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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H03H 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H03H |
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管理番号 | 1227978 |
審判番号 | 不服2008-4527 |
総通号数 | 133 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2011-01-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2008-02-26 |
確定日 | 2010-12-22 |
事件の表示 | 特願2003-563092「フローティングゲートMOSFETを用いた非線形抵抗回路」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 7月31日国際公開、WO03/63349、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本願は、平成15年1月22日(優先権主張2002年1月24日)を国際出願日とする出願であって、平成19年7月24日付けで拒絶理由が通知され、同年9月27日付けで手続補正書及び意見書が提出され、平成20年1月17日付けで拒絶査定され、これに対して同年2月26日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成19年9月27日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(以下「本願発明」という)。 「【請求項1】 多入力フローティングゲートMOSFETを用いたΛ字型の非線形抵抗回路とV字型の非線形抵抗回路を並列に接続し、前記Λ字型の非線形抵抗回路の電流と前記V字型の非線形抵抗回路の電流を加算することにより、多様なN字型電圧-電流特性を合成するとともに、前記N字型電圧-電流特性を連続的に変化させ、3次から7次までの各次数の区分線形特性で近似できる電圧-電流特性を実現することを特徴とするフローティングゲートMOSFETを用いた非線形抵抗回路。」 3.原査定の理由及び請求人の主張 (1)平成19年7月24日付けの拒絶理由通知 平成19年7月24日付けで審査官が通知した拒絶理由の概要は、次のとおりのものである。 「A.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 B.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 C.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 D.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第4号に規定する要件を満たしていない。 記 理由A-B <引用文献> 1.藤原徹哉、堀尾喜彦、松田欣也、合原一幸, フローティングゲートMOSFETを用いたN字型非線形抵抗回路, 電子情報通信学会技術研究報告, 2002年 1月22日,Vol.101,No.614,p.15-p.22 ・請求項1,4-13 ・引用文献1 ・備考 請求項1,4-13に係る非線形抵抗回路は、引用文献1に記載の非線形抵抗回路と格別相違しない。 ・・・(中略)・・・ 先行技術文献調査結果の記録 ・調査した分野 IPC H03H11/00-11/54 ・先行技術文献 1.特許第3007327号公報 2.特公昭39-3222号公報 ・参考情報 http://www.ieice.org/jpn/service/tensaitokkyo/tokkyo.html (このURLには、電子情報通信学会では発行日を公知日と する旨の記載があります。) ・・・(後略)・・・」 (2)平成19年9月27日に提出された意見書における請求人の主張 上記拒絶理由の通知に対し請求人が平成19年9月27日に手続補正書とともに提出した意見書における主張の概要は、次のとおりのものである。 「【意見の内容】 ・・・(前略)・・・ 〔D〕まず、本願発明の同一性(理由A)及び進歩性(理由B)について説明します。 今回提示された引用文献、つまり、『藤原徹哉、堀尾喜彦、松田欣也、合原一幸, フローティングゲートMOSFETを用いたN字型非線形抵抗回路,電子情報通信学会技術研究報告,2002年 1月22日, Vol. 101, No. 614, p. 15-p. 22』の発行日は、奥付きに2002年 1月22日と記載されていますが、実際には、2002年 1月29日の外部発表が初めてであった思料致します。その証拠として、(1)平成19年9月12日付けの発明者による宣言書、(2)この電子情報通信学会技術研究報告の開催者である社団法人電子情報通信学会会長による証明書、(3)本件に対応するEP出願の審査における証明書、(4)出願前公知に関する昭和51年審判第5386号からも明らかです。なお、この研究報告は、新規性に関して我が国と軌を一にするEP特許庁で一度は引用文献として挙げられましたが、上記のような当方の主張が受け入れられて拒絶理由は撤回され、EP特許第1469600号として認められました。(因みに、米国では、いわゆる12カ月ルールもあり、米国特許第7,023,264号として特許になっています)。上記(1)?(4)を手続補足書で提示します。この引用文献〔別紙A〕の発行日は、この研究報告の巻末(奥付け)〔別紙B〕には2002年1月22日と記載されていますが、実際には、この研究報告の表紙〔別紙C〕に記載されている2002年1月29日がこの論文の発表日であります。最近では、かかる事態が生じることが回避されるように改善されていますが、特に、2001?2002年の学会発表においては、奥付きの2002年1月22日に印刷があがったとしても、予約者に届くのは研究報告の前日であったということが言われています。そうであれば、本願の出願日は2002年1月24日であり、奥付きの2002年1月22日から僅かに2日後であり、特に郵送の場合、2002年1月24日までに予約者に届くことは不可能であり、届いてもせいぜい2002年1月26日?28日であると思われます。 このことは、本願発明が、日本において特許として認められるか否かの極めて重要なことなので、本件の特許出願代理人である清水守が、2007年9月18日および2007年9月19日に社団法人電子情報通信学会のサービス事業部の林和子氏に、当該電子情報通信学会技術研究報告を2002年1月22日から2002年1月24日までに予約者に配付された送り状を提示して頂きたいと申し出ましたが、プライバシーの問題もあるとのことで提示して頂けませんでした。当方としては強制的に調査する権限を持ちませんので、当方の主張に問題があるのであれば、権限をお持ちの特許庁の方で十分なる調査をお願い致します。 日本の特許法では一般には引用文献の発行日をその文献に付されている日としていますが、これはあくまでも便宜的に推定したものであり、これを覆す事由があれば、これを覆すことができることは特許法の趣旨に沿ったものであると言えます。本件は、まさにこれに当てはまり、上記引用文献の発行日は2002年1月22日とされてはいても、本件の特許出願日である2002年1月24日前に本件の内容を第三者が見ることができる状態にあったと言えるものではありません。 したがって、この引用文献は、本願の出願前に発表されたものであるとすることには問題があり、本願発明は、進歩性を有するものであることは明らかです。したがって、理由A及びBは解消したものと思料致します。 ・・・(中略)・・・ 〔G〕よって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号及び第2項の規定に該当せず、また、特許法第36条第6項第2号及び第4号に規定する要件を満たしており、特許性 を有するものであると確信しますので、別紙手続補正書を採用の上、特許査定を賜ります ようお願い申し上げます。 ・・・(後略)・・・ (3)平成20年1月17日付けの拒絶査定 上記意見書の主張を踏まえた上での審査官の平成20年1月17日付けの拒絶査定の概要は、次のとおりのものである。 「備考 本出願は、平成19年 7月24日付け拒絶理由通知書(以下、先の拒絶理由という。)に記載した理由A-Bが解消されていないため、特許を受けることができない。 出願人は意見書において、引用文献1は優先日である「2002年1月24日前に本件の内容を第三者が見ることができる状態にあったと言えるものではありません。」と主張している。そして、その証拠として、以下の(1)-(4)を提出している。 (1)平成19年9月12日付けの発明者による宣言書 (2)この電子情報通信学会技術研究報告の開催者である社団法人電子情報通信学会会長による証明書 (3)本件に対応するEP出願の審査における証明書 (4)出願前公知に関する昭和51年審判第5386号 しかし、(1)-(3)は、研究会において引用文献1に記載された論文を発表した日が優先日より後であったことを証明するものではあるが、引用文献1が頒布された日(不特定の者が見得るような状態におかれた日)が優先日より後であったことを証明するものではない。 また、(4)は引用文献に発行日が記載されているか否かを判断した事例であり、本願の審査とは事情が異なる。なぜなら、引用文献1には、発行日が明確に記載されているからである。 さらに、出願人は意見書において、引用文献1が予約者に届くのは優先日以降であったとも主張している。しかし、引用文献1が予約者に届く日がいつであったかは問題ではない。問題とすべきは、引用文献1が頒布された日がいつであったかである。 一方、引用文献1の奥付には発行日が優先日より前である2002年1月22日と明記されているので、引用文献1が頒布された日は2002年1月22日であると推定される。そして、出願人の主張を考慮しても、この推定が覆されるような事情が存在するとは認められない。 よって、出願人の主張を採用することはできない。 なお、仮に審判請求する際には、以下の(a)-(b)を参考にして下さい。 (a)審査官が電子情報通信学会に問い合わせたところ、引用文献1を含む技術研究報告の頒布された日は発行日であるとの回答を受けました(http://www.ieice.org/jpn/toukou/kenkyukai.htmlの問い合わせ先にて、2008年1月16日に確認済み。)。 (b)本願の事情と類似する事情を有する出願における拒絶査定不服審判の審決取消訴訟において、審決が取り消された事例があります(昭和48年(行ケ)第119号判決参照)。 ・・・(後略)・・・」 (4)平成20年2月26日に提出された審判請求書の「請求の理由」における請求人の主張 上記拒絶査定に対して請求人が平成20年2月26日に提出した審判請求書の「請求の理由」の概要は、次のとおりのものである。 「 【本願発明が特許されるべき理由】 ・・・(中略)・・・ 上記したように、審査官殿は、「出願人は意見書において、引用文献1が予約者に届くのは優先日以降であったとも主張している。しかし、引用文献1が予約者に届く日がいつであったかは問題ではない。問題とすべきは、引用文献1が頒布された日がいつであったかである。 一方、引用文献1の奥付には発行日が優先日より前である2002年1月22日と明記されているので、引用文献1が頒布された日は2002年1月22日であると推定される。そして、出願人の主張を考慮しても、この推定が覆されるような事情が存在するとは認められない。」としています。 しかしながら、かかる見解については、出願人は全く承服できません。その理由は以下の通りです。なお、平成19年9月27日付けで意見書にて提示した提出物件(1)平成19年9月12日付けの発明者による宣言書、(2)この電子情報通信学会技術研究報告の開催者である社団法人電子情報通信学会会長による証明書、(3)本件に対応するEP出願の審査における証明書、(4)出願前公知に関する昭和51年審判第5386号を証拠として援用したいと思います。 (A)まず、頒布について誤解があると思われます。そこで、まず、「頒布」の意義について述べます。特許法概説(第5版),吉藤 幸朔著,第73頁 第23?26行参照)によると、『「頒布され」は、「配布され」と同じ意味である。配布されない刊行物は、頒布された刊行物ではない。したがって、たとえば、配布の目的をもって印刷・製本されたが、まだ発行者の手もとにあって、配布に至らないもの、又は配布のため発送中のもの(*判決A参照)等は、頒布された刊行物ではない』とされており、「頒布」はこのように解するのが大前提であると思料いたします。 *判決A:東京高判昭和50.2.26取消集昭50年79頁(ベンジルアミン事件)は、出願前に印刷物のすべてが発行者の手許から中間取次店(購買者への発送担当店)に行き、取次店がこれを予約購買者にのみに発送したが、購買者への頒布が出願後である事案につき、その刊行物は出願前頒布されたものではない旨を判示している。 ここで、審査官殿によって引用された『藤原徹哉、堀尾喜彦、松田欣也、合原一幸,「フローティングゲートMOSFETを用いたN字型非線形抵抗回路」,電子情報通信学会技術研究報告,NLP 2001-94?100,〔非線形問題〕,2002年1月29日,社団法人 電子情報通信学会(奥付きには、2002年1月22日発行と記載あり)』(以下、引用文献1)の奥付には発行日が優先日より前である2002年1月22日と明記されていますが、これをもって、引用文献1が2002年1月22日に頒布されたとすることはできません。つまり、引用文献1が本件の特許出願の優先日である2002年1月24日前に予約購買者に頒布されたとは到底認められないからです。 その理由は、2002年1月22日に印刷が上がり、それから予約購買者がいるか否かを確定し、予約購買者がいる場合、その予約購買者に郵送により発送されたとしても、2002年1月24日前に予約購買者に引用文献1が配付されたとは到底認められないからであります。2002年?2003年当時における電子情報通信学会技術研究報告は、当該関係者によれば、予約購買者が予約しても、研究報告発表日の前日頃にしか届かなかったとった言われています。この点については、発明者による宣言書における「私の信じるところ」の拠り所となっています。かかる当時の状況からして、引用文献1が、2002年1月24日前に予約購買者に配付されたとは到底認められるものではありません。 (B)本件に関しては、引用文献1の予約購買者の有無と、予約購買者がいた場合には、その予約購買者へいつ引用文献1が発送されたかを確認するため、出願人の代理人である清水守が、2007年9月18日および2007年9月19日に社団法人電子情報通信学会へ赴き、サービス事業部の林和子氏に、引用文献1の予約購買者がいたか否か、いた場合にはその予約購買者への発送記録を見せてほしいと窓口で依頼しましたが、保管が別部署であること、プライバシーの問題があることを理由に私人である代理人には閲覧が認められませんでした。この点については、特許庁の審判官乃至審判長による職権による調査が可能であると思われますので、引用文献1の予約購買者の有無と、予約購買者がいた場合にはその予約購買者へ引用文献1がいつ発送されたのかを明確にするため、予約購買者への発送記録を職権により調査して頂きたく思います。その結果、引用文献1が予約購買者に対して2002年1月22日に発送されていれば、2002年1月23日には予約購買者に対して配付されたと認められますので、審査官殿の意見に承服せざるを得ないと思われますが、引用文献1が2002年1月23日に予約購買者に配付されることは、上記からして無理であると思われますので、現在のところ審査官殿の意見に承服することはできません。 (C)また、本件に対応するEP出願の審査における証明書に関して、当時の社団法人電子情報通信学会の事務局長の家田 信明氏によって以下のことが証明されています。 「フローティングゲートMOSFETを用いたN字型非線形抵抗回路(電子情報通信学会技術研究報告,第101巻、第614号、第15-22頁)〔別紙A〕の発行日は、この報告書の巻末(奥付け)〔別紙B〕には、2002年1月22日と記載されています。しかしながら、実際には、この報告書の表紙〔C〕に記載されている2002年1月29日がこの論文の発表日となりました。以上から、上記論文の発表日は、2002年1月29日であることをここに証明致します。」 このことからして、上記論文の発表日は、2002年1月29日であることが明白になっています。つまり、この報告書の巻末(奥付け)〔別紙B〕には、発行日として2002年1月22日と記載されているとしても、その報告書の頒布は定かではありません。むしろ、発行日は2002年1月22日と記載されていますが、実際には、上記論文の発表日は、2002年1月29日であると、論文の発表日が強調された宣言となっています。 (D)拒絶査定の備考によれば、「(4)は引用文献に発行日が記載されているか否かを判断した事例であり、本願の審査とは事情が異なる。なぜなら、引用文献1には、発行日が明確に記載されているからである。」とされています。しかし、(4)の事例は、「69.12.10」と印刷されていると、通常の審査では、その日付が公知日と見られがちであるが、そうではなく否定されているものです。本件についても事情は通じるものであり、本件においては、この報告書の巻末(奥付け)〔別紙B〕には、発行日として2002年1月22日と印刷されていますが、この審決の趣旨によれば、印刷されている2002年1月22日が即公知日であるとは言えないということになります。その意味で、第三者が見ることができた真の発行日であるか否かが審議されるべきです。 (E)釈迦に説法かと思われますが、発明が特許になるか否かの判断は発明が実に重いものであるだけに重要であり、慎重であるべきであると思われます。特に、技術的な観点での判断ではなく、本人自身の論文の先行開示であるか否かの判断にあたっては、より慎重であるべきであると思われます。国際的視点にたつと、米国においては発明者自身の発明であれば12か月ルールの適用があり、日本においては新規性喪失例外の条項がありますが、本件のように、発明者自身の発表日の前に特許出願ができる場合には、まだ、新規性喪失例外の条項を充たす書類も確定できない状態にあり、往々にして新規性喪失例外の適用の必要性がないと判断する場合があり、特許出願後に技術報告等で出願日前の日付けが印刷されていて慌てるケースがあります。本件もこのケースに該当し、上記したように、2002?2003年当時は、研究発表日の一週間前を発行日(印刷上がり日)として設定し、予約購買者がいる場合には発行日(印刷上がり日)から4?5日以内に配付するようになっていました。 かかる状況下にあった国際的にも重要な本願発明が、技術的な観点での判断ではなく、本人自身の論文の先行開示であるか否かの問題で特許にならないとすることは、技術的問題もないのに重要な発明が特許されず没してしまうこととなり、特許法の第1条(目的)である、「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与する」ことができなくなると言えます。 (F)なお、審査官殿は、以下の点について追記されました。 「(a)審査官が電子情報通信学会に問い合わせたところ、引用文献1を含む技術研究報告の頒布された日は発行日であるとの回答を受けました(http://www.ieice.org/jpn/toukou/kenkyukai.htmlの問い合わせ先にて、2008年1月16日に確認済み。)。」とのことでありますが、出願人は、このような回答では納得できませんので、上記したように、より具体的な調査をお願いします。 また、「(b)本願の事情と類似する事情を有する出願における拒絶査定不服審判の審決取消訴訟において、審決が取り消された事例があります(昭和48年(行ケ)第119号判決参照)。」と追記頂きましたので、この判決を検討いたしましたが、ますます出願人の主張が的を射ている感を深くしました。すなわち、この判決の判示事項は、以下の通りです。 『1.本願の優先権主張日は1963年3月26日であり、引用刊行物に印刷された発行日は同月25日であるが、原告の提出した証拠によれば、引用刊行物は同月25日午後、そのすべてが出版社から予約した各購読者宛郵便に付されたこと、及び各購読者がその配達を受けたのは同月27日以降であったことが認められる。 2.郵便に付された刊行物は、一般公衆たる購読者の1人がはじめて、その配達を受けるまでは、まだ公然性を帯びたということはできないから、原審決が、引用刊行物をもって、本願の優先権主張日前に公知文献であるとしたことは誤りである。』 この判決から、刊行物に発行日と記載されているからといって、公然性を帯びたということはできないと言えます。換言すれば、審査官殿の見解には誤解があり、刊行物に発行日と記載されていてもこれを持って頒布とは言えず、刊行物が実際に頒布されない以上、公然性を帯びた、つまり、公知になったとい言えないことは明白です。この昭和48年(行ケ)第119号判決をこの審判請求書の提出日と同日に手続補足書に提出させて頂きます。 上記したように、出願人は上記した(A)?(F)を理由として、本願発明の特許性を主張致します。 【むすび】 よって、上記引用文献1は、本願発明の出願日(優先日)である2002年1月24日前に頒布されたとは言えず、本願発明は、上記引用文献1によって拒絶されるべきではなく、上記引用文献が存在するとしても、特許性を有するものであると確信しますので、原査定を取り消す、この出願の発明はこれを特許すべきものとする、との審決を求める次第であります。 ・・・(後略)・・・」 4.当審の判断 (1)拒絶査定の理由の当否について 上述したように、審査官は、平成19年7月24日付けの拒絶理由通知で引用した引用文献1が特許法第29条でいう「特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物」に該当するとの認定をし、それを前提に、本願発明が、特許法第29条第1項第3号に該当するものであること、及び、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであること、を拒絶査定の理由とした(なお、上記特許法第29条の規定の適用に当たり、審査官が本願の優先権主張日を本願の特許出願の日として扱っていることは明らかであるし、本願の優先権主張が適法でないことを示す事実も見当たらないので、以下の検討においても、本願の優先権主張日を本願の特許出願の日として扱う。)。 しかしながら、当審は、審査官の上記判断を支持することはできず、拒絶査定の理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできないと判断する。 理由は以下のとおりである。 すなわち、上記引用文献1の著者名と本願の願書に記載された発明者名からみて、上記引用文献1に記載された発明のうちの少なくとも本願発明と同一に係る部分は、本願発明の発明者によってなされたものと推認されるから、仮に上記引用文献1が本願の出願前に頒布されたものであった場合であっても、その出願前における頒布が、本願の特許を受ける権利を有する者の意に反したものであった場合には、特許法第30条第2項の規定により、特許法第29条第1項及び第2項の規定の適用については、同条第1項各号の一に該当するに至らなかったものとみなされるので、上記拒絶査定の理由が正当であるためには、上記引用文献1が、「本願の特許を受ける権利を有するものの意に反することなく、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布されたもの」である必要があるが、以下の事情にかんがみると、上記引用文献1は、「本願の特許を受ける権利を有するものの意に反することなく、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布されたもの」とは認められない。 ア.下記(ア)?(ウ)の事情にかんがみると、これまでに明らかになっている事実のみからは、引用文献1の頒布が本願出願の前であったのか後であったのかは、定かでないといわざるを得ない。 (ア)一般に、発行日付のある書籍は、その発行日付の日またはそれ以前に頒布されることが多いものの、頒布が発行日付の日よりも遅れてなされる場合が皆無であるとまではいえない。 (イ)上記「3.」の「(2)」、「(4)」に転記した出願人(審判請求人)が主張する各事実に格別不合理な点はなく、それらの各事実は、引用文献1の頒布が確かに本願出願よりも後であったことまでを示すものではないが、引用文献1の頒布が本願出願よりも後であった可能性が否定できないことを示すものである。 (ウ)上記「3.」の「(3)」に転記した拒絶査定の備考欄に記載された、審査官の問い合わせに対する電子情報通信学会の回答は、回答した担当者の記憶の範囲内の最近の運用を述べたにすぎないものである可能性を否定できず、2002年の発行日付を有する引用文献1の頒布日が確かに本願の出願前であったことを証明するに足りるものとは認められない。 イ.下記(エ)?(カ)の事情にかんがみれば、仮に引用文献1の頒布が本願出願の前であった場合には、その頒布は、本願の特許を受ける権利を有するもの(本願の出願人)の意に反するものであったと推認される。 (エ)出願前に公知になった発明について特許を受けることができないことは、特許出願をする者にとっての常識であるから、特許出願をしようとする出願人が、その出願前に出願内容に係る発明が公知になることを容認する意思を有して当該発明を公知にすることは、通常では考えられない。 (オ)引用文献1の表紙の「2002年1月29日」なる記載や、平成19年9月27日付けの意見書とともに提出された、平成19年9月12日付けの発明者による宣言書、同年9月21日付けの社団法人電子情報通信学会会長による証明書、の記載等によれば、引用文献1は、2002年1月29日の研究集会においてその内容が発表されることを前提に、本願発明の発明者らによって執筆がなされ、社団法人電子情報通信学会によって発行されたものと認められ、当審に顕著な本願の出願経過によれば、本願の優先基礎となる出願は、上記引用文献1の内容の発表が予定されていた2002年1月29日よりも5日前の2002年1月24日になされたことが認められるが、それらの事実は、上記「3.」の「(4)」に転記した請求人の主張中の、「発明者自身の発表日の前に特許出願ができる場合には、まだ、新規性喪失例外の条項を充たす書類も確定できない状態にあり、往々にして新規性喪失例外の適用の必要性がないと判断する場合があり、特許出願後に技術報告等で出願日前の日付が印刷されていて慌てるケースがあります。本件もこのケースに該当し、」なる主張内容と符合するものである。 (カ)上記(エ)、(オ)の事情に照らすならば、本願の出願人や発明者らに、本願の出願前に本願発明が公知になることを容認する意思はなく、仮に引用文献1の頒布が本願出願の前であった場合には、その頒布は、本願の出願人や発明者らの意に反したものであったと考えるのが自然である。 ウ.上記ア.、イ.のことは、取りも直さず、引用文献1の頒布が本願出願の前であったのか後であったのかを更に探求するまでもなく、上記引用文献1が、「本願の特許を受ける権利を有するものの意に反することなく、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布されたもの」に該当しないことを意味している。 (2)その他の拒絶理由について 他に、本願を拒絶すべき理由を発見しない。 5.むすび 以上のとおり、拒絶査定の理由によっては、本願を拒絶すべきものとすることはできず、また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2010-11-15 |
出願番号 | 特願2003-563092(P2003-563092) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H03H)
P 1 8・ 113- WY (H03H) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 崎間 伸洋 |
特許庁審判長 |
小曳 満昭 |
特許庁審判官 |
田口 英雄 飯田 清司 |
発明の名称 | フローティングゲートMOSFETを用いた非線形抵抗回路 |
代理人 | 清水 守 |