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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1222504
審判番号 不服2008-32051  
総通号数 130 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-10-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-18 
確定日 2010-08-26 
事件の表示 特願2005-207486「内視鏡」拒絶査定不服審判事件〔平成17年12月22日出願公開、特開2005-349216〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成14年11月19日を出願日とする特願2002-335513号の一部を,特許法第44条第1項の規定により平成17年7月15日に新たな特許出願としたものであって,平成20年11月7日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年12月18日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,平成21年1月19日付けで手続補正がされたものである。

第2 平成21年1月19日付けの手続補正についての補正却下の決定

1 補正却下の決定の結論

平成21年1月19日付けの手続補正を却下する。

2 理由

(1)本願補正発明
本件補正は,特許請求の範囲の請求項1を,
「体腔内に挿入される挿入部と,
前記挿入部の先端部に設けられ,通常観察用の倍率で体腔内光学像を結像する通常観察用対物レンズ系と,
前記挿入部の先端部に設けられ,前面を前記通常観察用対物レンズ系の前面に対して前方に突出して配置して前記通常観察用対物レンズ系より高い倍率で体腔内光学像を結像する高倍率対物レンズ系と,
処置具が挿通され,前記挿入部の先端部に出口が設けられたチャンネルと,
前記挿入部の先端部を構成し,前記高倍率対物レンズ系が配置された部分が前記チャンネルの出口から突出される処置具と干渉しないよう形成された先端部本体と,
を備えたことを特徴とする内視鏡。」(以下,「本願補正発明」という。)
とする補正を含むものである(下線部は補正箇所を示す。)。

(2)補正の目的について
上記請求項1についての補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「先端部本体」について,「先端部本体」に設けられた「高倍率対物レンズ系が配置された部分」が「処置具と干渉しないよう形成された」と限定するものであって,「先端部本体」について限定を付加するものであるといえる。
そうすると,上記請求項1についての補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえ,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法17条の2第4項2号の,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本願補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(3)引用例およびその記載事項
ア 本願出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開平9-21963号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(ア-1)
「【0001】【産業上の利用分野】本発明は,生体の体腔内や機器の配管内部に挿入し,内部の高解像度な画像を外部から観察する内視鏡装置に係り,とくに,医学診断に好適な内視鏡装置に関する。」

(ア-2)
「【0019】【実施例】(第一の実施例)図1に,本発明における内視鏡装置の第一の実施例を示す。図1において,被写体内部を観察するために,被写体内部に挿入する内視鏡挿入部40は,固体撮像素子10を含む小視野型画像検出器と,固体撮像素子20を含む大視野型画像検出器と,光ファイバー束31を含む照明系とから構成される。小視野型画像検出器は,固体撮像素子10と,ファイバー光学素子のライトガイドである光ファイバー束11と,外筒12とから構成される。大視野型画像検出器は,固体撮像素子20と,光学レンズ21とにより構成される。照明系は,光源30と,ライトガイドである光ファイバー束31と,光学レンズ32とから構成される。」

(ア-3)
「【0021】図2は,内視鏡挿入部40のうち,小視野型画像検出器部分のみを示す。この小視野型画像検出器は,先端部が被写体50の表面に接触することにより,被写体表面の画像を検出する。被写体に照射された照明光34の内の一部分は,被写体50の内部に入り,被写体内部で拡散した照明光35となる。この照明光35の一部分は,被写体に接触した小視野型画像検出器の先端から,ライトガイドである光ファイバー束11に入る。そして,この光を固体撮像素子10が検出する。光ファイバー束からなるライトガイドにおいて,ライトガイドの一方の端面に入射する可視光像は,ライトガイドの他方の端面から同じ像として出力される。このため,光ファイバー束11に一方の端面に被写体を密着すると,密着面での被写体の像が,他方の端面から出力され,この出力像を固体撮像素子10により検出できる。また,被写体50と固体撮像素子10の画像検出面との距離は,光ファイバー束11の長さで決まり,常に一定である。そして,被写体に密着する光ファイバー束11の一方の端面と,固体撮像素子10の画像検出面とは,概ね平行であるため,被写体の等倍率の画像を検出できる。」

(ア-4)
「【0023】小視野型画像検出器を,被写体中の観察対象位置にその先端部を密着させるために,大視野型画像検出器により観察対象位置の選定と,小視野型画像検出器の先端部分の対象位置への誘導を行う。大視野型画像検出器は,被写体表面の広い範囲の像を,光学窓22から光学レンズ21により結像して固体撮像素子20で検出する。この大視野型画像検出器の視野の中には,小視野型画像検出器の先端部分が入っており,大視野型画像検出器が観察する被写体上の目的位置に,小視野型画像検出器の先端部分を導くように内視鏡挿入部40を動かす。」

(ア-5)
「【0026】本実施例では,まず大視野画像検出器により被写体内部の観察対象部位の位置を探索する。この場合の視野寸法は,10cm角から20cm角程度であり,表示用モニタ28に表示される,10cm角から20cm角程度の視野寸法の画像により,被写体内部の広い範囲を観察する。次に,観察対象部位を決定して,小視野型画像検出器の先端を対象部位に接触させて,表示用モニタ18により高解像度での対象部位の画像観察を実行する。」

(ア-6)
「【0030】(第三の実施例)図7に,本発明における内視鏡装置の,第三の実施例の小視野型画像検出器を示す。図7において,小視野型画像検出器を被写体から離した状態であるが,観察時には,検出器先端が図5のように被写体50の表面に接触する。本実施例では,小視野型画像検出器が,固体撮像素子10と,光学レンズ61と,光学窓62と,外筒12とから構成される。本実施例では,光学窓62の外側表面上の画像が光学レンズ61により,固体撮像素子の画像検出面に結像される構造を有する。観察時には光学窓62の外側表面に,被写体50の観察対象部が接するため,観察対象の表面の像が,固体撮像素子の画像検出面に,光学レンズにより結像される。なお,本実施例での大視野型画像検出器の使用の方法は第一の実施例と同様である。光ファイバー束をライトガイドに用いる場合や,固体撮像素子を直接に被写体に接触させる場合には,被写体に対して等倍の画像を検出する。しかし,本実施例によれば,光学レンズを用いるため,被写体に対して任意の倍率での画像検出が可能となる。このため,検出視野を小さくし空間解像度をさらに向上させたり,逆に,検出視野を大きくして広い範囲の画像観察を行うこともできる。」

(ア-7)
図1は第一実施例の内視鏡装置を表す断面図であり,この図には,内視鏡挿入部40の内部でありその先端部に,固体撮像素子10および光ファイバ束11よりなる小視野型画像検出器と,固体撮像素子20および光学レンズ21よりなる大視野型画像検出器とが収容された形態,および,小視野型画像検出器の先端が,大視野型画像検出器の光学レンズ21前面に配置された光学窓22に対して突出して配置された形態が記載されている。

(ア-8)
図7は第三実施例の内視鏡装置の小視野型画像検出器の部分を表す断面図であり,この図には,小視野型画像検出器の先端部分に,固体撮像素子10,光学レンズ61,光学窓62が配置された形態が記載されている。

以上の記載事項(ア-1)から(ア-8)を総合すると,特に第三の実施例からみて,引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。

「生体の体腔内に挿入される内視鏡挿入部40であり,
前記内視鏡挿入部40内部の先端部に設けられた大視野型画像検出器であり,被写体表面の広い範囲の像を結像する光学レンズ21と固体撮像素子20よりなる大視野型画像検出器と,
前記内視鏡挿入部40内部の先端部に設けられた小視野型画像検出器であり,被写体表面の観察対象部位の像を結像する光学レンズ61と固体撮像素子10と光学窓62と外筒12よりなり,小視野型画像検出器の先端に位置する光学窓62が,大視野型画像検出器の光学レンズ21前面に配置された光学窓22に対して突出して配置された小視野型画像検出器とを備えた内視鏡。」
(以下,「引用例1記載の発明」という。)

イ また,本願出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開2001-340286号公報(以下「引用例2」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている。

(イ-1)
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,細長な挿入部の先端部に通常観察用としての低倍率光学系と拡大観察用としての高倍率光学系とを有する内視鏡に関する。」

(イ-2)
「【0010】【発明の実施の形態】以下,図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
(第1の実施の形態)図1ないし図3は本発明の第1の実施の形態に係わり,図1は本発明の第1の実施の形態の内視鏡を示す外観図,図2は図1の内視鏡挿入部の先端部の外観図,図3は図2の先端部の断面図である。」

(イ-3)
「【0011】図1に示すように本発明の第1の実施の形態の内視鏡1は,細長で可撓性を有する挿入部2と,この挿入部2の基端側に連設される把持部を兼ねる操作部3と,この操作部3上部に設けた接眼部4とを備えて水密に構成されている。尚,前記操作部3側部にはライトガイド等を内蔵したユニバーサルコード5の基端部を連結していて,このユニバーサルコード5の端部は図示しない光源に接続するためのコネクタ部(不図示)が設けられている。」

(イ-4)
「【0013】更に,この操作部3には,吸引操作を行うための吸引ボタン16と,この吸引ボタン16の基端付近から側部方向に突出して挿入部2内に設けられた図示しない吸引チャンネルに連通する吸引口金17とが設けられている。前記吸引口金17は,図示しないチューブを介して吸引装置(不図示)に接続され,前記吸引ボタン16を適宜操作することによって,挿入部2内に設けられた吸引チャンネル(不図示),吸引口金17を介して体腔内の体液などを吸引することができるようになっている。更に,操作部3の先端側には,鉗子などの処置具を挿入するための処置具挿入口18が設けられている。この処置具挿入口18は,挿入部2内に設けられた図示しない処置具挿通用チャンネルに連通している。また,前記処置具挿入口18には,鉗子栓19が着脱自在に取り付けられている。」

(イ-5)
「【0014】図2に示すように前記挿入部先端本体部11の先端面11aには処置具が突出する処置具開口21と,被検査部位に向けて照明光が出射される照明用レンズカバー22と,観察光学系の前面に配置された観察用レンズカバー23,24とが設けられている。」

(イ-6)
「【0015】図3に示すように先端本体部11には前記観察光学系を配設するための枠用透孔25,26が形成されている。前記枠用透孔25には観察光学系として複数のレンズ群27を支持するレンズ枠28が配設されていると共に,前記枠用透孔26には複数のレンズ群29を支持するレンズ枠30が配設されている。」

(イ-7)
「【0016】また,観察光学系を構成するイメージガイド31を配設するための透孔は本実施の形態では枠用透孔26と共通となっている。更に,図示しない照明光学系であるライトガイドを配設するための透孔及び前記処置具挿通用チャンネルや吸引チャンネルを配置するためのチャンネル用透孔なども形成されている。」

(イ-8)
「【0017】また,前記観察用レンズカバー23,24は,それぞれレンズ枠28,30の先端に設けられて挿入部先端本体部11の先端面11aに位置するように配置されている。尚,前記処置具挿通用チャンネルの内孔と前記処置具開口21とが連通し,前記したようにこの処置具挿通用チャンネルの他端部は前記操作部3の処置具挿通口18に連通している。」

(イ-9)
「【0019】本実施の形態では,前記複数のレンズ群27,29のうち,一方を通常観察用としての低倍率光学系とし,他方を拡大観察用としての高倍率光学系として構成する。即ち,撮像部本体32の前方に配設されたレンズ群27を拡大観察用の高倍率光学系,イメージガイド31の前方に配設されたレンズ群29を通常観察用の光学系としている。」

(イ-10)
図2は,図1の内視鏡挿入部の先端部の外観図であり,この先端部に,拡大観察用の高倍率光学系であるレンズ群27を支持するレンズ枠28の先端に設けられた観察用レンズカバー23,通常観察用の光学系であるレンズ群29を支持するレンズ枠30の先端に設けられた観察用レンズカバー24,処置具が突出する処置具開口21が,それぞれ間隔を開けて配置された形態が記載されている。

(4)当審の判断
ア 対比
本願補正発明と引用例1記載の発明とを対比する。

(ア)引用例1記載の発明の「生体の体腔内に挿入される内視鏡挿入部40」は,本願補正発明の「体腔内に挿入される挿入部」に相当する。

(イ)本願補正発明の「通常観察用対物レンズ系」は,本願明細書の【0016】や【0033】の記載,およびこれらの記載に対応した図2を参酌すると,対物レンズよりなる光学系を意味するものといえる。
一方,引用例1記載の発明の「大視野型画像検出器」の「光学レンズ21」は,その配置や機能からみて,対物レンズとして機能する光学系であり,被写体表面の広い範囲の像を結像するものである。そして,引用例1記載の発明は生体の体腔内に挿入される内視鏡であるから,上記「被写体表面の広い範囲の像」は,本願補正発明の「体腔内光学像」に相当する。
よって,引用例1記載の発明の「内視鏡挿入部40内部の先端部に設けられた大視野型画像検出器であり,被写体表面の広い範囲の像を結像する光学レンズ21と固体撮像素子20よりなる大視野型画像検出器」と,本願補正発明の「挿入部の先端部に設けられ」た「通常観察用の倍率で体腔内光学像を結像する通常観察用対物レンズ系」とは,内視鏡の挿入部の先端部に設けられ,体腔内光学像を結像する対物レンズ系である点で共通する。

(ウ)本願補正発明の「高倍率対物レンズ系」は,本願明細書の【0022】の記載,およびこの記載に対応した図2を参酌すると,対物レンズよりなる光学系を意味するものといえる。また本願明細書の【0014】や【0036】を参酌すると,高倍率対物レンズ系による観察は,局所的な関心部位の表面に高倍率観察手段の先端を接触させることにより行うものであるといえる。
一方,引用例1記載の発明の「小視野型画像検出器」の「光学レンズ61」は,その配置や機能からみて対物レンズとして機能する光学系であり,被写体表面の観察対象部位の像を結像するものである。そして,引用例1の記載事項(ア-5)から,小視野型画像検出器による観察とは,観察対象部位に小視野型画像検出器の先端を接触させて行う観察であるから,本願明細書に記載された高倍率対物レンズ系による上記の観察と同様に,体腔内の特定部位の光学像を対象とするものである。
そして,引用例1記載の発明の「小視野型画像検出器の先端に位置する光学窓62」の位置,「大視野型画像検出器の光学レンズ21前面に配置された光学窓22」の位置はそれぞれ,本願補正発明の「高倍率対物レンズ系」の「前面」,「通常観察用対物レンズ系の前面」それぞれと,「体腔内の特定部位の光学像を結像する対物レンズ系」の「前面」,「体腔内光学像を結像する対物レンズ系の前面」という点で共通する。
よって,引用例1記載の発明の「前記内視鏡挿入部40内部の先端部に設けられた小視野型画像検出器であり,被写体表面の観察対象部位の像を結像する光学レンズ61と固体撮像素子10と光学窓62と外筒12よりなり,小視野型画像検出器の先端に位置する光学窓62が,大視野型画像検出器の光学レンズ21前面に配置された光学窓22に対して突出して配置された小視野型画像検出器」と,本願補正発明の「挿入部の先端部に設けられ,前面を前記通常観察用対物レンズ系の前面に対して前方に突出して配置して前記通常観察用対物レンズ系より高い倍率で体腔内光学像を結像する高倍率対物レンズ系」とは,内視鏡の挿入部の先端部に設けられ,前面が体腔内光学像を結像する対物レンズ系の前面に対して前方に突出して配置された,体腔内の特定部位の光学像を結像する対物レンズ系である点で共通する。

(エ)本願補正発明の「先端部本体」は,本願明細書の【0015】や【0021】の記載,およびこれらの記載に対応する図2を参酌すると,内視鏡の先端部18を構成するものである。一方,引用例1記載の発明の「内視鏡挿入部40」の「先端部」は,被写体内部に挿入される部分であることから内視鏡の先端部に位置することは明らかであり,(ア-7)の記載事項から,「大視野型画像検出器」および「小視野型画像検出器」を収容する部分を構成するものである。
よって,引用例1記載の発明の「内視鏡挿入部40」の「先端部」と,本願補正発明の「挿入部の先端部を構成し,前記高倍率対物レンズ系が配置された部分が前記チャンネルの出口から突出される処置具と干渉しないよう形成された先端部本体」とは,挿入部の先端部を構成する先端部本体である点で共通する。

以上より,引用例1記載の発明と本願補正発明とは,
「体腔内に挿入される挿入部と,
内視鏡の挿入部の先端部に設けられ,体腔内光学像を結像する対物レンズ系と,
内視鏡の挿入部の先端部に設けられ,前面が体腔内光学像を結像する対物レンズ系の前面に対して前方に突出して配置された,体腔内の特定部位の光学像を結像する対物レンズ系と,
挿入部の先端部を構成する先端部本体と,を備えた内視鏡。」
である点において一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
内視鏡の挿入部の先端部に設けられ,体腔内光学像を結像する対物レンズ系が,本願補正発明においては,通常観察用の倍率で体腔内光学像を結像する通常観察用対物レンズ系であるのに対して,引用例1記載の発明においては,被写体表面の広い範囲の像を結像する大視野型画像検出器の対物レンズ系であり,その倍率については特定されていない点。

(相違点2)
内視鏡の挿入部の先端部に設けられ,前面が体腔内光学像を結像する対物レンズ系の前面に対して前方に突出して配置された,体腔内の特定部位の光学像を結像する対物レンズ系が,本願補正発明においては,通常観察用対物レンズ系より高い倍率で体腔内光学像を結像する高倍率対物レンズ系であるのに対して,引用例1記載の発明においては,被写体表面の観察対象部位の像を結像する小視野型画像検出器の対物レンズ系であり,その倍率については特定されていない点。

(相違点3)
本願補正発明は,処置具が挿通され,挿入部の先端部に出口が設けられたチャンネルを有するのに対して,引用例1記載の発明においては,処置具を挿通させるチャンネルを有さない点。

(相違点4)
挿入部の先端部を構成する先端部本体が,本願補正発明においては,高倍率対物レンズ系が配置された部分が前記チャンネルの出口から突出される処置具と干渉しないよう形成されたものであるのに対して,引用例1記載の発明においては,このような構成を有さない点。

以下,上記各相違点について検討する。

イ 相違点1および相違点2について
これらは関連するものであるので,まとめて検討する。
引用例2の記載事項(イ-1)?(イ-10)を総合すると,引用例2には,通常観察用としての低倍率光学系と,拡大観察用としての高倍率光学系とを備えた内視鏡が記載されており,低倍率光学系および高倍率光学系が,それぞれレンズ群29,27を備えることについても記載されているが,低倍率光学系の取得する観察画像に比べて,高倍率光学系が取得する観察画像がより精度の高いものであることは,それぞれの光学系の特性からみて明らかである。
一方,引用例1記載の発明において,記載事項(ア-5)から,大視野型画像検出器により取得される観察画像に対して,小視野型画像検出器により取得される観察画像は,より解像度の高い画像として想定されていることが理解され,解像度の高い画像は,より精度の高い画像であるといえる。
そうすると,引用例1記載の発明および引用例2の記載事項のいずれにおいても,精度の異なる2種類の観察画像を取得するために,特性の異なる2つの光学系を用いて,一方の光学系によって得られる観察画像の精度が,他方の光学系によって得られる観察画像の精度よりも相対的に高いものとなるように構成されているといえる。また,より精度の高い画像を,より高倍率の光学系を用いて取得することは,引用例2に記載されるように,本願出願前における周知の技術事項である。
よって,引用例1記載の発明の大視野型画像検出器および小視野型画像検出器に代えて,引用例2に記載された,それぞれの倍率が異なる低倍率光学系および高倍率光学系を用いるよう想到することは,当業者が容易になし得ることである。

ウ 相違点3について
内視鏡による観察に加えて処置具による処置を可能とするために,内視鏡挿入部の内部に処置具を挿通させるためのチャンネルを設けること,このチャンネル出口を内視鏡挿入部先端に設けることが,本願出願前における周知技術であることは,例えば,引用例2の記載事項(イ-3),(イ-4),(イ-5)に,内視鏡1の挿入部2内部に処置具挿通用チャンネルを設けること,挿入部先端本体部11の先端面11aに処置具が突出する処置具開口21を設けることについて記載され,特開2001-231743号公報の【0010】,【0014】に,内視鏡2の挿入部4内に処置具挿通用チャンネル17を設けること,挿入された処置具をチャンネル17の先端開口18から突出させて用いることについて記載されているとおりである。
このように,内視鏡において,光学系による観察に加えて処置具による処置を可能とする要請は一般的なものといえるから,引用例1記載の発明において,内視鏡挿入部の内部に処置具を挿通させるためのチャンネルを設けて,チャンネル出口を内視鏡挿入部先端に設けるよう想到することは,当業者が容易になし得ることといえる。

エ 相違点4について
本願補正発明の「高倍率対物レンズ系が配置された部分」が「チャンネルの出口から突出される処置具」と「干渉しないよう形成された先端部本体」について,本願補正発明において,「干渉しないよう形成された」構成は具体的に特定されておらず,「先端部本体」の構成として,さまざまなものを含むものとなっている。
そして,本願明細書の【0060】,【0063】,図3(A),図3(B),図6には,高倍率対物レンズ系40と,処置具である色素散布手段54を挿通させるチャンネル22とを,先端部18の先端面上において異なる位置に配置した形態が記載されており,異なる位置に配置された物と物とは衝突や接触といった干渉を起こさないから,上記配置を「干渉しないよう形成された」構成であるとしてとらえることができる。
しかしながら,内視鏡挿入部の内部に観察光学系に加えて処置具を挿通させる際に,互いの機能を妨害しないようにするため,観察光学系と処置具とを,挿入部の先端において異なる位置に配置することは,例えば,引用例2の(イ-10)に,拡大観察用の観察用レンズカバー23,通常観察用の観察用レンズカバー24,処置具が突出する処置具開口21を,内視鏡の先端部において間隔を開けて配置された形態が記載され,上記特開2001-231743号公報の【0010】,【0014】,【0016】,図1に,内視鏡2の挿入部4内に処置具挿通用チャンネル17とイメージガイド25とを配置する際,両者を挿入部4の先端において異なる位置に配置した形態が記載されているように,本願出願前の周知技術である。
また,技術常識からみて,本願補正発明における「干渉しないよう形成された」構成を,高倍率対物レンズ系の視野がチャンネルの出口から突出される処置具により妨害されないような光学的な配置を意味するものと解釈することもできるので,検討する。
内視鏡の観察光学系の視野が処置具などにより妨害されないよう考慮することが,本願出願前における周知の技術事項であることは,例えば,特開2000-342516号公報の【0024】,【0025】,図2に,処置用内視鏡10にセットされた処置具30の鉗子カップ33が,内視鏡の先端において観察視野を邪魔しないように,前記鉗子カップ33が観察窓15の方向に開閉しないようにすることが記載され,特開2002-238906号公報の【0023】,【0026】に,内視鏡観察手段10の観察窓12に対して洗浄用流体を供給するノズル22を装着する際に,ノズル22が観察窓12における観察視野を制約しないように配置することが記載されているとおりである。
よって,引用例1記載の発明において,内視鏡挿入部内部に処置具を挿通するチャンネルを設ける際に,内視鏡挿入部の先端から突出される処置具が,小視野型画像検出器に対して衝突や接触や視野の妨害といったさまざまな干渉を起こさないように配置することは,当業者が適宜なし得る設計的事項である。

オ 本願補正発明の効果について
本願補正発明の有する,通常観察用対物レンズ系による観察下で,高倍率対物レンズ系による観察位置を決めることができ,高倍率対物レンズ系による高倍率での観察状態に設定する操作を容易に行うことができるという効果は,引用例1の記載事項から当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。
なお,審判請求人は,意見書において「・・・本願発明は,「挿入部先端部から突出される高倍率対物レンズ系の先端部分と,チャンネルから突出される処置具との干渉」を防止することができ,細胞の色素染色・除去操作,拡大観察等といった操作を円滑且つ効率的に行うことが可能となります。」と主張し,審判請求の理由において「通常の内視鏡先端部と処置具との干渉に比べ,本願発明の如き内視鏡においては,高倍率対物レンズ系が突出していることから干渉する虞がより高く,本願請求項1に係る発明は,係る課題を解決するためになされたものである。」と主張しており,本願補正発明の効果として,挿入部先端部から突出される高倍率対物レンズ系の先端部分と,チャンネルから突出される処置具との,物と物との接触といった干渉が防止される効果を想定していると考えられる。
しかしながら,そもそも,このような効果は本願明細書に記載されておらず,「第2 2(4)エ」で検討したとおり,引用例2の記載事項および周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

したがって,本願補正発明は,引用例1記載の発明,および引用例2の記載事項,並びに周知技術術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明は特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 小括

以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

平成21年1月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1ないし請求項9に係る発明は,平成20年9月17日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。

「体腔内に挿入される挿入部と,
前記挿入部の先端部に設けられ,通常観察用の倍率で体腔内光学像を結像する通常観察用対物レンズ系と,
前記挿入部の先端部に設けられ,前面を前記通常観察用対物レンズ系の前面に対して前方に突出して配置して前記通常観察用対物レンズ系より高い倍率で体腔内光学像を結像する高倍率対物レンズ系と,
処置具が挿通され,前記挿入部の先端部に出口が設けられたチャンネルと,
前記挿入部の先端部を構成し,前記チャンネルの出口から突出される処置具と干渉しないよう形成された先端部本体と,
を備えたことを特徴とする内視鏡。」(以下,「本願発明」という。)

1 引用例およびその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である引用例1および引用例2の記載事項は,前記「第2 2(3)」に記載したとおりである。

2 対比・判断

本願発明は,前記「第2 2」で検討した本願補正発明における「前記挿入部の先端部を構成し,前記高倍率対物レンズ系が配置された部分が前記チャンネルの出口から突出される処置具と干渉しないよう形成された先端部本体」から,「高倍率対物レンズ系が配置された部分」との事項を省くものである。
そして,本願発明の「挿入部の先端部を構成し,前記チャンネルの出口から突出される処置具と干渉しないよう形成された先端部本体」について,本願発明において,「干渉しないよう形成された」構成は具体的に特定されておらず,さまざまな構成を含むものとなっているが,「第2 2(4)エ」で検討したとおり,挿入部先端部から突出される高倍率対物レンズ系の先端部分と,チャンネルから突出される処置具との干渉を防止する構成を想定しているものと考えられるが,この構成は,引用例1記載の発明,および引用例2の記載事項,並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得るものである。

そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が,上記「第2 2」において述べたとおり,引用例1記載の発明,および引用例2の記載事項,並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,引用例1記載の発明,および引用例2の記載事項,並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび

以上のとおり,本願発明は,引用例1記載の発明,および引用例2の記載事項,並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-28 
結審通知日 2010-06-29 
審決日 2010-07-12 
出願番号 特願2005-207486(P2005-207486)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 572- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 樋熊 政一谷垣 圭二  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 横井 亜矢子
郡山 順
発明の名称 内視鏡  
代理人 伊藤 進  

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