• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1221053
審判番号 不服2007-31415  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-21 
確定日 2010-08-06 
事件の表示 特願2003- 93621「インスタントメッセージングシステム,インスタントメッセージングサーバー及び携帯端末」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月28日出願公開、特開2004-302763〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成15年3月31日の出願であって,平成19年7月27日付けで拒絶理由が通知され,同年9月27日に手続補正書及び意見書が提出され,同年10月17日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年11月21日に審判請求がされるとともに,手続補正書が提出されたものである。

第2 平成19年11月21日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定

補正却下の決定の結論

本件補正を却下する。

理由

1 補正の内容

本件補正により,特許請求の範囲は,以下のように補正された。なお,下線は,補正された部分を示すものとして,手続補正書に表示されたものを援用したものである。

≪本件補正前≫

「【請求項1】 複数のクライアント端末と、これら各クライアント端末と通信ネットワークを介して接続し、これら各クライアント端末に対して、前記各クライアント端末間のデータ通信をリアルタイムで中継するメッセージングサービスと、各クライアント端末のプレゼンス情報を配信するプレゼンスサービスとからなるインスタントメッセージングサービスを提供するインスタントメッセージングサーバーとからなるインスタントメッセージングシステムにおいて、
前記各クライアント端末には、当該端末の位置情報を取得する位置情報取得手段と、得られた位置情報をインスタントメッセージングサーバーへ送信する送信手段とが設けられており、前記インスタントメッセージングサーバーは、前記位置情報をプレゼンス情報としてクライアント端末へ配信する配信手段と、前記クライアント端末から受け付けた検索要求に応じて、その要求元の前記クライアント端末が存在する場所から距離的に近い別のクライアント端末を、前記位置情報に基づいて検索する検索手段とを有することを特徴とするインスタントメッセージングシステム。
【請求項2】 前記検索の際の検索条件として、市区町村名や前記要求元の現在位置からの距離条件を含む複数種類の検索条件が使用可能であることを特徴とする請求項1記載のインスタントメッセージングシステム。
【請求項3】 前記クライアント端末へ配信される位置情報は、市区町村名であることを特徴とする請求項1又は2記載のインスタントメッセージングシステム。
【請求項4】 複数のクライアント端末と通信ネットワークを介して接続し、これら各クライアント端末に対して、前記各クライアント端末間のデータ通信をリアルタイムで中継するメッセージングサービスと、各クライアント端末のプレゼンス情報を配信するプレゼンスサービスとからなるインスタントメッセージングサービスを提供するインスタントメッセージングサーバーにおいて、
各クライアント端末から送信されるそれぞれの端末の位置情報を受信し、この位置情報をプレゼンス情報として他のクライアント端末へ配信する配信手段と、前記クライアント端末から受け付けた検索要求に応じて、その要求元の前記クライアント端末が存在する場所から距離的に近い別のクライアント端末を、前記位置情報に基づいて検索する検索手段とを有することを特徴とするインスタントメッセージングサーバー。
【請求項5】 前記検索の際の検索条件として、市区町村名や前記要求元の現在位置からの距離条件を含む複数種類の検索条件が使用可能であることを特徴とする請求項4記載のインスタントメッセージングサーバー。
【請求項6】 インスタントメッセージングサービスを提供するインスタントメッセージングサーバーと通信ネットワークを介して接続し、他の端末との間でリアルタイムでメッセージ交換が可能な携帯端末において、
当該端末の位置情報を取得する位置情報取得手段と、得られた位置情報を前記インスタントメッセージングサーバーへ送信する位置情報送信手段と、前記サーバから配信される他の端末の位置情報を受信してその情報を表示する表示手段と、当該端末が存在する場所から距離的に近い別のクライアント端末を、前記位置情報に基づいて検索するように前記インスタントメッセージングサーバーに対して要求する検索要求手段とを備えたことを特徴とする携帯端末。
【請求項7】 前記検索の際の検索条件として、市区町村名や前記要求元の現在位置からの距離条件を含む複数種類の検索条件が使用可能であることを特徴とする請求項6記載の携帯端末。」

≪本件補正後≫

「【請求項1】 複数のクライアント端末と、これら各クライアント端末と通信ネットワークを介して接続し、これら各クライアント端末に対して、前記各クライアント端末間のデータ通信をリアルタイムで中継するメッセージングサービスと、各クライアント端末のプレゼンス情報を配信するプレゼンスサービスとからなるインスタントメッセージングサービスを提供するインスタントメッセージングサーバーとからなるインスタントメッセージングシステムにおいて、
前記各クライアント端末には、当該端末の位置情報を取得する位置情報取得手段と、得られた位置情報をインスタントメッセージングサーバーへ送信する送信手段とが設けられており、前記インスタントメッセージングサーバーは、前記位置情報をプレゼンス情報としてクライアント端末へ配信する配信手段と、前記クライアント端末から受け付けた検索要求に応じて、その要求元の前記クライアント端末が存在する場所から距離的に近い別のクライアント端末を、前記位置情報に基づいて検索する検索手段とを有し、
前記位置情報に加えて、前記検索の際の検索条件として、前記要求元付近の市区町村名や前記要求元の現在位置からの距離条件を含む複数種類の検索条件が使用可能であることを特徴とするインスタントメッセージングシステム。
【請求項2】 前記クライアント端末へ配信される位置情報は、市区町村名であることを特徴とする請求項1記載のインスタントメッセージングシステム。
【請求項3】 複数のクライアント端末と通信ネットワークを介して接続し、これら各クライアント端末に対して、前記各クライアント端末間のデータ通信をリアルタイムで中継するメッセージングサービスと、各クライアント端末のプレゼンス情報を配信するプレゼンスサービスとからなるインスタントメッセージングサービスを提供するインスタントメッセージングサーバーにおいて、
各クライアント端末から送信されるそれぞれの端末の位置情報を受信し、この位置情報をプレゼンス情報として他のクライアント端末へ配信する配信手段と、前記クライアント端末から受け付けた検索要求に応じて、その要求元の前記クライアント端末が存在する場所から距離的に近い別のクライアント端末を、前記位置情報に基づいて検索する検索手段とを有し、
前記位置情報に加えて、前記検索の際の検索条件として、前記要求元付近の市区町村名や前記要求元の現在位置からの距離条件を含む複数種類の検索条件が使用可能であることを特徴とするインスタントメッセージングサーバー。
【請求項4】 インスタントメッセージングサービスを提供するインスタントメッセージングサーバーと通信ネットワークを介して接続し、他の端末との間でリアルタイムでメッセージ交換が可能な携帯端末において、
当該端末の位置情報を取得する位置情報取得手段と、得られた位置情報を前記インスタントメッセージングサーバーへ送信する位置情報送信手段と、前記サーバーから配信される他の端末の位置情報を受信してその情報を表示する表示手段と、当該端末が存在する場所から距離的に近い別のクライアント端末を、前記位置情報に基づいて検索するように前記インスタントメッセージングサーバーに対して要求する検索要求手段とを備え、
前記位置情報に加えて、前記検索の際の検索条件として、前記要求元付近の市区町村名や前記要求元の現在位置からの距離条件を含む複数種類の検索条件が使用可能であることを特徴とする携帯端末。」

2 新規事項の追加について

(1)特許法第17条の2第3項の規定によれば,拒絶査定不服審判を請求する場合の補正(特許法第17条の2第1項第4号に規定する期間内にする補正)は、願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしなければならない。

そこで,本件補正後の請求項1の「前記位置情報に加えて、前記検索の際の検索条件として、前記要求元付近の市区町村名や前記要求元の現在位置からの距離条件を含む複数種類の検索条件が使用可能である」との事項(以下「本件補正事項」という。)が当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであるかを以下に検討する。

(2)本件補正事項についての審判請求人の主張の概要

審判請求人は,平成19年11月21日提出の審判請求書において,本件補正事項の意味内容について以下のとおり釈明している。

「4.「検索条件として市区町村名を指定すること」の釈明
請求項1のように、サーバーが端末からの位置情報(GPS情報)に基づいて、その端末の近くにある他の端末を検索する際に、例えば、距離情報やエリア情報などの何らかの検索範囲がサーバーに予め登録されていることが考えられます。
このような場合には、端末で「検索条件として市区町村名を指定すること」や、距離条件を指定することで、サーバーに予め登録されている検索範囲の絞込みを行うことが可能になります。
例えば、第1に、サーバーに予め登録されている検索範囲が距離情報に基づく場合、サーバーは、まず、受信した位置情報(GPS情報)に基づいて検索範囲を特定します。この検索範囲内に、複数の市区町村名が含まれている場合には、検索条件として入力された市区町村名によってその検索範囲の絞込みが行われることになります。
また、第2に、サーバーに予め登録されている検索範囲がエリア情報に基づく場合、サーバーは、まず、受信した位置情報(GPS情報)に基づいて検索範囲を特定します。この検索範囲が、端末から受信した距離条件よりも大きい場合には、端末から受信した距離条件によって検索範囲の絞込みが行われることになります。」

(3)当初明細書等に記載された事項

当初明細書等には,本件補正事項に関連する事項として,以下の事項が記載されている。

「【0027】
上記実施形態では、IMサービスとして、登録されたメンバー間のメッセージ交換と、プレゼンス情報の配信とを例に説明してきたが、IMシステムでは、メンバー検索サービスも実用化されている。メンバー検索サービスとは、IMサーバー12に登録されているユーザーの中から、指定した検索条件に合致するユーザーを抽出するサービスである。この場合には、ユーザープロファイル情報に、例えば、性別,年齢,関心のある分野などといった情報が予め登録される。そして、クライアント端末から、性別=男性,年齢=20代,関心のある分野=音楽などといった検索条件を入力して、これをIMサーバーへ送信する。すると、IMサーバーが、ユーザープロファイル情報を参照して、その検索条件に合致するユーザーを抽出する。そして、抽出されたユーザーのリストが、クライアント端末へ配信される。抽出されたリストを受信したユーザーは、リストアップされたユーザーから承認が得られれば、そのユーザーをメンバーとして登録して、メッセージ交換をすることができる。
【0028】
上記IMメッセージングシステムの位置情報を利用すれば、このメンバー検索サービスをさらに充実させることができる。すなわち、検索条件として、位置情報を加えることで、自分が現在いる場所の近くにいるユーザーを検索することが可能になる。この場合には、例えば、検索条件としては、「渋谷」,「青山」,「麻布」などといった市区町村名や、「現在位置から半径3km以内」といった距離条件が入力される。さらに、抽出範囲を、登録済みのメンバーに限定できるようにしてもよい。こうした検索条件がIMサーバーに送信されると、IMサーバーは、プレゼンス情報格納ファイルを参照して、その検索要件と合致するユーザーを抽出し、抽出したユーザーリストをクライアント端末へ配信する。」

(4)当審の判断

前記第2,2,(2)を見るに,審判請求人は,本件補正事項は,受信した位置情報(GPS情報)に基づいて検索範囲を特定し,この検索範囲内に,複数の市区町村名が含まれている場合には,検索条件として入力された市区町村名によってその検索範囲の絞込みを行うような検索が行われる旨を示したものと主張している。
そこで,審判請求人のかかる主張を参酌すると,本件補正事項にいう,「加えて」という記載は,受信した位置情報(GPS情報)と入力された要求元付近の市町村名の両方の情報を1回の他の端末の検索において使用することを示した記載であると認められる。
一方,前記第2,2,(3)を見るに,当初明細書等には,「例えば、検索条件としては、「渋谷」,「青山」,「麻布」などといった市区町村名や、「現在位置から半径3km以内」といった距離条件が入力される。」との記載があり,ユーザーによって他の端末を検索するために入力される検索条件の具体例として「「渋谷」,「青山」,「麻布」などといった市区町村名」や「「現在位置から半径3km以内」といった距離条件」が挙げられている。
ここで,かかる検索条件に基づく検索について検討すると,距離条件に関する「現在位置から半径3km以内」については,位置情報にあたる現在地位置の情報と,距離条件にあたる半径3km以内という情報の両方を使用して検索が行われるものであるものの,市区町村名に関する「「渋谷」,「青山」,「麻布」」については,市区町村名の情報のみが使用されて検索が行われるものであり,位置情報と市区町村名の両方の情報を1回の他の端末の検索において使用して行われるものではない。
また,かかる市区町村名の情報による検索が,審判請求人が主張するような,受信した位置情報(GPS情報)に基づいて特定された検索範囲を絞込むために行われることについても,当初明細書等には,何ら開示が存在しない。
さらに,当初明細書等のその他の記載を参照しても,上記のような技術的意義を示唆する記載は見当たらない。
そうすると,当初明細書等には,位置情報に「加えて」,要求元付近の市区町村名を含む複数種類の検索条件が使用可能であることについての開示が存在しないと認められる。

以上のことから,本件補正事項を含む本件補正は,当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであるから,当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められない。

したがって,本件補正は,平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3 独立特許要件違反について

(1)本件補正は,本件補正前の請求項1,4,6を削除することにより,本件補正前の請求項2,5,7をそれぞれ新たな請求項1,3,4とするとともに,かかる請求項の削除によって繰り上がることにより,本件補正前の請求項3を新たな請求項2とし,さらに,検索の際の検索条件を「前記位置情報に加えて」使用するものと限定し,かつ,市区町村名を「要求元付近の」市区町村名と限定するものである。

そうすると,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号及び第2号に規定する請求項の削除及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するといえる。

そこで,次に,以下に再掲する本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(独立特許要件)について,検討する。

「【請求項1】 複数のクライアント端末と、これら各クライアント端末と通信ネットワークを介して接続し、これら各クライアント端末に対して、前記各クライアント端末間のデータ通信をリアルタイムで中継するメッセージングサービスと、各クライアント端末のプレゼンス情報を配信するプレゼンスサービスとからなるインスタントメッセージングサービスを提供するインスタントメッセージングサーバーとからなるインスタントメッセージングシステムにおいて、
前記各クライアント端末には、当該端末の位置情報を取得する位置情報取得手段と、得られた位置情報をインスタントメッセージングサーバーへ送信する送信手段とが設けられており、前記インスタントメッセージングサーバーは、前記位置情報をプレゼンス情報としてクライアント端末へ配信する配信手段と、前記クライアント端末から受け付けた検索要求に応じて、その要求元の前記クライアント端末が存在する場所から距離的に近い別のクライアント端末を、前記位置情報に基づいて検索する検索手段とを有し、
前記位置情報に加えて、前記検索の際の検索条件として、前記要求元付近の市区町村名や前記要求元の現在位置からの距離条件を含む複数種類の検索条件が使用可能であることを特徴とするインスタントメッセージングシステム。」

ここで,「前記要求元付近の市区町村名や前記要求元の現在位置からの距離条件を含む複数種類の検索条件」との記載について,明細書の詳細な説明中においては,「例えば、検索条件としては、「渋谷」,「青山」,「麻布」などといった市区町村名や、「現在位置から半径3km以内」といった距離条件が入力される。」(段落【0028】参照。)と説明されており,検索条件として,市区町村名もしくは距離条件のいずれか一方を使用して検索を行うことが開示されるのみであるから,「前記要求元付近の市区町村名や前記要求元の現在位置からの距離条件」との記載における「や」は,択一的選択を示した記載と解釈され,上記記載は,要求元付近の市区町村名「または」要求元の現在位置からの距離条件を含む複数種類の検索条件を意味するものと認定される。

(2)引用例の記載内容と引用発明

ア 原査定の拒絶理由に引用された,本願の出願日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2003-58482号公報(平成15年2月28日出願公開。以下「引用例」という。)には,図とともに,次の記載がある。なお,下線は当審で付加したものである。

(ア)「【0010】【課題を解決するための手段】上記の問題を解決し目的を達成するために,本発明は,以下の処理過程もしくは手段を備える。
【0011】本発明にかかる方法は,携帯可能な端末を所持する不特定のユーザ同士がリアルタイムに文字情報などのやり取りを行えるチャットルームを提供する方法であって,特定の位置に対応づけたエリアチャットルームへのアクセスを管理する処理過程と,前記端末から,当該端末の現在位置もしくはユーザにより指定された位置を付加した前記エリアチャットルームへの入室要求を受け付け,前記現在位置もしくは指定位置を範囲に含むエリアチャットルームがある場合には,該当するエリアチャットルームへの入室処理を行う入室処理過程と,前記端末から当該端末の位置を付加した発言要求を受け付け,前記端末の位置を付加した発言を前記エリアチャットルームの他の参加者の端末に対して配信する発言受付処理過程と,前記端末から当該端末の位置更新情報の通知を受け付け,前記位置更新情報を前記エリアチャットルームの他の参加者の端末に対して配信する位置更新情報配信処理過程とを備えることを特徴とする。」

(イ)「【0020】【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態を説明する。
【0021】図1に,本発明を実現するシステムの構成例を示す。エリアチャットセンタに設けられたエリアチャット管理装置1では,渋谷,新宿など特定の場所(位置情報)に対応づけて設定した一または複数のチャットルーム110を管理する。端末3は, 携帯電話網やインターネットなどの通信網を介してエリアチャット管理装置1と通信できる所持携行が可能な形態の端末である。本形態では,端末3は携帯電話であり,エリアチャット管理装置1との通信は携帯電話網またはインターネットを用いるとする。」

(ウ)「【0068】図10に端末3の構成例を示す。端末3は,キー制御部301,処理振分部302,入室処理部303,場所指定部304,送信処理部305,発言処理部306,位置情報更新処理部307,ルーム作成処理部308,プッシュ通知部309,状態管理部310,受信処理部311,処理振分部312,解析部313,メッセージ表示部314,位置表示部315,GPS受信部316を持つ。」

(エ)「【0073】送信処理部305は,各処理部から受け取ったメッセージや情報をエリアチャット管理装置1へ送信する手段である。」

(オ)【0084】GPS受信部316は,ユーザの現在位置の緯度経度高度をGPSから受信する手段である。」

(カ)「【0141】(7)位置情報の動的通知設定処理
1.処理振分部302は,位置情報の動的通知を希望するユーザからの端末3のキー操作(位置情報通知設定の選択)をキー制御部301を通じて受け付け,位置情報更新処理部307へ処理を渡す。
【0142】2.位置情報更新処理部307では,メニューを表示して,位置情報を更新する間隔,または,メール送受信もしくは通話終了の契機で位置情報を更新するかなどの設定の入力をユーザに促す。
【0143】3.位置情報更新処理部307では,ユーザにより設定された間隔もしくは契機を登録しておき,その間隔もしくは契機をもとに状態管理部310を通してGPS受信部316から位置情報(緯度経度高度)を取得する。
【0144】4.取得した位置情報を含む図11に示す位置更新情報320をエリアチャット管理装置1へ送信する。
【0145】5.ユーザがチャット中,すなわちチャットルーム110へ入室中の場合には,エリアチャット管理装置1の発言受付処理部106では,受け付けた位置更新情報320のルームIDを参照して,該当するチャットルーム110のログイン管理部111へ位置更新情報320を振り分ける。
【0146】振り分けられたログイン管理部111では,送信処理部113を通じて位置更新情報320を他の参加者の端末3へ送信し,またルームプロパティ123の該当する参加者の位置情報と最新更新時刻とを更新する。
【0147】6.ユーザがプッシュ通知希望を設定をしている場合には,エリアチャット管理装置1で受信された位置更新情報320の位置情報はプッシュ管理部103に渡され,プッシュ管理部103では,プッシュ希望者203のユーザ情報の位置情報を更新する。」

イ そうすると,引用例には,

「エリアチャットセンタに設けられ,一または複数のチャットルームを管理するエリアチャット管理装置と,携帯電話網やインターネットなどの通信網を介してエリアチャット管理装置と通信できる所持携行が可能な形態の端末とから構成されるシステムであって,
前記エリアチャット管理装置は,携帯可能な端末を所持する不特定のユーザ同士がリアルタイムに文字情報などのやり取りを行えるチャットルームを提供し,
前記端末は,送信処理部,GPS受信部を持ち,前記送信処理部は,各処理部から受け取ったメッセージや情報をエリアチャット管理装置へ送信する手段であり,また,前記GPS受信部は,ユーザの現在位置の緯度経度高度をGPSから受信する手段であり,状態管理部を通して前記GPS受信部から位置情報(緯度経度高度)を取得し,当該取得した位置情報を含む位置更新情報をエリアチャット管理装置へ送信し,
前記エリアチャット管理装置は,送信処理部を通じて当該位置更新情報を他の参加者の端末へ送信する
ことを特徴とするシステム。」(以下「引用発明」という。)

が記載されていると認められる。

(3)対比

ア 引用発明の「端末」は,本願補正発明の「クライアント端末」に相当する。そして,引用発明のシステムは,携帯可能な端末を所持する不特定のユーザ同士によるやり取りを行うためのものであるから,当該「端末」が,本願補正発明と同様に「複数」存在することを予定するものであるといえる。
イ 引用発明においては,端末とエリアチャット管理装置は,携帯電話網やインターネットなどの通信網を介して接続されているから,引用発明の端末とエリアチャット管理装置は,本願補正発明と同様に「通信ネットワークを介して接続」されているといえる。
ウ 引用発明のエリアチャット管理装置は,携帯可能な端末を所持する不特定のユーザ同士がリアルタイムに文字情報などのやり取りを行えるチャットルームを提供しているから,本願補正発明と同様に「これら各クライアント端末に対して、前記各クライアント端末間のデータ通信をリアルタイムで中継するメッセージングサービス」を提供しているといえる。
エ 引用発明の「位置情報」は,端末を所持携帯するユーザの位置を示す情報であるから,本願補正発明の「プレゼンス情報」に相当する。
オ 引用発明のエリアチャット管理装置は,参加者から取得した位置情報を含む位置更新情報を送信処理部を通じて他の参加者の端末へ送信しているから,本願補正発明と同様に「各クライアント端末のプレゼンス情報を配信するプレゼンスサービス」を提供しているといえる。
カ 上記ウ,オに見るように,引用発明のエリアチャット管理装置は,本願補正発明の「メッセージングサービス」と「プレゼンスサービス」に相当するサービスを提供する装置であるから,本願補正発明の「インスタントメッセージングサーバー」に相当する。
キ 引用発明の「システム」は,携帯可能な端末を所持する不特定のユーザ同士がリアルタイムに文字情報などのやり取りを行うためのシステムであるから,本願補正発明と同様に「インスタントメッセージングシステム」であるといえる。
ク 引用発明の「GPS受信部」は,ユーザの現在位置の緯度経度高度をGPSから受信して取得する手段であるから,本願補正発明の「端末の位置情報を取得する位置情報取得手段」に相当する。
ケ 引用発明の端末は,情報をエリアチャット管理装置へ送信する手段である送信処理部を備え,取得した位置情報を位置更新情報に含めてエリアチャット管理装置へ送信している。そうすると,引用発明における端末の「送信処理部」は,得られた位置情報をエリアチャット管理装置へ送信する手段であるから,本願補正発明の「送信手段」に相当する。
コ 引用発明のエリアチャット管理装置は,送信処理部を通じて,位置情報を含む位置更新情報を他の参加者の端末へ送信している。そうすると,引用発明におけるエリアチャット管理装置の「送信処理部」は,端末に位置情報を配信する手段であるから,本願補正発明の「配信手段」に相当する。

(4)一致点と相違点について

そうすると,本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は,次のとおりと認められる。

ア 一致点

「複数のクライアント端末と,これら各クライアント端末と通信ネットワークを介して接続し,これら各クライアント端末に対して、前記各クライアント端末間のデータ通信をリアルタイムで中継するメッセージングサービスと,各クライアント端末のプレゼンス情報を配信するプレゼンスサービスとからなるインスタントメッセージングサービスを提供するインスタントメッセージングサーバーとからなるインスタントメッセージングシステムにおいて,
前記各クライアント端末には,当該端末の位置情報を取得する位置情報取得手段と,得られた位置情報をインスタントメッセージングサーバーへ送信する送信手段とが設けられており,前記インスタントメッセージングサーバーは,前記位置情報をプレゼンス情報としてクライアント端末へ配信する配信手段を有する
ことを特徴とするインスタントメッセージングシステム。」

イ 相違点

本願補正発明では,インスタントメッセージングサーバーが,クライアント端末から受け付けた検索要求に応じて,その要求元の前記クライアント端末が存在する場所から距離的に近い別のクライアント端末を,前記位置情報に基づいて検索する検索手段を有し,前記位置情報に加えて,前記検索の際の検索条件として,前記要求元付近の市区町村名や前記要求元の現在位置からの距離条件を含む複数種類の検索条件が使用可能であるのに対し,引用発明では,そのような手段が具備されているのかが,明らかでない点。

(5)判断

原査定時に周知例として示された,特開2002-271839号公報に見るように,複数のクライアント端末の位置情報を管理するシステムにおいて,クライアント端末から,距離的に近い別のクライアント端末を検索する要求を,自分の現在位置からの距離を含む複数種類の検索条件の指定とともに受信し,それを受けて,該当する別のクライアント端末の情報を当該要求元クライアント端末に返信することは,当業者においては,周知の技術的事項である(段落【0023】?【0025】を参照のこと。段落【0024】には,「自分の現在位置からの距離及び検索対象グループ」という自分の現在位置からの距離を含む複数種類の検索条件に基づいて,別のクライアント端末の検索を行うことが開示されている。)。
そうすると,引用発明において,かかる周知の技術的事項を適用し,相違点にかかる構成とすることは,当業者が適宜なし得たことといえる。

したがって,本件補正発明は,引用発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,その作用効果も引用発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。
よって,本願補正発明は,特許法第29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(6)まとめ

以上の次第で,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法第126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により,却下すべきものである。

第3 本願発明

1 本願発明の内容

以上のとおり,本件補正(平成19年11月21日に提出された手続補正書による補正)は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正前の請求項1(平成19年9月27日に提出された手続補正書により補正された請求項1)に記載されたとおりのものであり,以下に再掲する。

「【請求項1】 複数のクライアント端末と、これら各クライアント端末と通信ネットワークを介して接続し、これら各クライアント端末に対して、前記各クライアント端末間のデータ通信をリアルタイムで中継するメッセージングサービスと、各クライアント端末のプレゼンス情報を配信するプレゼンスサービスとからなるインスタントメッセージングサービスを提供するインスタントメッセージングサーバーとからなるインスタントメッセージングシステムにおいて、
前記各クライアント端末には、当該端末の位置情報を取得する位置情報取得手段と、得られた位置情報をインスタントメッセージングサーバーへ送信する送信手段とが設けられており、前記インスタントメッセージングサーバーは、前記位置情報をプレゼンス情報としてクライアント端末へ配信する配信手段と、前記クライアント端末から受け付けた検索要求に応じて、その要求元の前記クライアント端末が存在する場所から距離的に近い別のクライアント端末を、前記位置情報に基づいて検索する検索手段とを有することを特徴とするインスタントメッセージングシステム。」

2 引用例の記載内容と引用発明

引用例の記載内容と引用発明は,第2,3,(2)において認定したとおりである。

3 対比・判断

第2,3,(1)で述べたように,本願補正発明は,本願発明に限定的減縮を加えたものである。逆に言えば,本件補正前の発明(本願発明)は,本願補正発明から,この限定をなくしたものである。
そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定したものである本願補正発明が,前記第2,3,(5)において検討したとおり,引用発明及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものということができる。

4 むすび

以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-07 
結審通知日 2010-06-09 
審決日 2010-06-22 
出願番号 特願2003-93621(P2003-93621)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 561- Z (G06F)
P 1 8・ 572- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 寺谷 大亮  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 小林 義晴
須田 勝巳
発明の名称 インスタントメッセージングシステム,インスタントメッセージングサーバー及び携帯端末  
代理人 小林 和憲  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ