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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1225890 |
審判番号 | 不服2007-13712 |
総通号数 | 132 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2010-12-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2007-05-10 |
確定日 | 2010-10-25 |
事件の表示 | 特願2002-511367「高速回復ダイオードおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年12月20日国際公開、WO01/97258、平成16年 2月 5日国内公表、特表2004-503933〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,2001年5月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年6月14日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成18年8月17日付けの拒絶理由通知に対して,同年11月22日に手続補正書及び意見書が提出されたが,平成19年2月2日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年5月10日に審判請求がされるとともに,同年6月11日付けで手続補正書が提出されたものである。 第2 平成19年6月11日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 本件補正の内容 本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであり,以下のとおりである。 〈補正事項a〉 ・補正前の請求項1の「前記ピーク深さまで前記ウェハ中にヘリウムを注入するステップ」を,補正後の請求項1の「前記ウェハ中にヘリウムを,陽極表面から10から30ミクロンまでの深さに注入するステップ」と補正する。 〈補正事項b〉 ・補正前の請求項5の「その領域中の少数キャリアの寿命を短縮する欠陥を生成するためのヘリウム注入物」を,補正後の請求項5の「その領域中の少数キャリアの寿命を短縮する欠陥を生成するためのヘリウム注入物であって,前記ウェハの陽極表面からの注入深さが10から30ミクロンまでである前記ヘリウム注入物」と補正する。 〈補正事項c〉 ・補正前の請求項6の「少数キャリア・ライフタイムを短縮する欠陥を生成するためのヘリウム注入物」を,補正後の請求項6の「少数キャリア・ライフタイムを短縮する欠陥を生成するためのヘリウム注入物であって,前記ウェハの陽極表面からの注入深さが10から30ミクロンまでである前記ヘリウム注入物」と補正する。 2 補正目的の適否 (1)補正事項aについて 補正事項aは,補正前の請求項1の「前記ピーク深さまで前記ウェハ中にヘリウムを注入するステップ」を,補正後の請求項1の「前記ウェハ中にヘリウムを,陽極表面から10から30ミクロンまでの深さに注入するステップ」に限定的に減縮したものであるから,補正事項aは,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2)補正事項bについて 補正事項bは,補正前の請求項5の「その領域中の少数キャリアの寿命を短縮する欠陥を生成するためのヘリウム注入物」を,補正後の請求項5の「その領域中の少数キャリアの寿命を短縮する欠陥を生成するためのヘリウム注入物であって,前記ウェハの陽極表面からの注入深さが10から30ミクロンまでである前記ヘリウム注入物」に限定的に減縮したものであるから,補正事項bは,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (3)補正事項cについて 補正事項cは,補正前の請求項6の「少数キャリア・ライフタイムを短縮する欠陥を生成するためのヘリウム注入物」を,補正後の請求項6の「少数キャリア・ライフタイムを短縮する欠陥を生成するためのヘリウム注入物であって,前記ウェハの陽極表面からの注入深さが10から30ミクロンまでである前記ヘリウム注入物」に限定的に減縮したものであるから,補正事項cは,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 したがって,特許請求の範囲についての本件補正は,平成14年法律第24号改正附則2条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項2号に規定する要件を満たす。 そこで,以下,本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項に規定する独立特許要件を満たすか)どうかを,請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について検討する。 3 独立特許要件を満たすかどうかの検討 (1)本願補正発明 本件補正後の請求項1に係る発明(本願補正発明)は,次のとおりである。 【請求項1】 「(a)薄膜シリコンウェハの最表面(top surface)に近接してP/N接合を形成するステップと, (b)前記P/N接合の底部より下で且つ前記P/N接合の底部に近接するピーク深さに故意欠陥(intentional defects)を生成するために,前記ウェハ中にヘリウムを,陽極表面から10から30ミクロンまでの深さに注入するステップと, (c)前記ウェハ全体に電子ビームを照射して,前記ウェハの全深さにわたって欠陥を一様に生成するステップと を備え, (d)前記ウェハには,重金属ライフタイム消滅(heavy metal lifetime killing)がないこと を特徴とする緩慢回復ダイオードを製造するための方法。」 (2)引用例の表示 引用例1:特開平9-260686号公報 (3)引用例1の記載と引用発明 (3-1)引用例1の記載 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である,特開平9-260686号公報(以下「引用例1」という。)には,「半導体装置及びその製造方法」(発明の名称)に関して,図1,図2,図4,図5とともに,次の記載がある。(下線は当合議体において付した。) ア 特許請求の範囲 ・「【請求項2】 第一導電型の第一の半導体層と, 前記第一の半導体層の一方の面に形成された第一導電型で不純物濃度の高い第二の半導体層と, 前記第一の半導体層の他方の面に選択的に形成された第二導電型の第三の半導体層とを具備する半導体装置であって, 前記第一の半導体層内にプロトン,デュートロン,ヘリウムのうちの少なくとも一つ及び電子線を照射することで局部的に再結合中心が高密度に形成されている層を具備していることを特徴とする半導体装置。」 イ 発明の背景等 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,半導体装置及びその製造方法に係わり,特にスイッチング用として使用される整流装置に関する。 【0002】 【従来の技術】スイッチング用ダイオードでは,順方向電圧降下や逆回復損失特性が,重要なパラメータである。順方向電圧降下は,所定の順電流を流したときの素子のアノード・カソード間の電圧降下(VF)である。素子内の欠陥が多い程,素子の抵抗率が上がり電圧降下が増え,素子のオン電圧を上昇させてしまう。 【0003】また,逆回復損失特性は,ダイオードに印加する電圧を順方向から逆方向に切り替えたとき,順方向時に蓄積された過剰少数キャリア,例えば,P層/N基板型の場合,N-領域に蓄積された正孔,が空乏層の拡大にともない逆方向の過渡電流となって流れることによる損失をいう。図5に示した斜線部の面積Qrrを逆回復損失と呼び,trrをスイッチング時間と呼ぶ。 【0004】スイッチングダイオードでは,高速動作のためにスイッチング時間が短く,逆回復損失ができるだけ小さくなければならないが,一方で,オン電圧も低くして,順方向時における損失が小さくなければならない。 【0005】まず,逆回復損失を小さくするには,順方向時に蓄積されたキャリアを減らせばよいので,従来から,キャリアが存在する領域に再結合中心を形成し,キャリアのライフタイムの制御を行ってきた。」 ・「【0008】白金拡散により再結合を形成する従来例について,1200V Fast Recovery Diode(FRD)を例にとり説明する。図4(a)に従来のFRDの断面図を示す。この整流装置は,半導体基板の表面から順に,P型層1,N-層2,N+層3が存在する。P型層1は,表面より拡散により形成され,耐圧部4と通電部5からなる。P型層1は表面から10μm程度の深さまで形成される。N-層2は基板表面から110μm程度の深さまで存在する。抵抗率は55ないし65Ω・cmである。N+層3はN-層2の下に約140μmの厚さで存在する。エピウェハでダイオードを作成する場合,N+層3は基板ウェハであり,N-層2は基板ウェハ上にエピタキシャル成長される。通常の基板を用いた場合は,N-層2が基板ウェハであり,N+層3は裏面からの拡散により形成される。 【0009】その後,エピウェハを用いた場合は900℃で,通常のウェハを用いた場合は850℃で(拡散時間はほとんど影響を与えないが,いずれも例えば30分間),ライフタイムキラーの役割を果たす白金をN-層2に拡散し,再結合中心を形成する。通常の基板の場合,拡散温度が低い理由は,高温で拡散すると,N-層2中に存在する欠陥がエピウェハと比べると多いため,欠陥と白金で相互作用を生じ,逆方向もれ電流の増大および順方向電圧降下の増大を招くからである。 【0010】また,N+層3には,裏面電極6を形成する。図4(b)に再結合中心密度のN-層2内の分布を示す。表面に垂直な方向にほぼ一定な値で分布していることがわかる。なお,再結合中心分布図は傾向を示す概念図にすぎず,値は不正確である。ただし,密度のスケールに関しては,対数と考える方が近い。 【0011】 【発明が解決しようとする課題】しかし,再結合中心層を形成することは,欠陥を導入することであるから,素子の抵抗率が上がり順方向電圧降下が増えてしまう。すなわち,小さい順方向電圧降下と小さい逆回復損失は,互いに競合するトレードオフの関係にある。 【0012】例えば前述の従来例のエピウェハの場合,900℃以上での白金の拡散により,再結合中心密度が高い領域がN-層2の全域に形成され,順方向の電圧降下が増大する。一方,エピウェハ以外のウェハの場合は,850℃での拡散のため,結合中心密度がエピウェハの場合よりも小さい。よって,順方向電圧降下は小さいが,スイッチング時間が比較的長くなってしまう。 【0013】にも関わらず,近年は,順方向電圧降下が低く,かつ逆回復損失が少ない素子が強く求められている。本発明の目的は,上記課題に鑑み,再結合中心密度の深さ方向の分布を制御し,順方向電圧降下と逆回復損失特性との関係を最適化することを目的とする。」 ウ 課題を解決するための手段 ・「【0016】そこで,本発明は,再結合中心を局所的に形成するプロトン照射,デュートロン照射,ヘリウム照射と,再結合中心を非局所的に形成する白金拡散又は電子線照射とを組み合わせることで,再結合中心密度の深さ方向の分布を制御し,順方向電圧降下と逆回復損失特性との関係を最適化する。」 エ 実施例 ・「【0017】 【発明の実施の形態】以下,図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。本発明について1200VFast Recovery Diode を例にとり説明する。図1(a)に本発明の断面構造を示す。図1(a)において,図4と同一部分には同一符号を付す。この実施の形態では,すでに図4で説明した850℃の白金拡散を行った従来技術のFRDに,基板の裏面よりプロトン(ドーズ量:7×10^(11)/cm^(2) )又はヘリウム(ドーズ量:1.5×10^(10)/cm^(2) )をN-層2中に停止位置が表面よりおよそ40μmの位置にあるように照射する。一例として基板の裏面より照射した場合の再結合中心分布図を図1(b)に示す。白金拡散による一様な高密度領域に加えて,プロトンまたはヘリウムの照射によりN-層2中に局所的に高密度な領域7が形成されている。 【0018】本発明においては,プロトン又はヘリウムを照射した後に電子線を照射してもよい。また,プロトン,デュートロン,ヘリウムのうち少なくとも1つを照射してもよい。 【0019】本発明の効果について,再結合中心の形成が従来の白金拡散のみの例,プロトン等の照射のみの例,及び本発明であるプロトン照射と白金拡散の例の各々を比較して説明する。図2は,それぞれの例について,N-層2における再結合中心密度,逆回復損失および順方向電圧降下を示した図である。 【0020】同図(a)はエピウェハを使用した900℃での白金拡散,同図(b)は通常のウェハを使用した850℃での白金拡散,同図(c)はプロトン又はヘリウムを表面から照射したもの,同図(d)はプロトンまたはヘリウムを裏面から照射したもの,同図(e)はプロトン又はヘリウムの表面からの照射と850℃での白金拡散を組み合わせたもの,同図(f)はプロトン又はヘリウムの裏面からの照射と850℃での白金の拡散を組み合わせたものを示す。 【0021】まず,逆回復損失については,非局所的に低密度の再結合中心が分布する同図(b)が最も大きい。プロトン等の照射により局所的に再結合中心を形成した同図(c),(d)が次に大きい。照射に加え,さらに白金拡散により再結合中心を導入して正孔を減らすと,同図(e),(f)のように逆回復損失はさらに小さくなる。最も小さいのは同図(a)である。同図(e)では表面からプロトン等を照射しているので,再結合中心密度はある深さを越えると急峻に低下する。したがって,急峻に低下した近傍では正孔は比較的残っており,逆回復損失の時間的プロファイルにテイルTが生じる。裏面から照射した同図(f)においては,再結合中心のテイルは裏面に向かって生じているので,逆回復損失において同図(e)のようなテイルは生じておらず,同図(a)とほぼ同等の逆回復損失特性を示している。 【0022】順方向電圧降下については,N-層2における再結合中心がすべて関与するので,再結合中心が少ない同図(b),(c),(d)の順方向電圧降下は小さく,同図(e),(f)がそれに次ぎ,同図(a)が最も大きい。 【0023】このように拡散法と照射法を組み合わせることで,逆方向損失と順方向電圧低下との関係を制御することができる。例えば拡散と裏面から照射を施した同図(f)は,拡散のみの同図(a)と同程度の逆回復損失や逆回復波形を示しながら,順方向電圧低下が10%程度低下しており,より望ましい特性を示している。 【0024】さらに,プロトン又はヘリウムの照射は,基板の裏面から行うことが望ましい。なぜなら,表面から照射すると,P層1,N-層2に通過ダメージを与え,PN接合の耐圧を劣化させてしまう。また,前述のように表面からの照射では,逆方向電流波形にテイルが生じるからである。 【0025】プロトン又はヘリウムの停止位置については,少数キャリアの分布のピーク位置の近くにあるようにすることが望ましい。図1の実施例における実験では,裏面より照射して停止位置がP層1から50μm以上は離れていないものが良好な特性を示した。より詳細には,ヘリウムを照射した場合,P層1から25?30μm離れたものが最も良い逆回復特性を示した。」 オ 発明の効果 ・「【0027】 【発明の効果】以上述べたように,拡散法と照射法を適切に組み合わせることで,再結合中心密度の深さ方向の分布を制御することにより,許容可能な順方向電圧降下と逆回復特性との関係を実現することができる。」 ・ここで,上記エに記載された実施例について,「図4と同一部分については同一符号を付す。」とされているから,該当部分は,上記イに従来例として記載されたものと同様に形成されていることは明らかである。 ・上記ウには,「再結合中心を局所的に形成するプロトン照射,デュートロン照射,ヘリウム照射と,再結合中心を非局所的に形成する白金拡散又は電子線照射とを組み合わせること」が記載されており,上記エに記載された実施例についても,「本発明においては,プロトン又はヘリウムを照射した後に電子線を照射してもよい。」と記載されているから,実施例として,ヘリウム照射と電子線照射とを組み合わせた形態,すなわち上記エに記載された実施例において,白金拡散に代えて電子線を照射することも記載されていると言うことができる。 (3-2)引用発明 したがって,引用例1には,その図2(e)に示された特性のものに関して,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「N+層からなる基板ウェハ3にN-層2をエピタキシャル成長したエピウェハを用意するステップと, 前記エピウェハ中の前記N-層2の表面に10μm程度の深さまでP層1を形成してPN接合を形成するステップと, 前記N-層2中に局所的に再結合中心の高密度な領域7を形成するために,前記P層1から25?30μm離れた位置に停止位置を有するように前記N-層2中にヘリウムを照射するステップと, 再結合中心を非局所的に形成する電子線照射を行うステップとを有することを特徴とする,逆回復損失の時間的プロファイルにテイルTが生じるダイオードの製造方法。」 (4)対比 (4-1)次に,本願補正発明と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「前記エピウェハ中の前記N-層2の表面」,「PN接合」は,それぞれ,本願補正発明の「薄膜シリコンウェハの最表面(top surface)」,「P/N接合」に対応するから,引用発明の「前記エピウェハ中の前記N-層2の表面に10μm程度の深さまでP層1を形成してPN接合を形成するステップ」は,本願補正発明の「(a)薄膜シリコンウェハの最表面(top surface)に近接してP/N接合を形成するステップ」に相当する。 イ 引用発明の「前記N-層2中」,「前記P層1から25?30μm離れた位置に停止位置を有する」,「局所的に再結合中心の高密度な領域7を形成する」,「前記N-層2中にヘリウムを照射する」は,それぞれ,本願補正発明の「前記P/N接合の底部より下」,「前記P/N接合の底部に近接するピーク深さ」,「故意欠陥(intentional defects)を生成する」,「前記ウェハ中にヘリウムを」「注入する」に対応するから,引用発明の「前記N-層2中に局所的に再結合中心の高密度な領域7を形成するために,前記P層1から25?30μm離れた位置に停止位置を有するように前記N-層2中にヘリウムを照射するステップ」は,本願補正発明の「(b)前記P/N接合の底部より下で且つ前記P/N接合の底部に近接するピーク深さに故意欠陥(intentional defects)を生成するために,前記ウェハ中にヘリウムを」「注入するステップ」に相当する。 ウ 引用発明の「電子線照射」,「再結合中心を非局所的に形成する」は,それぞれ,本願補正発明の「電子ビームを照射」,「前記ウェハの全深さにわたって欠陥を一様に生成する」に対応し,引用発明の「再結合中心を非局所的に形成する」ためには,「電子線照射」をエピウェハ全体に行う必要があることは明らかであるから,引用発明の「再結合中心を非局所的に形成する電子線照射を行うステップ」は,本願補正発明の「(c)前記ウェハ全体に電子ビームを照射して,前記ウェハの全深さにわたって欠陥を一様に生成するステップ」に相当する。 エ 引用発明が重金属ライフタイム消滅を行っていないことは明らかであるから,引用発明は,本願補正発明の「前記ウェハには,重金属ライフタイム消滅(heavy metal lifetime killing)がないこと」に相当する構成を備えている。 オ 引用発明の「逆回復損失の時間的プロファイルにテイルTが生じる」ことは,引用例1の段落【0021】の記載を参照すると,本願補正発明の「緩慢回復」に対応するから,引用発明の「逆回復損失の時間的プロファイルにテイルTが生じるダイオードの製造方法」は,本願補正発明の「緩慢回復ダイオードを製造するための方法」に相当する。 (4-2)そうすると,本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は,次のとおりとなる。 《一致点》 「(a)薄膜シリコンウェハの最表面(top surface)に近接してP/N接合を形成するステップと, (b)前記P/N接合の底部より下で且つ前記P/N接合の底部に近接するピーク深さに故意欠陥(intentional defects)を生成するために,前記ウェハ中にヘリウムを注入するステップと, (c)前記ウェハ全体に電子ビームを照射して,前記ウェハの全深さにわたって欠陥を一様に生成するステップと を備え, (d)前記ウェハには,重金属ライフタイム消滅(heavy metal lifetime killing)がないこと を特徴とする緩慢回復ダイオードを製造するための方法。」 《相違点》 本願補正発明は,「前記ウェハ中にヘリウムを,陽極表面から10から30ミクロンまでの深さに注入する」のに対して,引用発明は,本願補正発明の「前記ウェハ中にヘリウムを注入する」ステップに対応する「前記N-層2中にヘリウムを照射する」ステップを有するものの,引用発明は,「前記P層1から25?30μm離れた位置に停止位置を有するように前記N-層2中にヘリウムを照射する」ものである点。 (5)相違点についての判断 ア 引用発明の「前記P層1から25?30μm離れた位置に停止位置を有するように前記N-層2中にヘリウムを照射する」ことは,引用発明が「前記N-層2の表面に10μm程度の深さまでP層1を形成」しているから,前記N-層2の表面から35?40μm離れた位置に停止位置を有するように前記N-層2中にヘリウムを照射することと同じである。 イ また,引用発明の,ヘリウムの照射による局所的な再結合中心の高密度な領域が,前記「停止位置」を中心(ピーク)とする所定の深さ方向の幅を有していることは,引用例1の図1(b),図2(e),(f)の記載から明らかである。もっとも,引用例1には,前記「停止位置」を中心(ピーク)とする所定の深さ方向の幅の値は明記されていない。 ウ 他方,本願補正発明では,「前記ウェハ中にヘリウムを,陽極表面から10から30ミクロンまでの深さに注入する」との構成から,上記イに記載の,前記「停止位置」を中心(ピーク)とする所定の深さ方向の幅に対応するものは,30(ミクロン)-10(ミクロン)=20(ミクロン)である。この20ミクロンを,引用発明の前記「停止位置」を中心(ピーク)とする所定の深さ方向の幅とすると,前記「停止位置」から浅い側に10ミクロン,前記「停止位置」から深い側に10ミクロンの幅を有すると考えられる。 エ そして,上記アに記載の「停止位置」を,「前記N-層2の表面から35?40μm離れた位置」のうちの「前記N-層2の表面から35」「μm離れた位置」に設定すると,局所的な再結合中心の高密度な領域は,上記ウに記載のように前記「停止位置」から浅い側に10ミクロン,前記「停止位置」から深い側に10ミクロンの幅を有し,前記N-層の表面から25?45μmの範囲に形成されるから,本願補正発明の「前記ウェハ中にヘリウムを,陽極表面から10から30ミクロンまでの深さに注入する」ことと,数値範囲が重なる。 オ また,たとえ,引用発明の数値範囲が本願補正発明の数値範囲に重ならないとしても,その数値の差はわずかなものである。そして,引用発明も本願補正発明も,解決しようとする課題と課題解決手段は基本的に共通するものであるところ,課題解決手段を具体的な半導体装置に適用する場合,好適な数値範囲は,半導体装置を構成する種々の条件(半導体装置を構成する各領域の形状,不純物濃度等)に依存して異なってくるから,本願補正発明のように,「ウェハ中にヘリウムを,陽極表面から10から30ミクロンまでの深さに注入する」ようにすることは当業者が適宜なし得たことである。 カ 付言すれば,本願補正発明の目的を達成できるためには,本来,P/N接合の深さや,P/N接合界面のP領域とN型シリコンウェハのそれぞれの不純物濃度等との関係でヘリウムの注入深さを定めなければ,技術的意味をなさないものであるが,本願補正発明では,これらについて規定されていない。したがって,本願補正発明の数値範囲は,これだけでは,技術的意義を有しないとも言える。 (6)以上のとおり,本願補正発明の数値範囲とすることは,当業者が容易になし得たことである。 したがって,本願補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 4 以上の次第で,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 1 以上のとおり,本件補正(平成19年6月11日に提出された手続補正書による補正)は却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,本件補正前の請求項1(平成18年11月22日に提出された手続補正書により補正された請求項1)に記載された,次のとおりのものである。 【請求項1】 「(a)薄膜シリコンウェハの最表面(top surface)に近接してP/N接合を形成するステップと, (b)前記P/N接合の底部より下で且つ前記P/N接合の底部に近接するピーク深さに故意欠陥(intentional defects)を生成するために,前記ピーク深さまで前記ウェハ中にヘリウムを注入するステップと, (c)前記ウェハ全体に電子ビームを照射して,前記ウェハの全深さにわたって欠陥を一様に生成するステップと を備え, (d)前記ウェハには,重金属ライフタイム消滅(heavy metal lifetime killing)がないこと を特徴とする緩慢回復ダイオードを製造するための方法。」 2 引用例1の記載と引用発明については,前記第2,3,(3-1)?(3-2)において認定したとおりである。 3 対比・判断 前記第2,1〈補正事項a〉,2,(1)で検討したように,本願補正発明は,本件補正前の発明の「前記ピーク深さまで前記ウェハ中にヘリウムを注入するステップ」を,「前記ウェハ中にヘリウムを,陽極表面から10から30ミクロンまでの深さに注入するステップ」と限定したものである。逆に言えば,本件補正前の発明(本願発明)は,本願補正発明から,「陽極表面から10から30ミクロンまでの深さ」という限定をなくしたものである。 そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,これをより限定したものである本願補正発明が,前記第2,3において検討したとおり,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 結言 以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項について検討するまでもなく,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2010-05-21 |
結審通知日 | 2010-05-28 |
審決日 | 2010-06-11 |
出願番号 | 特願2002-511367(P2002-511367) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 恩田 春香 |
特許庁審判長 |
相田 義明 |
特許庁審判官 |
近藤 幸浩 市川 篤 |
発明の名称 | 高速回復ダイオードおよびその製造方法 |
復代理人 | 加藤 信之 |
復代理人 | 濱中 淳宏 |
代理人 | 阿部 和夫 |
代理人 | 谷 義一 |