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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G07F
管理番号 1226876
審判番号 無効2008-800138  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2008-07-31 
確定日 2010-11-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第3001591号「情報提供装置」の特許無効審判事件についてされた平成21年6月16日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成21年(行ケ)第10201号、平成21年12月18日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認めない。 特許第3001591号の請求項1?3に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
1.本件特許第3001591号の請求項1?3に係る発明についての出願(以下「本件出願」という。)は、平成1年9月30日に出願され、平成11年11月12日にそれらの発明について特許権の設定の登録がなされ、その後、平成16年6月14日に訂正審判(訂正2004-39136号)の請求がなされ、平成16年7月27日付けで「特許第3001591号に係る明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。」旨の審決がなされ、当該審決は確定した。

2.これに対し、請求人は、平成20年7月31日に特許請求の範囲の請求項1?3に記載された発明の特許について無効審判を請求し、平成21年6月16日付けで、特許を無効とする審決がなされたところ、平成21年7月27日に該審決に対する訴えが提起され、同年10月22日に訂正審判(訂正2009-390128号)が請求され、知的財産高等裁判所において、特許法第181条第2項の規定による審決の取消しの決定(平成21年(行ケ)第10201号、平成21年12月18日決定)がなされ確定した。

3.審理再開にあたり、平成22年1月5日付けで、被請求人に対し、特許法第134条の3第2項に規定する訂正を請求するための期間を指定する通知をしたが、指定された期間内に訂正の請求がされなかったため、同法同条第5項の規定により、上記訂正審判の請求書に添付された訂正明細書を援用した訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求がされたものとみなすこととなった。

4.その後、請求人より平成22年2月25日付けで弁駁書が提出され、これに対し、被請求人より平成22年6月7日付けで答弁書が提出された。

第2 本件訂正の内容
本件訂正は、特許第3001591号の明細書を、上記訂正審判請求書に添付した明細書のとおりに訂正しようとするものであって、訂正の内容は、以下の訂正事項1?22のとおりである。(下線部は、訂正箇所を示す。)

(1)訂正事項1
請求項1の「前記ホスト制御機と定期的にコンタクトして、」(訂正2004-39136号の特許審決公報(以下、これを「本件審決公報」という。)第8ページ第5行)を、
「前記ホスト制御機からの定期的なコンタクトにより、」と訂正する。

(2)訂正事項2
請求項1の「制御手段と、
を有し、」(本件審決公報第8ページ第6?7行)を、
「制御手段と、
使用度数管理機能を有する決済手段と、
を有し、」と訂正する。

(3)訂正事項3
請求項1の「情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記端末機の前記制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され、前記蓄積再生手段に蓄積された前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ」(本件審決公報第8ページ第8?11行)を、
「情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記端末機の前記制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され、前記蓄積再生手段に蓄積された前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報が前記制御信号に制御されることにより必要に応じてリフレッシュされ」と訂正する。

(4)訂正事項4
請求項1の「ることを特徴とする」(本件審決公報第8ページ第11行)を、
「、
さらに前記ホスト制御機が保有している情報の情報名を前記表示手段により表示し、前記情報選択手段が操作されたときに、前記制御手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御機に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し、該情報を前記蓄積再生手段に送り、該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生することも可能であることを特徴とする」と訂正する。

(5)訂正事項5
請求項1の「情報提供装置。」(本件審決公報第8ページ第11行)を、「個人用情報提供装置。」と訂正する。

(6)訂正事項6
請求項2の「提供される情報を記録するための情報記録媒体が挿入され、前記情報の記録後に前記情報記録媒体が排出される挿入排出口と、」(本件審決公報第8ページ第12?13行)を、
「提供される情報を記録するための複数の情報記録媒体のうちの一の情報記録媒体が挿入され、前記情報の記録後に前記一の情報記録媒体が排出される挿入排出口と、」と訂正する。

(7)訂正事項7
請求項2の「をさらに有することを特徴とする」(本件審決公報第8ページ第14行)を、
「前記複数の情報記録媒体のうちの他の情報記録媒体であるICメモリーヘの電気的な接続手段と、をさらに有し、前記挿入排出口および前記接続手段は前記端末機のケースの複数の面に設けられていることを特徴とする」と訂正する。

(8)訂正事項8
請求項2の「情報提供装置。」(本件審決公報第8ページ第14行)を、
「個人用情報提供装置。」と訂正する。

(9)訂正事項9
請求項3の「前記提供すべき情報は、前記制御信号により制御されて、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信されて、」(本件審決公報第8ページ第25?26行)を、
「前記提供すべき情報は、前記端末機の制御手段が前記制御信号により制御されることにより、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信されて、」と訂正する。

(10)訂正事項10
請求項3の「送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ」(本件審決公報第8ページ第27?28行)を、
「送信された前記提供すべき情報と対応する情報が前記制御信号に制御されることにより必要に応じてリフレッシュされ」と訂正する。

(11)訂正事項11
請求項3の「ることを特徴とする」(本件審決公報第8ページ第28行)を、
「、
前記表示手段に表示された前記蓄積情報の識別名の中から、提供を受ける情報を前記情報選択手段により選択操作し、これにより前記表示手段に表示された前記ホスト制御機の保有する情報名を選択操作したとき、前記制御手段、前記情報入力手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御機に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し、該情報を前記蓄積再生手段に送り、該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生することも可能であることを特徴とする」と訂正する。

(12)訂正事項12
発明の詳細な説明の[課題を解決するための手段]の「前記ホスト制御機と定期的にコンタクトして、」(本件審決公報第9ページ第30行)を、
「前記ホスト制御機からの定期的なコンタクトにより、」と訂正する。

(13)訂正事項13
発明の詳細な説明の[課題を解決するための手段]の「制御手段と、
を有し、」(本件審決公報第9ページ第31?32行)を、
「制御手段と、
使用度数管理機能を有する決済手段と、
を有し、」と訂正する。

(14)訂正事項14
発明の詳細な説明の[課題を解決するための手段]の「情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記端末機の前記制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され、前記蓄積再生手段に蓄積された前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ」(本件審決公報第9ページ第33?36行)を、
「情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記端末機の前記制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され、前記蓄積再生手段に蓄積された前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報が前記制御信号に制御されることにより必要に応じてリフレッシュされ」と訂正する。

(15)訂正事項15
発明の詳細な説明の[課題を解決するための手段]の「ることを特徴とする」(本件審決公報第9ページ第36行)を、
「、
さらに前記ホスト制御機が保有している情報の情報名を前記表示手段により表示し、前記情報選択手段が操作されたときに、前記制御手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御機に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し、該情報を前記蓄積再生手段に送り、該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生することも可能であることを特徴とする」と訂正する。

(16)訂正事項16
発明の詳細な説明の[課題を解決するための手段]の「情報提供装置である。」(本件審決公報第9ページ第36行)を、
「個人用情報提供装置である。」と訂正する。

(17)訂正事項17
発明の詳細な説明の[課題を解決するための手段]の「提供される情報を記録するための情報記録媒体が挿入され、前記情報の記録後に前記情報記録媒体が排出される挿入排出口と、」(本件審決公報第9ページ第38?39行)を、
「提供される情報を記録するための複数の情報記録媒体のうちの一の情報記録媒体が挿入され、前記情報の記録後に前記一の情報記録媒体が排出される挿入排出口と、」と訂正する。

(18)訂正事項18
発明の詳細な説明の[課題を解決するための手段]の「をさらに有することを特徴とする」(本件審決公報第9ページ第41行)を、
「前記複数の情報記録媒体のうちの他の情報記録媒体であるICメモリーヘの電気的な接続手段と、をさらに有し、
前記挿入排出口および前記接続手段は前記端末機のケースの複数の面に設けられていることを特徴とする」と訂正する。

(19)訂正事項19
発明の詳細な説明の[課題を解決するための手段]の「情報提供装置である。」(本件審決公報第9ページ第41行)を、
「個人用情報提供装置である。」と訂正する。

(20)訂正事項20
発明の詳細な説明の[課題を解決するための手段]の「前記提供すべき情報は、前記制御信号により制御されて、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信されて、」(本件審決公報第10ページ第2?3行)を、
「前記提供すべき情報は、前記端末機の制御手段が前記制御信号により制御されることにより、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信されて、」と訂正する。

(21)訂正事項21
発明の詳細な説明の[課題を解決するための手段]の「送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ」(本件審決公報第10ページ第4?5行)を、
「送信された前記提供すべき情報と対応する情報が前記制御信号に制御されることにより必要に応じてリフレッシュされ」と訂正する。

(22)訂正事項22
発明の詳細な説明の[課題を解決するための手段]の「ることを特徴とする」(本件審決公報第10ページ第5行)を、
「、
前記表示手段に表示された前記蓄積情報の識別名の中から、提供を受ける情報を前記情報選択手段により選択操作し、これにより前記表示手段に表示された前記ホスト制御機の保有する情報名を選択操作したとき、前記制御手段、前記情報入力手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御機に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し、該情報を前記蓄積再生手段に送り、該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生することも可能であることを特徴とする」と訂正する。

第3 当事者の主張
1 請求人の主張
請求人は、本件訂正は認められない、本件特許の請求項1?3に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明3」という。)を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として以下の点を主張するとともに、証拠方法として甲第1号証?甲第34号証を提出している。

(1)本件訂正
訂正事項5,8,11,16,19及び22は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではなく、かつ、実質上特許請求の範囲を変更するものであるから、本件訂正は、訂正要件に違反し、認められない。

(2)本件特許発明
本件特許発明1?3は、本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証又は甲第3号証に記載された発明、並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

(3)本件訂正後の発明(進歩性)
仮に、本件訂正が認められたとしても、本件訂正後の請求項1?3に係る発明(以下、「訂正発明1」?「訂正発明3」という。)は、本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正発明1?3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。

(4)本件訂正後の発明(記載不備)
仮に、本件訂正が認められたとしても、訂正発明1?3は、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、訂正発明1?3についての特許は、無効とされるべきである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平1-125087号公報
甲第2号証:特開平1-166642号公報
甲第3号証:特開平1-190150号公報
甲第4号証:特開昭62-277681号公報
甲第5号証:特開昭62-115948号公報
甲第6号証:特開昭59-226993号公報
甲第7号証:特開平1-215191号公報
甲第8号証:特開昭63-153980号公報
甲第9号証:特開昭62-173873号公報
甲第10号証:特開昭63-279367号公報
甲第11号証:特開昭62-154062号公報
甲第12号証:特開昭62-286489号公報
甲第13号証:特開昭63-195719号公報
甲第14号証:特開昭63-120353号公報
甲第15号証:特開昭62-176389号公報
甲第16号証:特開平1-195752号公報
甲第17号証:特開昭62-70975号公報
甲第18号証:特開昭63-262981号公報
甲第19号証:特開昭61-202589号公報
甲第20号証:特開昭64-49466号公報
甲第21号証:特開昭63-313350号公報
甲第22号証:特開昭63-317893号公報
甲第23号証:特開昭62-5497号公報
甲第24号証:特開昭62-214455号公報
甲第25号証:特開昭62-208782号公報
甲第26号証:平成16年6月14日付けの審判請求書(訂正2004-39136)
甲第27号証:特開昭59-161986号公報
甲第28号証:特開平1-219939号公報
甲第29号証:特開昭60-100857号公報
甲第30号証:特開昭60-103889号公報
甲第31号証:特開昭63-153929号公報
甲第32号証:特開昭62-7286号公報
甲第33号証:実願昭63-29963号(実開平1-135561号)のマイクロフィルム
甲第34号証:特開平1-237743号公報

2 被請求人の主張
被請求人は、本件訂正を認める、本件無効審判の請求は認められない、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として以下の点を主張するとともに、証拠方法として乙第1号証を提出している。

(1)本件訂正
本件訂正は、訂正要件を具備し、認められる。

(2)本件特許発明
本件特許発明1?3は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件訂正後の発明(進歩性)
訂正発明1?3は、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件訂正後の発明(記載不備)
訂正発明1?3は、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

[証拠方法]
乙第1号証:平成21年行(ケ)第10201号 審決取消請求事件にお ける平成21年10月16日付けの準備書面

第4 訂正の可否に対する判断
1 訂正事項1?22
(1)訂正事項1
請求項1の「前記ホスト制御機と定期的にコンタクトして、」(本件審決公報第8ページ第5行)を「前記ホスト制御機からの定期的なコンタクトにより、」と訂正することは、上位概念から下位概念へ変更であるから、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、訂正事項1は、平成16年6月14日になされた訂正審判(訂正2004-39136号)で訂正された明細書及び本件特許第3001591号公報の図面(以下、「1次訂正明細書等」という。)の「まず、情報提供装置の管理者は、情報提供装置群12へ向けて送信する各種情報を電波9または電話回線10を介して制御機6から送信する。この場合、情報提供装置群の全てに同一の情報を一度に送信することも、特定の装置にのみ送信することも可能である。これは、前記情報とともに前記各情報提供装置の制御手段14に制御信号を入力することで達成される。情報提供装置のそれぞれは、前記制御信号により制御され、蓄積再生手段8に必要に応じて前記情報を蓄積する。」との記載(本件審決公報第10ページ第18?23行)、「情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記端末機の前記制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され、前記蓄積再生手段に蓄積された前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ」との記載(本件審決公報第8ページ第8?11行)及び「ニュース、スポーツ情報は一定時間ごとにその情報をリフレッシュした方が有利な場合もあるため、例えば、前記制御機6と各情報提供装置とは一定時間間隔でコンタクトし、前記情報提供装置内の保有情報をリフレッシュすることも可能であり」との記載(本件審決公報第11ページ第15?17行)に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

(2)訂正事項2
請求項1の「制御手段と、を有し、」(本件審決公報第8ページ第6?7行)を、「制御手段と、使用度数管理機能を有する決済手段と、を有し、」と訂正することは、構成要件の直列的付加であるから、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、訂正事項2は、1次訂正明細書等の「使用度数管理機能を有する決済手段」との記載(本件審決公報第10ページ第14行)に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

(3)訂正事項3
請求項1の「情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記端末機の前記制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され、前記蓄積再生手段に蓄積された前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ」(本件審決公報第8ページ第8?11行)を、「情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記端末機の前記制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され、前記蓄積再生手段に蓄積された前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報が前記制御信号に制御されることにより必要に応じてリフレッシュされ」と訂正することは、制御信号により制御されるのが情報の送信とリフレッシュ動作であることを明らかにすると共に、制御信号によるリフレッシュ動作の制御方法ないし制御態様を限定し、上位概念から下位概念へ変更することといえるから、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、訂正事項3は、1次訂正明細書等の「情報提供装置の管理者は、情報提供装置群12へ向けて送信する各種情報を電波9または電話回線10を介して制御機6から送信する。この場合、情報提供装置群の全てに同一の情報を一度に送信することも、特定の装置にのみ送信することも可能である。これは、前記情報とともに前記各情報提供装置の制御手段14に制御信号を入力することで達成される。情報提供装置のそれぞれは、前記制御信号により制御され、蓄積再生手段8に必要に応じて前記情報を蓄積する」との記載(本件審決公報第10頁第18?23行)及び「前記情報入力手段を介して前記ホスト制御機と定期的にコンタクトして、前記蓄積再生手段に蓄積されている情報をリフレッシュする」との記載(本件審決公報第8頁第5?6行)に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

(4)訂正事項4
請求項1の「ることを特徴とする」(本件審決公報第8ページ第11行)を、「、さらに前記ホスト制御機が保有している情報の情報名を前記表示手段により表示し、前記情報選択手段が操作されたときに、前記制御手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御機に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し、該情報を前記蓄積再生手段に送り、該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生することも可能であることを特徴とする」と訂正する訂正事項4は、本件訂正による訂正前の請求項1に記載された表示手段が「蓄積再生手段に予め記録されている複数種の情報の識別名を表示する」ものであったことに加えて、「前記ホスト制御機が保有している情報の情報名」を表示することを直列的に付加すると共に、同請求項1に記載された端末機における情報選択手段、制御手段及び蓄積再生手段による情報取得、再生の動作として、「情報選択手段が操作されたときに、前記制御手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御機に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し、該情報を前記蓄積再生手段に送り、該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生する」という他の情報取得、再生の動作も可能である点を直列的に付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4は、1次訂正明細書等の「4は、…(略)…表示手段であり、または、前記制御機が保有している情報名の表示手段であっても良い。」との記載(本件審決公報第10ページ第11?12行)及び「以上の説明は、個別の情報提供装置に事前に蓄積されている情報を記録媒体13に記録することを記載したが、これに限ったものでなく、前記選択ボタン5が押されたとき、前記制御手段14を介して9、10により前記制御機6に接続してONラインにて該制御機6の保有する情報を引き出し、該情報を、前記蓄積再生手段8または、記録のためのダビング手段15に送り、前記情報記録媒体13に記録する方法でも、または、前記の方法との併用であっても良い。」との記載(本件審決公報第10ページ第29?33行)に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

(5)訂正事項5
i.被請求人は、請求項1の「情報提供装置。」(本件審決公報第8ページ第11行)を、「個人用情報提供装置。」と訂正する訂正事項5について、「本件発明につき、本件審決公報11頁6?10行目には、情報提供装置を家庭用として設置し、自分の欲しい情報のみを選択して入手できることが記述されているが、同一生計を営む家族で有れば、当該情報提供装置を家庭に設置し、家族で共同使用する一場面があったとしても、電車の中、自動車の中等で単一個人として、いわゆる『個人用』として使用し自分で設定した記録再生装置に記録されている必要な情報を個人的に再生、入手可能な構成であり、そして次の日は同一家族内の別の個人が同様に個人として使用できるものであっても、これは本件審決公報中には家庭用として、そして個人用としての使用記載があると解釈して当然である」(平成22年6月7日付け答弁書4ページ第13?20行)から、訂正事項5は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を変更するものでもない、「本件特許発明による端末機の一構成手段である蓄積再生手段が該テープレコーダーとしての機能、構造を有していることからも当然、該端末機が携帯可能なまでの小型化を想定し、これを運用することを想定したことは前述の通り容易に理解できるところである。」(平成21年10月22日付けの訂正審判請求書第30ページ第8?12行)と主張する。

ii.そこで、被請求人の上記主張を参酌しつつ、訂正事項5が訂正要件を満たしているか否か検討する。
まず、「個人用情報提供装置」は、単に個人が利用することができる情報提供装置だけでなく、例えば被請求人が主張する携帯可能なまでの小型化された情報提供装置のような、専ら個人が利用するための技術的構成を備えた情報提供装置を含むといえるが、1次訂正明細書等全体の記載を検討しても、1次訂正明細書等には、「個人用情報提供装置」という記載は存在せず、また本件特許発明の情報提供装置が、専ら個人が利用するための技術的構成を備えていることは記載されておらず、このことが1次訂正明細書等の記載から自明であると認めるに足りる根拠も見出せない。
そして、被請求人が訂正事項5の根拠とする本件審決公報11頁6?10行目の「以上の説明は、不特定多数の人に利用してもらうタイプの情報提供装置を説明したが、これに限ったものではなく、家庭用として、設置可能でもある。たとえば、新聞代わりに、家庭用の提供装置を設置しておき、毎日、一定時刻にニュース、スポーツ情報等を入手できるようにしておく。操作は前述の方法と同一とする事でよい。こうすることにより、新聞代わりに、前記情報記録媒体13を再生手段にセットして、電車の中、自動車の中等で必要な情報を入手できる。」という記載は、本件特許発明の情報提供装置の設置場所を家庭にした結果、本件特許発明の情報提供装置の利用者が不特定多数の人間から家庭内の人間に限定されることを意味すると解することはできても、本件特許発明の情報提供装置が、携帯可能なまでの小型化された情報提供装置のような、専ら個人が利用するための技術的構成を備えた情報提供装置を含むことを意味するとまで解することはできない。
してみると、請求項1の「情報提供装置」を「個人用情報提供装置」と訂正する訂正事項5は、願書に添付した明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものではなく、かつ、実質上特許請求の範囲を変更するものである。

(6)訂正事項6
請求項2の「提供される情報を記録するための情報記録媒体が挿入され、前記情報の記録後に前記情報記録媒体が排出される挿入排出口と、」(本件審決公報第8ページ第12?13行)を、「提供される情報を記録するための複数の情報記録媒体のうちの一の情報記録媒体が挿入され、前記情報の記録後に前記一の情報記録媒体が排出される挿入排出口と、」と訂正する訂正事項6は、本件訂正請求による訂正前の請求項2に記載された情報記録媒体が複数であることを限定すると共に、挿入排出口に挿入される又は挿入排出口から排出される情報記録媒体について、当該複数の情報記録媒体のうちの一のものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、1次訂正明細書等の「前記ダビング時に複数個の情報記録媒体に対して同時に作用することが出来」との記載(本件審決公報第11ページ第1行)に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

(7)訂正事項7
請求項2の「をさらに有することを特徴とする」(本件審決公報第8ページ第14行)を、「前記複数の情報記録媒体のうちの他の情報記録媒体であるICメモリーヘの電気的な接続手段と、をさらに有し、前記挿入排出口および前記接続手段は前記端末機のケースの複数の面に設けられていることを特徴とする」と訂正する訂正事項7は、本件訂正による訂正前の請求項2に記載された情報記録媒体が上記訂正事項6において訂正されたように複数であって挿入排出口に複数の情報記録媒体のうちの一のものが挿入、排出される場合において、他の情報記録媒体がICメモリーであることを限定すると共に、同請求項2に記載されたダビング手段に、他のダビング手段である電気的な接続手段を直列的に付加し、さらに、同請求項2に記載された挿入排出口と、上記のように新たに付加された電気的な接続手段に関して、その設けられる位置を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項7は、願書に添付した明細書の「15のダビング手段は、前記情報記録媒体の種類に依って異なるが、前記テープレコーダー、FDD,HDD,ODD,CDプレイヤー、等の磁気ヘッド、光学的ヘッド、または、ICメモリーへの電気的な接続手段等の記録手段であっても良い。」との記載(本件審決公報第10ページ第44?46行)及び「前記ケース1に少なくとも、前記情報記録媒体13の挿入、排出口2、…(略)…、ダビング手段15を複数個設けていること。こうすることにより、…(略)…、情報提供装置のあらゆる方向からこれを利用可能となる。」との記載(本件審決公報第10ページ第49行?第11ページ第2行)、並びに願書に添付した図面の第1図の記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

(8)訂正事項8
被請求人は、請求項2の「情報提供装置。」(本件審決公報第8ページ第14行)を、「個人用情報提供装置。」と訂正する訂正事項8について、訂正事項5と同様の主張をするが、訂正事項8は、訂正事項5について検討したのと同様の理由で、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではなく、かつ、実質上特許請求の範囲を変更するものである。

(9)訂正事項9
請求項3の「前記提供すべき情報は、前記制御信号により制御されて、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信されて、」(本件審決公報第8頁第25?26行)を、
「前記提供すべき情報は、前記端末機の制御手段が前記制御信号により制御されることにより、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信されて、」と訂正する訂正事項9は、制御信号により制御される対象が各端末機の制御手段であることを請求項3の記載において明らかになるように正すものであり、明りょうでない記載の釈明に該当する。
また、訂正事項9は、1次訂正明細書等の「前記端末機の前記制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され、」との記載(本件審決公報第8ページ第8?10行)、「情報提供装置群の全てに同一の情報を一度に送信することも、特定の装置にのみ送信することも可能である。これは、前記情報とともに前記各情報提供装置の制御手段14に制御信号を入力することで達成される。情報提供装置のそれぞれは、前記制御信号により制御され、蓄積再生手段8に必要に応じて前記情報を蓄積する」との記載(本件審決公報第10ページ第20?23行)に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

(10)訂正事項10
請求項3の「送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ」(本件審決公報第8ページ第27?28行)を、「送信された前記提供すべき情報と対応する情報が前記制御信号に制御されることにより必要に応じてリフレッシュされ」と訂正する訂正事項10は、上位概念から下位概念への変更に当たり、特許請求の範囲の減縮に該当する。
また、訂正事項10は、1次訂正明細書等の「情報提供装置の管理者は、情報提供装置群12へ向けて送信する各種情報を電波9または電話回線10を介して制御機6から送信する。この場合、情報提供装置群の全てに同一の情報を一度に送信することも、特定の装置にのみ送信することも可能である。これは、前記情報とともに前記各情報提供装置の制御手段14に制御信号を入力することで達成される。情報提供装置のそれぞれは、前記制御信号により制御され、蓄積再生手段8に必要に応じて前記情報を蓄積する」との記載(本件審決公報第10頁第18ないし23行)、「前記蓄積再生手段に蓄積された前記蓄積情報中の前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ」との記載(本件審決公報第8頁第26ないし28行)に基づくものであるから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

(11)訂正事項11
i.被請求人は、請求項3の「ることを特徴とする」(本件審決公報第8ページ第28行)を、「、前記表示手段に表示された前記蓄積情報の識別名の中から、提供を受ける情報を前記情報選択手段により選択操作し、これにより前記表示手段に表示された前記ホスト制御機の保有する情報名を選択操作したとき、前記制御手段、前記情報入力手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御機に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し、該情報を前記蓄積再生手段に送り、該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生することも可能であることを特徴とする」と訂正する訂正事項11は、「上位概念から下位概念への変更に当たり、特許請求の範囲の減縮に当たる。」(平成21年10月22日付け訂正審判請求書第22ページ第3?4行)と主張するとともに、「本件審決公報の発明の詳細な説明には、『4は、後述の蓄積、再生手段8に蓄積された情報名の表示手段であり、または、前記制御機が保有している情報名の表示手段であっても良い』(本件審決公報第10頁第11ないし12行)と記載されている。
この記載から、表示手段4に表示可能な情報は、情報提供装置(端末機)の蓄積再生手段8に蓄積された情報と、制御機6(ホスト制御機)が保有している情報であることがわかる。
また、本件審決公報の発明の詳細な説明には、『まず、情報提供装置の管理者は、情報提供装置群12へ向けて送信する各種情報を電波9または電話回線10を介して制御機6から送信する。この場合、情報提供装置群の全てに同一の情報を一度に送信することも、特定の装置にのみ送信することも可能である。これは、前記情報とともに前記各情報提供装置の制御手段14に制御信号を入力することで達成される。情報提供装置のそれぞれは、前記制御信号により制御され、蓄積再生手段8に必要に応じて前記情報を蓄積する。該情報のタイトルが表示手段4に表示される。』(本件審決公報第10頁第18ないし23行)と記載されている。この記載から、制御機6から情報提供装置(端末機)に情報が送信され、その情報が情報提供装置(端末機)の蓄積再生手段8に蓄積された後に、当該情報のタイトル(情報名)が表示手段4に表示されることがわかる。
さらに、本件審決公報の発明の詳細な説明には、『利用者は、情報が必要なとき、手持ちのカセットテープ等の情報記録媒体13を最寄りの情報提供装置の挿入、排出口2へ挿入し、コインまたはカードを挿入口3へ挿入する。これを前記決済手段11がチェックし確認されれば自分の欲しい情報名に相当する選択ボタン5を押す。これらの動作が、前記制御手段14に印加され、確認されれば、周知の、高速ダビング等の手段により前記選択された情報名の蓄積再生手段8が動作し、ダビング手段15により前記情報記録媒体13に記録される』(本件審決公報第10頁第25ないし29行)と記載されている。この記載から、情報提供装置(端末機)の蓄積再生手段8を動作させるには、制御手段14に制御信号を入力する以外には、選択ボタン5(情報選択手段)を操作する必要があることがわかる。
したがって、表示手段4に制御機6が保有する情報名が表示されるのは、制御機が保有している情報名が制御機6から情報提供装置(端末機)に送信され、この情報名が情報提供装置(端末機)の蓄積再生手段に事前に蓄積されたとき又は、蓄積再生手段8に蓄積された情報を再生するため、選択ボタン5を操作して、蓄積再生手段を動作させたときである。
この様に、本件審決公報第10頁第11ないし12行に記載された『前記制御機が保有している情報名の表示手段であっても良い』は、前記蓄積再生手段に事前に蓄積されたとき(後述の第1の作用による)の他、選択ボタン5を操作し、蓄積再生手段8から蓄積情報を再生することで、制御機の保有する情報名を表示手段に表示させることも意味している。
また、本件審決公報第10頁第22ないし23行に『情報提供装置のそれぞれは、前記制御信号により制御され、蓄積再生手段8に必要に応じて前記情報を蓄積する。該情報のタイトルが表示手段4に表示される。』とあることからも、前記蓄積動作、表示動作は前記制御信号により制御された動作であることがわかる。」(平成21年10月22日付け訂正審判請求書第23ページ第4行?第24ページ第12行)と主張し、さらに、1次訂正明細書等の「以上の説明は、個別の情報提供装置に事前に蓄積されている情報を記録媒体13に記録することを記載したが、これに限ったものでなく、前記選択ボタン5が押されたとき、前記制御手段14を介して9、10により前記制御機6に接続してONラインにて該制御機6の保有する情報を引き出し、該情報を、前記蓄積再生手段8または、記録のためのダビング手段15に送り、前記情報記録媒体13に記録する方法でも、または、前記の方法との併用であっても良い。」との記載(本件審決公報第10頁第29?33行)及び「7の情報入力手段も、有線、無線による通信機能を有し、」との記載(本件審決公報第10頁第40?41行)から、訂正事項11は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を変更するものでもなく、「訂正事項3Cには、『階層化された情報』を引き出すとする文言の記述は一切ない。」(平成22年6月7日付け答弁書第5頁第17?18行)と主張する。

ii.そこで、被請求人の上記主張を参酌しつつ、訂正事項11が訂正要件を満たしているか否か検討する。
1次訂正明細書等には、「識別名」に関し、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の[課題を解決するための手段]の欄に「前記蓄積再生手段に予め記録されている複数種の情報の識別名を表示する表示手段」(請求項1,本件審決公報第8頁第3行)、「前記蓄積再生手段に予め記録されている前記蓄積情報の識別名を表示する表示手段」(請求項3,本件審決公報第8頁第20行)という記載が存在するにすぎない。
この点につき、被請求人は上記「i」で、「制御機6から情報提供装置(端末機)に情報が送信され、その情報が情報提供装置(端末機)の蓄積再生手段8に蓄積された後に、当該情報のタイトル(情報名)が表示手段4に表示される」と主張する。
1次訂正明細書等の記載を検討しても、情報の「識別名」が情報のタイトル(情報名)のみを意味すると解すべき根拠は見出せないが、1次訂正明細書等の記載における「識別名」は、一応、情報のタイトルや情報名と解することができる。
しかしながら、訂正事項11は、「前記表示手段に表示された前記蓄積情報の『識別名』の中から、提供を受ける情報を前記情報選択手段により選択操作し、これにより前記表示手段に表示された前記ホスト制御機の保有する『情報名』を選択操作」するものであって、表示された「識別名」の中から情報を選択することと表示された「情報名」を選択操作することを区別しているものといえる。
つまり、訂正事項11は、あえて「識別名」と「情報名」とを区別し、「識別名」に「情報名」以外の意味を持たせるものといえるから、願書に添付した明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものではなく、かつ、実質上特許請求の範囲を変更するものである。

(12)訂正事項12?15,17,18,20,21
訂正事項12?15,17,18,20,21は、それぞれ、訂正事項1?4,6,7,9,10による特許請求の範囲の減縮、又は特許請求の範囲についての明りょうでない記載の釈明を目的とした訂正に伴い、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載を整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、また、上記訂正事項1?4,6,7,9,10が、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであることと同様に、訂正事項12?15,17,18,20,21も、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

(13)訂正事項1?4,6,7,9,10,12?15,17,18,20,21
訂正事項1?4,6,7,9,10,12?15,17,18,20,21は、「時間と共に陳腐化する情報を安価に提供することができる情報提供装置を提供する」、「ホスト制御機より送られる情報と、例えば端末装置が設置される地域の情報等の端末装置固有の情報とを、一台の端末装置にて選択して情報提供することが可能な情報提供装置を提供する」等の各請求項に記載された発明の目的等を実質上拡張又は変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

(14)訂正事項16,19,22
訂正事項16,19,22は、訂正事項5,8,11と同様に、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではなく、かつ、実質上特許請求の範囲を変更するものである。

2 訂正事項1?22についてのまとめ
請求項1についての訂正事項5及び訂正事項5に対応した発明の詳細な説明の訂正である訂正事項16、請求項2についての訂正事項8及び訂正事項8に対応した発明の詳細な説明の訂正である訂正事項19、請求項3についての訂正事項11及び訂正事項11に対応した発明の詳細な説明の訂正である訂正事項22は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものではなく、かつ、実質上特許請求の範囲を変更するものであるから、本件訂正による本件特許発明1?3についての訂正は、平成6年法律第116号改正附則第6条第1項によりなお従前の例によるとされる同法第1条の規定による改正前の特許法第134条第2項ただし書の規定に適合せず、同法第134条第5項の規定において準用する同法第126条第2項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

第5 本件特許発明
以上のとおり、本件訂正による本件特許発明1?3についての訂正は認められないから、本件特許発明1?3は、1次訂正明細書等の記載からみて、1次訂正明細書等の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項(本件審決公報第7ページ下から3行?第8ページ28行)により特定される次のとおりのものである。

「(1)ホスト制御機と、これに接続された複数の端末機とから成り、
前記ホスト制御機は、提供される複数種の情報を各々の前記端末機に送信するものであり、
各々の前記端末機は、
前記ホスト制御機に有線又は無線にて接続された情報入力手段と、
前記情報入力手段を介して入力された複数種の情報が蓄積され、かつ、その情報を再生する蓄積再生手段と、
前記蓄積再生手段に予め記録されている複数種の情報の識別名を表示する表示手段と、
前記表示手段に表示された複数種の情報の中から、提供を受ける情報を選択する情報選択手段と、
前記情報入力手段を介して前記ホスト制御機と定期的にコンタクトして、前記蓄積再生手段に蓄積されている情報をリフレッシュする制御手段と、
を有し、
情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記端末機の前記制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され、前記蓄積再生手段に蓄積された前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされることを特徴とする情報提供装置。
(2)請求項1において、提供される情報を記録するための情報記録媒体が挿入され、前記情報の記録後に前記情報記録媒体が排出される挿入排出口と、前記蓄積再生手段にて再生された情報を、前記情報記録媒体にダビングするダビング手段と、をさらに有することを特徴とする情報提供装置。
(3)ホスト制御機と、これに接続された複数の端末機とから成り、
前記ホスト制御機は、提供される複数種の情報を各々の前記端末機に送信するものであり、
各々の前記端末機は、
前記ホスト制御機に有線又は無線にて接続された情報入力手段と、
提供される情報が蓄積され、かつその蓄積情報を再生する蓄積再生手段と、
前記蓄積再生手段に予め記録されている前記蓄積情報の識別名を表示する表示手段と、
前記表示手段に表示された前記蓄積情報の中から、提供を受ける情報を選択する情報選択手段と、
を有し、
前記蓄積再生手段は、前記情報入力手段を介して入力された複数種の情報と、前記端末機毎に固有の情報とが、前記蓄積情報として蓄積され、その蓄積情報の中から前記情報選択手段にて選択された情報を再生し、
前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記提供すべき情報は、前記制御信号により制御されて、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信されて、前記蓄積再生手段に蓄積された前記蓄積情報中の前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされることを特徴とする情報提供装置。」

第6 甲各号証の記載内容
請求人が本件特許発明1?3に対する無効理由の根拠とする甲第1号証及び甲第3号証には、図面と共にそれぞれ次の事項が記載されている。

1 甲第1号証
(1)「通信回線を介して情報ファイルセンターと接続され、送信要求によって伝送される伝送画面データを受信して画面表示するビデオテックス端末装置において、
所望情報を提供する画面ファイルのファイル番号を登録する登録情報メモリ手段と、
前記登録したファイル番号に対応した画面データを蓄積するための蓄積メモリ手段と、
前記登録情報メモリ手段に登録されたファイル番号の画面ファイルを定期的に送信要求する自動送信要求手段と、
前記自動要求によつて受信された画面データを前記蓄積メモリ手段に記憶されているデータと比較し、異なるデータが検出された場合に、蓄積メモリ手段の蓄積内容を新たに受信した画面データに入れ替える蓄積画像データ更新手段と、
を具備したことを特徴とするビデオテックス端末装置。」(特許請求の範囲)

(2)「この発明はビデオテックス端末装置に係り、例えば利用頻度の高い画面ファイルの受信便宜を図ると共に、情報更新情況が容易に判り、同じ情報を受信することのないようにしたビデオテックス端末装置に関する。」(第1ページ右下欄第6?10行)

(3)「(従来の技術)
ビデオテックス通信システムは、各ユーザー端末と情報ファイルセンター(以下情報センターとする)とが回線を介して接続され、情報センターにファイルされた多数の画面ファイル情報の中から、ファイル番号を指定することによって、各ユーザ一端末のディスプレイモニターに、指定したファイル番号で伝送される画面データを表示する双方向データ通信システムである。
ところで、情報センターのファイルする画面ファイル情報は、勿論定期的或は不定期に内容が更新されるものであるが、定期的に更新される画面ファイル情報の中でも時間,日,週毎に更新される例えば株式市況,為替レート,ニュース,占い等の情報は、常に最新情報が要求されるので、一般ユーザーの利用頻度も高くなる。このため、情報が更新されないのに、更新されたことを期待して同じ情報を受信してしまうこともある。こうした場合、回線接続に要した時間が無駄になると共に、画面に情報が表示され、情報が同じであると判断するまでは回線が接続された状態となるので、受信料金を二重に支払わなければならず、ユーザーの期待を裏切ることになる。
また、上記のような画面ファイル情報は、回線接続のための操作が簡便であることが要求される。
尚、従来の端末では、頻繁に利用する番組のために、複数分の画面ファイル情報を記憶可能な画像メモリを設け、1度受信した画面ファイル情報を回線を使用することなく幾度も利用できるようになっているものがあるが、情報更新の有無は不明であり、新しい情報を得ようとすれば、新たに回線を接続してその画面を指定しなければならない。」(第1ページ右下欄第11行?第2ページ右上欄第3行)

(4)「この発明は上記問題点を除去し、更新情況を容易に知ることができ、しかも、頻繁に利用する画面ファイル情報は、簡単な操作により受信が可能なビデオテックス端末装置の提供を目的とする。」(第2ページ右上欄第11?14行)

(5)「この発明によれば、ファイル番号で登録した画面ファイル情報は、定期的にセンターに対し送信要求が行われ、これによって取得されたデータが今まで蓄積していた画面データと異なる場合は、自動的にその新たな情報と入れ替えられることになる。したがって、ユーザーは、所望の画面データについて回線接続操作を行うことなく、常に最新情報を知ることが可能となる。」(第2ページ左下欄第14行?右下欄第1行)

(6)「第1図はこの発明に係るビデオテックス端末装置の一実施例を示すブロック図である。
第1図において、回線11からの下りデータは、データ変復調機能と、ダイヤル発信機能を備えたモデム/ダイヤラー回路12にて受信される。受信データは、端末制御回路14によって制御される下り信号処理回路13にて同期検出、CRCチェック等の処理が行われ、データメモリ15に一時記憶される。端末制御回路14はマイクロプロセッサユニットにて構成され、モデム/ダイヤラー回路12を制御して端末から情報センターへの上り通信処理を行うと共に、画面への表示処理を行っている。データメモリ15に記憶された画面データは、前記端末制御回路14によって制御される表示制御回路16で表示処理され、表示制御回路16の出力は、CRT17に供給され表示される。
また、端末制御回路14は、タイマー回路18が接続されており、このタイマー回路18による定期的にな(審決注:「にな」は「な」の誤記)タイミングで、モデム/ダイヤラー回路12を制御し、ユーザー操作によらない自動的な送信要求を情報センターに送出している。
一方、19はユーザーの選択によって例えば頻繁に利用する画面ファイル情報を蓄積するための蓄積メモリであり、この蓄積メモリ19に記憶される画面データのファイル番号は、登録情報メモリ20に記憶されるようになっている。
しかして、上記自動送信要求によってデータメモリ15に蓄えられた画面データと蓄積メモリ19に蓄積されている画面データとは、比較回路21によって記憶内容が比較されるようになっている。比較回路21は端末制御回路14とライン22を介して接続され、同回路14からの比較動作命令によって比較動作を行い、その結果を端末制御回路14にフィードバックする。これにより、端末制御回路14は、データメモリ15の内容と蓄積メモリ19の内容とが一致する場合は、データメモリ15に蓄えたデータを破棄する処理を実行し、一致しない場合は、今まで蓄積メモリ19に蓄積していたデータをデータメモリ15に蓄えたデータに入れ替える。
尚、登録情報メモリ20の出力ラインは、表示制御回路16に接続され、記憶内容を画面に表示することができる。この場合、端末制御回路14は、表示された画面番号について、再生済みのデータか未だ再生していないデータかを知らせる表示を行うことができる。
また、データメモリ15,蓄積メモリ19,登録情報メモリ20は、それぞれチップセレクタ23によって動作が規制され、キーボード24は、キーコントローラ25を介して所定キーの操作によるキー入力データを端末制御回路14に供給している。」(第2ページ右下欄第5行?第3ページ右上欄第14行)

(7)「先ずユーザーは、キーボード24を用いていつも利用する画面ファイルのファイル番号をキー入力操作し、端末制御回路14を介して登録情報メモリ20にその番号を登録する。この場合、登録しよう兎と(審決注:「兎と」は「と」の誤記)する画面ファイルが複数ある場合は、その複数分のファイル番号を登録する。
さて、タイマー回路18をスタートさせると、ステップS11が行われ、所定時間が経過(YES)すると、端末制御回路14は、ステップS12を実行し、登録情報メモリ20に登録されたファイル番号によって自動送信要求が行われる。これにより通信回線11を介して端末と情報センターが接続され、通信回線11を介して伝送される画像データは、ステップS13によってデータメモリ15に書き込まれる。初期状態においては、データメモリ15に蓄積された画面データは、そのまま蓄積メモリ19に書き込まれる。そして、再び所定時間が経過すると、ステップS12,ステップS13の処理後、端末制御回路14は、ステップS14を実行し、蓄積メモリ10(審決注:「10」は「19」の誤記)に書き込まれている画面データとデータメモリ15に蓄積されたデータとを比較する。所定量のデータを比較してもデータ内容に変更がない場合は、YESと判断してステップS16を実行する。
ステップS16は登録情報メモリ20に登録された他のファイル番号があるか否かを判別する処理であり、他のファイル番号が存在する場合(YES)は、先の画面データが伝送された後,他の画面に相当する次画面データがデータメモリ15に蓄積されるので、このデータと他のファイル番号に対応した蓄積メモリ19内の画面データとを比較(ステップS14)した後、再びステップS16を実行する。
また、比較データ同志の内容が異なり、その画面番号の画面データが新情報に入れ代わっている場合は、ステップS14でNOと判断し、ステップS18が実行されてデータメモリ15から蓄積メモリ20(審決注:「20」は「19」の誤記)にデータが書き込まれる。これによって、内容の更新された画面データが蓄積メモリ19に記憶されることになる。尚、ステップS19は、新情報のデータ領域に対応して設けられた所定の領域に未再生情報を書き込む処理である。この未再生情報を書き込みの後、ステップS16の判断が行われる。これらステップS16→S13→S14、又はS16→S13→S14→S18→S19の処理は、登録画面の数だけ繰返される。そして、ステップS16で登録した番号データが無いと判断(NO)すると、ステップS17によりセンターとの回線接続を切る。
こうして、蓄積メモリ19には、ユーザーの希望する画面ファイルにおける常に最新の情報が書き込まれることになる。」(第3ページ右上欄第19行?第4ページ左上欄第7行)

(8)「次に、蓄積メモリ19に書き込まれた画面データを表示する場合の動作を説明する。
第3図は蓄積メモリ19のメモリマップを示し、このように蓄積メモリ19は、画像記憶領域26に画面データ毎にデータを書き込むが、各画面データに対してそのデータがすでに再生されたものか、未再生のデータかを判別するためのインジケータ領域27が設けられている。このインジケータ領域27は、画面データを書き込む場合に、書込みポインタによって指示され、データとして未再生を示す情報が記憶される。また、画像記憶領域26の各画面データが再生される場合は、インジケータ領域27が読出しポインタによって指示されることで、再生済みを示す情報が記憶される。
さて、画面データを表示する場合は、キー操作によって、先ず、登録情報メモリ20の内容を表示する。このとき、蓄積メモリ19のインジケータ領域27より再生情況を示す情報を画面番号に対応して表示する。これよりユーザーは、現在蓄積メモリ19に書き込まれている画面データのうち,再生したものとそうでないものとを区別することができ、再生していないデータについてのみ表示処理すれば、登録指定した画面ファイル情報は漏らさず知得することができる。尚、すでに再生した画面でも繰返し再生することができる。
第4図は上記の再生処理を示すフローチャートであり、ステップS21はキーボード24における再生キー操作を示し、再生キーが押される(YES)と、ステップS22によって登録番号画面が表示される。この画面によりユーザーが未再生の画面データを選択すると、ステップS23の判定が“未再生”となり、ステップS24(インジケータ情報を再生済み情報に変更する)を行って、その選択された画面データが表示される(ステップS25)。また、ステップS23で再生済みの画面データが選択されると、ステップS24を行うことなく、表示処理が行われる。そして、1つの画面データの表示が終了すると、ステップS21に戻り、別の画面データの指定を持つ。」(第4ページ左上欄第8行?左下欄第6行)

(9)「こうして、ユーザーは、登録情報メモリ20に希望する画面ファイルの番号を登録するだけで、その登録した画面ファイルの常に最新の情報が蓄積メモリ19に確保される。したがって、ユーザーは登録した番号のファイル情報について回線を接続する為の受信操作が必要なくなると共に、回線を接続し内容を確認するまでの時間の料金を無駄に支払うことなく、希望する画面ファイル情報が新しい情報に更新されたか否かを知ることができる。」(第4ページ左下欄第7?15行)

2 甲第3号証
(1)「発信呼あるいは着信呼に使われてない状態(無通話状態)の複数の加入者回線と、情報送出装置に接続された回線(放送チャンネル)とを、時分割多重スイッチにより多重接続(N対1接続)し、該情報送出装置から送信される情報を前記複数の加入者回線に放送的に分配する手段を有するディジタル交換装置に、放送順序および放送内容のデータ(放送データ)を記憶する手段と、該記憶手段に従って、番組識別番号を付与した放送データを前記放送チャンネルに送出する手段とを有する情報送出装置と、前記加入者回線に接続し、該加入者回線から受信した放送データに付加されている番組識別番号を検査し、端末の利用者が指示した番組識別番号と一致する放送データのみを受信して端末内に取り込む手段を有する端末とを、接続して構成することを特徴とするデータ放送システム。」(特許請求の範囲の請求項1)
(2)「本発明は、ディジタル交換装置を用いた通信システムにおいて、特に通常の発信呼や着信呼の存在しない無通話状態の加入者回線を利用して、ディジタル形式でデータを不特定多数の受信端末に対して送信するデータ放送システムに関するものである。」(第2ページ左上欄第12?17行)

(3)「[従来の技術]
近年、証券取引情報,気象情報,ニュースなど時間とともに変化していく情報を、蓄積や処理の容易なデータとして、即時に多数の受け手に伝達する要求が高まりつつある。
従来、不特定多数の端末に対して同時にデータを伝達する1つの方法として、無線伝送技術を使った放送による方法がある。しかし、無線による放送の場合、雑音電波による影響や、伝播路の状態により符号誤りが発生しやすく、場所によってはほとんど受信不能となったり、誤り訂正のために、符号化および復号化のコストが高価になること、伝送効率が良くない,等の問題があった。
これに代わって、放送ほどの同時伝達性はないが、無線伝送の品質の問題を逃れ、かつ不特定多数の端末に対して同一データを伝達する方法として、データを蓄積したセンタ(データベースセンタ)を置き、データを必要とする端末が交換網を介して適宜センタを呼び出し、通信回線経由でデータをセンタから読み出す方法がある(第10図参照)。」(第2ページ左上欄第18行?右上欄第18行)

(4)「しかし、上記従来方法は、センタ側の回線設備やセンタの処理能力の制限により同時に接続できる端末数に制限があるので、各端末へデータを同時に伝達することが困難である。また、センタでの回線の同時接続数を増加しようとすると、センタ設備が高価なものとなってしまうという課題があった。
本発明の目的は、このような従来の課題を解決し、放送のための専用の有線網を使うことなく、既設のディジタル交換網を利用して、不特定多数の端末に対して同時にデータを伝達可能でかつ経済的なデータ放送システムを提供することにある。」(第2ページ右上欄第20行?左下欄第11行)

(5)「第1図は、本発明の第1の実施例を示すデータ放送システムの基本的な構成図である。
第1図において、1は情報送出装置2から送信される情報(放送データ)を複数の加入者回線4に放送的に分配するマルチ接続部を有するディジタル交換装置、2は放送データを送出する情報送出装置、3は無通話状態(回線が発信呼あるいは着信呼に使われていない状態)時に放送データ(データ放送)を受信する受信端末、4は複数の加入者回線、5は放送データを送出する回線(放送チャンネル)、3a,3bはデータ放送を受信していない状態の端末、6は端末3bと他の交換装置に収容された端末との間の通信呼に使用されている中継回線である。本実施例における放送対象のデータは、文字符号列からなる文書データ,ファクシミリなどの符号化した画像データ,符号化した音楽演奏用データ,符号化音声,計算機のプログラムやデータ,およびそれらを構成要素として構成したマルチメディアデータなどである。以下、第1図により本実施例の概要について説明する。
情報送出装置2は、マルチパス接続部を有するディジタル交換装置1に、回線(放送チャンネル)5を使って接続され、自装置2で管理しているスケジュールに従って、予め該装置内の記憶装置に蓄積してある放送データを、放送チャンネル5に送出する。放送チャンネル5は、ディジタル交換装置1内のスイッチにおいて、複数の無通話状態の加入者回線4に多重接続(N対1接続)される。放送チャンネル5から入力されてくる放送データは、多重接続された各加入者回線4に同時に送出され、データ放送が実現されることになる。加入者回線4に接続された受信端末3は、加入者回線4から放送データを受信する。情報送出装置2からの、放送データの送出に際しては、種類の異なる情報(番組情報)を、同一放送チャンネルを使って逐次送出できるようにするため、各放送データに番組識別番号を付与する。受信端末3においては、放送データに付加されている番組識別番号を検査し、該端末の利用者が指示した番組識別番号と一致する放送データのみを端末内に取り込んで、蓄積,表示,印刷等の処理を行う。」(第3ページ左下欄第18行?第4ページ左上欄第18行)

(6)「第2図は、第1図の情報送出装置2内に記憶された放送管理データの一構成例であり、番組識別番号とそれに対応する放送データの蓄積アドレスを放送順序に従って並べた放送管理テーブル21を示している。情報送出装置2は、この放送管理テーブル21に従って、順番に、放送データを該装置の記憶装置から読み出し、対応する番組識別番号を付与して放送チャンネルに送出する。情報送出装置2は、放送管理テーブル21の最後(第2図においてはn番目)に登録されている放送データを送出し終れば、再び1番目に登録されている放送データから順番に送出することを繰り返す。第2図における番組識別番号は一例として、n個の番組に対して送出順に1から1連番号を付与しているが、必ずしも一連の番号である必要はなく、要するに個々の番組ごとに異なる識別名を付けることができればよく、順序数ではない任意の文字列であってもよい。また、放送チャンネルが複数ある場合(後述第2の実施例)においては、番組識別番号に放送チャンネルを識別する要素を含めることもできる。情報送出装置2において、放送データの送出制御と並行して、放送管理テーブル21に登録されている放送データの内容を更新することにより、常時、最新のデータを放送することが可能であり、証券などの市況、ニュース、天気予報など比較的短時間で内容が変化するデータ放送へ適用することができる。
第3図は、情報送出装置2から送出される番組情報31の構成例であり、放送データに番組識別番号と誤り訂正符号を付加して構成する。
第4図は、第3図に示す番組情報31が、第2図で示した放送管理テーブル21に従って、連続して繰り返し送信される例を示している。」(第5ページ左上欄第17行?左下欄第9行)

第7 本件特許発明についての判断
1 本件特許発明1について
(1)甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証に実施例として記載されたビデオテックス端末装置を有するビデオテックス通信システムは、摘記事項「第6 1(3)」に記載されているように、従来のビデオテックス通信システムが、情報センターにファイルされた多数の画面ファイル情報の中からファイル番号を指定することによって、各ユーザーのビデオテックス端末装置に画面データを伝送するものであったところ、特にユーザーの利用頻度が高い、時間,日,週毎に更新される株式市況,為替レート,ニュース等の情報について、ユーザーが更新情況を容易に知ることができ、かつ簡単な操作による受信を可能とする目的で(摘記事項「第6 1(4)」)、ビデオテックス端末装置の登録情報メモリ20にユーザーが頻繁に利用する画面ファイル情報のファイル番号を登録できるようにし、登録されたファイル番号に対応する画面ファイル情報については、定期的な自動送信要求を情報センターに対して行い、必要な画面データの入れ替えを行うようにしたものである。そうすると、甲第1号証に実施例として記載されたビデオテックス端末装置を有するビデオテックス通信システムは、上記のように、ビデオテックス端末装置に対してファイル番号が登録される画面ファイル情報以外にも、情報センターには、当該登録がなされない多数の画面ファイル情報が保有されており、少なくとも、そのような未登録の画面ファイル情報の画面データを取得しようとする際は、定期的な自動送信要求が行われない以上、従来技術と同様に、各ビデオテックス端末装置におけるファイル番号の指定操作をする毎に、情報センターへ情報送信要求がなされ、オンラインで情報センターからビデオテックス端末装置に画面データが送信されて画面データの取得が行われることを前提としたものであることは、当業者に当然に理解されるところである。
ここで、甲第1号証に実施例として記載されたビデオテックス端末装置に関して摘記事項「第6 1(6)」に記載された具体的な構成を参酌すると、当該ビデオテックス端末装置がキーボード24を有することからみて、上記のようなファイル番号の指定の操作は当該キーボード24により行われるものであり、また、キーボード24から入力されたデータが端末制御回路14に供給され、回線11に接続されるモデム/ダイヤラー回路12が当該端末制御回路14により制御されるものであることからみて、キーボード24によりファイル番号が指定されたときに、端末制御回路14を介して回線11により前記情報センターに接続してオンラインにて該情報センターの保有する画面データを受信するものであることが明らかである。さらに、上記実施例のビデオテックス端末装置では、頻繁に利用する画面ファイル情報の画面データは蓄積メモリ19に蓄積され、当該蓄積メモリ19に蓄積された画面データが再生可能な構成となっているが(摘記事項「第6 1(6)?(8)」参照)、一方で、上記摘記事項「第6 1(6)」の記載のとおり、同ビデオテックス端末装置については、受信された画面データがデータメモリ15に一時記憶される旨が記載されていると共に、当該データメモリ15に記憶された画面データは、端末制御回路14によって制御される表示制御回路16で表示処理されてCRT17にて表示されることも記載されていることからみて、蓄積メモリ19に蓄積される画面データ以外の画面データは、当該画面データが一時記憶されるデータメモリ15から直接再生可能なように構成されていることも明らかである。
以上のことからみて、甲第1号証に実施例として記載されたビデオテックス端末装置を有するビデオテックス通信システムは、キーボード24によりファイル番号が指定されたときに、端末制御回路14を介して回線11により前記情報センターに接続してオンラインにて該情報センターの保有する画面データを受信し、該画面データをデータメモリ15に記憶し、該記憶した画面データをデータメモリ15により再生することも可能に構成されているといえる。
したがって、甲第1号証の記載事項を総合勘案し、本件特許発明1の発明特定事項の記載振りに則って整理すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。

〇「情報センターと、該情報センターに回線11を介して接続された各ビデオテックス端末装置とから成り、
前記情報センターは、多数の画面データを各ビデオテックス端末装置に送信するものであり、
各ビデオテックス端末装置は、
前記情報センターに回線11を介して接続されたモデム/ダイヤラー回路12と、
前記モデム/ダイヤラー回路12にて受信された複数の画面データが蓄積される蓄積メモリ19と、
前記蓄積メモリ19に記憶される複数の画面データのファイル番号を表示するCRT17と、
前記CRT17に表示された複数の画面データの中から、再生する画面データを選択するキーボード24と、
前記モデム/ダイヤラー回路12を制御して前記情報センターに定期的に送信要求して、前記蓄積メモリ19に蓄積されている画面データを入れ替える端末制御回路14と、
を有し、
画面データを送信する場合、前記情報センターは、送信要求された画面データを送信し、前記送信要求された画面データは、特定のビデオテックス端末装置のみに送信され、該ビデオテックス端末装置のデータメモリ15に一時記憶され、前記蓄積メモリ19に蓄積された前記複数の画面データのうち、送信された前記送信要求された画面データと対応し、かつ前記データメモリ15に一時記憶された当該送信要求された画面データと比較して変更があった画面データのみが入れ替えられるビデオテックス通信システム。」 (以下、「引用発明1」という。)

〇「情報センターと、該情報センターに回線11を介して接続された各ビデオテックス端末装置とから成り、
前記情報センターは、多数の画面データを各ビデオテックス端末装置に送信するものであり、
各ビデオテックス端末装置は、
前記情報センターに回線11を介して接続されたモデム/ダイヤラー回路12と、
前記モデム/ダイヤラー回路12にて受信された複数の画面データが蓄積される蓄積メモリ19と、
前記蓄積メモリ19に記憶される複数の画面データのファイル番号を表示するCRT17と、
前記CRT17に表示された複数の画面データの中から、再生する画面データを選択するキーボード24と、
前記モデム/ダイヤラー回路12を制御して前記情報センターに定期的に送信要求して、前記蓄積メモリ19に蓄積されている画面データを入れ替える端末制御回路14と、
を有し、
画面データを送信する場合、前記情報センターは、送信要求された画面データを送信し、前記送信要求された画面データは、特定のビデオテックス端末装置のみに送信され、該ビデオテックス端末装置のデータメモリ15に一時記憶され、前記蓄積メモリ19に蓄積された前記複数の画面データのうち、送信された前記送信要求された画面データと対応し、かつ前記データメモリ15に一時記憶された当該送信要求された画面データと比較して変更があった画面データのみが入れ替えられ、
さらに前記キーボード24によりファイル番号が指定されたときに、端末制御回路14を介して回線11により前記情報センターに接続してオンラインにて該情報センターの保有する画面データを受信し、該画面データを前記データメモリ15に記憶し、該記憶した画面データを再生することも可能であるビデオテックス通信システム。」 (以下、「引用発明1(訂正)」という。)

イ 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証における記載事項を総合勘案すると、甲第3号証には、次のとおりの発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「発信呼あるいは着信呼に使われてない状態(無通話状態)の複数の加入者回線4と、情報送出装置2に接続された回線5(放送チャンネル)とを、時分割多重スイッチにより多重接続(N対1接続)し、該情報送出装置2から送信される情報を前記複数の加入者回線4に放送的に分配する手段を有するディジタル交換装置1に、放送順序および放送内容のデータ(放送データ)を記憶する手段と、該記憶手段に従って、番組識別番号を付与した放送データを前記放送チャンネルに送出する手段とを有する情報送出装置2と、前記加入者回線4に接続し、該加入者回線4から受信した放送データに付加されている番組識別番号を検査し、端末3の利用者が指示した番組識別番号と一致する放送データのみを受信して端末3内に取り込む手段を有する端末3とを、接続して構成するデータ放送システム。」

(2)対比
本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、その機能・構造等からみて、後者の「情報センター」は、前者の「ホスト制御機」に相当し、以下同様に、「ビデオテックス端末装置」は「端末機」に、「情報センターと、該情報センターに回線11を介して接続された各ビデオテックス端末装置」は「ホスト制御機と、これに接続された複数の端末機」に、「画面データ」は「情報」に、「多数の画面データを各ビデオテックス端末装置に送信する」は「提供される複数種の情報を各々の前記端末機に送信する」に、「情報センターに回線11を介して接続された」は「ホスト制御機に有線又は無線にて接続された」に、「モデム/ダイヤラー回路12」は「情報入力手段」に、それぞれ相当する。
また、後者の「モデム/ダイヤラー回路12にて受信された複数の画面データが蓄積される蓄積メモリ19」と、前者の「情報入力手段を介して入力された複数種の情報が蓄積され、かつ、その情報を再生する蓄積再生手段」とについて検討すると、前者の「蓄積再生手段」に関しては、1次訂正明細書等に「8の蓄積、再生手段は例えば、…(略)…もしくは、ICメモリー、…(略)…等周知の技術で達成でき」との記載(本件審決公報第10ページ第41?42行)があることからみて、当該「蓄積再生手段」は、少なくともICメモリーのようなデータの書き込み読み出しが可能なメモリー自体である場合も含むものであり、また、後者の「蓄積メモリ19」は、複数の画面データ(情報)が「蓄積」されるものであって、かつ、甲第1号証の摘記事項「第6 1(8)」の記載も参酌すれば、適宜の手段により読み出されることで、当該「蓄積メモリ19」は、蓄積された上記画面データ(情報)を「再生」するものといえるから、後者の「モデム/ダイヤラー回路12にて受信された複数の画面データが蓄積される蓄積メモリ19」は、前者の「情報入力手段を介して入力された複数種の情報が蓄積され、かつ、その情報を再生する蓄積再生手段」に相当するといえる。
以上を踏まえ、さらに両発明を対比すると、後者の「蓄積メモリ19に記憶される複数の画面データのファイル番号を表示する」は、前者の「蓄積再生手段に予め記録されている複数種の情報の識別名を表示する」に相当し、以下同様に、「CRT17」は「表示手段」に、「CRT17に表示された複数の画面データの中から、再生する画面データを選択する」は「表示手段に表示された複数種の情報の中から、提供を受ける情報を選択する」に、「キーボード24」は「情報選択手段」に、「モデム/ダイヤラー回路12を制御して前記情報センターに定期的に送信要求して」は「情報入力手段を介して前記ホスト制御機と定期的にコンタクトして」に、「蓄積メモリ19に蓄積されている画面データを入れ替える」は「蓄積再生手段に蓄積されている情報をリフレッシュする」に、「端末制御回路14」は「制御手段」に、それぞれ相当する。
また、後者の「画面データを送信する場合、前記情報センターは、送信要求された画面データを送信し、前記送信要求された画面データは、特定のビデオテックス端末装置のみに送信され、該ビデオテックス端末装置のデータメモリ15に一時記憶され、前記蓄積メモリ19に蓄積された前記複数の画面データのうち、送信された前記送信要求された画面データと対応し、かつ前記データメモリ15に一時記憶された当該送信要求された画面データと比較して変更があった画面データのみが入れ替えられ」との事項は、前者の「情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記端末機の前記制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され、前記蓄積再生手段に蓄積された前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ」との事項と、「情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、提供すべき情報を送信し、前記提供すべき情報は、端末機に送信され、前記蓄積再生手段に蓄積された前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ」との点で一致する。
そして、後者の「ビデオテックス通信システム」は、前者の「情報提供装置」に相当する。

してみれば、本件特許発明1と引用発明1とは、
「ホスト制御機と、これに接続された複数の端末機とから成り、
前記ホスト制御機は、提供される複数種の情報を各々の前記端末機に送信するものであり、
各々の前記端末機は、
前記ホスト制御機に有線又は無線にて接続された情報入力手段と、
前記情報入力手段を介して入力された複数種の情報が蓄積され、かつ、その情報を再生する蓄積再生手段と、
前記蓄積再生手段に予め記録されている複数種の情報の識別名を表示する表示手段と、
前記表示手段に表示された複数種の情報の中から、提供を受ける情報を選択する情報選択手段と、
前記情報入力手段を介して前記ホスト制御機と定期的にコンタクトして、前記蓄積再生手段に蓄積されている情報をリフレッシュする制御手段と、
を有し、
情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、提供すべき情報を送信し、前記提供すべき情報は、端末機に送信され、前記蓄積再生手段に蓄積された前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされる情報提供装置。」
である点で一致し、次の各点で相違する。

相違点1:本件特許発明1では、「情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し」、「前記端末機の前記制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され」るのに対し、引用発明1の情報センター(ホスト制御機)は、上記のような「制御信号」を送信するものではないため、ビデオテックス端末装置(端末機)の端末制御回路14(制御手段)も該制御信号に制御されるものではなく、送信要求された画面データ(提供すべき情報)は、特定のビデオテックス端末装置(端末機)のみに送信される点。

相違点2:本件特許発明1は、「蓄積再生手段に蓄積された前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ」るものであって、送信された提供すべき情報と対応する情報はすべてリフレッシュされると認められるのに対し、引用発明1では、蓄積メモリ19(蓄積再生手段)に蓄積された複数の画面データ(情報)のうち、送信された前記送信要求された画面データ(提供すべき情報)と対応し、かつ、データメモリ15に一時記憶された送信要求された画面データ(提供すべき情報)と比較して変更があった画面データ(情報)のみが入れ替えられ(リフレッシュされ)る点。

(3)判断
以下、各相違点について検討する。
ア 相違点1について
引用発明2の「情報送出装置2」は、その機能・構造等からみて、「ホスト制御機」といえ、以下同様に、「番組識別番号」は「制御信号」と、「放送データ」は「提供すべき情報」と、「送出」は「送信」と、「端末3」は「端末機」といえる。また、引用発明2のデータ放送システムが、「情報送出装置2」(ホスト制御機)と、これに接続された複数の「端末3」(端末機)とから成ることは明らかである(甲第3号証の第1図等参照)。そして、引用発明2の「端末3」は、「加入者回線4から受信した放送データに付加されている番組識別番号を検査し、端末3の利用者が指示した番組識別番号と一致する放送データのみを受信して端末3内に取り込む手段」を有していることからみて、引用発明2においても、放送データ(提供すべき情報)は、少なくとも多重接続による回線接続がなされている複数の端末3(端末機)の全てに受信(送信)され、または特定の端末3(端末機)のみに受信(送信)され得るといえる。してみれば、引用発明2の上記「取り込む手段」は、上記のような端末3(端末機)における番組識別番号(制御信号)に基づくデータ取り込みの制御を行う機能の観点からみた場合、「制御手段」といえる。
したがって、引用発明2は、「ホスト制御機と、これに接続された複数の端末機とから成り」、「情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記端末機の制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され」るデータ放送システムといえる。
ここで、引用発明1と引用発明2は、回線(引用発明1では「回線11」、引用発明2では「加入者回線4」)を通じて多数の情報を有するセンター(引用発明1では「情報センター」、引用発明2では「情報送出装置2」)から各端末(引用発明1では「ビデオテックス端末装置」、引用発明2では「端末3」)に利用者が必要とする情報を送信・提供するシステムという点において、共通の技術分野に属するものであって、また、甲第3号証の摘記事項「第6 2(3),(4)」に記載されているとおり、引用発明2は、データを必要とする端末がデータを蓄積したセンタを呼び出してデータをセンタから読み出すような引用発明1と同様な端末側から送信要求をするシステムにおいては、同時接続数に限りがあり、特に、証券取引情報やニュース等の時間と共に変化する情報であって多数の受け手に即時に伝達すべき情報を、同時に伝達することが困難であったとの課題を解決するため、情報送出装置2側から一定の放送順序に従ってデータを各端末3に同時に伝達し、端末3側では利用者が指定した必要な情報のみを受信して取り込めるような構成を採用しているものである。
以上を考慮すると、引用発明1において、具体的には、「定期的に更新される画面ファイル情報の中でも時間,日,週毎に更新される例えば株式市況,為替レート,ニュース,占い等の情報」等の利用頻度の高い情報であることが想定されている、ユーザーがファイル番号を登録した画像ファイル情報について(摘記事項「第6 1(3),(4)」等参照)、定期的に画面データ(情報)を得る際の、情報センター(ホスト制御機)からビデオテックス端末装置(端末機)への画面データ(情報)送信の構成に代えて、引用発明2の情報を送信する場合の構成を適用し、当該引用発明1の定期的な情報の入れ替え(リフレッシュ)に関し、ビデオテックス端末装置(端末機)側から送信要求をすることなく、情報センター(ホスト制御機)側から制御信号を付加した画面データ(情報)を送出し、当該制御信号を用いて、各ビデオテックス端末装置(端末機)のユーザーがファイル番号を登録した画像ファイル情報の画面データ(情報)のみを取り込むようにビデオテックス端末装置(端末機)の端末制御回路(制御手段)を制御して、画面データ(情報)が、複数のビデオテックス端末装置(端末機)の全てに送信され、または特定のビデオテックス端末装置(端末機)のみに送信される構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

なお、被請求人は、甲第1号証に記載された発明に、甲第3号証に記載された発明を適用するに当たっては、甲第1号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明の具体的な情報の提供態様が異なるため、技術分野の共通性が欠如しており組み合わせの動機付けがないと主張し(平成20年11月4日付け答弁書「6(1)イ」)、また、甲第1号証に記載された発明が「自発要求型」であり、甲第3号証に記載された発明が「受動受取型」であって、具体的な通信方式が異なること、及び組み合わせを発想させる克服すべき特別な問題がないことによる組み合せを阻害する事由が存在すると共に、両発明を組み合わせた場合には、情報センターが複数のすべての端末に放送データを送らなければならないことになる等の組み合せを阻害する事由もあることを主張している(同答弁書「6(1)ウ,エ」)。
しかし、上記のように、甲第3号証に、引用発明1と同様なシステムが有する問題の指摘と共に、その課題を解決するとの目的が記載されていることは、引用発明2を引用発明1に適用しようとする十分な動機付けといえるものであり、また、上記のような両者の組み合せによる発明が特段技術上の不合理性を生じるようなものとも認められず、被請求人が「受動受取型」と分類する引用発明2を、同様に「自発要求型」と分類する引用発明1へ適用する際、組み合わせの阻害事由が存在するとは認められない。したがって、被請求人の上記主張はいずれも採用できない。

イ 相違点2について
引用発明1において、画面データ(情報)の入れ替え(リフレッシュ)を画面データに変更があった場合のみとしているのは、蓄積メモリ19(蓄積再生手段)に蓄積された画面データ(情報)の無駄な入れ替えを行わないようにするためであることは自明である。してみれば、このような無駄な入れ替えという視点を特に考慮せず、定期的に受け取った画面データ(情報)に対応するすべての画面データ(情報)を入れ替える(リフレッシュする)ような構成とする程度のことは、当業者が適宜なし得た程度の設計変更に過ぎない。

そして、本件特許発明1の効果は、1次訂正明細書等(本件審決公報第9頁第17?18行)の「本発明の目的」として記載された事項からみて「時間と共に陳腐化する情報を安価に提供することができる」というものであり、また、本件特許発明1が情報記録媒体へのダビング手段等を備えていないことを考慮すると、1次訂正明細書等の「情報提供装置の管理者側の利点とすれば、新聞のような印刷、配送の時間が省けるため、情報のリフレッシュが早く、しかも、人手をほとんど使わずにほぼ、自動的に低コストで情報提供可能である」(本件審決公報第11頁第29?30行)というものであるが、これらの効果は、いずれも、引用発明1及び引用発明2から当業者が予測し得た程度のものであり、格別のものではない。
また、本件特許発明1の効果について、被請求人は、「請求項1、3に係る発明は、時間と共に陳腐化する情報を安価に提供することができる情報提供装置であり、欲しい最新情報が、いつでも、何処でも、迅速に入手できると共に、ホスト制御機と各端末機間の通信量を軽減することで、ホスト制御機の情報処理の負荷を低減することができ、ホスト制御機の過負荷により、往々にして市場を騒がせているシステムダウン等を未然に防止する効果も有し、高信頼、高効率のシステムを構築可能な進歩的で画期的な情報提供装置であります。」と主張している(平成21年3月18日付け口頭審理陳述要領書「5.(2)」。また、平成21年4月30日付け上申書「5.(3)」には、ホスト制御機の過負荷について同様の趣旨の主張がなされている。)。しかし、「欲しい最新情報が、いつでも、何処でも、迅速に入手できる」との効果は、1次訂正明細書等に「利用者は、該情報記録媒体13を挿入、排出口2から取り出し、該情報記録媒体13を手持ちの携帯用小型テープレコーダー等にセットすれば欲しい最新情報がいつでも、何処でも、迅速に入手できる」(本件審決公報第10ページ第34?35行)と記載されていることからみて、特に情報記録媒体の挿入排出口を備えダビング可能とした場合の効果であり、挿入排出口やダビング手段を有しない本件特許発明1の効果とは認められない。また、「ホスト制御機と各端末機間の通信量を軽減することで、ホスト制御機の情報処理の負荷を低減することができ、ホスト制御機の過負荷により、往々にして市場を騒がせているシステムダウン等を未然に防止する効果」については、公知技術である引用発明2のようなホスト側から一定の順序で情報送信を行うシステムの本来有する効果であり、また、甲第3号証の摘記事項「第6 2(4)」の記載からみて、甲第3号証においても示唆されているといえる効果に過ぎず、引用発明1における引用発明2の採用により当業者が予測し得た範囲のものであり、格別のものではない。

加えて、被請求人は、本件特許発明について、「『リフレッシュする』は、『入れ替える』の他に、“追加する”や“補充する”、“部分的に変更する”、“不要な部分を削除する”といった意味を包含します。したがいまして、リフレッシュ動作の制御とは、ホスト制御機から送信された情報を、各端末機において入れ替えるのか、追加するのか、部分的に更新するのか等を選択決定することを意味します。上述しましたように、本発明の制御信号はコマンドを含みます。制御信号は、コマンドとして、リフレッシュ信号動作の選択決定を指示する指令を含むことができます。・・・これに対し、引用発明2における『番組識別番号』は、・・・コマンドを含まない単なるデータです。したいがいまして、『番組識別番号』は、各端末機における、前述の『追加する』、『補充する』、『部分的に変更する』等、本発明による『必要に応じた』リフレッシュ動作の制御を行うことはできません。」(乙第1号証第7ページ第37行?第8ページ第29行)と主張する。
しかしながら、1次訂正明細書等には、本件特許発明のリフレッシュ動作の制御が「ホスト制御機から送信された情報を、各端末機において入れ替えるのか、追加するのか、部分的に更新するのか等を選択決定すること」であるという記載はなく、このことが1次訂正明細書等の記載から自明であると認めるに足りる根拠も見出せない。
そして、上記「1(3)ア」において、「引用発明2の『端末3』は、『加入者回線4から受信した放送データに付加されている番組識別番号を検査し、端末3の利用者が指示した番組識別番号と一致する放送データのみを受信して端末3内に取り込む手段』を有している・・・してみれば、引用発明2の上記『取り込む手段』は、上記のような端末3(端末機)における番組識別番号(制御信号)に基づくデータ取り込みの制御を行う機能の観点からみた場合、『制御手段』といえる。」と示したとおり、端末3(端末機)におけるデータ取り込みの制御を行う機能の観点からみた場合、端末3(端末機)の「取り込む手段」(制御手段)におけるデータ取り込みは「番組識別番号」により制御されているから、引用発明2の「番組識別番号」は「制御信号」といえる。
また、被請求人の上記主張は、端末3(端末機)におけるデータ取り込みの制御を行う機能の観点からみた場合の、引用発明2の「番組識別番号」についての上記理解を否定するものではない。

したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明(引用発明1)及び甲第3号証に記載された発明(引用発明2)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 本件特許発明2について
(1)甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記「1(1)ア」の「引用発明1」のとおりの発明が記載されていると認められる。

イ 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証には、上記「1(1)イ」の「引用発明2」のとおりの発明が記載されていると認められる。

(2)対比
本件特許発明2は、本件特許発明1に、「提供される情報を記録するための情報記録媒体が挿入され、前記情報の記録後に前記情報記録媒体が排出される挿入排出口と、前記蓄積再生手段にて再生された情報を、前記情報記録媒体にダビングするダビング手段と、をさらに有する」との事項を付加したものである点を考慮し、本件特許発明2と引用発明1とを対比すると、両者は、上記「1(2)」に示したとおりの点で一致すると共に同相違点1、同相違点2の点で相違し、さらに、以下の点で相違する。

相違点3:本件特許発明2が、「提供される情報を記録するための情報記録媒体が挿入され、前記情報の記録後に前記情報記録媒体が排出される挿入排出口と、前記蓄積再生手段にて再生された情報を、前記情報記録媒体にダビングするダビング手段と、をさらに有する」のに対し、甲第1号証には、これらの「情報記録媒体」、「挿入排出口」、「ダビング手段」等について記載が無く、引用発明1がこれらの構成を有するか否か不明である点。

(3)判断
相違点1、相違点2については、上記「1(3)ア」、「1(3)イ」に示したとおりであるので、以下、相違点3のみについて検討する。
ホストから送信された情報を利用者に提供する端末装置において、情報記録媒体が挿入され、情報の記録後に情報記録媒体が排出される挿入排出口やダビング手段を持つことは本件出願の出願前に周知の技術である(例えば、甲第4号証(ダビング用カセツトテープ装着口3、高速ダビング機14)、甲第5号証(ダビングを行うフロッピディスク装置9とカセットテープ書込装置11)、甲第7号証(第3ページ左下欄の「二次記憶媒体」に関する記載から、挿入排出口やダビング手段に相当する構成が示唆されている。)等参照。)。
してみれば、ホストから送信された情報を利用者に提供する端末装置の一種である引用発明1のビデオテックス端末装置に上記周知技術を適用し、情報記録媒体が挿入され、情報の記録後に情報記録媒体が排出される挿入排出口やダビング手段を備えさせることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本件特許発明2の効果については、上記「1(3)」に記載した本件特許発明1の効果に加え、1次訂正明細書等の「個人用として普及している小型テープレコーダー、またはカーステレオ等を使用することにより、さらには、利用者の、手持ちのカセットテープ、ビデオテープ等を使用して極めて安価に且つ、スピーデイーに使用者の欲している情報のみを選択して提供することが可能に成る。」(本件審決公報第11ページ23?26行)というものであり、また、1次訂正明細書等の「欲しい最新情報がいつでも、何処でも、迅速に入手できる」(本件審決公報第10ページ35行)というものであるが、これらの効果も、引用発明1、引用発明2及び周知技術から、当業者が予測し得た程度のものであり、格別のものではない。

したがって、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明(引用発明1)、甲第3号証に記載された発明(引用発明2)及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 本件特許発明3について
(1)甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明
上記「1(1)ア」での検討も踏まえ、また、特に、甲第1号証に実施例として記載されたビデオテックス端末装置においては、キーボード24から入力されたデータが端末制御回路14に供給され、当該端末制御回路14は、回線11に接続されるモデム/ダイヤラー回路12を制御してビデオテックス端末装置から情報センターへの上り通信処理を行っていることから(摘記事項「第6 1(6)」参照)、上記実施例のビデオテックス端末装置は、キーボード24によりファイル番号が指定されたときに、端末制御回路14、モデム/ダイヤラー回路12を介して回線11により前記情報センターに接続してオンラインにて該情報センターの保有する画面データを受信するものともいえる。
したがって、甲第1号証の記載事項を総合勘案し、本件特許発明3の発明特定事項の記載振りに則って整理すると、甲第1号証には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。

〇「情報センターと、該情報センターに回線11を介して接続された各ビデオテックス端末装置とから成り、
前記情報センターは、多数の画面データを各ビデオテックス端末装置に送信するものであり、
各ビデオテックス端末装置は、
前記情報センターに回線11を介して接続されたモデム/ダイヤラー回路12と、
画面データが蓄積される蓄積メモリ19と、
前記蓄積メモリ19に記憶された蓄積画面データのファイル番号を表示するCRT17と、
前記CRT17に表示された前記蓄積画面データの中から、再生する画面データを選択するキーボード24と、
を有し、
前記蓄積メモリ19は、前記モデム/ダイヤラー回路12にて受信した複数の画面データが、前記蓄積画面データとして蓄積され、その蓄積画面データの中から前記キーボード24にて選択された画面データを再生し、
前記情報センターは、画面データを送信し、前記画面データは、特定のビデオテックス端末装置のみに送信されて、該ビデオテックス端末装置のデータメモリ15に一時記憶され、前記蓄積メモリ19に蓄積された前記蓄積画面データ中の前記複数の画面データのうち、送信された前記画面データと対応し、かつ前記データメモリ15に一時記憶された前記画面データと比較して変更があった画面データのみが入れ替えられるビデオテックス通信システム。」 (以下「引用発明1’」という。)

〇「情報センターと、該情報センターに回線11を介して接続された各ビデオテックス端末装置とから成り、
前記情報センターは、多数の画面データを各ビデオテックス端末装置に送信するものであり、
各ビデオテックス端末装置は、
前記情報センターに回線11を介して接続されたモデム/ダイヤラー回路12と、
画面データが蓄積される蓄積メモリ19と、
前記蓄積メモリ19に記憶された蓄積画面データのファイル番号を表示するCRT17と、
前記CRT17に表示された前記蓄積画面データの中から、再生する画面データを選択するキーボード24と、
前記モデム/ダイヤラー回路12を制御して、前記蓄積メモリ19に蓄積されている画面データを入れ替える端末制御回路14と、
を有し、
前記蓄積メモリ19は、前記モデム/ダイヤラー回路12にて受信した複数の画面データが、前記蓄積画面データとして蓄積され、その蓄積画面データの中から前記キーボード24にて選択された画面データを再生し、
前記情報センターは、画面データを送信し、前記画面データは、特定のビデオテックス端末装置のみに送信されて、該ビデオテックス端末装置のデータメモリ15に一時記憶され、前記蓄積メモリ19に蓄積された前記蓄積画面データ中の前記複数の画面データのうち、送信された前記画面データと対応し、かつ前記データメモリ15に一時記憶された前記画面データと比較して変更があった画面データのみが入れ替えられ、
前記キーボード24によりファイル番号が指定されたとき、前記端末制御回路14、前記モデム/ダイヤラー回路12を介して回線11により前記情報センターに接続してオンラインにて該情報センターの保有する画面データを受信し、該画面データを前記データメモリ15に記憶し、該記憶した画面データを再生することも可能であるビデオテックス通信システム。」(以下「引用発明1(訂正)’」という。)

イ 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証には、上記「1(1)イ」の「引用発明2」のとおりの発明が記載されていると認められる。

(2)対比
本件特許発明3と引用発明1’とを対比すると、その機能・構造等からみて、後者の「情報センター」は、前者の「ホスト制御機」に相当し、以下同様に、「ビデオテックス端末装置」は「端末機」に、「該情報センターに回線11を介して接続された各ビデオテックス端末装置」は「これに接続された複数の端末機」に、「画面データ」は「情報」に、「多数の画面データを各ビデオテックス端末装置に送信する」は「提供される複数種の情報を各々の前記端末機に送信する」に、「情報センターに回線11を介して接続された」は「ホスト制御機に有線又は無線にて接続された」に、「モデム/ダイヤラー回路12」は「情報入力手段」に、それぞれ相当する。
また、後者の「画面データが蓄積される蓄積メモリ19」と、前者の「提供される情報が蓄積され、かつその蓄積情報を再生する蓄積再生手段」とについて検討すると、前者の「蓄積再生手段」に関しては、1次訂正明細書等に「8の蓄積、再生手段は例えば、…(略)…もしくは、ICメモリー、…(略)…等周知の技術で達成でき」との記載(本件審決公報第10ページ第41?42行)があることからみて、当該「蓄積再生手段」は、少なくともICメモリーのようなデータの書き込み読み出しが可能なメモリー自体である場合も含むものであり、また、後者の「蓄積メモリ19」は、画面データ(情報)が「蓄積」されるものであって、かつ、甲第1号証の摘記事項「第6 1(8)」の記載も参酌すれば、適宜の手段により読み出されることで、当該「蓄積メモリ19」は、蓄積された上記画面データ(情報)を「再生」するものといえるから、後者の「画面データが蓄積される蓄積メモリ19」は、前者の「提供される情報が蓄積され、かつその蓄積情報を再生する蓄積再生手段」に相当するといえる。
以上を踏まえ、さらに両発明を対比すると、後者の「蓄積画面データ」は、前者の「蓄積情報」に相当し、以下同様に、「ファイル番号」は「識別名」に、「蓄積メモリ19に記憶された蓄積画面データのファイル番号を表示する」は「蓄積再生手段に予め記録されている前記蓄積情報の識別名を表示する」に、「CRT17」は「表示手段」に、「CRT17に表示された前記蓄積画面データの中から、再生する画面データを選択する」は「表示手段に表示された前記蓄積情報の中から、提供を受ける情報を選択する」に、「キーボード24」は「情報選択手段」に、「モデム/ダイヤラー回路12にて受信した複数の画面データ」は「情報入力手段を介して入力された複数種の情報」に、「その蓄積画面データの中から前記キーボード24にて選択された画面データを再生し」は「その蓄積情報の中から前記情報選択手段にて選択された情報を再生し」に、それぞれ相当する。
また、後者の「情報センターは、画面データを送信し、前記画面データは、特定のビデオテックス端末装置のみに送信されて、該ビデオテックス端末装置のデータメモリ15に一時記憶され、前記蓄積メモリ19に蓄積された前記蓄積画面データ中の前記複数の画面データのうち、送信された前記画面データと対応し、かつ前記データメモリ15に一時記憶された前記画面データと比較して変更があった画面データのみが入れ替えられ」との事項は、前者の「ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記提供すべき情報は、前記制御信号により制御されて、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信されて、前記蓄積再生手段に蓄積された前記蓄積情報中の前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ」との事項と、「ホスト制御機は、提供すべき情報を送信し、前記提供すべき情報は、特定の端末機に送信されて、前記蓄積再生手段に蓄積された前記蓄積情報中の前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ」との点で一致する。
そして、後者の「ビデオテックス通信システム」は、前者の「情報提供装置」に相当する。

してみれば、本件特許発明3と引用発明1’とは、
「ホスト制御機と、これに接続された複数の端末機とから成り、
前記ホスト制御機は、提供される複数種の情報を各々の前記端末機に送信するものであり、
各々の前記端末機は、
前記ホスト制御機に有線又は無線にて接続された情報入力手段と、
提供される情報が蓄積され、かつその蓄積情報を再生する蓄積再生手段と、
前記蓄積再生手段に予め記録されている前記蓄積情報の識別名を表示する表示手段と、
前記表示手段に表示された前記蓄積情報の中から、提供を受ける情報を選択する情報選択手段と、
を有し、
前記蓄積再生手段は、前記情報入力手段を介して入力された複数種の情報が、前記蓄積情報として蓄積され、その蓄積情報の中から前記情報選択手段にて選択された情報を再生し、
前記ホスト制御機は、提供すべき情報を送信し、前記提供すべき情報は、特定の端末機に送信されて、前記蓄積再生手段に蓄積された前記蓄積情報中の前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされる情報提供装置。」
である点で一致し、次の各点で相違する。

相違点1’:本件特許発明3の蓄積再生手段には、情報入力手段を介して入力された複数種の情報と共に「端末機毎に固有の情報」が蓄積情報として蓄積され、再生可能とされているのに対し、引用発明1’の蓄積メモリ19(蓄積再生手段)には、ビデオテックス端末装置(端末機)毎に固有の情報が蓄積されているか否か不明である点。

相違点2’:本件特許発明3では、「ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し」、「前記提供すべき情報は、前記制御信号により制御されて、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され」るのに対し、引用発明1’の情報センター(ホスト制御機)は、上記のような「制御信号」を送信するものではなく、また、画面データ(提供すべき情報)は、特定のビデオテックス端末装置(端末機)のみに送信されるだけである点。

相違点3’:本件特許発明3は、「蓄積再生手段に蓄積された前記蓄積情報中の前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ」るものであって、送信された提供すべき情報と対応する情報はすべてリフレッシュされると認められるのに対し、引用発明1’では、蓄積メモリ19(蓄積再生手段)に蓄積された蓄積画面データ(蓄積情報)中の前記複数の画面データ(複数種の情報)のうち、送信された前記画面データ(提供すべき情報)と対応し、かつ、データメモリ15に一時記憶された該送信された画面データ(提供すべき情報)と比較して変更があった画面データ(情報)のみが入れ替えられ(リフレッシュされ)る点。

(3)判断
ア 相違点1’について
ホストから送信された情報を利用者に提供する端末装置において、端末装置毎に固有の情報を蓄積し、再生可能とすることは、本件出願の出願前に周知の技術である(例えば、甲第4号証(第3ページ左下欄「販売する番組は、…(略)…観光案内や買物情報等の固定的な情報番組であってもよい」)、甲第8号証(第3ページ左上欄「情報センタからの画像情報だけでなく、ユーザーのオリジナルな画像をも表示可能としたビデオテックス端末装置を提供しようとするものである」)等参照。)。
してみれば、ホストから送信された情報を利用者に提供する端末装置の一種である引用発明1’のビデオテックス端末装置(端末機)に、当該ビデオテックス端末装置毎に固有の情報を例えば蓄積メモリ19(蓄積再生手段)等の適宜のメモリに蓄積し、再生な可能な構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2’について
引用発明2は、「ホスト制御機と、これに接続された複数の端末機とから成り」、「情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され」るデータ放送システムといえる(「1(3)ア」における検討を参照)。
ここで、引用発明1’と引用発明2は、回線(引用発明1’では「回線11」、引用発明2では「加入者回線4」)を通じて多数の情報を有するセンター(引用発明1’では「情報センター」、引用発明2では「情報送出装置2」)から各端末(引用発明1’では「ビデオテックス端末装置」、引用発明2では「端末3」)に利用者が必要とする情報を送信・提供するシステムという点において、共通の技術分野に属するものである。また、引用発明1’は、甲第1号証の摘記事項「第6 1(3),(6)」等に記載されているとおり、具体的には、ビデオテックス端末装置から情報センターに対して画面データの送信要求を行うものであるが、甲第3号証の摘記事項「第6 2(3),(4)」に記載されているとおり、引用発明2は、データを必要とする端末がデータを蓄積したセンタを呼び出してデータをセンタから読み出すという引用発明1’と同様な端末側から送信要求をするシステムにおいては、同時接続数に限りがあり、情報を同時に伝達することが困難であったとの課題を解決するため、情報送出装置2側から一定の放送順序に従ってデータを各端末3に同時に伝達し、端末3側では利用者が指定した必要な情報のみを受信して取り込めるような構成を採用しているものである。
以上を考慮すると、引用発明1’において、画面データ(情報)を得る際の、情報センター(ホスト制御機)からビデオテックス端末装置(端末機)への情報送信の構成に代えて、引用発明2の情報送信の構成を適用し、情報センター(ホスト制御機)側から制御信号を付加した画面データ(情報)を送出し、当該制御信号に制御されることにより、画面データ(情報)が、複数のビデオテックス端末装置(端末機)の全てに送信され、または特定のビデオテックス端末装置(端末機)のみに送信される構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 相違点3’について
引用発明1’において、画面データ(情報)の入れ替え(リフレッシュ)を画面データに変更があった場合のみとしているのは、蓄積メモリ19(蓄積再生手段)に蓄積された画面データ(情報)の無駄な入れ替えを行わないようにするためであることは自明である。してみれば、このような無駄な入れ替えという視点を特に考慮せず、受け取った画面データ(情報)に対応するすべての画面データ(情報)を入れ替える(リフレッシュする)ような構成とする程度のことは、当業者が適宜なし得た程度の設計変更に過ぎない。

そして、本件特許発明3の効果は、1次訂正明細書等(本件審決公報第9ページ第19?20行)に「本発明の他の目的」として記載された事項からみて「ホスト制御機より送られる情報と、例えば端末装置が設置される地域の情報等の端末装置固有の情報とを、一台の端末装置にて選択して情報提供することが可能」というものであり、また、本件特許発明3が情報記録媒体へのダビング手段等を備えていないことを考慮すると、1次訂正明細書等(本件審決公報第11ページ第29?30行)の「情報提供装置の管理者側の利点とすれば、新聞のような印刷、配送の時間が省けるため、情報のリフレッシュが早く、しかも、人手をほとんど使わずにほぼ、自動的に低コストで情報提供可能である」というものであるが、これらの効果は、いずれも、引用発明1’、引用発明2及び周知技術から当業者が予測し得た程度のものであり、格別のものではない。
また、本件特許発明3の効果について、被請求人は、「請求項1、3に係る発明は、時間と共に陳腐化する情報を安価に提供することができる情報提供装置であり、欲しい最新情報が、いつでも、何処でも、迅速に入手できると共に、ホスト制御機と各端末機間の通信量を軽減することで、ホスト制御機の情報処理の負荷を低減することができ、ホスト制御機の過負荷により、往々にして市場を騒がせているシステムダウン等を未然に防止する効果も有し、高信頼、高効率のシステムを構築可能な進歩的で画期的な情報提供装置であります。」と主張している(平成21年3月18日付け口頭審理陳述要領書「5.(2)」。また、平成21年4月30日付け上申書「5.(3)」には、ホスト制御機の過負荷について同様の趣旨の主張がなされている。)。しかし、「欲しい最新情報が、いつでも、何処でも、迅速に入手できる」との効果は、1次訂正明細書等に「利用者は、該情報記録媒体13を挿入、排出口2から取り出し、該情報記録媒体13を手持ちの携帯用小型テープレコーダー等にセットすれば欲しい最新情報がいつでも、何処でも、迅速に入手できる」(本件審決公報第10ページ第34?35行)と記載されていることからみて、特に情報記録媒体の挿入排出口を備えダビング可能とした場合の効果であり、挿入排出口やダビング手段を有しない本件特許発明3の効果とは認められない。また、「ホスト制御機と各端末機間の通信量を軽減することで、ホスト制御機の情報処理の負荷を低減することができ、ホスト制御機の過負荷により、往々にして市場を騒がせているシステムダウン等を未然に防止する効果」については、公知技術である引用発明2のようなホスト側から一定の順序で情報送信を行うシステムの本来有する効果であり、また、甲第3号証の摘記事項「第6 2(4)」の記載からみて、甲第3号証においても示唆されているといえる効果に過ぎず、引用発明1’における引用発明2の採用により当業者が予測し得た範囲のものであり、格別のものではない。

したがって、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明(引用発明1’)、甲第3号証に記載された発明(引用発明2)及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第8 訂正発明についての判断
1 訂正発明
本件特許発明1?3の特許は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものであることは、「第7 本件特許発明についての判断」において検討したとおりであるが、念のため、訂正発明1?3について請求人が主張する無効理由を以下検討する。
訂正発明1?3は、平成21年10月22日付けの訂正審判請求書に添付された訂正明細書(以下、「2次訂正明細書」という。)及び本件特許第3001591号公報の図面(以下、「2次訂正明細書等」という。)の記載からみて、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次のとおりのものと認める。(下線部は、訂正箇所を示す。)
「【請求項1】ホスト制御機と、これに接続された複数の端末機とから成り、
前記ホスト制御機は、提供される複数種の情報を各々の前記端末機に送信するものであり、
各々の前記端末機は、
前記ホスト制御機に有線又は無線にて接続された情報入力手段と、
前記情報入力手段を介して入力された複数種の情報が蓄積され、かつ、その情報を再生する蓄積再生手段と、
前記蓄積再生手段に予め記録されている複数種の情報の識別名を表示する表示手段と、
前記表示手段に表示された複数種の情報の中から、提供を受ける情報を選択する情報選択手段と、
前記情報入力手段を介して前記ホスト制御機からの定期的なコンタクトにより、前記蓄積再生手段に蓄積されている情報をリフレッシュする制御手段と、
使用度数管理機能を有する決済手段と、
を有し、
情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記端末機の前記制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され、前記蓄積再生手段に蓄積された前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報が前記制御信号に制御されることにより必要に応じてリフレッシュされ、
さらに前記ホスト制御機が保有している情報の情報名を前記表示手段により表示し、前記情報選択手段が操作されたときに、前記制御手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御機に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し、該情報を前記蓄積再生手段に送り、該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生することも可能であることを特徴とする個人用情報提供装置。
【請求項2】請求項1において、提供される情報を記録するための複数の情報記録媒体のうちの一の情報記録媒体が挿入され、前記情報の記録後に前記一の情報記録媒体が排出される挿入排出口と、前記蓄積再生手段にて再生された情報を、前記情報記録媒体にダビングするダビング手段と、前記複数の情報記録媒体のうちの他の情報記録媒体であるICメモリーへの電気的な接続手段と、をさらに有し、前記挿入排出口および前記接続手段は前記端末機のケースの複数の面に設けられていることを特徴とする個人用情報提供装置。
【請求項3】ホスト制御機と、これに接続された複数の端末機とから成り、
前記ホスト制御機は、提供される複数種の情報を各々の前記端末機に送信するものであり、
各々の前記端末機は、
前記ホスト制御機に有線又は無線にて接続された情報入力手段と、
提供される情報が蓄積され、かつその蓄積情報を再生する蓄積再生手段と、
前記蓄積再生手段に予め記録されている前記蓄積情報の識別名を表示する表示手段と、
前記表示手段に表示された前記蓄積情報の中から、提供を受ける情報を選択する情報選択手段と、
を有し、
前記蓄積再生手段は、前記情報入力手段を介して入力された複数種の情報と、前記端末機毎に固有の情報とが、前記蓄積情報として蓄積され、その蓄積情報の中から前記情報選択手段にて選択された情報を再生し、
前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記提供すべき情報は、前記端末機の制御手段が前記制御信号により制御されることにより、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信されて、前記蓄積再生手段に蓄積された前記蓄積情報中の前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報が前記制御信号に制御されることにより必要に応じてリフレッシュされ、
前記表示手段に表示された前記蓄積情報の識別名の中から、提供を受ける情報を前記情報選択手段により選択操作し、これにより前記表示手段に表示された前記ホスト制御機の保有する情報名を選択操作したとき、前記制御手段、前記情報入力手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御機に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し、該情報を前記蓄積再生手段に送り、該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生することも可能であることを特徴とする情報提供装置。」

2 訂正発明1について
(1)甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記「第7 1(1)ア」の「引用発明1(訂正)」のとおりの発明が記載されていると認められる。
「情報センターと、該情報センターに回線11を介して接続された各ビデオテックス端末装置とから成り、
前記情報センターは、多数の画面データを各ビデオテックス端末装置に送信するものであり、
各ビデオテックス端末装置は、
前記情報センターに回線11を介して接続されたモデム/ダイヤラー回路12と、
前記モデム/ダイヤラー回路12にて受信された複数の画面データが蓄積される蓄積メモリ19と、
前記蓄積メモリ19に記憶される複数の画面データのファイル番号を表示するCRT17と、
前記CRT17に表示された複数の画面データの中から、再生する画面データを選択するキーボード24と、
前記モデム/ダイヤラー回路12を制御して前記情報センターに定期的に送信要求して、前記蓄積メモリ19に蓄積されている画面データを入れ替える端末制御回路14と、
を有し、
画面データを送信する場合、前記情報センターは、送信要求された画面データを送信し、前記送信要求された画面データは、特定のビデオテックス端末装置のみに送信され、該ビデオテックス端末装置のデータメモリ15に一時記憶され、前記蓄積メモリ19に蓄積された前記複数の画面データのうち、送信された前記送信要求された画面データと対応し、かつ前記データメモリ15に一時記憶された当該送信要求された画面データと比較して変更があった画面データのみが入れ替えられ、
さらに前記キーボード24によりファイル番号が指定されたときに、端末制御回路14を介して回線11により前記情報センターに接続してオンラインにて該情報センターの保有する画面データを受信し、該画面データを前記データメモリ15に記憶し、該記憶した画面データを再生することも可能であるビデオテックス通信システム。」

イ 甲第3号証に記載された発明
甲第1号証には、上記「第7 1(1)イ」の「引用発明2」のとおりの発明が記載されていると認められる。
「発信呼あるいは着信呼に使われてない状態(無通話状態)の複数の加入者回線4と、情報送出装置2に接続された回線5(放送チャンネル)とを、時分割多重スイッチにより多重接続(N対1接続)し、該情報送出装置2から送信される情報を前記複数の加入者回線4に放送的に分配する手段を有するディジタル交換装置1に、放送順序および放送内容のデータ(放送データ)を記憶する手段と、該記憶手段に従って、番組識別番号を付与した放送データを前記放送チャンネルに送出する手段とを有する情報送出装置2と、前記加入者回線4に接続し、該加入者回線4から受信した放送データに付加されている番組識別番号を検査し、端末3の利用者が指示した番組識別番号と一致する放送データのみを受信して端末3内に取り込む手段を有する端末3とを、接続して構成するデータ放送システム。」

(2)対比
訂正発明1と引用発明1(訂正)とを対比するに当たり、上記「第7 1(2)」における本件特許発明1と引用発明1との対比内容と重複する部分は適宜省略する。
引用発明1(訂正)の「さらに前記キーボード24によりファイル番号が指定されたときに、端末制御回路14を介して回線11により前記情報センターに接続してオンラインにて該情報センターの保有する画面データを受信し、該画面データを前記データメモリ15に記憶し、該記憶した画面データを再生することも可能である」との事項(以下、同事項を「後者事項1」という。)と、訂正発明1の「前記情報選択手段が操作されたときに、前記制御手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御機に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し、該情報を前記蓄積再生手段に送り、該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生することも可能である」との事項(以下、同事項を「前者事項1」という。)について検討すると、まず、後者事項1における「データメモリ15」と、前者事項1における「蓄積再生手段」については、前記のとおり、当該「蓄積再生手段」には、少なくともICメモリーのようなデータの書き込み読み出しが可能なメモリー自体である場合も含むものであり、また、後者事項1の「データメモリ15」も、画面データを記憶可能であり、かつ、前記「第7 1(1)ア」でも検討したように、甲第1号証の摘記事項「第6 1(6)」の記載からみて、データメモリ15に記憶された画面データは、当該データメモリ15から直接「再生」可能なように構成されているのであるから、後者事項1における「データメモリ15」は、キーボード24(情報選択手段)が操作された際にオンラインで受信する画面データを記憶、再生するという機能の点から見た場合、前者事項1における「蓄積再生手段」に相当するといえる。そうすると、後者事項1における「キーボード24によりファイル番号が指定されたとき」は、前者事項1における「情報選択手段が操作されたとき」に相当し、以下同様に、「端末制御回路14を介して回線11により前記情報センターに接続してオンラインにて該情報センターの保有する画面データを受信し」は「制御手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御手段に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し」に、「該画面データをデータメモリ15に記憶し」は「該情報を前記蓄積再生手段に送り」に、「該記憶した画面データを再生することも可能である」は「該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生することも可能である」に、それぞれ相当するから、結局、後者事項1は、前者事項1に相当しているといえる。
してみれば、訂正発明1と引用発明1(訂正)とは、
「ホスト制御機と、これに接続された複数の端末機とから成り、
前記ホスト制御機は、提供される複数種の情報を各々の前記端末機に送信するものであり、
各々の前記端末機は、
前記ホスト制御機に有線又は無線にて接続された情報入力手段と、
前記情報入力手段を介して入力された複数種の情報が蓄積され、かつ、その情報を再生する蓄積再生手段と、
前記蓄積再生手段に予め記録されている複数種の情報の識別名を表示する表示手段と、
前記表示手段に表示された複数種の情報の中から、提供を受ける情報を選択する情報選択手段と、
前記情報入力手段を介して前記ホスト制御機と定期的にコンタクトして、前記蓄積再生手段に蓄積されている情報をリフレッシュする制御手段と、
を有し、
情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、提供すべき情報を送信し、前記提供すべき情報は、端末機に送信され、前記蓄積再生手段に蓄積された前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ、
さらに前記情報選択手段が操作されたときに、前記制御手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御機に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し、該情報を前記蓄積再生手段に送り、該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生することも可能である情報提供装置。」
である点で一致し、次の各点で相違する。

相違点1(訂正):訂正発明1では、端末機の制御手段が、「前記情報入力手段を介して前記ホスト制御機からの定期的なコンタクトにより、前記蓄積再生手段に蓄積されている情報をリフレッシュする」とともに、「情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し」、「前記端末機の前記制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され」、「前記蓄積再生手段に蓄積された前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報が前記制御信号に制御されることにより必要に応じてリフレッシュされ」るのに対し、引用発明1(訂正)のビデオテックス端末装置(端末機)の端末制御回路14(制御手段)は、モデム/ダイヤラー回路12(情報入力手段)を制御して情報センター(ホスト制御機)に定期的に送信要求して、蓄積メモリ19(蓄積手段)に蓄積されている画面データ(情報)を入れ替える(リフレッシュする)とともに、情報センター(ホスト制御機)は、上記のような「制御信号」を送信するものではないため、ビデオテックス端末装置(端末機)の端末制御回路14(制御手段)も該制御信号に制御されるものではなく、送信要求された画面データ(提供すべき情報)は、特定のビデオテックス端末装置(端末機)のみに送信され、蓄積メモリ19(蓄積手段)に蓄積されている複数の画面データ(情報)のうち、送信された前記送信要求された画面データ(情報)と対応しかつ変更があった画面データ(情報)のみを入れ替える(リフレッシュする)点。

相違点2(訂正):訂正発明1は、端末機が「使用度数管理機能を有する決済手段」を有するのに対し、引用発明1(訂正)は、ビデオテックス端末装置(端末機)が「使用度数管理機能を有する決済手段」を有しているか否か不明である点。

相違点3(訂正):訂正発明1では、端末機の表示手段が、「ホスト制御機が保有している情報の情報名」も表示するのに対し、引用発明1(訂正)のCRT17(表示手段)は、情報センター(ホスト制御機)が保有している画面データ(情報)の情報名を表示するか否か不明である点。

相違点4(訂正):訂正発明1は、「個人用情報提供装置」であるのに対して、引用発明1(訂正)は、ビデオテックス通信システム(情報提供装置)が個人用であるか否か不明である点。

(3)判断
ア 相違点1(訂正)について
訂正発明1と引用発明1(訂正)との相違点1(訂正)について検討するに当たり、上記「第7 1(3)ア」における本件特許発明1と引用発明1との相違点1についての検討内容と重複する部分は適宜省略する。
引用発明2は、「ホスト制御機と、これに接続された複数の端末機とから成り」、「情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記端末機の制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され」るデータ放送システムといえる。
また、引用発明1(訂正)において、具体的には、「定期的に更新される画面ファイル情報の中でも時間,日,週毎に更新される例えば株式市況,為替レート,ニュース,占い等の情報」等の利用頻度の高い情報であることが想定されている、ユーザーがファイル番号を登録した画像ファイル情報について(摘記事項「第6 1(3),(4)」等参照)、定期的に画面データ(情報)を得る際の、情報センター(ホスト制御機)からビデオテックス端末装置(端末機)への画面データ(情報)送信の構成に代えて、引用発明2の情報を送信する場合の構成を適用し、当該引用発明1(訂正)の定期的な情報の入れ替え(リフレッシュ)に関し、ビデオテックス端末装置(端末機)側から送信要求をすることなく、情報センター(ホスト制御機)側から制御信号を付加した画面データ(情報)を定期的に送出し、ビデオテックス端末装置(端末機)の端末制御回路(制御手段)が当該制御信号に制御されることにより、各ビデオテックス端末装置(端末機)のユーザーがファイル番号を登録した画像ファイル情報の画面データ(情報)のみを取り込むようにして、画面データ(情報)が、複数のビデオテックス端末装置(端末機)の全てに送信され、または特定のビデオテックス端末装置(端末機)のみに送信される構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
しかも、引用発明1(訂正)のビデオテックス通信システムにおいて入れ替え(リフレッシュ)られる画像データ(情報)の送信要求や、引用発明2において端末3(端末機)内に取り込まれる放送データ(情報)の番組識別番号(制御信号)の指示が、利用者により必要に応じて行われることは明らかであるから、上記のように引用発明1(訂正)に引用発明2を適用する際に、引用発明1(訂正)の定期的な情報の入れ替え(リフレッシュ)を情報センター(ホスト制御機)側から送出された制御信号に制御されることにより必要に応じて行うようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。
加えて、引用発明2が、制御信号を用いて特定の端末機のみが情報を受信することも可能な構成を採用していることを考慮すると、上記のように引用発明1(訂正)に引用発明2を適用する際に、定期的な画面データ(情報)の送信時だけではなく、キーボード24(情報選択手段)による情報選択操作が行われた場合の情報センター(ホスト制御機)からの情報送信の際も含めて、引用発明2の情報送信の構成を採用することも、当業者が必要に応じて適宜なし得たことである。

イ 相違点2(訂正)について
ホストから送信された情報を利用者に提供する端末装置において、使用度数管理機能を有する決済手段を有することは本件出願の出願前に周知の技術である(例えば、甲9第号証(公衆キヤプテン端末の使用時間がコイン投入の有無に基づいて決められること。)、甲第25号証(ビデオテックスの端末装置の利用度数が金券カードまたはテレホンカードから引き落とされること。)等参照。)である。
そして、甲第1号証の摘記事項「第6 1(9)」に記載されているように、引用発明1(訂正)のビデオテックス通信システムは、回線の接続時間の料金を支払うものであるから、該料金の支払いのためにビデオテックス端末装置(端末機)に周知の使用度数管理機能を有する決済手段を設けることは、当業者が容易に想到し得たことである。

なお、被請求人は、2次訂正明細書の「決済手段は、周知の金銭登録機能、または時間管理等の使用度数管理機能であっても良い」(第6ページ第11?12行)との記載を例示し、「『または時間管理等の使用度数管理機能であっても良い』は、当時周知の家庭用電話機の料金管理と同様に、各通話の通話時間等に依る使用度数を管理し、これを1カ月等の一定期間蓄積し、所定期間終了時に一括請求する方式を記述している事は明確である。」(平成22年6月7日付け答弁書第13ページ第23?26行)と主張する。
しかしながら、2次訂正明細書等の記載を検討しても、訂正発明1に係る「使用度数管理機能を有する決済手段」を被請求人が主張するようなものと解すべき根拠やこのことが自明であると認めるに足りる根拠は見出せない。
したがって、被請求人の上記主張を採用することはできない。

ウ 相違点3(訂正)について
甲第1号証にも記載されているとおり、一般的に、ビデオテックス通信システムは、情報センターの保有する多数の画面ファイル情報のうち、ビデオテックス端末装置において選択されたものの画面データをビデオテックス端末装置に送信して、当該端末装置に表示する双方向データ通信システムであり(摘記事項「第6 1(3)」参照)、また、情報センターが保有する画面ファイル情報をビデオテックス端末装置の有する画面上から検索可能として、画面ファイル情報の情報名等を当該画面上に表示して当該画面ファイル情報を選択可能とすることも本件出願の出願前に慣用された技術である。
してみれば、引用発明1において、少なくとも、ユーザーによって登録されたファイル番号に対応する画面データ(情報)以外の情報センター(ホスト制御機)が保有する画面データ(情報)を選択可能とするために、CRT17(表示手段)上に情報センター(ホスト制御機)が保有する画面ファイル情報の情報名等を表示させる構成とすることも、当業者が必要に応じて適宜採用し得た設計的事項に過ぎない。

エ 相違点4(訂正)
甲第1号証の摘記事項「第6 1(3)」に記載されているように、引用発明1(訂正)のビデオテックス通信システム(情報提供装置)から提供されるの画面データ(情報)には、株式市況,為替レート,ニュース,占い等の個人的に利用可能な情報が含まれるから、引用発明1(訂正)のビデオテックス通信システム(情報提供装置)を個人用情報提供装置とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

訂正発明1の効果について、被請求人は、「本件特許発明1は、ホスト制御機が制御の主体となり、制御信号を用いて、各端末機のリフレッシュ動作を制御します。これにより、ホスト制御機から各端末機に送信する情報の量を必要最小限とし、これにより通信量を減らし、通信費用を下げることができます。この結果、情報の安価な提供、リフレッシュの迅速化、低コストの情報提供、ホスト制御機の負荷の低減、システムダウンの未然防止を、当業者が予測し得ない程度の顕著性をもって実現することができます。」(乙第1号証第14ページ第12?19行)と主張する。
しかしながら、引用発明2の「番組識別番号」も「制御信号」といえることは上記「第7 1(3)」のとおりであって、被請求人が主張する上記効果は引用発明1(訂正)、引用発明2及び周知技術から、当業者が予測し得た程度のものであり、格別のものではない。

したがって、訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明(引用発明1(訂正))、甲第3号証に記載された発明(引用発明2)及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである

3 訂正発明2について
(1)甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記「第7 1(1)ア」の「引用発明1(訂正)」のとおりの発明が記載されていると認められる。

イ 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証には、上記「第7 1(1)イ」の「引用発明2」のとおりの発明が記載されていると認められる。

(2)対比
訂正発明2は、訂正発明1に、「提供される情報を記録するための複数の情報記録媒体のうちの一の情報記録媒体が挿入され、前記情報の記録後に前記一の情報記録媒体が排出される挿入排出口と、前記蓄積再生手段にて再生された情報を、前記情報記録媒体にダビングするダビング手段と、前記複数の情報記録媒体のうちの他の情報記録媒体であるICメモリーへの電気的な接続手段と、をさらに有し、前記挿入排出口および前記接続手段は前記端末機のケースの複数の面に設けられている」との事項を付加したものである点を考慮し、訂正発明2と引用発明1(訂正)とを対比すると、両者は、上記「1(2)」に示したとおりの点で一致すると共に同相違点1(訂正)?4(訂正)の点で相違し、さらに、以下の点で相違する。

相違点5(訂正):訂正発明2が、「提供される情報を記録するための複数の情報記録媒体のうちの一の情報記録媒体が挿入され、前記情報の記録後に前記一の情報記録媒体が排出される挿入排出口と、前記蓄積再生手段にて再生された情報を、前記情報記録媒体にダビングするダビング手段と、前記複数の情報記録媒体のうちの他の情報記録媒体であるICメモリーへの電気的な接続手段と、をさらに有し、前記挿入排出口および前記接続手段は前記端末機のケースの複数の面に設けられている」のに対し、甲第1号証には、これらの「情報記録媒体」、「挿入排出口」、「ダビング手段」、「電気的な接続手段」等について記載が無く、引用発明1(訂正)がこれらの構成を有するか否か不明である点。

(3)判断
相違点1(訂正)?4(訂正)については、上記「1(3)ア?エ」に示したとおりであるので、以下、相違点5(訂正)のみについて検討する。
上記「第7 2(3)」に示したとおり、ホストから送信された情報を利用者に提供する端末装置において、情報記録媒体が挿入され、情報の記録後に情報記録媒体が排出される挿入排出口やダビング手段を持つことは本件出願の出願前に周知の技術である。
また、特に複数種の情報記録媒体に対応するよう端末装置を構成することも、周知の技術である(例えば、甲第4号証(情報提供装置において「ラジオ番組とテレビ番組とを複合させた自販機としてもよい」との記載があり(第3ページ左下欄)、カセットテープとビデオテープの両記録媒体にダビング可能とする点が示唆されている。)、甲第5号証(フロッピディスク装置9とカセットテープ書込装置11を備える(第3ページ左上欄)ソフトウェア販売機Sが記載されている。)等を参照。)。
加えて、情報記録媒体としてのICメモリー、及びICメモリーに情報を記録するための電気的な接続手段は、例示するまでも無く、一般に周知の技術である。
してみれば、ホストから送信された情報を利用者に提供する端末装置の一種である引用発明1(訂正)のビデオテックス端末装置に、複数種類の情報記録媒体に対応させた、当該情報記録媒体が挿入され、情報の記録後に情報記録媒体が排出される挿入排出口やダビング手段を備えさせることは、当業者が必要に応じて容易に想到し得たことであり、その際、複数種類の情報記録媒体の一種としてICメモリーを採用し、それに応じて電気的な接続手段を備えさせることも、当業者が適宜なし得た程度の設計的事項に過ぎない。
また、挿入排出口及び電気的な接続手段をどのようにビデオテックス端末装置に設けるかについては、具体的な当該装置の設計の際に当業者が適宜決定すべき事項であって、フロッピディスクやカセットテープ等の情報記録媒体の記録や再生用に挿入排出口を備えた一般の電子機器において、複数の情報記録媒体を同時に操作することを可能とするために機器のケースに当該挿入排出口や記録再生手段を複数設けること、及び、オーディオ機器において、スペースの有効利用や操作性向上の目的で情報記録媒体の挿入排出口を機器の筐体の複数の面に設けることが、いずれも普通に採用されている設計思想であることからみても、特に、引用発明1(訂正)に上記周知技術を適用する際、挿入排出口や電気的な接続手段を複数設け、これらをビデオテックス端末装置(端末機)のケースの複数の面に設けるように構成することは、当業者が適宜なし得た程度の設計的事項に過ぎない。

そして、訂正発明2の効果については、上記「1(3)」に記載した訂正発明1の効果に加え、2次訂正明細書の「個人用として普及している小型テープレコーダー、またはカーステレオ等を使用することにより、さらには、利用者の、手持ちのカセットテープ、ビデオテープ等を使用して極めて安価に且つ、スピーデイーに使用者の欲している情報のみを選択して提供することが可能に成る。」(第7ページ第8?11行)というものであり、また、2次訂正明細書の「欲しい最新情報がいつでも、何処でも、迅速に入手できる」(第6ページ第1?2行)、そして、2次訂正明細書の「ダビング時に複数個の情報記録媒体に対して同時に作用することが出来、利用者を待たせることが少なくなるほか、情報提供装置のあらゆる方向からこれを利用可能となる」(第6ページ第20?22行)というものであるが、これらの効果も、引用発明1(訂正)、引用発明2及び周知技術から、当業者が予測し得た程度のものであり、格別のものではない。

したがって、訂正発明2は、甲第1号証に記載された発明(引用発明1(訂正))、甲第3号証に記載された発明(引用発明2)及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、被請求人は、挿入排出口および電気的な接続手段を端末機のケースの複数の面に設ける点について、「訂正明細書の『解決しようとする課題及び目的』の欄には、『ソフトウェアが記録される多数の記録媒体は、販売装置内部に予め収容されており、この記録媒体の収容スペースに加えて、これを取り出し搬送する手段のスペースが販売装置内に確保されなければ成らず、販売装置が大型化、複雑化、高価格化するという問題点もある。』という問題点が明記されています。本発明の発明者が、上記問題に鑑み記録媒体の数を最小限とし、これを取り出し搬送する手段を省略し、さらに挿入排出口および接続手段を端末機のケースの複数の面に設ける構成に想到したのは、このような家庭の日常生活において使用する小型の情報提供装置を想定していたからです。」と主張すると共に(平成21年3月18日付け口頭審理陳述要領書「5.(1)オ.(イ)」)、「情報提供装置をあらゆる方向から利用可能となり、また、情報記録媒体やダビング手段の種類による使用制限がなくなり、情報提供装置が利用しやすいものとなります。さらに、ダビング手段、情報記録媒体の挿入排出口および電気的接続手段をケースのフロントパネルに集中させることなく、複数の面に分散配置することにより、ダビング手段の種類によらず、それぞれが干渉することなく、最も使い易い位置に配置でき、必要以上に各要素を密集させることもなく、配置された前記複数の手段をその特性に合わせた最適な方向から利用することができ、使い易いものとなり、情報提供装置の小型化にも有効に適応可能となります。また、デザイン面でも、機能美、使いやすさを重視した配置が可能になります」として、種々の効果があるとの主張をしている(同口頭審理陳述要領書「5(2)」)。
しかし、訂正発明2の端末機は、請求項2の記載からみて、ケースの形状が限定されたものではなく、単に挿入排出口と接続手段が端末機のケースの複数の面に設けられていることが限定されているに過ぎず、また、2次訂正明細書等には、具体的には、家庭用として設置可能である点や複数の挿入排出口2がケースの複数の面に単に並べて配置された点が開示されているに過ぎず(第1図。挿入排出口と電気的な接続手段が複数の面に設けられた具体的な態様は記載されていない)、また、2次訂正明細書には、「ダビング時に複数個の情報記録媒体に対して同時に作用することが出来、利用者を待たせることが少なくなる」及び「情報提供装置のあらゆる方向からこれを利用可能となる」という程度の効果が記載されているに止まり、上記の主張する種々の効果を奏するような配置が開示されているあるいは想定されていたと認めることはできない。
さらに、上記のように被請求人は「家庭の日常生活において使用する小型の情報提供装置を想定した」と主張しているが、一方で、願書に添付した図面の第1図には、挿入排出口2が、同図における装置前面には10箇所に、側面には3箇所に並べて配置されたものが記載されると共に、当該第1図に関して、2次訂正明細書には、「前記ケース1に少なくとも、前記情報記録媒体13の挿入、排出口2、および、コイン、カード等の挿入、排出口3、蓄積再生手段8、ダビング手段15を複数個設けていること」との記載がある(第6ページ第18?20行)ところ、通常、家庭用の装置では、このような多数の挿入排出口や他の機能を重複させて有することが必要とは考えにくく、かえって必要以上に大型化するものと考えられ、少なくとも当該第1図や該当する2次訂正明細書の記載からは、必ずしも複数の面に挿入排出口や電気的な接続手段を設けることが、家庭用のための小型の情報提供装置を想定していたことと直接結びつくものとは認められない。むしろ、上記のように被請求人が摘記する2次訂正明細書における小型化に関する「ソフトウェアが記録される多数の記録媒体は、販売装置内部に予め収容されており、この記録媒体の収容スペースに加えて、これを取り出し搬送する手段のスペースが販売装置内に確保されなければ成らず、販売装置が大型化、複雑化、高価格化するという問題点もある」との問題の記載からみて、訂正発明における小型化の視点は、商用の販売装置において、販売装置内部に記録媒体が収容されていることや、そのための搬送手段のスペース等があったことによる大型化の問題の認識に基づくものと理解することが妥当であり、この点からも、家庭用の情報提供装置を特に想定して小型化を図っているものとは認められない。
したがって、訂正発明2において、特に挿入排出口や電気的な接続手段を装置のケースの複数の面に設ける点について、被請求人が主張する上記の種々の効果については、ある程度の小型化が可能であること、複数種又は複数の記録媒体に同時にダビングが可能であること、又は複数の方向から利用できるという程度を除いて採用できない。そして、それらの効果については、引用発明1に対する上記のような周知技術や一般的な設計思想の採用により、当業者が予測し得た程度のものに過ぎない。

4 訂正発明3について
(1)甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記「第7 3(1)ア」の引用発明1(訂正)’のとおりの発明が記載されていると認められる。
「情報センターと、該情報センターに回線11を介して接続された各ビデオテックス端末装置とから成り、
前記情報センターは、多数の画面データを各ビデオテックス端末装置に送信するものであり、
各ビデオテックス端末装置は、
前記情報センターに回線11を介して接続されたモデム/ダイヤラー回路12と、
画面データが蓄積される蓄積メモリ19と、
前記蓄積メモリ19に記憶された蓄積画面データのファイル番号を表示するCRT17と、
前記CRT17に表示された前記蓄積画面データの中から、再生する画面データを選択するキーボード24と、
前記モデム/ダイヤラー回路12を制御して、前記蓄積メモリ19に蓄積されている画面データを入れ替える端末制御回路14と、
を有し、
前記蓄積メモリ19は、前記モデム/ダイヤラー回路12にて受信した複数の画面データが、前記蓄積画面データとして蓄積され、その蓄積画面データの中から前記キーボード24にて選択された画面データを再生し、
前記情報センターは、画面データを送信し、前記画面データは、特定のビデオテックス端末装置のみに送信されて、該ビデオテックス端末装置のデータメモリ15に一時記憶され、前記蓄積メモリ19に蓄積された前記蓄積画面データ中の前記複数の画面データのうち、送信された前記画面データと対応し、かつ前記データメモリ15に一時記憶された前記画面データと比較して変更があった画面データのみが入れ替えられ、
前記キーボード24によりファイル番号が指定されたとき、前記端末制御回路14、前記モデム/ダイヤラー回路12を介して回線11により前記情報センターに接続してオンラインにて該情報センターの保有する画面データを受信し、該画面データを前記データメモリ15に記憶し、該記憶した画面データを再生することも可能であるビデオテックス通信システム。」

イ 甲第3号証に記載された発明
甲第3号証には、上記「第7 1(1)イ」の「引用発明2」のとおりの発明が記載されていると認められる。

(2)対比
訂正発明3と引用発明1(訂正)’とを対比するに当たり、上記「第7 3(2)」における本件特許発明3と引用発明1’との対比と重複する部分は適宜省略する。
後者の「情報センターは、画面データを送信し、前記画面データは、特定のビデオテックス端末装置のみに送信されて、該ビデオテックス端末装置のデータメモリ15に一時記憶され、前記蓄積メモリ19に蓄積された前記蓄積画面データ中の前記複数の画面データのうち、送信された前記画面データと対応し、かつ前記データメモリ15に一時記憶された前記画面データと比較して変更があった画面データのみが入れ替えられ」との事項は、前者の「ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記提供すべき情報は、前記端末機の制御手段が前記制御信号により制御されることにより、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信されて、前記蓄積再生手段に蓄積された前記蓄積情報中の前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報が前記制御信号に制御されることにより必要に応じてリフレッシュされ」との事項と、「ホスト制御機は、提供すべき情報を送信し、前記提供すべき情報は、特定の端末機に送信されて、前記蓄積再生手段に蓄積された前記蓄積情報中の前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ」との点で一致する。
また、後者の「キーボード24によりファイル番号が指定されたとき、前記端末制御回路14、前記モデム/ダイヤラー回路12を介して回線11により前記情報センターに接続してオンラインにて該情報センターの保有する画面データを受信し、該画面データを前記データメモリ15に記憶し、該記憶した画面データを再生することも可能である」との事項(以下、同事項を「後者事項1’」という。)と、前者の「提供を受ける情報を前記情報選択手段により選択操作し、これにより前記表示手段に表示された前記ホスト制御機の保有する情報名を選択操作したとき、前記制御手段、前記情報入力手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御機に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し、該情報を前記蓄積再生手段に送り、該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生することも可能である」との事項(以下、同事項を「前者事項1’」という。)とは、上記「2(2)」の検討結果を考慮すると、「提供を受ける情報を前記情報選択手段により選択操作したとき、前記制御手段、前記情報入力手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御機に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し、該情報を前記蓄積再生手段に送り、該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生することも可能である」との点で一致する。

してみれば、訂正発明3と引用発明1(訂正)’とは、
「ホスト制御機と、これに接続された複数の端末機とから成り、
前記ホスト制御機は、提供される複数種の情報を各々の前記端末機に送信するものであり、
各々の前記端末機は、
前記ホスト制御機に有線又は無線にて接続された情報入力手段と、
提供される情報が蓄積され、かつその蓄積情報を再生する蓄積再生手段と、
前記蓄積再生手段に予め記録されている前記蓄積情報の識別名を表示する表示手段と、
前記表示手段に表示された前記蓄積情報の中から、提供を受ける情報を選択する情報選択手段と、
端末機制御手段と、
を有し、
前記蓄積再生手段は、前記情報入力手段を介して入力された複数種の情報が、前記蓄積情報として蓄積され、その蓄積情報の中から前記情報選択手段にて選択された情報を再生し、
前記ホスト制御機は、提供すべき情報を送信し、前記提供すべき情報は、特定の端末機に送信されて、前記蓄積再生手段に蓄積された前記蓄積情報中の前記複数種の情報のうち、送信された前記提供すべき情報と対応する情報がリフレッシュされ、
提供を受ける情報を前記情報選択手段により選択操作したとき、前記制御手段、前記情報入力手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御機に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し、該情報を前記蓄積再生手段に送り、該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生することも可能である情報提供装置。」
である点で一致し、次の各点で相違する。

相違点3-1(訂正):訂正発明3の蓄積再生手段には、情報入力手段を介して入力された複数種の情報と共に「端末機毎に固有の情報」が蓄積情報として蓄積され、再生可能とされているのに対し、引用発明1(訂正)’の蓄積メモリ19(蓄積再生手段)には、ビデオテックス端末装置(端末機)毎に固有の情報が蓄積されているか否か不明である点。

相違点3-2(訂正):訂正発明3では、「ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し」、「前記提供すべき情報は、前記端末機の制御手段が前記制御信号により制御されることにより、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信されて、前記蓄積再生手段に蓄積された前記前記蓄積情報中の前記複数種の情報のうち、送信された情報と対応する情報が前記制御信号に制御されることにより必要に応じてリフレッシュされ」るのに対し、引用発明1(訂正)’の情報センター(ホスト制御機)は、上記のような「制御信号」を送信するものではなく、また、画面データ(提供すべき情報)は、特定のビデオテックス端末装置(端末機)のみに送信され、蓄積メモリ19(蓄積再生手段)に蓄積された蓄積画面データ(蓄積情報)中の前記複数の画面データ(複数種の情報)のうち、送信された前記画面データ(提供すべき情報)と対応し、かつ、データメモリ15に一時記憶された該送信された画面データ(提供すべき情報)と比較して変更があった画面データ(情報)のみが入れ替えられ(リフレッシュされ)る点。

相違点3-3(訂正):訂正発明3では、「前記表示手段に表示された前記蓄積情報の識別名の中から、提供を受ける情報を前記情報選択手段により選択操作し、これにより前記表示手段に表示された前記ホスト制御機の保有する情報名を選択操作したとき、前記制御手段、前記情報入力手段を介して前記有線又は前記無線により前記ホスト制御機に接続してONラインにて該ホスト制御機の保有する情報を引き出し、該情報を前記蓄積再生手段に送り、該送られた情報を前記蓄積再生手段により再生することも可能である」のに対し、引用発明1(訂正)’は、「キーボード24によりファイル番号が指定されたとき、前記端末制御回路14、前記モデム/ダイヤラー回路12を介して回線11により前記情報センターに接続してオンラインにて該情報センターの保有する画面データを受信し、該画面データを前記データメモリ15に記憶し、該記憶した画面データを再生することも可能である」点。

(3)判断
ア 相違点3-1(訂正)について
訂正発明3と引用発明1(訂正)’の相違点3-1(訂正)は、本件特許発明3と引用発明1’との相違点1’と実質的に同じであるから、上記「第7 3(3)ア」に示したように、甲第1号証に記載された発明(引用発明1(訂正)’)及び周知技術に基いて、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点3-2(訂正)について
訂正発明3と引用発明1(訂正)’との相違点3-2(訂正)について検討するに当たり、上記「1(3)ア」における訂正発明1と引用発明1(訂正)との相違点1(訂正)についての検討内容と重複する部分は適宜省略する。
引用発明2は、「ホスト制御機と、これに接続された複数の端末機とから成り」、「情報を送信する場合、前記ホスト制御機は、制御信号及び提供すべき情報を送信し、前記端末機の制御手段は該制御信号に制御されることにより、前記提供すべき情報は、前記複数の端末機の全てに送信され、または特定の端末機のみに送信され」るデータ放送システムといえる。
上記「1(3)ア」における訂正発明1と引用発明1(訂正)との相違点1(訂正)についての検討内容を考慮すると、引用発明1(訂正)’において、画面データ(情報)を得る際の、情報センター(ホスト制御機)からビデオテックス端末装置(端末機)への情報送信の構成に代えて、引用発明2の情報送信の構成を適用し、情報センター(ホスト制御機)側から制御信号を付加した画面データ(情報)を送出し、ビデオテックス端末装置(端末機)の端末制御回路(制御手段)が当該制御信号に制御されることにより、画面データ(情報)が、複数のビデオテックス端末装置(端末機)の全てに送信され、または特定のビデオテックス端末装置(端末機)のみに送信される構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
しかも、引用発明1(訂正)’のビデオテックス通信システムにおいて入れ替え(リフレッシュ)られる画像データ(情報)の送信要求や、引用発明2において端末3(端末機)内に取り込まれる放送データ(情報)の番組識別番号(制御信号)の指示が、利用者により必要に応じて行われることは明らかであるから、上記のように引用発明1(訂正)’に引用発明2を適用する際に、引用発明1(訂正)’の情報の入れ替え(リフレッシュ)を、情報センター(ホスト制御機)側から送出された番組識別番号(制御信号)に制御されることにより必要に応じて行うようにすることは、当業者が適宜なし得たことである。

ウ 相違点3-3(訂正)について
甲第1号証にも記載されているとおり、一般的に、ビデオテックス通信システムは、情報センターの保有する多数の画面ファイル情報のうち、ビデオテックス端末装置において選択されたものの画面データをビデオテックス端末装置に送信して、当該端末装置に表示する双方向データ通信システムであり(摘記事項「第6 1(3)」参照)、また、情報センターが保有する画面ファイル情報をビデオテックス端末装置の有する画面上から検索可能として、画面ファイル情報の情報名等を当該画面上に表示して当該画面ファイル情報を選択可能とすることも本件出願の出願前に慣用された技術であることを考慮すれば、引用発明1(訂正)’において、情報センター(ホスト制御機)が保有する画面データ(情報)を選択可能とするために、CRT17(表示手段)上に情報センター(ホスト制御機)が保有する画面ファイル情報の情報名等を表示させる構成とすることは、当業者が適宜採用し得た設計的事項に過ぎない。
ここで、引用発明1(訂正)’の蓄積メモリ19(蓄積再生手段)に蓄積される蓄積画面データ(蓄積情報)は、具体的には、ユーザーが登録情報メモリ20にファイル番号を登録した画面ファイル情報の画面データであって、定期的に情報センターから送信されたものであり(摘記事項「第6 1(6)、(7)」参照)、ファイル番号を登録するのみで自動的に取得されるものではあるが、一方で、引用発明1(訂正)’の「キーボード24によりファイル番号が指定されたとき、前記端末制御回路14、前記モデム/ダイヤラー回路12を介して回線11により前記情報センターに接続してオンラインにて該情報センターの保有する画面データを受信し、該画面データを前記データメモリ15に記憶し、該記憶した画面データを再生することも可能である」との構成による情報取得等の動作によれば、定期的な情報取得によるよりもさらに新しい情報が得られることは言うまでもなく、また、摘記事項「第6 1(3)」にも記載されているとおり、引用発明1(訂正)’においても、常に最新の情報を得たいとの要求は当然に存在するものであり、さらに、甲第1号証の記載から、蓄積メモリ19(蓄積再生手段)に既に画面データが蓄積されているような画面ファイル情報についてのみ敢えて選択を不可とすべき事情も認められない。
してみれば、当該蓄積メモリ19(蓄積再生手段)に蓄積されている蓄積画面データ(蓄積情報)に関するものも含めて、CRT17(表示手段)にそのファイル番号等の識別名あるいは情報名等を表示させ、その中から画面ファイル情報が必要なものを選択した際に、必要に応じて、上記のような画面データ(情報)の取得等の動作も可能なように構成することも、当業者が適宜採用し得た事項に過ぎない。

そして、本件特許発明3、訂正発明1の効果についての検討結果を考慮すると、訂正発明3の効果は、当業者が予測し得た範囲のものであり、格別のものではない。

したがって、訂正発明3は、甲第1号証に記載された発明(引用発明1(訂正)’)、甲第3号証に記載された発明(引用発明2)及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第9 むすび
以上のとおり、本件訂正による本件特許発明1?3についての訂正は、平成6年法律第116号改正附則第6条第1項によりなお従前の例によるとされる同法第1条の規定による改正前の特許法第134条第2項ただし書の規定に適合せず、同法第134条第5項の規定において準用する同法第126条第2項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
そして、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?3についての特許は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
仮に本件訂正が認められたとしても、訂正発明1?3は、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正発明1?3についての特許は、いずれも特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、請求人が主張する訂正発明1?3の記載不備に関する無効理由について検討するまでもなく、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第162条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2009-05-29 
結審通知日 2009-06-03 
審決日 2009-06-16 
出願番号 特願平1-256825
審決分類 P 1 113・ 121- ZB (G07F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 松縄 正登加藤 昌人二ッ谷 裕子  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 豊永 茂弘
黒石 孝志
登録日 1999-11-12 
登録番号 特許第3001591号(P3001591)
発明の名称 情報提供装置  
代理人 佐川 慎悟  
代理人 中嶋 武雄  
代理人 北村 周彦  
代理人 小林 基子  

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