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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61L
審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61L
管理番号 1224023
審判番号 不服2007-18440  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-07-02 
確定日 2010-09-21 
事件の表示 平成 6年特許願第521655号「二成分組織接着剤」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年10月13日国際公開、WO94/22503,平成 8年12月24日国内公表,特表平 8-512215〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,1994年3月27日(パリ条約による優先権主張1993年3月30日,欧州特許機構)を国際出願日とする出願であって,平成16年11月11日付けで願書に添付した明細書についての手続補正書が提出され,平成17年10月18日付けで拒絶理由が通知され,平成18年4月25日付けで意見書が提出されたところ,平成19年3月26日付けで拒絶査定がなされた。その後,同年7月2日付けで,拒絶査定不服審判が請求されるとともに,願書に添付した明細書についての手続補正書が提出された。

第2 平成19年7月2日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成19年7月2日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の請求項に係る発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1及び2は,補正前の
「【請求項1】 下記の成分を含むフィブリングルー用の組成物:
イ)蓄えられていて,ウイルス不活性にされたフィブリノーゲンを含有する全血の寒冷沈降物,および
ロ)トラネキサム酸もしくはその生理学的に許容できる塩。
【請求項2】 下記の成分を含む二成分系のフィブリングルー組成物:
a)蓄えられていて,ウイルス不活性にされたフィブリノーゲンを含有する全血の寒冷沈降物,およびトラネキサム酸もしくはその生理学的に許容できる塩を含む成分A,および
b)成分Aの寒冷沈降物に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断してフィブリンポリマーを生成する蛋白分解酵素。」
から,補正後の
「【請求項1】 下記の成分を含むフィブリングルー用の組成物:
イ)蓄えられていて,ウイルス不活性にされたフィブリノーゲンを含有する全血の寒冷沈降物,および
ロ)組成物に対して5乃至100mg/mlの範囲の量のトラネキサム酸もしくはその生理学的に許容できる塩。
【請求項2】 下記の成分を含む二成分系のフィブリングルー組成物:
a)蓄えられていて,ウイルス不活性にされたフィブリノーゲンを含有する全血の寒冷沈降物,および組成物に対して5乃至100mg/mlの範囲の量のトラネキサム酸もしくはその生理学的に許容できる塩を含む成分A,および
b)成分Aの寒冷沈降物に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断してフィブリンポリマーを生成する蛋白分解酵素を含む成分B。」
に補正された。
(以下,本件補正後の請求項2に係る発明を「補正発明2」という。)

そこで,本件補正が適法になされたものであるかどうかについて,検討する。

2.目的要件について
上記の請求項1及び2に係る補正は,
(i) 補正前の請求項1及び2に記載されていた「トラネキサム酸もしくはその生理学的に許容できる塩」の組成物に対する含有量を「組成物に対して5乃至100mg/mlの範囲の量の」と特定し,
(ii)補正前の請求項2に記載されていたb)の末尾に「を含む成分B」を加入する
ものである。
しかしながら,補正事項(i) について,組成物に対する「トラネキサム酸もしくはその生理学的に許容できる塩」の含有量は,補正前の両請求項には記載されていなかった事項であるから,当該含有量を特定する補正は,補正前の請求項に記載された「発明の構成に欠くことができない事項」のいずれを限定するもの,すなわち,概念的により下位の「発明の構成に欠くことができない事項」とするもの,ともいえない。そうすると,本件補正は,平成6年法律第116号改正附則第6条によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,単に「平成6年改正前」という。」)の特許法第17条の2第3項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく,また,同項に規定する他のいずれの事項を目的とするものでもない。
よって,本件補正は,平成6年改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反する。

3.独立特許要件について
上記2.の判断とは異なり,本件補正が,平成6年改正前の特許法第17条の2第3項第2号の規定に適合する(いわゆる限定的減縮を目的とする)と判断された場合を仮定して,次に,補正発明2が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,単に「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかどうか)について検討する。

(1) 特許法第29条第2項について
ア.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された,カナダ国特許出願公開第2079077号明細書(1993年3月28日出願公開,以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。
(a) 「1.次のものを含む組織グルー:
濃縮された全血の寒冷沈降物,及び3,000?5,000KIU/ml単位のアプロチニンに相当するプロテアーゼ阻害剤の量を含む成分A,及び
成分A中に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断してフィブリンポリマーを生成することができる蛋白分解酵素を含む成分B。
2.プロテアーゼ阻害剤がアプロチニンであるクレーム1の組織グルー。」(クレーム1,2)
(b) 「5.寒冷沈降物がウイルス不活性にされているクレーム1,2,3又は4の組織グルー。」(クレーム5)
(c) 「この発明は,2つの成分A及びBを含む組織グルー,組織グルーの製造法,組織グルーを製造するための多量のアプロチニンの使用及び蛇毒蛋白分解酵素の使用に関する。」(第1頁第2?6行)
(d) 「本発明に係る組織グルーは,濃縮された全血の寒冷沈降物と,3,000?5,000KIU/ml単位のアプロチニンに相当するプロテアーゼ阻害剤,好ましくはアプロチニン,の量を含む成分A,及び,成分A中に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断して,フィブリンポリマーの形成を引き起こすことができる蛋白分解酵素を含む成分B,を含む。」(第3a頁第1?9行)
(e) 「本発明の組織グルーの製造には,市販の寒冷沈降物を用いることができる。しかし,この寒冷沈降物は2?5の間の倍率,好ましくは3倍に濃縮するのが有利である。3,000?5,000KIU/ml単位のアプロチニンの量に相当する十分な濃度のプロテアーゼ阻害剤を寒冷沈降物に加えることにより,重い出血疾患の患者に本発明の組織グルーを使用することが好適なものとなる。好ましいプロテアーゼ阻害剤はアプロチニンであり,トラジロール(Trasylol^(R))又はアンタゴサン(Antagosan^(R))の商標で商業的に利用可能である。
手術に先立って患者から自己血単位を提供してもらい,患者自身から寒冷沈降物を得ることができる。このアプローチは,血液派生物によってウイルス感染が波及する危険を防ぐ。しかし,適切な市販品を得るためには,寒冷沈降物はウイルス不活性にしなければならない。ウイルス不活性化の手順は,PCT/EP91/00503に記載されている。基本原理は,寒冷沈降物の特殊な洗浄剤での処理,及びその後の寒冷沈降物からの洗浄剤の除去である。」(第3a頁第10行?第4頁第16行)
(f) 「無菌寒冷沈降物(cryo)は,凍結された(-30℃)ヒト血漿を4℃で解凍し,上澄みの血漿を除去して調製した。蛋白濃度とフィブリノーゲン濃度を決定するために,この5ユニットを貯留し,それぞれの濃度をビュレット法により2U/mLのトロンビンを用いて,寒冷沈降物(1:5で希釈されたもの)のクロットを形成する前後で決定した。」(第9頁第12?17行)
(g) 「貯留した寒冷沈降物の蛋白レベル:
5ユニットから調製した貯留寒冷沈降物は,次のような平均値を示した。
蛋白: 75mg/mL
フィブリノーゲン: 36mg/mL
第XIII因子: 4.10U/mL」(第10頁第5?10行)

ここで,寒冷沈降物としては市販のものを使用することができるところ(上記 (e)),市販のものは,それを実際に使用するまで「蓄えられてい」たものであるといえる。また,使用される寒冷沈降物にフィブリノーゲンが含まれていることが,明確に記載されている(上記(f)(g))。そうすると,これらの記載から,引用例1には,次の発明が記載されているものと認められる。
「次のものを含む組織グルー:
蓄えられていて,ウイルス不活性にされたフィブリノーゲンを含有する全血の寒冷沈降物,及び3,000?5,000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する量のプロテアーゼ阻害剤を含む成分A,及び
成分Aに存在するフィブリノーゲンを特異的に切断してフィブリンポリマーを生成することができる蛋白分解酵素を含む成分B。」

イ.対比
補正発明2と引用例1に記載された発明とを対比すると,引用例1の「組織グルー」は,成分A及び成分Bからなる二成分系の組成物であって,フィブリンポリマーを生成して生体組織を接着させるためのもの(組織グルー)であるから,「二成分系のフィブリングルー組成物」にほかならない。また,補正発明2で使用されるトラネキサム酸は,本願明細書の記載からも明らかなように「プロテアーゼ阻害剤」の一種である。
そうすると,補正発明2と引用例1に記載された発明とは,
「下記の成分を含む二成分系のフィブリングルー組成物:
a)蓄えられていて,ウイルス不活性にされたフィブリノーゲンを含有する全血の寒冷沈降物,およびプロテアーゼ阻害剤を含む成分A,および
b)成分Aの寒冷沈降物に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断してフィブリンポリマーを生成する蛋白分解酵素を含む成分B。」
である点で一致し,次の2点において相違する。
[相違点1]
成分A中の「プロテアーゼ阻害剤」として,補正発明2では「トラネキサム酸」を使用するのに対し,引用例1では,好ましいものとして「アプロチニン」が挙げられているものの,特に特定されていない点。
[相違点2]
使用するプロテアーゼ阻害剤の量が,補正発明2では「組成物に対して5乃至100mg/mlの範囲の量」(のトラネキサム酸もしくはその生理学的に許容できる塩)であるのに対し,引用例1に記載された発明においては「3,000?5,000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する」量である点。

ウ.判断
以下,これらの相違点について検討する。
[相違点1]について
フィブリノーゲンを含む組成物に添加するプロテアーゼ阻害剤として「トラネキサム酸」を使用することは,いずれも,原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第92/22312号(以下「引用例2」という。第7頁第13?17行に,プラスミン阻害剤として「トラネキサム酸」を使用することが記載されている。),特開昭58-26821号公報(以下「引用例3」という。第4頁左下欄第9?14行に,プラスミン抑制剤として「トラネキサム酸」を使用することが記載されている。),特開平2-209811号公報(以下「引用例4」という。第5頁左下欄第11?16行に,使用するプロテアーゼ阻害剤として「トラネキサム酸」が記載されている。)にも記載されているように,本願の優先日において周知の技術的事項(周知技術)であったといえる。そうすると,引用例1に記載されたフィブリングルー組成物において使用するプロテアーゼ阻害剤として,「トラネキサム酸」を採用するようなことは,当業者が容易に想到し得たことである。

[相違点2]について
添加するプロテアーゼ阻害剤の量が,フィブリングルー組成物の取り扱いやすさや生成するクロットの性状に影響を与えるであろうことは,当業者であれば容易に予測し得るところであり,その最適な範囲を構成するプロテアーゼ阻害剤の量を決定することは,当業者が通常行うことである。具体的には,プロテアーゼ阻害剤の量を変化させた各種フィブリングルー組成物を作成し,それらを実験に付すことにより,容易に決定できる。そうすると,使用するプロテアーゼ阻害剤(トラネキサム酸)の含有量の範囲を「組成物に対して5乃至100mg/ml」としたことに,格別な困難性は見いだせない。
なお,引用例1に記載された発明において,使用されるプロテアーゼ阻害剤の量は「3,000?5,000KIU/ml単位のアプロチニンに相当する」量であるところ,この範囲のプロテアーゼ阻害剤の量が,トラネキサム酸の場合にどの程度の含有量に相当するのかは必ずしも明らかではない。この点について,本願明細書の段落【0029】には,「トラネキサム酸の好ましい含有量は10乃至200mg/mlで,さらに好ましくは25乃至100mg/mlである(最終濃度)。この濃度の範囲でのトラネキサム酸は3000乃至10000KIU/mlの活性を有するアプロチニンと同じ効果を示す。」と記載されており,これから見ると,アプロチニンの3000乃至10000KIU/mlがトラネキサム酸の10乃至200mg/mlに相当することになる。そうすると,補正発明2におけるトラネキサム酸の含有量「5乃至100mg/ml」は,引用例1に記載された発明におけるアプロチニンの含有量「3,000?5,000KIU/ml」と,範囲としてかなりの部分が重複するものであるといえ,そのような範囲を設定することは,なおさら容易である。

そして,補正発明2により奏される効果も,引用例1及び周知技術からみて格別なものであるとはいえない。

請求人は,本件発明による効果に関連して,審判請求書の【請求の理由】及び審尋に対する回答書において,次の点を主張している。
(イ)本願明細書に添付の第1図が,本件発明による優れた作用効果を明らかにするものであることは,本願明細書の記載から十分に理解できる。確かに,第1図及び第1図を説明する記載中には,オクタコル中のトラネキサム酸の含有量の記載が見られないことは事実ではあるが,「グルー内のトラネキサム酸含有量を(初期濃度で)5乃至100mg/mlの範囲で変えることで調節できる」との記載を見れば,本願明細書を読む当業者は,実施例ではトラネキサム酸が5乃至100mg/mlの範囲のうちのいずれかの量で使用されていると当然に理解する。そして,本願明細書の記載から,本件発明の寒冷沈降物が,市販されているティシュコールとベリプラストの長所を併せ持ちながらも,両者の欠点を持たないという,両者に比較して優れた効果を示すこと,及び,本件発明の生体組織用グルーは,従来の選択肢の中間をとったものであることが分かる。なお,回答書に添付した資料1及び資料2(いずれも,本件出願後に頒布された刊行物)によれば,「オクタコルF15」が請求人が提供する「Quixil(キシル)」であり,それはトラネキサム酸を100mg/ml含有するものである。

(ロ)本願明細書の記載から,本件発明の優れた効果(引っ張り強度の増大)は,トラネキサム酸含有量5乃至100mg/mlの範囲で同様に現れるが,接着強度が解消する時間は,その範囲でトラネキサム酸含有量を変化させることにより変動させることができると理解できる。この本件発明におけるトラネキサム酸の配合による効果が,その配合量の変化によって大きく変動しないことは,追加の実施例からも明らかである。すなわち,追加の実験結果から,50mg/mlのトラネキサム酸を含む組成と100mg/mlのトラネキサム酸を含む組成とからは,凍結と解凍の操作を行った場合において,同等の引っ張り強度を示すクロットが形成されることが示される。すなわち,トラネキサム酸配合量を半分にしても,得られるクロットの引っ張り強度の実質的な低減は現れないから,これらの結果から,本件発明の組成物が広いトラネキサム酸の配合量範囲において実質的に変わらない引っ張り強度のクロットを形成することを理解できる。

これら請求人の主張について検討する。
(イ)について
請求人が,明細書を読む当業者は,実施例ではトラネキサム酸が5乃至100mg/mlの範囲のうちのいずれかの量で使用されていると当然に理解する旨主張する根拠としている,特許法第184条の5第1項の規定による書面に添付した明細書の翻訳文(以下「当初明細書」という。)第6頁第1段落には,次の記載がある。
「トラネキサム酸の好ましい含有量は10乃至200mg/mlで、さらに好ましくは25乃至100mgである(最終濃度)。この濃度の範囲でのトラネキサム酸は3000乃至10000KIU/mlの活性を有するアプロチニンと同じ効力を示す。好都合なことに、アプロチニンの代りにトラネキサム酸を含んでいるフィブリングルーは傷を治療するのにより効果的である。トラネキサム酸を含む本発明のフィブリングルーには、接着を解消しなくてはならないと望む時間に応じてトラネキサム酸の濃度を変化させることができるという長所がある。この時間は様々な症状によって変り、グルー内のトラネキサム酸含有量を(初期濃度で)5乃至100mg/mlの範囲で変えることで調節できる。トラネキサム酸は、また引っ張り強度を増大させるという良い効果をもたらす。」
ここには,請求人が指摘するように,確かに「グルー内のトラネキサム酸含有量を(初期濃度で)5乃至100mg/mlの範囲で変えることで調節できる」との記載がなされてはいるものの,これは,接着を解消しなくてはならないと望む時間を変化させる際の,グルー内のトラネキサム酸含有量に係る記載である。
一方,第1図に係る実施例として行われているのは,市販品のティシュコール及びベリプラストと,オクタコル(プロテアーゼ阻害剤としてトラネキサム酸を使用した実施品と推認される。)について,生成したクロットの引っ張りに対する抗張力を測定した実験だけであって(当初明細書第3頁第25行?第4頁第25行参照),接着を解消しなくてはならないと望む時間を変化させる実験などは全く行われていない。そうすると,当初明細書を読んだ当業者は,第1図に係る実施例におけるオクタコルによる実験が,トラネキサム酸が5乃至100mg/mlの範囲のうちのいずれかの量で使用されている考える余地はなく,オクタコル中のトラネキサム酸の含有量は当初明細書の記載からは全く不明である。
また,回答書に添付された資料1及び資料2は,いずれも本件出願後に頒布された刊行物であるから,本件出願時の技術水準を構成するものではない。なお,平成19年9月10日付け手続補正書に添付された「Quixil(キシル)」のパンフレットには,含有されるトラネキサム酸の量が記載されていない。
そうすると,本件発明の実施品の可能性を有する唯一の実施例であるオクタコルが,トラネキサム酸を(初期濃度で)5乃至100mg/mlの範囲の量で含有することは,当初明細書及び第1図を始めとする図面に記載されておらず,かつ,それらの記載及び本件出願時の技術常識から,当業者にとって自明であったともいえない。

(ロ)について
補正発明2においては,配合されるトラネキサム酸の量は「組成物に対して5乃至100mg/mlの範囲の量」であるところ,仮に,請求人が回答書において示した50mg/mlと100mg/mlでの実験データ(追加の実験結果)及び出願時の技術常識から,トラネキサム酸の量が「50乃至100mg/ml」の範囲で奏される効果が変わらないものであることが立証できていたとしても,それ以外の範囲,すなわち「5mg/ml以上50mg/ml未満」の範囲,においてもこれらと同様に,請求人が主張する「効果」が奏されるものであることが明らかにされたとはいえない。
そうすると,補正発明2は,配合されるトラネキサム酸の量の全ての範囲にわたって,格別な効果を奏するものとはいえない。

よって,本件発明の効果に係る請求人の主張は,当を得たものではない。

エ.むすび
したがって,補正発明2は,引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2) 特許法第36条第5項第2号について
ア.特許請求の範囲の請求項1には「下記の成分を含むフィブリングルー用の組成物」と記載され,その一方で,請求項2には「下記の成分を含む二成分系のフィブリングルー組成物」と記載されている。両者を対比すると,請求項2では「二成分系」であることが明記されているものの,請求項1ではその点が記載されていない。また,請求項1では「フィブリングルー用の組成物」とされているのに対し,請求項2では「フィブリングルー組成物」とされている。これらのことから,請求項1の「フィブリングルー用の組成物」は,少なくとも請求項2(「フィブリングルー組成物」自体)とは相違する(同一ではない)ものと解さざるを得ない。
ここで,請求項2の「フィブリングルー組成物」は成分Aと成分Bとを含むものであるのに対し,請求項1の「フィブリングルー用の組成物」が含む成分は,請求項2の成分Aに相当するものである。そうすると,請求項1の「フィブリングルー用の組成物」は,請求項2の成分Aに相当するものであると解するのが合理的である。
一方で,請求項1及び2のいずれにも「組成物に対して5乃至100mg/mlの範囲の量のトラネキサム酸もしくはその生理学的に許容できる塩を含む」と記載されているところ,上記のように,請求項1の「組成物」と請求項2の「組成物」は相違するものと解されるから,請求項1と請求項2との記載は矛盾するものとなっている。
そうすると,請求項1及び2の記載は不明りょうなものであって,特許請求の範囲に特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえず,本願は特許法第36条第5項第2号の規定に違反する。

イ.請求項1及び2には,トラネキサム酸もしくはその生理学的に許容できる塩の含有量について,単に「組成物に対して5乃至100mg/mlの範囲の量」と記載されている。
一方,発明の詳細な説明においては,トラネキサム酸の好ましい含有量について記載した段落【0029】に,「トラネキサム酸の好ましい含有量は10乃至200mg/mlで、さらに好ましくは25乃至100mgである(最終濃度)。」との記載,及び,「接着剤内のトラネキサム酸含有量を(初期濃度で)5乃至100mg/mlの範囲で変える」との記載があって,トラネキサム酸の含有量は,組成物に対して,「初期濃度」で規定する場合と「最終濃度」で規定する場合との2とおりの方法があることになる。しかしながら,請求項1及び2においては,そこに記載されたトラネキサム酸もしくはその生理学的に許容できる塩の含有量について,それが「初期濃度」であるとも「最終濃度」であるとも記載されておらず,いずれのものであるのかが不明である。
そうすると,請求項1及び2の記載は不明りょうなものであって,特許請求の範囲に特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえず,本願は特許法第36条第5項第2号の規定に違反する。

ウ.したがって,補正発明2は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。

4.むすび
よって,本件補正は,平成6年改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから,同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また,仮に,本件補正が,同法第17条の2第3項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであったとしても,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものでもあるから,同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成19年7月2日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,当該補正前の平成16年11月11日付けの手続補正書により補正された請求項1?11に記載されたとおりのものであるところ,その請求項2には次のとおり記載されている。
【請求項2】 下記の成分を含む二成分系のフィブリングルー組成物:
a)蓄えられていて,ウイルス不活性にされたフィブリノーゲンを含有する全血の寒冷沈降物,およびトラネキサム酸もしくはその生理学的に許容できる塩を含む成分A,および
b)成分Aの寒冷沈降物に存在するフィブリノーゲンを特異的に切断してフィブリンポリマーを生成する蛋白分解酵素。
(以下,この請求項2に係る発明を「本願発明2」という。)

1.引用例
原査定の拒絶の理由に記載された引用例,及び,その記載事項は,前記「第2 3.(1) ア.」に記載したとおりである。

2.対比・判断
本願発明2は,前記「第2 3.(1)」で検討した補正発明2から「トラネキサム酸もしくはその生理学的に許容できる塩」の限定事項である「組成物に対して5乃至100mg/mlの範囲の量の」との構成を省いたものである。
そうすると,本願発明2の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正発明2が,前記「第2 3.(1)」に記載したとおり,引用例1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明2も,同様の理由により,引用例1及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.むすび
以上のとおりであるから,本願発明2は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,他の請求項に係る発明について判断するまでもなく,この特許出願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-04-20 
結審通知日 2010-04-23 
審決日 2010-05-10 
出願番号 特願平6-521655
審決分類 P 1 8・ 534- Z (A61L)
P 1 8・ 575- Z (A61L)
P 1 8・ 121- Z (A61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 溝口 正信荒木 英則安川 聡田名部 拓也原田 隆興  
特許庁審判長 内田 俊生
特許庁審判官 鵜飼 健
星野 紹英
発明の名称 二成分組織接着剤  
代理人 柳川 泰男  

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