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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16H
管理番号 1225661
審判番号 不服2008-31516  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-11 
確定日 2010-10-20 
事件の表示 特願2000-521328号「自動変速機の制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年5月27日国際公開、WO99/25996、平成13年11月27日国内公表、特表2001-523798号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年11月9日(パリ条約に基づく優先権主張1997年(平成9年)11月14日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、平成20年9月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成20年12月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成21年1月7日付けで明細書に対する手続補正及び特許法第184条の12第2項の規定により読み替えられた特許法第17条の2第2項に基づく誤訳の訂正を目的として誤訳訂正書を提出してなした手続補正がなされたものである。その後、当審において平成21年9月25日付けで拒絶理由の通知がなされ、平成22年1月27日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成22年1月27日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「切換移行中に、変速機電子制御装置(13)が、測定された変速機入力回転数(nT)から実際勾配を検出するとともに、変速機入力回転数の設定勾配(nT(GRAD-SOLL))との偏差を求め、切換移行に関与するクラッチ(K1、K2)が、変速機回転数の実際勾配と設定勾配との偏差を減少するように調整される、自動変速機の制御方法において、
変速機電子制御装置(13)には、選択的に活動可能な第1の運転様式および第2の運転様式が設けられており、
第1の運転様式とは、走行アクティビティ量(FA)を用いる運転モードであり、
第2の運転様式とは、特殊プログラムを用いる運転モードであり、
変速機電子制御装置(13)が、第1の運転様式が活動中であるときに、入力量から周期的に走行アクティビティ量(FA)を計算し、変速機入力回転数の設定勾配(nT(GRAD-SOLL))が走行アクティビティ量(FA)に関係して変更され、
変速機電子制御装置(13)が、第2の運転様式が活動中であるときに、多数の特殊プログラムから1つの活動している特殊プログラムを検出し、変速機入力回転数の設定勾配(nT(GRAD-SOLL))が、検出された特殊プログラムに関係して変更されることを特徴とする自動変速機の制御方法。」

第3 当審において通知した拒絶理由
当審において平成21年9月25日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は、以下のとおりである。
1.記載不備
本願は、以下の点で特許法第36条第4項並びに第6項第1号及び第2号の規定に違反するので、特許を受けることができないものである。
1-1 特許法第36条第6項第2号違反について
本願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が以下の点で明確でないので、特許法第36条第6項第2号の規定に違反する。
(1)本願の請求項1には、「選択的に活動可能な第1の運転様式および第2の運転様式」と記載されている。しかし、「運転様式」とは、当業者にとって特定の意味を有する技術用語ではなく、その意味ないし内容が不明である。
してみれば、本願の請求項1に記載された「選択的に活動可能な第1の運転様式および第2の運転様式」とは、どのような意味ないし内容であるのか当業者にとって理解できないものであって、本願の請求項1において記載された特許を受けようとする発明は、明確でない。
(2)本願の請求項1には、「入力量から走行アクティビティ量(FA)を計算」と記載されている。しかし、「走行アクティビティ量(FA)」とは、当業者にとって特定の意味を有する技術用語ではなく、また、それがどのような計算によって得られるのかも明らかでないため、その意味ないし内容が不明である。
してみれば、本願の請求項1に記載された「入力量から走行アクティビティ量(FA)を計算し」とは、どのような意味ないし内容であるのか当業者にとって理解できないものであって、本願の請求項1において記載された特許を受けようとする発明は、明確でない。

1-2 特許法第36条第6項第1号違反について
本願の特許請求の範囲の記載は、特許を受けようとする発明が以下の点で発明の詳細な説明に記載したものではないので、特許法第36条第6項第1号の規定に違反する。
(1)本願の請求項1には、「変速機入力回転数の設定勾配(nT(GRAD-SOLL))が走行アクティビティ量(FA)に関係して変更され」と記載されている。
一方、本願の発明の詳細な説明において、「設定勾配」は、「走行アクティビティ量(FA)」が高い場合に「設定勾配」が高く、「走行アクティビティ量(FA)」が低い場合には低く設定されるものであって、これ以外の態様ものは、想定されていないものであると理解される。
してみれば、本願の請求項1に記載された特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(2)本願の請求項1には、「変速機入力回転数の設定勾配(nT(GRAD-SOLL))が、選択された特殊プログラムに関係して変更され」と記載されている。
一方、本願の発明の詳細な説明において、「設定勾配」は、「特殊プログラム」の内容に応じて、「冬季プログラム、駆動輪の滑り調整、定速走行機能あるいは市街走行プログラム」が選択されていた場合や、「シフトアップ阻止」の場合には、低く設定され、一方、「上り坂/トレーラー走行プログラム」の場合には、高く設定されるものであって、これ以外の態様のものは、想定されていないものであると理解される。
してみれば、本願の請求項1に記載された特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
(3)本願の請求項1には、「第2の運転様式が活動中であるときに、多数の特殊プログラムから1つの特殊プログラムを選択し」と記載されている。
一方、本願の発明の詳細な説明には、「第2の運転様式」が活動している場合、どの「特殊プログラム」が活動しているのかを「検出」することが記載されているのであって、本願の請求項1に記載のように、「第2の運転様式」が活動している場合、「特殊プログラムを選択」することについては、何ら記載されていない。
してみれば、本願の請求項1に記載された特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

1-3 特許法第36条第4違反について
本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、次の点で特許法第36条第4項の規定に適合しない。
(1)本願の請求項1には、「変速機電子制御装置(13)には、選択的に活動可能な第1の運転様式および第2の運転様式が設けられており、変速機電子制御装置(13)が、第1の運転様式が活動中であるときに、入力量から周期的に走行アクティビティ量(FA)を計算し、変速機入力回転数の設定勾配(nT(GRAD-SOLL))が走行アクティビティ量(FA)に関係して変更され、変速機電子制御装置(13)が、第2の運転様式が活動中であるときに、多数の特殊プログラムから1つの特殊プログラムを選択し、変速機入力回転数の設定勾配(nT(GRAD-SOLL))が、選択された特殊プログラムに関係して変更される」と記載され、「変速機電子制御装置」に設けられた「第1の運転様式」及び「第2の運転様式」に対応して、「走行アクティビティ量(FA)」又は「特殊プログラム」に応じた「設定勾配」が設定されることが記載されている。
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明における記載では、「第1の運転様式」、「第2の運転様式」として具体的にどのようなものが該当するのか、当業者にとって理解をすることができないものである。
また、この「第1の運転様式」、「第2の運転様式」の峻別の結果に応じて、「走行アクティビティ量(FA)」の決定又は「特殊プログラム(SO)」の検出がなされることとなるが、なぜ「走行アクティビティ量(FA)」の決定と「特殊プログラム(SO)」の検出とを択一的にする必要があるのか、その技術的な意義も不明であって、どのような場合にこれらを選択すれば良いのか、すなわち、「第1の運転様式」、「第2の運転様式」としてどのようなものが該当するのか、技術常識からもうかがい知ることはできない。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできない。
(2)本願の請求項1には、「入力量から走行アクティビティ量(FA)を計算」と記載され、これに関し、本願の発明の詳細な説明においては、「走行アクティビティ量(FA)」は、「操作ペダル位置/スロットル開度あるいは手動切換要求のような運転者の出力希望を表す量、内燃機関によって発生されるトルクの信号、内燃機関の回転数ないし温度」等を入力信号として計算されるものであることは、理解できるものの、その計算方法については、「このような知能切換プログラムは、例えばドイツ特許第3922051号明細書またはドイツ特許出願公開第3941999号明細書で知られている。この知能切換プログラムの場合、車両特有の量および運転者の挙動から、走行活量FAが決定される。」(段落【0013】)と記載するにとどまり、具体的にどのような計算を行えばよいのか、なんら記載されていない。
そして、そもそも「走行アクティビティ量(FA)」それ自体がどのようなものであるのか不明であることから、特に明示しなくても、どのような計算方法をとればよいか技術常識から理解されるといった事情もない。また、仮に「走行アクティビティ量(FA)」がどのようなものであるか理解できたとしても、その高低によって、「設定勾配」の高低が決定されるものであることからすると、「走行アクティビティ量(FA)」の計算は、技術常識等から適宜決めればよいという性格のものではなく、相当の計算方法により求める必要があるものと理解される。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできない。

2.進歩性欠如
本願の請求項1ないし7に係る発明は、当業者が下記の刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
刊行物1:特開平5-322022号公報
刊行物2:特開平5-203039号公報
刊行物3:特開平6-307528号公報

第4 当審の判断
1.記載不備について
1-1 特許法第36条第6項第2号違反について
本願の特許請求の範囲の請求項1には、「入力量から走行アクティビティ量(FA)を計算し」と記載されている。しかし、「走行アクティビティ量(FA)」とは、当業者にとって特定の意味を有する技術用語ではなく、また、それがどのような計算によって得られるのかも明らかでないため、その意味ないし内容が不明である。
一方、この点について、本願明細書の発明の詳細な説明には、以下のような記載がみられる。
a)「【0005】
本発明に基づく解決手段およびその実施の形態は、運転者が彼自身の挙動を介して切換経過を決定する、という利点を有する。従って、快適運転モードにおいて、穏やかな長い切換が生ずる。パワー走行モードにおいて、短い切換が生ずる。いわゆる「知能」切換プログラムを備えた自動変速機において、切換点を選択するために、走行活量が計算される。そのような方法は、例えばドイツ特許第3922051号明細書ないしドイツ特許出願公開第3941999号明細書で、知られている。・・・(省略)。」
b)「【0012】
変速機電子制御装置13に入力量20が導入される。この入力量20は例えば、操作ペダル位置/スロットル開度あるいは手動切換要求のような運転者の出力希望を表す量、内燃機関によって発生されるトルクの信号、内燃機関の回転数ないし温度などである。・・・(省略)。」
c)「【0013】
図3には、本発明の第1の解決手段のプログラム流れ図が示されている。これは特に、知能切換プログラムを備えた自動変速機において適用される。このような知能切換プログラムは、例えばドイツ特許第3922051号明細書またはドイツ特許出願公開第3941999号明細書で知られている。この知能切換プログラムの場合、車両特有の量および運転者の挙動から、走行活量FAが決定される。この走行活量FAは最終的に、自動変速機の切換点を決定する。」
d)「【0014】
・・・(省略)。ステップS3において、第1の運転様式(BA=1)が活動中である、との答えが出たときには、ステップS4において、走行活量FAが決定され、ないしは、切換点を決定するために変速機電子制御装置13によって既に計算された走行活量が利用される。そして、ステップS5において、変速機入力回転数の設定勾配値nT(GRAD-SOLL)が、走行活量に関係して設定される。実際には、これは、パワー走行モードにおいて、高い走行活量を生じさせ、従って切換時間を短縮するように大きな設定勾配値を生ずるように、実現される。他の場合には、エコノミー走行モードにおいて、低い走行活量を生じさせ、従って最終的に、変速機入力回転数の小さな設定勾配値を生じさせる。」
これらの記載からみて、「走行アクティビティ量(FA)」(補正前の「走行活量」)とは、「操作ペダル位置/スロットル開度あるいは手動切換要求のような運転者の出力希望を表す量、内燃機関によって発生されるトルクの信号、内燃機関の回転数ないし温度」等を「入力量」として、何らかの計算によって得られるものであることが理解できるとともに、「最終的に自動変速機の切換点を決定する」ものであることが理解できる。しかし、「走行アクティビティ量(FA)」それ自体がどのような値であるのかについては、その計算方法が記載されておらず、また、どのように「最終的に自動変速機の切換点を決定する」ものであるのかについても記載されておらず、理解することができない。
ところで、「アクティビティ」とは、一般に活動や行動を意味するものであるから、「走行アクティビティ量(FA)」とは、車両の走行における活動に関する量であると観念することもできる。しかし、車両の走行における活動というだけでは、それがどのようなものであるか、結局のところ理解することができない。
してみれば、本願の請求項1に記載された「入力量から走行アクティビティ量(FA)を計算し」とは、どのような意味ないし内容であるのか当業者にとって理解できないものであって、本願の請求項1において記載された特許を受けようとする発明は、明確でない。

なお、これに対し、審判請求人は、原審において通知した平成20年3月12日付けの拒絶理由に対する意見書の中で、「走行アクティビティ量(FA)」とは、特開平3-129161号公報や特公平7-110587号公報に記載されているように、自動変速機の技術分野において一般的に用いられている用語である旨主張する。しかし、「走行アクティビティ量(FA)」とは、例えば、日本工業規格で定義されるような一般的な技術用語ではなく、また、特定の特許公報に記載されているからといって、それが直ちに一般的な技術用語であるということはできず、特開平3-129161号公報においては、その公報において説明されている具体的な計算方法を参酌して初めてその意味ないし内容が理解できるに過ぎない。また、特公平7-110587号公報に至っては、当該用語すら用いられていない。そうすると、仮にこれらの公報に記載されているとしても、「走行アクティビティ量(FA)」が一般的な技術用語として当業者に理解されるものであるということはできない。
また、審判請求人は、審判請求書及び審尋に対する回答書の中で、本願の明細書の段落【0014】には、「パワー走行モードにおいて、高い走行活量を生じさせ」、「エコノミー走行モードにおいて、低い走行活量を生じさせ」と明記されていると主張する。しかし、この記載は、走行モードの違いで「走行アクティビティ量(FA)」の高低が生じるということを説明するにとどまり、「走行アクティビティ量(FA)」それ自体がどのようなものであるかについては、何ら説明していない。
さらに、審判請求人は、審判請求書及び同回答書の中で、「走行アクティビティ量(FA)」の計算方法は、本願の明細書の段落【0013】に記載した「ドイツ特許第3922051号明細書」、「ドイツ特許出願公開第3941999号明細書」に記載され、よく知られた事項である旨主張する。しかし、ドイツ特許公報によって公知になったとしても、それが直ちに当業者にとって技術常識であるということはできないし(この点については、いわゆる実施可能要件違反でもある。詳細は後述する。)、本願の明細書においては、当該ドイツ特許公報は、単に例示として挙げられているに過ぎず、「走行アクティビティ量(FA)」ないしその計算について定義したものであるということもできない。
また、審判請求人は当審拒絶理由に対する平成22年1月27日付けの意見書(以下、「当審拒絶理由に対する意見書」という。)の中で「『走行アクティビティ量』という用語については、本願の基礎出願の出願時点における当業者であれば、意味内容を十分理解できたのであるから、審判官殿の指摘は失当であると思量する。」と主張する。しかしながら、「走行アクティビティ量(FA)」は、当業者にとって特定の意味を有する技術用語ではなく、どのような物理量を意味するのか不明であり、また、それがどのような計算によって得られるのかも明らかでないため、その意味ないし内容が不明である。しかも、上述したように、「走行アクティビティ量(FA)」が自動変速機の技術分野において一般的に用いられている技術用語として当業者に理解されるものであるということもできない。
したがって、本願の請求項1に記載された「入力量から走行アクティビティ量(FA)を計算し」とは、どのような意味ないし内容であるのか当業者にとって理解できないものであって、本願の請求項1において記載された特許を受けようとする発明は、明確でない。
以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反する。

1-2 特許法第36条第6項第1号違反について
(1)本願の特許請求の範囲の請求項1には、「変速機入力回転数の設定勾配(nT(GRAD-SOLL))が走行アクティビティ量(FA)に関係して変更され」と記載されている。
一方、本願明細書の発明の詳細な説明には、次のような記載がある。
a)「【0013】
・・・(省略)。この知能切換プログラムの場合、車両特有の量および運転者の挙動から、走行活量FAが決定される。この走行活量FAは最終的に、自動変速機の切換点を決定する。」
b)「【0014】
・・・(省略)。そして、ステップS5において、変速機入力回転数の設定勾配値nT(GRAD-SOLL)が、走行活量に関係して設定される。実際には、これは、パワー走行モードにおいて、高い走行活量を生じさせ、従って切換時間を短縮するように大きな設定勾配値を生ずるように、実現される。他の場合には、エコノミー走行モードにおいて、低い走行活量を生じさせ、従って最終的に、変速機入力回転数の小さな設定勾配値を生じさせる。・・・(省略)。」
c)「【0019】
図5B?図5Dに実線で示されている第1の状態は、パワー走行モード切換経過と快適走行モード切換経過との妥協点を表している。・・・(省略)。
【0020】
図5B?図5Dに破線で示されている第2の状態は、パワー走行モードにおいて、高い走行活量FAを得るような切換経過を表している。・・・(省略)。
【0021】
一点鎖線で示されている第3の状態は、快適走行モードの切換経過を示している。・・・(省略)。」
そして、これらの記載にかんがみれば、「走行アクティビティ量(FA)」が高い場合は、「パワー走行モード」となり「設定勾配」が高く設定され、「走行アクティビティ量(FA)」が低い場合は、「エコノミー走行モード」となり「設定勾配」が低く設定されるものであると理解することができる。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明において、「設定勾配」は、本願の請求項1に記載されるように、単に「走行アクティビティ量(FA)に関係して変更」されるようなものではなく、「走行アクティビティ量(FA)」が高い場合に「設定勾配」が高く、「走行アクティビティ量(FA)」が低い場合には低く設定されるものであって、これ以外の態様ものは、想定されていないものであると理解される。
してみれば、本願の請求項1に記載された特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

なお、この点に関して、審判請求人は、当審拒絶理由に対する意見書の中で「確かに、明記されているのは、当該一例のみである。しかしながら、当該一例以外の態様は想定されていない、という審判官殿の認定には、何の根拠もない。そのような認定手法は、技術的思想を表現する際の階層構造(上位概念・下位概念)を否定するものであり、失当という他ない。」と主張する。しかしながら、「設定勾配」を「走行アクティビティ量(FA)に関係して変更」する態様は様々なものが考えられるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記一例以外の他の態様について何も記載されていない。また、それだけでなく、その一例さえ、その意味ないし内容が理解できないものであることは、上記1-1で述べたとおりであり、この点については下記1-3でも述べる。

(2)本願の特許請求の範囲の請求項1には、「変速機入力回転数の設定勾配(nT(GRAD-SOLL))が、検出された特殊プログラムに関係して変更され」と記載されている。
一方、本願明細書の発明の詳細な説明には、次のような記載がある。
a)「【0015】
・・・(省略)。そして、ステップS7において、変速機入力回転数の設定勾配値nT(GRAD-SOLL)が、この特殊プログラムの関数として規定される。これは、冬季プログラム、駆動輪の滑り調整、定速走行機能あるいは市街走行プログラムが活動中であるとき、設定勾配値が小さな値の方向に変更されるように、実現される。特殊プログラム「シフトアップ阻止」が終了されたときも同様に、設定勾配値は、小さい値の方向に調整される。・・・(省略)。」
b)「【0016】
変速機入力回転数の設定勾配は、上り坂/トレーラー走行プログラムあるいは下り坂走行プログラムが活動されているとき、切換時間が短くなるように、大きな値の方向に変更される。これによって、例えばシフトダウン切換後においてトレーラーで上り坂走行する際に、即座に、十分大きな出力トルクが準備されることが、保証される。・・・(省略)。」
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明において、「設定勾配」は、本願の請求項1に記載されるように、単に「選択された特殊プログラムに関係して変更され」るようなものではなく、「特殊プログラム」の内容に応じて、「冬季プログラム、駆動輪の滑り調整、定速走行機能あるいは市街走行プログラム」が選択されていた場合や、「シフトアップ阻止」の場合には、低く設定され、一方、「上り坂/トレーラー走行プログラム」の場合には、高く設定されるものであって、これ以外の態様のものは、想定されていないものであると理解される。
してみれば、本願の請求項1に記載された特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

なお、この点に関して、審判請求人は、当審拒絶理由に対する意見書の中で「確かに、明記されているのは、当該一例のみであるが、当該一例以外の態様は想定されていない、という審判官殿の認定は、失当という他ない。」と主張する。しかしながら、「設定勾配」を「検出された特殊プログラムに関係して変更」する態様は様々なものが考えられるところ、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記一例以外の他の態様について何も記載されていないのであるから、本願の請求項1に記載された特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものではないことは上述のとおりである。
したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反する。

1-3 特許法第36条第4違反について
本願の特許請求の範囲の請求項1には、「入力量から走行アクティビティ量(FA)を計算」と記載され、これに関し、本願明細書の発明の詳細な説明においては、上記1-1に摘記したような説明がみられる。
しかし、それらの説明にかんがみれば、「走行アクティビティ量(FA)」は、「操作ペダル位置/スロットル開度あるいは手動切換要求のような運転者の出力希望を表す量、内燃機関によって発生されるトルクの信号、内燃機関の回転数ないし温度」等を入力信号として計算されるものであることは、理解できるものの、その計算方法については、「このような知能切換プログラムは、例えばドイツ特許第3922051号明細書またはドイツ特許出願公開第3941999号明細書で知られている。この知能切換プログラムの場合、車両特有の量および運転者の挙動から、走行活量FAが決定される。」(段落【0013】)と記載するにとどまり、具体的にどのような計算を行えばよいのか、なんら記載されていない。
そして、そもそも「走行アクティビティ量(FA)」それ自体がどのようなものであるのか不明であることから、特に明示しなくても、どのような計算方法をとればよいか技術常識から理解されるといった事情もない。また、仮に「走行アクティビティ量(FA)」がどのようなものであるか理解できたとしても、その高低によって、「設定勾配」の高低が決定されるものであることからすると、「走行アクティビティ量(FA)」の計算は、技術常識等から適宜決めればよいという性格のものではなく、相当の計算方法により求める必要があるものと理解される。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできない。

なお、審判請求人は、当審拒絶理由に対する意見書において、「『走行アクティビティ量』という用語の意味内容を、本願の基礎出願の出願時点における当業者であれば十分理解できたこと」であると主張し、「走行アクティビティ量の求め方を、ドイツ特許第3922051号明細書の記載に基づいて、再度具体的に説明しておく。」とし、以下のような説明をしている。
「絞り弁角度alpha(t),機関回転数nmot(t),走行速度v(t)および横加速度aq(t)が検出され、これらの値がフィルタリングされて、5つの特性マップ(特性関数)に供給される。これら特性マップは、通例、さらに別の入力量にも依存する。すなわち、第1の特性マップでは、絞り弁角度alpha(t)の他に、車両速度変化dv(t)/dtも関連する。第2の特性マップでは、機関回転数nmot(t)の他に、挿入された速度段gも関連する。第3乃至第5の特性マップでは、横加速度aq(t),縦加速度alb(t)、縦減速度alv(t)も関連する。これら5つの特性マップから得られる1次特性量SKP1(t)乃至SKP5(t)に基づいて、例えば最大値選択回路として実現される論理結合機能部において、2次特性量SKS(t)が得られる。走行アクティビティ量SK1(t)は、この2次特性量SKS(t)のその時の値と、計算時間期間T1だけ以前に求められて記憶されている走行アクティビティ量SK1(t-T1)と、を重み付けた和である。
通常、この走行アクティビティSK1(t)は、第6の特性マップにおいて切換プログラムを選択するために用いられる。
(参考数式表示)
第1の特性マップ:SKP1(t)=f(alpha(t),dv(t)/dt)
第2の特性マップ:SKP2(t)=f(nmot(t),g)
第3の特性マップ:SKP3(t)=f(aq(t),v(t))
第4の特性マップ:SKP4(t)=f(alb(t),v(t))
第5の特性マップ:SKP5(t)=f(alv(t),v(t))
2次特性量:SKS(t)=f(SKP1(t),SKP2(t),SKP3(t),SKP4(t),SKP5(t))
走行アクティビティ量:
SK1(t)=(B*SKS(t)+(A-B)*SK1(t-T1))/A」
そして、「これは、本願の基礎出願の出願時点において、当業者に知られていた事項である。」と主張する。
しかしながら、ドイツ特許公報によって公知になったとしても、それが直ちに当業者にとって技術常識であるということはできないし、本願の明細書においては、当該ドイツ特許公報は、単に例示として挙げられているに過ぎず、「走行アクティビティ量(FA)」ないしその計算について定義したものであるということもできない。また、特許法施行規則第24条によれば、「願書に添付すべき明細書は、様式第29により作成しなければならない。」と規定されており、その様式第29の備考6には、「他の文献を引用して明細書の記載に代えてはならない。」と記載されている。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

2.進歩性欠如について
2-1 本願発明
本願発明は、上記「第2 本願発明」に記載したとおりである。

2-2 刊行物に記載の発明
一方、当審拒絶理由に引用された、本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平5-322022号公報(以下、「刊行物1」という。)、特開平5-203039号公報(以下、「刊行物2」という。)、特開平6-307528号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の発明が記載されている。
(1)刊行物1
刊行物1には、「自動変速機の変速制御装置」に関し、図面とともに以下の記載がある。
a)「【0045】図8に示す例では、まずステップ1で装置の初期化を行い、・・・(省略)・・・各信号の入力処理を行う。これに続くステップ3では手動変速モード(すなわちダイレクトモード)が選択されているか否かを判断し、ダイレクトモードが選択されている場合に、ステップ4に進んでダイレクトモード用の定数の設定を行い、またダイレクトモードが選択されていない場合、すなわち自動変速モードが選択されている場合には、ステップ5に進んで自動変速モード(オートモード)用の定数の設定を行う。
【0046】その定数の例を図9に示してある。すなわち変速の開始から終了までの変速時間を定数として採用することができ、図9に示す例では、変速の種類ごとに異なる時間を設定し、かつオートモード用の変速時間に対してダイレクトモード用の変速時間を相対的に短く設定してある。・・・(省略)。
【0047】なお、上記の定数のうちダイレクトモードでの定数は、図9に示すように変速の種類に応じて異ならせるだけでなく、変速の迅速性に対する要求度合いを示すパラメータ、例えばスロットル開度や車速などに従って異ならせてもよい。」
b)「【0048】上記のように変速モードに応じて定数を設定した後、ステップ6では、変速に伴うフィードバック制御の開始条件が成立したか否かを判断し、その判断結果が“ノー”であれば、制御プロセスはリターンし、また判断結果が“イエス”であれば、ステップ7に進んで目標回転数を設定する。この目標回転数N_(TCO)は一例として次式によって計算される。
【0049】
N_(TCO)=N_(S)-(N_(S)-N_(0)×i)/T_(S)ここでN_(S)は制御開始前のクラッチC_(0)の回転数、T_(S)は変速時間、N_(0)は出力軸回転数、iは変速後の変速比である。
【0050】これに続くステップ8では所定の回転部材の実回転数、すなわち前記クラッチC_(0)の実回転数を回転センサー16によって検出し、これと前記目標回転数N_(TCO)とを比較して係合油圧の補正量を計算する(ステップ9)。その補正量は一例として次式によって求められる。
【0051】ΔN(k-1) =ΔN(k)
ΔN(k) =N_(TCO)-N_(CO)ΔN_(T)=k_(C)×{ΔN(k) -ΔN(k-1) }
ここでΔN_(T)は補正量、k_(C)はフィードバックゲイン、N_(CO)はクラッチC_(0)の実回転数、ΔN(k-1) は前回のサンプリング値、ΔN(k) は今回のサンプリング値である。
【0052】このようにして求めた補正量に基づいてアキュームレータ背圧用ソレノイドバルブS_(LN)のデューティ比を制御して実回転数が目標回転数となるよう係合油圧を制御する(ステップ10)。」
c)「【0054】したがってオートモードでの変速では、その変速時間が図9に示す時間となり、これに対してダイレクトモードでは変速時間がそれより短くなり、手動変速を行った際の変速の応答遅れが解消され、もしくは低減される。またダイレクトモードでゲインをゼロにした場合には、係合油圧のフィードバック制御自体が行われないから、変速の応答遅れがなくなる。」

以上の記載を総合すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「変速制御装置が自動変速機のクラッチC_(0)の実回転数N_(CO)を回転センサー16によって検出するとともに、設定された変速時間T_(S)によって計算される目標回転数N_(TCO)と比較し、実回転数N_(CO)が目標回転数N_(TCO)となるよう係合油圧を制御する自動変速機の変速制御方法において、変速制御装置には、選択可能なダイレクトモードとオートモードとが設けられており、オートモード用の変速時間に対してダイレクトモードの変速時間を相対的に短く設定した、自動変速機の変速制御装置における制御方法。」

(2)刊行物2
刊行物2には、「自動変速機の運転方法」に関し、図面とともに以下の記載がある。
a)「【0008】本発明は、乗物の特定の運転の間に平均ピーク加速度の指示値によって判定されるオペレータの運転の癖に応じてシフト制御パラメータを動的に調節する改善されたシフト制御に関する。平均ピーク加速度の指示値を判定するために、乗物の運転の間に乗物の前後方向の加速度を連続的に判定する。比に依存する連続的な時間間隔において生ずるピークすなわち最大の加速度値を判定しかつこれを累計し、累積的な及び平均ピーク加速度の期間ACCSUM及びAVPACCを形成する。平均ピーク加速度期間を用いて動的なシフトファクタDSFを形成し、このシフトファクタは、シフトパターン、ライン圧力、及び本明細書においてノーマル及びパフォーマンスと呼称する種々の運転モードに対応する予め決定された値の間の望ましいシフト時間を比率的にスケジュールするために使用される。これにより、乗物のオペレータの運転スタイルに個別に合致したシフト制御パラメータの連続性が提供される。」
b)「【0036】上述のように、前進速度比の間でのシフトは、ノーマル及びパフォーマンスのシフトパターンスケジュール、又は測定した乗物のパラメータと比較される予め決定された敷居値を与える探索テーブルを用いることによって調整される。・・・(省略)・・・。ノーマル及びパフォーマンスの探索テーブルは、変速機のライン圧力ソレノイドLP及び適応圧力制御に採用される所望のシフト時間の制御に対しても設けられている。
【0037】ノーマル及びパフォーマンスのモードに対する代表的な探索テーブルが、図5及び図6にそれぞれグラフで示されている。・・・(省略)・・・。同様に、パフォーマンスモードのライン圧力テーブルは、ノーマルモードに比較して大きなライン圧力を与え、これによりパフォーマンスのシフト感覚を達成する。また上述したように、各々の前進比に対してエンジンのスロットル%Tの関数として記憶されたパフォーマンスモードの望ましいシフト時間は、増大されたライン圧力を反映する対応した少ないシフト時間を与える。」

以上の記載を総合すると、刊行物2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「乗り物の前後方向のピークの加速度値を累計し、累積的な平均ピーク加速度を用いて動的なシフトファクタDSFを形成し、ノーマルモード又はパフォーマンスモードを選択するようにした自動変速機の制御方法において、パフォーマンスモードのライン圧力テーブルをノーマルモードに比較して大きくし、パフォーマンスモードのシフト時間を短くした、自動変速機の制御方法。」

(3)刊行物3
刊行物3には、「自動変速機の係合制御装置」に関し、図面とともに以下の記載がある。
a)「【0008】また、前記挙動検出手段aの一部に、車体の前後方向加減速度に関係した挙動を検出する車体加速度検出手段と、駆動輪の回転速度に関係した挙動を検出する車輪回転速度検出手段とを設け、前記路面摩擦判断手段bは、車輪回転速度検出手段からの入力に基づいて演算により求めた演算加減速度と、車体加減速度検出手段からの入力に基づいて得られた実際の車体の加減速度である実加減速とを求め、両者の差が大きいほど低摩擦の路面であると判断するようにしてもよい。」
b)「【0021】ステップS3は、駆動輪センサ18からの出力に基づき、駆動輪の加減速度Gを演算するステップである。
【0022】ステップS4は、前のステップS3で得た加減速度Gに基づいて、路面摩擦係数μを判断するステップで、すなわち、加速度Gが所定以上の減速度を示した場合に、路面摩擦係数μが低い路面(以下、これを低μ路という)と判断し、μ=αと処理する。なお、このαは、低μ路を示す小さな値である。また、このステップS4の判断を行う部分が請求の範囲の路面摩擦判断手段に相当する。」
c)「【0030】したがって、マニュアルレバーを操作してエンジンブレーキ作用を得た場合には、車速Vが所定値V_(0)よりも低い時には、路面摩擦係数μにかかわらず、図4の(1)の特性に基づきライン圧制御を行い、オーバランクラッチO/Cの係合速度を早く制御する。この場合、低μ路を走行していても、車速Vが低いことから、車輪が滑ることはない。また、車速Vが所定値V_(0)よりも高い高速走行時には、高μ路では、図4の(2)の特性に基づいてライン圧制御を行い、上記低速走行時よりも遅めの係合速度でオーバランクラッチO/Cを係合させる。このように、高μ路高速走行時には、係合速度を遅くしなくても車輪の滑りは問題ないが、変速ショックを和らげる意味で少し係合速度を遅らせる。一方、低μ路高速走行時には、図4の(3)の特性に基づいてライン圧制御を行い、上記高μ路高速走行時よりもさらに、オーバランクラッチO/Cの係合速度を遅くする。このように係合速度を遅くするから、低μ路であっても車輪が滑るのを防止して走行安定性を確保できる。」(注:記載中、(1)?(3)は、○の中に1?3の表記を変更したものである。)

以上の記載を総合すると、刊行物3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。
「自動変速機のマニュアルレバーを操作した場合、駆動輪の加減速度Gに基づいて路面摩擦係数μを判断し、車速Vが所定値V_(0)よりも低い低速走行時は、路面摩擦係数μにかかわらず、オーバランクラッチO/Cの係合速度を早く制御し、高μ路高速走行時には、低速走行時よりも遅めの係合速度でオーバランクラッチO/Cを係合させ、低μ路高速走行時には、高μ路高速走行時よりもさらにオーバランクラッチO/Cの係合速度を遅くするようにした、自動変速機の係合制御方法。」

2-3 対比及び判断
(1)一致点
本願発明と引用発明1とを対比すると、まず、引用発明1の「自動変速機のクラッチC_(0)」は、変速機内において回転する部材であって、その「実回転数N_(CO)」は、変速の前後を通じて、変速前の回転数から変速後の回転数へと変化するものである。そうすると、引用発明1の「自動変速機のクラッチC_(0)の実回転数N_(CO)」は、変速の前後を通じて回転数が変化する変速機の所定部材の回転数という意味において、本願発明における「変速機入力回転数(nT)」とひとまず共通する。また、引用発明1における「回転センサー16によって検出」は、本願発明における「測定」に相当する。
次に、引用発明1では、「自動変速機のクラッチC_(0)の実回転数N_(CO)を回転センサー16によって検出」し、「設定された変速時間T_(S)によって計算される目標回転数N_(TCO)と比較」するものであるところ、「目標回転数N_(TCO)」は、「設定された変速時間TS 」に応じて、変速前の回転数から変速後の回転数に向けて変化するものであるから、この「設定された変速時間T_(S)によって計算される目標回転数N_(TCO)」とは、本願発明における「設定勾配(nT(GRAD-SOLL))」にほかならない。また、引用発明1は、「クラッチC_(0)の実回転数N_(CO)」を「目標回転数N_(TCO)と比較」するものであるから、これは、実質的には、本願発明における「実際勾配を検出」し、「設定勾配(nT(GRAD-SOLL))との偏差」を求めることに相当する。
また、上述のとおり、引用発明1の「クラッチC_(0)の実回転数N_(CO)」と「目標回転数N_(TCO)」との比較は、本願発明における「実際勾配」と「設定勾配(nT(GRAD-SOLL))」との「偏差」を求めることに実質的に相当するのであるから、引用発明1における「実回転数N_(CO)が目標回転数N_(TCO)となるよう係合油圧を制御」は、本願発明における「切換移行に関与するクラッチ(K1、K2)が、変速機回転数の実際勾配と設定勾配との偏差を減少するように調整」するものに実質的に相当する。
さらに、引用発明1は、「選択可能なダイレクトモードとオートモード」によって、手動変速又は自動変速が選択可能とされているところ、それらは、運転のさま、すなわち本願発明における「運転様式」に一応相当するものと理解できるから、この「オートモード」、「ダイレクトモード」は、それぞれ本願発明における「第1の運転様式」、「第2の運転様式」に実質的に相当するものである。
そして、引用発明1における「変速制御装置」及び「制御方法」は、具体的な内容はさておき、ひとまず本願発明における「変速機電子制御装置(13)」及び「制御方法」にそれぞれ相当する。
してみれば、本願発明と引用発明1とは、本願発明の用語を用いて表現すると、次の点で一致する。
「切換移行中に、変速機電子制御装置が、測定された変速機の所定部材の回転数から実際勾配を検出するとともに、変速機の所定部材の回転数の設定勾配との偏差を求め、切換移行に関与するクラッチが、変速機回転数の実際勾配と設定勾配との偏差を減少するように調整される、自動変速機の制御方法において、変速機電子制御装置には、選択的に活動可能な第1の運転様式および第2の運転様式が設けられている、自動変速機の制御方法。」

(2)相違点
一方、本願発明と引用発明1とは、次の点で相違する。ただし、相違点2、3は、それぞれ「第1の運転様式」、「第2の運転様式」が選択された場合の制御方法として、いわば互いに独立したものであって、それぞれ技術的に関連するといった事情もないことから、それぞれ分けて整理し、判断することとする。
a)相違点1
本願発明における「設定勾配」及び「実際勾配」は、「変速機入力回転数(nT)」に対するものであるのに対して、引用発明1の「設定された変速時間T_(S)」によって計算される「目標回転数N_(TCO)」と、この「目標回転数N_(TCO)」と比較される「実回転数N_(CO)」とは、それぞれ上述(1)のとおり、実質的に本願発明の「設定勾配」、「実際勾配」に相当するものの、これらの「目標回転数N_(TCO)」及び「実回転数N_(CO)」は、本願発明のような変速機の入力回転数ではなく、「クラッチC_(0)」の回転数である点。
b)相違点2
本願発明は、「第1の運転様式とは、走行アクティビティ量(FA)を用いる運転モードであり」「変速機電子制御装置(13)が、第1の運転様式が活動中であるときに、入力量から周期的に走行アクティビティ量(FA)を計算し、変速機入力回転数の設定勾配(nT(GRAD-SOLL))が走行アクティビティ量(FA)に関係して変更」されるものであるのに対し、引用発明1は、「オートモード用の変速時間に対してダイレクトモードの変速時間を相対的に短く設定した」もの、すなわち「オートモード」が選択されている場合と「ダイレクトモード」が選択されている場合において、それぞれ異なる「変速時間」を設定するものではあるが、本願発明のように、「走行アクティビティ量(FA)に関係して変更」するものではない点。
c)相違点3
本願発明は、「第2の運転様式とは、特殊プログラムを用いる運転モードであり」「変速機電子制御装置(13)が、第2の運転様式が活動中であるときに、多数の特殊プログラムから1つの特殊プログラムを検出し、変速機入力回転数の設定勾配(nT(GRAD-SOLL))が、検出された特殊プログラムに関係して変更」されるものであるのに対し、引用発明1は、「オートモード」が選択されている場合と「ダイレクトモード」が選択されている場合において、それぞれ異なる「変速時間」を設定するものではあるが、本願発明のように、「検出された特殊プログラムに関係して変更」するものではない点。

(3)相違点の判断
a)相違点1について
引用発明1は、「クラッチC_(0)」の回転数について、「実回転数N_(CO)」を検出し、これを「変速時間T_(S)によって計算される目標回転数N_(TCO)と比較」し、その偏差をなくすように制御を行うものであるところ、その制御に当たって、「クラッチC_(0)」の回転数を用いなくても、当該変速の前後を通じて回転数が変化する他の部材の回転数によっても可能であることは、当業者にとって直ちに理解できるものである。そして、変速機の入力回転数は、変速の前後を通じて変化するものであることは、当業者にとって明らかであって、この回転数を用いるようにすることは、当業者が設計的になし得た事項に過ぎない。

b)相違点2について
引用発明2は、上述のとおり、「乗り物の前後方向のピークの加速度値を累計し、累積的な平均ピーク加速度を用いて動的なシフトファクタDSFを形成し、ノーマルモード又はパフォーマンスモードを選択」し、「パフォーマンスモードのライン圧力テーブルをノーマルモードに比較して大きくし、パフォーマンスモードのシフト時間を短くした」もの、すなわち、「累積的な平均ピーク加速度」によって形成された「動的なシフトファクタDSF」によって、「シフト時間」を変更するようにしたものである。ここで、この「動的なシフトファクタDSF」とは、上記2-2(2)a)に摘記したように、「オペレータの運転の癖に応じてシフト制御パラメータを動的に調節する」ためのものであって、これは、当該車両の走行に関する活動を反映したものであるから、本願発明における「走行アクティビティ量(FA)」に該当すると一応理解されるものである。また、引用発明2は、「動的なシフトファクタDSF」に応じて「ノーマルモード」又は「パフォーマンスモード」を選択するものであるところ、これらのモードは、自動的にシフトアップ、シフトダウンがなされるモード、即ちいわゆるマニュアルモードではなく、オートモードである。
そして、引用発明1と引用発明2とは、自動変速機の制御方法という点で同じ技術分野に属するのみならず、変速時間の変更に関するものであるから、引用発明1における「オートモード」時における変速時間の設定にあたり、引用発明2を適用することは、当業者が容易に想到し得たものである。
したがって、相違点2に係る本願発明のように構成することは、当業者が容易に想到できたことである。

c)相違点3について
引用発明3は、上述のとおり、「自動変速機のマニュアルレバーを操作」した場合、「駆動輪の加減速度Gに基づいて路面摩擦係数μを判断」し、「車速Vが所定値V_(0)よりも低い低速走行時は、路面摩擦係数μにかかわらず、オーバランクラッチO/Cの係合速度を早く制御し、高μ路高速走行時には、低速走行時よりも遅めの係合速度でオーバランクラッチO/Cを係合させ、低μ路高速走行時には、高μ路高速走行時よりもさらにオーバランクラッチO/Cの係合速度を遅くする」ようにしたものである。ここで、「駆動輪の加減速度Gに基づいて路面摩擦係数μを判断」することは、シフトアップないしシフトダウンといった変速制御それ自体とは異なる制御であるといえるから、本願発明における「特殊プログラム」に該当すると一応理解されるものである。また、引用発明3における「自動変速機のマニュアルレバーを操作」した場合とは、いわゆるマニュアルモードによる操作にほかならない。そして、このマニュアルモードは引用発明1でいうダイレクトモードに相当するものである。
そして、引用発明1と引用発明3とは、自動変速機の制御方法という点で同じ技術分野に属するのみならず、変速時間の変更に関するものであるから、引用発明1における「ダイレクトモード」時における変速時間の設定にあたり、引用発明3を適用することは、当業者が容易に想到し得たものである。
また、引用発明3においては、低μ路高速走行の場合に、変速時間を長くすることが示されているが、その他に、いわゆるトラクションコントロール時、渋滞走行時、市街地走行時など、さまざまな走行状況に応じて変速時間を変更する必要があることも、従来から広く知られている(例えば、特開平6-40273号公報の段落【0004】、特開平2-271155号公報の第2ページ左上欄?右上欄、第5ページ右上欄、特開平4-181060号公報の第2ページ左上欄等参照)ところであり、これらのものを考慮して対応する特殊プログラムを設け、現在作動中の特殊プログラムに関係して変速時間を変更するようにすることも、当業者であれば適宜なし得ることである。
したがって、相違点3に係る本願発明のように構成することは、当業者が容易に想到できたことである。

ところで、上述のとおり、相違点2、3は、それぞれ「第1の運転様式」、「第2の運転様式」が選択された場合の制御方法として、いわば互いに独立したものであって、それぞれ技術的に関連するといった事情もなく、上述相違点2に対する判断は、相違点3の判断を左右しない。

また、本願発明が奏する効果として、引用発明1ないし3から当業者が予測できなかったような格別なものを見いだすこともできない。

してみれば、本願発明は、引用発明1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項第1号及び第2号、並びに第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用発明1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-05-26 
結審通知日 2010-05-28 
審決日 2010-06-09 
出願番号 特願2000-521328(P2000-521328)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (F16H)
P 1 8・ 537- WZ (F16H)
P 1 8・ 121- WZ (F16H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹下 和志  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 川上 溢喜
大山 健
発明の名称 自動変速機の制御方法  
代理人 永井 浩之  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 磯貝 克臣  
代理人 吉武 賢次  
代理人 岡田 淳平  
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