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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H02K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02K
管理番号 1226338
審判番号 不服2009-10297  
総通号数 132 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2010-12-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-05-25 
確定日 2010-11-04 
事件の表示 特願2004-522041「電気機械用液体冷却装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 1月29日国際公開、WO2004/010559、平成18年 1月19日国内公表、特表2006-502685〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2003年5月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年7月18日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年2月16日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成21年2月24日)、これに対し、平成21年5月25日に拒絶査定不服審判請求がなされると共に、平成21年6月24日付で手続補正がなされたものである。


2.平成21年6月24日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年6月24日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由I]
(1)補正の適否
本件補正前の平成20年12月22日付手続補正書に記載された特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
電気機械のステータ用冷却装置であって、
チャネルが形成されるとともに、略閉じたC字形状横断面を有する熱蓄積要素と、
前記熱蓄積要素の前記チャネルに挿入可能に形状構成され且つ寸法づけられた冷却管と、を備え、
a)前記冷却管は、一旦、前記チャネルに挿入されると、前記チャネルの前記閉じたC字形状横断面に合致するように変形され、及び
b)前記熱蓄積要素に蓄積された熱は前記冷却管によって除去可能である電機機械のステータ用冷却装置。
【請求項2】
前記冷却管中の冷却流体の循環によって前記熱蓄積要素に蓄積された熱の除去が行われる、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記冷却管は略円筒形状横断面を有する、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記冷却管は、蛇行部を形成するように折り重ねられる、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項5】
前記熱蓄積要素は電気機械の前記ステータの積層物から構成される、請求項1に記載の冷却管。
【請求項6】
前記ステータの前記積層物は、略環形状をしており、かつ前記チャネルは前記積層物の内面に形成される、請求項5に記載の冷却管。
【請求項7】
前記チャネルは、前記略環形状の前記ステータの長手方向軸線に略平行である、請求項6に記載の冷却管。
【請求項8】
前記冷却管は蛇行部を形成するように折り畳まれ、かつ前記熱蓄積冷却要素の前記チャネルに挿入された時に、前記冷却管が、該冷却管と前記熱蓄積要素との間の接触面を最大限にすべく、前記熱蓄積要素上に折り重ねられた、突出した丸みのある部分を呈する、請求項7に記載の冷却装置。
【請求項9】
前記チャネルは、前記略環形状の前記ステータの長手方向軸線に略直角である、請求項6に記載の冷却装置。
【請求項10】
前記チャネル及び前記冷却管は、前記冷却管が前記チャネルに挿入されて変形した場合、前記冷却管が前記ステータの内面と略面一であるように寸法づけられる、請求項6に記載の冷却装置。
【請求項11】
前記チャネル及び前記冷却管は、前記冷却管が前記チャネルに挿入されて変形した場合、前記冷却管が前記ステータの内面に対して凹面を呈するように寸法づけられる、請求項6に記載の冷却装置。
【請求項12】
前記熱蓄積要素は、熱蓄積材料で作られ、かつ前記電気機械の中空円筒状ステータの内径よりも僅かに小さい外径を有する略中空円筒状形状を有する、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項13】
前記熱蓄積材料はアルミニウムを含有する、請求項12に記載の冷却装置。
【請求項14】
前記チャネルは、前記熱蓄積材料の前記外面に形成される、請求項12に記載の冷却装置。
【請求項15】
前記チャネル及び前記冷却管は、前記冷却管が前記チャネルに挿入されて変形した場合、前記冷却管が前記ステータの内面と略面一であるように寸法づけられ、前記熱蓄積要素が前記電気機械の前記ステータに挿入された場合、前記冷却管が前記熱蓄積要素と、前記電気機械の前記ステータの内面と、の両方と接触する、請求項14に記載の冷却装置。
【請求項16】
電気機械であって、
略中空の円筒状ステータと、
前記ステータに回転可能に取り付けられたロータと、
冷却装置であって、
閉じたC字形状横断面を有するチャネルが形成された熱蓄積要素であって、前記熱蓄積要素は前記中空円筒状ステータに挿入されて熱を該中空円筒状ステータから除去する、前記熱蓄積要素と、
前記熱蓄積要素の前記チャネルに挿入可能に形状構成され且つ寸法づけられた冷却管と、を具備する前記冷却装置と、を備え、
a)前記冷却管は、一旦、前記チャネルに挿入されると、前記チャネルの前記閉じたC字形状横断面に合致するように変形し、及び
b)前記熱蓄積要素に蓄積された熱は前記冷却管によって除去可能である電気機械。
【請求項17】
前記熱蓄積要素に蓄積された熱の除去は、前記冷却管内の冷却流体の循環によって行われる、請求項16に記載の電気機械。
【請求項18】
前記熱蓄積要素は、前記ステータの積層物から構成され、前記チャネルは、該ステータの内面に形成される、請求項16に記載の電気機械。
【請求項19】
前記熱蓄積要素は、熱蓄積材料で作られ、かつ前記中空円筒状ステータの内径より僅かに小さい外径を有する略円筒形状をしている、請求項16に記載の電気機械。」

これに対し、本件補正により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】
電気機械のステータ用の冷却装置であって、
チャネルが形成されるとともに、略閉じたC字形状横断面を有する熱蓄積要素と、
前記熱蓄積要素の前記チャネルに挿入可能に形状構成され且つ寸法づけられた冷却管と、を備え
a)前記冷却管は、一旦、前記チャネルに挿入されると、前記チャネルの前記閉じたC字形状横断面に合致するように変形され、及び
b)前記熱蓄積要素に蓄積された熱は前記冷却管によって除去可能であり、
さらに、前記冷却管は蛇行部を形成するように折り畳まれ、かつ前記熱蓄積要素(「熱蓄積冷却要素」は誤記と認める。)の前記チャネルに挿入された時に、前記冷却管が、該冷却管と前記熱蓄積要素との間の接触面を最大限にすべく、前記熱蓄積要素上に折り重ねられた、突出した丸みのある部分を呈する電機機械のステータ用の冷却装置。
【請求項2】
前記冷却管中の冷却流体の循環によって前記熱蓄積要素に蓄積された熱の除去が行われる、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項3】
前記冷却管は略円筒形状横断面を有する、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項4】
前記冷却管は、蛇行部を形成するように折り重ねられる、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項5】
前記熱蓄積要素は電気機械の前記ステータの積層物から構成される、請求項1に記載の冷却装置(「冷却管」は誤記と認める。)。
【請求項6】
前記ステータの前記積層物は、略環形状をしており、かつ前記チャネルは前記積層物の
内面に形成される、請求項5に記載の冷却装置(「冷却管」は誤記と認める。)。
【請求項7】
前記チャネルは、前記略環形状の前記ステータの長手方向軸線に略平行である、請求項6に記載の冷却装置(「冷却管」は誤記と認める。)。
【請求項8】
前記チャネルは、前記略環形状の前記ステータの長手方向軸線に略直角である、請求項6に記載の冷却装置。
【請求項9】
前記チャネル及び前記冷却管は、前記冷却管が前記チャネルに挿入されて変形した場合、前記冷却管が前記ステータの内面と略面一であるように寸法づけられる、請求項6に記載の冷却装置。
【請求項10】
前記チャネル及び前記冷却管は、前記冷却管が前記チャネルに挿入されて変形した場合、前記冷却管が前記ステータの内面に対して凹面を呈するように寸法づけられる、請求項6に記載の冷却装置。
【請求項11】
前記熱蓄積要素は、熱蓄積材料で作られ、かつ前記電気機械の中空円筒状ステータの内径よりも僅かに小さい外径を有する略中空円筒状形状を有する、請求項1に記載の冷却装置。
【請求項12】
前記熱蓄積材料はアルミニウムを含有する、請求項11に記載の冷却装置。
【請求項13】
前記チャネルは、前記熱蓄積材料の前記外面に形成される、請求項11に記載の冷却装置。
【請求項14】
前記チャネル及び前記冷却管は、前記冷却管が前記チャネルに挿入されて変形した場合、前記冷却管が前記ステータの内面と略面一であるように寸法づけられ、前記熱蓄積要素が前記電気機械の前記ステータに挿入された場合、前記冷却管が前記熱蓄積要素と、前記電気機械の前記ステータの内面と、の両方と接触する、請求項13に記載の冷却装置。
【請求項15】
電気機械であって、
略中空の円筒状ステータと、
前記ステータに回転可能に取り付けられたロータと、
請求項1ないし14の何れか一項に記載の冷却装置と、
を備えてなる電気機械。」

そこで、本件補正が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の各号に掲げる事項を目的とするものに該当するかについて検討する。

電気機械の発明に関する請求項について検討すると、本件補正前の請求項16に係る電気機械が備える冷却装置は、同請求項1に係る冷却装置に、同請求項17に係る電気機械が備える冷却装置は、同請求項2に係る冷却装置に、同請求項18に係る電気機械が備える冷却装置は、同請求項5及び6に係る冷却装置に、同請求項19に係る電気機械が備える冷却装置は、同請求項12に係る冷却装置に、それぞれ対応するものであったが、本件補正後の請求項15に係る電気機械が備える冷却装置には、「請求項1ないし14の何れか一項に記載の冷却装置」とされているところから、本件補正後の請求項1、請求項2、請求項5、請求項6、請求項11(本件補正前の請求項12に対応)に係る冷却装置の他に、新たに、本件補正後の請求項3、請求項4、請求項7ないし10、請求項12ないし14に係る冷却装置が含まれることとなった。
平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項2号の「特許請求の範囲の減縮」は、補正前の請求項と補正後の請求項との対応関係が明白であって、かつ、補正後の請求項が補正前の請求項を限定した関係になっていることが明確であることが要請され、補正前の請求項と補正後の請求項とは、一対一又はこれに準ずるような対応関係に立つものでなければならない。
本件補正後の請求項15は、電気機械が備える冷却装置の対象が本件補正前のそれよりも増加されているから、本件補正後の請求項15の記載により特定される電気機械の発明は、本件補正前の請求項16ないし19の記載により特定される電気機械の発明よりも限定されたものとはなっていないので、同号にいう「特許請求の範囲の減縮」には該当しない。
したがって、本件補正後の請求項15についての補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正とは認められない。
また、本件補正後の請求項15についての補正が、請求項の削除、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的としたものでないことも明らかである。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


[理由II]
上記のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないが、仮に本件補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された実願昭55-130452号(実開昭57-52762号)のマイクロフィルム(以下、「引用例1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

1-a「この考案は回転電機の固定子とくにその冷却に関するものである。」(明細書第1頁16?17行)

1-b「第3図および第4図において、(7)は固定子鉄心(5)の外周に軸方向に沿つて形成された長溝、(8)はこの長溝(7)内に嵌着された筒状成形金属管、例えばパイプでその両端部は固定子鉄心(5)の軸方向長さより長く突出して設けられており、周方向の接続パイプ(9)(9a)で両端を千鳥状に交互に接続して連続したパイプに形成されている。(10)はフレームである。
以上のように固定子鉄心(5)の外周に軸方向の長溝(7)を周方向に沿つて複数箇所形成し、この長溝(7)に両端を交互に接続パイプ(9)(9a)で接続したパイプ(8)を嵌着して蛇行状の冷却水路を形成する。
上記のように構成された固定子鉄心(5)をフレーム(10)内に挿着し、パイプ(8)の一方の開口部から冷却水を注入し、他の一方の開口部から排水することにより固定子鉄心(5)およびフレーム(10)を冷却して回転電機の温度上昇を防止する。」(明細書第3頁2?19行)

1-c「以上のようにこの考案によれば、固定子鉄心の外周に複数の長溝を形成し、連続した冷却パイプを装着して冷却水路を構成したので冷却効率が向上できる効果がある。」(明細書第4頁4?7行)

第3図には、長溝(7)が形成されるとともに、略U字形状横断面を有する固定子鉄心(5)が示されている。

上記記載事項からみて、引用例1には、
「回転電機の固定子を冷却する装置であって、
長溝(7)が形成されるとともに、略U字形状横断面を有する固定子鉄心(5)と、
前記固定子鉄心(5)の前記長溝(7)に嵌着された冷却パイプと、を備え
a)前記冷却パイプは、前記長溝(7)に嵌着された後に、固定子鉄心(5)がフレーム(10)内に挿着され、及び
b)前記固定子鉄心(5)を前記冷却パイプによって冷却し、
さらに、前記冷却パイプは蛇行状に形成され、かつ前記固定子鉄心(5)の前記長溝(7)に嵌着された時に、前記冷却パイプが、前記固定子鉄心(5)の両端から突出した接続パイプ(9)(9a)を有する回転電機の固定子を冷却する装置。」
との発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平6-70507号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

2-a「(実施例1)本発明の液冷型回転電機の一実施例を図1及び図2に基づいて説明する。この液冷型回転電機は、フロントハウジング1とリヤハウジング2とが締結されて、本発明でいうハウジングを構成しており、フロントハウジング1とリヤハウジング2に回転自在に支持される回転軸3には不図示のローターコイルが巻装されたロータコア4が固定されている。一方、フロントハウジング1の内周面にはステーアコイル5が巻装されたステータコア6が固定されており、ステータコア6の内周面は微小な空隙Gを介してロータコア4の外周面に対面している。
フロントハウジング1はアルミ鋳物からなり、フロントハウジング1の外周面には、ステータコア6に背向する位置に螺旋状のリブ11が突設されている。リブ11の高さは約13mm、幅は頂部で約7mm、高さ方向中央部で約5mm、底部で約3mm、ピッチは約21mmとなっている。リブ11の間の螺旋溝13にはアルミニウムを素材とする冷却管7が圧入されており、冷却管7の両端にはスリーブ状の口金71、72が嵌着され、ろう付けされており、口金71、72の耳部71a、72aがフロントハウジング1にボルトで締結されている。
なお、螺旋溝13は断面が略楕円形で、開口部より内部が幅広となっており、冷却管7は内部で変形されて螺旋溝13の表面にシリコンコンパウンド層8を介して密着している。したがってシリコンコンパウンド層8の有無にかかわらず、冷却管7が溝13に変形、密着されているので、冷却管7が振動などによりこの螺旋溝13から外れたりすることが防止される。
この冷却管7の巻装は以下のように行う。まず、螺旋溝13の開口部より小さい外径をもつ真円断面の冷却管7を準備し、次に、螺旋溝13の表面に熱硬化性のシリコンコンパウンド(製品名TSE3380、東芝シリコーンkk製)を塗布し、次にこの冷却管7を治具を用いて螺旋溝13の内部に押し込む。露出表面は、治具の形状に対応した平坦状になっている。なお、パイプの押し込み過ぎを防ぐために、所定の曲率半径のRがつけられている。次に、加熱してシリコンコンパウンドを硬化させる。」(【0011】-【0014】)

2-b「(実施例2)他の実施例を図3に示す。
この実施例では、フロントハウジング1の内周面に螺旋溝13aを凹設し、この螺旋溝13a内に、実施例1と同様に冷却管7を圧入、固定したものである。この実施例によれば、ステータコア6の熱は冷却管7に直接伝熱可能になるので、放熱性が一層向上する。もちろん、実施例1、2を一緒に実施することもでき、この場合には一層の冷却性を奏することができる。」(【0017】-【0018】)

図3及び上記記載に基づけば、略閉じたC字形状横断面を有する螺旋溝13aに圧入された冷却管7が、前記螺旋溝13aの前記閉じたC字形状横断面に合致するように変形される構成が示されている。

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開2002-58182号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。

3-a「本発明は、排熱を放出するための冷却装置と、冷媒で充填される冷却管路のための穿設部を有するステータシートスタックを備えたステータとを有し、冷却管路が、少なくとも1つの転向要素によって結合されている電気機械に関するものである。」(【0001】)

3-b「【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、冷却装置を備えた電気機械において、軸線方向の構造長さを可能な限り短くすることである。
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解決するため、ステータシートスタックが層状に配置された積層シートを有し、冷却管路のための穿設部に関し少なくとも2種類の積層シートがステータシートスタック内に含まれており、転向要素が、ほぼ半径方向に延びる複数個の部分と、ほぼ周方向に延びる複数個の部分とを備え、周方向に延びる部分がステータシートスタックに対し半径方向に形成されていることを特徴とするものである。」
(【0007】-【0008】)

3-c「転向要素の製造に対しては、転向要素を多分割に構成し、すなわち、少なくとも1つのチャネル部分と、少なくとも1つの閉鎖部分から構成し、閉鎖部分がチャネル部分を密閉しているのが好ましい。
特に簡潔な構成では、閉鎖部分はプラスチックから成り、たとえばプレス嵌めを有し、チャネル部分に簡単に圧入させることができる。転向要素のチャネル部分が、これと流動結合するようにステータシートスタック内に延在している冷却管路と一体に形成されていれば、特に有利である。これにより冷却装置の部品数を著しく低減でき、低コストな製造を可能にする。
チャネル部分が、これと流動結合するようにステータシートスタック内に延在している冷却管路とともに鋳造部品または注入部品として構成されているのが特に有利である。この場合、鋳造材料または射出成形等の注入材料はステータシートスタックの輪郭に特に密に接触することができるので、電気機械作動時の、冷却装置による特に効果的な放熱が生じる。」(【0013】-【0015】)

3-d「次に、添付の図面を用いて本発明の実施形態を詳細に説明する。 図1はロータ外設型電気機械1の概略図で、本発明を一般的に理解するための図である。この種の電気機械(たとえば永久磁石で制御される同期機械として構成されている)は、定置部分2(ステータまたは固定子と呼ばれる)と、回転部分3(ロータまたは回転子と呼ばれる)を有している。ロータ3は積層状のシートスタック4を有し、シートスタック4はその内周面に多数の永久磁石5を有している。ステータ2は他の積層状のシートスタック6を有し、このシートスタック6は半径方向において外側に複数の巻回歯7を担持している。・・略・・さらに、電気機械は冷却装置10を備えている。冷却装置10は、電気機械の作動時に発生する損失熱を冷却液に放出し、冷却液は冷媒ポンプ11により熱交換器12へ搬送されて、そこで冷却装置10から取り出される。
以下では、ステータ2に設けた本発明による冷却装置の構成を詳細に説明する。通常ステータのシートスタック6は、互いに結合された多数の同一の積層シートからなっているが、本発明はこれとは異なり、ステータシートスタック6は同一でない多数の積層シートから形成されている。図2のaは第1の積層シート13を示しており、図2のbは第2の積層シート14を示している。これら積層シートは図示していない冷却管路用の穿設部38または39を有しているが、これら穿設部38または39の構成は異なっている。第1の積層シート13は、部分円D上において周方向に配分されている円形の穿設部を有している。第2の積層シート14は、半径方向内側へ指向する穿設部38を有し、これら穿設部38は第1の積層シート13に対し同一の部分円D上に配置されており、周方向におけるその配分状態は第1の積層シート13の配分状態に対応している。」(【0021】-【0022】)

3-e「ステータシートスタック6を形成させるため、まず積層シート13のスタックと積層シート14のスタックを、それらの穿設部38と39および穴15が互いに覆いあうように積層する。次に、両スタックを、図2のcに示すように、再度それらの穿設部38と39および穴15が互いに覆いあうように統合する。その結果、ステータシートスタック6の端面16に、軸線方向にて内側且つ半径方向にて外側に延びる凹部17が生じ、その数量は穿設部38または39の数量に等しい。端面16とは逆の側の端面19にも別の凹部17が生じるように積層シート13と14を積層してもよい。凹部17に境を接するように、軸線方向に筒状の穴37が延在している。これらの筒状の穴37は冷却管路18を有している。
ステータシートスタック6の凹部17は、冷却装置10の転向要素を有している。図3のaは、U字状に折り曲げられた管状の転向要素20の第1実施形態を図示したものである。この転向要素20は、2つの脚部21と中央部分22とを有している。転向要素20はたとえば金属材料またはプラスチックから成っている。
図3のbは、外設ロータのステータシートスタック6における転向要素20の配置態様を図示したものである。脚部21はほぼ半径方向内側へ延びており、中央部分22はほぼ周方向に延びている。図示した実施形態では、中央部分22はステータシートスタック6に対し半径方向内側に配置されている。図示した外設ロータの場合、ステータ内部空間23が電気機械の機能要素から自由であるため(図1をも参照)、このような取り付け位置は特に有利である。さらに、図3のcからわかるように、転向要素20はステータシートスタック6の軸線方向においてその内側にも形成されている。
これに対して、内設ロータの構造原理による図示していない電気機械の場合、脚部21を半径方向外側へ向けて配置し、中央部分22を半径方向外側でステータシートスタック6に対し位置決めするのが有利である。」(【0023】-【0026】)

図3のc及び上記記載に基づけば、冷却管路18の転向要素20をステータシートスタック6上に折り重ねた構成が示されている。

(2)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを比較すると、その機能・作用からみて、引用発明の「回転電機」、「固定子を冷却する装置」、「長溝(7)」、「固定子鉄心(5)」、「長溝(7)に嵌着された冷却パイプ」は、本願補正発明の「電気機械」、「ステータ用の冷却装置」、「チャネル」、「熱蓄積要素」、「チャネルに挿入可能に形状構成され且つ寸法づけられた冷却管」に、それぞれ相当している。
引用発明の「U字形状横断面」と本願補正発明の「閉じたC字形状横断面」とは、「特定文字形状横断面」との概念で共通している。

引用発明の「冷却パイプは、長溝(7)に嵌着された後に、固定子鉄心(5)がフレーム(10)内に挿着され」る態様は、冷却パイプがフレーム(10)により押圧されて長溝(7)のU字形状横断面内で変形し得るものと解されるから、これと本願補正発明の「冷却管は、一旦、チャネルに挿入されると、前記チャネルの閉じたC字形状横断面に合致するように変形され」る態様とは、「冷却管は、一旦、チャネルに挿入されると、前記チャネルの特定文字形状横断面内で変形され」るとの概念で共通している。

引用発明の「固定子鉄心(5)を冷却パイプによって冷却し」ている態様は、本願補正発明の「熱蓄積要素に蓄積された熱は冷却管によって除去可能であり」とする態様に、引用発明の「冷却パイプは蛇行状に形成され」た態様は、本願補正発明の「冷却管は蛇行部を形成するように折り畳まれ」た態様に、引用発明の「長溝(7)に嵌着された」態様は、本願補正発明の「チャネルに挿入された」態様に、それぞれ相当している。

引用発明の「接続パイプ(9)(9a)」は本願補正発明の「丸みのある部分」に相当するから、引用発明の「冷却パイプが、固定子鉄心(5)の両端から突出した接続パイプ(9)(9a)を有する」態様と本願補正発明の「冷却管が、該冷却管と熱蓄積要素との間の接触面を最大限にすべく、前記熱蓄積要素上に折り重ねられた、突出した丸みのある部分を呈する」態様とは、「冷却管が、熱蓄積要素上に突出した丸みのある部分を呈する」との概念で共通している。

したがって、両者は、
「電気機械のステータ用の冷却装置であって、
チャネルが形成されるとともに、略特定文字形状横断面を有する熱蓄積要素と、
前記熱蓄積要素の前記チャネルに挿入可能に形状構成され且つ寸法づけられた冷却管と、を備え
a)前記冷却管は、一旦、前記チャネルに挿入されると、前記チャネルの前記特定文字形状横断面内で変形され、及び
b)前記熱蓄積要素に蓄積された熱は前記冷却管によって除去可能であり、
さらに、前記冷却管は蛇行部を形成するように折り畳まれ、かつ前記熱蓄積要素の前記チャネルに挿入された時に、前記冷却管が、前記熱蓄積要素上に突出した丸みのある部分を呈する電機機械のステータ用の冷却装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〔相違点1〕
「特定文字形状横断面」に関し、本願補正発明は、「閉じたC字形状横断面」であるのに対し、引用発明は、「U字形状横断面」である点。
〔相違点2〕
冷却管が「特定文字形状横断面内で」変形される態様に関し、本願補正発明は、「閉じたC字形状横断面に合致するように」変形されるとしているのに対し、引用発明は、かかる特定がなされていない点。
〔相違点3〕
冷却管の「熱蓄積要素上に」突出した丸みのある部分に関し、本願補正発明は、「冷却管と熱蓄積要素との間の接触面を最大限にすべく、前記熱蓄積要素上に折り重ねられた」構成としているのに対し、引用発明は、かかる構成を備えていない点。

(3)判断
〔相違点1〕、〔相違点2〕について
引用例2にも示されているように、冷却管がチャネル(「螺旋溝13a」が相当)の閉じたC字形状横断面に合致するように変形される構成は、電機機械の冷却装置(「液冷型回転電機」が相当)の分野における周知の構成である。
そうすると、引用発明において、熱蓄積要素のチャネルと冷却管との関連構成に上記周知の構成を適用して、相違点1及び2に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に考えられるものと認められる。

〔相違点3〕について
本願補正発明において、「冷却管が、該冷却管と熱蓄積要素との間の接触面を最大限にすべく、前記熱蓄積要素上に折り重ねられた」とは、本願明細書【0019】の「冷却管22の丸みのある部分を・・・折り重ね可能にし、これにより、冷却管22とステータ12との間の接触面を増大させる」との記載に対応するものと解される。
ところで、例えば、引用例3にも開示されているように、冷却管(「冷却管路」が相当)の突出した部分(「転向要素」が相当)を熱蓄積要素(「ステータシートスタック」が相当)上に折り重ねることで、軸線方向の構造長さを短くしてコンパクト化を図り、かつ、該突出した部分を該熱蓄積要素に密に接触させることで効果的な放熱を図ることは、冷却装置を備えた電気機械の分野における周知技術である。
引用発明において、コンパクト化及び効果的な放熱は、当然に要求されるべき課題であるといえるから、かかる課題の下に、熱蓄積要素上に突出した冷却管の丸みのある部分に対し前記周知技術を適用することは、当業者が適宜試みる程度の事項であり、その際、熱蓄積要素上に折り重ねられた冷却管の突出した丸みのある部分が熱蓄積要素に密に接触することで、冷却管と熱蓄積要素との間の接触面が増大することになるのは明らかである。
したがって、相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは当業者が適宜なし得ることと認められる。

そして、本願補正発明の奏する作用効果も、引用発明、前記周知の構成及び前記周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、前記周知の構成及び前記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


3.本願発明について
本件補正は、上記「2.」のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成20年12月22日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、前記のとおりのものである。

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及び、その記載事項は、前記「2.[理由II](1)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.[理由II]」で検討した本願補正発明から、実質的に、「冷却管」について「冷却管は蛇行部を形成するように折り畳まれ、かつ熱蓄積要素のチャネルに挿入された時に、前記冷却管が、該冷却管と前記熱蓄積要素との間の接触面を最大限にすべく、前記熱蓄積要素上に折り重ねられた、突出した丸みのある部分を呈する」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比した際の相違点は、前記「2.[理由II](2)」で抽出した相違点1及び2のみとなるため、前記「2.[理由II](3)」での検討を踏まえれば、本願発明は、引用発明及び前記周知の構成に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び前記周知の構成に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-06-03 
結審通知日 2010-06-08 
審決日 2010-06-21 
出願番号 特願2004-522041(P2004-522041)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H02K)
P 1 8・ 572- Z (H02K)
P 1 8・ 575- Z (H02K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 櫻田 正紀  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 大河原 裕
槙原 進
発明の名称 電気機械用液体冷却装置  
代理人 渡邊 隆  
代理人 棚井 澄雄  

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