量,化学量または現象などを容易に検出することのできるセンサーシステム,および,そのような屈折率センサー部を有する光ファイバに関する。」

(イ-2)
「【0022】図2に示すように,プラズモン共鳴センサー10は,光ファイバ(伝送ファイバ)11,ヘテロ・コア部14,金属薄膜17を有する。なお,光ファイバ11はコア12およびクラッド13を有し,ヘテロ・コア部14は,コア15およびクラッド16を有する。」

(イ-3)
「【0023】光ファイバ11は,光源30で発せられた光を伝送してヘテロ・コア部14に入射する。また,ヘテロ・コア部14を通過した光をスペクトルアナライザ40に伝送する。」

(イ-4)
「【0024】ヘテロ・コア部14は,光ファイバ11のコア12より十分径の小さいコア15を有する光ファイバを,光ファイバ11の間に融着して設けたものである。」

(イ-5)
図2はプラズモン共鳴センサの構成を示すものであり,ヘテロ・コア部14のコア15よりも径の大きな光ファイバ11のコア12と,ヘテロ・コア部14のクラッド16の外径と等しい外径を有する光ファイバ11のクラッド13と,ヘテロ・コア部14と光ファイバ11との接続面における光ファイバ11のクラッド13の外周からヘテロ・コア部14のクラッド16の外周を超えて上記接続面の他方における光ファイバ11のクラッド13の外周に設けられた金属薄膜が記載されている。

(3)当審の判断

ア 対比
本願補正発明と引用例1記載の発明とを対比する。

(ア)引用例1記載の発明の発光素子21は,光ファイバ11に光を入射するためのものであることは明らかであるから,両者は光学的に接続されているといえる。そして,引用例1記載の発明の「発光素子21」は,本願補正発明の「光源」に相当し, 引用例1記載の発明の「光ファイバ11」は,本願補正発明の「第1の光ファイバ線路」に相当するから,引用例1記載の発明の「一端が発光素子21を収容したホルダ23に接続される光ファイバ11」と本願補正発明の「一端が光源に接続される第1の光ファイバ線路」とは,一端が光源に光学的に接続される第1の光ファイバ線路である点で共通する。

(イ)引用例1記載の発明の受光素子25は,光ファイバ12により伝達された光を受光するためのものであることは明らかであるから,両者は光学的に接続されているといえる。そして,引用例1記載の発明の「光ファイバ12」は,本願補正発明の「第2の光ファイバ線路」に相当する。また,(ア-5)および(ア-6)の記載事項からも,引用例1記載の発明の「受光素子25」は光Pの透過光量を測定するものであるから,引用例1記載の発明の「一端が受光素子25を収容したホルダ26に接続される光ファイバ12」と本願補正発明の「一端が測定装置に接続される第2の光ファイバ線路と」とは,一端が測定装置に光学的に接続される第2の光ファイバ線路である点で共通する。

(ウ) 引用例1記載の発明の「コアとクラッドとを有」する「光ファイバ11,12」と本願補正発明の「第1のコアと,該第1のコアの外周に形成された第1のクラッドと,該第1のクラッドの外周に形成されたカバー部材とを有」する「第1および第2の光ファイバ線路」とは,「第1のコアと,該第1のコアの外周に形成された第1のクラッド」を有する「第1および第2の光ファイバ線路」である点で共通する。

(エ)引用例1記載の発明の「光ファイバ11の他端と光ファイバ12の他端との間」は,本願補正発明の「前記第1の光ファイバ線路の他端と前記第2の光ファイバ線路の他端の間」に相当する。そして,引用例1記載の発明の「センサプレート13」は,対向する両面に表面プラズモン励起用の金薄膜13A,13Bが設けられたものであるから,光を伝達する部材であるといえる。よって,引用例1記載の発明の「光ファイバ11の他端と光ファイバ12の他端との間に接続されたセンサ部」であり「センサプレート13と,センサプレートの対向する一対の両面に表面プラズモン励起用の薄膜13A,13Bを有」した「センサ部」と,本願補正発明の「前記第1の光ファイバ線路の他端と前記第2の光ファイバ線路の他端との間に設けられたセンサ素子」であり「第1のコアより直径が小さい第2のコアと,該第2のコアの外周に形成され前記第1のクラッドと直径が等しい第2のクラッドと,表面プラズモン共鳴現象を励起する金属薄膜とを有し」た「センサ素子」とは,光を伝達する部材の表面に表面プラズモン励起用の金属薄膜を有したセンサ素子である点で共通する。

(オ)引用例1記載の発明の「ホルダ15A,15B」は,本願補正発明の「ベース部材」に相当する。また,引用例1の(ア-4)には,センサプレート13にサンプルが接することが記載され,引用例1の(ア-1),(ア-7),(ア-8)には,測定サンプルとして液体が例示され,液体内部にセンサを配置することが記載されていることから,センサプレートを含むプラズモンセンサ装置全体をサンプル液体内に設置して測定を行う応用例が例示されているものといえるから,引用例1記載の発明の「開口部」を介して液体などのサンプルが導入されることは明らかである。また,引用例1記載の発明の「ホルダ15A,15B」に形成された光ファイバ11,12を保持するための溝は,その機能や構造からみて,光ファイバ11,12を固定しているものであるのは明らかである。
そうすると,引用例1記載の発明の「ホルダ15A,15Bを有し,ホルダ15A,15Bは長手方向に沿って二つに分割されており,センサプレート13を内部に保持するものであり,ホルダ15A,15Bのそれぞれが開口部と光ファイバ11,12を保持するため溝を有した」「センサヘッド部」と,本願補正発明の「ベース部材と,フィルタ部材とを有し,前記ベース部材は長手方向に沿って2つに分割されており,該2つに分割されたベース部材には,前記センサ素子を収容し,該収容されたセンサ素子の前記金属薄膜に被測定溶液を導入する前記導入部を規定する,開口部が形成されており,前記2つに分割された一方のベース部材の長手方向に,前記センサ素子の両側に位置する前記第1および第2の光ファイバ線路を固定する溝が形成されており,前記溝に前記第1および第2の光ファイバ線路を固定して,前記2つに分割された前記ベース部材が締結されており,前記開口部に前記導入部に導入される前記被測定溶液を濾過するフィルタ部材が設けられている」「センサヘッド」とは,ベース部材を有し,前記ベース部材は長手方向に沿って2つに分割されており,該2つに分割されたベース部材には,前記センサ素子を収容し,該収容されたセンサ素子の前記金属薄膜に被測定溶液を導入する前記導入部を規定する,開口部が形成されており,前記2つに分割された一方のベース部材の長手方向に,前記センサ素子の両側に位置する前記第1および第2の光ファイバ線路を固定する溝が形成されたものである点で共通する。

以上より,引用例1記載の発明と本願補正発明とは,「一端が光源に光学的に接続される第1の光ファイバ線路と,一端が測定装置に光学的に接続される第2の光ファイバ線路と,前記第1の光ファイバ線路の他端と前記第2の光ファイバ線路の他端との間に設けられたセンサ素子と,センサヘッドとを具備し,前記第1および第2の光ファイバ線路はそれぞれ,第1のコアと,該第1のコアの外周に形成された第1のクラッドとを有し,前記センサ素子は,光を伝達する部材の表面に表面プラズモン共鳴現象を励起する金属薄膜を有し,前記センサヘッドは,ベース部材を有し,前記ベース部材は長手方向に沿って2つに分割されており,該2つに分割されたベース部材には,前記センサ素子を収容し,該収容されたセンサ素子の前記金属薄膜に被測定溶液を導入する前記導入部を規定する,開口部が形成されており,前記2つに分割された一方のベース部材の長手方向に,前記センサ素子の両側に位置する前記第1および第2の光ファイバ線路を固定する溝が形成されている表面プラズモン共鳴現象型光ファイバセンサ。」である点において一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
光源部と光ファイバとの光学的接続,および,測定部と光ファイバとの光学的接続が,本願補正発明においては光源と第1の光ファイバ線路が接続され,測定装置と第2の光ファイバ線路が接続されるのに対して,引用例1記載の発明においては発光素子21を収容したホルダ23と光ファイバ11が接続され,受光素子25を収容したホルダ26と光ファイバ12が接続される点。

(相違点2)
光源および測定装置に接続される光ファイバが,本願補正発明においてはクラッドの外周にカバー部材を有するのに対して,引用例1記載の発明においては,光ファイバ11,12の外周にそのようなカバー部材を有しない点。

(相違点3)
センサ素子が,本願補正発明においては「前記第1のコアより直径が小さい第2のコアと,該第2のコアの外周に形成され前記第1のクラッドと直径が等しい第2のクラッドと,表面プラズモン共鳴現象を励起する金属薄膜とを有し,前記センサ素子の一方の端部の前記第2のコアおよび前記第2のクラッドが,第1の接続面において,前記第1の光ファイバ線路の他端の前記第1のコアおよび前記第1のクラッドに接続されており,前記センサ素子の他方の端部の前記第2のコアおよび前記第2のクラッドが,第2の接続面において,前記第2の光ファイバ線路の他端の前記第1のコアおよび前記第1のクラッドに接続されており,前記金属薄膜が,前記第1の接続面の近傍の前記第1の光ファイバ線路の他端の前記第1のクラッドの外周から,前記センサ素子の前記第2のクラッドの外周を越え,前記第2の接続面の近傍の前記第2の光ファイバ線路の他端の前記第1のクラッドの外周に設けられ」たものであるのに対して,引用例1記載の発明では,対向する一対の両面に表面プラズモン励起用の薄膜13A,13Bを有したセンサプレート13よりなる点。

(相違点4)
本願補正発明の「センサヘッド」は,2つに分割されたベース部材が締結されたものであり,「センサヘッド」の開口部には,導入される被測定溶液を濾過するフィルタ部材が設けられているのに対して,引用例1記載の発明の「センサヘッド部」は,2つに分割されたホルダ15A,15Bが締結されたものとは特定されておらず,導入される被測定溶液を濾過するフィルタ部材を有していない点。

以下,上記各相違点について検討する。

イ 相違点1について
光センサ装置において,光源や測定装置などの光学素子とセンサ部とを光ファイバを用いて光学的に接続する際に,光学素子と光ファイバを直接接続するか,光学素子が収容されたホルダと光ファイバを接続するか,そのいずれを選択するかということは設計事項である。
また,光学素子と光ファイバとを直接接続することは本願出願前の周知技術でもあり,例えば,引用例2の記載事項(イ-1),(イ-2),(イ-3)には,屈折率測定を行うためのプラズモン共鳴センサにおいて,センサ部であるヘテロ・コア部14に対して光ファイバ11を介して光源30を接続し,光ファイバ11を介してスペクトルアナライザ40を接続することが記載されているとおりである。
よって,引用例1記載の発明において,発光素子21を収容したホルダ23と光ファイバ11との接続,受光素子25を収容したホルダ26と光ファイバ12との接続を,発光素子21と光ファイバ11との接続,受光素子25と光ファイバ12との接続とすることは,当業者が適宜なし得ることである。

ウ 相違点2について
光センサ装置に用いる光ファイバの外周に,その保護のためにカバー部材を設けることは,以下のとおり本願出願前の周知技術である。
例えば,特開平11-242143号公報の【0053】,【0056】,【0057】,図4には,光センシングシステムにおいて,光信号を伝播する光ファイバ31をオーバーコートにより保護することについて記載されている。
そして,引用例1記載の発明において,そのセンサ部は測定液体内部などのさまざまな状況下において使用されるものであるから,センサ部に接続された光ファイバ11,12の測定液体に対する耐性は当然に要求され,これを保護するためにカバー部材を設けることを想到することは,当業者が容易になし得ることである。

エ 相違点3について
引用例2の記載事項(イ-2),(イ-4),(イ-5)を総合すると,引用例2には,「プラズモン共鳴センサー10のセンサ部として機能するヘテロ・コア部14であり,コア12とクラッド13よりなる光ファイバ11と,コア15とクラッド16よりなるヘテロ・コア部14とが融着され,その周囲に金属薄膜17をコーティングすることによってプラズモン共鳴センサー10が構成され,コア15の径はコア12の径より小さく,クラッド16の外径はクラッド13の外径と等しく,金属薄膜17がヘテロ・コア部14の両端を超えて光ファイバ11のクラッド13外周の一部にも存在するヘテロ・コア部14」が記載されている。
ここで,引用例2に記載された「ヘテロ・コア部14」,「コア12」,「コア15」,「クラッド13」,「クラッド16」,「光ファイバ11」は,それぞれ,本願補正発明の「センサ素子」,「第1のコア」,「第2のコア」,「第1のクラッド」,「第2のクラッド」,「第1の光ファイバ線路」および「第2の光ファイバ線路」に相当する。
そうすると,引用例2に記載された「ヘテロ・コア部14」は,本願補正発明のセンサ素子の「前記センサ素子は,前記第1のコアより直径が小さい第2のコアと,該第2のコアの外周に形成され前記第1のクラッドと直径が等しい第2のクラッドと,表面プラズモン共鳴現象を励起する金属薄膜とを有し,前記センサ素子の一方の端部の前記第2のコアおよび前記第2のクラッドが,第1の接続面において,前記第1の光ファイバ線路の他端の前記第1のコアおよび前記第1のクラッドに接続されており,前記センサ素子の他方の端部の前記第2のコアおよび前記第2のクラッドが,第2の接続面において,前記第2の光ファイバ線路の他端の前記第1のコアおよび前記第1のクラッドに接続されており,前記金属薄膜が,前記第1の接続面の近傍の前記第1の光ファイバ線路の他端の前記第1のクラッドの外周から,前記センサ素子の前記第2のクラッドの外周を越え,前記第2の接続面の近傍の前記第2の光ファイバ線路の他端の前記第1のクラッドの外周に設けられ」た構成を備えるものといえる。
そして,引用例1記載の発明におけるプラズモンセンサ装置と引用例2に記載されたプラズモン共鳴センサー10とは,共に,液体などの試料の屈折率を測定するためのものであり,光ファイバに接続されるセンサ部を有し,センサ部は光が通過する領域の表面に表面プラズモン共鳴現象を励起する金属薄膜を有するものである。
よって,引用例1記載の発明における,対向する一対の両面に表面プラズモン励起用の薄膜を有したセンサプレートよりなるセンサ部に代えて,引用例2に記載された上記構成を用いることは,当業者が容易になし得ることである。

オ 相違点4について
引用例1記載の発明において,ホルダ15A,15Bはセンサプレート13および光ファイバ11,12を保持するためのものである。またセンサを構成する各素子を確実に保持することは当然に要請されることである。よって,2つに分割されたホルダ15A,15Bを締結された状態に維持することは,当業者であれば適宜行い得る設計的事項である。
さらに,液体試料内部に配置して用いる光ファイバセンサに対して,その周囲を被測定溶液を濾過するフィルタ材で覆い,固体の付着防止やセンサの機械的な保護を図ることは,以下の周知例に示されるとおり本願出願前の周知技術である。
例えば,特開平07-072082号公報の【0012】,【0017】,図1には,被覆センサファイバ26よりなるプローブ16をメッシュケージよりなる保護性コンテナ42で包囲することで,被測定試料である流体を通過可能とし,かつプローブ16を機械的に保護することについて記載されている。
また特開平02-162243号公報の2頁左下欄10行?右下欄18行,図4には,光ファイバ1の液体検知部14および油検知部15のそれぞれに,固液分離フィルタ16および油水分離フィルタ17を取り付けることにより,被測定試料の浸透を可能とし,かつ砂やダストの侵入を防止することについて記載されている。
そして引用例1記載の発明においても,記載事項(ア-9)のとおり高分子薄膜によりセンサ部への浮遊粒子の付着防止が図られている。また引用例1記載の発明において,センサ部に対して被測定試料を通過させることは測定における当然のことである。
よって,引用例1記載の発明において,センサ部に対して被測定試料を通過させ,かつセンサ部に対する浮遊粒子の付着を防止するために,濾過フィルタを用いるようにし上記濾過フィルタの設置場所をホルダ15A,15Bの試料導入部である開口部とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

さらに,本願補正発明の有する効果である,リアルタイムでの測定が可能となること,被測定溶液のサンプリングが不要となること,計測したい位置での計測が可能となることについては,引用例1記載の発明および引用例2に記載された光ファイバに接続されたセンサ部によって同じく奏される効果であり,引用例1および引用例2の記載事項から当業者が予測できる範囲のものである。

以上のとおり,本願補正発明は引用例1記載の発明および引用例2の記載事項,並びに周知技術に基づき当業者が容易に想到し得るものといえる。

したがって,本願補正発明は引用例1記載の発明および引用例2の記載事項,並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明は特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)小括

以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第4項および第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

平成20年10月6日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1ないし請求項4に係る発明は,平成20年6月9日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。

「光ファイバからなる,光伝送路としての本線体と,前記本線体の中途に接続され,前記本線体のコアと径の異なるコアを有する光ファイバからなるセンサ素子と,前記センサ素子の外周に設けられた金属薄膜と,前記本線体の中途に固定され,前記センサ素子を内蔵するセンサヘッドとを有し,前記センサヘッドは,前記センサ素子に被測定溶液を導入させる導入路を有する光ファイバセンサ。」(以下,「本願発明」という。)

1 引用例およびその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用例1および引用例2の記載事項は,前記「第2 2(2)」に記載したとおりである。

2 対比・判断

本願発明は,前記「第2 2」で検討した本願補正発明から,「本線体」の限定事項である「一端が光源に接続される第1の光ファイバ線路と,一端が測定装置に接続される第2の光ファイバ線路と」との構成および「前記第1および第2の光ファイバ線路はそれぞれ,第1のコアと,該第1のコアの外周に形成された第1のクラッドと,該第1のクラッドの外周に形成されたカバー部材とを有し」との構成を省き,「センサ素子」の限定事項である「前記第1の光ファイバ線路の他端と前記第2の光ファイバ線路の他端との間に設けられた」との構成および「前記第1のコアより直径が小さい第2のコアと,該第2のコアの外周に形成され前記第1のクラッドと直径が等しい第2のクラッドと,表面プラズモン共鳴現象を励起する金属薄膜とを有し,前記センサ素子の一方の端部の前記第2のコアおよび前記第2のクラッドが,第1の接続面において,前記第1の光ファイバ線路の他端の前記第1のコアおよび前記第1のクラッドに接続されており,前記センサ素子の他方の端部の前記第2のコアおよび前記第2のクラッドが,第2の接続面において,前記第2の光ファイバ線路の他端の前記第1のコアおよび前記第1のクラッドに接続されており,前記金属薄膜が,前記第1の接続面の近傍の前記第1の光ファイバ線路の他端の前記第1のクラッドの外周から,前記センサ素子の前記第2のクラッドの外周を越え,前記第2の接続面の近傍の前記第2の光ファイバ線路の他端の前記第1のクラッドの外周に設けられており」との構成を省き,「センサヘッド」の限定事項である「ベース部材と,フィルタ部材とを有し,前記ベース部材は長手方向に沿って2つに分割されており,該2つに分割されたベース部材には,前記センサ素子を収容し,該収容されたセンサ素子の前記金属薄膜に被測定溶液を導入する前記導入部を規定する,開口部が形成されており,前記2つに分割された一方のベース部材の長手方向に,前記センサ素子の両側に位置する前記第1および第2の光ファイバ線路を固定する溝が形成されており,前記溝に前記第1および第2の光ファイバ線路を固定して,前記2つに分割された前記ベース部材が締結されており,前記開口部に前記導入部に導入される前記被測定溶液を濾過するフィルタ部材が設けられている」との構成を省くものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加し限定したたものに相当する本願補正発明が,前記「第2 2(3)」にて述べたとおり,引用例1記載の発明および引用例2の記載事項,並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用例1記載の発明および引用例2の記載事項,並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび

以上のとおり,本願発明は,引用例1記載の発明および引用例2の記載事項,並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-14 
結審通知日 2010-05-18 
審決日 2010-05-31 
出願番号 特願2003-174673(P2003-174673)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 572- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横尾 雅一  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 後藤 時男
横井 亜矢子
発明の名称 表面プラズモン共鳴現象型光ファイバセンサおよびこれを用いた測定方法  
代理人 佐藤 隆久  
代理人 佐藤 隆久  

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