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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1229196
審判番号 不服2009-17353  
総通号数 134 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2011-02-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-16 
確定日 2010-12-24 
事件の表示 特願2006-119067「半導体レーザモジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月10日出願公開、特開2006-210951〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成12年2月3日(優先権主張平成11年2月3日、平成11年4月30日、日本国)を国際出願日とする特願2000-597873号の一部を平成18年4月24日に新たな特許出願としたものであって、平成20年11月19日付けで拒絶理由が通知され、平成21年1月26日に手続補正がなされたが同年6月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して同年9月16日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日に手続補正がなされたものである。(以下、この平成21年9月16日になされた手続補正を「本件補正」という。)

II.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法第1条による改正前の特許法(以下「平成14年改正前特許法」という。)第17条の2第1項第3号に掲げる場合においてする補正であって、本願特許請求の範囲の請求項1を
「【請求項1】
歪み多重量子井戸構造から成る活性層を含む半導体の積層構造が基板の上に形成され、共振器長と低反射膜の反射率とを設計パラメータとし、
前記共振器長が1000μmより長く1800μm以下であり、
一方の端面に反射率が3%以下の前記低反射膜が形成され、他方の端面に反射率が90%以上の高反射膜が形成されており、
発振レーザ光の波長帯域が1200?1500nmであって、発熱量が2.5W以上である埋込み型半導体レーザ素子と、
前記半導体レーザ素子を上部に装荷し、排熱断面積が30mm^(2)以上であり、かつ対数が40対以上50対以下であるペルチェ素子から成る冷却装置と、
前記半導体レーザ素子と前記冷却装置を内部に封入するパッケージと、
前記半導体レーザ素子の前記一方の端面に配置された少なくとも1個のレンズと、
前記レンズを介して、前記半導体レーザ素子の前記一方の端面に対向配置された光ファイバを有し、
前記光ファイバからの光出力が180mW以上であることを特徴とする半導体レーザモジュール。」
と補正することを含むものであり、平成14年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認められるので、以下に、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)について独立特許要件の検討を行う。

2.引用例
原査定の拒絶理由に引用された特開平9-275240号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに次の記載がある。

「【0024】<実施例3>図8は実施例1とほぼ同様の手法で波長1.48μm帯で発振する高出力エルビウム添加ファイバ増幅器用励起光源を作製した一例である。n型(100)InP半導体基板61上に実施例1と同様の手法によりn型InPバッファ層1.0μm、n型InGaAsP第二光導波路層(組成波長1.10μm)0.04μm62、n型InPスペーサ層0.2μm63、n型InGaAsP下側ガイド層(組成波長1.10μm)0.05μm、6.0nm厚の1.0%圧縮歪を有するInGaAsP(組成波長1.45μm)を井戸層、12nm厚のInGaAsP(組成波長1.20μm)を障壁層とする5周期の多重量子井戸活性層、InGaAsP(組成波長1.10μm)光導波路層0.10μmからなる積層体64、p型InPクラッド層3.8μm65、を含む多層基板を形成する。
【0025】次に実施例1と同じ手法によりテ-パ状メサストライプ、補助ガイドストライプを形成する。横幅狭窄テーパ部の長さは250μm、直線部の活性層幅1.5μm、テ-パ-部先端での活性層幅は0.1μm以下に設定する。続いて、実施例1と同じ手法で埋め込み型レーザ構造に加工する。劈開工程によりテ-パ部250μmを含む共振器長1200μmの素子に切り出した後、前端面に反射率1%の低反射膜、後端面に反射率95%の高反射率膜を公知の手法により形成した。
【0026】作製した素子は室温、連続条件においてしきい値25?30mA、発振効率0.45?0.50W/Aと良好な発振特性を示した。また、動作電流1.2Aにおいて最高出力400mWを得た。動作出力400mWでのビーム広がり角度は水平、垂直方向とも約10度であった。この結果ファイバへの結合損失は、平均で1dBとなり、最高モジュール出力は320mWとなった。また、素子の長期信頼性を70℃、200mWの条件下で評価したところ20万時間以上の推定寿命を確認した。」

以上の記載によれば、引用例には、
「InP半導体基板61上に、1.0%圧縮歪を有するInGaAsP(組成波長1.45μm)を井戸層、InGaAsP(組成波長1.20μm)を障壁層とする5周期の多重量子井戸活性層を含む多層基板を形成し、埋め込み型レーザ構造に加工し、共振器長1200μmの素子に切り出し、前端面に反射率1%の低反射膜、後端面に反射率95%の高反射率膜を形成したレーザ素子であって、該レーザ素子は、動作電流1.2Aにおいて出力が400mWであり、ファイバに結合したモジュール出力が320mWである、波長1.48μm帯で発振する高出力エルビウム添加ファイバ増幅器用励起光源に用いられるレーザ素子。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3.対比
本願補正発明と引用発明を対比する。

ア 引用発明は、InP半導体基板上に形成された多重量子井戸活性層を含む多層基板を加工して埋め込み型レーザ構造としたものであり、その「多重量子井戸活性層」は井戸層が「1.0%圧縮歪」を有しているから、本願補正発明の半導体レーザ素子と同様に「歪み多重量子井戸構造から成る活性層を含む半導体の積層構造が基板の上に形成され」たものといえる。

イ 引用発明において、「共振器長」及び「(低反射膜の)反射率」がレーザ素子としての特性に影響を与えることは当業者に明らかであり、これらは、本願補正発明と同様に「設計パラメータ」であるといえる。

ウ 引用発明の「共振器長」は、「1200μm」であるから、本願補正発明の「1000μmより長く1800μm以下」との事項を充足する。

エ 引用発明は、「前端面に反射率1%の低反射膜、後端面に反射率95%の高反射率膜」が形成されているから、本願補正発明のレーザ素子と同様に「一方の端面に反射率が3%以下の前記低反射膜が形成され、他方の端面に反射率が90%以上の高反射膜が形成」されたものといえる。

オ 引用発明は、「波長1.48μm帯で発振する」から、本願補正発明と同様に「発振レーザ光の波長帯域が1200?1500nm」であるといえる。

カ 本願補正発明の「発熱量が2.5W以上である」点について、本願明細書の段落【0035】には、「なお、この実施例素子は、駆動電圧2.5V、駆動電流1.1Aにおいて端面光出力280mWで動作する半導体レーザ素子である。したがって、この実施例素子の発熱量(QLD)は1.1(A)×2.5(V)-0.28(≒0.3)W≒2.5Wとなる。」と記載されている。
一方、引用発明のレーザ素子は、「出力が400mW」であり、本願補正発明の実施例素子の出力が280mWであるのに対し、出力が1.4倍も大きいのであるから、引用発明の発熱量が本願補正発明の実施例素子の発熱量である2.5Wより大きいであろうことは明らかである。
仮に、引用発明の発熱量が2.5Wより小さいならば、引用発明のレーザ素子の発光効率は、本願補正発明の実施例素子の発光効率に比べて、格段に優れたものとなるが、引用発明のレーザ素子の方が本願補正発明の実施例素子に比べて、発光効率が格段に優れているとする格別の事情を認めることはできない。
(ちなみに、本願明細書の段落【0024】に記載される本願補正発明の実施例素子も引用発明のレーザ素子も、ともに、n-InP基板上にGaInAsPでなる5周期の歪み多重量子井戸活性層が形成された埋め込み型レーザ素子である。)

キ 引用発明は、InP半導体基板に形成された多層基板を埋め込み型レーザ構造に加工したものであるから、本願補正発明のレーザ素子と同様に「埋込み型半導体レーザ素子」であるといえる。

以上のことから、本願補正発明と引用発明は、ともに、
「歪み多重量子井戸構造から成る活性層を含む半導体の積層構造が基板の上に形成され、共振器長と低反射膜の反射率とを設計パラメータとし、
前記共振器長が1000μmより長く1800μm以下であり、
一方の端面に反射率が3%以下の前記低反射膜が形成され、他方の端面に反射率が90%以上の高反射膜が形成されており、
発振レーザ光の波長帯域が1200?1500nmであって、発熱量が2.5W以上である埋込み型半導体レーザ素子」を有する点で一致する。

一方、次の点で相違する。
本願補正発明は、
「前記半導体レーザ素子を上部に装荷し、排熱断面積が30mm^(2)以上であり、かつ対数が40対以上50対以下であるペルチェ素子から成る冷却装置と、
前記半導体レーザ素子と前記冷却装置を内部に封入するパッケージと、
前記半導体レーザ素子の前記一方の端面に配置された少なくとも1個のレンズと、
前記レンズを介して、前記半導体レーザ素子の前記一方の端面に対向配置された光ファイバを有し、
前記光ファイバからの光出力が180mW以上である半導体レーザモジュール。」とされているのに対し、引用発明は、このような半導体レーザモジュールとされていない点。

4.相違点についての検討
励起光源用の半導体レーザ素子を用いるにあたって、
「半導体レーザ素子を上部に装荷するペルチェ素子から成る冷却装置と、
前記半導体レーザ素子と前記冷却装置を内部に封入するパッケージと、
前記半導体レーザ素子の前記一方の端面に配置された少なくとも1個のレンズと、
前記レンズを介して、前記半導体レーザ素子の前記一方の端面に対向配置された光ファイバを有する半導体レーザモジュール。」とすることは、例えば、特開平10-62654号公報(図1及び段落【0004】の記載参照。)、特開平10-293234号公報(図1及び段落【0017】?【0023】の記載参照。)、特開平10-256672号公報(例えば、図10及び段落【0060】?【0062】の記載参照。)及び特開平10-170767号公報(例えば、図2(d)及び段落【0074】?【0078】の記載参照。)に記載されているように周知の技術事項であり、引用発明のレーザ素子を用いて上記の構成を有する半導体レーザモジュールとすることに困難性は認められない。
その際、ペルチェ素子の排熱断面積をどの程度にするか、また、その対数をどの程度にするかは、単なる設計事項にすぎない。
そして、引用発明のレーザ素子は、ファイバに結合したモジュール出力が320mWであるから、引用発明のレーザ素子を上記の半導体レーザモジュールとしたものが本願補正発明の「光ファイバからの光出力が180mW以上である」との事項を充足することは明らかである。
以上のことから、結局、本願補正発明は、引用発明のレーザ素子を上記周知の半導体レーザモジュールとして構成することにより、当業者が容易に発明できたものと認められる。

また、本願補正発明が奏する効果についても、上記引用例に記載された事項及び上記周知の技術事項に基づいて当業者が予測可能なものであって、格別のものとはいえない。

なお、請求人は、ペルチェ素子の対数の下限値及び上限値を本願補正発明のごとく設定することについて、当業者が容易に想到し得るものでない旨の主張をしているが、対数が少なすぎれば十分な冷却能力が得られないであろうこと、また、多すぎれば無駄となるであろうことは当業者に明らかであり、採用する対数を決定するにあたり、これらのことを勘案して、本願補正発明が規定する範囲内の対数とすることに格別の困難性は認められない。

5.むすび
以上のとおりであって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるので、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、平成14年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するので、同法第159条
1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

III.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成21年1月26日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項によって特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
歪み多重量子井戸構造から成る活性層を含む半導体の積層構造が基板の上に形成され、
共振器長と低反射膜の反射率とを設計パラメータとし、
前記共振器長が1000μmより長く1800μm以下であり、
一方の端面に反射率が3%以下の前記低反射膜が形成され、他方の端面に反射率が90%以上の高反射膜が形成されており、
発振レーザ光の波長帯域が1200?1500nmであって、発熱量が2.5W以上である埋込み型半導体レーザ素子と、
前記半導体レーザ素子を上部に装荷し、排熱断面積が30mm^(2)以上であるペルチェ素子から成る冷却装置と、
前記半導体レーザ素子と前記冷却装置を内部に封入するパッケージと、
前記半導体レーザ素子の前記一方の端面に配置された少なくとも1個のレンズと、
前記レンズを介して、前記半導体レーザ素子の前記一方の端面に対向配置された光ファイバを有し、
前記光ファイバからの光出力が180mW以上であることを特徴とする半導体レーザモジュール。」

2.判断
本願発明は、本願補正発明からペルチェ素子についての「対数が40対以上50対以下である」との限定を省いたものであり、本願補正発明の発明特定事項を全て含み、さらに限定をした本願補正発明が、上記II.2.?4.において検討したように、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであることを考えれば、同様の理由により、本願発明が引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであることは明らかである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2010-10-21 
結審通知日 2010-10-27 
審決日 2010-11-09 
出願番号 特願2006-119067(P2006-119067)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01S)
P 1 8・ 575- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 道祖土 新吾  
特許庁審判長 稲積 義登
特許庁審判官 吉野 公夫
田部 元史
発明の名称 半導体レーザモジュール  
代理人 長門 侃二  

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