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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1220552
審判番号 不服2008-15254  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-16 
確定日 2010-07-20 
事件の表示 特願2003-512682「過酸化水素蒸気処理技術のための中赤外分光法を用いるモニターおよび制御」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 1月23日国際公開、WO03/06963、平成16年11月18日国内公表、特表2004-534952〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年7月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理平成13年7月10日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成19年8月10日付け拒絶理由通知に対し、同年11月29日付けで意見書が提出されたが、平成20年3月7日付けで拒絶査定され、これに対し、同年6月16日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同年7月15日付けで手続補正されたものである。

第2 平成20年7月15日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成20年7月15日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正後の本願発明
本件補正により特許請求の範囲請求項1は、次のとおり補正された。

「【請求項1】過酸化物蒸気システムであって、該システムは、以下: 光源(30)であって、少なくとも中赤外範囲の成分を有する光を供給する光源; 手段(32、34)であって、(a)過酸化物蒸気によって吸収され、かつキャリア蒸気によっては吸収されない、中赤外範囲の第1の狭いスペクトル、(b)該キャリア蒸気によって吸収され、かつ該過酸化物蒸気によっては吸収されない、中赤外範囲の第2の狭いスペクトル、および(c)該過酸化物蒸気にも該キャリア蒸気にもいずれによっても吸収されない、中赤外範囲の第3のスペクトル、の中赤外範囲の光を個々に検出するための手段;ならびに 手段(40、42)であって、該中赤外範囲の該第1、第2および第3のスペクトルの検出された光から、少なくとも該過酸化物蒸気の濃度を決定するための手段、 を備える、システム。」

すると、本件補正は、
本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項に関し、
(1)「(a)過酸化物蒸気によって吸収される第1の狭いスペクトル、(b)キャリア蒸気によって吸収される第2の狭いスペクトル、および(c)該過酸化物蒸気にも該キャリア蒸気にもいずれによっても吸収されない第3のスペクトルの中赤外範囲の光を個々に検出するための手段」を、
「(a)過酸化物蒸気によって吸収され、かつキャリア蒸気によっては吸収されない、中赤外範囲の第1の狭いスペクトル、(b)該キャリア蒸気によって吸収され、かつ該過酸化物蒸気によっては吸収されない、中赤外範囲の第2の狭いスペクトル、および(c)該過酸化物蒸気にも該キャリア蒸気にもいずれによっても吸収されない、中赤外範囲の第3のスペクトル、の中赤外範囲の光を個々に検出するための手段」と限定し、
(2)「該中赤外範囲の検出された光から、少なくとも該過酸化物蒸気の濃度を決定するための手段」を、
「該中赤外範囲の該第1、第2および第3のスペクトルの検出された光から、少なくとも該過酸化物蒸気の濃度を決定するための手段」と限定したものを含むものである。

したがって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下、「平成18年法改正前」とする。)の特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)否かを、請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)について以下に検討する。

2.引用例
(1)原査定の拒絶理由通知で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平8-334460号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1-ア)「【特許請求の範囲】【請求項1】 過酸化水素蒸気及び水蒸気の両方を含むサンプルにおいて、水蒸気の存在下、下記ステップを含むことを特徴とする過酸化水素蒸気濃度の測定方法。
a)約1420nmの第1の領域における1つの波長での第1の吸光度並びに915?950,1350?1400及び1830?2000nmの領域の少なくとも1つの第2の領域から選択された少なくとも1つの波長での少なくとも1つの第2の吸光度を測定するステップ;
b)上記第1の吸光度から、第2の領域において測定された上記第2の吸光度から計算された水蒸気による吸光度を差し引いて、水蒸気に関し補正した約1420nmにおける第3の吸光度を得るステップ;そして
c)ビアーズの法則を用いて、上記第3の吸光度から過酸化水素の濃度を測定するステップ。」

(1-イ)「【0009】【発明が解決しようとする課題】本発明は水蒸気の存在下でガス状の過酸化水素濃度を正確に測定する。測定は迅速に、ほとんど連続的に行うことができ、測定装置は殺菌室に対して離れた場所に配置することができる。本発明によれば、過酸化水素の近赤外線スペクトルにおける吸光度は、過酸化水素が近赤外線で吸光することが知られている周波数、又は狭い周波数バンド、及びもっと広い波長範囲で測定される。水の濃度は他の周波数での吸光度測定から、あるいは上に述べたようなより広い波長で測定されたトータル・スペクトルに対する相関関係から同時に求められる。測定は、殺菌がなされた状態に従って、真空、大気圧又は大気圧より高い圧力のいずれでも行うことができ、過酸化水素濃度が殺菌を最適化するように調整されている場合は制御プロセスに組み込むこともできる。本発明は、特に殺菌条件下で、水蒸気の存在下で過酸化水素蒸気を分析する方法及びこれにより殺菌を最適化する方法を提供することを目的とする。
【0010】【課題を解決するための手段】本発明の1つの実施態様は、1420nmでの近赤外線の吸光度を測定するステップと、1350?1400、及び/又は1830?2000、及び/又は915?950nmの領域で測定を行い水分濃度を測定するステップと、1420nmでの吸光度から該吸光度に対する水分の貢献度を差引くステップと、そして、ビアーズの法則(Beer's law)を用いて1420nmでの残留吸光度から過酸化水素の濃度を求めるステップとで構成される。別の実施態様では、有機物蒸気の存在の検出及び測定は900?980、及び/又は1090?1290、及び/又は1550?1800nmの領域で行われ、その後、1420nmでの吸光度から有機物蒸気による関与分を差し引いて補正が行われる。更に別の実施態様においては、近赤外線スペクトルは900?2000nmの領域内での広い赤外線領域で測定され、測定されたスペクトルに対する多値統計手法を適用して得られた情報を用いて必要な情報が抽出される。
【0011】【発明の実施の形態】ここで述べる方法は近赤外線分光分析に基づいており、関連周波数の光は光ファイバーを通じて容易に送ることができるので、計器はサンプルから離れた場所に配置することができるという好ましい特長を有している。この発明は過酸化水素蒸気が1420nm近傍を中心とした近赤外線領域で強力な吸収を示すという観察結果に基づいている。水分による1420nmでの吸光度に対する貢献度は、過酸化水素が基本的には透過してしまう1350?1400,1830?2000及び915?950nmの領域のいずれか1つ又は複数の領域で水の吸光度を測定して計算することができる。後の2つの領域での水蒸気吸光度とその1420nmでの吸光度との間の既知の関係から、水蒸気による1420nm吸光度への貢献度を差し引いて、過酸化水素からだけの吸光度を求めることができる。そうすれば、ビアーズの法則を用いて、過酸化水素の濃度を計算することは簡単である。」

(1-ウ)「【0014】水の吸光度に関連した補正は、過酸化水素が光を透過させる1350?1400,1830?2000及び915?950nmの領域(つまり、これらの領域では過酸化水素による光の吸収はない)の少なくとも1つでその吸光度を測定することにより行われる。この吸光度は、上に述べた領域の1つの少なくとも1つの波長で測定する必要がある。また、上に述べた領域のいずれか1つ、又はすべてにおいて複数の測定を行うことも可能である。加えて、1つか又は複数の波長で吸光度測定を行うことも、あるいは上に述べた領域内のいくつかの波長バンドでの集積吸光度を測定することも可能である。どのモードが選択されようが、水の濃度は、その個別の吸光度が測定された波長での適切な吸光係数を用いるか、集積吸光度を測定した場合は集積吸光係数を用いて計算される。いずれの場合でも、上述のように測定された水分濃度と1420nmでの水の既知の吸光係数とを用いて、上に述べたような水の濃度から発生する1420nmでの吸光度を計算する。計算された水の濃度を1420nmで測定された吸光度から差し引くことによって、有機物蒸気による影響を除いて、過酸化水素のみによる吸光度を示す補正された吸光度を求めることができる。」

(1-エ)「【0016】1420nmの吸光度に対する水蒸気の関与が小さい場合、あるいは、過酸化水素の大体の濃度だけが必要な場合、1420nmでの吸光度をすべて過酸化水素のものとすることによって、上に述べたことはさらに単純にすることができる。明らかにこれは不正確なものであるが、しかし、目的によってはこうして得られた結果で十分である。
【0017】1420nmで発光を吸収する他の蒸気が存在している場合は、過酸化水素の測定に干渉が起きる可能性はある。実際的には、この領域であらゆる有機物は光を吸収するので、その結果として、有機溶剤の蒸気は一般的には上に述べたような測定に干渉する。しかしながら、こうした物質は過酸化水素も水も光を吸収しない近赤外線領域、特に900?980nm,1090?1290nm,1550?1800nm及び2100?2400nmの領域でも光の吸収を行う。したがって、干渉する有機物蒸気が存在する場合は、これらの他の領域での測定を行うことによって、過酸化水素及び水蒸気とは無関係に検出することができ、それによってその過酸化水素測定が無効であるかどうか、あるいは1420nmでの吸光度におおよその補正を行うべきかどうかを示すことができる。」

(1-オ)「【0024】例えば、上に述べたような補正を行うための補助的なソフトウエア・プログラムを用いてオンライン測定を行った場合、そのプログラムは過酸化水素蒸気発生装置に対して過酸化物濃度に比例した出力信号を発生させることができる。過酸化水素蒸気発声装置(当審注:「過酸化水素蒸気発生装置」の誤記といえる。)によって受信された信号と『セットポイント』信号、つまり一定の基準信号との間の差は、上に述べた信号がゼロになるまで、追加の過酸化水素蒸気を発生させるために役にたつ。要するに、この制御システムは電子的出力を有するモニタリング装置(ここではNIR分光計)、モニター用の電子出力を読み取って実際の過酸化水素蒸気レベルと望ましい(セット・ポイント)過酸化水素蒸気レベルとの差を、さらに過酸化水素を発生させるために過酸化水素発生装置に送られる電子的な信号に変換する制御器とを含む。」

(1-カ)「【0026】上の説明では特定の波長でそれぞれ個別に測定を行うことを述べた。同様の手順を900?2000nmの領域内の波長帯域での測定に適用することもできる。特に、上に領域内で濃度がわかっている過酸化水素及び水蒸気をいろいろな組み合わせで含んでいる一連のサンプルの近赤外線スペクトルを測定することができる。その場合、部分的最小二乗法、主成分回帰などの方法を用いて測定されたスペクトルと用いられている較正セットの成分の分かっている濃度との間の相関関係を求めることができる。どのような統計的手法が用いられようと、測定が行われる範囲内での最良の領域と、その測定における種々の成分のそれぞれの重量を有効に判定することができる。そうすれば、そうした統計的な相関関係が求められたのと同じ領域での未知のサンプルの近赤外線スペクトルを測定し、その未知のサンプルの測定された近赤外線スペクトルに較正セットを用いて得られた相関関係を用いて、過酸化水素蒸気の濃度を計算することができる。こうした方法は、上に述べた方法の拡張に過ぎず、その違いは、個々の周波数での吸光度や狭い領域での集積周波数を用いるのではなく、一定の周波数帯域で測定された近赤外線スペクトルに対して統計学的な手法が適用されることである。」

上記摘記事項(1-イ)記載の「関連周波数の光は光ファイバーを通じて容易に送ることができるので、」及び(1-カ)記載の「同様の手順を900?2000nmの領域内の波長帯域での測定に適用することもできる。」からみて、吸光度の測定は、900?2000nmの近赤外範囲の成分を有する光を供給する光源を用いていることが読み取れる。

上記摘記事項(1-イ)記載の「水分による1420nmでの吸光度に対する貢献度は、過酸化水素が基本的には透過してしまう1350?1400,1830?2000及び915?950nmの領域のいずれか1つ又は複数の領域で水の吸光度を測定して計算することができる。後の2つの領域での水蒸気吸光度とその1420nmでの吸光度との間の既知の関係から、水蒸気による1420nm吸光度への貢献度を差し引いて、過酸化水素からだけの吸光度を求めることができる。そうすれば、ビアーズの法則を用いて、過酸化水素の濃度を計算する」及び蒸気摘記事項(1-ウ)、(1-エ)及び(1-カ)の記載からみて、
(a)過酸化水素を吸収する1420nmでの近赤外線、(b)過酸化水素による光の吸収はない1350?1400,1830?2000及び915?950nmの領域の少なくとも1つ、(c)過酸化水素も水も光を吸収しない近赤外線領域である900?980nm,1090?1290nm,1550?1800nm及び2100?2400nmの領域、のそれぞれ個別に吸光度を測定する手段と、前記(a)?(c)で得られた吸光度を用いて過酸化物蒸気の濃度を決定する手段が読み取れる。

これらの記載事項によると、引用例1には、以下の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「過酸化水素蒸気レベルの制御システムであって、
900?2000nmの近赤外範囲の成分を有する光を供給する光源と、
(a)過酸化水素を吸収する1420nmでの近赤外線、
(b)過酸化水素による光の吸収はない1350?1400,1830?2000及び915?950nmの領域の少なくとも1つ、
および(c)過酸化水素も水も光を吸収しない近赤外線領域である900?980nm,1090?1290nm,1550?1800nm及び2100?2400nmの領域、
のそれぞれ個別に吸光度を測定する手段と、
前記(a)?(c)で得られた吸光度を用いて過酸化物蒸気の濃度を決定する手段
を備えたシステム」

(2)原査定の拒絶理由通知で引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平8-145879号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(2-ア)「【0006】【課題を解決するための手段】本発明では少なくとも1つの面が全反射プリズムになっているセルに試料溶液を入れ、その全反射プリズムに赤外域の測定光を入射させて全反射させ、その全反射プリズムと試料溶液との界面で生じる測定光の吸収のうち、1200?1500cm^(-1)及び2600?3000cm^(-1)に存在するいずれかの吸収ピークの吸光度を測定して過酸化水素を定量する。
【0007】本発明の過酸化水素定量測定装置は、試料溶液が入る空間を形成する壁面の少なくとも1つがその試料溶液液の屈折率より大きい屈折率をもつ材質からなる全反射プリズムとなっている全反射セルと、赤外光源を含み、全反射プリズムに赤外域の測定光を全反射が起こる入射角で入射させる入射光学系と、その全反射プリズムからの出射光を受光し、1200?1500cm^(-1)及び2600?3000cm^(-1)に存在する少なくとも1つの吸収ピークの吸光度を測定する測定光学系とを備えている。
【0008】全反射セルの形式としては、試料溶液を入れるための1つの開口のみを有するセルや、液流入口と液流出口を有し、試料溶液が流されるフローセルとすることができる。入射光学系に含まれる光源は連続した波長の光を発生する光源であり、入射光学系又は測定光学系に分光装置を含んでスペクトル測定を行なう。測定光は1200?1500cm^(-1)及び2600?3000cm^(-1)を含む中赤外領域の連続した波長光を含むものであり、光源としては蛍光ランプ、キセノンランプ、黒体放射源などを用いることができる。
【0009】全反射プリズムの材質としては、ZnSe、Ge、Si、Al2O3又はMgOなどを用いることができる。全反射プリズムのみがそのような材質であってもよく、その全反射プリズムを含む全反射セルの壁面全体がそのような材質で構成されていてもよい。」

(2-イ)「【0021】ZnSe結晶の全反射プリズムを備えた全反射セルを用いて測定した例を説明する。
(検量線の作成)30%の標準過酸化水素試薬(三徳化学工業 Lot 3018930428)を蒸留水で希釈し、10%、5%、3%、1%のそれぞれの過酸化水素標準試料を作成し、それらの標準試料と水の全反射吸収スペクトルを測定した。その結果のスペクトルを図5に示す。1%の標準試料のスペクトルは蒸留水のスペクトルに接近しているため、図示は省略されている。波数1388.2cm^(-1)と2831.9cm^(-1)の位置に過酸化水素の吸収ピークが観測されている。
【0022】図6は図5に示されるスペクトルのうちの1388.2cm^(-1)のピーク位置の吸光度を縦軸にとり、濃度を横軸に取って作成した過酸化水素検量線を示したものである。図7は図5に示されるスペクトルのうちの2831.9cm^(-1)のピーク位置の吸光度を縦軸にとり、濃度を横軸に取って作成した過酸化水素検量線を示したものである。
【0023】(試料測定)次に、これらの検量線を用いて市販の過酸化水素水を定量した例を次に示す。
(1)市販コンタクトレンズ洗浄液の測定:検量線作成用の測定時と同様にして、市販コンタクトレンズ洗浄液(コンセプトF(商品名):輸入元;バーンズハインド株式会社)(表示された濃度から2.98%と算出される)を測定して、図8中にで示された全反射吸収スペクトルを得た。は同様に測定した蒸留水の全反射吸収スペクトルである。
【0024】そのスペクトルの1388.2cm^(-1)のピーク位置の吸光度を算出し、図9に示されるように、図6の検量線に当て嵌めて過酸化水素濃度を推定すると3.11%となった。そのスペクトルの2831.9cm^(-1)のピーク位置の吸光度を算出し、図10に示されるように、図7の検量線に当て嵌めて過酸化水素濃度を推定すると3.18%となった。」

(2-ウ)図5には、蒸留水の全反射吸収スペクトルが描かれている。

3.対比・判断
本願補正発明と引用例1発明とを対比する。

(1)引用例1発明の「900?2000nmの近赤外範囲の成分を有する光を供給する光源」と、本願補正発明の「光源(30)であって、少なくとも中赤外範囲の成分を有する光を供給する光源」とは、「光源であって、少なくとも赤外範囲の成分を有する光を供給する光源」である点で共通する。

(2)引用例1発明の「(a)過酸化水素を吸収する1420nmでの近赤外線」と、
本願補正発明の「(a)過酸化物蒸気によって吸収され、かつキャリア蒸気によっては吸収されない、中赤外範囲の第1の狭いスペクトル」とは、
「(a)過酸化物蒸気によって吸収される赤外範囲の第1の狭いスペクトル」という点で共通する。

(3)引用例1発明の「(b)過酸化水素による光の吸収はない1350?1400,1830?2000及び915?950nmの領域の少なくとも1つ」と、
本願補正発明の「b)該キャリア蒸気によって吸収され、かつ該過酸化物蒸気によっては吸収されない、中赤外範囲の第2の狭いスペクトル」とは、
「b)該キャリア蒸気によって吸収され、かつ該過酸化物蒸気によっては吸収されない、赤外範囲の第2の狭いスペクトル」という点で共通する。

(4)引用例1発明の「(c)過酸化水素も水も光を吸収しない近赤外線領域である900?980nm,1090?1290nm,1550?1800nm及び2100?2400nmの領域」と、
本願補正発明の「(c)該過酸化物蒸気にも該キャリア蒸気にもいずれによっても吸収されない、中赤外範囲の第3のスペクトル」とは、
「(c)該過酸化物蒸気にも該キャリア蒸気にもいずれによっても吸収されない、赤外範囲の第3のスペクトル」という点で共通する。

(5)引用例1発明の(a)、(b)および(c)の「それぞれ個別に吸光度を測定する手段」と、
本願補正発明の(a)、(b)および(c)、の「中赤外範囲の光を個々に検出するための手段」とは、
(a)、(b)および(c)、の「赤外範囲の光を検出するための手段」という点で共通する。

(6)引用例1発明の「前記(a)?(c)で得られた吸光度を用いて過酸化物蒸気の濃度を決定する手段」と、
本願補正発明の「手段(40、42)であって、該中赤外範囲の該第1、第2および第3のスペクトルの検出された光から、少なくとも該過酸化物蒸気の濃度を決定するための手段」とは、
機能からみて、「手段(40、42)であって、該赤外範囲の該第1、第2および第3のスペクトルの検出された光から、少なくとも該過酸化物蒸気の濃度を決定するための手段」という点で共通する。

(7)引用例1発明の「過酸化水素蒸気レベルの制御システム」は、機能からみて、本願補正発明の「過酸化物蒸気システム」に相当する。

以上、(1)?(7)の考察から、両者は、

(一致点)
「過酸化物蒸気システムであって、該システムは、以下: 光源であって、少なくとも赤外範囲の成分を有する光を供給する光源; 手段であって、(a)過酸化物蒸気によって吸収される赤外範囲の第1の狭いスペクトル、(b)該キャリア蒸気によって吸収され、かつ該過酸化物蒸気によっては吸収されない、赤外範囲の第2の狭いスペクトル、および(c)該過酸化物蒸気にも該キャリア蒸気にもいずれによっても吸収されない、赤外範囲の第3のスペクトル、の赤外範囲の光を検出するための手段;ならびに 手段であって、該赤外範囲の該第1、第2および第3のスペクトルの検出された光から、少なくとも該過酸化物蒸気の濃度を決定するための手段、 を備える、システム。」

である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
第1の狭いスペクトルが、本願補正発明では、「過酸化物蒸気によって吸収され、かつキャリア蒸気によっては吸収されない」ものであるのに対し、引用例1発明では、「過酸化水素を吸収する1420nmでの近赤外線」であるものの、キャリア蒸気によって吸収されないか否かが不明である点。

(相違点2)
光源、及び、各手段で対象とされる赤外範囲が、本願補正発明では「中赤外」であるのに対し、引用例1発明では、「近赤外」である点。

(相違点3)
3種の赤外範囲の光を検出するための手段が、本願補正発明では、「光を個々に検出するための手段」であるのに対し、引用例1発明では、「それぞれ個別に吸光度を測定する手段」であり、各スペクトルを個々に検出できるか否かが不明である点。

4.当審の判断
上記(相違点1)について検討する。
赤外光に対する水の吸収特性として、近赤外及び中赤外領域において広い領域で吸収されることは本願の優先権主張の日前の周知の事項である。例えば、引用例2において、図5に蒸留水の吸収スペクトルが記載されている。
また、この図によると、本願の明細書の【0019】にある、「濃度センサーは、照明源30、好ましくは、中赤外範囲(すなわち、約2200?15,000ナノメートル(2.2?15ミクロン))の光を発生する照明源を備える。・・・第1の狭いスペクトル範囲(好ましくは、8,000ナノメートル(8ミクロン)に中心がある)は、過酸化水素によって吸収されるが、水蒸気によって吸収されないスペクトル範囲である。」に関して検討するに、水の吸収がどの領域にも発生していることが読み取れる。
したがって、上記周知の事項を参酌すると、本願補正発明の「(a)過酸化物蒸気によって吸収され、かつキャリア蒸気によっては吸収されない、中赤外範囲の第1の狭いスペクトル」は、実質的に、「(a)過酸化物蒸気によって吸収され、かつキャリア蒸気によっては吸収が少ない、中赤外範囲の第1の狭いスペクトル」ことを示しているといえる。
一方、引用例1には、上記摘記事項(1-エ)に「【0016】1420nmの吸光度に対する水蒸気の関与が小さい場合、あるいは、過酸化水素の大体の濃度だけが必要な場合、1420nmでの吸光度をすべて過酸化水素のものとすることによって、上に述べたことはさらに単純にすることができる。明らかにこれは不正確なものであるが、しかし、目的によってはこうして得られた結果で十分である。」とあるように、水の吸収が過酸化水素に比べ、相対的に少ない波長での測定を行っていることが読み取れる。
したがって、本願補正発明の、「過酸化物蒸気によって吸収され、かつキャリア蒸気によっては吸収されない」ものと、引用例1発明の「過酸化水素を吸収する1420nmでの近赤外線」との間に実質的な相違はない。

上記(相違点2)について検討する。
引用例2には、上記摘記事項(2-ア)及び(2-イ)の記載から、赤外線を用いた過酸化水素の定量装置において、過酸化水素の吸収ピークが波数1388.2cm^(-1)と2831.9cm^(-1) に存在することから、測定光として1200?1500cm^(-1)及び2600?3000cm^(-1)を含む中赤外領域の連続した波長光を用いて測定する技術が記載されている。
また、引用例1において、上記摘記事項(1-イ)記載の「【0009】・・・本発明によれば、過酸化水素の近赤外線スペクトルにおける吸光度は、過酸化水素が近赤外線で吸光することが知られている周波数、又は狭い周波数バンド、及びもっと広い波長範囲で測定される。水の濃度は他の周波数での吸光度測定から、あるいは上に述べたようなより広い波長で測定されたトータル・スペクトルに対する相関関係から同時に求められる。」とあるのみで、特に測定に用いる光の領域として、近赤外の範囲を採用することによる格別の技術的意義が記載されておらず、引用例1発明及び本願補正発明とは、各構成からみて、波長領域の違いによって測定原理が異なるともいえない。
よって、引用例1発明において、検出に用いる赤外範囲として、近赤外範囲に代えて、引用例2のように中赤外範囲を適用し、本願補正発明のようにすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

上記(相違点3)について検討する。
複数の赤外領域の吸収度を測定する技術分野において、複数の赤外領域を個々に検出することは、本願の優先権主張の日前に周知の技術である。
例えば、特開2000-171394号公報には、「【0044】請求項16は本発明による好ましい装置を定めており、この装置は光源と、監視通路(L)と、検出出力信号を与える検出器の形態をした測定手段と、ビール-ランベルトの方程式を出力信号に適用することで高精度に真の濃度を導き出すコンピュータ手段とを含む。請求項5に記載されたようにこの較正測定は、測定試料と同じ流体媒体を含有するが被測定物質の実質的に少ない基準試料を通して伝達された光を検出する検出器によって行われ、この検出器は第1および第2波長(単数または複数)においてそれぞれ光の強さを測定するように適用される。試料ならびに基準試料を通して伝達された光の強さを測定することにより、また得られた値をビール-ランベルトの方程式に適用することにより、試料の吸光度は第1および第2波長の各々において決定することができる。」と記載され、また、
特開平1-244341号公報には、「【特許請求の範囲】(1)流入する流体試料中のオゾン、塩素、2酸化硫黄、2酸化窒素、有機浮遊物、ごみ粉塵等の物質(オゾン以外を妨害物質と総称する)をそれぞれに応じて分解あるいは吸着あるいはろ過することによりこれらの物質を含まない流体試料として送出するオゾン分解器と;低圧水銀ランプと;流体試料を通過させながら該試料に低圧水銀ランプの発する光を受けて吸収、透過させる光吸収セルと;オゾン分解器を通過させた流体試料と通過させない流体試料とを切り替えて光吸収セルへ供給する手段と;光吸収セルからの透過光のうち波長が253.7nmの光を検出する第1の光検出器と;光吸収セルからの透過光のうち波長が184.9nmの光を検出する第2の光検出器と;第1の光検出器と第2の光検出器とから、流体試料をオゾン分解器に通したときの出力信号と通さないときの出力信号を受けて、ランベルト・ベールの法則により、(オゾン+妨害物質)の濃度から妨害物質の濃度を差し引いたオゾン濃度を算出する計算手段と;を具備することを特徴とする光吸収式オゾン濃度測定器。」と記載されている。

したがって、引用例1発明の3種の赤外範囲の光を検出するための手段として、「それぞれ個別に吸光度を測定する手段」に代えて、上記周知の光を個々に検出するものを採用することは、当業者であれば容易になし得ることである。

そして、本願補正発明の奏する効果についても、引用例1、2及び上記周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものである。

なお、請求人は、当審における審尋に対する平成22年1月26日付け回答書において、「2.1 本願発明の特徴をより明確にするために、本願出願人は、特許請求の範囲を以下のとおり補正することを希望」する旨の主張をし、請求項1等において、温度、過酸化物蒸気濃度及びキャリア蒸気濃度から飽和パーセントを決定するための手段を限定した補正案を示している。

しかしながら、上記飽和パーセントを決定するための手段に相当するものは、例えば、米国特許第5872359号に開示されているように周知の構成であり、上記補正案によってもその進歩性があるとはいえない。
ゆえに、上記主張は採用できない。

よって、本願補正発明は、引用例1発明、引用例2に記載された発明、及び、上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができない。

5.本件補正についての結び
以上のとおり、本件補正は、平成18年法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成20年7月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1乃至23に係る発明は、出願当初の特許請求の範囲の請求項1乃至23に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】過酸化物蒸気システムであって、該システムは、以下:
光源(30)であって、少なくとも中赤外範囲の成分を有する光を供給する光源;
手段(32、34)であって、(a)過酸化物蒸気によって吸収される第1の狭いスペクトル、(b)キャリア蒸気によって吸収される第2の狭いスペクトル、および(c)該過酸化物蒸気にも該キャリア蒸気にもいずれによっても吸収されない第3のスペクトルの中赤外範囲の光を個々に検出するための手段;ならびに
手段(40、42)であって、該中赤外範囲の検出された光から、少なくとも該過酸化物蒸気の濃度を決定するための手段、
を備える、システム。」

2.引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1は、前記「第2[理由]2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、上記「第2[理由]」で検討した本願補正発明から、
(1)「(a)過酸化物蒸気によって吸収され、かつキャリア蒸気によっては吸収されない、中赤外範囲の第1の狭いスペクトル、(b)該キャリア蒸気によって吸収され、かつ該過酸化物蒸気によっては吸収されない、中赤外範囲の第2の狭いスペクトル、および(c)該過酸化物蒸気にも該キャリア蒸気にもいずれによっても吸収されない、中赤外範囲の第3のスペクトル、の中赤外範囲の光を個々に検出するための手段」とあったところ、「(a)過酸化物蒸気によって吸収される第1の狭いスペクトル、(b)キャリア蒸気によって吸収される第2の狭いスペクトル、および(c)該過酸化物蒸気にも該キャリア蒸気にもいずれによっても吸収されない第3のスペクトルの中赤外範囲の光を個々に検出するための手段」と、
(2)「該中赤外範囲の該第1、第2および第3のスペクトルの検出された光から、少なくとも該過酸化物蒸気の濃度を決定するための手段」とあったところ、「該中赤外範囲の検出された光から、少なくとも該過酸化物蒸気の濃度を決定するための手段」と各々の限定を除いたものである。

そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の限定的な発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2[理由]3.」に記載したとおり,引用例1発明、引用例2に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものである以上、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-02-23 
結審通知日 2010-02-24 
審決日 2010-03-09 
出願番号 特願2003-512682(P2003-512682)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横尾 雅一  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 後藤 時男
居島 一仁
発明の名称 過酸化水素蒸気処理技術のための中赤外分光法を用いるモニターおよび制御  
代理人 安村 高明  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  

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