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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1226030
審判番号 不服2009-16032  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-08-31 
確定日 2010-10-28 
事件の表示 特願2004- 3112「核磁気共鳴装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 7月21日出願公開、特開2005-192857〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,平成16年1月8日の出願であって,平成21年5月25日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年8月31日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がされたものである。

第2 平成21年8月31日付けの手続補正についての補正却下の決定

1 補正却下の決定の結論
平成21年8月31日付けの手続補正を却下する。

2 理由
(1)本願補正発明
本件補正は,特許請求の範囲の請求項1を,
「磁場を遮蔽するシールドルーム内に設置され,被検体に対して磁場を発生する磁場発生手段を備える核磁気共鳴装置であって,
前記磁場発生手段と前記シールドルーム内の被計測体との距離を計測する距離計測手段と,
所定の磁場強度に対応する距離を記憶する記憶手段と,
前記距離計測手段により計測された磁場発生手段と被計測体との距離及び前記記憶手段に記憶された所定の磁場強度に対応する距離に基づいて,警告を発する警告手段とを有することを特徴とする核磁気共鳴装置。」
とする補正を含むものである(下線部は補正箇所を示す。)。

上記請求項1についての補正は,補正前の請求項1を引用する請求項4に記載された「所定の磁場強度に対応する距離を記憶する記憶手段」を追加して限定する補正と,補正前の請求項1に記載された「この距離計測手段の計測結果に基づき,警告を発する警告手段」を,「距離計測手段により計測された磁場発生手段と被計測体との距離及び前記記憶手段に記憶された所定の磁場強度に対応する距離に基づいて,警告を発する警告手段」として,補正前の請求項4の記載に基づいて「警告手段」についての限定をさらに付加する補正からなる。

したがって,上記請求項1についての補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年改正前」という。)の特許法17条の2第4項2号の,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,上記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)刊行物およびその記載事項
ア 本願出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由において引用された刊行物である特開平6-98879号公報(以下,「刊行物1」という。)には,図面とともに,次の事項が記載されている(下線は当審において付記したもの)。

(ア-1)
「【0002】【従来の技術】核磁気共鳴現象を利用して,人体等の断層画像を得る核磁気共鳴イメージング装置がある。この核磁気共鳴イメージング装置には,超電導又は常電導磁石,静磁場発生手段,高周波磁場発生手段等が用いられているが,超電導又は常電導磁石は,磁性体を強力に吸引するため,これに対する種々の安全対策が施されている。」

(ア-2)
「【0003】つまり,核磁気共鳴イメージング装置を設置している病院,研究所等及び核磁気共鳴イメージング装置の製造工場等において,磁石が磁性体を吸引するにより,人的障害および機器の損傷という事故が発生する可能性がある。磁性体吸引事故の原因を列記すると次の通りである。」

(ア-3)
「【0004】(a)核磁気共鳴イメージング装置が磁石を使用しており,その強力な磁場により磁性体が,吸引されることを知らされていない者,又は,その認識が希薄な者の磁性体持込み。
(b)核磁気共鳴イメージング装置が磁石を使用しており,磁性体吸引に対する危険性を十分承知しているが,持込んだ物体が磁性体を含んでいないと思っている者の磁性体持込み。
(c)核磁気共鳴イメージング装置が磁石を使用しており,磁性体吸引に対する危険性を十分承知しているが,患者の健康維持,診療,設備保全等,やむを得ず磁性体を持ち込み,吸引限界が不明なため,磁石への磁性体の接近し過ぎ。
そして,これらを防止するための対策は,次の通りである。
(1)金属探知器の設備化。
(2)備品への磁性体有無シールの貼付。
(3)ポスター,安全手帳,取扱い説明による危険表示や指導。
(4)磁性体吸引限界ゾーン(色区分)の室内表示。」

(ア-4)
「【0005】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記従来の磁性体吸引防止対策は,次の問題点を有する。
(1)金属探知器による防止対策は,上記(b)に有効ではない。つまり,金属探知器で検知されても,検知された物体が磁性体であるにも拘らず,非磁性体であると,誤認識していれば,金属探知器による防止対策は,無効となってしまう。さらに,金属探知器は,非磁性体でも金属であれば探知するため,核磁気共鳴イメージング装置のための,オーステナイト系ステンレス製診療器具,銅ベリリウム製工具,アルミニウム製備品等をも検知してしまい,非磁性体であり,有効な器具等の持込みの妨害となる。
(2)磁性体の有無の区別シールの備品への貼付は,上記(c)には有効でない。
(3)ポスター,安全手帳,取扱い説明による危険表示,指導は実施されているが,これだけでは,吸引事故の防止対策としては,不充分である。
(4)磁性体吸引限界ゾーン(色区分)の室内表示は,上記(c)には,極めて有効であるが,上記(a)及び(b)には有効ではない。」

以上の記載事項(ア-1)?(ア-4)を総合すると,刊行物1には従来技術として次の発明が記載されているものと認められる。

「病院や研究所に設置された核磁気共鳴イメージング装置であり,核磁気共鳴イメージング装置への磁性体の持ち込みや,核磁気共鳴イメージング装置の磁石へ磁性体が接近し過ぎることを防止するために,磁性体吸引限界ゾーンの室内表示が施された核磁気共鳴イメージング装置」(以下,「刊行物1発明」という。)

(3)当審の判断
ア 対比・判断
本願補正発明と刊行物1発明を対比する。
(ア)刊行物1発明の「核磁気共鳴イメージング装置」は,その動作原理から被検体に対して磁場を発生する磁場発生手段を備えることは明らかである。また,本願明細書の【0002】,【0017】の記載から,本願補正発明の「核磁気共鳴装置」は,画像化,すなわちイメージングを行うものである。
よって,刊行物1発明の「核磁気共鳴イメージング装置」は,本願補正発明の「被検体に対して磁場を発生する磁場発生手段を備える核磁気共鳴装置」に相当する。

(イ)刊行物1発明の「磁性体吸引限界ゾーン」について,刊行物1には具体的な定義はされていないが,記載事項(ア-1)?(ア-4)から,核磁気共鳴イメージング装置の磁石によって磁性体の吸引が生じる限界に関する領域であると理解することができる。そして,磁性体の吸引は磁石が形成する磁場によること,磁場の強度は磁石からの距離に依存すること,磁性体の吸引が生じる限界において,磁場強度は特定の値になることは技術常識といえ,例えば,特開平1-218440号公報の特許請求の範囲,第1頁右欄8-19行,第2頁右上欄12行-左下欄7行,第2頁右下欄7-9行には,核磁気共鳴イメージング装置において,磁石に磁性体が吸引される力は磁性体の場所の磁界強度などに関係すること,磁性体であるストレッチャーが静磁場発生装置(ガントリー)に吸引される位置が約100ガウスの位置であること,この位置がガントリー中心より約0.9mであること,上記の位置をストレッチャーがガントリーへ吸引される限界位置として,この位置にストレッチャーの接近を防止する妨害部材を設けることについて記載されている。そうすると,刊行物1発明の「磁性体吸引限界ゾーン」は,核磁気共鳴イメージング装置の磁石が形成する特定の磁場強度に対応した距離に形成されるものといえる。
また,刊行物1発明の「室内表示」は「核磁気共鳴イメージング装置への磁性体の持ち込みや,核磁気共鳴イメージング装置の磁石へ磁性体が接近し過ぎることを防止するため」のものであり,「持ち込み」や「接近」を「防止」するための「表示」とは,すなわち「持ち込み」や「接近」を行わないように「警告」するためのものといえる。
よって刊行物1発明の「核磁気共鳴イメージング装置への磁性体の持ち込みや,核磁気共鳴イメージング装置の磁石へ磁性体が接近し過ぎることを防止するため」施された「磁性体吸引限界ゾーンの室内表示」は,核磁気共鳴イメージング装置の磁石が形成する特定の磁場強度に対応した距離に基づく警告手段であるといえる。
さらに,刊行物1発明の「磁石」が,本願補正発明の「磁場発生手段」に相当するのは明らかである。

したがって,刊行物1発明の「核磁気共鳴イメージング装置への磁性体の持ち込みや,核磁気共鳴イメージング装置の磁石へ磁性体が接近し過ぎることを防止するため」施された「磁性体吸引限界ゾーンの室内表示」と,本願補正発明の「距離計測手段により計測された磁場発生手段と被計測体との距離及び前記記憶手段に記憶された所定の磁場強度に対応する距離に基づいて,警告を発する警告手段」とは,「所定の磁場強度に対応する距離に基づ」く「警告手段」である点で共通する。

以上より,刊行物1発明と本願補正発明とは,
「被検体に対して磁場を発生する磁場発生手段を備える核磁気共鳴装置であり,所定の磁場強度に対応する距離に基づく警告手段を備えた核磁気共鳴装置」
である点において一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
本願補正発明の「核磁気共鳴装置」は,「磁場を遮蔽するシールドルーム内に設置され」るのに対して,刊行物1発明の「核磁気共鳴イメージング装置」は,その設置形態が特定がされていない点。

(相違点2)
本願補正発明の「核磁気共鳴装置」は,「磁場発生手段と前記シールドルーム内の被計測体との距離を計測する距離計測手段」と「所定の磁場強度に対応する距離を記憶する記憶手段」を備えるのに対して,刊行物1発明の「核磁気共鳴イメージング装置」は,このような手段を備えていない点。

(相違点3)
本願補正発明の「警告手段」は,「距離計測手段により計測された磁場発生手段と被計測体との距離及び前記記憶手段に記憶された所定の磁場強度に対応する距離に基づいて,警告を発する」ものであるのに対して,刊行物1発明の「警告手段」は,「磁性体吸引限界ゾーンの室内表示」である点。

以下,上記相違点について検討する。

(相違点1)
核磁気共鳴装置をシールドルーム内に設置することは,本願出願前における周知技術であり,例えば,特開2003-325470号公報の【0005】,【0027】に,核磁気共鳴イメージング装置が設置された手術室40の周囲を電磁シールドルームとすることが記載され,特開2000-232298号公報の【0006】に,シールドルーム500にMRI装置100を設置することが記載されているとおりである。
ここで,シールドルームの機能からして,これが核磁気共鳴装置から生じる磁場を遮蔽するためのものであるのは明らかである。そして,刊行物1発明の核磁気共鳴イメージング装置は病院や研究所に設置されるものであり,核磁気共鳴イメージング装置から生じる磁場の遮蔽は当然に要請されるといえる。
さらに,上記特開2003-325470号公報の【0005】,【0006】,【0007】,【0027】には,周囲が電磁シールドルームである手術室の内部において,核磁気共鳴イメージング装置の周囲に発生した漏洩磁場100aにより,磁性材料が吸引されたり,周辺機器が誤作動することを防止するために,特定の強度となる漏洩磁場100aの領域に術野104が入らないようにガントリ100を退避させることについて記載されている。このように,シールドルーム内における装置の漏洩磁場に着目して,シールドルーム内において,装置に対して磁性材料の接近を防止する領域を設定することも,通常要請されることといえる。

よって,「磁性体吸引限界ゾーンの室内表示」が施された刊行物1発明を,シールドルーム内に設置するよう想到することは,当業者が容易になし得ることといえる。

(相違点2及び相違点3)
相違点2及び相違点3は関連するものであるので,まとめて検討する。
刊行物1発明の「室内表示」が,「所定の磁場強度に対応する距離に基づく警告手段」であるのは,上記「(3)ア(イ)」で述べたとおりである。
このように,人間が過度に接近すると危険な物に対して,所定の危険度となる距離に基づいて警告手段を設置することは,安全の観点から当然に考慮されることである。
そして,このような警告のための具体的手段として,危険物と人間との距離を計測する手段と,特定の危険度に対応する距離を記憶する記憶手段と,計測された距離と特定の危険度に対応する距離とに基づいて警告を発する警告手段を用いることは,以下に例を示すとおり,本願出願前のさまざまな技術分野における周知技術である。
例えば,特開平6-21708号公報の【請求項1】,【0002】,【0008】,【0015】,【0019】,【0021】,【0023】,【0024】には,無線通信装置において,無線通信装置のアンテナが電波を発している状態で,人間が知らずにアンテナに接近して有害な電波を受けることを防止するために,アンテナ11と人間などの物体との距離を検出し,検出された距離と,中央演算装置23が有している閾値とを比較して,距離が特定の値となる場合に注意音や警告音を発する手段を備えることについて記載されている。ここで,中央演算装置23は閾値を有するものであることから,閾値を記憶するための手段を備えているのは明らかであり,閾値は所定の電波強度に対応する距離であるといえる。
また,特開2003-63766号公報の【請求項1】,【0001】,【0016】,【0022】,【0025】,【0026】,【0033】には,エスカレータ利用者がエスカレータのインレット部へ異常接近することを警報するための接近警報装置において,接近警報装置が,インレット部6と検知対象物8との距離を検出する距離センサ11と,検知対象物の接近を禁止するための許容距離限界値を格納する設定データ記憶部13と,距離センサ11により検出された距離が許容距離限界値データ以下となった場合に異常接近状態と判断し,これを一つの条件として危険である旨のメッセージを出力する手段を備えることについて記載されている。

よって,刊行物1発明の,所定の磁場強度に対応する距離に基づく警告手段である「磁性体吸引限界ゾーンの室内表示」に代えて,上記周知技術である,危険物と人間との距離を計測する手段と,特定の危険度に対応する距離を記憶する記憶手段と,計測された距離と特定の危険度に対応する距離とに基づいて警告を発する警告手段を採用し,相違点2及び3における本願補正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。

イ 本願補正発明の効果について
本願補正発明の有する,「磁性体を所持したまま磁場発生源に近づくような事態になっても,磁場発生源の影響を受ける前に警告を行うことでその人に注意を促し,未然に事故を防止することができる」という効果は,刊行物1の記載事項及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものであり,格別顕著なものとはいえない。

したがって,本願補正発明は,刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明は特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)小括
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について

平成21年8月31日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので,本願の請求項1ないし請求項4に係る発明は,平成20年12月22日付けの手続補正の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ,その請求項1に係る発明は以下のとおりのものである。

「磁場を遮蔽するシールドルーム内に設置され,被検体に対して磁場を発生する磁場発生手段を備える核磁気共鳴装置であって,
前記磁場発生手段と前記シールドルーム内の被計測体との距離を計測する距離計測手段と,
この距離計測手段の計測結果に基づき,警告を発する警告手段とを有することを特徴とする核磁気共鳴装置。」(以下,「本願発明」という。)

1 刊行物およびその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1の記載事項は,前記「第2 2(2)」に記載したとおりである。

2 対比・判断
本願発明は,前記「第2 2」で検討した本願補正発明から,「所定の磁場強度に対応する距離を記憶する記憶手段と,前記距離計測手段により計測された磁場発生手段と被計測体との距離及び前記記憶手段に記憶された所定の磁場強度に対応する距離に基づいて,警告を発する警告手段」との事項を省くものである。

そうすると,本願発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加し限定したたものに相当する本願補正発明が,前記「第2 2(3)」にて述べたとおり,刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 むすび
以上のとおり,本願発明は,刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-08-27 
結審通知日 2010-08-31 
審決日 2010-09-14 
出願番号 特願2004-3112(P2004-3112)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 575- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷垣 圭二大▲瀬▼ 裕久  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 横井 亜矢子
後藤 時男
発明の名称 核磁気共鳴装置  
代理人 堀口 浩  
代理人 堀口 浩  

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