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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G |
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管理番号 | 1223650 |
審判番号 | 不服2007-13632 |
総通号数 | 131 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-11-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-05-10 |
確定日 | 2010-09-16 |
事件の表示 | 平成10年特許願第370772号「ポリイミド粉末の製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 7月11日出願公開、特開2000-191782〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成10年12月25日の出願であって、平成18年7月12日付けで拒絶理由が通知され、同年9月19日付けで意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成19年4月2日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年5月10日に拒絶査定不服審判が請求され、同年6月11日に手続補正書が提出され、同年7月26日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年10月12日付けで前置報告がなされ、それに基づいて当審で平成21年2月23日付けで審尋がなされ、それに対して同年4月22日に回答書が提出され、当審で平成22年3月16日付けで、平成19年6月11日付けの手続補正について補正の却下の決定がなされるとともに最後の拒絶理由が通知され、同年5月24日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。 第2 平成22年5月24日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年5月24日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 平成19年6月11日付けの手続補正は、上記のとおり、平成22年3月16日付け補正の却下の決定により却下されたので、平成22年5月24日付けの手続補正(以下、「当審補正」という。)は、平成18年9月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲について 「【請求項1】N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタムなどのアミド系溶媒中、固形分濃度が30-40重量%で、芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコ-ルハ-フエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液を、140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させた後、180-220℃程度の範囲内の温度にて反応を0.2-20時間継続する手順で重合イミド化させて、平均粒径が5-25μmのポリイミド粉末を得ることを特徴とするポリイミド粉末の製造法。 【請求項2】芳香族テトラカルボン酸二無水物が、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物である請求項1に記載のポリイミド粉末の製造法。 【請求項3】芳香族ジアミンが、p-フェニレンジアミンまたは4,4’-ジアミノジフェニルエ-テルである請求項1?2のいずれかに記載のポリイミド粉末の製造法。」を、 「【請求項1】アミド系溶媒中、固形分濃度が30-40重量%で、芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコ-ルハ-フエステル化物と芳香族ジアミンとを180-220℃の範囲内の温度で重合イミド化させて、平均粒径が5-25μmのポリイミド粉末を得ることを特徴とするポリイミド粉末の製造法。 【請求項2】芳香族テトラカルボン酸二無水物が、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物である請求項1に記載のポリイミド粉末の製造法。 【請求項3】芳香族ジアミンが、p-フェニレンジアミンまたは4,4’-ジアミノジフェニルエ-テルである請求項1?2のいずれかに記載のポリイミド粉末の製造法。」とする補正事項を含むものである。 2.補正の目的について 上記補正事項は、次の補正事項1を含むものである。 補正事項1: 当審補正前の特許請求の範囲の請求項1について 「芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコ-ルハ-フエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液を、140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させた後、180-220℃程度の範囲内の温度にて反応を0.2-20時間継続する手順で重合イミド化させて」を、 「芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコ-ルハ-フエステル化物と芳香族ジアミンとを180-220℃の範囲内の温度で重合イミド化させて」と補正する。 補正事項1により、請求項1の芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコ-ルハ-フエステル化物と芳香族ジアミンとを重合イミド化させて平均粒径が5-25μmのポリイミド粉末を得るポリイミド粉末の製造法において、当審補正前の「80℃未満の温度で得られた溶液を、140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させた後、180-220℃程度の範囲内の温度にて反応を0.2-20時間継続する手順で」重合イミド化させてなるものから、当審補正後の「180-220℃の範囲内の温度で」重合イミド化させてなるものとなった。 すなわち、当審補正前の請求項1の重合イミド化反応は、発明特定事項としての「溶液を80℃未満の温度で得る」、「140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させる」及び「180-220℃程度の範囲内の温度での反応を0.2-20時間継続する」という手順によって規定されるものであったところ、補正事項1により、当審補正後の請求項1の重合イミド化反応は、「180-220℃の範囲内の温度」という発明特定事項のみによって特定されるものとなった。 そうすると、補正事項1は、当審補正前の発明特定事項である「溶液を得る際の温度」、「微細粒子を析出させる際の温度」及び「180-220℃(程度)の範囲内の温度での継続時間」を併せて削除するものであるということができる。 してみると、補正事項1は、当審補正前の請求項1を拡張するものであるから、このような補正が、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、または明りょうでない記載の釈明のいずれの事項を目的とするものに該当しないことは明らかである。 したがって、補正事項1は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項をも目的とするものではない。 なお、請求人は、平成22年5月24日に提出した意見書において、 「〔2-1〕特許請求の範囲の補正 請求項1において、補正『アミド系』は明細書の段落[0014]や実施例に基づき、補正『固形分濃度が30-40重量%で』は明細書の段落[0009]や実施例に基づき、補正『180-220℃の範囲内の温度で重合イミド化させて』は明細書の段落[0012]や実施例に基づき、補正『平均粒径が5-25μmのポリイミド粉末を得る』は明細書の段落[0012]や実施例に基づきます。したがって、いずれも明細書に記載された事項であり、且つ請求項1のポリイミド粉末の製造方法を具体的な態様に減縮するものです。 補正前請求項2及び3は削除しました。 請求項2及び3は補正前4及び5の番号を繰り上げたものですが、請求項3においては従属関係を実施例に基づいて補正しました。」と主張している。 この請求人の主張に鑑みれば、当審補正の基礎となる明細書を出願当初明細書としているようである。 しかしながら、平成22年3月16日付けの補正却下の決定により却下されたのは平成19年6月11日に提出された手続補正書であるから、当審における平成22年3月16日付けの拒絶理由通知に対する補正の基礎とすべき明細書は、当該拒絶理由通知書の2.に示したとおり、平成18年9月19日に提出された手続補正書により補正された明細書であって、出願当初の明細書ではないから、請求人の主張はその前提において誤りである。 3.むすび 以上のとおりであるから、補正事項1を含む当審補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 上記のとおり、当審補正は却下されたので、本願の請求項1?3に係る発明(以下、総称して「本願発明」という。)は、平成18年9月19日付けの手続補正(以下、「原審補正」という。)により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタムなどのアミド系溶媒中、固形分濃度が30-40重量%で、芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液を、140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させた後、180-220℃程度の範囲内の温度にて反応を0.2-20時間継続する手順で重合イミド化させて、平均粒径が5-25μmのポリイミド粉末を得ることを特徴とするポリイミド粉末の製造法。 【請求項2】芳香族テトラカルボン酸二無水物が、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物である請求項1に記載のポリイミド粉末の製造法。 【請求項3】芳香族ジアミンが、p-フェニレンジアミンまたは4,4’-ジアミノジフェニルエーテルである請求項1?2のいずれかに記載のポリイミド粉末の製造法。」 第4 当審拒絶理由の概要 当審において、平成22年3月16日付けで通知した最後の拒絶理由は、下記の理由によるものであり、その概要は次のとおりである。 「(1)平成18年9月19日付けでした手続補正は、下記に示した理由により、願書に最初に添付した明細書に記載されておらず、同明細書に記載した事項から自明ともいえないから、同手続補正は、同明細書に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 記 (a)平成18年9月19日付けの手続補正は、請求項1に係る発明について、次の発明特定事項Bを含むものである。 発明特定事項B:芳香族テトラカルボン酸二無水物の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを重合させるに際して、『芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液を、140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させた後、180-220℃程度の範囲内の温度にて反応を0.2-20時間継続する手順で重合イミド化させ』る点。 願書に最初に添付した明細書(以下、『当初明細書』という。)においては、芳香族テトラカルボン酸二無水物の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを重合させるに際して、『芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液』を使用することにより、機械粉砕することなく微細なポリイミド粉末を生産性良く製造することができることについての記載は一切なされていないし、そのことが示唆もされていないし、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、『当業者』という。)にとって、そのことが自明のことでもないから、上記発明特定事項Bは、当初明細書に記載した事項の範囲内のものとすることはできない。 (2)本願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 記 本願の発明の詳細な説明の記載をみると、芳香族テトラカルボン酸二無水物の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを重合させるに際して、『芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液』を使用することにより、機械粉砕することなく微細なポリイミド粉末を生産性良く製造することができることについての記載は一切なされていないし、そのことが示唆もされていないし、当業者にとって、そのことが自明のことでもない。 そして、実施例1、2では、芳香族テトラカルボン酸二無水物の低級アルコールハーフエステル化物の溶液を50℃に冷却したのち、芳香族ジアミンを3時間かけて攪拌下に溶解させたことが記されているが、この際芳香族ジアミンを添加し始める温度が50℃であるとしても、その後も50℃に維持したことはおろか、80℃未満の温度に維持したことさえ記されておらず、芳香族ジアミンを添加して溶解させる工程における具体的な温度は不明である。 そうすると、当業者であっても、実施例1、2をその記載のとおりに実施することはできないといわざるを得ない。 してみると、本願発明が、『芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液を、140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させた後、180-220℃程度の範囲内の温度にて反応を0.2-20時間継続する手順で重合イミド化させ』るという点を発明特定事項として備えており、一方で上記のとおり、実施例1、2の記載が不備である以上、本願出願時の技術常識を考慮し、発明の詳細な説明中の全記載をもってしても、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 (3)本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 (a)『ハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液』である点について 本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例1?2として、芳香族ジアミンを添加し始める温度が50℃であるポリイミド粉末の製造法が記載されているものの、斯かる記載をもってして、ポリアミック酸を経由しないポリイミド粉末の製造方法における芳香族ジアミンを溶解する際の温度の境界値を超えて「80℃未満の温度」にまで拡張できるということはできない。 (b)『140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させ』る点について 本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例1?2として、ポリイミド粉末の製造法が記載されているものの、斯かる記載をもってしては、『140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させ』るとの要件を満足するポリイミド粉末の製造法が記載されているものと認めることはできない。 それゆえ、本願出願時の技術常識を参酌したとしても、本願発明に係る方法が、本願明細書の発明の詳細な説明に開示されたものであるということはできない。 したがって、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。」 第5 拒絶理由の妥当性について 1.特許法第17条の2第3項について (1)判断 上記拒絶理由に示したように、原審補正は、請求項1に係る発明について、次の発明特定事項Bを含むものである。 発明特定事項B:芳香族テトラカルボン酸二無水物の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを重合させるに際して、「芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液を、140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させた後、180-220℃程度の範囲内の温度にて反応を0.2-20時間継続する手順で重合イミド化させ」る点。 しかしながら、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。)において、その段落【0012】には、「この発明の方法においては、好適には、不活性ガス存在下に、反応溶媒中に、前記の芳香族テトラカルボン酸二無水物および低級アルコー(「低級アルコール」の誤記と認める。)を加え、反応させて芳香族テトラカルボン酸二無水物をハーフエステル化し、得られた溶液に芳香族ジアミンを加えて、好適には全還流の条件下140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させた後、180-220℃程度の範囲内の温度にて反応を0.2-20時間継続して、対数粘度(30℃、0.5g/100ml濃硫酸)が0.2-1.5であり、イミド化率が95%以上であり、特に平均粒径が5-25μm程度で凝集物の少ないポリイミド粉末を取得することが好ましい。」と、段落【0017】には、「実施例1 攪拌機、還流冷却器(水分離器付き)、温度計、窒素導入管を備えた容量500mlの円筒形フラスコに反応溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)285gを入れ、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)90g(0.31モル)とメタノール20.6g(0.64モル)とを入れ、80℃で1時間加熱、攪拌した。反応終了後、反応液を50℃に冷却し、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル61.3g(0.31モル)を3時間かけて攪拌下に溶解させた。この反応液を200℃のオイルバスで昇温させて 時間イミド化反応を行わせ、ポリイミド粉末を析出させた。」と、段落【0018】には、「実施例2 実施例1と同様の装置に反応溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン285gを入れ、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)90g(0.31モル)とメタノール20.6g(0.64モル)とを入れ、80℃で1時間加熱、攪拌した。反応終了後、反応液を50℃に冷却し、、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)61.3g(0.31モル)を3時間かけて攪拌下に溶解させた。この反応液を200℃のオイルバスで昇温させてイミド化反応を行わせ、ポリイミド粉末を析出させた。」と、各々記載されているものの、芳香族テトラカルボン酸二無水物の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを重合させるに際して、「芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液」を使用することにより、機械粉砕することなく微細なポリイミド粉末を生産性良く製造することができることについての記載は一切なされていないし、そのことが示唆もされていないし、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)にとって、そのことが自明のことでもない。 以上の当初明細書の記載及び本願出願時の技術常識に鑑みるに、当初明細書に発明特定事項Bが記載されていた、あるいは記載されていたに等しいということはできない。 そうすると、原審補正後の請求項1に記載された発明特定事項Bが、当初明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的な事項を導入しないものであるとする根拠はない。 してみると、発明特定事項Bは、当初明細書に記載した事項の範囲内のものであるということはできない。 (2)請求人の主張についての検討 (a)請求人は、平成18年9月19日提出の意見書において、補正「80℃未満の温度で得られた溶液を」は、引用文献3及び4の発明との区別を明りょうにするための限定であり、新規事項ではないと主張しているが、補正事項Bは、いわゆる「除くクレーム」と解することはできない。 すなわち、段落【0012】の記載からは、芳香族テトラカルボン酸二無水物の低級アルコールハーフエステル化物に芳香族ジアミンを加えた後の温度や時間等については何も触れておらず、この際に低い温度、特に80℃未満の温度にすることや、芳香族テトラカルボン酸二無水物の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンを溶解して溶液とする技術思想を把握することはできない。むしろ、芳香族ジアミンの添加後にすべて溶解させることに触れることなく「好適には全環流の条件下140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させ」としていることからすれば、芳香族ジアミン添加後に温度を上昇させることを特段排除していないものと解する方が妥当と思われる。 そして、実施例1、2(段落【0017】、【0018】)では、芳香族テトラカルボン酸二無水物の低級アルコールハーフエステル化物の溶液を50℃に冷却したのち、芳香族ジアミンを3時間かけて攪拌下に溶解させたことが記されているが、この際芳香族ジアミンを添加し始める温度が50℃であるとしても、その後も50℃に維持したことはおろか、80℃未満の温度に維持したことさえ記されておらず、芳香族ジアミンを添加して溶解させる工程における具体的な温度は不明である。 そうすると、芳香族ジアミンの添加後80℃以上の温度に昇温することを必須とする引用文献4に係る先願明細書に記載された発明に対し、本願発明は、当初明細書のすべての記載からみる限り、もともと芳香族ジアミン添加後に80℃未満の温度に維持して溶解するという技術的特徴を備えていたものと把握することができないのみならず、そもそも低い温度で溶液状態とするという技術思想さえ把握できないことから、上記発明特定事項Bを追加しようとする補正は当初明細書に記載された事項の範囲内においてするものではない。 なお、仮に本願発明が段落【0003】?【0004】の記載からみてポリアミック酸を経由しないポリイミド粉末の製造方法を意図していたものであるとしても、芳香族ジアミンを添加する際に80℃未満の温度で溶解すればそれを達成できることは明らかではない。請求人が審判請求書に添付して提出した参考資料1によれば、当該温度を室温または70℃以下の温度にする必要があることが明らかである。(5ページ左下欄4?6行参照。実施例1では40℃、実施例2では60℃である。)また、本願出願時の公知文献ではないものの参考資料2には芳香族テトラカルボン酸ジエステルと芳香族ジアミンとの反応において、有機極性溶媒中90?120℃程度の温度で縮重合反応することにより芳香族アミド酸オリゴマー(すなわちポリアミック酸オリゴマー)を製造することが記載されているが(段落【0050】参照)、実施例においては60℃で均一に溶解した後、100℃(実施例1)または110℃(実施例2)に昇温していること(段落【0083】、【0094】)、また、60℃では実質モノマ状態の溶液(比較例1)であり、85℃ではオリゴマー状の溶液(比較例2)となっていること(段落【0091】、【0097】)が記載されていることからみても、80℃未満であればポリアミック酸を経由しないものであるとする根拠にはなりえない。そうすると、芳香族ジアミンを添加した後80℃未満の温度とすることを加入することにより、ポリアミック酸を経由しないポリイミド粉末の製造方法のみならず、例えば79℃や78℃といったポリアミック酸を経由するポリイミド粉末の製造方法をも包含するものとなるから、ポリアミック酸を経由しないポリイミド粉末の製造方法を特定しようとしたものとすることもできない。 (b)請求人は、平成22年5月24日に提出した意見書において、実施例において、芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコ-ルハ-フエステル化物を生成させ、「反応終了後、反応液を50℃に冷却し、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル・・を3時間かけて撹拌下に溶解させた」と、ハーフエステル化工程と溶解工程とを一つの文章で説明しているから、ハーフエステル化工程後に50℃に冷却した状態で溶解工程を行ったことは明らかであると主張しているが、一つの文章で説明していることのみを根拠として、それが、芳香族ジアミンを添加し始める温度が50℃であることだけでなく、その後も50℃に維持したことを表すものであるということができないことは、上記したとおりであるから、この主張は採用することができない。 (c)請求人は、平成22年5月24日に提出した意見書において、「本意見書と同日提出の新たな補正では、平成18年19日(『平成18年9月19日』の誤記と認める。以下同じ。)付けでした手続補正中の、当初明細書に記載した事項の範囲内ではないと認定された請求項1の要件「80℃未満の温度で得られた溶液」、及び段落[0017]の実施例1の記載「5時間」は削除しました。したがって、第17条の3第3項に係る拒絶理由は解消したものと思料いたします。」と主張しているが、「80℃未満の温度で得られた溶液」との発明特定事項を含め他の発明特定事項と併せて削除しようとする補正項目1を含む平成22年5月24日付けの手続補正は、当審補正前の請求項1を拡張するものであって、却下すべきものであることは、上記第2で述べたとおりであるから、この主張は採用することができない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、発明特定事項Bを含む原審補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。 2.特許法第36条第4項について (1)判断 本願の発明の詳細な説明の記載をみると、上記第5 1.で摘示したとおり、芳香族テトラカルボン酸二無水物の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを重合させるに際して、「芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液」を使用することにより、機械粉砕することなく微細なポリイミド粉末を生産性良く製造することができることについての記載は一切なされていないし、そのことが示唆もされていないし、当業者にとって、そのことが自明のことでもない。 そして、実施例1、2(段落【0017】、【0018】)では、芳香族テトラカルボン酸二無水物の低級アルコールハーフエステル化物の溶液を50℃に冷却したのち、芳香族ジアミンを3時間かけて攪拌下に溶解させたことが記されているが、この際芳香族ジアミンを添加し始める温度が50℃であるとしても、その後も50℃に維持したことはおろか、80℃未満の温度に維持したことさえ記されておらず、芳香族ジアミンを添加して溶解させる工程における具体的な温度は不明である。 そうすると、当業者であっても、実施例1、2をその記載のとおりに実施することはできないといわざるを得ない。 してみると、本願発明が、「芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液を、140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させた後、180-220℃程度の範囲内の温度にて反応を0.2-20時間継続する手順で重合イミド化させ」るという点を発明特定事項として備えており、一方で上記のとおり、実施例1、2の記載が不備である以上、本願出願時の技術常識を考慮し、発明の詳細な説明中の全記載をもってしても、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。 (2)請求人の主張についての検討 請求人は、平成22年5月24日に提出した意見書において、「本意見書と同日提出の新たな補正では、平成18年19日付けでした手続補正中の、当初明細書の発明の詳細な説明で当業者が本願発明を実施する程度に明確且つ十分に記載されていないと認定された請求項1の要件『80℃未満の温度で得られた溶液』は削除しました。したがって、第36条第4項に係る拒絶理由は解消したものと思料いたします。」と主張しているが、「80℃未満の温度で得られた溶液」との発明特定事項を含め他の発明特定事項と併せて削除しようとする補正項目1を含む平成22年5月24日付けの手続補正は、当審補正前の請求項1を拡張するものであって、却下すべきものであることは、上記第2で述べたとおりであるから、この主張は採用することができない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項の規定に違反するものである。 3.特許法第36条第6項第1号について (1)判断 本願発明は、「芳香族テトラカルボン酸二無水物の炭素数1-5の低級アルコールハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液を、140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させた後、180-220℃程度の範囲内の温度にて反応を0.2-20時間継続する手順で重合イミド化させ」ることを発明特定事項として備えているが、この点に関し、本願明細書には、以下のとおり記載されている。 ア 「この発明の方法においては、好適には、不活性ガス存在下に、反応溶媒中に、前記の芳香族テトラカルボン酸二無水物および低級アルコー(「低級アルコール」の誤記と認める。)を加え、反応させて芳香族テトラカルボン酸二無水物をハーフエステル化し、得られた溶液に芳香族ジアミンを加えて、好適には全還流の条件下140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させた後、180-220℃程度の範囲内の温度にて反応を0.2-20時間継続して、対数粘度(30℃、0.5g/100ml濃硫酸)が0.2-1.5であり、イミド化率が95%以上であり、特に平均粒径が5-25μm程度で凝集物の少ないポリイミド粉末を取得することが好ましい。」(段落【0012】) イ 「実施例1 撹拌機、還流冷却器(水分離器付き)、温度計、窒素導入管を備えた容量500mlの円筒形フラスコに反応溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)285gを入れ、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)90g(0.31モル)とメタノール20.6g(0.64モル)とを入れ、80℃で1時間加熱、撹拌した。反応終了後、反応液を50℃に冷却し、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル61.3g(0.31モル)を3時間かけて撹拌下に溶解させた。この反応液を200℃のオイルバスで昇温させて5時間イミド化反応を行わせ、ポリイミド粉末を析出させた。析出したポリイミド粉末を濾別し、熱水洗浄及び真空乾燥させた。このポリイミド粉末の粒子径を株式会社堀場製作所製超遠心式自動粒度分布測定装置(CAPA-700型)を用いて、ポリイミド粉末0.05gをエチレングリコール50gに超音波分散(20分間)させて測定したところ、15μmあった。また、得られたポリイミド粉末の電子顕微鏡写真によれば凝集は認められなかった。このポリイミド粉末をそのまま、常法により成形体に成形することができた。」(段落【0017】) ウ 「実施例2 実施例1と同様の装置に反応溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン285gを入れ、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)90g(0.31モル)とメタノール20.6g(0.64モル)とを入れ、80℃で1時間加熱、攪拌した。反応終了後、反応液を50℃に冷却し、、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)61.3g(0.31モル)を3時間かけて攪拌下に溶解させた。この反応液を200℃のオイルバスで昇温させてイミド化反応を行わせ、ポリイミド粉末を析出させた。析出したポリイミド粉末を濾別し、熱水洗浄及び真空乾燥させた。このポリイミド粉末の粒子径を実施例1と同様にして測定したところ、18μmあった。また、得られたポリイミド粉末の電子顕微鏡写真によれば凝集は認められなかった。このポリイミド粉末をそのまま、常法により成形体に成形することができた。」(段落【0018】) (a)「ハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液」である点について 本願発明においては、「ハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液」であるとの要件を満足するポリイミド粉末の製造法であると規定されているところ、本願明細書の発明の詳細な説明においては、摘示アから、「ハーフエステル化し、得られた溶液に芳香族ジアミンを加えて」と記載されているのみであり、実施例1においても、摘示イのとおり、「反応終了後、反応液を50℃に冷却し、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル61.3g(0.31モル)を3時間かけて撹拌下に溶解させた。この反応液を200℃のオイルバスで昇温させて5時間イミド化反応を行わせ」と、実施例2においても、摘示ウのとおり、「反応終了後、反応液を50℃に冷却し、、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)61.3g(0.31モル)を3時間かけて攪拌下に溶解させた。この反応液を200℃のオイルバスで昇温させてイミド化反応を行わせ」と、各々記載されているのみで、芳香族ジアミンを添加し始める温度が50℃であるとしても、その後も50℃に維持したことはおろか、80℃未満の温度に維持したことさえ記されておらず、芳香族ジアミンを添加して溶解させる工程における具体的な温度は不明である。 ここで、仮に本願発明が、ポリイミド粉末の製造法において、ポリアミック酸を経由しないポリイミド粉末の製造方法を意図していたものであるとしても、本願出願時の技術常識に照らして、ハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを溶解して溶液を得るに際して、溶解する際の温度の境界値が80℃未満であることが技術常識であったとすることはできないし、上記3.(1)(a)で述べたとおり、芳香族ジアミンを添加する際に80℃未満の温度で溶解すればそれを達成できることも明らかではないから、ポリアミック酸を経由しないポリイミド粉末を得るに際して、芳香族ジアミンを溶解する際の温度の境界値が「80℃」であるということはできない。 してみると、本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例1?2として、芳香族ジアミンを添加し始める温度が50℃であるポリイミド粉末の製造法が記載されているものの、斯かる記載をもってして、ポリアミック酸を経由しないポリイミド粉末の製造方法における芳香族ジアミンを溶解する際の温度の境界値を超えて「80℃未満の温度」にまで拡張できるということはできない。 (b)「140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させ」る点について 本願発明においては、「140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させ」るとの要件を満足するポリイミド粉末の製造法であると規定されているところ、本願明細書の発明の詳細な説明においては、摘示アから、「好適には全還流の条件下140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させた後」と記載されているのみであり、実施例1においても、摘示イのとおり、「反応終了後、反応液を50℃に冷却し、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル61.3g(0.31モル)を3時間かけて撹拌下に溶解させた。この反応液を200℃のオイルバスで昇温させて5時間イミド化反応を行わせ」と、実施例2においても、摘示ウのとおり、「反応終了後、反応液を50℃に冷却し、、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)61.3g(0.31モル)を3時間かけて攪拌下に溶解させた。この反応液を200℃のオイルバスで昇温させてイミド化反応を行わせ」と、各々記載されているのみで、「140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させ」ることに関し一切記載されていない。 ここで、本願出願時の技術常識からみて、ポリイミド粉末の製造法において、180-220℃程度の範囲内の温度にてイミド化反応をさせるに際して、予め「140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させ」ることが技術常識であったとすることもできない。 してみると、本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例1?2として、ポリイミド粉末の製造法が記載されているものの、斯かる記載をもってしては、「140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させ」るとの要件を満足するポリイミド粉末の製造法が記載されているものと認めることはできない。 それゆえ、本願出願時の技術常識を参酌したとしても、本願発明に係る方法が、本願明細書の発明の詳細な説明に開示されたものであるということはできない。 したがって、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。 (2)請求人の主張についての検討 請求人は、平成22年5月24日に提出した意見書において、「本意見書と同日提出の新たな補正では、平成18年19日付けでした手続補正中の、当初明細書の発明の詳細な説明で明確に記載されていない認定された請求項1の要件『ハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液』及び『140℃以上180℃以下程度の温度で微際粒子を析出させ』は削除しました。したがって、第36条第6項第1号に係る拒絶理由は解消したものと思料いたします。」と主張しているが、「ハーフエステル化物と芳香族ジアミンとを80℃未満の温度で得られた溶液」である点及び「140℃以上180℃以下程度の温度で微細粒子を析出させ」との発明特定事項を含め他の発明特定事項と併せて削除しようとする補正項目1を含む平成22年5月24日付けの手続補正は、当審補正前の請求項1を拡張するものであって、却下すべきものであることは、上記第2で述べたとおりであるから、この主張は採用することができない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、本願明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものである。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本願は当審において通知した拒絶理由によって、拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-07-07 |
結審通知日 | 2010-07-13 |
審決日 | 2010-07-26 |
出願番号 | 特願平10-370772 |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(C08G)
P 1 8・ 161- WZ (C08G) P 1 8・ 536- WZ (C08G) P 1 8・ 57- WZ (C08G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松岡 弘子 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
藤本 保 小野寺 務 |
発明の名称 | ポリイミド粉末の製造法 |