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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G11B
管理番号 1225272
審判番号 不服2007-29997  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-05 
確定日 2010-10-13 
事件の表示 特願2005-152186「光学情報担体」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月24日出願公開、特開2005-327457〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯、本願発明
本願は、平成6年12月22日(パリ条約による優先権主張 1993年12月24日、ベルギー(BE)、1994年8月5日、オランダ(NL))に出願した特願平6-336413号の一部を平成17年5月25日に新たな特許出願としたものであって、平成18年3月9日付け拒絶理由通知に対して平成18年9月13日付けで、平成18年12月15日付け拒絶理由通知に対して平成19年6月19日付けで、それぞれ手続補正がされたが、平成19年8月2日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成19年11月5日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
そして、当審において、平成20年11月11日付けで拒絶の理由を通知したところ、平成21年5月14日付けで意見書が提出されたものである。

そして、平成19年6月19日付けで手続補正された明細書の特許請求の範囲には、次のとおり記載されている。

「【請求項1】
情報単位として符号化された情報が光学的に読み取り可能な情報領域の形態で記憶される光学情報担体において、前記情報領域の長さと、対応する情報単位の長さとの間の差が、10nm未満の標準偏差を有することを特徴とする光学情報担体。
【請求項2】
情報単位として符号化された情報が光学的に読み取り可能な情報領域の形態で記憶される光学情報担体において、隣接する情報領域の間の距離と、対応する情報単位の間の距離との間の差が、10nm未満の標準偏差を有することを特徴とする光学情報担体。
【請求項3】
情報が光学的に読み取り可能な情報領域の形態で記憶される光学情報担体において、実質的に全ての情報領域の幅のばらつきが30nm未満であることを特徴とする光学情報担体。」

2.平成20年11月11日付け拒絶理由通知の概要
平成20年11月11日付けで通知した拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)のうち、理由II及びIIIは、以下のとおりである。

「 理由
II.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
III.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。

*備 考:
1.【特許請求の範囲】の請求項1,2、及び、発明の詳細な説明の【0002】【0003】において、「長さとの間の差」として比較する「情報単位」とは符号化された情報であり、「情報領域」とはディスク上に形成された「ピット」である。
(i)符号化された情報である「情報単位」を「情報領域」との『差』として如何に導くことが可能であるのか不明である。また、ジッタが通常時間軸のズレ(ns単位)として表現されている場合から、請求項1,2に記載の「10nm未満」とする距離を如何に算出できたものか不明である。

(ii)請求項1,2に記載の「情報領域の長さと、対応する情報単位の長さ/間の距離との間の差」と『標準偏差』の関係について、
課題の記載から『標準偏差』=ジッタと認めてよいのか、認められないとすれば違いは何か、明細書のいずれの記載に基づくものか不明である。
参考文献:
特開平3-137832号公報の2頁右下欄には「標準偏差としてのジッター値σを求める」として式の記載がある。
特開平5-116457号公報の【0017】【表1】には標準偏差「2(ns)」の記載、特開平4-103035号公報の3頁右上欄には標準偏差「1(ns)」の記載があり、標準偏差をnmで表現するのにディスクの線速度を掛けることで可能とすれば極めて小さなnmの値が得られこととなる。

(iii)上記『標準偏差』なるものが、仮に「ジッタ」とみて特段問題がなければ、基本的にディスク上の情報領域から情報信号として記憶した信号が誤りなく読み取れればよいのであるが、上記『(情報単位の)長さ』乃至『(情報単位の)間の距離』と対比して「差が、10nm未満の標準偏差」とするところの、ジッタはより小さいほどよいことは当然で、この出願の技術分野は一つとして通常このジッタをより小さくしていくことを課題としているものである。また、記載されている数値範囲においても限りなく0にしていくもので『10nm未満』に限定することが技術的にどのように有利になるのか不明である。

(iv)上記(iii)と関連するか、光ディスクに記録されたマーク(ピット)を再生するとき、再生信号の変換点は原信号の変換点と時間軸上で一致すること、一致しなくともできる限り小さいことを理想とすることは当然である。そして、【特許請求の範囲】の請求項1,2に記載された発明は「10nm未満」と表現する構成のみであるところ、『標準偏差』について、「10nm未満」とする数値範囲の根拠を如何にみいだしたのか、何故10nm未満であるのか(できれば偏差0に近いことが理想であることは自明である。)、また数値内外での効果の差違は何か等も不明である。

2.上記1.で指摘の「情報単位として符号化された情報が光学的に読み取り可能な情報領域」が、仮に明確であるとして、「情報領域の長さ」「情報領域の間の距離」との間で、本願明細書【0005】には「ジッタの増加(即ち、信号の不規則な変化の増加)として現れる。・・・情報担体から十分に少ないジッタで情報信号を取り出すことを可能にするために・・・ピットは非常に正確に規定された位置及び形状を有していなければならない。」と記載している。ジッタがないこと、ないし、ジッタが可能な限り小さいことが望ましいことは繰り返し指摘しているところであるが、「情報領域の長さと、対応する情報単位の長さとの間の差が、10nm未満の標準偏差を有する」及び「隣接する情報領域の間の距離と、対応する情報単位の間の距離との間の差が、10nm未満の標準偏差を有する」は、単に望ましい数値の範囲の記載、ないし、単に目標値の記載、との理解しかできないものであるのか、その為の発明の内容は各請求項の記載から全く把握できないと認められるところ、把握できるとすればいずれに記載の事項にもとづくのか不明である。

3.【特許請求の範囲】の請求項3の「情報が光学的に読み取り可能な情報領域の形態で記憶される光学情報担体において、実質的に全ての情報領域の幅のばらつきが30nm未満であることを特徴とする光学情報担体。」は、情報領域(ピット)の幅のばらつきについての記載である。
上記『ばらつき』は、例えば、引用文献9の図1,2、及び、引用文献14の第5図、引用文献15の図4,5と理解してよいか本願の明細書又は図面から上記の解釈しかできなく不明であるものの、理想的にばらつきが少ないほどジッタは減少し信号を正確に読み出せるようになることは当該技術分野で自明である。そして、上記情報領域の幅のばらつきが「30nm未満」とする数値限定の根拠、数値限定する以上はその前後での効果の差違が如何であるのか不明である。

4.【特許請求の範囲】の請求項1乃至3に記載の事項は【0061】の記載において対応するところ、基本的に請求項に記載の事項とほぼ同じである。そこで、
(i)第1の手段乃至第4の手段のうち、それぞれ単独に、もしくは第2の手段を中心に1以上の他の手段を組み合わされた場合、(【特許請求の範囲】の請求項1乃至3には、上記1.?3.の記載不備があるものの)【特許請求の範囲】の請求項1乃至3の事項は普遍的に達成できるのか不明である。

(ii)また、上記第1の手段乃至第4の手段は照射ビームパワーに係る事項で、【0009】乃至【0011】にコントラスト曲線の構成要素の記載がある。この構成要素との関わりは如何にあるのか不明である。
関わりがあるとした場合、露光線量の閾値との関係も含めていかなる各手段を組み合わせた態様を以て、【特許請求の範囲】の請求項1乃至3に記載の事項を具体的に達成するものか不明である。

(iii)明細書の【0034】乃至【0038】にはコントラスト曲線が異なるピットの現像に影響があると記載されている。同【0039】にはピットの形状が露光線量のみならず現像工程のパラメータによっても影響をうける記載がある。照射ビームパワーについて、段落【0044】【0045】【図7】に第1の手法、【0046】【0047】【図9】に第2の手法、【0048】【0049】【図12】に第3の手法、【0050】【0052】【図14】に第4の手法、【0053】?【0056】【図17】に第5の手段、【0057】?【0059】【図19】に第6の手段の記載がある。
そして、同【0061】では、第2の手段を中心に1以上の他の手段を組み合わされた場合に情報単位の長さについて、情報単位の間の距離について、標準偏差10nm未満、情報領域の幅のばらつきについて30nm未満となるとしている。
しかしながら、いずれも「具体的な実施形態」を記載したものでない。単なる照射ビームパワーの各手段を記載したにすぎない。特に【0061】は第1乃至第6の手法の裏付けもなくいきなり課題の達成記載があり、全く理解できない。何故数値範囲のピット形成、要するに課題達成が可能であるのか不明で、如何なるディスク構成に対して如何なる上記照射ビームパワーの手段の組み合わせをもって、少なくとも一つ【特許請求の範囲】の各請求項に記載された事項を普遍的に達成するのか不明である。具体的な実施の記載については明細書のいずれにある事項か不明である。

(iv)本願明細書【0044】【0045】において、第1の手法と引用文献6に記載の手段との相違が不明である。「露光線量が等価される」とする本願発明の【図6】はよく、【図5】は問題であるとすれば、その照射ビームの手段である本願発明の【図7】は引用文献6に記載の手段といずれで相違するのか不明であるし、また、本願明細書【0045】で記載の「本発明の製造に前記第1の手法が使用された場合のように短いピットと長いピットが等しい幅を持つ場合は、読み出し信号のジッタは最少となる」ことが何故可能か不明である。
露光線量がI3?I11で本願発明の【図6】のように高さレベルが同じことは何によることか不明である。理由1で提示の刊行物6には照射されるレーザパワーをプリピットの種類(長さ)に応じて調整するする記載がある(8頁右下欄)。これは手法として本願【図7】と相違しないと認められる。

以上のとおり、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願【特許請求の範囲】の各請求項に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、請求項に係る発明は明確でない。 」


3.当審の判断
(1)拒絶理由通知の条文について
「1.手続の経緯、本願発明」に記載したように、本願は平成6年12月22日に出願したものとみなされるから、本願については、平成6年法律第116号附則第6条第2項の規定により、同法による改正前の特許法第36条が適用されるので、理由IIIは、「この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、平成6年法律第116号附則第6条第2項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第5項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない。」とあるべきところ、拒絶理由通知においては、本願明細書の、特許請求の範囲の記載、及び発明の詳細な説明の記載について、具体的にその不備を指摘しており、審判請求人も、意見書において条文の表記について特段争うことなく、「本出願の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載は十分に明確であると確信する」などと、拒絶理由に対して反論しているので、実質的に拒絶の理由が通知されたことが明らかであるから、本願の明細書が平成6年法律第116号改正附則第6条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法36条4項及び5項に規定された要件を満たしているか、について、以下、検討を進める。

(2)発明の詳細な説明の記載について
発明の詳細な説明において、特許請求の範囲に記載された「光学情報担体」に関する発明が、特許法に規定する要件を満たすように記載されているか否かについて検討する。

(ア)上記「1.手続の経緯、本願発明」に摘記したとおり、本願の請求項1ないし3に記載された発明は、「光学情報担体」に関するものであるから、発明の詳細な説明には、前記各請求項に記載された「光学情報担体」についての発明を、当業者が容易に実施することができるようにその発明の構成が記載されることが必要である。
そこで、請求項1に記載された発明に欠くことのできない構成のうち、
(A)「情報領域の長さと、対応する情報単位の長さとの間の差が、10nm未満の標準偏差を有する」、
請求項2に記載された発明に欠くことのできない構成のうち、
(B)「隣接する情報領域の間の距離と、対応する情報単位の間の距離との間の差が、10nm未満の標準偏差を有する」及び
請求項3に記載された発明に欠くことのできない構成のうち、
(C)「実質的に全ての情報領域の幅のばらつきが30nm未満である」
の各構成要件について、発明の詳細な説明に、関連する記載を確認すると、直接「標準偏差」又は「ばらつき」について言及した記載は、以下のとおりである。
段落【0027】に、上記(C)に関連して、
「また、本発明による光学情報担体は、更に、情報領域の幅のばらつきが30nm未満であることを特徴とする。」
段落【0061】に、上記(A)、(B)に関連して、
「本発明による第2の手法が用いられた場合は長さの標準偏差は14nm未満であり、第2の手法が1以上の他の手法と組み合わされて使用された場合は、標準偏差は10nm未満となる。」
同段落に上記(C)に関連して、
「情報領域の幅のばらつきは30nm未満である。即ち、情報担体上の一番広い情報領域と一番狭い情報領域との間の差は、極僅かの不正確に形成された情報領域は別として、30nm未満である。」
これらの記載は、「標準偏差は10nm未満となる」「情報領域の幅のばらつきは30nm未満である」などと、請求項の記載と同程度の記載があるにすぎず、それ以上に、更に具体的に「標準偏差」又は「ばらつき」がどの程度のものか、製造の「手法」との関連で論じた記載ではない。
前記段落【0061】の「標準偏差は10nm未満となる」との記載については、「10nm未満」は、文言上明らかに、0以上10nm未満の範囲の全てを含むものであるから、特定の実施例を示すものでないことが明らかである。
同様に前記段落【0027】の「情報領域の幅のばらつきは30nm未満である」との記載についても、「30nm未満」は、文言上明らかに、0以上30nm未満の範囲の全てを含むものであるから、特定の実施例を示すものではないことが明らかである。
したがって、前記段落【0027】及び【0061】段落の記載からは、どのような「標準偏差」または「ばらつき」を有する光学記録媒体が得られるのか、不明であるといわざるを得ない。

(イ)本願明細書の発明の詳細な説明には、「光学情報担体を製造する方法」として、第1の手法ないし第6の手法が記載されている。
段落【0044】【0045】【図7】に第1の手法、【0046】【0047】【図9】に第2の手法、【0048】【0049】【図12】に第3の手法、【0050】【0052】【図14】に第4の手法、【0053】?【0056】【図17】に第5の手法、【0057】?【0059】【図19】に第6の手法手段の記載がある。 しかしながら、段落【0061】には、「本発明による第2の手法が用いられた場合は長さの標準偏差は14nm未満であり」との記載があり、「10nm未満」とすることができると認められる根拠もないので、第2の手法によって、上記(A)(B)の構成要件を備える光情報担体を製造することができると認めることができない。第2の手法以外の第1ないし第6の手法についても同様であって、前記各手法を用いて製造された光学情報担体が、具体的に、どのようなものか、については特段の記載がないのであるから、結局のところ、前記第1の手法乃至第6の手法についての記載からは、上記(A)ないし(C)の構成要件を備えた光情報担体を製造するための条件その他の事項が記載されているとすることができない。

(ウ)段落【0061】の、「第2の手法が1以上の他の手法と組み合わされて使用された場合は、標準偏差は10nm未満となる」との記載についてみると、そもそも、第2の手法を他の手法と組み合わせることにより、どのような手法が得られるのか、明らかでない。唯一段落【0063】には、図23を参照して第2,第5及び第6の書き込み手法に基づいて露光線量を制御することが記載されているが、同段落には、「標準偏差」または「ばらつき」について、何らの言及もなく、実際に、どの程度の標準偏差を有する光学情報担体が得られるのか、当業者といえども、推測すらできないものであり、メモリ回路に記憶されるとされる「パルス波形」がどのようなものか、パルスの開始点がどの程度「ずらされ」、出力パルスの長さがその程度「増加され」ているのか、「第5及び第6の手法に関して前述したような態様で変化される」との記載を参照しても、そもそも、第2、第5及び第6の各手法について記載した段落【0046】【0047】、【0053】?【0056】、【0057】?【0059】等においても具体的な変数の実例も、記憶内容についても、記載がないのであるから、段落【0063】に記載された制御装置10’においても、上記(A)ないし(C)の構成要件を備えた光情報担体を製造するための条件その他の事項が記載されているとすることができない。

(エ)物の発明において、当業者が、その発明について「実施をすることができる」とは、少なくとも、当該物を製造することができることであり、「容易にその実施をすることができる」ためには、技術常識を勘案して、当業者が、出願に係る発明について、容易に理解しうるとともに、追試(再現)をすることができることが必要条件である。
換言すると、当業者が当該「物」を製造することができ、追試(再現)できる程度の開示がない場合には、明細書の発明の詳細な説明には、その発明を当業者が容易に実施しうる程度に記載したものとすることができない。
本願の明細書の、発明の詳細な説明には、前記段落【0027】【0061】の記載からはもちろんのこと、「光学情報担体を製造する方法」とされる第1の手法ないし第6の手法についての記載、及びそれらを組み組み合わせるとされる記載等を考慮しても、少なくとも、請求項1に記載された発明の構成のうち上記(A)の構成要件、請求項2に記載された発明の構成のうち上記(B)の構成要件、及び請求項3に記載された発明の構成のうち上記(C)の構成要件を備えた光学情報担体を、当業者といえども、製造することができるように記載されているとも、過重な負担を強いることなく追試(再現)をすることができるとも、認めるべき根拠がない。

(オ)請求人は、平成21年5月14日付け意見書において、「請求項1ないし3に記載された発明は、再生時におけるジッタの少ない光学情報担体を得るために、情報領域の長さと、対応する情報単位の長さとの間の差が10nm未満の標準偏差を有する(請求項1)、隣接する情報領域の間の距離と、対応する情報単位の間の距離との差が10nm未満の標準偏差を有する(請求項2)及び実質的に全ての情報領域の幅のばらつきが30nm未満である(請求項3)ように各々規定したものであり、単に課題又は願望的事項を提示したものではない。」との主張を行っている。
しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、
段落【0018】に
「かくして、全ての領域が同じ歪をもつようになるので、ジッタは減少する。」、
段落【0025】ないし【0027】に、
「このような少ないズレによれば、当該情報担体から得られる読出信号のジッタが減少する。」
【0026】に、
「このように、一層正確に規定された隣接する情報領域間の距離は、一層正確に規定された情報領域の長さの様に、ジッタを減少させる。」
【0027】に、
「また、本発明による光学情報担体は、更に、情報領域の幅のばらつきが30nm未満であることを特徴とする。良好に規定された幅の情報領域は良好に規定された大きさの読出信号となる。このこともジッタを減少させる。」
【0061】に、
「本発明により得られる情報領域の長さ及び幅の小さなズレは、情報担体を読み取る場合に発生される読出信号のジッタを許容できる程に小さくする。」
などと、ジッタが小さくなるなどの漠然とした作用効果の記載が存在するにすぎない。
すなわち、発明の詳細な説明全体を参酌しても、本願発明により、どのような効果が得られるかは明らかでない。たとえば実験結果が示されているわけでもなく、その他にも、請求項1ないし3に記載された発明により、従来技術と比較して、どのように「再生時におけるジッタの少ない」との効果が実現されているのか、具体的に示す記載は存在しない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、請求項1ないし3に記載された発明の効果を確認することができないから、当業者といえども、どのように実施をすればどの程度の効果が得られるのか、到底理解することができないものであるから、本願明細書の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有す得る者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の効果が記載されているとすることができない。

(カ)発明の詳細な説明についてのまとめ
上記(ア)ないし(オ)の検討からすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、請求項1ないし3に記載された「光学情報担体」についての発明を、当業者が容易に実施しうる程度にその発明の構成、効果を記載したものとすることができない。
したがって、本願は、明細書の記載が平成6年法律第116号改正附則第6条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法36条4項に規定する要件を満たしているとすることができない。

(3)特許請求の範囲の記載について
上記「1.」に摘記したとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された発明は、「光学情報担体」に関するものであるから、前記各請求項に記載された発明である「光学情報担体」が発明の詳細な説明に記載されたものであることが必要であるところ、上記「(2)発明の詳細な説明の記載について」での検討において示したとおり、請求項1ないし3に記載された発明に欠くことのできない構成である
(A)「情報領域の長さと、対応する情報単位の長さとの間の差が、10nm未満の標準偏差を有する」、
(B)「隣接する情報領域の間の距離と、対応する情報単位の間の距離との間の差が、10nm未満の標準偏差を有する」及び
(C)「実質的に全ての情報領域の幅のばらつきが30nm未満である」
の各構成要件について、発明の詳細な説明に、関連する記載を確認すると、直接「標準偏差」又は「ばらつき」について言及した記載は、段落【0027】及び【0061】段落のみである。
これらの記載箇所には、「標準偏差は10nm未満となる」「情報領域の幅のばらつきは30nm未満である」などと、請求項の記載と同様の記載が、いわば形式的に、繰り返されているにすぎない(拒絶理由通知の備考4.参照)。
前記「標準偏差は10nm未満となる」との記載については、「10nm未満」は、文言上明らかに、0以上10nm未満の範囲の全てを含むものであるから、特定の実施例を示すものでないことが明らかである。
同様に、前記「情報領域の幅のばらつきは30nm未満である」との記載についても、文言上明らかに、0以上30nm未満の範囲の全てを含むものであるから、特定の実施例を示すものではないことが明らかである。
「光学情報担体を製造する方法」として記載されている第1の手法ないし第6の手法、及びそれらを組み合わせるとされる手法についてみても、前記各手法を用いて具体的にどのような光学情報担体が製造されるのか、特段の記載がない。したがって、前記各手法に関する記載から、間接的に本願の請求項1ないし3に記載された光学情報担体が記載されていると認めるべき理由も存在しない。

以上のとおりであるから、請求項1に記載された「情報領域の長さと、対応する情報単位の長さとの間の差」及び請求項2に記載された「隣接する情報領域の間の距離と、対応する情報単位の間の距離との間の差」について、「10nm未満」となる光学情報媒体については、【0061】に、請求項の記載と同様の文言が、いわば形式的に記載されているにすぎず、その他、「光学情報担体を製造する方法」として記載された、第1の手法ないし第6の手法、及びそれらの手法を組み合わせるとされる手法に関する記載を総合的に考慮しても、実際にどのような値を有する光学情報単体が製造されたのか、ただ一つの実施例すらないことになる。

同様に、請求項3に記載された「情報領域の幅のばらつき」についての「30nm未満」となる光学情報媒体については、【0027】及び【0061】に、請求項の記載と同様の文言が、いわば形式的に記載されているにすぎず、その他、「光学情報担体を製造する方法」として記載された、第1の手法ないし第6の手法、及びそれらの手法を組み合わせるとされる手法に関する記載を総合的に考慮しても、実際にどのような値を有する光学情報単体が製造されたのか、ただ一つの実施例すらないことになる。

以上のことからすると、本願明細書の、発明の詳細な説明には、請求項に記載された発明と同様の文言が、いわば形式的に記載されているにすぎず、請求項に記載された発明である光学情報担体に関する発明について、実質的に記載されているとすることができないので、本願の請求項1ないし3に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとすることができない。

したがって、本願は、明細書の記載が平成6年法律第116号改正附則第6条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法36条5項1号に規定する要件を満たしているとすることができない。


5.結び
以上のとおりであるから、本願の明細書の記載は、平成6年法律第116号改正附則第6条第2項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法36条4項及び第5項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-18 
結審通知日 2010-05-20 
審決日 2010-06-01 
出願番号 特願2005-152186(P2005-152186)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (G11B)
P 1 8・ 536- WZ (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 五貫 昭一  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 小松 正
横尾 俊一
発明の名称 光学情報担体  
代理人 津軽 進  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 宮崎 昭彦  

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