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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G11B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1224399
審判番号 不服2008-16342  
総通号数 131 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-11-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-06-26 
確定日 2010-09-09 
事件の表示 平成11年特許願第505425号「光記録媒体及び光学ディスク装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年1月7日国際公開、WO99/00794〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本件審判の請求に係る特許願(以下、「本願」という。)は、平成10年6月24日(優先権主張 平成9年6月27日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成20年1月24日付けで、特許法第37条に規定する要件を満たしていない旨(理由1)、請求項1乃至36に係る各発明については、特許法第29条第2項の規定より特許を受けることができない旨(理由2)の拒絶の理由が通知され、同年5月16日付けで、前記拒絶の理由2により拒絶すべき旨の査定がされ、これに対して、同年6月26日に拒絶査定不服審判が請求され、同年7月28日付けで明細書等について手続補正がされたものである。
その後、平成22年2月3日付けで前置報告書を利用した審尋を行ったところ、同年4月6日付けで回答がなされたものである。


II. 平成20年7月28日付け手続補正についての却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成20年7月28日付け手続補正を却下する。

〔理 由〕
1.補正の内容及び目的
平成20年7月28日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、
(1)補正前、
「1.基板の一主面側に記録層、光透過層が順次形成されてなり、この光透過層側から光が照射されて情報の記録及び/又は再生が行われる光記録媒体であって、基板の上記光透過層が形成される側とは反対側の一主面上に、少なくとも1層の防水膜が形成され、
上記記録層中の少なくとも情報信号が記録される情報信号部の領域において、上記光透過層の厚さtがt=3?177(μm)であって、該光透過層厚さむらをΔtとしたときに、当該光記録媒体を記録及び/又は再生する光学系の開口数NAおよび波長λとの間に、Δt≦±5.26(λ/NA^(4))(μm)の関係が成り立つ光記録媒体。
2.上記記録層が、金属反射膜及び/又は記録膜を有する請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
3.上記防水膜が形成されている主面側における吸水率が、0.1(%)以下である請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
4.上記防水膜は、金属、合金、誘電体膜、有機膜のうちの少なくとも1種よりなる請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
5.上記防水膜が、Al、Cr、ステンレススチール合金、Pt、Ti、Au、Ag、Cu、Ni、SiNxOy、SiOx、SiNx、SiCのうちの少なくとも1種からなる請求の範囲第4項記載の光記録媒体。
6.上記防水膜がAlからなり、上記防水膜の厚みが10(nm)以上である請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
7.上記防水膜上に、腐食防止膜が形成されている請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
8.上記腐食防止膜がアクリルウレタン系の紫外線硬化性樹脂からなる請求の範囲第6項記載の光記録媒体。
9.トラックピッチをP、スキューをΘとすると、P≦0.64(μm)且つΘ≦±84.115°(λ/NA^(3)/t)を満たす請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
10.上記波長λがλ≦0.68(μm)、上記開口数NAがNA/λ≧1.20をみたす記録再生光学系で記録または再生される請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
11.平面円形をなし、外径が125(mm)以下であって、厚さが1.60(mm)以下である請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
12.記録容量が8(GB)とされる線密度である請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
13.上記光透過層の屈折率をNとしたときに、グループまたは情報ピット深さが(λ/8)/Nから(3λ/8)Nの範囲にある請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
14.トラックピッチをPとしたとき、トラックピッチむらΔPがΔP≦±0.04P(μm)であり、偏心EがE≦67.57P(μm)、スキューが0.4°以下である請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
15.記録及び/又は再生する光が照射される面の表面粗さRaが、その表面上のスポットサイズ領域内で±3λ/100以下である請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
16.上記基板が熱可塑性樹脂からなり0.3?1.2(mm)の厚さを有し、上記基板上に案内溝が転写形成され、上記案内溝上に順次多層膜が形成、あるいは有機色素がスピンコートされて記録層とされており、その上に少なくとも1種類の紫外線硬化性樹脂が3?177(μm)の厚さでコートされて光透過層とされている請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
17.上記紫外線硬化性樹脂が塗布される記録層の表面にシラン処理がなされている請求の範囲第16項項記載の光記録媒体。
18.上記基板が熱可塑性樹脂からなり0.3?1.2(mm)の厚さを有し、上記基板上に案内溝が転写形成され、上記案内溝上に順次多層膜が形成、あるいは有機色素がスピンコートされて記録層とされており、その上に光透過層として、紫外線硬化性樹脂を介して光透過性フィルムが貼られ、両者の厚さの和が3?177(μm)とされている請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
19.上記紫外線硬化性樹脂が塗布される記録層の表面にシラン処理がなされている請求の範囲第18項記載の光記録媒体。
20.上記光透過層は、射出成形またはキャスト法によって作られたシートにマスタスタンパーから高温加熱により信号または案内溝を転写したものである請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
21.上記信号または案内溝を転写したシートに厚さが0.6?1.2(mm)の支持基板が貼り合わされてなる請求の範囲第20項記載の光記録媒体。
22.上記支持基板が透明板である請求の範囲第21項記載の光記録媒体。
23.上記支持基板は、紫外線硬化性樹脂を介して信号または案内溝を転写したシートに接着されている請求の範囲第21項記載の光記録媒体。
24.上記紫外線硬化性樹脂はスピンコートにより塗布されている請求の範囲第23項記載の光記録媒体。
25.記録層として記録膜あるいは反射膜と、光透過層が複数積層される、多層構造である請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
26.上記複数の反射膜の反射率が、光の入射する側に向かうに従って小さくなるようにされている請求の範囲第25項記載の光記録媒体。
27.上記光透過層とは反対側の面にも紫外線硬化性樹脂が塗布されている請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
28.上記光透過層とは反対側に塗布される紫外線硬化性樹脂が、上記光透過層を形成する材料よりも硬化収縮率が高いものである請求の範囲第27項記載の光記録媒体。
29.上記光透過層の表面に、ハードコートがなされている請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
30.上記光透過層の表面に、反射防止膜が形成されている請求の範囲第1項記載の光記録媒体。
31.上記反射防止膜の屈折率Nが、上記光透過層の屈折率よりも低く、上記反射防止膜の厚さは、記録及び/又は再生を行う光の波長をλとした場合に、(λ/3)/N(nm)以下である請求の範囲第30項記載の光記録媒体。」
とあったものを、

(2)補正後、
「【請求項1】基板の一主面側に記録層、光透過層が順次形成されてなり、この光透過層側から光が照射されて情報の記録及び/又は再生が行われる光記録媒体であって、基板の上記光透過層が形成される側とは反対側の一主面上に、少なくとも1層の防水膜が形成され、
上記防水膜は、金属、合金、誘電体膜、有機膜のうちの少なくとも1種よりなり、
上記記録層中の少なくとも情報信号が記録される情報信号部の領域において、上記光透過層の厚さtがt=3?177(μm)であって、該光透過層厚さむらをΔtとしたときに、当該光記録媒体を記録及び/又は再生する光学系の開口数NAおよび波長λとの間に、Δt≦±5.26(λ/NA^(4))(μm)の関係が成り立つ光記録媒体。
【請求項2】上記記録層が、金属反射膜及び/又は記録膜を有する請求項1記載の光記録媒体。
【請求項3】上記防水膜が形成されている主面側における吸水率が、0.1(%)以下である請求項1記載の光記録媒体。
【請求項4】上記防水膜が、Al、Cr、ステンレススチール合金、Pt、Ti、Au、Ag、Cu、Ni、SiNxOy、SiOx、SiNx、SiCのうちの少なくとも1種からなる請求項1記載の光記録媒体。
【請求項5】上記防水膜がAlからなり、上記防水膜の厚みが10(nm)以上である請求項1記載の光記録媒体。
【請求項6】上記防水膜上に、腐食防止膜が形成されている請求項1記載の光記録媒体。
【請求項7】上記腐食防止膜がアクリルウレタン系の紫外線硬化性樹脂からなる請求項6記載の光記録媒体。
【請求項8】トラックピッチをP、スキューをΘとすると、P≦0.64(μm)且つΘ≦±84.115°(λ/NA^(3)/t)を満たす請求項1記載の光記録媒体。
【請求項9】上記波長λがλ≦0.68(μm)、上記開口数NAがNA/λ≧1.20をみたす記録再生光学系で記録または再生される請求項1記載の光記録媒体。
【請求項10】平面円形をなし、外径が125(mm)以下であって、厚さが1.60(mm)以下である請求項1記載の光記録媒体。
【請求項11】記録容量が8(GB)とされる線密度である請求項1記載の光記録媒体。
【請求項12】上記光透過層の屈折率をNとしたときに、グループまたは情報ピット深さが(λ/8)/Nから(3λ/8)Nの範囲にある請求項1記載の光記録媒体。
【請求項13】トラックピッチをPとしたとき、トラックピッチむらΔPがΔP≦±0.
04P(μm)であり、偏心EがE≦67.57P(μm)、スキューが0.4°以下である請求項1記載の光記録媒体。
【請求項14】記録及び/又は再生する光が照射される面の表面粗さRaが、その表面上のスポットサイズ領域内で±3λ/100以下である請求項1記載の光記録媒体。
【請求項15】上記基板が熱可塑性樹脂からなり0.3?1.2(mm)の厚さを有し、上記基板上に案内溝が転写形成され、上記案内溝上に順次多層膜が形成、あるいは有機色素がスピンコートされて記録層とされており、その上に少なくとも1種類の紫外線硬化性樹脂が3?177(μm)の厚さでコートされて光透過層とされている請求項1記載の光記録媒体。
【請求項16】上記紫外線硬化性樹脂が塗布される記録層の表面にシラン処理がなされている請求項15記載の光記録媒体。
【請求項17】上記基板が熱可塑性樹脂からなり0.3?1.2(mm)の厚さを有し、上記基板上に案内溝が転写形成され、上記案内溝上に順次多層膜が形成、あるいは有機色素がスピンコートされて記録層とされており、その上に光透過層として、紫外線硬化性樹脂を介して光透過性フィルムが貼られ、両者の厚さの和が3?177(μm)とされている請求項1記載の光記録媒体。
【請求項18】上記紫外線硬化性樹脂が塗布される記録層の表面にシラン処理がなされている請求項17記載の光記録媒体。
【請求項19】上記光透過層は、射出成形またはキャスト法によって作られたシートにマスタスタンパーから高温加熱により信号または案内溝を転写したものである請求項1記載の光記録媒体。
【請求項20】上記信号または案内溝を転写したシートに厚さが0.6?1.2(mm)
の支持基板が貼り合わされてなる請求項19記載の光記録媒体。
【請求項21】上記支持基板が透明板である請求項20記載の光記録媒体。
【請求項22】上記支持基板は、紫外線硬化性樹脂を介して信号または案内溝を転写したシートに接着されている請求項20記載の光記録媒体。
【請求項23】上記紫外線硬化性樹脂はスピンコートにより塗布されている請求項22記載の光記録媒体。
【請求項24】記録層として記録膜あるいは反射膜と、光透過層が複数積層される、多層構造である請求項1記載の光記録媒体。
【請求項25】上記複数の反射膜の反射率が、光の入射する側に向かうに従って小さくなるようにされている請求項24記載の光記録媒体。
【請求項26】上記光透過層とは反対側の面にも紫外線硬化性樹脂が塗布されている請求項1記載の光記録媒体。
【請求項27】上記光透過層とは反対側に塗布される紫外線硬化性樹脂が、上記光透過層を形成する材料よりも硬化収縮率が高いものである請求項26記載の光記録媒体。
【請求項28】上記光透過層の表面に、ハードコートがなされている請求項1記載の光記録媒体。
【請求項29】上記光透過層の表面に、反射防止膜が形成されている請求項1記載の光記録媒体。
【請求項30】上記反射防止膜の屈折率Nが、上記光透過層の屈折率よりも低く、上記反射防止膜の厚さは、記録及び/又は再生を行う光の波長をλとした場合に、(λ/3)/N(nm)以下である請求項29記載の光記録媒体。」
としようとするものを含むものである。
すると、本件補正は、補正前の請求項4を削除するとともに、補正前の請求項1に係る発明における防水膜について、その材料を、
「上記防水膜は、金属、合金、誘電体膜、有機膜のうちの少なくとも1種よりなり、」
と下線部のように付加する点で、補正前の請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定することにより特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)を補正後の請求項1に係る発明について、以下検討する。

2.補正後発明
補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正後発明」という。)は、前記1.(2)に、補正後の【請求項1】として記載したとおりのものである。

3.刊行物及びその記載
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物は、特開平8-235638号公報(平成8年9月13日公開、以下「刊行物1」という。)、及び、特開昭62-60143号公報(昭和62年3月16日公開、以下、「刊行物2」という。)であり、それぞれ以下の記載がある。

(3-1)刊行物1の記載
刊行物1には、「光学記録媒体及びその製造方法」に関する発明について、以下の記載がある。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 レーザ光が入射する側の面に情報信号部を有する支持層と、
該支持層上に形成され、該支持層に対して小さい厚みの光透過層とを備えたことを特徴とする光学記録媒体。
【請求項2】
上記支持層と上記光透過層との間に反射膜が形成されたことを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
【請求項3】 省 略
【請求項4】 上記光透過層の厚みが0.5mm以下であることを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
【請求項5】 上記光透過層の厚みが約0.1mmであることを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
【請求項6】 上記光透過層は紫外線硬化樹脂層であることを特徴とする請求項1記載の光学記録媒体。
(以下略)」

(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光学記録媒体に関し、特に光を透過する光透過層を介してレーザ光が信号記録層に照射され、情報信号の記録及び/又は再生が行われる光学記録媒体及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、光学記録媒体の一種である、例えば、光ディスクは、図14に示すように、例えば厚さ1.2mmの光透過層51の一方の面に、情報ピット又は案内溝を刻んで信号記録部が形成され、この信号記録部の外側に反射膜52、さらに外側に反射膜52を保護するための保護膜53が塗布された構造となっている。そして、光透過層51を透過して、上記情報ピット又は案内溝に、再生ピックアップ用の対物レンズ54で集光されたレーザ光が照射される。
【0003】この光ディスクの一種である、例えば、コンパクトディスクを製造する工程中の、マスタリング工程後の複製工程では、マスタリング工程で作製されたスタンパが成形機に取り付けられ、次に例えばポリカーボネートのような基板材料の樹脂が加熱されながら成形機に注入され、この樹脂を圧縮成形してピットが基板上に転写される。この基板が光透過層51であり、光を透過するので上述したように、アルミニウムを真空蒸着法でコーティングして反射膜52が形成され、さらにこの反射膜52が劣化しないように、樹脂で覆い固めて保護膜53が形成される。
【0004】したがって、再生ピックアップ用の対物レンズ54側から見ると、例えば1.2mmの光透過層51を通して情報ピットに再生用レーザ光が照射され、この光透過層51を介して情報ピットからの反射光が得られ、情報を読み出すことができる。
【0005】ここで、この基板である光透過層51の厚みは、応力や熱、湿度によって生じる変形、特にスキューと呼ばれる傾きと、情報ピット上に集光されるレーザービームの性質、特にコマ収差との関係に敏感である。ディスクのスキューが一定であるとした場合、厚みの薄い光透過層の方が収差の少ないスポットになる。」

(ウ)「【0014】
【実施例】以下、本発明に係る光学記録媒体の製造方法により製造した光学記録媒体を実施例として説明する。
【0015】この実施例は、レーザ光の照射によって生じる反射光の光量変化に応じて情報信号が再生される光ディスクである。以下では、光透過層の厚さが約100μmである光ディスクを第1実施例、光透過層の厚さが0.5mm以下である光ディスクを第2実施例とする。
【0016】先ず、第1実施例の光ディスクについて図1を参照しながら説明する。
【0017】この第1実施例の光ディスク1は、射出成形法によって成形ピットが転写される例えばポリカーボネートによるディスク支持層2が1.2mmの厚みで形成され、このディスク支持層2上にスパッタリングによりアルミニウムAlを約500オングストロームの厚みで被着させて反射膜3が形成され、さらにその上に約100μm程の光透過層4がスピンコート法で形成されてなる。
【0018】この第1実施例の光ディスク1を製造するには、図2に示すマスター盤作製プロセスと、図3に示す射出成型プロセスと、アルミニウムAlをスパッタして上記反射層3を形成し、さらにその上にスピンコート法で上記光透過層4を形成する図4に示すようなプロセスが必要となる。」

以上の記載を,特に第1実施例の光ディスクの構造を示す【図1】を参照して整理すると、結局、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認める。
「光を透過する光透過層を介してレーザ光が情報信号部に照射され、情報信号の記録及び/又は再生が行われる光学記録媒体であって、
レーザ光が入射する側の面に情報信号部を有する厚さ1.2mmのポリカーボネートによるディスク支持層と、
ディスク支持層の情報信号部を有する面に形成されたアルミニウムの反射膜と、
反射膜の上に形成された厚さ100μmの光透過層とを備えた光学記録媒体。」

(3-2)刊行物2の記載
刊行物2には、光学式情報記録ディスクに関する発明について、以下の記載がある。

(エ)「2.【特許請求の範囲】
(1)一表面に凹凸の形で情報が記録されている透光性のディスク状基盤と、前記基盤の情報が記録されている前記表面をおおう反射膜と、前記基盤の情報が記録されていない側の表面をおおう金属若しくは金属酸化物よりなる透光性膜とを有することを特徴とする光学式情報記録ディスク。」
(第1頁左下欄第3?9行)

(オ)「第4図は従来のコンパクトディスクの断面図であり、ポリカーボネートの如き透明樹脂にて形成されたディスク状基盤(1)の一面には深さ0.1μm長さ0.8?3μm程度の微細な凹凸(2)が情報信号として記録されており、他面は平滑面である。斯かるディスク状基盤(1)は射出成形にて製造し得る。微細な凹凸面(2)には0.1μm程度のアルミニウム膜よりなる反射膜(3)が形成され、更にこの反射膜(3)の上に10μm程度の厚みを持つ紫外線硬化樹脂よりなる保換層(4)が設けられている。この保護層(4)の上に曲名・商標等のラベル(5)がシルク印刷される。
このようなコンパクトディスクは、常温常湿の如き良好な環境下で使用される場合、反りに関して全く問題を生じない。ここで、ディスクの反りについて説明する。コンパクトディスクを再生する際、ヘリウム-ネオン、半導体レーザの如き位相の揃った指向性の強いレーザ光を第5図に示す如くディスクに照射した場合、ディスクが基準面(P)に対してθの角度反りを生じていると、反射ビーム(Iout)は入射ビーム(IIN)に対してφの角度で反射される。このθは入射面の反りと呼称され、基準面に対するディスク基盤(1)の反りを示しており、θ=±0.6°以内に抑える必要がある。
同様にφは反射面の反りと呼称され、基準面に対する反射膜面の反りを示しており、φ=±1.6°以内に抑える必要がある。
即ち、コンパクトディスクの反りが、上記の様な反りの範囲内にあれば、コンパクトディスクプレーヤは、サーボ機能を有する為、容易に微細な凹凸を情報信号として再生読み取る事ができるが、反りが上記の範囲を超えるとサーボ機能が追随できなくなり、再生読み取りができなくなる事がある。」(第1頁左下欄第20行?第2頁左上欄第13行)

(カ)「さて、コンパクトディスクは、室内の他に、自動車内の様な高温或いは高湿という過酷な環境で使用される場合がある。今、雨天のときの使用について考えると、(A)高湿状態にコンパクトディスクが放置されている状態から(B)コンパクトディスクプレーヤに装着した状態に移行し(C)更にプレーヤよりディスクを引出し、元の高湿状態に戻すという変化が考えられる。(B)の状態は、プレーヤの電源、回路等の放熱により温度上昇があり、プレーヤ内は低湿状態にあると考えられる。すると、(A)高湿(B)低湿(C)高湿と変化することになり、ディスク自身に吸・脱湿性あるいは吸・脱水性があるとすると、(A)→(B)の変化は脱湿変化であり、(B)→(C)の変化は吸湿変化となる。
コンパクトディスクの基盤(1)を構成するポリカーボネートの吸・脱水特性を第6図に示す。第6図(a)は、110°Cにて放置して脱水状態にあったポリカーボネートを25℃の純水中に浸漬した場合であり、0.35%程度の重量増加があることを示している。第6図(b)は、逆に、25℃の純水浸漬中から110°Cの高温状態に放置した場合であり、0.35%程度の重量の減少があることを示している。即ち、吸・脱水に伴う重量の増減の変化は可逆的変化であることを示している。
斯かるポリカーボネートを基盤として利用したコンパクトディスクを真空乾燥装置内に入れて脱湿させた後、25℃、50%RH(相対湿度)程度の常温常湿環境下に放置した場合の反り(入射面の反り。以下同様)を第7図(a)に示す。この図から分る通り、時間の経過と共にコンパクトディスクのポリカーボネート基盤の平滑面側が凸となるように反り始め(この反りをプラス側と称することにする)、約4時間30分後に最大値θ=0.39°となり、それ以降、反りは減少し、初期状態に戻って行く。また、コンパクトディスクを真空乾燥装置内に入れて脱湿させた後、40°C90%RHの高湿槽に放置すると、第7図(b)に示す通り、時間の経過と共にプラス側に反り始め、約3時間後に最大値θ=0.61°となり、それ以降反りは減少し、初期の状態に戻って行く。このように、コンパクトディスクを吸湿状態に持って行くと、反りの変化を生じると共に湿度変化が大きくなるにつれてその変化も大きくなり、高湿状態によりてはθ=0.6°以上にある場合があった。
吸湿とは逆に、40℃、90%RHの高湿下に放置して十分吸湿させたディスクを25°C50%RH程度の常温常湿下に放置すると、第7図(c)に示す如く時間の経過と共にマイナス側に反り始め、約6時間後に最小値θ=-0.27°となり、それ以降反りは増大し、初期状態に戻って行く。」
(第2頁左上欄第14行?同頁右下欄第3行)

(キ)「ハ.発明が解決しようとする問題点
本発明は、高温・高湿状態に於いて或いは該状態への環境変化があっても、ディスクの反りの発生を抑えたディスクを提供せんとするものである。
ニ.問題点を解決する為の手段
微細な凹凸が形成された面とは反対のディスク状基盤の面(平滑面)に対して金属若しくけ金属酸化物の透光性膜を設ける。即ち、ディスク状基盤の一方の面は反射膜でおおわれ、他方の面は金属又はその酸化物の膜でおおわれることになる。
ホ.作 用
従来のコンパクトディスクでは、ディスク状基盤の一方の面のみが反射膜でおおわれていた為、ディスク状基盤に含まれる水分が失われる場合、又は水分が浸透する場合、一方の面(反射膜のない方の面)から主に行われることとなり、ディスク状基盤の厚み方向に水分の濃度勾配が生じ、これが反りの原因となる。本発明に依れば、ディスク状基盤の両面が膜でおおわれている為、水分の濃度はディスク状基盤の厚み方向に於いて同等となり反りの発生を抑えることができる。
ヘ.実施例
第1図は本発明に係るディスクを示しており、ディスク状基盤(1)の平滑面に対して、金属又はその酸化物の膜(6)を設けた点が第4図に示した従来ディスクと相違している。 この膜(6)は読出しレーザ光を透過させる必要があるので、透光性膜とする。透光性は全波長に対して必要ではなく、使用される読出しビーム光の波長に対して透光性を有すれば、十分である。具体的には、Auの他、SnO_(2)、TiO_(2)、In_(2)O_(5)、ITO膜等を使用し得る。」
(第3頁左上欄第16行?同頁左下欄第8行)

4.対比
補正後発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の光学記録媒体における「ディスク支持層」は、補正後発明の「基板」に相当する。
刊行物1発明の光学記録媒体は、ディスク支持層のレーザ光が入射する側の面に情報信号部を有し、アルミニウムの反射膜が形成されているので、補正後発明における「記録層」を備えている。
刊行物1発明において、「情報信号部」「反射膜」「光透過層」は、「レーザ光が入射する側の面に」設けられ、「光を透過する光透過層を介してレーザ光が情報信号部に照射され、情報信号の記録及び/又は再生が行われる光学記録媒体」であるから、刊行物1発明の「光学記録媒体」は、補正後発明の「光透過層側から光が照射されて情報の記録及び/又は再生が行われる光記録媒体」に相当する。

刊行物1発明における情報信号部に形成された反射膜の上に形成された光透過層は、その厚さが100μmであるから、補正後発明の「記録層中の少なくとも情報信号が記録される情報信号部の領域において、上記光透過層の厚さtがt=3?177(μm)」であることに相当する。

以上のことからすると、両発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

[一致点]
「基板の一主面側に記録層、光透過層が順次形成されてなり、この光透過層側から光が照射されて情報の記録及び/又は再生が行われる光記録媒体であって、
上記記録層中の少なくとも情報信号が記録される情報信号部の領域において、上記光透過層の厚さtがt=100(μm)である光記録媒体。」

[相違点]
(ア)補正後発明では、
「基板の上記光透過層が形成される側とは反対側の一主面上に、少なくとも1層の防水膜が形成され、
上記防水膜は、金属、合金、誘電体膜、有機膜のうちの少なくとも1種よりなり、」
と「防水膜」について特定されているのに対し、刊行物1発明の光学記録媒体では、防水膜について特定がない点。
(イ)補正後発明では、光透過層について、
「光透過層厚さむらをΔtとしたときに、当該光記録媒体を記録及び/又は再生する光学系の開口数NAおよび波長λとの間に、Δt≦±5.26(λ/NA^(4))(μm)の関係が成り立つ」と特定しているのに対し、刊行物1発明では、光透過層の厚さむらについて特定がない点。

5.判断
以下、各相違点について検討する。
(1)相違点(ア)について
刊行物2には、光記録媒体の透明基盤材としてごく普通に用いられるポリカーボネートが、吸湿・脱湿性あるいは吸水・脱水性のため、高湿環境下では、ディスク基盤に「反り」が発生し、「反り」が所定範囲を超えると、ディスク基盤上に記録された情報の再生読取ができなくなることがあるとし((3-2)(オ)(カ)参照)、一表面に凹凸の形で情報が記録されている透光性のディスク状基盤の情報が記録されている表面をおおう反射膜(アルミニウム膜)と、基盤の情報が記録されていない側の表面をおおう金属若しくは金属酸化物よりなる透光性膜とを有して、ディスク状基盤の両面をアルミニウム膜とAuの他、SnO_(2)、TiO_(2)、In_(2)O_(5)、ITO膜等の金属若しくは金属酸化物等の膜で覆うことで、水分の濃度がディスク基板の厚み方向において同等とし、「反り」の発生を抑えるというものである((3-2)エ.「ホ.作 用」)。
したがって、前記「Auの他、SnO_(2)、TiO_(2)、In_(2)O_(5)、ITO膜等の金属若しくは金属酸化物」が、補正後発明における「防水膜」に相当するとともに、「防水膜」が「金属」または「誘電体膜」よりなる点でも一致している。
刊行物2の他にも、光記録媒体において、プラスチック製、代表的には、ポリカーボネート製の基板の記録膜が形成された表面と反対側の表面に透湿防止膜を形成して、吸湿、吸水性によるディスクの「反り」を防止、又は、低減することは、特開平4-364248号公報(平成4年12月16日公開、【特許請求の範囲】等参照、以下「参考例」という。)に記載されているように、本願出願当時既に周知技術にすぎないものである。
刊行物1発明のディスク支持層(基板)もポリカーボネート製で、光透過層に比して極めて厚さが厚く、一主面を記録層で覆われているのであるから、吸湿、吸水により「反り」が発生することは、当業者が当然に認識しうる課題である。
すると、基板の、記録層が形成されている側とは反対側の主面に、防水膜を形成することで、刊行物2の光ディスクのように「ディスク状基盤の両面が膜でおおわれている為、水分の濃度はディスク状基盤の厚み方向に於いて同等となり反りの発生を抑えることができる」ようにすることは、当業者が容易に想到しうることである。
なお、刊行物1発明の光記録媒体は、基板に対して記録層と同じ側に光透過層を形成しているのであるから、「記録層が形成されている側とは反対側の主面」と特定するか、補正後発明のように「光透過層が形成される側とは反対側の一主面上」と特定するかは、単なる表現上の問題にすぎず、いずれの表現を採るにしても、同じ主面を特定することは明らかである。

イ.相違点イについて
光記録媒体において、光透過層の厚さは、光学系の収差に影響するので、その厚さの「むら(Δt)」は、小さい方がよいことは自明である。
そして、厚さむらΔtの許容度が、λ/(NA)^(4 )に比例することは、例えば、特開平9-17022号公報(平成9年1月17日公開)、特開平9-50641号公報(平成9年2月18日公開)等にて周知の事項であるから、
Δt≦±K(λ/NA^(4))(μm)
(K:比例係数)
と表現しうることも明らかである。
比例係数Kを±5.26とした点も、本願明細書の【0081】【0082】段落に記載される算出根拠は、CDにおける基板厚み誤差を0.1mm以内とする周知技術(例えば、特開平6-295467号公報の【0002】段落、特開平8-255411号公報の【0003】段落、及び登録実用新案第3036314号公報の【0012】段落参照)から算出される程度のものにすぎない。したがって、Δt≦±5.26(λ/NA^(4))(μm)とすることは当業者が、適宜に採用し得る範囲内のことである。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は、各刊行物に記載された発明及び周知技術から、当業者が十分に予測できたものであって、格別なものとはいえない。
以上のとおりであるから、補正後発明は、刊行物1、2に記載された各発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6.本件補正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


III. 本願発明について
1.本願発明
平成20年7月28日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし31に係る各発明は、平成20年4月7日付けの手続補正で補正された明細書等の記載からみての特許請求の範囲の1ないし31に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記「II.1.(1)」に補正前の特許請求の範囲の請求項1として記載したとおりのものである。

2.刊行物及びその記載
これに対して原査定の拒絶理由で引用された刊行物及びその記載は、前記「II.3.刊行物及びその記載」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「II.2」以下で、検討した補正後発明(補正後の請求項1に係る発明)から、
「上記防水膜は、金属、合金、誘電体膜、有機膜のうちの少なくとも1種よりなり、 」
としていた防水膜の材料についての限定を削除したものに相当する。
すると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正後発明が、前記「II.5.判断」に記載したとおり、刊行物1、2に記載された各発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1、2に記載された各発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


IV. むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明については、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-09 
結審通知日 2010-07-13 
審決日 2010-07-27 
出願番号 特願平11-505425
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G11B)
P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山下 達也  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 井上 信一
早川 学
発明の名称 光記録媒体及び光学ディスク装置  
代理人 藤井 稔也  
代理人 野口 信博  
代理人 伊賀 誠司  
代理人 祐成 篤哉  
代理人 小池 晃  
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