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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B28B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B28B
管理番号 1228687
審判番号 不服2007-29680  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2007-11-01 
確定日 2010-12-16 
事件の表示 特願2001- 15875「セラミック成形体の封口方法及びセラミックフィルタの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 7月30日出願公開、特開2002-210723〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成13年1月24日の出願であって、平成19年5月22日付けで拒絶理由の起案がなされ、同年7月5日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書の提出がなされ、同年9月21日付けで拒絶査定の起案がなされ、同年11月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、同年同月20日に明細書の記載に係る手続補正書及び審判請求書の手続補正書の提出がなされ、平成22年3月10日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋の起案がなされ、その指定期間内に回答書が提出なされなかったものである。

II.平成19年11月20日付けの明細書の記載に係る手続補正についての補正却下の決定

II-1.補正却下の決定の結論
平成19年11月20日付けの明細書の記載に係る手続補正を却下する。

II-2.理由
平成19年11月20日付けの明細書の記載に係る手続補正(以下、「本補正」という場合がある。)は、同年7月5日付けの手続補正書によって補正された補正前の請求項1である
「【請求項1】 多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状のセラミック成形体の前記貫通孔の端部を、セラミック粉末を主成分とする封口用ペーストで封口するセラミック成形体の封口方法であって、
封口パターン状に開孔が形成されたマスクを用いて、上記貫通孔の端部に前記封口用ペーストの層を形成した後、
前記セラミック成形体を弾性部材からなる支持部材上に載置し、前記支持部材上に載置されたセラミック成形体に振動処理を施すことを特徴とするセラミック成形体の封口方法。」を
「【請求項1】 多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状のセラミック成形体の前記貫通孔の端部を、セラミック粉末を主成分とする封口用ペーストで封口するセラミック成形体の封口方法であって、
封口パターン状に開孔が形成されたマスクを用いて、上記貫通孔の端部に前記封口用ペーストの層を形成した後、
前記セラミック成形体を弾性部材からなる支持部材上に載置するとともに、前記セラミック成形体の両端部の左右側面を把持するチャックにより前記セラミック成形体を固定し、前記支持部材上に載置されたセラミック成形体の上面から振動処理を施すことを特徴とするセラミック成形体の封口方法。」と補正することを含むものである。
ところで、平成19年(行ケ)第10055号では、特許法17条の2第4項2号は、「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」と定めているから、同号の事項を目的とする補正とは、特許請求の範囲を減縮するだけでなく、発明を特定するために必要な事項を限定するものでなければならないと解され、また、「発明を特定するために必要な事項」とは、特許法「第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項」とあることから、特許請求の範囲中の事項であって特許を受けようとする発明を特定している事項であると解される、と判示している。
そこで、この判示事項を踏まえて上記請求項1に係る補正をみてみると、本補正は請求項1に「前記セラミック成形体の両端部の左右側面を把持するチャックにより前記セラミック成形体を固定し」なる特定事項を付加するものを含むものであって、補正前の請求項1には、「セラミック成形体を弾性部材からなる支持部材上に載置」することについて記載されているが、「セラミック成形体を固定」することについては全く記載されていない。そうすると、補正前に何ら特定されていない「セラミック成形体を固定」について、さらにその固定態様を特定する上記特定事項の付加は、発明を特定するために必要な事項を限定するものではない。
よって、本補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する事項を目的とするものではなく、さらに、同条同項第1、3、4号に規定する事項を目的とするものでないものを含むことは明らかである。
したがって、本補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
仮に、請求項1に係る本補正が特許法第17条の2第4項第2号に規定する事項を目的とするものであるとしても、以下に述べるとおり、上記補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(1)引用例
本願出願前に頒布された刊行物である特開2000-93717号公報には次の事項が記載されている。
(1-1)「【請求項5】 ハニカム構造のセラミックフィルタの端部を封口するセラミックフィルタの封口方法において、前記セラミックフィルタの端部の封口するセルに封口剤を注入し、前記セラミックフィルタをそのセル方向に振動させる(工程1)ことを特徴とするセラミックフィルタの封口方法。」(特許請求の範囲 請求項5)
(1-2)「【発明が解決しようとする課題】・・・・・・本発明・・・・・・の課題とするところは、セラミックフィルタに注入された封口剤の余盛り部分を効率よく平坦化できるとともに、余剰の封口剤でとなりのセルを塞いでしまうことのないセラミックフィルタの封口装置および封口方法を提供することにある。」(【0004】?【0005】)
(1-3)「【課題を解決するための手段】・・・・・・まず、ハニカム構造に成形されたセラミックフィルタの端部の封口するセルに封口剤が注入される。・・・・・・封口剤は、セラミックフィルタと同様の材質のものであ・・・・・る。・・・・・・セルの開口に注入された封口剤の一部は、セラミックフィルタからはみ出して山状の余盛りをなしている。この状態のセラミックフィルタが本装置のワークホルダで保持され、そして加振手段によりセル方向に振動させられる。
すると、セラミックフィルタの振動が封口剤にも伝達される。しかし封口剤は流動体であるためにセラミックフィルタよりもやや遅れて動く。このため、セラミックフィルタのセルの内面のより奥の部分にまで封口剤が接触する。セラミックフィルタはもともと封口剤と同様の材質のものを乾燥させたものであるため、セラミックフィルタと封口剤との濡れ性はよい。このことと、流動体である封口剤の表面張力とにより、封口剤がセルの内側へと引き込まれ、セラミックフィルタの端部が平坦になる。・・・・・・。
・・・・・・
セラミックフィルタの振動は、セルと平行な方向の成分を含んでいればよい。他の方向の成分を含んでいてもよい。」(【0006】?【0009】)
(1-4)「【発明の実施の形態】
・・・・・・
このセラミックフィルタ1は、セラミック粉末を溶剤で練ったスラリーを成形しそして乾燥させたものである。
・・・・・・
本実施の形態に係る封口装置10は、・・・・・・セラミックフィルタ1に対し封口剤を注入する注入装置12、12と、注入後のセラミックフィルタ1を振動させる加振部13とを有している。
・・・・・・
図4の正面図に示すように、加振部13には、振動の駆動源であるボールバイブレータ15が設けられている。
・・・・・・
ボールバイブレータ15の下部には、セラミックフィルタ1に振動を伝達するための振動プレート18が取り付けられている。
・・・・・・
図4に戻って、ボールバイブレータ15の下方の両サイドには、セラミックフィルタ1を保持するチャック20、20が設けられている。各チャック20は、図6に示すように、平行に移動して開閉する1対のツメ21、21を有している。そしてツメ21、21の内面には、ウレタン製のチャックゴム22、22が取り付けられている。これにより、未焼成のセラミックフィルタ1を破壊しないで保持できるようになっている。」(【0014】?【0019】)
(1-5)「実施の形態に係る封口装置の概略構成を示す正面図である」と説明されている図4及び「セラミックフィルタを保持するチャックを説明する図である」と説明されている図6をみると、上記(1-4)に記載された事項を窺うことができる。また、図6と図4を併せみると、図4の部材20の部材1側にとなり合う部材は部材21と推認され、図4は正面図であるから、部材21、すなわち、ツメは水平方向に対向することが見て取れる。

(2)対比・判断
(あ)上記(1-1)に記載の「セラミックフィルタの封口方法」における「封口剤」は、同(1-3)の「封口剤は、セラミックフィルタと同様の材質のものであ・・・・・る。」及び「セラミックフィルタはもともと封口剤と同様の材質のもの」との記載をみると、セラミックフィルタと同様の材質といえ、同(1-4)の「セラミックフィルタ1は、セラミック粉末を溶剤で練ったスラリーを成形しそして乾燥させたものである」との記載をみると、セラミック粉末を主成分とするものとみることができる。
(い)上記(1-1)に記載の「セラミックフィルタの封口方法」において、その実施の形態について記載されている同(1-4)の「ボールバイブレータ15の下方の両サイドには、セラミックフィルタ1を保持するチャック20、20が設けられている。各チャック20は、・・・・・・平行に移動して開閉する1対のツメ21、21を有している。」との記載をみると、セラミックフィルタは保持チャックの平行に移動して開閉する1対のツメにより保持されているといえる。
そして、上記(1-5)の視認事項より、部材21、すなわちツメは水平方向にあるといえ、水平方向に平行に移動するとみることができる。
(う)上記(1-1)に記載の「セラミックフィルタの封口方法」における「セル方向に振動させる」ことは、同(1-4)の「加振部13には、振動の駆動源であるボールバイブレータ15が設けられている。・・・・・・ボールバイブレータ15の下部には、セラミックフィルタ1に振動を伝達するための振動プレート18が取り付けられている。」との記載をみると、ボールバイブレータ下部に振動プレートが取り付けられてセラミックフィルタに振動が伝達しているから、セラミックフィルタの上部から振動が伝達しているということができる。
上記(あ)?(う)の検討を踏まえて、上記(1-1)?(1-4)の記載事項及び上記(1-5)の視認事項を補正発明の記載ぶりに則して整理して記載すると、引用例には、
「ハニカム構造のセラミックフィルタの端部を封口するセラミックフィルタの封口方法において、前記セラミックフィルタの端部の封口するセルにセラミック粉末を主成分とする封口剤を注入し、前記セラミックフィルタは保持チャックの水平方向に平行に移動して開閉する1対のツメにより保持され、前記セラミックフィルタの上部から振動が伝達し、前記セラミックフィルタをそのセル方向に振動させるセラミックフィルタの封口方法。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
ここで、補正発明と引用発明1とを対比する。
(か)補正発明の「多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状のセラミック成形体」とはどのようなものかみてみる。
本願明細書の【0019】には、「本発明のセラミック成形体の封口方法(・・・・・・)で封口処理の対象となるセラミック成形体は、セラミック粉末及びバインダー等を主成分とした混合組成物を成形することにより作製されるものである。このセラミック成形体を作製する際には、まず、セラミック粉末及びバインダー等を混合して成形体作製用の混合組成物を調製した後、・・・・・・成形体を作製する。続いて、加熱を行って成形体中の溶剤等を飛散させ・・・・・・セラミック成形体の作製を終了する。」との記載がなされているから、補正発明のセラミック成形体とは、「セラミック粉末及びバインダー等から作成され加熱を行って成形体中の溶剤等を飛散させたもの」といえる。
また、同【0056】の「本発明の封口方法によると、・・・・・・セラミック成形体を用いて製造した多孔質セラミック部材は、・・・・・・製造するセラミックフィルタの長手方向の寸法精度も優れたものとなる。」との記載をみると、補正発明のセラミック成形体からセラミックフィルタを製造するものといえる。
さらに、同【0060】に「実施例1・・・・・・ハニカム形状の炭化珪素成形体を作製した。この炭化珪素成形体は、図3に示した多孔質セラミック部材30と略同様であり」との記載がなされているから、補正発明のセラミック成形体はハニカム形状を含むものといえる。
これに対して、引用発明1の「ハニカム構造のセラミックフィルタの端部を封口するセラミックフィルタ」は、上記(1-4)の「このセラミックフィルタ1は、セラミック粉末を溶剤で練ったスラリーを成形しそして乾燥させたものである。」との記載からみて、補正発明の「セラミック成形体」と同様に「セラミック粉末及びバインダー等から作成され加熱を行って成形体中の溶剤等を飛散させたもの」といえる。また、上記(1-2)の記載からみて、引用発明1の「セラミックフィルタ」は、フィルタとして用いられるものである。
そうすると、引用発明1の「ハニカム構造のセラミックフィルタ」は、補正発明の「多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状のセラミック成形体」といえる。
(き)補正発明における「貫通孔端部」の「封口用ペーストの層」とは、本願明細書【0009】?【0010】の記載、「セラミック成形体10の貫通孔11の端部に封口用ペースト12が侵入する。・・・・・・図6(b)に示したように、形成した封口用ペーストの層52」をみると、貫通孔端部に形成した封口用ペーストとみることができる。
ハニカム構造体において、セルと貫通孔は同じものをいうことは明らかであるから(要すれば、特開平3-215374号公報の4頁左上欄12?14行、特開平7-116480号公報の【0016】、特開平7-246341号公報の【0011】を参照)、引用発明1の「セラミックフィルタの端部の封口するセルにセラミック粉末を主成分とする封口剤を注入」することは、補正発明の「貫通孔の端部を、セラミック粉末を主成分とする封口用ペーストで封口」し、「貫通孔の端部に前記封口用ペーストの層を形成」することに相当する。
(く)引用発明1の「セラミックフィルタは保持チャックの水平方向に平行に移動して開閉する1対のツメにより保持され」ることは、補正発明の「セラミック成形体の両端部の左右側面を把持するチャックにより前記セラミック成形体を固定」することに相当することは明らかである。
(け)引用発明1の「セラミックフィルタをそのセル方向に振動させる」ことは、セラミックフィルタ、すなわち、セラミック成形体に振動を与えるという点で、補正発明の「セラミック成形体に振動処理を施すこと」に相当する。
そうすると、両者は、
「多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状のセラミック成形体の前記貫通孔の端部を、セラミック粉末を主成分とする封口用ペーストで封口するセラミック成形体の封口方法であって、
上記貫通孔の端部に前記封口用ペーストの層を形成した後、
前記セラミック成形体の両端部の左右側面を把持するチャックにより前記セラミック成形体を固定し、前記セラミック成形体の上面から振動処理を施すセラミック成形体の封口方法。」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点A:貫通孔の端部に封口用ペーストの層を形成するに当たり、補正発明では封口パターン状に開孔が形成されたマスクを用いているのに対し、引用発明1ではマスクを用いていることが明記されていない点
相違点B:振動処理について、補正発明は振動の方向について特定はされていないのに対し、引用発明1はセラミックフィルタをそのセル方向に振動させるものであり、また、補正発明は、セラミック成形体を弾性部材からなる支持部材上に載置しているのに対し、引用発明1はかかる支持部材を有していない点
これら相違点について検討する。
・相違点Aについて
貫通孔の端部に封口用ペーストの層を形成するに当たり、封口パターン状に開孔が形成されたマスクを用いることは周知技術であるから(要すれば、特開平1-259905号公報、特開平8-187435号公報、特開平10-5599号公報、特開2000-280222号公報を参照)、当業者であれば、この周知技術を適宜採用することは困難なくなし得ることである。
・相違点Bについて
補正発明の振動の方向についてみてみると、本願明細書の【0054】には、「バイブレータ41の振動の方向としては特に限定されず、任意の方向に振動するものであってよい。」と記載されている。
よって、補正発明の振動の方向は引用発明1のセラミックフィルタ(セラミック成形体)のセル方向という振動の方向を含むといえ、振動の方向について、補正発明と引用発明1との間には実質的な相違点はない。
一方、上記(1-3)に「セラミックフィルタの振動は、セルと平行な方向の成分を含んでいればよい。他の方向の成分を含んでいてもよい。」と記載されている。そうすると、引用発明1の振動の方向は、セラミックフィルタ(セラミック成形体)をそのセル方向(貫通孔の方向)に平行な方向以外の振動方向を有する振動を含むものといえる。
そうすると、引用発明1において、セラミックフィルタの自重やセル方向に平行な方向以外の振動の方向成分がもたらすセラミックフィルタの撓み、この撓みに基づく変形やき裂の発生等が発生する可能性があることは明らかであるから、これらを防止するためにセラミック成形体を弾性部材からなる支持部材上に載置する程度のことは当業者であれば適宜なし得ることである。
なお、念のため、補正発明の振動の方向にセラミック成形体の貫通孔の方向に平行な方向の成分を含まない場合についても検討する。
上記(1-3)の「封口剤は流動体であるためにセラミックフィルタよりもやや遅れて動く。このため、セラミックフィルタのセルの内面のより奥の部分にまで封口剤が接触する。・・・・・・セラミックフィルタと封口剤との濡れ性はよい。このことと、流動体である封口剤の表面張力とにより、封口剤がセルの内側へと引き込まれ、セラミックフィルタの端部が平坦になる。」との記載をみると、封口剤が流動体であること、封口剤の流動性と流動体の表面張力によって、封口剤がセルの内部に引き込まれセラミックフィルタの端部が平坦になることが窺え、引用例の上記記載に接した当業者は、封口剤の流動性と流動体の表面張力を調整すれば封口剤がセルの内部に引き込まれセラミックフィルタの端部が平坦になるとの教示を得るものといえる。
一方、封口剤、すなわち、セラミックを主成分とする流動体がチキソトロピー(thixotropy)を有することは周知であり(要すれば、特開平5-228913号公報を参照)、引用発明1の封口剤に任意方向の振動を与えると、粘度が低下して流動性が変化し、その結果表面張力の影響も変わるといえることは、当業者にとって明らかである。
そうすると、封口剤がセルの内部に引き込まれセラミックフィルタの端部が平坦になるようにすべく、引用発明1において、上記教示に基づき、封口剤に任意方向の振動を与えることは当業者ならば適宜なし得ることであり、その際、セラミックフィルタの自重やセル方向に平行な方向以外の振動の方向成分がもたらすセラミックフィルタの撓み、この撓みに基づいてセラミックフィルタに変形やき裂の発生等が発生する可能性があることは明らかであるから、これを防止するためにセラミックフィルタ(セラミック成形体)を弾性部材からなる支持部材上に載置する程度のことは当業者であれば困難なくなし得ることである。

そして、上記相違点A及びBに係る補正発明の特定事項により格別顕著な作用・効果が奏されるものともいえない。

(3)むすび
よって、補正発明は引用例に記載された発明及び周知技術により当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定を満たすものとしても、本補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明
上記のとおり、平成19年11月20日付けの明細書の記載に係る手続補正は却下されたから、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成19年7月5日付けで補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものであり、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】 多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状のセラミック成形体の前記貫通孔の端部を、セラミック粉末を主成分とする封口用ペーストで封口するセラミック成形体の封口方法であって、
封口パターン状に開孔が形成されたマスクを用いて、上記貫通孔の端部に前記封口用ペーストの層を形成した後、
前記セラミック成形体を弾性部材からなる支持部材上に載置し、前記支持部材上に載置されたセラミック成形体に振動処理を施すことを特徴とするセラミック成形体の封口方法。」

IV.原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、平成19年5月22日付け拒絶理由に記載した理由2、すなわち、請求項1?4に係る発明に対して引用文献1を引用し、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない、というものである。

V.引用文献1の記載
引用文献1は、II-2.(1)において、引用例として提示した文献であり、上記(1-1)?(1-4)で摘示した事項が記載され、上記(1-5)の事項が視認される。

VI.対比・判断
II-2.(2)における上記(あ)?(う)の検討を踏まえて、上記(1-1)?(1-4)の記載事項及び上記(1-5)の視認事項を本願発明の記載ぶりに則して整理して記載すると、引用例には、
「ハニカム構造のセラミックフィルタの端部を封口するセラミックフィルタの封口方法において、前記セラミックフィルタの端部の封口するセルにセラミック粉末を主成分とする封口剤を注入し、前記セラミックフィルタをそのセル方向に振動させるセラミックフィルタの封口方法。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。
ここで、本願発明と引用発明2とを対比する。
II-2.(2)における上記(か)、(き)、及び(け)の検討を踏まえると、両者は、
「多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状のセラミック成形体の前記貫通孔の端部を、セラミック粉末を主成分とする封口用ペーストで封口するセラミック成形体の封口方法であって、
上記貫通孔の端部に前記封口用ペーストの層を形成した後、
前記セラミック成形体の上面から振動処理を施すセラミック成形体の封口方法。」である点で一致し、次の点で相違している。
相違点C:貫通孔の端部に封口用ペーストの層を形成するに当たり、本願発明では封口パターン状に開孔が形成されたマスクを用いているのに対し、引用発明2ではマスクを用いていることが明記されていない点
相違点D:振動処理について、本願発明は振動の方向について特定はされていないのに対し、引用発明2はセラミックフィルタをそのセル方向に振動させるものであり、また、本願発明は、セラミック成形体を弾性部材からなる支持部材上に載置しているのに対し、引用発明2はかかる支持部材を有していない点
そこで、これら相違点について検討すると、相違点C、Dは、それぞれ、上記相違点A、Bと同じであるから、その検討結果はII-2.(2)で述べたとおりであり、本願発明は引用文献1に記載された発明及び周知技術により当業者が容易に発明をすることができたものである。

VII.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、本願の出願日前に頒布された引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定によって特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-15 
結審通知日 2010-10-19 
審決日 2010-11-01 
出願番号 特願2001-15875(P2001-15875)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (B28B)
P 1 8・ 121- Z (B28B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増山 淳子相田 悟  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 中澤 登
深草 祐一
発明の名称 セラミック成形体の封口方法及びセラミックフィルタの製造方法  
代理人 安富 康男  
代理人 東 毅  

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