• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B28D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B28D
管理番号 1227928
審判番号 不服2008-31685  
総通号数 133 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-01-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-12-15 
確定日 2010-12-02 
事件の表示 特願2005-183231「フェムト秒レーザーを用いた基板の切断方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月25日出願公開、特開2006-130903〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成17年6月23日(優先権主張、平成16年11月5日、大韓民国)の出願であって、同17年6月23日付け、同20年7月11付けで手続補正がなされ、同年9月9日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年12月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同21年1月13日に特許請求の範囲を対象とする手続補正(以下「本件補正」という。)がなされ、当審において、同22年3月11日付けで審尋がなされ、同年6月15日に回答書が提出されたものである。

第2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.本願発明
本件補正は、特許請求の範囲を補正するもので、補正前後の請求項1は、以下のとおりである。

【補正前の請求項1】
「基板をステージ上に整列する段階と、
前記ステージ上に整列された基板の切断する部分にフェムト秒レーザーを照射して前記基板を約40μmの幅で切断する段階と
を備えることを特徴とするフェムト秒レーザーを用いた基板の切断方法。」

【補正後の請求項1】
「基板をステージ上に整列する段階と、
前記ステージ上に整列された基板の切断する部分にフェムト秒レーザーを照射して前記基板を40μmの幅で切断する段階とを備え、
前記フェムト秒レーザーは、フェムト秒レーザーの発信器から発生したフェムト秒レーザーを集光レンズを介して集束して、前記ステージに固定された基板の切断する部分に照射し、
前記集光レンズを介して増幅したフェムト秒レーザーは、テラ(10^(12))ワットからペタ(10^(15))ワットのピークパワーを有し、
前記フェムト秒レーザーは、1パルス当たりパルスエネルギーはマイクロジュール(μJ)からミリジュール(mJ)であり、平均出力としては1ワットであることを特徴とするフェムト秒レーザーを用いた基板の切断方法。」

上記補正は、「フェムト秒レーザー」について、「フェムト秒レーザーの発信器から発生したフェムト秒レーザーを集光レンズを介して集束して、前記ステージに固定された基板の切断する部分に照射し、前記集光レンズを介して増幅したフェムト秒レーザーは、テラ(10^(12))ワットからペタ(10^(15))ワットのピークパワーを有し、前記フェムト秒レーザーは、1パルス当たりパルスエネルギーはマイクロジュール(μJ)からミリジュール(mJ)であり、平均出力としては1ワットである」なる事項を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる改正前特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか(いわゆる「独立特許要件」)について、検討する。

2.刊行物記載の発明
原審の拒絶理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2002-324768号公報(以下「刊行物1」という。)には、以下が記載されている。

ア.段落0001
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は基板切断方法に関し、特に多数の素子を形成した半導体ウェーハを切断して半導体ペレットを製造する場合に好適する基板切断方法に関するものである。」

イ.段落0016?0018
「【0016】
【課題を解決するための手段】本発明の請求項1に記載された基板切断方法は、基板に超短パルスレーザを照射して切断することを特徴とするものである。
【0017】図4は超短パルスレーザ装置の構成ブロック図である。・・・。最終的に増幅されたパルスは、例えば、エネルギ2mJ、パルス幅130fs、繰り返し率10Hzであり、ピーク強度は15GWまで増幅される。チタンサファイアレーザのピーク強度は107kWであるから、約100,000倍に増幅されたことになる。
【0018】・・・。さらに、超短パルスレーザは、従来のCO_(2)レーザやYAGレーザの連続波レーザやパルスレーザLを照射してウェーハWを切断する方法に比較して、レーザのパルス幅が小さいので熱伝導が小さく、レーザ照射部分近傍の基板温度上昇はほとんどないので、基板の温度上昇による熱歪によるクラック発生に起因する収率低下がなくなるし、レーザを照射した部分のみに幅狭の溝を形成できるのでスクライブラインの幅も小さく設計でき、基板1枚当りの素子数を増大できる。・・・。」

ウ.段落0036?0037
「【0036】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は本発明の基板切断方法について説明するための概略構成図を示す。図1において、1は基板の一例としての厚さが50μm以下の半導体ウェーハ(以下ウェーハという)で、周知の不純物拡散等によって多数の素子2が形成されており、その裏面には半田や樹脂等の一括処理による接着剤層3が形成されている。このウェーハ1の裏面(接着剤層3側)は、粘着シートに貼り付けられることなく、図2に示すように、x-yテーブル4に吸着されている。・・・。
【0037】このようにして、ステージ4に吸着されたウェーハ1の素子2,2間のスクライブラインに沿って、チタンサファイアレーザ源によるパルス幅が1ピコ秒以下のフェムト秒レーザ7を1kHz?100kHzで繰り返し照射して切断する。すると、前述の図6(A)?(C)で説明したように、側端面が切り立った溝8が形成されて、図3に示すように、側端面2aがほぼ直角状の、かつ裏面に一括処理による接着剤層3を有する多数のペレット2が得られる。」

エ.段落0043
「【0043】実験条件
切断対象基板:シリコン基板、厚さ寸法50μm
超短パルスレーザ:チタンサファイアレーザ
パルス幅τ:120fs
中心波長λ:800nm
パルスエレルギE:0.01mJ/pulse
ワークディスタンスW.D.:100mm
レンズ焦点距離f:100mm
レーザ照射回数N:18」

これら記載を、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえ、補正発明に照らして整理すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

「基板1をx-yテーブルであるステージ4上に吸着する段階と、
前記ステージ4上に吸着された基板1のスクライブラインに沿ってフェムト秒レーザ7を照射して前記基板を従来のレーザに比較して幅狭の溝で切断する段階とを備え、
前記フェムト秒レーザ7は、チタンサファイアレーザ源から発生したフェムト秒レーザ7を、前記ステージ4に吸着された基板1の切断する部分に照射し、
前記フェムト秒レーザ7は、パルス幅130fsで15GWのピーク強度を有し、
前記フェムト秒レーザ7は、パルス幅120fsで1パルス当たりパルスエネルギEは0.01ミリジュール(mJ)であるフェムト秒レーザを用いた基板の切断方法。」

3.対比
補正発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「吸着」は補正発明の「整列」に相当し、同様に「スクライブラインに沿って」は「切断する部分に」に、「チタンサファイアレーザ源」は「フェムト秒レーザーの発信器」に、「吸着された」は「固定された」に、「ピーク強度」は「ピークパワー」に、相当する。
刊行物1発明の「従来のレーザに比較して幅狭の溝」と、補正発明の「40μmの幅」とは、「従来のレーザーに比較して幅狭の溝」である限りにおいて一致する。
刊行物1発明の「0.01ミリジュール」は、補正発明の「マイクロジュール(μJ)からミリジュール(mJ)」に含まれる。

したがって、両者は、以下の点で一致する。
「基板をステージ上に整列する段階と、
前記ステージ上に整列された基板の切断する部分にフェムト秒レーザーを照射して前記基板を従来のレーザーに比較して幅狭の溝で切断する段階とを備え、
前記フェムト秒レーザーは、フェムト秒レーザーの発信器から発生したフェムト秒レーザーを、前記ステージに固定された基板の切断する部分に照射し、
前記フェムト秒レーザーは、1パルス当たりパルスエネルギーはマイクロジュール(μJ)からミリジュール(mJ)であるフェムト秒レーザーを用いた基板の切断方法。」

そして、以下の点で相違する。
相違点1:切断溝が、補正発明では「40μmの幅」であるが、刊行物1発明では、「従来のレーザに比較して幅狭の溝」である点。
相違点2:フェムト秒レーザーが、補正発明では「集光レンズを介して集束し」、「集光レンズを介して増幅」され、ピークパワーが「テラ(10^(12))ワットからペタ(10^(15))ワット」であり、「平均出力としては1ワット」であるが、刊行物1発明では、「集光レンズ」を介するか不明であり、ピークパワーが「15GW」である点。

4.判断
相違点1について検討する。
刊行物1発明も、「従来のレーザに比較して幅狭の溝」とするものであり、この点で補正発明も同様である。
切断幅を40μmと特定する点については、切断幅をどの程度とするかは、そもそも当業者が適宜設計しうる事項である。
また、本願明細書には切断幅についての比較例が記載されておらず、切断幅を40μmとすることにより、格別な効果を奏するとも認められない。

相違点2について検討する。
レーザーを、「集光レンズを介して集束」して照射することは、審尋で引用した特開2000-312985号公報の段落0028?0029、同じく特開平9-85475号公報の請求項1、新たに引用する特開2003-1468号公報の請求項1にみられるごとく周知であり、フェムト秒レーザーにも適用可能である。
「増幅」された「ピークパワー」、「平均出力」については、前記特開平9-85475号公報の段落0016?0017、前記特開2003-1468号公報の段落0024、本願明細書の段落0066?0067に記載されているように、フェムト秒レーザーを集光レンズを介することで通常得られる程度の値であるし、さらに、ピークパワー及び平均出力の数値範囲を実験的に最適化又は好適化することは当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
よって、相違点2は格別なものではない。

また、これら相違点を総合勘案しても、格別な技術的意義が生じるとは認められない。

したがって、補正発明は、刊行物1発明、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、出願の際独立して特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、請求人は、回答書で、「今回初めて引用された引用文献2、3により、上記拒絶査定時に論点として挙げられていない事項について進歩性が無く、新たな拒絶理由通知がなされずに該事項を含む補正が補正却下されるのは承服できません」と主張し、補正案を示している。
しかし、改正前特許法第159条第2項により読み替えて適用する同法第50条但書きによれば、本件補正を却下する場合に、拒絶理由を通知する必要はないから、請求人の主張は根拠がない(参考判決、平成16年(行ケ)57号、平成15年(行ケ)475号、平成15年(行ケ)177号)。
法律上根拠のない補正案について、仮に検討したとしても、「焦点を内部に位置させる」点は、前記特開2003-1468号公報の請求項1に記載されているから、結論に変わりはない。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2.の1.【補正前の請求項1】のとおりのものと認める。

2.刊行物記載の発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物である刊行物1、及びその記載事項は、上記第2.の2.のとおりである。

3.対比
本願発明と刊行物1発明とを対比すると、各構成要素間の関係は、上記第2.の3.と同様である。
したがって、両者は、以下の点で一致する。

「基板をステージ上に整列する段階と、
前記ステージ上に整列された基板の切断する部分にフェムト秒レーザーを照射して前記基板を従来のレーザーに比較して幅狭の溝で切断する段階と
を備えることを特徴とするフェムト秒レーザーを用いた基板の切断方法。」

そして、以下の点で相違する。
相違点3:切断溝が、本願発明では「40μmの幅」であるが、刊行物1発明では、「従来のレーザに比較して幅狭の溝」である点。

4.判断
相違点3は、上記第2.の3.の相違点1と同じであるから、その判断も上記第2.の4.の相違点1におけるものと同様である。
したがって、本願発明は、刊行物1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-07-08 
結審通知日 2010-07-12 
審決日 2010-07-23 
出願番号 特願2005-183231(P2005-183231)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B28D)
P 1 8・ 121- Z (B28D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野田 達志▲高▼辻 将人  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 佐々木 一浩
千葉 成就
発明の名称 フェムト秒レーザーを用いた基板の切断方法  
代理人 加藤 伸晃  
代理人 岡部 讓  
代理人 臼井 伸一  
代理人 岡部 正夫  
代理人 越智 隆夫  
代理人 朝日 伸光  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ