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審決分類 審判 一部無効 発明同一  A43B
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A43B
審判 一部無効 特29条特許要件(新規)  A43B
審判 一部無効 2項進歩性  A43B
管理番号 1221082
審判番号 無効2009-800183  
総通号数 129 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-09-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-08-21 
確定日 2010-08-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第4135991号発明「運動靴用スタッド」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第4135991号の請求項1に係る発明についての出願は、1998年2月20日(パリ条約による優先権主張1997年2月20日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成20年6月13日にその発明について特許の設定登録がなされた。
これに対し、平成21年2月6日に他の請求人(ソフトスパイクス,エルエルシー)により無効審判の請求がなされた。その後、平成21年8月21日に請求人(株式会社スポーツティエムシー)により無効審判の請求がなされ、当審において平成21年9月11日付けで前記した他の請求人による無効審判の請求と本件無効審判の請求について併合審理とする旨の通知がなされ、平成21年12月14日に被請求人(グリーンキーパーズ・オブ・デラウェアー・エルエルシー)より答弁書が提出され、平成22年3月12日に請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、さらに、平成22年3月12日に被請求人より口頭審理陳述要領書が提出されたものである。
そして、平成22年3月12日に口頭審理が行われ、平成22年3月25日に請求人より上申書が提出され、平成22年3月26日に被請求人より上申書が提出され、平成22年4月12日付けで併合審理を分離する旨の通知がなされたものである。


II.本件特許発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
ゴルフ靴用スタッドにおいて、外面及び内面を持つ本体部材と、前記内面から外方に突出した、前記スタッドを前記ゴルフ靴のソケットに固定するようになった靴取り付け部材とを有し、前記靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、
前記外面の周囲に亘って突出した複数の歯状突起を有し、これらの歯状突起の各々は外面を有し、この外面は前記靴取り付け部材の側から見て前記軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなしており、ゴルフスイングの平面に亘る横方向安定性及び高められたトラクションを提供する、ことを特徴とするゴルフ靴用スタッド。」


III.請求人及び被請求人の主張の概略
A.請求人の主張
請求人は以下のとおり主張している。
主張1
無効理由1.請求人は甲第1号証を提出して、本件特許発明1は、未完成発明を含むものであり、特許法第29条第1項柱書にいう「発明」にあたらないため、特許を受けることができないものである。従って、本件特許発明1は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

無効理由2.請求人は甲第1号証を提出して、本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載を参酌してもその記載が不明確であり、特許法第36条第6項の規定に反し特許を受けることができないものである。従って、本件特許発明1は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

無効理由3.請求人は甲第2号証乃至甲第17号証を提出して、本件特許発明1は、甲第2号証乃至甲第15号証、甲第16号証に記載の周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。従って、本件特許発明1は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

無効理由4.請求人は甲第18号証を提出して、本件特許発明1は、甲第18号証として示された先願明細書に記載の発明と実質的に同一のものであるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。従って、本件特許発明1は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

主張2
本件特許に係る出願は優先権を主張できないものであるから進歩性の判断に甲第16号証も含めることができるものである。

〈証拠方法〉
甲第1号証:編集兼発行者 下中邦彦、「国民百科事典 6」、株式会社平凡社、1962年4月15日発行、第68頁及び第69頁
甲第2号証:実願昭62-158409号(実開平1-63407号)のマイクロフィルム
甲第3号証:米国特許第2095095号明細書
甲第4号証:編集兼発行者 下中邦彦、「国民百科事典 4」、株式会社平凡社、1961年11月15日発行、第274頁
甲第5号証:米国特許第4402145号明細書
甲第6号証:米国意匠特許第351495号
甲第7号証:実願平5-38124号(実開平7-3305号)のCD-ROM
甲第8号証:実願昭61-65175号(実開昭62-177305号)のマイクロフィルム
甲第9号証:米国特許第5029405号明細書
甲第10号証:特開平5-199909号公報
甲第11号証:米国意匠特許第373675号
甲第12号証:米国意匠特許第371896号
甲第13号証:特開昭58-81002号公報
甲第14号証:実公昭63-81号公報
甲第15号証:特公平7-85721号公報
甲第16号証:特開平9-187307号公報
甲第17号証:PCT/US98/02259のINTERNATIONAL SEARCH REPORT
甲第18号証:特開平10-179211号公報


B.被請求人の主張
これに対して、被請求人は以下のとおり主張している。
主張1
無効理由1に対して
本件特許発明1は、未完成発明を含むものであり、特許法第29条第1項柱書にいう「発明」にあたらない、という請求人の主張には理由がない。

無効理由2に対して
本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載を参酌してもその記載が不明確であり、特許法第36条第6項の規定に反し特許を受けることができない、という請求人の主張には理由がない。

無効理由3に対して
本件特許発明1は、甲第2号証乃至甲第15号証、甲第16号証に記載の周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである、という請求人の主張には理由がない。

無効理由4に対して
本件特許発明1は、甲第18号証として示された先願明細書に記載の発明と実質的に同一のものであるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである、という請求人の主張には理由がない。

主張2
進歩性の判断に甲第16号証を含める主張は請求理由の要旨を変更するものであるから認められない。


IV.当審の判断
A.「III.A.主張2」の主張について
審判請求書には、「7.請求の理由」において、本件特許に係る出願は優先権を主張できないものであることが記載されていない。
そして、「7.請求の理由」の「(3)無効審判請求の根拠」として「本件発明は、甲第2号証ないし甲第15号証に記載の発明及び周知慣用技術に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。」(第22頁第12行?同第15行)と記載し、「(4)本件特許を無効にすべき理由」として「甲第16号証は、… その出願公開の時点は本件特許の優先日後であるが、甲第16号証の優先日は本件特許の優先日よりも前であり、本件特許の優先日前における技術水準を参酌する上での資料として、及び、甲第7号証及び甲第8号証を補強する証拠として用いることができる。」(第29頁第16行?同第20行)と記載し、「(5)むすび」として、「即ち、請求項1に記載の本件発明は、(i)甲第2号証?甲第6号証に記載されている … 複数のスタッドを、一体として甲第7号証及び甲第8号証(さらには本件特許の優先日前における技術水準を示す甲第16号証)に記載されているとおりの置換方法を適用すること、… 」(第40頁第11行?同第15行)と記載しており、甲第16号証は、「本件特許の優先日前における技術水準を示す」ものとされている。
以上のことから、審判請求書の請求理由として、「本件特許に係る出願は優先権を主張できないものであるから進歩性の判断に甲第16号証も含めることができるものである」ことが、含まれていたとは認められない。
よって、請求人の主張2は、請求理由の要旨を変更するものであるから、認められない。


B.「III.A.主張1」の主張について
1.無効理由1について
請求人は、本件特許発明1の『「歯状突起」の「歯」が仮に人の「歯」を意味するものであるとしても、甲第1号証に示すように、… 各種の形状が存在し、まして歯を有する動物(脊椎動物)は広範囲に及び「歯状」であれば全て本件発明の作用効果を発揮するものとは到底考えられず、それらを何ら特定しない本件発明は発明として成立し得ないものを含み、本件発明は未完成である。』(審判請求書第23頁第10行?同第15行)とし、特許法第29条第1項柱書の規定により「発明」にあたらないから、同法第123条第1項第2号に基いて無効とすべきであると主張している。
しかし、本件明細書には、「歯状突起」について、「本発明は、ゴルフ靴用スタッドに関し、更に詳細には、耐久性プラスチック材料で形成されており、外方に角度をなしたトラクション歯状突起(traction teeth)が設けられたゴルフ靴用スタッド又はスパイクに関する。」(第2頁第44行?同第46行)と記載されているから、本件特許発明において、「歯状突起」は明確に特定できるものであり、人や動物の歯についての歯状突起を含まないことは明らかである。
そして、本件明細書には、「本発明は、低プロファイル疑似四角錐形「トラクション歯状突起」を使用するゴルフ靴用スタッドを提供する。疑似四角錐形が好ましいけれども、他の幾何学的形状を使用できる。 … ゴルフスイング中にトラクション及び横方向安定性を提供するため、… 突出している。」(第3頁第15行?同第21行)としており、「歯状突起」について、形状は明確に特定されていないが、例示はされており、「歯状突起」の作用、効果についての記載もある。
よって、「歯状突起」の形状が明確に特定されていないことをもって、本件特許発明1が未完成発明であるとまでは言うことができない。

したがって、請求人の主張する無効理由1は、理由がない。

2.無効理由2について
請求人は、本件特許発明1の『「歯状突起」の「歯」が仮に人の「歯」を意味するものであるとしても、甲第1号証に示すように、… 各種の形状が存在し、まして歯を有する動物(脊椎動物)は広範囲に及びそれらを何ら特定しない本件特許発明の記載は不明確である。なお、「歯状突起」と関連して、明細書の詳細な説明において『低プロファイル疑似四角錐形「トラクション歯状突起」』という説明があるものの、請求項の記載とは不一致であり、その意味するところは依然として不明瞭であり、特許請求の範囲に記載された特許を受けようとする発明の技術内容を特定することができず、特許を受けようとする発明が不明確である。』(審判請求書第23頁第19行?同第23行)とし、特許法第36条第6項の規定に反し特許を受けることができないものであると主張している。
しかし、本件明細書には、「歯状突起」について、「本発明は、ゴルフ靴用スタッドに関し、更に詳細には、耐久性プラスチック材料で形成されており、外方に角度をなしたトラクション歯状突起(traction teeth)が設けられたゴルフ靴用スタッド又はスパイクに関する。」(第2頁第44行?同第46行)と記載されているから、本件特許発明において、「歯状突起」は明確に特定できるものであり、人や動物の歯についての歯状突起を含まないことは明らかである。
確かに、請求人が主張しているように、「本発明は、低プロファイル疑似四角錐形「トラクション歯状突起」を使用するゴルフ靴用スタッドを提供する。疑似四角錐形が好ましいけれども、他の幾何学的形状を使用できる。 … ゴルフスイング中にトラクション及び横方向安定性を提供するため、… 突出している。」(第3頁第15行?同第21行)と記載され、当該記載から、「歯状突起」について、形状は明確に特定されていない。しかし、「トラクション歯状突起」としての「歯状突起」が例示されているといえる。
よって、本件特許発明1の「歯状突起」が明細書の発明の詳細な説明に記載されてないとまでは言うことができない。また、「歯状突起」の形状が明確に特定されていないことをもって、本件特許発明1が明確でないとまでは言うことができない。

したがって、請求人の主張する無効理由2は、理由がない。

3.無効理由3について
(イ)甲第2号証乃至甲第15号証の記載事項
(2)甲第2号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(2-a)「1.考案の名称
山岳コース用ゴルフシューズ
2.実用新案登録請求の範囲
(1)靴かかとの内側より後方及び外側の小指手前までの範囲に傾斜面を付る。その面に市販のスパイクを適当に(本図の場合7本)取付る。
(2)…
3.考案の詳細な説明
山岳コースでは従来の平底のかかとでは斜面ぞいに歩行する事が困難である。従つて靴底の体重がかかる周囲に本案の斜面に接着する部分をスパイク付きで補足しないと負傷し易い。」(明細書第2行?第13行)

以上の記載事項及び図面の図示内容からみて、甲第2号証には、次のものが記載されていると認められる。
山岳コース用ゴルフシューズにおいて、靴底の靴かかとの内側より後方及び外側の小指手前までの範囲に傾斜面を付け、その面に市販のスパイクを外方に向けて角度をなすように取り付けること。

(3)甲第3号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(3-a)「This invention relates to extension spikes and more particularly to replaceable spikes of this character, particularly adapted for use on sport shoes especially as used by golfers.」(第1頁左欄第1行?同第4行)『本発明は延伸スパイク、特に着脱可能なスパイクに関するものであり、運動靴、特にゴルファーによって使用されるものに関するものである。』(『』内は当審による仮訳。以下同様。)
(3-b)「The present invention seeks to provide improved and readily replaceable extension spikes of the character indicated.」(第1頁左欄第15行?同第17行)『本発明は、改良されて容易に着脱可能なスパイクを提供する。』
(3-c)「Referring to the drawing, and with particular reference to Figures 2 and 3, the sole10 of the shoe is shown as being provided, in spaced relation to its edge11, with a member12 having a hollow shank13 which passes through the sole and is permanently secured thereto as by means of the flange14.」(第1頁左欄第48行?同第54行)『図面、特に図2と図3を参照して、靴底10は、その縁部11において、靴底を貫通し、フランジ14により永久的に固定される空洞の軸部13を備える部材12を有している。』
(3-d)「This spike comprises a plate16 adapted to be superimposed over the member12 and may have an integral calk or spike formed on its end, or, as shown, may be provided with a removable calk17 which may be outwardly directed, as illustrated, at right angles to the plane of the sole, or inwardly directed.」(第1頁右欄第3行?同第9行)『このスパイクは、部材12上に重なるプレート16を備え、プレート端部に形成された一体の滑り止め金又はスパイクを有していてもよく、あるいは図示されているように、外側に向かって延びる、あるいは靴底の面に対して直角に延びる、あるいは内側に向かって延びる、着脱可能な滑り止め金17を有していてもよい。』
(3-e)「From the above it can be seen that the extension spike includes two calks, namely 17 and 21.」(第1頁右欄第27行?同第29行)『上記からわかるように、延伸スパイクは二つの滑り止め、すなわち、滑り止め金17,21を含んでいる。』

上記(3-d)の記載事項と図面、Fig2及び4の図示内容からみて、靴底に取り付けられるプレートの外面から突出する滑り止め金が外面を有し、当該外面がプレートの内面側から見て、プレートを靴底に固定するためのネジ部あるいはスクリュースタッドの軸線方向線に対して外方に向けて角度をなしているといえる。

以上の記載事項及び図面の図示内容からみて、甲第3号証には、次の2つのものが記載されていると認められる。
ゴルファーによって使用される靴において、靴底の縁部に取り付けられるプレートの外面から突出する滑り止め金が外面を有し、当該外面が、プレートの内面側から見て、プレートを靴底に固定するためのネジ部あるいはスクリュースタッドの軸線方向線に対して外方に向けて角度をなしていること、及び、ゴルファーによって使用される靴において、靴底の縁部に取り付けられるプレートの外面から突出する滑り止め金が外面を有し、当該外面が、プレートの内面側から見て、プレートを靴底に固定するためのネジ部あるいはスクリュースタッドの軸線方向線に対して、外方、平行又は内方に、それぞれ向けて角度をなしていること。

(4)甲第4号証には、以下の事項が下段のイラストとともに記載されている。
(4-a)「スパイクシューズ spike shoes
底にスパイク(くぎ)の打ってある競技用のくつ。… ゴルフ用がある。… ゴルフ用はスパイクが他のものより短く鈍いのがふつうである。…」(第274頁「スパイクシューズ」の欄)

下段のイラストには「靴底の前方部分の周囲に形成された複数のスパイクの外面が靴底を載置した平面からみて外方に角度を有していること、即ち、下に凸となるように湾曲した靴底に取着されたスパイクが、外方を向くこと」が記載されている。

以上の記載事項及び図面の図示内容からみて、甲第4号証には、次のものが記載されていると認められる。
ゴルフ用スパイクシューズにおいて、下に凸となるように湾曲した靴底に取着されたスパイクが、外方を向くこと。

(5)甲第5号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(5-a)「ABSTRACT
Athletic shoes, especially soccer shoes are known comprising a tread sole of rubber or another material having rubber-elastic properties, which sole is provided at least partially with nubs uniformly distributed over the tread and forming a unit with the tread sole, the longitudinal axes of these nubs being aligned obliquely with respect to the sole surface. 」(第1頁右欄第4行?同第11行)『要約
運動靴、特にサッカー靴は、靴底がゴム又はゴム様の柔軟素材から構成されたものとして知られており、それらの靴底には突起がむらなく配置された部分を有しており、靴底に突起のユニットを有している。そして、それらの突起の長手方向の軸は、靴底の平面から傾斜するように形成されている。』
(5-b)「According to the example shown in FIG. 1, the expansion groove 3 is surrounded by the obliquely outwardly oriented nubs 8」(第2欄第49行?同第51行)『図1の例示によると、拡張溝3は斜め外方を向いた突起8によって囲まれている。』
(5-c)「The angle α of inclination of the marginal nubs 8, 15, 16 is preferably 20°-40°, especially 30°.」(第4欄第1行?同第2行)『周縁突起の傾きの角度αは、好ましくは20゜-40゜、特に30゜である。』

以上の記載事項及び図面の図示内容からみて、甲第5号証には、次のものが記載されていると認められる。
運動靴、特にサッカー靴において、靴底に、靴底の平面から傾斜した突起を有すること。

(6)甲第6号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(6-a)「SHOE SOLE」(第1頁左欄第1行)『靴底』

以上の記載事項及び図面の図示内容からみて、甲第6号証には、次のものが記載されていると認められる。
靴底と一体的に突設された滑り止め突起が靴の前方部分の周囲及びかかとの部分の周囲それぞれに亘って複数形成されており、それらの滑り止め突起の各々の外面は、靴の側から見て外方に向けて角度をなしていること。

(7)甲第7号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(7-a)「【課題を解決するための手段】
本考案は前記課題を解決するために、スウィング中の軸足の踵部を中心とした回転運動を疎外しないよう軸足の踵部に回転体を固着したゴルフシューズに係るものである。
… 該靴底取り付け部の凹部とスパイク取り付け部の凸部との間に前記摩擦低減機構を挟持せしめて止着部材で止着した構成からなる。
スパイク取り付け部にはスパイク取り付けナットが埋設されており、交換式のスパイクを着脱自在に螺着するか、若しくは固定式スパイクを用いる場合には、前記スパイク取り付け部に台座付きスパイクを埋設し一体化することも可能である。
本考案に係るゴルフシューズは、上記のように構成された回転体の靴底取り付け部を軸足ゴルフシューズの踵部、つまり右利きのゴルファーの場合は左足の、逆に左利きのゴルファーの場合には右足のゴルフシューズの踵部に固着した構成からなる。
… 」(段落【0004】)
(7-b)「 …
本考案に係るゴルフシューズは、上記のように形成された各構成部材を図2、図3及び図4に示すように止着ビス5、止着ナット8、ワッシャ7を用いて止着一体化し、回転体としたものをゴルフシューズの左足踵部に公知の方法で固着した構成からなる。
… 」(段落【0006】)

図面の図示内容からみて、スパイク取り付け部は、複数のスパイクを備え、靴底の一部となるといえる。

以上の記載事項及び図面の図示内容からみて、甲第7号証には、次のものが記載されていると認められる。
ゴルフシューズにおいて、靴底取り付け部に、複数のスパイクを備え、靴底の一部となるスパイク取り付け部を止着部材で止着すること。

(8)甲第8号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(8-a)「(考案が解決しようとする問題点)
ゴルフシューズは可成り嵩ばり又重量もあるため携帯に不便であり、更に靴の履き替えも仲々面倒なものである。そのために従来練習場えの往復用とゴルフ練習用に使用できるように、靴底にスパイク板を着脱できる構造のゴルフ靴が、例えば前記従来技術など使用されているが、スパイク板の着脱には手間がかかり、また構造が複雑であって比較的高価であるという欠点があった。
(問題点を解決するための手段)
本考案は前記問題点を解決するために、ゴルフ靴のスパイク板着脱構造において、スパイクを植設したスパイク板と靴底に設けた該スパイク板の装着部材との両方又は一方を磁性体で別体に構成し自在にスパイク板を着脱する構造とした。」(明細書第2頁第20行?第3頁第14行)

図面の図示内容からみて、スパイク板は、複数のスパイクが周縁部に植設されており、ビスにより着脱自在とし、靴底の一部となるといえる。

以上の記載事項及び図面の図示内容からみて、甲第8号証には、次のものが記載されていると認められる。
ゴルフシューズにおいて、複数のスパイクを周縁部に植設したスパイク板を、ビスにより靴底に着脱自在とし、靴底の一部となること。

(9)甲第9号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(9-a)「CLEAT FOR BOOT SOLE AND THE LINK
BACKGROUND OF THE INVENTION
The present invention relates generally to cleats or calks for use on the soles of boots and the like, and more particularly to a novel cleat or calk which provides improved gripping and longer life over prior cleats and calks.
It is a common practice to enhance the ground gripping characteristics of numerous types of footwear through the mounting of cleats, spikes or calks on their soles. The ground gripping characteristics of certain sporting event shoes, such as golf shoes, are conventionally improved by mounting conical spike-like elements on the soles. The spikes generally have threaded shanks which enable releasable threaded mounting in receptacles or anchor inserts secured to the soles in spaced patterns. Similar type spikes have been employed with mountain climbing boots and boots used by loggers, forestry workers and hunters.」(第1欄第1行?同第21行)『靴底用滑り止め
発明の背景
本発明は、靴底に使用する鋲又は滑り止め金に関するものであり、特に従来の鋲又は滑り止め金よりも滑り止め効果が強く耐久性に優れた新規な鋲又は滑り止め金に関するものである。
各種の履物による地面との滑り止め効果を工場させるために、それらの靴底に鋲、スパイク又は滑り止め金を設けることは一般的に行われていることである。例えばゴルフ靴のように、特定のスポーツを行う際の履物による地面との滑り止め効果は、従来、靴底に円錐形のスパイクを設けることで向上させている。それらのスパイクには通常雄ネジが設けられており、靴底に所定間隔で設けられた雌ネジ部に着脱可能とされている。同様のタイプのスパイクは、登山ブーツや、きこり、林業就業者、およびハンターによって使用されるブーツに使われていた。』
(9-b)「One of the primary objects of the present invention is to provide an improved cleat or calk for use with boot soles and the like and which results in enhanced gripping and wear life characteristics over prior cleats or calks.
A more particular object of the present invention is to provide an improved cleat or calk which finds particular application with boots and the like such as worn by loggers, forestry workers and hunters and the like, and which provides improved safety on substantially all terrain surfaces at relatively modest cost.」(第1欄第51行?同第61行)『本発明の目的の1つは、従来の鋲又は滑り止め金よりも滑り止め効果が強く耐久性に優れた、改良された靴底に使用する鋲又は滑り止め金を、提供することである。
また、本発明の、さらなる目的は、きこり、林業就業者、およびハンターなどによって使い古されたようなブーツなどに特に使用され、比較的安価で実質的にすべての地形表面で安全な、改良された靴底に使用する鋲又は滑り止め金を、提供することである。』
(9-c)「In the embodiment illustrated in FIGS. 1 and 2, the cleat or calk is shown as being affixed to the lower surface 12a of a boot sole, a fragmentary portion of which is indicated at 12, and includes a generally cup-shaped spike member 14 and a mounting shank portion 16.」(第3欄第17行?同第22行)『図1及び図2に例証された具体化では、鋲又は滑り止め金が靴底面12aに添付された状態が示されており、断片的な部分は12で示され、一般にカップ状のスパイク・メンバー14及び取付軸部16を含んでいる。』

以上の記載事項及び図面の図示内容からみて、甲第9号証には、次のものが記載されていると認められる。
きこり、林業就業者、およびハンター用の靴底において使用される鋲又は滑り止め金であって、カップ状のスパイク・メンバー及び取付軸部を含んでいること。

(10)甲第10号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(10-a)「【産業上の利用分野】本発明は、スポーツ靴用のスパイク金具に関する。本発明によるスパイク金具は、円板から成るタイプであり、この円板の下部には、靴底のねじを切った孔に固定されるねじを切った心棒が作られている。本発明は、ねじ切り心棒によって固定するスパイク金具に限定されず、靴底本体の中に固定あるいははめ込み、または固着のような他のすべての方法で装備されるスパイク金具にも同じように適用される。」(段落【0001】)
(10-b)「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、スポーツ靴、特に自然状態、乾いたあるいは湿った状態の土の上で使用されるゴルフ靴用のスパイク金具を実現することである。提起された課題は、土を損傷することなく良好な安定性を確保するために土の中に申し分なく食い込むと共に、同じスパイク金具によって、乾いた土地の上で、使用者の良好な安定性を得るという課題である。実際に知られているスパイク金具、特に乾いた土地に関してフランス特許第8515471号に記載されているスパイク金具を用いると、土の中へのスパイク金具の食い込みは行われず、この結果、使用者は、どんなに動いても、あるいはどんなに努力しても不安定な状態にある。
本発明によると、同じ靴を使用しながら、使用者はもっと良い密着性、もっと良い支持、もっと大きな安定性を得ることのできる新しいスパイク金具を取り付けることができるので、使用者は土に一層近い状態にある。その上、本発明によると、支持面が土との接触点の4倍またはそれ以上になるように、しかもさらに広い面それ自体になるように配分されているので、歩行の快適さは非常に改善される。
本発明の目的は、ねじで留める円板の上方にわずかの高さ、および土との重要な接触面を備えたスポーツ靴用のスパイク金具を実現することである。本発明の他の目的は、土への食い込みが容易で、靴底の下の土地が砕けるのを避けると共に、潜在性のある土塊の分割を容易にし、物質のもぎ取りを避けるようなスパイク金具を実現することである。そのために、靴底に固定する形式による円板をそなえた本発明によるスポーツ靴用のスパイク金具は、この円板上に、1つ以上の間隔によって分離された錐体状の複数のスパイクが形成され配置されており、またこれらのスパイクの円板表面からの高さはそれらの底部の長さに等しいか、その近くにあることに本質的な特徴がある。」(段落【0005】?【0007】)
(10-c)「【実施例】
実施例1図1に示すように、本発明によるスパイク金具は、靴裏に固定する方式で装備される円板1から成っている。好ましいのは円板1が円形であることであり、図1および2の例では平板状である。靴底に固定する手段は、円板の中央下部のねじを切った心棒2から成っていて、この心棒は底の対応するねじを切った孔とかみ合う。靴底に固定する他のすべての手段がそれにもかからず本発明の枠から出ることなく適用できるのは勿論である。このようにして、円板を底本体の中にはめ込み、または固着し、あるいは底本体と一緒に鋳造することもできる。円板1上にスパイク3が配置され配分される。
本発明によると、円板1には直径を横切る同じ中央軸上に配置された少なくとも2つのスパイク3を取り付けるのが望ましい。スパイクは互いに(単数)あるいは互いに(複数)離れ、1つ以上の間隔4によって分離されている。本発明によると、スパイク3は、頂点5または立体角および稜によって結合された多くの面6を備えた多角錐体の形状をしている。スパイク3は、その面6が等しいか否かに応じて、規則的なまたは不規則的な多角錐体によって構成され、またさらに一般的にはピラミッド状の形状をしている。スパイクは規則的なまたは不規則的な四角錐体の形状をすることもできる。
図1および2に示したような実施態様のスパイク金具では、スパイクは全部で4つあり、円板の直交する2つの軸に従って2つずつ向かい合って配置され、またこれらスパイクの間には十字の形をした間隔4が付けられていて、この隔間4の中にはねじ締めスパナのためのくぼみ7があけられている。この実施態様によると、スパイクは不規則な多角錐体の形状をしており、円板1の中心の方を向いたスパイクの内側6A-6Bは稜8が円板1の線に達する外側の面6よりも重要である。この事実から、多角錐体の頂点5は外側の方にずれている。多角錐体の形状をしたスパイクの間隔をおいたこの配置によって、スパイクと土との接触面が増加する利点が得られ、その上、内側または外側の稜8の作用によってスパイクの食い込みおよび地面の分割が同時に容易になる利点が得られ、この結果、スパイクの間に土の塊が形成されるのが避けられる。土との接触面が増加するのに応じて、既知のスパイクの高さよりも低い高さのスパイクを作ることができる。」(段落【0009】?【0011】)

図面図1及び図2の図示内容からみて、「円板」は外面及び内面を持つといえる。

上記(10-c)の記載事項と図面図1及び図2の図示内容からみて、「心棒2」は「円板」の内面から外方に突出しているといえ、その中心を通過する軸線方向線(AL)を有するといえる。

上記(10-c)の記載事項と図面図1及び図2の図示内容からみて、「スパイク金具」は複数の「スパイク」を有し、当該「スパイク」は「円板」の外面の周囲に亘って突出して配置されているといえる。

以上の甲第10号証の実施例1に関する記載事項と図面図1、図2の図示内容から、本件特許発明1の記載に即してみると、甲第10号証には、次の発明(以下、「甲第10号証記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
「ゴルフ靴用のスパイク金具において、外面及び内面を持つ円板と、前記内面から外方に突出した、前記スパイク金具を前記ゴルフ靴の靴底のねじを切った孔に固定するようになった心棒とを有し、前記心棒の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、
前記外面の周囲に亘って突出した複数のスパイクを有し、これらのスパイクの各々は外側の面を有している、ゴルフ靴用のスパイク金具。」

(11)甲第11号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(11-a)「PYRAMID RIDGE GOLF SHOE SPIKE」(第1頁左欄第1行)『ピラミッド形突起ゴルフ靴用スパイク』

以上の記載事項及び図面の図示内容からみて、甲第11号証には、次のものが記載されていると認められる。
ゴルフ靴用スパイクにおいて、外面及び内面を持つ本体部材と、前記内面から外方に突出した、前記スパイクを前記ゴルフ靴のソケットに固定するようになった靴取り付け部材とを有し、前記靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、前記外面の周囲に亘って突出した複数のピラミッド形突起を有し、これらのピラミッド形突起の各々は外面を有し、この外面は前記靴取り付け部材の側から見て前記軸線方向線(AL)に対して内方に向けて角度をなし、ピラミッド形突起の頂部は靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなしていること。

(12)甲第12号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(12-a)「BUBBLE DESIGN GOLF SHOE SPIKE」『泡形ゴルフ靴用スパイク』

図面の図示内容からみて、スパイクは泡形突起を備えるといえる。

以上の記載事項及び図面の図示内容からみて、甲第12号証には、次のものが記載されていると認められる。
ゴルフ靴用スパイクにおいて、外面及び内面を持つ本体部材と、前記内面から外方に突出した、前記スパイクを前記ゴルフ靴のソケットに固定するようになった靴取り付け部材とを有し、前記靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、
前記外面の周囲に亘って突出した複数の泡形突起を有し、これらの泡形突起の各々は外面を有していること。

(13)甲第13号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(13-a)「2.特許請求の範囲
1.基底部と該基底部から下方に突出する複数個の突起部からなる運動靴底において、基部の横断面積を接地端面の面積より小さく形成した突起部を有することを特徴とする運動靴底。
2.前記突起部は縦断面の形状が逆台形状に形成されてなることを特徴とする、特許請求の範囲1項記載に係る運動靴底。
… 」(第1頁左下欄第4行?同右下欄第8行)
(13-b)「3.発明の詳細な説明
本発明は運動靴の靴底殊にその接地面に設けた突起部の改良に係るものであって、接地の際における地面側の衝撃力(主として垂直方向の力)を緩和(小さく)して、かつ突起部の主として先端部辺が位置的変形をもたらして水平方向の衝撃を緩和(小さく)して滑り摩擦を生じないように安定させ、ランニング傷害の45%を占める膝関節障害の原因の一つともいわれている着地衝撃等を吸収緩和せしめようとするものである。」(第1頁右下欄第9行?同右下欄第19行)

以上の記載事項及び図面の図示内容からみて、甲第13号証には、次のものが記載されていると認められる。
運動靴底において、縦断面の形状が逆台形状に形成された複数個の突起部を備えること。

(14)甲第14号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(14-a)「実用新案登録請求の範囲
運動靴等の靴の底面に栓体嵌合部を設けた吸盤のような吸着体を配設するとともに、靴の吸着力を調整可能に上記吸着体の栓体嵌合部に栓体を脱着可能に装着するようにしたことを特徴とする体力鍛錬用靴。」(第1頁第1欄第1行?同第6行)

図面の図示内容からみて、吸着体の各々は外面を有し、この外面は靴の底面から見て外方に向けて角度をなしているといえる。

以上の記載事項及び図面の図示内容からみて、甲第14号証には、次のものが記載されていると認められる。
体力鍛錬用靴において、靴の底面に、外面を有し、この外面は靴の底面から見て外方に向けて角度をなしている吸着体を、配設すること。

(15)甲第15号証には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(15-a)「好ましい実施例においては、中央凹所が長手方向に配向され、接地部が外向きの傾斜壁面を有し、一対の接地部と薄肉部とがA字形状をしており、接地部が本底のヒール部分に配置され、」(第3欄第35行?同第38行)
(15-b)「一般に、本発明の本底は靴に使用するのに適し、特に、ランニング、歩行のような活動の他、使用中に着地および/または推進衝撃力が生じる他のスポーツ活動に使用される靴に適している。」(第4欄第16行?同第19行)
(15-c)「本発明は、地面に靴が接触している使用中の衝撃吸収を高め、これによって使用者の負傷を減少させる本底を提供するものである。」(第4欄第21行?同第24行)

図面の図示内容からみて、靴底の凹凸部の凸部は、外面を有し、この外面が靴の底面から見て外方に向けて角度をなしているといえる。

以上の記載事項及び図面の図示内容からみて、甲第15号証には、次のものが記載されていると認められる。
靴底において、凹凸部の凸部は、外面を有し、この外面が靴の底面から見て外方に向けて角度をなしていること。

(ロ)対比・判断
本件特許発明1が「ゴルフ靴用スタッド」であり、その構成により特定される構造からみて、甲第2号証乃至甲第15号証に記載されたものの中から、ゴルフ靴用スタッドの発明が記載された甲第10号証記載の発明を、本件特許発明1と対比して判断する。
また、本件特許発明1の構成が記載された図1、図2及び図4は、本件の優先権主張の基礎となる米国における出願(08/802,908)に係る出願の際の書類のFIG.1、FIG.2及びFIG.4と異ならないから、本件特許発明1は優先権を主張できるものである。すなわち、本件特許発明1についての特許出願は、優先権主張の基礎とされる出願の時にされたものとみなすことができる。一方、甲第16号証は、上記した優先権主張の基礎となる出願の後に日本国内において頒布された刊行物である。したがって、無効理由3の判断を行うにあたり、甲第16号証はその証拠に含めることができないものである。そこで、甲第16号証は審判請求書(第29頁第18行?同第19行)に記載されているとおり「本件特許の優先日前における技術水準を参酌する上での資料」とする。

・対比
本件特許発明1と甲第10号証記載の発明とを対比すると、その構造又は機能からみて、甲第10号証記載の発明の「ゴルフ靴用のスパイク金具」は本件特許発明1の「ゴルフ靴用スタッド」に相当し、以下同様に「円板」は「本体部材」に、「ゴルフ靴の靴底のねじを切った孔」は「ゴルフ靴のソケット」に、「心棒」は「靴取り付け部材」に、「スパイク」は「歯状突起」に、「外側の面」は「外面」に、それぞれ相当する。

よって、本件特許発明1と甲第10号証記載の発明とは、
「ゴルフ靴用スタッドにおいて、外面及び内面を持つ本体部材と、前記内面から外方に突出した、前記スタッドを前記ゴルフ靴のソケットに固定するようになった靴取り付け部材とを有し、前記靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、
前記外面の周囲に亘って突出した複数の歯状突起を有し、これらの歯状突起の各々は外面を有する、ゴルフ靴用スタッド。」という点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点1)
本件特許発明1は、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすのに対して、甲第10号証記載の発明は、歯状突起の外面(スパイクの外側の面)が靴取り付け部材(心棒)の側から見て軸線方向線(AL)に対してどのような位置関係にあるのか不明である点。

(相違点2)
本件特許発明1は、ゴルフスイングの平面に亘る横方向安定性及び高められたトラクションを提供するものであるのに対して、甲第10号証記載の発明は、ゴルフスイングの平面に亘る横方向安定性及び高められたトラクションを提供するものであるか不明である点。

・判断
(相違点1について)
甲第10号証記載の発明は、靴取り付け部材(心棒)の中心を通過する軸線方向線(AL)を有するものの、甲第10号証には、軸線方向線(AL)それ自体について明記されていないことから、軸線方向線(AL)と歯状突起の外面(スパイクの外側の面)との関係も、明記されていない。そして、図面の図示内容からみても、歯状突起の外面(スパイクの外側の面)が靴取り付け部材(心棒)の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなしているとは認められない。
さらに、甲第10号証の「土への食い込みが容易で、靴底の下の土地が砕けるのを避けると共に、潜在性のある土塊の分割を容易にし、物質のもぎ取りを避ける」ことを目的(上記(10-b)参照)とし、「内側または外側の稜8の作用によってスパイクの食い込みおよび地面の分割が同時に容易になる」(上記(10-c)参照)という記載からみて、甲第10号証記載の発明において、歯状突起(スパイク)の構造を「外側の稜8」が地面に対して歯状突起(スパイク)の裏側に隠れてしまう構造とすること、つまり、歯状突起の外面(スパイクの外側の面)が靴取り付け部材(心棒)の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることには、困難性があると認められる。
また、甲第10号証には、「スパイクは規則的なまたは不規則的な四角錐体の形状をすることもできる。」との記載及び「多角錐体の頂点5は外側の方にずれている。」との記載があるが、上記記載は、その前後の記載を参酌すると、図1及び図2に示した実施例1を説明するものであるから、歯状突起の外面(スパイクの外側の面)が靴取り付け部材(心棒)の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることを示唆するものではない。
よって、甲第10号証記載の発明には、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることの記載も示唆もない。

そこで、甲第2号証乃至甲第9号証、甲第11号証乃至甲第15号証に、「本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすること」について、記載又は示唆があるかについて検討する。

甲第2号証には、山岳コース用ゴルフシューズにおいて、靴底の靴かかとの内側より後方及び外側の小指手前までの範囲に傾斜面を付け、その面に市販のスパイクを外方に向けて角度をなすように取り付けることが記載されている。
しかし、当該記載からは、ゴルフシューズの靴底に形成された傾斜面にスパイクを外方に向けて角度をなすように取り付けることが認定できるに止まる。
よって、甲第2号証には、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されているとは認められない。
したがって、甲第2号証に記載されたものには、甲第10号証記載の発明において、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることの記載も示唆もない。

甲第3号証には、ゴルファーによって使用される靴において、靴底の縁部に取り付けられるプレートの外面から突出する滑り止めが外面を有し、当該外面がプレートの内面側から見て、プレートを靴底に固定するためのネジ部あるいはスクリュースタッドの軸線方向線に対して外方に向けて角度をなしていることが記載されている。そして、甲第10号証記載の発明と甲第3号証に記載されたものは、ゴルフ靴用のスパイクという点で共通する。
しかしながら、甲第3号証に記載されたものは、各プレートが滑り止めを1つしか有していないから、甲第3号証には、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されているとは認められない。
よって、甲第3号証に記載されたものには、甲第10号証記載の発明において、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることの記載も示唆もない。
また、仮に、甲第3号証に、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されているとしても、あるいは、請求人が主張するように、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して、外方、平行又は内方に、それぞれ向けて角度をなすようにすることが記載され、滑り止め突起の頂部の方向、すなわち、歯状突起の外面の方向を、所望のトラクションの強さに応じて適宜変更することが記載されているとしても、上記したように甲第10号証記載の発明の「土への食い込みが容易で、靴底の下の土地が砕けるのを避けると共に、潜在性のある土塊の分割を容易にし、物質のもぎ取りを避ける」という目的(上記(10-b)参照)、「内側または外側の稜8の作用によってスパイクの食い込みおよび地面の分割が同時に容易になる」(上記(10-c)参照)という記載からみて、甲第10号証記載の発明において、歯状突起の外面(スパイクの外側の面)が靴取り付け部材(心棒)の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることに、困難性があると認められる。
よって、甲第10号証記載の発明に甲第3号証に記載されたものを適用しても、甲第10号証記載の発明において、歯状突起の外面を靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることには困難性が認められる。

甲第4号証には、ゴルフ用スパイクシューズにおいて、下に凸となるように湾曲した靴底に取着されたスパイクが、外方を向くことが記載されている。
しかし、当該記載からは、ゴルフ用スパイクシューズにおいて、下に凸となるように湾曲した靴底に取着されたスパイクが、外方を向くことが認定できるに止まる。
よって、甲第4号証には、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されているとは認められない。
したがって、甲第4号証に記載されたものには、甲第10号証記載の発明において、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることの記載も示唆もない。

甲第5号証には、運動靴、特にサッカー靴において、靴底に、靴底の表面から傾斜した突起を有することが記載されている。
しかし、当該記載からは、運動靴において、靴底に、靴底の表面から傾斜した突起を有することが認定できるに止まる。
よって、甲第5号証には、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されているとは認められない。
したがって、甲第5号証に記載されたものには、甲第10号証記載の発明において、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることの記載も示唆もない。

甲第6号証には、靴底と一体的に突設された滑り止め突起が靴の前方部分の周囲及びかかとの部分の周囲それぞれに亘って複数形成されており、それらの滑り止め突起の各々の外面は、靴の側から見て外方に向けて角度をなしていることが記載されている。
しかし、当該記載からは、靴底と一体的に突設された滑り止め突起が靴の前方部分の周囲及びかかとの部分の周囲それぞれに亘って複数形成されており、それらの滑り止め突起の各々の外面は、靴の側から見て外方に向けて角度をなしていることが認定できるに止まる。
よって、甲第6号証には、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されているとは認められない。
したがって、甲第6号証に記載されたものには、甲第10号証記載の発明において、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることの記載も示唆もない。

甲第7号証には、ゴルフシューズにおいて、靴底取り付け部に、複数のスパイクを備え、靴底の一部となるスパイク取り付け部を止着部材で止着することが記載されている。
しかし、当該記載からは、ゴルフシューズにおいて、靴底取り付け部に、複数のスパイクを備え、靴底の一部となるスパイク取り付け部を止着部材で止着することが認定できるに止まる。
よって、甲第7号証には、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されているとは認められない。
したがって、甲第7号証に記載されたものには、甲第10号証記載の発明において、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることの記載も示唆もない。

甲第8号証には、ゴルフシューズにおいて、複数のスパイクを周縁部に植設したスパイク板を、ビスにより靴底に着脱自在とし、靴底の一部となることが記載されている。
しかし、当該記載からは、ゴルフシューズにおいて、複数のスパイクを周縁部に植設したスパイク板を、ビスにより靴底に着脱自在とし、靴底の一部となることが認定できるに止まる。
よって、甲第8号証には、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されているとは認められない。
したがって、甲第8号証に記載されたものには、甲第10号証記載の発明において、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることの記載も示唆もない。

甲第9号証には、きこり、林業就業者、およびハンター用の靴底において使用される鋲又は滑り止め金であって、カップ状のスパイク・メンバー及び取付軸部を含んでいることが記載されている。
しかし、当該記載からは、きこり、林業就業者、およびハンター用の靴底において使用される鋲又は滑り止め金が、カップ状のスパイク・メンバー及び取付軸部を含んでいることが認定できるに止まる。
よって、甲第9号証には、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されているとは認められない。
ここで、請求人は、「甲第9号証の滑り止め突起が体重で変形し、その外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすことで、ゴルフスイングの平面に亘る横方向安定性及び高められたトラクションを提供できることは経験上当業者において容易に認識できる事項である。」(審判請求書第27頁第6行?同第9行)と主張している。
しかしながら、甲第9号証には、「滑り止め突起が体重で変形」することの記載も示唆もないのみならず、仮に、請求人が主張するように、甲第9号証に記載されたものの鋲又は滑り止め金の滑り止め突起が体重で変形するとしても、甲第9号証に記載されたものの形状・構造からみて、必ずしも「その外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなす」ようになるともいえない。また、甲第9号証に記載された鋲又は滑り止め金は、専ら、きこり、林業就業者、およびハンター用の靴底において使用されるものであるから、「ゴルフスイングの平面に亘る横方向安定性及び高められたトラクションを提供できること」を容易に認識できるともいえない。よって、請求人の当該主張は理由がない。
したがって、甲第9号証に記載されたものには、甲第10号証記載の発明において、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることの記載も示唆もない。

甲第11号証には、ゴルフ靴用スパイクにおいて、外面及び内面を持つ本体部材と、前記内面から外方に突出した、前記スパイクを前記ゴルフ靴のソケットに固定するようになった靴取り付け部材とを有し、前記靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、前記外面の周囲に亘って突出した複数のピラミッド形突起を有し、これらのピラミッド形突起の各々は外面を有し、この外面は前記靴取り付け部材の側から見て前記軸線方向線(AL)に対して内方に向けて角度をなし、ピラミッド形突起の頂部は靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなしていることが記載されている。
しかし、当該記載からは、ゴルフ靴用スパイクにおいて、ピラミッド形突起の外面は靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して内方に向けて角度をなし、ピラミッド形突起の頂部は靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなしていることが認定できるに止まる。
よって、甲第11号証には、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されているとは認められない。
ここで、請求人は、「甲第11号証に記載の滑り止め突起は、スタッドの本体部材が平凸レンズ状に湾曲しているため、滑り止め突起の頂部は、靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなしている構成が開示されている(図4参照)。
よって、後述するとおり、(a)かかる滑り止め突起の高さを単に2倍程度に設計変更するだけで、または、(b)凸状をなすスタッドの底面の特に周縁部の曲率を大きくすることで、複数の滑り止め突起の各々の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなす構成(c(2))を容易に得ることができることが示唆されている。」(審判請求書第27頁第24行?第28頁第4行)と主張している。
しかしながら、甲第11号証には、図面の図示内容を変更することについて、すなわち、滑り止め突起の高さを単に2倍程度に設計変更すること、又は、凸状をなすスタッドの底面の特に周縁部の曲率を大きくすることについて、そして、複数の滑り止め突起の各々の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすことについて、記載も示唆もない。よって、請求人の当該主張は理由がない。
したがって、甲第11号証に記載されたものには、甲第10号証記載の発明において、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることの記載も示唆もない。

甲第12号証には、ゴルフ靴用スパイクにおいて、外面及び内面を持つ本体部材と、前記内面から外方に突出した、前記スパイクを前記ゴルフ靴のソケットに固定するようになった靴取り付け部材とを有し、前記靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、前記外面の周囲に亘って突出した複数の泡形突起を有していることが記載されている。
しかし、当該記載からは、ゴルフ靴用スパイクにおいて、外面の周囲に亘って突出した複数の泡形突起を有していることが認定できるに止まる。
よって、甲第12号証には、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されているとは認められない。
ここで、請求人は、「ゴルフ靴用スパイクにおいて、ゴルフのプレーに効果的な滑り止め効果を発揮させるためには、半球形では地面との摩擦が小さすぎることが容易に理解できるため、十分な滑り止め効果を発揮させるには球形に近い泡であるところのΩ形に形成することが好ましいことは当業者において明らかである。
よって、その滑り止め突起の基部の外面として、靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなしている構成が実質的に開示若しくは示唆されているものである。」(審判請求書第28頁第11行?第28頁第17行)と主張している。
しかしながら、甲第12号証には、図面の図示内容を変更することについて、すなわち、十分な滑り止め効果を発揮させるには球形に近い泡であるところのΩ形に形成すること、そして、その滑り止め突起の基部の外面として、靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにしていることについての、記載も示唆もない。よって、請求人の当該主張は理由がない。
したがって、甲第12号証に記載されたものには、甲第10号証記載の発明において、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることの記載も示唆もない。

甲第13号証には、運動靴底において、縦断面の形状が逆台形状に形成された複数個の突起部を備えることが記載されている。
しかし、当該記載からは、運動靴底において、縦断面の形状が逆台形状に形成された複数個の突起部を備えることが認定できるに止まる。
よって、甲第13号証には、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されているとは認められない。
したがって、甲第13号証に記載されたものには、甲第10号証記載の発明において、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることの記載も示唆もない。

甲第14号証には、体力鍛錬用靴において、靴の底面に、外面を有し、この外面は靴の底面から見て外方に向けて角度をなしている吸着体を、配設することが記載されている。
しかし、当該記載からは、体力鍛錬用靴において、靴の底面に、外面を有し、この外面は靴の底面から見て外方に向けて角度をなしている吸着体を、配設することが認定できるに止まる。
よって、甲第14号証には、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されているとは認められない。
したがって、甲第14号証に記載されたものには、甲第10号証記載の発明において、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることの記載も示唆もない。

甲第15号証には、靴底において、凹凸部の凸部は、外面を有し、この外面が靴の底面から見て外方に向けて角度をなしていることが記載されている。
しかし、当該記載からは、靴底において、凹凸部の凸部は、外面を有し、この外面が靴の底面から見て外方に向けて角度をなしていることが認定できるに止まる。
よって、甲第15号証には、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されているとは認められない。
したがって、甲第15号証に記載されたものには、甲第10号証記載の発明において、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることの記載も示唆もない。

したがって、甲第10号証記載の発明に甲第2号証乃至甲第9号証、甲第11号証乃至甲第15号証に記載されたものを適用して、相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることが当業者にとって容易であるとはいえない。

以上のとおりであるから、本件特許発明1は、相違点2について検討するまでもなく、甲第10号証記載の発明、及び、甲第2号証乃至甲第9号証、甲第11号証乃至甲第15号証に記載されたものに基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(ハ)請求人の主張に対する判断
請求人は「請求項1に記載の本件発明は、? (ii)甲第9号証?甲第12号証にて開示されている靴取り付け部材を有するスタッドの外面周囲に複数の滑り止め突起を突設する技術が公知・慣用技術であるところ、甲第10号証及び甲第11号証にて開示されている突起の頂部を外方へ向ける技術を用いる際に、横方向のトラクションを強めるために一般的に用いられてきた周知・慣用技術であるところの、甲第2号証?甲第6号証にて開示されている突起の外面を外方に向ける設計事項を採用すること ? で容易に具体化できたものである。」(審判請求書第40頁第11行?同第25行)と主張している。
しかしながら、請求人が主張するように、甲第10号証記載の発明を含め、「靴取り付け部材を有するスタッドの外面周囲に複数の滑り止め突起を突設する技術が公知・慣用技術」であり、また、「横方向のトラクションを強めるために一般的に用いられてきた周知・慣用技術であるところの、甲第2号証?甲第6号証にて開示されている突起の外面を外方に向ける」ことが「設計事項」であるとしても、甲第2号証乃至甲第6号証に記載されたものは、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドに関するものでない。よって、上記公知・慣用技術を適用したゴルフ靴用スタッドに、甲第2号証?甲第6号証にて開示されている突起の外面を外方に向ける設計事項を適用することは、困難性があると認められる。
よって、甲第10号証記載の発明を含め、甲第9号証?甲第12号証にて開示されている靴取り付け部材を有するスタッドの外面周囲に複数の滑り止め突起を突設する技術が公知・慣用技術であるところ、甲第10号証及び甲第11号証にて開示されている突起の頂部を外方へ向ける技術を用いる際に、横方向のトラクションを強めるために一般的に用いられてきた周知・慣用技術であるところの、甲第2号証?甲第6号証にて開示されている突起の外面を外方に向ける設計事項を採用して、本件特許発明1とすることが当業者にとって容易であるとはいえない。
したがって、請求人の当該主張は理由がない。

また、請求人は「請求項1に記載の本件発明は、(i)甲第2号証?甲第6号証に記載されている外面が外方に向いた靴底の複数の滑り止め突起及び靴取り付け部材を有する複数のスタッドを、一体として甲第7号証及び第8号証(さらには本件特許の優先日前における技術水準を示す甲第16号証)に記載されているとおりの置換方法を適用すること、? で容易に具体化できたものである。」(審判請求書第40頁第11行?同第25行)と主張している。
しかしながら、甲第2号証乃至甲第6号証に記載されたものは、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドに関するものでない。そして、甲第7号証及び第8号証に記載されたものも、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドに関するものでない。よって、甲第2号証?甲第6号証に記載されている複数のスタッドを、一体として甲第7号証及び第8号証に記載されているとおりの置換方法を適用しても、上記ゴルフ靴用スタッドに関する本件特許発明1とすることが当業者にとって容易であるとはいえない。
したがって、請求人の当該主張は理由がない。

また、請求人は「本件発明の構成は、甲第2号証?甲第6号証にて開示されている靴底の形態を、甲第7号証及び甲第8号証(さらには、先願の甲第16号証)にて開示されている置換技術を用いて甲第9号証?甲第12号証に記載されているような着脱可能なスタッドを得る際に、甲第2号証?甲第15号証に記載の滑り止め突起の形態を適宜参酌することで当業者において容易に想到可能である。」(審判請求書第32頁第16行?同第20行)と主張している。
しかしながら、上記「・請求人の主張に対する判断2」で上述したように、甲第2号証乃至甲第6号証に記載されたものと甲第7号証及び第8号証に記載されたものは、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドに関するものでないから、甲第9号証?甲第12号証に記載されているような着脱可能なスタッドを得ることは困難である。さらに、上記「・判断」で述べたように、甲第2号証乃至甲第9号証に記載されたもの、甲第12号証乃至甲第15号証に記載されたもの、甲第10号証記載の発明、及び、甲第11号証記載の発明には、本体部材の内面から外方に突出した靴取り付け部材を有し、靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の外面を有する歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されていないから、甲第2号証乃至甲第15号証に記載の滑り止め突起の形態を適宜参酌しても、甲第9号証乃至甲第12号証に記載されているような着脱可能なスタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにして、本件特許発明1とすることは、当業者にとって容易であるとはいえない。
したがって、請求人の当該主張は理由がない。

さらに、請求人は、甲第11号証記載のものに基づき、「本件発明は、(a)従来公知の滑り止め突起の高さを単に大きくしたり、(b)従来公知のスタッドの底面の周縁部の曲率を変更したり、(c)滑り止め突起の形状を従来公知の滑り止め突起の形態(甲第2号証?甲第6号証、甲第9号証?甲第15号証)を参酌したり、甲第3号証において示唆されている突起の外面の向きを内向きから外向きまで適宜選択する技術を用いて適宜変更することによっても容易に実現できるというものにすぎないのである。」(審判請求書第35頁第10行?同第15行)と主張している。
しかしながら、甲第11号証には、図面の図示内容を変更することについて、すなわち、滑り止め突起の高さを単に大きくすること、スタッドの底面の周縁部の曲率を変更すること、又は、滑り止め突起の形状を従来公知の滑り止め突起の形態を参酌したり、甲第3号証において示唆されている突起の外面の向きを内向きから外向きまで適宜選択する技術を用いて適宜変更することについての、記載も示唆もない。
仮令、甲第11号証の図面の図示内容を変更することが可能であるとしても、甲第2号証乃至甲第10号証、甲第12号証乃至甲第15号証には、滑り止め突起の高さを単に大きくすること、又は、スタッドの底面の周縁部の曲率を変更することについての、記載も示唆もない。
また、従来公知の滑り止め突起の形態(甲第2号証?甲第6号証、甲第9号証?甲第15号証)を参酌しても、甲第2号証乃至甲第6号証、甲第13号証乃至甲第15号証に記載されたものの滑り止め突起の形態は、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおける突起の形態ではないから、甲第11号証記載の発明である、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおける突起の形態に適用して、変更することは困難である。そして、甲第9号証、甲第10号証又は甲第12号証に記載のものは、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおいて、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすようにすることが記載されていないから、甲第11号証記載の発明である、ゴルフ靴用スタッドにおける突起の形態を変更することは困難である。
さらに、甲第3号証において示唆されている、突起の外面の向きを内向きから外向きまで適宜選択する技術も、本体部材の外面の周囲に亘って突出した複数の歯状突起を有するゴルフ靴用スタッドにおける突起の形態ではないから、甲第11号証記載の発明である、ゴルフ靴用スタッドにおける突起の形態に適用して、変更することは困難である。
よって、甲第11号証記載の発明に基いて、本件特許発明1とすることは当業者にとって容易であるとはいえない。
したがって、請求人の当該主張は理由がない。

以上のとおり、請求人の主張はいずれも理由がない。

(ニ)むすび
本件特許発明1は、甲第2号証乃至甲第15号証、甲第16号証に記載の周知慣用技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるとはいえない。

4.無効理由4について
(イ)甲第18号証の記載事項
特願平8-349782号(特開平10-179211号(甲第18号証))の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。
(a)「【発明の属する技術分野】
本発明は、ゴルフシューズ等のスポーツシューズの靴底に設けられる滑り防止用のスタッド(突起物)に関し、さらに詳述すると、いわゆるソフトスパイクシューズに好適に使用されるスポーツシューズ用スタッドに関する。」(段落【0001】)
(b)「【発明が解決しようとする課題】
ところが、ソフトスパイクシューズの茸状スタッドは、スタッド主体が板状であるため、歩行時やプレイ時におけるスタッド主体の接地面積(地面や路面との接触面積)が大きく、スタッドにかなり大きな外力が加わるので、スパイクシューズの鋲に比べてゆるみ易く、歩行時やプレイ時に靴底から脱落して紛失することがあった。しかも、スタッドが外れた後のナット部内に土などが詰まり、スタッドを取り付けてシューズを補修することが困難になることがあった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ソフトスパイクシューズに好適に使用される茸状のスタッドであって、歩行時やプレイ時に靴底から容易に脱落することのないスポーツシューズ用スタッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記目的を達成するため、硬質ゴム又は硬質ゴム様弾性体により形成され、中央部にボルト挿入孔が穿設された板状部の下面に突起部が突設されてなるスタッド主体と、軸部がスタッド主体のボルト挿入孔に挿入されるボルト体とを具備し、スタッド主体のボルト体挿入孔にボルト体の軸部を通して該軸部を靴底に設けられたナット部にねじ込むことにより靴底に取り付けられることを特徴とするスポーツシューズ用スタッドを提供する。」(段落【0005】?【0007】)
(c)「スタッド主体の板状部の形状に特に限定はないが、通常は直径が15?25mm程度、最大厚みが1?3mm程度の円板状とし、その中央部にボルト体の軸部を挿入可能なボルト挿入孔を形成する。この場合、板状部の縦断面は、図1(a)に示すような均一な肉厚を有する形状(図中2は板状部、4はボルト挿入孔を示す、以下同じ)、図1(b)に示すような中央部が最も肉厚で周縁部に向かうにしたがい漸次肉薄となる形状、図1(c)に示すような板状部の半径の約1/2の位置で最も肉厚となり、この位置から板状部の中央部及び周縁部に向かうにしたがいそれぞれ漸次肉薄となる形状といった任意の形状とすることができる。なお、いずれも場合も板状部の裏面は平坦にするか、笠上に中央部を窪ませることが好ましい。
スタッド主体の突起部の形状にも限定はないが、靴底への取り付け時におけるボルト体の回転方向上流側から下流側に向けて下降傾斜する傾斜面が下面に形成された突起部であることが好ましく、かかる突起部を板状部下面のボルト挿入孔周囲に複数個設けることが特に好ましい。この突起部を概念的に示すと、図2(スタッド主体を正面から見た状態の模式的説明図)のようになる。すなわち、板状部2の下面に突起部6が突設されており、突起部6の下面には、図2(a)に示すように、靴底への取り付け時におけるボルト体の回転方向Xにおける上流側X1から下流側X2に向けて下降傾斜する傾斜面8が形成されている(図中10は地面を示す)。上記突起部6が接地して突起部6に荷重が加わった場合、図2(b)に示すように、地面10が突起部6の形状に相応して変形するとともに、前記傾斜面8にその下方から力、すなわち反力Yが加わる。そして、その結果、力Yの分力として突起部6を靴底への取り付け時におけるボルト体の回転方向Xと同方向にスライドさせる力Zが突起部6に働く。この突起部6をZ方向にスライドさせる力は、靴底に対してボルト体を締め付ける力である。したがって、突起部を前記形状としたときには、歩行時やプレイ時に靴底に対してボルト体を締め付ける力が働き、スタッドがより緩みにくくなるため、歩行時やプレイ時にスタッドが靴底から脱落することがより効果的に防止される。
前記突起部の形状に限定はないが、例えば、図3(a)?(j)に示す形状とすることができる。(a)、(e)、(f)、(j)は突起部6を底面視三角形状に形成し、傾斜面8を三角形の平面状にした例、(b)、(d)、(g)、(i)は突起部6を底面視台形状に形成し、傾斜面8を台形の平面状にした例、(c)、(h)は突起部6を底面視長方形状に形成し、傾斜面8を長方形の平面状にした例である。ただし、突起部6の底面視形状は図3に示したような三角形状、台形状、長方形状に限られず、楕円形状等の任意の形状とすることができる。また、図3では傾斜面8を平面状にした例を示したが、傾斜面8の形状は平面状に限られるものではなく、例えば図4(a)に示すような曲面状、図4(b)に示すような平坦な先端面を有する屈曲面状、図4(c)に示すような先端が尖った屈曲面状等の任意の形状とすることができる。なお、突起部の下面の全体を上記傾斜面としてもよく、該下面の一部のみを上記傾斜面としてもよい。また、板状部の下面に複数の突起部を設ける場合、それら突起部は全て同じ形状としてもよく、種々異なる形状としてもよい。」(段落【0011】?【0013】)
(d)「前述した突起部6の配列態様は必ずしも限定されないが、ほぼ円状に配列すること、例えば板状部を円板状とした場合、図6に示すように、板状部2と同心の円にほぼ沿ってほぼ等間隔で配列することが好ましい。この場合、突起部6の傾斜面8の傾斜方向と、突起部6を配列する円の周方向とを一致させればよい。また、突起部を配列する円の半径/板状部の半径の割合(s/t)は、1/2?1とすることが、同じトルクがかかった場合は、中心軸から離れている方が傾斜面8による作用効果を顕著に得ることができる点で好ましい。なお、突起部6の配列数は、3?10個、特に4?8個とすることが適当である。また、板状部2下面の面積(ボルト挿入孔4の面積を含めた面積)に対する突起部6の占有面積(平面面積)の割合は、10?50%の範囲内とすることが、高い滑り止め効果を期待できる点で適当である。」(段落【0015】)
(e)「ボルト体
本発明に用いるボルト体は、頭部と外周にねじ山を有する軸部とが連設され、軸部をボルト挿入孔に通してから靴底に設けられたナット部にねじ込むものである。ボルト体の材質は限られないが、錆びないアルミニウム等の軽金属、セラミックス、プラスチックなどの硬質材料で形成することが好ましい。」(段落【0016】)

上記(a)の記載事項からみて、先願明細書は、ゴルフシューズ用スタッドに関して記載されている。

図面図7の図示内容からみて、ボルト体は、板状体の裏面から外方に突出しているといえる。

上記(e)の記載事項からみて、ボルト体はゴルフシューズのナット部に固定されるといえる。

図面図7乃至図9の図示内容からみて、ボルト体は中心を通過する軸線方向線(AL)があるといえる。

図面図7及び図8の図示内容からみて、突起部は外面を有しているといえる。

以上の先願明細書の記載事項と図面の図示内容から、本件特許発明1の記載に即してみると、先願明細書には、次の発明(以下、「先願明細書記載の発明」という。)が記載されていると認められる。
「ゴルフシューズ用スタッドにおいて、下面及び裏面を持つ板状部と、前記裏面から外方に突出した、前記板状部を前記ゴルフシューズのナット部に固定するようになったボルト体とを有し、前記ボルト体の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、
前記下面に同心の円にほぼ沿ってほぼ等間隔で配列する複数の突起部を有し、これらの突起部の各々は外面を有するゴルフシューズ用スタッド。」

(ロ)対比・判断
・対比
(a)本件特許発明1と先願明細書記載の発明とを対比すると、その構造又は機能からみて、先願明細書記載の発明の「ゴルフシューズ用スタッド」は本件特許発明1の「ゴルフ靴用スタッド」に相当し、以下同様に「下面」は「外面」に、「裏面」は「内面」に、「板状部」は「本体部材」に、「ゴルフシューズのナット部」は「ゴルフ靴のソケット」に、「突起部」は「歯状突起」に、それぞれ相当する。
(b)先願明細書記載の発明の「ボルト体」は、「板状体」を「ゴルフシューズのナット部」に固定するものであるから、「スタッド」を「ゴルフ靴のソケット」に固定する、本件特許発明1の「靴取り付け部材」に相当する。
(c)先願明細書記載の発明の「下面に同心の円にほぼ沿ってほぼ等間隔で配列する複数の突起部」は、本件特許発明1の「外面の周囲に亘って突出した複数の歯状突起」に相当する。

よって、本件特許発明1と先願明細書記載の発明とは、
「ゴルフ靴用スタッドにおいて、外面及び内面を持つ本体部材と、前記内面から外方に突出した、前記スタッドを前記ゴルフ靴のソケットに固定するようになった靴取り付け部材とを有し、前記靴取り付け部材の中心を通過する軸線方向線(AL)があり、
前記外面の周囲に亘って突出した複数の歯状突起を有し、これらの歯状突起の各々は外面を有する、ゴルフ靴用スタッド。」という点で一致し、次の2点で相違する。

(相違点1)
本件特許発明1は、歯状突起の外面が靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすのに対して、先願明細書記載の発明は、歯状突起(突起部)の外面が靴取り付け部材の側(ボルト体の突出した側)から見て軸線方向線(AL)に対してどのような位置関係にあるのか不明である点。

(相違点2)
本件特許発明1は、ゴルフスイングの平面に亘る横方向安定性及び高められたトラクションを提供するものであるのに対して、先願明細書記載の発明は、ゴルフスイングの平面に亘る横方向安定性及び高められたトラクションを提供するものであるか不明である点。

・判断
(相違点1について)
先願明細書には、歯状突起(突起部)の外面に関する記載はなく、上記「(イ)(c)」の「図3では傾斜面8を平面状にした例を示したが、傾斜面8の形状は平面状に限られるものではなく、例えば図4(a)に示すような曲面状、図4(b)に示すような平坦な先端面を有する屈曲面状、図4(c)に示すような先端が尖った屈曲面状等の任意の形状とすることができる。」という記載、及び、図面図3(a)乃至図4(c)の図示内容からみても、歯状突起(突起部)の外面を、靴取り付け部材の側(ボルト体の突出した側)から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすことが、記載されているとは認められない。
したがって、先願明細書には、相違点1に係る本件特許発明1の構成が記載されているとは認められない。

以上のとおりであるから、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、先願明細書記載の発明と同一又は実質的に同一であるということはできない。

(ハ)請求人の主張に対する判断
請求人は、「甲第18号証の図1(b)及び段落番号【0011】には、図7に示すようなスタッド主体の板状部2の縦断面として、『中央部が最も肉厚で周縁部に向かうにしたがい漸次肉薄となる形状』が開示されている。
従って、かかる板状部2に滑り止め突起としての突起部6を形成すれば、その突起部6の外面は、下記の図に示すように、靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすことになる。」(審判請求書第37頁第27行?第38頁第4行)と主張している。
しかしながら、先願明細書には、板状部を図1(b)の形状とした場合に、板状体に突起部がどのように形成されるか記載されていないので、突起部の外面がボルト体の突出した側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすことが記載されているとは認められない。
したがって、請求人の当該主張には理由がない。

また、請求人は、「さらに、図3(c)及び図3(d)において、図7に記載のゴルフ靴用スタッドに設けられる突起部6の側面形状が等脚台形状のものが開示されており、段落【0012】の第1行目?第6行目において、『スタッド主体の突起部の形状にも限定はないが、靴底への取り付け時におけるボルト体の回転方向上流側から下流側に向けて下降傾斜する傾斜面が下面に形成された突起部であることが好ましく、かかる突起部を板状部下面のボルト挿入孔周囲に複数個設けることが特に好ましい。』との記載がある。
また、段落【0013】の第1行目?第3行目には、『前記突起部の形状に限定はないが、例えば、図3(a)?(j)に示す形状とすることができる。』との記載があり、段落【0015】の第1行目?第5行目には、『前述した突起部6の配列態様は必ずしも限定されないが、ほぼ円状に配列すること、例えば板状部を円板状とした場合、図6に示すように、板状部2と同心の円にほぼ沿ってほぼ等間隔で配列することが好ましい。』との記載がある。
よって、これらの記載からすれば、下記の図に示すとおりの構成が開示されており、かかる構成による突起部6の外面は、その配列方向によっては、靴取り付け部材の側から見て軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすことになる。」(審判請求書第38頁第5行?第39頁第4行)と主張している。
しかしながら、先願明細書には、図面図3(c)及び図3(d)に記載されている突起部の側面形状が、等脚台形状とは記載されおらず、図面図3(c)及び図3(d)の図示内容からも等脚台形状とは認められない。そして、請求人が主張するように、先願明細書の図面図3(c)及び図3(d)に記載されている突起部の側面形状が、等脚台形状であったとしても、段落【0012】の第1行目?第6行目において、「スタッド主体の突起部の形状にも限定はないが、靴底への取り付け時におけるボルト体の回転方向上流側から下流側に向けて下降傾斜する傾斜面が下面に形成された突起部であることが好ましく、かかる突起部を板状部下面のボルト挿入孔周囲に複数個設けることが特に好ましい。」との記載から、突起部の等脚台形状である側面が外面となるように板状部下面に配置されることは明らかであり、当該配置において、突起部の外面が、ボルト体の突出した側から見て、軸線方向線(AL)に対して外方に向けて角度をなすとは認められない。
したがって、請求人の当該主張には理由がない。

以上のとおり、無効理由4についての請求人の主張はいずれも理由がない。

(ニ)むすび
本件特許発明1は、甲第18号証として示された先願明細書に記載の発明と同一又は実質的に同一のものであるとはいえない。


V.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件特許発明1に係る特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-03 
結審通知日 2010-06-08 
審決日 2010-06-22 
出願番号 特願平10-536678
審決分類 P 1 123・ 121- Y (A43B)
P 1 123・ 537- Y (A43B)
P 1 123・ 161- Y (A43B)
P 1 123・ 1- Y (A43B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲村 正義  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 豊永 茂弘
黒石 孝志
登録日 2008-06-13 
登録番号 特許第4135991号(P4135991)
発明の名称 運動靴用スタッド  
代理人 竹内 茂雄  
代理人 小野 新次郎  
代理人 中村 繁元  
代理人 千葉 昭男  
代理人 武川 隆宣  
復代理人 阿久津 勝久  
復代理人 北来 亘  

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