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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D06F
審判 全部無効 2項進歩性  D06F
管理番号 1221652
審判番号 無効2009-800038  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2009-02-20 
確定日 2010-07-26 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3162470号「洗濯機」の特許無効審判事件についてされた平成21年10月6日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成21年(行ケ)第10363号平成22年3月1日)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許第3162470号の請求項1に係る発明についての出願は、平成4年3月31日の出願であって、平成13年2月23日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
2.これに対して、請求人 三菱電機株式会社は、平成21年2月20日に本件特許無効審判を請求した。
3.被請求人 株式会社東芝、東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社及び東芝ホームアプライアンス株式会社は、平成21年5月25日に答弁書を提出した。
4.当審は、さらに職権により審理した結果、両当事者に、平成21年7月27日付けで無効の理由を通知した。
5.被請求人は、平成21年8月28日に意見書を提出するとともに、同日付けで明細書の訂正を請求した。
6.当審は、平成21年10月6日付けで「訂正を認める。特許第3162470号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第一次審決」という。)した。
7.被請求人は、第一次審決に対する訴えを提起(平成21年(行ケ)第10363号)するとともに、平成22年1月18日に訂正審判の請求をした。
8.知的財産高等裁判所は、平成22年3月1日に、特許法181条2項の規定により、第一次審決の取消しの決定をした。
9.請求人は、平成22年4月16日に弁駁書を提出した。

第2 訂正請求
特許法第134条の3第2項の規定により指定された期間内に訂正の請求がなされなかったので、同条第5項の規定により、平成22年1月18日にした訂正審判の請求書に添付された訂正した明細書を援用した、訂正の請求がされたものとみなす。特許法第134条の2第4項の規定により、平成21年8月28日付けの訂正の請求は取り下げられたものとみなす。

1.訂正の内容
被請求人により請求された訂正の内容は、本件特許発明の明細書(以下「特許明細書等」という。)を上記援用された訂正した明細書(以下「本件訂正明細書」という。)のとおりに訂正しようとするものである。すなわち、以下のとおりである。

(訂正事項1)
特許明細書等の特許請求の範囲の請求項1について、「脱水槽を回転駆動するモータと、前記脱水槽内に給水する給水手段とを備え、脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行ない且つその後脱水運転を行なうようにしたものにおいて、この注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設けたことを特徴とする洗濯機。」とある記載を、
「外箱と、前記外箱の内部に設けられた水受槽と、前記水受槽内に設けられ洗い槽と兼用される脱水槽と、前記脱水槽内部下部に設けられた撹拌体と、前記水受槽の外部下部に設けられ前記撹拌体及び前記脱水槽を回転駆動するモータと、前記脱水槽内に給水する給水手段とを備え、洗剤洗い工程を行った後に脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行ない且つその後脱水運転を行なうようにしたものにおいて、この注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御し、前記脱水運転中に、前記脱水槽の回転速度を前記注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度より増速し、洗濯機の固有振動数よりも高く制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設けたことを特徴とする洗濯機。」と訂正する。
(訂正事項2)
特許明細書等の段落【0006】の「この点に着目した本発明の洗濯機は、脱水槽を回転駆動するモータと、前記脱水槽内に給水する給水手段とを備え、脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行なうようにしたものにおいて、この注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設けたところに特徴を有するものである。」との記載を、「この点に着目した本発明の洗濯機は、外箱と、前記外箱の内部に設けられた水受槽と、前記水受槽内に設けられ洗い槽と兼用される脱水槽と、前記脱水槽内部下部に設けられた撹拌体と、前記水受槽の外部下部に設けられ前記撹拌体及び前記脱水槽を回転駆動するモータと、前記脱水槽内に給水する給水手段とを備え、洗剤洗い工程を行った後に脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行ない且つその後脱水運転を行なうようにしたものにおいて、この注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御し、前記脱水運転中に、前記脱水槽の回転速度を前記注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度より増速し、洗濯機の固有振動数よりも高く制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設けたところに特徴を有するものである。」と訂正する。
(訂正事項3)
特許明細書等の段落【0033】の「【発明の効果】
本発明は以上の説明から明らかなように、脱水槽を回転駆動するモータと、前記脱水槽内に給水する給水手段とを備え、脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行なうようにしたものにおいて、この注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設けたことを特徴とするものであり、これにて、注水脱水運転を行なうについて、アンバランスの増大をなくし得て異常振動の発生を抑えることができ、また、水当り音を低減できて騒音の低減を図ることができ、さらには、すすぎ効果の向上にも寄与できる等の優れた効果を奏する。」との記載を、「【発明の効果】
本発明は以上の説明から明らかなように、外箱と、前記外箱の内部に設けられた水受槽と、前記水受槽内に設けられ洗い槽と兼用される脱水槽と、前記脱水槽内部下部に設けられた撹拌体と、前記水受槽の外部下部に設けられ前記撹拌体及び前記脱水槽を回転駆動するモータと、前記脱水槽内に給水する給水手段とを備え、洗剤洗い工程を行った後に脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行ない且つその後脱水運転を行なうようにしたものにおいて、この注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御し、前記脱水運転中に、前記脱水槽の回転速度を前記注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度より増速し、洗濯機の固有振動数よりも高く制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設けたことを特徴とするものであり、これにて、注水脱水運転を行なうについて、アンバランスの増大をなくし得て異常振動の発生を抑えることができ、また、水当り音を低減できて騒音の低減を図ることができ、さらには、すすぎ効果の向上にも寄与できる等の優れた効果を奏する。」と訂正する。

2.訂正の適否について
(1)(訂正事項1)について
ア 訂正事項1のうち、「脱水槽を回転駆動するモータ」との記載を「外箱と、前記外箱の内部に設けられた水受槽と、前記水受槽内に設けられ洗い槽と兼用される脱水槽と、前記脱水槽内部下部に設けられた撹拌体と、前記水受槽の外部下部に設けられ前記撹拌体及び前記脱水槽を回転駆動するモータ」と訂正することは、洗濯機の構成について「外箱と、前記外箱の内部に設けられた水受槽と 」「前記脱水槽内部下部に設けられた撹拌体と 」を追加するとともに、脱水槽について「水受槽内に設けられ洗い槽と兼用される脱水槽 」と限定し、モータについて「前記水受槽の外部下部に設けられ前記撹拌体及び前記脱水槽を回転駆動するモータ」と限定するものである。
上記事項について、特許明細書等の段落【0008】に「まず図6には脱水兼用洗濯機の縦断面構成を示している。外箱1の内部には水受槽2が設けられ、この水受槽2の内部には洗い槽および脱水槽を兼用する回転槽3が設けられている。この回転槽3の内部下部には撹拌体4が設けられている。そして、水受槽2の外部下部には単相誘導電動機からなるモータ5を主とする機構部6が設けられ、さらにこの水受槽2の底部の排水路には、排水弁7が設けられている。上記モータ5は洗いモータおよび脱水モータを兼用している。」と記載されており、洗い槽および脱水槽を兼用する回転槽3の内部下部に撹拌体4を有する脱水兼用洗濯機において、洗い時に撹拌体4を回転させることは当業者にとって自明であるから、特許明細書等に記載された事項である。
イ また、訂正事項1のうち、「洗剤洗い工程を行った後に 」との記載を追加することは、「脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行な」うことの前の工程を限定するものである。
上記事項について、特許明細書等の段落【0013】に「この制御回路21は、洗剤洗い行程、中間脱水行程、すすぎ洗い行程および最終脱水行程を順に実行するものであり」、段落【0015】に「特に、上記一次中間脱水行程における脱水初期(開始から所定時間ta1の間)、および二次中間脱水行程における脱水初期(開始から所定時間td1の間)では、前記給水弁9をオン(開放)して回転槽3内に給水し、もって注水脱水運転を行なう。」と記載されているから、特許明細書等に記載された事項である。
ウ さらに、訂正事項1のうち、「前記脱水運転中に、前記脱水槽の回転速度を前記注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度より増速し、洗濯機の固有振動数よりも高く制御すべく」との記載を追加することは、モータを速度制御する制御手段について限定するものである。
上記事項について、特許明細書等の段落【0014】及び【0015】に「すなわち、図2に示すように中間脱水開始から所定時間taでは、回転槽3を第1の設定速度(例えば150r.p.m )に制御し、この後、所定時間tbで、第2の設定速度(例えば400r.p.m )に制御し、その後は、所定時間tcで、最終回転速度(これは負荷によって変わるがほぼ700r.p.m )として一次中間脱水行程を実行し、この一次中間脱水行程の後、引続き二次中間脱水行程を実行する。この場合、一次中間脱水行程と同様の速度制御を行なう。
特に、上記一次中間脱水行程における脱水初期(開始から所定時間ta1の間)、および二次中間脱水行程における脱水初期(開始から所定時間td1の間)では、前記給水弁9をオン(開放)して回転槽3内に給水し、もって注水脱水運転を行なう。その後(所定時間tb及びtc、所定時間te及びtf)においては給水のない脱水運転が行なわれる。」、段落【0020】に「従って、回転槽3は、給水弁9オンにより給水がなされるときには、この洗濯機の固有振動数である200?300r.p.m より低い回転される。」と、段落【0022】に「所定時間tbの開始時点では回転速度がN4になるまでは、・・・(中略)・・・増速される。」と、段落【0025】に「このような増速、減速により回転速度N4?N6の範囲にあってN5を基準速度とした回転速度制御が実行される。この回転速度N5は回転槽3の回転速度400r.p.m に相当する。」と記載され、図1及び2には中間脱水行程の開始から所定時間ta1の間、注水脱水運転し、その後同じ回転速度を維持した後に、所定時間tbでその回転速度から増速されることが図示されているから、特許明細書等に記載された事項である。
なお、後記第3の1.の請求人の主張も、上記したようであるから、採用できない。
エ そうすると、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)(訂正事項2)及び(訂正事項3)について
訂正事項2及び3は、新たな請求項1に対応して発明の詳細な説明の記載を整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当する。
そして、特許明細書等に記載した事項の範囲内でするものと認められ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされる、同法による改正前の特許法第134条第2項ただし書の規定に適合し、特許法第134条の2第5項において準用する特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法による改正前の特許法第126条第2項に規定する要件に適合するので、当該訂正を認める。

第3 請求人の主張
1.訂正について
「前記脱水運転中に、前記脱水槽の回転速度を前記注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度より増速し、洗濯機の固有振動数よりも高く制御すべく」との記載を追加する訂正について、「より」とは動作の起点となる時をいうから、注水脱水運転時における脱水槽の回転速度を時間的な起点とするものであり、その注水脱水運転終了時から増速を開始してさえいればよいこととなり、注水脱水運転終了時点から急激に増速するものや緩やかに増速するものが含まれる。しかし、特許明細書等の段落【0014】、【0020】、【0025】及び【0026】や図2及び図4には時間taを超えると増速して速やかに洗濯機の固有振動を超える回転速度に設定する制御が読み取れるものであって、上記の記載を追加する訂正は特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものではない。

2.無効理由1
請求項1に係る特許発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができものであるから、請求項1に係る特許発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものであると主張し、証拠方法として甲第1及び2号証を提出している。
甲第1号証:特開昭62-122696号公報
甲第2号証:特開昭57-115297号公報

そしてその理由について以下のように主張する。
(1)請求項1に係る特許発明と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、甲第1号証に記載の発明は、請求項1に係る特許発明が備える「この注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設けた」構成を備えていない点において相違するものの、甲第1号証に記載の発明も注水脱水運転時おける脱水槽の回転速度は、「バランス回転」と称する共振点以下の回転数に維持する速度制御を行っているものであるから、上記構成要件は実質的に示されており、「洗濯機の固有振動数」が明記されていなくても、脱水槽の共振点以下の回転数に維持することが示されている以上、当業者が容易に推考できたものである。
(2)請求項1に係る特許発明と甲第2号証に記載の発明とを対比すると、甲第2号証に記載の発明は、請求項1に係る特許発明が備える「この注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設けた」構成を備えていない点において相違するものの、注水脱水運転時おける脱水槽の回転速度は「定速」もしくは「惰性回転状態」での2とおりの制御が示され、続く工程で「連続的に内槽24を定速回転し衣類を脱水し終了する」ものであるから、上記構成要件は実質的に示されており、「洗濯機の固有振動数」が明記されていなくても脱水槽の共振点以下の回転数に維持することは容易に推考できることであり、請求項1に係る特許発明と甲第2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.無効理由2
請求項1に係る特許発明の特許出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、請求項1に係る特許発明の特許は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものであると主張している。
そしてその理由について以下のように主張する。
(1)請求項1に係る特許発明の「洗濯機の固有振動数」について、洗濯機にはさまざまな振動要素があり、どの振動要素の固有振動数を指しているのか不明確であるため、発明の外延を把握することができない。

第4 被請求人の答弁書における(「第3 請求人の主張」に対する)主張
1.無効理由1について
(1)甲第1号証に記載の発明は低速回転であるバランス回転中には注水しておらず、「注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設け」ることについて開示も示唆もない。したがって、請求項1に係る特許発明が甲第1号証に記載の発明から当業者が容易に推考できたということはできない。
(2)甲第2号証に記載の発明の内槽24が惰性で回転している状態は、単に加速減速を繰り返す回転制御を示すにすぎず、洗濯機の固有振動数以下の回転数に制御された状態を示すものではなく、部分的に定速回転状態の回転数より低い回転数で惰性回転する時間があることが読み取れるのみで、「注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設け」ることについて開示するものではない。そして、加速減速するたびに洗濯機の固有振動数を通過することになり、請求項1に係る特許発明が甲第2号証に記載の発明から当業者が容易に推考できたということはできない。
したがって、本件特許が特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものとはいえない。

2.無効理由2について
本件特許の明細書の段落【0005】及び【0030】を参酌すると、洗濯機全体の固有振動数を示すものであることは明白であるから、請求項1に係る特許発明の特許出願が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

第5 当審が通知した無効の理由の概要
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。



刊行物1 特開昭63-230197号公報
刊行物2 特開平4-97777号公報
刊行物3 特開昭62-122696号公報(甲第1号証)
刊行物4 特開平1-314599号公報
刊行物5 特開平1-195896号公報
刊行物6 特開昭57-115297号公報(甲第2号証)

第6 被請求人の意見書及び平成22年1月18日の訂正審判の請求書における、当審が通知した無効の理由(上記第5参照)及び第一次審決に対する主張
1.刊行物1について
刊行物1に記載の発明の脱水籠5は「洗い槽」と兼用されるものに比較して槽の径が非常に小さく、本件特許の請求項1に係る発明の「洗い槽と兼用される脱水槽」とは異なる。
また、時刻t2からt3においては水を洗濯物23にまんべんなく浸透させるだけで、浸透した水が排出されないから本件特許の請求項1に係る発明のような注水しながら脱水する「注水脱水運転」するものではない。
刊行物1に記載の発明の脱水籠5は径が非常に小さいから、洗濯物に含まれた水が脱水孔から排出されるのに充分な遠心力が得られず、注水脱水運転にはならない。
刊行物1に記載の発明がすすぎ給水中に脱水籠を200?300rpmの低速回転で駆動するのは、すすぎむらの無いすすぎを可能にするとともに洗濯物の表面にすすぎ水中の鉄分やカルシューム分が点状に残るようなことを生じない脱水すすぎ装置を提供するためである。
さらに、比較的脱水槽の径が小さいため、振動の発生の防止や水当たり音の発生防止を考慮する必要がない。刊行物1に記載の発明が脱水運転の初期(t0?t1)に1000rpmを超える高速回転することからもこのことは明らかである。
脱水を行った後にすすぎ水を供給する脱水すすぎ装置であって本件特許発明と前提となる技術的思想が異なっている。
2.刊行物2について
刊行物2には脱水工程の起動時に固有振動数領域に存在する時間を短くし振動を小さくする点が開示されるにすぎず、脱水運転中に脱水槽内に給水する技術が開示されていない。そのため、本件特許の請求項1に係る発明の「特に、上述の注水脱水運転の場合には、給水をしない通常の脱水運転の場合に比して大きな異常振動が発生するという問題」が発生し得ず、「注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御すべく前記モータを速度制御する制御手段」についての開示がない。
本件特許の請求項1に係る発明は「水当り音を低減できて騒音の低減を図ることができ、さらには、すすぎ効果の向上にも寄与できる」という効果も奏する。
3.刊行物3について
低速回転であるバランス回転中には注水しておらず、「注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設け」ることについて開示されていない。
本件特許の請求項1に係る発明は上記構成により、注水脱水運転を行なうについて、アンバランスの増大をなくし得て異常振動の発生を抑えることができ、また、水当り音を低減できものである。
4.刊行物4について
固有振動領域を短時間で通過させるものの、制御対象運転は脱水運転であり、脱水運転中に脱水槽内に給水しておらず、「特に、上述の注水脱水運転の場合には、給水をしない通常の脱水運転の場合に比して大きな異常振動が発生するという問題」は生じない。注水脱水中は通常の脱水に比して偏心が生じて異常振動が発生しやすく、この時制御した点に特徴がある。
5.刊行物5について
刊行物5に記載の発明は脱水運転において印加電圧を順次高くするようにしたもので、脱水槽が洗濯機の固有振動数以下の回転数に制御された状態を示していない。
6.刊行物6について
脱水槽が洗濯機の固有振動数以下の回転数に制御された状態を示すものではなく、本件特許の請求項1に係る発明の従来技術を開示するものである。
7.組み合わせについて
本件特許の請求項1に係る発明は「洗い槽と兼用される脱水槽」であって、刊行物1の脱水槽に比して径が大きく、異常振動が生じやすく、水当たり音の大きいという課題を有する。そして「注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設けた」ことで上記課題を解決するものであるが、そのような構成は刊行物1?6のいずれにも開示されていない。
刊行物1には課題がなく、刊行物2?6には上記構成がないから、刊行物1?6をいかに組み合わせても本件特許の請求項1に係る発明を容易に想到することはできない。

さらに、刊行物1に記載の発明に刊行物2?6に記載の発明を組み合わせることについてみても、本件特許発明が「水受槽内に設けられ洗い槽と兼用される脱水槽と、前記脱水槽内部下部に設けられた撹拌体と」を有する「洗濯機」である点について、刊行物2、3、5、6に記載の全自動洗濯機や洗濯も行う洗濯脱水槽は、本件特許発明と基本となる技術的思想が異なり、組み合わせは困難である。刊行物1に記載の発明は散水筒を用いた脱水すすぎ装置に特有の制御であるから、全自動洗濯機の洗濯兼脱水槽を適用することは当業者において到底容易に行えない。
刊行物4及び5には脱水槽で洗い運転を行うことが示されているが、少量の衣類を対象に脱水槽で洗い運転する特殊な機能であり、一般的な二槽式洗濯機の脱水槽において洗い運転を行うことが周知とはいえず、刊行物1に記載の発明の脱水すすぎ装置の脱水籠を洗濯兼脱水槽とすることは容易でない。
「水受槽の外部下部に設けられ前記撹拌体及び前記脱水槽を回転駆動するモータ」についても、上記のようであるから、刊行物1に記載の二槽式洗濯機の脱水すすぎ装置に刊行物2、3、6に記載の全自動洗濯機の構成を組み合わせることが容易でない。
本件特許発明が「洗剤洗い工程を行った後に脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行ない且つその後脱水運転を行なうようにしたもの」である点について、刊行物3及び5、6、7に、当該技術的思想は記載されていない。
そもそも刊行物1に記載の発明は初めに脱水運転しその後低速回転しながらすすぎ水を供給することで洗濯物にむら無く水を供給することと染みを防止するものなのであり、この時に脱水も行なうべく高速回転とすることは矛盾し、組み合わせられない。
「この注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御し、前記脱水運転中に、前記脱水槽の回転速度を前記注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度より増速し、洗濯機の固有振動数よりも高く制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設けたこと」について、刊行物1には異常振動について記載されておらず、かつ散水筒を有するからこれを避けて洗濯物が均等に配置され、アンバランスになり難く、散水筒の無い全自動洗濯機の制御を適用しようとは考えないので、刊行物2?7に記載の発明を適用する動機付けもない。
また、刊行物2?7に記載の発明は本件特許発明と技術的思想が異なり、仮に刊行物1に記載の発明に組み合わせても、上記本件特許発明の構成が記載されていないから、本件特許発明には想到しない。

第7 請求人の弁駁書における、被請求人の平成22年1月18日の訂正審判の請求書における特許法第29条第2項についての主張に対する、主張
刊行物1に記載の脱水すすぎ装置は、脱水籠に移し入れた洗濯物をすすぐから、洗剤洗いによる洗い工程の後に低速回転の注水運転を行うものである。
「水受槽内に設けられ洗い槽と兼用される脱水槽と、前記脱水槽内部下部に設けられた撹拌体と、前記水受槽の外部下部に設けられ前記撹拌体及び前記脱水槽を回転駆動するモータと」の構成については、刊行物2、3、6に記載されている周知の洗濯機の洗濯兼脱水槽に刊行物1に記載された脱水すすぎ装置における脱水籠に関する技術を適用して、当業者が容易になし得たことである。
「脱水運転中に、前記脱水槽の回転速度を前記注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度より増速し、洗濯機の固有振動数よりも高く制御」することについて、「よりすすぎの効果を向上させるべく、また短時間ですすぐために、低速回転時にもすすぎ効果を奏するように、注水だけでなく脱水をもなすように構成することは、上記周知の事項を参酌すれば、当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことといえ、そのことによる格別の効果も認められない。」また、引用発明のすすぎ水を供給する低速回転時、洗濯物23は水を多く含んでいることは自明であり、刊行物2?4に示されるように、洗濯物が水を多く含んでいるとき共振点以下の低速回転として振動や騒音を防止することが周知であるから、刊行物2に示される、低速回転時に回転数が機体(洗濯機)の固有振動数に達しないよう制御することを適用することは、当業者が格別の困難性を要することなくなし得たことといえる。
引用発明が注水脱水運転するものではないとする被請求人の主張は、脱水槽の径も重要な要因であるとの認識によるものであり、回転数を固有振動数以下と特定するのみの特許請求の範囲の記載に基づくものではない。
刊行物1記載の発明に刊行物2、3、4、5、6、7に記載の発明を適用することの適否は、引用文献同士の記載内容に基づいて決められるべきであって、本件特許発明の課題が無い、共通しないから適用できないということはない。
刊行物4及び5の機能が特殊だとしても周知といえないことはない。
「洗剤洗い工程を行った後に脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行ない且つその後脱水運転を行なうように」することについて、刊行物3、5、6には脱水すすぎや注水すすぎ、脱水運転が記載されており、被請求人の主張は失当である。
刊行物1に初めに脱水運転すると記載されているが、これを必須とするものではない。
刊行物1に給水しながらのすすぎ運転後に給水を止めて1000r.p.mを超える高速回転とすること、刊行物2に間欠脱水工程後に固有振動数領域を超える回転数で本脱水工程を実施すること、刊行物3にバランス回転(300r.p.m)後に高速回転(900r.p.m)まで回転数を高くすること、刊行物4に固有振動数以下で遠心力を生じさせる回転数で初期脱水を行った後に固有振動数を超える回転数まで回転を高くして脱水を行うことが記載されており、当業者であればこれらの記載に基づき本件特許発明を容易に想到できたものである。

第8 本件特許発明
前述のとおり、訂正請求は認められるから、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「外箱と、前記外箱の内部に設けられた水受槽と、前記水受槽内に設けられ洗い槽と兼用される脱水槽と、前記脱水槽内部下部に設けられた撹拌体と、前記水受槽の外部下部に設けられ前記撹拌体及び前記脱水槽を回転駆動するモータと、前記脱水槽内に給水する給水手段とを備え、洗剤洗い工程を行った後に脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行ない且つその後脱水運転を行なうようにしたものにおいて、この注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御し、前記脱水運転中に、前記脱水槽の回転速度を前記注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度より増速し、洗濯機の固有振動数よりも高く制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設けたことを特徴とする洗濯機。」

第9 無効理由の検討
1.当審が通知した無効理由について
まず、当審が通知し、第一次審決で理由があるとした、無効の理由について検討する。
(1)刊行物
ア.刊行物1
刊行物1には、第1?4図とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「脱水孔を有する脱水籠と、この脱水籠を所定の回転数以下の低速回転で所定時間駆動しその後高速回転させるように制御される駆動モータと、前記脱水籠の低速回転時に該脱水籠中にすすぎ水を供給する給水装置とを具備してなる脱水すすぎ装置。」(特許請求の範囲)
(イ)「本発明は脱水籠中の洗濯物にすすぎ水を浸透させた後に該脱水籠を高速回転させて脱水を行う脱水すすぎ装置に関する。
(従来の技術)
従来、脱水籠に移し入れた洗濯物をすすぐ場合に、モータを間欠運転させて比較的高速で回転を継続させながら該脱水籠の中央部に立設された多孔質の筒体にすすぎ水を連続注水する方式と、脱水籠を停止させた状態で洗濯物に注水し、その後該脱水籠を高速回転させて脱水を行う方式とがある。」(第1頁左下欄第13行?右下欄第3行)
(ウ)「以下本発明の第1の実施例について第1図乃至第3図を参照して説明する。1は水受槽2が内設された外箱で、これの内底部に駆動モータ3が弾性支持機構4を介して配設されている。水受槽2内に配設された脱水籠5の回転軸6が駆動モータ3の駆動軸に直結され、該脱水籠5の外周部には多数の脱水孔5aが設けられている。脱水籠5の内底部には支持部7が設けられていて、これに多孔質で筒状の散水筒8の下端が支持されている。水受槽2の上部には内蓋9が回動可能に設けられていて、その内蓋9の中央部に散水筒8の上端に臨む給水装置としての注水口10が設けられている。11は脱水籠5の開放端に着脱可能に嵌合される脱水蓋である。
第2図に於いて、交流電源端子12,13のうちの一方の交流電源端子12はトライアック14を介して駆動モータ3の主コイル15の一端に接続されるとともにトライアック16及びダイオード17を介して駆動モータ3の補助コイル18の一端に接続されている。そして、主コイル15及び補助コイル18の各一端間にはコンデンサ19が接続され、主コイル15及び補助コイル18の各他端は交流電源端子13に接続されている。20は注水口10に水を供給するための給水弁で、一端がトライアック21を介して交流電源端子12の一端に接続され、他端が交流電源端子13に接続されている。22はトライアック14,16,21のオン・オフを制御する制御装置で、これは交流電源端子12,13間に接続されている。」(第2頁左上欄第17行?左下欄第5行)
(エ)「脱水籠に洗剤分が含まれた洗濯物23が収納されて、時刻t_(0)にトライアック14が制御装置22からの信号で連続的にオンされる。すると駆動モータ3が連続通電されて洗濯物23に含まれた洗剤分が脱水される。この脱水運転が所定時間続けられると、時刻t_(1)にトライアック14がオフとなり、代わりにトライアック16がオンして駆動モータ3に直流制動が加えられる。そして、時刻t_(2)に脱水籠5の回転速度が毎分500回転以下の低速回転例えば毎分2?300回転になると、トライアック16がオフとなり、代わりにトライアック14が間欠的にオンする状態に切換えられ、脱水籠3が一定の低速回転で駆動される。これと同時に時刻t_(2)にトライアック21がオンされて給水弁20が開放作動され、すすぎ水が内蓋9の上面に供給されるようになり、このすすぎ水が注水口10を介して散水筒8内に給水される。このようにして散水筒8内に供給された水は遠心力で多孔質の散水筒8を通過し、脱水籠5内の洗濯物にまんべんなく供給される。時刻t_(3)になるとトライアック14が再び連続的にオンとなり、洗濯物23に含まれたすすぎ水が周囲に振り切られて脱水が行われる。そして、この脱水が時刻t_(4)迄行なわれ、以降時刻t_(1)から時刻t_(4)までの工程が所定回数繰返し行われてすすぎ洗い及び最終脱水が終了する。
上記した実施例ではすすぎ水を脱水籠5内の洗濯物23に供給する場合に脱水籠5の回転が低速回転の状態を呈しているから、散水筒8から周囲に供給される水の勢いが緩い。高速回転により洗濯物23に強制的に水を通過させていた従来のものでは洗濯物中を水が直進するため水中の鉄分等が洗濯物表面に濾過されて残ったが、この実施例のように緩く水を侵透させることによりすすぎ水は洗濯物間の抵抗の少ない部分をゆっくり通って奥方にまで達することができるようになる。従って、洗濯物23が従来のようにフィルタの作用をするようなことが無く、すすぎ水中に含まれる鉄分やカルシューム分が洗濯物23に点状に付着して染みを作ることが防止できる。また、すすぎ水を供給する時に脱水籠5が従来のように停止せずに低速回転で回転を続けているから、すすぎ水が洗濯物23にまんべんなく供給され、すすぎむらの無いすすぎができる。」(第2頁左下欄第7行?第3頁左上欄第10行)
(オ)第1図には駆動モータ3が水受槽2の下部で外箱の内底部に配置される態様が図示される。
上記の事項を総合すると、上記刊行物1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「外箱1と、
外箱1に内設された水受槽2と、
水受槽2内に配設された脱水籠5と、
水受槽2の下部で外箱の内底部に配置され脱水籠5を低速回転で所定時間駆動しその後高速回転させるように制御される駆動モータ3と、
脱水籠5中にすすぎ水を供給する給水装置10とを備え、
脱水籠に洗剤分が含まれた洗濯物23が収納された後に脱水運転が所定時間続けられ、時刻t_(1)に直流制動が加えられ、時刻t_(2)?t_(3)の脱水籠5の低速回転時に脱水籠5中にすすぎ水を供給するようにし、且つその後の時刻t_(3)?t_(4)に高速回転させて、洗濯物23に含まれたすすぎ水が周囲に振り切られて脱水を行い、これを所定回数繰り返してすすぎ洗いを行うにしたものにおいて、
この低速回転時に脱水籠5が所定の回転数以下の一定の低速回転で駆動されるように駆動モータ3に接続されるトライアック14,16のオン・オフを制御する制御装置22を設け、
すすぎ水を脱水籠5内の洗濯物23に供給する低速回転時、脱水籠5の回転が低速回転の状態を呈しているから、散水筒8から周囲に供給される水の勢いが緩く、洗濯物23に緩く水を侵透させることによりすすぎ水は洗濯物間の抵抗の少ない部分をゆっくり通って奥方にまで達することができ、すすぎ水が洗濯物23にまんべんなく供給される、
脱水すすぎ装置。」

イ.刊行物2
刊行物2には、第1?4図とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「洗濯兼脱水槽とこの洗濯兼脱水槽の内底部に配設したパルセータを駆動するモータと、前記モータへの通電制御を行う制御手段と、前記洗濯兼脱水槽内に投入した布負荷量を検知する布負荷量検知手段とを備え、前記制御手段はモータへの通電ON-OFFを繰り返す間欠脱水行程において、前記布負荷量検知手段により検知された布負荷量に応じて前記洗濯兼脱水槽の回転数が機体の固有振動数を越えないようにモータへの通電ON-OFF時間と通電ON-OFF繰り返し回数を制御するようにしてなる電気洗濯機。」(特許請求の範囲)
(イ)「このような従来の電気洗濯機では、間欠脱水行程において、モータへの通電ON-OFF時間と通電ON-OFF繰り返し回数は常時一定で行われているため、第4図に示すように、布負荷量が少ない場合(ア)は、一般に機体の固有振動数である480?600回転(8?10Hz)の固有振動数領域に間欠脱水途中で達し、本脱水行程に移るまでの時間S_(1)の間、固有振動数領域に洗濯兼脱水槽の回転数が出入を繰り返す。また、機体の振動は固有振動数領域で大きくなるため、時間S_(1)の間振動は悪化してしまう。また、布負荷量が多い場合(イ)は、機体の固有振動数領域に間欠脱水行程中に達することはないが、間欠脱水行程中の洗濯兼脱水槽の回転数が低いため、布はほとんど脱水されていない状態で本脱水行程に移ることとなり、本脱水行程において洗濯兼脱水槽の回転数増加速度が低くなり、時間S_(2)の間、固有振動数領域に洗濯兼脱水槽の回転数が存在し時間S_(2)の間振動は悪化してしまうという課題を有していた。
本発明は上記課題を解決するもので、間欠脱水行程において布負荷量の多少に関係なく洗濯兼脱水槽の回転数が固有振動数領域に出入しないようにして脱水時の振動を低減することを目的としている。」(第1頁右下欄第17行?第2頁左上欄末行)
(ウ)「本発明は上記した課題解決手段により、布負荷量が少ない場合においても、また、布負荷量が多い場合においても、洗濯兼脱水槽回転数が固有振動数領域に出入することなく、また、本脱水行程において洗濯兼脱水槽の回転数増加速度が高くなり、洗濯兼脱水槽回転数が固有振動数領域に存在する時間を短くでき、振動が悪化する時間を最短にすることができる。したがって、脱水時における低振動を実現できる。」(第2頁右上欄第15行?左下欄第3行)

ウ.刊行物3(甲第1号証)
刊行物3には、第1?7図とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「洗たく機の全体構造を第2図の縦断側面図について説明すると、図は全自動の一槽かくはん式のものを示し、図中(1)は多数の透孔(2)を有する中空筒体を中心にその周面に縦長のかくはん翼(3)を放射状に設けたアジテータ、(4)はこのアジテータ(1)が中心に配置され、側壁に透孔(5)を設けた脱水槽で、その上端開口には、中空輪体を用いたバランサー(6)が形成される。(7)は脱水槽(4)の外側に設けられた水受槽で、図示は省略するが、これには、排水パイプが接続する排水口が設けられる。
・・・(中略)・・・
このようにして、洗い、すすぎ、脱水運転を行うには、脱水槽(4)内に被洗濯物、水、洗剤を入れ、電源をONするとモーター(8)が正、逆交互に回転し、これに伴いアジデータ(1)も揺動する。制御装置内のタイマー作用で一定時間かかる動作をしたのち、排水を行ない、脱水工程へと移行する。」(第1頁右下欄第2行?第2頁左上欄第14行)
(イ)「しかし、このような従来の脱水運転方法は、脱水槽(4)の回転は、回転立上り直後から900回転/分の高速回転に達するように設定されているため、脱水槽(4)内の被洗たく物に急に大きな遠心力が作用して被洗たく物が脱水槽(4)内で片寄り、その結果、大きな振動や騒音が発生することが多い。そして、かかる振動は、脱水槽(4)の上端開口部に設けたバランサー(6)でも吸収しきれないものである。」(第2頁右上欄第7?15行)
(ウ)「本発明によれば、脱水工程の初期の段階で、脱水槽が所定時間伝達回転されるので、脱水槽はこれが一番大きく振れる共振点以外の回転数で回転駆動されることとなり、その結果脱水槽の回転は共振点以上にならず大きな振れを引き起こさない。また、この間に槽内の被洗たく物は水分がある程度除去され、重量が軽減されるので、工程が進み高速回転による脱水工程に移行しても偏心荷重の加わりが少なく、振れや騒音も生じにくい。」(第2頁左下欄第12行?末行)
(エ)「すすぎの工程に入り、注水脱水と通常のすすぎが交互に繰り返される。このうち、注水脱水は、上方から新しい水をふりかけながら被洗たく物内の洗剤を含んだ水を排出するものである。
注水脱水の工程に入ると、」(第3頁左上欄第14?18行)
(オ)「こうして、脱水槽(4)内の被洗たく物は300回転/分の低速回転により所定時間脱水される。
なお、この300回転/分は、脱水槽(4)が一番大きく振れる共振点以外の回転数ということで設定されたものでこれに限定されることなく、約300?450回転/分の間で任意に設定でき、この低速回転による脱水槽の運転を以下バランス回転と称する(第6図参照)。
そして、バランス回転中は、共振点以下なので、被洗たく物の片寄りが発生しにくく、また万一発生してもこれを修正する作用があり、大きな音や、振動を発するような偏心回転になりにくく、このバランス回転中に被洗たく物に含まれた水は約60%排除され負荷が軽減される。
次いで、高速回転に入ると、また注水が開始され、モーター(8)は連続運転されて脱水槽(4)の回転数は900回転/分に達するまで上昇する。このような高速回転に入っても、被洗たく物は含水割合が前記バランス回転中に減っているので、偏心による音や振動は、発生しにくい。このバランス回転は第7図に示すようにすすぎ工程の後の最終脱水工程においても行われる。」(第3頁左下欄第6行?右下欄第7行)

エ.刊行物4
刊行物4には、第1?8図とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「他方、洗濯物の量が少ないときは、この脱水槽(3)で脱水運転のみならず洗い運転を行うこともあり、洗い運転に続く脱水運転においては、洗いに使用した水をこの脱水工程で排水するようにしており、排水の方法としては、脱水と同様に、脱水モーター(7)に通電して脱水槽(3)を回転させ、その回転の遠心力により、脱水槽(3)に設けた脱水孔(12)から脱水槽(3)内の水を外部に排出する。」(第2頁左下欄第4?12行)
(イ)「また、脱水槽の揺れは、前記のごとくその固有振動数で最大となるが、脱水槽での洗い運転に続く脱水運転では、槽内に入っている水によって脱水槽の全体重量が大きくなっているために、固有振動数付近を通過するのにある程度の時間を要する。その結果、この固有振動数付近で脱水槽が特に大きく揺れて脱水受槽にぶつかるおそれがあった。
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、脱水槽での洗い運転に続けて脱水運転を行う場合に、槽内の水の動きが脱水槽の回転速度と同期して偏芯荷重となるのを防止し、また固有振動数付近を早く通過するようにして脱水槽が大きく揺れるのを防止し、所定の回転数による回転にスムーズに達することのできる脱水機の運転制御方法を提供することにある。
〔課題を解決するための手段〕
本発明は前記目的を達成するため、洗濯槽と脱水槽とを備え、脱水槽で洗い運転と脱水運転とを行い、この脱水運転時の初期の段階で洗い終了後の排水を行う二槽式洗濯機において、脱水槽、脱水モーター等の防振系機構の固有振動回転数を脱水槽内から水を排出させる遠心力を生じさせる回転数よりも高く設定し、排水時の脱水槽の回転数を前記排水のための遠心力を生じさせる回転数以上でかつ前記固有振動回転数以下の回転数に設定し、脱水運転初期の排水時の角加速度よりも大きな角加速度で排水後の脱水時に固有振動回転数を通過するようにしたことを要旨とするものである。」(第2頁右下欄第19行?第3頁右上欄第7行)
(ウ)「本発明の運転制御方法は、脱水槽(3)で洗い運転を行った後、これに続けて該脱水槽(3)で排水、脱水運転を行う場合、まず脱水モーター(7)に時間t_(1)だけ通電して脱水槽(3)を回転させる。この初期通電時間t_(1)における脱水槽(3)の回転数は、脱水槽(3)に設けてある脱水孔(12)から水を排出させるための遠心力を生じさせる回転数W_(2)以上で、かつ、脱水槽(3)、脱水モーター(7)、回転軸(8)、脱水軸(9)、ネジ(11)、防振バネ(6)等全てを含んだ防振系機構の固有振動回転数以下に設定しておく。
よって、この初期通電時間t_(1)の間に、脱水槽(3)の回転によりその内部の水が回転し、遠心力で脱水槽(3)の内周壁にそって立上がり脱水孔(12)を通って槽外に排出される。この時、脱水槽(3)の回転数は、固有振動回転数W_(1)には達していないから、脱水槽(3)が大きく揺れることはない。・・・(中略)・・・
次に、脱水モーター(7)への通電を停止し、脱水槽(3)の回転を止め、その後、再び脱水モーター(7)に通電し脱水槽(3)を回転させて、槽内の水を前記第1回目の通電時と同様にして排出する。
・・・(中略)・・・
このようにして脱水モーター(7)への通電非通電の繰返しによる間欠運転を行い、この間に脱水槽(3)内の洗い水を徐々に排出する。
・・・(中略)・・・そして、このような低速回転による間欠運転の後に、脱水モーター(7)に連続通電して全速脱水に移行する。この時点では脱水槽(3)内の水の量は前記のように間欠運転により排水され少なくなっているので、・・・(中略)・・・固有振動回転数W_(1)付近を大きな角加速度α_(3)により短時間で通過でき、脱水槽(3)に生じる共振による振動を抑えることができて脱水槽(3)が大きく揺れることはない。」(第3頁左下欄第10行?第4頁左上欄第15行)
(エ)「また、第3実施例として第3図に示すように、間欠運転とせずに、遠心力を生じさせる回転数以上でかつ固有振動回転数以下の低速回転で連続的に脱水槽(3)を回転させて徐々に排水する方法も可能である。」(第4頁右上欄第4?8行)

オ.刊行物5
(ア)「ところが、上記従来のものでは、脱水運転の開始時点からモータに定格電圧を印加するため、脱水槽の回転が急激に立上がる際に異常振動が発生することがあった。このような問題は、脱水機一般にいえるが、特に脱水槽に水を溜めて衣類(比較的小さなもの)を該脱水槽の正逆回転等に基いて洗った後に引き続いて脱水運転を行なうタイプのものとか、給水しながら脱水槽内の洗剤分を含んだ衣類を脱水するいわゆる脱水すすぎを行なった後に引き続いて脱水運転を行なうタイプのものでは、異常振動の発生もさることながら泡が発生する問題もみられる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、脱水槽の異常揺動発生をなくすことができ、又脱水槽において洗い運転とか脱水すすぎ運転を実行した後に脱水運転を行なう場合には泡発生も抑えることができる脱水機を提供するにある。」(第1頁右下欄第9行?第2頁左上欄第6行)
(イ)「さらに、この操作パネル3には、脱水受槽5側で行なう脱水運転についてのスタートスイッチ11,洗い時間設定スイッチ12,脱水すすぎ強度設定スイッチ13,脱水時間設定スイッチ14が設けられていると共に、各種内容を表示する表示ランプ15が設けられている。」(第2頁左下欄第7?13行)
(ウ)「ここで、マイクロコンピュータ22が制御する行程としては、脱水運転の他に、洗い運転及び脱水すすぎ運転がある。洗い運転は、脱水槽5内に適宜量の水を溜めると共に、比較的小さな衣類を収容した上で、トライアック17,18を交互にオン・オフさせてモータ6を正逆駆動して行なう。又、脱水すすぎ運転は、脱水槽5内に適宜給水しながら、モータ6を一方向へ間欠的に駆動して行なう。」(第3頁左上欄第5?13行)

カ.刊行物6(甲第2号証)
(ア)「洗濯からすすぎ、脱水に至る洗濯行程を自動的に行なう全自動洗濯機に於いて、洗濯終了後排水し、脱水して洗濯行程を終了させる洗濯行程とし、前記脱水時の起動を間欠的に行ない、その後定速回転とすることを特徴とする全自動洗濯機の洗濯操作方法。」(特許請求の範囲)
(イ)「洗濯時、フタ38を開け、内槽24に衣類を投入し洗たくする場合、モーター20の回転は、モータープーリー46から、Vベルト9を介在し、パルセータープーリー40に伝達されるものであり、伝達された回転は、クラツチケース42内のギヤボツクス56内にあるギヤで減速し、パルセーター22を回転し、衣類を動かし洗たくするものである。排水時は、排水バルブ54を開放して、排水ホース48から、洗濯機外へ排水するものである。
また、脱水は、クラッチによりモーター20の回転を、内槽24へ伝達し、遠心力にて衣類の水分を、脱水穴44から外槽12へ脱水するものである。脱水された脱水液は、排水バルブを通り、排水ホース48から洗濯機の外部へ排水される。」(第2頁左上欄第13行?右上欄第7行)
(ウ)「図2の洗濯行程図は従来品のものである。
洗たく後、内槽24内の洗たく水を、排水ホース48から、洗濯機外へ排水し、その後脱水行程で間欠的に脱水し、脱水行程の中間で、清水を注入しながら脱水し、さらにその後、間欠的に脱水してから、すすぎ行程へ移る。ここのすすぎ行程では、水交換すすぎか、もしくは、オーバーフローすすぎを数分間行ない排水して、連続脱水するものである。」(第2頁右上欄第9?18行)
(エ)「図4は、図3の洗たく行程図の脱水部分の詳細な説明図であり、洗たくの後に、水を内槽へ給水してすすぎがない方式いわゆる水変換すすぎか又は、オーバーフローすすぎをしないものに於いては、衣類のすすぎ具合が大きな問題となる。このため、図4に示す様な、すすぎ脱水とすることにより、従来の水交換すすぎ、もしくは、オーバーフローすすぎと同程度のすすぎ特性を有することのできる様にしなければならない。
その方法として、図4の脱水行程詳細図のAの部分は、間欠的に内槽24を回転することにより、発泡をおさえ衣類内の洗たく水を徐々に、脱水穴44から脱水することにより脱水された洗たく水による泡障害を防止し、ある程度、衣類内の洗たく水を脱水した後、B行程で注入口52より、清水を内槽24内にある衣類に、間欠的もしくは、連続的に注水するものであり、B行程時の内槽24の回転は、定速回転か、もしくは、モーター20の電源をタイマーのカムにより自動的にON,OFFさせ内槽が慣性で回転している状態にて注水する。
その後、C行程ではB行程で注水した清水を完全に脱水するため、連続的に内槽24を定速回転し衣類を脱水し終了するものである。
この様に、脱水しながら衣類に清水を注水してすすぐか、又は、内槽を慣性により回転させておいて、清水を注水する方法とすることにより、衣類に清水を含ませ、脱水すれば、衣類内の洗剤分を注水した清水で、洗剤分と共に外槽へ脱水するものである。」(第2頁左下欄第4行?右下欄第13行)
(オ)「この様に、ある程度、衣類内の洗剤分を脱水した後、清水を内槽へ数分間注水しながら脱水する。その後、注水を停止し、注水した水を衣類から脱水し、衣類内の洗剤分を除去するため、少なくとも、内槽を2分以上回転させて、洗たくの行程を終了するものである。」(第3頁左上欄第1?6行)

(2)対比、判断
本件特許発明と引用発明とを対比すると、
後者の「脱水籠5」は、その構成・機能からみて、前者の「脱水槽」に相当し、以下同様に、後者の「外箱1に内設された水受槽2」は前者の「外箱の内部に設けられた水受槽」に、後者の「水受槽2内に配設された脱水籠5」は前者の「水受槽内に設けられ」た「脱水槽」に、後者の「水受槽2の下部で外箱の内底部に配置され脱水籠5を低速回転で所定時間駆動しその後高速回転させるように制御される駆動モータ3」は前者の「水受槽の外部下部に設けられ」「脱水槽を回転駆動するモータ」に、後者の「脱水籠5中にすすぎ水を供給する給水装置10」は前者の「脱水槽内に給水する給水手段」に、後者の「駆動モータ3に接続されるトライアック14,16のオン・オフを制御する制御装置22」は前者の「脱水槽の回転速度を」「制御すべく前記モータを速度制御する制御手段」にそれぞれ相当する。
また、後者の「時刻t_(2)?t_(3)の脱水籠5の低速回転時に脱水籠5中にすすぎ水を供給するようにし、且つその後の時刻t_(3)?t_(4)に高速回転させて、洗濯物23に含まれたすすぎ水が周囲に振り切られて脱水を行い、これを所定回数繰り返してすすぎ洗いを行う」ことと前者の「脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行ない且つその後脱水運転を行なう」こととは、ともに高速回転による脱水運転の前に、脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる低速回転の運転を行うものであるから、「脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる低速回転の注水運転を行ない且つその後脱水運転を行なう」点で共通し、したがって、後者の「低速回転時」と前者の「注水脱水運転時」は、「低速回転の注水運転時」という限りにおいて共通する。
さらに、脱水籠5の低速回転時である時刻t_(2)?t_(3)の最後の時刻t_(3)に高速回転させるものであるから、脱水籠5の低速回転時の回転速度より増速されるものである。
そして、後者の「脱水すすぎ装置」と前者の「洗濯機」とは、ともに「洗濯に関する装置」である点で共通する。
したがって、本件特許発明と引用発明とは、
「外箱と、前記外箱の内部に設けられた水受槽と、前記水受槽内に設けられる脱水槽と、前記水受槽の外部下部に設けられ前記脱水槽を回転駆動するモータと、前記脱水槽内に給水する給水手段とを備え、脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる低速回転の注水運転を行ない且つその後脱水運転を行なうようにしたものにおいて、この低速回転の注水運転時における前記脱水槽の回転速度を制御し、前記脱水槽の回転速度を前記低速回転の注水運転時における前記脱水槽の回転速度より増速ように制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設けた洗濯に関する装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。
A:本件特許発明が「前記水受槽内に設けられ洗い槽と兼用される脱水槽と、前記脱水槽内部下部に設けられた撹拌体と、」「前記撹拌体及び前記脱水槽を回転駆動するモータと」を備えた「洗濯機」であるのに対して、引用発明は「水受槽2内に配設された脱水籠5と、」「脱水籠5を」「回転させるように制御される駆動モータ3と」を備えた「脱水すすぎ装置」である点。
B:本件特許発明が「洗剤洗い工程を行った後に脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行ない且つその後脱水運転を行なうようにしたもの」であって、
「この注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御し、」「前記脱水運転中に、前記脱水槽の回転速度を前記注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度より増速し、洗濯機の固有振動数よりも高く制御すべく」モータを速度制御する制御手段を設けたのに対して、
引用発明は「脱水籠に洗剤分が含まれた洗濯物23が収納された後に脱水運転が所定時間続けられ、時刻t_(1)に直流制動が加えられ、時刻t_(2)?t_(3)の脱水籠5の低速回転時に脱水籠5中にすすぎ水を供給するようにし、且つその後の時刻t_(3)?t_(4)に高速回転させて、洗濯物23に含まれたすすぎ水が周囲に振り切られて脱水を行い、これを所定回数繰り返してすすぎ洗いを行うにしたもの」であって、
「すすぎ水を脱水籠5内の洗濯物23に供給する低速回転時、脱水籠5の回転が低速回転の状態を呈しているから、散水筒8から周囲に供給される水の勢いが緩く、洗濯物23に緩く水を侵透させることによりすすぎ水は洗濯物間の抵抗の少ない部分をゆっくり通って奥方にまで達することができ、すすぎ水が洗濯物23にまんべんなく供給される」ように、脱水籠5の回転を低速回転に制御するものの、
洗い槽と兼用される脱水槽を備えた洗濯機における「洗剤洗い工程を行った後に」行うものでなく、かつ「注水脱水」であるか否か不明であるとともに、洗濯機の固有振動数に関する回転速度の制御であることや、「前記脱水運転中に、」脱水槽の回転速度を注水脱水運転時における脱水槽の回転速度より増速するものでもない点。

そこで、上記相違点について検討する。
ア.相違点Aについて
引用発明は、脱水だけでなく、低速回転時に脱水籠5中にすすぎ水を供給しその後脱水を行うことを繰り返す、すすぎも行う脱水すすぎ装置である。
一方、高速回転時に給水したり、間欠的に脱水した後の脱水工程の中間で給水しながら脱水しその後間欠的に脱水したり、惰性で回転させて注水しその後脱水する等の、一般に注水脱水、脱水すすぎ又はすすぎ脱水等と呼ばれる、すすぎ又は脱水工程を、撹拌体による洗濯も行う洗濯兼脱水槽で行うことは、例えば、刊行物3及び6に示されるように、従来周知である。
そうすると、引用発明の脱水すすぎ装置における脱水籠5に関する技術を、上記のように周知の脱水を行うとともに撹拌体による洗濯も行う、洗濯機の洗濯兼脱水槽に適用しようとする程度ことは、当業者が容易に想到したことといえる。

イ.相違点Bについて
(ア)本件特許発明は、内部下部に撹拌体を設けられた洗い槽と兼用される脱水槽を有し、洗剤洗い工程を行った後に、(脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる)注水脱水運転を行ない、その後の脱水運転中に、前記注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度より増速するものである。そして、注水脱水運転時における脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御し、かつ、増速した後の脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数よりも高く制御するものである。
つまり、注水脱水時である低速回転の注水運転時、脱水運転時の初期と同じ脱水もなす速度で回転するものにおいて、低速回転時の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御することで、その脱水により生じる水当たり音を低減するとともに、洗濯物に多量の水が含まれていることによる振動を抑えるものであって、洗い槽と兼用される脱水槽においてそのような問題が生じる程度の回転速度を可能とするものである。また、本件特許発明は撹拌体を有する洗濯脱水槽であって、一般に二槽式洗濯機の脱水槽より大径であるために、水が十分に浸透するような回転速度であっても同時に脱水も可能となるものであって、そのことによる生じる問題を解決するものである。
そして、注水脱水の後の脱水運転においても、注水脱水と同じ回転速度で脱水する脱水運転中(ta)にその速度より増速するものであって、同じくその時の振動や水当たり音を抑え、さらに増速された後には回転速度を洗濯機の固有振動数よりも高くして、振動を抑えるものでもあるといえる。
(イ)引用発明は「すすぎ水を脱水籠5内の洗濯物23に供給する低速回転時、脱水籠5の回転が低速回転の状態を呈しているから、散水筒8から周囲に供給される水の勢いが緩く、洗濯物23に緩く水を侵透させることによりすすぎ水は洗濯物間の抵抗の少ない部分をゆっくり通って奥方にまで達することができ、すすぎ水が洗濯物23にまんべんなく供給される」のであるから、低速回転時に、すすぎ水は洗濯物間の抵抗の少ない部分をゆっくり通ることで奥方にまで達し、緩く水を侵透させるのであって、洗濯物にすすぎ水を含ませた後に、高速回転でこれを脱水するものある。つまり、その低速回転の回転速度は洗濯物にすすぎ水を含ませるのに適した速度であって、脱水するものとはいえない。
なお、刊行物1の第3図には給水弁停止後増速されるまでにわずかな期間が図示されるものの、そのままの回転速度を維持しても脱水されることはない。
したがって、本件特許発明の作用を示唆しておらず、本件特許発明の構成が容易であるはいえない。
(ウ)一方、二槽式洗濯機の脱水槽において、刊行物1((1)ア.(イ)参照)及び刊行物5((1)オ.(ア)参照)には脱水する高速回転時に注水すること、刊行物5((1)オ.(ウ)参照)には一方向へ間欠駆動しながら給水しその後脱水運転すること、特開昭63-288191号公報には脱水槽を停止した状態で水を供給するものではかかる時間が長くすすぎ効率が悪いので引用発明と同様に低速回転しながら注水することが記載されている。
しかしながら、上記特開昭63-288191号公報の脱水槽を停止した状態で水を供給するものではかかる時間が長くすすぎ効率が悪いとの記載を参酌しても、単に停止するものと比較するのみであって、その回転速度について脱水するような、水当たり音や振動について考慮しなければならない程度の回転速度を示唆するものでなく、本件特許発明の、脱水運転時にまで続く、注水脱水時の回転速度とはいえない。
刊行物5に記載の脱水槽は間欠駆動されていて高速運転時より平均速度が遅いものの、如何なる間欠駆動か不明であって脱水するとはされておらず、その間欠駆動の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御するものでもない。
(エ)また、撹拌体を有する洗濯兼脱水槽において、刊行物3には高速回転時に注水すること、刊行物6には間欠的に脱水した後の脱水工程の中間で給水しながら脱水しその後間欠的に脱水することや、惰性で回転させて注水しその後脱水することが記載されている。
しかしながら、刊行物6の脱水工程の中間で給水しながら脱水するとの記載では具体的にどのように給水と脱水が行われるのか不明であり、惰性で回転させて注水することについてもどのような惰性運転か不明であって、本件特許発明の注水脱水運転が示されているとはいえず、その回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御することも記載されていない。
刊行物3に記載される高速回転時に注水するものでは、既に高速回転されており、洗濯機の固有振動以下の回転速度としたり、水当たり音を低減させることはできない。
(オ)さらに、刊行物2には、パルセータを有する洗濯兼脱水槽において、洗濯後やすすぎ後の脱水工程の初期は機体の固有振動数以下の回転数とし、その後回転数を増加して固有振動数領域より高い回転数とすることが記載されているが、脱水工程の初期の回転数であって、注水脱水時の回転数やそれに続く回転数の制御についてまで記載するものではない。
刊行物4も、二槽式洗濯機の脱水槽において、脱水初期に脱水槽に溜まった水を排出できる以上かつ脱水槽の固有振動数以下の回転数で回転し、脱水槽に溜まった水による振動を防止し、その後増速して全速脱水とすることが記載されているのであって、溜まった水を排水するものの、洗濯物を脱水するものではないから、洗濯物を脱水するに至る速度であるとはいえず、本件特許発明における注水脱水時の回転速度やその後の制御までは示唆していない。
(カ)そうすると、たとえ引用発明の低速回転の注水運転時には洗濯物が水を含んでいて重いことが自明であり、洗濯物等が重い時に振動が大きくなりやすいことも当業者が通常認識し得たことであるとしても、上記したように本件特許発明の注水脱水やその後の制御までは示されていないから、引用発明に刊行物1?6及び特開昭63-288191号公報に記載した事項を適用して、相違点Bに係る本件特許発明の構成が容易であるとはいえない。
(キ)請求人は、注水脱水運転について脱水槽の径も重要な要因であるが本件特許発明には回転数を固有振動数以下と特定するのみと主張するが(第7参照。)、特許請求の範囲には、注水脱水運転との用語や脱水運転中に同じ回転速度より増速することが記載されており、注水脱水時の回転速度は脱水する速度といえるものである。
(ク)さらに検討を進め、撹拌体を有する洗濯兼脱水槽を有する洗濯機において、脱水初期に機体の固有振動数以下の回転数とする刊行物2に記載の発明に、脱水槽に関する引用発明を適用して、脱水運転の前に、低速回転の注水運転を行うようにしたとしても、その低速回転が洗濯機の固有振動数以下で脱水するものとするとともに、その後の具体的な制御を行うことまで、当業者にとって容易であるとはいえない。
(ケ)まとめ
以上のようであるから、当審が通知した無効理由があるとはいえない。

2.無効理由1について
次に請求人の主張する無効理由1について検討する。
請求人が提出した甲第1号証は刊行物3であり、甲第2号証は刊行物6である。
そして上記1.(2)イ.(エ)で述べたようであるから、本件特許発明について、甲第1及び2号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、請求人の主張する無効理由1については、理由があるとはいえない。

3.無効理由2について
さらに請求人の主張する無効理由2について検討する。
特許明細書等の段落【0005】に「脱水槽にアンバランス回転が発生すると、洗濯機の固有回転速度付近でこの洗濯機が共振し」と、また段落【0007】及び【0030】に「多量の水を含んだ状態で脱水槽と洗濯機全体とが共振することがなく」と記載されているから、洗濯機の固有振動数は明確であり、かつ特許明細書等に記載されている事項である。
そうすると、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえず、無効理由2についても理由があるとはいえない。

4.まとめ
以上1.?3.で検討したとおり、請求人の主張する無効理由1及び2、並びに当審が通知した無効理由は、いずれも理由がない。

第10 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法、並びに当審が通知した無効の理由によっては本件特許の請求項1に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
洗濯機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】外箱と、前記外箱の内部に設けられた水受槽と、前記水受槽内に設けられ洗い槽と兼用される脱水槽と、前記脱水槽内部下部に設けられた撹拌体と、前記水受槽の外部下部に設けられ前記撹拌体及び前記脱水槽を回転駆動するモータと、前記脱水槽内に給水する給水手段とを備え、洗剤洗い工程を行った後に脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行ない且つその後脱水運転を行なうようにしたものにおいて、この注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御し、前記脱水運転中に、前記脱水槽の回転速度を前記注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度より増速し、洗濯機の固有振動数よりも高く制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設けたことを特徴とする洗濯機。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行なうようにした洗濯機に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、例えば脱水兼用洗濯機では、洗剤洗い行程とすすぎ洗い行程の間に中間脱水行程を設けたものがある。この中間脱水行程では、洗い槽と脱水槽とを兼用する回転槽内に給水しつつこの回転槽を回転させるところの注水脱水運転を行なうようにしている。この注水脱水運転により、洗濯物内の洗剤分を有効に稀釈し除去し、もって、次のすすぎ洗い行程でのすすぎ効率を高めるようにしている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の場合には、脱水初期には洗濯物が上記給水により多量の水を含んで重量大となっていることから、アンバランスが発生しやすい傾向にあり、特に、上述の注水脱水運転の場合には、給水をしない通常の脱水運転の場合に比して大きな異常振動が発生するという問題があった。また、注水脱水運転の場合、多量の水が高速回転による遠心力で回転槽から振り飛ばされて水受槽に当たるいわゆる水当り音が大きいといった問題があった。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、注水脱水運転を行なうについて、異常振動の発生を抑えることができると共に、騒音の低減を図ることができる洗濯機を提供するにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、次の点に着目してなされたものである。すなわち、注水脱水運転を行なう場合、水の重量が大きいといった状況下で脱水槽にアンバランス回転が発生すると、洗濯機の固有回転速度付近でこの洗濯機が共振し、アンバランス状態が増大して、大きな異常振動が発生することが判った。また、水当り音の大きさは洗濯物の含水量が多くて且つ脱水槽の回転速度が比較的速い場合に大きくなることが判った。
【0006】
この点に着目した本発明の洗濯機は、外箱と、前記外箱の内部に設けられた水受槽と、前記水受槽内に設けられ洗い槽と兼用される脱水槽と、前記脱水槽内部下部に設けられた撹拌体と、前記水受槽の外部下部に設けられ前記撹拌体及び前記脱水槽を回転駆動するモータと、前記脱水槽内に給水する給水手段とを備え、洗剤洗い工程を行った後に脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行ない且つその後脱水運転を行なうようにしたものにおいて、この注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御し、前記脱水運転中に、前記脱水槽の回転速度を前記注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度より増速し、洗濯機の固有振動数よりも高く制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設けたところに特徴を有するものである。
【0007】
【作用】
上記手段によれば、注水脱水運転時における脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御するから、多量の水を含んだ状態で脱水槽と洗濯機全体とが共振することがなく、アンバランス状態が増大するようなことはなく、異常振動が抑えられる。また、多量の水を含んだ状態での脱水槽の回転が洗濯機の固有振動数といった低い回転速度に抑えられるから、水当り音も小さくできる。さらに脱水槽の回転速度が低い状況で水が給水されるから水が洗濯物に十分に浸透するようになり、いわゆるすすぎ効果が向上する。
【0008】
【実施例】
以下、本発明の第1の実施例につき図1ないし図6を参照しながら説明する。まず図6には脱水兼用洗濯機の縦断面構成を示している。外箱1の内部には水受槽2が設けられ、この水受槽2の内部には洗い槽および脱水槽を兼用する回転槽3が設けられている。この回転槽3の内部下部には撹拌体4が設けられている。そして、水受槽2の外部下部には単相誘導電動機からなるモータ5を主とする機構部6が設けられ、さらにこの水受槽2の底部の排水路には、排水弁7が設けられている。上記モータ5は洗いモータおよび脱水モータを兼用している。
【0009】
また、外箱1上部のトップカバー8の内部後部には給水手段としての給水弁9および水位センサ10が設けられ、そして前部内部には制御ユニット11が設けられている。
【0010】
図3には上記モータ5周りの電気回路を示している。モータ5の共通接続端子5aは交流電源12の一方の端子に接続され、モータ5の他の端子5b,5cは、それぞれトライアック13,14を介して交流電源12の他方の端子に接続されている。さらにモータ5の他の端子5b,5cには、トライアック15,16の一端が接続され、これらトライアック15,16の他端は共通の進相用コンデンサ17およびコイル18を介して交流電源12の他方の端子に接続されている。しかして、上記トライアック13,14,15および16により出力切替手段19が構成されている。
【0011】
モータ5には、これの回転速度を検出する例えばホール素子からなる回転速度検出手段20が設けられており、この回転速度検出手段20による検出信号は制御手段としての制御回路21に与えられる。
【0012】
制御回路21は、マイクロコンピュータおよびゲート回路並びにA/D変換器を含んで構成されており、トライアック13,14はこの制御回路21によりオンオフ制御され、またトライアック15,16は、この制御回路21によりホトカプラ22,23を介してオンオフ制御するようになっている。
【0013】
この制御回路21は、洗剤洗い行程、中間脱水行程、すすぎ洗い行程および最終脱水行程を順に実行するものであり、特に、中間脱水行程においては、モータ5を回転速度制御して回転槽3の回転速度を制御すると共に、前記給水弁9をオンオフ制御して開閉制御するようになっている。
【0014】
すなわち、図2に示すように中間脱水開始から所定時間taでは、回転槽3を第1の設定速度(例えば150r.p.m)に制御し、この後、所定時間tbで、第2の設定速度(例えば400r.p.m)に制御し、その後は、所定時間tcで、最終回転速度(これは負荷によって変わるがほぼ700r.p.m)として一次中間脱水行程を実行し、この一次中間脱水行程の後、引続き二次中間脱水行程を実行する。この場合、一次中間脱水行程と同様の速度制御を行なう。
【0015】
特に、上記一次中間脱水行程における脱水初期(開始から所定時間ta1の間)、および二次中間脱水行程における脱水初期(開始から所定時間td1の間)では、前記給水弁9をオン(開放)して回転槽3内に給水し、もって注水脱水運転を行なう。その後(所定時間tb及びtc、所定時間te及びtf)においては給水のない脱水運転が行なわれる。
【0016】
ここで、この回転槽3の速度制御はモータ5を制御回路21により制御することで行われるが、このモータ5の制御を一次中間脱水行程の場合について、図4を参照して述べる。
【0017】
(a)起動時から回転速度N2(回転速度は回転速度検出手段20にて検出する)未満では、トライアック14,15オン、トライアック13,16オフとし、もって、いわゆるモータ5の主・補助双方のコイル通電による駆動となる。この回転速度N2は、回転槽3の回転速度150r.p.mに相当する速度である。
【0018】
(b)起動後回転速度N2以上となるとトライアック14のみオン。主コイル通電による駆動となる。これによりモータ出力が落ちる。
【0019】
(c)一旦回転速度N2以上となった後は、回転速度がN1超?N3未満の間は、上述した主コイル通電となり、N1以下となるとトライアック14,15オンで主・補助コイル双方通電による駆動となり、モータ出力増加となって増速する。また、N3となるとトライアック14オフ、トライアック15オンで補助コイルのみ通電による駆動となり、減速される。
【0020】
従って、このような増速、減速により、図4(a)に示すように、回転速度N1?N3の範囲にあってN2を基準速度とした回転速度制御が実行される。この制御は、所定時間taで実行される。また、上記回転速度N3は、回転槽3の回転速度200r.p.mより低い回転速度に対応する速度である。従って、回転槽3は、給水弁9オンにより給水がなされるときには、この洗濯機の固有振動数である200?300r.p.mより低い回転される。
【0021】
この所定時間ta後は、図4に示す所定時間tbで次の出力切替えを行なうものである。
【0022】
(d)所定時間tbの開始時点では回転速度がN4になるまでは、トライアック14,15オン、トライアック13,16オフによる、主・補助双方のコイル通電による駆動となり、増速される。
【0023】
(e)回転速度がN4超?N6未満の間は、トライアック14のみオンで主コイル通電のみによる駆動となる。
【0024】
(f)回転速度がN6となると、トライアック15のみオンで補助コイルのみ通電による駆動となる。これにて減速される。
【0025】
このような増速、減速により回転速度N4?N6の範囲にあってN5を基準速度とした回転速度制御が実行される。この回転速度N5は回転槽3の回転速度400r.p.mに相当する。
【0026】
この所定時間tbを超えると、トライアック14,15オン、トライアック13,16オフによる、主・補助双方のコイル通電による駆動とし、この場合、最終速度Nx(回転槽3の回転速度700r.p.mにほぼ相当する)で回転する。なお、この場合のトライアック14,15のオンオフの一例を図4の(b)および(c)に示す。
【0027】
しかして、このような中間脱水行程時において、モータトルクと負荷と回転速度と関係について図5を参照して述べると、モータ5は、上述したように、脱水開始初期では主・補助双方のコイル通電により駆動されるが、この初期においては、洗濯物が水分を多く含んでいるため、負荷は大きくなり、図5の負荷曲線L1のような負荷状態となる。
【0028】
ここで、回転速度がN2に達すると、モータ5は主コイルのみの通電とされ、モータ出力特性はトルク曲線T2のようになる。このときトルク曲線T2のトルクと負荷曲線L1のトルクとは近い値となる。つまり、脱水負荷L1は、回転速度0では非常に小さい。また主コイル単独通電での駆動ではT2は回転速度0ではトルク0となるため、最大トルク相当の回転速度までT2とL1とは同じような値となる。
【0029】
この結果、回転速度はあまり大きく変化しないが、回転速度が低下してN1以下になると、モータ5は主・補助コイル双方通電とされ加速され、これにより、回転速度をほぼ一定(回転速度N2)に保つことになる。このような制御が前述した時間ta実行されると、次に、時間tbにて上述したように回転速度N5を保つ制御が実行され、この時間tbが経過すると上述した主・補助コイル双方通電により最終速度Mxとなる。
【0030】
さて、上記した本実施例よれば、モータ5を速度制御して注水脱水運転時における回転槽3の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御するから、多量の水を含んだ状態で回転槽3と洗濯機全体とが共振することがなく、よってアンバランス状態が増大するようなことはなく、異常振動が抑えられる。また、多量の水を含んだ状態での回転槽の回転が洗濯機の固有振動数といった低い回転速度に抑えられるから、水当り音も小さくできる。さらに回転槽の回転速度が低い状況で水が給水されるから水が洗濯物に十分に浸透するようになり、いわゆるすすぎ効果が向上する。
【0031】
なお、本発明は上記各実施例に限定されるものではなく、例えば注水脱水運転の終了時に直ちに回転速度を400r.p.mに上げるようにしても良い。また注水脱水運転以後の回転速度は適宜変更しても良い。さらに、出力切替手段のスイッチ素子構成は、本発明の第2の実施例として示す図7、第3の実施例として示す図8および第4の実施例として示す図9のようにしても良い。すなわち、図7においては、トライアック31,32,33および34を同図に示すように接続して出力切替手段35を構成している。図8においては、トライアック41,42およびリレースイッチ43を同図に示すように接続して出力切替手段44を構成している。図9においては、トライアック51,52および53を同図に示すように接続して出力切替手段54を構成している。この図9の構成の場合、主・補助コイル双方通電の場合と、主コイルのみ通電の場合との切替となる。
【0032】
その他、本発明は上記各実施例に限定されず、例えば回転速度検出手段としては、モータ自体の電流、位相差を用いて回転速度を検出する構成であっても良く、また、モータとしてはブラシレスモータを用いても良い等、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できるものである。
【0033】
【発明の効果】
本発明は以上の説明から明らかなように、外箱と、前記外箱の内部に設けられた水受槽と、前記水受槽内に設けられ洗い槽と兼用される脱水槽と、前記脱水槽内部下部に設けられた撹拌体と、前記水受槽の外部下部に設けられ前記撹拌体及び前記脱水槽を回転駆動するモータと、前記脱水槽内に給水する給水手段とを備え、洗剤洗い工程を行った後に脱水槽内に給水し且つ脱水槽を回転させる注水脱水運転を行ない且つその後脱水運転を行なうようにしたものにおいて、この注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度を洗濯機の固有振動数以下に制御し、前記脱水運転中に、前記脱水槽の回転速度を前記注水脱水運転時における前記脱水槽の回転速度より増速し、洗濯機の固有振動数よりも高く制御すべく前記モータを速度制御する制御手段を設けたことを特徴とするものであり、これにて、注水脱水運転を行なうについて、アンバランスの増大をなくし得て異常振動の発生を抑えることができ、また、水当り音を低減できて騒音の低減を図ることができ、さらには、すすぎ効果の向上にも寄与できる等の優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の第1の実施例に係わる、回転槽の回転速度変化と給水弁オンオフ状況とを示す図
【図2】
中間脱水行程の全体における回転槽の回転速度変化と給水弁オンオフ状況とを示す図
【図3】
モータに関連する回路図
【図4】
モータの回転速度変化およびトライアック14,15のオンオフの一例を示す図
【図5】
トルクおよび負荷並びに回転速度の関係を示す図
【図6】
洗濯機の縦断側面図
【図7】
本発明の第2の実施例に係わる出力切替手段部分の回路図
【図8】
本発明の第3の実施例に係わる出力切替手段部分の回路図
【図9】
本発明の第4の実施例に係わる出力切替手段部分の回路図
【符号の説明】
3は回転槽(脱水槽)、5はモータ、9は給水弁(給水手段)、13ないし16はトライアック、17は進相用コンデンサ、19は出力切替手段、20は回転速度制御手段、21は制御回路(制御手段)、35,44および54は出力切替手段を示す。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2009-09-15 
結審通知日 2010-05-31 
審決日 2009-10-06 
出願番号 特願平4-77440
審決分類 P 1 113・ 121- YA (D06F)
P 1 113・ 537- YA (D06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増沢 誠一  
特許庁審判長 平上 悦司
特許庁審判官 長浜 義憲
豊島 唯
登録日 2001-02-23 
登録番号 特許第3162470号(P3162470)
発明の名称 洗濯機  
代理人 小川 泰典  
代理人 小川 文男  
代理人 高橋 省吾  
代理人 堀口 浩  
代理人 家入 久栄  
代理人 小川 泰典  
代理人 堀口 浩  
代理人 稲葉 忠彦  
代理人 萩原 亨  
代理人 小川 泰典  
代理人 堀口 浩  
代理人 小川 泰典  
代理人 堀口 浩  
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